JP2004217855A - 配向結晶性の抑制されたポリエステル、その製造方法及び繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する、鮮明性、配向結晶抑制性の改善されたポリエステル繊維を提供することのできる、ポリエステルを提供すること。
【解決手段】重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有するポリエステルとポリエステルに可溶のアルカリ金属塩溶液と溶融混練する。
【選択図】 なし
【解決手段】重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有するポリエステルとポリエステルに可溶のアルカリ金属塩溶液と溶融混練する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は配向結晶性の抑制されたポリエステル、その製造方法及び繊維に関する。さらに詳しくは、本発明は、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、配向結晶抑制性に優れ、特に繊維、フィルムに加工したときの成形性に優れた性能を有し、かつくすみがなく色相の改善されたポリエステル、その製造方法及び繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有することから最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、還元されたアンチモンか好物が口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)となって付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。また、近年、例えば紡糸工程においては、6000m/分を越える速度で生産されるようになってきており、製品歩留まり低下の要請及び生産パフォーマンスのニーズがますます高まっている。従来のアンチモン系触媒では、高速成型したとき配向部分が結晶化し、内部応力むらが発生してしまい、品質、工程パフォーマンスを著しく低下させる原因となっていた。成型性体質向上の指標として一層の配向結晶抑制が求められていた。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、水酸化チタンをポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献1参照。)、またα−チタン酸をポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献2参照。)が開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステルの製造用触媒として用いること(例えば、特許文献3参照。)、またチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。
【0010】
確かに、これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。
【0011】
また、口金異物を抑制するには、前記のように触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸の色相が悪化してしまうため、従来は使用に供することができなかった。
【0012】
したがって触媒としてアンチモンを使用せず、配向結晶抑制性に優れ、かつ良好な色相を呈するポリエステル繊維が求められていた。
【0013】
【特許文献1】
特公昭48−2229号公報
【0014】
【特許文献2】
特公昭47−26597号公報
【0015】
【特許文献3】
特公昭59−46258号公報
【0016】
【特許文献4】
特開昭58−38722号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても、口金付着物の発生量が非常に少なく、特に繊維、フィルム加工したときの配向結晶抑制性に優れるという優れた成形性を有し、かつくすみがなく色相の改善されたポリエステルを提供することである。本発明の目的の第2の目的はポリエステルの製造方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の第1の目的は、
重合触媒としてポリエステル可溶のチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、ポリエスエル可溶のアルカリ金属塩をポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で含有し、さらにポリエステル可溶のリン化合物を含有するとともに、下記関係式(1)及び(2)を満足し、且つ全繰り返し単位を基準として80モル%以上をエチレンテレフタレート繰り返し単位が占める、配向結晶性の抑制されたポリエステルによって達成することができる。
【0019】
【数3】
【0020】
また、本発明の第2の目的は、
重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有する、全繰り返し単位の少なくとも80モル%がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを、ベント付き溶融混練押出機へ供給しつつ、該押出機内に予め調製しておいたポリエステルに可溶のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液中のアルカリ金属元素換算で全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で、且つ下記関係式を満足するように添加・供給し、該押出機内で溶融混練する、配向結晶性の抑制されたポリエステルの製造方法によって達成される。
【0021】
【数4】
【0022】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルは、ポリエステル繰り返し単位のうち少なくとも80モル%以上がエチレンテレフタレートであることが必要である。エチレンテレフタレート単位が80モル%未満であると、得られる繊維の強伸度、弾性等のポリエステルの特長である物性が十分に保持できないため好ましくない。
【0023】
本発明におけるポリエステルは、その特性を失わない範囲でポリエステルを構成するエチレンテレフタレート成分以外に第3成分が共重合されていてもよく、第3成分は、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として用いられるのは、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられるジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が例示できる。第3成分として好ましく用いられるグリコール成分としては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオールが例示できる。これらは単独又は二種以上を使用することができる。
【0024】
本発明におけるポリエステルはチタン化合物を含有する必要がある。チタン化合物は、触媒起因の異物低減の点で、ポリマー中に可溶なチタン化合物を使用することが必要である。チタン化合物としては、特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられるが、特に望ましいのは、下記一般式(I)で表わされる化合物、もしくは一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物である。
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
一般式(I)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、Rがアルキル基及び/又はフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。
