JP2004149697A - エポキシ樹脂組成物およびその硬化物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有し、芳香族多価カルボン酸残基と臭素原子を有する芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルをエポキシ樹脂の硬化剤として使用する。該ポリエステルの分子鎖を形成する全てのエステル結合が架橋点となり得るため、硬化物は高い架橋密度を有し、硬化時に極性の高いヒドロキシ基を形成することがないため硬化物は高いガラス転移温度と低誘電正接とを有する。さらに、該硬化物は架橋点のエステル結合が加水分解されても低分子量のカルボン酸が遊離せず、高湿度下でも低誘電正接を示す。また、ポリエステルが臭素原子を有するため、該ポリエステルを含有するエポキシ樹脂組成物は難燃性に優れる。
【選択図】 なし。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低い誘電正接、高い耐熱性、および難燃性を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、およびその硬化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の情報通信量の増加にともない高周波数帯域での情報通信が盛んに行われるようになり、より優れた電気特性、なかでも高周波数帯域での伝送損失を低減させるため、低い誘電正接を有する電気絶縁材料が求められている。従来、電気絶縁材料としては、電気特性、機械特性、接着性などに優れたエポキシ樹脂が用いられていたが、従来のエポキシ樹脂は、硬化剤としてアミン化合物、フェノール化合物などの活性水素を有する化合物が使用されており、これら硬化剤によりエポキシ樹脂を硬化させた場合には、エポキシ基とこれら活性水素との反応によって極性の高いヒドロキシ基が生じるため誘電正接を低くすることが困難であった。
【0003】
エポキシ樹脂を硬化させた際に極性の高いヒドロキシ基を生じさせない方法として、カルボン酸と芳香族ヒドロキシ化合物とからなるエステル化合物の有するエステル結合が、エポキシ基に対して高い反応活性を持つことを利用し、多官能性の該エステル化合物をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する試みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。該エステル化合物を硬化剤としてエポキシ樹脂を硬化させた場合には、極性の高いヒドロキシ基を生じることがないため、得られる硬化物は低い誘電正接を示す。このようなエステル化合物として、フタル酸やトリメリット酸とフェノール類とのエステル化合物、安息香酸類とビスフェノールAやビスフェノールSとのエステル化合物、あるいは、安息香酸類とフェノール樹脂とのエステル化合物などが知られている。
【0004】
しかし、これらエステル化合物は、活性の高いエステル結合が分子または分子鎖の末端にしか存在しないため、得られるエポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くならず、また、硬化物内部で水素結合が形成されることもないので、鉛フリーの半田加工に耐え得る高いガラス転移温度を有するエポキシ樹脂硬化物が得られなかった。なかでも、安息香酸と芳香族ヒドロキシ化合物とのエステルを硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は、硬化反応により生成した安息香酸エステル結合が、吸湿によって加水分解したときに、低分子量のカルボン酸である安息香酸が遊離するため、該エポキシ樹脂硬化物は高湿度の環境下で誘電正接が増大するという問題があった。
【0005】
エポキシ基に対して高い反応活性を持つエステル化合物のなかで、高いガラス転移温度を有するエポキシ樹脂硬化物を与えるエステル化合物としては、分子鎖を形成する全てのエステル結合がエポキシ基に対して反応活性を有する多官能性ポリエステル、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる多官能性ポリエステル(例えば、特許文献2参照。)が知られている。このような多官能性ポリエステルを硬化剤として使用してエポキシ樹脂を硬化させた場合には、分子鎖を形成する全てのエステル結合が硬化反応に関与できるので、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くなり、ガラス転移温度を高くすることができる。
【0006】
しかし、前記多官能性ポリエステルは、分子鎖の両末端が極性の高いヒドロキシ基、またはカルボキシ基であるため、該ポリエステルによりエポキシ樹脂を硬化させた場合には、ヒドロキシ基が硬化物中に残存するうえに、カルボキシ基がエポキシ基と反応してヒドロキシ基を生成するため、エポキシ樹脂硬化物の誘電正接を低くすることが困難であった。また、未反応のカルボキシ基が硬化物中に残存すると、吸湿による加水分解により、該カルボキシ基を有する低分子量の芳香族ジカルボン酸が遊離し、高湿度の環境下で誘電正接が増大するという問題があった。
【0007】
また、芳香族多価カルボン酸と芳香族多価ヒドロキシ化合物とから得られる、両末端にヒドロキシ基を有するポリエステルの、ヒドロキシ基をモノカルボン酸でエステル化したポリエステル(例えば、特許文献3参照。)は、上記多官能性ポリエステルと同様に、分子鎖の主鎖内部に有する複数のエステル結合により、ガラス転移温度を高くでき、かつ分子鎖末端のヒドロキシ基をモノカルボン酸でエステル化しているため、エポキシ樹脂を硬化させた際に極性の高いヒドロキシ基を生じることがない。
