JP2004148474A - 微動制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明に係る微動制御装置2は、静止状態にある固定部材4に対し可動部材6を微小運動させる微動制御装置において、微小運動を生起させる圧電素子を組み込んだ駆動部材8を固定部材4の所要部に固定配置し、この駆動部材8の上に磁石10を積層して固着し、この磁石10に対向する側に磁性材料から形成された可動部材6を配置し、可動部材6を磁石10に吸着した状態で可動部材6を微小運動させる微動制御装置2である。駆動部材8と磁石10を一体化して、可動部材6と固定部材4の間の隙間空間を開放して構造を簡素化し、可動部材6を磁石面に面接触で磁気吸着して安定確実に可動部材6を微動制御できる。特に、駆動部材8には無理な応力が作用せず、駆動部材8の耐久性を一層向上できる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は可動部材を固定部材に対し微小運動させる微動制御装置に関し、更に詳細には、圧電素子を組み込んだ駆動部材に磁石を一体に積層固着して、この磁石の磁気吸引力により可動部材を安定して吸着しながら可動部材を高精度に微小運動させることができる微動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の技術開発は重厚長大な技術分野から軽薄短小な技術分野へと進展してきたが、現代の技術動向は更にミクロ技術分野からナノ技術分野へと進行している。加工や計測などのナノ技術では、試料やプローブといった対象物の微小運動を如何に有効確実に制御するかというナノ制御技術が重要になっている。
【0003】
図9は重力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第1従来例の概略構成図である。駆動部材8の下面には半ボール20が一体に固定され、この半ボール20が固定部材表面4cに接触する状態で可動部材6は固定部材4に摺動自在に載置されている。半ボール20が固定部材表面4cを滑動することによって可動部材6は固定部材4に対し矢印a方向に並進することができる。
【0004】
駆動部材8は圧電素子から形成され、電源24の電圧Vを印加すると駆動部材8は矢印a方向にせん断動作する。この動作が確実に可動部材6に伝達されるように、駆動部材8の上に重力部材22が載置されている。この重力部材22の重力が押圧力Fとして駆動部材8に作用し、駆動部材8と可動部材6も相互に対向して押圧状態にある。
【0005】
図10は電源電圧の一例であるノコギリ波電圧の波形図である。時間変化率の小さな緩傾斜領域24aでは、可動部材6は固定部材4による静止摩擦力で移動できず、重力部材22が駆動部材8のせん断動作により水平移動する。時間変化率の大きな急傾斜領域では、重力部材22はその大きな慣性によって移動できず、可動部材6が水平移動する。このように、この例では、二段階移動によって可動部材6は固定部材4の表面上を移動することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来技術には次のような欠点がある。重力部材22の質量をそれほど大きく設定できないから、駆動部材8と可動部材6との押圧力が大きくならず、可動部材6が固定部材4に対しスリップすることがある。また、半ボール20が固定部材4を押圧した状態で可動部材22が固定部材4の表面を繰り返し滑動すると、接触部にキズが入り、動作が不安定になる欠点がある。つまり、半ボール20は固定部材4に点接触しているから、押圧力はその一点に作用し、その接触点での応力が過大になる。この反ボールによる応力の過大性がキズが入り易くなる理由である。
【0007】
図11はバネ力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第2従来例の概略構成図である。この従来例では、固定部材4の表面所要部に駆動部材8を固定し、この駆動部材8の上面にボール14を転接させ、このボール4の上に可動部材6を載置している。押圧手段として、重力部材の替わりにバネ26が使用され、このバネ力により可動部材6を直接押下する。
