JP2004147502A - ヒト及びラットabca2遺伝子 - Google Patents
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Abstract
【課題】代謝物質輸送の異常により生ずる疾患等の診断に役立つヒト又はラットABCA2遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドがコードするABCA2タンパク質、並びにかかる疾患の診断方法の提供。
【解決手段】ヒト若しくはラット由来の特定のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド、又はその1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により異なる塩基配列を有するポリヌクレオチド、及びABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、前記ポリヌクレオチドの塩基配列と、被験体から得た生物サンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列と、を比較することを含む方法。
【選択図】 なし
【解決手段】ヒト若しくはラット由来の特定のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド、又はその1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により異なる塩基配列を有するポリヌクレオチド、及びABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、前記ポリヌクレオチドの塩基配列と、被験体から得た生物サンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列と、を比較することを含む方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、代謝物質輸送の異常により生ずる疾患等の診断に役立つヒト又はラットABCA2遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドがコードするABCA2タンパク質、並びにかかる疾患を診断するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞内外の物質輸送に関与する遺伝子として、イオン、糖、アミノ酸、ポリペプチド等の輸送体であるABCトランスポータースーパーファミリー(ATP結合カセットスーパーファミリー)がある(Higgin, C.F. (1992) Annu. Rev. Cell. Biol. 8., 67−113 )。このABCトランスポータースーパーファミリーは、2つの膜貫通ドメイン(MSD)と2つの細胞質ヌクレオチド結合ドメインとからなる一群のタンパク質であり、細胞質内に存在する高度に保存されたATP結合カセットを特徴とする(Dean, M. and Allikmets, R. (1995) Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 779−785)。また、このファミリーに属するタンパク質は、原核生物及び真核生物を含む極めて広範囲の生物において、500を超えるメンバーが同定されており、ヒトにおいては、MDR1、MRP、cMOAT、CFTR、SUR、及びABCARなどが知られている(Higgin, C.F.,前掲;Allikmets,R., Gerrard, B., Hutchinson, A., and Dean, M. (1996) Hum. Mol. Genet. 5, 1649−1655 )。
【0003】
このファミリーに属するタンパク質は、化学療法剤の輸送体としての多剤耐性タンパク質MDR1活性を有するものやフリッパーゼとしてのMDR2活性を有するものがあり、生物において重要な機能を担っている(Gottesmann, M. M. and Pastan, I. (1993) Annu. Rev. Biochem. 62, 385−427; Smit, J.J.M. et al., (1993) Cell 75, 451−462 )。特に、哺乳動物におけるABCトランスポータースーパーファミリーのタンパク質は、嚢胞性繊維症(Sheppard, D. N. and Welsh, M. J. (1999) Physiol. Rev. 79, 23−45 )、副腎脳白質ジストロフィー(Mosser, J. et al. (1993) Nature 361, 726−730)、新生児期の持続性高インスリン血症性低血糖症(Thomas, P. M. et al. (1995) Science 268, 426−429)、先天性黄疸(Paulusma, C. C. et al. (1996) Science 271, 1126−1128)、及び肝臓内胆汁うっ滞(Strautnieks, S. S., et al. (1998) Nature Genet. 20, 233−238 )のような重大な疾患に関連しているので、臨床的に極めて重要なタンパク質群である。
【0004】
このABCトランスポータースーパーファミリーにはいくつかのサブファミリーがあることが知られており、特に他のサブファミリーと異なる構造的特徴を有するものとしてABCA1サブファミリーがある(Luciani, M. F., et al. (1994) Genomics 21, 150−159)。このサブファミリーに属するメンバーとして、現在、4種のタンパク質:ABCA1(又はABC1)(Luciani, M. F., et al., 前掲)、ABCA2(又はABC2)(Luciani, M. F., et al., 前掲)、ABCA3(ABC−C)(又はABC3)(Klugbauer, N. and Hofmann, F. (1996) FEBS Lett. 391, 61−65)及びABCAR(又はABCR)(Allikmets, R., et al. (1997) Nature Genet. 15, 236−246; Illing, M, et al. (1997) J. Biol. Chem. 272, 10303−10310; Azarian, S.M. and Travis, G. H. (1997) FEBS Lett. 409, 247−252)が知られている。この中で、ABCA1及びABCARはタンジール病(Brooks−Wilson, A., et al., (1999) Nature Genet. 22, 336−345; Bodzioch, M., et al. (1999) Nature Genet. 22, 347−351; Rust, S., etal. (1999) Nature Genet. 22, 352−355 )及びシュタガルト黄斑部ジストロフィー(Klugbauer, N. and Hofmann, F. (1996), 前掲)の原因遺伝子であることが判明しており、各々細胞内コレステロール及びプロトン化N−レチニリデン−ホスファチジルエタノールアミンのためのフリッパーゼであると考えられている(Higgins, C.F. (1994) Cell 79, 393−395; Weng, J. et al. (1999) Cell 98,13−23)。このことから、ABCA1サブファミリーに属するタンパク質はフリッパーゼとして機能すると考えられている。
【0005】
一方で、プログラム化された細胞死において、その死んだ細胞の取り込みに関連している線虫C.エレガンス(C.elegans)の遺伝子ced−7はABCA1サブファミリーのタンパク質と類似したタンパク質をコードしており、このABCA1サブファミリーのタンパク質も哺乳動物のアポトーシス細胞の取り込みに関連していることが示唆されている(Wu, Y. C. and Horvitz, H. R. (1998) Cell 93, 951−960)。
【0006】
以上の通り、ABCトランスポータースーパーファミリー、特にABCA1サブファミリーに属するタンパク質は、生物にとって極めて重要な物質群であり、その遺伝子の異常は代謝物質の輸送等に異常をきたし、重大な疾患を引き起こす。この中で、ABCA2の異常は、例えば脂質輸送障害などの重大な疾患に結びつくと考えられている。
【0007】
しかしながら、ABCA2は上述のように重大な疾患に関連し、これらの診断、治療等を行う上で極めて重要な物質であるにかかわらず、それが脳内に豊富に存在することが知られている(Luciani, M. F., et al., 前掲)だけであり、未だその塩基配列さえ決定されておらず、その遺伝子産物の完全な構造や機能については解明されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、ABCA2遺伝子の異常により生ずる疾患の診断又は治療に役立つ方法等を開発し、これを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、このような問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ヒトABCA2遺伝子及びラットABCA2遺伝子の配列決定に成功し、これに基づいてかかる遺伝子の異常に関連する疾患の診断等に役立つ方法等を見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号:1に記載の塩基番号250〜7557の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドに関する。
【0011】
また、本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号:4に記載の塩基番号68〜7369の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドにも関する。
【0012】
さらに、本発明は、これらのポリヌクレオチドを含有するベクター、これらのポリヌクレオチド又はベクターを保持する形質転換体、及びこれらポリヌクレオチドがコードするヒトもしくはラットABCA2タンパク質又はこれらの誘導体にも関する。
また、本発明は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、上述のポリヌクレオチドの塩基配列若しくは上述のヒトもしくはラットABCA2タンパク質のアミノ酸配列と被験体から得たサンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列又はABCA2タンパク質のアミノ酸配列とを比較し、そしてこれらの塩基配列又はアミノ酸配列間で異なる塩基又はアミノ酸を同定することによりABCA2遺伝子が関与する疾患を診断することを含む方法にも関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
一態様において、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:1の塩基番号250〜7557の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるヒトABCA2タンパク質に関する。
【0014】
別の態様において、本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:4の塩基番号68〜7369の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるラットABCA2タンパク質に関する。
