JP2004126109A - 位相差フィルム - Google Patents
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Abstract
【課題】位相差特性の変化が少ない位相差フィルム及びそれを用いた偏光板、光学補償フィルムを提供すること、及びこの偏光板を用いた視野角が広く、長期間の使用でも優れた視野角を維持できる液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】セルロースエステルを主体とする位相差フィルムであって、カルボニル基の配向係数が膜厚方向では、0〜−0.4の範囲にあり、かつ、面内方向は0〜−0.3の範囲にあることを特徴とする位相差フィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】セルロースエステルを主体とする位相差フィルムであって、カルボニル基の配向係数が膜厚方向では、0〜−0.4の範囲にあり、かつ、面内方向は0〜−0.3の範囲にあることを特徴とする位相差フィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、位相差フィルム、及び光学補償フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶型表示装置は、低電圧、低消費電力で、IC回路への直結が可能であり、特に薄型化が可能であることから、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等の表示装置として広く採用されている。この液晶表示装置は、基本的な構成としては、例えば液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。
【0003】
このような液晶表示装置においては、コントラスト等の観点から、ツイスト角が90度のツイステッドネマティック(TN)を用いた液晶表示装置からツイスト角が160度以上のスーパーツイステッドネマティック(STN)を用いた液晶表示装置に移行してきている。
【0004】
しかし、STNを用いた液晶表示装置は、液晶の複屈折を利用したものであることから、TNを用いた液晶表示装置におけるノーマリーホワイトでは白だった背景が青色あるいは黄色に着色する問題があり、このため、白黒表示ではコントラスト、視野角が狭く、また、カラー化が困難という問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、即ち複屈折分を補償するため、偏光板の下に位相差板を用いる技術が提案された。この技術によれば、前記着色の問題は解決されるものの、視野角についてはほとんど改善されていない。
【0006】
この問題を解決するため、厚さ方向の屈折率が複屈折の光軸に垂直な方向の屈折率よりも大きな複屈折フィルムを作製し、これを位相差板として用いる技術が提案された。さらには、固有複屈折値が正と負のフィルムを各々一枚ずつ、あるいは積層したものを位相差板として用いる技術が提案された。
【0007】
また、特開平7−218724号に示されるように、偏光子の少なくとも一面にある偏光板用保護フィルムのリターデーション値が波長590nmの光で測定した面内のリターデーション値として30〜70nmのトリアセチルセルロースを用いた偏光板が提案された。
【0008】
これら提案の技術によって、視野角によるコントラストの変化が小さくなり、視野角特性は向上した。しかしながら、低電圧、低消費電力、薄型化の上で他の表示装置にはない大きな特徴を有する液晶表示装置における視野角が狭いという最大の問題の改善にまでは至らず、視野角を広くしたいという要求はますます強まる一方であり、更なる開発が進められている。
【0009】
このような開発の一つとして、TNやSTNタイプとは異なるタイプの液晶が提案されるに至った。即ち、TNやSTNタイプの液晶セルは電圧オフ時に、液晶分子が配向板に平行で、電圧オン時に、液晶分子が配向板に垂直に配向するタイプの液晶であるのに対し、電圧のオフ時に液晶分子が配向板に垂直で、電圧オン時に配向板に平行となるタイプ、例えば、負の誘電異方性のネガ型液晶を用いた、いわゆる、バーティカルアライメント型のものが開発されるに至った。このようなバーティカルアライメント型液晶表示装置は、例えば特開平2−176625号に開示されている。このバーティカルアライメント(Vertical Alignment、略してVA、以降VAと表示することがある)型液晶表示装置は、液晶分子が電圧オフ時に配向板に垂直で、電圧オン時に配向板に平行に配向させる、いわゆる垂直配向モードの液晶セルであることから、黒がしっかり黒として表示され、コントラストが高く、TNやSTN型のものに比べて、視野角が比較的広いという特徴を持っている。
【0010】
しかしながら、液晶画面が大きくなるに従って、視野角を広げたいという要望はさらに高まっている。
【0011】
ところで、偏光子を保護する目的で、偏光子の少なくとも1面に保護フィルムを貼り合わせて偏光板を形成することが行われている。この保護フィルムを偏光板用保護フィルムというが、この偏光板用保護フィルムには、従来から、その優れた光学的等方性や透明性からセルローストリアセテートフィルムが使用されている。ところがセルローストリアセテートフィルムでは、厚み方向のリターデーション値を大きくするには上限があり、視野角を大きくすることが難しく、さらに大きな厚み方向のリターデーション値を得るためには、フィルムの厚みを厚くする必要があった。
【0012】
また、目的の面内方向のリターデーション値を得るために延伸を行っていた。このようにして形成された位相差フィルムは偏光板用保護フィルムとして用いることができると提案されている。しかしながら、通常のセルローストリアセテートフィルムよりもアシル基の総置換度が低いセルロースエステルを用いた場合、長期間の使用または環境変動による影響で位相差が大きく変動してしまうことがあり、その改善が求められている。
【0013】
このような長期間の使用や環境変動による特性の変動が少ないセルロースエステルフィルムをセルロースエステル中のカルボニル基の配向係数が一定範囲のものを選択することで得られるということは、これまでにない新しい知見である。
【0014】
昨今では、液晶表示装置にも携帯性が要求されており、小型化、特に薄くすることが求められており、バーティカルアライメント型液晶表示装置の視野角をさらに向上させることが可能で、フィルムの厚さが薄くとも厚さ方向のリターデーション値が大きい特性の変動が少ない偏光板用保護フィルムが求められている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き事情に鑑みなされたものであって、その目的は、位相差特性の変化が少ない位相差フィルム及びそれを用いた偏光板、光学補償フィルムを提供すること、及びこの偏光板を用いた視野角が広く、長期間の使用でも優れた視野角を維持できる液晶表示装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記の目的は下記構成により達成される。
【0017】
1.セルロースエステルを主体とする位相差フィルムであって、カルボニル基の配向係数が膜厚方向では、0〜−0.4の範囲にあり、かつ、面内方向は0〜−0.3の範囲にあることを特徴とする位相差フィルム。
【0018】
2.アシル基の総置換度が2.55〜2.85であることを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0019】
3.アシル基がアセチル基およびプロピオニル基またはブチリル基であり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計をYとしたとき、
1.75≦X≦2.15
0.60≦Y≦0.80
であることを特徴とする前記2に記載の位相差フィルム。
【0020】
4.分子内に芳香族環を3個以上有する添加剤を0.5〜30質量%含有することを特徴とする前記1または2に記載の位相差フィルム。
【0021】
以下、本発明を詳細に解説する。
本発明はリターデーションが安定した位相差フィルム及びその製造方法、その位相差フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置及び光学補償フィルムを提供することを目的としている。表示装置の高精細化、高機能化に伴って、表示品質の向上が求められている。例えば、特開2002−14230では各種表示装置に位相差フィルムを適用し、視野角が改善されることが示されている。しかしながら、セルロースエステルを主体とするフィルムを用いた位相差フィルムは長期間安定した位相差特性を維持することが困難であることが分かってきた。
【0022】
本発明において、セルロースエステルを主体とするフィルムとはそのフィルムを構成する成分が本質的にセルロースエステルであるフィルムであり、フィルム中に他の添加剤成分を、例えば30質量%以下含んでいてもよいが、基本的にセルロースエステルとしての特性を示すものをいう。また、少量、例えば10%以下の他のポリマー成分が、基本的なセルロースエステルフィルムとしての特性を示す範囲で含まれていてもよいが、好ましいのはセルロースエステルフィルムである。
【0023】
このように、セルロースエステルフィルムには経時で特性が変化するものがある一方で、本発明者らは、作成直後の位相差特性は同様であっても、その値が経時でほとんど変化せず、長期間安定した位相差特性を示すものがあることを見出した。
【0024】
作製直後では位相差特性に差のないものが、長期間安定な特性を示すものであるのか、または、経時で変化するものであるかの判断が可能であると、品質管理や信頼性の向上に大変有効である。
【0025】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、経時で位相差特性が安定なものと、経時で変化してしまうものが、セルロースエステルフィルム中のカルボニル基(C=O基)の配向状態で判断できることを見出した。その理由は明らかではないが、延伸によって配向したセルロースエステルの鎖がより安定に保持されている状態を示していることに由来しているためと推察される。このような延伸によって安定な位相差を付与するため、セルロースエステルフィルムのアシル基置換度は2.55〜2.85であることが必要である。2.55未満では経時や環境条件によって位相差が変動しやすくなる。これはセルロースエステルの未置換の水酸基とアルカリ土類金属、残留硫酸量、遊離酸量等との相互作用が関与しているものと思われる。また、アシル基置換度は2.85以下であることが必要であり、これを越えると延伸によって所望の位相差を得ることが困難となる。
【0026】
さらに本発明では、アシル基がアセチル基およびプロピオニル基またはブチリル基であり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計をYとしたとき、
1.75≦X≦2.15
0.60≦Y≦0.80
であることが好ましく、より位相差が安定した位相差フィルムを得ることができる。
【0027】
さらに好ましくは分子内に芳香族環を3個以上有する添加剤を0.5〜30質量%含有することによって、温湿度変動に対してもさらに変動しにくい位相差フィルムとすることができる。本発明において添加剤とは、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤等をいう。
【0028】
また、本発明の位相差フィルムは溶液流延法によって形成されたセルロースエステルフィルムを延伸して作製するが、セルロースエステルを溶解する溶媒として実質的に非塩素系有機溶媒のみを用いたものがより安定な位相差を示した。実質的に非塩素系有機溶媒のみとは、全有機溶媒量に対して塩素系有機溶媒が10質量%以下をいい、好ましくは5質量%以下、特に全く含まないことが最も好ましい。非塩素系有機溶媒としては酢酸メチルが好ましく用いられる。特に、酢酸メチルの残留溶媒量が2〜15質量%のときに、少なくとも一方向に1.01〜2.0倍に延伸することが安定した位相差が得られる点で好ましい。
【0029】
本発明の位相差フィルムは偏光子と貼合することによって安定した位相差特性を有する偏光板を得ることができ、これを用いた表示装置は長期間優れた視野角特性を発揮することができる。
【0030】
一般に、液晶表示装置に用いられる偏光板は、偏光膜及びその両側に配置された2枚の透明保護膜からなる。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、2色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。そして、偏光板の一方の保護膜を、上記のポリマーフイルムからなる光学補償シート、もしくは、ポリマーフィルムと液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる光学補償シートとすることで、本発明の偏光板を作製することができる。偏光膜と光学補償シートの接着は、溶媒として水を主成分とする接着剤を用いることにより製造することが好ましい。また、偏光膜の他方の保護膜として、通常のセルロースアセテートフイルムを積層してもよい。本発明の偏光板において、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸の関係は、適用される液晶表示装置の種類により以下のように配置することが好ましい。本発明の偏光板を、TN、MVA、及びOCBモードの液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に平行になるように配置し、反射型液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に45°となるように配置することが好ましい。
【0031】
本発明の光学補償シートまたはそれを用いる偏光板は、透過型液晶表示装置あるいは反射型液晶表示装置に有利に用いられる。
【0032】
透過型液晶表示装置の例としては、TN、MVA(Multi−domainVertical Alignment)、及びOCB(OpticallyCompensatory Bend)モードの液晶表示装置液晶が挙げられる。これらの液晶表示装置は、セル及びその両側に配置された2枚の偏光板からなる。液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を坦持している。OCBモードの液晶表示装置の場合、本発明の光学補償シートは、ポリマーフィルム上に円盤状化合物、もしくは棒状液晶化合物を含む光学異方性層を有することが好ましい。また、反射型液晶表示装置は、液晶セルを偏光板と反射板により狭持してなる。
【0033】
