JP2004211136A - 密着性に優れた硬質皮膜およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】立方晶窒化硼素膜を最表面層として有する硬質皮膜であって、該立方晶窒化硼素膜は、BおよびNを含有する層から核発生した状態で積層されており、前記BおよびNを含有する層は少なくとも核発生部においてBに対するNの比率がモル比で0.8〜1であり、且つ周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素をモル比で0.02〜0.1含有するものである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削工具、摺動部材、金型等の部材の表面に被覆される硬質皮膜およびその製造方法に関するものであり、詳細には、立方晶窒化硼素膜を最表面層とする硬質皮膜であって、硬合金や高速度工具鋼などの基材表面に密着性良く形成することができる硬質皮膜、およびこうした硬質皮膜を製造するための有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
立方晶窒化硼素膜(以下、「cBN膜」と略記することがある)は、高硬度で耐熱性にも優れていることから、切削工具や高温環境下で使用される摺動部材、金型等への適用が検討されている。
【0003】
しかしながら、cBN膜は膜応力が大きく、切削工具等の素材として汎用されている超硬合金(WC基超硬合金)や高速度鋼に対する密着性が悪いという問題がある。例えばこれらの素材表面にcBN膜を被覆して切削工具に適用した場合には、工具使用中に早期に皮膜剥離が発生するという事態が生じる。こうしたことから、超硬合金や高速度鋼に対する密着性を向上させるという観点から、様々な技術が提案されている。
【0004】
cBN膜の膜応力を緩和するという観点から、周期律表第4A,5A,6A族の遷移金属、AlおよびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素をcBN皮膜中に含有させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この技術においては、cBN膜の膜応力が十分に低減されるとは言えず、密着性は依然として不十分である。
【0006】
一方、BおよびN含有量が傾斜的に変化する中間層を基材表面に形成すると共に、この中間層中にCを含有させることによって、中間層中にB−C、C−N結合を析出させ、その後B4Cターゲットを使用してスパッタリング法によってcBN系皮膜を中間層上に形成する技術も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
この技術では、中間層の高硬度化を図ることによって基材との密着性を高めるものである。しかしながら、B−C結合やC−N結合を形成するだけでは、中間層の硬度上昇は不十分であり、またC−N結合は高温で不安定であるので、使用時の温度上昇によって分解してしまい、期待するほどの効果が達成されないという問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開平2002−167205号公報、特許請求の範囲
【非特許文献1】
「Surf.Coat Technol」,K.Yamamoto等,142−144,(2001)881
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、基材表面へ密着性良く形成することのできる硬質皮膜、およびこうした硬質皮膜を製造するための有用な方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成することのできた本発明の硬質皮膜とは、立方晶窒化硼素膜を最表面層として有する硬質皮膜であって、該立方晶窒化硼素膜は、BおよびNを含有する層から核発生した状態で積層されており、前記BおよびNを含有する層は少なくとも核発生部においてBに対するNの比率がモル比で0.8〜1であり、且つ周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素をモル比で0.02〜0.1含有するものである点に要旨を有するものである。
【0011】
本発明の硬質皮膜おいては、(a)前記BおよびNを含有する層中には、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素と、Bおよび/またはNとの結合が含まれたものであることや、(b)少なくとも核発生部においてCをモル比で0.2以下含有するものである等の要件を満足することが好ましい。
【0012】
本発明の硬質皮膜は、上記構成の膜構成を基材表面に直接形成することによって、その効果が発揮されるものであるが、必要によって基材側にBおよびCを含む膜を形成し、この膜上に硬質皮膜を形成しても良い。
【0013】
一方、上記のように硬質皮膜を製造するに当たっては、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に少なくとも1つずつ配置して、スパッタリング法を適用し、基材表面に硬質皮膜を形成するようにすればよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
これまで提案されている密着性改善技術では、BおよびNを含有する傾斜組成中間層中にCを含有させることによって、該中間層中にB−C、C−N結合を析出させ、中間層の高硬度化によって密着性の向上を図るものがあるが、こうした技術では十分な密着性が達成されているとはいえない。
【0015】
本発明者らは、こうした従来技術における問題を解決するという観点から検討を重ねた。その結果、少なくともcBNを核発生させるB/N含有部分(以下、「核発生部」と呼ぶ)に、BおよびNと安定で高硬度の結合を形成する金属元素を含有させることによって、BおよびNの含有部分の硬度をより一層増加させ、密着性が大幅に改善されることを見出し、本発明を完成した。尚、「核発生部」とは、cBN(立方晶)構造を有する結晶がhBN(六方晶)構造を有する層中より析出した部分を示し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察や赤外分光等によって観察、同定が可能となっている部分を意味し、本発明の硬質皮膜ではこうした核発生部からcBN膜が成長した状態で積層されているものである。
【0016】
