JP2004213944A - 燃料電池システムおよびその制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】燃料電池システムを起動する際には、燃料電池に対する要求電力を取得すると共に、制限電力値を設定する。制限電力値は、燃料電池システムの起動後、所定の初期値から次第に大きな値が設定される。起動時には、このような制限電力値と要求電力とのうちの小さい方の値が、燃料電池から出力されるように、制御が行なわれる。
【選択図】 図8
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃料電池を備える燃料電池システム、およびその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、負荷の大きさに見合った量の燃料ガスと酸化ガスを消費して、負荷に応じた電力を発生する。燃料電池の特性は、触媒シンタリングなどの要因によって、経時的に劣化する場合がある。燃料電池の性能が劣化すると、同一の電力を発生するための電流値は大きくなり、また、より多量の燃料ガスおよび酸化ガスが必要となる。このような性能劣化を考慮して常に同一の発電能力を確保するためには、燃料電池システムの構成も複雑で大規模なものとなる。そこで、特許文献1では、このような問題に対処するための構成が提案されている。すなわち、この文献では、燃料電池の初期特性に基づいて、燃料電池の出力電流許容値および出力電圧許容値を予め定めておき、出力電流値及び出力電圧値がこれらの許容値を超えないように燃料電池を運転する。この構成では、燃料電池の性能が劣化したときには、その性能に見合った電力を発生するだけなので、性能劣化を考慮して燃料電池システムを大規模化しておく必要がない。
【0003】
【特許文献1】
特開平7−142079号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、燃料電池の発電能力は、経時的な特性劣化によって徐々に低下するだけでなく、一時的な要因によって、一時的に大幅に低下してしまう場合がある。例えば、燃料電池を運転している間に、燃料電池内部のガス流路で、生成水などガス中の水蒸気が凝縮する(燃料電池内部で凝縮水が生じてガスの流れを妨げる現象を、フラッディングという)等の理由により電池性能が低下する場合がある。このような場合に、燃料電池の初期特性に基づいて定められた許容電流値以下となるように運転制御を行なうと、燃料電池に過剰な電流が流れてしまうことがある。燃料電池に過剰な電流が流れると、電圧降下が生じて発電の継続が困難となる可能性がある。また、過剰な電流が流れることで、燃料電池の性能劣化を促進させてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の電池性能が一時的な要因で一時的に低下している場合であっても、過剰な電流が燃料電池に流れることを防止できる技術を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上記目的を達成するために、本発明は、燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池の起動が要求されているか否かを判断する起動要求判断部と、
前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断した後に、前記燃料電池における発電量の第1の上限値を設定する第1の許容発電量設定部と、
前記燃料電池の発電量が前記第1の上限値以下となるように、前記燃料電池の許可発電量を設定し、該許可発電量が発電されるように前記燃料電池を制御する発電制御部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断した後、少なくとも所定の期間内は、前記第1の上限値を、単調に上昇するように設定することを要旨とする。
【0007】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料電池の起動時には、徐々に値が大きくなるように設定される第1の上限値を超えないように、燃料電池からの発電量が制御されるため、フラッディングなどの不都合が起こり電池性能が一時的に低下している場合であっても、燃料電池に過剰な電流が流れてしまうのを防止し、支障なく燃料電池の発電を継続することが可能となる。
【0008】
本発明の燃料電池システムにおいて、
前記発電制御部は、前記第1の上限値と、前記燃料電池に要求される要求発電量とのうち、小さい方の値を前記許可発電量として設定することとしても良い。
【0009】
このような構成とすれば、要求発電量が第1の上限値以下であるときには、燃料電池から所望の電力を得ることができる。
【0010】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記燃料電池の発電量に影響を与える前記燃料電池の運転条件に関連づけられた所定の条件パラメータを取得して、該所定の条件パラメータに基づいて、前記燃料電池における発電量の第2の上限値を設定する第2の許容発電量設定部を備え、
前記発電制御部は、前記第1の上限値と、前記燃料電池に要求される要求発電量と、前記第2の上限値とのうち、最も小さい値を前記許可発電量として設定することとしても良い。
【0011】
このような構成とすれば、燃料電池に流れる電流が過剰となるのを、より確実に防止することができる。
【0012】
上記本発明の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記燃料電池の電極に、燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給手段を備え、
前記ガス供給手段は、前記許可発電量に関わらず、前記要求発電量に基づく量の燃料ガスおよび酸化ガスを供給することとしても良い。
【0013】
このような構成とすれば、前記発電制御部が設定した許可発電量よりも要求発電量の方が大きいときには、通常よりも多量のガスが燃料電池に供給されることになる。そのため、ガスの流れによって燃料電池内の凝縮水を吹き飛ばす効果が高まり、異常の原因がフラッディングである場合には、燃料電池の発電を行ないながらフラッディングを解消することがより容易になる。
【0014】
本発明の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記燃料電池の電極に供給される燃料ガスおよび酸化ガスのそれぞれに関して、前記燃料電池に供給されるガス量の、前記燃料電池における実際の発電量を得るために必要とされる理論的な最少ガス量に対する比であるガス余剰率を算出する余剰率算出部と、
