JP2004175596A - 赤色ベンガラの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】塩化第一鉄主体の水溶液から色調の良い赤色ベンガラを製造する。
【解決手段】塩化第一鉄主体の水溶液を温度200〜350℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中、または酸素濃度10体積%以上、温度300〜500℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を前記焙焼雰囲気温度の上限を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法。塩化第一鉄主体の水溶液として、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。また、これにより得られたベンガラを高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕により強加工粉砕することで極めて水分散性に優れた赤色顔料が得られる。
【選択図】 なし
【解決手段】塩化第一鉄主体の水溶液を温度200〜350℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中、または酸素濃度10体積%以上、温度300〜500℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を前記焙焼雰囲気温度の上限を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法。塩化第一鉄主体の水溶液として、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。また、これにより得られたベンガラを高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕により強加工粉砕することで極めて水分散性に優れた赤色顔料が得られる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化第一鉄主体の水溶液から色調の良い赤色ベンガラを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベンガラは、概ね90質量%以上のFe2O3粉からなる赤色酸化鉄(ヘマタイト)であり、古くから赤色顔料として用いられている。その製造法として、硫酸第一鉄を熱分解する方法,硫酸第一鉄・塩化第一鉄の水溶液から化学反応析出させる方法,硫酸第二鉄・塩化第二鉄の水溶液から化学反応析出させる方法,マグネタイトあるいはゲータイトを熱分解する方法,硫化鉄鉱焙焼残滓を精製する方法などが知られている。一方、鉄鋼業の酸洗ラインで生じる塩化第一鉄を多量に含んだ廃酸からも、塩酸を回収するための焙焼工程において大量のベンガラが副生する。この鉄鋼酸洗ライン起源の副生ベンガラ(以下、「鉄鋼酸洗ベンガラ」という)は低級顔料やフェライト磁石原料等として使用されているが、近年、需要業界の海外移転等に伴い供給過剰の傾向にあり、その対策が迫られている。
【0003】
一般にベンガラは赤色顔料としての用途を有するが、いわゆる「高級顔料」として使用されるのは専ら湿式法で生産されるものであり、鉄鋼酸洗ベンガラは低級顔料に使用されている。もし、付加価値の高い高級顔料として消費されるようになれば毎日多量に副生される鉄鋼酸洗ベンガラの有効活用に資することができる。しかし、現状において高級顔料としての用途はほとんどない。その理由として以下のことが挙げられる。
[1] 鉄鋼酸洗ベンガラは粒径が通常1μm弱から数10μmの範囲でブロードに分布しており、光沢・着色力・隠蔽力のバランスが最も良いとされる0.2〜0.3μm(レーザー測定法)の微細かつ均質な分布を有する粉末とはほど遠い性状であること。
[2] 鉄鋼酸洗ベンガラの色調は、他の工程で得られるベンガラと比べ色調に冴えがないこと、つまり、黒ずんだ色調を呈すること。
【0004】
上記[1]の粒径については、最近では粉砕技術が向上し、鉄鋼酸洗ベンガラも0.2〜0.3μmに調整することが可能になっている。しかし、[2]の色調については、粉砕後においても目立った改善は見られず、鉄鋼酸洗ベンガラを用いて高級赤色顔料にふさわしい酸化鉄粉を得るのは容易ではない。
【0005】
一般に鉄鋼酸洗ベンガラは酸洗廃液を600℃以上といった高温で焙焼することによって製造されている。酸洗廃液から塩酸を効率的に回収してリサイクルすることが第一義的な目的であるため、できるだけ塩酸回収の容易な高温で焙焼され、炉内の温度分布や最高到達温度などについては特に厳密な配慮はなされないのが通常である。
【0006】
下記特許文献1〜4には焙焼法によりフェライト磁石原料用の酸化鉄粉を製造する方法が紹介されており、磁石原料に適した特性を得るための噴霧条件(特許文献1,2,4)や焙焼炉胴部温度の条件等(特許文献3)が開示されている。特許文献5には焙焼炉の炉壁への付着物をできるだけ低減するために炉壁の一部に冷却手段を設けた構造の炉が開示されている。特許文献6には酸化鉄の品質を安定化するために塩化水素ガスを炉外に導く排出口を焙焼炉の内壁に等間隔で設ける方法が開示されている。これらはいずれも基本的には500℃を大きく超える高温での焙焼を前提とするものであり、その点に関する限り旧来の方式と差はない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭61−86425号公報
