JP2004128150A - 放射線変換膜とその製造方法、直接変換型放射線イメージセンサおよび放射線撮像システム - Google Patents
放射線変換膜とその製造方法、直接変換型放射線イメージセンサおよび放射線撮像システム Download PDFInfo
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Abstract
【課題】感度が高く光応答性に優れたX線電荷変換膜を得る。
【解決手段】X線電荷変換膜が、放射線を正・負のキャリヤに変換する変換層7と、電極から変換層7へのキャリヤの注入を阻止するキャリヤ阻止層5とで構成され、キャリヤ阻止層5は、変換層7を構成する半導体にほぼ等しいか又は狭いバンドギャップを有する半導体からなり、ピクセル電極に接して形成されている。放射線変換膜、キャリヤ阻止層は、II−VI族化合物半導体からなり、キャリヤ阻止層は、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むこともできる。
【選択図】 図1
【解決手段】X線電荷変換膜が、放射線を正・負のキャリヤに変換する変換層7と、電極から変換層7へのキャリヤの注入を阻止するキャリヤ阻止層5とで構成され、キャリヤ阻止層5は、変換層7を構成する半導体にほぼ等しいか又は狭いバンドギャップを有する半導体からなり、ピクセル電極に接して形成されている。放射線変換膜、キャリヤ阻止層は、II−VI族化合物半導体からなり、キャリヤ阻止層は、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むこともできる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は放射線変換膜とその製造方法、直接変換型放射線イメージセンサおよび放射線撮像システムに係わり、特に医療用X線撮像装置に利用されるディジタルX線イメージセンサおよびそのセンサで使用されるX線電荷変換膜に好適に用いられるものである。
【0002】
【従来の技術】
X線等の放射線を吸収して直接電気信号に変換する放射線電荷変換膜(放射線変換膜)に適した特性として、(1)X線等の放射線の吸収率が高い、(2)放射線−電荷変換効率が高い、(3)バンドギャップが大きい(>1.4eV)、(4)抵抗率が高い(>109Ωcm)、(5)キャリヤの移動度μ(cm2/Vs)と寿命τ(s)の積μτ(cm2/V)が大きい、(6)アクティブマトリックス基板上に直接成膜が可能、などがある。
【0003】
上記(1)、(2)は、X線等の放射線を高感度で検出するために必要な特性であり、上記(3)、(4)は、室温で低ノイズを実現するものであり、上記(5)は高速動作、上記(6)は製造工程の簡易化に有効である。
【0004】
直接変換膜の従来技術として、例えば特許文献1に記載されているアモルファスセレン(a−Se)が知られている。アモルファスSe膜は、上記(3),(4),(6)に挙げた特性に優れており、直接変換型X線イメージセンサとして商品化されている。
【0005】
しかし、アモルファスSe膜は、上記(1)のX線の吸収効率があまり高くない、上記(2)の電気信号への変換効率が低い、上記(5)のμτ積が小さい、また、使用の際に高電圧(〜10kV)の印加を必要とするなどの点で改善が望まれている。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5319206号明細書
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
多結晶CdSは、アモルファスSeに比較して、(a)X線の吸収率が高い、(b)X線−電荷変換効率が高い、(c)バンドギャップが大きい(〜2.4eV)等の特性において優れており、化学堆積法またはスプレイ塗布法により、大面積基板への低温成膜も容易であり、高感度・低電圧駆動のX線−電荷変換膜として期待できる。
【0008】
しかし、化学堆積法、スプレイ塗布法で形成されたCdSは、放射線遮断後の抵抗値が放射線照射前の抵抗値に戻るのに、かなり長い時間を必要とするため、高速応答が必要な用途に使用するのは困難であった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の放射線変換膜は、放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜が、放射線を正・負のキャリヤに変換する変換層と、該変換層と接して設けられ、一方のキャリヤの注入を阻止するキャリヤ阻止層で構成されており、
前記変換層は半導体からなり、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するとともにバンドギャップ内に固定準位を生成し、
前記キャリヤ阻止層は、前記変換層を構成する半導体にほぼ等しいか狭いバンドギャップを有する半導体からなり、前記放射線変換膜にバイアスを印加するための一方の電極に接して形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また本発明の放射線変換膜は、放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜は、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するII−VI族化合物半導体からなるとともに、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の直接変換型X線イメージセンサは、上記本発明の放射線変換膜がa−Si等で構成される電界効果トランジスタを2次元マトリックス状に配置したアクティブマトリックス基板上に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の放射線撮像システムは、本発明の直接変換型X線イメージセンサと、
前記直接変換型X線イメージセンサからの信号を処理する信号処理手段と、
前記信号処理手段からの信号を記録するための記録手段と、
前記信号処理手段からの信号を表示するための表示手段と、
前記信号処理手段からの信号を伝送するための伝送処理手段と、
前記放射線を発生させるための放射線源とを具備することを特徴とするものである。
【0013】
なお、本願において、放射線とはX線やα,β,γ線等をいう。また、化学堆積法(Chemical Deposition または Chemical Bath Deposition)とは、堆積させたい化合物を構成する元素を含むそれぞれの物質を溶かした溶液を作製し、この中に設置した基板上に目的とする化合物、今の場合多結晶CdSeを堆積させるものである。