【0028】
また、該チタン化合物として反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分間以上反応させれば良い。
【0029】
本発明のポリエステルにはポリマー中に可溶なチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として、チタン金属元素として2〜10ミリモル%含有する必要がある。該チタン金属元素が2ミリモル%未満ではポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン金属元素が10ミリモル%を超える場合は熱安定性が低下し、繊維製造時の分子量低下が大きくなりすぎて品質の優れたポリエステル繊維が得られない。チタン金属元素量は2.5〜9ミリモル%の範囲が好ましく、3〜8ミリモル%の範囲が更に好ましい。
【0030】
なお、ここで言うポリマー中に可溶なチタン金属元素とは、エステル交換反応による第一段階反応をする場合は、エステル交換反応触媒として使用されたチタン化合物と重縮合反応触媒として使用されたチタン化合物との合計を示す。
【0031】
本発明におけるポリエステルは、リン化合物を含有する必要がある。本発明において用いられるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホネート化合物及びそれらの誘導体等を挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。これらのリン化合物中、特に下記一般式(III)で表されるホスホネート化合物が好ましい。
【0032】
【化9】
【0033】
上述のホスホネート化合物としては、ホスホン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル及びジブチルエステルが挙げられ、具体的にはカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸等が挙げられる。
【0034】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較し、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行する為、チタン化合物の触媒活性が重縮合反応中で持続する時間が長く、結果としてポリエステルへの添加量が少なくでき、また、本発明のように触媒に対し多量の安定剤を添加する場合でも、ポリエステルの熱安定性を損ないにくい特性を有している為である。
【0035】
これら、リン化合物の添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応が実質的に終了した後であればいつでもよく、例えば、重縮合反応を開始する以前の大気圧下でも、重縮合反応を開始した後の減圧下でも、重縮合反応の末期でもまた、重縮合反応の終了後、すなわちポリマーを得た後に添加してもよい。
【0036】
本発明においては、ポリエステル可溶性のアルカリ金属塩を2〜40ミリモル%の範囲で含有する必要がある。ここでアルカリ金属を例示すると、Li、Na、Kを挙げることができ、塩根としてはポリエステルに使用されている公知の塩であれば特に問題はなく、酢酸根、リン酸根等が上げられるが、特に酢酸根が好ましく用いられる。アルカリ金属塩は一種を単独で用いて2種以上を併用してもどちらでもよい。該アルカリ金属塩は、2ミリモル%未満では、配向結晶抑制効果を示さず、40ミリモル%を越えると、アルカリ性であることからポリエステルの分解、劣化を促進するようになるため好ましくない。
【0037】
本発明においては、可溶性チタン、可溶性リン、可溶性アルカリ金属が下記関係式(1)と(2)とをいずれも満足する必要がある。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、(P+A)/Tiが2未満の場合、色相が著しく黄味を帯び好ましくない。また、(P+A)/Tiが30を超えるとポリエステルの重合反応性が大幅に低下し、目的のポリエステルを得ることができない。
【0040】
更に、(Ti+P+A)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が大きく低下し、満足な性能が得られなくなる。また、(Ti+P+A)が140を超える場合は、触媒に起因する異物が少量発生する。
【0041】
式(1)は好ましくは3〜20の範囲、式(2)は好ましくは15〜100の範囲であり、更に好ましくは、式(1)は4〜15の範囲、式(2)は20〜85の範囲である。
【0042】
本発明におけるポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、特に0.45〜0.75の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0043】
本発明におけるポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、艶消剤として酸化チタンを含有することは好ましい場合が多く、その場合、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるよう添加することが好ましく、また酸化防止剤を併用することは特に好ましく行われる。
【0044】
該酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましい。具体的にはペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。これらヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を超えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を超えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0045】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、又はエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0046】
次に本発明のポリエステルの製造方法を説明する。
本発明の製造方法においては、重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有する、全繰り返し単位の少なくとも80モル%がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを、ベント付き溶融混練押出機へ供給しつつ、該押出機内に予め調製しておいたポリエステルに可溶のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液中のアルカリ金属元素換算で全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で、且つ下記関係式を満足するように添加・供給し、該押出機内で溶融混練する。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで、チタン化合物、リン化合物、アルカリ金属塩を重合反応中に一度に添加すると、アルカリ金属塩が重合反応を抑制するため、生産性が十分でないものとなるが、ポリエステルポリマーに可溶性のチタンを全ジカルボン酸成分を基準として、チタン金属元素として2〜10ミリモル%含有し、かつ該ポリエステルに可溶のリン化合物を含有するポリエステルプレチップを製造し、このチップをベント付き押出機に供給し、ポリエステルに可溶性のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲有機溶媒に溶解させ、全ジカルボン酸成分に対して2〜40ミリモル%の範囲で含有するように供給し、この添加範囲を下記式を満たすようにして混練させれば、品質及び生産性を損なうことなく製造することができる。
