JP2004162130A - 成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法 - Google Patents

成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来、テーラードブランク法により製造していた高強度成形体を、部分熱処理により安定して生産できる、成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】歪時効硬化特性に優れた鋼板をプレス成形後、部分熱処理を施して下記ΔHvが30以上でかつΔHv/tが10以下となるようにする。
ΔHv = Hv1 −Hv2
ここで、Hv1 ;部分熱処理を施した部分(B部)の硬度(ビッカース硬さ)、Hv2 ;部分熱処理を施さなかった部分(A部)の硬度(ビッカース硬さ)、t:硬度遷移領域幅(mm);硬度がHv1 からHv2 に遷移する領域の幅
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車の構造部材として用いられる高強度成形体に係り、歪時効硬化特性に優れた鋼板を素材として、鋼板をプレス成形後、部分熱処理を施すことにより、部分的に強度変化をつけて、成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体を製造する方法に関する。なお、本発明で用いる鋼板は、歪時効硬化特性に優れた鋼板とすることが好ましく、「歪時効硬化特性に優れる」とは、ΔTS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性を有することを意味する。本発明において、ΔTSとは、塑性歪量5% 以上の予変形処理後、150 〜 400℃の範囲の温度で保持時間:30s以上の熱処理を施したときの、熱処理前後の引張り強さ増加量{=(熱処理後の引張強さ)−(予変形処理前の引張強さ)}を意味する。また、ここでいう鋼板とは、いわゆる熱延鋼板、 冷延鋼板のみならず、溶融亜鉛めっき鋼板などのめっき鋼板も含むものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全問題からの排出ガス規制に関連して、 自動車の車体重量の軽減が極めて重要な課題となっている。最近、車体重量の軽減のために、自動車用鋼板を高強度化して鋼板板厚を低減することが検討されている。
鋼板を素材とする自動車の車体用部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される鋼板には、優れたプレス成形性を有することが要求される。しかし、 一般に、鋼板を高強度化すると、プレス成形性が低下する傾向となる。
【0003】
また最近では、衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性が重視され、そのために衝突時における安全性の目安となる耐衝突特性の向上が要求されている。耐衝突特性の向上には、完成車での強度が高いほど有利になる。したがって、自動車部品の成形時には、強度が低く、高い延性を有してプレス成形性に優れ、完成品となった時点には、強度が高くて耐衝突特性に優れる鋼板が最も強く望まれていた。
【0004】
そのような要求に対し、車体軽量化と衝突安全性とを両立させる新しいプレス成形技術として、異強度鋼板を予めブランクおよびレーザ溶接したものをプレス成形する、テーラードブランク(Tailored Welded Blank) 法が開発および実用化されている。この方法によれば、高強度が必要な部分にのみ高強度鋼板を使用すればよいため、たとえプレス成形性が格段に優れていなくとも、高強度鋼板を大量に採用でき、成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体を製造して、耐衝突特性を確保しつつ、車体軽量化に大いに寄与できる。しかしながら、通常のプレス工程に比べ、 鋼板のブランクおよびレーザ溶接をオフラインでしなくてはならないため、コストが高くなるという問題がある。さらに、溶接部における硬度変化が大きく、さらに熱影響部での軟化により、プレス割れが発生するといったプレス成形性の問題もある。
【0005】
一方、プレス成形後、 高強度化させる方法として、部分硬化法が検討されている。例えば、特許文献1には、鋼板を冷間成形後、レーザビームによりAc変態点以上の温度に縞状あるいは格子状に急速加熱後、 冷却することにより、成形品の強化が可能な技術が開示されている。しかしながら、局所熱処理によりAc変態点以上といった高温まで加熱しなくてはならないため、溶融亜鉛めっき鋼板への適用は困難であるとともに、Ac変態点以上の温度まで上げるため、変態歪により鋼板が変形することに起因する寸法精度の問題が残る。
