JP2004211141A - 溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来、両立が難しいとされた耐火性能と溶接熱影響部における耐亜鉛めっき割れ性との両者を併せ持つ高強度耐火鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.5 〜3.0 %およびMo:0.3 〜1.5 %を含み、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成に成分調整する。
【選択図】 図2
【解決手段】質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.5 〜3.0 %およびMo:0.3 〜1.5 %を含み、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成に成分調整する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物、土木橋梁および送電鉄塔等の溶接構造物、中でも耐火被覆を簡略化あるいは省略しても火災発生時に十分な強度を有することが求められ、かつ防錆のために表面に溶融亜鉛めっき等が施される用途に供して好適な、引張強度が 590 MPa以上で、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨構造の建築物、橋梁および送電鉄塔等においては、鋼材の高温強度に応じて耐火被覆を簡略化あるいは省略することができる。例えば、鋼材が 600℃において、常温における規格降伏強度の2/3 以上の高温耐力を有する場合には、裸使用が可能となる。従って、かような鋼材を用いれば、被覆材の施工工数の削減、有効空間の拡大といった多大の効果を得ることができる。
【0003】
このような、耐火性能を付与した鋼材としては、Vを 0.005〜0.2 %あるいはMoを 0.005〜0.6 %含有し、炭素当量(Ceq=C+Mn/6+Si/24 +Ni/40 +Cr/5+V/14 )を0.35〜0.50%の範囲に調整した建築構造用鋼材が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
但し、耐火被覆を省略した場合には、耐食性の観点から鋼材に溶融亜鉛めっき等のめっき処理を施す必要がある。この時、特に引張強度が 590 MPaを超える高張力鋼においては、溶接組立を経た後に溶融亜鉛浴中で亜鉛めっきを施すと、溶接組立時に発生した残留応力、高温の溶融亜鉛浴浸漬で生じる熱応力および溶接熱影響部への溶融亜鉛の侵入の重畳により、めっき割れと呼ばれる粒界割れが多発する傾向にある。
特に溶融亜鉛の侵入は、溶接熱影響部のうち、1200℃を超えるような高温にさらされて粗大化したオーステナイト粒からベイナイトあるいはマルテンサイト変態して生成したミクロ組織の旧オーステナイト粒界に選択的に生じ、粒界を脆化させることが近年の研究で明らかにされた。
【0005】
しかしながら、このような溶接熱影響部のベイナイト化あるいはマルテンサイト化を抑制することは、耐火性能の観点からVないしMoを添加した前記特許文献1のような高強度鋼設計では、極めて難しい。
【0006】
そこで、溶接熱影響部がベイナイト化あるいはマルテンサイト化しても、旧オーステナイト粒界への溶融亜鉛の侵入を抑制するために、 0.012〜0.030 %のZrを添加する方法が提案された(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、Zrは非常に高価な合金元素であるだけでなく、多量に添加すると鋼中で粗大な非金属介在物が生成し、清浄度の低下と靱性の劣化を招くという問題がある。
【0007】
【特許文献1】
特開平2−163341号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭60−181254号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、母材靱性の劣化等の問題を生じることなしに、従来技術では両立が難しいとされた耐火性能と溶接熱影響部における耐亜鉛めっき割れ性との両者を兼備させた、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
さて、発明者らは、耐火性能の確保に必要なMo量と母材引張強度≧590 MPa を達成するのに必要なMn, Cu, Ni, Crといった合金元素が添加されていても、溶接熱影響部においてベイナイト変態あるいはマルテンサイト変態が生じる前に旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトを多量に生成させて、溶融亜鉛の侵入経路を極力分断してやれば、溶融亜鉛めっき割れを抑制できるのではないかと考えた。
そこで、Alのもつ、1200℃以上の温度域でオーステナイト相とフェライト相が平衡状態で存在させ、一方の相が他方の相の粒成長を抑制する結果、旧オーステナイト粒径を著しく細粒化でき、しかもフェライト化傾向が強いという特性に着目して、鋭意研究を重ねた。
【0010】
すなわち、C, Mn,Mo,Cu,Ni,Cr等を種々変化させた鋼の熱サイクル実験結果を重回帰して、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト生成抑制効果を解析し、得られたポリゴナル・フェライト生成抑制効果を上回る量のAl添加を行ったところ、1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト組織の分率を75%以上とすることができ、その結果、溶融亜鉛の侵入経路である旧オーステナイト粒界をほぼ消滅させ得ることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0012】
2.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0013】
3.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0014】
4.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0015】
5.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕
+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0016】
