JP2004127542A - 電気絶縁用樹脂組成物及びエナメル線 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、耐熱性を有する絶縁電線としては、ポリイミド線、ポリアミドイミド線及びポリエステルイミド線が知られている。これらのうち、例えば、特性と価格のバランスの点から、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(以下THEICと略す)を使用して分子鎖中にイミド結合及びイソシアヌレート環を導入したポリエステルイミド樹脂を焼き付けたポリエステルイミド線が比較的多量に使用されている。
一方、最近の電気機器類の組立工程においては、機械による高速巻線作業が実施され、エナメル線に対して伸長、摩耗、屈曲等の厳しいストレスが加えられるようになり、その程度は年々厳しくなっている。したがって、エナメル線に対して、導体と皮膜との高度な密着性、耐摩耗性が要求されているが、従来のTHEICを使用したポリエステルイミドワニスの密着性は、要求に対しては不十分であった。
THEICを使用したポリエステルイミドワニスと導体との密着性を向上させる手段としては、(特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】
特開平2−58567号公報
及び(特許文献2参照)
【0004】
【特許文献2】
特開平7−316425号公報
に、チオール化合物をポリエステルイミドワニスに配合することが開示されている。しかし、この方法を用いると、導体と皮膜との密着性は向上するが、エナメル線を熱劣化させた後の導体と皮膜との密着性が極端に低下するという問題があった。
また、THEICを使用したポリエステルイミドワニスに、本発明に用いられる(B)成分のテトラゾール又は(C)成分の熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂のみを配合した場合は、チオール化合物を配合した場合と比較して、エナメル線熱劣化後の導体と皮膜との密着性は向上するが、熱劣化前の導体と皮膜との密着性は低下する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、エナメル線の機械的特性、耐熱性、可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性を維持しつつ、特に導体との密着性、耐摩耗性及び熱劣化後の密着性に優れた皮膜を生じうる電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は次のものに関する。
(1) (A)分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂と、(B)下記一般式(I)
【0007】
【化2】
[R1=H,NH2,CH3,SH,Ar(芳香環)
R2=H,CH3,Ar(芳香環)]
のいずれかで表されるテトラゾール及び(C)数平均分子量15000〜25000の熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物。
(2) ポリエステルイミド樹脂(A)100重量部に対して、テトラゾール(B)0.01〜1重量部及び熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂(C)0.1〜10重量部を含有する上記(1)記載の電気絶縁用樹脂組成物。
(3) 上記(1)又は(2)記載の電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明における分子中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂は、酸成分とアルコール成分との反応により得られる。ここで、イソシアヌレート環とは、次の構造で示されるものである。
【0009】
【化3】
本発明に用いるポリエステルイミド樹脂としては、酸成分の一部として一般式(II)
【0010】
【化4】
〔式中、R1はトリカルボン酸の残基等の3価の有機基、R2はジアミンの残基等の2価の有機基を意味する〕
で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0011】
一般式(II)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特公昭51−40113号公報参照)が挙げられる。
また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミドの製造時に加えて、イミドジカルボン酸の残基を形成してもよい。
【0012】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物等があり、トリメリット酸無水物が好ましい。
ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
【0013】
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の15〜65当量%の範囲とすることが好ましく、20〜60当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性及びエナメル線の外観が低下する場合がある。
【0014】
上記のイミドジカルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸又はその低級のアルキルエステル、例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、エナメル線用ポリエステルイミドワニスに常用される化合物、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。
【0015】
また、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂の製造に用いるアルコール成分としては、イソシアヌレート環を有するものを用いることが好ましく、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート等、水酸基を3つ有するイソシアヌレート化合物がより好ましいものとして挙げられ、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが最も好ましいものとして挙げられる。イソシアヌレート化合物の使用量は、全アルコール成分の30〜90当量%の範囲とすることが好ましく、40〜80当量%の範囲とすることがより好ましい。イソシアヌレート化合物の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性が低下する傾向にある。