これら本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、被検体から得られたサンプル中の対応するポリヌクレオチド又はタンパク質と比較してABCA2が関与する疾患、例えば脂質代謝疾患を診断したり、かかる病気の治療法又は治療剤を開発したりするために用いることができる。
【0015】
本発明おいて、ポリヌクレオチドとは、ヌクレオチドが鎖状に重合したもの、特にリボ核酸(RNA )とデオキシリボ核酸(DNA )とがある。ポリヌクレオチドは、当業者において慣用的に用いられている方法により、ヒトのサンプル等、自然界に存在するものから単離しても、化学的又は生物学的に合成してもよい。例えば、ポリヌクレオチドは、適切な保護基やリン酸活性化試薬等を用いて、ジエステル法、リン酸トリエステル法、亜リン酸法又は固相法などにより合成することができる。特に、DNA自動合成装置を用いて簡単に合成することができる。さらに、本発明によるポリヌクレオチドは、慣用的な方法、例えばPCR等により簡単に増幅することができる。
【0016】
また、本発明によるタンパク質も、当業者において慣用的に用いられている方法により、自然界に存在するものから単離しても、化学的又は生物学的に合成してもよい。例えば、本発明によるヒト又はラットABCA2タンパク質は、後述するような組換えDNA技術等を用いることにより、本発明によるポリヌクレオチドを適切なプロモーター等と共に発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを大腸菌等の宿主にトランスフェクトし、その宿主を培養等した後に発現させることにより生産することができる。
【0017】
これらのポリヌクレオチド又はタンパク質は、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、種々のクロマトグラフィー法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー若しくはゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC、電気泳動法等を用いて慣用の方法により生産することができる。
【0018】
本発明によるポリヌクレオチドは、配列番号:2又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列、特に配列番号:1又は配列番号:4の各々塩基番号250〜7557又は68〜7369の塩基配列を有する。これらの塩基配列は、病気の診断及びその産物の機能の観点から、1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失を行ったものであってもよい。例えば、配列番号:2又は5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全長の塩基配列に対して、5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下の塩基が置換、付加又は欠失されてもよい。例えば、100塩基以下、好ましくは50塩基以下、更に好ましくは30塩基以下、最も好ましくは10塩基以下の塩基が置換、付加又は欠失されてもよい。また、本発明によるポリヌクレオチドは、配列番号:2又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列、特に配列番号:1又は配列番号:4の各々塩基番号250〜7557又は68〜7369の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。ハイブリダイズさせる条件は、低ストリンジェント条件、中ストリンジェント条件、又は高ストリンジェント条件のいずれかから選択することができる。
【0019】
本発明によるタンパク質は、配列番号:2又は配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有する。これらのアミノ酸配列は、その本質的機能を保持していれば、1若しくは複数のアミノ酸の置換、付加若しくは欠失を行った誘導体であってもよい。例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して、5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下のアミノ酸が置換、付加又は欠失されてもよい。具体的には、50アミノ酸以下、好ましくは30アミノ酸以下、更に好ましくは20アミノ酸以下、最も好ましくは10アミノ酸以下が置換、付加又は欠失されてもよい。
【0020】
また、本発明は、上述のポリヌクレオチドを含有するベクターまたは上述のポリヌクレオチドもしくは前記ベクターを保持する形質転換体にも関する。これらは、本発明によるABCA2タンパク質を組換え生産するのに有用である。
すなわち、本発明によるABCA2タンパク質をコードするDNA、例えば配列番号:1又は4に記載のDNAを適切なベクターに挿入し、該ベクターを適切な細胞に導入して得た形質転換体を培養し、それから発現させた本発明によるタンパク質を単離・精製することにより本発明によるABCA2タンパク質を容易かつ大量に生産することができる。
【0021】
具体的には、目的とする形質転換体の宿主が大腸菌である場合、ベクターとして、例えばpET−3(Rosenberg, A.H. et al., Gene 56, 125−35(1987))、pGEX−1(Smith, D.B. and Johnson, K.S., Gene 67. 31−41(1988) )などのプラスミドベクターを用いることができる。大腸菌の形質転換は、慣用的な方法、例えばHanahan法(Hanahan, D., J.Mol.Biol., 166 , 557−580(1983) )や電気穿孔法(Dower, W.J. et al., Nucl.Acids Res. 16, 6127−6145(1988) )などを用いて行うことができる。精製を容易にするために、本発明による組換えタンパク質にタグのような標識を結合させることができ、例えばタンパク質のN末端にヒスチジン残基のタグやグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)を結合させることができる。次にこれらは、融合タンパク質として合成して金属キレート樹脂やGST親和性レジンに結合させることにより精製することができる(Smith, M.C. et. al., J.Biol.Chem, 263 , 7211−7215(1988) )。これら融合タンパク質は、適切な酵素等、例えばトロンビンや血液凝固因子Xaなどで切断して目的のタンパク質を得ることができる。
【0022】
宿主が分裂酵母シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe )である場合には、プラスミドベクターとしてpESP−1(Lu, Q. et al., Gene 200 , 135−144(1997) )等を用いることができ、スフェロプラスト法(Beach, D. and Nurse, P., Nature 290 , 140 (1981))や酢酸リチウム法(Okazaki,K. et al., Nucleic Acids Res.18, 6485−6489 )などで形質転換を行うことができる。pESP−1を用いる場合、グルタチオンSトランスフェラーゼとの融合タンパク質として合成されるため、GST親和性レジンに結合させることにより組換えタンパク質を精製することができる。これらの切断は、トロンビンや血液凝固因子Xa等で行うことができる。
【0023】
宿主が哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣由来細胞CHOやヒトHeLa細胞である場合、pMSG(Clontech)などのベクターを用いて、リン酸カルシウム法(Graham, F.L. and van derEb, A.J., Virology 52,456−467 (1973))、DEAE−デキストラン法(Sussman, D.J. and Milman, G., Mol. Cell. Biol.4 , 1641−1643 (1984))、リポフェクション法(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413−7417 (1987))、電気穿孔法(Neumann, E. et al., EMBO J.,1 , 841−845 (1982))等で組換えDNAを導入することができる。
【0024】
宿主が昆虫細胞である場合には、便利には、バキュウロウイルスベクターpBacPAK8/9(Clontech)により、例えばBio/Techbology,6,47−55(1980)記載の方法を用いて形質転換を行うことができる。
また、本発明によるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、例えばcDNAは、さらに、当該遺伝子又はポリヌクレオチドのクローニング又はPCRによる増幅に利用することができる。さらに、制限断片長多型(RFLP)や1本鎖DNA高次構造多型(SSCP)などの方法により、当該遺伝子又はcDNAの異常の検出に利用できる。
【0025】
さらに、本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、以下に本発明の一態様として記載するように、その変異に起因する疾患を診断するために用いることができ、また遺伝子治療に用いることもできる。これは、レトロウイルスベクター(Danos, O. and Mulligan, R.C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA85, 6460−6464 (1988); Dranoff, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 3539−3543 (1993))やアデノウイルスベクター(Wickham, T.J. et al., Cell 73,309−319 (1993))などのベクターを用いて、骨髄移植、皮下注射、静脈注射等で患者に投与することにより遺伝子治療を行うことができる(Asano, S.,蛋白質核酸酵素, 40, 2491−2495 (1995))。また、本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、ABCA2タンパク質が関与する疾患の新規治療法又は治療剤を開発するために用いることができる。
【0026】
他の態様において、本発明は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、上述のポリヌクレオチドの塩基配列又はヒト若しくはラットABCA2タンパク質のアミノ酸配列と被験体から得た生物サンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列又はタンパク質のアミノ酸配列とを比較し、これらの間で相違する塩基又はアミノ酸を同定することによりABCA2遺伝子が関与する疾患を診断することを含む方法に関する。
【0027】
ここで、被検体とは、かかる疾患の診断が必要とされる対象をいい、特にヒト又はラットである。また、サンプルは、血液、尿、唾液等被検体からABCA2遺伝子又はその産物を採取できるものであれば特に限定されない。ABCA2遺伝子が関与する疾患とは、ABCA2遺伝子の異常、例えば、1又は複数の塩基欠失、付加又は置換により生ずる疾患をいう。
【0028】
比較する方法は、両者の塩基配列又はアミノ酸配列の差を検出できる方法であれば、いずれの方法も用いることができ、当業者により慣用の方法で行うことができる。例えば、被験体から得た生物サンプルからABCA2遺伝子を単離し、PCR等により増幅して、その塩基配列をシーケンサー等を用いて直接決定し、それを本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列と比較してもよいし、その増幅したABCA2遺伝子のDNA/RNAと本発明によるポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせることにより行ってもよい。
