JP2004181616A - 硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性および表面潤滑性を有する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性を有する表面被覆サーメット製切削工具を提供する。
【解決手段】表面被覆サーメット製切削工具が、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、(a)下部層として、1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、(b)上部層として、化学蒸着形成した状態で特定結晶構造を有すと共に、加熱変態生成クラックが分散分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型Al2O3層、(c)表面下地層として、化学蒸着形成され、0.1〜2μmの平均層厚を有すTiN層、(d)表面層として、化学蒸着形成され、特定組成比率を有し、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有するTi酸化物層、以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を形成してなる。
【選択図】 なし
【解決手段】表面被覆サーメット製切削工具が、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、(a)下部層として、1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、(b)上部層として、化学蒸着形成した状態で特定結晶構造を有すと共に、加熱変態生成クラックが分散分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型Al2O3層、(c)表面下地層として、化学蒸着形成され、0.1〜2μmの平均層厚を有すTiN層、(d)表面層として、化学蒸着形成され、特定組成比率を有し、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有するTi酸化物層、以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を形成してなる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼や鋳鉄などの高速断続切削時に切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し付加される熱衝撃に対して硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性を示し、さらに特にステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層が切粉に対してすぐれた表面潤滑性を示すことから、通常の鋼や鋳鉄は勿論のこと、ステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高速断続切削加工に用いた場合にも、切刃にチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する蒸着α型酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、一般に、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やAl2 O3 層が粒状結晶組織を有し、さらに前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物、例えばCH3CNを含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−31503号公報
【特許文献2】
特開平6−8010号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを切削条件の最も厳しい高速断続切削、すなわち切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し熱衝撃が付加される高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層の上部層を構成するAl2O3層は、硬質で耐熱性にすぐれるものの、熱衝撃に脆いために、硬質被覆層にはチッピング(微小欠け)が発生し易く、さらにきわめて粘性の高いステンレス鋼や軟鋼などの被削材の高速断続切削では、これら被削材の切粉は、硬質被覆層を構成する特にAl2O3層に対する親和性が高いために、切刃表面に溶着し易く、この溶着現象が前記の繰り返し熱衝撃現象と相俟って、切刃には一段とチッピングが発生し易くなり、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記のステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速断続切削加工でも、切刃がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具を開発すべく研究を行った結果、
工具基体の表面に、通常の化学蒸着装置で、下部層として、通常の条件で、上記Ti化合物層を形成した後、同じく通常の条件で、結晶構造がκ型またはθ型のAl2O3層を蒸着形成し、この状態で水素雰囲気中、温度:1000〜1100℃、保持温度:2〜10時間の条件で加熱処理を施すと、前記Al2O3層のκ型またはθ型の結晶構造がα型結晶構造に変態し、かつ加熱変態生成クラックが層中に分散分布した組織を有するようになり、この加熱変態α型Al2O3層を上部層とし、この上部層の表面に、表面下地層として同じく通常の条件で窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層を蒸着形成した状態で、
反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
CO2:0.1〜10%、
Ar:5〜60%、
H2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa(30〜525torr)、
とした条件で、0.1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、Tiに対する酸素の割合が原子比で1.2〜1.9、即ち、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、
X:Tiに対する原子比で1.2〜1.9、
