JP2004176573A - 内燃機関用のピストン - Google Patents

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Abstract

【課題】爆発荷重や慣性荷重によりスカート部などに変形や亀裂などの損傷を生じにくいピストン本体の構造を提供する。
【解決手段】一対のピンボス部は、ピストンヘッドの下端面から垂下形成される。ピストンヘッドの外周上に部分的に一対のスカート部が形成され、一対のスカート部を相互に連結する壁部が形成される。このとき、ピンボス部は、スカート部やスカート部を支持するための壁部と連結されることなく、スカート部や壁部と独立して形成される。この構造により、ピストンヘッドに与えられる爆発荷重やその応力などはピストンヘッドからピンボス部のみに伝わり、スカート部へ伝わることがないので、スカート部の変形などを防止することができる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用のピストンに関し、特にピストン本体の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ピストン本体の構造としては、ピストンピンを挿入するためのピンボス部と、ピストンヘッドの外周に設けられたスカート部とをリブ又は壁部により連結し、一体的に形成する構造(例えば、特許文献1又は2参照)や、ピンボス部とスカート部とを連結せずに一体的に形成する構造(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
また、他のピストン本体の構造としては、ピンボス部とスカート部とを一体的に形成した後、それらの下端部において特定の部材により連結する構造が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
さらに、他のピストン本体の構造としては、スカート部(ピストン円周部)を有するピストン本体に、後からピンボス部を接合して一体的に形成する構造(例えば、特許文献4参照)や、ピンボス部を有するピストン本体に、後からスカート部を連結し一体的に形成する構造が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平09−242603号公報(第4頁、図2又は図3)。
【0006】
【特許文献2】
特開2001−263157号公報(第8頁、図2又は図10)。
【0007】
【特許文献3】
特開平09−100912号公報(第3−4頁、図1乃至図4)。
【0008】
【特許文献4】
特開昭60−47848号公報(第5頁、図2乃至図5)。
【0009】
【特許文献5】
実開昭57−137752号公報(第8頁、図1乃至図3)。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したピストン本体の構造において、ピンボス部とスカート部とをリブ又は壁部により連結して一体的に形成する構造を採るとすれば、ピストン本体を構成するピストンヘッドの上端面に爆発荷重などが加わることにより、ピンボス部及びスカート部の双方に直接応力が作用し、その影響でピンボス部とスカート部との連結部分(リブ又は壁部)において変形、磨耗、又は亀裂などが生じ易くなる。
【0011】
また、ピンボス部とスカート部とを連結せずに一体的に形成する構造を採るとすれば、ピンボス部とスカート部とが連結されていないためスカート部の剛性が低下し、ピストンヘッドの上端面に加わる爆発荷重などにより、スカート部において変形、又は磨耗などが生じ易くなる。
【0012】
さらに、ピンボス部とスカート部とを一体的に形成した後、それらの下端部において壁部(ストラット部材など)により連結する構造を採るとすれば、ピストンヘッドの上端面に加わる爆発荷重などにより、壁部及びスカート部の双方に直接応力が作用し、壁部及びスカート部おいて変形、磨耗、又は亀裂などが生じ易くなる。
【0013】