【0029】
【実施例】
<実施例1> ラットABCA2の配列決定
(1)実験手順
1.ABCA2 cDNAのクローニング
(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される位置に対してヌクレオチド+2957〜+5219に対応する)マウスABCA2 cDNAのフラグメント(Chimini,G.ら(1994)Genomics 21,150−159)を、先に報告(Seino,Sら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2679−2683)されているようにマウスの脳から抽出した全RNAを用いて、逆転写酵素によるポリメラーゼ鎖反応により増幅した。ラットcDNAライブラリー(Stratagene)の7.2×105 のプラークを、標準的ハイブリダイゼーション条件下でプローブとして32P−ニックトランスレーションした部分的マウスcDNAフラグメントを用いてスクリーニングした。ここで、ハイブリダイゼーションは、5×SSC、50%ホルムアミド、2×Denhardt’s溶液、20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、0.1%SDS、100μg/mLの音波処理し変性させたサケ精巣DNA、10%硫酸デキストラン、及び1×106 cpm/mLの32P−標識化プローブ中で、42℃で16時間、行った(Seino,Sら,前掲)。そのナイロン膜を0.1×SSC及び0.1%SDSで、50℃で1時間、洗浄し、その後オートラジオグラフィーを行った。ラットABCA2 cDNAの上流部分を得るために、プローブとして単離したラットABCA2クローンのDNAフラグメントを用いて、先と同じライブラリーを再びスクリーニングした。DNAシークエンスは、適切なDNAフラグメントをpGEM3Z(Promega)にサブクローニングした後、Bigdye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin Elmer Applied Biosystems)を用いることによりABI377自動化DNAシーケンサー(Perkin Elmer Applied Biosystems)で行った。両方の鎖を配列決定した。ラットABCA2 cDNAの5’末端を得るために、製造元の説明に従って5’RACEシステム(version2.0;Life Technologies,Inc)を用いることにより、cDNA端の迅速増幅(RACE)を行った。簡単に説明すると、第1鎖DNAは、アンチセンスプライマー:5’−TCCAGACGTTGGTGCAGTGC−3’(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド383〜364)を用いてラット脳の全RNAから合成し、RNaseHでの処理によりもとになったmRNAテンプレートを除去し、そして末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ及びデオキシCTPを用いてそのcDNAの3’末端にホモポリマー尾部を加えた。その尾部cDNA末端を、第2のアンチセンスプライマー:5’−CAGGAAGCCAAACTCATCAC−3’(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド255〜236)を用いてPCRにより増幅し、その増幅したDNAをpGEM−Tベクター(Promega)にクローン化し、次に配列決定した。ヒトABCA1 cDNAの5’末端を得るために、製造元の説明書に従ってMarathon−Ready cDNAを用いてネスティドPCRを行った。そのネスティドPCRにおいて、アンチセンスプライマー:5’−GAACCCAAGGAAGTGTTCCTGC−3’(登録されたヒトABCA1 cDNAのヌクレオチド151〜130)及びアンチセンスプライマー:5’−GTAGCTCAGCCGAACAGAGATC−3’(登録されたヒトABCA1 cDNAの78〜57)を、各々第1及び第2のPCRに用いた。その約400bpのPCR産物をpCR2.1(Invitrogen)に挿入し、その配列を決定した。この配列決定した塩基配列を配列番号:4に、それから予想されるアミノ酸配列を配列番号:5に、そしてこれらの塩基配列とアミノ酸配列との対応関係を配列番号:6に示す。
【0030】
2.RNAブロット分析
ABCA2 mRNAの組織分布を決定するために、グアニジニウムイソチオシアネート/CsCl法(Seino,Sら,前掲)により種々のラット組織から全細胞RNAを調製した。RNA転移ブロットのために、その種々のラット組織からの20μgの全RNAをホルムアルデヒドで変性し、1%アガロースゲルでの電気泳動にかけ、そしてナイロン膜に移した(Seino,Sら,前掲)。32P標識化DNAフラグメント(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド1369〜1888)とのハイブリダイゼーションを上述の通り行った。その膜を上述の通り洗浄し、増感紙と共に、−80℃で4日間、X線フィルムに露出した。
【0031】
3.細胞培養及びトランスフェクション
COS−1又はCOS−7細胞の培養及びトランスフェクションを、先に開示されるように行った(Bryan,J.ら(1995)Science 270,1166−1170;Seino,Sら(1996)Neuron 16,1011−1017)。簡単に説明すると、トランスフェクション前に、細胞を皿当たり2×105 細胞の密度で35mm培養皿に24時間、培養し、次に10%ウシ胎児血清を補給したDulbecco’s改良Eagle’s培地(450mg/dL グルコース)内で培養した。2μgのラットABCA2発現ベクター(pCMVrABCA2)を、製造元の説明書に従ってLipofectamine及びOpti−MEM I(Life Technologies,Inc)で細胞にトランスフェクトした。イムノブロット及びATP結合分析のために、ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ(YPYDVPDYA)をコードするDNAがpCMVrABCA2内のABCA2のコーディング領域の3’末端に導入されているpCMVrABCA2−HAをPCRを用いて構築した。
【0032】
4.粗膜調製
粗膜を以前(Takata,Kら(1997)Diabetes 46,1440−1444)に開示されるように調製した。簡単に説明すると、イムノブロット分析のために、pCMVrABCA2−HA又はpCMVベクターのみでのトランスフェクションの後3日目に、COS−1細胞をリン酸緩衝塩類溶液(PBS)で3回、洗浄し、プロテアーゼインヒビターカクテル(10mL)(Sigma)を含む50mM Tris(pH7.5)及び1mM EDTAからなる緩衝液Aに懸濁し、ホモジェナイズし、そして次に4℃で1時間、10,000×gで遠心した。そのペレットを500μLの緩衝液Aに再度懸濁し、イムノブロット分析まで−80℃で保存した。ATP結合分析のために、以前に開示(Seino,S.(1997)J.Biol.Chem.272,22983−22986)されるように窒素キャビテーションを用いた他は同じ条件下でCOS−7細胞から粗膜を調製した。
5.イムノブロット分析
上述の通り、pCMVrABCA2−HA又はpCMV単独をトランスフェクトしたCOS−1細胞から粗膜を調製した。その粗膜タンパク質(20μg)をSDS還元サンプル緩衝液中で煮沸し、7%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、そして200mAで4℃で一晩、エレクトロブロッティングすることによりニトロセルロース膜(HybondTMECLTM,Amersham)に移した(Takata,Kら(1997)Diabetes 46,1440−1444)。N−グリコシダーゼF処理のために、20μgの粗膜タンパク質を4unitのN−グリコシダーゼF(Boehringer Manheim)と共に3時間37℃でインキュベートし、次に上述の通りSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びエレクトロブロッティングにかけた。その膜を室温で1時間、1×PBS(136.9mM NaCl,2.7mM KCl,10.1mM Na2 HPO4 及び1.8mM KH2 PO4 )及び0.1%Tween20からなる1×PBS−T(pH7.4)中5%脱脂乳においてブロックした。1×PBS−Tで洗った後、その膜を1:1000に希釈した抗HA高アフィニティーラット抗体(Boehringer Manheim)と共に、2時間、室温でインキュベートした。1×PBS−Tで洗った後、その膜を1:800に希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼが結合した抗ラットIgG(Biosys)と共に、1時間、インキュベートした。0.3%Tween20を含む1×PBS、そして次に1×PBS−Tで洗った後、製造元の説明書に従って、増強ケミルミネセンスシステム(ECL,Amersham)を用いてタンパク質を検出した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Pierce)を用いて測定した。
【0033】
6.8−アジド[ α−32P] ATPとのABCA2の相互作用
ABCA2−HA融合タンパク質を一時的に発現するCOS−7細胞からの膜タンパク質(50μg)を、3mM MgSO4 (又は1.5mM EDTA)又は2mM ATPの存在又は欠如下で0℃で10分間、全量6μLの、50μM 8−アジド−[ α−32P] ATP(ICN Biomedicals)、2mM ウアバイン、0.1mM EGTA、及び40mM Tris−Cl(pH7.5)とインキュベートした。タンパク質を氷上で(254nm、5.5mW/cm2 で)5分間、UV照射した。ABCA2−HA融合タンパク質を抗HA抗体で免疫沈降させた。サンプルを7%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、オートラジオグラフを撮った。
【0034】
7.イン・シトゥ・ハイブリダイゼーション
2月齢のSprague Dawleyラットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し(50mg/kg体重、i.p.)、断頭により殺した。その脳を迅速に除去し、液体窒素で凍結して、使用するまで−70℃で保存した。凍結した7μm厚の矢状断をcryostat(Microm HM500)で切断し、3−アミノプロピルトリエトキシシラン−コート化スライド上で解凍してマウントした。311bp ABCA2 cDNAフラグメント(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド4593〜4903)を含むプラスミドをSP6 RNAポリメラーゼで転写し、[35 S] CTP(1250Ci/mmol、NEN)で標識してアンチセンスcRNAプローブを作った。同じプラスミドをT7 RNAポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)で転写してセンスプローブを作った。そのハイブリダイゼーション組織化学分析を、以前に開示(Arimura,A.ら(1997)Neurosci.Res.28,345−354)される通り行った。簡単に説明すると、PBS中4%パラホルムアルデヒドで30分、固定した後、その断面をプロテイナーゼKで処理し(20μL/mLで10分)、トリエタノールアミン中0.25%無水酢酸でアセチル化した。50%ホルムアミド、300mMNaCl、10mM Tris−HCl、1mM EDTA,1×Denhardt’s溶液、10mM ジチオスレイトール、0.25%SDS、200μg 大腸菌tRNA(Sigma)、及び1×105 cpm/μL リボプローブを含む溶液中で一晩、55℃でハイブリダイゼーションを行った。そのハイブリダイズした断面を20μg/mLのRNaseAで処理し、55℃で2×SSC及び0.2×SSCで各々40分、洗浄した。(300mM 酢酸アンモニウムを含む)一連の段階的なエタノール浴を介して脱水し、空気乾燥した後、その断面を室温で1週間、ベータ−マックスハイパーフィルム(Amersham)に露出した。