本発明の光学補償シートを液晶表示装置に用いる場合は、光学補償シートを、液晶セルと一方の偏光板との間に、1枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置する。このように、通常の偏光板と液晶セルとの間に、本発明の光学補償シートを挿入して、従来と同様に液晶セルを光学的に補償することができる。本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の2枚の偏光板のうちの少なくとも一方の偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。本発明の偏光板を用いることで、液晶表示装置の使用環境において存在する水分が偏光膜へと浸透することを防止でき、視野角特性に優れた表示性能を長期にわたり持続することができる。
【0034】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子は実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)及び(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0035】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置であり、米国特許第4,583,825号、同第5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速い利点がある。
【0036】
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60〜120°にねじれ配向している。TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0037】
次に、配向係数の理論的な考察について述べる。
赤外分光法を利用した配向性評価方法は、長手方向(x)、幅方向(y)、および厚み(z)方向の空間的な吸収係数の比率kx/ky、kx/kz、およびky/kzを求めることである。このためにはx、y、z軸方向に沿って偏光された光を用いて赤外吸収を測定し、各成分の吸収比率を計算する必要がある。x、y、z軸方向に独立に偏光させた光で測定することが最も理想的であるが、実際には特に厚み方向z軸の測定が最も難しい。偏光ATR法では、x方向、y方向、xz(x軸とz軸成分の両方の吸収成分を含む)方向、およびyz(y軸とz軸成分の両方の吸収成分を含む)方向に4つの吸収スペクトルを測定し、この測定データーからx、y、z方向の吸収係数を計算する手順をとる。
【0038】
図1に偏光ATR法による測定における4つの基本的な光学配置を図示する。試料平面の一方をx、他方をy、厚みをz、例えば2軸延伸フィルムではmachine方向(machine direction,MD)をx、これと垂直な方向(transverse direction,TD)をyとし、入射する光と反射する光で構成される入射面に対して、垂直な偏光(s−偏光;transverse electric,TE)および水平な偏光(transverse magnetic,TM)をワイヤーグリッド偏光子を用いて入射する。このときx軸をTE偏光の方向に合わせておく(TEx,TMx)。次に試料を90°回転させ、すなわちx軸方向とy軸方向を入れ替えて、同様に測定する(TEy,TMy)。ここで得られた4つの吸収スペクトルをそれぞれATEx,ATMx,ATEy,ATMyとすると、
【0039】
【数1】
【0040】
の関係が得られる。ここでα、β、γは、入射角と試料の屈折率に依存する定数であり、入射角が45°の場合は次のように計算される。(P.A.Floumoy,and W.J.Schaffers,Spectrochimica Acta,22,5(1966)、K.Palm,Vib.Spectrosc.,6,185,(1994)を参考にできる。)
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、p=(試料の屈折率)2/(プリズムの屈折率)2。
以上の式より、試料の前記長手方向(x)、幅方向(y)、および厚み(z)方向の空間的な吸収係数、kx,ky,kzが計算できる。
【0043】
【数3】
【0044】
以上より、赤外2色比は、
【0045】
【数4】
【0046】
で表される。このDxy,Dxzは、全く空間的に等方性の無配向試料では、いずれも1.00の値をとる。しかし配向性が強くなるにつれて、この数値は増大する。
【0047】
別な評価式として、より定量的な評価が可能なものとして1軸配向係数(fxy,fxz)があり、以下の式で表される。(P.A.Floumoy,and W.J.Schaffers,Spectrochimica Acta,22,5(1966)を参考にできる。)
【0048】
【数5】
【0049】
fxyは、面内方向の配向係数を、また、fxzは、膜厚方向の配向係数をしめす。
【0050】
ここで、
D0=cot2δ
であり、δは分子振動により形成される遷移モーメントベクトルと、分子軸とのなす角度である。これを厳密に計算するには分子振動のモーメントの方向を調べる必要があるが、通常は分子軸に平行な振動モードと垂直なモードを選び、これをそれぞれ0°、90°として計算すれば十分配向性に関する情報が得られる。
【0051】
この配向係数は理論上、無配向の場合は0、観測方向に完全に配向している場合には1.0、逆に観測方向と直交している場合は−0.5となる。
【0052】
セルロースエステルフィルムでは、セルロース骨格部のO−C−C伸縮振動(1035cm−1±10cm−1の最大ピーク値)を分子軸に平行な振動モード(δ=0°)とし、側鎖のエステル基(C=O,CH3,C−C−O、それぞれ1713cm−1±10cm−1,1367cm−1±10cm−1,1214cm−1±10cm−1)を分子軸に垂直な方向の振動モード(δ=90°)として計算した。実際の分子モデル(文献)でも上記官能基はほぼ上述のような関係にあった。ベースラインは、C−C−Oについては1510cm−1〜1530cm−1間の最小値と930cm−1〜1000cm−1間の最小値を結んだ直線とし、C=Oについては、1800cm−1〜1850cm−1間の最小値と1510cm−1〜1530cm−1間の最小値を結んだ直線とした。
【0053】
ピークの決め方について述べる。
赤外2色比の測定には、減衰全反射赤外分光法(ATR−IR法)を用いて測定できる。計算方法は、J.P.Hobbs,C.S.P.Sung(J.P.Hobbs,C.S.P.Sung,K.Krishan,and,S.Hill,Macromolecules,16,193(1983))を参考にできる。
【0054】
赤外2色比の求め方は、セルロース基のC−O対称伸縮振動に由来するピーク(1150cm−1から1025cm−1の間に現れる最も強いピーク)の強度を測定する。ピーク強度は、そのピークトップの波数(xcm−1とする)と、x〜x+50cm−1のなかの最も吸光度の小さな点とx〜x−50cm−1の中の最も吸光度の小さい点を結び、これをベースラインとし、そこからのピーク強度を測定し求める。まず、長手方向に平行に光を入射し、入射面に偏光が垂直な時の吸光度(ATEx)および入射面に偏光面が平行な時の吸光度(ATMx)を求め、次に幅方向に平行に入射して同様にATEyとATMyを測定し、前述した式を用いて、赤外2色比fxy、fxzを計算することができる。fxyは、面内の配向係数、fxzは、膜厚方向の配向係数を示す。
【0055】
具体的には、次の偏光ATR法の測定条件で測定する。
測定装置:Magna 860(ニコレ社製)
プリズム:ゲルマニウム
プリズムと試料間の圧力:30cN・m
試料をプリズムに押しつける治具の面積:1cm2
入射角:45°
反射回数:1回
分解能:4cm−1
データー補間:0.5cm−1
試料の屈折率は、例えばCAP(セルロースアセテートプロピオネート)では1.477、TAC(トリアセチルセルロース)では1.482として計算した。またプリズム(ゲルマニウム)は4.00とした。サンプル表面に入射する光と反射する光で構成される入射面に対して、垂直な偏光および水平な偏光をワイヤーグリッド偏光子を用いて入射し、FTIR−ATRスペクトルを測定した。上記測定をMD方向をx軸、垂直方向(幅方向TD)をy軸、厚み方向をz軸に設定して測定した。
【0056】
本発明者らは、従来検討されてきたような面内のリターデーション値Roだけではなく、厚み方向のリターデーション値Rtにも注目し、厚み方向のリターデーションを大きくする方法について検討した結果、本発明に到達した。ここで、面内のリターデーション値Ro(nm)は、Ro=(nx−ny)×d、厚み方向のリターデーション値Rt(nm)は、Rt=〔(nx+ny)/2−nz〕×dで表され、式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
【0057】
本発明の位相差フィルムに用いられるセルロースエステルは、アセチル基の置換度が1.75〜2.15で、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計が0.60〜0.80であるセルロースエステルであることが好ましく、さらに、アセチル基の置換度が1.75〜1.95、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計が0.61〜0.76であることが好ましい。
【0058】
このようなセルロースエステルはセルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定されないが、例えば、特開平10−45804号に記載の方法で合成することができる。
【0059】
アセチル基、プロピオニル基またはブチル基の置換度は、ASTM−D817−96により測定することができる。
【0060】
合成したセルロースエステルの洗浄を十分に行うことによってセルロースエステル中のアルカリ土類金属量、残留硫酸量及び遊離酸量を上記の範囲とすることで、寸法変化、機械強度、透明性、耐透湿性、Rt値、Ro値が良好なフィルムを得ることができる。
【0061】
セルロースエステルの極限粘度は、偏光板用保護フィルムとして好ましい機械的強度を得るためには、1.50〜1.75g/cm3が好ましく、さらに1.53〜1.63g/cm3の範囲が好ましい。
【0062】
セルロースエステルの水分量は、得られるフィルムの高い透明性を得る点から0.01〜2.0質量%であることが好ましく、さらに0.01〜1.5質量%であることが好ましい。これらの特性値はASTM−D817−96により測定することができる。
【0063】
次に、溶液流延製膜方法によるセルロースエステルフィルムの製造方法について述べる。
【0064】
本発明のセルロースエステルフィルムに使用するセルロースエステルの原料となるセルロースは特に限定はなく、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を用いることができる。これらを混合して使用してもよい。ベルトやドラムからの剥離性がよい綿花リンターから合成されたセルロースエステルを多く使用した方が生産性効率が高く好ましい。綿花リンターから合成されたセルロースエステルの比率は60質量%以上で剥離性の効果が顕著になるため、60質量%以上が好ましく、より好ましくは85質量%以上、さらには、単独で使用することが最も好ましい。本発明に使用するセルロースエステルについて、アセチル基、プロピオニル基またはブチル基の置換度等は前述の通りである。
【0065】
置換度の異なるセルロースエステルを2種以上混合して用いることもできる。先ず、セルロースエステルを溶解し得る有機溶媒に溶解してドープを形成する。例えば、セルロースエステルのフレークと有機溶媒を混合し、攪拌しながら溶解し、ドープを形成する。溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号、同9−95557号または同9−95538号に記載のように冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号に記載のように高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。ドープ中のセルロースエステルの濃度は10〜35質量%程度が好ましい。
【0066】
セルロースエステルを溶解する有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、アセトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、塩化メチレン等を挙げることができる。塩化メチレンのような塩素系有機溶媒は、昨今の厳しい環境問題の中では、使用を見合わせた方がよい場合もあり、非塩素系の有機溶媒の方が好ましい。中でも酢酸メチル、アセトンが好ましく使用できる。また、これらの有機溶媒に、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールを併用すると、セルロースエステルの有機溶媒への溶解性が向上したりドープ粘度を低減できるので好ましい。特に沸点が低く、毒性の少ないエタノールが好ましい。
【0067】
ドープ中には、フタル酸エステル、リン酸エステル等の可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤等の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、分子内に芳香族環を3個以上有することが好ましく、添加量は0.5〜30質量%が好ましい。
【0068】
本発明において、セルロースエステルフィルム中に可塑剤を含有させることが好ましい。用いることのできる可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を単独あるいは併用するのが好ましい。可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。セルロースエステルに用いる場合、リン酸エステル系の可塑剤の使用比率は全可塑剤に対し50質量%以下が、セルロースエステルフィルムの加水分解を引き起こしにくく、耐久性に優れるため好ましい。リン酸エステル系の可塑剤比率は少ない方がさらに好ましく、リン酸エステル系の可塑剤、フタル酸エステル系やグリコール酸エステル系の可塑剤、クエン酸エステル、多価アルコールエステルを使用することが特に好ましい。
【0069】