【0008】
しかしながら、該ポリエステルは分子鎖末端がアルキルカルボニルオキシ基、あるいはアリールカルボニルオキシ基であるため、該ポリエステルを硬化剤として用いた場合には、上記した安息香酸エステルを用いた場合と同様に、加水分解により容易に低分子量のカルボン酸が遊離し、誘電正接が低くならず、高湿度の環境下では誘電正接が増加するという問題があった。
【0009】
また、エポキシ樹脂硬化物を電気絶縁材料用途に使用する場合には、漏電や短絡によって容易に燃焼しないように難燃性が求められているが、上記したポリエステルは難燃性に劣るという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭62−53327号公報
【特許文献2】
特開平5−51517号公報
【特許文献3】
特開平10−101775号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、高いガラス転移温度と低い誘電正接を有し、かつ難燃性を有するエポキシ樹脂硬化物、および、該硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有し、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルをエポキシ樹脂の硬化剤として使用する。該ポリエステルの分子鎖を形成する全てのエステル結合が架橋点となり得るため、これをエポキシ樹脂硬化剤として使用した場合、硬化物は高い架橋密度を有し、また、硬化時に極性の高いヒドロキシ基を形成することがないため、得られるエポキシ樹脂硬化物は、高いガラス転移温度と低い誘電正接とを兼備する。さらに、該エポキシ樹脂硬化物は架橋点のエステル結合が加水分解されても誘電正接を増大させる低分子量のカルボン酸が遊離せず、高湿度の環境下でも低い誘電正接を示す。また、芳香族多価ヒドロキシ化合物として、骨格構造に臭素原子を持つ芳香族ジヒドロキシ化合物を使用するため、該ポリエステルを含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を示す。
【0013】
すなわち本発明は、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルを含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記ポリエステルが、下記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物残基を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物を提供し、該エポキシ樹脂組成物の硬化物であって、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、1GHzにおける誘電正接が5.0×10−3未満であるエポキシ樹脂硬化物を提供することによって上記課題を解決した。
【0014】
【化8】
(式中Yは、−CH2−、−C(CH3)2−、または−SO2−からなる群から選ばれる二価の基を表す。)
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、および硬化促進剤を含有する。
【0016】
本発明に使用するエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されず、例えば、クレゾールノボラック、フェノールノボラック、α―ナフトールノボラック、β―ナフトールノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビフェニルノボラック、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(ビスフェノールフルオレン)、ジヒドロキシナフタレンなどの多価フェノールのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエニルジフェノールとエピクロルヒドリンとから得られるジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール、水添ビスフェノールAなどのアルコール系のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロ無水フタル酸やダイマー酸などを原料としたグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンなどのアミンを原料としたグリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ベンゾピラン型エポキシ樹脂、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0017】
なかでも、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、および臭素化エポキシ樹脂を使用すると、耐熱性に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0018】
本発明においては、エポキシ樹脂の硬化剤として、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルであり、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物残基を有するポリエステル(以下、該ポリエステルを単に「ポリエステル(A)」と略記する。)を使用する。
【0019】
