JP2004212063A - 放射性物質貯蔵用構造強度材及び放射線遮蔽材、並びにこれらの熱間成形用ビレット - Google Patents
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Abstract
【課題】高温環境下においても強度を維持できる放射性物質貯蔵用構造強度材を提供すること。
【解決手段】Siの含有量を所定量以下に制限し且つMg量を所定量含有したAl粉末を用意し(ステップS101)、同時にB又はB化合物の粉末を用意する(ステップS102)。これらをメカニカルアロイングによって処理し(ステップS103)、Al混合粉末を製造する。乾燥(ステップS104)により当該Al混合粉末に含まれる余剰の助剤が除去された後、CIP(冷間静水圧成形法)により前記Al混合粉末の予備成形体が成形される(ステップS105)。この予備成形体を無加圧状態で真空焼結(ステップS106)してビレットを製造する。このビレットを誘導加熱手段により加熱しながらダイスによって熱間成形(例えば熱間押出し成形)して(ステップS107)、最終製品を得る。
【選択図】 図1
【解決手段】Siの含有量を所定量以下に制限し且つMg量を所定量含有したAl粉末を用意し(ステップS101)、同時にB又はB化合物の粉末を用意する(ステップS102)。これらをメカニカルアロイングによって処理し(ステップS103)、Al混合粉末を製造する。乾燥(ステップS104)により当該Al混合粉末に含まれる余剰の助剤が除去された後、CIP(冷間静水圧成形法)により前記Al混合粉末の予備成形体が成形される(ステップS105)。この予備成形体を無加圧状態で真空焼結(ステップS106)してビレットを製造する。このビレットを誘導加熱手段により加熱しながらダイスによって熱間成形(例えば熱間押出し成形)して(ステップS107)、最終製品を得る。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃焼を終えたリサイクル燃料集合体を収容、貯蔵するものであってキャスクやラックを構成する中性子吸収能を備えたAl(アルミニウム)材及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、高温強度に優れ、且つ熱間成形が容易な放射性物質貯蔵用構造強度材及び放射線遮蔽材、並びにこれらの熱間成形用ビレットに関する。
【0002】
【従来の技術】
燃焼を終え、核燃料サイクルの終期に至った核燃料集合体を、リサイクル燃料という。現在、このリサイクル燃料は、再処理するまで貯蔵施設において貯蔵管理されている。このようなリサイクル燃料は、例えば、燃料プールによる貯蔵方式においては、プール内にステンレス製の角パイプを束ねたラックを設置して、この角パイプ内にリサイクル燃料集合体を収容することにより、冷却効果、遮蔽効果、未臨界性などの要求を満たすようにしている。
【0003】
また、近年では、ラックを構成する角パイプとして、ステンレス材に中性子吸収材であるボロンを添加したものが使用され始めている。このような角パイプを使用すれば、角パイプの間に配置していた中性子吸収材を省略できるので、角パイプ間の間隔を密にすることができる。このため、プールのピット内に挿入できる角パイプの本数を増加させることができるので、その分、リサイクル燃料集合体の収容数を増加させることができる。
【0004】
このような角パイプは、キャスク、横型サイロ、プール、ボールド等の各種貯蔵方式に適用することができるが、ラックを構成するにしてもその生産すべき本数が多いので、角パイプを効率的に生産できる技術が要求されている。また、リサイクル燃料集合体から発生する中性子を確実に吸収する必要があるため、角パイプは中性子吸収材が良好に分布するとともに、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく有することが求められる。
【0005】
また、上記角パイプは、リサイクル燃料集合体を貯蔵する際に使用するものであるが、当該角パイプ式のラックの他に板状部材を組み合わせた平板式のラックが知られており、このような平板式のラックにおいても効率的な生産性及び構造の健全性が要求されている。さらに、加圧水型炉(PWR:Pressurized Water Reactor)用のリサイクル燃料集合体は、その質量が大きいため、これを収容する角パイプやラックにはより大きな強度が求められる。また、高燃焼度且つ短冷却期間のリサイクル燃料集合体は発熱量が大きいので、角パイプや板状部材には高温環境下においても強度を維持できることが求められる。
【0006】
これらの角パイプや板状部材のような、放射性物質の貯蔵に用いられる構造材としては、上記ステンレス材に中性子吸収材を添加したものの他に、中性子吸収材としてB(ボロン)又はB化合物をAl(アルミニウム)に含有させたB−Al(ボロン−アルミニウム)材が知られている。このようなB−Al材として、特許文献1には、Alの粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させ、所定の形状に成形した後焼結して製造するAl複合材が開示されている。また、特許文献2や特許文献3には、メカニカルアロイングによってAl粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させることによってBをAl母相中へ均一に分散させ、且つ強度を向上させたB−Al材が開示されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−42089号公報
【特許文献2】
特許3207840号公報
【特許文献3】
特許3207841号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、メカニカルアロイングによれば、材料の強度を向上させることはできるが、その反面靭性が低下して熱間成形性、特に押出成形がし難くなってしまう。また、単にAlの粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させて成形・焼結したのでは、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えるB−Al合金を得ることができない。さらに、高燃焼度且つ短冷却期間のリサイクル燃料集合体は発熱量が大きいので、角パイプや板状部材には高温環境下においても、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えていることが求められる。しかしながら、従来のB−Al材では、このような要求に対応することは困難であった。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、高温環境下においても構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えること、熱間成形、特に熱間押出成形が容易で生産性に優れることのうち少なくとも1つを達成できる放射性物質貯蔵用構造強度材及び放射線遮蔽材、並びにこれらの熱間成形用ビレットを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0011】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。特に角パイプ形状とする場合には、押出成形により生産すると角パイプを容易に製造することができる。さらに、請求項2に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0012】
ここで、以下必要に応じて、X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を存在比というものとする。また、熱間成形には、熱間押出し、熱間圧延、熱間鍛造その他の熱間成形加工が含まれる(以下同様)。なお、本発明にいう放射性物質貯蔵用構造強度材とは、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットやリサイクル燃料の貯蔵プールで用いるラック等を構成するための部材に用いる構造材料をいう(以下同様)。なお、本発明にいう放射性物質貯蔵用構造強度材は、放射線である中性子を吸収するための中性子吸収材を含んでおり、放射線、特に中性子遮蔽材としての機能も有する(以下同様)。
【0013】
また、請求項3に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記放射性物質貯蔵用構造強度材において、Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を真空焼結した後に熱間成形したことを特長とする。
【0014】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、中性子吸収材の粉末とMgを含有するAlの粉末とをメカニカルアロイングによって処理し、必要に応じて脱ガス処理した後、焼結する。このときの焼結は、真空焼結が好ましい。これにより、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。さらに、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0015】
また、請求項4に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とすることが好ましい。この範囲であれば、MgAl2O4の析出割合を制御できるので、高温強度と靭性と押し出し性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、Mgの添加量が多すぎると、放射性物質貯蔵用構造強度材の靭性や熱間成形性を低下させるので、高温強度や押し出し性の要求値を下回らない程度にMgの添加量を抑える必要がある。上記範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や押し出し性の要求値を満たすことができる。
【0016】
また、請求項5に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、メカニカルアロイングの処理時間は、10時間以下とすることが好ましい。一般的なメカニカルアロイングでは、材料自体を変える必要があるので数10〜100時間程度の処理時間を要するが、この放射性物質貯蔵用構造強度材等ではAl4C3やMgAl2O4等の微細粒子がAl母相中に析出すればよい。したがって、メカニカルアロイングに要する時間は上記時間でよく、通常のメカニカルアロイングと比較して、処理時間を1/10程度に短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項6に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記放射性物質貯蔵用構造強度材において、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする。
【0018】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al4C3がAl母相中に所定割合析出している点で、上記放射性物質貯蔵用構造強度材等と同様である。したがって、上記放射性物質貯蔵用構造強度材等と同様の作用・効果を奏するが、これらの放射性物質貯蔵用構造強度材及び熱間成形用ビレットは、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限してある。Siは第2相粒子として構造材の靭性を低下させるが、Siの含有量がこの範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に必要十分な靭性を確保できる。
【0019】
また、請求項7に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする。Bの含有量は、1.5質量%以上7質量%以下であれば、熱間成形性能、特に押出成形性能と強度とのバランスが良好な放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の中性子吸収材として使用するには好適である。特に、炭化ボロン(B4C)は安価なので、これを使用した場合にはバスケットやラック等の製造コストを低減できる。なお、BにはB10を濃縮したいわゆる濃縮ボロンも含む。なお、前述のBの含有量として示した1.5質量%以上7質量%以下は、濃縮ボロンを使用せずB4Cを用いた場合の値である。B10を濃縮した濃縮ボロンを使用しても同量を添加できるので、天然ボロンを用いた場合と比較して中性子遮蔽性能を最大5倍程度まで向上させることができる(以下同様)。
【0020】
また、請求項8に係る放射線遮蔽材は、中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0021】
この放射線遮蔽材は、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。さらに、請求項9に係る放射線遮蔽材のように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。ここで、放射線遮蔽材は、少なくとも放射線、特に中性子を遮蔽する機能を有していればよく、必ずしも構造用材料として使用できるものである必要はない(以下同様)。
【0022】
また、請求項10に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0023】
この放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、ビレットの熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0024】
さらに、メカニカルアロイングと真空焼結とによって、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。また、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0025】
さらに、請求項11に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットのように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0026】
また、請求項12に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用の熱間成形用ビレットのように、上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下が好ましい。この範囲であれば、MgAl2O4の析出割合を制御できるので、高温強度と靭性と押し出し性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、Mgの添加量が多すぎると、放射性物質貯蔵用構造強度材の高温強度や押し出し性を低下させるが、上記範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や靭性の要求値を満たす熱間成形用ビレットを得ることができる。
【0027】
また、請求項13に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、上記放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットにおいて、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする。このように、第2相粒子として構造材の靭性を低下させるSiの含有量を上記範囲に制限すれば、熱間成形後の構造材の靭性を十分に確保できる。
【0028】
また、請求項14に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、上記放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットにおいて、上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする。このように、Bの含有量を、1.5質量%以上7質量%以下としたビレットを熱間成形すれば、熱間成形性能、特に熱間押し出し成形性能と強度とのバランスが良好な熱間成形用ビレットを得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の中性子吸収材として使用するには好適である。特に、炭化ボロン(B4C)は安価なので、これを使用した場合には、放射性物質貯蔵用構造強度材の製造コストを低減できる。
【0029】
Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0030】
この放射線遮蔽材の熱間成形用ビレットは、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、このビレットを熱間成形して製造した放射線遮蔽材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、ビレットの熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0031】
さらに、メカニカルアロイングと真空焼結とによって、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。また、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0032】
さらに、請求項16に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレットのように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0034】
(実施の形態1)
本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を真空焼結した後に熱間成形したものであり、Alの母相中に析出するAl4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対してAl4C3を所定の割合だけAlの母相中に析出させた点に特徴がある。
【0035】
実施の形態1においては、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット等を構成する角パイプや板状部材等のリサイクル燃料収納部材に対して、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材を適用する場合について説明する。リサイクル燃料収納部材は、中性子吸収能が必要なので、Alに中性子吸収性能を持つボロンB又はB化合物の粉末を中性子吸収材として添加したAl複合材により構成されている。このように、AlにB又はB化合物を必要量添加することによって、リサイクル燃料集合体格納用バスケット等に格納したリサイクル燃料集合体が臨界に達することを防止することができる。なお、本発明にいうAlは純Al及びAl合金の両方を含む概念であり、特に純Al又はAl合金と記載しない限り、両者を含むものとする。
