JP2004129510A - 金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法、および微生物の同定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物の簡便な分離・回収方法、PCRなどの酵素反応を阻害せずにDNA配列読み取りが可能な微生物の検出方法、および金属含有排水処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング技術を提供することである。
【解決手段】金属含有排水の処理に用いる活性汚泥をpH7以上10以下に調製して、該活性汚泥中の金属イオンを金属水酸化物とした後、前記活性汚泥を所定時間静置して該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して前記活性汚泥中の微生物をろ膜上に分離することを特徴とする金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法と、回収した微生物のDNAを抽出した後、該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNA産物のDNA配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】金属含有排水の処理に用いる活性汚泥をpH7以上10以下に調製して、該活性汚泥中の金属イオンを金属水酸化物とした後、前記活性汚泥を所定時間静置して該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して前記活性汚泥中の微生物をろ膜上に分離することを特徴とする金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法と、回収した微生物のDNAを抽出した後、該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNA産物のDNA配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属含有排水中の金属イオンの分離、回収処理や無毒化処理に用いる活性汚泥から、微生物を分離・回収する方法、微生物の検出方法、およびモニタリング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属含有排水には、鉱山排水、化学工場排水、製錬所排水、製鉄所排水、メッキ工場排水などがある。たとえば、メッキ工場排水を例に取ると、2価鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銅などの金属イオンを含有している場合が多い。このような金属含有排水中の金属イオンの分離・回収処理や無毒化処理において、活性汚泥を用いた処理の応用が試みられている。たとえば、活性汚泥中の鉄酸化細菌の作用で2価鉄を3価鉄とした上で水酸化鉄として鉄のみを回収する技術や、有害な6価クロムを活性汚泥中のクロム還元細菌の作用で無毒な3価クロムに還元するなどの応用が試みられている。実際、バクテリアリーチングや鉱山排水などで微生物を含有している活性汚泥は広く活用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
活性汚泥を用いた金属含有排水中の金属イオンの分離・回収処理や無毒化処理において、処理に関与する微生物を検出・特定し、pHや温度等の環境条件、および栄養条件等の反応条件をその微生物に適した条件に制御することにより、前記処理の促進が図れるものといえる。
【0004】
活性汚泥に存在する微生物を検出する方法としては、以下の二つが考えられる。一つは、培養によって微生物を単離して、その形態や生理的、生化学的性質を調べて存在する微生物を特定する方法である。もう一つは、活性汚泥に存在する微生物のDNAを抽出して、そのDNA配列を読み取り、DNA配列のデータベースを参照することで、存在する微生物を特定化する方法である。従来は、例えば鉄酸化細菌の培養や単離に用いる9K培地のように、調べたい微生物に対応した培養用の培地が確立されており、培養によって微生物の検出が広く行われてきた(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物を検出あるいは同定することは容易ではない。なぜならば、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥は、一般に複数種の金属イオンを高濃度に含んでおり、これらの金属イオンは微生物の培養に影響を与え、さらに微生物のDNA抽出とDNA配列の読み取りに著しい悪影響を及ぼすからである。
【0006】
まず、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物を培養により検出する方法に関する問題点について述べる。
【0007】
一般に、金属の存在状態で微生物を培養するために確立された培地を使用する場合、特定の金属を一定濃度含んだ条件での培養のみに限られるため、鉱山排水やメッキ工場排水のように複数種の金属の含有濃度が変動する条件で存在している微生物を検出することは困難である可能性が高い。例えば、鉄酸化細菌では、9K培地等が広く使用されるが、この培地に適した微生物のみが優先的に検出されてしまう可能性は否めない。
【0008】
また、微生物が存在することは確認できても培養できないVNC(Visible but None−culturable)という現象が最近では広く認知されている(非特許文献3参照)。例えば、都市下水の活性汚泥中に存在する微生物のうち、培養可能な微生物は1割程度であり、残り9割は培養できないという報告もあり(同じく非特許文献3参照)、金属含有排水と活性汚泥との混合物中に存在する微生物は、さらに培養が困難である可能性もある。
【0009】
上記培養によって微生物を単離するという従来技術に対して、DNA配列に基づいて微生物を検出、同定する方法は、培養によるバイアスを受けず、簡便かつ正確であり、きわめて優れている。したがって、DNA配列に基づく微生物の検出方法が、微生物を利用する産業上においても主流になりつつある(特許文献1参照)。
【0010】
都市下水の活性汚泥などでは、汚泥からDNAを抽出して微生物を検出することが活発に実施されているが、鉱山排水やメッキ工場排水などの金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物のDNAを抽出しようとすると、DNAと金属の分離回収が困難になり、満足のいく微生物の解析に成功した報告は今のところない。例えば、DNAの夾雑物からの分離精製に用いるフェノール・クロロホルム抽出などではDNAと金属を分離回収することは困難である。