該ポリエステル(A)の有するエステル結合は、エポキシ基に対して高い反応活性を有するため、エポキシ樹脂の硬化剤として好適に用いることができ、ポリエステル(A)を硬化剤として使用した場合には極性の高いヒドロキシ基を生じることがなく、得られるエポキシ樹脂硬化物は低い誘電正接を示す。さらに、ポリエステル(A)は分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有することから、得られるエポキシ樹脂硬化物の架橋点のエステル結合が吸湿によって加水分解されても、誘電正接を増大させる低分子量のカルボン酸が遊離しないので、得られるエポキシ樹脂硬化物は高湿度条件下においても低い誘電正接を示す。また、ポリエステル(A)は、エポキシ基に対して反応活性を持つエステル結合を分子鎖内部にも有するため、ポリエステル(A)を硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は架橋密度が高く、ガラス転移温度が高い。また、ポリエステル(A)が上記一般式(1)で表される、臭素原子を持つ芳香族ジヒドロキシ化合物残基を有するため、ポリエステル(A)を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物は、優れた難燃性を示す。
【0020】
ここで難燃性とは、炎や発熱体を近づけて試験片に点火し、再び消火するまでの燃焼に関する特性、すなわち燃えにくさのことを意味する。本発明における優れた難燃性とは、米国UL規格のうち、機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験に関するUL−94の、垂直燃焼試験による有焔時間を難燃性の基準とし、該規格のなかの電子材料に関係の深い94V−0の規格(有焔時間が10秒未満)を満たすことをいう。
【0021】
本発明に使用するポリエステル(A)は、例えば、芳香族多価ヒドロキシ化合物と芳香族多価ヒドロキシ化合物とを重縮合させ、両末端にカルボキシ基を有するポリエステルを合成しておき、該カルボキシ基を芳香族モノヒドロキシ化合物でエステル化して得られる。該ポリエステル(A)は、上記脱水エステル化反応以外にエステル交換反応やショッテン・バウマン反応によって製造することもできる。例えば、エステル交換反応では、芳香族多価ヒドロキシ化合物と芳香族モノヒドロキシ化合物を無水酢酸によりアセチル化した後、芳香族多価カルボン酸とをアシドリシスさせることによりポリエステル(A)が得られる。
【0022】
ショッテン・バウマン反応を利用する場合、該反応を界面で行わせる界面重縮合法と、均一溶液中で行わせる溶液重縮合法とがある。界面重縮合法では、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を含む有機溶液相と、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族モノヒドロキシ化合物を含む水相とを接触させ、酸捕捉剤の共存下で界面重縮合させることによりポリエステル(A)が得られる。また、溶液重縮合法では、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を含む溶液と、芳香族多価ヒドロキシ化合物と芳香族モノヒドロキシ化合物を含む溶液とを、酸捕捉剤の存在下で混合し、脱ハロゲン化水素反応させることによってポリエステル(A)が得られる。
【0023】
前述したように、ポリエステル(A)は、芳香族多価カルボン酸、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族モノヒドロキシ化合物の脱水エステル化反応によっても得られるが、芳香族ヒドロキシ化合物の反応性が低いので、前記エステル交換反応、あるいはショッテン・バウマン反応を利用するのが好ましい。
【0024】
以下、ショッテン・バウマン反応を利用する製造方法を例として、本発明に使用するポリエステル(A)について具体的に説明する。ポリエステル(A)の製造に使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物としては、上記一般式(1)で表される基を与える化合物、具体的には下記一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を使用する。
【0025】
【化9】
(式(8)中、Yは−CH2−、−C(CH3)2−、または−SO2−からなる群から選ばれる二価の基を表す。)
【0026】
一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を使用して得られるポリエステル(A)を硬化剤としたエポキシ樹脂硬化物は、構造中に臭素原子を有するため、該エポキシ樹脂硬化物が熱分解した際に臭化水素が生じ、臭化水素の酸素遮断効果と、燃焼時の高活性なフリーラジカルを捕捉して燃焼エネルギーを低下させる効果によりエポキシ樹脂硬化物は難燃性を有する。
【0027】
ただし、ポリエステル(A)を合成する際に、上記一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物のみを使用した場合には、ポリエステル(A)の結晶性が高くなり、該ポリエステル(A)を含有するエポキシ樹脂組成物の溶媒への溶解性が十分得られないことがあるため、上記一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物以外に、十分な溶剤溶解性を与える芳香族多価ヒドロキシ化合物を併用することが好ましい。このときの一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の使用量は、使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物全量に対して、30〜60質量%の範囲であることが好ましい。該芳香族ジヒドロキシ化合物の使用量が30質量%未満であると、エポキシ樹脂硬化物に与える難燃性の効果が不十分となり、60質量%を超えるとエポキシ樹脂組成物の溶媒への溶解性が十分に得られない。
