JP2004189529A - 湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤及び湿式吹付け用コンクリート - Google Patents
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Abstract
【課題】湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤において、混合後のコンクリートの流動性の経時変化を抑え、もって吹付け条件を安定化させて、常に一定の高レベルな粉塵低減効果を得る。
【解決手段】水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドを含有してなる粉塵低減剤であって、前記ポリエチレンオキサイドとして、粒径150μm以下の粒分が70重量%以上、好ましくは更に粒径250μm以下の粒分が90重量%以上である、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを使用した湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤である。
【選択図】 図1
【解決手段】水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドを含有してなる粉塵低減剤であって、前記ポリエチレンオキサイドとして、粒径150μm以下の粒分が70重量%以上、好ましくは更に粒径250μm以下の粒分が90重量%以上である、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを使用した湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤、及び、該粉塵低減剤を含有する湿式吹付け用コンクリートに関するものである。本発明においてコンクリートとは、セメントモルタルとセメントコンクリートを総称するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートの吹付け工法は、例えば、道路や鉄道などのトンネルにおいて露出した地山の崩落を防止するために従来より一般に行われている。かかる吹付け工法には、乾式吹付け工法と湿式吹付け工法とがあるが、最近では、セメントと骨材と水を予め撹拌混合してコンクリートを調製しておき、これを施工現場にてポンプ圧送して地山面に吹き付ける湿式吹付け工法が主流になっている。
【0003】
このようなコンクリートの吹付け工法においては、吹付け時における粉塵の発生を抑制するために、従来より水溶性セルロースエーテルやポリエチレンオキサイドなどの粉塵低減剤を配合することが行われている。
【0004】
【特許文献1】特公昭60−13987号公報
【0005】
【特許文献2】特開2001−164897号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の粉塵低減剤では、得られるコンクリートの流動性が経時変化しやすく、そのため吹付け条件が安定せず、結果として粉塵低減効果が少なくなる現象が多発していた。このようにコンクリートの流動性が経時変化することは、コンクリートの調製と現場での吹き付けとの間に時間的な隔たりがある湿式吹き付け工法においては特に重要であり、調製から吹き付けまでに要した時間によって吹き付け時のコンクリートの状態がばらつき、粉塵低減効果にもばらつきが生じる結果となる。近年、作業環境の改善は作業者の健康保護の観点からますます重要な課題となっており、そのため粉塵低減効果がばらつくような粉塵低減剤は、たとえ高い粉塵低減効果を有するものであったとしても、実際には使用しづらいという問題がある。
【0007】
上記のようなコンクリートの流動性の経時変化は、粉塵低減剤としてポリエチレンオキサイドを配合した場合にみられる現象である。これについて検討したところ、コンクリートにポリエチレンオキサイドを配合すると、コンクリートの撹拌混合の初期段階においてセメントが凝集しやすく、この凝集作用によるコワバリのため流動性が一時的に低下しまう。その後、流動性が増加して一定の粘度にはなるものの、それまでに要する時間が一般的な撹拌時間(60秒間)よりも長く、そのため従来は不十分な状態で撹拌を終了しており、このことが、得られたコンクリートの流動性が経時変化する要因になっていることが判明した。
【0008】
このような問題に対し、混合直後から一定の流動性(粘度)を持つようにするためには、撹拌時間を延長することが考えられるが、撹拌時間を延長とすると作業効率の低下をもたらすという問題がある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、短時間の撹拌でも一定の流動性を確保して、混合後のコンクリートにおける流動性の経時変化を抑えることができ、これにより吹付け条件を安定化させて、常に一定の高レベルな粉塵低減効果を得ることができる湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するためにポリエチレンオキサイドの粒径に着目した。すなわち、従来より一般に市販されているポリエチレンオキサイドは粒径150μm以下の粒分がせいぜい30重量%と粒度の粗いものであり、そのため溶解に時間を要し、上記凝集作用によるコワバリが解消するまでに時間がかかるのではないかと考えた。そして、ポリエチレンオキサイドの粒度を一定以上に細かくすることで、コワバリ抑制効果だけでなく、短時間の撹拌でも、得られたコンクリートにおける流動性の経時変化を少なくすることができ、これにより上記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドを含有してなる粉塵低減剤であって、前記ポリエチレンオキサイドは粒径150μm以下の粒分が70重量%以上であることを特徴とする湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤を提供するものである。
