JP2004163892A - 回折光学素子とその形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】屈折率変調型回折光学素子は、透光性基板1上に形成された透光性DLC(ダイアモンド状炭素)膜2を含み、このDLC膜2は相対的に高屈折率の局所的領域2aと相対的に低屈折率の局所的領域2を含む回折格子を含んでいる。DLC膜2は基板1上にプラズマCVDで容易に堆積することができ、DLC膜中の高屈折率領域2aはイオンビームのようなエネルギビーム4を照射することによって容易に形成することができる。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は回折光学素子とその形成方法に関し、より具体的には、波長合分岐、パワー合分岐、偏光合分岐、波長板、または光アイソレータの機能を有する回折光学素子とその形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、光の回折を生じさせる回折光学素子は、種々の用途に利用され得る。たとえば、光通信分野で使用される波長合分波器、光カプラ、光アイソレータなどは、回折光学素子を利用して作製することができる。
【0003】
一般に、回折光学素子は、透光性基板上に回折格子層を形成することによって作製される。その回折格子層の構造的相違に基づいて、回折光学素子は屈折率変調型とレリーフ型とに大別される。
【0004】
図19は、屈折率変調型回折光学素子の一例を模式的な断面図で示している。この屈折率変調型回折光学素子は、透光性基板11上に形成された回折格子層12aを含んでおり、この回折格子層12aには屈折率変調構造が形成されている。すなわち、回折格子層12aにおいては、相対的に小さな屈折率n1を有する局所的領域と相対的に大きな屈折率n2を有する局所的領域とが周期的に交互に形成されている。そして、低屈折率n1の領域を通過した光と高屈折率n2の領域を通過した光との間で生じる位相差に起因して回折現象が生じ得る。
【0005】
屈折率変調構造を有する回折格子層12aは、たとえばエネルギビーム照射を受けることによって屈折率が増大する材料を用いて形成することができる。たとえば、Geがドープされた石英ガラスは、紫外線照射によってその屈折率が増大することが知られている。また、石英ガラスにX線を照射することによってもその屈折率が増大することが知られている。すなわち、透光性基板11上に屈折率n1の石英系ガラス層を堆積し、そのガラス層にエネルギビームを周期的パターンで照射して局所的に屈折率をn2に高めることによって、図19に示されているような回折格子層12aを形成することができる。
【0006】
図20は、レリーフ型回折光学素子の一例を模式的な断面図で示している。このレリーフ型回折光学素子は、透光性基板11上に形成された回折格子層12bを含んでおり、この回折格子層12bにはレリーフ構造が形成されている。すなわち、回折格子層12bにおいては、相対的に大きな厚さを有する局所的領域と相対的に小さな厚さを有する局所的領域とが周期的に交互に形成されている。そして、大きな厚さの領域を通過した光と小さな厚さの領域を通過した光との間で生じる位相差に起因して回折現象が生じ得る。
【0007】
レリーフ構造を有する回折格子層12bは、たとえば、透光性基板11上に石英系ガラス層を堆積し、フォトリソグラフィとエッチングを利用してそのガラス層を加工することによって形成され得る。
【0008】
図21は、屈折率変調型回折光学素子のもう1つの例を模式的な断面図で示している。図21の屈折率変調型回折光学素子は図19のものに類似しているが、図21中の回折格子層12c内には互いに異なる3レベルの屈折率n1、n2、n3を有する局所的領域が周期的に配列されている。このように、回折格子層12c内において3レベルの屈折率n1、n2、n3を有する局所的領域は、たとえば、基板11上に屈折率n1の石英系ガラス層を堆積して、そのガラス層に対して2通りの異なるエネルギレベルのエネルギビームを照射することによって形成され得る。
【0009】
多(マルチ)レベルの屈折率の局所的領域を含む回折格子によれば、単純な2(バイナリ)レベルの屈折率の領域を含む回折格子の場合に比べて、回折効率が向上し得る。また、マルチレベルの屈折率変化を含む回折格子がバイナリレベルの屈折率変化を含む回折格子に比べて高い回折効率を有し得ることから推測されるように、段階的な屈折率変化の代わりに連続的な屈折率変化を含む回折格子もバイナリレベルの屈折率変化を含む回折格子に比べて高い回折効率を有し得る。ここで、回折効率とは、入射光のエネルギに対する回折光エネルギの総和の比率を意味する。すなわち、回折光を利用する観点からは、回折効率の大きい方が好ましい。