【0028】
十分な溶媒溶解性を与える芳香族多価ヒドロキシ化合物としては、下記式(9)〜(12)で表される化合物が挙げられる。
【化10】
(式(9)中、kは0または1である。)
【化11】
(式(10)中、Jは酸素原子、メチレン基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたメチレン基、フェニル基で置換されたメチレン基、ナフチル基で置換されたメチレン基、ビフェニル基で置換されたメチレン基、9−フルオレニル基で置換されたメチレン基、または該フェニル基、該ナフチル基、あるいは該ビフェニル基に更に炭素数1〜4のアルキル基が核置換したメチレン基を表す。nおよびmは、各々1〜3の整数を表す。)
【0029】
【化12】
【0030】
【化13】
【0031】
上記式(9)〜(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物のなかでも、式(9)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を使用して得られるポリエステル(A)を硬化剤とするエポキシ樹脂硬化物は、構造中に疎水性の脂環式構造を有するため、吸水が少なく、高湿度環境下においても安定な誘電特性を示す。
【0032】
ただし、式(9)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物のうちkの平均値が0.2を超えるものは、溶媒に溶解してポリエステルを合成する際にゲル化するおそれがあるため、式(9)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を使用する場合には、kの平均値が0〜0.2の範囲にあるものを使用するか、あるいは、式(10)〜(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を併用することが好ましい。式(10)〜(12)で表される芳香族ヒドロキシ化合物と共に使用する場合には、式(9)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物の使用量はkの値に応じて適宜調整する必要があり、例えばkが1の場合には、使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物全量のうち、一般式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物以外の芳香族多価ヒドロキシ化合物量の20mol%以下であることが好ましい。
【0033】
ショッテン・バウマン反応を利用してポリエステル(A)を製造する場合においては、芳香族多価カルボン酸は酸ハロゲン化物の形で使用する。ここで使用する酸ハロゲン化物のハロゲンとしては、塩素、または臭素を使用するのが一般的である。酸ハロゲン化物の形で使用する芳香族多価カルボン酸としては、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、あるいは、下記一般式(13)〜(15)で表される芳香族多価カルボン酸などが挙げられる。
【0034】
【化14】
【0035】
【化15】
【0036】
【化16】
【0037】
(一般式(13)〜(15)中A、B、D、E、Gは置換基を表し、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。a、e、gは各々0〜4の整数を表し、b、dは各々0〜3の整数を示す。A〜Gで表される置換基は、それぞれ、すべて同一であっても異なっていてもよい。Xは単結合、−S−、−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、または−SO2−を表す。)
【0038】
上記芳香族多価カルボン酸のなかでも、一般式(13)〜(15)で表される芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物から得られるポリエステル(A)は各種溶媒に対して優れた溶解性を示し、また、該ポリエステル(A)を硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は、高いガラス転移温度、低い誘電正接を示す。一般式(13)〜(15)で表される芳香族多価カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−、2,3−、あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。なかでも、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を使用して得られるポリエステル(A)は、特に各種溶媒への溶解性に優れる。
【0039】
芳香族モノヒドロキシ化合物としては、下記一般式(16)〜(18)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0040】
【化17】
【0041】
【化18】
【0042】
【化19】
【0043】