【0016】
上記のイソシアヌレート環を有するアルコール成分以外のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオール類などが用いられる。これらの酸成分及びアルコール成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0017】
アルコール成分と酸成分との配合割合は、可とう性及び耐熱性の点から、カルボキシル基に対する水酸基の当量比を1.3〜2.5とすることが好ましく、1.5〜2.2とすることがより好ましい。カルボキシル基に対する水酸基の当量比が2.5より大きいと可とう性が低下する傾向があり、1.3より小さいと耐熱性が低下する傾向がある。
【0018】
本発明に用いるポリエステルイミド樹脂の合成は、例えば、前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛などが挙げられる。また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメリット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメリット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。
【0019】
また、合成時の粘度が高いため、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系溶媒の共存下で合成を行うことが好ましい。
本発明に使用されるテトラゾールは、前記一般式(I)で表されるものである。
【0020】
前記一般式(I)で表されるテトラゾールのうち、さらに具体的に好ましい化合物としては、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾールなどが挙げられる。
本発明に使用される熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂としては、数平均分子量が15000〜25000のもの、好ましくは18000〜22000のものが用いられる。
【0021】
本発明に使用しうる熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の市販品としては、東洋紡(株)製のバイロン200、バイロン103、バイロン300、バイロン500(商品名)等が挙げられる。
ただし、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定されたものである。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、前記のようなポリエステルイミド樹脂に、テトラゾール及び熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂を配合して成る。
【0022】
テトラゾールの配合量は、ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部とすることが好ましく、0.05〜0.8重量部とすることがより好ましい。テトラゾールの量が0.01重量部未満であると密着性の向上効果が少なく、また、テトラゾールが1重量部を超えるとエナメル線を熱劣化させた後の密着性が低下する傾向がある。
【0023】
また、熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の配合量は、ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部とすることが好ましく、0.5〜8重量部とすることがより好ましい。熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の量が0.1重量部未満であると密着性の向上効果が少なく、また、10重量部を超えるとエナメル線の耐熱性が低下する傾向がある。
【0024】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物には、必要に応じて更にテトラブチルチタネート等の硬化剤、有機酸の金属塩、例えば、亜鉛塩、鉛塩、マンガン塩等の外観改良剤を添加することができる。硬化剤の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して3〜10重量%が好ましく、有機酸の金属塩の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して0.1〜1重量%が好ましい。
【0025】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、溶媒に溶解して適当な粘度に調整して使用することができる。この際用いられる溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、セロソルブ類、キシレンなど、ポリエステルイミド樹脂との溶解性が良好な溶媒が用いられる。
こうして得られる本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、銅線等の導体上に塗布し、焼付けることにより、耐摩耗性、密着性及び熱劣化後の密着性に優れたエナメル線とすることができる。本発明の組成物を用いること以外は、エナメル線の製造法は特に制限なく、常法に従うことができる。例えば、導体上に本発明の電気絶縁用樹脂組成物を塗布し、350〜550℃、好ましくは400〜500℃で1分〜5分間、好ましくは2〜4分間加熱して焼付ける工程を複数回繰り返し、所望の厚みの皮膜を導体上に形成する方法が挙げられる。最終的に形成される皮膜の厚みは、特に制限はないが、通常0.02〜0.08mmが好ましく、0.03〜0.06mmとすることがより好ましい。このようにして得られる本発明のエナメル線は、可とう性などの諸特性が低下することはない。
【0026】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。
【0027】
実施例1
(1)ポリエステルイミド樹脂液の調製