【0008】
バネ26により可動部材6に付勢する弾性力(バネ力)は重力よりかなり大きく設定できるから、可動部材6と駆動部材8の相互の押圧力Fは格段に大きくなる。この大きな押圧力Fにより可動部材6のスリップはなくなるが、逆に超精密部品である駆動部材8に作用する押圧力Fが増大するため、駆動部材8の破損確率が上昇することになる。
【0009】
しかも、この押圧力はボール14を介して駆動部材8に一点で作用するから、駆動部材8が受けるその一点での押圧応力はその破壊限界を超える可能性もあり、駆動部材8の破損確率が増大する。ボール14を介して可動部材6を移動させる方式には、転動摩擦力が小さくなるから可動部材6の移動が容易になるという利点もあるが、前記の破損確率の増大はこれを上回る欠点を生じる。
【0010】
図12は磁力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第3従来例の概略構成図である。この従来例では、磁石10を固定部材4の適所に固着し、可動部材6を磁性材料で形成する。従って、磁石10による磁気吸引力で可動部材6に押圧力Fを作用させ、この押圧力Fをボール14を介して駆動部材8に作用させている。
【0011】
この従来例では、磁力により可動部材6を吸引するから、可動部材6に作用する押圧力Fを十分に大きく設定できる利点がある。しかし、この押圧力Fはボール14を介して駆動部材8に一点で負荷され、その結果、駆動部材8に過大な押圧応力が作用し、第2従来例と同様の弱点を有することになる。また、可動部材6と固定部材4の間にある狭い隙間空間に駆動部材8だけでなく磁石10も配置されるため、装置設計が複雑になり、しかも磁石10の厚みを駆動部材8より小さく設計しなければならないから、設計条件が複雑になる弱点もある。
【0012】
図13は第3従来例の構造を一部変更した微動制御装置の第4従来例の概略構成図である。この従来例では、磁石10が可動部材6の適所に固着され、しかも固定部材4が磁性材料で形成される点で図14と異なっている。
【0013】
磁石10と固定部材4の間には磁力の作用反作用の法則が働き、その結果、可動部材6には下向きの磁気吸引力が押圧力Fとして作用する。この押圧力Fがボール14を介して駆動部材8に対し一点で作用する。この一点作用性の弱点は上述しているのでここでは省略する。
【0014】
従って、本発明は、磁石と駆動部材の配置に特段の工夫を加えることによって、磁石により可動部材と固定部材の接合を確実に行い、しかもその磁気吸引力を駆動部材に作用させない構造にすることによって駆動部材に押圧力を作用させず、駆動部材の耐久性の向上と部材配置を簡素化した微動制御装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の発明は、静止状態にある固定部材に対し可動部材を微小運動させる微動制御装置において、微小運動を生起させる圧電素子を組み込んだ駆動部材を固定部材の所要部に固定配置し、この駆動部材の上に磁石を積層して固着し、この磁石に対向する側に磁性材料から形成された可動部材を配置し、磁石の磁気吸引力により可動部材を磁石に吸着した状態で可動部材を微小運動させる微動制御装置である。駆動部材に磁石を積み重ねて固着するから、可動部材と固定部材の間の隙間空間に磁石を配置していた従来構造の簡素化が実現でき、しかも可動部材に直接対向する磁石が可動部材を磁気吸引するから、可動部材を磁石面で安定確実に吸着でき、可動部材の微小運動を安定して制御できる。磁石と可動部材は面接触するから、可動部材の安定性が確保され、接触面全体で磁気吸引力を受けるから、応力が均一化されて局所的な過大応力が発生せず、キズが生じにくい。また、磁石の下側に位置する駆動部材には前記磁気吸引力が全く作用せず、加えて固定部材を非磁性材料で形成すれば、駆動部材には不要な力が全く作用せず、駆動部材の耐久性を格段に向上することができる。