【0006】
このような要望に対し、プレス成形性と高強度化とを両立させた鋼板が開発された。特許文献2には、プレス成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法によれば、塑性歪5% 以上の成形後、150 〜 350℃の温度域で30s以上加熱することにより、80MPa 以上の引張強さ上昇が得られる。すなわち、プレス成形時には軟質であるためプレス成形性に優れ、その後の低温熱処理により強度が上昇するため、 耐衝突特性が大幅に向上する。
【0007】
【特許文献1】
特開昭61−99629号公報
【特許文献2】
特開2001−348645号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2においては、テーラードブランクの代替となるような、プレス成形体の所定の部分のみを硬化させた成形体を製造する技術については何ら検討されておらず、その方法が求められていた。
本発明は、上記したように、極めて強い要求があるにもかかわらず、歪時効硬化特性に優れた鋼板を活用して成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体を工業的に安定して製造し、テーラードブランクを用いた技術の代替となる技術がこれまでなかったことに鑑み成されたものである。そして、上記の問題を有利に解決し、自動車用構造部材として好適な、優れたプレス成形性を有し、かつプレス成形後に、 比較的低い温度での部分熱処理によって、 部材強度が極めて大きく上昇する歪時効硬化特性に優れた高張力鋼板を使用することにより、従来、テーラードブランク法により製造していた高強度成形体を、部分熱処理により安定して生産できる、成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成した本発明は、歪時効硬化特性に優れた鋼板をプレス成形後、部分熱処理を施して下記ΔHvが30以上でかつΔHv/tが10以下となるようにすることを特徴とする成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法である。

ΔHv = Hv1 −Hv2
ここで、Hv1 ;部分熱処理を施した部分の硬度(なお、“硬度”はビッカース硬さを指す。以下同じ。)、
Hv2 ;部分熱処理を施さなかった部分の硬度
t:硬度遷移領域幅(mm);硬度がHv1 からHv2 に遷移する領域の幅
なお、硬度遷移領域幅tは、硬度Hv1 の領域と硬度Hv2 の領域との間の距離であり、部分熱処理を行った部分から行わなかった部分にかけて硬度を0.2 mm以下のピッチで連続して測定し、その硬度データの変化点間の距離を測定して得られる。この硬度測定は、加工度が同じで部分熱処理の有無の部分について行うものとし、また、部分熱処理を行った部分のうち最も加工度が大きく歪が多く入った部分について行うことが、圧壊特性を正しく評価する上で好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明では、歪時効硬化特性に優れた鋼板をプレス成形し、この成形体に部分熱処理を施すことにより、この部分熱処理を施した部分と施さなかった部分との硬度差ΔHvを30以上、硬度変化率ΔHv/t(tは硬度遷移域の幅;mm)を10以下に調整する。これにより、プレス後の成形体の所望の部分を低温の熱処理で高強度化することができ、テーラードブランク代替となりうる寸法精度のよい高強度成形体を有利に製造することができる。
【0011】
まず、本発明における部分熱処理による強度変化について説明する。
本発明では、歪時効硬化特性に優れる鋼板をプレス成形後、部分熱処理を施した部分の硬度Hv1 と該熱処理を施さなかった部分の硬度Hv2 との差ΔHv = Hv1 −Hv2 が30以上になる硬度差が得られるように部分熱処理を行う必要がある。硬度差ΔHvが30未満では、十分な高強度化の効果、すなわち耐衝突特性の向上が得られないためである。
【0012】
さらに、本発明で重要な点は、プレス成形‐部分熱処理により高強度化した部分とそうでない部分との硬度変化率ΔHv/tが10以下であることが必要である。硬度変化率ΔHv/tが10より高い場合には、高強度化した部分と低強度のままの部分との強度変化が大きいため、圧壊変形時とくに軸圧壊変形時に、低強度部分から高強度部分への連続的な座屈変形が進行しないため、高い圧壊変形時の吸収エネルギーが得られない。
【0013】
