JP2004208631A - 両軸受リールの制動装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】両軸受リールのスプール制動機構は、スプール制動ユニットと、回転速度センサと、スプール制御ユニットとを備えている。スプール制動ユニットは、スプールとリール本体とに設けられ、スプールを制動する電気的に制御可能なものである。回転速度センサは、キャスティング時のスプールの回転速度を検出する。スプール制御ユニットは、第1制動パターンと、第1制動パターンより制動力が小さい第2制動パターンとを設定し、スプール回転速度が所定値以上の場合に第1制動パターンで、スプール回転速度が所定値未満の場合は、第2制動パターンでスプールを制動するようにスプール制動手段を電気的に制御する。
【選択図】 図8
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動装置、とくに、リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する両軸受リールの制動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
両軸受リール、特に、釣り糸の先端にルアー等の仕掛けを装着してキャスティングするベイトキャスティングリールには、キャスティング時のバックラッシュを防止するためにスプールを制動する制動装置が設けられている。この種の制動装置では従来、遠心力や磁力を利用している機械式のものが多い。しかし、機械式のスプール制動装置では、回転速度に比例又は二乗に比例した制動力しか発生しなかったので、本来制動が不要なタイミングでも制動力が発生してしまい、飛距離の減少を招くおそれがある。
【0003】
そこで、スプールとリール本体との間に発電機構を設け、それを電気的に制御してキャスティング途中の制動力を調整可能な電気制御式の制動装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
従来の制動装置は、スプールに設けられた磁石と、リール本体に設けられたコイルと、スプール回転速度を検出する回転速度検出装置と、コイルに流れる電流を制御する制御装置とを備えている。
【0004】
従来の制動装置では、速度のピークを検出し、ピークを過ぎた時点で制動力を徐々に大きくしている。釣り糸の張力は、スプールの回転速度が最大の時点付近から徐々に小さくなりバックラッシュが生じやすくなる。このため、前記従来の制動装置では、回転速度のピーク検出後にスプールを徐々に強く制動して釣り糸に張力を作用させてバックラッシュを防止している。
【0005】
また、釣り人の技量又は釣法に応じて制動力を手動調整するための手動調整機構を備えている。手動調整機構は、リール本体の外部に露出するダイアルによりコイルをスプール軸方向に移動させて磁石との距離を変化させて制動力を調整している。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−332436号公報参照)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来のスプール制動装置では、ダイアル操作によりコイルと磁石との距離を変化させて制動力を調整している。したがって、たとえば同じ仕掛けを使用してキャスティング時のスプールの回転速度が異なるキャスティング(たとえばオーバヘッドキャストなどの遠投とピッチングなどの近投)を行う場合、異なるキャスティングを行う都度、ダイアルを操作して制動力を変更しなければならない。このため、異なるキャスティングを行う場合の制動力の調整操作が煩わしく、制動力の調整操作にかかる釣り人の負担が重くなるおそれがある。
【0008】
本発明の課題は、両軸受リールの制動装置において、スプールの回転速度が異なるキャスティングを行っても、制動力の調整操作にかかる釣り人の負担を軽減できるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明1に係る両軸受リールの制動装置は、リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する装置であって、スプール制動手段と、第1パターン設定手段と、第2パターン設定手段と、速度検出手段と、スプール制御手段とを備えている。スプール制動手段は、スプールとリール本体とに設けられ、スプールを制動する電気的に制御可能な手段である。第1制動パターン設定手段は、第1制動パターンを設定する手段である。第1パターン設定手段は、第1制動パターンより制動力が小さい第2制動パターンを設定する手段である。速度検出手段は、キャスティング時のスプールの回転速度を検出する手段である。スプール制御手段は、キャスティング当初のスプール回転速度が所定値以上の場合に第1制動パターンで、スプール回転速度が所定値未満の場合は、第2制動パターンでスプールを制動するようにスプール制動手段を電気的に制御する手段である。
【0010】
この制動装置では、遠投のようにキャスティング当初のスプールの回転速度が所定値以上の比較的速いキャスティングを行った場合、第1制動パターンでスプールが制動され、近投のようにスプールの回転速度が所定値未満の比較的遅いキャスティングを行った場合、第1制動パターンより制動力が小さい第2制動パターンでスプールが制動される。ここでは、同じ設定であってもキャスティング当初のスプールの回転速度によって2つの制動パターンのいずれかでスプールが制動される。このため、キャスティング当初のスプールの回転速度が異なるキャスティングを行っても制動力の調整操作が不要になり、制動力の調整操作にかかる釣り人の負担を軽減できる。
【0011】
発明2に係る両軸受リールの制動装置は、発明1に記載の装置において、第1パターン設定手段は、第1制動パターンが格納された第1パターン格納手段と、格納された第1制動パターンを読み出す第1パターン読出手段とを有する。この場合には、第1制動パターンが予め格納されているので、演算により第1制御パターンを算出する場合に比べて制御の応答を速くすることができる。
【0012】
発明3に係る両軸受リールの制動装置は、発明2に記載の装置において、第1パターン格納手段には、制動力が異なる複数の第1制動パターンが格納されており、第1パターン設定手段は、複数の第1制動パターンのいずれかを選択するパターン選択手段をさらに有し、第1パターン読出手段は、選択された第1制動パターンを読み出す。この場合には、複数の第1制動パターンによりスプール制動手段を制動できるので、キャスト方法や仕掛けの重さや釣り人の技量などに応じて制動力を自由に調整できる。また、複数の第1制動パターンから選択された第1制動パターンを読み出すだけで第1制動パターンが設定されるので、制御の応答が速くなる。