【0016】
第2の発明は、可動部材の表面に平滑部を形成し、磁石が平滑部と吸着されるように構成された微動制御装置である。磁石が平滑部と接触しているから磁石表面との摩擦力が減少し、可動部材の並進や回転や自転などの微小運動を円滑に駆動制御できる。また、この平滑性により、低温や真空といった特殊な使用環境でも、可動部材を安定に動作させることができる。磁石面と平滑部の材料強度や硬度を調整することにより、磁石面や平滑部表面にキズが生じない。更に、平滑部は平滑物質を処理するだけでなく、表面の凹凸を無くした平滑化によって平滑部を形成することもでき、公知の平滑化技術を最大限利用する事もできる。
【0017】
第3の発明は、磁石の表面に平滑部を形成させ、この平滑部が可動部材の表面に磁気吸引力により吸着される微動制御装置である。磁石表面に平滑部を形成させるから、平滑部の形成面積が磁石表面の面積と同程度となり、平滑物質の処理量の低減や平滑化処理の処理面積の低減により微動制御装置の低価格化に寄与できる利点がある。
【0018】
第4の発明は、静止状態にある固定部材に対し可動部材を微小運動させる微動制御装置において、微小運動を生起させる圧電素子を組み込んだ駆動部材を可動部材の所要部に固定配置し、この駆動部材の上に磁石を積層して固着し、この磁石に対向する側に磁性材料から形成された固定部材を配置し、磁石の磁気吸引力により磁石を固定部材に吸着させた状態で可動部材を微小運動させる微動制御装置である。可動部材側に駆動部材と磁石を2段重ねで固着するから、可動部材と固定部材の間の隙間空間に磁石のような部材が存在せず簡素化が実現できる。また、固定部材と直接対向する磁石が固定部材に磁気吸引されるから、固定部材が可動部材と安定して確実に接合し、可動部材のぐらつきの無い安定した微小運動制御が実現できる。磁石と固定部材は面接触するから、可動部材の安定性が確保され、接触面全体で磁気吸引力を受けるから、応力が均一化されて局所的な過大応力が発生せず、接触面にキズが生じにくい。また、磁石と可動部材の間に位置する駆動部材には磁気吸引力が作用せず、加えて可動部材を非磁性材料で形成すれば、駆動部材には不要な力が全く作用せず、駆動部材の耐久性を格段に向上できる。
【0019】
第5の発明は、固定部材の表面に平滑部を固定配置し、磁石が平滑部と接触するように構成された微動制御装置である。磁石が平滑部と接触しているから磁石表面との摩擦力が減少し、可動部材の並進や回転などの微小運動を円滑に駆動制御できる。また、この平滑性により、低温や真空といった特殊な使用環境でも、可動部材を安定して動作させることができる。磁石面と平滑部の材料強度や硬度を調整することにより、磁石面や平滑部表面にキズが生じない。更に、平滑部は平滑物質を処理するだけでなく、表面の凹凸を無くした平滑化によって平滑部を形成することもできる。
【0020】
第6の発明は、磁石の表面に平滑部を固着させ、この平滑部が固定部材の表面に磁気吸引力により圧接される微動制御装置である。磁石表面に平滑部を固着させるから、平滑部の形成面積が磁石表面の面積と同程度となり、平滑物質の処理量の低減や平滑化処理の処理面積の低減により微動制御装置の低価格化に寄与できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る微動制御装置の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る微動制御装置の第1実施形態の概略構成図である。(1A)では、微動制御装置2は固定部材4と可動部材6を対向配置して構成され、固定部材4と可動部材6が互に分離した状態で示されている。
【0022】
固定部材4は静止状態にあるため静止部材とも呼ばれ、この固定部材4の表面の所要部に圧電素子を有した駆動部材8、8が固定配置されている。この駆動部材8に磁石10が積層して固着されるから、磁石10と駆動部材8は固定部材4に組み込まれて一体化されている。