ここで、部分熱処理条件としては、鋼板の歪時効硬化能を発揮させるための熱処理温度は150 〜400 ℃が必要である。熱処理温度が150 ℃未満では、ΔHvで30以上になる硬度差が得られないためであり、また熱処理温度が400 ℃を超える場合には、熱処理による強度上昇効果が飽和し、逆にやや軟化するのに加え、とくに溶融亜鉛めっき鋼板を素材とすると、合金化めっきの組成が変化するなどのめっき特性が劣化するためである。なお、好ましくは熱処理温度は350 ℃以下とする。また、熱処理時間は30〜3600sが必要である。熱処理時間が30s未満ではΔHvで30以上になる強度差が得られないためであり、また3600sを超える長時間熱処理では生産性が悪くコスト上昇を招くからである。
【0014】
部分熱処理方法に関しては、特に限定するものではないが、例えば高周波加熱、レーザ加熱等が有効である。
なお、本発明では、歪時効硬化特性に優れた鋼板を用いる。ここで「歪時効硬化特性に優れる」とは、ΔTS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性を有することを意味する。本発明において、ΔTSとは、塑性歪量5% 以上の予変形処理後、150 〜400 ℃の範囲の温度で保持時間:30s以上の熱処理を施したときの、熱処理前後の引張強さ増加量{=(熱処理後の引張強さ)−(予変形処理前の引張強さ)}を意味する。
【0015】
このような歪時効硬化特性に優れた鋼板としては、例えば次のような鋼板が好適である。
(1)Cu 添加鋼板
質量% で、C:0.15% 以下、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.10% 以下、S:0.02% 以下、Al:0.10% 以下、N:0.02% 以下、Cu:0.5 〜3.0%を含有する鋼組成を有し、かつ、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する鋼板、
あるいは、
(2)Mo,Cr,W添加鋼板
質量% で、C:0.15% 以下、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.10% 以下、S:0.02% 以下、Al:0.10% 以下、N:0.02% 以下を含み、さらにMo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%、W:0.05〜2.0%のいずれか1種又はいずれか2種以上の合計:2.0%以下を含有する鋼組成を有し、かつ、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する鋼板。
【0016】
以下、これら鋼板について説明する。
まず、これら鋼板の組成について説明する。
C:0.15% 以下
Cは、鋼板の強度を増加し、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織の形成を促進する元素であり、この複合組織形成の観点から0.01% 以上が好ましい。一方、0.15% を超えると鋼中の炭化物の分率が増加し、延性さらにはプレス成形性を低下させるばかりか、スポット溶接性、アーク溶接性等が顕著に低下する。このため、Cは0.15% 以下とされる。なお、成形性の観点からは0.10% 以下が好ましい。
【0017】
Si:2.0%以下
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させうる有用な強化元素であるが、2.0%を超えるとプレス成形性の劣化を招くうえ表面性状が悪化するので、2.0%以下とされる。
Mn:3.0%以下
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、当該複合組織の形成を促進する作用を有しており、再結晶焼鈍後の冷却速度に応じ含有するのが好ましい。また、Sによる熱間割れを有効に防止する元素であり、S量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は0.5%以上で顕著となる。一方、3.0%を超えるとプレス成形性及び溶接性が劣化する。このため3.0%以下とされる。なお、好ましくは1.0%以上である。
【0018】
P:0.10% 以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有し得るが、過剰に含有するとプレス成形性が劣化するため0.10% 以下とされる。なお、より優れたプレス成形性の要求に対しては0.08% 以下とするのが好ましい。
S:0.02% 以下