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記第1の上限値の初期値を設定する初期値設定部を備え、
前記初期値設定部は、前記第1の上限値の初期値に応じた前記ガス余剰率の値が、前記異常と判断したときに前記余剰率算出部が算出した前記ガス余剰率を超える値となるように、前記初期値の値を設定することとしても良い。
【0015】
このような構成とすれば、再起動時のガス余剰率が、異常を起こしたときのガス余剰率を超えるように、再起動時の第1の上限値の初期値が設定されるため、異常の原因がフラッディングであった場合には、燃料電池内の凝縮水が効果的に吹き飛ばされる。したがって、燃料電池の発電を行ないながらフラッディングを解消することがより容易になる。
【0016】
あるいは、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記複数の単セル各々における出力電圧を検出する単セル電圧検出部と、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記異常判断部が異常と判断したときに、前記単セル電圧検出部が電圧を検出した前記複数の単セルのうち、出力電圧が所定値以下であった単セルの数である不具合単セル数を求める不具合単セル数判定部と
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記第1の上限値の最初の値として用いる初期値を設定する初期値設定部を備え、
前記初期値設定部は、前記不具合単セル数が多いほど、前記初期値の値を低く設定することとしても良い。
【0017】
このような構成とすれば、不具合単セル数が多いほど、再起動時の第1の上限値の初期値がより低く設定されるため、異常の原因がフラッディングであった場合には、フラッディングの程度が大きいほど初期値が小さく設定されることになる。そのため、燃料電池に過剰な電流が流れてしまうのをより効果的に防止することができる。
【0018】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記複数の単セル各々における出力電圧を検出する単セル電圧検出部と、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記単セル電圧検出部の検出結果に基づいて、各単セルの出力電圧のうちの最低値である最低セル電圧の低下率である最低セル電圧低下率を求める最低セル電圧低下率検出部と
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記異常判断部が異常を判断したときの前記最低セル電圧低下率が大きいほど前記第1の上限値の上昇率が小さくなるように、前記第1の上限値を設定することとしても良い。
【0019】
このような構成とすれば、異常を起こしたときの最低セル電圧低下率が大きいほど、第1の上限値の変化率が小さくなるように、再起動時における第1の上限値が設定されるため、異常の原因がフラッディングであった場合には、フラッディングの程度が大きいほど、第1の上限値が経時的により大きな値に設定される程度が緩やかになる。そのため、燃料電池に過剰な電流が流れてしまうのをより効果的に防止することができる。
【0020】
なお、本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池システムの制御方法などの形態で実現することが可能である。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.装置の全体構成:
B.燃料電池システム10の運転制御:
C.効果:
D.第2実施例:
E.第3実施例:
F.第4実施例:
G.第5実施例:
H.変形例:
【0022】
A.装置の全体構成:
図1は、実施例としての燃料電池システム10の構成の概略を示す説明図である。燃料電池システム10は、メタノールタンク12と、水タンク14と、蒸発器16と、改質器20と、CO低減部22と、ブロワ24と、燃料電池30と、制御部40とを備える。なお、本実施例の燃料電池システム10は、例えば、車両の駆動用電源として電気自動車に搭載することができる。あるいは、所定の施設に電力を供給する定置型の発電装置として用いることとしても良い。
【0023】
メタノールタンク12は、改質原燃料であるメタノールを貯蔵する。メタノールタンク12に貯蔵されるメタノールは、蒸発器16に供給される。メタノールタンク12から蒸発器16に供給されるメタノールの量は、制御部40に接続されるポンプ27によって制御される。
【0024】
水タンク14に貯蔵される水もまた、蒸発器16に供給される。水タンク14から蒸発器16に供給される水の量は、制御部40に接続されるポンプ28によって制御される。
【0025】
蒸発器16は、熱源としての加熱部18を備えている。蒸発器16は、上記メタノールと水とを混合すると共に、上記加熱部18から供給される熱を用いて両者を気化・昇温させ、メタノールと水との混合ガスである原燃料ガスを生成する。生成された原燃料ガスは、改質器20に供給される。
【0026】
改質器20は、上記原燃料ガスの改質反応を行なって、水素を生成する。改質器20は、メタノールを改質するための改質触媒(例えば、Cu−Zn触媒等)をその内部に備えている。本実施例では、改質器20に対してブロワ26から空気が供給されており、改質器20では、水蒸気改質反応と共に部分酸化反応が進行する。改質反応によって生成された水素を含有する水素リッチガスは、CO低減部22に供給される。
【0027】
CO低減部22は、改質器20から供給された水素リッチガス中の一酸化炭素濃度を低減させる装置である。改質器20から供給される水素リッチガスは、通常は所定量の一酸化炭素を含んでいる。このように一酸化炭素を含有するガスを燃料電池30に供給すると、燃料電池30が備える白金触媒に一酸化炭素が吸着して、電池性能の低下を引き起こすおそれがある。そこで、CO低減部22を設け、燃料電池30に供給する水素リッチガス中の一酸化炭素濃度の低減を図っている。CO低減部22は、一酸化炭素と水蒸気とから二酸化炭素と水素とを生じるシフト反応を促進する触媒を備え、シフト反応によって水素リッチガス中の一酸化炭素濃度を低減するシフト部とすることができる。シフト反応を促進する触媒としては、例えば銅系触媒を用いることができる。あるいは、水素に優先して一酸化炭素を酸化する選択酸化反応を促進する触媒を備え、一酸化炭素選択酸化反応によって水素リッチガス中の一酸化炭素濃度を低減する一酸化炭素選択酸化部とすることができる。一酸化炭素選択酸化触媒としては、白金触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、金触媒、あるいはこれらを第1元素とした合金触媒を挙げることができる。また、CO低減部22は、これらシフト部と一酸化炭素選択酸化部との両方を備えることとしても良い。