【0011】
【非特許文献1】
先端材料シリーズ、微生物と材料、日本材料科学会編、p.70〜116(裳華房)
【非特許文献2】
極限環境微生物ハンドブック、大島泰郎監修、p.223〜232
【非特許文献3】
水処理におけるVNC細菌群集、染谷、日本水環境学会・日本微生物生態学会合同シンポジウム講演資料集(2002年11月)
【特許文献1】
特開2002−101884号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
鉱山排水やメッキ工場排水のような高濃度の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物を検出することは、金属イオンによってPCRなどの酵素反応が強く阻害を受けるため、活性汚泥中の微生物の動態をDNA配列を元に把握することは困難であることが多いという大きな課題がある。何故ならば、DNAの抽出やDNA配列の読み取りに必要な酵素による反応、例えばDNAの増幅に必要なPCRなどに対して、金属イオンがこれらの反応を強く阻害するからである。本発明者らも、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に対して、様々な生化学的な手法を使って、活性汚泥に存在する微生物のDNAを抽出して、PCRでDNAを増幅することを試みたが、ほとんどの場合で良好な結果は得られなかった。
【0013】
本発明は、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物の簡便な分離・回収方法、PCRなどの酵素反応を阻害せずにDNA配列読み取りが可能な微生物の検出方法、および金属含有排水処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング技術を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物をDNA配列に基づいて検出するには、金属から微生物を分離して回収することが有効であろうと考え、これにより、微生物のDNA配列の読み取りに必要なPCR反応などの酵素反応が、金属に阻害されることがなくなるのではないかと考えた。
【0015】
そこで、本発明者らは、鉱山排水、メッキ工場排水などの金属含有排水、あるいはこれらの処理に用いる活性汚泥は一般に酸性であることに着目し、これら金属含有排水と活性汚泥との混合物に対して、アルカリを加えて液性をアルカリ性とすることで金属イオンを水酸化物として沈澱・除去できることを確認した。上澄み液には微生物が残留しており、上澄み液に残った微生物をフィルタでろ過することで、安価かつ簡便に金属から微生物を分離・回収できることを見出した。
【0016】
フィルタ上に回収した微生物の一部は、培養することが可能である。しかし、前述のVNC(Visible but None−Culturable)の問題があり、培養により検出できる微生物はごく一部に限られる。そこで、本発明者らは、フィルタ上に回収した微生物に対してDNA抽出法の適用したところ、DNAを抽出した後、DNA配列に基づいた検出によって、微生物の同定が可能であることを新たに見出した。
【0017】
本発明は、上記知見によりなし得たものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 金属含有排水の処理に用いる活性汚泥をpH7以上10以下に調製して、該活性汚泥中の金属イオンを金属水酸化物とした後、前記活性汚泥を所定時間静置して該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して前記活性汚泥中の微生物をろ膜上に分離することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(2) 前記所定時間静置に代えて、遠心器またはデカンタにより前記金属水酸化物を沈殿させることを特徴とする、前記(1)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(3) 前記活性汚泥が、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウムのいずれか1種以上を含有することを特徴とする、前記(1)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の回収方法で回収した微生物のDNAを抽出した後、該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNA産物のDNA配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(5) 前記増幅にPCRを用いることを特徴とする、前記(4)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(6) 前記DNA産物をDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該DNAバンドからDNA配列を読み取ることを特徴とする、前記(4)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(7) 前記(4)に記載の同定方法を所定時間間隔で繰り返し行うことを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
(8) 前記繰り返しにより得られた複数のDNA産物をそれぞれDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該各DNAバンドをそれぞれ画像解析し、該各DNAバンドの色調の濃淡変化から、前記活性汚泥中の微生物の群集構造の変化を求めることを特徴とする、前記(7)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係わる金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の金属イオンを沈澱除去する方法について説明する。
【0020】
具体的には、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥にアルカリを添加して、pHを7以上10以下に調製する。このpH域で、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウム等が水酸化物を形成して沈澱する。より詳細には、pH7以上8以下では鉄、アルミニウム、クロムが、pH8以上9以下では銅、亜鉛が、pH9以上10以下ではニッケル、カドミウムが、それぞれ水酸化物を形成して沈澱する。