【0010】
図22は、レリーフ型回折光学素子のもう1つの例を模式的な断面図で示している。図22のレリーフ型回折光学素子は図20のものに類似しているが、図22中の回折格子層12d内には互いに異なる3レベルの厚さを有する局所的領域が周期的に配列されている。このように、回折格子層12d内において3レベルの厚さを有する局所的領域は、たとえば、基板11上に石英系ガラス層を堆積して、そのガラス層に対してフォトリソグラフィとエッチングによる加工を2回繰り返すことによって形成され得る。このように多レベルの厚さを有する局所的領域を含む回折格子によっても、単純な2レベルの厚さを含む回折格子の場合に比べて、回折効率が向上し得る。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述の屈折率変調型回折光学素子は原理的には作製可能であるが、実用的な屈折率変調型回折光学素子を得ることは困難である。なぜならば、たとえば石英系ガラスにエネルギビームを照射することによって得られる屈折率変化量はせいぜい0.002程度であって、効果的な回折格子層を形成することが困難だからである。
【0012】
したがって、現在では、たとえば特許文献1の特開昭61−213802号公報や非特許文献1のApplied Optics, Vol.41, 2002, pp.3558-3566に述べられているように、回折光学素子としてレリーフ型が利用されるのが一般的である。しかし、レリーフ型回折光学素子の作製に必要なフォトリソグラフィやエッチングはかなり複雑な加工工程であり、相当の時間と手間を要する。また、そのエッチング深さを精度よく制御することが容易でない。さらに、レリーフ型回折光学素子においては、その表面に微細な凹凸が形成されているので、埃や汚れが付着しやすいという問題もある。
【0013】
以上のような先行技術における状況に鑑み、本発明は、実用的な回折光学素子を効率的に低コストで提供することを目的としている。
【0014】
【特許文献1】
特開昭61−213802号公報
【0015】
【非特許文献1】
Applied Optics, Vol.41, 2002, pp.3558-3566
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、回折光学素子は透光性基板上に形成された透光性DLC(ダイアモンドライクカーボン:ダイアモンド状炭素)膜を含み、このDLC膜は相対的に高屈折率の局所的領域と相対的に低屈折率の局所的領域を含む回折格子を含んでいることを特徴としている。
【0017】
なお、それらの高屈折率領域と低屈折率領域との境界面はDLC膜の表面に垂直であってもまたは傾斜していてもよく、その境界面の両側において屈折率が連続的に変化していてもよい。
【0018】
そのような回折光学素子は、複数の波長を含む1つの光ビームを波長に依存して複数の光ビームに分割することができ、かつ異なる波長を有する複数の光ビームを単一の光ビームに合体させことができる波長合分岐の機能を有し得る。
【0019】
また、そのような回折光学素子は、単一波長の光ビームを複数の光ビームに分割することができ、かつ単一波長の複数の光ビームを単一の光ビームに合体させことができるパワー合分岐の機能を有し得る。
【0020】
さらに、そのような回折光学素子は、単一波長の光ビームに含まれるTE波とTM波を分離しかつ合体させることができる偏光合分岐の機能を有し得る。
【0021】
さらに、そのような回折光学素子は、単一波長の光ビームに含まれるTE波またはTM波に対して波長板の機能を有し得る。
【0022】
さらに、上述の偏光合分岐の機能を有する回折格子を含むDLC膜と波長板の機能を有する回折格子を含むDLC膜とを組合せて光アイソレータを得ることも可能である。
【0023】
さらに、そのような回折光学素子は、0.8μm〜2.0μmの範囲内の波長を含む光に対して作用し得る回折格子を含み得る。
【0024】