また、スカート部(ピストン円周部)を有するピストン本体に、後からピンボス部を接合して一体的に形成する構造を採るとすれば、ピストンヘッドの上端面に加わる爆発荷重などにより、ピストンヘッドと一体的に形成されたスカート部に直接応力が作用し、スカート部において変形が生じ易くなると共に、変形したスカート部がシリンダ面と摺動することによって、そのスカート部には、磨耗、又は焼き付きなどが生じ易くなる。さらに、ピンボス部(アーム部)を有するピストン本体に、後からスカート部を連結し一体的に形成する構造を採用した場合も同様である。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、爆発荷重やその応力などにより、スカート部などに変形や亀裂などの損傷を生じにくいピストン本体の構造を提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の1つの観点では、内燃機関用のピストンにおいて、断面が略円形のピストンヘッドと、前記ピストンヘッドの一端面に形成された一対のスカート部と、前記一対のスカート部の端部同士をそれぞれ連結する一対の壁部と、前記ピストンヘッドの一端面に前記一対のスカート部及び前記壁部とは独立に形成され、ピストンピンを回動自在に挿通するための挿通穴を設けたピンボス部と、を備える。
【0016】
上記の内燃機関用のピストンによれば、ピンボス部は、ピストンヘッドの一端面に、スカート部及び壁部とは独立して形成されているため、ピストンヘッドの一端面に爆発荷重や慣性力などが加わったとしても、その力がスカート部や壁部に直接及ぶことはない。よって、スカート部及び壁部は、爆発荷重などにより変形、歪、あるいは亀裂などが生じることはないため、スカート部のプロフィル(外形形状)及び壁部の形状の適正化を図ることができる。さらに、スカート部及び壁部には、爆発荷重が直接加わらないような構造になっているため、それらの肉厚を薄く形成でき、ピストンの軽量化を図ることができる。
【0017】
また、一対のスカート部の端部と一対の壁部の端部同士を連結しているため、それらの剛性力が向上し、壁部はスカート部を十分に支持することができる。さらに、ピンボス部に形成された挿通穴にピストンピンを回動自在に挿通してピストンヘッドを支持しているため、ピストンヘッドの一端面に爆発荷重や慣性力などが加わったとしても、ピストンヘッドを十分に支持することができ、ピストンヘッドには変形、歪、あるいは亀裂などが生じない。
【0018】
上記内燃機関用のピストンの一態様では、前記一対のスカート部は、前記ピストンピンが前記ピンボス部の前記挿通穴に挿通する方向と直交する方向に作用するスラスト力及び反スラスト力が、それぞれ作用する位置に設けられている。
【0019】
この態様によれば、ピストン運動により発生するスラスト力及び反スラスト力が、一対のスカート部にそれぞれ作用したとしても、壁部により一対のスカート部は十分に支持されるため、一対のスカート部には変形、歪、あるいは亀裂など生じることなく、一対のスカート部のプロフィルの適正化を図ることができる。
【0020】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記一対の壁部は、前記スラスト力及び前記反スラスト力が作用する方向に対して略平行に形成されている。
【0021】
この態様によれば、一対の壁部は、その長さ方向がスラスト力及び反スラスト力の作用方向と一致するため、壁部がその長さ方向にスカート部を支持する構造となり、スカート部の強度を任意に支持することが可能となる。
【0022】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記スカート部と前記壁部とが連結された位置において前記スカート部の面と前記壁部の面が前記壁部の内側になす角は略直角とすることができる。
【0023】
この態様によれば、スカート部と壁部とが連結された位置において、スカート部の面と壁部との面によって形成される角度が略直角であるため、一対の壁部により、スラスト力及び反スラスト力が作用する位置に存する一対のスカート部の支持力の向上を図ることができる。
【0024】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記スカート部と前記壁部とが連結された位置において前記スカート部の面と前記壁部の面が前記壁部の内側になす角は鋭角とすることができる。
【0025】
この態様によれば、スカート部と壁部とが連結された位置において、スカート部の面と壁部との面によって形成される角度が鋭角であるため、当該角度が略直角の場合と同様に、一対の壁部により、スラスト力及び反スラスト力が作用する位置に存する一対のスカート部の支持力の向上を図ることができる。
【0026】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記一対のスカート部は、前記ピストンヘッドの一端面の中心点を通り、前記ピストンピンが前記ピンボス部の前記挿通穴に挿通する方向と平行な直線に対してそれぞれ対称的な位置に設けられている。