【0013】
発明4に係る両軸受リールの制動装置は、発明1に記載の装置において、パターン設定手段は、基準となる第1制動パターンが格納された第1パターン格納手段と、基準となる第1制動パターンから制動力が互いに異なる複数の第1制御パターンを算出する第1制御パターン算出手段と、基準となる第1制御パターン及び算出された複数の第1制動パターンのいずれかひとつの第1制御パターンを選択するパターン選択手段とを有し、第1パターン格納手段に格納された基準となる第1制御パターンを読み出し、パターン選択手段の選択結果に応じて読み出し又は算出された第1制動パターンを設定する。この場合には、複数の第1制動パターンによりスプール制動手段を制動できるので、キャスト方法や仕掛けの重さや釣り人の技量などに応じて制動力を自由に調整できる。また、基準となる第1制動パターンだけを格納すればよいので、記憶容量を削減でき、装置の構成を簡素化できる。
【0014】
発明5に係る両軸受リールの制動装置は、発明4に記載の装置において、第1制御パターン算出手段は、基準となる第1制動パターンを制動力が小さい方にシフトして複数の第1制動パターンを算出する。この場合には、シフト処理により複数の第1制御パターンを算出しているので、算出処理が容易になり演算時間を短縮できる。
【0015】
発明6に係る両軸受リールの制動装置は、発明1から5のいずれかに記載の装置において、第2パターン設定手段は、第2制動パターンが格納された第2パターン格納手段と、格納された第2制動パターンを読み出す第2パターン読出手段とを有する。この場合には、第2パターンも格納手段に格納されているので第2制動パターンの設定処理も短縮できる。
【0016】
発明7に係る両軸受リールの制動装置は、発明1から5のいずれかに記載の装置において、第2制動パターン設定手段は、第1制動パターンをもとに第2制動パターンを算出して設定する。この場合には、第2制動パターンが第1制動パターンをもとに算出されるので、第2制御パターンの格納手段が不要になり、記憶容量を削減でき、装置の構成を簡素化できる。
【0017】
発明8に係る両軸受リールの制動装置は、発明1から7のいずれかに記載の装置において、スプール制動手段は、回転方向に並べて配置され極性が交互に異なる複数の磁極を有し前記スプールに連動して回転する回転子と、回転子の周囲に周方向に間隔を隔てて前記リール本体に装着され直列接続された複数のコイルと、直列接続された複数のコイルの両端に接続されたスイッチ手段とを有し、スプール制御手段は、スイッチ手段をオンオフ制御することによりスプール制動手段を制御する。この場合には、キャスティング時などのスプール回転中にスイッチ手段をオンオフ制御することにより、コイルを流れる電流に対する負荷を変更して、スプール制動手段を任意の制動力に制御できる。
【0018】
発明9に係る両軸受リールの制動装置は、発明1から8のいずれかに記載の
前記第1制動パターンは、最大制動力の50〜100%の一定の制動力で第1所定時間の間スプールを制動した後、それより徐々に小さくなる変化する制動力で第2所定時間の間スプールを制動するように設定されたパターンである。この場合には、最初の強い一定の制動力で制動し、その後徐々に制動力を弱くして制動する。ここでは、最初に強い制動力で短時間制動することにより仕掛けの姿勢を反転させ、仕掛けの釣り糸係止部分と逆側を先端にして仕掛けを飛行させることができる。このため、バックラッシュを抑えて仕掛けの姿勢が安定した状態でより距離を延ばすことができる。
【0019】
発明10に係る両軸受リールの制動装置は、発明1から9のいずれかに記載の装置において、速度検出手段で検出された回転速度の変化率とスプールの慣性モーメントとによりスプールを回転させる駆動トルクを算出するトルク算出手段を有し、駆動トルクからキャスティング時にスプールから放出される釣り糸の張力を検出する張力検出手段をさらに備える。この場合には、張力検出手段が速度検出手段からの回転速度により張力を算出しているので、張力算出手段の構成を簡素化できる。
【0020】
発明11に係る両軸受リールの制動装置は、発明10に記載の装置において、スプール制御手段は、張力検出手段で検出された張力が所定値以下の時、第1制御パターン又は第2制御パターンのいずれかでスプール制動手段を制御する。この場合には、張力が所定値以下になると回転速度に応じて第1又は第2制動パターンでスプールが制動されるので、回転速度のピーク前に仕掛けの反転を行いやすくなる。
【0021】
【発明の実施の形態】
〔リールの構成〕
図1及び図2において、本発明の一実施形態による両軸受リールは、ベイトキャスト用の丸形の両軸受リールである。このリールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用ハンドル2と、ハンドル2のリール本体1側に配置されたドラグ調整用のスタードラグ3とを備えている。
【0022】
ハンドル2は、板状のアーム部2aと、アーム部2aの両端に回転自在に装着された把手2bとを有するダブルハンドル形のものである。アーム部2aは、図2に示すように、ハンドル軸30の先端に回転不能に装着されており、ナット28によりハンドル軸30に締結されている。
リール本体1は、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金などの金属製の部材であり、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された第1側カバー6及び第2側カバー7とを有している。リール本体1の内部には糸巻用のスプール12がスプール軸20(図2)を介して回転自在に装着されている。第1側カバー6は、スプール軸方向外方から見て円形であり、第2側カバー7は、交差する2つの円で構成されている。
【0023】
フレーム5内には、図2に示すように、スプール12と、サミングを行う場合の親指の当てとなるクラッチレバー17と、スプール12内に均一に釣り糸を巻くためのレベルワインド機構18とが配置されている。またフレーム5と第2側カバー7との間には、ハンドル2からの回転力をスプール12及びレベルワインド機構18に伝えるためのギア機構19と、クラッチ機構21と、クラッチレバー17の操作に応じてクラッチ機構21を制御するためのクラッチ制御機構22と、スプール12を制動するドラグ機構23と、スプール12の回転時の抵抗力を調整するためのキャスティングコントロール機構24とが配置されている。また、フレーム5と第1側カバー6との間には、キャスティング時のバックラッシュを抑えるための電気制御式のブレーキ機構(制動装置の一例)25が配置されている。