また、本発明において、セルロースエステルフィルム中に紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、10%以下である必要があり、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。登録3265393号に記載のベンゾトリアゾール化合物も好ましく用いることができる。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソラン等の有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量はセルロースエステルに対し、0.1〜5.0質量%、好ましくは、0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0070】
さらに、本発明のセルロースエステルフィルム中には、酸化防止剤を含有させることが好ましく、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0071】
また本発明において、セルロースエステルフィルム中に、取扱性を向上させるため、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子等のマット剤を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲で、その含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等が挙げられ、表面にメチル基が存在するような処理が好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方がマット効果は大きく、平均粒径の小さい方は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmで、より好ましくは7〜16nmである。これらの微粒子はフィルム中では、通常、凝集体として存在しフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させることが好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としてはアエロジル社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはAEROSIL R972、R972V、R974、R202、R812である。これらのマット剤は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なるマット剤、例えばAEROSIL 200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0072】
溶液流延製膜方法は、上記のドープを濾過して、定量ポンプでダイに送り、表面研磨されているステンレスベルトあるいは金属ドラム上にダイからドープを流延し、その金属支持体上で、有機溶媒を蒸発あるいは冷却して固化させて、金属支持体が一周する前にウェブを剥離し、乾燥工程で乾燥してフィルムを形成させるものである。
【0073】
ウェブを金属支持体から剥離するまでの工程において、Rtを増加させる手段としては、剥離時の残留溶媒量を少なくすることがよく、残留溶媒量はウェブに対し5〜100質量%が好ましく、より好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは10〜45質量%である。
【0074】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0075】
剥離する際、剥離張力は50〜390N/m程度にすることが好ましく、より好ましくは、100〜300N/m、さらに好ましくは、100〜250N/mである。
【0076】
乾燥工程では、剥離したウェブをロール搬送乾燥機及び/またはテンター乾燥機に通し乾燥し、最終的にフィルムの残留溶媒量を0.5質量%以下にするが、好ましくは0.01質量%以下である。テンターで乾燥する際には、乾燥によってウェブが収縮するのをクリップで幅を保持する程度にクリップ間の張力を掛ければよいが、延伸倍率を大きくすると、Rt、Roを増加させることができ、残留溶媒量が2〜20質量%のときに延伸倍率1.01〜2.0倍に延伸することが好ましい。本発明では、Roを30〜200nmとするように延伸条件をコントロールすることが好ましい。また、Rtとして70〜400nmが好ましい。
【0077】
また、ロール搬送による乾燥工程においても、搬送張力をコントロールすることによりRo、Rtを増加させることができる。搬送張力としては50〜200N/mの範囲とするのが好ましく、より好ましくは、75〜150N/m、さらに好ましくは、75〜120N/mである。
【0078】
また、本発明の位相差フィルムは、その厚さが20〜200μmであることが好ましく、さらに40〜160μmが好ましく、より好ましくは60〜140μmである。
【0079】
上記のように製造された本発明のセルロースエステルを有する位相差フィルムは偏光板用保護フィルムとして偏光板に好ましく用いられる。偏光板は前述のように、偏光子(偏光膜)の少なくとも一面に偏光板用保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。本発明においては、この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。
【0080】
このようにして得られた偏光板は、種々の液晶表示装置に使用できるが、本発明の偏光板用保護フィルムとして用いられる位相差フィルムは高いリターデーション値が得られることからMVA型液晶表示装置に特に有用である。
【0081】
本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板を、TN型、MVA型、OCB型液晶セルの一面側または両面側に設けることにより、安定して広い視野角を有する液晶表示装置を得ることができる。偏光板の位相差フィルムが液晶セル側となるように貼り付けることが好ましい。
【0082】
偏光板用保護フィルムのセルロースエステルフィルムのRo、Rtを上記の範囲とすることにより、本発明の液晶表示装置は視野角の広い特性を有することができる。
【0083】
また、本発明の位相差フィルムは光学異方層を設けて、光学補償フィルムとすることもできる。光学異方層は位相差フィルム上に直接または下引き層を設けた上にさらに配向層を形成し、その上に液晶性化合物を塗設し、配向させ、その配向状態を固定化させて形成することができる。
【0084】
本発明に係る配向層は、透明支持体上に配置され、後述する光学異方層に隣接して、光学異方層中の液晶化合物を配向させるために用いられる。
【0085】
ここで、配向層を構成する材料について説明する。
配向層を構成する具体的な材料としては、以下の樹脂や基板が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリビニルピロリドン、セルロース系プラスチックス、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0086】
配向処理は、公知の方法を用いることができるが、ラビング処理等のLCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を利用することができ、また、公知の光配向層を用いることもできる。
【0087】
次いで、本発明に係る光学異方層について説明する。
本発明の光学補償フィルムに係る光学異方層は、液晶ディスプレイの視角特性を改良するため、光学異方層の厚さはそれを構成する液晶化合物の複屈折の大きさ、及び液晶化合物の配向状態によって異なるが、概ね、その膜厚は0.2〜5μm、好ましくは0.4〜3μmである。
【0088】
本発明に係る光学異方層は、位相差フィルムに対して少なくとも1層設けることができるが、1つの位相差フィルムに対して光学異方層を複数層設置することもでき、光学異方層の含まれる液晶化合物が配向した状態もしくは液晶化合物の配向が固定化された状態で構成されるとき、配向方向は適宜ディスプレイに適合した光学特性を設計できる。
【0089】
本発明は、位相差フィルムが所定の光学特性を有するため、その上に塗設する液晶層は1層であることが低コスト化、生産性の観点から好ましい。
【0090】
本発明の光学補償フィルムを設置する場合、駆動用液晶セルの両側に位置する一対の基板の上下に上側偏光子と下側偏光子が配置されるのが通常であるが、基板と上側及び下側偏光子の少なくとも一方の間に本発明の光学補償フィルムを少なくとも1枚設置することが好ましく、特に、低コスト化の観点及び本発明の目的効果をいかんなく発現させるためには、基板と上側偏光子、下側偏光子の各々の間に本発明の光学補償フィルムを1枚ずつ設置することが好ましい。
【0091】
液晶表示装置が、特に、ツイステッドネマティック型(TN型)液晶表示装置である場合、TN型液晶セルに最も近い基板側に本発明の光学補償フィルムの位相差フィルム面側がくるように光学補償フィルムを貼合し、かつ光学補償フィルムの位相差フィルム面内の最大屈折率方向が液晶セルに最も近い基板のネマティック液晶の配向方向と実質的に直交した方向に貼合することにより、優れた効果を発現することができる。実質的に直交とは、90±5°であるが、90°とすることが特に好ましい。
【0092】
本発明に係る液晶分子を配向及び固定化して形成された光学異方層において、液晶分子の平均傾斜角度は、光学異方層の断面方向から観察した場合、斜めであることが好ましく、厚さ方向に対して配向角度が変化してもよい。また、傾斜角度は、位相差フィルム側で高く、偏光子に近づくにつれて低くなり、この変化は連続的であることが好ましい。平均傾斜角度はディスプレイの視野角を補償するため、ディスプレイの設計により異なるが、10〜70°であることが好ましく25〜50°であることが、特にTN型液晶表示装置において好ましい。
【0093】
また、本発明においては、光学異方層の最大屈折率方向を位相差フィルム面に投影した方向(方向A)が、位相差フィルムのny方向(方向B)と実質的に等しいことが好ましい。ここで、ny方向と実質的に等しいとは、方向Aと方向Bのなす角度が±2°以内で、好ましくは±1°以内であることを意味する。
【0094】
次に、本発明に係る液晶化合物について説明する。
本発明に係る液晶化合物は、液晶化合物が配向できるものであれば特に限定されるものではなく、この結果、配向によって可視光領域で光散乱することなく光学的に異方性が付与される。
【0095】
本発明に係る液晶化合物としては、高分子液晶以外の液晶化合物では、ディスコチック化合物または一般に棒状の液晶化合物が挙げられ、光学的に正の複屈折性を示す液晶化合物が好ましく、更に好ましくは不飽和エチレン性基を有する正の複屈折性の液晶化合物が配向の固定化の観点から好ましく、例えば、特開平9−281480号、同9−281481号記載の構造を有する化合物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0096】
本発明に係る液晶化合物の構造は、特に限定されないが、本発明に係る光学異方層は、目的の光学異方性を発現させるため、液晶分子を配向させた状態で化学反応または温度差を利用した処理により、液晶化合物の配向を固定化できるものである。また、液晶化合物と有機溶媒を含む溶液を調製し、その溶液を塗布、乾燥して光学異方層を作製する場合、液晶転移温度以上に加熱しなくても該温度以下で液晶化合物の配向処理をすることも可能である。
【0097】
液晶化合物を含む溶液を塗布した場合、塗布後、溶媒を乾燥して除去し、膜厚が均一な液晶層を得ることができる。液晶層は、熱または光エネルギーの作用、または熱と光エネルギーの併用で化学反応によって、液晶の配向を固定化することができる。
【0098】
前述の不飽和エチレン性基の重合反応のためのラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビス化合物、パーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、レドックス触媒等、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、tert−ブチルパーオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、イソプロピルパーカーボネート、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーキサイド、ジクミルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライドあるいはベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンゾイン類、チオキサントン類等を挙げることができる。これらの詳細については「紫外線硬化システム」総合技術センター、63〜147頁、1989年等に記載されている。
【0099】
また、ラジカル反応を用いて硬化反応を行う場合、空気中の酸素の存在による重合反応の遅れを避けるために窒素雰囲気下で上記活性線を照射することが、反応時間の短縮化と少ない光量で硬化できる点で好ましい。
【0100】
一方、液晶化合物が高分子液晶である場合、上記化学反応による硬化反応を実施して液晶の配向を固定しなくてもよい。例えば高分子液晶をガラス転移温度以上で熱処理し、ガラス転移温度以下に放冷することで配向を固定化することができる。
【0101】
また、高分子液晶のガラス転移温度が支持体の耐熱性温度よりも高い場合は、耐熱性支持体上に前記配向膜を設置し高分子液晶を塗設後、高分子液晶のガラス転移温度以上に加熱し配向させることができる。これを室温に放冷し高分子液晶の配向を固定化したのち支持体に接着剤を用いて転写して光学異方体を作製することもできる。
【0102】
本発明では、位相差フィルム上に光学異方層を形成し、本発明の光学補償フィルムとすることができる。
【0103】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
実施例1
〔位相差フィルムの作製〕
(位相差フィルム1)