【0035】
(2)結果
1.ラットABCA2cDNAのクローニング
マウスABCA2cDNAの部分的に知られている配列に基づいて、最初のNBDに相当する2260bpDNAフラグメントを、マウス脳mRNAからRT−PCRにより増幅し、放射能標識した。その放射能標識したDNAフラグメントをプローブとして用いてラット脳cDNAをスクリーニングし、100を超える陽性のクローンから14λクローンを単離した。2種類の重複したクローン:λrABCA2−1−1及びλrABCA2−1−23をサブクローン化して配列決定を行った。より上流の配列を得るために、(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に基づいてヌクレオチド1369−1888に相当する)ラットABCA2−1−1の5’端に位置した520bpフラグメントを放射能標識し、ラット脳cDNAライブラリーの更なるスクリーニングのためのプローブとして用い、26λクローンを単離して1つのクローンλrABCA2−3−16をサブクローニングして配列決定した。これらの8040bpの複合配列は、そのcDNA配列内で最初のATGで始まる一つのオープンリーディングフレームを含み、これは、2,434残基のアミノ酸配列のタンパク質(Mr=270,913.5)であると予想された。最初のATGから44bp上流のDNAにおいて、及び5’−RACEによりさらに伸長した付加的な23bpDNAにおいて終止コドンは見いだされなかった。しかしながら、これらの周囲のヌクレオチド配列はコザックボックス(Kozak, M. (1991) J. Cell. Biol. 115, 887−903)と一致したので、その最初のATGが翻訳開始部位であると考えることができる。このABCA2の予想されるアミノ酸配列は、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARと各々44.5%、40.0%、及び40.8%の同一性を示した(図1〜4)。ヒドロパシー分析は、14の疎水性セグメント、第1のMSD中に7つ、及び第2のMSD中に7つがABCA1、ABCA2、ABCA3、及びABCAR間で保存されていると予測する。これらのタンパク質のアミノ酸配列は、H1〜H2及びH8〜H9を除きNBDだけでなくMSDでも保存されている。更に、これらのタンパク質のN末端の約40アミノ酸配列もよく保存されている。これらのことは、ABCA2の最初のATGが翻訳開始部位であることを更に示唆する。ABCA2の膜トポロジーはまだ知られていないが、少なくとも細胞質側の2つのNBDにおいて、4つのcAMP依存性リン酸化部位(Ser−1118, Ser−1132, Ser−1454, Ser−2196)及び7つのプロテインキナーゼC依存性リン酸化部位(Ser−1115, Ser−1242, Ser−1340, Ser−1382, Ser−1428, Ser−2064, Ser−2146)が存在する可能性がある。最初のNBDにチロシンキナーゼ依存性リン酸化部位(Tyr−1389)が存在する可能性がある。
【0036】
2.ABCA2タンパク質のキャラクタリゼーション
ABCA2タンパク質をキャラクタライズするために、HAエピトープ(YPYDVPDYA)をABCA2タンパク質のC末端に導入し、抗HA抗体を用いてイムノブロット分析を行った。HAタグを有するABCA2発現ベクター(pcMVrABCA2−HA)をトランスフェクトしたCOS−1細胞の全膜画分は、260kD及び250kDの分子量の2つのバンドを示したが(図5、レーン3)、pCMVベクターのみをトランスフェクトしたものはバンドを示さなかった(図5、レーン1及び2)。次に、これらのタンパク質がグリコシル化されているか否かを決定するために、その膜タンパク質をN−グリコシダーゼFと共にインキュベートした。N−グリコシダーゼFでの37℃で3時間の処理の後、2つのタンパク質の移動度は増加し、250kDより少し小さな分子量の一つのバンドが観察された(図5、レーン4)。このことは、ABCA2が糖タンパク質であることを示す。
【0037】
発現されるABCA2が機能的であるか否かを決定するために、そのATP結合能を検査した。ABCA2−HA融合タンパク質を一時的に発現するCOS−7細胞からの膜タンパク質を50μMの8−アジド−[ α−32P] ATPとともに、0℃で10分、過剰なATP(2mM)の存在下又は欠如下でインキュベートした。次にそのタンパク質にUV光を照射し、そしてABCA2−HA融合タンパク質を抗HA抗体で沈殿させた。図6(レーン3)に見られるように、ABCA2−HA融合タンパク質は、Mg2+の存在下で260及び250kDタンパク質としてホトアフィニティーラベリングされた。Mg2+の欠如下(図6、レーン4)及び過剰なATPの存在下(図6、レーン5及び6)においてそのホトアフィニティーラベリングは強く阻害された。トランスフェクトしなかったCOS−7細胞からの膜タンパク質においては、ホトアフィニティーラベリングされたタンパク質は観察されなかった(図6、レーン1及び2)。これらの結果は、8−アジド−[ α−32P] ATPが、Mg2+の存在下において、COS−7膜において発現したABCA2に結合することを示唆する。
【0038】
3.ABCA2 mRNAの組織分布
RNAブロッティング実験は、脳内で高レベルで、心臓、腎臓及び肺で中程度のレベルで、並びに骨格筋、胃、脾臓、結腸及び膵臓で低レベルで発現されたABCA2の単一の10.5kb転写物を示した(図7)。肝臓及び小腸においてはバンドは検出されなかった。これらの結果は、マウスにおいてはABCA2転写物が肝臓で検出されたが脾臓で検出されなかったことを除いてマウスの組織でのABCA2 mRNAの分布パターンについて先に報告されているものと一致した。
【0039】
4.脳でのABCA2 mRNAの発現
ABCA2 mRNAは脳内で最も豊富であるので、イン・シトゥ・ハイブリダイゼーションによりラットの脳におけるその発現レベルを検査した(図8)。ABCA2 mRNAについてのシグナルは、嗅球糸球体層、嗅球内部糸球体層、前交連、脳梁、海馬の歯状回、視神経交叉、視索、内側縦束橋、並びに小脳の顆粒細胞層及び髄質に強く局在化していた。ABCA2 mRNA発現は白質全体で強く見いだされたが、大脳皮質、視床及び脳幹核のような灰白質においては顕著な発現はみられなかった。
<実施例2> ヒトABCA2の配列決定
1.本質的に実施例1記載のラットABCA2の配列決定と同様にしてヒトABCA2の配列を決定した。具体的にはヒトABCA2 cDNAのクローニングは以下の通りである。
【0040】
(実施例1記載のラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対して各々ヌクレオチド+159〜+1888及び+5221〜+7960に相当する)実施例1記載のラットABCA2 cDNAのHindIII/HindIII及びSphI/EcoRIフラグメントをプローブとして用いた。ヒトcDNAライブラリー(Stratagene)の7.2×105 のプラークを標準ハイブリダイゼーション条件下で32P−ニックトランスレーションを行ったプローブを用いてスクリーニングした。そのハイブリダイゼーションは、5×SSC、50%ホルムアミド、2×Denhardt’s溶液、20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、0.1%SDS、100μg/mLの音波処理し変性させたサケ精巣DNA、10%硫酸デキストラン、及び1×106 cpm/mLの32P−標識化プローブ中で、42℃で16時間、行った(Seino,Sら,前掲)。そのナイロン膜を0.1×SSC及び0.1%SDSで、50℃で1時間、洗浄し、その後オートラジオグラフィーを行った。DNA配列決定は、適切なDNAフラグメントをpGEM3Z(Promega)にサブクローニングした後、Bigdye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin Elmer Applied Biosystems)を用いることによりABI377自動化DNAシーケンサー(Perkin Elmer Applied Biosystems)で行った。両方の鎖を配列決定した。この配列決定した塩基配列を配列番号:1に、それから予想されるアミノ酸配列を配列番号:2に、そしてこれらの塩基配列とアミノ酸配列との対応関係を配列番号:3に示す。
【0041】
なお、全長のヒトABCA2(hABC2)タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌を、E.coli pCMV6chABC2として、平成12年6月20日に工業技術院生命工学工業技術研究所(FERM)に寄託し、受託番号:FERM P−17910を得た。
【0042】
【発明の効果】
本発明によるポリヌクレオチド、ABCA2タンパク質及び方法等は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するために有効である。また、本発明によるポリヌクレオチドは、ヒト又はラットABCA2タンパク質を発現させ、その機能を研究し、更にABCA2遺伝子が関与する疾患を治療するために用いることが期待できる。
【0043】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図である。
【図2】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図1の続きの図である。
【図3】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図2の続きの図である。
【図4】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図3の続きの図である。
【図5】COS−1細胞で発現されたラットABCA2タンパク質のイムノブロット分析の結果を示すSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の図である。
【図6】8−アジド−[ α−32P] ATPでのラットABCA2のホトアフィニティーラベリングの結果を示す電気泳動の図である。
【図7】様々のラット組織におけるABCA2 mRNAのRNAブロッティング実験の結果を示す電気泳動の図である。