6.上記1〜5のいずれかに記載の成分組成になる鋼材を、1000〜1250℃の温度に加熱保持後、圧延終了温度≧700 ℃の条件で熱間圧延を行い、熱延終了後、鋼板温度が 650℃以上の温度から冷却を開始し、平均冷却速度:5〜30℃/sの速度で 500℃以下まで加速冷却を行うことを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明において鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.04〜0.20%
Cは、鋼の強度を増加させるのに有効な元素である。本発明では、後述するAlの添加によって母材のミクロ組織がフェライト主体となるため、第2相を強化して引張強度≧590 MPa を達成するために、0.04%以上のCを含有させる必要がある。しかしながら、0.20%を超えて多量に添加すると、Alの添加効果を上回って溶接熱影響部のベイナイト化あるいはマルテンサイト化が著しくなり、亜鉛めっき割れを助長するだけでなく、母材靱性にも悪影響を及ぼすので、上限は0.20%とした。なお、溶接性も考慮した好適範囲は0.04〜0.12%である。
【0018】
Si:0.01〜1.0 %
Siは、脱酸剤として作用するだけでなく、固溶強化によって鋼の強度をミクロ組織によらなくても増加させることができる有用元素である。ここに、十分な脱酸効果を得るためには少なくとも0.01%の添加を必要とするが、1.0 %を超えて添加すると、母材靱性に悪影響を及ぼすので、Si量は0.01〜1.0 %の範囲に限定した。
【0019】
Mn:0.5 〜3.0 %
Mnは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.5 %以上添加すると、本発明において母材の第2相をベイナイトあるいはマルテンサイト化して、強度の上昇に寄与する。一方、3.0 %を超えて添加すると、溶接熱影響部のベイナイト化を著しく促進し、亜鉛めっき割れの発生を助長するため、上限は 3.0%とした。なお、母材の強度・靱性の観点からは 1.0〜1.8 %の範囲が好適である。
【0020】
Mo:0.3 〜1.5 %
Moは、鋼が高温に曝されたとき鋼中に Mo2Cを微細に析出し、析出物分散強化によって高温強度を高める有用元素である。本発明で所期した 600℃における耐火性能を満足するためには、少なくとも 0.3%の添加が必要である。また、Moは鋼の焼入性を向上させる元素でもあり、Mnと同じく母材の第2相のベイナイト化、マルテンサイト化に寄与するが、溶接熱影響部のベイナイト化、マルテンサイト化も同じように促進し、添加量が 1.5%を超えると亜鉛めっき割れを著しく助長するようになるため、上限は 1.5%とした。
【0021】
Al:(2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1)%以上、1.6 %以下
Alは、多量に添加すると、1200℃以上の温度域において、オーステナイト単相からオーステナイト相とフェライト相の2相化を促進する。溶接熱影響部を考慮した場合、このような高温域でオーステナイト単相であると粒が著しく粗大化してしまうが、2相状態になるとオーステナイト粒とフェライト粒が互いに相手の成長を抑制する結果、細粒組織を得ることができる。またAlは、フェライト化促進元素でもあり、この細粒化効果とフェライト化促進効果が、C,Mn,Mo,Cu,Ni,Crといった焼入性向上元素添加による溶接熱影響部におけるフェライト生成抑制効果とベイナイト、マルテンサイト変態促進効果を上回ることによって、特に旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが生成して溶融亜鉛めっき浴浸漬時に亜鉛の鋼中への侵入経路を遮断して、溶接熱影響部における亜鉛めっき割れの発生を抑制することができる。
この効果を得るためには、Alの添加量は、CやMn,Moの含有量、さらには母材強度上昇の目的で添加されるCu,Ni,Cr量を勘案した実験重回帰式により、次式(1) または(1)’に制御することが重要である。
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
なお、Al量が 1.6%を超えると、溶接時に問題が生じるため、いずれの場合もAlの上限を 1.6%とした。
【0022】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
すなわち、母材の強度上昇を目的として、Cu,Ni,Cr等を添加することができる。
Cu:0.1 〜3.0 %
Cuは、鋼の焼入性を向上させる他、析出物分散強化によって鋼の強度を増加させる効果がある。これらの効果を得るためには、少なくとも 0.1%の添加が必要であるが、3.0 %を超えて添加すると、熱間圧延におけるスラブ加熱時に表面に濃化し、加工性の低下を助長するだけでなく、表面傷の原因ともなるため、Cuは0.1 〜3.0 %の範囲に限定した。
【0023】
Ni:0.1 〜3.0 %
Niは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.1 %以上でその効果が得られるが、3.0 %を超えて添加すると、溶接熱影響部のベイナイト化が著しくなり、亜鉛めっき割れを助長するため、Niは 0.1〜3.0 %の範囲に限定した。
【0024】
Cr:0.1 〜1.0 %
Crは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.1 %以上でその効果が得られるが、1.0 %を超えて添加すると、炭化物形成による母材靱性への悪影響が著しいので、Crは 0.1〜1.0 %の範囲に限定した。
【0025】
また、高温強度の向上を目的としてNb,V,Ti等を添加することができる。
Nb:0.005 〜0.1 %
Nbは、鋼中で炭窒化物を形成し、それらの析出物が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005 %以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加すると、著しく母材靱性を劣化させるため、Nbは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。なお、母材製造において、いわゆる制御圧延によるミクロ組織微細化を行う場合、オーステナイト未再結晶領域を高温側に拡大する効果もあり、この効果も考慮すると 0.010〜0.06%の範囲とすることが望ましい。
【0026】
V:0.005 〜0.1 %