【0021】
金属水酸化物が沈殿し始めるpHは、原則的に金属の溶解度積によって決定されるものの、実際には、共存するイオンの影響を受け、溶解度積の大きな金属でも比較的低いpHで共沈することがある。例えば3価鉄は、比較的低いpHで水酸化第二鉄として除去されるが、このとき、溶存していたカドミウム、ヒ素、クロムが共沈する現象が知られている。したがって、鉱山排水やメッキ工場排水などのように複数種の金属を含有する排水、あるいは前記金属含有排水とこれを処理する活性汚泥との混合物に対して、pHを7以上10以下に調製することで金属イオンを効率的に沈澱することができる。pH7は、これら金属イオンの水酸化物の沈澱を効果的に生じさせる下限のpHであり、pH10は、このpHを超えると、金属種によっては錯イオン化して再溶解する可能性があることと、これより高いpHに調製すると、例えば続けてDNA抽出やDNAの解析を行う際に再度のpH調製を行う必要が生じることから、コスト的に不利である。
【0022】
添加するアルカリとしては、微生物からのDNA抽出、DNA配列の読み取りに必要な酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はないが、コストの観点から消石灰(Ca(OH)2)や水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
次に、前記工程によって発生した金属水酸化物と微生物を分離し、さらに微生物を回収する方法について説明する。
【0024】
金属含有排水の処理に用いる活性汚泥のpHを7以上10以下に調製すると金属水酸化物が生じて懸濁するが、通常、生じた金属水酸化物は、1時間程度静置することによって沈澱し、活性汚泥中の不溶成分も金属水酸化物の沈澱に伴って共沈させることができる。勿論、静置時間は、1時間よりも短時間あるいは長時間であっても、金属水酸化物の沈殿が良好に進行する程度静置すればよく、特に限定されるものではない。
【0025】
また、遠心器やデカンタを用いて短時間に金属水酸化物を沈殿させることも可能である。この場合、あまり強い遠心をかけると、微生物も沈降してしまい、上澄み液から微生物を回収できなくなるので注意を要する。例えば、3000rpmで10分間程度の遠心分離で金属水酸化物を沈殿させ、上澄み液に微生物を残存させることが可能であるが、勿論、遠心分離条件も前記条件のみに限定されるものではない。
【0026】
前記操作後、沈澱した金属水酸化物等の不溶成分をとらないように注意して、上澄み液をピペット等で回収する。しかし、金属水酸化物が上澄み液に若干混入して回収された場合は、回収した上澄み液を再度、上述の方法で静置あるいは遠心分離して金属水酸化物を沈殿させて、上澄み液を再度回収することが望ましい。なお、上澄み液の回収量はDNA抽出に十分な液量であれば特に限定はない。
【0027】
次に、回収した上澄み液をフィルタでろ過することにより、フィルタ上に微生物を回収する。微生物を回収するフィルタの孔径は、微生物の大きさよりも小さな径が好ましく、具体的には0.5μm以下が好ましい。微生物には0.5μm以下の大きさのものも多く存在するため、より確実に回収するためには孔径0.2μm以下が特に好ましい。
【0028】
次に、本発明に係わる回収した微生物のDNAを抽出してDNA配列に基づいて微生物を検出する方法、さらに活性汚泥中の微生物をモニタリングする方法について説明する。
【0029】
前記操作によりフィルタ上に回収した微生物は、必要に応じて、適当な洗浄液を用いて不純物を取り除くことも可能である。洗浄液としては、例えば、分子生物学実験で一般的に使用されるTE緩衝液(エチレンジアミン四酢酸を含むトリス−塩酸緩衝液)などを用いることができる。勿論、TE緩衝液以外のものでも、後述のDNA抽出やPCR反応などの酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はない。
【0030】
フィルタ上に回収した微生物からDNAを抽出する方法としては、分子生物学実験で一般的に用いられるDNA抽出方法を用いることが可能である。例えば、塩化ベンジルを用いる方法、ガラスビーズを用いる方法、フェノールを用いる方法、酵素を用いる方法などが挙げられる。このうち、塩化ベンジルを用いるDNA抽出法が抽出効率が高いため、特に好ましいが、この方法に限定されるものではない。
【0031】
DNA抽出後、DNAの特定領域を増幅する方法について説明する。ここでDNAの特定領域とは、微生物の体内から抽出されたゲノムDNAの中で、微生物種の比較検討が可能なDNAの領域を意味する。例えば、16SリボゾームRNA遺伝子の一部などがある。DNAの特定領域の増幅方法はPCRが好ましい。PCRによりDNAを増幅した後、得られたDNA産物を、例えば変性剤濃度勾配電気泳動DGGE(Denatured Gradient Gel Electrophoresis)で泳動して、DNAを蛍光色素で染色することにより、各微生物から抽出した異なる微生物配列を持つDNAを分離したバンドとして得る。
【0032】
さらに、上記検出方法を所定時間間隔で繰り返し行うことにより、活性汚泥中の微生物の群集構造の変化をモニタリングすることが可能である。
【0033】
上記本発明の微生物回収方法を用いて微生物を経時的に回収し、次に、回収した微生物からDNAを抽出して、DNAの特定領域についてPCRによりDNAを増幅して、得られたDNA産物を、例えば変性剤濃度勾配電気泳動DGGE(Denatured Gradient Gel Electrophoresis)で泳動して、DNAを蛍光色素で染色することにより、各微生物から抽出した異なる微生物配列を持つDNAを分離したバンドとして得る。
【0034】
前記各DNAバンドからDNA配列を読み取ることが可能であるため、各DNAバンドに対応する微生物を検出、同定できる。数種類の微生物が混在する場合には、微生物の種類に対応した数のDNAバンドが得られるため、経時的に得られたDNAバンドのパターンをそれぞれ比較することで、活性汚泥中の微生物をモニタリングすることも可能である。
【0035】
金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の群集構造は、1〜2週間の間隔で採取し、DNAを調べることでモニタリングすることが好ましい。1週間未満の間隔では、微生物の増殖速度を考慮すると、微生物群集構造に認識されるべき変化が起きにくい。一方、2週間超の間隔であると、微生物群集構造の変化を検出し損なう可能性がある。ただし、1〜2週間のモニタリング間隔は目安であり、この間隔に限定されるものではない。
【0036】