【0028】
燃料電池30は、複数の単セルが積層されたスタック構造を有しており、電気化学反応によって起電力を得る。本実施例では、燃料電池30として、固体高分子型燃料電池を用いた。CO低減部22で一酸化炭素濃度が下げられた水素リッチガスは、燃料電池30に導かれ、燃料ガスとしてアノード側における電池反応に供される。一方、燃料電池30のカソード側における電池反応に関わる酸化ガスとしては、ブロワ24から加圧空気が供給される。ここで、ブロワ24と燃料電池30とを接続する流路には、燃料電池30に供給される酸化ガス量を検出する流量センサ29が設けられている。なお、本実施例では、燃料電池30に供給される燃料ガス量は、直接検出するのではなく、改質反応に供されるメタノールおよび水の量等に基づいて推定している。また、本実施例の燃料電池30には、各単セルの電圧を測定するための電圧センサ32が設けられている。
【0029】
制御部40は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPUやROMやRAM、あるいは、各種信号を入出力する入出力ポートを備える。制御部40は、燃料電池システム10が備える各種センサからの検出信号を入力すると共に、既述したブロワやポンプなどに駆動信号を出力して、燃料電池システム10全体の運転状態を制御する。
【0030】
B.燃料電池システム10の運転制御:
(B−1)発電量制御の動作:
図2は、燃料電池30における発電量を制御するためのFC制御処理ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンは、燃料電池システム10の運転中に、制御部40において所定時間毎に繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、制御部40は、燃料電池30に要求されている電力である要求電力を取得する(ステップS100)。この要求電力は、例えば、燃料電池システム10が車両駆動用電源として車載されている場合には、車速及びアクセル開度に基づいて算出される。なお、アクセル開度が0の場合や、車両を起動する際などには、車両に搭載される各回路に少量の電力を供給するアイドリングモードを設けて燃料電池60を運転し、要求電力として、これに応じた電力量を設定することとしても良い。
【0031】
次に、上記要求電力に基づいて、燃料電池30に供給すべきガス量を算出する(ステップS110)。燃料電池においては、所定の電力を発電するために必要な最少の電極活物質量(水素量および酸素量)を、理論的に算出することができる。実際に燃料電池を運転する際には、種々の要因により、燃料電池に供給されるガスの利用率は100%とはなり難い。このため、所望の電力を安定して得るためには、上記理論的に算出される電極活物質量を超える量の電極活物質が供給されるように、供給ガス量を制御する必要がある。本実施例のステップS110では、上記要求電力を得るための理論的な最少電極活物質量に対する、上記供給すべきガス量中の電極活物質量の割合(以下、ガス余剰率という)が、予め定めた所定の値となるように、供給すべきガス量を算出する。なお、上記ガス余剰率は、理論的に必要な最少ガス量に対する、燃料電池に供給されるガス量の割合ということもできる。ここで、燃料ガスのガス余剰率と酸化ガスのガス余剰率とは、燃料ガス中の水素濃度や酸化ガス中の酸素濃度等に基づいて、別々に、適宜設定すればよい。
【0032】
供給すべきガス量が算出されると、この値に基づいて、燃料電池30へのガス供給に関わる各部(ガス供給部)に対して駆動信号を出力する(ステップS120)。具体的には、ステップS110で定めた量の燃料ガスが改質反応により生成されるように、改質器20に供給するメタノール量及び水量を調節するポンプ27,28とブロワ26に対して駆動信号が出力される。また、ステップS110で定めた量の酸化ガスが燃料電池30に供給されるように、ブロワ24に対して駆動信号が出力される。
【0033】
その後、燃料電池30に接続されて燃料電池30からの出力電力の調節を行なう出力調節部50(図1参照)に対して駆動信号を出力して、燃料電池30からの出力が所定の目標電力となるように制御して(ステップS130)、本ルーチンを終了する。これにより、燃料電池30から、所望の電力を取り出すことができる。図3は、燃料電池30における出力電流と、出力電圧あるいは出力電力との関係を表わす説明図である。図3に示すように、燃料電池30から出力すべき目標電力PFCが定まれば、そのときの燃料電池30の出力電流の大きさIFCが定まる。燃料電池30の出力特性より、出力電流IFCが定まれば、そのときの燃料電池30の出力電圧VFCが定まる。このような燃料電池の性質に基づきステップS130において出力電力を制御する場合には、出力調節部50によって、上記のように求められる出力電圧VFCが燃料電池30からの出力電圧となるように制御を行なえば良い。
【0034】
出力調節部50としては、例えば、2次電池とDC/DCコンバータとを備えた直流電源装置であって、負荷に対して燃料電池30と並列に接続された直流電源装置を用いることができる。このような直流電源装置を用いた場合には、DC/DCコンバータの出力電圧を、図3で求められた出力電圧VFCに設定することによって、燃料電池30の出力電圧をこの電圧VFCに等しくすることができる。
【0035】
なお、ステップS100〜S120のように、要求電力に基づいて供給ガス量を算出し、算出したガス量が供給されるようにガス供給部に駆動信号を出力したとしても、実際に所望量のガスが供給されるまでには所定の遅れが生じる。すなわち、ステップS110で算出した量の燃料ガスが生成されるように、改質器20に対して所定量のメタノールおよび水を供給しても、直ちに所望量の燃料ガスが生成されるわけではない。また、ステップS110で算出した量の酸化ガスが供給されるようにブロワ24に駆動信号を出力しても、直ちに所望量の酸化ガスが燃料電池30内に流入するわけではない。