【0036】
ここで、天然Bには中性子の吸収に寄与するB10と中性子の吸収には寄与しないB11がある。したがって、中性子吸収能を有するB10を濃縮した濃縮Bを使用すると、同じBの添加量であれば天然ボロンをそのまま使用した場合と比較してB10が多くなる分だけ中性子吸収能を高くできる。したがって濃縮Bを使用すると、同じ中性子吸収能であれば、天然Bをそのまま使用した場合よりも薄い肉厚の板状部材で済む。このため、濃縮Bを使用するとより薄い板厚で同じ中性子吸収能を持たせることができるので、リサイクル燃料集合体格納用バスケットを軽量化したい場合は濃縮Bを使用することが好ましい。一方、天然BやB4Cをそのまま使用した場合と同じ量の濃縮Bを添加すればそれだけ中性子吸収能を高くできるので、燃焼度の高いリサイクル燃料集合体を格納する場合でも臨界に対する安全性を十分に確保できる。
【0037】
B化合物には、B4C、B2O3などを用いることができる。ここで、B4Cを用いる場合には、Alに対するBの添加量は、1.5質量%以上、9質量%以下とするのが好ましい。1.5質量%以下では十分な中性子吸収能が得られず、9質量%より多くなると引っ張りに対する延びが低下するためである。そして、より好ましい機械的性質を得るためには、Alに対するBの添加量は、1.5質量%以上、7質量%以下とするのが望ましい。なお、濃縮Bを使用すれば、加工性を損なわずにより多くのB10を添加できることは言うまでもない。
【0038】
中性子吸収材には、Bの他にカドミウムCd、ハフニウムHf、あるいは希土類元素等の中性子吸収断面積が大きなものを用いることができる。B4Cを用いて、Bが均一に分散した熱間成形による構造材として用いる場合は、加工しやすくするため7質量%以下にするのが好ましい。また、Ag−In−Cd合金の組成は、Inを15質量%、Cdを5質量%にするのが一般的である。希土類元素には、ユーロピウム、ディスプロシウム、サマリウム、ガドリニウムなどの酸化物を用いることができる。
【0039】
図1は、この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法を示すフローチャートである。本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法は、(1)Al粉末と中性子吸収材粉末とをメカニカルアロイングによって処理する工程、(2)処理されたAl処理粉末を加圧して予備成形体を成形する工程、(3)この予備成形体を無加圧状態で真空焼結する工程とを含む。まず、エアアトマイズ法、ガスアトマイズ法等のアトマイズ法、単ロール法、双ロール法等の急冷凝固法によりAl粉末を作製し(ステップS101)、同時にB又はB化合物の粉末を用意する(ステップS102)。なお、ステップS101とステップS102との順序は先後を問わない。
【0040】
前記Al粉末を作製するために使用するAlは、Siの含有量を所定量以下に抑え、且つAlよりも酸素結合力の高い元素の一つであるMgを固溶したAlである。このようなAlを使用することにより、後述するメカニカルアロイングによって、Al母相中に含まれるMgを核として、スピネル構造を持つMgAl2O4の微細粒子をAl母相中へ均一に析出させることができる。
【0041】
ここで、本発明に係るAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材は、Si量を所定量以下とし、さらに、Alよりも酸素結合力の高いMgを所定量以上固溶していればよい。したがって、さらに強度や靭性を付与する目的で他の元素を添加することもできる。この目的のために、例えば、工業規格等に規定された所定のAl合金(例えばJIS−5000系、6000系あるいは7000系のAl合金)の組成を調整し、所定以下のSi量で、且つAlよりも酸素結合力の高い元素を所定量以上固溶させたものを使用してもよい。なお、Siを所定量以下(好ましくは0.4質量%以下)に制限するのは、靭性及び熱間成形性能、特に押し出し成形性能の低下を抑制するためである。
【0042】
次の工程では、上記Al粉末とB又は化合物の粉末とをMA処理し、Al母相中にBをすり込むとともに、Al母相中にMgAl2O4の微細粒子を析出させる(ステップS103)。ここで、この微細粒子の粒径は1nm〜100nm程度である。スピネル構造を持つMgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させるためには、高いエネルギーをAl粉末に与えて上記Al粉末を処理することによりAlの新成面を作り出し、この新成面でAl母相中に固溶しているAlよりも酸素結合力の強い元素であるMgを反応させる。そして、このMgを核としてMgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させる必要がある。
【0043】
MgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させる手段として、この発明においては、高エネルギーボールミリングによるメカニカルアロイング(MechanicalAlloying:MA)を使用する。実施の形態1においては、高エネルギーボールミリングとしてアトライターミルを使用するが、他にも一般的な転動ミル、揺動ミルあるいはジェットミルを使用することができる。また、MgAl2O4の微細粒子を析出させるためには、Al粉末に高エネルギーを与えて新成面を作り出すことができればよい。したがって、このような機能を持つ手段であれば、本発明においてMgAl2O4の微細粒子を析出させる手段として使用することができる。
【0044】
図2は、この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法に用いるアトライターミルの構成図である。アトライターミル30は、Al粉末とB粉末等を混合するための容器31を備えている。また、容器31の壁内にはウォータージャケット32が形成されている。メカニカルアロイング中にはAl粉末等の材料が高温となるので、ウォータージャケット32内にはポンプなどの給水器33から適量の冷却水を供給して、Al粉末等の材料温度を所定の値以下になるように冷却して、焼付きを防止する。
【0045】
アトライター34は、上方に配置した駆動モータ35と減速機36を介して結合している。なお、アトライター34の動力源として使用する駆動モータ35は一例であり、アトライター34の動力源はこれに限定されるものではない。容器31の上面には、容器31中を不活性ガス(例えばアルゴン:Ar)雰囲気にするため、流入口37及び流出口38が設けられている。流入口37には不活性ガスのガスボンベ39が接続され、流出口38にはホース40を接続して水中に入れるか、又は流出口38に逆流防止弁を設けて大気の逆流を防止する。また、このボールミリングに使用するボール41には、アルミナボールやジルコニアボールのようなセラミックボール、あるいは炭素鋼ベースの軸受鋼(SUJ−2)を使用することができる。ここで、上記Arの代わりにN2ガスを使用することもできる。このようにすれば、ボールミリングによって硬度の高いAlNがAl母相中に生成するので、最終的に製造される放射性物質貯蔵用構造強度材の強度が向上する。
【0046】
ボールミリングの過程において、投入したAlはボール41の衝撃を受けることによってつぶされ、且つ折りたたまれ、扁平形状になる。このため、Alの外径は一面方向に広がって80μm程度になる。この時、Alがボール41によってつぶされる際には、Alの新成面が出現する。そして、Al母相中に固溶するAlよりも酸素との結合力が強いMgがこの新成面に現れて、当該元素を核としてMgAl2O4の微細粒子が生成され、この微細粒子がAl母相中に析出する。また、ボールミリングにおいては、Al粉末は常に高エネルギーボールによっておしつぶされるので、常に新しい新成面が生まれる。これによって、Al母相中には均一にMgAl2O4の微細粒子が析出して、焼結・押出成形後の機械的性質を向上させる。なお、メカニカルアロイングの過程においてもMgAl2O4の微細粒子は析出するが、後述する脱気、真空焼結あるいは熱間押し出し成形時の高温(300〜450℃)環境下で、MgAl2O4の微細粒子の生成が加速される。
【0047】
一方、B4C粉末は、ボールミリングによって破砕され、Al母相中にすり込まれる度に微細化され、その粒径が0.5μm〜1.0μm程度まで微細化される。そして、B4CはAl母相中にすり込まれていくので、Bの凝集を防ぎながら、B4CはAl母相中に均一にすり込まれてゆく。このように、MgAl2O4の微細粒子を析出させる手段としてメカニカルアロイングを使用すれば、本来ならば凝集して均一分散が難しいB4Cの微細粒子とMgAl2O4の微細粒子とを、Al母相中へ均一に析出させることができる。また、高い硬度を有するB4C粉末の凝集を抑制して、当該B4Cの粉末を微細且つ均一にAl母相中に分散させることもできる。この作用によってB4C粉末の凝集を防止できるので、安定した中性子吸収能を得た上で、熱間成形性能、特に押出性能を向上することができる。このため、押出用のダイスの磨耗低減にも効果がある。さらに、B4C粉末を微細化してAl母相中に分散させるので、亀裂の発生源となる粒径以下にできるとともに、微細化したB4C粒子のスパイク効果によって強度も高くなる。このような材料は、質量が大きいPWR用リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの構成部材として特に有用である。
【0048】
なお、ボールミリングの過程で、ボール41同士の衝突により当該ボール41が磨耗してその成分が混入し、この成分に含まれるある種の元素が強化因子として作用することがある。そこで、ボール41の成分に予め混入する前記元素を含めておき、ボールミリングの過程で当該元素を添加するようにしてもよい。この元素としては、例えば、TiやZr等を挙げることができる。
【0049】
次に、実際に本発明に係るリサイクル燃料収納部材用のAl複合粉末を製造する場合の条件を説明する。前記容器31内に入れるボール41にはAl2O3ボール又はAl2O3ボールと円柱Feボールとを組み合わせて使用し、その量は9.3kg、当該ボール41の径は0.4インチとした。アトライター34の回転数は80rpm〜300rpmとし、さらに、0.5リットル/minのアルゴンを連続的に流して容器31内を不活性ガス雰囲気とした。また、ボールミリングの前に、その助剤として粉末1kgに対して10〜50ccのエタノールあるいはメタノールその他の有機溶剤を投入した。
【0050】
有機溶剤の投入量をAl粉末1kgに対して10〜50cc程度加えることにより、前記Alの母相に析出するAl4C3とAl2O3とMgAl2O4との和に対してAl4C3を30質量%以上55質量%以下の範囲でAlの母相に析出させることができる。このようにすれば、靭性と押し出し性能と高温強度とのバランスがとれたB−Al合金を得ることができる。
【0051】
前記容器31内には所定量のAl粉末とB4Cの粉末とを投入する。このとき、B4Cの投入量は5質量%とした。ボールミリングの時間は10時間以下の範囲で適宜選択するようにした。ここで、ボールミリングの時間は、エネルギーの高いボールを使用する場合は短く、また、比較的エネルギーの低いボールを使用する場合は相対的に長くなる。本発明においては、Al4C3を55質量%以下の範囲でAlの母相中に析出させるためにも、ボールミリングを長時間継続する必要はない。また、Al粉末中におけるAlよりも酸素と結合力の高いMgとAlとを反応させて、Al母相中にMgAl2O4の微細粒子を析出させるだけの時間ボールミリングを継続すればよく、通常のメカニカルアロイングのように材料自体を変化させる必要はない。これらの理由から、使用するボールやミルの種類にもよるが、本発明におけるボールミリングの時間は0.5〜10時間であり、1時間〜4時間の範囲が特に好ましい。また、ボールミリングの時間を調整することによって、Al母相に析出するAl4C3、Al2O3、MgAl2O4の割合を変化させることができる。
【0052】
本発明においては、数10〜数100時間を要する通常のメカニカルアロイングと比較して1/10以下の時間でメカニカルアロイング工程が終了するので、製造工程を短縮でき経済的である。メカニカルアロイング工程が終了したら、混合粉末を容器31から取り出し、所定の温度で所定の時間、混合粉末を乾燥させる(ステップS104)。これは、余分な助剤を揮発させるためである。
【0053】
次に、メカニカルアロイング終了後の混合粉末をラバーケース内に入れて封入し、CIPによって常温で全方向から均一に高圧をかけ、粉末を熱間成形用ビレットの形状に成形する(ステップS105)。CIPの成形条件は、成形圧力を1000kg/cm2〜2000kg/cm2とする。CIP処理により、粉状体の体積は約2割程度減少し、また、CIPによって全方向から均一に圧力が加えられるので、成形密度のばらつきが少ない高密度な成形品を得ることができる。また、CIP工程において、予備成形体の質量密度が70%〜95%となるように成形する。
【0054】
また、CIPに代えて、一軸方向の高圧ホットプレスによって予備成形体を成形することもできる。具体的には、上記混合粉末をプレス機にセットした型内に入れ、5000tonから10000tonの高い成形推力をもって予備成形体を成形する。このように極めて高い推力によって真空中で、且つ高温でプレスすることにより、予備成形体が焼結されて、その成形密度が均一となる。このようにして得られた予備成形体は、ほぼ100%の焼結密度であり、そのままビレットとして押し出し等の熱間加工に供することができる。
【0055】
次に、予備成形体を焼結炉内に入れて真空に引き、無加圧状態で焼結する(ステップS106)。真空焼結時の真空度は10-1Torr程度とし、温度は550℃〜600℃とする。焼結温度の保持時間は1時間〜10時間の間で適宜設定する。この保持時間はビレットの寸法に応じて異なり、寸法の小さいビレットでは1〜2時間程度で、寸法の大きいビレットでは5時間程度である。
【0056】
このように真空焼結すると、MgAl2O4の微細粒子がAl母相中へ十分に析出する。また、メカニカルアロイング処理したAl処理粉末の組成や予備成形体の大きさ等に応じて、焼結温度の保持時間を上記範囲で適宜選択することにより、Al母相中に析出するMgAl2O4の微細粒子量を制御することができる。そして、MgAl2O4の微細粒子量が多くなると、相対的に存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)は小さくなるので、存在比Xを55質量%以下の範囲に収めやすくなる。また、脱気して、窒素雰囲気中で真空焼結すれば、ビレットの表面に硬度の高いAlNが生ずるので、得られる放射性物質貯蔵用構造強度材の強度が向上する。
【0057】
ここで、脱気しつつ焼結温度を、例えば100℃ピッチでステップ昇温させる。このようにステップ昇温させるのは、ビレットの温度が所定の温度を超えないようにするためである。また、300℃〜400℃の温度範囲では、ガスの発生量が多くなるので、昇温時間を長くすることが好ましい。加熱には、焼結炉に設けた一般に使用される電気ヒーター等を用いる。この真空焼結によって仮に固めた粉末同士が融合して、押出用のビレットとなる。また、真空焼結の際には、HIPやホットプレスのようには加圧しないので、焼結体の質量密度は予備成形時とほとんど変わらず、70%〜95%の状態を維持している。さらに、真空焼結によってビレットの酸化が防止され、且つキャニングを省略できるため、缶代が節約できる。また、缶除去のための外削、端面削等の切削工程が不要になるとともに、それに付随する缶封入等の製造工程を省略することができる。
【0058】
予備成形体の焼結が終了したら、押出機を用いて当該ビレットを熱間押出し成形する(ステップS107)。図3は、この押出機の構造を示す説明図である。押出機301は、ダイス305及びコンテナ302と、コンテナ302の周囲に設置した誘導加熱用の高周波コイル303とを備えている。図3(b)に示すように、ダイス305は押出成形される部材の断面形状を有した開口部305hを備えており、押し出されるビレットVの断面が開口部305hの形状に成形される。このダイス305は、試験片を作るためのダイスであるので、開口部305hはa=bの正方形となっている。高周波コイル303にRF(Radio Frequency:高周波)電流を流すことで、ダイス305内のビレットVを誘導加熱することができる。本発明において押出条件は、加熱温度を500℃〜520℃、押出速度を5m/minとする。なお、この条件は、Bの含有量あるいはAl合金の種類に合わせて適宜変更する。押出機の押出力は、3900ton〜10000tonとする。
【0059】
前記誘導加熱は、ビレットVに誘導電流を発生させることで加熱するものであるが、加熱対象であるビレットVは上記真空焼結工程において混合粉末を一部融合させた状態としているため、誘導電流がビレットV全体として発生し効率的な加熱が可能となる。ここで、真空焼結と通常の焼結との比較のため、供試材として、質量2510g、寸法φ89mm×175mm、体積1100mm3、相対密度85%となる2つの予備成形体をCIPにより作成し、その一方にのみ真空焼結を施し、両者を比較した。その結果、真空焼結を施した供試材は30〜50%の範囲となり数倍以上の電気伝導度を示した。
【0060】
さらに、この供試材を誘導加熱したところ、真空焼結を施した供試材の場合、誘導加熱の昇温プログラム(200℃/minで520℃まで昇温後、一定時間保持)通りに温度上昇し、供試材のエッジ部、中間部の表面及び内部中心における温度のばらつきが少なく、どの位置でも略均一に温度が上昇していることがわかった。一方、CIPのみで固めた供試材の場合、昇温プログラム通りに昇温できず昇温速度が50℃/min程度に留まった。これにより、加熱対象である供試材の電気伝導度の向上は、押出時の誘導加熱時間に関係することがわかった。そして、本発明のように、加熱対象である供試材に真空焼結を施せば、昇温プログラムに追従してその温度を上昇させることができることがわかった。したがって、本発明のように、真空焼結することでビレットを誘導加熱する効率が飛躍的に高まり、製造工程全体でみるとビレットの押出速度を向上できるという利点が得られる。また、誘導加熱は、通常の加熱炉のように長時間の加熱を要しない。これにより、短時間で所望の温度に加熱できるので、ビレット中の結晶粒が粗大化することも防止でき、品質の高い放射性物質貯蔵用構造強度材を製造できる。
【0061】
コンテナ内で誘導加熱されたビレットVは、後方からポンチ(図示せず)により押され、ダイス305を通過して所定の製品形状に成形される。このとき、ビレットVの質量密度は70%〜95%であるが、押出成形することで押出時に粉末粒子間の空隙がつぶされるため、製品の質量密度が略100%となる。
【0062】