なお、モニタリングは、前記方法で染色したDNAバンドの色調の濃淡変化をそれぞれ比較することで可能となる。この比較は、画像処理装置およびコンピュータを用いて行うことも可能であり、例えば、染色したDNAバンドの画像をコンピュータに取り込み、画像処理を行い、これらの濃淡を比較することにより、簡便にモニタリングすることが可能である。また、前記処理は、コンピュータプログラムにより実行することが可能である。
【0037】
微生物の同定結果に基づき、微生物の増殖状態をモニタリングすることにより、金属含有排水浄化機能を有する微生物の増殖状態を認知することが可能となる。そして、金属含有排水浄化機能を有する微生物に有利な環境条件、栄養条件等を付与することにより、微生物の浄化作用を安定に発現させることが可能となり、金属含有排水の処理の処理を促進することが可能である。
【0038】
【実施例】
(実施例1)
30日間の平均濃度が表1に示す2系統のメッキ工場排水中の鉄イオンの酸化処理に用いられている活性汚泥(系統1、2)に対して、本発明の微生物分離・回収方法、および微生物の検出方法を適用した。
【0039】
【表1】
【0040】
活性汚泥500mLに対して1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調製した。活性汚泥は、pH調製直後は赤褐色の懸濁状態であったが、室温(20℃)で1時間静置したところ、赤褐色の懸濁物質は活性汚泥ごと沈降して上澄み液は無色透明となった。
【0041】
次に、上澄み液を孔径0.2μmのフィルタでろ過し、フィルタ上にトラップされた回収物を10mMトリス−塩酸(pH9.0)、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、回収物から不純物を取り除いて微生物を回収した。続いて、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、続いて塩化ベンジルを用いてDNAを抽出した。さらにエタノール沈澱によってDNAを濃縮した。この濃縮したDNAを鋳型に対してそれぞれ表2に記載のプライマーを使用してPCRを実施した。
【0042】
【表2】
【0043】
このプライマーを用いることにより、大腸菌の16SリボゾームRNA遺伝子の506番目の塩基と907番目の塩基に挟まれたDNAの領域に対応する真正細菌のDNAを増幅することができる。DNAを増幅する酵素であるDNAポリメラーゼとして、AmpliTaq Gold(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR装置はGene Amp PCR System 9600(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR条件は、94℃で7分間の後に、94℃で30秒、アニール温度65〜55℃で60秒、72℃で90秒を20サイクル繰り返した(ただし、2サイクル毎にアニール温度が1℃ずつ下がるようにした)後に、94℃で30秒、55℃で60秒、72℃で90秒を15サイクルの後、72℃で10分間として、4℃でDNA解析に供するまで保存した。
【0044】
このPCRにより得られた、増幅されたDNA産物を2質量%アガロースで電気泳動したところ、400bp付近にDNAのバンドが確認でき、微生物の回収が行えたことを確認できた。
【0045】
そこで、上記PCRにより得られた、増幅されたDNA産物をDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)で解析した。DGGEの装置には、Dcode(BIO RAD, USA)を用いた。変性剤として尿素とホルムアミドを用い、変性剤の濃度には、30〜60質量%の濃度勾配を付けた。また、ポリアクリルアミドの濃度についても、5〜10質量%の濃度勾配をつけた。電圧130Vを印加して7時間電気泳動した。泳動後のゲルはSyber Green(TAKARA)で染色して、染色されたDNAのバンドを紫外線(310nm)照射下で、CCDカメラで撮影した。
【0046】
2系統の活性汚泥に対するDGGEによる微生物の検出結果を図1に示す。それぞれ高濃度の金属を含有するメッキ工場排水の処理に用いている活性汚泥に存在する微生物をDNAバンドとして検出することができた。さらに、図1において活性汚泥に存在する各微生物に対応する各DNAのバンドを切り出して、そのDNA配列を読み取った。読み取ったDNA配列をデータベースでホモロジー検索することで、高濃度の金属を含有するメッキ工場排水の処理に用いている活性汚泥に存在する微生物を同定することができた。両系統の活性汚泥には鉄酸化細菌が存在しており、メッキ工場排水中の2価鉄を3価鉄に酸化する工程を活性汚泥で行っているが、図1に示すようにDNA配列から、両系統の活性汚泥からは鉄酸化細菌であるチオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)が共に検出された。従って、本検出方法により鉄酸化細菌チオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)をモニタリングすることが可能となった。
【0047】
さらに、この細菌のDNAバンドの経日的な変化の観察した結果、この細菌の存在が減ってきた場合に、排水の水質変動によりpHが4以上になっていることがわかった。そこで、この細菌の増殖に有利なpH2.5に制御したところ、鉄酸化細菌チオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)の増殖が安定化し、安定な鉄酸化処理が達成できた。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、鉱山排水やメッキ工場排水等、あるいはこれらを浄化処理する活性汚泥に存在する微生物を金属と分離して回収して、微生物の検出、モニタリングすることが可能となる。従来、活性汚泥による処理の難しかった金属含有排水の処理に進展をもたらすものと期待される。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】微生物の検出例。図面に代わる電気泳動写真。
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属含有排水中の金属イオンの分離、回収処理や無毒化処理に用いる活性汚泥から、微生物を分離・回収する方法、微生物の検出方法、およびモニタリング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属含有排水には、鉱山排水、化学工場排水、製錬所排水、製鉄所排水、メッキ工場排水などがある。たとえば、メッキ工場排水を例に取ると、2価鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銅などの金属イオンを含有している場合が多い。このような金属含有排水中の金属イオンの分離・回収処理や無毒化処理において、活性汚泥を用いた処理の応用が試みられている。たとえば、活性汚泥中の鉄酸化細菌の作用で2価鉄を3価鉄とした上で水酸化鉄として鉄のみを回収する技術や、有害な6価クロムを活性汚泥中のクロム還元細菌の作用で無毒な3価クロムに還元するなどの応用が試みられている。実際、バクテリアリーチングや鉱山排水などで微生物を含有している活性汚泥は広く活用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