Vは、鋼中で形成する炭化物が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005 %以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加しても、析出物の粗大化が起こるのみで、分散量は飽和し、それに伴い高温強度の上昇も頭打ちとなるため、Vは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。
【0027】
Ti:0.005 〜0.1 %
Tiは、鋼中で炭化物あるいは窒化物を形成するが、特に炭化物の方が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005%以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加するとNbと同じく母材靱性を著しく劣化させるので、Tiは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。なお、Ti窒化物は、高温域まで地鉄に固溶することはないので、ピンニング効果により、溶接熱影響部のオーステナイトの粗大化を抑止する働きもある。この、窒化物の機能も利用する場合の好適範囲は 0.010〜0.020 %である。
【0028】
さらに、溶接熱影響部の耐亜鉛めっき割れ性向上を目的として、Ca, REM, Zr等を添加することができる。
Ca:0.0005〜0.0030%
Caは、硫化物形成能が強いため、鋼中に不可避的に存在するSと結びついてCaSを形成し、このCaSが溶接熱影響部において、フェライト変態を助長する働きがあるため、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト分率の増加を通じて亜鉛めっき割れ発生を抑制する効果がある。十分な量のCaSを鋼中に存在させるためには、0.0005%以上のCa添加が必要であるが、0.0030%を超えて添加すると、CaSが粗大化して母材の清浄度の低下と靱性の劣化を招くため、上限は0.0030%とした。
【0029】
REM :0.001 〜0.010 %
REM は、添加することで鋼中に REM(O, S)を形成し、Caと同じく溶接熱影響部においてフェライト変態を助長する働きを有する。この効果を得るためには、少なくとも 0.001%の添加が必要であるが、0.010 %を超えて添加しても、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト分率の増加効果は飽和するため、REM は 0.001〜0.010 %の範囲に限定した。
【0030】
Zr:0.001 〜0.030 %
Zrは、旧オーステナイト粒界に偏析し、溶融亜鉛の旧オーステナイト粒界への侵入を抑制する効果があるため、溶接熱影響部に一部残る旧オーステナイト粒界での亜鉛めっき割れを抑止できるという効果がある。この効果を得るためには、0.001 %以上の添加が必要であるが、0.030 %を超えて添加すると粗大な介在物が多数生成し、鋼の清浄度の低下と靱性の劣化を招くため、Zrは 0.001〜0.030%の範囲に限定した。
【0031】
次に、溶接部のミクロ組織を限定した理由について説明する。
溶接部における溶融亜鉛めっき割れは、溶接熱を受けてオーステナイトに再変態し、その後の冷却過程でベイナイトないしマルテンサイト変態が起こると、図1に示すように、それらのミクロ組織に残っている旧オーステナイト粒界に溶融亜鉛が浸透する結果生じるものである。
本発明の最適Al添加技術により、これら旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが変態生成し、その量が多いほど旧オーステナイト粒界は少なくなり、ポリゴナル・フェライトの分率が75%を超えると(図2参照のこと)、ほとんど旧オーステナイト粒界が埋め尽くされ、溶接部における溶融亜鉛めっき割れは発生しなくなる。
【0032】
従って、本発明では、1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織におけるポリゴナル・フェライトの分率を、75%以上に限定したのである。
ここに、評価すべき温度を1200℃以上としたのは、およそ1200℃以上の加熱領域でオーステナイトの粗大化が著しくなり、上記旧オーステナイト粒界が残るようなベイナイトまたはマルテンサイトになり易いのに対し、1200℃未満ではオーステナイト粒成長もあまり起こらず、冷却過程で粒界からのポリゴナル・フェライト変態が起こるため、問題ないと考えられるためである。
【0033】
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
鋼の溶製は、転炉、電気炉等通常公知の溶製方法がいずれも適用でき、特に限定されることはない。また、溶製により成分調整された溶鋼は、連続鋳造法あるいは造魂法により圧延素材とされる。
ついで、熱間圧延により、10〜100 mm厚程度の厚鋼板に成形する。
この熱間圧延に際し、圧延条件は下記の範囲を満足する必要がある。
【0034】
加熱温度:1000〜1250℃
圧延素材を均一にオーステナイト化し、かつ添加したMo,Nb,V,Tiの炭化物を一度鋼中に固溶させるためには、加熱温度を1000℃以上とする必要があるが、1250℃を超えて加熱すると、異常に粗大なオーステナイト粒が生成し、母材鋼板の靱性が著しく劣化するため、加熱温度は1000〜1250℃の範囲に限定した。
【0035】
圧延終了温度≧700 ℃
熱間圧延は、通常範囲の圧下量で行うことができ、また母材鋼板の靱性を向上させるために、制御圧延を施してもかまわない。しかしながら、圧延終了温度が700 ℃を下回ると、固溶させたMo,Nb,V,Ti等の炭化物が圧延によって加工誘起析出してしまい、その後の冷却過程で粗大化してしまう。これにより、火災発生時に鋼板の温度が上昇した場合、強度低下を防ぐための析出物分散強化量が不足するようになるため、圧延終了温度は 700℃以上に限定した。
【0036】
冷却開始温度≧650 ℃
熱間圧延後は、加速冷却を施す必要がある。この理由は、上述したように、スラブ加熱で固溶化させたMo,Nb,V,Tiの大部分を固溶状態ままにしておくことができれば、鋼板の使用時に火災等で温度が上昇した時に、微細に炭化物の析出が起こり、これらの析出物分散強化により高温強度を確保することができるからである。すなわち、熱間圧延後、空冷程度の冷却速度では上記炭化物の析出が起こり易い 550〜650 ℃の温度域を、より速い冷却速度で冷却してやれば、析出せず固溶状態に保持される。この観点から、冷却開始温度は 650℃以上とした。
【0037】
冷却速度:5〜30℃/s