熱間押出し成形後の製品は、熱処理をしないで、すなわち、自然時効(JISのT1処理、H111又はH112処理)で使用する。このようにすれば、もともと熱処理しないので、高温(200〜250℃)に長期間さらしても、熱処理したときと比較して製品の強度低下を小さく抑えることができる。これによって、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材を、例えばPWR用リサイクル燃料集合体のように高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料を格納するバスケットに使用した場合でも、高温強度を維持して当該バスケットの信頼性を高くできる。
【0063】
次に、上記製造方法によって、Al母相中のAl4C3の割合を変化させて製造した試験片の評価結果について説明する。ここで、試験片が含有するB化合物(B4C)の割合は5質量%であり、いずれの試験片も押出後、人工時効等の熱処理は施していない(T1、H111、H112処理相当)。なお、試験片の組成を表1に示す。ここで、表1に示すように、Mgの含有量は0.42質量%〜0.58質量%の範囲で変化させた。なお、表1中に示すMgの含有量は、試験に供した複数の試験片の平均値であり、±0.15質量%程度の幅がある。そして、この範囲において、横膨出量、衝撃値及び引張強さの測定値はおよそ±5%の範囲に収まっている。
【0064】
【表1】
【0065】
図4は、−40℃におけるAl4C3の比率と横膨出量との関係を示す説明図である。また、図5は、−40℃におけるAl4C3の比率と衝撃値との関係を示す説明図である。図6は、250℃におけるAl4C3の比率と引張強さとの関係を示す説明図である。ここで、メカニカルアロイングによらない従来のB−Al合金においては、−40℃における横膨出量は2mm程度であり、250℃における引張り強さは50MPa程度である。なお、横膨出量、衝撃値、引張強さは、JISの規定に準じて測定した(以下同様)。
【0066】
Al2O3の含有量は、試験片を酸に溶解させて、母材のAlは酸にすべて溶解し、すべてのAl2O3は酸に溶解しなかったとして、酸溶解後の残渣中におけるAlの分析量からAl2O3量を換算して求めた。また、Al4C3はすべて酸に溶解し、すべてのB4Cは酸に溶解しないとし、その他の炭化物は試験片中に存在しないものとして、試験片に含まれるのC量から酸残渣のC量を引いた値をAl4C3の量に換算することにより、Al4C3の含有量を求めた。また、MgAl2O4は、酸溶解せず、アルカリ溶解するMg化合物はすべてMgAl2O4として求めた。残渣中のAl2O3やAl4C3等は、ICP発光分析により測定した。
【0067】
図4、5から、存在比Xが増加するにしたがって、横膨出量及び衝撃値は小さくなることがわかる。そして、存在比Xが55質量%以下であれば、熱間押出し成形に必要な横膨張量である約0.5mmをほぼ確保し、また十分な衝撃値を示す。また、図6から、存在比Xが大きくなると引張り強さは大きくなることがわかる。そして、30質量%以上で、従来のB−Al材に対して2倍程度の引張り強さを示す。
【0068】
これらの結果から、存在比Xが30質量%以上55質量%以下であれば、靭性、熱間成形性能、特に押し出し性能、及び高温強度のバランスのとれた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。そして、特に高温強度を要求される放射性物質貯蔵用構造強度材においては、存在比Xは35質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましく、さらには40質量%以上45質量%以下の範囲が上記バランスをとるために好ましい。このような放射性物質貯蔵用構造強度材は、発熱量の大きいリサイクル燃料集合体を収納するバスケット材に好適である。なお、熱間押出し成形ではなく熱間圧延によって板材を成形する場合には、存在比Xを60質量%程度まで大きくしてもよい。
【0069】
また、Mgの含有量はMgAl2O4の析出量と相関がある。したがって、Mgの含有量によって、上記存在比Xをある程度制御することができる。このような観点から、Mgの含有量は、測定結果のばらつきを考慮すると、0.3質量%以上0.7質量%以下の範囲が好ましく、さらには、0.42質量%以上0.58質量%以下の範囲がより好ましい。このような範囲にMgの含有量を収めれば、MgAl2O4を適度に析出させることにより、存在比Xを30質量%以上55質量%以下の範囲に収めやすくなる。その結果、靭性、熱間成形性能、特に押し出し性能、及び高温強度のバランスのとれた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0070】
次に、Siの影響について説明する。図7は、−40℃におけるSi量と衝撃値との関係を示す説明図である。図8は、−40℃におけるSi量と横膨出量との関係を示す説明図である。また、図9は、250℃におけるSi量と引張強さとの関係を示す説明図である。図8から、Siの含有量を少なくするほど、衝撃値が大きくなることがわかる。また、図9から、Siの含有量が少なくなると、横膨出量が大きくなる傾向にあり、Siの含有量が0.4質量パーセント以下では、熱間押出し成形に必要な横膨張量である約0.5mmをほぼ確保できることがわかる。図9から、Si量の低下とともに引張強さは大きくなることがわかる。
【0071】
これらの結果から、Si量は少なければ少ないほど好ましく、0.2質量%以下が好適であり、0.1質量%以下がより好ましい。また、Si量の上限値は略0.4質量%である。この範囲を満たすSi量であれば、靭性及び高温強度に優れ、且つ熱間押出し成形が可能なリサイクル燃料貯蔵材を得ることができる。このような放射性物質貯蔵用構造強度材は、発熱量の大きいリサイクル燃料集合体を収納するバスケット材に好適である。
【0072】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材によって、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット用の角パイプを製造する例を説明する。図10は、実施の形態2に係る角パイプを示す断面図である。なお、熱間押出し成形用のビレットを製造するまでの工程は、実施の形態1で説明した工程と同様であるから説明を省略する。
【0073】
この角パイプ1は、内部にリサイクル燃料集合体を格納するものであり、角部内側の半径r1は、格納するリサイクル燃料集合体の角部外側と干渉しない程度の大きさとする。また、角部における応力集中低減の観点から、角部外側の半径r2は角部内側の半径r1よりも小さくし、その大きさは板厚tの1/2以下がより好ましい。このようにすれば、この角パイプ1を複数束ねてリサイクル燃料集合体を格納するバスケットを構成した場合、角パイプ1の角部における応力伝達をより均一にすることができる。その結果、角パイプ1の角部における応力集中を低減できるので、信頼性の高いバスケットを構成することができる。
【0074】
図11は、角パイプを押出成形するポートホール押出機の押出部における構造を示す説明図である。予備成形体の焼結が終了し、ビレットVが完成したら、ポートホール押出機301を用いて当該ビレットVを角パイプの形状に熱間押出しする。この場合の押出条件として、加熱温度を500℃〜520℃、押出速度を5m/minとする。なお、この条件は、Bの含有量により適宜変更する。ポートホール押出機の押出力は、5000ton〜6000tonとする。図11(b)は、ポートホール押出機のダイス構成を示す断面図である。
【0075】
ポートホール押出機は、ダイス301a及びコンテナ302と、コンテナ302の周囲に設置した誘導加熱用の高周波コイル303とを備えている。高周波コイル303にRF電流を流すことで、コンテナ302内のビレットVを誘導加熱することができる。ダイス301aは雌型304と雄型305aとから構成されており、雄型305aのマンドレル306を雌型304に挿入することで押出形状が四角形のベアリング307が形成される。マンドレル306は、雄型305aの周囲から延出した4本のブリッジ308により支持され、ブリッジ308間に4つのポート309を形成する。
【0076】
そして、コンテナ302内で誘導加熱されたビレットVは、後方からポンチ(図示せず)により押され、ブリッジ308により一旦4分割されてポート309を通過する。続いて、ポート309からベアリング307に至るまでに再び一体化し、ベアリング307によって所定の押出形状をした角パイプ1として押し出される。このとき、ビレットVの質量密度は70%〜95%であるが、押出成形することにより、押出時には粉末粒子間の空隙がつぶされるため、角パイプ1の質量密度が略100%となる。
【0077】
次に、押出成形後、引張矯正を施すとともに、非定常部及び評価部を切断し、製品とする。完成した角パイプ1は、図10に示すように、その断面内形状は内側長さl、板厚tの正方形である。ここで、角パイプ1の内側長さlは、収納されるリサイクル燃料集合体の大きさによって決定されるが、リサイクル燃料を収納するためには製造公差や使用期間中の反りや曲がりを見込む必要があるので、概ね150〜220mmである。また、板厚tは、収納されるリサイクル燃料集合体及び使用するAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材によって適宜決定されるが、概ね6〜12mmである。なお、上記製造工程のように、ポートホール押出機において誘導加熱する製造方法は、ビレットVの成形工程と押出工程とが別の場所で行われるか、又は時間をおいて行われる場合に有用である。
【0078】
また、真空焼結ラインと押出ラインとが連続した製造ラインに配置される場合等のように、真空焼結工程と押出工程とが短時間に行われる場合には、真空焼結時に550℃〜600℃までビレットVの温度が上昇しているため、焼結終了後、少なくとも押出温度である500℃以上となる熱領域でコンテナ内に挿入し、そのまま押し出すようにしてもよい。具体的には、真空炉内からビレットVを取り出し、このビレットVの温度が上記押出温度以下に下がらないうちに押出機まで搬送する。そして、押出機によって角パイプ1に押出成形する。なお、加熱したビレットVを空気中にさらしても、短時間であれば酸化による影響をほとんど無視できるので、角パイプ1の性能に影響することはほとんどない。好ましくは、ビレットVを真空炉から取り出し、15分以内に押し出すようにすれば、酸化の影響はほとんど問題ない。このようにすれば、誘導加熱によってビレットVを再加熱する必要がないため、さらに製造工程を簡略化することができる。
【0079】
この場合も、真空焼結によってビレットVの酸化が防止され、且つキャニングを省略できるため、缶代が節約でき、缶除去のための切削工程が不要になるとともに、それに付随する缶封入等の製造工程を省略することができる。また、真空焼結時の温度が下がらないような保温チャンバー内に一時的且つ短時間保管し、少なくとも500℃以上の温度領域でビレットVを押出機のコンテナ内に移すようにしてもよい。この場合は、真空焼結ラインと押出ラインとが連続している必要はなく、両者の距離が離れていても問題ない。さらに、真空焼結ラインと押出ラインとの距離が小さく、ビレットVの搬送時間が短ければ、上記同様に真空加熱の熱によって押出成形ができることは言うまでもない。
【0080】
また、上例では圧縮率が高く、複雑な形状をしたAl等の軟質材の熱間押出し成形に適したポートホール押出機を用いたが、押出機の種類はこれに限定されない。例えば、固定又は移動マンドレル方式を採用してもよい。また、直接押出しの他、静水圧押出しを行うようにしてもよく、可能な範囲で適宜選択することができる。さらに、生産効率は低いが、上記誘導加熱に代えて、ビレットVを加熱炉内でバッチ処理するようにしてもよい。
【0081】
さらに、押出しダイスの形状を変更すれば、同様の製法によって板状部材も製造できる。PWR用リサイクル燃料集合体を格納するためのバスケットにおいては、フラックストラップを設ける必要がある。したがって、板状部材を組み合わせてこのようなバスケットを構成する場合には、長手方向に向かう複数の貫通孔を持つ板状部材を押出成形によって製造する必要がある。しかし、BWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型原子炉)用リサイクル燃料集合体を格納するためのバスケットにおいては、必ずしもフラックストラップを設ける必要はなく、この場合には単なる中実の板状部材を組み合わせてバスケットを構成してもよい。この場合には、ビレットVを圧延することにより、中実の板状部材を製造することもできる。
【0082】
図12は、他の構造強度材を示す説明図である。本発明に係るAl材は、リサイクル燃料収納用部材以外にも適用できる。図12には、本発明に係るAl材を適用できる構造部材の一例として、デッキプレート2を示してある。デッキプレートは鉄道車両や原子力発電所における作業通路の床材としても使用することができる。本発明に係るAl材は、熱間押出し性に優れているので、このように、複雑な形状且つ寸法の大きい部材であっても容易に熱間成形できる。また強度も高いので、構造部材としても適している。
【0083】
また、高空を飛行する航空機の場合、中性子吸収能を有する本発明に係るAl材で機体(主として胴部)を構成すれば、宇宙線に起因する中性子から乗員や乗客を守ることができる。この場合、構造材としての機能の他、放射線遮蔽材としての機能も発揮することになる。本発明に係る放射線遮蔽材では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対するAl4C3の存在割合を55質量%以下となるようにしてあるので、強度と靭性と熱間成形性とのバランスのとれた放射線遮蔽材を得ることができる。
【0084】
なお、9質量%を超えてBを含有させると、材料は脆くなるので構造材としては十分な機能を発揮できないが、放射線である中性子を遮蔽する放射線遮蔽材として使用することはできる。この場合は、圧延により板材に成形したり、熱間押出し成形によって単純な形状の丸棒や角棒等に成形したりして、原子炉施設等において放射線遮蔽材として使用することができる。本発明に係る放射線遮蔽材では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対するAl4C3の存在割合を55質量%以下となるようにしてあるので、強度と熱間成形性とのバランスのとれた放射線遮蔽材を得ることができる。また、Bの含有量を9質量%以上に増加させても、ある程度の熱間成形性能は確保できるので、加工が比較的容易となる。なお、Bの含有量は、最大50質量%程度である。
【0085】
さらに、本発明に係るAl材は、Alの不錆性能とクロムを含まない材質上の特性を生かして、二次放射線の発生を考慮する必要がある、高放射線領域で使用する構造材に使用することができる。また、産業機械分野においても、本発明に係るAl材の用途は考えられ、例えば、軸流圧縮機では作動流体が圧縮されるので圧縮機のブレード温度が上昇する。本発明に係るAl材は高温強度に優れるので、軸流圧縮機のブレード(図示せず)にも好適に使用できる。ここで、本発明に係るAl材をリサイクル燃料収納用部材以外に使用する場合には、必ずしもB又はB化合物を添加する必要はないが、高強度を要する場合にはこれらを添加してもよい。また、用途に応じて他の元素を添加して、それぞれの用途に適した特性を発揮させるようにしてもよい。
【0086】
(実施の形態3)
実施の形態3においては、本発明に係るAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材によってリサイクル燃料集合体を格納するバスケットを構成した例、及びこのバスケット収納したキャスクについて説明する。図13は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの一例を示す断面図である。このバスケット106においては、角パイプ1内部に横断面形状が略L字上のエレメント137を配置して、リサイクル燃料集合体を格納するセル110を構成する。そして、内部にエレメント137を配置した角パイプ1を複数組み合わせて、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット106が構成される。なお、角パイプ1及びエレメント137の長手方向は、紙面垂直方向である。
【0087】
角パイプ1、及びエレメント137は、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材であるAl材を熱間押出し成形することによって製造される。エレメント137の外側面には突起部137tが設けられており、エレメント137が角パイプ1の内部に配置されると、突起部137tが角パイプ1の内壁面に接する。そして、突起部137tで区切られる空間がフラックストラップとなる。セル110内に格納されるリサイクル燃料集合体から放出される中性子は、角パイプ1及びエレメント137に含まれるBとフラックストラップとによって遮蔽される。このバスケット106は、各セル110にフラックストラップを備えていることから、PWR用リサイクル燃料集合体のような高燃焼度の燃料を収納する用途に適している。
【0088】
このバスケット106は、角パイプ1とエレメント137とを組み合わせることにより、フラックストラップを有するセルを構成する。このため、角パイプにフラックストラップを有する角パイプを熱間押出し成形する場合と比較して、押出しダイスの形状が単純化され、また押出し推力も小さくて済むので、容易に製造できる。また、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、靭性が高く、また高温強度に優れるので、発熱量の多いPWR用リサイクル燃料集合体を格納するバスケット106に好適であり、バスケット106の健全性を向上させることができる。さらに、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押出性能を備えているので、エレメント137のように複雑な形状を持つ部材であっても、容易に押出成形できる。ここでは、エレメント137を角パイプ1の内部に配置したが、エレメント137を角パイプ1の外側に配置して、角パイプ1をエレメント137で囲まれるような構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0089】
図14は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す一部断面図である。このバスケットにおいては、複数の板状部材3の長辺側端部同士を単に組み合わせるだけでリサイクル燃料集合体を格納するセル111を構成する。さらに、セルの外周にはスペーサ4a、4bを配置して板状部材を支持するとともに、スペーサと板状部材とを単に組み合わせてリサイクル燃料集合体を格納するセル111'を構成する。なお、板状部材3及びスペーサ4a、4bの長手方向は、紙面垂直方向である。
【0090】