(一般式(16)〜(18)中、P、Q、R、T、Uは置換基を表し、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、またはハロゲン原子を表す。p、rは0〜5の整数、q、tは0〜4の整数、uは0〜3の整数を示す。P〜Uで表される置換基は、それぞれ、すべて同一であっても異なっていてもよい。Zは単結合、−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、または−SO2−を表す。)
【0044】
一般式(16)〜(18)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3、5−キシレノール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、2−ベンジルフェノール、4−ベンジルフェノール、4−(α―クミル)フェノール、α―ナフトール、β−ナフトールなどが挙げられる。なかでも、α−ナフトール、β−ナフトール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、4−(α―クミル)フェノールを使用したポリエステル(A)を硬化剤とするエポキシ樹脂硬化物は特に低い誘電正接を有する。
【0045】
ポリエステル(A)を界面重縮合法により製造する場合の有機溶液相に用いる溶媒としては、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解し、酸ハロゲン化物に不活性で、かつ水と非相溶の溶媒であればよく、例えば、トルエン、ジクロロメタンなどが挙げられる。水相には芳香族多価ヒドロキシ化合物と酸捕捉剤であるアルカリを溶解する。
【0046】
溶液重合法により製造する場合に用いる溶媒としては、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族モノヒドロキシ化合物を溶解し、かつ、酸ハロゲン化物に不活性な溶媒であればよく、トルエン、ジクロロメタンなどが使用できる。また、重縮合反応に使用する酸捕捉剤としては、ピリジンやトリエチルアミンなどを使用できる。
【0047】
得られたポリエステル(A)は、洗浄や再沈殿などの操作によって精製し、不純物含有量を低減することが好ましい。ポリエステル(A)中にモノマー、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、あるいは塩類などの不純物が残存すると、誘電正接を増大させる要因となる。
【0048】
ポリエステル(A)のポリスチレン換算の数平均分子量は550〜7000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量が550未満であると、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が十分に高くならないため、ガラス転移温度に及ぼす効果が不十分となり、7000を超えると、溶媒へ溶解した際にゲル化する場合がある。
【0049】
本発明に使用する硬化促進剤としては、公知慣用のエポキシ樹脂硬化促進剤を用いることができる。例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどの有機ホスファイト化合物、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのホスホニウム塩、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(以下、DBUと略記する。)などのアミン化合物およびDBUとテレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸との塩、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチル尿素などの尿素化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、カリウムフェノキシドやカリウムアセテートなどのクラウンエーテルの塩などが挙げられ、これらは単独あるいは複数で用いることができる。これらの中でもイミダゾール化合物が好ましく用いられる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂とポリエステル(A)との配合量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1molに対して、ポリエステル(A)中のアリールオキシカルボニル基が0.15〜5molとなる配合量が好ましく、0.5〜2.5molとなる配合量であればさらに好ましい。ポリエステル(A)の配合量が該範囲外であると、ポリエステル(A)によるエポキシ樹脂の硬化反応が十分に進行せず、誘電正接やガラス転移温度に及ぼす効果が不十分になる。
【0051】
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.01質量部未満であると硬化反応速度が遅くなり、5質量部より多いとエポキシ樹脂の自己重合が生じてポリエステル(A)によるエポキシ樹脂の硬化反応が阻害されることがある。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物は公知慣用の熱硬化法により硬化させ、成型することができる。例としては、本発明のエポキシ樹脂組成物と溶媒とを均一に混合し、該混合液を任意の型に注入し、加熱して硬化させる方法、あるいは、本発明のエポキシ樹脂組成物と溶媒とを均一に混合したワニスを調整し、該ワニスを基材に塗布、型に注入、あるいはガラス布基材に含浸させ、加熱乾燥により溶媒を除去し、樹脂を予備硬化させた後、再度加熱しながら加圧成型する方法などが挙げられる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用する溶媒は、用いるエポキシ樹脂の種類によって異なるが、エポキシ樹脂、ポリエステル(A)および硬化促進剤を均質に溶解できるものであればよい。