【0049】
【数7】
【0050】
上記のポリエステルプレチップの前段の製造方法について説明する。本発明のポリエステルは、テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとから製造され、エステル交換反応を経由した後重縮合させる方法、エステル化反応を経由した後重縮合反応させる方法のいずれを採用してもよいが、その酸成分の製造原料としは、全ジカルボン酸成分の80モル%以上がジメチルテレフタレートであることが好ましく、特に90モル%以上とすることが好ましい。
【0051】
製造原料がジメチルテレフタレートである場合、即ち、エステル交換反応を経由して重縮合反応させる場合は、安定剤として系内に添加したリン化合物の、重縮合反応中における飛散を少なくすることができ、また、チタン化合物の添加量を低減できることができる。
【0052】
特に、チタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つの触媒の働きをさせる製造方法を経て得られるポリエステルが好ましい。
【0053】
また、エステル交換反応は通常は常圧下で行われるが、0.05〜0.20MPaの加圧下にて実施する方法が好ましい。
【0054】
エステル交換反応圧力が該範囲内にあるときには、チタン化合物の触媒作用が十分に促進されつつ、副生成物として発生するジエチレングリコールのポリマー中の含有量が多くなりすることもないため、ポリマーの熱安定性等の特性をさらに良好なものとなる。特に好ましいエステル反応圧力の範囲は、0.06〜0.10MPaである。
【0055】
本発明の製造方法においては、上記のようにして得られたポリエステルプレチップはベント付き溶融混練押出機に供給し、更に予め調整しておいた、ポリエステルに可溶なアルカリ金属塩を水及び/又は沸点50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解した溶液を添加する。
【0056】
ここで、用いるベント式溶融混練押出機は、少なくとも一箇所のベント孔を備えた押出機であればよく、該押出機の機能に特に制限はなく、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプのいずれも用いることができるが、不活性ガスの添加や減圧保持が可能であるように、ベント機能を2箇所以上有する溶融混練押出機であることが好ましい。また、混練性能が高く、短時間に反応が完結するように、2軸スクリュータイプのベント付き溶融混練押出機を用いることが好ましい。なお、2軸スクリュー型ベント付き溶融混練押出機を用いる場合には、2軸の回転方向は同一でも逆方向でもよいが、同一方向の回転が、原料の熱劣化を抑える観点から好ましい。
【0057】
また、その混練性能を高めるため、混練セグメントが具備されていることが好ましく、例えば、ニーディングディスク、ローターディスクが挙げられる。
【0058】
ニーディングディスクとは、略楕円形のディスクを数枚、一定の位相でずらしながら組み合わせた混練用のスクリューセグメントであり、スクリューの回転にともなってポリエステルの混合物を狭いクリアランスへ強制的に通過させることで極めて高い剪断力を付与することができる。
【0059】
一方、ローターディスクとは、多角形のディスクであり、その稜線を一定の角度でねじってあるスクリューセグメントであり、クリアランスがセグメントの全位置で一定である特徴がある。スクリュー軸に対する稜線のねじりの向きに順送りと逆送りのセグメントがあり、これらを組み合わせることで、高い剪断力を均一に付与することができ、剪断によるポリエステルの劣化を抑制しつつ、溶融混練を進めることが可能となる。
【0060】
ニーディングセグメントあるいはローターディスクは、目標とする組成の物性により、適宜選択することができ特に制限はないが、これらの装着数を、ディスク又はセグメント長(L)及びスクリュー径(D)の比L/Dで表したとき、ニーディングディスク及びローターディスクの装着量はそれぞれ、L/D=1〜30の範囲とすることが好ましく、より好ましくはL/D=2〜20の範囲である。L/Dがこの範囲内にあるときには、更に良好な溶融混練を行うことができる。
【0061】
また、ベント付き溶融混練押出機のスクリューの回転数は、20〜500rpm程度に設定すればよく、好ましくは50〜300rpmである。
【0062】
なお、該押出機の温度は用いるポリマーの融点より10〜40℃高い温度、好ましくは用いるポリマーの融点より20〜40℃高い温度である。
【0063】
また、ベント付き溶融混練押出機へ添加するためのアルカリ金属塩溶液としては、予め水及び/又は沸点が50〜250℃の範囲にある有機溶媒に溶解させたものを用いる。ここで、有機溶媒を使用する場合、沸点が50℃未満であると、揮発性が高く、添加溶媒として使用することが困難であり、250℃を越えると溶媒の溜去が困難になるため好ましくない。該有機溶媒として好ましくは、メタノール、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン等が挙げられる。特に安価であること、安全性が高いことから水が好ましく用いられる。
【0064】
本発明の製造方法において、ベント付き溶融混練押出機は、ベント孔の少なくとも一箇所は、真空ポンプ又はスチームエジェクター等を用いて減圧下にすることが好ましく、通常は10kPa以下、好ましくは5kPa以下、特に好ましくは1kPa以下に設定することが更に好ましく、溶融混練操作において副次的に生成され得る水、メタノール等のアルコール、あるいは極少量副生物等を溜去することが好ましい。
【0065】
また、反応時間は1〜60分間、特に5〜30分間であることが好ましい。本発明のようなベント付き溶融混練押出機を使えば、通常90〜250分間程度掛かる反応であっても、上記のように短時間で反応を完結することができ、結果として、副生成物を激減させ、同時に改善された色相を有するポリマーを得ることができる。
【0066】
本発明において製造されるポリエステルの固有粘度(o−クロロフェノール:35℃)は、0.50〜1.00の範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであるとともに、安定して巻き取りを行うこともできる。
【0067】
また延伸はポリエステル繊維を巻き取ってから、あるいは一旦巻き取ることなく連続的に延伸処理することによって、延伸糸を得ることができる。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【0068】
本発明のポリエステル繊維を製造する際において、紡糸時に使用する口金の形状について制限は無く、円形、異形、中実、中空等のいずれの繊維横断面形状とするための口金であっても採用することができる。
【0069】
本発明におけるポリエステル繊維は、従来使用される染料で染色することができ、鮮明かつ色調に優れたポリエステル繊維を得ることができる。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を下記実施例により更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の各値は下記の方法に従って求めた。
【0071】
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、o−クロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0072】
(2)色調(L値及びb値):
ポリマー試料を290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0073】
(3)触媒のチタン含有量:
触媒化合物中のチタン濃度は、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。なお、艶消し剤として酸化チタンを添加したもののチタン元素量については、ポリマー試料をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収し、溶剤を蒸発させた後に測定した。