アセチル基の置換度が1.75、プロピオニル基の置換度が0.80、アルカリ土類金属の含有量が6ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が16ppm、遊離酸量が20ppm、極限粘度が1.54、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1500μm)100kg、エチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kg、塩化メチレン300kg、エタノール60kgを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解した。容器内は120kPaとなった。このドープを安積濾紙社製の安積濾紙No.244を使用して3回濾過した後、静置しドープ中の泡を除いた。また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5kg、チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、及びAEROSIL R972V(日本アエロジル社製)1kgを塩化メチレン94kgとエタノール8kgを混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。上記ドープ100kgに対して紫外線吸収剤溶液を2kgの割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度35℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から35℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で乾燥した後、さらにステンレスベルトの裏面に、12℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。次いで剥離したウェブの両端をテンターで把持し、115℃で残留溶媒量15質量%で幅手方向に1.3倍に延伸し、次いで、120℃で乾燥させ、膜厚80μmの位相差フィルム1を得た。残留溶媒量は0.01質量%であった。
【0105】
なお、脂肪酸セルロースエステルの置換度及び残留溶媒量は以下のようにして測定した。
【0106】
(脂肪酸セルロースエステルの置換度)
置換度はケン化法によって測定する。乾燥したセルロースエステルを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドの混合溶媒(容量比4:1)に溶解した後、所定の1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として0.5mol/L硫酸で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また上記と同様な方法によりブランクテストを行う。さらに、滴定が終了した溶液の上澄み液を希釈し、イオンクロマトグラフを用いて常法により有機酸の組成を測定する。そして下記に従って置換度(%)を算出する。
【0107】
TA=(Q−P)×F/(1000×W)
DSac=(162.14×TA)/(1−42.14×TA+(1−56.06×TA)×(AL/AC))
DSpr=DSsc×(AL/AC)
式中、Pは試料の滴定に要する0.5mol/L硫酸量(ml)、Qはブランクテストに要する0.5mol/L硫酸量(ml)、Fは0.5mol/L硫酸の力価、Wは試料質量(g)、TAは全有機酸量(mol/g)、AL/ACはイオンクロマトグラフで測定した酢酸(AC)と他の有機酸(AL)とのモル比、DSscはアセチル基の置換度、DSprはプロピオニル基の置換度を示す。
【0108】
(残留溶媒量)
残留溶媒量(%)=(M−N)/N×100
Mは加熱前のフィルム(ウェブ)の質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた後の質量である。
【0109】
(位相差フィルム2)
アセチル基の置換度が1.92、プロピオニル基の置換度が0.76、アルカリ土類金属の含有量が15ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が20ppm、遊離酸量が8ppm、極限粘度が1.61、水分率が0.2質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)100kg、エチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kg、酢酸メチル300kg、エタノール60kgを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて50℃まで上げ溶解した。このドープを安積濾紙社製の安積濾紙No.244を使用して3回濾過した後、静置しドープ中の泡を除いた。また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5kg、チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、及びAEROSIL R972V(日本アエロジル社製)1kgを酢酸メチル75kgとエタノール25kgを混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。上記ドープ100kgに対して紫外線吸収剤溶液を2kgの割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度50℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から50℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で乾燥した後、さらにステンレスベルトの裏面に、12℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は85質量%であった。次いで剥離したウェブの両端をテンターで把持し、115℃で残留溶媒量が10質量%のとき、幅手方向に1.3倍に延伸し、次いで、120℃で乾燥させ、膜厚80μmの位相差フィルム2を得た。残留溶媒量は0.01質量%であった。
【0110】
(位相差フィルム3)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.94、プロピオニル基の置換度が0.63、アルカリ土類金属の含有量が8ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が25ppm、遊離酸量が70ppm、極限粘度が1.54、水分率が0.9質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径150μm)に変更した以外は位相差フィルム2と同様にして膜厚80μmの位相差フィルム3を得た。
【0111】
(位相差フィルム4)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.11、プロピオニル基の置換度が0.70、アルカリ土類金属の含有量が30ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が50ppm、遊離酸量が50ppm、極限粘度が1.73、水分率が0.5質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1000μm)に変更した以外は位相差フィルム2と同様にして膜厚80μmの位相差フィルム4を得た。
【0112】
(位相差フィルム5)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.92、プロピオニル基の置換度が0.70、アルカリ土類金属の含有量が6ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が12ppm、遊離酸量が20ppm、極限粘度が1.59、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径500μm)に変更した以外は位相差フィルム2同様にして膜厚80μmの位相差フィルム5を得た。
【0113】
(位相差フィルム6)
位相差フィルム2の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム2と同様にして位相差フィルム6を得た。
【0114】
(位相差フィルム7)
位相差フィルム3の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム3と同様にして位相差フィルム7を得た。
【0115】
(位相差フィルム8)
位相差フィルム4の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム4と同様にして位相差フィルム8を得た。
【0116】
(位相差フィルム9)
位相差フィルム2の作製で使用したチヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kgを2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgに変更した以外は位相差フィルム2と同様にして位相差フィルム9を得た。
【0117】
(位相差フィルム10)
位相差フィルム9の作製で使用したエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム9と同様にして位相差フィルム10を得た。
【0118】
(位相差フィルム11)
位相差フィルム10の作製で使用した2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgを化合物T−1 8kgに変更した以外は位相差フィルム10と同様にして位相差フィルム11を得た。
【0119】
【化1】
【0120】
(位相差フィルム12)
位相差フィルム10の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを酢酸メチルで膨潤させた後、これを−20℃に冷却しこれを50℃まで温度を上げてセルロースエステルを溶解した以外は位相差フィルム10と同様にして位相差フィルム12を得た。
【0121】
(位相差フィルム13)
位相差フィルム12の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル置換度が2.75、アルカリ土類金属の含有量が25ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が25ppm、遊離酸量が10ppmのアセチルセルロースに変更した以外は位相差フィルム12と同様にして位相差フィルム13を得た。
【0122】
(位相差フィルム14の作製)
位相差フィルム13の作製で使用した2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgを化合物T−1 8kgに変更した以外は位相差フィルム13と同様にして位相差フィルム14を得た。
【0123】
(位相差フィルム15)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.75、アルカリ土類金属の含有量が50ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が45ppm、遊離酸量が110ppmであるセルロースアセテートに変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム15を得た。
【0124】
(位相差フィルム16)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.10、プロピオニル基の置換度が0.82、アルカリ土類金属の含有量が105ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が80ppm、遊離酸量が110ppm、極限粘度が1.61、水分率が0.5質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム16を得た。
【0125】
(位相差フィルム17)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.60、プロピオニル基の置換度が0.82、アルカリ土類金属の含有量が100ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が70ppm、遊離酸量が100ppm、極限粘度が1.5、水分率が0.7質量%を含有するセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム17を得た。
【0126】
(位相差フィルム18)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.75プロピオニル基の置換度が0.80、アルカリ土類金属の含有量が55ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が60ppm、遊離酸量が110ppm、極限粘度が1.57、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1000μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム18を得た。
【0127】
〔配向係数の評価〕
偏光ATR法をもちいて(測定装置:Magna 860(ニコレ社製))、具体的には、前記の測定条件で、作製したフィルム長手方向に平行に光を入射し、偏光面が入射面に垂直な時の吸光度(ATEx)および偏光面が入射面に平行な時の吸光度(ATMx)を求め、次に幅方向に平行に入射して同様にATEyとATMyを測定し、前述した式を用いて、fxy(面内の配向係数)、fxz(膜厚方向の配向係数)を前記のように算出した。
【0128】
〔リターデーション変動の評価〕
作製した位相差フィルムを60℃、80%RHに2週間、1カ月間保管して強制劣化させ、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器社製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求め、前記式に従って、Ro及びRtを算出した。強制劣化前の試料のRo及びRtと合わせて強制劣化による変化を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
本発明の位相差フィルムは保管中のリターデーションの変動が少なく、安定した特性を有していることが確認された。
【0131】
【発明の効果】
位相差特性の変化の少ない位相差フィルムを提供することができ、また、長期間特性の変動なく使用できるフィルムの識別ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏光ATR法による測定における4つの基本的な光学配置を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、位相差フィルム、及び光学補償フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶型表示装置は、低電圧、低消費電力で、IC回路への直結が可能であり、特に薄型化が可能であることから、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等の表示装置として広く採用されている。この液晶表示装置は、基本的な構成としては、例えば液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。