上述のような本発明による回折光学素子を形成するための方法においては、DLC膜に所定のパターンでエネルギビームを照射して屈折率を高めることによって、回折格子に含まれる高屈折率領域を形成することができる。そのエネルギビームは、X線、電子線、およびイオンビームから選択され得る。また、DLC膜は、プラズマCVD法によって基板上に堆積され得る。さらに、高屈折率領域と低屈折率領域との境界面をDLC膜の表面に対して傾斜させる場合には、DLC膜の表面に対してエネルギビームを傾斜させて照射すればよい。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
図1から図3は、本発明の実施形態1による屈折率変調型回折光学素子の作製過程を図解する模式的な断面図である。なお、本願の図面において、長さや厚さのような寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を反映してはいない。
【0026】
図1に示されているように、屈折率1.44を有しかつ5mm×5mmの主面を有するSiO2基板1上に、DLC膜2がプラズマCVDによって2μmの厚さに堆積された。なお、屈折率変調型回折光学素子におけるDLC膜の厚さに特別な制限はなく、任意の厚さに設定し得る。ただし、DLC膜があまりに厚過ぎれば、その膜による光吸収効果が大きくなり過ぎることにおいて好ましくない。また、DLC膜があまりに薄過ぎれば、十分な回折効果を得ることが困難になる傾向にあるので好ましくない。現在利用可能なDLC膜においては、好ましくは0.5〜10μmの厚さ範囲内のDLC膜が屈折率変調型回折光学素子に利用される。しかし、より小さな光吸収係数を有するDLC膜が得られればより厚いDLC膜の利用も可能であろうし、屈折率の変化率をより大きくできればより薄いDLC膜の利用も可能になるであろう。
【0027】
図2においては、DLC膜2上に、リフトオフ法によって金マスク3が形成された。この金マスク3においては、幅0.5μmで長さ5mmの金ストライプが0.5μmの間隔を隔てて繰り返し配列されていた。すなわち、この金マスク3は、ライン・アンド・スペースのパターンを有していた。その後、金マスク3の開口部を介して、800keVの加速電圧の下でHeイオンビーム4が5×1017/cm2のドース量でDLC膜2に直交する方向に注入された。
【0028】
その結果、DLC膜2のうちでHeイオンが注入されなかった領域は1.55の屈折率を有していたが、Heイオンが注入された領域2aの屈折率は2.05に高められていた。このようなDLC膜における屈折率変化は石英系ガラスにおいて得られる屈折率変化に比べてはるかに大きいものであり、十分に回折効率の大きな回折格子層の形成が可能となる。
【0029】
図3において、金マスク3がエッチングによって除去され、実施形態1の屈折率変調型回折光学素子が得られた。なお、この回折光学素子における回折格子層2は、屈折率1.55と2.05との2種類の領域を含んでおり、いわゆるバイナリ・レベルの回折格子層である。
【0030】
図4は、実施形態1で得られた屈折率変調型回折光学素子を波長合分岐器として使用する場合における波長分岐作用を模式的な断面図で図解している。この断面図において、黒い断面領域は相対的に高い屈折率の領域を表わし、白い断面領域は相対的に低い屈折率の領域を表わしている。図4に表わされているように、たとえば複数の波長λ1、λ2、λ3、λ4を含む単一の光ビームを回折光学素子に入射させれば、その回折光学素子を通過する光の回折角は波長に依存して互いに異なる。その結果、複数波長を含む単一の入射光ビームが、波長ごとに進行方向の異なる複数の回折光ビームに分離され得るのである。
【0031】
もちろん、図4中の矢印で示された入射光ビームと回折光ビームとの向きを逆にすれば、図4の回折光学素子が合波器として利用され得ることが明らかであろう。なお、回折光学素子が波長分岐器として使用される場合、光ビームは、一般に回折光学素子の表面の法線に対して0〜70度程度の範囲内の適切な角度で入射させられる。ただし、この入射角度範囲は高屈折領域と低屈折率領域との境界がDLC膜の表面となす角度に依存し、たとえばイオンビームをDLC膜面に対して斜め方向に照射することによって高屈折領域がDLC膜面に傾斜して形成されている場合には、その傾斜角を考慮して光ビームの入射角が調整される。
【0032】
図5は、実施形態1の回折光学素子による波長分岐結果の一例を模式的に示すグラフである。このグラフの横軸は回折光の波長(nm)を表し、縦軸は回折光の強度を任意単位で表わしている。この場合において、1.5〜1.6μmの波長範囲と350μmのビーム径を有する光が、光ファイバとコリメータを利用して、実施形態1の回折光学素子に入射させられた。その結果、図5に示されているように、1.5μmから1.6μmの間で20nm間隔で分布した波長を有する5本の回折光ビームが得られ、それら5本の回折光ビームはほぼ等しい強度を有していた。そして、このときの回折効率は約99%であり、十分に優れた波長分岐特性が得られた。