【0024】
フレーム5は、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された1対の側板8,9と、これらの側板8,9を一体で連結する上下の連結部10a,10b(図1)とを有している。側板8の中心部よりやや上方には、円形の開口8aが形成されている。この開口8aには、リール本体1を構成するスプール支持部13がねじ止め固定されている。
【0025】
スプール支持部13は、図3及び図4に示すように、開口8aに着脱自在に装着される扁平な略有底筒状の部材である。スプール支持部13の壁部13aの中心部には、内方に向けて突出する筒状の軸受収納部14が一体形成されている。軸受収納部14の内周面には、スプール軸20の一端を回転自在に支持するための軸受26bが装着されている。また、軸受収納部14の底部にはキャスティングコントロール機構24の摩擦プレート51を装着されている。軸受26bは、線材製の止め輪26cにより軸受収納部14に係止されている。
【0026】
上側の連結部10aは、図1に示すように、側板8,9の外形と同一面に配置されており、下側の連結部10bは、前後に1対設けられており、外形より内側に配置されている。下側の連結部10bには、リールを釣り竿に装着するための前後に長い、たとえばアルミニウム合金等の金属製の竿装着脚部4がリベット止めされている。
【0027】
第1側カバー6は、第2側カバー7側から挿入されたねじ部材(図示せず)により側板8にねじ止め固定されている。第1側カバー6には、後述するブレーキ切換つまみ43が配置される円形の開口部6aが形成されている。
スプール12は、図2に示すように、両側部に皿状のフランジ部12aを有しており、両フランジ部12aの間に筒状の糸巻胴部12bを有している。図2左側のフランジ部12aの外周面は、糸噛みを防止するために開口8aの内周側に僅かな隙間をあけて配置されている。スプール12は、糸巻胴部12bの内周側を貫通するスプール軸20にたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。この固定方法はセレーション結合に限定されず、キー結合やスプライン結合等の種々の結合方法を用いることができる。
【0028】
スプール軸20は、たとえば、SUS304等の非磁性金属製であり、側板9を貫通して第2側カバー7の外方に延びている。その延びた一端は、第2側カバー7に装着されたボス部7bに軸受26aにより回転自在に支持されている。またスプール軸20の他端は前述したように軸受26bにより回転自在に支持されている。スプール軸20の中心には、大径部20aが形成されており、両端に軸受26a,26bに支持される小径部20b,20cが形成されている。なお、軸受26a,26bは、たとえばSUS440Cに特殊耐食性被膜をコーティングしたものである。
【0029】
さらに、図1左側の小径部20cと大径部20aとの間には両者の中間の外径を有する、後述する磁石61を装着するための磁石装着部20dが形成されている。磁石装着部20dには、たとえば、SUM(押出・切削)等の鉄材の表面に無電界ニッケルめっきを施した磁性体製の磁石保持部27がたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。磁石保持部27は、断面が正方形で中心に磁石装着部20dが貫通する貫通孔27aが形成された四角柱状の部材である。磁石保持部27の固定方法はセレーション結合に限定されず、キー結合やスプライン結合等の種々の結合方法を用いることができる。
【0030】
スプール軸20の大径部20aの右端は、側板9の貫通部分に配置されており、そこにはクラッチ機構21を構成する係合ピン29が固定されている。係合ピン29は、直径に沿って大径部20aを貫通しており、その両端が径方向に突出している。
クラッチレバー17は、図2に示すように、1対の側板8,9間の後部でスプール12後方に配置されている。クラッチレバー17は側板8,9間で上下方向にスライドする。クラッチレバー17のハンドル装着側には、係合軸17aが側板9を貫通して一体形成されている。この係合軸17aは、クラッチ制御機構22に係合している。
【0031】
レベルワインド機構18は、図2に示すように、スプール12の前方で両側板8,9間に配置され、外周面に交差する螺旋状溝46aが形成された螺軸46と、螺軸によりスプール軸方向に往復移動して釣り糸を案内する釣り糸案内部47とを有している。螺軸46は、両端が側板8,9に装着された軸支持部48,49により回転自在に支持されている。螺軸46の図2右端には、ギア部材36aが装着されており、ギア部材36aは、ハンドル軸30に回転不能に装着されたギア部材36bに噛み合っている。このような構成により、螺軸46は、ハンドル軸30の糸巻取方向の回転に連動して回転する。
【0032】
釣り糸案内部47は螺軸46の周囲に配置され一部が軸方向の全長にわたって切り欠かれたパイプ部材53と、螺軸の上方に配置されたガイド軸(図示せず)とによりスプール軸20方向に案内されている。釣り糸案内部47には、螺旋状溝46aに係合する係止部材(図示せず)が回動自在に装着されており、螺軸46の回転によりスプール軸方向に往復移動する。
【0033】
ギア機構19は、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に固定されたメインギア31と、メインギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32とを有している。ハンドル軸30は、側板9及び第2側カバー7に回転自在に装着されており、ローラ型のワンウェイクラッチ86及び爪式のワンウェイクラッチ87により糸繰り出し方向の回転(逆転)が禁止されている。ワンウェイクラッチ86は、第2側カバー7とハンドル軸30との間に装着されている。メインギア31は、ハンドル軸30に回転自在に装着されており、ハンドル軸30とドラグ機構23を介して連結されている。
【0034】
ピニオンギア32は、側板9の外方から内方に延び、中心にスプール軸20が貫通する筒状部材であり、スプール軸20に軸方向に移動自在に装着されている。また、ピニオンギア32の図2左端側は、軸受33により側板9に回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。ピニオンギア32の図2左端部には係合ピン29に噛み合う噛み合い溝32aが形成されている。この噛み合い溝32aと係合ピン29とによりクラッチ機構21が構成される。また中間部にはくびれ部32bが、右端部にはメインギア31に噛み合うギア部32cがそれぞれ形成されている。