また、上記金属元素としては、周期律表第4A、5A、6A族元素(Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,MoおよびW)およびSiが挙げられ、これらの1種または2種以上を含有させることでその効果が発揮されるが、その含有量はモル比で0.1以下とする必要がある。詳細な原因は不明であるが、金属元素の含有量がモル比で0.1を越えると、cBNの核発生が阻害されるためであり、好ましくモル比で0.07以下とするのがよい。これらの金属元素のうち、BやNとより高硬度の結合を形成するという観点からして、好ましいのはTi,Zr,Nb,Ta,Cr,Mo,WおよびSiである。
【0017】
尚、上記趣旨から明らかなように、前記BおよびNを含有する層中には、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素と、Bおよび/またはNとの結合が含まれたものとなる。
【0018】
一方、金属元素の含有量がモル比で0.02未満になると、金属元素を含有させる効果が低くなって、硬度上昇が図れなくなる。金属元素含有量のより好ましい下限は、モル比で0.04である。
【0019】
cBN相を析出させるためには、cBN膜中のBとNの比率も適切な範囲に制御する必要があり、少なくとも核発生部においてBに対するNの比率がモル比で0.8〜1とする必要がある。cBNを核発生した後は、金属元素が存在しなくてもcBN相の硬度によって層(表面層)の硬度上昇が実現できるので、基本的には金属元素の含有は不要になるのであるが、使用目的によって核発生部以外にも金属元素の含有は有用である。
【0020】
前記BおよびNを含有する層中には、少なくとも核発生部においてCをモル比でCをモル比で0.2以下含有することも有用である。これによって、同時に含有する金属元素との間に金属−C結合を析出させ、より一層の高硬度化が図れることになる。また、金属元素が含有されていると、CはB−CあるいはC−N結合に比較して金属−C結合が形成されやすいので、不安定なC−N結合の析出が抑制されるという効果も発揮される。但し、Cの含有量がモル比で0.2を超えるとC−N結合が析出し易いので、0.2以下とすることが好ましい。より好ましくは、金属元素の含有量と同程度とするのがよく、モル比で0.1以下である。
【0021】
本発明の硬質皮膜は、上記構成の膜構成を基材表面に直接形成することによって、その効果が発揮されるものであるが、必要によって基材側にBおよびCを含む膜を形成し、この膜上に本発明の硬質皮膜を形成するようにしても良い。このとき用いるBおよびCを含む膜としては、代表的にはB4C膜が挙げられるが、この膜と最表面層としてのcBN膜との密着性を向上させるという観点からして、前記BおよびNを含有する層にCを含有させると共に、この層の組成がB4C膜からcBN膜になるにつれて両層の組成に近づくような傾斜組成層とすることも有用である。
【0022】
また、上記B4C膜を形成する場合には、この皮膜との密着性が悪い基材(例えば、超硬合金や高速度鋼)を用いるときには、基材とB4C膜との間に、(1)周期律表第4A、5A、6A族元素等の金属層を基材上に形成し、この金属層上に、(2)金属層からB4C膜になるにつれて、BおよびCの含有量が連続的または段階的に変化する(B4C膜の組成に近づく)ような傾斜組成層、を積層して介在させることによって、基材とB4C膜の密着性向上を図ることができる。
【0023】
本発明の硬質皮膜の構造を実現するに当たっては、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に少なくとも1つずつ配置して、スパッタリング法を適用し、基材表面に硬質皮膜を形成するようにすればよい。こうした構成を採用することによって、真空を破ることなく、様々な皮膜構造の成膜が可能であり、より密着性に優れた硬質皮膜が実現できる。
【0024】
本発明の硬質皮膜におけるBおよびNを含有する層の厚さは、0.05〜2μmの範囲が好ましい。この層の厚さが0.05μm未満では、密着性向上効果が低く、2μmを超えても密着性向上効果が飽和する。この層のより好ましい厚さは、0.1〜0.5μm程度である。また最表面層の厚さは、0.2〜5μmの範囲が適当である。
【0025】
尚、本発明に係る硬質皮膜は、周期律表4A、5A、6A族の元素、およびAl,Siよりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOの1種以上より選択される化合物からなる層上(即ち、化合物層を下地層として)に形成することも有用であり、これによって耐摩耗性の更なる向上が図れ、切削工具等の耐摩耗性用途に好適となる。また、本発明で用いる基材としては、上記超硬合金や高速度鋼に限らず、例えばサーメットやセラミックス等も適用でき、こうした素材に対しても本発明の硬質皮膜は密着性良く形成することができるものである。
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例に限定されるものでなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲に適当に変更を加えて実施することも可能であり、これらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0027】
【実施例】
図1は、スパッタリング成膜装置の概要を模式的に示した平面図である。この成膜装置では、2つのスパッタリング用電源を有し、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の金属ターゲット1と、炭化ホウ素(B4C)またはBからなるターゲット2を設置し、真空容器内にスパッタガスを導入して、テーブル上の基材(被処理物)に成膜を行なうものである。
【0028】
図1に示した成膜装置を用いて各種の硬質皮膜(第1層/最表面層または第1層/中間層/最表面層の積層皮膜)を基材上に形成した。このとき、成膜用の基材には鏡面研磨した超硬合金基材を用いた。B−N含有層への金属元素の含有は、B含有ターゲット2を放電させると共に、金属ターゲット1を放電させることによって行った。またスパッタガスとしては、窒素を添加するときには、Ar−N2の混合ガスを、Cを添加する必要のあるときにはAr−N2−CH4の混合ガスを使用し、全圧を0.6Paで制御した。各々のターゲット1、2に入力した電力は最大で1.5kWとし、cBN核発生時の基板のバイアスは−200Vであり、それ以外の部分は−100〜−150Vで成膜した。基材温度は200〜400℃の間で制御した。膜厚は、第1層で0.5μm程度、中間層層で0.2μm、最表面層で1μmとした。