【0074】
(4)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステルチップを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、吐出量33g/分、巻取り速度1100m/分で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0075】
(5)熱水収縮率:
ポリエステルをチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数36個の紡糸口金から吐出し、吐出量41.7g/分、巻き取り速度4000m/分で紡糸した。得られた部分配向糸を60℃温水中に浸漬し、熱水収縮率を測定した。収縮率が大きいほど、配向結晶性が抑制されていることを示す。
【0076】
[参考例]トリメリット酸チタンの合成方法:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめ、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥させて、目的とするトリメリット酸チタンを得た。
【0077】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール60部との混合物を、テトラ−n−ブチルチタネート0.009部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.07MPaの加圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.04部を添加し、エステル交換反応を終了させた後、反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、65Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.66のポリエステルプレチップを得た。
【0078】
次に、プレチップをロス・イン・ウェート連続計量式フィーダーで計量し、チップ投入口から下流へ向けてオープンベントを2箇所、真空ベント2箇所を備え、かつニーディングディスクをL/D換算で5、ローターディスクをL/D換算で5、それぞれ有する同方向回転型二軸溶融混練押出機へ供給し、280℃で溶融押出しした。酢酸ナトリウムの10wt%水溶液を調製し、最終ポリマー中での含有量がポリエステルの重量を基準として15ミリモル%になるように設定し、プランジャーポンプを用いて押出機のポリマー溶融部へ注入した。ポリエステル総重量に対して、27℃、大気圧で1倍に相当する体積の窒素をオープンベントより吹き込み、他方のオープンベントより排出させた。
【0079】
その後、押出機に備え付けられた真空ベント孔から20Paの圧力で減圧させた。滞留時間は15分、回転数は200rpmであった。混練後、ポリマーはストランド状に押し出し、水冷バスで固化した後、チップカッターでチップ化した。
【0080】
得られたポリエステルを常法に従いチップ化した。160℃で6hr乾燥乾操後、孔径0.3mの円形紡糸孔を24個備えた紡糸口金を有する紡糸機を用いて、紡糸温度290℃、巻取速度1200m/分にて紡糸し、未延伸糸を作り、次いで85℃の加熱ローラーと160℃のプレートヒーターとを有する延伸処理機に供し、延伸倍率4.3倍で延伸処理し、94dtex/24フィラメントの延伸糸を得た。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
実施例1において、チタン化合物を参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.016部に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例3〜8]
実施例1において、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物種類及び量に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例9]
実施例2において、エステル交換反応終了後、ペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](「イルガノックス1010」、チバスペシャリティーケミカルズ社製)を0.02部添加したこと以外は、同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1〜6]
実施例1において、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物種類及び量に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例7]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール60部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.009部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.07MPaの加圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.04部を添加し、エステル交換反応を終了させた。次いで、得られた反応生成物に重縮合反応触媒として、三酸化二アンチモンを0.053部添加した後、重縮合反応容器に移し、290℃まで昇温し、65Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度0.50、ジエチレングリコール含有量が3.5wt%であるポリエステルを得た。
【0086】
得られたポリエステルは実施例1と同様に繊維化し評価した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、ポリマー可溶性チタン化合物をチタン金属として2〜10モル%の範囲で含有し、(P+A)/Tiや(Ti+P+A)が適正範囲にある本発明のポリエステル繊維は良好な性能が得られたが、ポリマー可溶性チタン化合物の添加量がチタン金属元素として本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜7)は、色相が不良であった。
【0089】
【発明の効果】
本発明によれば、Ti触媒を使用する従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ優れた特性を保持しながら、口金異物及び配向結晶抑制性に優れ、くすみない優れた色相を有するポリエステル、その製造方法及び繊維を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は配向結晶性の抑制されたポリエステル、その製造方法及び繊維に関する。さらに詳しくは、本発明は、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、配向結晶抑制性に優れ、特に繊維、フィルムに加工したときの成形性に優れた性能を有し、かつくすみがなく色相の改善されたポリエステル、その製造方法及び繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有することから最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、還元されたアンチモンか好物が口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)となって付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。また、近年、例えば紡糸工程においては、6000m/分を越える速度で生産されるようになってきており、製品歩留まり低下の要請及び生産パフォーマンスのニーズがますます高まっている。従来のアンチモン系触媒では、高速成型したとき配向部分が結晶化し、内部応力むらが発生してしまい、品質、工程パフォーマンスを著しく低下させる原因となっていた。成型性体質向上の指標として一層の配向結晶抑制が求められていた。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、水酸化チタンをポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献1参照。)、またα−チタン酸をポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献2参照。)が開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステルの製造用触媒として用いること(例えば、特許文献3参照。)、またチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。