【0023】
可動部材6は固定部材4に対し並進・回転・それらの複合運動などの運動をする部材で、磁性材料で形成されている。この可動部材6の表面には摩擦係数の小さな平滑部12が形成され、前述した磁石10がこの平滑部12の表面に接触するように構成される。
【0024】
(1B)では、可動部材6が固定部材4に磁気吸着した状態が示されている。可動部材6は磁性材料から形成されるから、可動部材6には磁石10により磁気吸引力が作用し、この磁気吸引力により可動部材6は磁石10に磁気吸着される。このとき、平滑部12が磁石10と接触するように吸着構成される。
【0025】
磁石10が平滑部12に接触しているから、駆動部材8のせん断動作によって可動部材6が矢印a方向に水平運動しても、磁石10に作用する摩擦抵抗力は極めて小さくなり、可動部材6の水平運動は極めて円滑に行われる。
【0026】
また、駆動部材8が上下方向に伸縮する場合には、可動部材6も矢印b方向に垂直運動する。このように、駆動部材8のせん断動作や伸縮動作によって、可動部材6も水平運動や垂直運動を行う。また、複数の駆動部材8の組み合わせにより、可動部材は回転動作や自転動作、更に複合動作なども行うことができる。
【0027】
この第1実施形態の特徴は、磁石10が可動部材6に磁気吸着したとき、駆動部材8には磁気力は作用せず、超精密部品である圧電素子に無理な応力が作用しないことである。即ち、磁石10と可動部材6とは磁気吸引力により相互に押圧状態にあるが、この押圧力は駆動部材8には作用せず、微小駆動力の源泉である駆動部材8の耐久性が極めて高くなることである。この駆動部材8の高耐久性により、本発明の微動制御装置2は長期運転が可能で実質的に低価格化が実現できる利点を有する。特に、固定部材4を非磁性材料で形成すれば、駆動部材8には不要な力は一切作用しないから、駆動部材8の耐久性をより一層に向上させることになる。
【0028】
また、この第1実施形態では、平滑部12と磁石10との接触は面接触であるから、可動部材6が磁石10により安定して支持され、その安定支持の条件下で可動部材6は水平運動や垂直運動などの微小運動を円滑に実行制御される。図11〜図13に至る従来技術がボールにより可動部材6を一点支持しているのと比較すると、第1実施形態の面支持による安定性の方が格段に優れていることが分かる。
【0029】
また、磁石10を使用するため、可動部材6に対する磁気吸引力が一定となり、バネなどと比較して調整が不要であるという利点がある。更に、磁石の吸引力は広範囲の温度で一定であるから、本発明の微動制御装置は広範囲の温度下で使用できる。
【0030】
本発明では、可動部材6の運動制御の範囲が微小範囲である場合を考察している。例えば、AFMとも呼ばれる原子間力顕微鏡では、走査されるカンチレバーが可動部材6に相当し、試料台や装置本体が固定部材4に相当している。また、本発明を電子顕微鏡の試料操作装置に適用すれば、試料側が固定部材4で、操作部材側が可動部材6と考えられる。
【0031】
次に、駆動部材8、磁石10、平滑部12及び磁性材料(可動部材6)の素材について考察する。駆動部材8は主として圧電体から構成される部材である。圧電体は応力(圧力)を加えると電気分極が生じる物質で、逆に圧電体に電界を加えると圧電体は機械的に歪む。本発明では、圧電体を含む駆動部材8に電圧を印加することによって駆動部材に伸縮動作やせん断動作を行わせ、この動作によって可動部材6の微小運動(微小変位)を実現している。
【0032】
利用できる圧電体には、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3、PZTとも云う)、メタニオブ酸鉛(PbNb2O6)、ポリフッ化ビニリデン(PVF2又はPVDFとも云う)、酸化亜鉛(ZnO)など公知の全ての圧電体が利用できる。
【0033】
図2は、本発明に係る微動制御装置に用いられる駆動部材の例示図である。(2A)は、複数の圧電体を積層して形成された積層型圧電素子からなる駆動部材8を示している。例えば、4個の圧電体8aを金属電極8bを介して積層し、上下面に絶縁体8cを配置している。電極端子8d、8dに電圧が印加される。