加速冷却における冷却速度が5℃/sに満たないと、一部Mo,Nb,V,Tiの析出が生じてしまい、耐火強度が低下するおそれがあるため、冷却速度は5℃/s以上とする必要がある。一方、冷却速度が30℃/sを超えると、鋼板のミクロ組織、特に表面近傍のミクロ組織が一部マルテンサイトとなる。この場合、マルテンサイトの界面には旧オーステナイト粒界が残ってしまうので、溶融亜鉛めっき処理の際、鋼板母材部で溶融亜鉛めっき割れを生じる危険が生じる。そこで、本発明では、冷却速度については5〜30℃/sの範囲に制限したのである。
【0038】
加速冷却停止温度≦500 ℃
500 ℃より高い温度で加速冷却を止めてしまうと、その後の空冷過程で一部Mo,Nb,V,Tiの析出が生じてしまい、耐火強度が低下するおそれがあるため、加速冷却は 500℃以下まで行うものとした。
【0039】
【実施例】
表1に示す成分組成に調整した鋼材(100 kg)をそれぞれ、表2に示す条件で熱間圧延ついで加速冷却し、板厚:20mmの厚鋼板とした。
得られた鋼板の引張特性、靱性、耐火特性、溶接部のポリゴナル・フェライト分率および耐溶融亜鉛めっき割れ性について調査した結果を表3に示す。
【0040】
なお、各試験条件は次のとおりである。
(1) 鋼板(常温)引張試験
鋼板の引張特性は、圧延長手方向に平行に採取したJIS Z 2201に規定されている4号引張試験片を用いて、JIS Z 2241に規定されている方法で引張試験を行い、0.2 %耐力および引張強度を測定して評価した。
【0041】
(2) 鋼板靱性試験
鋼板の靱性は、圧延長手方向と直交する方向に採取したJIS Z 2202に規定されている4号シャルピ−試験片を用いて、JIS Z 2242に規定されている方法でシャルピー衝撃試験を行い、−20℃におけるシャルピー吸収エネルギ−を測定して評価した。
【0042】
(3) 耐火試験
鋼板の耐火特性は、常温での引張特性評価と同様、JIS Z 2201に規定されている4号引張試験片を採取した後、試験片平行部に赤外線イメージ炉を装着し、試験片平行部を 600℃に加熱保持したままで引張荷重を与えて得られた荷重変位曲線から 0.2%耐力を計算して評価した。
【0043】
(4) 溶接部のミクロ組織評価
鋼板の溶接部におけるポリゴナル・フェライト分率の測定は、溶接熱サイクルを模擬した再現熱サイクル試験片のミクロ組織を用いて行った。すなわち、鋼板から採取した小型試験片に、再現熱サイクル試験機で最高加熱温度1200℃および1400℃の急速加熱を与え、その後被覆アーク溶接法による隅肉溶接を行った時の溶接熱影響部の冷却を模擬した 800〜500 ℃の温度域の冷却時間を15秒とした冷却パターンで冷却を行った。ついで、熱サイクル付与後の試料から顕微鏡観察サンプルを採取し、鏡面研磨を施した後、3%硝酸アルコール液でエッチングを行ってから、光学顕微鏡にて倍率500 倍で無作為に5視野ミクロ組織写真を撮影した。そして、写真のポリゴナル・フェライトの分率を画像解析装置にて測定した。
【0044】
(5) 溶接部の亜鉛めっき割れ試験
鋼板の溶接部における耐溶融亜鉛めっき割れ性の評価は、残った鋼板を片面減厚で15mmにした鋼板を用いて、図3に示すような十字拘束溶接継ぎ手を作製し、この溶接継ぎ手を 450℃の溶融亜鉛浴中に10分間浸漬した。亜鉛めっき処理後、継ぎ手を試験ビード1−1、1−2についてそれぞれ5箇所切断し、断面を研磨後、×10の投影機拡大観察により割れの有無を調査した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、590 MPa を超える高い引張強度と、150 J以上の良好な−20℃シャルピー吸収エネルギ−を有している。また、600℃での 0.2%耐力は常温の値の2/3 以上であった。また、再現熱サイクル試験による1200℃および1400℃加熱後の溶接熱影響部を模擬したミクロ組織はいずれも、ポリゴナル・フェライトの分率が75%を超えており、この結果、十字拘束溶接継ぎ手を用いた溶接部の亜鉛めっき割れ試験においても、割れ発生は全く認められなかった。
これに対し、本発明の要件を満たしていない比較例はいずれも、600 ℃における 0.2%耐力が不十分であったり、溶接部に亜鉛めっき割れの発生を余儀なくされた。
【0049】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、母材の強度・靱性に優れた高強度溶接構造用鋼に、優れた溶接部の耐亜鉛めっき割れ性と 600℃における耐火性能の両者を併せて付与することができ、産業上多大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】旧オーステナイト粒界に溶融亜鉛が浸透した状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが生成した状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】溶接部の亜鉛めっき割れ試験に用いた、十字拘束溶接継ぎ手の正面図(a) および側面図(b) である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物、土木橋梁および送電鉄塔等の溶接構造物、中でも耐火被覆を簡略化あるいは省略しても火災発生時に十分な強度を有することが求められ、かつ防錆のために表面に溶融亜鉛めっき等が施される用途に供して好適な、引張強度が 590 MPa以上で、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨構造の建築物、橋梁および送電鉄塔等においては、鋼材の高温強度に応じて耐火被覆を簡略化あるいは省略することができる。例えば、鋼材が 600℃において、常温における規格降伏強度の2/3 以上の高温耐力を有する場合には、裸使用が可能となる。従って、かような鋼材を用いれば、被覆材の施工工数の削減、有効空間の拡大といった多大の効果を得ることができる。
【0003】
このような、耐火性能を付与した鋼材としては、Vを 0.005〜0.2 %あるいはMoを 0.005〜0.6 %含有し、炭素当量(Ceq=C+Mn/6+Si/24 +Ni/40 +Cr/5+V/14 )を0.35〜0.50%の範囲に調整した建築構造用鋼材が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
但し、耐火被覆を省略した場合には、耐食性の観点から鋼材に溶融亜鉛めっき等のめっき処理を施す必要がある。この時、特に引張強度が 590 MPaを超える高張力鋼においては、溶接組立を経た後に溶融亜鉛浴中で亜鉛めっきを施すと、溶接組立時に発生した残留応力、高温の溶融亜鉛浴浸漬で生じる熱応力および溶接熱影響部への溶融亜鉛の侵入の重畳により、めっき割れと呼ばれる粒界割れが多発する傾向にある。