【0027】
この態様によれば、一対のスカート部は、ピストンヘッドの一端面の中心点を通り、ピストンピンがピンボス部の挿通穴に挿通する方向と平行な直線に対してそれぞれ対称的な位置に設けられているため、一対のスカート部と一対の壁部とを連結することによって形成される部分は略矩形の構造をなす。よって、スカート部の面と壁部との面によって形成されるピストンヘッドの一端面の中心点側のなす角度が略直角となり、一対の壁部により、スラスト力及び反スラスト力が作用する位置に存する一対のスカート部の支持力の向上を図ることができる。
【0028】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記一対のスカート部は、部分円筒形状をなし、前記ピストンヘッドの周縁近傍から垂下形成される。
【0029】
この態様によれば、ピストン運動による上下方向の応力に対しての支持力の向上を図ることができる。
【0030】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記一対の壁部には、前記ピストンピンを挿通するための挿通穴が形成されると共に、前記一対の壁部は、前記ピンボス部とは独立に前記ピストンヘッドの一端面から垂下形成されるように設けられている。
【0031】
この態様によれば、一対の壁部は、ピストンピンを挿通するための挿通穴が形成されているので、ピストンピンと接触しないような構造とすることができる。そのため、ピストンヘッドの一端面に爆発荷重が加わることにより、その影響を受けてピンボス部及びピストンピンには直接応力が作用するが、壁部にはピストンピンからの応力が作用しないため、壁部には変形、歪、あるいは亀裂などが生じることはない。しかも、一対の壁部は、ピンボス部とは独立にピストンヘッドの一端面から垂下形成されるように設けられているので、一対のスカート部を十分に支持することができる。
【0032】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記一対の壁部は、前記ピストンヘッドの一端面とは連結することなく形成されると共に、前記一対のスカート部の端部と一体的に連結するように設けられている。
【0033】
この態様によれば、一対の壁部は、ピストンヘッドとは連結せずに壁部の上側を空洞とするような構成にすることができるので、壁部の余肉部分を省くことができ、ピストンの軽量化を図ることができる。また、壁部の上側を空洞とするような構成であれば、ピストン内部のピンボス部に穴を形成する場合などの型抜き作業も容易に行うことができるので、製造工数低減、低コスト化をも図ることができる。さらに、一対の壁部は、一対のスカート部の端部と一体的に連結するように設けられているので、一対のスカート部を支持する部位の剛性力の向上が図れ、スカート部の変形、歪、あるいは焼き付きなどを有効に防止することができる。
【0034】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記ピンボス部は、前記壁部の外側に設けられ、且つ前記ピストンヘッドの一端面の中心点を通り前記壁部と平行な直線に対して対称的な位置に一対設けられている。
【0035】
この態様によれば、ピストンヘッドの一端面に爆発荷重が加わったとしても、それらの一対のピンボス部は、ピストンヘッドの広い面積にわたってピストンヘッドを十分に支持することができる。そのため、ピストンヘッドの変形、歪、あるいは亀裂などを有効に防止することができる。
【0036】
上記内燃機関用のピストンの他の一態様では、前記ピンボス部は、前記一対の壁部の間に1つ設けられている。
【0037】
この態様によれば、ピンボス部は、一対の壁部の間に少なくとも1つ介在させるようにしているので、ピストンヘッドの下端面とピンボス部の上端部との間のピストンヘッドの肉厚は、当該部分以外のピストンヘッドの肉厚に比べて厚くなる。そのため、燃焼室側のピストンヘッドの上端面の形状を、所望する形状に形成することが可能となる。さらに、ピストンヘッドの形状を凹型にすることにより、当該部分の余肉を省くことができるため、ピストンの軽量化を図ることができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0039】
(第1実施形態)
まず、本発明に係るピストン本体の第1実施形態について図1、図2及び図3を参照して説明する。
【0040】