例としては、N−メチルピロリドン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アニソールなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのモノエーテルグリコール系溶媒などが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物のうち、160℃以上のガラス転移温度を有し、かつ、線熱膨張係数が60×10−6℃−1未満であり、300℃の半田浴への浸漬試験においても溶融しないエポキシ樹脂硬化物は、加熱にともなう寸法変化が少ない。さらに、1GHzにおける誘電正接が5.0×10−3未満のものは、半導体封止剤などの高周波通信用の絶縁材料に好適に用いることができる。また、121℃、2時間のプレッシャークッカーテスト後の、吸湿による誘電正接の変化率が40%以下のエポキシ樹脂硬化物は、使用する環境の湿度が変化しても安定して低い誘電正接を示す。
【0055】
【実施例】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
<合成例1>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、表1の合成例1の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物と芳香族多価ヒドロキシ化合物とを投入し、ファードラー翼により毎分300回転で1時間攪拌した。次いで、30℃に保った反応容器に、塩化メチレン1000ml中に表1の合成例1の欄に示した量の芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解した溶液を15秒かけて滴下し、4時間攪拌を続けた。得られた混合液を静置分液して水相を除去し、残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、および水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮して、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下した後、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥してポリエステル(A1)を得た。
【0056】
<合成例2>
合成例1における、表1の合成例1の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族多価カルボン酸の酸塩化物の代わりに、表1の合成例2の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を使用した以外は合成例1と同様にして、ポリエステル(A2)を得た。
【0057】
<合成例3>
反応容器にテトラヒドロフラン400mlを入れ、窒素気流中で、トリエチルアミン11gとレゾルシノール5.1gとを溶解させ、氷冷しながらイソフタル酸クロリド5.1gをテトラヒドロフラン100mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した。4時間撹拌した後、p−アセトキシ安息香酸クロリド19.9gをテトラヒドロフラン100mlに溶解した溶液を滴下した。滴下終了後、溶液を5%濃度の炭酸ナトリウム水溶液中に注ぎ、析出物を吸引濾過、水およびメタノールで洗浄し、減圧乾燥して、下記式(19)で表される、ポリエステル(H1)(数平均分子量2900)を得た。
【0058】
【化20】
【0059】
<合成例4>
反応容器にピリジン600mlと、大日本インキ化学工業株式会社製ノボラック型フェノール樹脂「TD−2090」(ヒドロキシ基当量105g/eq)105g、塩化ベンゾイル140.6gを入れ、窒素気流中、30℃で3時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトン1500mlを加えた後、脱イオン水で洗浄して、メチルイソブチルケトンを除去して、下記式(20)で表される、ポリエステル(H2)(数平均分子量1300)を得た。
【0060】
【化21】
【0061】
<合成例5>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、ビスフェノールA45.7g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド1.2gを溶解させた。30℃に保った反応容器に、イソフタル酸クロリド32.5g、およびテレフタル酸クロリド8.1gを溶解させた塩化メチレン溶液1000mlを30秒で滴下した。1時間撹拌した後、静置して分液し、水相を取り除いた。残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮した後、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下した後、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥して、下記式(21)で表される、ポリエステル(H3)(数平均分子量8600)を得た。
【0062】
【化22】
【0063】
<合成例6>