【特許文献2】
特開平4−270127号公報
【特許文献3】
特開平7−41320号公報
【特許文献4】
特開平6−48740号公報
【特許文献5】
特開平11−343122号公報
【特許文献6】
特開2000−1318号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、鉄鋼酸洗ベンガラの製造法に関して種々の改善技術が開示されているが、高級赤色顔料用への適用を可能にする技術は未だ確立されていない。これは、本来的に黒ずんだ色調になってしまうという、鉄鋼酸洗ベンガラに特有の欠点を解消する手法が未知であることに原因がある。本発明は、湿式法と同等の優れた赤色発色性を有する鉄鋼酸洗ベンガラの製造技術を提供するものである。なお、本明細書では後述の実施例で示す「色調評点」が8以上のものを「高級顔料」と呼ぶ。すなわち、赤色ベンガラの現流品として最高水準の色調を呈するもの(色調評点9)だけに限らず、現状の鉄鋼酸洗ベンガラ(色調評点5未満)に比べて格段に高品質で各種顔料用途に広く適用可能なもの(色調評点8以上)を含めて「高級顔料」と称する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、鋼材酸洗廃液を焙焼する過程において次のような現象を発見した。すなわち、焙焼温度を通常より大幅に低下させたとき、得られるベンガラは赤味を増し、色調の大幅な改善が可能であることがわかった。また、焙焼炉内に酸素を供給したときには、概ね500℃以下の範囲で高級顔料に使用できる鮮明な赤色が実現できた。そして、炉内の温度、あるいはさらに酸素濃度を厳密にコントロールすることにより、そのような優れた色調を再現性良く安定的に実現できることが明らかになった。本発明はこのような新規な知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、前記目的は、塩化第一鉄主体の水溶液を温度200〜350℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を350℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法によって達成される。
【0011】
また、塩化第一鉄主体の水溶液を酸素濃度10体積%以上、温度300〜500℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を500℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法によって達成される。この場合、炉内の酸素濃度低下を防止するために、炉内に酸素含有気体(純酸素を含む)を送り込みながら焙焼を行う方法が採用できる。
【0012】
焙焼炉としては燃焼バーナーの火炎噴射口を炉内に持たない外熱式タイプのものが好適に使用できる。塩化第一鉄主体の水溶液としては鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。
ここで、塩化第一鉄主体の水溶液とは、水溶液中に含まれる塩類のうちモル比で90%以上が塩化第一鉄(FeCl2)で占められるものをいう。
【0013】
また、本発明では、顔料用に粒度調整されたベンガラとして、上記の製造方法で得られたベンガラを平均粒径0.1〜0.5μmに粉砕する顔料用赤色ベンガラの製造方法を提供する。その粉砕手段として、高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕による強加工粉砕手段が採用できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
発明者らは赤色の冴えない鉄鋼酸洗ベンガラを分析する過程において、黒ずんだ赤色粒子の中にはかなり黒味の強い粒子が混在していることを知った。黒色を呈する酸化鉄としてはマグネタイトが挙げられ、これは磁性を有する。鉄鋼酸洗ベンガラ中の黒味の強い粒子は、わずかに磁石に誘導されるものもあるが、多くは磁性を示さず、また、強力な粉砕を行うと赤味を呈するようになることから、これはマグネタイトではなく、基本的にはヘマタイトであることに間違いはない。
【0015】
マグネタイトが黒色を呈するのは酸化数の違うFe(II)とFe(III)の原子間に橋掛け構造ができて、この橋掛け配位子を通じて電荷移動が起こるためであるとされる。一方、現実的には多くの酸化物で正規の化学量論的組成からのずれによって格子欠陥が生じる。鉄の酸化物では例えばウスタイトの場合、格子欠陥が生じることによって酸化数の違うFe(II)とFe(III)が存在することが知られている。
【0016】