図1(a)は、本実施形態に係るピストン本体1の正面図を示すものであり、図1(b)は、ピストン本体1の下面図を示すものである。また、図2(a)及び2(b)は、図1(b)のピストン本体1のスカート部13及び壁部14の部分拡大図を示すものであり、図3は、図1(a)のA−A’線に沿ったピストン本体1の切断面図を示すものである。
【0041】
ピストン本体1は、アルミ合金などの材料からなるものであり、図1(a)及び図1(b)に示すように、ピストンヘッド11と、ピストンリング溝12と、一対のスカート部13と、一対の壁部14と、一対のピンボス部15と、から構成される。
【0042】
ピストンヘッド11は、略真円形状を成しており、図1(a)に示すように、シリンダ燃焼室からの爆発荷重Fをピストンヘッド11の上端面11b全体で受けるようになっている。
【0043】
ピストンリング溝12は、図1(a)に示すように、ピストンヘッド11の上端面11bから下端面11aに向かって、所定の間隔毎に通常3つ形成されると共に、それらの各ピストンリング溝12の径は、ピストンヘッド11の直径よりも若干小さくなるように形成される。そして、その各ピストンリング溝は、図1(a)に示すように、例えば、上方から下方に向かって順に第1のピストンリング溝12aと、第2のピストンリング溝12bと、オイルリング溝12cと、を備える。第1及び第2のピストンリング溝12a、12bは、ピストンリング(図示略)を係合させるための溝であり、それらの各溝にピストンリングを係合させて使用することにより、シリンダ燃焼室からの高圧の燃焼ガス、混合気、及び排気ガスなどをシールドする役割を果たすものである。また、オイルリング溝12cは、オイルリング(図示略)を係合させるための溝であり、その溝にオイルリングを係合させて使用することにより、シリンダ内に供給された潤滑用オイルが燃焼室内に進入するのを防止するなどの役割を果たす。
【0044】
スカート部13は、シリンダ内面と直接摺動するピストン本体1の構成要素である。スカート部13は、図1(a)及び図1(b)に示すように、部分円筒形状をなし、1つのスカート部13の下端面13aは一定の厚みからなる。一対のスカート部13は、ピストンヘッド11の略中心点Oを通る中心線100を基準に略対称的な位置に設けられる。また、スカート部13は、図1(b)に示すように、スラスト力Fs1及び反スラスト力Fs2がそれぞれ作用する位置に分割して形成されると共に、図1(a)に示すように、ピストンヘッド11の下端面11aの周縁近傍から垂下形成される。即ち、図1(a)に示すように、本実施形態に係るピストン本体1は、一対のスカート部13を有するいわゆるセミスリッパ構造をなすタイプである。
【0045】
なお、スラスト力とは、ピストンがコンロッドにより斜め下方から力を受け、ボア内面と接触する力を言う。また、ピストン下降工程時にピストンとボア内面との接触力及び爆発力の両方が発生する側をスラスト側といい、その逆方向でピストン上昇工程時にスカートとボア内面が摺動する力のみが発生する側を反スラスト側と言う。
【0046】
スカート部13の厚みは、ピストン本体1の軽量化を図るため、なるべく薄く形成するのが好ましい。但し、スカート部13の厚みを薄くしすぎると、ピストンヘッド11に加わる爆発荷重Fや慣性力などからの影響を受けてスカート部13に直接応力が作用することにより、スカート部13には変形や歪などが生じ易くなるので、後述する壁部14と連結するか、あるいは壁部14と一体形成することにより剛性を保つようにする必要がある。
【0047】
壁部14は、スカート部13の剛性を保つためのピストン本体1の構成要素であり、正面視すると、図1(a)に示すように、ピストンヘッド11の下端面11aから垂下形成される。また、図1(b)に示すように、1つの壁部14の下端部14aは、ピストンヘッド11の直径より若干小なる長さ及び一定の厚みからなる。一対の壁部14は、中心点Oを通る中心線100に対して相互に略対称的な位置に形成される。また、各壁部14には、図1(b)に示すように、ピストンピン2を挿通するための挿通穴14bが形成されるが、ピストンピン2の直径よりも若干大なる直径となるように挿通穴14bが形成されているため、ピストンピン2と直接接触することはない。
【0048】
さらに、壁部14は、図1(b)に示すように、スラスト力Fs1及び反スラスト力Fs2が作用する方向に対して略平行に形成されると共に、壁部14の両端部とスカート部13の両端部同士をそれぞれ連結するように一体的に形成される。
【0049】