温度計、攪拌機及びコンデンサ付き4つ口フラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン 158.4g(1.6当量)、無水トリメリット酸 307.2g(3.2当量)、テレフタル酸ジメチル 232.8g(2.4当量)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 375.8g(4.32当量)、エチレングリコール 89.3g(2.88当量)、クレゾール 385g及びテトラブチルチタネート 1.16gを入れ、窒素気流中で室温から1時間で170℃に昇温して3時間反応させた。
次いで、得られた溶液を215℃に昇温して6時間反応させ、ポリエステルイミドを合成した。得られた樹脂溶液にクレゾール 920gを加え、テトラブチルチタネート 41.2gを添加して不揮発分42%のポリエステルイミド樹脂液を得た。
【0028】
(2)電気絶縁用樹脂組成物の調製
上記(1)で得られたポリエステルイミド樹脂液100gに、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)及びバイロン200(商品名、数平均分子量:18000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加して電気絶縁用樹脂組成物を得た。なお、この電気絶縁用樹脂組成物中のテトラブチルチタネート(硬化剤)の含有量は、ポリエステルイミド樹脂液中の固形分に対して4%であった。
【0029】
実施例2
実施例1(2)において、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾールの代わりに、5−フェニル−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0030】
実施例3
実施例1(2)において、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾールの代わりに、1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0031】
実施例4
実施例1(2)において、バイロン200の代わりに、バイロン300(商品名、数平均分子量:22000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0032】
実施例5
実施例1(2)において、バイロン200の代わりに、バイロン500(商品名、数平均分子量:22000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0033】
比較例1
実施例1(1)のポリエステルイミド樹脂液をそのまま用いた。
【0034】
比較例2
実施例1(1)で得られたポリエステルイミド樹脂液100gに、5−アミノー1,3,4−チアジアゾール−2−チオール0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加して電気絶縁用樹脂組成物を得た。
【0035】
比較例3
比較例2において、5−アミノー1,3,4−チアジアゾールー2−チオールの代わりに、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、比較例2に準じて行った。
【0036】
比較例4
比較例2において、5−アミノー1,3,4−チアジアゾールー2−チオールの代わりに、バイロン200 0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)を添加した以外は、比較例2に準じて行った。
(試験例)
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂組成物を、下記の焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、線速14m/分で焼付け、エナメル線を作製した。
(塗布・焼付け条件)
焼付け炉 :熱風式竪炉(炉長5.5m)
炉温 :入口/出口=320℃/430℃
塗装方法 :樹脂組成物をくぐらせたエナメル線をダイスで絞り、焼付け炉を通過させる手順を7回行う。1回目から7回目までのダイスの径を1.05mm、1.06mm、1.07mm、1.08mm、 1.09mm、1.10mm、1.11mmと変化させた。
また、得られたエナメル線の密着性試験を下記の方法に従って評価し、また他の一般特性(可とう性、耐熱衝撃性、絶縁破壊電圧、耐軟化性)をJIS C3003に準じて測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(密着性試験)
密着性の評価は、急激切断法により行う。すなわち、適当な長さのエナメル線の両端を固定し、標線距離を250mmとして約4m/sの引張速さで切断する。切断箇所において導体の露出部分(2ヶ所)の長さ(mm)を、例えば、1.0+1.0のように表す。同様に、皮膜が導体から剥離している部分(皮膜の浮き)の長さを5.0+5.0のように表す。これを、エナメル線の初期、200℃/6時間劣化後について行う。
なお、密着性の測定結果においては、値が小さい方が皮膜と導体との密着性が良好であることを示す。
【0039】
表1に示した結果から、実施例1〜4で得られた樹脂組成物を用いて作製したエナメル線は、比較例で得られたものに比べて、耐摩耗性及び密着性(初期及び200℃/6h後)に優れるとともに、可とう性等の特性においても同等であったことが分かる。
【0040】
【発明の効果】
本発明による分子鎖中にイソシアヌレート結合を有するポリエステルイミドを含有する電気絶縁用脂組成物を用いれば、耐摩耗性及び密着性(初期及び200℃/6h後)に優れるとともに、可とう性等の諸特性が低下しないエナメル線が得られる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、耐熱性を有する絶縁電線としては、ポリイミド線、ポリアミドイミド線及びポリエステルイミド線が知られている。これらのうち、例えば、特性と価格のバランスの点から、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(以下THEICと略す)を使用して分子鎖中にイミド結合及びイソシアヌレート環を導入したポリエステルイミド樹脂を焼き付けたポリエステルイミド線が比較的多量に使用されている。