このバスケット107は板状部材3やスペーサ4a等を組み合わせるだけで構成でき、組み合わせ部分の接合等は不要なので、短時間で容易にバスケット107を組み立てることができる。また、バスケット107は板状部材3を組み合わせて構成するため、組み合わせ部における伝熱性能がやや低下するが、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、高温強度に優れるので、バスケット107の健全性を維持できる。さらに、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押出性能を備えているので、板状部材3のように比較的小さい形状だと、複雑な形状を持つ部材であっても、押出ダイスに大きな負荷を与えないで押出成形できる。
【0091】
図15は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。このバスケット108は、貫通孔311を有する帯状の板状部材310に切込部312を設け、板状部材310を直交させて交互に積み重ねることで構成されている。これによって、直交する板状部材310同士で囲まれる空間が、リサイクル燃料集合体を収納する格子状のセルとなる。
【0092】
前記貫通孔311は、板状部材310の長手方向にその断面が日の字になるように形成され、その中央のリブ313には、複数の連通孔が形成されている(図示省略)。また、前記貫通孔311は、切込部312をもって他の板状部材310の貫通孔311と連通する。さらに、板状部材310の長手方向端面には、上下に位置する板状部材310の貫通孔311同士を連通するための連通孔314が設けられている。
【0093】
また、板状部材310の上下端縁には、凹部315及び凸部316が形成されている。この凹部315と凸部316によって上下に位置する板状部材310同士が位置決される(図15参照)。これによって、セル内に段差が発生するのが防止されるので、リサイクル燃料集合体をセル内へ滑らかに収納することができる。
【0094】
このバスケット108を構成する板状部材310は、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材をその材料としているので、靭性が高く、また高温強度も高いので、高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料集合体を格納するのに適している。また、質量の大きいPWR用のリサイクル燃料集合体を格納しても十分な高温強度を発揮できるので、バスケット108の信頼性を高くできる。さらに、板状部材310は横断面が目の字状であるが、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押し出し性も有しているので、このような複雑な形状でも容易に熱間押出し成形できる。図16は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。図16に示すバスケット108'は、図15に示す板状部材310に切込部312を設ける代わりに、長尺の板状部材310'と短尺の板状部材310''とを組み合わせて構成したものである。このようにバスケットを構成してもよい。
【0095】
図17は、キャスクの概要を示す説明図である。キャスク200は、胴本体201と、胴本体201の外周に取り付けられた伝熱フィン207と、伝熱フィン207のもう一方の長辺側端部に取り付けられた外筒205とで構成される。胴本体201は例えば炭素鋼によって製造されており、γ線遮蔽機能を発揮するのに十分な胴厚さを有している。
【0096】
胴本体201には底板(図示せず)が取り付けられるが、この底板は溶接によって筒状の胴本体201に取り付けることができる。また、胴本体201の外形に合わせた内部形状を持つコンテナ内に金属ビレットを装入し、胴本体201の内形に合わせた外形を持つ穿孔ポンチでこの金属ビレットを熱間拡張成形することによって胴本体201と底板とを一体に成形してもよいし、鋳造によって製造してもよい。
【0097】
胴本体201の内部は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットが収納されるキャビティ201cとなる。このキャビティ201cには上記バスケットが格納される。このキャビティ201cの軸方向(図中Zで示す方向)に垂直な断面内形状は円形であるが、キャスク200の仕様に応じ、この他にも八角形や略十字型・階段状等の断面内形状をもつキャビティも使用できる。キャビティ201c内にリサイクル燃料集合体を収納した後は、胴本体放射性物質の漏洩を防止するため、一次蓋及び二次蓋(図示せず)によって二重に密封する。密封性能を確保するため、一次蓋及び二次蓋と胴本体201との間には金属ガスケットを設けておく(図示省略)。
【0098】
胴本体201の外周には、板状部材で作られた複数の伝熱フィン207が放射状に取り付けられている。この伝熱フィン207は、Al板、銅板等の、熱の良導材料で作られており、胴本体201の外周に溶接その他の接合手段によって、接合されている。また、伝熱フィン207の外側には、厚さ数cmの炭素鋼で作られた外筒205が溶接その他の接合手段によって取り付けられている。キャビティ201c内に収納されたリサイクル燃料集合体は崩壊熱を発生するが、胴本体201を伝わってきた崩壊熱は、伝熱フィン207を介して外筒205に伝導された後、外筒205の表面から大気中に放出される。
【0099】
胴本体201と外筒205と二枚の伝熱フィン207とで囲まれる空間209すべてには、中性子を吸収するため、中性子吸収材の熱膨張を吸収するボイド層以外は、中性子遮蔽機能を有する水素を多く含有する高分子材料であるレジン、ポリウレタン、又はシリコンその他の中性子吸収材料(以下同様)が充填してある。この中性子吸収材料によって、リサイクル燃料集合体から放出される中性子を遮蔽し、キャスク200の外部へ漏洩する中性子を規制値よりも少なくする。
【0100】
キャスク200は、リサイクル燃料集合体を収納した後、輸送及び貯蔵するために使用される。キャスクを輸送する場合には、キャスクの両端に緩衝体(図示せず)を取り付けて、万一キャスク200の落下事故等が発生した場合でも、十分な密封性能と収納物であるリサイクル燃料集合体の健全性を確保できるようにする。
【0101】
本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は靭性が高く、また高温強度に優れているので、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材で製造したバスケットは、高温環境下においても十分な強度を有する。したがって、高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料集合体を格納して、これを輸送・貯蔵するキャスク200のバスケット材として、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は好適である。また、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、質量の大きいPWR用のリサイクル燃料集合体を格納する場合でも、十分な強度を発揮できるので、PWR用のリサイクル燃料集合体を格納するキャスク200にも好適である。
【0102】
(実施の形態4)
実施の形態5においては、上記角パイプの他の使用例について説明する。図18は、リサイクル燃料プールの一例を示す斜視図である。このリサイクル燃料プール400は、上記実施の形態2の製造方法により製造した角パイプ1を複数立設させ、その上下部分をサポート板401により支持したラック402を備えている。ラック402は、鉄筋コンクリート製のピット403内に設置されており、当該ピット403内面は、ピット水の漏洩防止のためにステンレス鋼鈑のライニング404により内張りされている。
【0103】
また、このピット403内は、常時、ホウ酸水により満たされている。このリサイクル燃料プール400は、本発明の放射性物質貯蔵用構造強度材を材料とした上記角パイプ1を用いて構成しているので、中性子吸収能が高く、且つその構造の健全性を確保できる。このため、リサイクル燃料集合体が臨界に達するのを有効に防止することができる。さらに、B−SUS製の角パイプをB−Al製の角パイプに置き換えることでラックの質量を軽くできるので、異常時における燃料プール内の床と壁面とに作用する荷重を大幅に軽減できるので、貯蔵施設の安全性を向上できる。
【0104】
なお、現状用いられているB−SUS製の角パイプのpHが約3.0であるのに対し、B−Al製の角パイプ1のpHが約4.5である。プール内のホウ酸水は酸性であるため、本発明のAl材を使用したラック402に対して隙間腐食を生じさせる可能性がある。このため、燃料プール内のラック402として本発明のAl材を用いる際には、腐食防止の観点から燃料プールの水環境を従来よりも中性に近づけると、本発明に係るAl材の適用が可能になる。
【0105】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項1)では、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。これにより、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、熱間成形性が悪化せず、特に押出成形によって容易に所望の形状に成形できる。
【0106】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項2)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたので、さらに高温強度を向上させることができる。
【0107】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項3)では、中性子吸収材の粉末とMgを含有するAlの粉末とをメカニカルアロイングによって処理して真空焼結するようにした。これにより、MgAl2O4の析出量の制御が容易になるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。さらに、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末とB又はB化合物の粉末とがすりつぶされるので、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0108】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項4)では、Alに含有されるMgを、Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とした。これにより、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度、靭性あるいは熱間成形性の要求値を満たすことができる。
【0109】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項5)では、メカニカルアロイングの処理時間を10時間以下とした。これにより、通常のメカニカルアロイングと比較して、処理時間を1/10程度に短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0110】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項6)では、Siの含有量を0.4質量%以下に制限した。これにより、放射性物質貯蔵用構造強度材に要求される靭性を確保できる。
【0111】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項7)では、中性子吸収材はB又はB化合物とし、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下とした。このようなBの含有量であれば、熱間成形性能と構造強度材に求められる強度及び靭性とのバランスが良好な放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、バスケットやラック等の製造コストを低減できる。
【0112】
また、この発明に係る放射線遮蔽材(請求項8)では、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。これにより、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、熱間成形性が悪化せず、容易に所望の形状に成形できる。
【0113】
また、この発明に係る放射線遮蔽材(請求項9)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたので、さらに高温強度を向上させることができる。
【0114】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項10)では、メカニカルアロイング及び真空焼結を用い、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、存在比Xが前記範囲なので、ビレットの押出成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0115】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項11)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上としたので、高温強度をより向上させることができる。
【0116】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項12)では、含有するMgを、Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とした。これにより、高温強度と靭性と熱間成形性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や熱間成形性能の要求値を満たす熱間成形用ビレットを得ることができる。
【0117】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項13)では、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したので、熱間成形後における構造材の靭性を十分に確保できる。
【0118】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項14)では、中性子吸収材としてB又はB化合物を用い、Bの含有量を、1.5質量%以上7質量%以下とした。これにより、熱間成形性能、特に押し出し成形性能と強度とのバランスが良好な熱間成形用ビレットを得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の製造コストを低減できる。
【0119】
また、この発明に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット(請求項15)では、メカニカルアロイング及び真空焼結を用い、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、存在比Xが前記範囲なので、ビレットの押出成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0120】
また、この発明に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット(請求項16)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上としたので、高温強度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法に用いるアトライターミルの構成図である。
【図3】この押出機の構造を示す説明図である。
【図4】−40℃におけるAl4C3の比率と横膨出量との関係を示す説明図である。
【図5】−40℃におけるAl4C3の比率と衝撃値との関係を示す説明図である。
【図6】250℃におけるAl4C3の比率と引張強さとの関係を示す説明図である。
【図7】−40℃におけるSi量と衝撃値との関係を示す説明図である。
【図8】−40℃におけるSi量と横膨出量との関係を示す説明図である。
【図9】250℃におけるSi量と引張強さとの関係を示す説明図である。
【図10】実施の形態2に係る角パイプを示す断面図である。
【図11】角パイプを押出成形するポートホール押出機の押出部における構造を示す説明図である。
【図12】他の構造強度材を示す説明図である。
【図13】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの一例を示す断面図である。
【図14】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す一部断面図である。
【図15】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。
【図16】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。
【図17】キャスクの概要を示す説明図である。
【図18】リサイクル燃料プールの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 角パイプ
2 デッキプレート
3、310 板状部材
30 アトライターミル
34 アトライター
41 ボール
200 キャスク
301a、305 ダイス
301 押出機
303 高周波コイル
400 リサイクル燃料プール
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃焼を終えたリサイクル燃料集合体を収容、貯蔵するものであってキャスクやラックを構成する中性子吸収能を備えたAl(アルミニウム)材及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、高温強度に優れ、且つ熱間成形が容易な放射性物質貯蔵用構造強度材及び放射線遮蔽材、並びにこれらの熱間成形用ビレットに関する。
【0002】
【従来の技術】
燃焼を終え、核燃料サイクルの終期に至った核燃料集合体を、リサイクル燃料という。現在、このリサイクル燃料は、再処理するまで貯蔵施設において貯蔵管理されている。このようなリサイクル燃料は、例えば、燃料プールによる貯蔵方式においては、プール内にステンレス製の角パイプを束ねたラックを設置して、この角パイプ内にリサイクル燃料集合体を収容することにより、冷却効果、遮蔽効果、未臨界性などの要求を満たすようにしている。
【0003】
また、近年では、ラックを構成する角パイプとして、ステンレス材に中性子吸収材であるボロンを添加したものが使用され始めている。このような角パイプを使用すれば、角パイプの間に配置していた中性子吸収材を省略できるので、角パイプ間の間隔を密にすることができる。このため、プールのピット内に挿入できる角パイプの本数を増加させることができるので、その分、リサイクル燃料集合体の収容数を増加させることができる。
【0004】