【0034】
(2B)は、せん断動作状態にある圧電体からなる駆動部材8が示される。圧電体の動作には、伸縮動作とせん断動作があり、伸縮動作は垂直動作(上昇と下降)を与え、せん断動作は水平動作を与える。また、これらの組み合わせによって傾斜や回転、自転などの複雑な動作も構成できる。
【0035】
(2C)はバイモルフ型圧電素子からなる駆動部材が示されている。逆特性を発揮するように2種類の圧電体8a、8aを重ねると、バイメタルのような屈曲動作が実現できる。以上のように、圧電体を様々に組み合わせることによって、任意の運動を生起する駆動部材8を構成でき、可動部材6の自在な微小運動制御が実現できる。
【0036】
本発明で使用される磁石10には公知の全ての磁石材料が使用される。例えば、アルニコ鋳造磁石、フェライト焼結磁石、希土類焼結磁石、ボンド磁石などがある。希土類焼結磁石には、例えばSmCo5系焼結磁石、Sm2Co17系焼結磁石、Nd2Fe14B系焼結磁石がある。また、ボンド磁石には、フェライトゴム、フェライトボンド、Sm−Coボンド、Nd−Fe−Bボンドなどがある。
【0037】
磁石10を駆動部材8に固着するには、例えば接着剤を使用したり、機械的に圧着したり、圧電体や磁石の性能に影響を与えない程度の加熱により低温半田付けや低温ろう付けなどの公知の固着方法が利用できる。この中でも、接着剤による接着は駆動部材8や磁石10に負担を掛けないので優れている。
【0038】
平滑部12は磁石と摺動するときに、低摩擦性を発現する部材で、低摩擦係数を有する材料から形成される。例えば、平滑材料には、石英、サファイヤ、酸化チタン、酸化マグネシウム、その他の低摩擦係数を有した金属酸化物などが利用できる。
【0039】
また、同一材料であっても、表面の凹凸が小さな部材は平滑性が高くなる。ミクロンオーダーの凹凸よりもナノオーダーの凹凸の方が平滑性は高い。従って、平滑部の平滑性は、表面処理方法にも強く依存しており、機械加工よりは電界研磨やプラズマエッチングなどを施せば表面平滑性を増加できる。このような平滑処理された平滑面も本発明の平滑部12に含まれる。また、メッキ・蒸着・イオンプレーティング・スパッタリング等の手段で平滑物質を表面にコーティング処理すれば、微細で稠密なコーティング膜が形成できるため、表面平滑性は更に増大する。
【0040】
更に、Si(111)面にAg単原子膜を形成すると、Ag単原子膜が超潤滑性を示す。また、Si(111)面に水素を結合させると、Si面の潤滑性(平滑性)が向上することも分かっている。スパッタリング法で形成された非晶質炭素皮膜やSi3N4/BNの2成分系スパッタリング皮膜も高潤滑特性を示す。本発明の平滑部12は、このような種々の平滑材料を可動部材6の表面にコーティング処理したり、嵌め込み処理することによって形成される。
【0041】
また、本発明では、可動部材6を磁石10に磁気吸着させる必要があり、可動部材6は磁性材料から形成される。磁性材料は保持力で分類すると、わずかな磁化力で磁化する軟質磁性材料、高保持力で永久磁石となる硬質磁性材料、及び両者の中間の半硬質磁性材料から構成される。
【0042】
例えば、強磁性材料としては、Fe、Co、Niから構成される強磁性金属や合金、またGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm等の希土類元素を含有した強磁性金属がある。また、近年では、強磁性有機物も開発され、例えば、1,4−ビス(2,2’、6,6’−テトラメチルー1オキシル)ブタインを加熱又は紫外線照射して作られた黒色粉末状ポリマー、トランス1,3,5−トリアミノベンゼンをヨウ素によって重合した黒色不溶性ポリマー、トリアリールメタン構造を有する強磁性有機物質、その他ポリカルベンなどがある。本発明では、これらの公知の磁性材料を目的に合わせて利用して可動部材6を形成する。