活性汚泥を用いた金属含有排水中の金属イオンの分離・回収処理や無毒化処理において、処理に関与する微生物を検出・特定し、pHや温度等の環境条件、および栄養条件等の反応条件をその微生物に適した条件に制御することにより、前記処理の促進が図れるものといえる。
【0004】
活性汚泥に存在する微生物を検出する方法としては、以下の二つが考えられる。一つは、培養によって微生物を単離して、その形態や生理的、生化学的性質を調べて存在する微生物を特定する方法である。もう一つは、活性汚泥に存在する微生物のDNAを抽出して、そのDNA配列を読み取り、DNA配列のデータベースを参照することで、存在する微生物を特定化する方法である。従来は、例えば鉄酸化細菌の培養や単離に用いる9K培地のように、調べたい微生物に対応した培養用の培地が確立されており、培養によって微生物の検出が広く行われてきた(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物を検出あるいは同定することは容易ではない。なぜならば、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥は、一般に複数種の金属イオンを高濃度に含んでおり、これらの金属イオンは微生物の培養に影響を与え、さらに微生物のDNA抽出とDNA配列の読み取りに著しい悪影響を及ぼすからである。
【0006】
まず、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物を培養により検出する方法に関する問題点について述べる。
【0007】
一般に、金属の存在状態で微生物を培養するために確立された培地を使用する場合、特定の金属を一定濃度含んだ条件での培養のみに限られるため、鉱山排水やメッキ工場排水のように複数種の金属の含有濃度が変動する条件で存在している微生物を検出することは困難である可能性が高い。例えば、鉄酸化細菌では、9K培地等が広く使用されるが、この培地に適した微生物のみが優先的に検出されてしまう可能性は否めない。
【0008】
また、微生物が存在することは確認できても培養できないVNC(Visible but None−culturable)という現象が最近では広く認知されている(非特許文献3参照)。例えば、都市下水の活性汚泥中に存在する微生物のうち、培養可能な微生物は1割程度であり、残り9割は培養できないという報告もあり(同じく非特許文献3参照)、金属含有排水と活性汚泥との混合物中に存在する微生物は、さらに培養が困難である可能性もある。
【0009】
上記培養によって微生物を単離するという従来技術に対して、DNA配列に基づいて微生物を検出、同定する方法は、培養によるバイアスを受けず、簡便かつ正確であり、きわめて優れている。したがって、DNA配列に基づく微生物の検出方法が、微生物を利用する産業上においても主流になりつつある(特許文献1参照)。
【0010】
都市下水の活性汚泥などでは、汚泥からDNAを抽出して微生物を検出することが活発に実施されているが、鉱山排水やメッキ工場排水などの金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物のDNAを抽出しようとすると、DNAと金属の分離回収が困難になり、満足のいく微生物の解析に成功した報告は今のところない。例えば、DNAの夾雑物からの分離精製に用いるフェノール・クロロホルム抽出などではDNAと金属を分離回収することは困難である。
【0011】
【非特許文献1】
先端材料シリーズ、微生物と材料、日本材料科学会編、p.70〜116(裳華房)
【非特許文献2】
極限環境微生物ハンドブック、大島泰郎監修、p.223〜232
【非特許文献3】
水処理におけるVNC細菌群集、染谷、日本水環境学会・日本微生物生態学会合同シンポジウム講演資料集(2002年11月)
【特許文献1】
特開2002−101884号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
鉱山排水やメッキ工場排水のような高濃度の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥から微生物を検出することは、金属イオンによってPCRなどの酵素反応が強く阻害を受けるため、活性汚泥中の微生物の動態をDNA配列を元に把握することは困難であることが多いという大きな課題がある。何故ならば、DNAの抽出やDNA配列の読み取りに必要な酵素による反応、例えばDNAの増幅に必要なPCRなどに対して、金属イオンがこれらの反応を強く阻害するからである。本発明者らも、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に対して、様々な生化学的な手法を使って、活性汚泥に存在する微生物のDNAを抽出して、PCRでDNAを増幅することを試みたが、ほとんどの場合で良好な結果は得られなかった。
【0013】
本発明は、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物の簡便な分離・回収方法、PCRなどの酵素反応を阻害せずにDNA配列読み取りが可能な微生物の検出方法、および金属含有排水処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング技術を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥に存在する微生物をDNA配列に基づいて検出するには、金属から微生物を分離して回収することが有効であろうと考え、これにより、微生物のDNA配列の読み取りに必要なPCR反応などの酵素反応が、金属に阻害されることがなくなるのではないかと考えた。
【0015】
そこで、本発明者らは、鉱山排水、メッキ工場排水などの金属含有排水、あるいはこれらの処理に用いる活性汚泥は一般に酸性であることに着目し、これら金属含有排水と活性汚泥との混合物に対して、アルカリを加えて液性をアルカリ性とすることで金属イオンを水酸化物として沈澱・除去できることを確認した。上澄み液には微生物が残留しており、上澄み液に残った微生物をフィルタでろ過することで、安価かつ簡便に金属から微生物を分離・回収できることを見出した。
