JP2004197125A - 軟磁気特性に優れた磁性薄帯およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、磁性体の鉄損を下げるための磁区幅の細分化を可能とし、かつ、従来の磁区細分化方法には無かった磁性体間の磁気的相互作用を用いることによって、単に磁区幅を狭めるだけではなく磁区幅自体の制御も可能とした磁性薄帯を提供することにある。
【解決手段】主相である磁性薄帯の表面の少なくとも片側の面に、第2相の磁性体が隣接した構造を有した磁性薄帯であって、前記第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向が、前記主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行な成分である磁性薄帯である。また、前記主相である磁性薄帯が、Fe基非晶質合金薄帯であり、前記第2相の磁性体の主体が、酸化物磁性体および/または金属磁性体であることを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯である。
【選択図】 なし
【解決手段】主相である磁性薄帯の表面の少なくとも片側の面に、第2相の磁性体が隣接した構造を有した磁性薄帯であって、前記第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向が、前記主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行な成分である磁性薄帯である。また、前記主相である磁性薄帯が、Fe基非晶質合金薄帯であり、前記第2相の磁性体の主体が、酸化物磁性体および/または金属磁性体であることを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トランス、リアクトル、ノイズフィルターなどのコア材料、モーターなどのヨーク材料、磁気シールド材料などに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軟質磁性材料は、電子機器分野、あるいは電力機器分野に使用されている重要な部品の素材となっている。特に、これらの素材を使った最終製品の小型化、高性能化などのニーズが高くなっていることから、素材自体の高性能化への要求が益々高くなっている。
【0003】
高性能化要求の中で、特に、素材の鉄損を低減することは、電子機器分野においては余分なエネルギーを削減できるために、電池を使用している機器ではその寿命を伸ばすことが可能になり、また、電力機器分野においてはトランスの変換効率を上げることが可能になるため、種々の方法による鉄損特性の改善策が提案されている。
【0004】
鉄損を低減するための方策の一つとして、素材である磁性体の磁区を細分化することは従来から公知の方法であり、これを実現するために後述の種々の方法が開示されている。例えば、特許文献1には、軟磁性非晶質合金薄帯を斜め磁場中で焼鈍して磁区を細分化する方法が開示されている。特許文献2には、磁性合金薄帯に線状の歪を導入する方法が開示されている。特許文献3には、磁性合金薄帯に線状の熱影響部を導入する方法が開示されている。特許文献4には、超急冷合金薄帯の表面に非磁性化合物を生成させて磁区を細分化する方法が開示されている。特許文献5には、極薄珪素鋼薄帯を巻鉄心に加工して歪取焼鈍を施し、一端巻戻してレーザーなどを照射して特定の局所的歪を導入後、鉄心へ復元する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開昭56−84450号公報
【特許文献2】
特開昭57−161030号公報
【特許文献3】
特開昭57−161031号公報
【特許文献4】
特開昭62−67149号公報
【特許文献5】
特開平3−130321号公報、
【0006】
これらの方法は、磁場中熱処理時の印加磁場方向を斜めにしたもの、あるいは、磁性体薄帯中の表面内に局所的に磁気的なエネルギーの大きな部位を導入することによって、磁区を細分化する方法である。しかし、印加磁場方向を斜めにすることは、例えば、トロイダル状のコア材では容易ではなく、また、磁性体表面に局所的に磁気エネルギーの大きな部位を形成させる処理は、その局所部位同士の間隔、あるいは、その部位自体の大きさの最適化が容易ではないこと、さらに、その部位自体は歪によって大きな損傷を受けることになるためその部位自体の磁気特性か劣化してしまい、少なくとも磁性体のその部分の体積相当領域において磁性を担うための機能が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
特許文献6、および、特許文献7には非晶質合金薄帯の表面に存在する極薄酸化層によって磁区が細分化されることが開示されており、その機構として、極薄酸化層によって非晶質母相に張力が付与される効果によることが示されている。
【0008】
【特許文献】
特開2000−309860号公報、
【特許文献】
特開2000−313946号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、磁性体の鉄損を下げるための磁区幅の細分化を可能とし、かつ、従来の磁区細分化方法には無かった磁性体間の磁気的相互作用を用いることによって、単に磁区幅を狭めるだけではなく磁区幅自体の制御も可能とし、さらに、従来のように磁性体中に存在していた磁気特性の劣化部位を生じさせることのない磁性薄帯を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述のとおり、磁性薄帯の鉄損を低減する方策の一つとして、磁性体の磁区を細分化することは従来から公知である。