【図8】イン・シトゥ・ハイブリダイゼーションによるラットの脳におけるABCA2mRNAの発現レベルの分布を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、代謝物質輸送の異常により生ずる疾患等の診断に役立つヒト又はラットABCA2遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドがコードするABCA2タンパク質、並びにかかる疾患を診断するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞内外の物質輸送に関与する遺伝子として、イオン、糖、アミノ酸、ポリペプチド等の輸送体であるABCトランスポータースーパーファミリー(ATP結合カセットスーパーファミリー)がある(Higgin, C.F. (1992) Annu. Rev. Cell. Biol. 8., 67−113 )。このABCトランスポータースーパーファミリーは、2つの膜貫通ドメイン(MSD)と2つの細胞質ヌクレオチド結合ドメインとからなる一群のタンパク質であり、細胞質内に存在する高度に保存されたATP結合カセットを特徴とする(Dean, M. and Allikmets, R. (1995) Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 779−785)。また、このファミリーに属するタンパク質は、原核生物及び真核生物を含む極めて広範囲の生物において、500を超えるメンバーが同定されており、ヒトにおいては、MDR1、MRP、cMOAT、CFTR、SUR、及びABCARなどが知られている(Higgin, C.F.,前掲;Allikmets,R., Gerrard, B., Hutchinson, A., and Dean, M. (1996) Hum. Mol. Genet. 5, 1649−1655 )。
【0003】
このファミリーに属するタンパク質は、化学療法剤の輸送体としての多剤耐性タンパク質MDR1活性を有するものやフリッパーゼとしてのMDR2活性を有するものがあり、生物において重要な機能を担っている(Gottesmann, M. M. and Pastan, I. (1993) Annu. Rev. Biochem. 62, 385−427; Smit, J.J.M. et al., (1993) Cell 75, 451−462 )。特に、哺乳動物におけるABCトランスポータースーパーファミリーのタンパク質は、嚢胞性繊維症(Sheppard, D. N. and Welsh, M. J. (1999) Physiol. Rev. 79, 23−45 )、副腎脳白質ジストロフィー(Mosser, J. et al. (1993) Nature 361, 726−730)、新生児期の持続性高インスリン血症性低血糖症(Thomas, P. M. et al. (1995) Science 268, 426−429)、先天性黄疸(Paulusma, C. C. et al. (1996) Science 271, 1126−1128)、及び肝臓内胆汁うっ滞(Strautnieks, S. S., et al. (1998) Nature Genet. 20, 233−238 )のような重大な疾患に関連しているので、臨床的に極めて重要なタンパク質群である。
【0004】
このABCトランスポータースーパーファミリーにはいくつかのサブファミリーがあることが知られており、特に他のサブファミリーと異なる構造的特徴を有するものとしてABCA1サブファミリーがある(Luciani, M. F., et al. (1994) Genomics 21, 150−159)。このサブファミリーに属するメンバーとして、現在、4種のタンパク質:ABCA1(又はABC1)(Luciani, M. F., et al., 前掲)、ABCA2(又はABC2)(Luciani, M. F., et al., 前掲)、ABCA3(ABC−C)(又はABC3)(Klugbauer, N. and Hofmann, F. (1996) FEBS Lett. 391, 61−65)及びABCAR(又はABCR)(Allikmets, R., et al. (1997) Nature Genet. 15, 236−246; Illing, M, et al. (1997) J. Biol. Chem. 272, 10303−10310; Azarian, S.M. and Travis, G. H. (1997) FEBS Lett. 409, 247−252)が知られている。この中で、ABCA1及びABCARはタンジール病(Brooks−Wilson, A., et al., (1999) Nature Genet. 22, 336−345; Bodzioch, M., et al. (1999) Nature Genet. 22, 347−351; Rust, S., etal. (1999) Nature Genet. 22, 352−355 )及びシュタガルト黄斑部ジストロフィー(Klugbauer, N. and Hofmann, F. (1996), 前掲)の原因遺伝子であることが判明しており、各々細胞内コレステロール及びプロトン化N−レチニリデン−ホスファチジルエタノールアミンのためのフリッパーゼであると考えられている(Higgins, C.F. (1994) Cell 79, 393−395; Weng, J. et al. (1999) Cell 98,13−23)。このことから、ABCA1サブファミリーに属するタンパク質はフリッパーゼとして機能すると考えられている。
【0005】
一方で、プログラム化された細胞死において、その死んだ細胞の取り込みに関連している線虫C.エレガンス(C.elegans)の遺伝子ced−7はABCA1サブファミリーのタンパク質と類似したタンパク質をコードしており、このABCA1サブファミリーのタンパク質も哺乳動物のアポトーシス細胞の取り込みに関連していることが示唆されている(Wu, Y. C. and Horvitz, H. R. (1998) Cell 93, 951−960)。
【0006】
以上の通り、ABCトランスポータースーパーファミリー、特にABCA1サブファミリーに属するタンパク質は、生物にとって極めて重要な物質群であり、その遺伝子の異常は代謝物質の輸送等に異常をきたし、重大な疾患を引き起こす。この中で、ABCA2の異常は、例えば脂質輸送障害などの重大な疾患に結びつくと考えられている。
【0007】
しかしながら、ABCA2は上述のように重大な疾患に関連し、これらの診断、治療等を行う上で極めて重要な物質であるにかかわらず、それが脳内に豊富に存在することが知られている(Luciani, M. F., et al., 前掲)だけであり、未だその塩基配列さえ決定されておらず、その遺伝子産物の完全な構造や機能については解明されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、ABCA2遺伝子の異常により生ずる疾患の診断又は治療に役立つ方法等を開発し、これを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、このような問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ヒトABCA2遺伝子及びラットABCA2遺伝子の配列決定に成功し、これに基づいてかかる遺伝子の異常に関連する疾患の診断等に役立つ方法等を見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号:1に記載の塩基番号250〜7557の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドに関する。
【0011】
また、本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号:4に記載の塩基番号68〜7369の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドにも関する。
【0012】
さらに、本発明は、これらのポリヌクレオチドを含有するベクター、これらのポリヌクレオチド又はベクターを保持する形質転換体、及びこれらポリヌクレオチドがコードするヒトもしくはラットABCA2タンパク質又はこれらの誘導体にも関する。
また、本発明は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、上述のポリヌクレオチドの塩基配列若しくは上述のヒトもしくはラットABCA2タンパク質のアミノ酸配列と被験体から得たサンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列又はABCA2タンパク質のアミノ酸配列とを比較し、そしてこれらの塩基配列又はアミノ酸配列間で異なる塩基又はアミノ酸を同定することによりABCA2遺伝子が関与する疾患を診断することを含む方法にも関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
一態様において、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:1の塩基番号250〜7557の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるヒトABCA2タンパク質に関する。
【0014】
別の態様において、本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:4の塩基番号68〜7369の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるラットABCA2タンパク質に関する。
これら本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、被検体から得られたサンプル中の対応するポリヌクレオチド又はタンパク質と比較してABCA2が関与する疾患、例えば脂質代謝疾患を診断したり、かかる病気の治療法又は治療剤を開発したりするために用いることができる。
【0015】
本発明おいて、ポリヌクレオチドとは、ヌクレオチドが鎖状に重合したもの、特にリボ核酸(RNA )とデオキシリボ核酸(DNA )とがある。ポリヌクレオチドは、当業者において慣用的に用いられている方法により、ヒトのサンプル等、自然界に存在するものから単離しても、化学的又は生物学的に合成してもよい。例えば、ポリヌクレオチドは、適切な保護基やリン酸活性化試薬等を用いて、ジエステル法、リン酸トリエステル法、亜リン酸法又は固相法などにより合成することができる。特に、DNA自動合成装置を用いて簡単に合成することができる。さらに、本発明によるポリヌクレオチドは、慣用的な方法、例えばPCR等により簡単に増幅することができる。
【0016】
また、本発明によるタンパク質も、当業者において慣用的に用いられている方法により、自然界に存在するものから単離しても、化学的又は生物学的に合成してもよい。例えば、本発明によるヒト又はラットABCA2タンパク質は、後述するような組換えDNA技術等を用いることにより、本発明によるポリヌクレオチドを適切なプロモーター等と共に発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを大腸菌等の宿主にトランスフェクトし、その宿主を培養等した後に発現させることにより生産することができる。
【0017】
これらのポリヌクレオチド又はタンパク質は、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、種々のクロマトグラフィー法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー若しくはゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC、電気泳動法等を用いて慣用の方法により生産することができる。
【0018】