特に溶融亜鉛の侵入は、溶接熱影響部のうち、1200℃を超えるような高温にさらされて粗大化したオーステナイト粒からベイナイトあるいはマルテンサイト変態して生成したミクロ組織の旧オーステナイト粒界に選択的に生じ、粒界を脆化させることが近年の研究で明らかにされた。
【0005】
しかしながら、このような溶接熱影響部のベイナイト化あるいはマルテンサイト化を抑制することは、耐火性能の観点からVないしMoを添加した前記特許文献1のような高強度鋼設計では、極めて難しい。
【0006】
そこで、溶接熱影響部がベイナイト化あるいはマルテンサイト化しても、旧オーステナイト粒界への溶融亜鉛の侵入を抑制するために、 0.012〜0.030 %のZrを添加する方法が提案された(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、Zrは非常に高価な合金元素であるだけでなく、多量に添加すると鋼中で粗大な非金属介在物が生成し、清浄度の低下と靱性の劣化を招くという問題がある。
【0007】
【特許文献1】
特開平2−163341号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭60−181254号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、母材靱性の劣化等の問題を生じることなしに、従来技術では両立が難しいとされた耐火性能と溶接熱影響部における耐亜鉛めっき割れ性との両者を兼備させた、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
さて、発明者らは、耐火性能の確保に必要なMo量と母材引張強度≧590 MPa を達成するのに必要なMn, Cu, Ni, Crといった合金元素が添加されていても、溶接熱影響部においてベイナイト変態あるいはマルテンサイト変態が生じる前に旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトを多量に生成させて、溶融亜鉛の侵入経路を極力分断してやれば、溶融亜鉛めっき割れを抑制できるのではないかと考えた。
そこで、Alのもつ、1200℃以上の温度域でオーステナイト相とフェライト相が平衡状態で存在させ、一方の相が他方の相の粒成長を抑制する結果、旧オーステナイト粒径を著しく細粒化でき、しかもフェライト化傾向が強いという特性に着目して、鋭意研究を重ねた。
【0010】
すなわち、C, Mn,Mo,Cu,Ni,Cr等を種々変化させた鋼の熱サイクル実験結果を重回帰して、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト生成抑制効果を解析し、得られたポリゴナル・フェライト生成抑制効果を上回る量のAl添加を行ったところ、1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト組織の分率を75%以上とすることができ、その結果、溶融亜鉛の侵入経路である旧オーステナイト粒界をほぼ消滅させ得ることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0012】
2.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0013】
3.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0014】
4.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0015】
5.質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕
+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。
【0016】
6.上記1〜5のいずれかに記載の成分組成になる鋼材を、1000〜1250℃の温度に加熱保持後、圧延終了温度≧700 ℃の条件で熱間圧延を行い、熱延終了後、鋼板温度が 650℃以上の温度から冷却を開始し、平均冷却速度:5〜30℃/sの速度で 500℃以下まで加速冷却を行うことを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明において鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.04〜0.20%
Cは、鋼の強度を増加させるのに有効な元素である。本発明では、後述するAlの添加によって母材のミクロ組織がフェライト主体となるため、第2相を強化して引張強度≧590 MPa を達成するために、0.04%以上のCを含有させる必要がある。しかしながら、0.20%を超えて多量に添加すると、Alの添加効果を上回って溶接熱影響部のベイナイト化あるいはマルテンサイト化が著しくなり、亜鉛めっき割れを助長するだけでなく、母材靱性にも悪影響を及ぼすので、上限は0.20%とした。なお、溶接性も考慮した好適範囲は0.04〜0.12%である。
【0018】
Si:0.01〜1.0 %
Siは、脱酸剤として作用するだけでなく、固溶強化によって鋼の強度をミクロ組織によらなくても増加させることができる有用元素である。ここに、十分な脱酸効果を得るためには少なくとも0.01%の添加を必要とするが、1.0 %を超えて添加すると、母材靱性に悪影響を及ぼすので、Si量は0.01〜1.0 %の範囲に限定した。
【0019】
Mn:0.5 〜3.0 %
Mnは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.5 %以上添加すると、本発明において母材の第2相をベイナイトあるいはマルテンサイト化して、強度の上昇に寄与する。一方、3.0 %を超えて添加すると、溶接熱影響部のベイナイト化を著しく促進し、亜鉛めっき割れの発生を助長するため、上限は 3.0%とした。なお、母材の強度・靱性の観点からは 1.0〜1.8 %の範囲が好適である。
【0020】
Mo:0.3 〜1.5 %
Moは、鋼が高温に曝されたとき鋼中に Mo2Cを微細に析出し、析出物分散強化によって高温強度を高める有用元素である。本発明で所期した 600℃における耐火性能を満足するためには、少なくとも 0.3%の添加が必要である。また、Moは鋼の焼入性を向上させる元素でもあり、Mnと同じく母材の第2相のベイナイト化、マルテンサイト化に寄与するが、溶接熱影響部のベイナイト化、マルテンサイト化も同じように促進し、添加量が 1.5%を超えると亜鉛めっき割れを著しく助長するようになるため、上限は 1.5%とした。
【0021】