【0012】
本発明はまた、この粉塵低減剤と、セメント、骨材及び水を撹拌混合してなる湿式吹付け用コンクリートを提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明で使用する水溶性セルロースエーテルは、ポリエチレンオキサイドとともに吹付け時の粉塵を低減する作用を果たすものであり、例えば、メチルセルロース等の水溶性アルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性ヒドロキシアルキルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシブチルセルロース等の水溶性アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどが挙げられる。
【0015】
本発明で使用するポリエチレンオキサイドは、粒径150μm以下の粒分が70重量%以上のものである。ポリエチレンオキサイドの粒度がこれよりも粗いと、コンクリートの撹拌調製時に溶解しにくく、上記した課題を解決することができない。該ポリエチレンオキサイドは、更に、粒径250μm以下の粒分が90重量%以上であることが好ましく、このように粒径の大きいものを極力含まないようにすることで、一層効果的に短時間で一様なコンクリートの調製が可能となる。なお、ポリエチレンオキサイドの分子量は、粉塵低減作用を高め、かつ吹付け時のコンクリートの圧送性を確保するため、150万〜500万程度であることが好ましい。
【0016】
本発明の粉塵低減剤には、上記の水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドの他に、必要に応じて、リグニンスルホン酸塩やポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等の減水剤、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーや高級アルコール等の消泡剤など、公知の各種添加剤を配合することができる。各成分の配合比率は、水溶性セルロースエーテルが40〜95重量%、ポリエチレンオキサイドが5〜40重量%、その他の成分が0〜30重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の粉塵低減剤においては、10重量%セメント水に対する1重量%溶液の粘度が50〜500mPa・sであり、かつ、その曳糸力が0.5〜7秒であることが好ましい。ここで、10重量%セメント水とは、水にセメント(詳細には、普通ポルトランドセメント)を10重量%にて懸濁させ、その不溶解成分を濾過して得られた水溶液のことであり、従って、このセメント水に粉塵低減剤を1重量%にて溶解させて得られた溶液について、その粘度(20℃)及び曳糸力が上記範囲内にあることが好ましい。また、曳糸力は、図2に示すように、先端に楕円体を持つ棒を上記溶液中に入れ、この棒を10mm/秒で引き上げたときに形成される糸が切れるまでの時間のことである。上記溶液の粘度が上記範囲を超えるとポンプの圧送性が低下し、配管詰まりの原因になる場合がある。また、曳糸力は大きいほど粉塵低減効果が高く好ましいが、上記範囲を超えるとポンプの圧送性が低下してしまう。上記粘度のより好ましい範囲は100〜300mPa・sであり、曳糸力のより好ましい範囲は1.0〜3.5秒である。
【0018】
本発明の粉塵低減剤においては、セメント、骨材及び水と撹拌混合したときに60秒以下でその混合物の粘度をほぼ一定にすることができるものであることが好ましい。湿式吹付け用コンクリートを強制二軸ミキサーで撹拌混合して調製する際、撹拌時間は一般に60秒に設定されているが、従来ポリエチレンオキサイドを粉塵低減剤として配合した場合、上記したように粘度が一定になるまでに60秒以上を要し、そのため撹拌後に粘度の経時変化のないコンクリートを得ようとすると撹拌時間を延長しなければならなかった。このように撹拌時間を延長しなければならないとすると作業効率が低下することから、作業効率を低下させることのない粉塵低減剤が求められていたのである。本発明は、上記のようにポリエチレンオキサイドの粒度を細かくしたことにより、ポリエチレンオキサイドを使用するものでありながら、初めて60秒以下の撹拌時間で粘度をほぼ一定にすることができたものである。
【0019】
本発明の粉塵低減剤は、コンクリート中のセメント100重量部に対して0.05〜0.3重量部にて配合させることが好ましい。粉塵低減剤の使用量が上記範囲よりも少ないと十分な粉塵低減効果が得られず、逆に上記範囲を超えるとコンクリートの粘性が大きくなりすぎてポンプ圧送性が低下する。