本発明によるポリヌクレオチドは、配列番号:2又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列、特に配列番号:1又は配列番号:4の各々塩基番号250〜7557又は68〜7369の塩基配列を有する。これらの塩基配列は、病気の診断及びその産物の機能の観点から、1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失を行ったものであってもよい。例えば、配列番号:2又は5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全長の塩基配列に対して、5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下の塩基が置換、付加又は欠失されてもよい。例えば、100塩基以下、好ましくは50塩基以下、更に好ましくは30塩基以下、最も好ましくは10塩基以下の塩基が置換、付加又は欠失されてもよい。また、本発明によるポリヌクレオチドは、配列番号:2又は配列番号:5に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列、特に配列番号:1又は配列番号:4の各々塩基番号250〜7557又は68〜7369の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。ハイブリダイズさせる条件は、低ストリンジェント条件、中ストリンジェント条件、又は高ストリンジェント条件のいずれかから選択することができる。
【0019】
本発明によるタンパク質は、配列番号:2又は配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有する。これらのアミノ酸配列は、その本質的機能を保持していれば、1若しくは複数のアミノ酸の置換、付加若しくは欠失を行った誘導体であってもよい。例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して、5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下のアミノ酸が置換、付加又は欠失されてもよい。具体的には、50アミノ酸以下、好ましくは30アミノ酸以下、更に好ましくは20アミノ酸以下、最も好ましくは10アミノ酸以下が置換、付加又は欠失されてもよい。
【0020】
また、本発明は、上述のポリヌクレオチドを含有するベクターまたは上述のポリヌクレオチドもしくは前記ベクターを保持する形質転換体にも関する。これらは、本発明によるABCA2タンパク質を組換え生産するのに有用である。
すなわち、本発明によるABCA2タンパク質をコードするDNA、例えば配列番号:1又は4に記載のDNAを適切なベクターに挿入し、該ベクターを適切な細胞に導入して得た形質転換体を培養し、それから発現させた本発明によるタンパク質を単離・精製することにより本発明によるABCA2タンパク質を容易かつ大量に生産することができる。
【0021】
具体的には、目的とする形質転換体の宿主が大腸菌である場合、ベクターとして、例えばpET−3(Rosenberg, A.H. et al., Gene 56, 125−35(1987))、pGEX−1(Smith, D.B. and Johnson, K.S., Gene 67. 31−41(1988) )などのプラスミドベクターを用いることができる。大腸菌の形質転換は、慣用的な方法、例えばHanahan法(Hanahan, D., J.Mol.Biol., 166 , 557−580(1983) )や電気穿孔法(Dower, W.J. et al., Nucl.Acids Res. 16, 6127−6145(1988) )などを用いて行うことができる。精製を容易にするために、本発明による組換えタンパク質にタグのような標識を結合させることができ、例えばタンパク質のN末端にヒスチジン残基のタグやグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)を結合させることができる。次にこれらは、融合タンパク質として合成して金属キレート樹脂やGST親和性レジンに結合させることにより精製することができる(Smith, M.C. et. al., J.Biol.Chem, 263 , 7211−7215(1988) )。これら融合タンパク質は、適切な酵素等、例えばトロンビンや血液凝固因子Xaなどで切断して目的のタンパク質を得ることができる。
【0022】
宿主が分裂酵母シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe )である場合には、プラスミドベクターとしてpESP−1(Lu, Q. et al., Gene 200 , 135−144(1997) )等を用いることができ、スフェロプラスト法(Beach, D. and Nurse, P., Nature 290 , 140 (1981))や酢酸リチウム法(Okazaki,K. et al., Nucleic Acids Res.18, 6485−6489 )などで形質転換を行うことができる。pESP−1を用いる場合、グルタチオンSトランスフェラーゼとの融合タンパク質として合成されるため、GST親和性レジンに結合させることにより組換えタンパク質を精製することができる。これらの切断は、トロンビンや血液凝固因子Xa等で行うことができる。
【0023】
宿主が哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣由来細胞CHOやヒトHeLa細胞である場合、pMSG(Clontech)などのベクターを用いて、リン酸カルシウム法(Graham, F.L. and van derEb, A.J., Virology 52,456−467 (1973))、DEAE−デキストラン法(Sussman, D.J. and Milman, G., Mol. Cell. Biol.4 , 1641−1643 (1984))、リポフェクション法(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413−7417 (1987))、電気穿孔法(Neumann, E. et al., EMBO J.,1 , 841−845 (1982))等で組換えDNAを導入することができる。
【0024】
宿主が昆虫細胞である場合には、便利には、バキュウロウイルスベクターpBacPAK8/9(Clontech)により、例えばBio/Techbology,6,47−55(1980)記載の方法を用いて形質転換を行うことができる。
また、本発明によるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、例えばcDNAは、さらに、当該遺伝子又はポリヌクレオチドのクローニング又はPCRによる増幅に利用することができる。さらに、制限断片長多型(RFLP)や1本鎖DNA高次構造多型(SSCP)などの方法により、当該遺伝子又はcDNAの異常の検出に利用できる。
【0025】
さらに、本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、以下に本発明の一態様として記載するように、その変異に起因する疾患を診断するために用いることができ、また遺伝子治療に用いることもできる。これは、レトロウイルスベクター(Danos, O. and Mulligan, R.C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA85, 6460−6464 (1988); Dranoff, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 3539−3543 (1993))やアデノウイルスベクター(Wickham, T.J. et al., Cell 73,309−319 (1993))などのベクターを用いて、骨髄移植、皮下注射、静脈注射等で患者に投与することにより遺伝子治療を行うことができる(Asano, S.,蛋白質核酸酵素, 40, 2491−2495 (1995))。また、本発明によるポリヌクレオチド又はABCA2タンパク質は、ABCA2タンパク質が関与する疾患の新規治療法又は治療剤を開発するために用いることができる。
【0026】
他の態様において、本発明は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、上述のポリヌクレオチドの塩基配列又はヒト若しくはラットABCA2タンパク質のアミノ酸配列と被験体から得た生物サンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列又はタンパク質のアミノ酸配列とを比較し、これらの間で相違する塩基又はアミノ酸を同定することによりABCA2遺伝子が関与する疾患を診断することを含む方法に関する。
【0027】
ここで、被検体とは、かかる疾患の診断が必要とされる対象をいい、特にヒト又はラットである。また、サンプルは、血液、尿、唾液等被検体からABCA2遺伝子又はその産物を採取できるものであれば特に限定されない。ABCA2遺伝子が関与する疾患とは、ABCA2遺伝子の異常、例えば、1又は複数の塩基欠失、付加又は置換により生ずる疾患をいう。
【0028】
比較する方法は、両者の塩基配列又はアミノ酸配列の差を検出できる方法であれば、いずれの方法も用いることができ、当業者により慣用の方法で行うことができる。例えば、被験体から得た生物サンプルからABCA2遺伝子を単離し、PCR等により増幅して、その塩基配列をシーケンサー等を用いて直接決定し、それを本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列と比較してもよいし、その増幅したABCA2遺伝子のDNA/RNAと本発明によるポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせることにより行ってもよい。
【0029】
【実施例】
<実施例1> ラットABCA2の配列決定
(1)実験手順
1.ABCA2 cDNAのクローニング
(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される位置に対してヌクレオチド+2957〜+5219に対応する)マウスABCA2 cDNAのフラグメント(Chimini,G.ら(1994)Genomics 21,150−159)を、先に報告(Seino,Sら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2679−2683)されているようにマウスの脳から抽出した全RNAを用いて、逆転写酵素によるポリメラーゼ鎖反応により増幅した。ラットcDNAライブラリー(Stratagene)の7.2×105 のプラークを、標準的ハイブリダイゼーション条件下でプローブとして32P−ニックトランスレーションした部分的マウスcDNAフラグメントを用いてスクリーニングした。ここで、ハイブリダイゼーションは、5×SSC、50%ホルムアミド、2×Denhardt’s溶液、20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、0.1%SDS、100μg/mLの音波処理し変性させたサケ精巣DNA、10%硫酸デキストラン、及び1×106 cpm/mLの32P−標識化プローブ中で、42℃で16時間、行った(Seino,Sら,前掲)。そのナイロン膜を0.1×SSC及び0.1%SDSで、50℃で1時間、洗浄し、その後オートラジオグラフィーを行った。ラットABCA2 cDNAの上流部分を得るために、プローブとして単離したラットABCA2クローンのDNAフラグメントを用いて、先と同じライブラリーを再びスクリーニングした。DNAシークエンスは、適切なDNAフラグメントをpGEM3Z(Promega)にサブクローニングした後、Bigdye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin Elmer Applied Biosystems)を用いることによりABI377自動化DNAシーケンサー(Perkin Elmer Applied Biosystems)で行った。両方の鎖を配列決定した。