【0014】
化学堆積法、スプレイ塗布法で形成されたCdSにおいて、X線等の放射線を遮断した後、抵抗値が放射線照射前の抵抗値に戻るのが遅い一因は、放射線照射によって、キャリヤ励起と共にCdS等の半導体のバンドギャップ内に固定準位が形成され、これらの準位の内、再びキャリヤを捕獲する過程に長い時間を必要する準位が形成されることによる。 本発明は、このような放射線遮断後の長い緩和時間の抵抗変化を回避する手段として、前記固定準位がキャリヤを捕獲することを阻止することで、固定準位の存在のもとで空乏状態を維持させ、放射線遮断後の速い抵抗回復を実現する。
【0015】
固定準位がキャリヤを捕獲することを阻止するためには、固定準位を有する
CdS層等の半導体とバイアスを印加するための電極を物理的に離すことが有効である。
【0016】
緩和時間の長い準位は、CdS等の半導体のミッドギャップ付近に形成され、一方、高抵抗のCdS等の半導体と電極の接続部では、電極のフェルミ準位がCdS等の半導体のミッドギャップ付近に存在するため、電極から前記準位へのキャリヤ移動に対する障壁は小さく、CdS層等の半導体中の固定準位は、電極からキャリヤを容易に捕獲できる。
【0017】
そこで、このキャリヤ捕獲を低減するための第1の方法は、半導体層として
CdS層を例に取ると、(1)CdS層と電極の間に、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層、CdTe層を挿入して、CdS層と電極が直接に接することを回避し、放射線遮断後の速い抵抗回復を可能にする。しかし、CdS層と挿入する層の界面に界面準位が多く形成されると、界面準位を介したキャリヤ注入・捕獲が発生するため、CdS層の固定準位によるキャリヤ捕獲の低減効果が小さくなる。CdSe、CdTeは、CdSと同じII−VI族化合物半導体であり、格子定数も近いことから、界面準位の少ないヘテロ接合を形成するので、効果的にキャリヤ捕獲を低減できる。
【0018】
前記挿入層のバンドギャップは、X線吸収膜であるCdSより広くないことが必要である。これは、X線照射によって生じたキャリヤの一部が、挿入層の広いバンドギャップにより形成されるヘテロ界面の高い障壁を越えられずヘテロ界面付近に蓄積されたり、電極への到達が遅れたりすることで、信号ではなく雑音として検出されることにより感度が低下してしまうためである。CdSeやCdTeは、CdSよりバンドギャップが狭いので、X線照射によって生じたキャリヤがスムーズに電極に到達できる。
【0019】
キャリヤ捕獲を低減するための第2の方法は、II−VI族化合物半導体層としてCdS層を例に取ると、(2)電極近傍のCdS層が光照射によって、CdSのミッドギャップ付近に固定準位が生じないようにする。具体的には、電極近傍のCdS層がフッ素、塩素、臭素、よう素を含むことで、多結晶粒界における酸素吸着を低減することで、吸着酸素が励起されて形成されるミッドギャップ付近の固定準位の生成を低減する。
【0020】
これにより、ミッドギャップ近傍に固定準位が生じるCdS層(CdSe層、CdTe層等のII−VI族化合物半導体層も同様である)と電極が直接に接しないことで、放射線照射によってCdS層のバンドギャップ内に形成された固定準位が電極からキャリヤを捕獲するのを防ぐことができ、応答特性・感度に優れた放射線変換膜およびディジタル放射線イメージセンサが実現できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ここでは、放射線変換膜としてX線電荷変換膜、それを用いた直接変換型X線イメージセンサを例に取って説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサの原理図である。
【0023】
基本構成は、X線を吸収して電気信号に変換するX線電荷変換層7とキャリヤ阻止層5からなるX線電荷変換膜、X線電荷変換膜からの電気信号を電荷として蓄積する蓄積容量(コンデンサ)12、および、蓄積容量12への電荷蓄積・電圧の読み出しに使用するFET(電界効果トランジスタ)13、X線電荷変換膜にバイアス電圧Vを印加するためのバイアス電極8とピクセル電極11からなる。バイアス電極8が正電位、ピクセル電極11が負電位となるようにバイアス電圧Vが印加される。
【0024】
蓄積容量12およびFET13が一次元または二次元に配列されたTFTアレイのほぼ全面を覆うように、ピクセル電極11、X線電荷変換膜、バイアス電極8が積層されている。X線発生器から放射されたX線の中で、人体等の被検体で吸収されず透過したX線がX線電荷変換層7に入射する。直接変換方式では、X線電荷変換層7内に入射したX線量に応じた電荷(正孔−電子対)が励起される。
【0025】
理想的なX線電荷変換層では、X線による励起は、価電子帯の電子が伝導帯に励起される、つまり、電子−正孔対が発生することになるが、実際のX線電荷変換層を構成する半導体は、高抵抗であり真性半導体に近いが、少ないながらも不純物を含む。また、X線電荷変換層が多結晶半導体で形成される場合は、結晶粒界に不純物が偏析している。このようなX線電荷変換層に、X線が照射されるとバンドギャップ内に固定準位も形成される。
【0026】
X線電荷変換層7には全面に形成されたバイアス電極8とセルごとに形成されたピクセル電極11とによりバイアス電圧Vが印加される。発生したキャリヤは、X線電荷変換層に印加されているバイアスの極性に従い電子はバイアス電極8へ、正孔はピクセル電極11に移動し、電荷としてTFTアレイ内の蓄積容量(Cs)12に蓄積される。
【0027】
一方、バンドギャップ内に形成された固定準位は導電性を持たないので、X線遮断後にもこの状態を維持すればX線電荷変換層の抵抗値はX線照射前の初期状態に戻る。しかしながら、X線遮断後に、これらの固定準位がキャリヤを捕獲して、X線照射前の状態に戻る場合は、その捕獲過程でX線吸収膜の抵抗が変化し、X線照射前の初期状態に戻るまでに時間を要すことになり、X線検出の動作が制限される。
【0028】
このような固定準位を有するX線電荷変換層と金属電極が接していると前述したように、ミッドギャップ付近の固定準位と電極のフェルミレベルがエネルギー的に接近しているため、キャリヤの捕獲が容易に起こる。更に、X線電荷変換層には、高感度検出や高速動作のために、比較的高いバイアスを印加するため、X線電荷変換層と電極の界面には高い電界が印加されるので、固定準位によるキャリヤ捕獲の確率は非常に高くなる。
【0029】
そこで、X線電荷変換層と良好な接合を形成する半導体層(キャリヤ阻止層)をX線電荷変換層と電極の間に挿入することで、X線変換層と電極を空間的に分離する。これにより、X線電荷変換層のバンドギャップ内に形成された固定準位によるキャリヤの捕獲を低減し、応答特性に優れたX線電荷変換膜を構成できる。
