JP2004159600A - 癌の診断方法及び癌の診断用キット - Google Patents
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Abstract
【課題】広く癌一般の診断を行うことができる癌の診断方法及び癌の診断用キットを提供するとともに、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができるスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供する。
【解決手段】本発明の癌の診断方法は、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断することを特徴とし、本発明のスクリーニング方法は、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定することを特徴とし、本発明の癌の診断用キット及びスクリーニング用キットは、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の癌の診断方法は、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断することを特徴とし、本発明のスクリーニング方法は、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定することを特徴とし、本発明の癌の診断用キット及びスクリーニング用キットは、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌の診断方法及び診断用キット、癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キット、並びに癌の予防・治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体試料を用いたヒトの癌の診断は、一般的に、血液中に含まれる腫瘍マーカーの測定により行われる。このような腫瘍マーカーとしては、例えば、肝癌のマーカーであるαフェトプロテイン(AFP)、大腸癌のマーカーである癌胎児性抗原(CEA)、膵癌マーカーであるCA19−9、前立腺癌のマーカーである前立腺特異抗原(PSA)等が知られている。また、腫瘍マーカーを検出・定量する代表的な方法としては、それぞれの腫瘍マーカーに対して特異的に反応する抗体を用いた放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が知られている。
【0003】
しかしながら、現在使用されている腫瘍マーカーは腫瘍特異性や臓器特異性を有する一方、腫瘍マーカーの存在しない臓器も存在するため、1種類の腫瘍マーカーを単独で用いて広く癌一般の診断を行うことは難しい。
【0004】
ムチン(MUC)は、コアタンパク質に多数のO型糖鎖が結合する糖タンパク質で、管及び腺構造を有する組織の上皮細胞に発現している。ムチンファミリー(MUCファミリー)は、ヒトにおいて現在までに17種(MUC1、2、3A、3B、4、5AC、5B、6、7、8、9、11、12、13、15、16、17)が同定されており、これらは構造及び機能から大きく分泌型及び膜結合型の二種類に分類されている。
【0005】
分泌型ムチンのうち、MUC2、5AC、5B、6はゴブレット細胞等から分泌された後、粘液の主成分となり上皮表面の保護や潤滑剤として機能していると考えられている。また、比較的分子量が小さい分泌型ムチンであるMUC7、8、9はそれぞれ唾液腺、呼吸器、Fallopian tubeから分泌されることが知られている。
【0006】
一方、膜結合型MUCファミリーは消化管、呼吸器、尿管等の上皮細胞の管空側に発現していることが知られている。ほぼ全ての管構造を有する組織の上皮細胞及び消化管上皮細胞に高発現するMUC1が膜結合型ムチンとして同定されて以来、近年さらに多くの膜結合型ムチンが同定され、上皮細胞に発現する膜結合型ムチンは大きなファミリーを形成していることが明らかになってきた。多くの糖鎖が結合しかつ高分子量である膜結合型ムチンは上皮細胞の管空側に高発現することで、有害な物質や微生物と上皮細胞との接触を防ぐと共に、他の分子との相互作用を通じ生理機能の調節等に関与していると考えられている。また、炎症性大腸炎や嚢胞性線維症等の呼吸器疾患においてムチンの発現量が変化していることからもムチンが恒常性維持に関与していると推定されている。
【0007】
また、ムチンと癌細胞との関与に関しても報告されている。MUC1は乳癌、大腸癌などの癌細胞において発現が亢進しているとともに、悪性度の増強との関連が示唆され、腫瘍マーカーとして注目されている。さらに、最近になり、卵巣癌の腫瘍マーカーとして用いられているCA125の遺伝子単離の結果、その分子構造よりMUCファミリーに属することが明らかになった。一方、癌化により発現が低下するものとしてはMUC2、3、11、12等が報告されている。以上のことより、多くのムチンが癌細胞において発現が亢進又は低下していることが知られている。従って、それらムチンの発現量を検出することである種の癌の診断に有用であると考えられている。
【0008】
さらに、各種MUCタンパク質の発現量又は発現制御と発癌又は癌細胞の増殖との関係も報告されている。癌細胞に発現しているMUC1の細胞内領域に存在するチロシン残基がリン酸化され、Grb2を介してRasの活性化を誘導することや(Pandev P.ら, Cancer Res. 1995. 55;4000−4003)、細胞接着や増殖に関与するβカテニンとも相互作用することが報告されている(Yamamoto M.ら, J. Biol. Chem. 1997. 272;12492−12494, Li YQ.ら, Mol. Cell. Biol. 1998. 18;7216−7224)。また、多くの癌細胞に対して増殖因子として働いていると考えられているEGF受容体ファミリー分子とMUC1又はMUC4とが相互作用することで細胞増殖シグナルを増強することや、癌細胞の転移に関与することが報告されている(Patton S.ら, Biochem. Biophys. Acta. 1995. 1241;407−423, Schroeder JA.ら, J. Biol. Chem. 2001. 276;13057−13064, Komatsu M.ら, Int. J. Cancer 2000. 87;480−486)。
【0009】
さらに、MUC2等の発現の低下と発癌との関係に関して報告されている。MUC2ノックアウトマウスにおいては、小腸上皮細胞の細胞増殖が亢進しており、実際に加齢とともに小腸に癌の発生が確認されている(Velcich A.ら, Science 2002. 295;1726−1729)。したがって、MUC2は正常な腸上皮細胞の増殖、分化等を制御することで、癌の発生を抑制していると考えられている。
【0010】
MUC13は特徴的なO型糖鎖結合に必須である繰り返し配列をN末に有する膜結合型のムチン蛋白として同定された(非特許文献1)。正常組織における発現分布は大腸、小腸等の上皮細胞に高発現しており、大腸癌においてもその発現が確認されている(非特許文献1)。しかしながら、その他の癌種におけるMUC13の発現に関しては明らかとなっていない。また、癌化及び癌の進行に伴うMUC13の発現レベルの変化に関しても明らかとなっていない。
【0011】
【非特許文献1】
ウイリアムズ(Williams)SJら,ジャーナル オブ バイオロジカルケミストリー(Journal of Biological Chemistry),2001年,第276巻,p.18327−18336
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、第一に、広く癌一般の診断を行うことができる癌の診断方法及び癌の診断用キットを提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができるスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、第三に、癌を予防及び/又は治療することができる癌の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の癌の診断方法及び癌の診断用キット、癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キット、並びに癌の予防・治療剤を提供する。
(1)被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断することを特徴とする癌の診断方法。
(2)前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(3)前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13の存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(4)MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌の診断用キット。
(5)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌の診断用キット。
【0014】
(6)癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定することを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
(7)MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
(8)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
(9)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含有する癌の予防・治療剤。
(10)MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターを含有する癌の予防・治療剤。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の癌の診断方法は、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断する。
【0016】
被験動物は癌に罹患し得る動物である限り特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。
【0017】
被験動物から採取する検体は特に限定されず、例えば、診断対象となる組織又は器官の細胞、血液、血清等を利用することができる。診断対象となる組織又は器官は特に限定されるものではないが、正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官であることが好ましい。正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが高い組織又は器官(例えば、小腸、大腸、直腸)の場合には、癌化及び癌の進行に伴って生じるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進を判別し難いため、MUC13遺伝子の発現レベルを指標とした癌の診断精度が低下するおそれがあるが、正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官の場合には、癌化及び癌の進行に伴って生じるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進を判別し易いので、上記のような診断精度の低下を防止することができる。正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官としては、例えば、脳、脳下垂体、脊髄、唾液腺、胸腺、甲状腺、肺、乳房、皮膚、骨格筋、心臓、肝臓、脾臓、副腎、膵臓、胃、膀胱、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨髄、末梢単核球等が挙げられ、小腸、大腸及び直腸以外のほとんどの組織又は器官において正常時のMUC13遺伝子の発現レベルは低いと考えられる。