塩化第一鉄溶液からのヘマタイトの生成機構はまだ十分に把握されていないが、前述のように、発明者らは焙焼温度を大幅に低下させたときにヘマタイト本来の赤色が発現することを見出した。そうすると、従来のように高温で焙焼したときには、急激に熱分解が生じることにより焙焼生成ヘマタイトに格子欠陥が導入されやすくなり、マグネタイトとは基本的に構造が異なるヘマタイトにおいても酸化数の違うFe(II)とFe(III)の存在に起因した上記の黒色化現象に類似した作用が部分的に生じるのではないかと推察される。
【0017】
また、焙焼雰囲気中の酸素濃度を高めたときにベンガラの赤味が増大することから、焙焼反応時に酸素が十分に供給されると黒色化を助長する要因が緩和されるものと推測される。この酸素の重要性に関しては、出発原料が「塩化鉄」の場合と「硫酸鉄」の場合とで色調の良いベンガラが得られる条件に大きな差があることからも理解できる。すなわち、「塩化鉄」の場合には本発明のように反応温度あるいはさらに酸素濃度を狭い範囲にコントロールしなければ色調の良いベンガラは得られないが、「硫酸鉄」の場合は広範な条件下で比較的容易に色調の良いものが得られる。塩化鉄(FeCl2・4H2O)は水分子を除いた自らの分子中に酸素を保有していないのに対し、硫酸鉄(FeSO4・6H2O)は自ら酸素を保有しており、硫酸鉄ではその保有酸素が良好な赤色ベンガラの生成に寄与しているのではないかと推察される。
【0018】
本発明では、出発原料に塩化第一鉄を用いた焙焼法において、良好な赤色を呈するベンガラが安定して得られる焙焼条件を特定した。
すなわち、塩化第一鉄主体の水溶液を噴霧または滴下する雰囲気の温度を200〜350℃という、従来の塩酸回収目的の焙焼処理温度より大幅に低い温度に制御することによって高級顔料に使用できる色調の良い赤色ベンガラが生産できる。焙焼反応開始から粉体回収までの間、炉内に噴霧または滴下した被焙焼液および焙焼生成粉体を350℃を超える温度に曝さないようにする。このような低温で焙焼を完了させるとき、炉外から特に酸素を供給しなくても良好な色調が得られる。ただし、200℃未満では水分の蒸発が不十分となり、また、十分に熱分解を起こさせることが難しくなるため、生産性が低下する。
【0019】
また、焙焼雰囲気中の酸素濃度を10体積%以上に制御することによって、焙焼温度の上限を500℃まで拡大することができる。500℃を超える場合や、500℃以下(ただし上記のように350℃以下は除く)であっても酸素濃度が10体積%に満たない場合は安定して色調の良いものを得るのが難しくなる。下限温度は上記の場合と同様に200℃であるが、生産性を考慮すると300℃以上とすることが望ましい。なお、より一層好ましい温度および酸素濃度はそれぞれ350〜450℃および20体積%以上である。酸素濃度の上限は特に規制しなくても良いが、概ね50体積%以下の範囲とすることが効率的である。
【0020】
炉内に噴霧または滴下した被焙焼液および焙焼生成粉体は、焙焼反応開始から粉体回収までの間、上記の焙焼雰囲気温度の上限(すなわち350℃、あるいは酸素濃度10体積%以上を維持する場合は500℃)を超える温度に曝さないよう、炉内温度を管理することが重要である。ルスナー式の焙焼炉のように、燃焼バーナーの火炎を直接炉内に噴射して加熱する内燃式タイプの炉では、通常、バーナーの近傍で500℃を超える温度に曝されることは避け難く、酸素濃度もバーナー近傍とそれ以外の場所とで不均一になっている。このような炉は本発明には適さない。また、炉の内壁が上記の焙焼雰囲気温度の上限を超える温度になる炉も適さない。
【0021】
本発明では、炉内に上記の焙焼雰囲気温度の上限を超える部分がないように温度管理ができる炉を用いることが望ましい。例えば、炉内に燃焼バーナーの火炎噴射口を持たない外熱式タイプの炉を使用するのが好ましい。具体的には、350℃以下または500℃以下に調整された加熱用気体を外部から焙焼炉内に連続的に吹き込むタイプの炉が好適に使用できる。ただし、ルスナー式の炉であっても被焙焼液と焙焼生成粉体が通る空間およびそれらが接触する部位を350℃以下、あるいは500℃以下にコントロールできるものであれば使用できる。
【0022】
焙焼雰囲気中の酸素濃度を10体積%以上に維持するためには、酸素含有気体を外部から炉内に送り込みながら焙焼を行うことが望ましい。また、硫酸等の酸素含有液を導入することも有効である。酸素含有気体としては純酸素や大気を利用することができる。例えば、500℃以下に加熱された大気を加熱用気体として炉内に連続的に吹き込む方法が効率的である。加熱用気体に燃焼排ガスを用いる場合は、大気またはそれより酸素濃度の高い気体を燃焼排ガスと混合して500℃以下の温度に調整したうえで炉内に吹き込むか、あるいはそれらの酸素含有気体を別途炉内に導入すればよい。
【0023】
塩化第一鉄主体の水溶液としては鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。例えば鋼板酸洗ラインから発生する廃酸またはそれを濃縮処理した液が使用できる。本発明の方法は焙焼温度が低いので、廃酸からの塩酸回収を第一義的な目的とする場合は必ずしも生産性が高いとは言えない。しかし、本発明方法においても塩酸は高い回収率で回収でき、有価資源のリサイクルには叶うものである。むしろ、従来は副産物に過ぎなかった鉄鋼酸洗ベンガラが付加価値の高い高級顔料用途に消費可能になる点で、本発明の利点は大きい。