このような角パイプは、キャスク、横型サイロ、プール、ボールド等の各種貯蔵方式に適用することができるが、ラックを構成するにしてもその生産すべき本数が多いので、角パイプを効率的に生産できる技術が要求されている。また、リサイクル燃料集合体から発生する中性子を確実に吸収する必要があるため、角パイプは中性子吸収材が良好に分布するとともに、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく有することが求められる。
【0005】
また、上記角パイプは、リサイクル燃料集合体を貯蔵する際に使用するものであるが、当該角パイプ式のラックの他に板状部材を組み合わせた平板式のラックが知られており、このような平板式のラックにおいても効率的な生産性及び構造の健全性が要求されている。さらに、加圧水型炉(PWR:Pressurized Water Reactor)用のリサイクル燃料集合体は、その質量が大きいため、これを収容する角パイプやラックにはより大きな強度が求められる。また、高燃焼度且つ短冷却期間のリサイクル燃料集合体は発熱量が大きいので、角パイプや板状部材には高温環境下においても強度を維持できることが求められる。
【0006】
これらの角パイプや板状部材のような、放射性物質の貯蔵に用いられる構造材としては、上記ステンレス材に中性子吸収材を添加したものの他に、中性子吸収材としてB(ボロン)又はB化合物をAl(アルミニウム)に含有させたB−Al(ボロン−アルミニウム)材が知られている。このようなB−Al材として、特許文献1には、Alの粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させ、所定の形状に成形した後焼結して製造するAl複合材が開示されている。また、特許文献2や特許文献3には、メカニカルアロイングによってAl粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させることによってBをAl母相中へ均一に分散させ、且つ強度を向上させたB−Al材が開示されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−42089号公報
【特許文献2】
特許3207840号公報
【特許文献3】
特許3207841号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、メカニカルアロイングによれば、材料の強度を向上させることはできるが、その反面靭性が低下して熱間成形性、特に押出成形がし難くなってしまう。また、単にAlの粉末とB又はB化合物の粉末とを混合させて成形・焼結したのでは、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えるB−Al合金を得ることができない。さらに、高燃焼度且つ短冷却期間のリサイクル燃料集合体は発熱量が大きいので、角パイプや板状部材には高温環境下においても、構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えていることが求められる。しかしながら、従来のB−Al材では、このような要求に対応することは困難であった。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、高温環境下においても構造強度材に求められる強度及び靭性をバランスよく備えること、熱間成形、特に熱間押出成形が容易で生産性に優れることのうち少なくとも1つを達成できる放射性物質貯蔵用構造強度材及び放射線遮蔽材、並びにこれらの熱間成形用ビレットを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0011】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。特に角パイプ形状とする場合には、押出成形により生産すると角パイプを容易に製造することができる。さらに、請求項2に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0012】
ここで、以下必要に応じて、X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を存在比というものとする。また、熱間成形には、熱間押出し、熱間圧延、熱間鍛造その他の熱間成形加工が含まれる(以下同様)。なお、本発明にいう放射性物質貯蔵用構造強度材とは、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットやリサイクル燃料の貯蔵プールで用いるラック等を構成するための部材に用いる構造材料をいう(以下同様)。なお、本発明にいう放射性物質貯蔵用構造強度材は、放射線である中性子を吸収するための中性子吸収材を含んでおり、放射線、特に中性子遮蔽材としての機能も有する(以下同様)。
【0013】
また、請求項3に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記放射性物質貯蔵用構造強度材において、Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を真空焼結した後に熱間成形したことを特長とする。
【0014】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、中性子吸収材の粉末とMgを含有するAlの粉末とをメカニカルアロイングによって処理し、必要に応じて脱ガス処理した後、焼結する。このときの焼結は、真空焼結が好ましい。これにより、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。さらに、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0015】
また、請求項4に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とすることが好ましい。この範囲であれば、MgAl2O4の析出割合を制御できるので、高温強度と靭性と押し出し性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、Mgの添加量が多すぎると、放射性物質貯蔵用構造強度材の靭性や熱間成形性を低下させるので、高温強度や押し出し性の要求値を下回らない程度にMgの添加量を抑える必要がある。上記範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や押し出し性の要求値を満たすことができる。
【0016】
また、請求項5に係る放射性物質貯蔵用構造強度材のように、メカニカルアロイングの処理時間は、10時間以下とすることが好ましい。一般的なメカニカルアロイングでは、材料自体を変える必要があるので数10〜100時間程度の処理時間を要するが、この放射性物質貯蔵用構造強度材等ではAl4C3やMgAl2O4等の微細粒子がAl母相中に析出すればよい。したがって、メカニカルアロイングに要する時間は上記時間でよく、通常のメカニカルアロイングと比較して、処理時間を1/10程度に短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項6に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記放射性物質貯蔵用構造強度材において、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする。
【0018】
この放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al4C3がAl母相中に所定割合析出している点で、上記放射性物質貯蔵用構造強度材等と同様である。したがって、上記放射性物質貯蔵用構造強度材等と同様の作用・効果を奏するが、これらの放射性物質貯蔵用構造強度材及び熱間成形用ビレットは、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限してある。Siは第2相粒子として構造材の靭性を低下させるが、Siの含有量がこの範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に必要十分な靭性を確保できる。
【0019】
また、請求項7に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする。Bの含有量は、1.5質量%以上7質量%以下であれば、熱間成形性能、特に押出成形性能と強度とのバランスが良好な放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の中性子吸収材として使用するには好適である。特に、炭化ボロン(B4C)は安価なので、これを使用した場合にはバスケットやラック等の製造コストを低減できる。なお、BにはB10を濃縮したいわゆる濃縮ボロンも含む。なお、前述のBの含有量として示した1.5質量%以上7質量%以下は、濃縮ボロンを使用せずB4Cを用いた場合の値である。B10を濃縮した濃縮ボロンを使用しても同量を添加できるので、天然ボロンを用いた場合と比較して中性子遮蔽性能を最大5倍程度まで向上させることができる(以下同様)。
【0020】
また、請求項8に係る放射線遮蔽材は、中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0021】
この放射線遮蔽材は、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。さらに、請求項9に係る放射線遮蔽材のように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。ここで、放射線遮蔽材は、少なくとも放射線、特に中性子を遮蔽する機能を有していればよく、必ずしも構造用材料として使用できるものである必要はない(以下同様)。
【0022】
また、請求項10に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0023】
この放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、ビレットの熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0024】
さらに、メカニカルアロイングと真空焼結とによって、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。また、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0025】
さらに、請求項11に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットのように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0026】
また、請求項12に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用の熱間成形用ビレットのように、上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下が好ましい。この範囲であれば、MgAl2O4の析出割合を制御できるので、高温強度と靭性と押し出し性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、Mgの添加量が多すぎると、放射性物質貯蔵用構造強度材の高温強度や押し出し性を低下させるが、上記範囲であれば、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や靭性の要求値を満たす熱間成形用ビレットを得ることができる。
【0027】
また、請求項13に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、上記放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットにおいて、さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする。このように、第2相粒子として構造材の靭性を低下させるSiの含有量を上記範囲に制限すれば、熱間成形後の構造材の靭性を十分に確保できる。
【0028】
また、請求項14に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットは、上記放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレットにおいて、上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする。このように、Bの含有量を、1.5質量%以上7質量%以下としたビレットを熱間成形すれば、熱間成形性能、特に熱間押し出し成形性能と強度とのバランスが良好な熱間成形用ビレットを得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の中性子吸収材として使用するには好適である。特に、炭化ボロン(B4C)は安価なので、これを使用した場合には、放射性物質貯蔵用構造強度材の製造コストを低減できる。
【0029】
Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする。
【0030】
この放射線遮蔽材の熱間成形用ビレットは、Al4C3の微細粒子をAl母相中に所定割合析出させてある。このため、このビレットを熱間成形して製造した放射線遮蔽材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下(250℃程度)においては高い強度を発揮できる。また、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合が上記範囲であれば、Al母相中へ適度にAl4C3の微細粒子することになるので、ビレットの熱間成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0031】
さらに、メカニカルアロイングと真空焼結とによって、Al母相中に含まれるMgを核として、MgAl2O4が析出する。そして、メカニカルアロイングや真空焼結の条件を制御することによって、MgAl2O4の析出量を制御できるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。また、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末がすりつぶされるので、Al母相中には均一にAl4C3やAl2O3やMgAl2O4といった微細粒子が分散する。その結果、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0032】
さらに、請求項16に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレットのように、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、より高温強度を向上させることができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0034】
(実施の形態1)
本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、Al粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を真空焼結した後に熱間成形したものであり、Alの母相中に析出するAl4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対してAl4C3を所定の割合だけAlの母相中に析出させた点に特徴がある。
【0035】
実施の形態1においては、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット等を構成する角パイプや板状部材等のリサイクル燃料収納部材に対して、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材を適用する場合について説明する。リサイクル燃料収納部材は、中性子吸収能が必要なので、Alに中性子吸収性能を持つボロンB又はB化合物の粉末を中性子吸収材として添加したAl複合材により構成されている。このように、AlにB又はB化合物を必要量添加することによって、リサイクル燃料集合体格納用バスケット等に格納したリサイクル燃料集合体が臨界に達することを防止することができる。なお、本発明にいうAlは純Al及びAl合金の両方を含む概念であり、特に純Al又はAl合金と記載しない限り、両者を含むものとする。
【0036】
ここで、天然Bには中性子の吸収に寄与するB10と中性子の吸収には寄与しないB11がある。したがって、中性子吸収能を有するB10を濃縮した濃縮Bを使用すると、同じBの添加量であれば天然ボロンをそのまま使用した場合と比較してB10が多くなる分だけ中性子吸収能を高くできる。したがって濃縮Bを使用すると、同じ中性子吸収能であれば、天然Bをそのまま使用した場合よりも薄い肉厚の板状部材で済む。このため、濃縮Bを使用するとより薄い板厚で同じ中性子吸収能を持たせることができるので、リサイクル燃料集合体格納用バスケットを軽量化したい場合は濃縮Bを使用することが好ましい。一方、天然BやB4Cをそのまま使用した場合と同じ量の濃縮Bを添加すればそれだけ中性子吸収能を高くできるので、燃焼度の高いリサイクル燃料集合体を格納する場合でも臨界に対する安全性を十分に確保できる。
【0037】
B化合物には、B4C、B2O3などを用いることができる。ここで、B4Cを用いる場合には、Alに対するBの添加量は、1.5質量%以上、9質量%以下とするのが好ましい。1.5質量%以下では十分な中性子吸収能が得られず、9質量%より多くなると引っ張りに対する延びが低下するためである。そして、より好ましい機械的性質を得るためには、Alに対するBの添加量は、1.5質量%以上、7質量%以下とするのが望ましい。なお、濃縮Bを使用すれば、加工性を損なわずにより多くのB10を添加できることは言うまでもない。
【0038】
中性子吸収材には、Bの他にカドミウムCd、ハフニウムHf、あるいは希土類元素等の中性子吸収断面積が大きなものを用いることができる。B4Cを用いて、Bが均一に分散した熱間成形による構造材として用いる場合は、加工しやすくするため7質量%以下にするのが好ましい。また、Ag−In−Cd合金の組成は、Inを15質量%、Cdを5質量%にするのが一般的である。希土類元素には、ユーロピウム、ディスプロシウム、サマリウム、ガドリニウムなどの酸化物を用いることができる。
【0039】
図1は、この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法を示すフローチャートである。本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法は、(1)Al粉末と中性子吸収材粉末とをメカニカルアロイングによって処理する工程、(2)処理されたAl処理粉末を加圧して予備成形体を成形する工程、(3)この予備成形体を無加圧状態で真空焼結する工程とを含む。まず、エアアトマイズ法、ガスアトマイズ法等のアトマイズ法、単ロール法、双ロール法等の急冷凝固法によりAl粉末を作製し(ステップS101)、同時にB又はB化合物の粉末を用意する(ステップS102)。なお、ステップS101とステップS102との順序は先後を問わない。