ラットABCA2 cDNAの5’末端を得るために、製造元の説明に従って5’RACEシステム(version2.0;Life Technologies,Inc)を用いることにより、cDNA端の迅速増幅(RACE)を行った。簡単に説明すると、第1鎖DNAは、アンチセンスプライマー:5’−TCCAGACGTTGGTGCAGTGC−3’(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド383〜364)を用いてラット脳の全RNAから合成し、RNaseHでの処理によりもとになったmRNAテンプレートを除去し、そして末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ及びデオキシCTPを用いてそのcDNAの3’末端にホモポリマー尾部を加えた。その尾部cDNA末端を、第2のアンチセンスプライマー:5’−CAGGAAGCCAAACTCATCAC−3’(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド255〜236)を用いてPCRにより増幅し、その増幅したDNAをpGEM−Tベクター(Promega)にクローン化し、次に配列決定した。ヒトABCA1 cDNAの5’末端を得るために、製造元の説明書に従ってMarathon−Ready cDNAを用いてネスティドPCRを行った。そのネスティドPCRにおいて、アンチセンスプライマー:5’−GAACCCAAGGAAGTGTTCCTGC−3’(登録されたヒトABCA1 cDNAのヌクレオチド151〜130)及びアンチセンスプライマー:5’−GTAGCTCAGCCGAACAGAGATC−3’(登録されたヒトABCA1 cDNAの78〜57)を、各々第1及び第2のPCRに用いた。その約400bpのPCR産物をpCR2.1(Invitrogen)に挿入し、その配列を決定した。この配列決定した塩基配列を配列番号:4に、それから予想されるアミノ酸配列を配列番号:5に、そしてこれらの塩基配列とアミノ酸配列との対応関係を配列番号:6に示す。
【0030】
2.RNAブロット分析
ABCA2 mRNAの組織分布を決定するために、グアニジニウムイソチオシアネート/CsCl法(Seino,Sら,前掲)により種々のラット組織から全細胞RNAを調製した。RNA転移ブロットのために、その種々のラット組織からの20μgの全RNAをホルムアルデヒドで変性し、1%アガロースゲルでの電気泳動にかけ、そしてナイロン膜に移した(Seino,Sら,前掲)。32P標識化DNAフラグメント(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド1369〜1888)とのハイブリダイゼーションを上述の通り行った。その膜を上述の通り洗浄し、増感紙と共に、−80℃で4日間、X線フィルムに露出した。
【0031】
3.細胞培養及びトランスフェクション
COS−1又はCOS−7細胞の培養及びトランスフェクションを、先に開示されるように行った(Bryan,J.ら(1995)Science 270,1166−1170;Seino,Sら(1996)Neuron 16,1011−1017)。簡単に説明すると、トランスフェクション前に、細胞を皿当たり2×105 細胞の密度で35mm培養皿に24時間、培養し、次に10%ウシ胎児血清を補給したDulbecco’s改良Eagle’s培地(450mg/dL グルコース)内で培養した。2μgのラットABCA2発現ベクター(pCMVrABCA2)を、製造元の説明書に従ってLipofectamine及びOpti−MEM I(Life Technologies,Inc)で細胞にトランスフェクトした。イムノブロット及びATP結合分析のために、ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ(YPYDVPDYA)をコードするDNAがpCMVrABCA2内のABCA2のコーディング領域の3’末端に導入されているpCMVrABCA2−HAをPCRを用いて構築した。
【0032】
4.粗膜調製
粗膜を以前(Takata,Kら(1997)Diabetes 46,1440−1444)に開示されるように調製した。簡単に説明すると、イムノブロット分析のために、pCMVrABCA2−HA又はpCMVベクターのみでのトランスフェクションの後3日目に、COS−1細胞をリン酸緩衝塩類溶液(PBS)で3回、洗浄し、プロテアーゼインヒビターカクテル(10mL)(Sigma)を含む50mM Tris(pH7.5)及び1mM EDTAからなる緩衝液Aに懸濁し、ホモジェナイズし、そして次に4℃で1時間、10,000×gで遠心した。そのペレットを500μLの緩衝液Aに再度懸濁し、イムノブロット分析まで−80℃で保存した。ATP結合分析のために、以前に開示(Seino,S.(1997)J.Biol.Chem.272,22983−22986)されるように窒素キャビテーションを用いた他は同じ条件下でCOS−7細胞から粗膜を調製した。
5.イムノブロット分析
上述の通り、pCMVrABCA2−HA又はpCMV単独をトランスフェクトしたCOS−1細胞から粗膜を調製した。その粗膜タンパク質(20μg)をSDS還元サンプル緩衝液中で煮沸し、7%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、そして200mAで4℃で一晩、エレクトロブロッティングすることによりニトロセルロース膜(HybondTMECLTM,Amersham)に移した(Takata,Kら(1997)Diabetes 46,1440−1444)。N−グリコシダーゼF処理のために、20μgの粗膜タンパク質を4unitのN−グリコシダーゼF(Boehringer Manheim)と共に3時間37℃でインキュベートし、次に上述の通りSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びエレクトロブロッティングにかけた。その膜を室温で1時間、1×PBS(136.9mM NaCl,2.7mM KCl,10.1mM Na2 HPO4 及び1.8mM KH2 PO4 )及び0.1%Tween20からなる1×PBS−T(pH7.4)中5%脱脂乳においてブロックした。1×PBS−Tで洗った後、その膜を1:1000に希釈した抗HA高アフィニティーラット抗体(Boehringer Manheim)と共に、2時間、室温でインキュベートした。1×PBS−Tで洗った後、その膜を1:800に希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼが結合した抗ラットIgG(Biosys)と共に、1時間、インキュベートした。0.3%Tween20を含む1×PBS、そして次に1×PBS−Tで洗った後、製造元の説明書に従って、増強ケミルミネセンスシステム(ECL,Amersham)を用いてタンパク質を検出した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Pierce)を用いて測定した。
【0033】
6.8−アジド[ α−32P] ATPとのABCA2の相互作用
ABCA2−HA融合タンパク質を一時的に発現するCOS−7細胞からの膜タンパク質(50μg)を、3mM MgSO4 (又は1.5mM EDTA)又は2mM ATPの存在又は欠如下で0℃で10分間、全量6μLの、50μM 8−アジド−[ α−32P] ATP(ICN Biomedicals)、2mM ウアバイン、0.1mM EGTA、及び40mM Tris−Cl(pH7.5)とインキュベートした。タンパク質を氷上で(254nm、5.5mW/cm2 で)5分間、UV照射した。ABCA2−HA融合タンパク質を抗HA抗体で免疫沈降させた。サンプルを7%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、オートラジオグラフを撮った。
【0034】
7.イン・シトゥ・ハイブリダイゼーション
2月齢のSprague Dawleyラットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し(50mg/kg体重、i.p.)、断頭により殺した。その脳を迅速に除去し、液体窒素で凍結して、使用するまで−70℃で保存した。凍結した7μm厚の矢状断をcryostat(Microm HM500)で切断し、3−アミノプロピルトリエトキシシラン−コート化スライド上で解凍してマウントした。311bp ABCA2 cDNAフラグメント(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対してヌクレオチド4593〜4903)を含むプラスミドをSP6 RNAポリメラーゼで転写し、[35 S] CTP(1250Ci/mmol、NEN)で標識してアンチセンスcRNAプローブを作った。同じプラスミドをT7 RNAポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)で転写してセンスプローブを作った。そのハイブリダイゼーション組織化学分析を、以前に開示(Arimura,A.ら(1997)Neurosci.Res.28,345−354)される通り行った。簡単に説明すると、PBS中4%パラホルムアルデヒドで30分、固定した後、その断面をプロテイナーゼKで処理し(20μL/mLで10分)、トリエタノールアミン中0.25%無水酢酸でアセチル化した。50%ホルムアミド、300mMNaCl、10mM Tris−HCl、1mM EDTA,1×Denhardt’s溶液、10mM ジチオスレイトール、0.25%SDS、200μg 大腸菌tRNA(Sigma)、及び1×105 cpm/μL リボプローブを含む溶液中で一晩、55℃でハイブリダイゼーションを行った。そのハイブリダイズした断面を20μg/mLのRNaseAで処理し、55℃で2×SSC及び0.2×SSCで各々40分、洗浄した。(300mM 酢酸アンモニウムを含む)一連の段階的なエタノール浴を介して脱水し、空気乾燥した後、その断面を室温で1週間、ベータ−マックスハイパーフィルム(Amersham)に露出した。
【0035】
(2)結果
1.ラットABCA2cDNAのクローニング
マウスABCA2cDNAの部分的に知られている配列に基づいて、最初のNBDに相当する2260bpDNAフラグメントを、マウス脳mRNAからRT−PCRにより増幅し、放射能標識した。その放射能標識したDNAフラグメントをプローブとして用いてラット脳cDNAをスクリーニングし、100を超える陽性のクローンから14λクローンを単離した。2種類の重複したクローン:λrABCA2−1−1及びλrABCA2−1−23をサブクローン化して配列決定を行った。より上流の配列を得るために、(ラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に基づいてヌクレオチド1369−1888に相当する)ラットABCA2−1−1の5’端に位置した520bpフラグメントを放射能標識し、ラット脳cDNAライブラリーの更なるスクリーニングのためのプローブとして用い、26λクローンを単離して1つのクローンλrABCA2−3−16をサブクローニングして配列決定した。これらの8040bpの複合配列は、そのcDNA配列内で最初のATGで始まる一つのオープンリーディングフレームを含み、これは、2,434残基のアミノ酸配列のタンパク質(Mr=270,913.5)であると予想された。最初のATGから44bp上流のDNAにおいて、及び5’−RACEによりさらに伸長した付加的な23bpDNAにおいて終止コドンは見いだされなかった。しかしながら、これらの周囲のヌクレオチド配列はコザックボックス(Kozak, M. (1991) J. Cell. Biol. 115, 887−903)と一致したので、その最初のATGが翻訳開始部位であると考えることができる。このABCA2の予想されるアミノ酸配列は、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARと各々44.5%、40.0%、及び40.8%の同一性を示した(図1〜4)。ヒドロパシー分析は、14の疎水性セグメント、第1のMSD中に7つ、及び第2のMSD中に7つがABCA1、ABCA2、ABCA3、及びABCAR間で保存されていると予測する。これらのタンパク質のアミノ酸配列は、H1〜H2及びH8〜H9を除きNBDだけでなくMSDでも保存されている。更に、これらのタンパク質のN末端の約40アミノ酸配列もよく保存されている。これらのことは、ABCA2の最初のATGが翻訳開始部位であることを更に示唆する。ABCA2の膜トポロジーはまだ知られていないが、少なくとも細胞質側の2つのNBDにおいて、4つのcAMP依存性リン酸化部位(Ser−1118, Ser−1132, Ser−1454, Ser−2196)及び7つのプロテインキナーゼC依存性リン酸化部位(Ser−1115, Ser−1242, Ser−1340, Ser−1382, Ser−1428, Ser−2064, Ser−2146)が存在する可能性がある。最初のNBDにチロシンキナーゼ依存性リン酸化部位(Tyr−1389)が存在する可能性がある。