【0018】
MUC13は、コアタンパク質に多数のO型糖鎖が結合する糖タンパク質であり、「MUC13遺伝子」とは、MUC13のコアタンパク質をコードする遺伝子を意味する。なお、異種動物間はもちろんのこと、同種動物間でも、多型、アイソフォーム等によってMUC13遺伝子の塩基配列に相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもMUC13のコアタンパク質をコードする限り、MUC13遺伝子に含まれる。
【0019】
「MUC13遺伝子の発現」には、MUC13遺伝子のmRNAへの転写及びタンパク質への翻訳が含まれる。したがって、検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるMUC13の存在量に基づいて測定することができる。
【0020】
検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用することができる。
【0021】
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。
【0022】
「MUC13をコードする核酸」にはDNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。オリゴヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基である。また、ポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0023】
MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、MUC13をコードする核酸に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。
【0024】
MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、被験動物のMUC13遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。MUC13遺伝子の塩基配列としては、例えば、ヒト、マウス等のMUC13遺伝子の塩基配列が公知である。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、例えば、MUC13をコードする核酸のCDS領域にハイブリダイズし得るように、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計される。プライマーの5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加することができる。また、プライマー及びプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
【0025】
検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量の具体的測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にして説明する。被験動物から採取した検体から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、MUC13をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、MUC13をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
【0026】
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。
【0027】
RIを用いた定量方法としては、例えば、(i) 反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii) PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
【0028】
蛍光色素を用いた定量方法としては、(i) 二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) 蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0029】
検体におけるMUC13の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等を利用することができる。
【0030】
「MUC13に反応し得る抗体」には、被験動物のMUC13に反応し得る限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「その断片」には、被験動物のMUC13に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。「MUC13に反応し得る」には、MUC13のコアタンパク質に反応する場合、及びMUC13の糖鎖に反応する場合の両者が含まれ、また、コアタンパク質又は糖鎖のいずれの部分と反応する場合も含まれる。
【0031】
被験動物のMUC13に反応し得る抗体を作製する際には、免疫用抗原として、被験動物のMUC13の一部又は全部を利用することができる。具体的には、(i) MUC13を発現している被験動物の細胞、組織又は器官の破砕物又はその精製物、(ii) 遺伝子組換え技術を用いて被験動物のMUC13遺伝子の一部又は全部を昆虫細胞、動物細胞等の宿主に導入して発現させた組換えタンパク質、(iii) 被験動物のMUC13のアミノ酸配列に従ってその一部又は全部を化学合成したペプチド等を利用することができる。
【0032】
また、免疫用抗原としては、被験動物のMUC13以外のタンパク質又は糖タンパク質を利用することもできる。例えば、被験動物のMUC13のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質又は糖タンパク質の他、欠失、置換、不可等の変異が加えられた状態で天然に存在するタンパク質又は糖タンパク質、例えば、被験動物以外の動物由来のMUC13や、これらのMUC13のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質又は糖タンパク質を免疫用抗原として利用することができる。MUC13に導入される欠失、置換、不可等の変異の位置や個数は特に限定されるものではないが、MUC13の立体構造が保持される位置や個数であることが好ましい。
【0033】
MUC13の取得にあたっては、既にMUC13遺伝子が単離・同定されている場合にはそれを利用できるし、単離・同定されていない場合であっても、既に単離・同定されているMUC13遺伝子をプローブとして、目的のcDNAライブラリーからスクリーニングすることによって取得することができる。MUC13への人為的変異は、例えば、部位特異的変異誘発法等の公知の方法によって導入することができる。
【0034】
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫動物は、抗体を容易に作製できることからマウスを利用することが好ましい。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、フロイント完全アジュバント等の免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫することが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用することができる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できるが、マウスの場合には通常50〜500μgである。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から5〜10日後に、MUC13に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等により行うことができる。
【0035】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用することができる。
【0036】
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般的に利用される。
【0037】
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用することができる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、P3X63−Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1−Ag4−1、Sp2/0−Ag14等のマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0038】
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、又は電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
【0039】
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法 (ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等によってスクリーニングすることができる。
【0040】
ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得する。
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法等を利用することができる。細胞培養法においては、例えばハイブリドーマを10〜20%牛胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO2濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、当該腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0041】
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用することができる。
【0042】
被験動物のMUC13に反応し得る抗体又はその断片を用いて、検体におけるMUC13の存在量を測定する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、組織免疫染色法等を利用することができる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のMUC13を捕捉した後、捕捉されたMUC13を、固相担体に固定化した抗体とはMUC13に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量することができる。
【0043】
また、検体におけるMUC13の存在量の測定は、検体におけるMUC13の活性を測定することによって行うこともできる。MUC13の活性は、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、ELISA法等の公知の方法によって測定することができる。
【0044】
MUC13遺伝子の発現レベルの測定値は、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて補正することが好ましい。
【0045】