【0030】
化学堆積法、スプレイ塗布法で形成された多結晶CdSは、X線の吸収効率が高く、X線−電荷変換効率も高いが、X線照射によって キャリヤの励起とバンドギャップ内に固定準位が形成される。そこで、多結晶CdS層と電極の間に、キャリヤ阻止層として、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層、CdTe層を挿入し、電極とCdS層を空間的に離すことにより、CdS層のバンドギャップ内に形成された固定準位が電極からキャリヤを捕獲する確率を低減することで、応答特性・感度に優れたX線電荷変換膜が構成される。
【0031】
図4は、本発明の第2実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサの原理図である。図1に示した部材と同一構成部材については同一符号を付し、説明を省略する。図4において、7aはX線電荷変換層7のフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含む領域を示し、この領域はピクセル電極11近傍に設けられる。ただし、X線電荷変換層7全体にフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを導入してもよい。
【0032】
本実施形態ではX線電荷変換層(膜)の電極近傍の多結晶CdS層がフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含むことで、X線照射による固定準位の生成を低減、あるいは、生成される固定準位のエネルギーレベルを変化させる。この層により、電極とCdS層内に生成されるミッドギャップ付近の固定準位が、空間的あるいはエネルギー的に離れるため、応答特性・感度に優れたX線電荷変換膜が構成される。
【0033】
上述した第1及び第2の実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサにおいて、TFTアレイ内の蓄積容量(Cs)12に蓄積された電荷情報は、TFT13を線順次に走査することで、データバスラインを通して読み出すことができる。データバスラインの端部には、増幅回路(CSA:Charge Sensitive Amplifier)とA/Dコンバータが接続されており、読み出された電荷情報はディジタル画像信号に変換されて順次出力される。
【0034】
これにより、ボケの少ない、高精度のX線撮影像を得るとともに、撮影に必要な照射X線量を低減できる上、高精彩な動画撮影を可能になる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
図2は、本発明を実施した第1実施例の直接変換型X線イメージセンサの1ピクセル部分の断面図である。同図において、まず、ガラス板1上にFETのゲート電極2と電荷蓄積のためのコンデンサの一方の電極9を形成し、その上に窒化シリコン層3を全面を覆うように形成する。窒化シリコン層3は、FETのゲート絶縁膜であり、コンデンサを構成する絶縁層でもある。さらに、FETのチャネルとなるアモルファスシリコン層6をゲート電極2の上部にのみ形成する。続いて、コンデンサのもう一方の電極であり、FETのドレイン電極でもある電極10を形成する(なお、電極10はピクセル電極をも兼ねる)。ここまでの構成は、液晶ディスプレイのアクティブマトリックス基板と同様の工程で作られる。その上に、キャリヤ阻止層であるCdSe層5を介して、X線電荷変換層であるCdS層7を積層し、さらにバイアス電極8を形成してX線センサの基本構成が完成する。
【0037】
CdSe層5とCdS層7は、溶液中において化学堆積法により形成した。CdSe層は、硝酸カドミウム:cadmium nitrate(Cd(NO3)2・4H2O)とジメチルセレノ尿素:dimethyl selenourea((CH3)2NC(Se)NH2)を含む溶液から化学堆積し、CdS層は、酢酸カドミウム:cadmium acetate(Cd(CH3CO2))とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む溶液から化学堆積した。それぞれの化学堆積膜は多結晶であり、〜109Ωcm程度の高い抵抗率を有し、X線吸収膜として適している。
【0038】
図3(a)、(b)は、バイアス電極8に正電圧を印加したX線電荷変換部のエネルギーバンド図であり、図3(a)は主に入射X線を吸収しキャリヤを励起する厚い多結晶CdS層7と、ピクセル電極10からCdS層7へキャリヤが移動するのを阻止するCdSe層5で構成された本実施例、図3(b)は多結晶CdS層7を設けない構成を示す比較例を示している。
【0039】
CdS層7では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるが、バンドギャップ内に固定準位も形成される。図3(a)は、X線を照射後、遮断した状態を表しており、X線照射によりバンドギャップ内に形成された固定準位が残留している。
【0040】
図3(b)に示すように、この固定準位が電極からキャリヤを捕獲すると、X線の照射がないにもかかわらず、X線電荷変換膜の抵抗が低下し、検出器の検出限界を低下させる。また、このキャリヤ捕獲の時定数が長いので、X線検出サイクルの速さを制限することになる。
【0041】
そこで、図3(a)に示されているように、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層5をCdS層7とピクセル電極10間に挿入して、CdS層と電極を空間的に分離することで、CdS層の固定準位が電極からキャリヤを捕獲する確率を低減できる。これにより、CdS層へのX線照射が遮断されると短時間で照射前の高抵抗状態に回復できる。また、CdSeは、CdSよりバンドギャップが小さいので、X線照射によってCdS層内に生成されたキャリヤがCdS−CdSe界面で蓄積されることなく、信号として検出される。
【0042】
したがって、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が構成でき、高感度の直接変換型X線イメージセンサが実現できる。
【0043】
なお、本実施例では、X線変換層およびキャリヤ阻止層を化学堆積法により形成したが、たとえば、CdS層を塩化カドミウム:cadmium cloride(CdCl2)とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む水溶液を加熱した基板に吹き付けて多結晶膜を形成するスプレイ塗布法で形成することもできる。