を満足するTi酸化物層を表面層として蒸着形成すると、前記表面下地層としてのTiN層が、前記加熱変態α型Al2O3層との界面でこれの加熱変態生成クラック中に十分に入り込んで前記加熱変態生成クラックを著しく安定化した状態に保持すると共に、前記加熱変態α型Al2O3層と前記Ti酸化物層との反応を著しく抑制し、かつこれら両者と強固に密着し、さらに前記Ti酸化物層は、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低く、これは高い発熱を伴う高速切削加工でも変わらない性質をもつことから、硬質被覆層の下部層および上部層が上記Ti化合物層および加熱変態α型Al2O3層で構成され、これに表面下地層としてのTiN層を介して表面層としてTi酸化物層が蒸着形成された被覆サーメット工具においては、前記上部層を構成する加熱変態α型Al2O3層中に分散分布する加熱変態生成クラックが、特に高速断続切削時の激しい熱衝撃を吸収して、これを緩和し、さらに前記表面層のTi酸化物層は切粉が溶着し難い性質、すなわちすぐれた表面潤滑性を有することから、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層におけるチッピング発生が著しく抑制されるようになるという研究結果を得たのである。
【0007】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl2O3に加熱処理を施して結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、加熱変態生成クラックが分散分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型Al2O3層、
(c)表面下地層として、化学蒸着形成され、0.1〜2μmの平均層厚を有するTiN層、
(d)表面層として、化学蒸着形成され、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:Tiに対する原子比で1.2〜1.9、
を満足し、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有するTi酸化物層、
以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性および表面潤滑性を有する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
【0008】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の平均層厚を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)下部層(Ti化合物層)
Ti化合物層は、自体が強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層である加熱変態α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
【0009】
(b)上部層(加熱変態α型Al2O3層)
加熱変態α型Al2O3層には、Al2O3自体のもつ高硬度とすぐれた耐熱性によって硬質被覆層の耐摩耗性を向上させるとともに、上記の通り層中に分散分布する加熱変態生成クラックの作用で熱衝撃を吸収して、硬質被覆層にチッピングが発生するのを著しく抑制する作用があるが、その平均層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、前記加熱変態生成クラックがチッピング発生の原因となることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
【0010】
(c)表面下地層(TiN層)
TiN層は、上記の通り加熱変態α型Al2O3層との界面でこれの加熱変態生成クラック中に十分に入り込んで前記加熱変態生成クラックを著しく安定化した状態に保持し、もって前記加熱変態α型Al2O3層によってもたらされる耐熱衝撃性の向上を十分に発揮させるようにする作用をもつほか、前記加熱変態α型Al2O3層とTi酸化物層との反応を抑制して、これら両層の化学的安定化に寄与し、さらにこれら両層に強固に密着して、密着性向上にも寄与する作用を有するが、その平均層厚が0.1μm未満では、前記作用を十分に発揮することができず、一方前記TiN層による前記作用は2μmまでの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.1〜2μmと定めた。
【0011】
(d)表面層(Ti酸化物層)
Ti酸化物層は、上記の通りすぐれた表面潤滑性を有し、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層におけるチッピング発生を著しく抑制する作用をもつが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の表面潤滑性を確保することができず、一方前記Ti酸化物層による前記作用は5μmまでの平均層厚で十分であり、経済性を考慮して、その平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
【0012】
また、この発明の被覆サーメット工具において、表面層を構成するTi酸化物層における酸素(O)のTiに対する原子比(X値)を1.2〜1.9としたのは、その値が1.2未満では所望のすぐれた表面潤滑性を確保することができず、一方その値が1.9を越えると、層中に気孔が形成され易くなり、健全な表面層の安定的形成が難しくなるという理由によるものである。
【0013】
さらに、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi酸化物層をX線回折により観察したところ、組成式:TiOXのX値に対応して、Ti2O3、Ti3O5、Ti4O7、およびTi5O9などのうちの少なくともいずれかに主要ピークが現れる回折パターンを示し、これらの回折結果から前記Ti酸化物層はMagneli相と呼ばれるものからなり、一般的にTinO2n−1で表わされるものであることが明らかである。
【0014】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0015】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
【0016】
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで同じく表3に示される条件で結晶構造がκ型またはθ型のAl2O3層を蒸着形成し、これに水素雰囲気中、温度:1050℃に2〜10時間の範囲内の所定時間保持の条件で加熱処理を施して、前記Al2O3層のκ型またはθ型の結晶構造をα型に変態させて、加熱変態生成クラックが層中に分散分布した加熱変態α型Al2O3層を同じく表5に示される目標層厚で硬質被覆層の上部層として形成し、さらに同じく表3および表4に示される条件で、かつ表5に示される目標層厚のTiN層およびTi酸化物層を表面下地層および表面層として形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、表6に示される通り、硬質被覆層の上部層を同じく表6に示される平均層厚の蒸着α型Al2O3層とし、かつ表面下地層および表面層の形成を行なわない以外は同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
【0017】