【0033】
なお、実施形態1においてはライン状の1次元的回折格子パターンが用いられているので、回折光ビームは入射光ビームを含む1つの平面に沿って存在する。しかし、次に述べる実施形態2におけるように2次元的回折格子パターンを用いることによって、回折光ビームを2次元的に分布させ得ることは言うまでもない。
【0034】
(実施形態2)
図6は、実施形態2による回折光学素子における2次元的回折格子パターンを模式的な平面図で表わしている。実施形態2の回折光学素子も、実施形態1の場合と同様の工程で作製することができる。すなわち、図6において、黒色の領域はDLC膜のうちでHeイオンビームが照射されて屈折率が高められた領域を表わし、白色の領域はHeイオンビームが照射されなかった領域を表わしている。黒色のパターンは、4μm×4μmの最小セルの組合せで形成されており、132μmの周期性を有している。すなわち、図6の回折格子パターンにおいて、最小線幅は4μmである。
【0035】
図7は、実施形態2で得られた屈折率変調型回折光学素子を光カプラ(パワー分岐装置)として使用する場合におけるパワー分岐作用を模式的な断面図で図解している。すなわち、単一波長の光ビームを回折光学素子に入射させれば、その回折光学素子を通過する光の回折角は回折次数に依存して互いに異なる。その結果、単一波長の入射光ビームが、複数の光回折光ビームに分離され得るのである。
【0036】
図8は、図6の光カプラによって図7のようにパワー分岐された回折ビームに直交する面内におけるビーム分布を示す平面図である。すなわち、パワーPを有する入射光ビームは、それぞれP/16のパワーを有する16本の回折光ビームに分岐され得る。実際に、1.55μmの波長を有するビーム径350μmの光を実施形態2の回折光学素子の表面に垂直に入射させたところ、4回対称に分布した16分岐の回折光ビームが得られた。
【0037】
なお、図8に示されているような回折光ビームの分布パターンを実現し得る図6の回折格子パターンは、周知のようにフーリエ変換を利用して求めることができる。
【0038】
(実施形態3)
実施形態3においては、偏光合分岐の機能を有する回折光学素子が作製された。この実施形態3の回折光学素子においても、実施形態1の場合と同様の工程で、ライン・アンド・スペースのパターンを有するDLCの回折格子層が形成された。ただし、実施形態3においては、幅0.4μmで長さ5mmの高屈折率領域が0.4μmの間隔を隔てて繰り返し配列させられた。
【0039】
図9は、実施形態3で得られた屈折率変調型回折光学素子を偏光合分岐器として使用する場合における偏光分岐作用を模式的な断面図で図解している。すなわち、TE成分とTM成分とを含むTEM波を実施形態3の回折光学素子に入射させれば、TE波とTM波とはその偏光の相違に依存して互いに異なる回折角で回折される。たとえば、図9に示されているように、0次回折光としてTE波が得られ、−1次回折光としてTM波が得られる。こうして、TE波とTM波との分岐が可能になる。実際に、1.55μmの波長を有するビーム径100μmの光を実施形態3の回折光学素子に入射させたところ、TE波とTM波とを分岐することができた。
【0040】
(実施形態4)
実施形態4においては、波長板の機能を有する回折光学素子が作製された。この実施形態4の回折光学素子においても、実施形態1の場合と同様の工程で、ライン・アンド・スペースのパターンを有するDLCの回折格子層が形成された。ただし、実施形態4においては、幅0.2μmで長さ5mmの高屈折率領域が0.2μmの間隔を隔てて繰り返し配列させられた。
【0041】
図10は、実施形態4で得られた屈折率変調型回折光学素子を波長板として使用する場合における偏光変換作用を模式的な斜視図で図解している。この図において、光の進行方向に沿って、直線偏光フィルタ21と本実施形態4において1/4波長板として作用する回折光学素子22とが配列されている。偏光フィルタ21は、1.55μmの波長と350μmの断面径を有する入射光ビーム23のうちで垂直直線偏光24のみを通過させる。回折光学素子22に含まれる高屈折率領域のライン・アンド・スペースの方向は、直線偏光24の偏光方向に対して45度回転させられていた。このような状態において、回折光学素子22を通過した光25は、進行方向に向いて反時計方向に回転する円偏光になった。