【0003】
このような液晶表示装置においては、コントラスト等の観点から、ツイスト角が90度のツイステッドネマティック(TN)を用いた液晶表示装置からツイスト角が160度以上のスーパーツイステッドネマティック(STN)を用いた液晶表示装置に移行してきている。
【0004】
しかし、STNを用いた液晶表示装置は、液晶の複屈折を利用したものであることから、TNを用いた液晶表示装置におけるノーマリーホワイトでは白だった背景が青色あるいは黄色に着色する問題があり、このため、白黒表示ではコントラスト、視野角が狭く、また、カラー化が困難という問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、即ち複屈折分を補償するため、偏光板の下に位相差板を用いる技術が提案された。この技術によれば、前記着色の問題は解決されるものの、視野角についてはほとんど改善されていない。
【0006】
この問題を解決するため、厚さ方向の屈折率が複屈折の光軸に垂直な方向の屈折率よりも大きな複屈折フィルムを作製し、これを位相差板として用いる技術が提案された。さらには、固有複屈折値が正と負のフィルムを各々一枚ずつ、あるいは積層したものを位相差板として用いる技術が提案された。
【0007】
また、特開平7−218724号に示されるように、偏光子の少なくとも一面にある偏光板用保護フィルムのリターデーション値が波長590nmの光で測定した面内のリターデーション値として30〜70nmのトリアセチルセルロースを用いた偏光板が提案された。
【0008】
これら提案の技術によって、視野角によるコントラストの変化が小さくなり、視野角特性は向上した。しかしながら、低電圧、低消費電力、薄型化の上で他の表示装置にはない大きな特徴を有する液晶表示装置における視野角が狭いという最大の問題の改善にまでは至らず、視野角を広くしたいという要求はますます強まる一方であり、更なる開発が進められている。
【0009】
このような開発の一つとして、TNやSTNタイプとは異なるタイプの液晶が提案されるに至った。即ち、TNやSTNタイプの液晶セルは電圧オフ時に、液晶分子が配向板に平行で、電圧オン時に、液晶分子が配向板に垂直に配向するタイプの液晶であるのに対し、電圧のオフ時に液晶分子が配向板に垂直で、電圧オン時に配向板に平行となるタイプ、例えば、負の誘電異方性のネガ型液晶を用いた、いわゆる、バーティカルアライメント型のものが開発されるに至った。このようなバーティカルアライメント型液晶表示装置は、例えば特開平2−176625号に開示されている。このバーティカルアライメント(Vertical Alignment、略してVA、以降VAと表示することがある)型液晶表示装置は、液晶分子が電圧オフ時に配向板に垂直で、電圧オン時に配向板に平行に配向させる、いわゆる垂直配向モードの液晶セルであることから、黒がしっかり黒として表示され、コントラストが高く、TNやSTN型のものに比べて、視野角が比較的広いという特徴を持っている。
【0010】
しかしながら、液晶画面が大きくなるに従って、視野角を広げたいという要望はさらに高まっている。
【0011】
ところで、偏光子を保護する目的で、偏光子の少なくとも1面に保護フィルムを貼り合わせて偏光板を形成することが行われている。この保護フィルムを偏光板用保護フィルムというが、この偏光板用保護フィルムには、従来から、その優れた光学的等方性や透明性からセルローストリアセテートフィルムが使用されている。ところがセルローストリアセテートフィルムでは、厚み方向のリターデーション値を大きくするには上限があり、視野角を大きくすることが難しく、さらに大きな厚み方向のリターデーション値を得るためには、フィルムの厚みを厚くする必要があった。
【0012】
また、目的の面内方向のリターデーション値を得るために延伸を行っていた。このようにして形成された位相差フィルムは偏光板用保護フィルムとして用いることができると提案されている。しかしながら、通常のセルローストリアセテートフィルムよりもアシル基の総置換度が低いセルロースエステルを用いた場合、長期間の使用または環境変動による影響で位相差が大きく変動してしまうことがあり、その改善が求められている。
【0013】
このような長期間の使用や環境変動による特性の変動が少ないセルロースエステルフィルムをセルロースエステル中のカルボニル基の配向係数が一定範囲のものを選択することで得られるということは、これまでにない新しい知見である。
【0014】
昨今では、液晶表示装置にも携帯性が要求されており、小型化、特に薄くすることが求められており、バーティカルアライメント型液晶表示装置の視野角をさらに向上させることが可能で、フィルムの厚さが薄くとも厚さ方向のリターデーション値が大きい特性の変動が少ない偏光板用保護フィルムが求められている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き事情に鑑みなされたものであって、その目的は、位相差特性の変化が少ない位相差フィルム及びそれを用いた偏光板、光学補償フィルムを提供すること、及びこの偏光板を用いた視野角が広く、長期間の使用でも優れた視野角を維持できる液晶表示装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記の目的は下記構成により達成される。
【0017】
1.セルロースエステルを主体とする位相差フィルムであって、カルボニル基の配向係数が膜厚方向では、0〜−0.4の範囲にあり、かつ、面内方向は0〜−0.3の範囲にあることを特徴とする位相差フィルム。
【0018】
2.アシル基の総置換度が2.55〜2.85であることを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0019】
3.アシル基がアセチル基およびプロピオニル基またはブチリル基であり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計をYとしたとき、
1.75≦X≦2.15
0.60≦Y≦0.80
であることを特徴とする前記2に記載の位相差フィルム。
【0020】
4.分子内に芳香族環を3個以上有する添加剤を0.5〜30質量%含有することを特徴とする前記1または2に記載の位相差フィルム。
【0021】
以下、本発明を詳細に解説する。
本発明はリターデーションが安定した位相差フィルム及びその製造方法、その位相差フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置及び光学補償フィルムを提供することを目的としている。表示装置の高精細化、高機能化に伴って、表示品質の向上が求められている。例えば、特開2002−14230では各種表示装置に位相差フィルムを適用し、視野角が改善されることが示されている。しかしながら、セルロースエステルを主体とするフィルムを用いた位相差フィルムは長期間安定した位相差特性を維持することが困難であることが分かってきた。
【0022】
本発明において、セルロースエステルを主体とするフィルムとはそのフィルムを構成する成分が本質的にセルロースエステルであるフィルムであり、フィルム中に他の添加剤成分を、例えば30質量%以下含んでいてもよいが、基本的にセルロースエステルとしての特性を示すものをいう。また、少量、例えば10%以下の他のポリマー成分が、基本的なセルロースエステルフィルムとしての特性を示す範囲で含まれていてもよいが、好ましいのはセルロースエステルフィルムである。
【0023】
このように、セルロースエステルフィルムには経時で特性が変化するものがある一方で、本発明者らは、作成直後の位相差特性は同様であっても、その値が経時でほとんど変化せず、長期間安定した位相差特性を示すものがあることを見出した。
【0024】
作製直後では位相差特性に差のないものが、長期間安定な特性を示すものであるのか、または、経時で変化するものであるかの判断が可能であると、品質管理や信頼性の向上に大変有効である。
【0025】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、経時で位相差特性が安定なものと、経時で変化してしまうものが、セルロースエステルフィルム中のカルボニル基(C=O基)の配向状態で判断できることを見出した。その理由は明らかではないが、延伸によって配向したセルロースエステルの鎖がより安定に保持されている状態を示していることに由来しているためと推察される。このような延伸によって安定な位相差を付与するため、セルロースエステルフィルムのアシル基置換度は2.55〜2.85であることが必要である。2.55未満では経時や環境条件によって位相差が変動しやすくなる。これはセルロースエステルの未置換の水酸基とアルカリ土類金属、残留硫酸量、遊離酸量等との相互作用が関与しているものと思われる。また、アシル基置換度は2.85以下であることが必要であり、これを越えると延伸によって所望の位相差を得ることが困難となる。
【0026】
さらに本発明では、アシル基がアセチル基およびプロピオニル基またはブチリル基であり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計をYとしたとき、
1.75≦X≦2.15
0.60≦Y≦0.80
であることが好ましく、より位相差が安定した位相差フィルムを得ることができる。
【0027】
さらに好ましくは分子内に芳香族環を3個以上有する添加剤を0.5〜30質量%含有することによって、温湿度変動に対してもさらに変動しにくい位相差フィルムとすることができる。本発明において添加剤とは、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤等をいう。
【0028】
また、本発明の位相差フィルムは溶液流延法によって形成されたセルロースエステルフィルムを延伸して作製するが、セルロースエステルを溶解する溶媒として実質的に非塩素系有機溶媒のみを用いたものがより安定な位相差を示した。実質的に非塩素系有機溶媒のみとは、全有機溶媒量に対して塩素系有機溶媒が10質量%以下をいい、好ましくは5質量%以下、特に全く含まないことが最も好ましい。非塩素系有機溶媒としては酢酸メチルが好ましく用いられる。特に、酢酸メチルの残留溶媒量が2〜15質量%のときに、少なくとも一方向に1.01〜2.0倍に延伸することが安定した位相差が得られる点で好ましい。
【0029】
本発明の位相差フィルムは偏光子と貼合することによって安定した位相差特性を有する偏光板を得ることができ、これを用いた表示装置は長期間優れた視野角特性を発揮することができる。
【0030】
一般に、液晶表示装置に用いられる偏光板は、偏光膜及びその両側に配置された2枚の透明保護膜からなる。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、2色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。そして、偏光板の一方の保護膜を、上記のポリマーフイルムからなる光学補償シート、もしくは、ポリマーフィルムと液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる光学補償シートとすることで、本発明の偏光板を作製することができる。偏光膜と光学補償シートの接着は、溶媒として水を主成分とする接着剤を用いることにより製造することが好ましい。また、偏光膜の他方の保護膜として、通常のセルロースアセテートフイルムを積層してもよい。本発明の偏光板において、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸の関係は、適用される液晶表示装置の種類により以下のように配置することが好ましい。本発明の偏光板を、TN、MVA、及びOCBモードの液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に平行になるように配置し、反射型液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に45°となるように配置することが好ましい。
【0031】
本発明の光学補償シートまたはそれを用いる偏光板は、透過型液晶表示装置あるいは反射型液晶表示装置に有利に用いられる。
【0032】
透過型液晶表示装置の例としては、TN、MVA(Multi−domainVertical Alignment)、及びOCB(OpticallyCompensatory Bend)モードの液晶表示装置液晶が挙げられる。これらの液晶表示装置は、セル及びその両側に配置された2枚の偏光板からなる。液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を坦持している。OCBモードの液晶表示装置の場合、本発明の光学補償シートは、ポリマーフィルム上に円盤状化合物、もしくは棒状液晶化合物を含む光学異方性層を有することが好ましい。また、反射型液晶表示装置は、液晶セルを偏光板と反射板により狭持してなる。
【0033】
本発明の光学補償シートを液晶表示装置に用いる場合は、光学補償シートを、液晶セルと一方の偏光板との間に、1枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置する。このように、通常の偏光板と液晶セルとの間に、本発明の光学補償シートを挿入して、従来と同様に液晶セルを光学的に補償することができる。本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の2枚の偏光板のうちの少なくとも一方の偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。本発明の偏光板を用いることで、液晶表示装置の使用環境において存在する水分が偏光膜へと浸透することを防止でき、視野角特性に優れた表示性能を長期にわたり持続することができる。
【0034】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子は実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)及び(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0035】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置であり、米国特許第4,583,825号、同第5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速い利点がある。