本発明の癌の診断方法では、癌化及び癌の進行に伴ってMUC13遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高い)ことを利用し、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、当該検体における癌細胞の有無を診断する。すなわち、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルが、被験動物と同種の健常動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高いとき、被験動物から採取した検体に癌細胞が存在すると診断する。
【0046】
被験動物と健常動物との間で、MUC13遺伝子の発現レベルを比較する際には、検体として同一の組織又は器官の細胞を使用する。また、MUC13遺伝子の発現レベルを比較する際には、複数の健常動物(健常動物群)におけるMUC13遺伝子の発現レベルを定量し、その値の分布から正常範囲を設定して、被験動物におけるMUC13の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。このとき、被験動物の検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルが正常範囲以上であるときに、被験動物の検体に癌細胞が存在すると診断することができる。
【0047】
本発明の癌の診断方法は、広く癌一般の診断に利用することができる。本発明の癌の診断方法によって診断可能な癌としては、例えば、肝癌、胃癌、肺癌、グリオーマ等が挙げられる。
【0048】
本発明の癌の診断用キットは、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験動物のMUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、被験動物のMUC13に反応し得る抗体又はその断片を含む。
【0049】
本発明の癌の診断用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。
【0050】
本発明の癌の診断用キットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種類又は2種類以上を含むことができる。また、本発明の癌の診断用キットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グログリン抗体(二次抗体)、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
【0051】
本発明の癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法は、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定する。
【0052】
癌化及び癌の進行に伴ってMUC13遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高い)ので、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減作用を有する物質を選択することによって、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0053】
「MUC13遺伝子の発現レベル低減効果」には、MUC13遺伝子の転写・翻訳、MUC13の活性発現等のいずれのステップに対する効果も含まれる。
本発明のスクリーニング方法は、in vivo及びin vitroのいずれにおいても行うことができる。
【0054】
in vivoにおいては、例えば、所定の組織又は器官に癌細胞を有するモデル動物に候補物質を投与した後、上記組織又は器官から検体を採取し、当該検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を投与した後のMUC13遺伝子の発現レベルが低減したか否かを指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0055】
in vivoのスクリーニング方法において利用されるモデル動物としては、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。
【0056】
候補物質を投与するモデル動物としては、MUC13遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させたトランスジェニック動物を利用することもできる。このようなトランスジェニック動物は、例えば、(i) MUC13遺伝子と卵とを混合してリン酸カルシウムで処理する方法、(ii) 位相差顕微鏡下で前核期卵の核にMUC13遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法)、(iii) 胚性幹細胞(ES細胞)を用いる方法等の公知の方法によって得ることができる。なお、トランスジェニック動物におけるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進には、MUC13遺伝子が外来遺伝子として導入されて強制発現している状態、宿主が固有に有するMUC13遺伝子の発現レベルが亢進している状態、MUC13の分解が抑制された状態のいずれもが含まれる。
【0057】
in vitroにおいては、例えば、癌細胞に候補物質を接触させた後、当該癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を投与した後のMUC13遺伝子の発現レベルが低減したか否かを指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0058】
in vitroのスクリーニング方法において利用される癌細胞としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット等由来の癌細胞株を利用することができる。
【0059】
in vitroのスクリーニング方法においては、癌細胞の代わりに、MUC13遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させた細胞を利用することができる。このような細胞は、MUC13遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、当該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。
【0060】
本発明の癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キットは、検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、MUC13に反応する抗体又はその断片を含む。
【0061】
本発明のスクリーニング用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、本発明の癌の診断用キットにおいて例示した各種試薬、器具等の他、モデル動物、細胞株、細胞培養用培地等を含むことができる。
【0062】
本発明のスクリーニング方法によってスクリーニングされた物質は、癌の予防・治療剤として有用である。また、MUC13に反応し得る抗体又はその断片も、癌の予防・治療剤として有用である。さらに、MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターも、癌の予防・治療剤として有用である。これらの癌の予防・治療剤は、MUC13遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、MUC13の機能を阻害することにより、癌の予防・治療効果を発揮することができると考えられる。
【0063】
MUC13に反応し得る抗体又はその断片を癌の予防・治療剤として利用する場合、癌の予防・治療剤は当該抗体又はその断片のみから構成してもよいが、通常は、薬学的に許容され得る賦形剤その他任意の添加剤を用いて製剤化する。製剤化する場合、製剤中の当該抗体又はその断片の含有量は適宜調節することができる。製剤化にあたっては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用することができる。
【0064】
MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNAを癌の予防・治療剤として利用する場合、例えば、アンチセンスDNAを適当なプロモーター配列の下流に組み込んでアンチセンスRNA発現ベクターを作製し、このアンチセンスRNA発現ベクターを投与することができる。MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNAは、MUC13遺伝子のアンチセンス鎖のいずれの部分であってもよい。標的細胞への発現ベクターの導入方法としては、in vivo又はex vivoにおける導入方法が公知である。
【0065】
MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNA又は二本鎖RNAを癌の予防・治療剤として利用する場合、例えば、アンチセンスRNA又はsiRNA(small interfering RNA)を標的細胞に直接導入することができる。また、アンチセンスRNA発現ベクター又はsiRNA発現ベクターを作製し、これらの発現ベクターを投与することができる。MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNAは、MUC13遺伝子のアンチセンスDNAを鋳型として生成されるアンチセンスRNAであり、MUC13遺伝子に対するsiRNAは、MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNA及び当該アンチセンスRNAと相補的なRNAからなる二本鎖RNAである。標的細胞への発現ベクター、アンチセンスRNA又はsiRNAの導入方法としては、in vivo又はex vivoにおける導入方法が公知である。
【0066】
癌の予防・治療剤の投与経路としては、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与等)が挙げられ、投与剤形としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、懸濁剤等が挙げられる。また、癌の予防・治療剤は、飲食品、飼料等に配合して投与することもできる。投与量及び投与回数は、目的とする作用効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、体重、性別等により異なるが、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用する場合の投与量は、成人1日当たり通常100μg〜100mg、好ましくは1〜20mgの範囲から適宜選択でき、MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターを利用する場合の投与量は、成人1日当たり通常0.01mg/kg〜1g/kg、好ましくは0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。但し、投与量は種々の条件により変動するため上記範囲外となる場合もある。
【0067】
【実施例】
大腸癌において高発現していることが知られているMUC13について他の癌細胞における発現量を明らかにするために、各種ヒト正常組織及び癌細胞におけるMUC13 mRNAの発現量をGene chipを用いて解析するとともに、定量的RT−PCR法を用いて解析した。
【0068】
〔実施例1〕ヒト正常組織におけるMUC13 mRNAの発現解析
ヒト正常組織におけるMUC13 mRNAの発現分布をGene chipを用い検討した。
ヒト正常組織としては各ヒト臓器由来RNA(表1)各10 ngずつを試料とし、GeneChip(Gene ChipTM HG−133A Target;Affymetryx社製)を用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、それに対するMUC13(プローブID:218687_s_at HG−U133A)のmRNA発現量を相対値で表した結果(図1)、Williams SJ等の報告(J.Biol.Chem. 2001 276; 18327−18336)と同様に小腸、大腸で非常に高い値を示したのみで、他の臓器では特に高い値を示さなかった。このことから、小腸、大腸以外ではMUC13は発現していたとしてもその発現量は低いことが示唆された。