この結果得られた上記の本発明被覆サーメット工具と従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層と蒸着α型Al2O3層の相違を観察する目的でX線回折を測定した。
まず、X線回折測定用試料として、X線回折チャート上で(001)面および(002)面にのみ回折ピークが現れる単結晶WCを基体試料として用い、この基体試料の表面に、本発明被覆サーメット工具3、8、および12の目標層厚が15μm、10μm、および5μmの加熱変態α型Al2O3層、並びに従来被覆サーメット工具3、8、および12の同じく目標層厚が15μm、10μm、および5μmの蒸着α型Al2O3層の形成条件と同一の条件で、それぞれ目標層厚が15μm、10μm、および5μmの加熱変態α型Al2O3層および蒸着α型Al2O3層を直接形成して本発明被覆試料A〜Cおよび従来被覆試料a〜cをそれぞれ調製した。
【0018】
ついで、これら被覆試料の前記加熱変態α型Al2O3層および蒸着α型Al2O3層のX線回折測定を、通常のX線回折装置を用い、X線管中に設置されたCu陽極(ターゲット)に対して、電圧:40kV、電流:350mAの条件で金属Wフィラメントから発生させた熱電子を加速照射することにより、前記Cu陽極表面から0.154nmの波長を有する特性X線であるCu−Kα線を発生させ、前記特性X線を前記被覆試料表面に照射し、前記被覆試料から散乱したX線のうち、被覆試料表面に対するX線入射角度θと等しい角度で回折したX線の強度をX線検出器にて測定することにより行なった。この測定結果を図1〜6に示した。
本発明被覆試料A〜Cの加熱変態α型Al2O3層のX線回折チャートを示す図1〜3と、従来被覆試料a〜cの蒸着α型Al2O3層のX線回折チャートを示す図4〜6の比較から、前記加熱変態α型Al2O3層では(006)面および(018)面に明確な回折ピークが現れているのに対して、前記蒸着α型Al2O3層ではこれら(006)面および(018)面に回折ピークは存在しないことが明かである。
【0019】
また、この結果得られた本発明被覆サーメット工具1〜13および従来被覆サーメット工具1〜13について、これの硬質被覆層の構成層を走査型電子顕微鏡を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者ではいずれもTi化合物層、加熱変態生成クラックが層中に分散分布した加熱変態α型Al2O3層、TiN層、およびTi酸化物層からなり、後者では、いずれもTi化合物と蒸着α型Al2O3層からなることが確認されたが、前記表面下地層のTiN層にはオージェ分光分析装置を用いて観察したところ、前記表面層のTi酸化物層からの拡散酸素の含有が見られた。
さらに、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13の表面層について、その厚さ方向中央部の酸素含有割合(X値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表4に示される目標値と実質的に同じ値を示した。
また、これらの被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0020】
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆サーメット工具1〜7および従来被覆サーメット工具1〜7については、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続切削試験、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続切削試験を行った。
【0021】
さらに、本発明被覆サーメット工具8〜13および従来被覆サーメット工具8〜13については、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:0.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続切削試験、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
【表6】
【0028】
【表7】
【0029】
【発明の効果】
表5〜7に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜13は、硬質被覆層の上部層を構成する加熱変態α型Al2O3層中に分散分布する加熱変態生成クラックによるすぐれた熱衝撃吸収性および表面層のTi酸化物層のもつ切粉に対するすぐれた表面潤滑性の作用で、熱衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なうステンレス鋼や軟鋼の高速断続切削でも、切刃のチッピング発生が著しく抑制され、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が蒸着α型Al2O3層からなる従来被覆サーメット工具1〜13においては、高速断続切削では前記蒸着α型Al2O3層が激しい熱衝撃に耐えられず、かつ被削材がステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材であることと相俟って、切刃にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に熱衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なう切削条件の最も厳しい難削材の高速断続切削でもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明被覆サーメット工具3の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:15μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図2】本発明被覆サーメット工具8の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:10μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図3】本発明被覆サーメット工具12の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:5μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図4】従来被覆サーメット工具3の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:15μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図5】従来被覆サーメット工具8の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:10μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図6】従来被覆サーメット工具12の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:5μm)のX線回折チャートを示す図である。