【0016】
フィルタ上に回収した微生物の一部は、培養することが可能である。しかし、前述のVNC(Visible but None−Culturable)の問題があり、培養により検出できる微生物はごく一部に限られる。そこで、本発明者らは、フィルタ上に回収した微生物に対してDNA抽出法の適用したところ、DNAを抽出した後、DNA配列に基づいた検出によって、微生物の同定が可能であることを新たに見出した。
【0017】
本発明は、上記知見によりなし得たものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 金属含有排水の処理に用いる活性汚泥をpH7以上10以下に調製して、該活性汚泥中の金属イオンを金属水酸化物とした後、前記活性汚泥を所定時間静置して該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して前記活性汚泥中の微生物をろ膜上に分離することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(2) 前記所定時間静置に代えて、遠心器またはデカンタにより前記金属水酸化物を沈殿させることを特徴とする、前記(1)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(3) 前記活性汚泥が、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウムのいずれか1種以上を含有することを特徴とする、前記(1)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の回収方法で回収した微生物のDNAを抽出した後、該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNA産物のDNA配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(5) 前記増幅にPCRを用いることを特徴とする、前記(4)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(6) 前記DNA産物をDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該DNAバンドからDNA配列を読み取ることを特徴とする、前記(4)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
(7) 前記(4)に記載の同定方法を所定時間間隔で繰り返し行うことを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
(8) 前記繰り返しにより得られた複数のDNA産物をそれぞれDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該各DNAバンドをそれぞれ画像解析し、該各DNAバンドの色調の濃淡変化から、前記活性汚泥中の微生物の群集構造の変化を求めることを特徴とする、前記(7)に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係わる金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の金属イオンを沈澱除去する方法について説明する。
【0020】
具体的には、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥にアルカリを添加して、pHを7以上10以下に調製する。このpH域で、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウム等が水酸化物を形成して沈澱する。より詳細には、pH7以上8以下では鉄、アルミニウム、クロムが、pH8以上9以下では銅、亜鉛が、pH9以上10以下ではニッケル、カドミウムが、それぞれ水酸化物を形成して沈澱する。
【0021】
金属水酸化物が沈殿し始めるpHは、原則的に金属の溶解度積によって決定されるものの、実際には、共存するイオンの影響を受け、溶解度積の大きな金属でも比較的低いpHで共沈することがある。例えば3価鉄は、比較的低いpHで水酸化第二鉄として除去されるが、このとき、溶存していたカドミウム、ヒ素、クロムが共沈する現象が知られている。したがって、鉱山排水やメッキ工場排水などのように複数種の金属を含有する排水、あるいは前記金属含有排水とこれを処理する活性汚泥との混合物に対して、pHを7以上10以下に調製することで金属イオンを効率的に沈澱することができる。pH7は、これら金属イオンの水酸化物の沈澱を効果的に生じさせる下限のpHであり、pH10は、このpHを超えると、金属種によっては錯イオン化して再溶解する可能性があることと、これより高いpHに調製すると、例えば続けてDNA抽出やDNAの解析を行う際に再度のpH調製を行う必要が生じることから、コスト的に不利である。
【0022】
添加するアルカリとしては、微生物からのDNA抽出、DNA配列の読み取りに必要な酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はないが、コストの観点から消石灰(Ca(OH)2)や水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
次に、前記工程によって発生した金属水酸化物と微生物を分離し、さらに微生物を回収する方法について説明する。
【0024】
金属含有排水の処理に用いる活性汚泥のpHを7以上10以下に調製すると金属水酸化物が生じて懸濁するが、通常、生じた金属水酸化物は、1時間程度静置することによって沈澱し、活性汚泥中の不溶成分も金属水酸化物の沈澱に伴って共沈させることができる。勿論、静置時間は、1時間よりも短時間あるいは長時間であっても、金属水酸化物の沈殿が良好に進行する程度静置すればよく、特に限定されるものではない。
【0025】
また、遠心器やデカンタを用いて短時間に金属水酸化物を沈殿させることも可能である。この場合、あまり強い遠心をかけると、微生物も沈降してしまい、上澄み液から微生物を回収できなくなるので注意を要する。例えば、3000rpmで10分間程度の遠心分離で金属水酸化物を沈殿させ、上澄み液に微生物を残存させることが可能であるが、勿論、遠心分離条件も前記条件のみに限定されるものではない。
【0026】
前記操作後、沈澱した金属水酸化物等の不溶成分をとらないように注意して、上澄み液をピペット等で回収する。しかし、金属水酸化物が上澄み液に若干混入して回収された場合は、回収した上澄み液を再度、上述の方法で静置あるいは遠心分離して金属水酸化物を沈殿させて、上澄み液を再度回収することが望ましい。なお、上澄み液の回収量はDNA抽出に十分な液量であれば特に限定はない。