【0010】
確かに、これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。
【0011】
また、口金異物を抑制するには、前記のように触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸の色相が悪化してしまうため、従来は使用に供することができなかった。
【0012】
したがって触媒としてアンチモンを使用せず、配向結晶抑制性に優れ、かつ良好な色相を呈するポリエステル繊維が求められていた。
【0013】
【特許文献1】
特公昭48−2229号公報
【0014】
【特許文献2】
特公昭47−26597号公報
【0015】
【特許文献3】
特公昭59−46258号公報
【0016】
【特許文献4】
特開昭58−38722号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても、口金付着物の発生量が非常に少なく、特に繊維、フィルム加工したときの配向結晶抑制性に優れるという優れた成形性を有し、かつくすみがなく色相の改善されたポリエステルを提供することである。本発明の目的の第2の目的はポリエステルの製造方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の第1の目的は、
重合触媒としてポリエステル可溶のチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、ポリエスエル可溶のアルカリ金属塩をポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で含有し、さらにポリエステル可溶のリン化合物を含有するとともに、下記関係式(1)及び(2)を満足し、且つ全繰り返し単位を基準として80モル%以上をエチレンテレフタレート繰り返し単位が占める、配向結晶性の抑制されたポリエステルによって達成することができる。
【0019】
【数3】
【0020】
また、本発明の第2の目的は、
重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有する、全繰り返し単位の少なくとも80モル%がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを、ベント付き溶融混練押出機へ供給しつつ、該押出機内に予め調製しておいたポリエステルに可溶のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液中のアルカリ金属元素換算で全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で、且つ下記関係式を満足するように添加・供給し、該押出機内で溶融混練する、配向結晶性の抑制されたポリエステルの製造方法によって達成される。
【0021】
【数4】
【0022】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルは、ポリエステル繰り返し単位のうち少なくとも80モル%以上がエチレンテレフタレートであることが必要である。エチレンテレフタレート単位が80モル%未満であると、得られる繊維の強伸度、弾性等のポリエステルの特長である物性が十分に保持できないため好ましくない。
【0023】
本発明におけるポリエステルは、その特性を失わない範囲でポリエステルを構成するエチレンテレフタレート成分以外に第3成分が共重合されていてもよく、第3成分は、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として用いられるのは、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられるジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が例示できる。第3成分として好ましく用いられるグリコール成分としては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオールが例示できる。これらは単独又は二種以上を使用することができる。
【0024】
本発明におけるポリエステルはチタン化合物を含有する必要がある。チタン化合物は、触媒起因の異物低減の点で、ポリマー中に可溶なチタン化合物を使用することが必要である。チタン化合物としては、特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられるが、特に望ましいのは、下記一般式(I)で表わされる化合物、もしくは一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物である。
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
一般式(I)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、Rがアルキル基及び/又はフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。
【0028】
また、該チタン化合物として反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分間以上反応させれば良い。
【0029】
本発明のポリエステルにはポリマー中に可溶なチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として、チタン金属元素として2〜10ミリモル%含有する必要がある。該チタン金属元素が2ミリモル%未満ではポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン金属元素が10ミリモル%を超える場合は熱安定性が低下し、繊維製造時の分子量低下が大きくなりすぎて品質の優れたポリエステル繊維が得られない。チタン金属元素量は2.5〜9ミリモル%の範囲が好ましく、3〜8ミリモル%の範囲が更に好ましい。
【0030】
なお、ここで言うポリマー中に可溶なチタン金属元素とは、エステル交換反応による第一段階反応をする場合は、エステル交換反応触媒として使用されたチタン化合物と重縮合反応触媒として使用されたチタン化合物との合計を示す。
【0031】
本発明におけるポリエステルは、リン化合物を含有する必要がある。本発明において用いられるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホネート化合物及びそれらの誘導体等を挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。これらのリン化合物中、特に下記一般式(III)で表されるホスホネート化合物が好ましい。
【0032】
【化9】
【0033】