壁部14の両端部とスカート部13の両端部同士をそれぞれ連結した部分拡大図を図2(a)及び(b)に示す。壁部14の両端部とスカート部13の両端部同士は、図2(a)に示すように、壁部14の一端部近傍とスカート部13の一端部近傍とのなす角度が鋭角(θ)、あるいは図2(b)に示すように、略直角(θ)となるように連結される。つまり、壁部14の一端部近傍とスカート部13の一端部近傍とのなす角度が鈍角とならないように、それらを連結する必要がある。これにより、一対のスカート部13に対してスラスト力Fs1及び反スラスト力Fs2が加わったとしても、壁部14がその長さ方向に一対のスカート部13を十分に支持するだけの剛性力を確保することができる。
【0050】
なお、壁部14の厚みは、前述したスカート部13の厚みと同様にピストン本体1の軽量化を図るため、なるべく薄く形成するのが好ましい。但し、壁部14の厚みを薄くしすぎると、ピストンヘッド11に加わる爆発荷重Fや慣性力などからの影響を受けて、壁部14及びスカート部13の双方に直接応力が作用し、スカート部13に変形や歪など生じ易くなるため、壁部14は、そのスカート部13を十分に支持できる厚みにする必要がある。
【0051】
一対のピンボス部15は、図3に示すように、ピストンピン2を回動自在に支持するためのピストン本体1の構成要素であり、ピストンヘッド11の周縁近傍の下端面11aから各々突出して垂下形成される。また、各ピンボス部15には、図1(a)に示すように、ピストンピン2を挿通するための挿通穴15aが形成される。よって、ピストンピン2は、図3に示すように、一対のピンボス部15と、それらの間に介在する一対の壁部14と、コンロッドのピストンピン側の端部3(以下、「コンロッド小端部3」と呼ぶ。)とを貫通するようにして挿通穴に挿通されることになる。
【0052】
ピストンの運動により、ピストンヘッド11の上端面11bには、図1(a)に示すように爆発荷重Fが加わるが、それにともなってピンボス部15に形成された挿通穴15aには、爆発荷重Fに対抗する応力Fw1が生じる。また、ピストン運動の圧縮行程あるいは排気行程時には、ピンボス部15に形成された挿通穴15aには引っ張り荷重Fw2が作用する。
【0053】
したがって、ピンボス部15に形成された挿通穴15aには、ピストンの運動に伴って常時それぞれ応力Fw1、又は引っ張り荷重Fw2が作用することになるが、上記したように壁部14にはピンボス部15に形成された挿通穴15aよりも大なる挿通穴14bが形成されているため、ピンボス部15に挿通されたピストンピン2がスカート部13や壁部14に直接的に応力や歪などを及ぼすことはない。
【0054】
また、各ピンボス部15は、図1(b)に示すように、下方視するとスカート部13や壁部14とは連結することなく独立に形成される。即ち、各ピンボス部15は、ピストンヘッド11の下端面11aの周縁近傍に形成され、且つ一対の壁部14の外側にスカート部13や壁部14とはそれぞれ独立に形成される。これにより、ピストンヘッド11の上端面11bに爆発荷重Fが加わったとしても、ピンボス部15に作用する前述の応力Fw1や引っ張り荷重Fw2が壁部14やスカート部13に直接作用することはない。よって、スカート部13や壁部14は、変形や歪などの発生を抑えることができるので、スカート部13のプロフィル及び壁部14の形状の適正化を図ることが可能となる。
【0055】
さらに、各ピンボス部15は、図1(b)に示すように、ピストンヘッド11の下端面11aの周縁近傍に設けられており、且つそれらの各ピンボス部15はコンロッド小端部3と共にピストンピン2が挿通されて支持されている。よって、ピストンヘッド11の上端面11bに爆発荷重Fが作用したときに、その荷重をピストンヘッド11の全体において広い面積で支持することになり、ピストンヘッド11の変形や歪なども効果的に防止することができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明に係るピストン本体の第2実施形態について図4を参照して説明する。
【0057】
図4(a)は、第2実施形態に係るピストン本体6の正面図を示すものであり、図4(b)は、ピストン本体6の下面図を示すものである。
【0058】