【0036】
ここで、このような遅れが無視できる程度であれば、ステップS130においては、ステップS100で取得した要求電力を目標電力として、出力調節部50を駆動すればよい。しかしながら、無視できない程度の遅れであると判断される場合には、このような遅れを考慮して、実際に燃料電池30に供給されるガス量を推定あるいは実測した値に基づいて、FC運転制御のための目標電力を定めることが望ましい。これによって、ガスの余剰率が所望の値を下回ってしまうのを防止することができる。
【0037】
例えば、本実施例の燃料ガス供給側においては、タンクから供給されたメタノールおよび水の量と、蒸発器16,改質器20,CO低減部22における処理能力等とに基づいて、実際に燃料電池30に供給される燃料ガス量を推定することができる。このように推定された燃料ガス量が供給されたときに、燃料電池30において所望のガス余剰率が実現されるように、目標電力を定めることができる。また、酸化ガス側においては、流量センサ29が検出した実際の酸化ガス流量に基づいて、燃料電池30において所望のガス余剰率が実現されるように、目標電力を定めることができる。実際には、上記燃料ガス側の目標電力と酸化ガス側の目標電力のうちの小さい方を、ステップS130における目標電力とすればよい。
【0038】
(B−2)異常判定処理:
本実施例の燃料電池システム10では、電圧センサ32を用いて各セル電圧を検出することにより、発電状態の異常の検出を行なっている。図4は、発電状態の異常を検出するために、燃料電池システム10の運転中に、制御部40において実行される異常判定処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンが起動されると、制御部40は、各単セル電圧のうちの最小値である最低セル電圧Vmin の読み込みを行なう(ステップS200)。
【0039】
次に、この最低セル電圧Vmin と、燃料電池の異常判定のために予め定めて制御部40に記憶しておいた所定の基準電圧VA とを比較する(ステップS210)。ステップS210において、最低セル電圧Vmin が基準電圧VA 以上であるときには、燃料電池30の運転状態に異常は生じていないと判断して、ステップS200に戻り、ステップS200およびS210の処理を繰り返す。
【0040】
ステップS210において、最低セル電圧Vmin が基準電圧VA よりも小さいときには、燃料電池30の運転状態に異常が生じていると判断して、異常時停止処理を実行し(ステップS220)、本ルーチンを終了する。異常時停止処理とは、燃料電池30の発電を停止するための処理であり、このように発電を停止することにより、異常が生じた状態で発電を継続して不都合が生じてしまうのを防止する。具体的には、燃料電池30と負荷との電気的な接続を切断すると共に、燃料電池30へのガスの供給を停止する。
【0041】
(B−3)目標電力の設定:
本実施例では、システム起動後しばらくの間は、燃料電池30の要求電力をそのまま目標電力として設定するのではなく以下のように設定される制限電力値の制限の下に目標電力を設定する。
【0042】
図5は、目標電力を設定する処理に関係する回路構成を示すブロック図である。また、図6は、目標電力を設定するために、燃料電池システム10の運転中に、制御部40において所定時間毎に繰り返し実行される目標電力設定処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【0043】
本ルーチンは、燃料電池システム10の起動を指示する信号が入力されて、制御部40の起動要求判断部42がこの信号を取得することによって開始される。なお、燃料電池システム10に対する起動の指示としては、燃料電池システム10の停止の処理を正常に実行した後に最初に行なわれる起動の指示と、図4に示した異常時停止処理によって停止された後に再起動のために行なわれる起動の指示とを含む。
【0044】
起動要求判断部42が起動要求があったと判断すると、許容発電量設定部44において、制限フラグがオンになっているか否かを判断する(ステップS300)。燃料電池システム10では、停止の処理を正常に実行したとき、および、図4の異常時停止処理により停止したときのいずれの場合にも、この制限フラグはオフに設定される。そのため、燃料電池システムの起動時に最初に本ルーチンを実行するときには、ステップS300では、制限フラグはオフであると判断される。
【0045】
ステップS300において、制限フラグがオフであると判断されると、次に制御部40は、現在行なっている処理が、燃料電池システム10を起動した後に行なわれる最初の処理であるか否かを判断する(ステップS360)。起動後最初の処理の場合には、制限フラグをオンに設定する(ステップS370)。そして、ステップS310に移行し、制御部40内のカウンタ(図示せず)の値に1を加算する(ステップS310)。起動後最初の処理の場合には、ステップS310ではカウンタの値が0から1になる。このカウンタは、燃料電池システム10の起動後、図6の処理を実行した回数を積算するためのものである。
【0046】
次に、許容発電量設定部44が、制限電力値の設定を行なう(ステップ320)。図7は、制限電力値を設定する様子を表わす説明図である。図7に示すように、制限電力値の大きさはカウンタの値に応じて予め定められており、カウンタの値がある値(図7では6)以上になると、制限電力値は一定の最大値Wmax となる。例えば、図7に示したマップを制御部40内のメモリに記憶しておき、これを参照することによって、許容発電量設定部44は制限電力値を設定することとすれば良い。なお、本実施例では、システム起動後に図6の処理を実行した回数をカウンタで積算し、カウンタの値に応じて制限電力値を定めているが、システム起動後の経過時間に応じて制限電力値を定めることとしても良い。本実施例では、起動後最初の処理の場合には、制限電力値は、初期値である0に設定される。
【0047】
ステップ320で制限電力値を求めると、次に、この制限電力値が最大値Wmax に達したか否かを判断する(ステップS330)。起動後最初の処理では、制限電力値が最大値Wmax に達していないと判断されるため、そのままステップS350に移行する。そして、許容発電量設定部44が設定した制限電力値を取得した発電制御部46が、要求電力と制限電力値とのうちの小さい方の値を目標電力として設定して(ステップS350)、本ルーチンを終了する。起動後最初の処理では、既述したように制限電力値は0に設定されているため、ステップS350において目標電力は0に設定される。なお、図5の制御部40においては、要求電力は、負荷要求検出部48が、負荷の大きさに関わる信号(既述した車速およびアクセル開度に関わる信号等)を取得し、取得した信号に基づいて算出する。そして、この要求電力が、発電制御部46に供給される。