反応容器に、トルエン500gとエチレングリコールモノエチルエーテル200gの混合溶媒にトリメチルヒドロキノン152gを溶解した溶液を入れ、該溶液にp−トルエンスルホン酸4.6gを加えた後、ベンズアルデヒド64gを滴下して、水分を留去しながら120℃で15時間撹拌した。次いで、冷却して析出した結晶をろ別し、ろ液が中性になるまで繰り返し水で洗浄して、下記式(22)で表されるジヒドロキシベンゾピランを得た。
【0064】
【化23】
【0065】
反応容器に、上記式(22)で表されるジヒドロキシベンゾピラン187g、エピクロルヒドリン463g、n−ブタノール53g、およびテトラエチルベンジルアンモニウムクロリド2.3gを仕込み、窒素気流中で溶解させ、65℃の温度で共沸する圧力まで減圧した後、49%水酸化ナトリウム水溶液82gを5時間かけて滴下し、30分撹拌した。未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留して留去した後、メチルイソブチルケトン550gとn−ブタノール55gとを加えて得られた溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液15gを添加して80℃で2時間反応させ、反応物を水洗して下記式(23)で表されるベンゾピラン型エポキシ樹脂を得た。
【0066】
【化24】
【0067】
【表1】
【0068】
表1中に示した芳香族多価ヒドロキシ化合物は、各々下記を表す。また、表1中の数値は質量(g)を表す。
TBBPA:東ソー株式会社製テトラブロモビスフェノールA「T0032」(一般式(8)において、Yが―C(CH3)2−である芳香族ジヒドロキシ化合物。
ヒドロキシ基当量271g/eq)
TBBPB:東ソー株式会社製テトラブロモビスフェノールS「EB−400S」(一般式(8)において、Yが―CH3−である芳香族ジヒドロキシ化合物。ヒドロキシ基当量283g/eq)
DCPDDP:日本石油株式会社製ジシクロペンタジエニルジフェノール「DPP―6085」(式(9)においてkの平均値が0.16である芳香族ジヒドロキシ化合物。ヒドロキシ基当量165g/eq)
【0069】
<実施例1〜4>
合成例1〜2で得られたポリエステルA1〜A2を硬化剤として、これとエポキシ樹脂、硬化促進剤、および溶媒を表2に示す組成で25℃で混合し、ワニスを調製した。調製したワニスをアルミニウムシャーレ上に塗布し120℃で溶媒除去した後、170℃のホットプレートで半硬化(Bステージ化)させた。次いで、アルミニウムシャーレ上から半硬化塗膜を剥がし取り粉末化し、該粉末を170℃、3MPaの条件で1時間加圧プレス、次いで、190℃、133Paの条件で真空乾燥器中10時間熱硬化させ、エポキシ樹脂硬化物を得た。
【0070】
<比較例1〜4>
合成例3〜5で得られたポリエステルH1〜H3、およびアジピン酸ジ(ニトロフェニル)エステルを硬化剤として用い、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および溶媒を表3に示す組成で混合し、ワニスを調製した。調製したワニスをアルミニウムシャーレ上に塗布し120℃で溶媒除去した後、170℃のホットプレートで半硬化(Bステージ化)させた。次いで、アルミニウムシャーレ上から半硬化塗膜を剥がし取り粉末化し、該粉末を170℃、3MPaの条件で1時間加圧プレス、次いで、190℃、133Paの条件で真空乾燥器中10時間熱硬化させ、エポキシ樹脂硬化物を得た。
【0071】
実施例1〜4、および比較例1〜4で得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)、誘電特性、線熱膨張係数、はんだ耐熱性を下記の方法で測定、および試験した結果を表2〜3に示した。
【0072】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
セイコー電子工業株式会社製粘弾性スペクトロメータ「DMS200」により、1Hzにおけるtanδのピーク値の温度をガラス転移温度として測定した。
【0073】
(誘電特性の測定)
JIS−C−6481に準拠した方法により、アジレント・テクノロジー株式会社製インピーダンス・マテリアル・アナライザ「HP4291B」により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後のエポキシ樹脂硬化物、および121℃、2時間のプレッシャークッカーテストによる吸湿試験後のエポキシ樹脂硬化物の1GHzでの誘電率および誘電正接を測定した。
【0074】
(線熱膨張係数)
セイコー電子工業株式会社製熱・応力・歪測定装置「TMA/SS120C」により、30〜50℃まで変化させた際のエポキシ樹脂硬化物の線熱膨張係数を測定した。
【0075】
(難燃性試験)
UL−94の規格に準拠した垂直燃焼試験により、エポキシ樹脂硬化物の試験片に炎を10秒間あててから遠ざけ、その時点からの有焔時間を測定した。有焔時間が10秒未満のものを○、10秒以上のものを×とした。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表2〜3中に示したエポキシ樹脂、および硬化促進剤は各々下記を表す。また、表2〜3中の数値は質量(g)を表す。
EPICLON HP−7200H:大日本インキ化学工業株式会社製ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量280g/eq)
EPICLON N−695:大日本インキ化学工業株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量225g/eq)
ベンゾピラン型エポキシ樹脂:合成例6で得られた、式(23)で表されるベンゾピラン型エポキシ樹脂(エポキシ当量265g/eq)