【0042】
図11は、図10に示された偏光フィルタ21と1/4波長板22が光アイソレータとして作用する状態を図解している。すなわち、図10の円偏光25が或る物体に反射されて戻ってくるとき、その円偏光の回転方向が反射によって逆回転にされた戻り光26になっている。そして、その戻り光26は、1/4波長板22を逆方向に通過することによって、水平直線偏光27に変換される。そして、偏光フィルタ21は垂直直線偏光のみを通過させるので、水平直線偏光の戻り光27は偏光フィルタ21によって阻止され、光入射側に戻ることができない。こうして、光アイソレータとしての作用が発揮され得る。
【0043】
(実施形態5)
実施形態5においては、図12の模式的な斜視図に示されているように、光アイソレータの機能を有する回折光学素子が作製された。この回折光学素子においては、石英ガラス基板31の第1主面上に第1のDLC膜31が形成され、第2主面上に第2のDLC膜33が形成された。そして、第1のDLC膜32には、実施形態3と同様な回折格子が形成され、第2のDLC膜33には実施形態4と同様な回折格子が形成された。
【0044】
波長1.55で断面径350μmの光ビーム34を図12の回折光学素子に入射させたところ、偏光分岐器として作用する第1の回折格子層32と1/4波長板として作用する第2の回折光学層33を通過した光35は、或る物体に反射されて戻ってきても、光アイソレータとして協働する1/4波長板33と偏光分岐器32を通過して戻ることができなかった。このとき、第1の回折格子層32を通過する戻り光の強度に対する入射光の強度の比率である消光比として、40dB以上の値が得られた。
【0045】
(実施形態6)
図13に示された実施形態6における波長合分岐格子層は、図4に示されたものに類似しているが、高屈折率領域と低屈折率領域との界面がDLC膜の表面に対して傾斜していることにおいて異なっている。図13の屈折率変調型回折光学層の作製においては、実施形態1の場合に類似して、屈折率1.44を有しかつ5mm×5mmの主面を有するSiO2基板上に、DLC膜がプラズマCVDによって5μmの厚さに堆積された。
【0046】
そのDLC膜上には、幅0.5μmで長さ5mmの金ストライプが周期1μmで繰り返し配列されたライン・アンド・スペースのパターンを有する金マスクが形成された。その後、金マスクの開口部を介して、800keVの加速電圧の下でHeイオンビーム4が5×1017/cm2のドース量でDLC膜の表面に対して40度の傾斜角でかつ金ストライプの長さ方向に直交する方向に注入された。その結果、DLC膜のうちでHeイオンが注入されなかった領域は1.55の屈折率を有していたが、Heイオンが注入された領域の屈折率は2.05に高められていた。
【0047】
図4に類似した図13は、実施形態6で得られた屈折率変調型回折光学層を波長合分岐器として使用する場合における波長分岐作用を模式的な断面図で図解している。図13に表わされているように、たとえば複数の波長λ1、λ2、λ3、λ4を含む単一の光ビームを回折光学素子に入射させれば、その回折光学素子を通過する光の回折角は波長に依存して互いに異なる。その結果、複数波長を含む単一の入射光ビームが、波長ごとに進行方向の異なる複数の回折光ビームに分離され得るのである。
【0048】
この実施形態6の場合において、1.5〜1.6μmの波長範囲と350μmのビーム径を有する光が、光ファイバとコリメータを利用して、図13の回折光学素子の表面に直交する方向に入射させられた。その結果、本実施形態6においても、実施形態1の場合と同様に、1.5μmから1.6μmの間で20nm間隔で分布した波長を有する5本の回折光ビームが得られ、それら5本の回折光ビームはほぼ等しい強度を有していた。そして、このときの回折効率は約99%であり、十分に優れた波長分岐特性が得られた。
【0049】
なお、本実施形態6におけるように回折光学層の表面に直行する方向に入射光を導入できれば、そのような回折光学層を含む光学部品のコンパクト化や低コスト化をより促進することができ、光部品としてパッケージする際の調芯工程が簡略化され得る。
【0050】
(実施形態7)