【0048】
起動後最初の処理で、ステップS370において制限フラグがオンに設定されるため、起動後2回目以降の処理では、ステップS300において制限フラグはオンであると判断される。そして、制限電力値が最大値Wmax に達するまで(図7の例ではカウンタが6になるまで)、ステップS300、S310〜S330、S350が繰り返し実行される。
【0049】
その後、ステップS330において制限電力値が最大値Wmax に達したと判断されると、制限フラグをオフにすると共にカウンタの値を0にする(ステップS340)。そして、許容発電量設定部44が設定した制限電力値(この場合にはWmax )を取得した発電制御部46が、要求電力と制限電力値とのうちの小さい方の値を目標電力として設定して(ステップS350)、本ルーチンを終了する。
【0050】
このように制限電力値が最大値Wmax に達すると、その後本ルーチンを実行する際には、ステップS300では制限フラグはオフであると判断される。このとき、ステップS360では起動後最初の処理ではないと判断されるため、ステップS380において制限電力値を最大値Wmax に設定し(ステップS380)、ステップS350に移行する。なお、制限電力値の最大値Wmax は、燃料電池30における最大出力に設定されている。そのため、制限電力値が最大値に達した後、ステップS350では、目標電力は制限電力値に制限されることなく要求電力に応じて設定されるようになる。
【0051】
(B−4)制限電力値が最大値に達するまでの発電量制御:
図2に基づいて説明した燃料電池発電制御の処理は、実際には、制限電力値が最大値に達して、要求電力に応じて目標電力が設定される場合の動作である。すなわち、制限電力値が最大値に達した後は、要求電力に基づいてガス量を制御し(図2のステップS110およびS120)要求電力を目標電力としてFC出力制御を行なう(図2のステップS130)。これに対して、システム起動後しばらくの間、制限電力値が最大値に達するまでは、既述したように、要求電力と制限電力値とのうちの小さい方の値を目標電力として、ステップS130のFC出力制御が行なわれる。
【0052】
システム起動後しばらくの間、制限電力値が最大値に達するまでの間の燃料電池出力の様子を、図8に示す。図8では、時間の経過と共により大きな値が設定される制限電力値は細い実線で示し、また、任意に変化する要求電力は一点鎖線で、実際に出力される電力(ステップS130で用いる目標電力)は太い実線で、それぞれ示している。このように、制限電力値と要求電力とのうちの小さい方の電力が燃料電池30から出力される。
【0053】
このような制御を行なう場合には、燃料電池に供給するガス量は、要求電力に基づいて制御しても良いし、制限電力値に基づいて制御しても良い。すなわち、図2と同様のFC制御処理ルーチンを実行する際に、ステップS110においては、要求電力に基づいて供給ガス量を算出しても良く、制限電力値に基づいて供給ガス量を算出しても良い。
【0054】
なお、図8に示すように、燃料電池システム10を起動する際には、燃料電池システム10の起動が指示されてから実際に発電が開始されるまでの間(図2、図6などの処理が開始されるまでの間)に、所定の期間Tが設けられている。この期間Tでは、燃料電池30による発電を開始するための準備に関わる動作が行なわれる。期間Tで行なわれる動作としては、例えば、燃料電池30を冷却するための冷却水を循環させるためのポンプを起動したり、燃料電池に酸化ガスを供給するためのブロワ24を起動する等の動作が挙げられる。また、期間Tでは、燃料電池30において構造的な問題が生じていないことを確認するために、OCV(開放電圧)の検出を行なう。そして、燃料電池30を負荷に接続して、発電を開始する。発電準備の動作が行なわれ、期間Tが終了すると、起動要求判断部42に起動を指示する信号が入力されて、図2および図6に示した処理が開始される。
【0055】
C.効果:
以上のように構成された本実施例の燃料電池システム10によれば、燃料電池システムの起動時には、徐々に値が大きくなるように設定される制限電力値を超えないように、燃料電池からの発電量が制御される。そのため、燃料電池30内部において、フラッディングなどの不都合が起こり、電池性能が一時的に低下している場合であっても、燃料電池に過剰な電流が流れてしまうのを防止し、支障なく燃料電池の発電を継続することが可能となる。また、燃料電池に過剰な電流が流れることにより燃料電池の耐久性が損なわれるのを、防止することができる。
【0056】
燃料電池は、その内部でフラッディングが起こっている場合であっても、小さな電力を発電することはできるため、燃料電池の運転を継続して、ガスの流れによって凝縮水を吹き飛ばし、次第にフラッディングを解消することが可能となる。また、システム起動時に燃料電池30の温度が低下している場合には、上記実施例のように徐々に発電を開始することで、燃料電池の内部温度を上昇させることができ、温度上昇により凝縮水を気化させることによっても、次第にフラッディングを解消することが可能となる。このように、徐々に制限電力値を大きく設定して発電量を増やすことによりフラッディングが解消された場合には、上記制限電力値により抑制された運転状態が終了した後には、所望の電力を燃料電池が発電する定常状態とすることができる。特に、フラッディングは、既述したOCVの検出などを行なっても予め検出することができないが、制限電力値に基づく上記制御を行なうことで、検出が困難なフラッディングが起こっている場合にも、燃料電池による発電を継続し、燃料電池を定常状態に導くことが可能となる。
【0057】
燃料電池の運転中にフラッディングが起こり、これによって異常が判断されると、燃料電池が停止されるが、その後の再起動時において図6の手順に従って制限電力値を設定して出力制御することで、再起動時には徐々にフラッディングを解消することが可能となる。また、燃料電池を正常に停止したときであっても、停止中に燃料電池内で凝縮水が生じる場合がある。このような場合にも、上記のように制限電力値を設定して出力制御を行なうことにより、徐々にフラッディングを解消して発電を継続することが可能となる。
【0058】
D.第2実施例:
図7に基づいて定める制限電力値の他に、さらに、燃料電池30に供給されるガス量に基づく制限を加えて目標電力を設定する構成を、第2実施例として以下に説明する。第2実施例の制御は、既述した第1実施例と同様の構成の燃料電池システム10において実行されるものであり、装置の構成に関する説明は省略する。また、第2実施例においては、図2,図4,図6に示した基本的な動作についても第1実施例と共通している。
【0059】
図9は、第2実施例における燃料電池30の起動時の出力上昇の様子を示す説明図である。第2実施例では、上述した制限電力値に加えて、ガス許容電力による制限をさらに加えて目標電力を設定する。図9では、制限電力値は細い実線で示し、要求電力は一点鎖線で、ガス許容電力は破線で、実際に出力される電力(ステップS130で用いる目標電力)は太い実線で、それぞれ示している。ここで、ガス許容電力とは、燃料電池30に供給されているガス量に応じて出力可能な最大電力量を意味している。
【0060】
この第2実施例では、制限電力値が最大値Wmax に達するまでは、図2の処理を実行する際には、ステップS110で、要求電力に代えて制限電力値に基づいて供給ガス量の算出を行なう。図9において、ガス許容電力が制限電力値よりも低いのは、供給ガス量の増加に時間遅れがあるからである。
【0061】
具体的には、ガス許容電力は、推定した燃料ガス流量および実測した酸化ガス流量に基づいて、それぞれのガスに関して所望のガス余剰率が実現されるときの発電量として算出される。そして、図6のステップS350においては、要求電力と、制限電力値と、上記ガス許容電力とのうちの最小値を、目標電力に設定する。このように、第2実施例では、ガス許容電力による制限をさらに行なうことで、ガスの余剰率が所望の値を下回ってしまうのが防止される。
【0062】
E.第3実施例:
同様に、燃料電池30に供給されるガス量に基づく制限をさらに加えて目標電力を設定する他の構成を、第3実施例として以下に説明する。第3実施例は、第2実施例と同様の装置構成を備え、類似する制御を実行するが、供給ガス量を、制限電力値ではなく要求電力に基づいて設定する点が異なっている。
【0063】
図10は、第3実施例における燃料電池30の起動時の出力上昇の様子を示す説明図である。図10において、細い実線、一点鎖線、破線、太い実線のそれぞれが示す電力の種類は、図9と同様である。
【0064】
この第3実施例では、制限電力値が最大値Wmax に達するまでは、図2の処理を実行する際には、ステップS110で、ステップS100の要求電力に基づいて供給ガス量の算出を行なう。供給ガス量の変化に時間遅れがあるため、ガス許容電力は、所定の遅れを示しつつ要求電力に追従して変化する。そして、図6のステップS350においては、要求電力と、制限電力値と、上記ガス許容電力とのうちの最小値を、目標電力に設定する。
【0065】
このように、第3実施例では、ガス許容電力による制限をさらに行なうことで、第2実施例と同様に、ガスの余剰率が所望の値を下回ってしまうのが防止される。さらに、通常は、要求電力に基づいて供給ガス量を制御する方が、制限電力値に基づいて供給ガス量を制御する場合よりも、より多くのガスが供給される可能性が高い。そのため、第3実施例は、第2実施例に比べて、フラッディング防止の点でより好ましい。
【0066】
なお、要求電力と制限電力値とに基づいて目標電力を設定する際には、燃料電池30の発電量に影響を与えるものであって、燃料電池の運転条件に関連づけられているならば、供給ガス量以外のパラメータを考慮することとしても良い。発電量に影響を与える他のパラメータとしては、例えば、燃料電池30の温度を挙げることができる。燃料電池は、その内部温度によってI−V特性が変化する。そのため、燃料電池30の温度が定常状態に比べて低いときには、燃料電池の温度に基づいて定めたFC温度許容電力をさらに設定して、上記ガス許容電力と同様に用いることとしても良い。
【0067】
F.第4実施例:
上記図8〜図10の例では、制限電力値は、経過時間に対して所定の上昇率で次第に大きな値に設定されてゆくこととしたが、この上昇率は、推定されるフラッディングの程度に基づいて設定することが可能である。例えば、図4のステップS220に示した異常時停止処理により燃料電池の発電が停止されたときに、そのときの電圧状態(各セルのセル電圧および/またはスタック全体の電圧)に基づいてフラッディングの程度を推定する。そして、その推定結果に基づいて、燃料電池システムを再起動する際に制限電力値の上昇率を調節することが可能である。このような例を第4実施例として以下に説明する。
【0068】
発電の異常を検出するために、燃料電池システム10では、既述したように各セル電圧を検出して最低セル電圧を取得する動作を繰り返し行なっている。フラッディングが起こって最低セル電圧が低下する際には、フラッディングの程度が大きいほど、最低セル電圧の低下率(経時的に最低セル電圧が低下する際の傾きの大きさ)が大きくなると考えられる。したがって、本実施例では、最低セル電圧の低下率を、フラッディングの程度を示す指標として用いている。異常判定処理ルーチンにより異常が生じたと判定されたときには、そのときの最低セル電圧の低下率を記憶しておき、再起動時には、記憶した低下率の大きさに基づいて制限電力値の上昇率を設定する。なお、異常停止時に記憶する最低セル電圧の低下率は、最も近接した2回の最低セル電圧の測定値から求めても良いが、所定時間内の3つ以上の測定値から求めることもできる。
【0069】
図11は、異常停止時の最低セル電圧低下の低下率に応じて、制限電力値の上昇率を設定する様子を示す説明図である。このように、異常停止時の最低セル電圧の低下率が大きいほど制限電力値の上昇率を小さくすれば、フラッディングの程度がよりひどいと考えられるときほど、制限電力値は経時的により緩やかに増大する。これにより、フラッディングが充分に解消される前に、過剰な電流を燃料電池に流してしまうのを防止することができる。
【0070】
また、制限電力値を増加させるパターンは、上記のように、一定の上昇率の直線的なパターン以外のパターンに設定することも可能である。例えば、制限電力値が最大値に達するまでの間に、その上昇率が1回以上変化することとしても良く、また、制限電力値が略一定に保たれる期間があっても良い。換言すれば、制限電力値が下降することなく、単調に上昇するように設定すれば、同様の効果を得ることができる。
【0071】
G.第5実施例:
上記各実施例では、制限電力値を設定する際の制限電力値の初期値は0としたが、異なる値を初期値として設定しても良い。例えば、異常と判断して燃料電池を停止する際に、フラッディングの程度を表わす特定の指標に基づいて、上記初期値を設定することとしても良い。上記特定の指標に基づいて上記初期値を設定する構成を、第5実施例として以下に説明する。