【0040】
前記Al粉末を作製するために使用するAlは、Siの含有量を所定量以下に抑え、且つAlよりも酸素結合力の高い元素の一つであるMgを固溶したAlである。このようなAlを使用することにより、後述するメカニカルアロイングによって、Al母相中に含まれるMgを核として、スピネル構造を持つMgAl2O4の微細粒子をAl母相中へ均一に析出させることができる。
【0041】
ここで、本発明に係るAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材は、Si量を所定量以下とし、さらに、Alよりも酸素結合力の高いMgを所定量以上固溶していればよい。したがって、さらに強度や靭性を付与する目的で他の元素を添加することもできる。この目的のために、例えば、工業規格等に規定された所定のAl合金(例えばJIS−5000系、6000系あるいは7000系のAl合金)の組成を調整し、所定以下のSi量で、且つAlよりも酸素結合力の高い元素を所定量以上固溶させたものを使用してもよい。なお、Siを所定量以下(好ましくは0.4質量%以下)に制限するのは、靭性及び熱間成形性能、特に押し出し成形性能の低下を抑制するためである。
【0042】
次の工程では、上記Al粉末とB又は化合物の粉末とをMA処理し、Al母相中にBをすり込むとともに、Al母相中にMgAl2O4の微細粒子を析出させる(ステップS103)。ここで、この微細粒子の粒径は1nm〜100nm程度である。スピネル構造を持つMgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させるためには、高いエネルギーをAl粉末に与えて上記Al粉末を処理することによりAlの新成面を作り出し、この新成面でAl母相中に固溶しているAlよりも酸素結合力の強い元素であるMgを反応させる。そして、このMgを核としてMgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させる必要がある。
【0043】
MgAl2O4の微細粒子をAl母相中に析出させる手段として、この発明においては、高エネルギーボールミリングによるメカニカルアロイング(MechanicalAlloying:MA)を使用する。実施の形態1においては、高エネルギーボールミリングとしてアトライターミルを使用するが、他にも一般的な転動ミル、揺動ミルあるいはジェットミルを使用することができる。また、MgAl2O4の微細粒子を析出させるためには、Al粉末に高エネルギーを与えて新成面を作り出すことができればよい。したがって、このような機能を持つ手段であれば、本発明においてMgAl2O4の微細粒子を析出させる手段として使用することができる。
【0044】
図2は、この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法に用いるアトライターミルの構成図である。アトライターミル30は、Al粉末とB粉末等を混合するための容器31を備えている。また、容器31の壁内にはウォータージャケット32が形成されている。メカニカルアロイング中にはAl粉末等の材料が高温となるので、ウォータージャケット32内にはポンプなどの給水器33から適量の冷却水を供給して、Al粉末等の材料温度を所定の値以下になるように冷却して、焼付きを防止する。
【0045】
アトライター34は、上方に配置した駆動モータ35と減速機36を介して結合している。なお、アトライター34の動力源として使用する駆動モータ35は一例であり、アトライター34の動力源はこれに限定されるものではない。容器31の上面には、容器31中を不活性ガス(例えばアルゴン:Ar)雰囲気にするため、流入口37及び流出口38が設けられている。流入口37には不活性ガスのガスボンベ39が接続され、流出口38にはホース40を接続して水中に入れるか、又は流出口38に逆流防止弁を設けて大気の逆流を防止する。また、このボールミリングに使用するボール41には、アルミナボールやジルコニアボールのようなセラミックボール、あるいは炭素鋼ベースの軸受鋼(SUJ−2)を使用することができる。ここで、上記Arの代わりにN2ガスを使用することもできる。このようにすれば、ボールミリングによって硬度の高いAlNがAl母相中に生成するので、最終的に製造される放射性物質貯蔵用構造強度材の強度が向上する。
【0046】
ボールミリングの過程において、投入したAlはボール41の衝撃を受けることによってつぶされ、且つ折りたたまれ、扁平形状になる。このため、Alの外径は一面方向に広がって80μm程度になる。この時、Alがボール41によってつぶされる際には、Alの新成面が出現する。そして、Al母相中に固溶するAlよりも酸素との結合力が強いMgがこの新成面に現れて、当該元素を核としてMgAl2O4の微細粒子が生成され、この微細粒子がAl母相中に析出する。また、ボールミリングにおいては、Al粉末は常に高エネルギーボールによっておしつぶされるので、常に新しい新成面が生まれる。これによって、Al母相中には均一にMgAl2O4の微細粒子が析出して、焼結・押出成形後の機械的性質を向上させる。なお、メカニカルアロイングの過程においてもMgAl2O4の微細粒子は析出するが、後述する脱気、真空焼結あるいは熱間押し出し成形時の高温(300〜450℃)環境下で、MgAl2O4の微細粒子の生成が加速される。
【0047】
一方、B4C粉末は、ボールミリングによって破砕され、Al母相中にすり込まれる度に微細化され、その粒径が0.5μm〜1.0μm程度まで微細化される。そして、B4CはAl母相中にすり込まれていくので、Bの凝集を防ぎながら、B4CはAl母相中に均一にすり込まれてゆく。このように、MgAl2O4の微細粒子を析出させる手段としてメカニカルアロイングを使用すれば、本来ならば凝集して均一分散が難しいB4Cの微細粒子とMgAl2O4の微細粒子とを、Al母相中へ均一に析出させることができる。また、高い硬度を有するB4C粉末の凝集を抑制して、当該B4Cの粉末を微細且つ均一にAl母相中に分散させることもできる。この作用によってB4C粉末の凝集を防止できるので、安定した中性子吸収能を得た上で、熱間成形性能、特に押出性能を向上することができる。このため、押出用のダイスの磨耗低減にも効果がある。さらに、B4C粉末を微細化してAl母相中に分散させるので、亀裂の発生源となる粒径以下にできるとともに、微細化したB4C粒子のスパイク効果によって強度も高くなる。このような材料は、質量が大きいPWR用リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの構成部材として特に有用である。
【0048】
なお、ボールミリングの過程で、ボール41同士の衝突により当該ボール41が磨耗してその成分が混入し、この成分に含まれるある種の元素が強化因子として作用することがある。そこで、ボール41の成分に予め混入する前記元素を含めておき、ボールミリングの過程で当該元素を添加するようにしてもよい。この元素としては、例えば、TiやZr等を挙げることができる。
【0049】
次に、実際に本発明に係るリサイクル燃料収納部材用のAl複合粉末を製造する場合の条件を説明する。前記容器31内に入れるボール41にはAl2O3ボール又はAl2O3ボールと円柱Feボールとを組み合わせて使用し、その量は9.3kg、当該ボール41の径は0.4インチとした。アトライター34の回転数は80rpm〜300rpmとし、さらに、0.5リットル/minのアルゴンを連続的に流して容器31内を不活性ガス雰囲気とした。また、ボールミリングの前に、その助剤として粉末1kgに対して10〜50ccのエタノールあるいはメタノールその他の有機溶剤を投入した。
【0050】
有機溶剤の投入量をAl粉末1kgに対して10〜50cc程度加えることにより、前記Alの母相に析出するAl4C3とAl2O3とMgAl2O4との和に対してAl4C3を30質量%以上55質量%以下の範囲でAlの母相に析出させることができる。このようにすれば、靭性と押し出し性能と高温強度とのバランスがとれたB−Al合金を得ることができる。
【0051】
前記容器31内には所定量のAl粉末とB4Cの粉末とを投入する。このとき、B4Cの投入量は5質量%とした。ボールミリングの時間は10時間以下の範囲で適宜選択するようにした。ここで、ボールミリングの時間は、エネルギーの高いボールを使用する場合は短く、また、比較的エネルギーの低いボールを使用する場合は相対的に長くなる。本発明においては、Al4C3を55質量%以下の範囲でAlの母相中に析出させるためにも、ボールミリングを長時間継続する必要はない。また、Al粉末中におけるAlよりも酸素と結合力の高いMgとAlとを反応させて、Al母相中にMgAl2O4の微細粒子を析出させるだけの時間ボールミリングを継続すればよく、通常のメカニカルアロイングのように材料自体を変化させる必要はない。これらの理由から、使用するボールやミルの種類にもよるが、本発明におけるボールミリングの時間は0.5〜10時間であり、1時間〜4時間の範囲が特に好ましい。また、ボールミリングの時間を調整することによって、Al母相に析出するAl4C3、Al2O3、MgAl2O4の割合を変化させることができる。
【0052】
本発明においては、数10〜数100時間を要する通常のメカニカルアロイングと比較して1/10以下の時間でメカニカルアロイング工程が終了するので、製造工程を短縮でき経済的である。メカニカルアロイング工程が終了したら、混合粉末を容器31から取り出し、所定の温度で所定の時間、混合粉末を乾燥させる(ステップS104)。これは、余分な助剤を揮発させるためである。
【0053】
次に、メカニカルアロイング終了後の混合粉末をラバーケース内に入れて封入し、CIPによって常温で全方向から均一に高圧をかけ、粉末を熱間成形用ビレットの形状に成形する(ステップS105)。CIPの成形条件は、成形圧力を1000kg/cm2〜2000kg/cm2とする。CIP処理により、粉状体の体積は約2割程度減少し、また、CIPによって全方向から均一に圧力が加えられるので、成形密度のばらつきが少ない高密度な成形品を得ることができる。また、CIP工程において、予備成形体の質量密度が70%〜95%となるように成形する。
【0054】
また、CIPに代えて、一軸方向の高圧ホットプレスによって予備成形体を成形することもできる。具体的には、上記混合粉末をプレス機にセットした型内に入れ、5000tonから10000tonの高い成形推力をもって予備成形体を成形する。このように極めて高い推力によって真空中で、且つ高温でプレスすることにより、予備成形体が焼結されて、その成形密度が均一となる。このようにして得られた予備成形体は、ほぼ100%の焼結密度であり、そのままビレットとして押し出し等の熱間加工に供することができる。
【0055】
次に、予備成形体を焼結炉内に入れて真空に引き、無加圧状態で焼結する(ステップS106)。真空焼結時の真空度は10-1Torr程度とし、温度は550℃〜600℃とする。焼結温度の保持時間は1時間〜10時間の間で適宜設定する。この保持時間はビレットの寸法に応じて異なり、寸法の小さいビレットでは1〜2時間程度で、寸法の大きいビレットでは5時間程度である。
【0056】
このように真空焼結すると、MgAl2O4の微細粒子がAl母相中へ十分に析出する。また、メカニカルアロイング処理したAl処理粉末の組成や予備成形体の大きさ等に応じて、焼結温度の保持時間を上記範囲で適宜選択することにより、Al母相中に析出するMgAl2O4の微細粒子量を制御することができる。そして、MgAl2O4の微細粒子量が多くなると、相対的に存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)は小さくなるので、存在比Xを55質量%以下の範囲に収めやすくなる。また、脱気して、窒素雰囲気中で真空焼結すれば、ビレットの表面に硬度の高いAlNが生ずるので、得られる放射性物質貯蔵用構造強度材の強度が向上する。
【0057】
ここで、脱気しつつ焼結温度を、例えば100℃ピッチでステップ昇温させる。このようにステップ昇温させるのは、ビレットの温度が所定の温度を超えないようにするためである。また、300℃〜400℃の温度範囲では、ガスの発生量が多くなるので、昇温時間を長くすることが好ましい。加熱には、焼結炉に設けた一般に使用される電気ヒーター等を用いる。この真空焼結によって仮に固めた粉末同士が融合して、押出用のビレットとなる。また、真空焼結の際には、HIPやホットプレスのようには加圧しないので、焼結体の質量密度は予備成形時とほとんど変わらず、70%〜95%の状態を維持している。さらに、真空焼結によってビレットの酸化が防止され、且つキャニングを省略できるため、缶代が節約できる。また、缶除去のための外削、端面削等の切削工程が不要になるとともに、それに付随する缶封入等の製造工程を省略することができる。
【0058】
予備成形体の焼結が終了したら、押出機を用いて当該ビレットを熱間押出し成形する(ステップS107)。図3は、この押出機の構造を示す説明図である。押出機301は、ダイス305及びコンテナ302と、コンテナ302の周囲に設置した誘導加熱用の高周波コイル303とを備えている。図3(b)に示すように、ダイス305は押出成形される部材の断面形状を有した開口部305hを備えており、押し出されるビレットVの断面が開口部305hの形状に成形される。このダイス305は、試験片を作るためのダイスであるので、開口部305hはa=bの正方形となっている。高周波コイル303にRF(Radio Frequency:高周波)電流を流すことで、ダイス305内のビレットVを誘導加熱することができる。本発明において押出条件は、加熱温度を500℃〜520℃、押出速度を5m/minとする。なお、この条件は、Bの含有量あるいはAl合金の種類に合わせて適宜変更する。押出機の押出力は、3900ton〜10000tonとする。
【0059】
前記誘導加熱は、ビレットVに誘導電流を発生させることで加熱するものであるが、加熱対象であるビレットVは上記真空焼結工程において混合粉末を一部融合させた状態としているため、誘導電流がビレットV全体として発生し効率的な加熱が可能となる。ここで、真空焼結と通常の焼結との比較のため、供試材として、質量2510g、寸法φ89mm×175mm、体積1100mm3、相対密度85%となる2つの予備成形体をCIPにより作成し、その一方にのみ真空焼結を施し、両者を比較した。その結果、真空焼結を施した供試材は30〜50%の範囲となり数倍以上の電気伝導度を示した。
【0060】
さらに、この供試材を誘導加熱したところ、真空焼結を施した供試材の場合、誘導加熱の昇温プログラム(200℃/minで520℃まで昇温後、一定時間保持)通りに温度上昇し、供試材のエッジ部、中間部の表面及び内部中心における温度のばらつきが少なく、どの位置でも略均一に温度が上昇していることがわかった。一方、CIPのみで固めた供試材の場合、昇温プログラム通りに昇温できず昇温速度が50℃/min程度に留まった。これにより、加熱対象である供試材の電気伝導度の向上は、押出時の誘導加熱時間に関係することがわかった。そして、本発明のように、加熱対象である供試材に真空焼結を施せば、昇温プログラムに追従してその温度を上昇させることができることがわかった。したがって、本発明のように、真空焼結することでビレットを誘導加熱する効率が飛躍的に高まり、製造工程全体でみるとビレットの押出速度を向上できるという利点が得られる。また、誘導加熱は、通常の加熱炉のように長時間の加熱を要しない。これにより、短時間で所望の温度に加熱できるので、ビレット中の結晶粒が粗大化することも防止でき、品質の高い放射性物質貯蔵用構造強度材を製造できる。
【0061】
コンテナ内で誘導加熱されたビレットVは、後方からポンチ(図示せず)により押され、ダイス305を通過して所定の製品形状に成形される。このとき、ビレットVの質量密度は70%〜95%であるが、押出成形することで押出時に粉末粒子間の空隙がつぶされるため、製品の質量密度が略100%となる。
【0062】
熱間押出し成形後の製品は、熱処理をしないで、すなわち、自然時効(JISのT1処理、H111又はH112処理)で使用する。このようにすれば、もともと熱処理しないので、高温(200〜250℃)に長期間さらしても、熱処理したときと比較して製品の強度低下を小さく抑えることができる。これによって、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材を、例えばPWR用リサイクル燃料集合体のように高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料を格納するバスケットに使用した場合でも、高温強度を維持して当該バスケットの信頼性を高くできる。
【0063】
次に、上記製造方法によって、Al母相中のAl4C3の割合を変化させて製造した試験片の評価結果について説明する。ここで、試験片が含有するB化合物(B4C)の割合は5質量%であり、いずれの試験片も押出後、人工時効等の熱処理は施していない(T1、H111、H112処理相当)。なお、試験片の組成を表1に示す。ここで、表1に示すように、Mgの含有量は0.42質量%〜0.58質量%の範囲で変化させた。なお、表1中に示すMgの含有量は、試験に供した複数の試験片の平均値であり、±0.15質量%程度の幅がある。そして、この範囲において、横膨出量、衝撃値及び引張強さの測定値はおよそ±5%の範囲に収まっている。
【0064】
【表1】
【0065】
図4は、−40℃におけるAl4C3の比率と横膨出量との関係を示す説明図である。また、図5は、−40℃におけるAl4C3の比率と衝撃値との関係を示す説明図である。図6は、250℃におけるAl4C3の比率と引張強さとの関係を示す説明図である。ここで、メカニカルアロイングによらない従来のB−Al合金においては、−40℃における横膨出量は2mm程度であり、250℃における引張り強さは50MPa程度である。なお、横膨出量、衝撃値、引張強さは、JISの規定に準じて測定した(以下同様)。
【0066】
Al2O3の含有量は、試験片を酸に溶解させて、母材のAlは酸にすべて溶解し、すべてのAl2O3は酸に溶解しなかったとして、酸溶解後の残渣中におけるAlの分析量からAl2O3量を換算して求めた。また、Al4C3はすべて酸に溶解し、すべてのB4Cは酸に溶解しないとし、その他の炭化物は試験片中に存在しないものとして、試験片に含まれるのC量から酸残渣のC量を引いた値をAl4C3の量に換算することにより、Al4C3の含有量を求めた。また、MgAl2O4は、酸溶解せず、アルカリ溶解するMg化合物はすべてMgAl2O4として求めた。残渣中のAl2O3やAl4C3等は、ICP発光分析により測定した。
【0067】