【0043】
図3は第1実施形態の変形例の概略構成図である。この例では、平滑部12は可動部材6から分離され、平滑部12は磁石10の上面に固着されて固定部材4に一体化されている。
【0044】
この場合には、平滑部12は磁石10の上面に固着されればよいから、平滑部12の処理量はその面積に相当する量だけで済む利点がある。第1実施形態では、平滑部12を可動部材6に固着していたから、磁石10が水平運動する領域をカバーするように平滑部12は大面積に処理されていた。従って、この変形例では、平滑部の処理量が少量で済む利点がある。
【0045】
図4は第1実施形態の応用例の簡略斜視図である。固定部材4は谷線4bを有してV字状にカットされ、そのV字カット部に断面略V字状の可動部材6が嵌め込まれている。固定部材4の斜面4aには駆動部材8と磁石10が積層して固定されている。可動部材6の斜面6aには平滑部12が固定配置されており、前記磁石10が平滑部12を押接するように、可動部材6が固定部材4が組み合わされている。
【0046】
駆動部材8がせん断動作をすると、可動部材6は矢印a方向に水平運動する。また、駆動部材8が伸縮動作をすると、可動部材6は矢印b方向に上下運動する。また、可動部材6の斜面6aを半円筒面に形成すると、可動部材6は軸心の周りに自転することもできる。
【0047】
図5は固定部材4に対する磁石10の配置形態を示した例示図である。(5A)では、固定部材4の上面が平面である場合に対応し、磁石10が3点に配置された状態を示している。このように平面では、可動部材6を3点で支持するだけで、可動部材6の微動制御が可能になる。
【0048】
(5B)では、固定部材4の上面が図5のようにV字カットされている場合に対応している。この場合には、磁石10を4点に配置し、可動部材6を4点で支持することによって、可動部材6の微動制御が実現できる。
【0049】
図6は、本発明に係る微動制御装置の第2実施形態の概略構成図である。この第2実施形態は、駆動部材8と磁石10が可動部材6に積層固定されている点で第1実施形態と異なっている。他の構成は第1実施形態と同様であるから、以下異なる点だけを述べ、同一部分には同一符号を付してその作用効果の説明を省略する。
【0050】
(6A)では、可動部材6は固定部材4から分離された状態で示されている。可動部材6の下面所要部には駆動部材8が固定配置され、その駆動部材8の上面に磁石10が積層して固着されている。即ち、可動部材6に駆動部材8と磁石10が一体に組み込まれていることが特徴となっている。他方、平滑部12は固定部材4に固定配置され、磁石10と平滑部12が対向した状態に配置されている。
【0051】
(6B)では、固定部材4が磁性材料から形成されているため、磁石10と固定部材4の間に磁気吸引力が作用し、磁石10が平滑部12の表面に吸着されている。この配置において、磁気吸引力は駆動部材8には全く作用しておらず、その結果、駆動部材8に無理な応力が作用しないので、駆動部材8の長寿命性が確保される。また、可動部材6を非磁性材料で形成すれば、駆動部材8には不要な力が全く作用しないから、駆動部材8の耐久性をより一層に向上させることができる。
【0052】
駆動部材8の水平せん断動作により、可動部材6は矢印a方向に微動制御され、また駆動部材8の伸縮動作により可動部材6は矢印b方向に微動制御される。更に、駆動部材8の配置形態と動作形態を適当に組み合わせることにより、可動部材6を任意方向に並進させたり、振動させたり、回転させたりすることもできる。
【0053】
平滑部12には、固定部材4と異なった材料を固着したりコーティング膜形成して形成される場合と、固定部材4の表面を電解研磨やプラズマエッチングなどの手段で微細研磨して平滑面に仕上げた場合がある。後者の平滑面も平滑部12と称され、この平滑部は固定部材4と材料が同一になる。
【0054】
図7は第2実施形態の変形例の概略構成図である。この変形例では、平滑部12は磁石10の表面に固着形成されており、駆動部材8と磁石10と平滑部12が可動部材6に一体形成されている点に特徴を有している。