図14に示された実施形態7におけるパワー分岐格子層は、図7に示されたものに類似しているが、高屈折率領域と低屈折率領域との界面がDLC膜の表面に対して例えば45度だけ傾斜していることにおいて異なっている。また、図7のパワー分岐格子層は図6に示されているような2次元的回折格子パターンを有しているが、図14のパワー分岐格子層ではDLC膜の表面において例えば90μm幅の高屈折率領域が180μmの周期性でライン・アンド・スペースのパターンで形成される。
【0051】
すなわち、高屈折率領域と低屈折率領域との界面をDLC膜の表面に対して傾斜させる場合には、図8に示されているように入射パワーを2次元的に分岐することはできないが、DLC膜の表面に直交する入射光ビームを含みかつ高屈折率領域と低屈折率領域との界面に直交する面内においてその入射光ビームを複数のビームにパワー分岐することができる。
【0052】
(実施形態8)
図15に示された実施形態8における偏光分離格子層は、図9に示されたものに類似しているが、高屈折率領域と低屈折率領域との界面がDLC膜の表面に対して傾斜していることにおいて異なっている。この実施形態8においては、実施形態6の場合に類似して、SiO2基板上にDLC膜がプラズマCVDによって4μmの厚さに堆積された。そのDLC膜上には、幅0.4μmで長さ5mmの金ストライプが周期1μmで繰り返し配列されたライン・アンド・スペースのパターンを有する金マスクが形成された。その後、DLC膜の表面に対して40度の傾斜角でかつ金ストライプの長さ方向に直交するの方向にHeイオンが注入された。
【0053】
TE成分とTM成分とを含むTEM波のビームを図15の回折光学層の表面に直行する方向に入射させれば、TE波とTM波とはその偏光の相違に依存して互いに異なる回折角で回折される。実際に、1.55μmの波長を有するビーム径100μmの光を本実施形態8の回折光学素子に入射させたところ、TE波とTM波とを分岐することができた。
【0054】
(実施形態9)
図16の模式的断面図に示された実施形態9における光アイソレータは、図12のものに類似しているが、それに含まれる第1のDLC膜32aおいて実施形態8と同様な回折格子が形成されていることにおいて異なっている。
【0055】
波長1.55で断面径350μmの光ビーム34aを図16の回折光学素子の表面に垂直に入射させたところ、偏光分岐器として作用する第1の回折格子層32aと1/4波長板として作用する第2の回折光学層33を通過した光35aは、或る物体に反射されて反射光35bとして戻ってきても、光アイソレータとして協働する1/4波長板33と偏光分岐器32aを通過して戻ることができなかった。
【0056】
(実施形態10)
実施形態10においては、本発明による回折光学素子の形成法の他の例が示される。図17の模式的な断面図においては、DLC膜2上に複数のライン状の金マスク3aが形成される。このライン状の金マスク3aは、その長さ方向に直交する断面において、半円状の上面を有している。このようなマスクパターンの上方から、DLC膜2の上面に直交する方向にHeイオン4が照射される。そして、DLC膜2内に高屈折率領域2bが形成される。
【0057】
そのとき、各ライン状マスクが半円状の上面を有しているので、各マスクの側面近傍では一部のHeイオンがそのマスクを透過することができ、その透過HeイオンがDLC膜2内に侵入し得る。したがって、図17のDLC膜2中においては、高屈折率領域と低屈折率領域との界面近傍において、屈折率が連続的に変化することになる。そして、このような連続的な屈折率変化を含む屈折率変調型回折光学素子においては、前述のように、バイナリレベルの屈折率変化を含む回折光学素子に比べて改善された回折効率を得ることができる。
【0058】
他方、図18の模式的な断面図においては、DLC膜2上に複数のライン状の金マスク3bが形成される。このライン状の金マスク3bは、その長さ方向に直交する断面において矩形状であり、かなりの厚さを有している。このようなマスクパターンの斜め上方から、DLC膜2の上面に傾斜する方向にHeイオン4が照射される。そして、DLC膜2内に高屈折率領域2cが形成される。
【0059】
そのとき、各ライン状マスクの矩形状断面のコーナ近傍では一部のHeイオンがそのマスクを透過することができ、その透過HeイオンがDLC膜2内に侵入し得る。したがって、図18のDLC膜2中においては、高屈折率領域と低屈折率領域との界面がその膜面に対して傾斜し得るとともに、その界面近傍において屈折率が連続的に変化することになる。
【0060】