本実施形態に係るピストン本体6の構造は、図4(a)に示すように、一対の壁部64の上端面64aがピストンヘッド61の下端面61aと連結されていない点を除き、第1実施形態と略同等の構造である。即ち、一対の壁部64は、図4(a)に示すように、その上端面64aの上側に空洞64bを有し、その左右の端部において一対のスカート部63の下端部63a近傍と連結され一体的に形成される。このように、壁部64の上方を空洞化することにより、ピストン本体6の軽量化が可能となる。一対の壁部64の高さ又は厚みは、図4(a)及び(b)に示すように、スカート部63を支持するために、ピストンヘッド61の上端面61bに加わる爆発荷重Fや一対のスカート部63に加わるスラスト力Fs1、及び反スラスト力Fs2に十分耐えうるだけの高さ又は厚みに決定される。これにより、スカート部63や壁部64は、変形や歪などの発生を抑えることができるので、スカート部63のプロフィル及び壁部64の形状の適正化を図ることが可能となる。
【0059】
また、本実施形態に係るピストン本体6の構造は、第1実施形態のピストン本体1と同様に、ピンボス部65が、スカート部63及び壁部64と独立して形成されているため、ピストンヘッド61の上端面61bに対して爆発荷重Fが加わったとしても、それがスカート部63や壁部64に直接応力を及ぼすことはない。そして、スカート部63は、その下端部63aにおいて壁部64により支持されているので、変形や歪の防止、あるいはシリンダ内面との摺動による焼き付きなどを防止することができる。
【0060】
このように、第2実施形態に係るピストン本体6の構造によれば、第1実施形態のピストン本体1と比較し、壁部64は、第1実施形態のピストン本体1と同等の十分な剛性力を確保でき、さらに壁部64の上端面64aからピストンヘッド61の下端面61aまでの余肉を省くように構成しているので更なる軽量化を図ることができる。また、壁部64の上端面64aの上側の余肉を省き空洞化しているため、ピストン本体6の製造過程において、ピストン本体6の内部を中空にするなどの型抜き作業が容易になるという面も併せ持つ。具体的には、第1実施形態の場合は、図3に示すように、一対のピンボス15及び一対の壁部14にそれぞれピストンピン挿通用の穴15a及び14aを形成する必要がある。これに対し、本実施形態の場合は、壁部64の上方の空洞部をピストンピン2が貫通すればよいので、一対のピンボス部65に対して挿通穴を形成するだけでよい。また、壁部64の上方の空洞部のスペースにより、ピンボス部65に挿通穴を形成する作業も容易となる。よって、ピストン本体6を製造するときに、ピストン本体6の型抜きをする製造工程の省力化により、製造工数削減及び低コスト化を図ることが可能となる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、本発明に係るピストン本体の第3実施形態について図6及び図7を参照して説明する。尚、図7においては、説明の便宜上、スカート部83の切断面図を省略してある。
【0062】
図6(a)は、本実施形態に係るピストン本体8の正面図を示すものであり、図6(b)は、ピストン本体8の下面図を示すものである。また、図7は、図6(a)のB−B’線に沿ったピストン本体8の切断面図を示すものである。
【0063】
本実施形態に係るピストン本体8の構造は、図6(a)及び(b)、並びに図7に示すように、1つのピンボス部85をピストンヘッド81の下端面81aの略中央付近から突出するように垂下形成している点、ピストンピン2を回動自在に支持する2つの挿通穴を有するコンロッド小端部9(即ち、フォークタイプのコンロッド)によってピストンヘッド81を支持している点、及び、ピストンヘッド81の上端面81bが凹部81cを形成している点を除き、第2実施形態と構造や作用・効果は同等である。本実施形態に係るピストン本体8は、例えば、低燃費・高出力を実現するリーンバーンエンジンである高効率直噴ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどに好適に使用できる。
【0064】
ピンボス部85は、図6(b)に示すように、一対の壁部84の間に1つ形成される。また、ピンボス部85には、図6(a)に示すように、ピストンピン2を回動自在に支持するための挿通穴85aが形成されており、コンロッド小端部9に形成された挿通穴と共にピストンピン2をそれらの挿通穴に挿入することによりピストン本体8を支持する構成にしている。
【0065】
また、本実施形態のピンボス部85は、第1実施形態や第2実施形態と同様にスカート部83及び壁部84と連結することなく独立して形成されているので、ピストンヘッド81の上端面81bに爆発荷重Fが加わったとしても、それがスカート部83や壁部84に直接応力を及ぼすことがなく、スカート部83や壁部84の変形や歪などを抑えることができる。
【0066】