【0036】
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60〜120°にねじれ配向している。TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0037】
次に、配向係数の理論的な考察について述べる。
赤外分光法を利用した配向性評価方法は、長手方向(x)、幅方向(y)、および厚み(z)方向の空間的な吸収係数の比率kx/ky、kx/kz、およびky/kzを求めることである。このためにはx、y、z軸方向に沿って偏光された光を用いて赤外吸収を測定し、各成分の吸収比率を計算する必要がある。x、y、z軸方向に独立に偏光させた光で測定することが最も理想的であるが、実際には特に厚み方向z軸の測定が最も難しい。偏光ATR法では、x方向、y方向、xz(x軸とz軸成分の両方の吸収成分を含む)方向、およびyz(y軸とz軸成分の両方の吸収成分を含む)方向に4つの吸収スペクトルを測定し、この測定データーからx、y、z方向の吸収係数を計算する手順をとる。
【0038】
図1に偏光ATR法による測定における4つの基本的な光学配置を図示する。試料平面の一方をx、他方をy、厚みをz、例えば2軸延伸フィルムではmachine方向(machine direction,MD)をx、これと垂直な方向(transverse direction,TD)をyとし、入射する光と反射する光で構成される入射面に対して、垂直な偏光(s−偏光;transverse electric,TE)および水平な偏光(transverse magnetic,TM)をワイヤーグリッド偏光子を用いて入射する。このときx軸をTE偏光の方向に合わせておく(TEx,TMx)。次に試料を90°回転させ、すなわちx軸方向とy軸方向を入れ替えて、同様に測定する(TEy,TMy)。ここで得られた4つの吸収スペクトルをそれぞれATEx,ATMx,ATEy,ATMyとすると、
【0039】
【数1】
【0040】
の関係が得られる。ここでα、β、γは、入射角と試料の屈折率に依存する定数であり、入射角が45°の場合は次のように計算される。(P.A.Floumoy,and W.J.Schaffers,Spectrochimica Acta,22,5(1966)、K.Palm,Vib.Spectrosc.,6,185,(1994)を参考にできる。)
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、p=(試料の屈折率)2/(プリズムの屈折率)2。
以上の式より、試料の前記長手方向(x)、幅方向(y)、および厚み(z)方向の空間的な吸収係数、kx,ky,kzが計算できる。
【0043】
【数3】
【0044】
以上より、赤外2色比は、
【0045】
【数4】
【0046】
で表される。このDxy,Dxzは、全く空間的に等方性の無配向試料では、いずれも1.00の値をとる。しかし配向性が強くなるにつれて、この数値は増大する。
【0047】
別な評価式として、より定量的な評価が可能なものとして1軸配向係数(fxy,fxz)があり、以下の式で表される。(P.A.Floumoy,and W.J.Schaffers,Spectrochimica Acta,22,5(1966)を参考にできる。)
【0048】
【数5】
【0049】
fxyは、面内方向の配向係数を、また、fxzは、膜厚方向の配向係数をしめす。
【0050】
ここで、
D0=cot2δ
であり、δは分子振動により形成される遷移モーメントベクトルと、分子軸とのなす角度である。これを厳密に計算するには分子振動のモーメントの方向を調べる必要があるが、通常は分子軸に平行な振動モードと垂直なモードを選び、これをそれぞれ0°、90°として計算すれば十分配向性に関する情報が得られる。
【0051】
この配向係数は理論上、無配向の場合は0、観測方向に完全に配向している場合には1.0、逆に観測方向と直交している場合は−0.5となる。
【0052】
セルロースエステルフィルムでは、セルロース骨格部のO−C−C伸縮振動(1035cm−1±10cm−1の最大ピーク値)を分子軸に平行な振動モード(δ=0°)とし、側鎖のエステル基(C=O,CH3,C−C−O、それぞれ1713cm−1±10cm−1,1367cm−1±10cm−1,1214cm−1±10cm−1)を分子軸に垂直な方向の振動モード(δ=90°)として計算した。実際の分子モデル(文献)でも上記官能基はほぼ上述のような関係にあった。ベースラインは、C−C−Oについては1510cm−1〜1530cm−1間の最小値と930cm−1〜1000cm−1間の最小値を結んだ直線とし、C=Oについては、1800cm−1〜1850cm−1間の最小値と1510cm−1〜1530cm−1間の最小値を結んだ直線とした。
【0053】
ピークの決め方について述べる。
赤外2色比の測定には、減衰全反射赤外分光法(ATR−IR法)を用いて測定できる。計算方法は、J.P.Hobbs,C.S.P.Sung(J.P.Hobbs,C.S.P.Sung,K.Krishan,and,S.Hill,Macromolecules,16,193(1983))を参考にできる。
【0054】
赤外2色比の求め方は、セルロース基のC−O対称伸縮振動に由来するピーク(1150cm−1から1025cm−1の間に現れる最も強いピーク)の強度を測定する。ピーク強度は、そのピークトップの波数(xcm−1とする)と、x〜x+50cm−1のなかの最も吸光度の小さな点とx〜x−50cm−1の中の最も吸光度の小さい点を結び、これをベースラインとし、そこからのピーク強度を測定し求める。まず、長手方向に平行に光を入射し、入射面に偏光が垂直な時の吸光度(ATEx)および入射面に偏光面が平行な時の吸光度(ATMx)を求め、次に幅方向に平行に入射して同様にATEyとATMyを測定し、前述した式を用いて、赤外2色比fxy、fxzを計算することができる。fxyは、面内の配向係数、fxzは、膜厚方向の配向係数を示す。
【0055】
具体的には、次の偏光ATR法の測定条件で測定する。
測定装置:Magna 860(ニコレ社製)
プリズム:ゲルマニウム
プリズムと試料間の圧力:30cN・m
試料をプリズムに押しつける治具の面積:1cm2
入射角:45°
反射回数:1回
分解能:4cm−1
データー補間:0.5cm−1
試料の屈折率は、例えばCAP(セルロースアセテートプロピオネート)では1.477、TAC(トリアセチルセルロース)では1.482として計算した。またプリズム(ゲルマニウム)は4.00とした。サンプル表面に入射する光と反射する光で構成される入射面に対して、垂直な偏光および水平な偏光をワイヤーグリッド偏光子を用いて入射し、FTIR−ATRスペクトルを測定した。上記測定をMD方向をx軸、垂直方向(幅方向TD)をy軸、厚み方向をz軸に設定して測定した。
【0056】
本発明者らは、従来検討されてきたような面内のリターデーション値Roだけではなく、厚み方向のリターデーション値Rtにも注目し、厚み方向のリターデーションを大きくする方法について検討した結果、本発明に到達した。ここで、面内のリターデーション値Ro(nm)は、Ro=(nx−ny)×d、厚み方向のリターデーション値Rt(nm)は、Rt=〔(nx+ny)/2−nz〕×dで表され、式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
【0057】
本発明の位相差フィルムに用いられるセルロースエステルは、アセチル基の置換度が1.75〜2.15で、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計が0.60〜0.80であるセルロースエステルであることが好ましく、さらに、アセチル基の置換度が1.75〜1.95、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計が0.61〜0.76であることが好ましい。
【0058】
このようなセルロースエステルはセルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定されないが、例えば、特開平10−45804号に記載の方法で合成することができる。
【0059】
アセチル基、プロピオニル基またはブチル基の置換度は、ASTM−D817−96により測定することができる。
【0060】
合成したセルロースエステルの洗浄を十分に行うことによってセルロースエステル中のアルカリ土類金属量、残留硫酸量及び遊離酸量を上記の範囲とすることで、寸法変化、機械強度、透明性、耐透湿性、Rt値、Ro値が良好なフィルムを得ることができる。
【0061】
セルロースエステルの極限粘度は、偏光板用保護フィルムとして好ましい機械的強度を得るためには、1.50〜1.75g/cm3が好ましく、さらに1.53〜1.63g/cm3の範囲が好ましい。
【0062】
セルロースエステルの水分量は、得られるフィルムの高い透明性を得る点から0.01〜2.0質量%であることが好ましく、さらに0.01〜1.5質量%であることが好ましい。これらの特性値はASTM−D817−96により測定することができる。
【0063】
次に、溶液流延製膜方法によるセルロースエステルフィルムの製造方法について述べる。
【0064】
本発明のセルロースエステルフィルムに使用するセルロースエステルの原料となるセルロースは特に限定はなく、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を用いることができる。これらを混合して使用してもよい。ベルトやドラムからの剥離性がよい綿花リンターから合成されたセルロースエステルを多く使用した方が生産性効率が高く好ましい。綿花リンターから合成されたセルロースエステルの比率は60質量%以上で剥離性の効果が顕著になるため、60質量%以上が好ましく、より好ましくは85質量%以上、さらには、単独で使用することが最も好ましい。本発明に使用するセルロースエステルについて、アセチル基、プロピオニル基またはブチル基の置換度等は前述の通りである。
【0065】
置換度の異なるセルロースエステルを2種以上混合して用いることもできる。先ず、セルロースエステルを溶解し得る有機溶媒に溶解してドープを形成する。例えば、セルロースエステルのフレークと有機溶媒を混合し、攪拌しながら溶解し、ドープを形成する。溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号、同9−95557号または同9−95538号に記載のように冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号に記載のように高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。ドープ中のセルロースエステルの濃度は10〜35質量%程度が好ましい。
【0066】
セルロースエステルを溶解する有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、アセトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、塩化メチレン等を挙げることができる。塩化メチレンのような塩素系有機溶媒は、昨今の厳しい環境問題の中では、使用を見合わせた方がよい場合もあり、非塩素系の有機溶媒の方が好ましい。中でも酢酸メチル、アセトンが好ましく使用できる。また、これらの有機溶媒に、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールを併用すると、セルロースエステルの有機溶媒への溶解性が向上したりドープ粘度を低減できるので好ましい。特に沸点が低く、毒性の少ないエタノールが好ましい。
【0067】
ドープ中には、フタル酸エステル、リン酸エステル等の可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤等の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、分子内に芳香族環を3個以上有することが好ましく、添加量は0.5〜30質量%が好ましい。
【0068】
本発明において、セルロースエステルフィルム中に可塑剤を含有させることが好ましい。用いることのできる可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を単独あるいは併用するのが好ましい。可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。セルロースエステルに用いる場合、リン酸エステル系の可塑剤の使用比率は全可塑剤に対し50質量%以下が、セルロースエステルフィルムの加水分解を引き起こしにくく、耐久性に優れるため好ましい。リン酸エステル系の可塑剤比率は少ない方がさらに好ましく、リン酸エステル系の可塑剤、フタル酸エステル系やグリコール酸エステル系の可塑剤、クエン酸エステル、多価アルコールエステルを使用することが特に好ましい。
【0069】
また、本発明において、セルロースエステルフィルム中に紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、10%以下である必要があり、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。登録3265393号に記載のベンゾトリアゾール化合物も好ましく用いることができる。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソラン等の有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量はセルロースエステルに対し、0.1〜5.0質量%、好ましくは、0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0070】
さらに、本発明のセルロースエステルフィルム中には、酸化防止剤を含有させることが好ましく、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0071】