【0020】
本発明で使用するセメントとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュ等を混合した各種混合セメント、アルミナセメント、膨張セメントなどが挙げられる。また骨材としても特に限定されず、通常コンクリートに使用されている砂や砂利を使用することができる。
【0021】
本発明の吹付けコンクリートは、湿式吹付け工法に使用されるものであり、従って、セメント、骨材、水および上記粉塵低減剤、更に必要に応じてAE剤等の各種添加剤を、予め撹拌混合して製造され、施工現場にてポンプ圧送して地山面に吹き付けるものであり、吹付けの直前に急結剤を合流混合して吹き付けられる。撹拌装置としては、強制二軸ミキサーの他、公知の各種ミキサーが使用可能である。また、撹拌時間は上記したように従来の一般的な撹拌時間である60秒間であっても、粘度の経時変化のないコンクリートが得られる。更に、急結剤としては、粉末状でも液体状でも限定されることなく公知のものを使用可能である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜4及び比較例1〜2の各粉塵低減剤を、下記表1に示す組成に従って調製した。表中、「MHEC」はメチルヒドロキシエチルセルロース、「MHPC」はメチルヒドロキシプロピルセルロース、「HEC」はヒドロキシエチルセルロース、「PEO」はポリエチレンオキサイドを、それぞれ表す。また、「250μmパス」はふるい分けにより分離された粒径250μm以下の粒分の比率、「150μmパス」はふるい分けにより分離された粒径150μm以下の粒分の比率、をそれぞれ表す。
【0024】
得られた粉塵低減剤の性状として粘度と曳糸力を測定した。測定方法は以下の通りである。
【0025】
粘度:10重量%普通ポルトランドセメント水に対する粉塵低減剤1重量%溶液を調製し、該溶液の粘度をB型粘度計にて測定した(20℃)。
【0026】
曳糸力:上記粘度測定に用いた粉塵低減剤1重量%溶液を使用して、協和科学(株)製曳糸性試験機にて測定した(引き上げ速度=10mm/秒)。
【0027】
【表1】
【0028】
次いで、普通ポルトランドセメント360kg/m3、水215kg/m3、砂1065kg/m3、砂利718kg/m3、及び粉塵低減剤0.45kg/m3の配合にて湿式吹付け用コンクリートを調製した。調製は、撹拌装置として強制二軸ミキサー(太平洋機工(株)製、練り混ぜ量:0.5m3)を用い、これに上記セメント、砂、砂利及び粉塵低減剤を投入し、更に水を投入して60秒間撹拌混合(練り混ぜ)した。撹拌混合時における混合物の流動性の変化を図1に示す。流動性はミキサーの負荷電流値により評価した。電流値が高いほど流動性が小さいこと、即ち粘度が高いことを示す。また、下記表2に、60秒の撹拌混合終了時におけるミキサーの負荷電流値を示した。
【0029】
また、得られた各コンクリートについて、撹拌混合終了直後と、撹拌後60分経過した時点におけるスランプをJIS A 1101に準拠して測定した。
【0030】
更に、得られた各コンクリートを吹付け装置(アリバ社製「アリバ285」)に仕込み、吹付け直前に急結剤として電気化学工業(株)製「デンカナトミックType−5」をセメント100重量部に対して7重量部添加して、トンネルのアーチ部分に対して吹付け速度11m3/hにて吹き付け、粉塵量を測定した。粉塵量は、厚生労働省「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」(基発第768号 平成12年12月26日)に準拠し、切羽から50mの位置で、柴田化学器械工業(株)製デジタル粉塵計P−5L2型を使用して測定した。
【0031】
【表2】
【0032】
図1に示すように、粒度の粗いポリエチレンオキサイドを使用した比較例1,2では、60秒の練り混ぜ終了時においても電流値(粘度)が高いままであり、一定値に収束していなかった。これに対し、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを使用した実施例1〜4では、60秒以下、具体的には45秒程度の練り混ぜ時間で電流値(粘度)がほぼ一定値に収束しており、短時間で十分な初期流動性が確保できていた。
【0033】
そのため、実施例1〜4では、混合直後と60分経過後とでスランプ値の変化がほとんどなく、従って、流動性の経時変化がほとんどないことが確認された。これに対し、比較例1,2では、スランプ値の変化が大きく、流動性の経時変化の大きいものであった。
【0034】
また、吹付け時における粉塵量について、比較例1,2では、撹拌からの時間経過に伴う粉塵量のばらつきが大きく、また平均値としても粉塵量の多いものであったのに対し、実施例1〜4ではほとんどばらつきがなく、コンスタントに3mg/m3以下という少ない粉塵量が達成されていた。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを用いたことで、撹拌時間を延長しなくても、即ち短時間で、一定の流動性をもつコンクリートを調製することができ、従って調製後におけるコンクリートの流動性の経時変化を少なくして、吹付け条件を安定化させることができる。そのため、本発明によれば、水溶性セルロースエーテルとポリエチレンオキサイドとによる高レベルな粉塵低減効果を安定して発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンクリートの撹拌混合時におけるミキサーの負荷電流値を示すグラフである。