磁性薄帯の磁気異方性エネルギーが小さい場合には、磁性薄帯の磁化方向は薄帯の面内に平行方向に分布している方がエネルギー的には安定となる。このような状態にある磁性薄帯に、外部から磁場を印加して磁性薄帯内の磁化方向を面内方向から傾けると、磁性薄帯表面には磁極が生じ、静磁エネルギーが増加する。その結果、この増加したエネルギーを低下させようとして磁区の細分化が起こる。
【0011】
本発明者は、この外部から印加される磁場に相当するものについて検討を行ったところ、磁性薄帯を主相とし、この主相に隣接した第2相として磁性体を配置することにより、主相と第2相との磁気的相互作用を生じさせ、主相の磁区幅の制御が可能になることを見出した。
【0012】
さらに、本発明者は、第2相の磁性体から発生する磁場を主相に作用させる際に、第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向が、主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行でなければ、主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなることを新たに見出した。そして、主相である磁性薄帯表面の法線方向と、第2の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向とのなす角度が0〜80゜の場合に、特に効果的に主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることができることを新たに見出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)主相である磁性薄帯に第2相の磁性体を隣接させ、主相と第2相との磁気的相互作用によって、主相の磁区幅を細分化することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
(2)前記主相である磁性薄帯が、移動する冷却基板上にスロット状開口部を有する注湯ノズルを介して溶湯金属を噴出し、急冷凝固させて得られる急冷金属薄帯であることを特徴とする前記(1)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
(3)前記第2相の磁性体を隣接させる方法が、前記主相である磁性薄帯の表層部位を改質するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表層にドライプロセスまたは湿式プロセスで合金層を付加するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表面に前記第2相を重ね合わせて固定するもの、であることを特徴とする前記(1)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
【0014】
(4)主相である磁性薄帯の表面の少なくとも片側の面に、第2相の磁性体が隣接した構造を有することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(5)前記主相と前記第2相の磁気的相互作用によって主相の磁区幅が制御されることを特徴とする前記(4)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(6)前記第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向と、前記主相である磁性薄帯表面の法線方向とのなす角度をθとした場合、θが0°以上80°以下であることを特徴とする前記(4)または(5)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(7)前記主相である磁性薄帯が、Fe基非晶質合金薄帯であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(8)前記主相である磁性薄帯の厚みが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(9)前記第2相の磁性体の磁気異方性エネルギーの絶対値が、前記主相である磁性薄帯の磁気異方性エネルギーよりも大きいことを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(10)前記第2相の磁性体が、1相または少なくとも2相の構造であることを特徴とする前記(4),(5),(6),(9)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(11)前記第2相の磁性体の主体が、酸化物磁性体および/または金属磁性体であることを特徴とする前記(4),(5),(6),(9),(10)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴とするところは、磁性を担う磁性薄帯の鉄損を低減して性能を向上させる目的で、磁性薄帯の磁区幅を制御するに際して、磁性薄帯を主相とし、この主相に隣接した第2相として磁性体を配置し、主相と第2相との磁気的相互作用を利用することによって、主相の磁区幅が制御されていることにある。
【0016】
本発明の特徴である磁気的相互作用について説明する。
第2相は主相に隣接して配置された磁性体であり、この磁性体から発生する磁場を主相に作用させる。この第2相の磁性体は、主相の磁性薄帯の少なくとも片側の表面に存在すれば、本発明の特徴である主相と第2相の磁性体との磁気的相互作を生じさせ、主相の磁性薄帯の磁区幅の制御が可能になる。この第2相の磁性体は、主相の磁性薄帯の両面に存在していても良い。ただし、この場合には、主相の両面に存在する第2相の磁性体の磁化方向は、それぞれが平行になるように制御することが好ましい。このように制御することによって、主相に及ぼす磁気的相互作用がより効果的に作用する。