Sは、鋼板中に介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、特に伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.02% 以下に低減するとさほど悪影響を及ぼさなくなるため、上限を0.02% とされる。なお、より優れた伸びフランジ成形性の要求に対しては0.010%以下とするのが好ましい。
【0019】
Al:0.10% 以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるが、0.10% を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず逆にプレス成形性が劣化するので0.01% 以下とされる。なお、本発明で用いる鋼板は、Al脱酸以外の脱酸方法(例:Ti脱酸、Si脱酸)によるものでもよく、また、溶製段階で、必要に応じてCaやREM を溶鋼に添加しても差支えない。
【0020】
N:0.02% 以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であるが、0.02% を超えると鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の延性、さらにはプレス成形性が顕著に劣化するため、0.02% 以下とされる。なお、より高位のプレス成形性の要求に対しては0.01% 以下とするのが好ましい。
【0021】
上記元素に加え、Cu添加鋼では下記の元素を添加する。
Cu:0.5 〜3.0%
Cuは、Cu添加鋼板の歪時効硬化(予変形‐熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる最重要元素であり、0.5%未満では予変形‐熱処理条件を如何に変えてもΔTS:80MPa 以上の引張強さ上昇は得られないので、0.5%以上とされる。一方、3.0%を超える範囲では効果が飽和し添加に見合う効果が期待できず経済的に不利なばかりか、プレス成形性の劣化や鋼板表面清浄の悪化を招くので、3.0%以下とされる。なお、より大きなΔTSと優れたプレス成形性とを両立させるためには、1.0 〜2.5%とするのが好ましい。
【0022】
また、Cu添加鋼板では、上記各成分元素以外の組成部分(残部)はFe及び不可避的不純物とすることが好ましいが、さらに質量% で次A群〜C群
A群;Ni:2.0%以下
B群;Cr、Moのいずれか1種又は2種の合計:2.0%以下
C群;Nb、Ti、Vのいずれか1種又はいずれか2種以上の合計:0.2%以下
のうちの1群又は2群以上を含有してもよい。
【0023】
A群;Ni:2.0%以下
Niは、Cu添加時に鋼板表面に発生する表面欠陥の防止に有効であり、必要に応じて含有できる。含有する場合にはその含有量はCu含有量に依存し、凡そCu含有量の半分程度とするのが好ましい。一方、2.0%を超えると効果が飽和し添加に見合う効果が期待できず経済的に不利となる上、逆にプレス成形性が劣化するので2.0%以下とされる。
【0024】
B群;Cr、Moのうちのいずれか1種又は2種の合計:2.0%以下
Cr、Moは、いずれもMnと同様に、フェライト+マルテンサイトの複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、当該複合組織の形成を促進する作用を有しており、必要に応じて含有できるが、これらのいずれか1種又は2種の合計が、2.0%を超えるとプレス成形性が低下するので、2.0%以下とされる。
【0025】
C群;Nb、Ti、Vのいずれか1種又はいずれか2種以上の合計:0.2%以下
Nb、Ti、Vはいずれも炭化物形成元素であり、炭化物の微細分散により高強度化に有効に作用するため、必要に応じて選択して含有できるが、これらのいずれか1種又はいずれか2種以上の合計が、0.2%を超えるとプレス成形性が劣化するので、0.2%以下とされる。
【0026】
また、Mo,Cr,W 添加鋼板では、上記C、Si、Mn、P、S、Al、Nに加え、下記の元素を添加する。
Mo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%、W:0.05〜2.0%のいずれか1種又はいずれか2種以上の合計:2.0%以下
Mo、Cr、Wは、Mo,Cr,W 添加鋼板の歪時効硬化(予変形‐熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる最重要元素であり、フェライト+マルテンサイトの複合組織条件下で微細炭化物の歪誘起低温微細析出が起こり、ΔTS:80MPa 以上の引張強さ上昇が得られる。しかしこれら3元素は、夫々が0.05%未満では予変形‐熱処理条件を如何に変えてもΔTS:80MPa 以上の引張強さ上昇は得られないので、夫々が0.05% 以上とされる。一方、夫々又は合計が2.0%を超える範囲では効果が飽和し添加に見合う効果が期待できず経済的に不利なばかりか、プレス成形性の劣化を招くので、夫々及び合計が2.0%以下とされる。