【0024】
以上のようにして得られたベンガラは既に良好な赤色を呈するものであるが、平均粒径は概ね1〜10μmと、高級顔料としては大きい。そこで、これを粉砕して平均粒径0.1〜0.5μmに調整すれば、顔料製品として出荷することができるようになる。粉砕後も優れた赤色の色調は維持される。粉砕方法として、高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕による強加工粉砕手段を用いると、水分散性の極めて良好な顔料を得ることができる。
【0025】
【実施例】
〔実施例1〕
普通鋼の酸洗ラインから出る鋼材酸洗廃液を濃縮した液を用いて噴霧焙焼実験を行った。噴霧に供した液は、塩類のうち塩化第一鉄がモル比で90%以上含まれる水溶液である。焙焼炉は、石油系燃料の燃焼ガスを加熱用気体として炉内に連続的に吹き込む外熱式タイプのもの(炉容量約0.4m3)を用いた。また、炉内には前記加熱用気体とは別に大気を送り込むことができるようになっており、約0.2m3/分で大気を導入した場合と、大気を導入しない場合について実験した。炉内の温度は650℃以下の範囲で種々の温度に調整した。この炉では、炉内の温度分布を約10℃の範囲でほぼ均一に制御することができる。
【0026】
加熱用気体あるいはさらに大気を炉内に導入して炉内の温度が安定したのち、塩化第一鉄水溶液を炉内の上部に設けたスプレーノズルから噴霧した。噴霧量は、炉の設定温度に応じて、液滴が炉内の雰囲気中で完全に焙焼される量に調整した。炉頂から排出されるガスを分析したところ、炉内雰囲気中の酸素濃度は、大気を導入しなかった場合は4〜9体積%、大気を導入した場合は11〜16体積%であった。
なお、比較のため、噴霧液に硫酸第一鉄の水溶液を用いて炉内温度650℃,大気導入なしの条件で上記と同様の焙焼を行った。
【0027】
得られたベンガラ粉体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製;SALD−2100)を用いて平均粒径を測定したところ、何れのサンプルも1〜10μmの範囲であった。また、これら各サンプルについて「色調評点」を求めて色調を評価した。色調評点は、現流品で最高級とされるものを「9」、今回のテストで得られた最も色調の劣るものを「2」と定め、その間に各テストサンプルを配列して8段階の等級に区分して評価した。
表1に結果を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
大気を導入しない場合、焙焼温度を350℃以下に下げることによって、種々の用途に適用可能な現流品の最低水準である色調評点8以上の良好な色調が得られる。大気を導入した場合は、500℃でも色調評点8が得られ、さらに温度を低下させることで最高水準の色調評点9が得られる。一方、硫酸第一鉄水溶液を用いた場合には大気導入なしでも650℃の高温で色調評点9が得られている。このことからすると、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液を出発原料にして高品質の赤色ベンガラを得るのは非常に難しいことがわかる。なお、発明者らは別途実験により、酸素含有気体の導入効果は雰囲気中の酸素濃度が10体積%以上に維持されるようになると十分に発揮されることを確かめている。
【0030】
〔実施例2〕
実施例1で得られた色調評点8以上のベンガラを高速ボールミルで湿式粉砕した。粉砕時に使用した水の量は粉砕液中に占めるベンガラ量が約35質量%となるようにした。粉砕後の粉砕液をベンガラを含んだまま回収したのち水で希釈し、ベンガラの量が30質量%の分散液(pH=6.4)を作った。この分散液を軽く攪拌して目視で均一に見える状態にしたのち1週間静置した。その結果、沈降物が生じたので、沈降物を含まないように分散液のみを採取し、これを回転乾燥法により400℃で乾燥し、平均粒径0.1〜0.5μmの微細なベンガラ顔料を得た。各サンプルとも、粉砕前と同等もしくはそれ以上の優れた色調を呈していた。
【0031】
比較用サンプルとして、湿式法(硫酸第一鉄の水溶液に水酸化ナトリウムを添加してゲーサイトを生成し、これをエアー曝気することで酸化させてベンガラを得る方法)により製造された市販の乾燥状ベンガラ(平均粒径0.4μm)を用意した。これは色調評点9であった。
【0032】
これらの微細ベンガラを水に添加して、ベンガラ25質量%を含む分散液を作った。その際、水酸化ナトリウムを添加してpHを6.4に調整した。これらの分散液を用いて各ベンガラ顔料の水分散性を調べた。
試験液を十分に攪拌したのち種々の時間静置し、液中に沈降せずに分散しているベンガラの割合(分散率)求めた。分散率は、目盛りを付したガラス製試験管に分散液を入れ、沈降したベンガラの高さを測定する方法で求めた。