【0017】
第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向は、主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行な成分であることが必要である。なぜならば、この成分が無い場合には第2相の磁性体によって、効果的に、主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなるからである。好ましくは、第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向と主相である磁性薄帯表面の法線方向とのなす角度をθとした場合、θが0゜以上80°以下であることが好ましい。
【0018】
θが80゜より大きくなると、第2相の磁性体により、効果的に主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなるからである。θが0゜の場合は、両者の磁気的相互作用が最大になるため、第2相の磁性体により主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが、最も効果的にできるようになる。より好ましくは、第2相の磁性体の磁化容易軸は1軸であれば、第2相の磁性体の磁化方向の制御がより容易になる。磁化容易軸は、物質固有の特定の結晶方位に存在するため、第2相が結晶質の場合には第2相の結晶方位を制御すればθは容易に制御可能となる。
【0019】
第2相の磁性体の磁化方向は、主相である磁性薄帯の磁化によって影響されないことが望ましい。影響されてしまうと、第2相の磁性体により主相の磁化を傾ける効果が低減するからである。この条件を満たすには、第2相の磁性体の磁気異方性エネルギーが主相である磁性薄帯の磁気異方性エネルギーよりも大きいことが必要である。第2相の磁気異方性エネルギーは、主相の磁気異方性エネルギーよりも2割以上大きければ、本発明の効果を発現させることができる。
【0020】
第2相の磁性体は、その磁化によって生じる磁場が主相である磁性薄帯に効果的に作用すれば良い。このためには、第2相の磁性体の構造は1相構造であっても良く、または、2相以上であっても良い。相数が2相以上の場合には、それぞれの相の磁化の方向が揃っている方が、本発明の特徴である主相と第2相との磁気的相互作用がより有効に生じて、より有効に主相の磁区幅の制御が可能となる。ただし、後述のように、第2相の磁性体の厚みは、主相である磁性薄帯の厚みの10%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明に関する主相の磁性薄帯は、例えば、移動する冷却基板上にスロット状開口部を有する注湯ノズルを介して溶湯金属を噴出し、急冷凝固させて得られる急冷金属薄帯である。この急冷金属薄帯は、合金組成を適正に選ぶことによって、非晶質合金とすることが可能である。例えば、Feを主体とした合金組成であれば、Fe基非晶質合金薄帯とすることができる。Fe基非晶質合金薄帯の場合には、薄帯長手方向に磁場を印加した状態でアニール処理を施すことによって、薄帯長手方向に180°磁区を形成させることができる。
【0022】
本発明に関する主相の磁性薄帯は、前記した急冷金属薄帯を得る方法、あるいは、一般的な製鋼、圧延などによる鉄鋼製造プロセス法で製造されたものである。また、スパッタ、蒸着、電析、メッキ、粉末冶金などによって製造された磁性薄帯も本発明に含まれる。例えば、急冷金属薄帯を得る場合には、Fe−Si−B系、Co−B−Si系、Ni−B−Si系、あるいは、Fe−Co−Ni−B−Si系などの合金組成を用いる。組成範囲を選ぶことによって、非晶質合金とすることができる。圧延などによって主相の磁性薄帯を製造する場合には、パーマロイ系、Fe−Si系などを用いる。ソフトフェライトなどを主相の磁性薄帯に用いる場合には、最初から薄く紛体を成型・焼結して製造するか、もしくは、バルク体から所定厚みに切り出して製造することができる。
【0023】
本発明に関する第2相の磁性体は、比較的、磁気異方性エネルギーが大きいことが必要であり、さらに好ましくは、結晶磁気異方性を有していることが好ましい。この結晶磁気異方性を有していることによって、主相である磁性薄帯に第2相の磁性体を一体化或いは隣接させた場合に、第2相の磁性体の結晶配向を制御することによって、その磁化方向の制御が可能となる。このような物性を有している第2の磁性体としては、酸化物磁性体あるいは金属磁性体であれば、本発明の効果を発現させることができる。
【0024】
本発明に関する第2相の磁性体は、主相である磁性薄帯の表層部位を改質して一体形成させるか、あるいは、主相の磁性薄帯に主相とは別に付加する方法によって隣接形成させることができる。主相の磁性薄帯の表層を直接改質する方法としては、例えば、酸素、あるいは、窒素雰囲気中で表層のみを所定の厚みだけ酸化、あるいは窒化させる方法がある。Fe主体の主相であれは、酸化によってFe2O3,Fe3O4などのFe酸化物、窒化によってFe4Nなどの窒化物を形成させて、本発明に関する第2相の磁性体とすることができる。その他、イオン注入などによって、主相の表層に第2相の磁性体を形成させることもできる。
【0025】
次に、主相とは別に第2相の磁性体を付加する方法としては、スパッタ、蒸着などのドライプロセス、あるいは、メッキなどの湿式プロセスが適用できる。後から主相に付加する第2の磁性体としての合金組成を選定すれば、種々のプロセスから最適なものを決めることができる。この他に、第2相の磁性体を主相である磁性薄帯に重ね合わせた後、端部を公知の有機系接着剤を用いて接着して固定しても良いし、または、主相と第2相の端部を同時に電解メッキ、あるいは無電解メッキによって固定しても良い。
【0026】