【0069】
【表1】
【0070】
〔実施例2〕ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現解析
各種ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現を、定量的RT−PCR法を用いて解析した。すなわち、各種ヒト癌細胞株よりISOGEN(日本ジーン社)を用い常法により全RNAを調製した後、さらに全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて1本鎖 cDNAを合成したもの、及びMultiple Tissue cDNA (MTC) Panels (Human Tumor;CLONTECH社製)をそれぞれ鋳型DNAとして用い、iCycleriQリアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD社)によりPCR反応を行い、mRNA発現量を定量した。各25μLのPCR反応液は、500mM KCl, 100 mM Tris−HCl(pH8.3), 20mM MgCl2, 0.1% Gelatin、各1.25 mM dNTPs(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、1μLの各1本鎖cDNA、5 pmoleずつのMUC13センスプライマー(配列番号1)、MUC13アンチセンスプライマー(配列番号2)、0.75μLのSYBR Green I (1000倍希釈溶液,宝酒造社製)、0.25μLのrecombinant Taq polymerase Mix(FG Pluthero, Rapid purification of high−activity Taq DNA polymerase、Nucl. Acids. Res. 1993 21: 4850−4851.)を含むように調製した後、初めに94 ℃で3分間一次変性を行い、94 ℃で15秒、63 ℃で15秒、72 ℃で30秒からなるサイクルを40回行なった。各標品中の発現量はiCycler iQ リアルタイム解析システム付属ソフトを用いて計算した。また、個々のRNA中のヒトβ−アクチン遺伝子発現量もヒトβ−アクチンに特異的なセンスプライマー(配列番号3)ならびにアンチセンスプライマー(配列番号4)を用い上記と同様に解析を行い、MUC13における解析結果をヒトβ−アクチンの解析結果で補正した値(MUC13/β−アクチン×100)をMUC13 mRNA発現量とした。
【0071】
その結果、既に報告されている大腸癌由来の細胞株に加え、胃癌、肝癌、肺癌、グリオーマなどでMUC13 mRNAの発現が高い細胞株が認められた(図2)。さらに、大腸癌と異なり、それ以外の癌種に関しては正常組織でのMUC13 mRNAの発現は低いことより(図1)、これらの癌種においては癌化に伴いMUC13の発現が亢進していることが確認された。
【0072】
〔実施例3〕ヒト癌組織におけるMUC13 mRNAの発現解析
実施例1及び2の結果より、MUC13が大腸癌以外の癌種由来の細胞株においても発現が亢進していることが見出されたことより、実際に臨床標品においても発現が亢進しているのかを明らかにするために肝癌及び胃癌患者から摘出した癌組織におけるMUC13 mRNAの発現をGene chipを用いて解析するとともに、定量的RT−PCR法により解析した。
【0073】
(1)ヒト肝細胞癌におけるMUC13 mRNAの発現解析
(1−1)ヒト肝細胞癌からの全RNAの調製
MUC13 mRNA発現解析に用いる全RNAはISOGEN(日本ジーン社)を用いて常法により調製した。すなわち、肝細胞癌由来の全RNAは高分化型肝癌、中分化型肝癌及び低分化型肝癌患者からの摘出組織より肝細胞癌腫瘍部のみを選別したものより調製した。また、陰性対照として用いる全RNAは摘出組織の非癌部である肝炎部位、肝硬変部位及び正常肝からそれぞれ同様に調製した。なお、すべての臨床組織はインフォームドコンセントに基づき入手した。
【0074】
(1−2)Gene chipを用いたヒトMUC13 mRNA発現解析
上記(1−1)において調製した全RNAを用い、肝細胞癌又は正常肝、非癌部におけるmRNAの発現をGeneChipTM HG−U95B,C,D,E Target(Affymetryx社製)を用いて解析した。肝細胞癌腫瘍部としては高分化型肝癌、中分化型肝癌及び低分化型肝癌組織より調製した全RNAを、また対照とする非癌部(肝炎部位、肝硬変部位)ならびに正常肝より調製した全RNAを各5μgずつ、それぞれ3例分を混合したもの試料として用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、それに対する相対値として発現量を表した。
【0075】
その結果、MUC13遺伝子(プローブID:64472_at_HG−U95C)は正常肝、非癌部、高分化型肝癌、B型肝炎ウイルスに感染した中分化型肝癌においては発現が非常に少ないのに対し、C型中分化型肝癌及び低分化型肝癌において顕著な発現上昇が確認され、確かに臨床標品においてもMUC13 mRNAの発現が亢進していること、並びに癌の悪性化と共に発現が亢進することが認められた(図3)。
【0076】
(1−3)定量的RT−PCRによるmRNA発現解析
続いて、定量的RT−PCR法を用いて正常肝、肝炎部位、肝硬変部位及び肝細胞癌の個々の臨床組織におけるMUC13のmRNA発現を比較した。すなわち、各組織より調製した全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて合成した1本鎖 cDNAを鋳型DNAとして用い、上記と同様の条件にてiCycleriQリアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD社)によりPCR反応を行った。
【0077】
解析の結果、正常肝、肝炎、肝硬変の病変部におけるMUC13 mRNA発現量は18から177という値を(図4−1)、また肝癌患者からの摘出組織の非癌部においても5から281という値を示したのに対し、肝癌摘出組織の腫瘍部位においては最大で12440と値を示し、今回解析した9例中3例で明らかに高い値を示した。さらに、同一患者由来の癌部、及び非癌部との比較においては9例中5例において10倍以上癌部においてMUC13 mRNAの発現が高いことが明らかになった(図4−2)。
【0078】
以上の結果より、MUC13は正常肝細胞ではほとんど発現していないものが、癌化と共に、及び中分化〜低分化型への癌の悪性度の進行と共に発現が亢進することが明らかになり、MUC13は中分化及び低分化肝癌の診断マーカーとして有用であると考えられた。さらに、肝細胞の癌化、悪性化に従いその発現が亢進することより、MUC13が肝細胞癌の発生、悪性化において重要な働きを担っている可能性が考えられた。従って、MUC13は肝癌の診断に加え、肝癌細胞のターゲティング、又は肝癌治療の標的分子としても有用である可能性が示唆された。
【0079】
(2)ヒト胃癌におけるMUC13 mRNAの発現解析
胃癌摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現について上記と同様にGeneChip(GeneChipTM HG−133A Target;Affymetryx社製)ならびに定量的RT−PCR法を用いて解析した。
【0080】
(2−1)ヒト胃癌からの全RNAの調製
6例の進行癌且つ分化型胃癌(腸型)、ならびに5例の未分化型胃癌(胃型)と診断された胃癌摘出組織の腫瘍部位、ならびに正常部位から上記の方法と同様に全RNAを調製した。なお、すべての臨床組織はインフォームドコンセントに基づき入手した。
【0081】
(2−2)Gene chipを用いたmRNA発現解析
上記(2−1)において調製した全RNAを用い胃癌又は正常胃におけるmRNAの発現をGeneChipTM HG−U133(Affymetryx社製)を用いて解析した。胃癌の腫瘍部位に関しては分化型胃癌3例分より調製した全RNAを混合したもの、また対照として正常部位1例の全RNA各5μgずつを試料として用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、各遺伝子の発現量は相対値として解析した。
【0082】
その結果、MUC13遺伝子(プローブID:218687_s_at_HG−U133A)に関し正常部位と腫瘍部位における発現スコアを比較したところ、正常組織においては31.9と低い値を示したのに対し、腫瘍部位では217.6と正常部位に比べ約7倍程度高い値を示すことが明らかになり、摘出癌組織においてもMUC13 mRNA発現が亢進していることが確認された(図5)。
【0083】
(2−3)定量的RT−PCRによるmRNA発現解析
続いて、定量的RT−PCR法を用いて個々の種摘出胃癌におけるMUC13のmRNA発現を比較した。RT−PCR解析には、未分化型(胃型)の各種組織型を示すもの5例、ならびにGene chip解析と同様に分化型(腸型)のもの6例を用いた。すなわち、各組織より調製した全RNAを用い上記と同様の方法によりMUC13 mRNA発現量を解析した結果、未分化型の充実型低分化型管状腺癌(por1)の癌部において116、ならびに173という値を示した以外はいずれも800以上の高い値を示した。特に悪性度が高いことが知られている未分化型胃癌の非充実型低分化型管状腺癌(por2)において、それぞれ2,437ならびに1,960という値を示し、さらに非癌部と比較した場合には共に約4〜5倍mRNAの発現が亢進していた。また、胃癌の多くでは癌部の周辺の組織も腸上皮化生を起こしており正常の胃と形態的に異なることが知られており、その結果今回の解析においても非癌部においても高い値を示す例が多く見られたが、全体でみても11例中5例において非癌部に比べ癌部においてMUC13 mRNAの発現が2倍以上亢進していた(図6)。従って、MUC13は胃の癌化、又は腸上皮化生等の形態変化に伴い発現が亢進することが強く示唆された。
【0084】
以上の結果より、MUC13は胃においても正常での発現が少ないのに対し、胃癌ならびに前癌状態において発現が亢進することより、胃癌においても診断ならびに治療の標的分子として有用である可能性が示された。
【0085】
【発明の効果】
本発明により、第一に、広く癌一般の診断を行うことができる癌の診断方法及び癌の診断用キットが提供される。また、本発明によりは、第二に、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができるスクリーニング方法及びスクリーニング用キットが提供される。さらに、本発明は、第三に、癌を予防及び/又は治療することができる癌の予防・治療剤が提供される。
【0086】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】正常臓器及び血管内皮細胞(HUVEC)におけるMUC13遺伝子発現解析結果を示す図である。
【図2】各種ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現量を定量的RT−PCR法により解析した結果を示す図である。
【図3】正常肝、肝炎及び肝癌の各摘出組織におけるMUC13遺伝子発現量をGene chipを用いて解析した結果を示す図である。
【図4】(1)は正常肝、肝炎、肝硬変の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図であり、(2)は中分化型及び低分化型肝癌の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図である。
【図5】正常胃及び胃癌の各摘出組織におけるMUC13遺伝子発現量をGene chipを用いて解析した結果を示す図である。