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール
DMAP:4−ジメチルアミノピリジン
【0079】
表2〜3から明らかなように、比較例に示したエポキシ樹脂硬化物では、1GHzで5.0×10−3以下の低い誘電正接と、ガラス転移温度が160℃以上の高い耐熱性の両特性を兼備できなかった。これに対し、ポリエステル(A)を含有する本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、1GHzで5.0×10−3以下の低い誘電正接を有し、吸湿にともなう誘電正接の変化も小さい。また、160℃以上の高いガラス転移温度を有し、加熱にともなう寸法変化もほとんどみられない。さらに、難燃性試験において炎をあてた際にも燃焼せず、優れた難燃性を示した。
【0080】
【発明の効果】
本発明においては、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステル(A)をエポキシ樹脂組成物の硬化剤とするので、硬化時に極性の高いヒドロキシ基が生成せず、誘電正接の低いエポキシ樹脂硬化物が得られる。該硬化物は吸湿にともなう加水分解により誘電正接を増加させる低分子量のカルボン酸が遊離せず、高湿度条件下においても低い誘電正接を示す。また、分子鎖内部にもエポキシ基に対して反応活性を持つエステル結合を有するため、該ポリエステル(A)をエポキシ樹脂の硬化剤として使用すると、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くなり、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れた硬化物が得られる。さらに、該ポリエステル(A)が、一般式(1)で表される、臭素原子を持つ芳香族ジヒドロキシ化合物を有するため、得られるエポキシ樹脂硬化物は、優れた難燃性を示す。
【0081】
芳香族多価カルボン酸として、一般式(13)〜(15)で表される芳香族多価カルボン酸から得られるポリエステル(A)は、各種溶媒に対し優れた溶解性を示す。さらに、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を使用して得られるポリエステル(A)は、より優れた溶解性を示す。また、一般式(16)〜(18)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物を使用したポリエステル(A)を硬化剤としたエポキシ樹脂組成物からは、低い誘電正接を示すエポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0082】
本発明に使用するポリエステル(A)の数平均分子量を550〜7000とした場合には、エポキシ樹脂とポリエステル(A)との架橋反応が十分に進行し、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くなり、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れたエポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0083】
また、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、1GHzにおける誘電正接が5.0×10−3未満である本発明のエポキシ樹脂硬化物は、鉛フリーの半田加工に耐えうる耐熱性を有し、かつ、高周波通信用絶縁材料に要求される十分に低い誘電正接を有する。さらに、吸湿による誘電正接の変化率が40%以下である本発明のエポキシ樹脂硬化物は、高湿度条件下においても特性の変化が小さく、半導体封止剤などの絶縁材料用途に有用である。
Claims (7)
- 前記芳香族多価カルボン酸残基が、一般式(2)〜(4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、前記アリールオキシカルボニル基のアリール基が、一般式(5)〜(7)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種のアリール基である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 前記アリールオキシカルボニル基が、α−ナフチルオキシカルボニル基、β−ナフチルオキシカルボニル基、ビフェニル−2−オキシカルボニル基、ビフェニル−4−オキシカルボニル基、およびp−クミルフェニルオキシカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 前記芳香族多価カルボン酸残基が、イソフタロイル基およびテレフタロイル基である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 前記ポリエステルの数平均分子量が550〜7000である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物であって、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、1GHzにおける誘電正接が5.0×10−3未満であることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
- 吸湿による誘電正接の変化率が、40%以下である請求項6に記載のエポキシ樹脂硬化物。
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