本発明に関する主相である磁性薄帯の厚みは、5μm以上500μm以下であれば良い。5μm未満では実用的な用途範囲が狭くなり、500μm超の厚みでは、第2相の磁性体との磁気的相互作用が主相の板厚全体に効果的に作用し難くなるからである。第2相の磁性体の厚みは、5nm以上50μm以下であれば良い。5nm未満では第2相の磁性体から発生する磁場が小さくなって、本発明の効果が発現し難くなる。一方、50μm超では、第2相の磁性体における、実用特性に用いる磁性を担わない部分の体積が大きくなって、無駄が発生するからである。第2相の磁性体の厚みは、主相である磁性薄帯の厚みの10%以下であれば、第2相の磁性体における実用特性を担わない部分の体積を小さくすることができる。この第2相の磁性体の厚みは、磁気的相互作用が十分及ぶ範囲であれば、極力薄い方が好ましい。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
主相として用いる磁性薄帯を単ロール液体急冷法で作製した。合金組成は、原子%でFe80.5Si6.5B12C1である。この合金を石英るつぼ内で溶解し、幅0.4mm×長さ5mmのスロットが1mm間隔で平行に2つ並んでいるダブルスロットノズルから、回転しているCu製冷却ロール上に噴出して、非晶質合金薄帯を得た。Cu製冷却ロールの周速度は24m/秒である。得られた薄帯は、板厚50μm、幅5mmであった。
次に、この薄帯を20mm長さに切断後、化学研磨によって表面を平坦にした後、360℃で1時間、50エルステッドの直流磁場中でアニールした。雰囲気はアルゴンである。このアニール処理後の薄帯を磁区走査型電子顕微鏡によって磁区観察した結果、2.8mm幅の180°磁区が形成されていた。
【0028】
第2相の磁性体としては、Co単結晶を用いた。Coの磁化容易軸はc軸であるため、単結晶から切り出す時に切り出し面の法線方向とc軸とのなす角度θを種々かえて、θの値を調整したものを複数個作製した。次に、各切り出し片に機械研磨、電解研磨を施し、板厚が4μmになるまで薄く加工した。加工後は、ひずみを除去するためのアニールを施した。
次に、非晶質薄帯の化学研磨面に、種々のθの角度を持つCo薄帯を重ね合わせた後に端部を接着剤で固定した。なお、貼り合わせる時には、ひずみが極力入らないように取り扱った。その後、Co単結晶面と反対側の非晶質薄帯面側から磁区観察を行い、主相の磁区幅を測定した。さらに、SST(単板磁気測定器)で、1.3T、50Hzでの鉄損を測定した。
【0029】
表1に、第2相を貼り合わせたことによる主相の磁区幅とθとの関係を示す。また、試料No.7の鉄損値を基準とした各試料の鉄損の改善率も合せて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1の結果からわかるように、θが0°以上80°以下の範囲(試料No.1〜5)では、磁区幅は1割以上減少し、さらに、磁区幅の減少にともなって鉄損が改善されていることがわかる。しかし、θが80°超となると(試料No.6,7)、磁区幅の減少効果は小さくなり、鉄損の改善も殆どみられないことがわかる。
【0032】
以上の結果から、本発明による制御された磁気的相互作用を用いることによって、磁性薄帯の磁区の細分化を制御することが可能となり、これにより、鉄損も低減できることが明らかである。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様の合金組成および形状の磁性薄帯を同様の方法で製造し、得られた薄帯を120mm長さに切断した後、360℃で1時間、50エルステットの直流磁場中でアニールした。雰囲気はアルゴンである。
その後、この非晶質合金薄帯を酸素雰囲気中で300°まで昇温し、表面層を酸化させて、約35nm厚の結晶質のFe3O4 磁性体を形成させた。この磁性体の磁化容易軸は<111>であり、透過電子顕微鏡で結晶方位を調べたところ、[111]方向が薄帯面の法線方向に対して、θ=22°の方位に比較的優先的に揃っていることが確認できた。その後、アルゴン中で280℃、5時間の熱処理を行い、薄帯中の応力を除去した。
【0034】
表2に、酸化処理前と応力除去処理後で測定した磁性薄帯の磁区幅、およびSSTで測定した1.3T、50Hzでの鉄損を示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2の結果から、本発明による第2相の磁性体を主相である磁性薄帯に付与することによって、磁区細分化が生じ、鉄損も低減され、軟磁気特性に優れた磁性薄帯が得られることがわかる。
【0037】
【発明の効果】
本発明による磁性薄帯は、磁性体の鉄損を下げるための磁区幅の細分化が可能となる。そればかりではなく、従来の磁区細分化方法には無かった磁性体間の磁気的相互作用を用いることによって、単に磁区幅を狭めるだけではなく磁区幅自体の制御も可能とし、さらに、従来のように磁性体中に存在していた磁気特性の劣化部位を生じさせることのない磁性薄帯を提供し得る。
したがって、本発明による磁性薄帯を用いて、リアクトル、トランスなどの電子機器部品あるいは電力機器部品を構成させた場合、余分なエネルギ−を削減できるため、電池を使用している機器ではその寿命を伸ばすことが可能になり得、また、電力機器分野においては、トランスの変換効率を上げることができる効果がある。
【発明の属する技術分野】
本発明は、トランス、リアクトル、ノイズフィルターなどのコア材料、モーターなどのヨーク材料、磁気シールド材料などに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軟質磁性材料は、電子機器分野、あるいは電力機器分野に使用されている重要な部品の素材となっている。特に、これらの素材を使った最終製品の小型化、高性能化などのニーズが高くなっていることから、素材自体の高性能化への要求が益々高くなっている。