その結果、本発明に係る強粉砕ベンガラ顔料の分散率は、静置時間60分で100%、同24時間で96〜98%、同30日で80〜85%であり、極めて高い水分散性を示した。これに対し、湿式法で得られた市販ベンガラの分散率は、静置時間わずか5分で0%となり、水分散性は悪かった。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液の塩化第一鉄水溶液を出発原料として、高級顔料に適用可能な優れた赤色発色性を有するベンガラの製造が可能になった。また、そのベンガラを平均粒径0.1〜0.5μmに強加工粉砕したベンガラ顔料は、従来の製法で得られたものと比べ、水分散性が極めて良好である。したがって本発明は、鉄鋼酸洗ベンガラの新たな用途を開き、日々大量に排出される鋼材酸洗廃液の資源価値を高めるものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化第一鉄主体の水溶液から色調の良い赤色ベンガラを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベンガラは、概ね90質量%以上のFe2O3粉からなる赤色酸化鉄(ヘマタイト)であり、古くから赤色顔料として用いられている。その製造法として、硫酸第一鉄を熱分解する方法,硫酸第一鉄・塩化第一鉄の水溶液から化学反応析出させる方法,硫酸第二鉄・塩化第二鉄の水溶液から化学反応析出させる方法,マグネタイトあるいはゲータイトを熱分解する方法,硫化鉄鉱焙焼残滓を精製する方法などが知られている。一方、鉄鋼業の酸洗ラインで生じる塩化第一鉄を多量に含んだ廃酸からも、塩酸を回収するための焙焼工程において大量のベンガラが副生する。この鉄鋼酸洗ライン起源の副生ベンガラ(以下、「鉄鋼酸洗ベンガラ」という)は低級顔料やフェライト磁石原料等として使用されているが、近年、需要業界の海外移転等に伴い供給過剰の傾向にあり、その対策が迫られている。
【0003】
一般にベンガラは赤色顔料としての用途を有するが、いわゆる「高級顔料」として使用されるのは専ら湿式法で生産されるものであり、鉄鋼酸洗ベンガラは低級顔料に使用されている。もし、付加価値の高い高級顔料として消費されるようになれば毎日多量に副生される鉄鋼酸洗ベンガラの有効活用に資することができる。しかし、現状において高級顔料としての用途はほとんどない。その理由として以下のことが挙げられる。
[1] 鉄鋼酸洗ベンガラは粒径が通常1μm弱から数10μmの範囲でブロードに分布しており、光沢・着色力・隠蔽力のバランスが最も良いとされる0.2〜0.3μm(レーザー測定法)の微細かつ均質な分布を有する粉末とはほど遠い性状であること。
[2] 鉄鋼酸洗ベンガラの色調は、他の工程で得られるベンガラと比べ色調に冴えがないこと、つまり、黒ずんだ色調を呈すること。
【0004】
上記[1]の粒径については、最近では粉砕技術が向上し、鉄鋼酸洗ベンガラも0.2〜0.3μmに調整することが可能になっている。しかし、[2]の色調については、粉砕後においても目立った改善は見られず、鉄鋼酸洗ベンガラを用いて高級赤色顔料にふさわしい酸化鉄粉を得るのは容易ではない。
【0005】
一般に鉄鋼酸洗ベンガラは酸洗廃液を600℃以上といった高温で焙焼することによって製造されている。酸洗廃液から塩酸を効率的に回収してリサイクルすることが第一義的な目的であるため、できるだけ塩酸回収の容易な高温で焙焼され、炉内の温度分布や最高到達温度などについては特に厳密な配慮はなされないのが通常である。
【0006】
下記特許文献1〜4には焙焼法によりフェライト磁石原料用の酸化鉄粉を製造する方法が紹介されており、磁石原料に適した特性を得るための噴霧条件(特許文献1,2,4)や焙焼炉胴部温度の条件等(特許文献3)が開示されている。特許文献5には焙焼炉の炉壁への付着物をできるだけ低減するために炉壁の一部に冷却手段を設けた構造の炉が開示されている。特許文献6には酸化鉄の品質を安定化するために塩化水素ガスを炉外に導く排出口を焙焼炉の内壁に等間隔で設ける方法が開示されている。これらはいずれも基本的には500℃を大きく超える高温での焙焼を前提とするものであり、その点に関する限り旧来の方式と差はない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭61−86425号公報
【特許文献2】
特開平4−270127号公報
【特許文献3】
特開平7−41320号公報
【特許文献4】
特開平6−48740号公報
【特許文献5】
特開平11−343122号公報
【特許文献6】
特開2000−1318号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、鉄鋼酸洗ベンガラの製造法に関して種々の改善技術が開示されているが、高級赤色顔料用への適用を可能にする技術は未だ確立されていない。これは、本来的に黒ずんだ色調になってしまうという、鉄鋼酸洗ベンガラに特有の欠点を解消する手法が未知であることに原因がある。本発明は、湿式法と同等の優れた赤色発色性を有する鉄鋼酸洗ベンガラの製造技術を提供するものである。なお、本明細書では後述の実施例で示す「色調評点」が8以上のものを「高級顔料」と呼ぶ。すなわち、赤色ベンガラの現流品として最高水準の色調を呈するもの(色調評点9)だけに限らず、現状の鉄鋼酸洗ベンガラ(色調評点5未満)に比べて格段に高品質で各種顔料用途に広く適用可能なもの(色調評点8以上)を含めて「高級顔料」と称する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、鋼材酸洗廃液を焙焼する過程において次のような現象を発見した。