【図2】曳糸力の測定方法を示す概略図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤、及び、該粉塵低減剤を含有する湿式吹付け用コンクリートに関するものである。本発明においてコンクリートとは、セメントモルタルとセメントコンクリートを総称するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートの吹付け工法は、例えば、道路や鉄道などのトンネルにおいて露出した地山の崩落を防止するために従来より一般に行われている。かかる吹付け工法には、乾式吹付け工法と湿式吹付け工法とがあるが、最近では、セメントと骨材と水を予め撹拌混合してコンクリートを調製しておき、これを施工現場にてポンプ圧送して地山面に吹き付ける湿式吹付け工法が主流になっている。
【0003】
このようなコンクリートの吹付け工法においては、吹付け時における粉塵の発生を抑制するために、従来より水溶性セルロースエーテルやポリエチレンオキサイドなどの粉塵低減剤を配合することが行われている。
【0004】
【特許文献1】特公昭60−13987号公報
【0005】
【特許文献2】特開2001−164897号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の粉塵低減剤では、得られるコンクリートの流動性が経時変化しやすく、そのため吹付け条件が安定せず、結果として粉塵低減効果が少なくなる現象が多発していた。このようにコンクリートの流動性が経時変化することは、コンクリートの調製と現場での吹き付けとの間に時間的な隔たりがある湿式吹き付け工法においては特に重要であり、調製から吹き付けまでに要した時間によって吹き付け時のコンクリートの状態がばらつき、粉塵低減効果にもばらつきが生じる結果となる。近年、作業環境の改善は作業者の健康保護の観点からますます重要な課題となっており、そのため粉塵低減効果がばらつくような粉塵低減剤は、たとえ高い粉塵低減効果を有するものであったとしても、実際には使用しづらいという問題がある。
【0007】
上記のようなコンクリートの流動性の経時変化は、粉塵低減剤としてポリエチレンオキサイドを配合した場合にみられる現象である。これについて検討したところ、コンクリートにポリエチレンオキサイドを配合すると、コンクリートの撹拌混合の初期段階においてセメントが凝集しやすく、この凝集作用によるコワバリのため流動性が一時的に低下しまう。その後、流動性が増加して一定の粘度にはなるものの、それまでに要する時間が一般的な撹拌時間(60秒間)よりも長く、そのため従来は不十分な状態で撹拌を終了しており、このことが、得られたコンクリートの流動性が経時変化する要因になっていることが判明した。
【0008】
このような問題に対し、混合直後から一定の流動性(粘度)を持つようにするためには、撹拌時間を延長することが考えられるが、撹拌時間を延長とすると作業効率の低下をもたらすという問題がある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、短時間の撹拌でも一定の流動性を確保して、混合後のコンクリートにおける流動性の経時変化を抑えることができ、これにより吹付け条件を安定化させて、常に一定の高レベルな粉塵低減効果を得ることができる湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するためにポリエチレンオキサイドの粒径に着目した。すなわち、従来より一般に市販されているポリエチレンオキサイドは粒径150μm以下の粒分がせいぜい30重量%と粒度の粗いものであり、そのため溶解に時間を要し、上記凝集作用によるコワバリが解消するまでに時間がかかるのではないかと考えた。そして、ポリエチレンオキサイドの粒度を一定以上に細かくすることで、コワバリ抑制効果だけでなく、短時間の撹拌でも、得られたコンクリートにおける流動性の経時変化を少なくすることができ、これにより上記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドを含有してなる粉塵低減剤であって、前記ポリエチレンオキサイドは粒径150μm以下の粒分が70重量%以上であることを特徴とする湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤を提供するものである。
【0012】
本発明はまた、この粉塵低減剤と、セメント、骨材及び水を撹拌混合してなる湿式吹付け用コンクリートを提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明で使用する水溶性セルロースエーテルは、ポリエチレンオキサイドとともに吹付け時の粉塵を低減する作用を果たすものであり、例えば、メチルセルロース等の水溶性アルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性ヒドロキシアルキルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシブチルセルロース等の水溶性アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどが挙げられる。