【0003】
高性能化要求の中で、特に、素材の鉄損を低減することは、電子機器分野においては余分なエネルギーを削減できるために、電池を使用している機器ではその寿命を伸ばすことが可能になり、また、電力機器分野においてはトランスの変換効率を上げることが可能になるため、種々の方法による鉄損特性の改善策が提案されている。
【0004】
鉄損を低減するための方策の一つとして、素材である磁性体の磁区を細分化することは従来から公知の方法であり、これを実現するために後述の種々の方法が開示されている。例えば、特許文献1には、軟磁性非晶質合金薄帯を斜め磁場中で焼鈍して磁区を細分化する方法が開示されている。特許文献2には、磁性合金薄帯に線状の歪を導入する方法が開示されている。特許文献3には、磁性合金薄帯に線状の熱影響部を導入する方法が開示されている。特許文献4には、超急冷合金薄帯の表面に非磁性化合物を生成させて磁区を細分化する方法が開示されている。特許文献5には、極薄珪素鋼薄帯を巻鉄心に加工して歪取焼鈍を施し、一端巻戻してレーザーなどを照射して特定の局所的歪を導入後、鉄心へ復元する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開昭56−84450号公報
【特許文献2】
特開昭57−161030号公報
【特許文献3】
特開昭57−161031号公報
【特許文献4】
特開昭62−67149号公報
【特許文献5】
特開平3−130321号公報、
【0006】
これらの方法は、磁場中熱処理時の印加磁場方向を斜めにしたもの、あるいは、磁性体薄帯中の表面内に局所的に磁気的なエネルギーの大きな部位を導入することによって、磁区を細分化する方法である。しかし、印加磁場方向を斜めにすることは、例えば、トロイダル状のコア材では容易ではなく、また、磁性体表面に局所的に磁気エネルギーの大きな部位を形成させる処理は、その局所部位同士の間隔、あるいは、その部位自体の大きさの最適化が容易ではないこと、さらに、その部位自体は歪によって大きな損傷を受けることになるためその部位自体の磁気特性か劣化してしまい、少なくとも磁性体のその部分の体積相当領域において磁性を担うための機能が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
特許文献6、および、特許文献7には非晶質合金薄帯の表面に存在する極薄酸化層によって磁区が細分化されることが開示されており、その機構として、極薄酸化層によって非晶質母相に張力が付与される効果によることが示されている。
【0008】
【特許文献】
特開2000−309860号公報、
【特許文献】
特開2000−313946号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、磁性体の鉄損を下げるための磁区幅の細分化を可能とし、かつ、従来の磁区細分化方法には無かった磁性体間の磁気的相互作用を用いることによって、単に磁区幅を狭めるだけではなく磁区幅自体の制御も可能とし、さらに、従来のように磁性体中に存在していた磁気特性の劣化部位を生じさせることのない磁性薄帯を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述のとおり、磁性薄帯の鉄損を低減する方策の一つとして、磁性体の磁区を細分化することは従来から公知である。
磁性薄帯の磁気異方性エネルギーが小さい場合には、磁性薄帯の磁化方向は薄帯の面内に平行方向に分布している方がエネルギー的には安定となる。このような状態にある磁性薄帯に、外部から磁場を印加して磁性薄帯内の磁化方向を面内方向から傾けると、磁性薄帯表面には磁極が生じ、静磁エネルギーが増加する。その結果、この増加したエネルギーを低下させようとして磁区の細分化が起こる。
【0011】
本発明者は、この外部から印加される磁場に相当するものについて検討を行ったところ、磁性薄帯を主相とし、この主相に隣接した第2相として磁性体を配置することにより、主相と第2相との磁気的相互作用を生じさせ、主相の磁区幅の制御が可能になることを見出した。
【0012】
さらに、本発明者は、第2相の磁性体から発生する磁場を主相に作用させる際に、第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向が、主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行でなければ、主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなることを新たに見出した。そして、主相である磁性薄帯表面の法線方向と、第2の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向とのなす角度が0〜80゜の場合に、特に効果的に主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることができることを新たに見出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)主相である磁性薄帯に第2相の磁性体を隣接させ、主相と第2相との磁気的相互作用によって、主相の磁区幅を細分化することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
(2)前記主相である磁性薄帯が、移動する冷却基板上にスロット状開口部を有する注湯ノズルを介して溶湯金属を噴出し、急冷凝固させて得られる急冷金属薄帯であることを特徴とする前記(1)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