【0027】
また、Mo,Cr,W 添加鋼板では、上記各成分元素以外の組成部分(残部)はFe及び不可避的不純物とすることが好ましいが、さらに質量% で
Nb、Ti、Vのいずれか1種又はいずれか2種以上の合計:0.2%以下
を含有してもよい。
Nb、Ti、Vはいずれも炭化物形成元素であるが、フェライト+マルテンサイトの複合組織としたMo,Cr,W 添加鋼板に添加されると、微細複合炭化物が形成され、歪誘起低温微細析出が誘発されて、ΔTS:80MPa 以上の引張強さ上昇が得られるので、必要に応じて選択して含有できる。しかし、これらは、単独あるいは合計の含有量が、0.2%を超えるとプレス成形性が劣化するので、0.2%以下とされる。
【0028】
なお、上記成分以外に、特に限定されないが、B、Ca、Zr、REM 等を含有しても何ら問題はない。
上記成分以外の組成部分(残部)はFe及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、Sb:0.01% 以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01% 以下、Co:0.1%以下が許容できる。
【0029】
次に、上記鋼板の組織について説明する。
低い降伏応力YSと高い延性(伸びEl)を有し、優れたプレス成形性を有する冷延鋼板とするために、鋼板の組織は、主相であるフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織とする。主相であるフェライト相は面積率で50% 以上とする。フェライト相が面積率で50% 未満では高い延性を確保し難くプレス成形性が低下するからである。また、より高い延性要求に対してはフェライト相は面積率で80% 以上とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用するためには、フェライト相は面積率で98% 以上とするのが好ましい。
【0030】
また、第2相は、マルテンサイト相を面積率で2%以上含有するものとする。マルテンサイト相が面積率で2%未満では、低いYSと高いElを同時に満足させることができないからである。なお、第2相は、面積率で2%以上のマルテンサイト相単独であっても、あるいは面積率で2%以上のマルテンサイト相とそれ以外の副相との混合であってもよい。ここで、副相とは、パーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれか1種の単独又は2種以上の複合である。
【0031】
【実施例】
表1に示す組成になる溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法にてスラブとなし、次いでこれら鋼スラブを、表2に示す条件で熱間圧延し、板厚3.0mm の熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗、冷間圧延を施して、板厚1.2mm の冷延鋼帯(冷延板)を得た。次いで、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続焼鈍ラインにて、表2に示す焼鈍温度で再結晶焼鈍を施した。得られた冷延鋼帯(冷延板)に、さらに伸び率:0.8%の調質圧延を施した。
【0032】
【表1】
Figure 2004162130
【0033】
【表2】
Figure 2004162130
【0034】
上記調質圧延を施した冷延板から試験片を採取し、微視組織、引張特性、歪時効硬化特性を調査した。
微視組織は、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトの組織分率および第2相の種類と組織分率を求めた。
【0035】
引張特性は、圧延方向(L方向)を引張り方向としてJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YRを求めた。
歪時効硬化特性は、引張予歪5% を与えた材料の熱処理前後の引張強さ増加量ΔTSで評価した。ΔTSは、熱処理を施した後の引張強さTSSHと、熱処理を施さない場合の引張強さTSとの差{=(熱処理後の引張強さTSSH)−(予変形処理前の引張強さTS)}とした。なお、引張試験は、圧延方向を引張り方向として採取したJIS 5号引張試験片を用いて実施した。また、ΔYSは、同じく熱処理を施した後の降伏強さYSSHと熱処理を施さない場合の降伏強さYSとの差(=YSSH−YS)とした。これらの調査結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