【0044】
[実施例2]
図5は、本発明を実施した第2実施例の直接変換型X線イメージセンサの1ピクセル部分の断面図である。図2に示した部材と同一構成部材については同一符号を付する。ピクセル電極10とX線電荷変換層7の間に、X線電荷変換層にフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含むキャリヤ注入阻止領域7aが存在する。図6はバイアス電極8に正電圧を印加したX線変換部のエネルギーバンド図である。
【0045】
実施例1との違いは、X線を吸収しキャリヤを励起する厚い多結晶CdS層7と、ピクセル電極10の間のキャリヤ阻止層がCdS:Cl領域7aで構成されていることである。CdS層では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるが、バンドギャップ内に固定準位も形成される。しかし、CdS:Cl層では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるものの、吸着酸素の励起によってミッドギャップ付近に生成される固定準位は、酸素が塩素により置換されているため生成されない。したがって、実施例1と同様に、X線電荷変換層CdS層7の固定準位がピクセル電極10からキャリヤを捕獲することが阻止される。
【0046】
積層膜の形成は、まず、酢酸カドミウム:cadmium acetate(Cd(CH3CO2))とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む溶液に塩素を加えた溶液からCdS:Cl層を化学堆積し、続いて、塩素を含まない溶液からX線変換層のCdS層を化学堆積することで本構成が実現できる。
【0047】
これにより、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が構成でき、高感度の直接変換型X線イメージセンサが実現できる。
【0048】
[比較例]
図3(b)は、比較例であり、多結晶CdS単層で構成したX線電荷変換膜のエネルギーバンド図であり、X線を照射後、遮断した状態を表しており、X線照射によりバンドギャップ内に形成された固定準位がマイナス電極からキャリヤを捕獲することで、光が遮断されても直ちに高抵抗状態にならない。
【0049】
真性半導体では、電子の注入はマイナス電極から伝導帯へ行われるが、CdSは高抵抗であり、フェルミレベルは、CdSのバンドギャップの中央付近に存在するため、伝導帯への注入は少ないが、X線照射によってバンドギャップ内に形成された固定準位は、金属電極のフェルミレベル付近やそれより低いエネルギーレベルにあるため、電極から電子が容易に注入される。
【0050】
このため、膜抵抗がX線照射前の抵抗値の1/2まで回復するために数十秒以上必要とした。しかし、実施例1,2では、この回復に要する時間が、数ミリ秒以下に短縮され、動画撮影に十分な応答特性が得られた。
【0051】
図7は本発明による直接変換型放射線イメージセンサのX線診断システムへの応用例を示す説明図である。
【0052】
放射線源となるX線チューブ6050で発生したX線6060は患者あるいは被験者6061の胸部6062を透過し、直接変換型放射線イメージセンサ6040に入射する。この入射したX線には患者6061の体内部の情報が含まれている。X線の入射に対応して直接変換型放射線イメージセンサ6040により電気的情報を得る。この情報はディジタルに変換され信号処理手段となるイメージプロセッサ6070により画像処理され制御室の表示手段となるディスプレイ6080で観察できる。
【0053】
また、この情報は電話回線6090等の伝送処理手段により遠隔地へ転送でき、別の場所のドクタールームなど表示手段となるディスプレイ6081に表示もしくは光ディスク等に保存することができ、遠隔地の医師が診断することも可能である。また記録手段となるフィルムプロセッサ6100によりフィルム6110に記録することもできる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が実現でき、高感度の直接変換型放射線イメージセンサを構成できる。
【0055】
またCdS、CdSeは、化学堆積法またはスプレイ塗布法により、低温で大面積に容易に成膜できるので、a−Siで構成されたFETが2次元マトリックス状に配置されたアクティブマトリックス基板上に直接形成も可能であり、高感度の直接変換型放射線イメージセンサを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の直接変換型X線イメージセンサーの原理構成図である。
【図2】本発明の第1実施例の直接変換型X線センサーの断面図である。
【図3】(a)はX線電荷変換膜をCdS/CdSeで構成したエネルギーバンド図、(b)はX線電荷変換膜をCdS層で構成したエネルギーバンド図である。
【図4】本発明の第2実施形態の直接変換型X線イメージセンサーの原理構成図である。
【図5】本発明の第2実施例の直接変換型X線センサーの断面図である。
【図6】X線電荷変換膜をCdS/CdS:Clで構成したエネルギーバンド図である。
【図7】本発明による直接変換型放射線イメージセンサのX線診断システムへの応用例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ガラス板
2 FETゲート電極
3 ゲート絶縁層
4 FETソース電極
5 電極とX線変換膜の分離層
6 FETのチャネル層
7 X線変換層
8 バイアス電極
9 コンデンサ電極
10 コンデンサ電極(対向)
11 ピクセル電極
12 蓄積容量
13 FET
【発明の属する技術分野】
本発明は放射線変換膜とその製造方法、直接変換型放射線イメージセンサおよび放射線撮像システムに係わり、特に医療用X線撮像装置に利用されるディジタルX線イメージセンサおよびそのセンサで使用されるX線電荷変換膜に好適に用いられるものである。
【0002】
【従来の技術】
X線等の放射線を吸収して直接電気信号に変換する放射線電荷変換膜(放射線変換膜)に適した特性として、(1)X線等の放射線の吸収率が高い、(2)放射線−電荷変換効率が高い、(3)バンドギャップが大きい(>1.4eV)、(4)抵抗率が高い(>109Ωcm)、(5)キャリヤの移動度μ(cm2/Vs)と寿命τ(s)の積μτ(cm2/V)が大きい、(6)アクティブマトリックス基板上に直接成膜が可能、などがある。
【0003】
上記(1)、(2)は、X線等の放射線を高感度で検出するために必要な特性であり、上記(3)、(4)は、室温で低ノイズを実現するものであり、上記(5)は高速動作、上記(6)は製造工程の簡易化に有効である。