【0055】
平滑部12は磁石10の下面の全面に形成されるだけであるから、平滑部12の処理面積は比較的小く、平滑部12の処理費用は固定部材4に形成する場合より遥かに安価になる利点がある。しかも駆動部材8と磁石10と平滑部12を積層して一体化し、それを可動部材6に固着すればよいから、組立工程が簡素化される利点もある。
【0056】
図8は第2実施形態の応用例の簡略斜視図である。この例の全体構造は図4に示された微動制御装置とほぼ同様の構造を有している。異なる点は、可動部材6の斜面6a上に駆動部材8と磁石10が積層して一体的に固定され、固定部材4の斜面4aに平滑部12が設けられていることである。
【0057】
可動部材6を固定部材4のV字カット部に嵌め込むと、磁石10と固定部材4とが磁気吸引して、磁石10の下面が平滑部12の平滑面に吸着される。安定動作を要求される駆動部材8には無理な力が作用しないため、微動制御装置2の全体耐久性は従来構造より格段に向上する。
【0058】
駆動部材8のせん断動作により、磁石10は平滑部12の表面を滑動しながら可動部材6は矢印a方向に微動制御される。また、駆動部材8の伸縮動作により、可動部材6は矢印b方向に微動制御される。このように、駆動部材8の配置構成や動作モードの適正な設計により、可動部材6の運動制御は自在に達成される。
【0059】
本発明は上記実施形態や変形例や応用例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【0060】
【発明の効果】
第1の発明によれば、固定部材の所要部に駆動部材と磁石をこの順に積層固定し、この磁石に対向する側に磁性材料からなる可動部材を配置して、磁石面に可動部材を吸着しながら運動制御する微動制御装置が提供される。駆動部材と磁石の積層により、可動部材と固定部材の間の隙間空間が開放されてその有効利用性の拡大と簡素化が実現できる。また、磁石面が可動部材を磁気吸着して面接触するから、可動部材の安定確実な支持とその微小運動制御の安定性を保証できる。特に、駆動力の源泉で超精密性が要求される駆動部材には大きな磁気吸引力が作用せず、この不作用性により駆動部材と全体装置の耐久性が向上する。特に、固定部材を非磁性材料で形成すれば、駆動部材には不要な力が全く作用せず、駆動部材の耐久性をより一層に向上できる。
【0061】
第2の発明により、可動部材の表面に平滑部を配置し、磁石が平滑部表面を低摩擦力で滑動できる微動制御装置が提供される。磁石が平滑部に磁力で圧接しながら滑動するから、可動部材の微小運動が確実且つ滑らかに実現できる。磁石面と平滑部の材料強度や硬度を調整することにより、磁石面や平滑部表面にキズが生じない。平滑部は平滑物質を処理するだけでなく、表面の凹凸を無くした平滑化によって平滑部を形成することもでき、公知の平滑化技術を最大限利用する事もできる。
【0062】
第3の発明によれば、平滑部を磁石面に固着させて平滑部も固定部材に一体化した微動制御装置が提供される。駆動部材と磁石と平滑部を一体部品として固定部材に固着すればよいから、全体装置の組立手順が簡略化できる。また、平滑物質の処理量の低減や平滑化処理の処理面積の低減により微動制御装置の低価格化に寄与できる利点がある。
【0063】
第4の発明によれば、可動部材の所要部に駆動部材と磁石をこの順に積層固定し、この磁石に対向する側に磁性材料からなる固定部材を配置して、磁石面を固定部材に吸着させた状態で可動部材を運動制御する微動制御装置が提供される。駆動部材と磁石の積層により、可動部材と固定部材の間の隙間空間が開放されてその有効利用性の拡大と簡素化が実現できる。また、可動部材側の磁石面が固定部材に磁気吸着されるから、面接触性により可動部材が安定に支持され微小運動制御の安定確実性が確保される。しかも、超精密性が要求される駆動部材には磁気力が作用せず、特に可動部材を非磁性材料で形成すれば駆動部材には不要な力は一切作用しないから、駆動部材の超耐久力が保証される。