すなわち、焙焼温度を通常より大幅に低下させたとき、得られるベンガラは赤味を増し、色調の大幅な改善が可能であることがわかった。また、焙焼炉内に酸素を供給したときには、概ね500℃以下の範囲で高級顔料に使用できる鮮明な赤色が実現できた。そして、炉内の温度、あるいはさらに酸素濃度を厳密にコントロールすることにより、そのような優れた色調を再現性良く安定的に実現できることが明らかになった。本発明はこのような新規な知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、前記目的は、塩化第一鉄主体の水溶液を温度200〜350℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を350℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法によって達成される。
【0011】
また、塩化第一鉄主体の水溶液を酸素濃度10体積%以上、温度300〜500℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を500℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法によって達成される。この場合、炉内の酸素濃度低下を防止するために、炉内に酸素含有気体(純酸素を含む)を送り込みながら焙焼を行う方法が採用できる。
【0012】
焙焼炉としては燃焼バーナーの火炎噴射口を炉内に持たない外熱式タイプのものが好適に使用できる。塩化第一鉄主体の水溶液としては鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。
ここで、塩化第一鉄主体の水溶液とは、水溶液中に含まれる塩類のうちモル比で90%以上が塩化第一鉄(FeCl2)で占められるものをいう。
【0013】
また、本発明では、顔料用に粒度調整されたベンガラとして、上記の製造方法で得られたベンガラを平均粒径0.1〜0.5μmに粉砕する顔料用赤色ベンガラの製造方法を提供する。その粉砕手段として、高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕による強加工粉砕手段が採用できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
発明者らは赤色の冴えない鉄鋼酸洗ベンガラを分析する過程において、黒ずんだ赤色粒子の中にはかなり黒味の強い粒子が混在していることを知った。黒色を呈する酸化鉄としてはマグネタイトが挙げられ、これは磁性を有する。鉄鋼酸洗ベンガラ中の黒味の強い粒子は、わずかに磁石に誘導されるものもあるが、多くは磁性を示さず、また、強力な粉砕を行うと赤味を呈するようになることから、これはマグネタイトではなく、基本的にはヘマタイトであることに間違いはない。
【0015】
マグネタイトが黒色を呈するのは酸化数の違うFe(II)とFe(III)の原子間に橋掛け構造ができて、この橋掛け配位子を通じて電荷移動が起こるためであるとされる。一方、現実的には多くの酸化物で正規の化学量論的組成からのずれによって格子欠陥が生じる。鉄の酸化物では例えばウスタイトの場合、格子欠陥が生じることによって酸化数の違うFe(II)とFe(III)が存在することが知られている。
【0016】
塩化第一鉄溶液からのヘマタイトの生成機構はまだ十分に把握されていないが、前述のように、発明者らは焙焼温度を大幅に低下させたときにヘマタイト本来の赤色が発現することを見出した。そうすると、従来のように高温で焙焼したときには、急激に熱分解が生じることにより焙焼生成ヘマタイトに格子欠陥が導入されやすくなり、マグネタイトとは基本的に構造が異なるヘマタイトにおいても酸化数の違うFe(II)とFe(III)の存在に起因した上記の黒色化現象に類似した作用が部分的に生じるのではないかと推察される。
【0017】
また、焙焼雰囲気中の酸素濃度を高めたときにベンガラの赤味が増大することから、焙焼反応時に酸素が十分に供給されると黒色化を助長する要因が緩和されるものと推測される。この酸素の重要性に関しては、出発原料が「塩化鉄」の場合と「硫酸鉄」の場合とで色調の良いベンガラが得られる条件に大きな差があることからも理解できる。すなわち、「塩化鉄」の場合には本発明のように反応温度あるいはさらに酸素濃度を狭い範囲にコントロールしなければ色調の良いベンガラは得られないが、「硫酸鉄」の場合は広範な条件下で比較的容易に色調の良いものが得られる。塩化鉄(FeCl2・4H2O)は水分子を除いた自らの分子中に酸素を保有していないのに対し、硫酸鉄(FeSO4・6H2O)は自ら酸素を保有しており、硫酸鉄ではその保有酸素が良好な赤色ベンガラの生成に寄与しているのではないかと推察される。
【0018】
本発明では、出発原料に塩化第一鉄を用いた焙焼法において、良好な赤色を呈するベンガラが安定して得られる焙焼条件を特定した。