【0004】
直接変換膜の従来技術として、例えば特許文献1に記載されているアモルファスセレン(a−Se)が知られている。アモルファスSe膜は、上記(3),(4),(6)に挙げた特性に優れており、直接変換型X線イメージセンサとして商品化されている。
【0005】
しかし、アモルファスSe膜は、上記(1)のX線の吸収効率があまり高くない、上記(2)の電気信号への変換効率が低い、上記(5)のμτ積が小さい、また、使用の際に高電圧(〜10kV)の印加を必要とするなどの点で改善が望まれている。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5319206号明細書
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
多結晶CdSは、アモルファスSeに比較して、(a)X線の吸収率が高い、(b)X線−電荷変換効率が高い、(c)バンドギャップが大きい(〜2.4eV)等の特性において優れており、化学堆積法またはスプレイ塗布法により、大面積基板への低温成膜も容易であり、高感度・低電圧駆動のX線−電荷変換膜として期待できる。
【0008】
しかし、化学堆積法、スプレイ塗布法で形成されたCdSは、放射線遮断後の抵抗値が放射線照射前の抵抗値に戻るのに、かなり長い時間を必要とするため、高速応答が必要な用途に使用するのは困難であった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の放射線変換膜は、放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜が、放射線を正・負のキャリヤに変換する変換層と、該変換層と接して設けられ、一方のキャリヤの注入を阻止するキャリヤ阻止層で構成されており、
前記変換層は半導体からなり、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するとともにバンドギャップ内に固定準位を生成し、
前記キャリヤ阻止層は、前記変換層を構成する半導体にほぼ等しいか狭いバンドギャップを有する半導体からなり、前記放射線変換膜にバイアスを印加するための一方の電極に接して形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また本発明の放射線変換膜は、放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜は、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するII−VI族化合物半導体からなるとともに、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の直接変換型X線イメージセンサは、上記本発明の放射線変換膜がa−Si等で構成される電界効果トランジスタを2次元マトリックス状に配置したアクティブマトリックス基板上に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の放射線撮像システムは、本発明の直接変換型X線イメージセンサと、
前記直接変換型X線イメージセンサからの信号を処理する信号処理手段と、
前記信号処理手段からの信号を記録するための記録手段と、
前記信号処理手段からの信号を表示するための表示手段と、
前記信号処理手段からの信号を伝送するための伝送処理手段と、
前記放射線を発生させるための放射線源とを具備することを特徴とするものである。
【0013】
なお、本願において、放射線とはX線やα,β,γ線等をいう。また、化学堆積法(Chemical Deposition または Chemical Bath Deposition)とは、堆積させたい化合物を構成する元素を含むそれぞれの物質を溶かした溶液を作製し、この中に設置した基板上に目的とする化合物、今の場合多結晶CdSeを堆積させるものである。
【0014】
化学堆積法、スプレイ塗布法で形成されたCdSにおいて、X線等の放射線を遮断した後、抵抗値が放射線照射前の抵抗値に戻るのが遅い一因は、放射線照射によって、キャリヤ励起と共にCdS等の半導体のバンドギャップ内に固定準位が形成され、これらの準位の内、再びキャリヤを捕獲する過程に長い時間を必要する準位が形成されることによる。 本発明は、このような放射線遮断後の長い緩和時間の抵抗変化を回避する手段として、前記固定準位がキャリヤを捕獲することを阻止することで、固定準位の存在のもとで空乏状態を維持させ、放射線遮断後の速い抵抗回復を実現する。
【0015】
固定準位がキャリヤを捕獲することを阻止するためには、固定準位を有する
CdS層等の半導体とバイアスを印加するための電極を物理的に離すことが有効である。
【0016】
緩和時間の長い準位は、CdS等の半導体のミッドギャップ付近に形成され、一方、高抵抗のCdS等の半導体と電極の接続部では、電極のフェルミ準位がCdS等の半導体のミッドギャップ付近に存在するため、電極から前記準位へのキャリヤ移動に対する障壁は小さく、CdS層等の半導体中の固定準位は、電極からキャリヤを容易に捕獲できる。
【0017】
そこで、このキャリヤ捕獲を低減するための第1の方法は、半導体層として
CdS層を例に取ると、(1)CdS層と電極の間に、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層、CdTe層を挿入して、CdS層と電極が直接に接することを回避し、放射線遮断後の速い抵抗回復を可能にする。しかし、CdS層と挿入する層の界面に界面準位が多く形成されると、界面準位を介したキャリヤ注入・捕獲が発生するため、CdS層の固定準位によるキャリヤ捕獲の低減効果が小さくなる。CdSe、CdTeは、CdSと同じII−VI族化合物半導体であり、格子定数も近いことから、界面準位の少ないヘテロ接合を形成するので、効果的にキャリヤ捕獲を低減できる。
【0018】
前記挿入層のバンドギャップは、X線吸収膜であるCdSより広くないことが必要である。これは、X線照射によって生じたキャリヤの一部が、挿入層の広いバンドギャップにより形成されるヘテロ界面の高い障壁を越えられずヘテロ界面付近に蓄積されたり、電極への到達が遅れたりすることで、信号ではなく雑音として検出されることにより感度が低下してしまうためである。CdSeやCdTeは、CdSよりバンドギャップが狭いので、X線照射によって生じたキャリヤがスムーズに電極に到達できる。
【0019】
キャリヤ捕獲を低減するための第2の方法は、II−VI族化合物半導体層としてCdS層を例に取ると、(2)電極近傍のCdS層が光照射によって、CdSのミッドギャップ付近に固定準位が生じないようにする。具体的には、電極近傍のCdS層がフッ素、塩素、臭素、よう素を含むことで、多結晶粒界における酸素吸着を低減することで、吸着酸素が励起されて形成されるミッドギャップ付近の固定準位の生成を低減する。