上述のホスホネート化合物としては、ホスホン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル及びジブチルエステルが挙げられ、具体的にはカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸等が挙げられる。
【0034】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較し、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行する為、チタン化合物の触媒活性が重縮合反応中で持続する時間が長く、結果としてポリエステルへの添加量が少なくでき、また、本発明のように触媒に対し多量の安定剤を添加する場合でも、ポリエステルの熱安定性を損ないにくい特性を有している為である。
【0035】
これら、リン化合物の添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応が実質的に終了した後であればいつでもよく、例えば、重縮合反応を開始する以前の大気圧下でも、重縮合反応を開始した後の減圧下でも、重縮合反応の末期でもまた、重縮合反応の終了後、すなわちポリマーを得た後に添加してもよい。
【0036】
本発明においては、ポリエステル可溶性のアルカリ金属塩を2〜40ミリモル%の範囲で含有する必要がある。ここでアルカリ金属を例示すると、Li、Na、Kを挙げることができ、塩根としてはポリエステルに使用されている公知の塩であれば特に問題はなく、酢酸根、リン酸根等が上げられるが、特に酢酸根が好ましく用いられる。アルカリ金属塩は一種を単独で用いて2種以上を併用してもどちらでもよい。該アルカリ金属塩は、2ミリモル%未満では、配向結晶抑制効果を示さず、40ミリモル%を越えると、アルカリ性であることからポリエステルの分解、劣化を促進するようになるため好ましくない。
【0037】
本発明においては、可溶性チタン、可溶性リン、可溶性アルカリ金属が下記関係式(1)と(2)とをいずれも満足する必要がある。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、(P+A)/Tiが2未満の場合、色相が著しく黄味を帯び好ましくない。また、(P+A)/Tiが30を超えるとポリエステルの重合反応性が大幅に低下し、目的のポリエステルを得ることができない。
【0040】
更に、(Ti+P+A)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が大きく低下し、満足な性能が得られなくなる。また、(Ti+P+A)が140を超える場合は、触媒に起因する異物が少量発生する。
【0041】
式(1)は好ましくは3〜20の範囲、式(2)は好ましくは15〜100の範囲であり、更に好ましくは、式(1)は4〜15の範囲、式(2)は20〜85の範囲である。
【0042】
本発明におけるポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、特に0.45〜0.75の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0043】
本発明におけるポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、艶消剤として酸化チタンを含有することは好ましい場合が多く、その場合、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるよう添加することが好ましく、また酸化防止剤を併用することは特に好ましく行われる。
【0044】
該酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましい。具体的にはペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。これらヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を超えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を超えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0045】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、又はエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0046】
次に本発明のポリエステルの製造方法を説明する。
本発明の製造方法においては、重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有する、全繰り返し単位の少なくとも80モル%がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを、ベント付き溶融混練押出機へ供給しつつ、該押出機内に予め調製しておいたポリエステルに可溶のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液中のアルカリ金属元素換算で全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で、且つ下記関係式を満足するように添加・供給し、該押出機内で溶融混練する。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで、チタン化合物、リン化合物、アルカリ金属塩を重合反応中に一度に添加すると、アルカリ金属塩が重合反応を抑制するため、生産性が十分でないものとなるが、ポリエステルポリマーに可溶性のチタンを全ジカルボン酸成分を基準として、チタン金属元素として2〜10ミリモル%含有し、かつ該ポリエステルに可溶のリン化合物を含有するポリエステルプレチップを製造し、このチップをベント付き押出機に供給し、ポリエステルに可溶性のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲有機溶媒に溶解させ、全ジカルボン酸成分に対して2〜40ミリモル%の範囲で含有するように供給し、この添加範囲を下記式を満たすようにして混練させれば、品質及び生産性を損なうことなく製造することができる。
【0049】
【数7】
【0050】
上記のポリエステルプレチップの前段の製造方法について説明する。本発明のポリエステルは、テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとから製造され、エステル交換反応を経由した後重縮合させる方法、エステル化反応を経由した後重縮合反応させる方法のいずれを採用してもよいが、その酸成分の製造原料としは、全ジカルボン酸成分の80モル%以上がジメチルテレフタレートであることが好ましく、特に90モル%以上とすることが好ましい。
【0051】
製造原料がジメチルテレフタレートである場合、即ち、エステル交換反応を経由して重縮合反応させる場合は、安定剤として系内に添加したリン化合物の、重縮合反応中における飛散を少なくすることができ、また、チタン化合物の添加量を低減できることができる。
【0052】
特に、チタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つの触媒の働きをさせる製造方法を経て得られるポリエステルが好ましい。
【0053】
また、エステル交換反応は通常は常圧下で行われるが、0.05〜0.20MPaの加圧下にて実施する方法が好ましい。
【0054】
エステル交換反応圧力が該範囲内にあるときには、チタン化合物の触媒作用が十分に促進されつつ、副生成物として発生するジエチレングリコールのポリマー中の含有量が多くなりすることもないため、ポリマーの熱安定性等の特性をさらに良好なものとなる。特に好ましいエステル反応圧力の範囲は、0.06〜0.10MPaである。
【0055】
本発明の製造方法においては、上記のようにして得られたポリエステルプレチップはベント付き溶融混練押出機に供給し、更に予め調整しておいた、ポリエステルに可溶なアルカリ金属塩を水及び/又は沸点50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解した溶液を添加する。