【0027】
次に、回収した上澄み液をフィルタでろ過することにより、フィルタ上に微生物を回収する。微生物を回収するフィルタの孔径は、微生物の大きさよりも小さな径が好ましく、具体的には0.5μm以下が好ましい。微生物には0.5μm以下の大きさのものも多く存在するため、より確実に回収するためには孔径0.2μm以下が特に好ましい。
【0028】
次に、本発明に係わる回収した微生物のDNAを抽出してDNA配列に基づいて微生物を検出する方法、さらに活性汚泥中の微生物をモニタリングする方法について説明する。
【0029】
前記操作によりフィルタ上に回収した微生物は、必要に応じて、適当な洗浄液を用いて不純物を取り除くことも可能である。洗浄液としては、例えば、分子生物学実験で一般的に使用されるTE緩衝液(エチレンジアミン四酢酸を含むトリス−塩酸緩衝液)などを用いることができる。勿論、TE緩衝液以外のものでも、後述のDNA抽出やPCR反応などの酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はない。
【0030】
フィルタ上に回収した微生物からDNAを抽出する方法としては、分子生物学実験で一般的に用いられるDNA抽出方法を用いることが可能である。例えば、塩化ベンジルを用いる方法、ガラスビーズを用いる方法、フェノールを用いる方法、酵素を用いる方法などが挙げられる。このうち、塩化ベンジルを用いるDNA抽出法が抽出効率が高いため、特に好ましいが、この方法に限定されるものではない。
【0031】
DNA抽出後、DNAの特定領域を増幅する方法について説明する。ここでDNAの特定領域とは、微生物の体内から抽出されたゲノムDNAの中で、微生物種の比較検討が可能なDNAの領域を意味する。例えば、16SリボゾームRNA遺伝子の一部などがある。DNAの特定領域の増幅方法はPCRが好ましい。PCRによりDNAを増幅した後、得られたDNA産物を、例えば変性剤濃度勾配電気泳動DGGE(Denatured Gradient Gel Electrophoresis)で泳動して、DNAを蛍光色素で染色することにより、各微生物から抽出した異なる微生物配列を持つDNAを分離したバンドとして得る。
【0032】
さらに、上記検出方法を所定時間間隔で繰り返し行うことにより、活性汚泥中の微生物の群集構造の変化をモニタリングすることが可能である。
【0033】
上記本発明の微生物回収方法を用いて微生物を経時的に回収し、次に、回収した微生物からDNAを抽出して、DNAの特定領域についてPCRによりDNAを増幅して、得られたDNA産物を、例えば変性剤濃度勾配電気泳動DGGE(Denatured Gradient Gel Electrophoresis)で泳動して、DNAを蛍光色素で染色することにより、各微生物から抽出した異なる微生物配列を持つDNAを分離したバンドとして得る。
【0034】
前記各DNAバンドからDNA配列を読み取ることが可能であるため、各DNAバンドに対応する微生物を検出、同定できる。数種類の微生物が混在する場合には、微生物の種類に対応した数のDNAバンドが得られるため、経時的に得られたDNAバンドのパターンをそれぞれ比較することで、活性汚泥中の微生物をモニタリングすることも可能である。
【0035】
金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の群集構造は、1〜2週間の間隔で採取し、DNAを調べることでモニタリングすることが好ましい。1週間未満の間隔では、微生物の増殖速度を考慮すると、微生物群集構造に認識されるべき変化が起きにくい。一方、2週間超の間隔であると、微生物群集構造の変化を検出し損なう可能性がある。ただし、1〜2週間のモニタリング間隔は目安であり、この間隔に限定されるものではない。
【0036】
なお、モニタリングは、前記方法で染色したDNAバンドの色調の濃淡変化をそれぞれ比較することで可能となる。この比較は、画像処理装置およびコンピュータを用いて行うことも可能であり、例えば、染色したDNAバンドの画像をコンピュータに取り込み、画像処理を行い、これらの濃淡を比較することにより、簡便にモニタリングすることが可能である。また、前記処理は、コンピュータプログラムにより実行することが可能である。
【0037】
微生物の同定結果に基づき、微生物の増殖状態をモニタリングすることにより、金属含有排水浄化機能を有する微生物の増殖状態を認知することが可能となる。そして、金属含有排水浄化機能を有する微生物に有利な環境条件、栄養条件等を付与することにより、微生物の浄化作用を安定に発現させることが可能となり、金属含有排水の処理の処理を促進することが可能である。
【0038】
【実施例】
(実施例1)
30日間の平均濃度が表1に示す2系統のメッキ工場排水中の鉄イオンの酸化処理に用いられている活性汚泥(系統1、2)に対して、本発明の微生物分離・回収方法、および微生物の検出方法を適用した。
【0039】
【表1】
【0040】
活性汚泥500mLに対して1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調製した。活性汚泥は、pH調製直後は赤褐色の懸濁状態であったが、室温(20℃)で1時間静置したところ、赤褐色の懸濁物質は活性汚泥ごと沈降して上澄み液は無色透明となった。
【0041】
次に、上澄み液を孔径0.2μmのフィルタでろ過し、フィルタ上にトラップされた回収物を10mMトリス−塩酸(pH9.0)、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、回収物から不純物を取り除いて微生物を回収した。続いて、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、続いて塩化ベンジルを用いてDNAを抽出した。さらにエタノール沈澱によってDNAを濃縮した。この濃縮したDNAを鋳型に対してそれぞれ表2に記載のプライマーを使用してPCRを実施した。
【0042】
【表2】
【0043】
このプライマーを用いることにより、大腸菌の16SリボゾームRNA遺伝子の506番目の塩基と907番目の塩基に挟まれたDNAの領域に対応する真正細菌のDNAを増幅することができる。DNAを増幅する酵素であるDNAポリメラーゼとして、AmpliTaq Gold(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR装置はGene Amp PCR System 9600(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR条件は、94℃で7分間の後に、94℃で30秒、アニール温度65〜55℃で60秒、72℃で90秒を20サイクル繰り返した(ただし、2サイクル毎にアニール温度が1℃ずつ下がるようにした)後に、94℃で30秒、55℃で60秒、72℃で90秒を15サイクルの後、72℃で10分間として、4℃でDNA解析に供するまで保存した。