【0020】
これにより、ミッドギャップ近傍に固定準位が生じるCdS層(CdSe層、CdTe層等のII−VI族化合物半導体層も同様である)と電極が直接に接しないことで、放射線照射によってCdS層のバンドギャップ内に形成された固定準位が電極からキャリヤを捕獲するのを防ぐことができ、応答特性・感度に優れた放射線変換膜およびディジタル放射線イメージセンサが実現できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ここでは、放射線変換膜としてX線電荷変換膜、それを用いた直接変換型X線イメージセンサを例に取って説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサの原理図である。
【0023】
基本構成は、X線を吸収して電気信号に変換するX線電荷変換層7とキャリヤ阻止層5からなるX線電荷変換膜、X線電荷変換膜からの電気信号を電荷として蓄積する蓄積容量(コンデンサ)12、および、蓄積容量12への電荷蓄積・電圧の読み出しに使用するFET(電界効果トランジスタ)13、X線電荷変換膜にバイアス電圧Vを印加するためのバイアス電極8とピクセル電極11からなる。バイアス電極8が正電位、ピクセル電極11が負電位となるようにバイアス電圧Vが印加される。
【0024】
蓄積容量12およびFET13が一次元または二次元に配列されたTFTアレイのほぼ全面を覆うように、ピクセル電極11、X線電荷変換膜、バイアス電極8が積層されている。X線発生器から放射されたX線の中で、人体等の被検体で吸収されず透過したX線がX線電荷変換層7に入射する。直接変換方式では、X線電荷変換層7内に入射したX線量に応じた電荷(正孔−電子対)が励起される。
【0025】
理想的なX線電荷変換層では、X線による励起は、価電子帯の電子が伝導帯に励起される、つまり、電子−正孔対が発生することになるが、実際のX線電荷変換層を構成する半導体は、高抵抗であり真性半導体に近いが、少ないながらも不純物を含む。また、X線電荷変換層が多結晶半導体で形成される場合は、結晶粒界に不純物が偏析している。このようなX線電荷変換層に、X線が照射されるとバンドギャップ内に固定準位も形成される。
【0026】
X線電荷変換層7には全面に形成されたバイアス電極8とセルごとに形成されたピクセル電極11とによりバイアス電圧Vが印加される。発生したキャリヤは、X線電荷変換層に印加されているバイアスの極性に従い電子はバイアス電極8へ、正孔はピクセル電極11に移動し、電荷としてTFTアレイ内の蓄積容量(Cs)12に蓄積される。
【0027】
一方、バンドギャップ内に形成された固定準位は導電性を持たないので、X線遮断後にもこの状態を維持すればX線電荷変換層の抵抗値はX線照射前の初期状態に戻る。しかしながら、X線遮断後に、これらの固定準位がキャリヤを捕獲して、X線照射前の状態に戻る場合は、その捕獲過程でX線吸収膜の抵抗が変化し、X線照射前の初期状態に戻るまでに時間を要すことになり、X線検出の動作が制限される。
【0028】
このような固定準位を有するX線電荷変換層と金属電極が接していると前述したように、ミッドギャップ付近の固定準位と電極のフェルミレベルがエネルギー的に接近しているため、キャリヤの捕獲が容易に起こる。更に、X線電荷変換層には、高感度検出や高速動作のために、比較的高いバイアスを印加するため、X線電荷変換層と電極の界面には高い電界が印加されるので、固定準位によるキャリヤ捕獲の確率は非常に高くなる。
【0029】
そこで、X線電荷変換層と良好な接合を形成する半導体層(キャリヤ阻止層)をX線電荷変換層と電極の間に挿入することで、X線変換層と電極を空間的に分離する。これにより、X線電荷変換層のバンドギャップ内に形成された固定準位によるキャリヤの捕獲を低減し、応答特性に優れたX線電荷変換膜を構成できる。
【0030】
化学堆積法、スプレイ塗布法で形成された多結晶CdSは、X線の吸収効率が高く、X線−電荷変換効率も高いが、X線照射によって キャリヤの励起とバンドギャップ内に固定準位が形成される。そこで、多結晶CdS層と電極の間に、キャリヤ阻止層として、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層、CdTe層を挿入し、電極とCdS層を空間的に離すことにより、CdS層のバンドギャップ内に形成された固定準位が電極からキャリヤを捕獲する確率を低減することで、応答特性・感度に優れたX線電荷変換膜が構成される。
【0031】
図4は、本発明の第2実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサの原理図である。図1に示した部材と同一構成部材については同一符号を付し、説明を省略する。図4において、7aはX線電荷変換層7のフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含む領域を示し、この領域はピクセル電極11近傍に設けられる。ただし、X線電荷変換層7全体にフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを導入してもよい。
【0032】
本実施形態ではX線電荷変換層(膜)の電極近傍の多結晶CdS層がフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含むことで、X線照射による固定準位の生成を低減、あるいは、生成される固定準位のエネルギーレベルを変化させる。この層により、電極とCdS層内に生成されるミッドギャップ付近の固定準位が、空間的あるいはエネルギー的に離れるため、応答特性・感度に優れたX線電荷変換膜が構成される。
【0033】
上述した第1及び第2の実施形態に係わる直接変換型X線イメージセンサにおいて、TFTアレイ内の蓄積容量(Cs)12に蓄積された電荷情報は、TFT13を線順次に走査することで、データバスラインを通して読み出すことができる。データバスラインの端部には、増幅回路(CSA:Charge Sensitive Amplifier)とA/Dコンバータが接続されており、読み出された電荷情報はディジタル画像信号に変換されて順次出力される。
【0034】
これにより、ボケの少ない、高精度のX線撮影像を得るとともに、撮影に必要な照射X線量を低減できる上、高精彩な動画撮影を可能になる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