なお、以上の実施形態ではDLC膜の屈折率を高めるためにHeイオン照射を利用する例について説明されたが、DLC膜の屈折率を高めるためにはX線照射や電子線照射などをも利用することができる。また、上述の実施形態では1.5μmから1.6μmまでの波長範囲内の入射光に関して説明されたが、本発明においては、光通信分野において利用される可能性のある0.8μm〜2.0μmの範囲内のどのような波長を有する光に対しても使用し得る回折光学素子を作製することができる。
【0061】
さらに、DLC膜中にマルチレベルの回折格子をも形成し得ることは言うまでもない。その場合には、たとえばエネルギレベルまたは/およびドース量の異なるエネルギビームをDLC膜に照射すればよい。
【0062】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、実用的な回折光学素子を効率的に低コストで提供することができる。また、DLC膜を利用することによって実現可能になった屈折率変調型回折光学素子においては、レリーフ型回折光学素子のように表面に微細な凹凸が存在しないので、その表面が汚染されにくくかつ汚染されてもその浄化が容易である。さらに、DLC膜は高い耐磨耗を有するので、本発明の回折光学素子はその表面が破損されにくい観点からも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による回折光学素子を作製する過程を図解する模式的な断面図である。
【図2】本発明による回折光学素子を作製する過程を図解する模式的な断面図である。
【図3】本発明による回折光学素子を作製する過程を図解する模式的な断面図である。
【図4】本発明による波長合分岐器の波長分岐作用を図解する模式的な断面図である。
【図5】本発明による波長合分岐器によって分岐された光の波長と強度分布との関係の一例を示すグラフである。
【図6】本発明による光パワー分岐器における回折格子パターンの一例を示す模式的な平面図である。
【図7】本発明による光パワー分岐器におけるパワー分岐作用を図解する模式的な断面図である。
【図8】図6の光パワー分岐器によってパワー分岐された回折ビームに直交する面内におけるビーム分布を示す平面図である。
【図9】本発明による偏光分岐器における偏向分岐作用を図解する模式的な断面図である。
【図10】本発明による波長板における偏光変換作用を図解する模式的な斜視図である。
【図11】図10の光学系における光アイソレータとしての作用を図解する模式的な斜視図である。
【図12】本発明において光アイソレータとして作用し得る回折光学素子を図解する模式的な斜視図である。
【図13】本発明による波長合分岐器の波長分岐作用の他の例を図解する模式的な断面図である。
【図14】本発明による光パワー分岐器におけるパワー分岐作用の他の例を図解する模式的な断面図である。
【図15】本発明による偏光分岐器における偏向分岐作用の他の例を図解する模式的な断面図である。
【図16】本発明において光アイソレータとして作用し得る回折光学素子の他の例を図解する模式的な断面図である。
【図17】本発明による回折光学素子を作製する方法の他の例を図解する模式的な断面図である。
【図18】本発明による回折光学素子を作製する方法のさらに他の例を図解する模式的な断面図である。
【図19】従来の屈折率変調型回折光学素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図20】従来のレリーフ型回折光学素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図21】従来の屈折率変調型回折光学素子のもう1つの例を示す模式的な断面図である。
【図22】従来のレリーフ型回折光学素子のもう1つの例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 石英ガラス基板、2 DLC膜、2a、2b、2c DLC膜2中の高屈折率領域、3、3a、3b 金マスク、4、4a Heイオンビーム、21 偏光板、22 1/4波長板、23 入射光、24 垂直直線偏光、25 円偏光、26 反射戻り円偏光、27 水平直線偏光、31 石英ガラス基板、32、32a 第1の回折格子層、33 第2の回折格子層、34、34a 入射光、35、35a出射光、35b 戻り光。
Claims (17)
- 透光性基板上に形成された透光性DLC膜を含み、このDLC膜は相対的に高屈折率の局所的領域と相対的に低屈折率の局所的領域とを含む回折格子を含んでいることを特徴とする回折光学素子。