また本発明において、セルロースエステルフィルム中に、取扱性を向上させるため、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子等のマット剤を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲で、その含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等が挙げられ、表面にメチル基が存在するような処理が好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方がマット効果は大きく、平均粒径の小さい方は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmで、より好ましくは7〜16nmである。これらの微粒子はフィルム中では、通常、凝集体として存在しフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させることが好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としてはアエロジル社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはAEROSIL R972、R972V、R974、R202、R812である。これらのマット剤は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なるマット剤、例えばAEROSIL 200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0072】
溶液流延製膜方法は、上記のドープを濾過して、定量ポンプでダイに送り、表面研磨されているステンレスベルトあるいは金属ドラム上にダイからドープを流延し、その金属支持体上で、有機溶媒を蒸発あるいは冷却して固化させて、金属支持体が一周する前にウェブを剥離し、乾燥工程で乾燥してフィルムを形成させるものである。
【0073】
ウェブを金属支持体から剥離するまでの工程において、Rtを増加させる手段としては、剥離時の残留溶媒量を少なくすることがよく、残留溶媒量はウェブに対し5〜100質量%が好ましく、より好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは10〜45質量%である。
【0074】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0075】
剥離する際、剥離張力は50〜390N/m程度にすることが好ましく、より好ましくは、100〜300N/m、さらに好ましくは、100〜250N/mである。
【0076】
乾燥工程では、剥離したウェブをロール搬送乾燥機及び/またはテンター乾燥機に通し乾燥し、最終的にフィルムの残留溶媒量を0.5質量%以下にするが、好ましくは0.01質量%以下である。テンターで乾燥する際には、乾燥によってウェブが収縮するのをクリップで幅を保持する程度にクリップ間の張力を掛ければよいが、延伸倍率を大きくすると、Rt、Roを増加させることができ、残留溶媒量が2〜20質量%のときに延伸倍率1.01〜2.0倍に延伸することが好ましい。本発明では、Roを30〜200nmとするように延伸条件をコントロールすることが好ましい。また、Rtとして70〜400nmが好ましい。
【0077】
また、ロール搬送による乾燥工程においても、搬送張力をコントロールすることによりRo、Rtを増加させることができる。搬送張力としては50〜200N/mの範囲とするのが好ましく、より好ましくは、75〜150N/m、さらに好ましくは、75〜120N/mである。
【0078】
また、本発明の位相差フィルムは、その厚さが20〜200μmであることが好ましく、さらに40〜160μmが好ましく、より好ましくは60〜140μmである。
【0079】
上記のように製造された本発明のセルロースエステルを有する位相差フィルムは偏光板用保護フィルムとして偏光板に好ましく用いられる。偏光板は前述のように、偏光子(偏光膜)の少なくとも一面に偏光板用保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。本発明においては、この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。
【0080】
このようにして得られた偏光板は、種々の液晶表示装置に使用できるが、本発明の偏光板用保護フィルムとして用いられる位相差フィルムは高いリターデーション値が得られることからMVA型液晶表示装置に特に有用である。
【0081】
本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板を、TN型、MVA型、OCB型液晶セルの一面側または両面側に設けることにより、安定して広い視野角を有する液晶表示装置を得ることができる。偏光板の位相差フィルムが液晶セル側となるように貼り付けることが好ましい。
【0082】
偏光板用保護フィルムのセルロースエステルフィルムのRo、Rtを上記の範囲とすることにより、本発明の液晶表示装置は視野角の広い特性を有することができる。
【0083】
また、本発明の位相差フィルムは光学異方層を設けて、光学補償フィルムとすることもできる。光学異方層は位相差フィルム上に直接または下引き層を設けた上にさらに配向層を形成し、その上に液晶性化合物を塗設し、配向させ、その配向状態を固定化させて形成することができる。
【0084】
本発明に係る配向層は、透明支持体上に配置され、後述する光学異方層に隣接して、光学異方層中の液晶化合物を配向させるために用いられる。
【0085】
ここで、配向層を構成する材料について説明する。
配向層を構成する具体的な材料としては、以下の樹脂や基板が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリビニルピロリドン、セルロース系プラスチックス、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0086】
配向処理は、公知の方法を用いることができるが、ラビング処理等のLCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を利用することができ、また、公知の光配向層を用いることもできる。
【0087】
次いで、本発明に係る光学異方層について説明する。
本発明の光学補償フィルムに係る光学異方層は、液晶ディスプレイの視角特性を改良するため、光学異方層の厚さはそれを構成する液晶化合物の複屈折の大きさ、及び液晶化合物の配向状態によって異なるが、概ね、その膜厚は0.2〜5μm、好ましくは0.4〜3μmである。
【0088】
本発明に係る光学異方層は、位相差フィルムに対して少なくとも1層設けることができるが、1つの位相差フィルムに対して光学異方層を複数層設置することもでき、光学異方層の含まれる液晶化合物が配向した状態もしくは液晶化合物の配向が固定化された状態で構成されるとき、配向方向は適宜ディスプレイに適合した光学特性を設計できる。
【0089】
本発明は、位相差フィルムが所定の光学特性を有するため、その上に塗設する液晶層は1層であることが低コスト化、生産性の観点から好ましい。
【0090】
本発明の光学補償フィルムを設置する場合、駆動用液晶セルの両側に位置する一対の基板の上下に上側偏光子と下側偏光子が配置されるのが通常であるが、基板と上側及び下側偏光子の少なくとも一方の間に本発明の光学補償フィルムを少なくとも1枚設置することが好ましく、特に、低コスト化の観点及び本発明の目的効果をいかんなく発現させるためには、基板と上側偏光子、下側偏光子の各々の間に本発明の光学補償フィルムを1枚ずつ設置することが好ましい。
【0091】
液晶表示装置が、特に、ツイステッドネマティック型(TN型)液晶表示装置である場合、TN型液晶セルに最も近い基板側に本発明の光学補償フィルムの位相差フィルム面側がくるように光学補償フィルムを貼合し、かつ光学補償フィルムの位相差フィルム面内の最大屈折率方向が液晶セルに最も近い基板のネマティック液晶の配向方向と実質的に直交した方向に貼合することにより、優れた効果を発現することができる。実質的に直交とは、90±5°であるが、90°とすることが特に好ましい。
【0092】
本発明に係る液晶分子を配向及び固定化して形成された光学異方層において、液晶分子の平均傾斜角度は、光学異方層の断面方向から観察した場合、斜めであることが好ましく、厚さ方向に対して配向角度が変化してもよい。また、傾斜角度は、位相差フィルム側で高く、偏光子に近づくにつれて低くなり、この変化は連続的であることが好ましい。平均傾斜角度はディスプレイの視野角を補償するため、ディスプレイの設計により異なるが、10〜70°であることが好ましく25〜50°であることが、特にTN型液晶表示装置において好ましい。
【0093】
また、本発明においては、光学異方層の最大屈折率方向を位相差フィルム面に投影した方向(方向A)が、位相差フィルムのny方向(方向B)と実質的に等しいことが好ましい。ここで、ny方向と実質的に等しいとは、方向Aと方向Bのなす角度が±2°以内で、好ましくは±1°以内であることを意味する。
【0094】
次に、本発明に係る液晶化合物について説明する。
本発明に係る液晶化合物は、液晶化合物が配向できるものであれば特に限定されるものではなく、この結果、配向によって可視光領域で光散乱することなく光学的に異方性が付与される。
【0095】
本発明に係る液晶化合物としては、高分子液晶以外の液晶化合物では、ディスコチック化合物または一般に棒状の液晶化合物が挙げられ、光学的に正の複屈折性を示す液晶化合物が好ましく、更に好ましくは不飽和エチレン性基を有する正の複屈折性の液晶化合物が配向の固定化の観点から好ましく、例えば、特開平9−281480号、同9−281481号記載の構造を有する化合物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0096】
本発明に係る液晶化合物の構造は、特に限定されないが、本発明に係る光学異方層は、目的の光学異方性を発現させるため、液晶分子を配向させた状態で化学反応または温度差を利用した処理により、液晶化合物の配向を固定化できるものである。また、液晶化合物と有機溶媒を含む溶液を調製し、その溶液を塗布、乾燥して光学異方層を作製する場合、液晶転移温度以上に加熱しなくても該温度以下で液晶化合物の配向処理をすることも可能である。
【0097】
液晶化合物を含む溶液を塗布した場合、塗布後、溶媒を乾燥して除去し、膜厚が均一な液晶層を得ることができる。液晶層は、熱または光エネルギーの作用、または熱と光エネルギーの併用で化学反応によって、液晶の配向を固定化することができる。
【0098】
前述の不飽和エチレン性基の重合反応のためのラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビス化合物、パーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、レドックス触媒等、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、tert−ブチルパーオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、イソプロピルパーカーボネート、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーキサイド、ジクミルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライドあるいはベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンゾイン類、チオキサントン類等を挙げることができる。これらの詳細については「紫外線硬化システム」総合技術センター、63〜147頁、1989年等に記載されている。
【0099】
また、ラジカル反応を用いて硬化反応を行う場合、空気中の酸素の存在による重合反応の遅れを避けるために窒素雰囲気下で上記活性線を照射することが、反応時間の短縮化と少ない光量で硬化できる点で好ましい。
【0100】
一方、液晶化合物が高分子液晶である場合、上記化学反応による硬化反応を実施して液晶の配向を固定しなくてもよい。例えば高分子液晶をガラス転移温度以上で熱処理し、ガラス転移温度以下に放冷することで配向を固定化することができる。
【0101】
また、高分子液晶のガラス転移温度が支持体の耐熱性温度よりも高い場合は、耐熱性支持体上に前記配向膜を設置し高分子液晶を塗設後、高分子液晶のガラス転移温度以上に加熱し配向させることができる。これを室温に放冷し高分子液晶の配向を固定化したのち支持体に接着剤を用いて転写して光学異方体を作製することもできる。
【0102】
本発明では、位相差フィルム上に光学異方層を形成し、本発明の光学補償フィルムとすることができる。
【0103】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
実施例1
〔位相差フィルムの作製〕
(位相差フィルム1)
アセチル基の置換度が1.75、プロピオニル基の置換度が0.80、アルカリ土類金属の含有量が6ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が16ppm、遊離酸量が20ppm、極限粘度が1.54、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1500μm)100kg、エチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kg、塩化メチレン300kg、エタノール60kgを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解した。容器内は120kPaとなった。このドープを安積濾紙社製の安積濾紙No.244を使用して3回濾過した後、静置しドープ中の泡を除いた。また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5kg、チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、及びAEROSIL R972V(日本アエロジル社製)1kgを塩化メチレン94kgとエタノール8kgを混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。上記ドープ100kgに対して紫外線吸収剤溶液を2kgの割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度35℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から35℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で乾燥した後、さらにステンレスベルトの裏面に、12℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。次いで剥離したウェブの両端をテンターで把持し、115℃で残留溶媒量15質量%で幅手方向に1.3倍に延伸し、次いで、120℃で乾燥させ、膜厚80μmの位相差フィルム1を得た。残留溶媒量は0.01質量%であった。