(3)前記第2相の磁性体を隣接させる方法が、前記主相である磁性薄帯の表層部位を改質するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表層にドライプロセスまたは湿式プロセスで合金層を付加するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表面に前記第2相を重ね合わせて固定するもの、であることを特徴とする前記(1)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
【0014】
(4)主相である磁性薄帯の表面の少なくとも片側の面に、第2相の磁性体が隣接した構造を有することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(5)前記主相と前記第2相の磁気的相互作用によって主相の磁区幅が制御されることを特徴とする前記(4)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(6)前記第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向と、前記主相である磁性薄帯表面の法線方向とのなす角度をθとした場合、θが0°以上80°以下であることを特徴とする前記(4)または(5)に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(7)前記主相である磁性薄帯が、Fe基非晶質合金薄帯であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(8)前記主相である磁性薄帯の厚みが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(9)前記第2相の磁性体の磁気異方性エネルギーの絶対値が、前記主相である磁性薄帯の磁気異方性エネルギーよりも大きいことを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(10)前記第2相の磁性体が、1相または少なくとも2相の構造であることを特徴とする前記(4),(5),(6),(9)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
(11)前記第2相の磁性体の主体が、酸化物磁性体および/または金属磁性体であることを特徴とする前記(4),(5),(6),(9),(10)のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴とするところは、磁性を担う磁性薄帯の鉄損を低減して性能を向上させる目的で、磁性薄帯の磁区幅を制御するに際して、磁性薄帯を主相とし、この主相に隣接した第2相として磁性体を配置し、主相と第2相との磁気的相互作用を利用することによって、主相の磁区幅が制御されていることにある。
【0016】
本発明の特徴である磁気的相互作用について説明する。
第2相は主相に隣接して配置された磁性体であり、この磁性体から発生する磁場を主相に作用させる。この第2相の磁性体は、主相の磁性薄帯の少なくとも片側の表面に存在すれば、本発明の特徴である主相と第2相の磁性体との磁気的相互作を生じさせ、主相の磁性薄帯の磁区幅の制御が可能になる。この第2相の磁性体は、主相の磁性薄帯の両面に存在していても良い。ただし、この場合には、主相の両面に存在する第2相の磁性体の磁化方向は、それぞれが平行になるように制御することが好ましい。このように制御することによって、主相に及ぼす磁気的相互作用がより効果的に作用する。
【0017】
第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向は、主相である磁性薄帯表面の法線方向と平行な成分であることが必要である。なぜならば、この成分が無い場合には第2相の磁性体によって、効果的に、主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなるからである。好ましくは、第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向と主相である磁性薄帯表面の法線方向とのなす角度をθとした場合、θが0゜以上80°以下であることが好ましい。
【0018】
θが80゜より大きくなると、第2相の磁性体により、効果的に主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが難しくなるからである。θが0゜の場合は、両者の磁気的相互作用が最大になるため、第2相の磁性体により主相の磁性薄帯の磁化方向を面内から傾けることが、最も効果的にできるようになる。より好ましくは、第2相の磁性体の磁化容易軸は1軸であれば、第2相の磁性体の磁化方向の制御がより容易になる。磁化容易軸は、物質固有の特定の結晶方位に存在するため、第2相が結晶質の場合には第2相の結晶方位を制御すればθは容易に制御可能となる。
【0019】
第2相の磁性体の磁化方向は、主相である磁性薄帯の磁化によって影響されないことが望ましい。影響されてしまうと、第2相の磁性体により主相の磁化を傾ける効果が低減するからである。この条件を満たすには、第2相の磁性体の磁気異方性エネルギーが主相である磁性薄帯の磁気異方性エネルギーよりも大きいことが必要である。第2相の磁気異方性エネルギーは、主相の磁気異方性エネルギーよりも2割以上大きければ、本発明の効果を発現させることができる。
【0020】