【0035】
クラッチ制御機構22は、スプール軸20方向に沿って移動するクラッチヨーク35を有している。また、クラッチ制御機構22は、スプール12の糸巻取方向の回転に連動してクラッチ機構21をクラッチオンさせるクラッチ戻し機構(図示せず)を有している。
キャスティングコントロール機構24は、スプール軸20の両端を挟むように配置された複数の摩擦プレート51と、摩擦プレート51によるスプール軸20の挟持力を調節するための制動キャップ52とを有している。左側の摩擦プレート51は、スプール支持部13内に装着されている。
【0036】
〔スプール制動機構の構成〕
スプール制動機構25は、図3、図4及び図7に示すように、スプール12とリール本体1とに設けられたスプール制動ユニット40と、釣り糸に作用する張力を検出するための回転速度センサ41と、スプール制動ユニット40を8段階の制動モードのいずれかで電気的に制御するスプール制御ユニット42と、8つの制動モードを選択するためのブレーキ切換つまみ43とを有している。
【0037】
スプール制動ユニット40は、スプール12を発電により制動する電気的に制御可能なものである。スプール制動ユニット40は、スプール軸20に回転方向に並べて配置された4つの磁石61を含む回転子60と、回転子60の外周側に対向して配置され直列接続されたたとえば4つのコイル62と、直列接続された複数のコイル62の両端が接続されたスイッチ素子63とを備えている。スプール制動ユニット40は、磁石61とコイル62との相対回転により発生する電流を、スイッチ素子63によりオンオフすることによりスプール12を制動する。スプール制動ユニット40で発生する制動力はスイッチ素子63のオン時間が長さに応じて大きくなる。
【0038】
回転子60の4つの磁石61は、周方向に並べて配置され極性が交互に異なっている。磁石61は、磁石保持部27と略同等の長さを有する部材であり、その外側面61aは断面円弧状の面であり、内側面61bは平面である。この内側面61bがスプール軸20の磁石保持部27の外周面に接触して配置されている。磁石61の両端部は、たとえばSUS304等の非磁性体製の円形皿状のキャップ部材65a,65bにより挟持され、スプール軸20に対して回転不能に磁石保持部27に装着されている。このようにキャップ部材65a,65bにより磁石61を保持することにより、キャップ部材65a,65bが非磁性体製であるので、磁力を弱めることなくスプール軸20上での磁石の組立を容易にできるとともに、組立後の磁石の比強度を高めることができる。
【0039】
磁石61の図4左端面と軸受26bとの距離は2.5mm以上離れている。図4右側のキャップ部材65aは、スプール軸20の大径部20aと磁石装着部20dとの段差と磁石保持部27とに挟まれてそれより右方への移動が規制されている。
軸受26bとの間に配置された左側のキャップ部材65bには、たとえば、SPCC(板材)等の鉄材の表面に無電界ニッケルめっきを施した磁性体製のワッシャ部材66が装着されている。ワッシャ部材66は、スプール軸20に装着されたたとえばE型止め輪67により抜け止めされている。このワッシャ部材66の厚みは0.5mm以上2mm以下であり、外径は軸受26bの外径の60%以上120%以下である。このような磁性体製のワッシャ部材66を設けることにより、磁石61の近くに配置される軸受26bが磁化されにくくなる。このため、磁石61の近くに軸受26bを配置してもスプール12の自由回転時の回転性能に影響を与えにくくなる。また、磁石61と軸受26bとの距離を2.5mm以上離したことも軸受26bを磁化しにくくしている。
【0040】
糸巻胴部12bの内周面の磁石61に対向する位置には、たとえば、SUM(押出・切削)等の鉄材の表面に無電界ニッケルめっきを施した磁性体製のスリーブ68が装着されている。スリーブ68は、糸巻胴部12bの内周面に圧入又は接着などの適宜の固定手段により固定されている。このような磁性体製のスリーブ68を磁石61に対向して配置すると、磁石61からの磁束がコイル62を集中して通過するので、発電及びブレーキ効率が向上する。
【0041】
コイル62は、コギングを防止してスプール12の回転をスムーズにするためにコアレスタイプのものが採用されている。さらにヨークも設けていない。コイル62は、巻回された芯線が磁石61に対向して磁石61の磁場内に配置されるように略矩形に巻回されている。4つのコイル62は直列接続されており、その両端がスイッチ素子63に接続されている。コイル62は、磁石61の外側面61aとの距離が略一定になるようにスプール軸芯に対して実質的に同芯の円弧状にスプール12の回転方向に沿って湾曲して成形されている。このため、コイル62と回転中の磁石61との隙間を一定に維持することができる。4つのコイル62は、たとえばSUS304等の非磁性体製の円形皿状のコイルホルダ69によりまとめられている。コイルホルダ69は、スプール制御ユニット42を構成する後述する回路基板70に固定されている。なお図3ではコイル62を主に描くためにコイルホルダ69は、二点鎖線で図示している。このように、4つのコイル62が非磁性体製のコイルホルダ69に装着されているので、コイル62を回路基板70に装着しやすくなるとともに、コイルホルダ69が非磁性体製であるので、磁石61による磁束を乱すことがない。
【0042】
スイッチ素子63は、たとえば高速でオンオフ制御できる並列接続された2つのFET(電界効果トランジスタ)63aを有している。FET63aの各ドレイン端子に直列接続されたコイル62が接続されている。このスイッチ素子63も回路基板70に装着されている。
回転速度センサ41は、たとえば、投光部と受光部とを有する反射型の光電スイッチを用いており、回路基板70のスプール12のフランジ部12aに対向する面に配置されている。フランジ部12aの外側面には、投光部から照射された光を反射する読み取りパターン71が印刷やシール貼り付けや反射板の取付などの適宜の方法により形成されている。この回転速度センサ41からの信号により回転速度を検出して釣り糸に作用する張力を検出する。
【0043】
ブレーキ切換つまみ43は、8段階の制動モードのいずれかを設定するために設けられている。ブレーキ切換つまみ43は、に図4〜図6に示すように、スプール支持部13に回動自在に装着されている。ブレーキ切換つまみ43は、たとえば合成樹脂製の円盤状のつまみ本体73と、つまみ本体73の中心に位置する金属製の回動軸74とを有している。回動軸74とつまみ本体73とはインサート成形により一体化されている。つまみ本体73の開口部6aに臨み外部に露出する外側面には、外側に脹らむつまみ部73aが形成されている。つまみ部73aの周囲は凹んでおりブレーキ切換つまみ43を操作しやすくなっている。