なお、一般的に、本実施形態のようにピストンヘッドの略中央に1つのピンボス部を設けてピストンヘッドを中央部のみで支持する構造では、爆発荷重Fをピストンヘッドの中央部付近のみで受けるため、ピストンヘッドの外周部付近での支持力が低く、その分スカート部に変形が生じやすいという問題がある。しかし、本実施形態では、上述のように、ピンボス部をスカート部や壁部と別体に構成して爆発荷重がスカート部へ及びにくい構造としているので、スカート部には変形は生じにくい。
【0067】
さらに、ピンボス部85をピストンヘッド81の下端面81aの略中央付近に突出させて垂下形成しているため、第1実施形態や第2実施形態のピストンヘッドと比較して、図7に示すように、ピストンヘッド81の中央部が肉厚となる。よって、ピンボス部85の上端部とピストンヘッド81の上端面81bとの間のピストンヘッド81の肉厚部分について剛性を維持しつつ深い凹部81cの形成をすることができる。これにより、ピストンヘッド81の上端面81bの形状の形成自由度が向上する。よって、特に直噴型エンジンなどにおいて、燃焼室内に適切な過流の生成を促進して、混合気の燃焼効率の向上を図ることができる。
【0068】
また、ピストンヘッド81の上端面81bに凹部81cを形成することにより、当該部分の余肉を省くことができるので、その分のピストン本体8の軽量化も図ることができる。
【0069】
なお、上記した第3実施形態のピストン本体においては、第2実施形態の場合と同様に、一対の壁部84の上方を空洞化しているが、その代わりに、壁部84を第1実施形態と同様に空洞化しない構成、即ち、ピストンヘッド81の下端面81aからスカート部83の下端部近傍まで垂下形成するような構成にしてもよい。
【0070】
[変形例]
上記した第1、第2、及び第3実施形態によれば、それらに対応する一対のスカート部13、63、83のプロフィル(外形形状)をそれぞれ対称になるように構成しているが、これに限らず、それらの一対のスカート部13、63、83のプロフィルがそれぞれ非対称的となるように構成してもよい。
【0071】
一対のスカート部のプロフィルを非対称的な構成にしたピストン本体の構造の一例を図5に示す。尚、図5(a)は、ピストン本体7の正面図であり、図5(b)は、ピストン本体7の下面図である。
【0072】
図5(a)に示すピストン本体7の構造は、図5(b)に示すように、一対のスカート部73のうちいずれか一方のスカート部73のプロフィルを変形させると共に、一対のスカート部73と一対の壁部74とを連結して一体形成したものである。即ち、スカート部73は、図5(b)に示すように、下方視すると左側に有するスカート部73の下端面73aのプロフィルと右側に有するスカート部73の下端面73bのプロフィルとが非対称的になるように形成したものである。この場合、スラスト力が作用する側のスカート部73aを大きくし、反スラスト力が作用する側のスカート部73bを小さくすることが好ましい。
【0073】
図5(a)及び(b)に示すように、右側のスカート部73の下端面73bの面積は、左側のスカート部73の下端面73aの面積より小さくなるように形成されている。このように、スラスト力が作用する側のスカート部と比較して、反スラスト力が作用する側のスカート部を小さくすることにより、一対のスカート部73は、上記した実施形態の一対のスカート部13、63、83と比較して、シリンダ内面と摺動する部位が少なくなり、低摩擦(低フリクション)を図ることができる。これにより、一対のスカート部73の磨耗を減少することができるため、スカート部73の耐久寿命を延ばすことができ、これに連動してピストン本体7の長寿命化を図ることができる。
【0074】
尚、図5(a)及び(b)に示すピストン本体7の構造や作用・効果は、前記した部分を除けば第2実施形態に示すピストン本体6と略同等である。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ピストン本体のピンボス部は、スカート部及び壁部にそれぞれ連結することなく、ピストンヘッドの下端面から垂下形成するようにピストンヘッドと一体的に形成しているため、ピストンヘッドの上端面に爆発荷重Fや慣性力が加わったとしても、それが壁部やスカート部に直接応力を及ぼすことがない。また、スカート部は、壁部によって支持されるため剛性を確保することができ、スカート部のプロフィル(外形形状)の適正化を図ることができる。さらに、スカート部に作用する力を減少させることにより、スカート部の厚みを薄くできるので、ピストン本体の軽量化を図ることができる。
【0076】