Al:(2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1)%以上、1.6 %以下
Alは、多量に添加すると、1200℃以上の温度域において、オーステナイト単相からオーステナイト相とフェライト相の2相化を促進する。溶接熱影響部を考慮した場合、このような高温域でオーステナイト単相であると粒が著しく粗大化してしまうが、2相状態になるとオーステナイト粒とフェライト粒が互いに相手の成長を抑制する結果、細粒組織を得ることができる。またAlは、フェライト化促進元素でもあり、この細粒化効果とフェライト化促進効果が、C,Mn,Mo,Cu,Ni,Crといった焼入性向上元素添加による溶接熱影響部におけるフェライト生成抑制効果とベイナイト、マルテンサイト変態促進効果を上回ることによって、特に旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが生成して溶融亜鉛めっき浴浸漬時に亜鉛の鋼中への侵入経路を遮断して、溶接熱影響部における亜鉛めっき割れの発生を抑制することができる。
この効果を得るためには、Alの添加量は、CやMn,Moの含有量、さらには母材強度上昇の目的で添加されるCu,Ni,Cr量を勘案した実験重回帰式により、次式(1) または(1)’に制御することが重要である。
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
なお、Al量が 1.6%を超えると、溶接時に問題が生じるため、いずれの場合もAlの上限を 1.6%とした。
【0022】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
すなわち、母材の強度上昇を目的として、Cu,Ni,Cr等を添加することができる。
Cu:0.1 〜3.0 %
Cuは、鋼の焼入性を向上させる他、析出物分散強化によって鋼の強度を増加させる効果がある。これらの効果を得るためには、少なくとも 0.1%の添加が必要であるが、3.0 %を超えて添加すると、熱間圧延におけるスラブ加熱時に表面に濃化し、加工性の低下を助長するだけでなく、表面傷の原因ともなるため、Cuは0.1 〜3.0 %の範囲に限定した。
【0023】
Ni:0.1 〜3.0 %
Niは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.1 %以上でその効果が得られるが、3.0 %を超えて添加すると、溶接熱影響部のベイナイト化が著しくなり、亜鉛めっき割れを助長するため、Niは 0.1〜3.0 %の範囲に限定した。
【0024】
Cr:0.1 〜1.0 %
Crは、鋼の焼入性を向上させる元素であり、0.1 %以上でその効果が得られるが、1.0 %を超えて添加すると、炭化物形成による母材靱性への悪影響が著しいので、Crは 0.1〜1.0 %の範囲に限定した。
【0025】
また、高温強度の向上を目的としてNb,V,Ti等を添加することができる。
Nb:0.005 〜0.1 %
Nbは、鋼中で炭窒化物を形成し、それらの析出物が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005 %以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加すると、著しく母材靱性を劣化させるため、Nbは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。なお、母材製造において、いわゆる制御圧延によるミクロ組織微細化を行う場合、オーステナイト未再結晶領域を高温側に拡大する効果もあり、この効果も考慮すると 0.010〜0.06%の範囲とすることが望ましい。
【0026】
V:0.005 〜0.1 %
Vは、鋼中で形成する炭化物が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005 %以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加しても、析出物の粗大化が起こるのみで、分散量は飽和し、それに伴い高温強度の上昇も頭打ちとなるため、Vは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。
【0027】
Ti:0.005 〜0.1 %
Tiは、鋼中で炭化物あるいは窒化物を形成するが、特に炭化物の方が析出物分散強化として鋼の高温強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005%以上の添加が必要であるが、0.1 %を超えて添加するとNbと同じく母材靱性を著しく劣化させるので、Tiは 0.005〜0.1 %の範囲に限定した。なお、Ti窒化物は、高温域まで地鉄に固溶することはないので、ピンニング効果により、溶接熱影響部のオーステナイトの粗大化を抑止する働きもある。この、窒化物の機能も利用する場合の好適範囲は 0.010〜0.020 %である。
【0028】
さらに、溶接熱影響部の耐亜鉛めっき割れ性向上を目的として、Ca, REM, Zr等を添加することができる。
Ca:0.0005〜0.0030%
Caは、硫化物形成能が強いため、鋼中に不可避的に存在するSと結びついてCaSを形成し、このCaSが溶接熱影響部において、フェライト変態を助長する働きがあるため、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト分率の増加を通じて亜鉛めっき割れ発生を抑制する効果がある。十分な量のCaSを鋼中に存在させるためには、0.0005%以上のCa添加が必要であるが、0.0030%を超えて添加すると、CaSが粗大化して母材の清浄度の低下と靱性の劣化を招くため、上限は0.0030%とした。
【0029】
REM :0.001 〜0.010 %
REM は、添加することで鋼中に REM(O, S)を形成し、Caと同じく溶接熱影響部においてフェライト変態を助長する働きを有する。この効果を得るためには、少なくとも 0.001%の添加が必要であるが、0.010 %を超えて添加しても、溶接熱影響部のポリゴナル・フェライト分率の増加効果は飽和するため、REM は 0.001〜0.010 %の範囲に限定した。
【0030】
Zr:0.001 〜0.030 %
Zrは、旧オーステナイト粒界に偏析し、溶融亜鉛の旧オーステナイト粒界への侵入を抑制する効果があるため、溶接熱影響部に一部残る旧オーステナイト粒界での亜鉛めっき割れを抑止できるという効果がある。この効果を得るためには、0.001 %以上の添加が必要であるが、0.030 %を超えて添加すると粗大な介在物が多数生成し、鋼の清浄度の低下と靱性の劣化を招くため、Zrは 0.001〜0.030%の範囲に限定した。