【0044】
つまみ部73aの一端には僅かに凹んで指針73bが形成されている。指針73bに対向する第1側カバー6の開口部6aの周囲には、8つのマーク75が等間隔に印刷やシールなどの適宜の形成方法により形成されている。ブレーキ切換つまみ43を回して指針73bをマーク75のいずれかに合わせることにより制動モードのいずれかを選択して設定できる。また、つまみ本体73の背面には、ブレーキ切換つまみ43の回動位置、すなわち制動モードのいずれが選択されたかを検出するための識別パターン76が等間隔に印刷やシールなどの適宜の形成方法により形成されている。識別パターン76は、回転方向に3種10個の扇形の第1〜第3パターン76a,76b,76cにより構成されている。第1パターン76aは、図6に左下がりのハッチングで描かれており、たとえば鏡面の光を反射するパターンである。第2パターン76bは、図6に右下がりのハッチングで描かれており、たとえば黒色の光を反射しにくいパターンである。第3パターン76cは、図6にクロスハッチングで描かれており、たとえば灰色の光を略半分だけ反射するパターンである。この3種のパターン76a〜76cの組み合わせにより8段階の制動モードのいずれかが選択されたかを識別できる。なお、いずれかのパターン76a〜76cのひとつがつまみ本体73と同色の場合には、つまみ本体73の背面をそのまま利用してパターンを別に形成しなくてもよい。
【0045】
回動軸74は、スプール支持部13の壁部13aに形成された貫通孔13bに装着され、止め輪78により壁部13aに係止されている。
つまみ本体73とスプール支持部13の壁部13aの外側面との間には位置決め機構77が設けられている。位置決め機構77は、ブレーキ切換つまみ43を制動モードに応じた8段階の位置で位置決めするとともに、回動操作時に発音する機構である。位置決め機構77は、つまみ本体73aの背面に形成された凹部73cに装着された位置決めピン77aと、位置決めピン77aの先端が係合する8つの位置決め穴77bと、位置決めピン77aの位置決め穴77bに向けて付勢する付勢部材77cとを有している。位置決めピン77aは、小径の頭部とそれより大径の鍔部と小径の軸部とを有する軸状の部材であり、頭部は半球状に形成されている。位置決めピン77aは、凹部73cに進退自在に装着されている。8つの位置決め穴77bは、スプール支持部13の壁部13aの外側面に貫通孔13bの周囲に固定された扇形の補助部材13cに周方向に間隔を隔てて形成されている。位置決め穴77bは、指針73bが8つのマーク75のいずれかに一致するように形成されている。
【0046】
スプール制御ユニット42は、スプール支持部13のスプール12のフランジ部12aに対向する面に装着された回路基板70と、回路基板70に搭載された制御部55とを有している。
回路基板70は、中心が円形に開口する座金形状のリング状の基板であり、軸受収納部14の外周側でスプール軸20と実質的に同芯に配置されている。回路基板70は、スプール支持部13の壁部13aの内側面にビスにより固定されている。この回路基板70をビスにより固定する際には、たとえば、軸受収納部14に仮置きされた治具を利用して芯出しし、回路基板70がスプール軸芯に対して実質的に同芯に配置されるようにしている。これにより、回路基板70をスプール支持部13に装着すると、回路基板70に固定されたコイル62がスプール軸芯と実質的に同芯に配置される。
【0047】
ここでは、回路基板70がスプール支持部13のスプール12のフランジ部12aと対向する面に装着されているので、回転子60の周囲に配置されたコイル62を回路基板70に直接取り付けることができる。このため、コイル62と回路基板70とを接続するリード線が不要になり、コイル62と回路基板70との絶縁不良を軽減できる。しかも、コイル62がスプール支持部13に取り付けられた回路基板70に装着されているので、回路基板70をスプール支持部13に取り付けるだけでコイル62もスプール支持部13に装着される。このため、スプール制動機構25を容易に組み立てできる。
【0048】
制御部55は、たとえばCPU55a,RAM55b,ROM55c及びI/Oインターフェイス55c等が搭載されたマイクロコンピュータから構成されている。制御部55のROM55cには、制御プログラムが格納されるとともに、後述する3つの制動処理にわたる制動パターンがそれぞれ8段階の制御モードに応じて格納されている。また、各制御モード時の張力の設定値や回転速度の設定値なども格納されている。制御部55には、回転速度センサ41と、ブレーキ切換つまみ43の回動位置を検出するためのパターン識別センサ56とが接続されている。また、制御部55には、スイッチ素子63の各FET63aのゲートが接続されている。制御部55は、各センサ41,56からのパルス信号によりスプール制動ユニット40のスイッチ素子63を後述する制御プログラムにより、たとえば周期1/1000秒のPWM(パルス幅変調)信号によりオンオフ制御する。具体的には、制御部55は、8段階の制動モードにおいて、異なるデューティ比Dでスイッチ素子63をオンオフ制御する。制御部55には電源としての蓄電素子57からの電力が供給される。この電力は回転速度センサ41とパターン識別センサ56にも供給される。
【0049】
パターン識別センサ56は、ブレーキ切換つまみ43のつまみ本体73の背面に形成された識別パターン76の3種のパターン76a〜76cを読み取るために設けられている。パターン識別センサ56は、投光部と受光部とを有する2組の光電センサ56a,56bから構成されている。光電センサ56a,56bは回路基板70のスプール支持部13の壁部13aに面する側に上下に並べて配置されている。スプール支持部13の壁部13aには、光電センサ56a,56bが各パターン76a〜76cを臨み得るように透孔13d,13eが上下に並べて形成されている。ここでは、回転方向に並べて配置された3種のパターン76a〜76bを読み取ることにより、たとえば下記に説明するようにして8段階の制動モードを識別する。
【0050】
いま、指針73bが最も弱い位置にあるとき、図6に示すように、2つの第1パターン76aからの反射光をパターン識別センサ56は読み取る。この場合、両光電センサ56a,56bは双方とも最も大きな光量を検出する。続いて、次のマークに指針73bを合わせると、下側の光電センサ56bは第1パターン76aに位置し強い光量を検出するが、上側の光電センサ56aは第2パターン76bに位置しほとんど検出しない。これらの検出光量の組み合わせによりブレーキ切換つまみ43が何れの位置にあるかを識別する。