【0029】
下記表1に示す各サンプルを作製し、密着性をスクラッチ試験にて評価した。このときのスクラッチ試験条件は下記の通りである。またXPS(X線光電子分析法)にて、核発生点の金属組成、層中の金属元素の結合状態等を検出した。また各層における硬度を、ナノインデーテーション法によって測定した。このときの測定には、圧子として三角錐圧子(ベルコビッチ型)を使用し、荷重0.98mNで測定した。これらの結果を、下記表1に一括して示す。
【0030】
(スクラッチ試験条件)
圧子 :ダイヤモンド(先端径:200μmR)
荷重増加速度:100N/分
ひっかき速度:10mm/分
荷重範囲 :0〜100N
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した各積層皮膜の構造をSIMS(二次イオン質量分析法)にて検出し、深さ方向の組成分布を検出した。その結果を、模式的に図2〜10に夫々示す。尚、図2〜10にて「深さ」とは、基材表面から0.2μmに位置を基準(深さ:0μm)とした表面層側への距離を示す。
【0033】
これらの結果から、次のように考察できる。まず、No.3〜5、8のものは、本発明で規定する要件を満足する実施例のものであり、スクラッチ試験においていずれも優れた密着性が達成されていることが分かる。
【0034】
これに対して、No.1、2、6、7、9のものでは、本発明で規定する要件のいずれかを欠くものであり、密着性が劣化していることが分かる。
【0035】
尚、前記図1に示した装置構成では、金属ターゲット1と炭化ホウ素(B4C)ターゲット2を夫々一つずつ配置したものであるが、本発明で適用する装置はこうした構成に限らず、各ターゲット1、2を同一真空容器内に夫々複数個配置することもでき、こうした装置を使用して成膜することによって、より緻密な積層膜構造を実現することができる。
【0036】
また、上記装置構成によって本発明を実施するにあたり、テーブルを回転させつつ(即ち、基材を回転させつつ)成膜を行うことも、本発明の構成の皮膜を形成する上で有効である。本発明では、異なる蒸発源(ターゲット1、2)を同時に放電させながら皮膜形成を行うものである。そして、基材を回転させることによって、基材が金属ターゲット1の正面を通過するときは薄い金属層が、BおよびCを含有するターゲット2の正面を通過するときにはB、C含有膜が形成され、見かけ上多層膜となるのであるが、一般にスパッタリングなどのPVD法による蒸着粒子はエネルギーを有していることから、上記金属層とB、N含有層間にて界面ミキシングが生じ、深さ方向にほぼ均一な膜となる。但し、界面のミキシング効果にはエネルギーに応じた限界があることから、蒸発減前を通過するときに形成される皮膜の膜厚を正確にコントロールする必要がある。この膜厚は、使用するプロセス、基材に印加する電圧(入射粒子のエネルギーを決定する)にも依存するが、概ね10nm以下となるように制御することが好ましい。より好ましくは、5nm以下に制御するのが良い。
【0037】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、超硬合金や高速度鋼等の基材へ密着性良く形成することのできる硬質皮膜が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いたスパッタリング成膜装置の概要を模式的に示した平面図である。
【図2】表1のNo.1の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図3】表1のNo.2の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図4】表1のNo.3の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図5】表1のNo.4の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図6】表1のNo.5の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図7】表1のNo.6の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図8】表1のNo.7の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図9】表1のNo.8の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図10】表1のNo.9の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
Claims (5)
- 立方晶窒化硼素膜を最表面層として有する硬質皮膜であって、該立方晶窒化硼素膜は、BおよびNを含有する層から核発生した状態で積層されており、前記BおよびNを含有する層は少なくとも核発生部においてBに対するNの比率がモル比で0.8〜1であり、且つ周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素をモル比で0.02〜0.1含有するものであることを特徴とする密着性に優れた硬質皮膜。
- 前記BおよびNを含有する層中には、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の元素と、Bおよび/またはNとの結合が含まれたものである請求項1に記載の硬質皮膜。
- 少なくとも核発生部においてCをモル比で0.2以下含有するものである請求項1または2に記載の硬質皮膜。
- 基材側にBおよびCを含む膜が形成され、この膜上に形成されるものである請求項1〜3のいずれかに記載の硬質皮膜。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜を製造するに当たり、周期律表第4A、5A、6A族元素およびSiよりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に少なくとも1つずつ配置して、スパッタリング法を適用し、基材表面に硬質皮膜を形成することを特徴とする密着性に優れた積層型硬質皮膜の製造方法。
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