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼や鋳鉄などの高速断続切削時に切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し付加される熱衝撃に対して硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性を示し、さらに特にステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層が切粉に対してすぐれた表面潤滑性を示すことから、通常の鋼や鋳鉄は勿論のこと、ステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高速断続切削加工に用いた場合にも、切刃にチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する蒸着α型酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、一般に、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やAl2 O3 層が粒状結晶組織を有し、さらに前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物、例えばCH3CNを含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−31503号公報
【特許文献2】
特開平6−8010号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを切削条件の最も厳しい高速断続切削、すなわち切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し熱衝撃が付加される高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層の上部層を構成するAl2O3層は、硬質で耐熱性にすぐれるものの、熱衝撃に脆いために、硬質被覆層にはチッピング(微小欠け)が発生し易く、さらにきわめて粘性の高いステンレス鋼や軟鋼などの被削材の高速断続切削では、これら被削材の切粉は、硬質被覆層を構成する特にAl2O3層に対する親和性が高いために、切刃表面に溶着し易く、この溶着現象が前記の繰り返し熱衝撃現象と相俟って、切刃には一段とチッピングが発生し易くなり、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記のステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速断続切削加工でも、切刃がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具を開発すべく研究を行った結果、
工具基体の表面に、通常の化学蒸着装置で、下部層として、通常の条件で、上記Ti化合物層を形成した後、同じく通常の条件で、結晶構造がκ型またはθ型のAl2O3層を蒸着形成し、この状態で水素雰囲気中、温度:1000〜1100℃、保持温度:2〜10時間の条件で加熱処理を施すと、前記Al2O3層のκ型またはθ型の結晶構造がα型結晶構造に変態し、かつ加熱変態生成クラックが層中に分散分布した組織を有するようになり、この加熱変態α型Al2O3層を上部層とし、この上部層の表面に、表面下地層として同じく通常の条件で窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層を蒸着形成した状態で、
反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
CO2:0.1〜10%、
Ar:5〜60%、
H2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa(30〜525torr)、
とした条件で、0.1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、Tiに対する酸素の割合が原子比で1.2〜1.9、即ち、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、
X:Tiに対する原子比で1.2〜1.9、
を満足するTi酸化物層を表面層として蒸着形成すると、前記表面下地層としてのTiN層が、前記加熱変態α型Al2O3層との界面でこれの加熱変態生成クラック中に十分に入り込んで前記加熱変態生成クラックを著しく安定化した状態に保持すると共に、前記加熱変態α型Al2O3層と前記Ti酸化物層との反応を著しく抑制し、かつこれら両者と強固に密着し、さらに前記Ti酸化物層は、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低く、これは高い発熱を伴う高速切削加工でも変わらない性質をもつことから、硬質被覆層の下部層および上部層が上記Ti化合物層および加熱変態α型Al2O3層で構成され、これに表面下地層としてのTiN層を介して表面層としてTi酸化物層が蒸着形成された被覆サーメット工具においては、前記上部層を構成する加熱変態α型Al2O3層中に分散分布する加熱変態生成クラックが、特に高速断続切削時の激しい熱衝撃を吸収して、これを緩和し、さらに前記表面層のTi酸化物層は切粉が溶着し難い性質、すなわちすぐれた表面潤滑性を有することから、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層におけるチッピング発生が著しく抑制されるようになるという研究結果を得たのである。
【0007】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl2O3に加熱処理を施して結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、加熱変態生成クラックが分散分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型Al2O3層、
(c)表面下地層として、化学蒸着形成され、0.1〜2μmの平均層厚を有するTiN層、
(d)表面層として、化学蒸着形成され、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:Tiに対する原子比で1.2〜1.9、
を満足し、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有するTi酸化物層、
以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性および表面潤滑性を有する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