【0015】
本発明で使用するポリエチレンオキサイドは、粒径150μm以下の粒分が70重量%以上のものである。ポリエチレンオキサイドの粒度がこれよりも粗いと、コンクリートの撹拌調製時に溶解しにくく、上記した課題を解決することができない。該ポリエチレンオキサイドは、更に、粒径250μm以下の粒分が90重量%以上であることが好ましく、このように粒径の大きいものを極力含まないようにすることで、一層効果的に短時間で一様なコンクリートの調製が可能となる。なお、ポリエチレンオキサイドの分子量は、粉塵低減作用を高め、かつ吹付け時のコンクリートの圧送性を確保するため、150万〜500万程度であることが好ましい。
【0016】
本発明の粉塵低減剤には、上記の水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドの他に、必要に応じて、リグニンスルホン酸塩やポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等の減水剤、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーや高級アルコール等の消泡剤など、公知の各種添加剤を配合することができる。各成分の配合比率は、水溶性セルロースエーテルが40〜95重量%、ポリエチレンオキサイドが5〜40重量%、その他の成分が0〜30重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の粉塵低減剤においては、10重量%セメント水に対する1重量%溶液の粘度が50〜500mPa・sであり、かつ、その曳糸力が0.5〜7秒であることが好ましい。ここで、10重量%セメント水とは、水にセメント(詳細には、普通ポルトランドセメント)を10重量%にて懸濁させ、その不溶解成分を濾過して得られた水溶液のことであり、従って、このセメント水に粉塵低減剤を1重量%にて溶解させて得られた溶液について、その粘度(20℃)及び曳糸力が上記範囲内にあることが好ましい。また、曳糸力は、図2に示すように、先端に楕円体を持つ棒を上記溶液中に入れ、この棒を10mm/秒で引き上げたときに形成される糸が切れるまでの時間のことである。上記溶液の粘度が上記範囲を超えるとポンプの圧送性が低下し、配管詰まりの原因になる場合がある。また、曳糸力は大きいほど粉塵低減効果が高く好ましいが、上記範囲を超えるとポンプの圧送性が低下してしまう。上記粘度のより好ましい範囲は100〜300mPa・sであり、曳糸力のより好ましい範囲は1.0〜3.5秒である。
【0018】
本発明の粉塵低減剤においては、セメント、骨材及び水と撹拌混合したときに60秒以下でその混合物の粘度をほぼ一定にすることができるものであることが好ましい。湿式吹付け用コンクリートを強制二軸ミキサーで撹拌混合して調製する際、撹拌時間は一般に60秒に設定されているが、従来ポリエチレンオキサイドを粉塵低減剤として配合した場合、上記したように粘度が一定になるまでに60秒以上を要し、そのため撹拌後に粘度の経時変化のないコンクリートを得ようとすると撹拌時間を延長しなければならなかった。このように撹拌時間を延長しなければならないとすると作業効率が低下することから、作業効率を低下させることのない粉塵低減剤が求められていたのである。本発明は、上記のようにポリエチレンオキサイドの粒度を細かくしたことにより、ポリエチレンオキサイドを使用するものでありながら、初めて60秒以下の撹拌時間で粘度をほぼ一定にすることができたものである。
【0019】
本発明の粉塵低減剤は、コンクリート中のセメント100重量部に対して0.05〜0.3重量部にて配合させることが好ましい。粉塵低減剤の使用量が上記範囲よりも少ないと十分な粉塵低減効果が得られず、逆に上記範囲を超えるとコンクリートの粘性が大きくなりすぎてポンプ圧送性が低下する。
【0020】
本発明で使用するセメントとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュ等を混合した各種混合セメント、アルミナセメント、膨張セメントなどが挙げられる。また骨材としても特に限定されず、通常コンクリートに使用されている砂や砂利を使用することができる。
【0021】
本発明の吹付けコンクリートは、湿式吹付け工法に使用されるものであり、従って、セメント、骨材、水および上記粉塵低減剤、更に必要に応じてAE剤等の各種添加剤を、予め撹拌混合して製造され、施工現場にてポンプ圧送して地山面に吹き付けるものであり、吹付けの直前に急結剤を合流混合して吹き付けられる。撹拌装置としては、強制二軸ミキサーの他、公知の各種ミキサーが使用可能である。また、撹拌時間は上記したように従来の一般的な撹拌時間である60秒間であっても、粘度の経時変化のないコンクリートが得られる。更に、急結剤としては、粉末状でも液体状でも限定されることなく公知のものを使用可能である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜4及び比較例1〜2の各粉塵低減剤を、下記表1に示す組成に従って調製した。表中、「MHEC」はメチルヒドロキシエチルセルロース、「MHPC」はメチルヒドロキシプロピルセルロース、「HEC」はヒドロキシエチルセルロース、「PEO」はポリエチレンオキサイドを、それぞれ表す。また、「250μmパス」はふるい分けにより分離された粒径250μm以下の粒分の比率、「150μmパス」はふるい分けにより分離された粒径150μm以下の粒分の比率、をそれぞれ表す。