図2は、本発明を実施した第1実施例の直接変換型X線イメージセンサの1ピクセル部分の断面図である。同図において、まず、ガラス板1上にFETのゲート電極2と電荷蓄積のためのコンデンサの一方の電極9を形成し、その上に窒化シリコン層3を全面を覆うように形成する。窒化シリコン層3は、FETのゲート絶縁膜であり、コンデンサを構成する絶縁層でもある。さらに、FETのチャネルとなるアモルファスシリコン層6をゲート電極2の上部にのみ形成する。続いて、コンデンサのもう一方の電極であり、FETのドレイン電極でもある電極10を形成する(なお、電極10はピクセル電極をも兼ねる)。ここまでの構成は、液晶ディスプレイのアクティブマトリックス基板と同様の工程で作られる。その上に、キャリヤ阻止層であるCdSe層5を介して、X線電荷変換層であるCdS層7を積層し、さらにバイアス電極8を形成してX線センサの基本構成が完成する。
【0037】
CdSe層5とCdS層7は、溶液中において化学堆積法により形成した。CdSe層は、硝酸カドミウム:cadmium nitrate(Cd(NO3)2・4H2O)とジメチルセレノ尿素:dimethyl selenourea((CH3)2NC(Se)NH2)を含む溶液から化学堆積し、CdS層は、酢酸カドミウム:cadmium acetate(Cd(CH3CO2))とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む溶液から化学堆積した。それぞれの化学堆積膜は多結晶であり、〜109Ωcm程度の高い抵抗率を有し、X線吸収膜として適している。
【0038】
図3(a)、(b)は、バイアス電極8に正電圧を印加したX線電荷変換部のエネルギーバンド図であり、図3(a)は主に入射X線を吸収しキャリヤを励起する厚い多結晶CdS層7と、ピクセル電極10からCdS層7へキャリヤが移動するのを阻止するCdSe層5で構成された本実施例、図3(b)は多結晶CdS層7を設けない構成を示す比較例を示している。
【0039】
CdS層7では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるが、バンドギャップ内に固定準位も形成される。図3(a)は、X線を照射後、遮断した状態を表しており、X線照射によりバンドギャップ内に形成された固定準位が残留している。
【0040】
図3(b)に示すように、この固定準位が電極からキャリヤを捕獲すると、X線の照射がないにもかかわらず、X線電荷変換膜の抵抗が低下し、検出器の検出限界を低下させる。また、このキャリヤ捕獲の時定数が長いので、X線検出サイクルの速さを制限することになる。
【0041】
そこで、図3(a)に示されているように、CdSよりバンドギャップの小さいCdSe層5をCdS層7とピクセル電極10間に挿入して、CdS層と電極を空間的に分離することで、CdS層の固定準位が電極からキャリヤを捕獲する確率を低減できる。これにより、CdS層へのX線照射が遮断されると短時間で照射前の高抵抗状態に回復できる。また、CdSeは、CdSよりバンドギャップが小さいので、X線照射によってCdS層内に生成されたキャリヤがCdS−CdSe界面で蓄積されることなく、信号として検出される。
【0042】
したがって、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が構成でき、高感度の直接変換型X線イメージセンサが実現できる。
【0043】
なお、本実施例では、X線変換層およびキャリヤ阻止層を化学堆積法により形成したが、たとえば、CdS層を塩化カドミウム:cadmium cloride(CdCl2)とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む水溶液を加熱した基板に吹き付けて多結晶膜を形成するスプレイ塗布法で形成することもできる。
【0044】
[実施例2]
図5は、本発明を実施した第2実施例の直接変換型X線イメージセンサの1ピクセル部分の断面図である。図2に示した部材と同一構成部材については同一符号を付する。ピクセル電極10とX線電荷変換層7の間に、X線電荷変換層にフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも1つを含むキャリヤ注入阻止領域7aが存在する。図6はバイアス電極8に正電圧を印加したX線変換部のエネルギーバンド図である。
【0045】
実施例1との違いは、X線を吸収しキャリヤを励起する厚い多結晶CdS層7と、ピクセル電極10の間のキャリヤ阻止層がCdS:Cl領域7aで構成されていることである。CdS層では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるが、バンドギャップ内に固定準位も形成される。しかし、CdS:Cl層では、入射X線によりキャリヤである電子−正孔対が励起されるものの、吸着酸素の励起によってミッドギャップ付近に生成される固定準位は、酸素が塩素により置換されているため生成されない。したがって、実施例1と同様に、X線電荷変換層CdS層7の固定準位がピクセル電極10からキャリヤを捕獲することが阻止される。
【0046】
積層膜の形成は、まず、酢酸カドミウム:cadmium acetate(Cd(CH3CO2))とチオ尿素:thiourea(CS(CN2)2)を含む溶液に塩素を加えた溶液からCdS:Cl層を化学堆積し、続いて、塩素を含まない溶液からX線変換層のCdS層を化学堆積することで本構成が実現できる。
【0047】
これにより、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が構成でき、高感度の直接変換型X線イメージセンサが実現できる。
【0048】
[比較例]
図3(b)は、比較例であり、多結晶CdS単層で構成したX線電荷変換膜のエネルギーバンド図であり、X線を照射後、遮断した状態を表しており、X線照射によりバンドギャップ内に形成された固定準位がマイナス電極からキャリヤを捕獲することで、光が遮断されても直ちに高抵抗状態にならない。
【0049】
真性半導体では、電子の注入はマイナス電極から伝導帯へ行われるが、CdSは高抵抗であり、フェルミレベルは、CdSのバンドギャップの中央付近に存在するため、伝導帯への注入は少ないが、X線照射によってバンドギャップ内に形成された固定準位は、金属電極のフェルミレベル付近やそれより低いエネルギーレベルにあるため、電極から電子が容易に注入される。
【0050】
このため、膜抵抗がX線照射前の抵抗値の1/2まで回復するために数十秒以上必要とした。しかし、実施例1,2では、この回復に要する時間が、数ミリ秒以下に短縮され、動画撮影に十分な応答特性が得られた。
【0051】
図7は本発明による直接変換型放射線イメージセンサのX線診断システムへの応用例を示す説明図である。