【0056】
ここで、用いるベント式溶融混練押出機は、少なくとも一箇所のベント孔を備えた押出機であればよく、該押出機の機能に特に制限はなく、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプのいずれも用いることができるが、不活性ガスの添加や減圧保持が可能であるように、ベント機能を2箇所以上有する溶融混練押出機であることが好ましい。また、混練性能が高く、短時間に反応が完結するように、2軸スクリュータイプのベント付き溶融混練押出機を用いることが好ましい。なお、2軸スクリュー型ベント付き溶融混練押出機を用いる場合には、2軸の回転方向は同一でも逆方向でもよいが、同一方向の回転が、原料の熱劣化を抑える観点から好ましい。
【0057】
また、その混練性能を高めるため、混練セグメントが具備されていることが好ましく、例えば、ニーディングディスク、ローターディスクが挙げられる。
【0058】
ニーディングディスクとは、略楕円形のディスクを数枚、一定の位相でずらしながら組み合わせた混練用のスクリューセグメントであり、スクリューの回転にともなってポリエステルの混合物を狭いクリアランスへ強制的に通過させることで極めて高い剪断力を付与することができる。
【0059】
一方、ローターディスクとは、多角形のディスクであり、その稜線を一定の角度でねじってあるスクリューセグメントであり、クリアランスがセグメントの全位置で一定である特徴がある。スクリュー軸に対する稜線のねじりの向きに順送りと逆送りのセグメントがあり、これらを組み合わせることで、高い剪断力を均一に付与することができ、剪断によるポリエステルの劣化を抑制しつつ、溶融混練を進めることが可能となる。
【0060】
ニーディングセグメントあるいはローターディスクは、目標とする組成の物性により、適宜選択することができ特に制限はないが、これらの装着数を、ディスク又はセグメント長(L)及びスクリュー径(D)の比L/Dで表したとき、ニーディングディスク及びローターディスクの装着量はそれぞれ、L/D=1〜30の範囲とすることが好ましく、より好ましくはL/D=2〜20の範囲である。L/Dがこの範囲内にあるときには、更に良好な溶融混練を行うことができる。
【0061】
また、ベント付き溶融混練押出機のスクリューの回転数は、20〜500rpm程度に設定すればよく、好ましくは50〜300rpmである。
【0062】
なお、該押出機の温度は用いるポリマーの融点より10〜40℃高い温度、好ましくは用いるポリマーの融点より20〜40℃高い温度である。
【0063】
また、ベント付き溶融混練押出機へ添加するためのアルカリ金属塩溶液としては、予め水及び/又は沸点が50〜250℃の範囲にある有機溶媒に溶解させたものを用いる。ここで、有機溶媒を使用する場合、沸点が50℃未満であると、揮発性が高く、添加溶媒として使用することが困難であり、250℃を越えると溶媒の溜去が困難になるため好ましくない。該有機溶媒として好ましくは、メタノール、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン等が挙げられる。特に安価であること、安全性が高いことから水が好ましく用いられる。
【0064】
本発明の製造方法において、ベント付き溶融混練押出機は、ベント孔の少なくとも一箇所は、真空ポンプ又はスチームエジェクター等を用いて減圧下にすることが好ましく、通常は10kPa以下、好ましくは5kPa以下、特に好ましくは1kPa以下に設定することが更に好ましく、溶融混練操作において副次的に生成され得る水、メタノール等のアルコール、あるいは極少量副生物等を溜去することが好ましい。
【0065】
また、反応時間は1〜60分間、特に5〜30分間であることが好ましい。本発明のようなベント付き溶融混練押出機を使えば、通常90〜250分間程度掛かる反応であっても、上記のように短時間で反応を完結することができ、結果として、副生成物を激減させ、同時に改善された色相を有するポリマーを得ることができる。
【0066】
本発明において製造されるポリエステルの固有粘度(o−クロロフェノール:35℃)は、0.50〜1.00の範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであるとともに、安定して巻き取りを行うこともできる。
【0067】
また延伸はポリエステル繊維を巻き取ってから、あるいは一旦巻き取ることなく連続的に延伸処理することによって、延伸糸を得ることができる。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【0068】
本発明のポリエステル繊維を製造する際において、紡糸時に使用する口金の形状について制限は無く、円形、異形、中実、中空等のいずれの繊維横断面形状とするための口金であっても採用することができる。
【0069】
本発明におけるポリエステル繊維は、従来使用される染料で染色することができ、鮮明かつ色調に優れたポリエステル繊維を得ることができる。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を下記実施例により更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の各値は下記の方法に従って求めた。
【0071】
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、o−クロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0072】
(2)色調(L値及びb値):
ポリマー試料を290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0073】
(3)触媒のチタン含有量:
触媒化合物中のチタン濃度は、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。なお、艶消し剤として酸化チタンを添加したもののチタン元素量については、ポリマー試料をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収し、溶剤を蒸発させた後に測定した。
【0074】
(4)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステルチップを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、吐出量33g/分、巻取り速度1100m/分で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0075】
(5)熱水収縮率:
ポリエステルをチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数36個の紡糸口金から吐出し、吐出量41.7g/分、巻き取り速度4000m/分で紡糸した。得られた部分配向糸を60℃温水中に浸漬し、熱水収縮率を測定した。収縮率が大きいほど、配向結晶性が抑制されていることを示す。
【0076】
[参考例]トリメリット酸チタンの合成方法:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめ、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥させて、目的とするトリメリット酸チタンを得た。
【0077】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール60部との混合物を、テトラ−n−ブチルチタネート0.009部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.07MPaの加圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.04部を添加し、エステル交換反応を終了させた後、反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、65Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.66のポリエステルプレチップを得た。