【0024】
得られた粉塵低減剤の性状として粘度と曳糸力を測定した。測定方法は以下の通りである。
【0025】
粘度:10重量%普通ポルトランドセメント水に対する粉塵低減剤1重量%溶液を調製し、該溶液の粘度をB型粘度計にて測定した(20℃)。
【0026】
曳糸力:上記粘度測定に用いた粉塵低減剤1重量%溶液を使用して、協和科学(株)製曳糸性試験機にて測定した(引き上げ速度=10mm/秒)。
【0027】
【表1】
【0028】
次いで、普通ポルトランドセメント360kg/m3、水215kg/m3、砂1065kg/m3、砂利718kg/m3、及び粉塵低減剤0.45kg/m3の配合にて湿式吹付け用コンクリートを調製した。調製は、撹拌装置として強制二軸ミキサー(太平洋機工(株)製、練り混ぜ量:0.5m3)を用い、これに上記セメント、砂、砂利及び粉塵低減剤を投入し、更に水を投入して60秒間撹拌混合(練り混ぜ)した。撹拌混合時における混合物の流動性の変化を図1に示す。流動性はミキサーの負荷電流値により評価した。電流値が高いほど流動性が小さいこと、即ち粘度が高いことを示す。また、下記表2に、60秒の撹拌混合終了時におけるミキサーの負荷電流値を示した。
【0029】
また、得られた各コンクリートについて、撹拌混合終了直後と、撹拌後60分経過した時点におけるスランプをJIS A 1101に準拠して測定した。
【0030】
更に、得られた各コンクリートを吹付け装置(アリバ社製「アリバ285」)に仕込み、吹付け直前に急結剤として電気化学工業(株)製「デンカナトミックType−5」をセメント100重量部に対して7重量部添加して、トンネルのアーチ部分に対して吹付け速度11m3/hにて吹き付け、粉塵量を測定した。粉塵量は、厚生労働省「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」(基発第768号 平成12年12月26日)に準拠し、切羽から50mの位置で、柴田化学器械工業(株)製デジタル粉塵計P−5L2型を使用して測定した。
【0031】
【表2】
【0032】
図1に示すように、粒度の粗いポリエチレンオキサイドを使用した比較例1,2では、60秒の練り混ぜ終了時においても電流値(粘度)が高いままであり、一定値に収束していなかった。これに対し、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを使用した実施例1〜4では、60秒以下、具体的には45秒程度の練り混ぜ時間で電流値(粘度)がほぼ一定値に収束しており、短時間で十分な初期流動性が確保できていた。
【0033】
そのため、実施例1〜4では、混合直後と60分経過後とでスランプ値の変化がほとんどなく、従って、流動性の経時変化がほとんどないことが確認された。これに対し、比較例1,2では、スランプ値の変化が大きく、流動性の経時変化の大きいものであった。
【0034】
また、吹付け時における粉塵量について、比較例1,2では、撹拌からの時間経過に伴う粉塵量のばらつきが大きく、また平均値としても粉塵量の多いものであったのに対し、実施例1〜4ではほとんどばらつきがなく、コンスタントに3mg/m3以下という少ない粉塵量が達成されていた。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、粒度の細かいポリエチレンオキサイドを用いたことで、撹拌時間を延長しなくても、即ち短時間で、一定の流動性をもつコンクリートを調製することができ、従って調製後におけるコンクリートの流動性の経時変化を少なくして、吹付け条件を安定化させることができる。そのため、本発明によれば、水溶性セルロースエーテルとポリエチレンオキサイドとによる高レベルな粉塵低減効果を安定して発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンクリートの撹拌混合時におけるミキサーの負荷電流値を示すグラフである。
【図2】曳糸力の測定方法を示す概略図である。
Claims (4)
- 水溶性セルロースエーテル及びポリエチレンオキサイドを含有してなる粉塵低減剤であって、前記ポリエチレンオキサイドは粒径150μm以下の粒分が70重量%以上であることを特徴とする湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤。
- 前記ポリエチレンオキサイドは粒径250μm以下の粒分が90重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤。
- 10重量%セメント水に対する1重量%溶液の粘度が50〜500mPa・sであり、かつその曳糸力が0.5〜7秒であることを特徴とする請求項1又は2記載の湿式吹付けコンクリート用粉塵低減剤。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の粉塵低減剤、セメント、骨材及び水を撹拌混合してなる湿式吹付け用コンクリート。
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