【0008】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の平均層厚を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)下部層(Ti化合物層)
Ti化合物層は、自体が強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層である加熱変態α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
【0009】
(b)上部層(加熱変態α型Al2O3層)
加熱変態α型Al2O3層には、Al2O3自体のもつ高硬度とすぐれた耐熱性によって硬質被覆層の耐摩耗性を向上させるとともに、上記の通り層中に分散分布する加熱変態生成クラックの作用で熱衝撃を吸収して、硬質被覆層にチッピングが発生するのを著しく抑制する作用があるが、その平均層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、前記加熱変態生成クラックがチッピング発生の原因となることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
【0010】
(c)表面下地層(TiN層)
TiN層は、上記の通り加熱変態α型Al2O3層との界面でこれの加熱変態生成クラック中に十分に入り込んで前記加熱変態生成クラックを著しく安定化した状態に保持し、もって前記加熱変態α型Al2O3層によってもたらされる耐熱衝撃性の向上を十分に発揮させるようにする作用をもつほか、前記加熱変態α型Al2O3層とTi酸化物層との反応を抑制して、これら両層の化学的安定化に寄与し、さらにこれら両層に強固に密着して、密着性向上にも寄与する作用を有するが、その平均層厚が0.1μm未満では、前記作用を十分に発揮することができず、一方前記TiN層による前記作用は2μmまでの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.1〜2μmと定めた。
【0011】
(d)表面層(Ti酸化物層)
Ti酸化物層は、上記の通りすぐれた表面潤滑性を有し、ステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層におけるチッピング発生を著しく抑制する作用をもつが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の表面潤滑性を確保することができず、一方前記Ti酸化物層による前記作用は5μmまでの平均層厚で十分であり、経済性を考慮して、その平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
【0012】
また、この発明の被覆サーメット工具において、表面層を構成するTi酸化物層における酸素(O)のTiに対する原子比(X値)を1.2〜1.9としたのは、その値が1.2未満では所望のすぐれた表面潤滑性を確保することができず、一方その値が1.9を越えると、層中に気孔が形成され易くなり、健全な表面層の安定的形成が難しくなるという理由によるものである。
【0013】
さらに、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi酸化物層をX線回折により観察したところ、組成式:TiOXのX値に対応して、Ti2O3、Ti3O5、Ti4O7、およびTi5O9などのうちの少なくともいずれかに主要ピークが現れる回折パターンを示し、これらの回折結果から前記Ti酸化物層はMagneli相と呼ばれるものからなり、一般的にTinO2n−1で表わされるものであることが明らかである。
【0014】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0015】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
【0016】
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで同じく表3に示される条件で結晶構造がκ型またはθ型のAl2O3層を蒸着形成し、これに水素雰囲気中、温度:1050℃に2〜10時間の範囲内の所定時間保持の条件で加熱処理を施して、前記Al2O3層のκ型またはθ型の結晶構造をα型に変態させて、加熱変態生成クラックが層中に分散分布した加熱変態α型Al2O3層を同じく表5に示される目標層厚で硬質被覆層の上部層として形成し、さらに同じく表3および表4に示される条件で、かつ表5に示される目標層厚のTiN層およびTi酸化物層を表面下地層および表面層として形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、表6に示される通り、硬質被覆層の上部層を同じく表6に示される平均層厚の蒸着α型Al2O3層とし、かつ表面下地層および表面層の形成を行なわない以外は同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
【0017】
この結果得られた上記の本発明被覆サーメット工具と従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層と蒸着α型Al2O3層の相違を観察する目的でX線回折を測定した。
まず、X線回折測定用試料として、X線回折チャート上で(001)面および(002)面にのみ回折ピークが現れる単結晶WCを基体試料として用い、この基体試料の表面に、本発明被覆サーメット工具3、8、および12の目標層厚が15μm、10μm、および5μmの加熱変態α型Al2O3層、並びに従来被覆サーメット工具3、8、および12の同じく目標層厚が15μm、10μm、および5μmの蒸着α型Al2O3層の形成条件と同一の条件で、それぞれ目標層厚が15μm、10μm、および5μmの加熱変態α型Al2O3層および蒸着α型Al2O3層を直接形成して本発明被覆試料A〜Cおよび従来被覆試料a〜cをそれぞれ調製した。
【0018】
ついで、これら被覆試料の前記加熱変態α型Al2O3層および蒸着α型Al2O3層のX線回折測定を、通常のX線回折装置を用い、X線管中に設置されたCu陽極(ターゲット)に対して、電圧:40kV、電流:350mAの条件で金属Wフィラメントから発生させた熱電子を加速照射することにより、前記Cu陽極表面から0.154nmの波長を有する特性X線であるCu−Kα線を発生させ、前記特性X線を前記被覆試料表面に照射し、前記被覆試料から散乱したX線のうち、被覆試料表面に対するX線入射角度θと等しい角度で回折したX線の強度をX線検出器にて測定することにより行なった。この測定結果を図1〜6に示した。
本発明被覆試料A〜Cの加熱変態α型Al2O3層のX線回折チャートを示す図1〜3と、従来被覆試料a〜cの蒸着α型Al2O3層のX線回折チャートを示す図4〜6の比較から、前記加熱変態α型Al2O3層では(006)面および(018)面に明確な回折ピークが現れているのに対して、前記蒸着α型Al2O3層ではこれら(006)面および(018)面に回折ピークは存在しないことが明かである。
【0019】