【図6】未分化型及び分化型胃癌の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌の診断方法及び診断用キット、癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キット、並びに癌の予防・治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体試料を用いたヒトの癌の診断は、一般的に、血液中に含まれる腫瘍マーカーの測定により行われる。このような腫瘍マーカーとしては、例えば、肝癌のマーカーであるαフェトプロテイン(AFP)、大腸癌のマーカーである癌胎児性抗原(CEA)、膵癌マーカーであるCA19−9、前立腺癌のマーカーである前立腺特異抗原(PSA)等が知られている。また、腫瘍マーカーを検出・定量する代表的な方法としては、それぞれの腫瘍マーカーに対して特異的に反応する抗体を用いた放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が知られている。
【0003】
しかしながら、現在使用されている腫瘍マーカーは腫瘍特異性や臓器特異性を有する一方、腫瘍マーカーの存在しない臓器も存在するため、1種類の腫瘍マーカーを単独で用いて広く癌一般の診断を行うことは難しい。
【0004】
ムチン(MUC)は、コアタンパク質に多数のO型糖鎖が結合する糖タンパク質で、管及び腺構造を有する組織の上皮細胞に発現している。ムチンファミリー(MUCファミリー)は、ヒトにおいて現在までに17種(MUC1、2、3A、3B、4、5AC、5B、6、7、8、9、11、12、13、15、16、17)が同定されており、これらは構造及び機能から大きく分泌型及び膜結合型の二種類に分類されている。
【0005】
分泌型ムチンのうち、MUC2、5AC、5B、6はゴブレット細胞等から分泌された後、粘液の主成分となり上皮表面の保護や潤滑剤として機能していると考えられている。また、比較的分子量が小さい分泌型ムチンであるMUC7、8、9はそれぞれ唾液腺、呼吸器、Fallopian tubeから分泌されることが知られている。
【0006】
一方、膜結合型MUCファミリーは消化管、呼吸器、尿管等の上皮細胞の管空側に発現していることが知られている。ほぼ全ての管構造を有する組織の上皮細胞及び消化管上皮細胞に高発現するMUC1が膜結合型ムチンとして同定されて以来、近年さらに多くの膜結合型ムチンが同定され、上皮細胞に発現する膜結合型ムチンは大きなファミリーを形成していることが明らかになってきた。多くの糖鎖が結合しかつ高分子量である膜結合型ムチンは上皮細胞の管空側に高発現することで、有害な物質や微生物と上皮細胞との接触を防ぐと共に、他の分子との相互作用を通じ生理機能の調節等に関与していると考えられている。また、炎症性大腸炎や嚢胞性線維症等の呼吸器疾患においてムチンの発現量が変化していることからもムチンが恒常性維持に関与していると推定されている。
【0007】
また、ムチンと癌細胞との関与に関しても報告されている。MUC1は乳癌、大腸癌などの癌細胞において発現が亢進しているとともに、悪性度の増強との関連が示唆され、腫瘍マーカーとして注目されている。さらに、最近になり、卵巣癌の腫瘍マーカーとして用いられているCA125の遺伝子単離の結果、その分子構造よりMUCファミリーに属することが明らかになった。一方、癌化により発現が低下するものとしてはMUC2、3、11、12等が報告されている。以上のことより、多くのムチンが癌細胞において発現が亢進又は低下していることが知られている。従って、それらムチンの発現量を検出することである種の癌の診断に有用であると考えられている。
【0008】
さらに、各種MUCタンパク質の発現量又は発現制御と発癌又は癌細胞の増殖との関係も報告されている。癌細胞に発現しているMUC1の細胞内領域に存在するチロシン残基がリン酸化され、Grb2を介してRasの活性化を誘導することや(Pandev P.ら, Cancer Res. 1995. 55;4000−4003)、細胞接着や増殖に関与するβカテニンとも相互作用することが報告されている(Yamamoto M.ら, J. Biol. Chem. 1997. 272;12492−12494, Li YQ.ら, Mol. Cell. Biol. 1998. 18;7216−7224)。また、多くの癌細胞に対して増殖因子として働いていると考えられているEGF受容体ファミリー分子とMUC1又はMUC4とが相互作用することで細胞増殖シグナルを増強することや、癌細胞の転移に関与することが報告されている(Patton S.ら, Biochem. Biophys. Acta. 1995. 1241;407−423, Schroeder JA.ら, J. Biol. Chem. 2001. 276;13057−13064, Komatsu M.ら, Int. J. Cancer 2000. 87;480−486)。
【0009】
さらに、MUC2等の発現の低下と発癌との関係に関して報告されている。MUC2ノックアウトマウスにおいては、小腸上皮細胞の細胞増殖が亢進しており、実際に加齢とともに小腸に癌の発生が確認されている(Velcich A.ら, Science 2002. 295;1726−1729)。したがって、MUC2は正常な腸上皮細胞の増殖、分化等を制御することで、癌の発生を抑制していると考えられている。
【0010】
MUC13は特徴的なO型糖鎖結合に必須である繰り返し配列をN末に有する膜結合型のムチン蛋白として同定された(非特許文献1)。正常組織における発現分布は大腸、小腸等の上皮細胞に高発現しており、大腸癌においてもその発現が確認されている(非特許文献1)。しかしながら、その他の癌種におけるMUC13の発現に関しては明らかとなっていない。また、癌化及び癌の進行に伴うMUC13の発現レベルの変化に関しても明らかとなっていない。
【0011】
【非特許文献1】
ウイリアムズ(Williams)SJら,ジャーナル オブ バイオロジカルケミストリー(Journal of Biological Chemistry),2001年,第276巻,p.18327−18336
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、第一に、広く癌一般の診断を行うことができる癌の診断方法及び癌の診断用キットを提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができるスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、第三に、癌を予防及び/又は治療することができる癌の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の癌の診断方法及び癌の診断用キット、癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キット、並びに癌の予防・治療剤を提供する。
(1)被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断することを特徴とする癌の診断方法。
(2)前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(3)前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13の存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(4)MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌の診断用キット。
(5)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌の診断用キット。
【0014】
(6)癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定することを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
(7)MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
(8)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
(9)MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含有する癌の予防・治療剤。
(10)MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターを含有する癌の予防・治療剤。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の癌の診断方法は、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断する。
【0016】
被験動物は癌に罹患し得る動物である限り特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。
【0017】
被験動物から採取する検体は特に限定されず、例えば、診断対象となる組織又は器官の細胞、血液、血清等を利用することができる。診断対象となる組織又は器官は特に限定されるものではないが、正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官であることが好ましい。正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが高い組織又は器官(例えば、小腸、大腸、直腸)の場合には、癌化及び癌の進行に伴って生じるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進を判別し難いため、MUC13遺伝子の発現レベルを指標とした癌の診断精度が低下するおそれがあるが、正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官の場合には、癌化及び癌の進行に伴って生じるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進を判別し易いので、上記のような診断精度の低下を防止することができる。正常時のMUC13遺伝子の発現レベルが低い組織又は器官としては、例えば、脳、脳下垂体、脊髄、唾液腺、胸腺、甲状腺、肺、乳房、皮膚、骨格筋、心臓、肝臓、脾臓、副腎、膵臓、胃、膀胱、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨髄、末梢単核球等が挙げられ、小腸、大腸及び直腸以外のほとんどの組織又は器官において正常時のMUC13遺伝子の発現レベルは低いと考えられる。
【0018】
MUC13は、コアタンパク質に多数のO型糖鎖が結合する糖タンパク質であり、「MUC13遺伝子」とは、MUC13のコアタンパク質をコードする遺伝子を意味する。なお、異種動物間はもちろんのこと、同種動物間でも、多型、アイソフォーム等によってMUC13遺伝子の塩基配列に相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもMUC13のコアタンパク質をコードする限り、MUC13遺伝子に含まれる。
【0019】
「MUC13遺伝子の発現」には、MUC13遺伝子のmRNAへの転写及びタンパク質への翻訳が含まれる。したがって、検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるMUC13の存在量に基づいて測定することができる。
【0020】
検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用することができる。
【0021】
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。
【0022】
「MUC13をコードする核酸」にはDNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。オリゴヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基である。また、ポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0023】
MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、MUC13をコードする核酸に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。
【0024】
MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、被験動物のMUC13遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。MUC13遺伝子の塩基配列としては、例えば、ヒト、マウス等のMUC13遺伝子の塩基配列が公知である。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、例えば、MUC13をコードする核酸のCDS領域にハイブリダイズし得るように、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計される。プライマーの5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加することができる。また、プライマー及びプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
【0025】
検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量の具体的測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にして説明する。被験動物から採取した検体から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、MUC13をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、MUC13をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
【0026】
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。
【0027】
RIを用いた定量方法としては、例えば、(i) 反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii) PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
【0028】
蛍光色素を用いた定量方法としては、(i) 二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) 蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0029】
検体におけるMUC13の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等を利用することができる。
【0030】
「MUC13に反応し得る抗体」には、被験動物のMUC13に反応し得る限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「その断片」には、被験動物のMUC13に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。「MUC13に反応し得る」には、MUC13のコアタンパク質に反応する場合、及びMUC13の糖鎖に反応する場合の両者が含まれ、また、コアタンパク質又は糖鎖のいずれの部分と反応する場合も含まれる。
【0031】
被験動物のMUC13に反応し得る抗体を作製する際には、免疫用抗原として、被験動物のMUC13の一部又は全部を利用することができる。具体的には、(i) MUC13を発現している被験動物の細胞、組織又は器官の破砕物又はその精製物、(ii) 遺伝子組換え技術を用いて被験動物のMUC13遺伝子の一部又は全部を昆虫細胞、動物細胞等の宿主に導入して発現させた組換えタンパク質、(iii) 被験動物のMUC13のアミノ酸配列に従ってその一部又は全部を化学合成したペプチド等を利用することができる。
【0032】
また、免疫用抗原としては、被験動物のMUC13以外のタンパク質又は糖タンパク質を利用することもできる。例えば、被験動物のMUC13のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質又は糖タンパク質の他、欠失、置換、不可等の変異が加えられた状態で天然に存在するタンパク質又は糖タンパク質、例えば、被験動物以外の動物由来のMUC13や、これらのMUC13のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質又は糖タンパク質を免疫用抗原として利用することができる。MUC13に導入される欠失、置換、不可等の変異の位置や個数は特に限定されるものではないが、MUC13の立体構造が保持される位置や個数であることが好ましい。
【0033】
MUC13の取得にあたっては、既にMUC13遺伝子が単離・同定されている場合にはそれを利用できるし、単離・同定されていない場合であっても、既に単離・同定されているMUC13遺伝子をプローブとして、目的のcDNAライブラリーからスクリーニングすることによって取得することができる。MUC13への人為的変異は、例えば、部位特異的変異誘発法等の公知の方法によって導入することができる。
【0034】
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫動物は、抗体を容易に作製できることからマウスを利用することが好ましい。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、フロイント完全アジュバント等の免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫することが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用することができる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できるが、マウスの場合には通常50〜500μgである。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から5〜10日後に、MUC13に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等により行うことができる。
【0035】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用することができる。
【0036】
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般的に利用される。
【0037】
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用することができる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、P3X63−Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1−Ag4−1、Sp2/0−Ag14等のマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0038】
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、又は電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
【0039】
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法 (ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等によってスクリーニングすることができる。
【0040】
ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得する。
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法等を利用することができる。細胞培養法においては、例えばハイブリドーマを10〜20%牛胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO2濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、当該腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0041】
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用することができる。
【0042】
被験動物のMUC13に反応し得る抗体又はその断片を用いて、検体におけるMUC13の存在量を測定する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、組織免疫染色法等を利用することができる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のMUC13を捕捉した後、捕捉されたMUC13を、固相担体に固定化した抗体とはMUC13に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量することができる。
【0043】
また、検体におけるMUC13の存在量の測定は、検体におけるMUC13の活性を測定することによって行うこともできる。MUC13の活性は、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、ELISA法等の公知の方法によって測定することができる。
【0044】
MUC13遺伝子の発現レベルの測定値は、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて補正することが好ましい。
【0045】
本発明の癌の診断方法では、癌化及び癌の進行に伴ってMUC13遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高い)ことを利用し、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、当該検体における癌細胞の有無を診断する。すなわち、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルが、被験動物と同種の健常動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高いとき、被験動物から採取した検体に癌細胞が存在すると診断する。
【0046】
被験動物と健常動物との間で、MUC13遺伝子の発現レベルを比較する際には、検体として同一の組織又は器官の細胞を使用する。また、MUC13遺伝子の発現レベルを比較する際には、複数の健常動物(健常動物群)におけるMUC13遺伝子の発現レベルを定量し、その値の分布から正常範囲を設定して、被験動物におけるMUC13の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。このとき、被験動物の検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルが正常範囲以上であるときに、被験動物の検体に癌細胞が存在すると診断することができる。
【0047】
本発明の癌の診断方法は、広く癌一般の診断に利用することができる。本発明の癌の診断方法によって診断可能な癌としては、例えば、肝癌、胃癌、肺癌、グリオーマ等が挙げられる。
【0048】
本発明の癌の診断用キットは、被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験動物のMUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、被験動物のMUC13に反応し得る抗体又はその断片を含む。