【0044】
このPCRにより得られた、増幅されたDNA産物を2質量%アガロースで電気泳動したところ、400bp付近にDNAのバンドが確認でき、微生物の回収が行えたことを確認できた。
【0045】
そこで、上記PCRにより得られた、増幅されたDNA産物をDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)で解析した。DGGEの装置には、Dcode(BIO RAD, USA)を用いた。変性剤として尿素とホルムアミドを用い、変性剤の濃度には、30〜60質量%の濃度勾配を付けた。また、ポリアクリルアミドの濃度についても、5〜10質量%の濃度勾配をつけた。電圧130Vを印加して7時間電気泳動した。泳動後のゲルはSyber Green(TAKARA)で染色して、染色されたDNAのバンドを紫外線(310nm)照射下で、CCDカメラで撮影した。
【0046】
2系統の活性汚泥に対するDGGEによる微生物の検出結果を図1に示す。それぞれ高濃度の金属を含有するメッキ工場排水の処理に用いている活性汚泥に存在する微生物をDNAバンドとして検出することができた。さらに、図1において活性汚泥に存在する各微生物に対応する各DNAのバンドを切り出して、そのDNA配列を読み取った。読み取ったDNA配列をデータベースでホモロジー検索することで、高濃度の金属を含有するメッキ工場排水の処理に用いている活性汚泥に存在する微生物を同定することができた。両系統の活性汚泥には鉄酸化細菌が存在しており、メッキ工場排水中の2価鉄を3価鉄に酸化する工程を活性汚泥で行っているが、図1に示すようにDNA配列から、両系統の活性汚泥からは鉄酸化細菌であるチオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)が共に検出された。従って、本検出方法により鉄酸化細菌チオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)をモニタリングすることが可能となった。
【0047】
さらに、この細菌のDNAバンドの経日的な変化の観察した結果、この細菌の存在が減ってきた場合に、排水の水質変動によりpHが4以上になっていることがわかった。そこで、この細菌の増殖に有利なpH2.5に制御したところ、鉄酸化細菌チオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)の増殖が安定化し、安定な鉄酸化処理が達成できた。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、鉱山排水やメッキ工場排水等、あるいはこれらを浄化処理する活性汚泥に存在する微生物を金属と分離して回収して、微生物の検出、モニタリングすることが可能となる。従来、活性汚泥による処理の難しかった金属含有排水の処理に進展をもたらすものと期待される。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】微生物の検出例。図面に代わる電気泳動写真。
Claims (8)
- 金属含有排水の処理に用いる活性汚泥をpH7以上10以下に調製して、該活性汚泥中の金属イオンを金属水酸化物とした後、前記活性汚泥を所定時間静置して該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して前記活性汚泥中の微生物をろ膜上に分離することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
- 前記所定時間静置に代えて、遠心器またはデカンタにより前記金属水酸化物を沈殿させることを特徴とする、請求項1に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
- 前記活性汚泥が、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウムのいずれか1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥からの微生物の回収方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法で回収した微生物のDNAを抽出した後、該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNA産物のDNA配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
- 前記増幅にPCRを用いることを特徴とする、請求項4に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
- 前記DNA産物をDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該DNAバンドからDNA配列を読み取ることを特徴とする、請求項4に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物の同定方法。
- 請求項4に記載の同定方法を所定時間間隔で繰り返し行うことを特徴とする、金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
- 前記繰り返しにより得られた複数のDNA産物をそれぞれDGGEで泳動した後、泳動後のゲルを蛍光色素で染色して、染色されたDNAバンドを得て、さらに該各DNAバンドをそれぞれ画像解析し、該各DNAバンドの色調の濃淡変化から、前記活性汚泥中の微生物の群集構造の変化を求めることを特徴とする、請求項7に記載の金属含有排水の処理に用いる活性汚泥中の微生物のモニタリング方法。
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-
2002
- 2002-10-08 JP JP2002294857A patent/JP2004129510A/ja active Pending
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CN108018250B (zh) * | 2018-01-29 | 2021-07-13 | 武汉新禹智水环保科技有限公司 | 一株嗜酸氧化亚铁硫杆菌及其在环境治理中的应用 |
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