一方、最近の電気機器類の組立工程においては、機械による高速巻線作業が実施され、エナメル線に対して伸長、摩耗、屈曲等の厳しいストレスが加えられるようになり、その程度は年々厳しくなっている。したがって、エナメル線に対して、導体と皮膜との高度な密着性、耐摩耗性が要求されているが、従来のTHEICを使用したポリエステルイミドワニスの密着性は、要求に対しては不十分であった。
THEICを使用したポリエステルイミドワニスと導体との密着性を向上させる手段としては、(特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】
特開平2−58567号公報
及び(特許文献2参照)
【0004】
【特許文献2】
特開平7−316425号公報
に、チオール化合物をポリエステルイミドワニスに配合することが開示されている。しかし、この方法を用いると、導体と皮膜との密着性は向上するが、エナメル線を熱劣化させた後の導体と皮膜との密着性が極端に低下するという問題があった。
また、THEICを使用したポリエステルイミドワニスに、本発明に用いられる(B)成分のテトラゾール又は(C)成分の熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂のみを配合した場合は、チオール化合物を配合した場合と比較して、エナメル線熱劣化後の導体と皮膜との密着性は向上するが、熱劣化前の導体と皮膜との密着性は低下する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、エナメル線の機械的特性、耐熱性、可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性を維持しつつ、特に導体との密着性、耐摩耗性及び熱劣化後の密着性に優れた皮膜を生じうる電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は次のものに関する。
(1) (A)分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂と、(B)下記一般式(I)
【0007】
【化2】
[R1=H,NH2,CH3,SH,Ar(芳香環)
R2=H,CH3,Ar(芳香環)]
のいずれかで表されるテトラゾール及び(C)数平均分子量15000〜25000の熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物。
(2) ポリエステルイミド樹脂(A)100重量部に対して、テトラゾール(B)0.01〜1重量部及び熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂(C)0.1〜10重量部を含有する上記(1)記載の電気絶縁用樹脂組成物。
(3) 上記(1)又は(2)記載の電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明における分子中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂は、酸成分とアルコール成分との反応により得られる。ここで、イソシアヌレート環とは、次の構造で示されるものである。
【0009】
【化3】
本発明に用いるポリエステルイミド樹脂としては、酸成分の一部として一般式(II)
【0010】
【化4】
〔式中、R1はトリカルボン酸の残基等の3価の有機基、R2はジアミンの残基等の2価の有機基を意味する〕
で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0011】
一般式(II)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特公昭51−40113号公報参照)が挙げられる。
また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミドの製造時に加えて、イミドジカルボン酸の残基を形成してもよい。
【0012】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物等があり、トリメリット酸無水物が好ましい。
ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
【0013】
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の15〜65当量%の範囲とすることが好ましく、20〜60当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性及びエナメル線の外観が低下する場合がある。
【0014】
上記のイミドジカルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸又はその低級のアルキルエステル、例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、エナメル線用ポリエステルイミドワニスに常用される化合物、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。
【0015】
また、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂の製造に用いるアルコール成分としては、イソシアヌレート環を有するものを用いることが好ましく、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート等、水酸基を3つ有するイソシアヌレート化合物がより好ましいものとして挙げられ、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが最も好ましいものとして挙げられる。イソシアヌレート化合物の使用量は、全アルコール成分の30〜90当量%の範囲とすることが好ましく、40〜80当量%の範囲とすることがより好ましい。イソシアヌレート化合物の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性が低下する傾向にある。
【0016】
上記のイソシアヌレート環を有するアルコール成分以外のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオール類などが用いられる。これらの酸成分及びアルコール成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0017】