【0031】
次に、溶接部のミクロ組織を限定した理由について説明する。
溶接部における溶融亜鉛めっき割れは、溶接熱を受けてオーステナイトに再変態し、その後の冷却過程でベイナイトないしマルテンサイト変態が起こると、図1に示すように、それらのミクロ組織に残っている旧オーステナイト粒界に溶融亜鉛が浸透する結果生じるものである。
本発明の最適Al添加技術により、これら旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが変態生成し、その量が多いほど旧オーステナイト粒界は少なくなり、ポリゴナル・フェライトの分率が75%を超えると(図2参照のこと)、ほとんど旧オーステナイト粒界が埋め尽くされ、溶接部における溶融亜鉛めっき割れは発生しなくなる。
【0032】
従って、本発明では、1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織におけるポリゴナル・フェライトの分率を、75%以上に限定したのである。
ここに、評価すべき温度を1200℃以上としたのは、およそ1200℃以上の加熱領域でオーステナイトの粗大化が著しくなり、上記旧オーステナイト粒界が残るようなベイナイトまたはマルテンサイトになり易いのに対し、1200℃未満ではオーステナイト粒成長もあまり起こらず、冷却過程で粒界からのポリゴナル・フェライト変態が起こるため、問題ないと考えられるためである。
【0033】
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
鋼の溶製は、転炉、電気炉等通常公知の溶製方法がいずれも適用でき、特に限定されることはない。また、溶製により成分調整された溶鋼は、連続鋳造法あるいは造魂法により圧延素材とされる。
ついで、熱間圧延により、10〜100 mm厚程度の厚鋼板に成形する。
この熱間圧延に際し、圧延条件は下記の範囲を満足する必要がある。
【0034】
加熱温度:1000〜1250℃
圧延素材を均一にオーステナイト化し、かつ添加したMo,Nb,V,Tiの炭化物を一度鋼中に固溶させるためには、加熱温度を1000℃以上とする必要があるが、1250℃を超えて加熱すると、異常に粗大なオーステナイト粒が生成し、母材鋼板の靱性が著しく劣化するため、加熱温度は1000〜1250℃の範囲に限定した。
【0035】
圧延終了温度≧700 ℃
熱間圧延は、通常範囲の圧下量で行うことができ、また母材鋼板の靱性を向上させるために、制御圧延を施してもかまわない。しかしながら、圧延終了温度が700 ℃を下回ると、固溶させたMo,Nb,V,Ti等の炭化物が圧延によって加工誘起析出してしまい、その後の冷却過程で粗大化してしまう。これにより、火災発生時に鋼板の温度が上昇した場合、強度低下を防ぐための析出物分散強化量が不足するようになるため、圧延終了温度は 700℃以上に限定した。
【0036】
冷却開始温度≧650 ℃
熱間圧延後は、加速冷却を施す必要がある。この理由は、上述したように、スラブ加熱で固溶化させたMo,Nb,V,Tiの大部分を固溶状態ままにしておくことができれば、鋼板の使用時に火災等で温度が上昇した時に、微細に炭化物の析出が起こり、これらの析出物分散強化により高温強度を確保することができるからである。すなわち、熱間圧延後、空冷程度の冷却速度では上記炭化物の析出が起こり易い 550〜650 ℃の温度域を、より速い冷却速度で冷却してやれば、析出せず固溶状態に保持される。この観点から、冷却開始温度は 650℃以上とした。
【0037】
冷却速度:5〜30℃/s
加速冷却における冷却速度が5℃/sに満たないと、一部Mo,Nb,V,Tiの析出が生じてしまい、耐火強度が低下するおそれがあるため、冷却速度は5℃/s以上とする必要がある。一方、冷却速度が30℃/sを超えると、鋼板のミクロ組織、特に表面近傍のミクロ組織が一部マルテンサイトとなる。この場合、マルテンサイトの界面には旧オーステナイト粒界が残ってしまうので、溶融亜鉛めっき処理の際、鋼板母材部で溶融亜鉛めっき割れを生じる危険が生じる。そこで、本発明では、冷却速度については5〜30℃/sの範囲に制限したのである。
【0038】
加速冷却停止温度≦500 ℃
500 ℃より高い温度で加速冷却を止めてしまうと、その後の空冷過程で一部Mo,Nb,V,Tiの析出が生じてしまい、耐火強度が低下するおそれがあるため、加速冷却は 500℃以下まで行うものとした。
【0039】
【実施例】
表1に示す成分組成に調整した鋼材(100 kg)をそれぞれ、表2に示す条件で熱間圧延ついで加速冷却し、板厚:20mmの厚鋼板とした。
得られた鋼板の引張特性、靱性、耐火特性、溶接部のポリゴナル・フェライト分率および耐溶融亜鉛めっき割れ性について調査した結果を表3に示す。
【0040】
なお、各試験条件は次のとおりである。
(1) 鋼板(常温)引張試験
鋼板の引張特性は、圧延長手方向に平行に採取したJIS Z 2201に規定されている4号引張試験片を用いて、JIS Z 2241に規定されている方法で引張試験を行い、0.2 %耐力および引張強度を測定して評価した。
【0041】
(2) 鋼板靱性試験
鋼板の靱性は、圧延長手方向と直交する方向に採取したJIS Z 2202に規定されている4号シャルピ−試験片を用いて、JIS Z 2242に規定されている方法でシャルピー衝撃試験を行い、−20℃におけるシャルピー吸収エネルギ−を測定して評価した。
【0042】
(3) 耐火試験
鋼板の耐火特性は、常温での引張特性評価と同様、JIS Z 2201に規定されている4号引張試験片を採取した後、試験片平行部に赤外線イメージ炉を装着し、試験片平行部を 600℃に加熱保持したままで引張荷重を与えて得られた荷重変位曲線から 0.2%耐力を計算して評価した。
【0043】
(4) 溶接部のミクロ組織評価
鋼板の溶接部におけるポリゴナル・フェライト分率の測定は、溶接熱サイクルを模擬した再現熱サイクル試験片のミクロ組織を用いて行った。すなわち、鋼板から採取した小型試験片に、再現熱サイクル試験機で最高加熱温度1200℃および1400℃の急速加熱を与え、その後被覆アーク溶接法による隅肉溶接を行った時の溶接熱影響部の冷却を模擬した 800〜500 ℃の温度域の冷却時間を15秒とした冷却パターンで冷却を行った。ついで、熱サイクル付与後の試料から顕微鏡観察サンプルを採取し、鏡面研磨を施した後、3%硝酸アルコール液でエッチングを行ってから、光学顕微鏡にて倍率500 倍で無作為に5視野ミクロ組織写真を撮影した。そして、写真のポリゴナル・フェライトの分率を画像解析装置にて測定した。
【0044】
(5) 溶接部の亜鉛めっき割れ試験