図4、5から、存在比Xが増加するにしたがって、横膨出量及び衝撃値は小さくなることがわかる。そして、存在比Xが55質量%以下であれば、熱間押出し成形に必要な横膨張量である約0.5mmをほぼ確保し、また十分な衝撃値を示す。また、図6から、存在比Xが大きくなると引張り強さは大きくなることがわかる。そして、30質量%以上で、従来のB−Al材に対して2倍程度の引張り強さを示す。
【0068】
これらの結果から、存在比Xが30質量%以上55質量%以下であれば、靭性、熱間成形性能、特に押し出し性能、及び高温強度のバランスのとれた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。そして、特に高温強度を要求される放射性物質貯蔵用構造強度材においては、存在比Xは35質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましく、さらには40質量%以上45質量%以下の範囲が上記バランスをとるために好ましい。このような放射性物質貯蔵用構造強度材は、発熱量の大きいリサイクル燃料集合体を収納するバスケット材に好適である。なお、熱間押出し成形ではなく熱間圧延によって板材を成形する場合には、存在比Xを60質量%程度まで大きくしてもよい。
【0069】
また、Mgの含有量はMgAl2O4の析出量と相関がある。したがって、Mgの含有量によって、上記存在比Xをある程度制御することができる。このような観点から、Mgの含有量は、測定結果のばらつきを考慮すると、0.3質量%以上0.7質量%以下の範囲が好ましく、さらには、0.42質量%以上0.58質量%以下の範囲がより好ましい。このような範囲にMgの含有量を収めれば、MgAl2O4を適度に析出させることにより、存在比Xを30質量%以上55質量%以下の範囲に収めやすくなる。その結果、靭性、熱間成形性能、特に押し出し性能、及び高温強度のバランスのとれた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0070】
次に、Siの影響について説明する。図7は、−40℃におけるSi量と衝撃値との関係を示す説明図である。図8は、−40℃におけるSi量と横膨出量との関係を示す説明図である。また、図9は、250℃におけるSi量と引張強さとの関係を示す説明図である。図8から、Siの含有量を少なくするほど、衝撃値が大きくなることがわかる。また、図9から、Siの含有量が少なくなると、横膨出量が大きくなる傾向にあり、Siの含有量が0.4質量パーセント以下では、熱間押出し成形に必要な横膨張量である約0.5mmをほぼ確保できることがわかる。図9から、Si量の低下とともに引張強さは大きくなることがわかる。
【0071】
これらの結果から、Si量は少なければ少ないほど好ましく、0.2質量%以下が好適であり、0.1質量%以下がより好ましい。また、Si量の上限値は略0.4質量%である。この範囲を満たすSi量であれば、靭性及び高温強度に優れ、且つ熱間押出し成形が可能なリサイクル燃料貯蔵材を得ることができる。このような放射性物質貯蔵用構造強度材は、発熱量の大きいリサイクル燃料集合体を収納するバスケット材に好適である。
【0072】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材によって、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット用の角パイプを製造する例を説明する。図10は、実施の形態2に係る角パイプを示す断面図である。なお、熱間押出し成形用のビレットを製造するまでの工程は、実施の形態1で説明した工程と同様であるから説明を省略する。
【0073】
この角パイプ1は、内部にリサイクル燃料集合体を格納するものであり、角部内側の半径r1は、格納するリサイクル燃料集合体の角部外側と干渉しない程度の大きさとする。また、角部における応力集中低減の観点から、角部外側の半径r2は角部内側の半径r1よりも小さくし、その大きさは板厚tの1/2以下がより好ましい。このようにすれば、この角パイプ1を複数束ねてリサイクル燃料集合体を格納するバスケットを構成した場合、角パイプ1の角部における応力伝達をより均一にすることができる。その結果、角パイプ1の角部における応力集中を低減できるので、信頼性の高いバスケットを構成することができる。
【0074】
図11は、角パイプを押出成形するポートホール押出機の押出部における構造を示す説明図である。予備成形体の焼結が終了し、ビレットVが完成したら、ポートホール押出機301を用いて当該ビレットVを角パイプの形状に熱間押出しする。この場合の押出条件として、加熱温度を500℃〜520℃、押出速度を5m/minとする。なお、この条件は、Bの含有量により適宜変更する。ポートホール押出機の押出力は、5000ton〜6000tonとする。図11(b)は、ポートホール押出機のダイス構成を示す断面図である。
【0075】
ポートホール押出機は、ダイス301a及びコンテナ302と、コンテナ302の周囲に設置した誘導加熱用の高周波コイル303とを備えている。高周波コイル303にRF電流を流すことで、コンテナ302内のビレットVを誘導加熱することができる。ダイス301aは雌型304と雄型305aとから構成されており、雄型305aのマンドレル306を雌型304に挿入することで押出形状が四角形のベアリング307が形成される。マンドレル306は、雄型305aの周囲から延出した4本のブリッジ308により支持され、ブリッジ308間に4つのポート309を形成する。
【0076】
そして、コンテナ302内で誘導加熱されたビレットVは、後方からポンチ(図示せず)により押され、ブリッジ308により一旦4分割されてポート309を通過する。続いて、ポート309からベアリング307に至るまでに再び一体化し、ベアリング307によって所定の押出形状をした角パイプ1として押し出される。このとき、ビレットVの質量密度は70%〜95%であるが、押出成形することにより、押出時には粉末粒子間の空隙がつぶされるため、角パイプ1の質量密度が略100%となる。
【0077】
次に、押出成形後、引張矯正を施すとともに、非定常部及び評価部を切断し、製品とする。完成した角パイプ1は、図10に示すように、その断面内形状は内側長さl、板厚tの正方形である。ここで、角パイプ1の内側長さlは、収納されるリサイクル燃料集合体の大きさによって決定されるが、リサイクル燃料を収納するためには製造公差や使用期間中の反りや曲がりを見込む必要があるので、概ね150〜220mmである。また、板厚tは、収納されるリサイクル燃料集合体及び使用するAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材によって適宜決定されるが、概ね6〜12mmである。なお、上記製造工程のように、ポートホール押出機において誘導加熱する製造方法は、ビレットVの成形工程と押出工程とが別の場所で行われるか、又は時間をおいて行われる場合に有用である。
【0078】
また、真空焼結ラインと押出ラインとが連続した製造ラインに配置される場合等のように、真空焼結工程と押出工程とが短時間に行われる場合には、真空焼結時に550℃〜600℃までビレットVの温度が上昇しているため、焼結終了後、少なくとも押出温度である500℃以上となる熱領域でコンテナ内に挿入し、そのまま押し出すようにしてもよい。具体的には、真空炉内からビレットVを取り出し、このビレットVの温度が上記押出温度以下に下がらないうちに押出機まで搬送する。そして、押出機によって角パイプ1に押出成形する。なお、加熱したビレットVを空気中にさらしても、短時間であれば酸化による影響をほとんど無視できるので、角パイプ1の性能に影響することはほとんどない。好ましくは、ビレットVを真空炉から取り出し、15分以内に押し出すようにすれば、酸化の影響はほとんど問題ない。このようにすれば、誘導加熱によってビレットVを再加熱する必要がないため、さらに製造工程を簡略化することができる。
【0079】
この場合も、真空焼結によってビレットVの酸化が防止され、且つキャニングを省略できるため、缶代が節約でき、缶除去のための切削工程が不要になるとともに、それに付随する缶封入等の製造工程を省略することができる。また、真空焼結時の温度が下がらないような保温チャンバー内に一時的且つ短時間保管し、少なくとも500℃以上の温度領域でビレットVを押出機のコンテナ内に移すようにしてもよい。この場合は、真空焼結ラインと押出ラインとが連続している必要はなく、両者の距離が離れていても問題ない。さらに、真空焼結ラインと押出ラインとの距離が小さく、ビレットVの搬送時間が短ければ、上記同様に真空加熱の熱によって押出成形ができることは言うまでもない。
【0080】
また、上例では圧縮率が高く、複雑な形状をしたAl等の軟質材の熱間押出し成形に適したポートホール押出機を用いたが、押出機の種類はこれに限定されない。例えば、固定又は移動マンドレル方式を採用してもよい。また、直接押出しの他、静水圧押出しを行うようにしてもよく、可能な範囲で適宜選択することができる。さらに、生産効率は低いが、上記誘導加熱に代えて、ビレットVを加熱炉内でバッチ処理するようにしてもよい。
【0081】
さらに、押出しダイスの形状を変更すれば、同様の製法によって板状部材も製造できる。PWR用リサイクル燃料集合体を格納するためのバスケットにおいては、フラックストラップを設ける必要がある。したがって、板状部材を組み合わせてこのようなバスケットを構成する場合には、長手方向に向かう複数の貫通孔を持つ板状部材を押出成形によって製造する必要がある。しかし、BWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型原子炉)用リサイクル燃料集合体を格納するためのバスケットにおいては、必ずしもフラックストラップを設ける必要はなく、この場合には単なる中実の板状部材を組み合わせてバスケットを構成してもよい。この場合には、ビレットVを圧延することにより、中実の板状部材を製造することもできる。
【0082】
図12は、他の構造強度材を示す説明図である。本発明に係るAl材は、リサイクル燃料収納用部材以外にも適用できる。図12には、本発明に係るAl材を適用できる構造部材の一例として、デッキプレート2を示してある。デッキプレートは鉄道車両や原子力発電所における作業通路の床材としても使用することができる。本発明に係るAl材は、熱間押出し性に優れているので、このように、複雑な形状且つ寸法の大きい部材であっても容易に熱間成形できる。また強度も高いので、構造部材としても適している。
【0083】
また、高空を飛行する航空機の場合、中性子吸収能を有する本発明に係るAl材で機体(主として胴部)を構成すれば、宇宙線に起因する中性子から乗員や乗客を守ることができる。この場合、構造材としての機能の他、放射線遮蔽材としての機能も発揮することになる。本発明に係る放射線遮蔽材では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対するAl4C3の存在割合を55質量%以下となるようにしてあるので、強度と靭性と熱間成形性とのバランスのとれた放射線遮蔽材を得ることができる。
【0084】
なお、9質量%を超えてBを含有させると、材料は脆くなるので構造材としては十分な機能を発揮できないが、放射線である中性子を遮蔽する放射線遮蔽材として使用することはできる。この場合は、圧延により板材に成形したり、熱間押出し成形によって単純な形状の丸棒や角棒等に成形したりして、原子炉施設等において放射線遮蔽材として使用することができる。本発明に係る放射線遮蔽材では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対するAl4C3の存在割合を55質量%以下となるようにしてあるので、強度と熱間成形性とのバランスのとれた放射線遮蔽材を得ることができる。また、Bの含有量を9質量%以上に増加させても、ある程度の熱間成形性能は確保できるので、加工が比較的容易となる。なお、Bの含有量は、最大50質量%程度である。
【0085】
さらに、本発明に係るAl材は、Alの不錆性能とクロムを含まない材質上の特性を生かして、二次放射線の発生を考慮する必要がある、高放射線領域で使用する構造材に使用することができる。また、産業機械分野においても、本発明に係るAl材の用途は考えられ、例えば、軸流圧縮機では作動流体が圧縮されるので圧縮機のブレード温度が上昇する。本発明に係るAl材は高温強度に優れるので、軸流圧縮機のブレード(図示せず)にも好適に使用できる。ここで、本発明に係るAl材をリサイクル燃料収納用部材以外に使用する場合には、必ずしもB又はB化合物を添加する必要はないが、高強度を要する場合にはこれらを添加してもよい。また、用途に応じて他の元素を添加して、それぞれの用途に適した特性を発揮させるようにしてもよい。
【0086】
(実施の形態3)
実施の形態3においては、本発明に係るAl母相の放射性物質貯蔵用構造強度材によってリサイクル燃料集合体を格納するバスケットを構成した例、及びこのバスケット収納したキャスクについて説明する。図13は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの一例を示す断面図である。このバスケット106においては、角パイプ1内部に横断面形状が略L字上のエレメント137を配置して、リサイクル燃料集合体を格納するセル110を構成する。そして、内部にエレメント137を配置した角パイプ1を複数組み合わせて、リサイクル燃料集合体を格納するバスケット106が構成される。なお、角パイプ1及びエレメント137の長手方向は、紙面垂直方向である。
【0087】
角パイプ1、及びエレメント137は、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材であるAl材を熱間押出し成形することによって製造される。エレメント137の外側面には突起部137tが設けられており、エレメント137が角パイプ1の内部に配置されると、突起部137tが角パイプ1の内壁面に接する。そして、突起部137tで区切られる空間がフラックストラップとなる。セル110内に格納されるリサイクル燃料集合体から放出される中性子は、角パイプ1及びエレメント137に含まれるBとフラックストラップとによって遮蔽される。このバスケット106は、各セル110にフラックストラップを備えていることから、PWR用リサイクル燃料集合体のような高燃焼度の燃料を収納する用途に適している。
【0088】
このバスケット106は、角パイプ1とエレメント137とを組み合わせることにより、フラックストラップを有するセルを構成する。このため、角パイプにフラックストラップを有する角パイプを熱間押出し成形する場合と比較して、押出しダイスの形状が単純化され、また押出し推力も小さくて済むので、容易に製造できる。また、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、靭性が高く、また高温強度に優れるので、発熱量の多いPWR用リサイクル燃料集合体を格納するバスケット106に好適であり、バスケット106の健全性を向上させることができる。さらに、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押出性能を備えているので、エレメント137のように複雑な形状を持つ部材であっても、容易に押出成形できる。ここでは、エレメント137を角パイプ1の内部に配置したが、エレメント137を角パイプ1の外側に配置して、角パイプ1をエレメント137で囲まれるような構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0089】
図14は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す一部断面図である。このバスケットにおいては、複数の板状部材3の長辺側端部同士を単に組み合わせるだけでリサイクル燃料集合体を格納するセル111を構成する。さらに、セルの外周にはスペーサ4a、4bを配置して板状部材を支持するとともに、スペーサと板状部材とを単に組み合わせてリサイクル燃料集合体を格納するセル111'を構成する。なお、板状部材3及びスペーサ4a、4bの長手方向は、紙面垂直方向である。
【0090】
このバスケット107は板状部材3やスペーサ4a等を組み合わせるだけで構成でき、組み合わせ部分の接合等は不要なので、短時間で容易にバスケット107を組み立てることができる。また、バスケット107は板状部材3を組み合わせて構成するため、組み合わせ部における伝熱性能がやや低下するが、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、高温強度に優れるので、バスケット107の健全性を維持できる。さらに、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押出性能を備えているので、板状部材3のように比較的小さい形状だと、複雑な形状を持つ部材であっても、押出ダイスに大きな負荷を与えないで押出成形できる。
【0091】
図15は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。このバスケット108は、貫通孔311を有する帯状の板状部材310に切込部312を設け、板状部材310を直交させて交互に積み重ねることで構成されている。これによって、直交する板状部材310同士で囲まれる空間が、リサイクル燃料集合体を収納する格子状のセルとなる。
【0092】
前記貫通孔311は、板状部材310の長手方向にその断面が日の字になるように形成され、その中央のリブ313には、複数の連通孔が形成されている(図示省略)。また、前記貫通孔311は、切込部312をもって他の板状部材310の貫通孔311と連通する。さらに、板状部材310の長手方向端面には、上下に位置する板状部材310の貫通孔311同士を連通するための連通孔314が設けられている。
【0093】
また、板状部材310の上下端縁には、凹部315及び凸部316が形成されている。この凹部315と凸部316によって上下に位置する板状部材310同士が位置決される(図15参照)。これによって、セル内に段差が発生するのが防止されるので、リサイクル燃料集合体をセル内へ滑らかに収納することができる。
【0094】
このバスケット108を構成する板状部材310は、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材をその材料としているので、靭性が高く、また高温強度も高いので、高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料集合体を格納するのに適している。また、質量の大きいPWR用のリサイクル燃料集合体を格納しても十分な高温強度を発揮できるので、バスケット108の信頼性を高くできる。さらに、板状部材310は横断面が目の字状であるが、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は実用上十分な押し出し性も有しているので、このような複雑な形状でも容易に熱間押出し成形できる。図16は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。図16に示すバスケット108'は、図15に示す板状部材310に切込部312を設ける代わりに、長尺の板状部材310'と短尺の板状部材310''とを組み合わせて構成したものである。このようにバスケットを構成してもよい。