【0064】
第5の発明によれば、平滑部を固定部材の表面に形成し、可動部材側の磁石が平滑部に圧接する構成の微動制御装置が提供される。平滑部により磁石との摩擦力が減少して磁石の水平滑動性が発現され、可動部材の並進や回転などの微小運動を円滑に駆動制御できる。
【0065】
第6の発明によれば、磁石の表面に平滑部を形成させて、駆動部材と磁石と平滑部を可動部材に一体化した微動制御装置が提供される。駆動部材と磁石と平滑部を一体部品として可動部材に固着すればよいから、全体装置の組立手順が簡略化できる。また、磁石表面に平滑部を形成させるから、平滑物質の処理量や平滑化処理の手間が少なくて済み、微動制御装置の低価格化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る微動制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図2】本発明に係る微動制御装置に用いられる駆動部材の例示図である。
【図3】第1実施形態の変形例の概略構成図である。
【図4】第1実施形態の応用例の簡略斜視図である。
【図5】固定部材4に対する磁石10の配置形態を示した例示図である。
【図6】本発明に係る微動制御装置の第2実施形態の概略構成図である。
【図7】第2実施形態の変形例の概略構成図である。
【図8】第2実施形態の応用例の簡略斜視図である。
【図9】重力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第1従来例の概略構成図である。
【図10】電源電圧の一例であるノコギリ波電圧の波形図である。
【図11】バネ力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第2従来例の概略構成図である。
【図12】磁力により可動部材6を駆動部材8に押圧する構成を有した微動制御装置の第3従来例の概略構成図である。
【図13】第3従来例の構造を一部変更した微動制御装置の第4従来例の概略構成図である。
【符号の説明】
2は微動制御装置、4は固定部材、4aは斜面、4bは谷線、4cは固定部材表面、6は可動部材、6aは斜面、8は駆動部材、8aは圧電体、8bは金属電極、8cは絶縁体、8dは電極端子、10は磁石、12は平滑部、14はボール、20は半ボール、22は重力部材、24は電源、24aは緩傾斜領域、24bは急傾斜領域、26はバネ、Fは押圧力。
Claims (6)
- 静止状態にある固定部材に対し可動部材を微小運動させる微動制御装置において、微小運動を生起させる圧電素子を組み込んだ駆動部材を固定部材の所要部に固定配置し、この駆動部材の上に磁石を積層して固着し、この磁石に対向する側に磁性材料から形成された可動部材を配置し、磁石の磁気吸引力により可動部材を磁石に吸着した状態で可動部材を微小運動させることを特徴とする微動制御装置。
- 前記可動部材の表面に平滑部を形成し、前記磁石が平滑部に吸着されるように構成された請求項1に記載の微動制御装置。
- 前記磁石の表面に平滑部を形成し、この平滑部が前記可動部材の表面に磁気吸引力により吸着される請求項1に記載の微動制御装置。
- 静止状態にある固定部材に対し可動部材を微小運動させる微動制御装置において、微小運動を生起させる圧電素子を組み込んだ駆動部材を可動部材の所要部に固定配置し、この駆動部材の上に磁石を積層して固着し、この磁石に対向する側に磁性材料から形成された固定部材を配置し、磁石の磁気吸引力により磁石を固定部材に吸着させた状態で可動部材を微小運動させることを特徴とする微動制御装置。
- 前記固定部材の表面に平滑部を形成し、前記磁石が平滑部に吸着されるように構成された請求項4に記載の微動制御装置。
- 前記磁石の表面に平滑部を固着させ、この平滑部が前記固定部材の表面に磁気吸引力により吸着される請求項4に記載の微動制御装置。
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