また、この結果得られた本発明被覆サーメット工具1〜13および従来被覆サーメット工具1〜13について、これの硬質被覆層の構成層を走査型電子顕微鏡を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者ではいずれもTi化合物層、加熱変態生成クラックが層中に分散分布した加熱変態α型Al2O3層、TiN層、およびTi酸化物層からなり、後者では、いずれもTi化合物と蒸着α型Al2O3層からなることが確認されたが、前記表面下地層のTiN層にはオージェ分光分析装置を用いて観察したところ、前記表面層のTi酸化物層からの拡散酸素の含有が見られた。
さらに、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13の表面層について、その厚さ方向中央部の酸素含有割合(X値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表4に示される目標値と実質的に同じ値を示した。
また、これらの被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0020】
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆サーメット工具1〜7および従来被覆サーメット工具1〜7については、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続切削試験、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続切削試験を行った。
【0021】
さらに、本発明被覆サーメット工具8〜13および従来被覆サーメット工具8〜13については、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:0.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続切削試験、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
【表6】
【0028】
【表7】
【0029】
【発明の効果】
表5〜7に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜13は、硬質被覆層の上部層を構成する加熱変態α型Al2O3層中に分散分布する加熱変態生成クラックによるすぐれた熱衝撃吸収性および表面層のTi酸化物層のもつ切粉に対するすぐれた表面潤滑性の作用で、熱衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なうステンレス鋼や軟鋼の高速断続切削でも、切刃のチッピング発生が著しく抑制され、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が蒸着α型Al2O3層からなる従来被覆サーメット工具1〜13においては、高速断続切削では前記蒸着α型Al2O3層が激しい熱衝撃に耐えられず、かつ被削材がステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材であることと相俟って、切刃にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に熱衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なう切削条件の最も厳しい難削材の高速断続切削でもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明被覆サーメット工具3の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:15μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図2】本発明被覆サーメット工具8の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:10μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図3】本発明被覆サーメット工具12の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al2O3層(目標層厚:5μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図4】従来被覆サーメット工具3の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:15μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図5】従来被覆サーメット工具8の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:10μm)のX線回折チャートを示す図である。
【図6】従来被覆サーメット工具12の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al2O3層(目標層厚:5μm)のX線回折チャートを示す図である。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有する酸化アルミニウムに加熱処理を施して結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、加熱変態生成クラックが分散分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型酸化アルミニウム層、
(c)表面下地層として、化学蒸着形成され、かつ0.1〜2μmの平均層厚を有する窒化チタン層、
(d)表面層として、化学蒸着形成され、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:Tiに対する原子比で1.2〜1.9、
を満足し、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有するTi酸化物層、
以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層がすぐれた耐熱衝撃性および表面潤滑性を有する表面被覆サーメット製切削工具。
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20060331 |
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A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20070907 |
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A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070921 |
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A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20080201 |