【0072】
フラッディングの程度を表わす指標としては、燃料電池のガス余剰率や、セル電圧の分布などを利用することができる。燃料電池のガス余剰率をこの指標として用いる場合には、異常停止時における燃料電池のガス余剰率を記憶しておき、起動時のガス余剰率が、異常停止時のガス余剰率を超えるように、制限電力値の初期値を設定する。
【0073】
このとき、ガス余剰率は、以下の点を考慮して決定されることが好ましい。既述したように、図2のステップS110で供給ガス量を算出する動作は、定常運転時には、要求電力に基づいてガス余剰率が予め定めた所定の値となるように行なう。このとき、所望のガス量が得られるまでにはある程度の時間を要するため、このような遅れを考慮した補正が不十分であれば、実際のガス余剰率は要求電力の変動に伴って変動する。そこで、供給ガス量の推定値や実測値と、実際の発電量とに基づいて、異常停止時のガス余剰率を算出してこれを記憶しておくことが好ましい。そして、起動時のガス余剰率が記憶した値を超えるように、制限電力値の初期値を設定すればよい。
【0074】
なお、異常停止後の再起動時におけるガス供給量は、例えば、改質器20における水素生成量の最低量や、ブロワ24の最低回転数によって定まる空気(酸化ガス)の最低流量等に応じて、一定の値に定めることができる。このような場合に、異常停止時のガス余剰率に応じて、再起動時の制限電力値の初期値を定める様子を、図12に示す。異常停止時のガス余剰率が大きいほど、再起動時に設定される制限電力値の初期値は小さくなる。通常は、異常停止時のフラッディングの程度が大きいほど、そのときのガス余剰率は大きくなると考えられる。したがって、図12のような設定では、フラッディングの程度が大きいほど初期値は小さく設定されることになり、過剰な電流が燃料電池に流れるのを防止する効果を高めることができる。また、このような構成とすれば、異常停止後の再起動時には、異常が発生したときのガス余剰率を超えるガス余剰率でガス供給が行なわれ、フラッディングを解消する効果を高めることができる。
【0075】
なお、異常停止後の再起動時におけるガス供給量は、上記のように一定値とするのではなく、要求電力に基づいて変動することとしても良い。このような場合にも、異常が発生したときのガス余剰率を超えるガス余剰率でガス供給を行なうことによって、同様の効果を得ることができる。
【0076】
あるいは、フラッディングの程度を表わす指標として、各単セルの出力電圧の分布状態を用いる場合には、以下のようにして制限電力値の初期値を設定することができる。既述した実施例では、最低セル電圧が所定の値を下回ったときに異常と判断しているが、フラッディングの程度が大きいときには、同様に電圧低下を起こしている単セルの数がより多いことが予想される。そのため、異常を検出したときに、異常の判断に用いる基準値よりは大きな他の基準値を下まわる出力電圧となっている単セルの数を記憶しておき、この単セル数が多いほど、制限電力値の初期値をより小さく設定することとすれば良い。上記単セル数に応じて制限電力値の初期値を設定する様子を図13に示す。このような構成とすれば、異常停止後の再起動時には、フラッディングの程度が大きいほど初期値は小さく設定されることになり、過剰な電流が燃料電池に流れるのを防止する効果を高めることができる。
【0077】
H.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0078】
F1.変形例1:
上記各実施例では、各単セルの出力電圧を測定し、最低セル電圧が基準値を下回ったときに発電状態に異常が生じたと判断しているが、異なる方法で異常を判断しても良い。例えば、各単セルの出力電圧を測定する代わりに、燃料電池30内を所定の複数個の単セルごとにグループ化し、各グループ毎に出力電圧を測定することとしても良い。この場合には、上記グループ化された複数個のセル全体の出力電圧低下の様子や、上記グループ内での各単セルの出力電圧のバラツキ等によって、異常を検出することが可能となる。
【0079】
また、燃料電池では、出力電流に応じて出力電圧が変化するため、最低セル電圧に基づいて異常を判断する際の基準電圧は、特定の値ではなく、出力電流に応じて変化する値としても良い。例えば、定常運転時のI−V特性に基づいて、そのときの出力電流に対応する定常運転時の出力電圧を求め、この定常運転時の出力電圧に比べて所定の割合だけ小さな値を、上記基準電圧とすることができる。出力電流が一定の範囲内となるように運転する場合には、上記基準値を、予め所定の値に定めておいても良い。
【0080】
F2.変形例2:
上記各実施例では、改質反応により生成した改質ガスを燃料ガスとして用いているが、他の構成によって燃料ガスを得るようにしても良い。例えば、純度の高い水素ガスを充填した水素ボンベや、水素を貯蔵するための水素吸蔵合金を備える水素タンクを備えることとし、燃料ガスとして水素ガスを供給することとしても良い。純度の高い水素ガスを用いる場合にも、燃料電池に供給するのに先立って水素ガスを加湿する場合があり、また、電気化学反応に伴って生成水が生じるため、フラッディングなどの不都合が起こる可能性がある。そのため、本発明を適用することにより、起動の動作を良好に行なうことができる。
【0081】
F3.変形例3:
また、上記各実施例では、燃料電池30として固体高分子型燃料電池を用いたが、内部で凝縮水が生成することなどにより電池性能が一時的に低下する可能性があるならば、他種の燃料電池を用いても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例としての燃料電池システム10の構成の概略を示す説明図である。
【図2】FC制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図3】出力電流と、出力電圧あるいは出力電力との関係を表わす説明図である。
【図4】異常判定処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図5】目標電力を設定する処理に関係する回路構成を示すブロック図である。
【図6】目標電力設定処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図7】制限電力値を設定する様子を表わす説明図である。
【図8】制限電力値が最大値に達するまでの間の燃料電池出力の様子を表わす説明図である。