Figure 2004162130
【0037】
また、上記鋼帯から切出した鋼板をプレス加工して、図1に示すようなハット型成形体1を作製し、その長さ方向半分のB部のみ表4に示す条件でレーザビームで部分熱処理を施した。このハット型成形体1では縦壁部中央に最も歪が大きく導入され、この部位の歪量は約15% であった。このハット型成形体1のA部(熱処理なしの部分)およびB部(部分熱処理を施した部分)の縦壁部中央よりサンプルを切り出し、硬度を測定した。硬度測定は、採取したサンプルの板厚断面の板厚1/4 位置について、JIS Z 2244のビッカース硬さ測定方法に則り、試験力3Nにて行った。A部〜B部間の硬度変化率ΔHv/tは、図2に示すように、A部からB部にかけての硬度を0.2mm ピッチで測定し、その硬度データの変化点a,bを求め、点a〜b間の距離t(すなわち硬度遷移領域幅)および同点間の硬度差ΔHvの測定値から算出した。この硬度変化率ΔHv/tは、レーザビームの出力等を調整して変化させた。
【0038】
このようにして作製した成形体に軸圧壊試験を施し、変位150mm までの吸収エネルギーを測定することにより、耐衝突特性を評価した。この軸圧壊試験では、成形体のA部側端面に錘を時速50kmの速さで正面衝突させ、荷重をロードセルで計測するとともに、衝突端の変位をレーザ変位計で計測し、荷重‐変位曲線を求め、該曲線を用いて、変位0〜150mm の範囲の荷重を変位で積分することにより、変形(軸方向の圧縮長さ)が150mm に達するまでに成形体に吸収されるエネルギー量を算出した。これらの測定結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
Figure 2004162130
【0040】
表4より、本発明要件を満たす発明例は、いずれも高い吸収エネルギーを示し、耐衝突特性が格段に向上していることが分かる。一方、本発明を逸脱する比較例をみると、No.3は、部分熱処理の熱処理条件が、A部とB部の硬度差が過小かつ硬度変化率が過大となる範囲にあったため吸収エネルギーが低い。また、No.4,9,12 は、熱処理温度が 950℃と高いため熱処理後の成形体の寸法精度が悪いのに加え、硬度変化率が過大のため軸圧壊試験時にA部からB部へと連続的に変形が進まず、そのためB部が高強度化しているにもかかわらず吸収エネルギーが低い。また、No.5,8も、硬度変化率が過大のため軸圧壊試験時にA部からB部へと連続的に変形が進まず、そのためB部が高強度化しているにもかかわらず吸収エネルギーが低い。No.10,11は、歪時効硬化特性に優れた鋼板を使用しなかったため部分熱処理による高強度化が発現せず、そのために吸収エネルギーが低い。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、優れたプレス成形性を維持しつつ、プレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に上昇する冷延鋼板を用い、プレス成形後、部分熱処理することにより、テーラードブランク材と同等以上の耐衝突特性を確保しつつ、プレス成形性に優れた高強度成形体を安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。本発明方法を自動車部品の製造に適用した場合、プレス成形が容易でかつ完成後の部品特性を安定して高くでき、自動車車体の軽量化に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハット型成形体の一例を示す立体図(a)とその断面図(b)である。
【図2】ΔHvとtの測定方法の説明図である。
【符号の説明】
1 ハット型成形体

Claims (1)

  1. 歪時効硬化特性に優れた鋼板をプレス成形後、部分熱処理を施して下記ΔHvが30以上でかつΔHv/tが10以下となるようにすることを特徴とする成形性と圧壊特性に優れた高強度成形体の製造方法。

    ΔHv = Hv1 −Hv2
    ここで、Hv1 ;部分熱処理を施した部分の硬度(ビッカース硬さ)、
    Hv2 ;部分熱処理を施さなかった部分の硬度(ビッカース硬さ)
    t:硬度遷移領域幅(mm);硬度がHv1 からHv2 に遷移する領域の幅
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