【0049】
本発明の癌の診断用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。
【0050】
本発明の癌の診断用キットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種類又は2種類以上を含むことができる。また、本発明の癌の診断用キットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グログリン抗体(二次抗体)、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
【0051】
本発明の癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法は、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定する。
【0052】
癌化及び癌の進行に伴ってMUC13遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルよりも高い)ので、癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減作用を有する物質を選択することによって、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0053】
「MUC13遺伝子の発現レベル低減効果」には、MUC13遺伝子の転写・翻訳、MUC13の活性発現等のいずれのステップに対する効果も含まれる。
本発明のスクリーニング方法は、in vivo及びin vitroのいずれにおいても行うことができる。
【0054】
in vivoにおいては、例えば、所定の組織又は器官に癌細胞を有するモデル動物に候補物質を投与した後、上記組織又は器官から検体を採取し、当該検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を投与した後のMUC13遺伝子の発現レベルが低減したか否かを指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0055】
in vivoのスクリーニング方法において利用されるモデル動物としては、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。
【0056】
候補物質を投与するモデル動物としては、MUC13遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させたトランスジェニック動物を利用することもできる。このようなトランスジェニック動物は、例えば、(i) MUC13遺伝子と卵とを混合してリン酸カルシウムで処理する方法、(ii) 位相差顕微鏡下で前核期卵の核にMUC13遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法)、(iii) 胚性幹細胞(ES細胞)を用いる方法等の公知の方法によって得ることができる。なお、トランスジェニック動物におけるMUC13遺伝子の発現レベルの亢進には、MUC13遺伝子が外来遺伝子として導入されて強制発現している状態、宿主が固有に有するMUC13遺伝子の発現レベルが亢進している状態、MUC13の分解が抑制された状態のいずれもが含まれる。
【0057】
in vitroにおいては、例えば、癌細胞に候補物質を接触させた後、当該癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定し、候補物質を投与した後のMUC13遺伝子の発現レベルが低減したか否かを指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0058】
in vitroのスクリーニング方法において利用される癌細胞としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット等由来の癌細胞株を利用することができる。
【0059】
in vitroのスクリーニング方法においては、癌細胞の代わりに、MUC13遺伝子の発現レベルを人為的に亢進させた細胞を利用することができる。このような細胞は、MUC13遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、当該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。
【0060】
本発明の癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キットは、検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、MUC13に反応する抗体又はその断片を含む。
【0061】
本発明のスクリーニング用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、本発明の癌の診断用キットにおいて例示した各種試薬、器具等の他、モデル動物、細胞株、細胞培養用培地等を含むことができる。
【0062】
本発明のスクリーニング方法によってスクリーニングされた物質は、癌の予防・治療剤として有用である。また、MUC13に反応し得る抗体又はその断片も、癌の予防・治療剤として有用である。さらに、MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターも、癌の予防・治療剤として有用である。これらの癌の予防・治療剤は、MUC13遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、MUC13の機能を阻害することにより、癌の予防・治療効果を発揮することができると考えられる。
【0063】
MUC13に反応し得る抗体又はその断片を癌の予防・治療剤として利用する場合、癌の予防・治療剤は当該抗体又はその断片のみから構成してもよいが、通常は、薬学的に許容され得る賦形剤その他任意の添加剤を用いて製剤化する。製剤化する場合、製剤中の当該抗体又はその断片の含有量は適宜調節することができる。製剤化にあたっては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用することができる。
【0064】
MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNAを癌の予防・治療剤として利用する場合、例えば、アンチセンスDNAを適当なプロモーター配列の下流に組み込んでアンチセンスRNA発現ベクターを作製し、このアンチセンスRNA発現ベクターを投与することができる。MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNAは、MUC13遺伝子のアンチセンス鎖のいずれの部分であってもよい。標的細胞への発現ベクターの導入方法としては、in vivo又はex vivoにおける導入方法が公知である。
【0065】
MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNA又は二本鎖RNAを癌の予防・治療剤として利用する場合、例えば、アンチセンスRNA又はsiRNA(small interfering RNA)を標的細胞に直接導入することができる。また、アンチセンスRNA発現ベクター又はsiRNA発現ベクターを作製し、これらの発現ベクターを投与することができる。MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNAは、MUC13遺伝子のアンチセンスDNAを鋳型として生成されるアンチセンスRNAであり、MUC13遺伝子に対するsiRNAは、MUC13遺伝子に対するアンチセンスRNA及び当該アンチセンスRNAと相補的なRNAからなる二本鎖RNAである。標的細胞への発現ベクター、アンチセンスRNA又はsiRNAの導入方法としては、in vivo又はex vivoにおける導入方法が公知である。
【0066】
癌の予防・治療剤の投与経路としては、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与等)が挙げられ、投与剤形としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、懸濁剤等が挙げられる。また、癌の予防・治療剤は、飲食品、飼料等に配合して投与することもできる。投与量及び投与回数は、目的とする作用効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、体重、性別等により異なるが、MUC13に反応し得る抗体又はその断片を利用する場合の投与量は、成人1日当たり通常100μg〜100mg、好ましくは1〜20mgの範囲から適宜選択でき、MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターを利用する場合の投与量は、成人1日当たり通常0.01mg/kg〜1g/kg、好ましくは0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。但し、投与量は種々の条件により変動するため上記範囲外となる場合もある。
【0067】
【実施例】
大腸癌において高発現していることが知られているMUC13について他の癌細胞における発現量を明らかにするために、各種ヒト正常組織及び癌細胞におけるMUC13 mRNAの発現量をGene chipを用いて解析するとともに、定量的RT−PCR法を用いて解析した。
【0068】
〔実施例1〕ヒト正常組織におけるMUC13 mRNAの発現解析
ヒト正常組織におけるMUC13 mRNAの発現分布をGene chipを用い検討した。
ヒト正常組織としては各ヒト臓器由来RNA(表1)各10 ngずつを試料とし、GeneChip(Gene ChipTM HG−133A Target;Affymetryx社製)を用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、それに対するMUC13(プローブID:218687_s_at HG−U133A)のmRNA発現量を相対値で表した結果(図1)、Williams SJ等の報告(J.Biol.Chem. 2001 276; 18327−18336)と同様に小腸、大腸で非常に高い値を示したのみで、他の臓器では特に高い値を示さなかった。このことから、小腸、大腸以外ではMUC13は発現していたとしてもその発現量は低いことが示唆された。
【0069】
【表1】
【0070】
〔実施例2〕ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現解析
各種ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現を、定量的RT−PCR法を用いて解析した。すなわち、各種ヒト癌細胞株よりISOGEN(日本ジーン社)を用い常法により全RNAを調製した後、さらに全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて1本鎖 cDNAを合成したもの、及びMultiple Tissue cDNA (MTC) Panels (Human Tumor;CLONTECH社製)をそれぞれ鋳型DNAとして用い、iCycleriQリアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD社)によりPCR反応を行い、mRNA発現量を定量した。各25μLのPCR反応液は、500mM KCl, 100 mM Tris−HCl(pH8.3), 20mM MgCl2, 0.1% Gelatin、各1.25 mM dNTPs(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、1μLの各1本鎖cDNA、5 pmoleずつのMUC13センスプライマー(配列番号1)、MUC13アンチセンスプライマー(配列番号2)、0.75μLのSYBR Green I (1000倍希釈溶液,宝酒造社製)、0.25μLのrecombinant Taq polymerase Mix(FG Pluthero, Rapid purification of high−activity Taq DNA polymerase、Nucl. Acids. Res. 1993 21: 4850−4851.)を含むように調製した後、初めに94 ℃で3分間一次変性を行い、94 ℃で15秒、63 ℃で15秒、72 ℃で30秒からなるサイクルを40回行なった。各標品中の発現量はiCycler iQ リアルタイム解析システム付属ソフトを用いて計算した。また、個々のRNA中のヒトβ−アクチン遺伝子発現量もヒトβ−アクチンに特異的なセンスプライマー(配列番号3)ならびにアンチセンスプライマー(配列番号4)を用い上記と同様に解析を行い、MUC13における解析結果をヒトβ−アクチンの解析結果で補正した値(MUC13/β−アクチン×100)をMUC13 mRNA発現量とした。