【0052】
放射線源となるX線チューブ6050で発生したX線6060は患者あるいは被験者6061の胸部6062を透過し、直接変換型放射線イメージセンサ6040に入射する。この入射したX線には患者6061の体内部の情報が含まれている。X線の入射に対応して直接変換型放射線イメージセンサ6040により電気的情報を得る。この情報はディジタルに変換され信号処理手段となるイメージプロセッサ6070により画像処理され制御室の表示手段となるディスプレイ6080で観察できる。
【0053】
また、この情報は電話回線6090等の伝送処理手段により遠隔地へ転送でき、別の場所のドクタールームなど表示手段となるディスプレイ6081に表示もしくは光ディスク等に保存することができ、遠隔地の医師が診断することも可能である。また記録手段となるフィルムプロセッサ6100によりフィルム6110に記録することもできる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、感度が高く、光応答性に優れたX線電荷変換膜が実現でき、高感度の直接変換型放射線イメージセンサを構成できる。
【0055】
またCdS、CdSeは、化学堆積法またはスプレイ塗布法により、低温で大面積に容易に成膜できるので、a−Siで構成されたFETが2次元マトリックス状に配置されたアクティブマトリックス基板上に直接形成も可能であり、高感度の直接変換型放射線イメージセンサを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の直接変換型X線イメージセンサーの原理構成図である。
【図2】本発明の第1実施例の直接変換型X線センサーの断面図である。
【図3】(a)はX線電荷変換膜をCdS/CdSeで構成したエネルギーバンド図、(b)はX線電荷変換膜をCdS層で構成したエネルギーバンド図である。
【図4】本発明の第2実施形態の直接変換型X線イメージセンサーの原理構成図である。
【図5】本発明の第2実施例の直接変換型X線センサーの断面図である。
【図6】X線電荷変換膜をCdS/CdS:Clで構成したエネルギーバンド図である。
【図7】本発明による直接変換型放射線イメージセンサのX線診断システムへの応用例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ガラス板
2 FETゲート電極
3 ゲート絶縁層
4 FETソース電極
5 電極とX線変換膜の分離層
6 FETのチャネル層
7 X線変換層
8 バイアス電極
9 コンデンサ電極
10 コンデンサ電極(対向)
11 ピクセル電極
12 蓄積容量
13 FET
Claims (13)
- 放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜が、放射線を正・負のキャリヤに変換する変換層と、該変換層と接して設けられ、一方のキャリヤの注入を阻止するキャリヤ阻止層で構成されており、
前記変換層は半導体からなり、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するとともにバンドギャップ内に固定準位を生成し、
前記キャリヤ阻止層は、前記変換層を構成する半導体にほぼ等しいか又は狭いバンドギャップを有する半導体からなり、前記放射線変換膜にバイアスを印加するための一方の電極に接して形成されていることを特徴とする放射線変換膜。 - 前記一方の電極は、前記放射線変換膜にバイアスを印加するための電極の内、負電位となる側の電極であることを特徴とする請求項1記載の放射線変換膜。
- 前記放射線変換膜に入射される放射線が、X線撮影で使用される波長のX線であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線変換膜。
- 前記変換層、および、キャリヤ阻止層がII−VI族化合物半導体からなり、II族はCd、VI族はS,Se,Teの中から選択された1種類または2種類以上で構成されることを特徴とする請求項1記載の放射線変換膜。
- 前記変換層がCdS、または、CdSSeで構成され、前記キャリヤ阻止層がCdSeで構成されることを特徴とする請求項1記載の放射線変換膜。
- 前記変換層およびキャリヤ阻止層が、化学堆積法で形成された、又はスプレイ法による塗布で形成された多結晶層であることを特徴とする請求項1又は5に記載の放射線変換膜。
- 放射線を電気信号に変換する放射線変換膜において、
前記放射線変換膜は、放射線照射により正・負のキャリヤを生成するII−VI族化合物半導体からなり、II族はCd、VI族はS,Se,Teの中からSを含んで、1種類または2種類以上で構成されており、かつ、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とする放射線変換膜。 - 前記放射線変換膜は、該放射線変換膜にバイアスを印加するための一方の電極に接して形成され、該電極に近い部分に、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項6記載の放射線変換膜。
- 前記II−VI族化合物半導体はCdSである請求項6又は7記載の放射線変換膜。
- 請求項9に記載の放射線変換膜の製造方法であって、前記放射線変換膜はCdSからなり、該CdSはCdとSを含む溶液から化学堆積法で形成され、その溶液がフッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とする放射線変換膜の製造方法。
- 前記放射線変換膜であるCdS膜を化学堆積させる工程において、放射線変換膜にバイアスを印加するための一方の電極に近い部分を成膜する際に、前記溶液が、フッ素、塩素、臭素、よう素の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項10に記載の放射線変換膜の製造方法。
- 請求項1から8のいずれか1項に記載の放射線変換膜が電界効果トランジスタを2次元マトリックス状に配置したアクティブマトリックス基板上に形成されていることを特徴とする直接変換型放射線イメージセンサ。
- 請求項12に記載の直接変換型放射線イメージセンサと、前記直接変換型放射線イメージセンサからの信号を処理する信号処理手段と、
前記信号処理手段からの信号を記録するための記録手段と、
前記信号処理手段からの信号を表示するための表示手段と、
前記信号処理手段からの信号を伝送するための伝送処理手段と、
前記放射線を発生させるための放射線源とを具備することを特徴とする放射線撮像システム。
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