【0105】
なお、脂肪酸セルロースエステルの置換度及び残留溶媒量は以下のようにして測定した。
【0106】
(脂肪酸セルロースエステルの置換度)
置換度はケン化法によって測定する。乾燥したセルロースエステルを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドの混合溶媒(容量比4:1)に溶解した後、所定の1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として0.5mol/L硫酸で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また上記と同様な方法によりブランクテストを行う。さらに、滴定が終了した溶液の上澄み液を希釈し、イオンクロマトグラフを用いて常法により有機酸の組成を測定する。そして下記に従って置換度(%)を算出する。
【0107】
TA=(Q−P)×F/(1000×W)
DSac=(162.14×TA)/(1−42.14×TA+(1−56.06×TA)×(AL/AC))
DSpr=DSsc×(AL/AC)
式中、Pは試料の滴定に要する0.5mol/L硫酸量(ml)、Qはブランクテストに要する0.5mol/L硫酸量(ml)、Fは0.5mol/L硫酸の力価、Wは試料質量(g)、TAは全有機酸量(mol/g)、AL/ACはイオンクロマトグラフで測定した酢酸(AC)と他の有機酸(AL)とのモル比、DSscはアセチル基の置換度、DSprはプロピオニル基の置換度を示す。
【0108】
(残留溶媒量)
残留溶媒量(%)=(M−N)/N×100
Mは加熱前のフィルム(ウェブ)の質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた後の質量である。
【0109】
(位相差フィルム2)
アセチル基の置換度が1.92、プロピオニル基の置換度が0.76、アルカリ土類金属の含有量が15ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が20ppm、遊離酸量が8ppm、極限粘度が1.61、水分率が0.2質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)100kg、エチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kg、酢酸メチル300kg、エタノール60kgを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて50℃まで上げ溶解した。このドープを安積濾紙社製の安積濾紙No.244を使用して3回濾過した後、静置しドープ中の泡を除いた。また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5kg、チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、及びAEROSIL R972V(日本アエロジル社製)1kgを酢酸メチル75kgとエタノール25kgを混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。上記ドープ100kgに対して紫外線吸収剤溶液を2kgの割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度50℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から50℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で乾燥した後、さらにステンレスベルトの裏面に、12℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は85質量%であった。次いで剥離したウェブの両端をテンターで把持し、115℃で残留溶媒量が10質量%のとき、幅手方向に1.3倍に延伸し、次いで、120℃で乾燥させ、膜厚80μmの位相差フィルム2を得た。残留溶媒量は0.01質量%であった。
【0110】
(位相差フィルム3)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.94、プロピオニル基の置換度が0.63、アルカリ土類金属の含有量が8ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が25ppm、遊離酸量が70ppm、極限粘度が1.54、水分率が0.9質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径150μm)に変更した以外は位相差フィルム2と同様にして膜厚80μmの位相差フィルム3を得た。
【0111】
(位相差フィルム4)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.11、プロピオニル基の置換度が0.70、アルカリ土類金属の含有量が30ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が50ppm、遊離酸量が50ppm、極限粘度が1.73、水分率が0.5質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1000μm)に変更した以外は位相差フィルム2と同様にして膜厚80μmの位相差フィルム4を得た。
【0112】
(位相差フィルム5)
位相差フィルム2の作製で用いたセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.92、プロピオニル基の置換度が0.70、アルカリ土類金属の含有量が6ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が12ppm、遊離酸量が20ppm、極限粘度が1.59、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径500μm)に変更した以外は位相差フィルム2同様にして膜厚80μmの位相差フィルム5を得た。
【0113】
(位相差フィルム6)
位相差フィルム2の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム2と同様にして位相差フィルム6を得た。
【0114】
(位相差フィルム7)
位相差フィルム3の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム3と同様にして位相差フィルム7を得た。
【0115】
(位相差フィルム8)
位相差フィルム4の作製で用いたエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム4と同様にして位相差フィルム8を得た。
【0116】
(位相差フィルム9)
位相差フィルム2の作製で使用したチヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製)3kg、チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kg、チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)5kgを2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgに変更した以外は位相差フィルム2と同様にして位相差フィルム9を得た。
【0117】
(位相差フィルム10)
位相差フィルム9の作製で使用したエチルフタリルエチルグリコレート2kg、トリフェニルフォスフェイト10kgをエチルフタリルエチルグリコレート4kg、ジベンジルフタレート8kgに変更した以外は位相差フィルム9と同様にして位相差フィルム10を得た。
【0118】
(位相差フィルム11)
位相差フィルム10の作製で使用した2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgを化合物T−1 8kgに変更した以外は位相差フィルム10と同様にして位相差フィルム11を得た。
【0119】
【化1】
【0120】
(位相差フィルム12)
位相差フィルム10の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを酢酸メチルで膨潤させた後、これを−20℃に冷却しこれを50℃まで温度を上げてセルロースエステルを溶解した以外は位相差フィルム10と同様にして位相差フィルム12を得た。
【0121】
(位相差フィルム13)
位相差フィルム12の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル置換度が2.75、アルカリ土類金属の含有量が25ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が25ppm、遊離酸量が10ppmのアセチルセルロースに変更した以外は位相差フィルム12と同様にして位相差フィルム13を得た。
【0122】
(位相差フィルム14の作製)
位相差フィルム13の作製で使用した2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン8kgを化合物T−1 8kgに変更した以外は位相差フィルム13と同様にして位相差フィルム14を得た。
【0123】
(位相差フィルム15)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.75、アルカリ土類金属の含有量が50ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が45ppm、遊離酸量が110ppmであるセルロースアセテートに変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム15を得た。
【0124】
(位相差フィルム16)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が2.10、プロピオニル基の置換度が0.82、アルカリ土類金属の含有量が105ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が80ppm、遊離酸量が110ppm、極限粘度が1.61、水分率が0.5質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム16を得た。
【0125】
(位相差フィルム17)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.60、プロピオニル基の置換度が0.82、アルカリ土類金属の含有量が100ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が70ppm、遊離酸量が100ppm、極限粘度が1.5、水分率が0.7質量%を含有するセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径350μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム17を得た。
【0126】
(位相差フィルム18)
位相差フィルム1の作製で使用したセルロースアセテートプロピオネートを、アセチル基の置換度が1.75プロピオニル基の置換度が0.80、アルカリ土類金属の含有量が55ppm、残留硫酸量(硫黄元素として)が60ppm、遊離酸量が110ppm、極限粘度が1.57、水分率が0.1質量%であるセルロースアセテートプロピオネート(平均粒径1000μm)に変更した以外は位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム18を得た。
【0127】
〔配向係数の評価〕
偏光ATR法をもちいて(測定装置:Magna 860(ニコレ社製))、具体的には、前記の測定条件で、作製したフィルム長手方向に平行に光を入射し、偏光面が入射面に垂直な時の吸光度(ATEx)および偏光面が入射面に平行な時の吸光度(ATMx)を求め、次に幅方向に平行に入射して同様にATEyとATMyを測定し、前述した式を用いて、fxy(面内の配向係数)、fxz(膜厚方向の配向係数)を前記のように算出した。
【0128】
〔リターデーション変動の評価〕
作製した位相差フィルムを60℃、80%RHに2週間、1カ月間保管して強制劣化させ、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器社製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求め、前記式に従って、Ro及びRtを算出した。強制劣化前の試料のRo及びRtと合わせて強制劣化による変化を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
本発明の位相差フィルムは保管中のリターデーションの変動が少なく、安定した特性を有していることが確認された。
【0131】
【発明の効果】
位相差特性の変化の少ない位相差フィルムを提供することができ、また、長期間特性の変動なく使用できるフィルムの識別ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏光ATR法による測定における4つの基本的な光学配置を示す図である。
Claims (4)
- セルロースエステルを主体とする位相差フィルムであって、カルボニル基の配向係数が膜厚方向では、0〜−0.4の範囲にあり、かつ、面内方向は0〜−0.3の範囲にあることを特徴とする位相差フィルム。
- アシル基の総置換度が2.55〜2.85であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
- アシル基がアセチル基およびプロピオニル基またはブチリル基であり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度の合計をYとしたとき、
1.75≦X≦2.15
0.60≦Y≦0.80
であることを特徴とする請求項2に記載の位相差フィルム。 - 分子内に芳香族環を3個以上有する添加剤を0.5〜30質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルム。
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-
2002
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