【0051】
電源としての蓄電素子57は、たとえば電解コンデンサを用いており、整流回路58に接続されている。整流回路58はスイッチ素子63に接続されており、回転子60とコイル62とを有し発電機として機能するスプール制動ユニット40からの交流電流を直流に変換しかつ電圧を安定化して蓄電素子57に供給する。
【0052】
なお、これらの整流回路58及び蓄電素子57も回路基板70に搭載されている。この回路基板70に搭載されたコイル62を含む各部は、透明な合成樹脂絶縁体製の被膜90により覆われている。具体的には、回路基板70に各部を搭載して配線を終わると、合成樹脂液体が入れられたタンクに回路基板70を浸けて浸漬処理し、その後タンクから取り出して硬化処理を行い、表面に被膜90を形成する。このように回路基板70を含む各部を絶縁体製の合成樹脂の被膜90で覆うことにより制御部55等の電子機器への液体の浸入防止できる。しかも、この実施形態では、発電された電力を蓄電素子57に蓄え、その電力で制御部55等を動作させているので、電源の交換が不要になる。このため、被膜90による封止を永続させることができ、絶縁不良によるトラブルを低減できる。
【0053】
〔実釣時のリールの操作及び動作〕
キャスティングを行うときには、クラッチレバー17を下方に押圧してクラッチ機構21をクラッチオフ状態にする。このクラッチオフ状態では、スプール12が自由回転状態になり、キャスティングを行うと仕掛けの重さにより釣り糸がスプール12から勢いよく繰り出される。このキャスティングによりスプール12が回転すると、磁石61がコイル62の内周側を回転して、スイッチ素子63をオンするとコイル62に電流が流れスプール12が制動される。キャスティング時にはスプール12の回転速度は徐々に速くなり、ピークを越えると徐々に減速する。
【0054】
ここでは、磁石61を軸受26bの近くに配置しても、その間に磁性体製のワッシャ部材66を配置しかつ軸受26bとの間隔を2.5mm以上離したので、軸受26bが磁化しにくくなりスプール12の自由回転性能が向上する。また、コイル62をコアレスコイルとしたので、コギングが生じにくくなり、さらに自由回転性能が向上する。
【0055】
仕掛けが着水すると、ハンドル2を糸巻取方向に回転させて図示しないクラッチ戻し機構によりクラッチ機構21をクラッチオン状態にし、リール本体1をパーミングしてアタリを待つ。
〔制御部の制御動作〕
次に、キャスティング時の制御部55のブレーキ制御動作について、図8及び図9の制御フローチャート並びに図10及び図11のグラフを参照しながら説明する。
【0056】
キャスティングによりスプール12が回転して蓄電素子57に電力が蓄えられ制御部55に電源が投入されると、ステップS1で初期設定が行われる。ここでは、各種のフラグや変数がリセットされる。ステップS2では、ブレーキ切換つまみ43により何れの制動モードBMn(nは1〜8の整数)が選択されたか否かを判断する。ステップS3では、制動モードを選択された制動モードBMnに設定する。これにより、以降の制御で制御部55内のROMから制動モードBMnに応じたデューティ比Dが読み出される。ステップS4では、回転速度センサ41からのパルスによりスプール12の回転速度Vを検出する。ステップS5では、回転速度Vが所定の回転速度(Vs:たとえば12000rpm)より小さいか否かを判断する。所定の回転速度Vsより低い場合にはステップS6に移行してフラグLをセットする。このフラグLは、アンダーハンドキャストやピッチングのようなキャスティング当初のスプール回転速度が遅い近投の時に過剰な制動力を作用させないようにするためにセットされるフラグである。
【0057】
検出された回転速度Vが所定の回転速度Vsを超えている場合又はフラグLをセットするとステップS7に移行する。ステップS7では、スプール12から繰り出される釣り糸に作用する張力Fを算出する。
ここで、張力Fは、スプール12の回転速度の変化率(Δω/Δt)とスプール12の慣性モーメントJとで求めることができる。ある時点でスプール12の回転速度が変化すると、このとき、もしスプール12が釣り糸からの張力を受けずに単独で自由回転していた場合の回転速度との差は釣り糸からの張力により発生した回転駆動力(トルク)によるものである。このときの回転速度の変化率を(Δω/Δt)とすると、駆動トルクTは、下記(1)式で表すことができる。
【0058】
T=J×(Δω/Δt)・・・・・(1)
(1)式から駆動トルクTが求められれば、釣り糸の作用点の半径(通常は15〜20mm)から張力を求めることができる。この張力が所定以下になったときに大きな制動力を作用させると、回転速度のピークの手前で仕掛け(ルアー)の姿勢が反転して安定して飛行することを本発明者等は知見した。この回転速度のピークの手前で制動して安定した姿勢で仕掛けを飛行させるために以下の制御を行う。すなわち、キャスティング当初に短時間強い制動力を作用させて仕掛けを反転させ、その後徐々に弱くなりかつ途中で一定になる制動力で徐々に制動していく。最後に、所定回転数まで下がるまでさらに徐々に弱くなる制動力でスプール12を制動する。この3つの制動処理を制御部55は行う。
【0059】
ステップS8では、回転速度の変化率(Δω/Δt)と慣性モーメントJとにより算出された張力Fが所定値Fs(たとえば、0.02〜0.05Nの範囲のいずれかの値)以下か否か判断する。所定値Fsを超えている場合にはステップS9に移行してデューティ比Dを10に、つまり周期の10%だけスイッチ素子63をオンするように制御し、ステップS2に戻る。これにより、スプール制動ユニット40はスプール12を僅かに制動するが、スプール制動ユニット40が発電するため、スプール制御ユニット42が安定して動作する。
【0060】
張力Fが所定値Fs以下になるとステップS10に移行する。ステップS10では、タイマT1をスタートさせる。このタイマT1は、強い制動力で制動する第1制動処理の処理時間を定めるタイマである。ステップS11では、タイマT1がタイムアップしたか否かを判断する。タイムアップしていない場合には、ステップS12に移行し、フラグLがセットされているか否かを判断する。これによりライトキャストかフルキャストかを判断し、同じ制動モードBMnであっても制動力を変更できるようにする。フラグLがセットされていない場合には、ステップS13に移行してフルキャストの時の第1制動処理をタイマT1がアップするまで行う。この第1制動処理では、図10に左下がりのハッチングで示すように、一定の第1デューティ比Dn1で時間T1だけスプール12を制動する。この第1デューティ比Dn1は、たとえば50〜100%デューティ(全体の周期の50%から100%がオン時間)、好ましくは70〜90%デューティの範囲である。また、時間T1は、0.1〜0.3秒の範囲が好ましい。このような範囲で制動すると回転速度のピークの前にスプール12を制動しやすくなる。