第2相の磁性体は、その磁化によって生じる磁場が主相である磁性薄帯に効果的に作用すれば良い。このためには、第2相の磁性体の構造は1相構造であっても良く、または、2相以上であっても良い。相数が2相以上の場合には、それぞれの相の磁化の方向が揃っている方が、本発明の特徴である主相と第2相との磁気的相互作用がより有効に生じて、より有効に主相の磁区幅の制御が可能となる。ただし、後述のように、第2相の磁性体の厚みは、主相である磁性薄帯の厚みの10%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明に関する主相の磁性薄帯は、例えば、移動する冷却基板上にスロット状開口部を有する注湯ノズルを介して溶湯金属を噴出し、急冷凝固させて得られる急冷金属薄帯である。この急冷金属薄帯は、合金組成を適正に選ぶことによって、非晶質合金とすることが可能である。例えば、Feを主体とした合金組成であれば、Fe基非晶質合金薄帯とすることができる。Fe基非晶質合金薄帯の場合には、薄帯長手方向に磁場を印加した状態でアニール処理を施すことによって、薄帯長手方向に180°磁区を形成させることができる。
【0022】
本発明に関する主相の磁性薄帯は、前記した急冷金属薄帯を得る方法、あるいは、一般的な製鋼、圧延などによる鉄鋼製造プロセス法で製造されたものである。また、スパッタ、蒸着、電析、メッキ、粉末冶金などによって製造された磁性薄帯も本発明に含まれる。例えば、急冷金属薄帯を得る場合には、Fe−Si−B系、Co−B−Si系、Ni−B−Si系、あるいは、Fe−Co−Ni−B−Si系などの合金組成を用いる。組成範囲を選ぶことによって、非晶質合金とすることができる。圧延などによって主相の磁性薄帯を製造する場合には、パーマロイ系、Fe−Si系などを用いる。ソフトフェライトなどを主相の磁性薄帯に用いる場合には、最初から薄く紛体を成型・焼結して製造するか、もしくは、バルク体から所定厚みに切り出して製造することができる。
【0023】
本発明に関する第2相の磁性体は、比較的、磁気異方性エネルギーが大きいことが必要であり、さらに好ましくは、結晶磁気異方性を有していることが好ましい。この結晶磁気異方性を有していることによって、主相である磁性薄帯に第2相の磁性体を一体化或いは隣接させた場合に、第2相の磁性体の結晶配向を制御することによって、その磁化方向の制御が可能となる。このような物性を有している第2の磁性体としては、酸化物磁性体あるいは金属磁性体であれば、本発明の効果を発現させることができる。
【0024】
本発明に関する第2相の磁性体は、主相である磁性薄帯の表層部位を改質して一体形成させるか、あるいは、主相の磁性薄帯に主相とは別に付加する方法によって隣接形成させることができる。主相の磁性薄帯の表層を直接改質する方法としては、例えば、酸素、あるいは、窒素雰囲気中で表層のみを所定の厚みだけ酸化、あるいは窒化させる方法がある。Fe主体の主相であれは、酸化によってFe2O3,Fe3O4などのFe酸化物、窒化によってFe4Nなどの窒化物を形成させて、本発明に関する第2相の磁性体とすることができる。その他、イオン注入などによって、主相の表層に第2相の磁性体を形成させることもできる。
【0025】
次に、主相とは別に第2相の磁性体を付加する方法としては、スパッタ、蒸着などのドライプロセス、あるいは、メッキなどの湿式プロセスが適用できる。後から主相に付加する第2の磁性体としての合金組成を選定すれば、種々のプロセスから最適なものを決めることができる。この他に、第2相の磁性体を主相である磁性薄帯に重ね合わせた後、端部を公知の有機系接着剤を用いて接着して固定しても良いし、または、主相と第2相の端部を同時に電解メッキ、あるいは無電解メッキによって固定しても良い。
【0026】
本発明に関する主相である磁性薄帯の厚みは、5μm以上500μm以下であれば良い。5μm未満では実用的な用途範囲が狭くなり、500μm超の厚みでは、第2相の磁性体との磁気的相互作用が主相の板厚全体に効果的に作用し難くなるからである。第2相の磁性体の厚みは、5nm以上50μm以下であれば良い。5nm未満では第2相の磁性体から発生する磁場が小さくなって、本発明の効果が発現し難くなる。一方、50μm超では、第2相の磁性体における、実用特性に用いる磁性を担わない部分の体積が大きくなって、無駄が発生するからである。第2相の磁性体の厚みは、主相である磁性薄帯の厚みの10%以下であれば、第2相の磁性体における実用特性を担わない部分の体積を小さくすることができる。この第2相の磁性体の厚みは、磁気的相互作用が十分及ぶ範囲であれば、極力薄い方が好ましい。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
主相として用いる磁性薄帯を単ロール液体急冷法で作製した。合金組成は、原子%でFe80.5Si6.5B12C1である。この合金を石英るつぼ内で溶解し、幅0.4mm×長さ5mmのスロットが1mm間隔で平行に2つ並んでいるダブルスロットノズルから、回転しているCu製冷却ロール上に噴出して、非晶質合金薄帯を得た。Cu製冷却ロールの周速度は24m/秒である。得られた薄帯は、板厚50μm、幅5mmであった。
次に、この薄帯を20mm長さに切断後、化学研磨によって表面を平坦にした後、360℃で1時間、50エルステッドの直流磁場中でアニールした。雰囲気はアルゴンである。このアニール処理後の薄帯を磁区走査型電子顕微鏡によって磁区観察した結果、2.8mm幅の180°磁区が形成されていた。
【0028】
第2相の磁性体としては、Co単結晶を用いた。Coの磁化容易軸はc軸であるため、単結晶から切り出す時に切り出し面の法線方向とc軸とのなす角度θを種々かえて、θの値を調整したものを複数個作製した。次に、各切り出し片に機械研磨、電解研磨を施し、板厚が4μmになるまで薄く加工した。加工後は、ひずみを除去するためのアニールを施した。
次に、非晶質薄帯の化学研磨面に、種々のθの角度を持つCo薄帯を重ね合わせた後に端部を接着剤で固定した。なお、貼り合わせる時には、ひずみが極力入らないように取り扱った。その後、Co単結晶面と反対側の非晶質薄帯面側から磁区観察を行い、主相の磁区幅を測定した。さらに、SST(単板磁気測定器)で、1.3T、50Hzでの鉄損を測定した。