【0071】
その結果、既に報告されている大腸癌由来の細胞株に加え、胃癌、肝癌、肺癌、グリオーマなどでMUC13 mRNAの発現が高い細胞株が認められた(図2)。さらに、大腸癌と異なり、それ以外の癌種に関しては正常組織でのMUC13 mRNAの発現は低いことより(図1)、これらの癌種においては癌化に伴いMUC13の発現が亢進していることが確認された。
【0072】
〔実施例3〕ヒト癌組織におけるMUC13 mRNAの発現解析
実施例1及び2の結果より、MUC13が大腸癌以外の癌種由来の細胞株においても発現が亢進していることが見出されたことより、実際に臨床標品においても発現が亢進しているのかを明らかにするために肝癌及び胃癌患者から摘出した癌組織におけるMUC13 mRNAの発現をGene chipを用いて解析するとともに、定量的RT−PCR法により解析した。
【0073】
(1)ヒト肝細胞癌におけるMUC13 mRNAの発現解析
(1−1)ヒト肝細胞癌からの全RNAの調製
MUC13 mRNA発現解析に用いる全RNAはISOGEN(日本ジーン社)を用いて常法により調製した。すなわち、肝細胞癌由来の全RNAは高分化型肝癌、中分化型肝癌及び低分化型肝癌患者からの摘出組織より肝細胞癌腫瘍部のみを選別したものより調製した。また、陰性対照として用いる全RNAは摘出組織の非癌部である肝炎部位、肝硬変部位及び正常肝からそれぞれ同様に調製した。なお、すべての臨床組織はインフォームドコンセントに基づき入手した。
【0074】
(1−2)Gene chipを用いたヒトMUC13 mRNA発現解析
上記(1−1)において調製した全RNAを用い、肝細胞癌又は正常肝、非癌部におけるmRNAの発現をGeneChipTM HG−U95B,C,D,E Target(Affymetryx社製)を用いて解析した。肝細胞癌腫瘍部としては高分化型肝癌、中分化型肝癌及び低分化型肝癌組織より調製した全RNAを、また対照とする非癌部(肝炎部位、肝硬変部位)ならびに正常肝より調製した全RNAを各5μgずつ、それぞれ3例分を混合したもの試料として用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、それに対する相対値として発現量を表した。
【0075】
その結果、MUC13遺伝子(プローブID:64472_at_HG−U95C)は正常肝、非癌部、高分化型肝癌、B型肝炎ウイルスに感染した中分化型肝癌においては発現が非常に少ないのに対し、C型中分化型肝癌及び低分化型肝癌において顕著な発現上昇が確認され、確かに臨床標品においてもMUC13 mRNAの発現が亢進していること、並びに癌の悪性化と共に発現が亢進することが認められた(図3)。
【0076】
(1−3)定量的RT−PCRによるmRNA発現解析
続いて、定量的RT−PCR法を用いて正常肝、肝炎部位、肝硬変部位及び肝細胞癌の個々の臨床組織におけるMUC13のmRNA発現を比較した。すなわち、各組織より調製した全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて合成した1本鎖 cDNAを鋳型DNAとして用い、上記と同様の条件にてiCycleriQリアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD社)によりPCR反応を行った。
【0077】
解析の結果、正常肝、肝炎、肝硬変の病変部におけるMUC13 mRNA発現量は18から177という値を(図4−1)、また肝癌患者からの摘出組織の非癌部においても5から281という値を示したのに対し、肝癌摘出組織の腫瘍部位においては最大で12440と値を示し、今回解析した9例中3例で明らかに高い値を示した。さらに、同一患者由来の癌部、及び非癌部との比較においては9例中5例において10倍以上癌部においてMUC13 mRNAの発現が高いことが明らかになった(図4−2)。
【0078】
以上の結果より、MUC13は正常肝細胞ではほとんど発現していないものが、癌化と共に、及び中分化〜低分化型への癌の悪性度の進行と共に発現が亢進することが明らかになり、MUC13は中分化及び低分化肝癌の診断マーカーとして有用であると考えられた。さらに、肝細胞の癌化、悪性化に従いその発現が亢進することより、MUC13が肝細胞癌の発生、悪性化において重要な働きを担っている可能性が考えられた。従って、MUC13は肝癌の診断に加え、肝癌細胞のターゲティング、又は肝癌治療の標的分子としても有用である可能性が示唆された。
【0079】
(2)ヒト胃癌におけるMUC13 mRNAの発現解析
胃癌摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現について上記と同様にGeneChip(GeneChipTM HG−133A Target;Affymetryx社製)ならびに定量的RT−PCR法を用いて解析した。
【0080】
(2−1)ヒト胃癌からの全RNAの調製
6例の進行癌且つ分化型胃癌(腸型)、ならびに5例の未分化型胃癌(胃型)と診断された胃癌摘出組織の腫瘍部位、ならびに正常部位から上記の方法と同様に全RNAを調製した。なお、すべての臨床組織はインフォームドコンセントに基づき入手した。
【0081】
(2−2)Gene chipを用いたmRNA発現解析
上記(2−1)において調製した全RNAを用い胃癌又は正常胃におけるmRNAの発現をGeneChipTM HG−U133(Affymetryx社製)を用いて解析した。胃癌の腫瘍部位に関しては分化型胃癌3例分より調製した全RNAを混合したもの、また対照として正常部位1例の全RNA各5μgずつを試料として用い、Expression Analysis Technical Manual(Affymetryx社)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、各遺伝子の発現量は相対値として解析した。
【0082】
その結果、MUC13遺伝子(プローブID:218687_s_at_HG−U133A)に関し正常部位と腫瘍部位における発現スコアを比較したところ、正常組織においては31.9と低い値を示したのに対し、腫瘍部位では217.6と正常部位に比べ約7倍程度高い値を示すことが明らかになり、摘出癌組織においてもMUC13 mRNA発現が亢進していることが確認された(図5)。
【0083】
(2−3)定量的RT−PCRによるmRNA発現解析
続いて、定量的RT−PCR法を用いて個々の種摘出胃癌におけるMUC13のmRNA発現を比較した。RT−PCR解析には、未分化型(胃型)の各種組織型を示すもの5例、ならびにGene chip解析と同様に分化型(腸型)のもの6例を用いた。すなわち、各組織より調製した全RNAを用い上記と同様の方法によりMUC13 mRNA発現量を解析した結果、未分化型の充実型低分化型管状腺癌(por1)の癌部において116、ならびに173という値を示した以外はいずれも800以上の高い値を示した。特に悪性度が高いことが知られている未分化型胃癌の非充実型低分化型管状腺癌(por2)において、それぞれ2,437ならびに1,960という値を示し、さらに非癌部と比較した場合には共に約4〜5倍mRNAの発現が亢進していた。また、胃癌の多くでは癌部の周辺の組織も腸上皮化生を起こしており正常の胃と形態的に異なることが知られており、その結果今回の解析においても非癌部においても高い値を示す例が多く見られたが、全体でみても11例中5例において非癌部に比べ癌部においてMUC13 mRNAの発現が2倍以上亢進していた(図6)。従って、MUC13は胃の癌化、又は腸上皮化生等の形態変化に伴い発現が亢進することが強く示唆された。
【0084】
以上の結果より、MUC13は胃においても正常での発現が少ないのに対し、胃癌ならびに前癌状態において発現が亢進することより、胃癌においても診断ならびに治療の標的分子として有用である可能性が示された。
【0085】
【発明の効果】
本発明により、第一に、広く癌一般の診断を行うことができる癌の診断方法及び癌の診断用キットが提供される。また、本発明によりは、第二に、癌予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができるスクリーニング方法及びスクリーニング用キットが提供される。さらに、本発明は、第三に、癌を予防及び/又は治療することができる癌の予防・治療剤が提供される。
【0086】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】正常臓器及び血管内皮細胞(HUVEC)におけるMUC13遺伝子発現解析結果を示す図である。
【図2】各種ヒト癌細胞株におけるMUC13 mRNAの発現量を定量的RT−PCR法により解析した結果を示す図である。
【図3】正常肝、肝炎及び肝癌の各摘出組織におけるMUC13遺伝子発現量をGene chipを用いて解析した結果を示す図である。
【図4】(1)は正常肝、肝炎、肝硬変の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図であり、(2)は中分化型及び低分化型肝癌の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図である。
【図5】正常胃及び胃癌の各摘出組織におけるMUC13遺伝子発現量をGene chipを用いて解析した結果を示す図である。
【図6】未分化型及び分化型胃癌の各摘出組織におけるMUC13 mRNAの発現を定量的RT−PCRにより解析した結果を示す図である。
Claims (10)
- 被験動物から採取した検体におけるMUC13遺伝子の発現レベルを指標として、前記検体における癌細胞の有無を診断することを特徴とする癌の診断方法。
- 前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13をコードするmRNAの存在量に基づいて測定することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
- 前記発現レベルを、前記検体におけるMUC13の存在量に基づいて測定することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
- MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌の診断用キット。
- MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌の診断用キット。
- 癌細胞におけるMUC13遺伝子の発現レベル低減効果を指標として、候補物質の癌予防・治療効果を判定することを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
- MUC13をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
- MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
- MUC13に反応し得る抗体又はその断片を含有する癌の予防・治療剤。
- MUC13遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA又はこれらを発現し得るベクターを含有する癌の予防・治療剤。
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