【0061】
第1デューティ比Dn1は、制動モードBMnよって上下にシフトし、この実施形態では、制動モードが最大の時(n=1)、デューティ比D11が最も大きくそれから徐々に小さくなる。このように仕掛けに合わせて強い制動力を短時間作用させると仕掛けの姿勢が釣り糸係止部分から反転して釣り糸係止部分が手前になって仕掛けが飛行する。これにより仕掛けの姿勢が安定して仕掛けがより遠くに飛ぶようになる。フラグLがセットされているときはステップS12からステップS14に移行する。ステップS14では、ライトキャストの時の第1制動処理をタイマT1がアップするまで行う。このライトキャストの第1制動処理では、検出された回転速度Vに応じた関数f(V)でフルキャストの時のデューティ比Dn1を制動力が減少する方向に補正する。これらの処理が終了するとステップS17に移行する。
【0062】
一方、タイマT1がタイムアップしたときは、ステップS11からステップS15に移行する。ステップS15では、タイマT2がすでにスタートしているか否かを判断する。タイマT2がスタートしている場合にはステップS17に移行する。タイマT2スタートしていない場合はステップS16に移行してタイマT2をスタートさせる。このタイマT2は、第2制動処理の処理時間を定めるタイマである。
【0063】
ステップS17では、タイマT2がタイムアップしたか否かを判断する。タイムアップしていない場合には、ステップS18に移行し、フラグLがセットされているか否かを判断する。この判断はステップS12と同様の目的で行われる。フラグLがセットされていない場合には、ステップS19に移行してフルキャストの時の第2制動処理をタイマT2がアップするまで行う。この第2制動処理では、図10に右下がりのハッチングで示すように、最初急激に下降しその後徐々に下降し最後に一定の値になる変化するデューティ比Dn2で時間T2スプール12を制動する。このデューティ比Dn2の最小値は、たとえば30〜70%の範囲が好ましい。また、第2所定時間T2は、0.3〜2秒の間が好ましい。
【0064】
また、第2及び第3制動処理では余分な制動力をカットすること目的とした図9に示すような制動補正処理も行われる。図9のステップS31では、補正張力Faが設定される。この補正張力Faは、図11に二点鎖線で示すように時間の関数であり、時間とともに徐々に減少するように設定されている。なお、図11では、第3制動処理における補正処理のグラフを示している。
【0065】
ステップS32では速度Vを読み込む。ステップS33では、ステップS7と同様な手順で張力Fを算出する。ステップS34では、得られた張力から下記(2)式に示す判定式を算出する。ステップS35では判定式から補正の要否を判断する。
C=SSa×(F−SSd×回転速度)−(ΔF/Δt)・・・・(2)
ここで、SSa,SSdは、回転速度(rpm)に対する係数であり、たとえば50である。また、SSdは、0.000005である。
【0066】
この(2)式の結果が正の時、つまり検出された張力Fが設定張力Faを大きく超えていると判断すると、ステップS35での判断がYesとなり、ステップS36に移行する。ステップS36では、予め設定された第2デューティ比Dn2から一定量Da減算したデューティ比(Dn2−Da)に次のサンプリング周期(通常は1回転毎)まで補正する。
【0067】
第2デューティ比Dn2も、制動モードBMnよってシフトし、この実施形態では、制動モードが最大の時(n=1)、デューティ比D12が最も大きくそれから徐々に小さくなる。フラグLがセットされているときはステップS18からステップS20に移行する。ステップS20では、ライトキャストの時の第2制動処理を行う。このライトキャストの第2制動処理でも、検出された回転速度Vに応じた関数f(V)でフルキャストの時のデューティ比を制動力が減少する方向に補正する。これらの処理が終了するとステップS21に移行する。
【0068】
ステップS21では、速度Vが制動終了速度Ve以下になったか否かを判断する。速度Vが制動終了速度Veを超えている場合にはステップS22に移行する。ステップS22では第3制動処理を行う。
第3制動処理では、図10に縦縞のハッチングで示すように徐々に下降割合が小さくなる第2制動処理と同様な時間とともに変化するデューティ比Dn3で制御する。そして、ステップS11に戻りステップS21で、速度Vが制動終了速度Ve以下となるまで処理を続けるまた、第3制御処理でも制動補正処理は実行される。
【0069】
速度Vが制動終了速度Ve以下となると、ステップS21からステップS23に移行しフラグLをリセットしてステップS2に戻る。
ここでは、回転速度のピーク前に強い制動力で制動すると、第1所定値Fs以下であった張力が急激に大きくなりバックラッシュを防止できるとともに、仕掛けが安定して飛行する。このため、バックラッシュを防止しつつ仕掛けの姿勢を安定させてより遠くに仕掛けをキャスティングできるようになる。
【0070】
また、キャスティング時のスプールの回転速度に応じて3つの制動処理において異なるデューティ比で制御されるので、同じ設定であってもスプールの回転速度によって異なるデューティ比でスプールが制動される。このため、スプールの回転速度が異なるキャスティングを行っても制動力の調整操作が不要になり、制動力の調整操作にかかる釣り人の負担を軽減できる。
【0071】
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、低速用の制動パターンを高速用の制動パターンから速度に応じた関数f(V)を用いて算出したが、予めROM55cに格納しておいてもよい。このとき、速度に応じて複数格納してもよい。
(b)前記実施形態では、8段階の制動モードに応じた8つの制動パターンがROM55cに格納されているが、基準となる1つの制動パターンだけをROM55cに格納し、その他のたとえば7つの制動パターンは演算により算出してもよい。
【0072】
(c)前記実施形態では、デューティ比を上下にシフトして8つの制動パターンを設定しているが、8つの制動パターンの設定形態は制動力が異なるものであれば、どのような形態でもよい。