【0036】
2.ABCA2タンパク質のキャラクタリゼーション
ABCA2タンパク質をキャラクタライズするために、HAエピトープ(YPYDVPDYA)をABCA2タンパク質のC末端に導入し、抗HA抗体を用いてイムノブロット分析を行った。HAタグを有するABCA2発現ベクター(pcMVrABCA2−HA)をトランスフェクトしたCOS−1細胞の全膜画分は、260kD及び250kDの分子量の2つのバンドを示したが(図5、レーン3)、pCMVベクターのみをトランスフェクトしたものはバンドを示さなかった(図5、レーン1及び2)。次に、これらのタンパク質がグリコシル化されているか否かを決定するために、その膜タンパク質をN−グリコシダーゼFと共にインキュベートした。N−グリコシダーゼFでの37℃で3時間の処理の後、2つのタンパク質の移動度は増加し、250kDより少し小さな分子量の一つのバンドが観察された(図5、レーン4)。このことは、ABCA2が糖タンパク質であることを示す。
【0037】
発現されるABCA2が機能的であるか否かを決定するために、そのATP結合能を検査した。ABCA2−HA融合タンパク質を一時的に発現するCOS−7細胞からの膜タンパク質を50μMの8−アジド−[ α−32P] ATPとともに、0℃で10分、過剰なATP(2mM)の存在下又は欠如下でインキュベートした。次にそのタンパク質にUV光を照射し、そしてABCA2−HA融合タンパク質を抗HA抗体で沈殿させた。図6(レーン3)に見られるように、ABCA2−HA融合タンパク質は、Mg2+の存在下で260及び250kDタンパク質としてホトアフィニティーラベリングされた。Mg2+の欠如下(図6、レーン4)及び過剰なATPの存在下(図6、レーン5及び6)においてそのホトアフィニティーラベリングは強く阻害された。トランスフェクトしなかったCOS−7細胞からの膜タンパク質においては、ホトアフィニティーラベリングされたタンパク質は観察されなかった(図6、レーン1及び2)。これらの結果は、8−アジド−[ α−32P] ATPが、Mg2+の存在下において、COS−7膜において発現したABCA2に結合することを示唆する。
【0038】
3.ABCA2 mRNAの組織分布
RNAブロッティング実験は、脳内で高レベルで、心臓、腎臓及び肺で中程度のレベルで、並びに骨格筋、胃、脾臓、結腸及び膵臓で低レベルで発現されたABCA2の単一の10.5kb転写物を示した(図7)。肝臓及び小腸においてはバンドは検出されなかった。これらの結果は、マウスにおいてはABCA2転写物が肝臓で検出されたが脾臓で検出されなかったことを除いてマウスの組織でのABCA2 mRNAの分布パターンについて先に報告されているものと一致した。
【0039】
4.脳でのABCA2 mRNAの発現
ABCA2 mRNAは脳内で最も豊富であるので、イン・シトゥ・ハイブリダイゼーションによりラットの脳におけるその発現レベルを検査した(図8)。ABCA2 mRNAについてのシグナルは、嗅球糸球体層、嗅球内部糸球体層、前交連、脳梁、海馬の歯状回、視神経交叉、視索、内側縦束橋、並びに小脳の顆粒細胞層及び髄質に強く局在化していた。ABCA2 mRNA発現は白質全体で強く見いだされたが、大脳皮質、視床及び脳幹核のような灰白質においては顕著な発現はみられなかった。
<実施例2> ヒトABCA2の配列決定
1.本質的に実施例1記載のラットABCA2の配列決定と同様にしてヒトABCA2の配列を決定した。具体的にはヒトABCA2 cDNAのクローニングは以下の通りである。
【0040】
(実施例1記載のラットABCA2 cDNAの翻訳開始部位と予想される部位に対して各々ヌクレオチド+159〜+1888及び+5221〜+7960に相当する)実施例1記載のラットABCA2 cDNAのHindIII/HindIII及びSphI/EcoRIフラグメントをプローブとして用いた。ヒトcDNAライブラリー(Stratagene)の7.2×105 のプラークを標準ハイブリダイゼーション条件下で32P−ニックトランスレーションを行ったプローブを用いてスクリーニングした。そのハイブリダイゼーションは、5×SSC、50%ホルムアミド、2×Denhardt’s溶液、20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、0.1%SDS、100μg/mLの音波処理し変性させたサケ精巣DNA、10%硫酸デキストラン、及び1×106 cpm/mLの32P−標識化プローブ中で、42℃で16時間、行った(Seino,Sら,前掲)。そのナイロン膜を0.1×SSC及び0.1%SDSで、50℃で1時間、洗浄し、その後オートラジオグラフィーを行った。DNA配列決定は、適切なDNAフラグメントをpGEM3Z(Promega)にサブクローニングした後、Bigdye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin Elmer Applied Biosystems)を用いることによりABI377自動化DNAシーケンサー(Perkin Elmer Applied Biosystems)で行った。両方の鎖を配列決定した。この配列決定した塩基配列を配列番号:1に、それから予想されるアミノ酸配列を配列番号:2に、そしてこれらの塩基配列とアミノ酸配列との対応関係を配列番号:3に示す。
【0041】
なお、全長のヒトABCA2(hABC2)タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌を、E.coli pCMV6chABC2として、平成12年6月20日に工業技術院生命工学工業技術研究所(FERM)に寄託し、受託番号:FERM P−17910を得た。
【0042】
【発明の効果】
本発明によるポリヌクレオチド、ABCA2タンパク質及び方法等は、ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するために有効である。また、本発明によるポリヌクレオチドは、ヒト又はラットABCA2タンパク質を発現させ、その機能を研究し、更にABCA2遺伝子が関与する疾患を治療するために用いることが期待できる。
【0043】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図である。
【図2】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図1の続きの図である。
【図3】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図2の続きの図である。
【図4】本発明によるラットABCA2、マウスABCA1、ヒトABCA3、及びヒトABCARのアミノ酸配列の比較を一文字表記で示す図3の続きの図である。
【図5】COS−1細胞で発現されたラットABCA2タンパク質のイムノブロット分析の結果を示すSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の図である。
【図6】8−アジド−[ α−32P] ATPでのラットABCA2のホトアフィニティーラベリングの結果を示す電気泳動の図である。
【図7】様々のラット組織におけるABCA2 mRNAのRNAブロッティング実験の結果を示す電気泳動の図である。
【図8】イン・シトゥ・ハイブリダイゼーションによるラットの脳におけるABCA2mRNAの発現レベルの分布を示す図である。
Claims (11)
- 配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド。
- 配列番号:1に記載の塩基配列の塩基番号250〜7557からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド。
- 請求項1又は2に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター。
- 請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド又は請求項3に記載のベクターを保持する形質転換体。
- 配列番号:2に記載のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列内の1若しくは複数のアミノ酸の置換、付加若しくは欠失により配列番号:2に記載のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有するヒトABCA2タンパク質又はその誘導体。
- 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド。
- 配列番号:4に記載の塩基配列の塩基番号68〜7369からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの1若しくは複数の塩基の置換、付加若しくは欠失により該ポリヌクレオチドと異なる塩基配列からなるポリヌクレオチド。
- 請求項6又は7に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター。
- 請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチド又は請求項8に記載のベクターを保持する形質転換体。
- 配列番号:5に記載のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列内の1若しくは複数のアミノ酸の置換、付加若しくは欠失により配列番号:5に記載のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有するラットABCA2タンパク質又はその誘導体。
- ABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するための方法であって、請求項1若しくは2に記載のポリヌクレオチドの塩基配列若しくは請求項5に記載のヒトABCA2タンパク質のアミノ酸配列、又は請求項6若しくは7に記載のポリヌクレオチドの塩基配列若しくは請求項10に記載のラットABCA2タンパク質のアミノ酸配列と被験体から得たサンプル中のABCA2遺伝子の塩基配列又はABCA2タンパク質のアミノ酸配列とを比較するステップと、該塩基配列又はアミノ酸配列間で異なる塩基又はアミノ酸を同定することによりABCA2遺伝子が関与する疾患を診断するステップと、を含む方法。
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