- 前記高屈折率領域と前記低屈折率領域との境界面は前記DLC膜の表面に垂直であることを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
- 前記境界面の両側において屈折率が連続的に変化していることを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。
- 前記高屈折率領域と前記低屈折率領域との境界面は前記DLC膜の表面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
- 前記境界面の両側において屈折率が連続的に変化していることを特徴とする請求項4に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は、複数の波長を含む1つの光ビームを波長に依存して複数の光ビームに分割することができ、かつ異なる波長を有する複数の光ビームを単一の光ビームに合体させることができる波長合分岐の機能を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかの項に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は、単一波長の光ビームを複数の光ビームに分割することができ、かつ単一波長の複数の光ビームを単一の光ビームに合体させことができるパワー合分岐の機能を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかの項に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は、単一波長の光ビームに含まれるTE波とTM波を分離できかつ合体させることができる偏光合分岐の機能を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかの項に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は、単一波長の光ビームに含まれるTE波またはTM波に対して波長板の機能を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の回折光学素子。
- 透光性基板の第1と第2の主面上にそれぞれ形成された第1と第2の透光性DLC膜を含み、前記DLC膜の各々は相対的に高屈折率の局所的領域と相対的に低屈折率の局所的領域とを含む回折格子を含んでおり、
前記第1のDLC膜は単一波長の光ビームに含まれるTE波とTM波を偏光分離することができる偏光分岐の機能を有し、
前記第2のDLC膜は単一波長の光ビームに含まれるTE波またはTM波に対して波長板の機能を有し、
前記第1と第2のDLC膜は協働して光アイソレータの機能を有することを特徴とする回折光学素子。 - 前記第1のDLC膜における前記高屈折率領域と前記低屈折率領域との境界面はそのDLC膜の表面に対して傾斜しており、前記第2のDLC膜における前記高屈折率領域と前記低屈折率領域との境界面はそのDLC膜の表面に垂直であることを特徴とする請求項10に記載の回折光学素子。
- 前記境界面の両側において屈折率が連続的に変化していることを特徴とする請求項11に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は0.8μm〜2.0μmの範囲内の波長を含む光に対して作用し得る前記回折格子を含んでいることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の回折光学素子。
- 請求項1から13のいずれかに記載された回折光学素子を形成するための方法であって、前記DLC膜に所定のパターンでエネルギビームを照射して屈折率を高めることによって、前記回折格子に含まれる前記高屈折率領域を形成することを特徴とする回折光学素子の形成方法。
- 前記エネルギビームは、X線、電子線、およびイオンビームから選択されることを特徴とする請求項14に記載の回折光学素子の形成方法。
- 前記基板上において、前記DLC膜はプラズマCVD法によって堆積されることを特徴とする請求項14または15に記載の回折光学素子の形成方法。
- 前記エネルギビームが前記DLC膜の表面に対して傾斜して照射される工程を含むことを特徴とする請求項14から16のいずれかの項に記載の回折光学素子の形成方法。
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