鋼板の溶接部における耐溶融亜鉛めっき割れ性の評価は、残った鋼板を片面減厚で15mmにした鋼板を用いて、図3に示すような十字拘束溶接継ぎ手を作製し、この溶接継ぎ手を 450℃の溶融亜鉛浴中に10分間浸漬した。亜鉛めっき処理後、継ぎ手を試験ビード1−1、1−2についてそれぞれ5箇所切断し、断面を研磨後、×10の投影機拡大観察により割れの有無を調査した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、590 MPa を超える高い引張強度と、150 J以上の良好な−20℃シャルピー吸収エネルギ−を有している。また、600℃での 0.2%耐力は常温の値の2/3 以上であった。また、再現熱サイクル試験による1200℃および1400℃加熱後の溶接熱影響部を模擬したミクロ組織はいずれも、ポリゴナル・フェライトの分率が75%を超えており、この結果、十字拘束溶接継ぎ手を用いた溶接部の亜鉛めっき割れ試験においても、割れ発生は全く認められなかった。
これに対し、本発明の要件を満たしていない比較例はいずれも、600 ℃における 0.2%耐力が不十分であったり、溶接部に亜鉛めっき割れの発生を余儀なくされた。
【0049】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、母材の強度・靱性に優れた高強度溶接構造用鋼に、優れた溶接部の耐亜鉛めっき割れ性と 600℃における耐火性能の両者を併せて付与することができ、産業上多大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】旧オーステナイト粒界に溶融亜鉛が浸透した状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】旧オーステナイト粒界からポリゴナル・フェライトが生成した状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】溶接部の亜鉛めっき割れ試験に用いた、十字拘束溶接継ぎ手の正面図(a) および側面図(b) である。
Claims (6)
- 質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。 - 質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。 - 質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。 - 質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕−1≦Al≦1.6 %−−− (1)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。 - 質量%で
C:0.04〜0.20%、
Si:0.01〜1.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %および
Mo:0.3 〜1.5 %
を含み、かつ
Cu:0.1 〜3.0 %、
Ni:0.1 〜3.0 %および
Cr:0.1 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Nb:0.005 〜0.1 %、
V:0.005 〜0.1 %および
Ti:0.005 〜0.1 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ
Ca:0.0005〜0.0030%、
REM:0.001 〜0.010 %および
Zr:0.001 〜0.030 %
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにAlを、次式(1)’
2.27×〔%C〕+0.75×〔%Mn〕+0.23×〔%Mo〕+0.05×〔%Cu〕+0.45×〔%Ni〕+0.12×〔%Cr〕−1≦Al≦1.6 % −−− (1)’
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、溶接に際し1200℃以上に加熱された溶接熱影響部のミクロ組織においてポリゴナル・フェライトの分率が75%以上となることを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成になる鋼材を、1000〜1250℃の温度に加熱保持後、圧延終了温度≧700 ℃の条件で熱間圧延を行い、熱延終了後、鋼板温度が 650℃以上の温度から冷却を開始し、平均冷却速度:5〜30℃/sの速度で 500℃以下まで加速冷却を行うことを特徴とする、溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼の製造方法。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002380761A JP2004211141A (ja) | 2002-12-27 | 2002-12-27 | 溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼およびその製造方法 |
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JP2002380761A Pending JP2004211141A (ja) | 2002-12-27 | 2002-12-27 | 溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れた高強度耐火鋼およびその製造方法 |
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JP (1) | JP2004211141A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN100453683C (zh) * | 2006-02-24 | 2009-01-21 | 南阳二机石油装备(集团)有限公司 | 一种低温高强度、高韧性钢及其制造方法 |
CN110952037A (zh) * | 2019-11-18 | 2020-04-03 | 阳春新钢铁有限责任公司 | 一种400MPa热轧耐火钢筋及其制造方法 |
WO2024063113A1 (ja) * | 2022-09-22 | 2024-03-28 | 株式会社神戸製鋼所 | 鋼製下地材 |
-
2002
- 2002-12-27 JP JP2002380761A patent/JP2004211141A/ja active Pending
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