アルコール成分と酸成分との配合割合は、可とう性及び耐熱性の点から、カルボキシル基に対する水酸基の当量比を1.3〜2.5とすることが好ましく、1.5〜2.2とすることがより好ましい。カルボキシル基に対する水酸基の当量比が2.5より大きいと可とう性が低下する傾向があり、1.3より小さいと耐熱性が低下する傾向がある。
【0018】
本発明に用いるポリエステルイミド樹脂の合成は、例えば、前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛などが挙げられる。また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメリット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメリット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。
【0019】
また、合成時の粘度が高いため、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系溶媒の共存下で合成を行うことが好ましい。
本発明に使用されるテトラゾールは、前記一般式(I)で表されるものである。
【0020】
前記一般式(I)で表されるテトラゾールのうち、さらに具体的に好ましい化合物としては、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾールなどが挙げられる。
本発明に使用される熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂としては、数平均分子量が15000〜25000のもの、好ましくは18000〜22000のものが用いられる。
【0021】
本発明に使用しうる熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の市販品としては、東洋紡(株)製のバイロン200、バイロン103、バイロン300、バイロン500(商品名)等が挙げられる。
ただし、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定されたものである。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、前記のようなポリエステルイミド樹脂に、テトラゾール及び熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂を配合して成る。
【0022】
テトラゾールの配合量は、ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部とすることが好ましく、0.05〜0.8重量部とすることがより好ましい。テトラゾールの量が0.01重量部未満であると密着性の向上効果が少なく、また、テトラゾールが1重量部を超えるとエナメル線を熱劣化させた後の密着性が低下する傾向がある。
【0023】
また、熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の配合量は、ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部とすることが好ましく、0.5〜8重量部とすることがより好ましい。熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂の量が0.1重量部未満であると密着性の向上効果が少なく、また、10重量部を超えるとエナメル線の耐熱性が低下する傾向がある。
【0024】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物には、必要に応じて更にテトラブチルチタネート等の硬化剤、有機酸の金属塩、例えば、亜鉛塩、鉛塩、マンガン塩等の外観改良剤を添加することができる。硬化剤の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して3〜10重量%が好ましく、有機酸の金属塩の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して0.1〜1重量%が好ましい。
【0025】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、溶媒に溶解して適当な粘度に調整して使用することができる。この際用いられる溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、セロソルブ類、キシレンなど、ポリエステルイミド樹脂との溶解性が良好な溶媒が用いられる。
こうして得られる本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、銅線等の導体上に塗布し、焼付けることにより、耐摩耗性、密着性及び熱劣化後の密着性に優れたエナメル線とすることができる。本発明の組成物を用いること以外は、エナメル線の製造法は特に制限なく、常法に従うことができる。例えば、導体上に本発明の電気絶縁用樹脂組成物を塗布し、350〜550℃、好ましくは400〜500℃で1分〜5分間、好ましくは2〜4分間加熱して焼付ける工程を複数回繰り返し、所望の厚みの皮膜を導体上に形成する方法が挙げられる。最終的に形成される皮膜の厚みは、特に制限はないが、通常0.02〜0.08mmが好ましく、0.03〜0.06mmとすることがより好ましい。このようにして得られる本発明のエナメル線は、可とう性などの諸特性が低下することはない。
【0026】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。
【0027】
実施例1
(1)ポリエステルイミド樹脂液の調製
温度計、攪拌機及びコンデンサ付き4つ口フラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン 158.4g(1.6当量)、無水トリメリット酸 307.2g(3.2当量)、テレフタル酸ジメチル 232.8g(2.4当量)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 375.8g(4.32当量)、エチレングリコール 89.3g(2.88当量)、クレゾール 385g及びテトラブチルチタネート 1.16gを入れ、窒素気流中で室温から1時間で170℃に昇温して3時間反応させた。