【0078】
次に、プレチップをロス・イン・ウェート連続計量式フィーダーで計量し、チップ投入口から下流へ向けてオープンベントを2箇所、真空ベント2箇所を備え、かつニーディングディスクをL/D換算で5、ローターディスクをL/D換算で5、それぞれ有する同方向回転型二軸溶融混練押出機へ供給し、280℃で溶融押出しした。酢酸ナトリウムの10wt%水溶液を調製し、最終ポリマー中での含有量がポリエステルの重量を基準として15ミリモル%になるように設定し、プランジャーポンプを用いて押出機のポリマー溶融部へ注入した。ポリエステル総重量に対して、27℃、大気圧で1倍に相当する体積の窒素をオープンベントより吹き込み、他方のオープンベントより排出させた。
【0079】
その後、押出機に備え付けられた真空ベント孔から20Paの圧力で減圧させた。滞留時間は15分、回転数は200rpmであった。混練後、ポリマーはストランド状に押し出し、水冷バスで固化した後、チップカッターでチップ化した。
【0080】
得られたポリエステルを常法に従いチップ化した。160℃で6hr乾燥乾操後、孔径0.3mの円形紡糸孔を24個備えた紡糸口金を有する紡糸機を用いて、紡糸温度290℃、巻取速度1200m/分にて紡糸し、未延伸糸を作り、次いで85℃の加熱ローラーと160℃のプレートヒーターとを有する延伸処理機に供し、延伸倍率4.3倍で延伸処理し、94dtex/24フィラメントの延伸糸を得た。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
実施例1において、チタン化合物を参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.016部に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例3〜8]
実施例1において、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物種類及び量に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例9]
実施例2において、エステル交換反応終了後、ペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](「イルガノックス1010」、チバスペシャリティーケミカルズ社製)を0.02部添加したこと以外は、同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1〜6]
実施例1において、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物種類及び量に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例7]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール60部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.009部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.07MPaの加圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.04部を添加し、エステル交換反応を終了させた。次いで、得られた反応生成物に重縮合反応触媒として、三酸化二アンチモンを0.053部添加した後、重縮合反応容器に移し、290℃まで昇温し、65Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度0.50、ジエチレングリコール含有量が3.5wt%であるポリエステルを得た。
【0086】
得られたポリエステルは実施例1と同様に繊維化し評価した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、ポリマー可溶性チタン化合物をチタン金属として2〜10モル%の範囲で含有し、(P+A)/Tiや(Ti+P+A)が適正範囲にある本発明のポリエステル繊維は良好な性能が得られたが、ポリマー可溶性チタン化合物の添加量がチタン金属元素として本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜7)は、色相が不良であった。
【0089】
【発明の効果】
本発明によれば、Ti触媒を使用する従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ優れた特性を保持しながら、口金異物及び配向結晶抑制性に優れ、くすみない優れた色相を有するポリエステル、その製造方法及び繊維を提供することができる。
Claims (15)
- ヒンダードフェノール系酸化防止剤をポリエステルに対し、1重量%以下含有する、請求項1記載のポリエステル。
- 請求項1〜4のいずれか記載のポリエステルを溶融紡糸して得られるポリエステル繊維。
- 重縮合反応の触媒として、ポリエステル可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分を基準として2〜10ミリモル%の範囲で含有し、かつポリエステル可溶なリン化合物を含有する、全繰り返し単位の少なくとも80モル%がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを、ベント付き溶融混練押出機へ供給しつつ、該押出機内に予め調製しておいたポリエステルに可溶のアルカリ金属塩を水及び/又は沸点が50〜240℃の範囲にある有機溶媒に溶解させた溶液を、該溶液中のアルカリ金属元素換算で全ジカルボン酸成分を基準として2〜40ミリモル%の範囲で、且つ下記関係式を満足するように添加・供給し、該押出機内で溶融混練する、配向結晶性の抑制されたポリエステルの製造方法。
- ポリエステル可溶なチタン化合物が、前記式(I)のチタン化合物を予め下記一般式(II)の多価カルボン酸及び/又はその酸無水物と反応モル比(2:1)〜(2:5)の範囲の組成で反応させた化合物である、請求項6記載の製造方法。
- ポリエステルとして、エステル交換反応を経由し、重縮合反応して得られたポリエステルを用いる、請求項6記載の製造方法。
- ポリエステルを構成するエチレンテレフタレート単位の原料出発物質として、ジメチルテレフタレートが、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として80mol%以上を占める、請求項10記載の製造方法。
- ポリエステル可溶なチタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つ触媒として兼用させる、請求項10記載の製造方法。
- エステル交換反応を0.05〜0.20MPaの加圧下で行う、請求項10記載の製造方法。
- ベント付き溶融混練押出機が、少なくともニーディングディスクを有する2軸ベント付き溶融混練押出機である、請求項6記載の製造方法。
- ベント付き押出機が、少なくともローターディスクを有する2軸ベント付き溶融混練押出機である、請求項6記載の製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2008044690A1 (fr) | 2006-10-12 | 2008-04-17 | Toray Industries, Inc. | Procédé de fabrication de polyester |
-
2003
- 2003-01-17 JP JP2003009430A patent/JP2004217855A/ja active Pending
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