【図9】第2実施例における燃料電池30の起動時の出力上昇の様子を示す説明図である。
【図10】第3実施例における燃料電池30の起動時の出力上昇の様子を示す説明図である。
【図11】異常停止時の最低セル電圧低下の傾きに応じて、制限電力値の傾きを設定する様子を示す説明図である。
【図12】異常停止時のガス余剰率に応じて、再起動時の制限電力値の初期値を定める様子を示す説明図である。
【図13】他の基準値を下まわる出力電圧となっている単セルの数に応じて、制限電力値の初期値を設定する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
10…燃料電池システム
12…メタノールタンク
14…水タンク
16…蒸発器
18…加熱部
20…改質器
22…CO低減部
24,26…ブロワ
27,28…ポンプ
29…流量センサ
30…燃料電池
32…電圧センサ
40…制御部
42…起動要求判断部
44…許容発電量設定部
46…発電制御部
48…負荷要求検出部
50…出力調節部
Claims (8)
- 燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池の起動が要求されているか否かを判断する起動要求判断部と、
前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断した後に、前記燃料電池における発電量の第1の上限値を設定する第1の許容発電量設定部と、
前記燃料電池の発電量が前記第1の上限値以下となるように、前記燃料電池の許可発電量を設定し、該許可発電量が発電されるように前記燃料電池を制御する発電制御部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断した後、少なくとも所定の期間内は、前記第1の上限値を、単調に上昇するように設定する
燃料電池システム。 - 請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記発電制御部は、前記第1の上限値と、前記燃料電池に要求される要求発電量とのうち、小さい方の値を前記許可発電量として設定する
燃料電池システム。 - 請求項1記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の発電量に影響を与える前記燃料電池の運転条件に関連づけられた所定の条件パラメータを取得して、該所定の条件パラメータに基づいて、前記燃料電池における発電量の第2の上限値を設定する第2の許容発電量設定部を備え、
前記発電制御部は、前記第1の上限値と、前記燃料電池に要求される要求発電量と、前記第2の上限値とのうち、最も小さい値を前記許可発電量として設定する
燃料電池システム。 - 請求項2または3記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の電極に、燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給手段を備え、
前記ガス供給手段は、前記許可発電量に関わらず、前記要求発電量に基づく量の燃料ガスおよび酸化ガスを供給する
燃料電池システム。 - 請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記燃料電池の電極に供給される燃料ガスおよび酸化ガスのそれぞれに関して、前記燃料電池に供給されるガス量の、前記燃料電池における実際の発電量を得るために必要とされる理論的な最少ガス量に対する比であるガス余剰率を算出する余剰率算出部と、
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記第1の上限値の初期値を設定する初期値設定部を備え、
前記初期値設定部は、前記第1の上限値の初期値に応じた前記ガス余剰率の値が、前記異常と判断したときに前記余剰率算出部が算出した前記ガス余剰率を超える値となるように、前記初期値の値を設定する
燃料電池システム。 - 請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記複数の単セル各々における出力電圧を検出する単セル電圧検出部と、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記異常判断部が異常と判断したときに、前記単セル電圧検出部が電圧を検出した前記複数の単セルのうち、出力電圧が所定値以下であった単セルの数である不具合単セル数を求める不具合単セル数判定部と
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記第1の上限値の最初の値として用いる初期値を設定する初期値設定部を備え、
前記初期値設定部は、前記不具合単セル数が多いほど、前記初期値の値を低く設定する
燃料電池システム。 - 請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記複数の単セル各々における出力電圧を検出する単セル電圧検出部と、
前記燃料電池の異常を判断する異常判断部と、
前記単セル電圧検出部の検出結果に基づいて、各単セルの出力電圧のうちの最低値である最低セル電圧の低下率である最低セル電圧低下率を求める最低セル電圧低下率検出部と
前記異常判断部が異常を判断したときに、前記燃料電池による発電を停止する異常時停止部と
を備え、
前記第1の許容発電量設定部は、前記異常時停止部により発電が停止された後、前記起動要求判断部が起動の要求がされたと判断して前記燃料電池を再起動するときに、前記異常判断部が異常を判断したときの前記最低セル電圧低下率が大きいほど前記第1の上限値の上昇率が小さくなるように、前記第1の上限値を設定する
燃料電池システム。 - 燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記燃料電池の起動が要求されているか否かを判断する工程と、
(b)前記(a)工程で起動の要求がされたと判断した後の前記燃料電池における発電量の上限値を設定する工程と、
(c)前記燃料電池の発電量が、前記(b)工程で設定した前記上限値以下となるように、前記燃料電池の許可発電量を設定し、該許可発電量が発電されるように前記燃料電池を制御する工程と
を備え、
前記(b)工程は、前記(a)工程で起動の要求がされたと判断した後、少なくとも所定の期間内は、前記上限値を、単調に上昇するように設定する
燃料電池システムの制御方法。
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