次いで、得られた溶液を215℃に昇温して6時間反応させ、ポリエステルイミドを合成した。得られた樹脂溶液にクレゾール 920gを加え、テトラブチルチタネート 41.2gを添加して不揮発分42%のポリエステルイミド樹脂液を得た。
【0028】
(2)電気絶縁用樹脂組成物の調製
上記(1)で得られたポリエステルイミド樹脂液100gに、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)及びバイロン200(商品名、数平均分子量:18000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加して電気絶縁用樹脂組成物を得た。なお、この電気絶縁用樹脂組成物中のテトラブチルチタネート(硬化剤)の含有量は、ポリエステルイミド樹脂液中の固形分に対して4%であった。
【0029】
実施例2
実施例1(2)において、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾールの代わりに、5−フェニル−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0030】
実施例3
実施例1(2)において、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾールの代わりに、1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾール 0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0031】
実施例4
実施例1(2)において、バイロン200の代わりに、バイロン300(商品名、数平均分子量:22000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0032】
実施例5
実施例1(2)において、バイロン200の代わりに、バイロン500(商品名、数平均分子量:22000)を0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)添加した以外は、実施例1に準じて行った。
【0033】
比較例1
実施例1(1)のポリエステルイミド樹脂液をそのまま用いた。
【0034】
比較例2
実施例1(1)で得られたポリエステルイミド樹脂液100gに、5−アミノー1,3,4−チアジアゾール−2−チオール0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加して電気絶縁用樹脂組成物を得た。
【0035】
比較例3
比較例2において、5−アミノー1,3,4−チアジアゾールー2−チオールの代わりに、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール0.084g(樹脂液の固形分に対して0.2%)を添加した以外は、比較例2に準じて行った。
【0036】
比較例4
比較例2において、5−アミノー1,3,4−チアジアゾールー2−チオールの代わりに、バイロン200 0.84g(樹脂液の固形分に対して2%)を添加した以外は、比較例2に準じて行った。
(試験例)
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂組成物を、下記の焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、線速14m/分で焼付け、エナメル線を作製した。
(塗布・焼付け条件)
焼付け炉 :熱風式竪炉(炉長5.5m)
炉温 :入口/出口=320℃/430℃
塗装方法 :樹脂組成物をくぐらせたエナメル線をダイスで絞り、焼付け炉を通過させる手順を7回行う。1回目から7回目までのダイスの径を1.05mm、1.06mm、1.07mm、1.08mm、 1.09mm、1.10mm、1.11mmと変化させた。
また、得られたエナメル線の密着性試験を下記の方法に従って評価し、また他の一般特性(可とう性、耐熱衝撃性、絶縁破壊電圧、耐軟化性)をJIS C3003に準じて測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(密着性試験)
密着性の評価は、急激切断法により行う。すなわち、適当な長さのエナメル線の両端を固定し、標線距離を250mmとして約4m/sの引張速さで切断する。切断箇所において導体の露出部分(2ヶ所)の長さ(mm)を、例えば、1.0+1.0のように表す。同様に、皮膜が導体から剥離している部分(皮膜の浮き)の長さを5.0+5.0のように表す。これを、エナメル線の初期、200℃/6時間劣化後について行う。
なお、密着性の測定結果においては、値が小さい方が皮膜と導体との密着性が良好であることを示す。
【0039】
表1に示した結果から、実施例1〜4で得られた樹脂組成物を用いて作製したエナメル線は、比較例で得られたものに比べて、耐摩耗性及び密着性(初期及び200℃/6h後)に優れるとともに、可とう性等の特性においても同等であったことが分かる。
【0040】
【発明の効果】
本発明による分子鎖中にイソシアヌレート結合を有するポリエステルイミドを含有する電気絶縁用脂組成物を用いれば、耐摩耗性及び密着性(初期及び200℃/6h後)に優れるとともに、可とう性等の諸特性が低下しないエナメル線が得られる。
Claims (3)
- ポリエステルイミド樹脂(A)100重量部に対して、テトラゾール(B)0.01〜1重量部及び熱可塑性高分子量ポリエステル樹脂(C)0.1〜10重量部を含有する請求項1記載の電気絶縁用樹脂組成物。
- 請求項1又は2記載の電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線。
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JP2002285939A JP2004127542A (ja) | 2002-09-30 | 2002-09-30 | 電気絶縁用樹脂組成物及びエナメル線 |
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JP2013014637A (ja) * | 2011-06-30 | 2013-01-24 | Dainippon Printing Co Ltd | 樹脂組成物およびそれを用いた導電層、および導電層の形成方法 |
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