(d)前記実施形態では、発電によりスプールを制動するスプール制動ユニットを開示したが、スプール制動ユニットは、電気的に制御可能なものであればどのような構成でもよい。たとえば、電気的に制御可能なアクチュエータによりブレーキシューやブレーキパッドをドラムやディスクに接触させるようなものでもよい。
【0073】
(e)前記実施形態では、釣り糸に作用する張力をスプールの回転速度から求めたが、スプール軸にひずみゲージを装着する等などにより張力を直接計測してもよい。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、同じ設定であってもキャスティング当初のスプールの回転速度によって2つの制動パターンのいずれかでスプールが制動される。このため、スプールの回転速度が異なるキャスティングを行っても制動力の調整操作が不要になり、制動力の調整操作にかかる釣り人の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を採用した両軸受リールの斜視図。
【図2】その平面断面図。
【図3】スプール制動機構の分解斜視図。
【図4】スプール制動機構の断面拡大図。
【図5】両軸受リールの右側面図。
【図6】ブレーキ切換つまみの背面図。
【図7】スプール制動機構の制御ブロック図。
【図8】制御部の主制御処理を示すフローチャート。
【図9】第2制動処理を示すフローチャート。
【図10】各制動処理でのデューティ比の変化を模式的に示すグラフ。
【図11】第3制動処理での補正処理を模式的に示すグラフ。
【符号の説明】
1 リール本体
12 スプール
20 スプール軸
25 スプール制動機構
40 スプール制動ユニット
41 回転速度センサ
42 スプール制御ユニット
55 制動部
55c ROM
60 回転子
61 磁石
62 コイル
63 スイッチ素子
Claims (11)
- リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する両軸受リールの制動装置であって、
前記スプールと前記リール本体とに設けられ、前記スプールを制動する電気的に制御可能なスプール制動手段と、
第1制動パターンを設定する第1パターン設定手段と、
前記第1制動パターンより制動力が小さい第2制動パターンを設定する第2パターン設定手段と、
キャスティング時の前記スプールの回転速度を検出する速度検出手段と、
キャスティング当初の前記スプール回転速度が所定値以上の場合に前記第1制動パターンで、前記スプール回転速度が前記所定値未満の場合に前記第2制動パターンで前記スプールを制動するように前記スプール制動手段を電気的に制御するスプール制御手段と、
を備えた両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記第1パターン設定手段は、
前記第1制動パターンが格納された第1パターン格納手段と、
格納された前記第1制動パターンを読み出す第1パターン読出手段とを有する、請求項1に記載の両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記第1パターン格納手段には、制動力が異なる複数の第1制動パターンが格納されており、
前記第1パターン設定手段は、前記複数の第1制動パターンのいずれかを選択するパターン選択手段をさらに有し、
前記第1パターン読出手段は、選択された第1制動パターンを前記第1パターン格納手段から読み出す、請求項2に記載の両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記パターン設定手段は、
基準となる第1制動パターンが格納された前記第1パターン格納手段と、
前記基準となる前記第1制動パターンから制動力が互いに異なる複数の第1制御パターンを算出する第1制御パターン算出手段と、
前記基準となる第1制御パターン及び前記算出された複数の第1制動パターンのいずれかひとつの第1制御パターンを選択するパターン選択手段とを有し、
前記第1パターン格納手段に格納された基準となる第1制御パターンを読み出し、前記パターン選択手段の選択結果に応じて読み出し又は算出された前記第1制動パターンを設定する、請求項1に記載の両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記第1制御パターン算出手段は、前記基準となる第1制動パターンを制動力が小さい方にシフトして前記複数の第1制動パターンを算出する、請求項4に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
- 前記第2パターン設定手段は、
前記第2制動パターンが格納された第2パターン格納手段と、
格納された前記第2制動パターンを読み出す第2パターン読出手段とを有する、請求項1から5のいずれかに記載の両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記第2制動パターン設定手段は、前記第1制動パターンをもとに前記第2制動パターンを算出して設定する、請求項1から5のいずれかに記載の両軸受リールのスプール制動装置。
- 前記スプール制動手段は、
回転方向に並べて配置され極性が交互に異なる複数の磁極を有し前記スプールに連動して回転する回転子と、
前記回転子の周囲に周方向に間隔を隔てて前記リール本体に装着され直列接続された複数のコイルと、
直列接続された前記複数のコイルの両端に接続されたスイッチ手段とを有し、
前記スプール制御手段は、前記スイッチ手段をオンオフ制御することにより前記スプール制動手段を制御する、請求項1から7のいずれかに記載の両軸受リールのスプール制動装置。 - 前記第1制動パターンは、最大制動力の50〜100%の一定の制動力で第1所定時間の間前記スプールを制動した後、それより徐々に小さくなる変化する制動力で第2所定時間の間前記スプールを制動するように設定されたパターンである、請求項1から8のいずれかに記載の両軸受リールの制動装置。
- 前記速度検出手段で検出された回転速度の変化率と前記スプールの慣性モーメントとにより前記スプールを回転させる駆動トルクを算出するトルク算出手段を有し、前記駆動トルクからキャスティング時に前記スプールから放出される釣り糸の張力を検出する張力検出手段をさらに備える、請求項1から9のいずれかに記載の
- 前記スプール制御手段は、前記張力検出手段で検出された張力が所定値以下の時、前記第1制御パターン又は前記第2制御パターンのいずれかで前記スプール制動手段を制御する、請求項10に記載の両軸受リールの制動装置。
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