【0095】
図17は、キャスクの概要を示す説明図である。キャスク200は、胴本体201と、胴本体201の外周に取り付けられた伝熱フィン207と、伝熱フィン207のもう一方の長辺側端部に取り付けられた外筒205とで構成される。胴本体201は例えば炭素鋼によって製造されており、γ線遮蔽機能を発揮するのに十分な胴厚さを有している。
【0096】
胴本体201には底板(図示せず)が取り付けられるが、この底板は溶接によって筒状の胴本体201に取り付けることができる。また、胴本体201の外形に合わせた内部形状を持つコンテナ内に金属ビレットを装入し、胴本体201の内形に合わせた外形を持つ穿孔ポンチでこの金属ビレットを熱間拡張成形することによって胴本体201と底板とを一体に成形してもよいし、鋳造によって製造してもよい。
【0097】
胴本体201の内部は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットが収納されるキャビティ201cとなる。このキャビティ201cには上記バスケットが格納される。このキャビティ201cの軸方向(図中Zで示す方向)に垂直な断面内形状は円形であるが、キャスク200の仕様に応じ、この他にも八角形や略十字型・階段状等の断面内形状をもつキャビティも使用できる。キャビティ201c内にリサイクル燃料集合体を収納した後は、胴本体放射性物質の漏洩を防止するため、一次蓋及び二次蓋(図示せず)によって二重に密封する。密封性能を確保するため、一次蓋及び二次蓋と胴本体201との間には金属ガスケットを設けておく(図示省略)。
【0098】
胴本体201の外周には、板状部材で作られた複数の伝熱フィン207が放射状に取り付けられている。この伝熱フィン207は、Al板、銅板等の、熱の良導材料で作られており、胴本体201の外周に溶接その他の接合手段によって、接合されている。また、伝熱フィン207の外側には、厚さ数cmの炭素鋼で作られた外筒205が溶接その他の接合手段によって取り付けられている。キャビティ201c内に収納されたリサイクル燃料集合体は崩壊熱を発生するが、胴本体201を伝わってきた崩壊熱は、伝熱フィン207を介して外筒205に伝導された後、外筒205の表面から大気中に放出される。
【0099】
胴本体201と外筒205と二枚の伝熱フィン207とで囲まれる空間209すべてには、中性子を吸収するため、中性子吸収材の熱膨張を吸収するボイド層以外は、中性子遮蔽機能を有する水素を多く含有する高分子材料であるレジン、ポリウレタン、又はシリコンその他の中性子吸収材料(以下同様)が充填してある。この中性子吸収材料によって、リサイクル燃料集合体から放出される中性子を遮蔽し、キャスク200の外部へ漏洩する中性子を規制値よりも少なくする。
【0100】
キャスク200は、リサイクル燃料集合体を収納した後、輸送及び貯蔵するために使用される。キャスクを輸送する場合には、キャスクの両端に緩衝体(図示せず)を取り付けて、万一キャスク200の落下事故等が発生した場合でも、十分な密封性能と収納物であるリサイクル燃料集合体の健全性を確保できるようにする。
【0101】
本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は靭性が高く、また高温強度に優れているので、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材で製造したバスケットは、高温環境下においても十分な強度を有する。したがって、高燃焼度・短冷却期間のリサイクル燃料集合体を格納して、これを輸送・貯蔵するキャスク200のバスケット材として、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は好適である。また、本発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材は、質量の大きいPWR用のリサイクル燃料集合体を格納する場合でも、十分な強度を発揮できるので、PWR用のリサイクル燃料集合体を格納するキャスク200にも好適である。
【0102】
(実施の形態4)
実施の形態5においては、上記角パイプの他の使用例について説明する。図18は、リサイクル燃料プールの一例を示す斜視図である。このリサイクル燃料プール400は、上記実施の形態2の製造方法により製造した角パイプ1を複数立設させ、その上下部分をサポート板401により支持したラック402を備えている。ラック402は、鉄筋コンクリート製のピット403内に設置されており、当該ピット403内面は、ピット水の漏洩防止のためにステンレス鋼鈑のライニング404により内張りされている。
【0103】
また、このピット403内は、常時、ホウ酸水により満たされている。このリサイクル燃料プール400は、本発明の放射性物質貯蔵用構造強度材を材料とした上記角パイプ1を用いて構成しているので、中性子吸収能が高く、且つその構造の健全性を確保できる。このため、リサイクル燃料集合体が臨界に達するのを有効に防止することができる。さらに、B−SUS製の角パイプをB−Al製の角パイプに置き換えることでラックの質量を軽くできるので、異常時における燃料プール内の床と壁面とに作用する荷重を大幅に軽減できるので、貯蔵施設の安全性を向上できる。
【0104】
なお、現状用いられているB−SUS製の角パイプのpHが約3.0であるのに対し、B−Al製の角パイプ1のpHが約4.5である。プール内のホウ酸水は酸性であるため、本発明のAl材を使用したラック402に対して隙間腐食を生じさせる可能性がある。このため、燃料プール内のラック402として本発明のAl材を用いる際には、腐食防止の観点から燃料プールの水環境を従来よりも中性に近づけると、本発明に係るAl材の適用が可能になる。
【0105】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項1)では、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。これにより、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、熱間成形性が悪化せず、特に押出成形によって容易に所望の形状に成形できる。
【0106】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項2)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたので、さらに高温強度を向上させることができる。
【0107】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項3)では、中性子吸収材の粉末とMgを含有するAlの粉末とをメカニカルアロイングによって処理して真空焼結するようにした。これにより、MgAl2O4の析出量の制御が容易になるので、存在比Xを上記範囲に収めやすくなる。さらに、多数の高エネルギーボールによって常にAl粉末とB又はB化合物の粉末とがすりつぶされるので、より靭性及び高温強度に優れた放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。
【0108】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項4)では、Alに含有されるMgを、Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とした。これにより、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度、靭性あるいは熱間成形性の要求値を満たすことができる。
【0109】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項5)では、メカニカルアロイングの処理時間を10時間以下とした。これにより、通常のメカニカルアロイングと比較して、処理時間を1/10程度に短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0110】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項6)では、Siの含有量を0.4質量%以下に制限した。これにより、放射性物質貯蔵用構造強度材に要求される靭性を確保できる。
【0111】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材(請求項7)では、中性子吸収材はB又はB化合物とし、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下とした。このようなBの含有量であれば、熱間成形性能と構造強度材に求められる強度及び靭性とのバランスが良好な放射性物質貯蔵用構造強度材を得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、バスケットやラック等の製造コストを低減できる。
【0112】
また、この発明に係る放射線遮蔽材(請求項8)では、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。これにより、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、熱間成形性が悪化せず、容易に所望の形状に成形できる。
【0113】
また、この発明に係る放射線遮蔽材(請求項9)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたので、さらに高温強度を向上させることができる。
【0114】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項10)では、メカニカルアロイング及び真空焼結を用い、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、存在比Xが前記範囲なので、ビレットの押出成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0115】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項11)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上としたので、高温強度をより向上させることができる。
【0116】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項12)では、含有するMgを、Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下とした。これにより、高温強度と靭性と熱間成形性能とのバランスがとれる範囲に上記存在比Xを設定しやすくなる。また、放射性物質貯蔵用構造強度材に求められる高温強度や熱間成形性能の要求値を満たす熱間成形用ビレットを得ることができる。
【0117】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項13)では、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したので、熱間成形後における構造材の靭性を十分に確保できる。
【0118】
また、この発明に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット(請求項14)では、中性子吸収材としてB又はB化合物を用い、Bの含有量を、1.5質量%以上7質量%以下とした。これにより、熱間成形性能、特に押し出し成形性能と強度とのバランスが良好な熱間成形用ビレットを得ることができる。また、B又はB化合物は、入手及び取り扱いが比較的容易なので、放射性物質貯蔵用構造強度材の製造コストを低減できる。
【0119】
また、この発明に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット(請求項15)では、メカニカルアロイング及び真空焼結を用い、存在比X=Al4C3/(Al4C3+Al2O3+MgAl2O4)を55質量%以下とした。このため、このビレットを熱間成形して製造した構造材は、靭性及び熱間成形性能を維持しつつ、高温環境下においては高い強度を発揮できる。また、存在比Xが前記範囲なので、ビレットの押出成形性が悪化せず、熱間成形によって所望の形状に成形できる。
【0120】
また、この発明に係る放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット(請求項16)では、Al4C3とAl2O3とMgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合は30質量%以上としたので、高温強度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】この発明の実施の形態1に係る放射性物質貯蔵用構造強度材の製造方法に用いるアトライターミルの構成図である。
【図3】この押出機の構造を示す説明図である。
【図4】−40℃におけるAl4C3の比率と横膨出量との関係を示す説明図である。
【図5】−40℃におけるAl4C3の比率と衝撃値との関係を示す説明図である。
【図6】250℃におけるAl4C3の比率と引張強さとの関係を示す説明図である。
【図7】−40℃におけるSi量と衝撃値との関係を示す説明図である。
【図8】−40℃におけるSi量と横膨出量との関係を示す説明図である。
【図9】250℃におけるSi量と引張強さとの関係を示す説明図である。
【図10】実施の形態2に係る角パイプを示す断面図である。
【図11】角パイプを押出成形するポートホール押出機の押出部における構造を示す説明図である。
【図12】他の構造強度材を示す説明図である。
【図13】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの一例を示す断面図である。
【図14】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す一部断面図である。
【図15】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。
【図16】リサイクル燃料集合体を格納するバスケットの他の例を示す説明図である。
【図17】キャスクの概要を示す説明図である。
【図18】リサイクル燃料プールの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 角パイプ
2 デッキプレート
3、310 板状部材
30 アトライターミル
34 アトライター
41 ボール
200 キャスク
301a、305 ダイス
301 押出機
303 高周波コイル
400 リサイクル燃料プール
Claims (16)
- 中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする放射性物質貯蔵用構造強度材。
- さらに、上記Al4C3と上記Al2O3と上記MgAl2O4との総量に対する上記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたことを特徴とする放射性物質貯蔵用構造強度材。
- Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を真空焼結した後に熱間成形したことを特長とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材。
- 上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材。
- 上記メカニカルアロイングの処理時間は、10時間以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材。
- さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射性物質貯蔵構造部材。
- 上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材。
- 中性子吸収材を含むAlの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする放射線遮蔽材。
- さらに、上記Al4C3と上記Al2O3と上記MgAl2O4との総量に対する上記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたことを特徴とする請求項8に記載の放射線遮蔽材。
- Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット。
- さらに、上記Al4C3と上記Al2O3と上記MgAl2O4との総量に対する上記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたことを特徴とする請求項10に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット。
- 上記Mgは上記Al処理粉末の全質量に対して0.3質量%以上0.7質量%以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット。
- さらに、Siの含有量を0.4質量%以下に制限したことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット。
- 上記中性子吸収材はB又はB化合物であり、Bの含有量は1.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の放射性物質貯蔵用構造強度材の熱間成形用ビレット。
- Mgを含有するAl粉末と中性子吸収材の粉末とをメカニカルアロイングによって処理したAl処理粉末を所定の形状に成形して真空焼結することにより、Alの母相中に少なくともAl4C3とAl2O3とMgAl2O4とが存在し、且つ前記Al4C3と前記Al2O3と前記MgAl2O4との総量に対する前記Al4C3の存在割合を55質量%以下としたことを特徴とする放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット。
- さらに、上記Al4C3と上記Al2O3と上記MgAl2O4との総量に対する上記Al4C3の存在割合を30質量%以上としたことを特徴とする請求項15に記載の放射線遮蔽材の熱間成形用ビレット。
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WO2009096369A1 (ja) * | 2008-01-30 | 2009-08-06 | Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. | リサイクル燃料集合体収納用バスケット及びリサイクル燃料集合体収納容器 |
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2002
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