【0029】
表1に、第2相を貼り合わせたことによる主相の磁区幅とθとの関係を示す。また、試料No.7の鉄損値を基準とした各試料の鉄損の改善率も合せて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1の結果からわかるように、θが0°以上80°以下の範囲(試料No.1〜5)では、磁区幅は1割以上減少し、さらに、磁区幅の減少にともなって鉄損が改善されていることがわかる。しかし、θが80°超となると(試料No.6,7)、磁区幅の減少効果は小さくなり、鉄損の改善も殆どみられないことがわかる。
【0032】
以上の結果から、本発明による制御された磁気的相互作用を用いることによって、磁性薄帯の磁区の細分化を制御することが可能となり、これにより、鉄損も低減できることが明らかである。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様の合金組成および形状の磁性薄帯を同様の方法で製造し、得られた薄帯を120mm長さに切断した後、360℃で1時間、50エルステットの直流磁場中でアニールした。雰囲気はアルゴンである。
その後、この非晶質合金薄帯を酸素雰囲気中で300°まで昇温し、表面層を酸化させて、約35nm厚の結晶質のFe3O4 磁性体を形成させた。この磁性体の磁化容易軸は<111>であり、透過電子顕微鏡で結晶方位を調べたところ、[111]方向が薄帯面の法線方向に対して、θ=22°の方位に比較的優先的に揃っていることが確認できた。その後、アルゴン中で280℃、5時間の熱処理を行い、薄帯中の応力を除去した。
【0034】
表2に、酸化処理前と応力除去処理後で測定した磁性薄帯の磁区幅、およびSSTで測定した1.3T、50Hzでの鉄損を示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2の結果から、本発明による第2相の磁性体を主相である磁性薄帯に付与することによって、磁区細分化が生じ、鉄損も低減され、軟磁気特性に優れた磁性薄帯が得られることがわかる。
【0037】
【発明の効果】
本発明による磁性薄帯は、磁性体の鉄損を下げるための磁区幅の細分化が可能となる。そればかりではなく、従来の磁区細分化方法には無かった磁性体間の磁気的相互作用を用いることによって、単に磁区幅を狭めるだけではなく磁区幅自体の制御も可能とし、さらに、従来のように磁性体中に存在していた磁気特性の劣化部位を生じさせることのない磁性薄帯を提供し得る。
したがって、本発明による磁性薄帯を用いて、リアクトル、トランスなどの電子機器部品あるいは電力機器部品を構成させた場合、余分なエネルギ−を削減できるため、電池を使用している機器ではその寿命を伸ばすことが可能になり得、また、電力機器分野においては、トランスの変換効率を上げることができる効果がある。
Claims (11)
- 主相である磁性薄帯に第2相の磁性体を一体に或いは隣接させて形成し、主相と第2相との磁気的相互作用によって、主相の磁区幅を細分化することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
- 前記主相である磁性薄帯が、移動する冷却基板上にスロット状開口部を有する注湯ノズルを介して溶湯金属を噴出し、急冷凝固させて得られる急冷金属薄帯であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
- 前記第2相の磁性体を隣接させる方法が、前記主相である磁性薄帯の表層部位を改質するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表層にドライプロセスまたは湿式プロセスで合金層を付加するもの、または、前記主相である磁性薄帯の表面に前記第2相を重ね合わせて固定するもの、であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯の製造方法。
- 主相である磁性薄帯の表面の少なくとも片側の面に、第2相の磁性体が一体に或いは隣接した構造を有することを特徴とする軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記主相と前記第2相の磁気的相互作用によって主相の磁区幅が制御されることを特徴とする請求項4に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記第2相の磁性体の磁化容易軸方向の少なくとも1方向と、前記主相である磁性薄帯表面の法線方向とのなす角度をθとした場合、θが0°以上80°以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記主相である磁性薄帯が、Fe基非晶質合金薄帯であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記主相である磁性薄帯の厚みが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記第2相の磁性体の磁気異方性エネルギーの絶対値が、前記主相である磁性薄帯の磁気異方性エネルギーよりも大きいことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記第2相の磁性体が、1相または少なくとも2相の構造であることを特徴とする請求項4,5,6,9のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
- 前記第2相の磁性体の主体が、酸化物磁性体および/または金属磁性体であることを特徴とする請求項4,5,6,9,10のいずれかに記載の軟磁気特性に優れた磁性薄帯。
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