すなわち、塩化第一鉄主体の水溶液を噴霧または滴下する雰囲気の温度を200〜350℃という、従来の塩酸回収目的の焙焼処理温度より大幅に低い温度に制御することによって高級顔料に使用できる色調の良い赤色ベンガラが生産できる。焙焼反応開始から粉体回収までの間、炉内に噴霧または滴下した被焙焼液および焙焼生成粉体を350℃を超える温度に曝さないようにする。このような低温で焙焼を完了させるとき、炉外から特に酸素を供給しなくても良好な色調が得られる。ただし、200℃未満では水分の蒸発が不十分となり、また、十分に熱分解を起こさせることが難しくなるため、生産性が低下する。
【0019】
また、焙焼雰囲気中の酸素濃度を10体積%以上に制御することによって、焙焼温度の上限を500℃まで拡大することができる。500℃を超える場合や、500℃以下(ただし上記のように350℃以下は除く)であっても酸素濃度が10体積%に満たない場合は安定して色調の良いものを得るのが難しくなる。下限温度は上記の場合と同様に200℃であるが、生産性を考慮すると300℃以上とすることが望ましい。なお、より一層好ましい温度および酸素濃度はそれぞれ350〜450℃および20体積%以上である。酸素濃度の上限は特に規制しなくても良いが、概ね50体積%以下の範囲とすることが効率的である。
【0020】
炉内に噴霧または滴下した被焙焼液および焙焼生成粉体は、焙焼反応開始から粉体回収までの間、上記の焙焼雰囲気温度の上限(すなわち350℃、あるいは酸素濃度10体積%以上を維持する場合は500℃)を超える温度に曝さないよう、炉内温度を管理することが重要である。ルスナー式の焙焼炉のように、燃焼バーナーの火炎を直接炉内に噴射して加熱する内燃式タイプの炉では、通常、バーナーの近傍で500℃を超える温度に曝されることは避け難く、酸素濃度もバーナー近傍とそれ以外の場所とで不均一になっている。このような炉は本発明には適さない。また、炉の内壁が上記の焙焼雰囲気温度の上限を超える温度になる炉も適さない。
【0021】
本発明では、炉内に上記の焙焼雰囲気温度の上限を超える部分がないように温度管理ができる炉を用いることが望ましい。例えば、炉内に燃焼バーナーの火炎噴射口を持たない外熱式タイプの炉を使用するのが好ましい。具体的には、350℃以下または500℃以下に調整された加熱用気体を外部から焙焼炉内に連続的に吹き込むタイプの炉が好適に使用できる。ただし、ルスナー式の炉であっても被焙焼液と焙焼生成粉体が通る空間およびそれらが接触する部位を350℃以下、あるいは500℃以下にコントロールできるものであれば使用できる。
【0022】
焙焼雰囲気中の酸素濃度を10体積%以上に維持するためには、酸素含有気体を外部から炉内に送り込みながら焙焼を行うことが望ましい。また、硫酸等の酸素含有液を導入することも有効である。酸素含有気体としては純酸素や大気を利用することができる。例えば、500℃以下に加熱された大気を加熱用気体として炉内に連続的に吹き込む方法が効率的である。加熱用気体に燃焼排ガスを用いる場合は、大気またはそれより酸素濃度の高い気体を燃焼排ガスと混合して500℃以下の温度に調整したうえで炉内に吹き込むか、あるいはそれらの酸素含有気体を別途炉内に導入すればよい。
【0023】
塩化第一鉄主体の水溶液としては鉄鋼業の鋼材酸洗廃液が利用できる。例えば鋼板酸洗ラインから発生する廃酸またはそれを濃縮処理した液が使用できる。本発明の方法は焙焼温度が低いので、廃酸からの塩酸回収を第一義的な目的とする場合は必ずしも生産性が高いとは言えない。しかし、本発明方法においても塩酸は高い回収率で回収でき、有価資源のリサイクルには叶うものである。むしろ、従来は副産物に過ぎなかった鉄鋼酸洗ベンガラが付加価値の高い高級顔料用途に消費可能になる点で、本発明の利点は大きい。
【0024】
以上のようにして得られたベンガラは既に良好な赤色を呈するものであるが、平均粒径は概ね1〜10μmと、高級顔料としては大きい。そこで、これを粉砕して平均粒径0.1〜0.5μmに調整すれば、顔料製品として出荷することができるようになる。粉砕後も優れた赤色の色調は維持される。粉砕方法として、高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕による強加工粉砕手段を用いると、水分散性の極めて良好な顔料を得ることができる。
【0025】
【実施例】
〔実施例1〕
普通鋼の酸洗ラインから出る鋼材酸洗廃液を濃縮した液を用いて噴霧焙焼実験を行った。噴霧に供した液は、塩類のうち塩化第一鉄がモル比で90%以上含まれる水溶液である。焙焼炉は、石油系燃料の燃焼ガスを加熱用気体として炉内に連続的に吹き込む外熱式タイプのもの(炉容量約0.4m3)を用いた。また、炉内には前記加熱用気体とは別に大気を送り込むことができるようになっており、約0.2m3/分で大気を導入した場合と、大気を導入しない場合について実験した。炉内の温度は650℃以下の範囲で種々の温度に調整した。この炉では、炉内の温度分布を約10℃の範囲でほぼ均一に制御することができる。
【0026】
加熱用気体あるいはさらに大気を炉内に導入して炉内の温度が安定したのち、塩化第一鉄水溶液を炉内の上部に設けたスプレーノズルから噴霧した。噴霧量は、炉の設定温度に応じて、液滴が炉内の雰囲気中で完全に焙焼される量に調整した。炉頂から排出されるガスを分析したところ、炉内雰囲気中の酸素濃度は、大気を導入しなかった場合は4〜9体積%、大気を導入した場合は11〜16体積%であった。
なお、比較のため、噴霧液に硫酸第一鉄の水溶液を用いて炉内温度650℃,大気導入なしの条件で上記と同様の焙焼を行った。