また、ピストン本体において壁部の上側を空洞とするような構成にすれば、更なるピストン本体の軽量化を図ることができ、且つピストン内部を中空にするなどの型抜き作業も容易に行うことができるので、製造工数低減、低コスト化をも図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態によるピストン本体の構造の正面図及び下面図を示す。
【図2】図1に示す壁部とスカート部とを連結した部分拡大図の一例を示す。
【図3】図1に示すピストン本体のA−A’に沿った切断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態によるピストン本体の構造の正面図及び下面図を示す。
【図5】本発明によるピストン本体の構造の変形例を示す。
【図6】本発明の第3実施形態によるピストン本体の構造の正面図及び下面図を示す。
【図7】図6に示すピストン本体のB−B’に沿った切断面図である。
【符号の説明】
1 ピストン本体
2 ピストンピン
3 コンロッド小端部
11 ピストンヘッド
12 ピストンリング溝
13 スカート部
14 壁部
15 ピンボス部
F 爆発荷重
s1 スラスト力
s2 反スラスト力
w1 応力
w2 引っ張り荷重
中心点
100、101 中心線
θ 鋭角
θ 直角

Claims (11)

  1. 内燃機関用のピストンにおいて、
    断面が略円形のピストンヘッドと、
    前記ピストンヘッドの一端面に形成された一対のスカート部と、
    前記一対のスカート部の端部同士をそれぞれ連結する一対の壁部と、
    前記ピストンヘッドの一端面に前記一対のスカート部及び前記壁部とは独立に形成され、ピストンピンを回動自在に挿通するための挿通穴を設けたピンボス部と、を備えることを特徴とする内燃機関用のピストン。
  2. 前記一対のスカート部は、前記ピストンピンが前記ピンボス部の前記挿通穴に挿通する方向と直交する方向に作用するスラスト力及び反スラスト力が、それぞれ作用する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用のピストン。
  3. 前記一対の壁部は、前記スラスト力及び前記反スラスト力が作用する方向に対して略平行に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用のピストン。
  4. 前記スカート部と前記壁部とが連結された位置において前記スカート部の面と前記壁部の面が前記壁部の内側になす角は略直角であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  5. 前記スカート部と前記壁部とが連結された位置において前記スカート部の面と前記壁部の面が前記壁部の内側になす角は鋭角であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  6. 前記一対のスカート部は、前記ピストンヘッドの一端面の中心点を通り、前記ピストンピンが前記ピンボス部の前記挿通穴に挿通する方向と平行な直線に対してそれぞれ対称的な位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  7. 前記一対のスカート部は、部分円筒形状をなし、前記ピストンヘッドの周縁近傍から垂下形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  8. 前記一対の壁部には、前記ピストンピンを挿通するための挿通穴が形成されると共に、前記一対の壁部は、前記ピンボス部とは独立に前記ピストンヘッドの一端面から垂下形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  9. 前記一対の壁部は、前記ピストンヘッドの一端面とは連結することなく形成されると共に、前記一対のスカート部の端部と一体的に連結するように設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  10. 前記ピンボス部は、前記壁部の外側に設けられ、且つ前記ピストンヘッドの一端面の中心点を通り前記壁部と平行な直線に対して対称的な位置に一対設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
  11. 前記ピンボス部は、前記一対の壁部の間に1つ設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の内燃機関用のピストン。
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