【0027】
得られたベンガラ粉体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製;SALD−2100)を用いて平均粒径を測定したところ、何れのサンプルも1〜10μmの範囲であった。また、これら各サンプルについて「色調評点」を求めて色調を評価した。色調評点は、現流品で最高級とされるものを「9」、今回のテストで得られた最も色調の劣るものを「2」と定め、その間に各テストサンプルを配列して8段階の等級に区分して評価した。
表1に結果を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
大気を導入しない場合、焙焼温度を350℃以下に下げることによって、種々の用途に適用可能な現流品の最低水準である色調評点8以上の良好な色調が得られる。大気を導入した場合は、500℃でも色調評点8が得られ、さらに温度を低下させることで最高水準の色調評点9が得られる。一方、硫酸第一鉄水溶液を用いた場合には大気導入なしでも650℃の高温で色調評点9が得られている。このことからすると、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液を出発原料にして高品質の赤色ベンガラを得るのは非常に難しいことがわかる。なお、発明者らは別途実験により、酸素含有気体の導入効果は雰囲気中の酸素濃度が10体積%以上に維持されるようになると十分に発揮されることを確かめている。
【0030】
〔実施例2〕
実施例1で得られた色調評点8以上のベンガラを高速ボールミルで湿式粉砕した。粉砕時に使用した水の量は粉砕液中に占めるベンガラ量が約35質量%となるようにした。粉砕後の粉砕液をベンガラを含んだまま回収したのち水で希釈し、ベンガラの量が30質量%の分散液(pH=6.4)を作った。この分散液を軽く攪拌して目視で均一に見える状態にしたのち1週間静置した。その結果、沈降物が生じたので、沈降物を含まないように分散液のみを採取し、これを回転乾燥法により400℃で乾燥し、平均粒径0.1〜0.5μmの微細なベンガラ顔料を得た。各サンプルとも、粉砕前と同等もしくはそれ以上の優れた色調を呈していた。
【0031】
比較用サンプルとして、湿式法(硫酸第一鉄の水溶液に水酸化ナトリウムを添加してゲーサイトを生成し、これをエアー曝気することで酸化させてベンガラを得る方法)により製造された市販の乾燥状ベンガラ(平均粒径0.4μm)を用意した。これは色調評点9であった。
【0032】
これらの微細ベンガラを水に添加して、ベンガラ25質量%を含む分散液を作った。その際、水酸化ナトリウムを添加してpHを6.4に調整した。これらの分散液を用いて各ベンガラ顔料の水分散性を調べた。
試験液を十分に攪拌したのち種々の時間静置し、液中に沈降せずに分散しているベンガラの割合(分散率)求めた。分散率は、目盛りを付したガラス製試験管に分散液を入れ、沈降したベンガラの高さを測定する方法で求めた。
その結果、本発明に係る強粉砕ベンガラ顔料の分散率は、静置時間60分で100%、同24時間で96〜98%、同30日で80〜85%であり、極めて高い水分散性を示した。これに対し、湿式法で得られた市販ベンガラの分散率は、静置時間わずか5分で0%となり、水分散性は悪かった。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、鉄鋼業の鋼材酸洗廃液の塩化第一鉄水溶液を出発原料として、高級顔料に適用可能な優れた赤色発色性を有するベンガラの製造が可能になった。また、そのベンガラを平均粒径0.1〜0.5μmに強加工粉砕したベンガラ顔料は、従来の製法で得られたものと比べ、水分散性が極めて良好である。したがって本発明は、鉄鋼酸洗ベンガラの新たな用途を開き、日々大量に排出される鋼材酸洗廃液の資源価値を高めるものである。
Claims (7)
- 塩化第一鉄主体の水溶液を温度200〜350℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を350℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法。
- 塩化第一鉄主体の水溶液を酸素濃度10体積%以上、温度300〜500℃に制御された焙焼炉内の雰囲気中に噴霧または滴下し、当該液滴および焙焼生成粉体を500℃を超える温度に曝すことなく焙焼を完了させ、焙焼生成粉体であるベンガラを回収する赤色ベンガラの製造方法。
- 炉内に酸素含有気体を送り込みながら焙焼を行う請求項2に記載の赤色ベンガラの製造方法。
- 焙焼炉が、燃焼バーナーの火炎噴射口を炉内に持たない外熱式タイプである請求項1〜3に記載の赤色ベンガラの製造方法。
- 塩化第一鉄主体の水溶液は鉄鋼業の鋼材酸洗廃液である請求項1〜4に記載の赤色ベンガラの製造方法。
- 請求項1〜5の製造方法で得られたベンガラを平均粒径0.1〜0.5μmに粉砕する顔料用赤色ベンガラの製造方法。
- 粉砕手段が、高速湿式粉砕または強振動乾式粉砕による強加工粉砕手段である請求項6に記載の顔料用赤色ベンガラの製造方法。
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