JP2004108854A - 分析方法 - Google Patents

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高 倉  優
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Abstract

【課題】短い処理時間にて精度のよい分析方法を提供する
【解決手段】本発明の分析方法は、被分析面に被膜が形成された試料の分析方法であって、試料の被分析面に荷電粒子ビームを照射する工程S1と、荷電粒子ビームの照射に応じて試料から発生したX線を検出する工程S2と、検出されたX線から試料の成分元素の特性X線の強度を求める工程S3と、試料の被膜に応じた成分元素の特性X線の強度変化率を求める工程S4と、求めた強度変化率に基いて、成分元素の特性X線の強度を補正する工程S5と、成分元素に対応する標準強度データを求める工程S6と、補正した成分元素の特性X線の強度と読み出した標準強度データとから定量値を求める工程S7とを有する。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する分野】
本発明は、被分析面に被膜が形成された試料の分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて試料の定量分析を行なう場合、試料の被分析面に電子ビームを照射し、この電子ビームの照射の応じて試料から発生したX線を検出する。そして、検出されたX線を基に試料の成分元素の特性X線のピーク強度を求め、当該ピーク強度と標準試料のピーク強度とを比較することで当該成分元素の定量値(濃度)が求められる
この場合、標準試料のピーク強度に対する当該試料のピーク強度の比にZAF法変換等の補正計算をして当該成分元素の定量値が算出される。
【0003】
また、試料の成分元素が2種以上あるときには、複数の成分元素についての定量値をそれぞれ求め、それらの比を算出することにより原子比率(atomic ratio)を算出することができる。
【0004】
ここで、試料として絶縁性試料を用いた場合には、分析のために電子ビームを照射すると、当該試料に不要な電荷が蓄積し、試料がチャージアップされることとなって適切な分析を行なうことができなくおそれがある。このようなことを回避するために、絶縁性試料の分析を行なう際には、通常、当該試料の被分析面を含む表面に薄く導電性の被膜を形成し、電子ビームを当該被膜を介して試料の内部に照射するようにしている。
【0005】
これにより、試料において発生した電荷は、試料を被覆する当該被膜を介して試料外部に逃げることとなり、チャージアップの発生を防ぐことができる。なお、この被膜を構成する導電性材料としては、例えば炭素(C)や金(Au)等があげられる。
【0006】
しかしながら、上述のように絶縁性試料の被分析面に導電性の被膜を形成して分析を行なう場合、当該試料から発生するX線の一部が当該被膜に吸収され、その結果検出されるX線の検出量が低下してしまい、適切な分析が行なえなくことがある。この傾向は、被膜を構成する導電性材料として金が用いられているときに特に顕著に表れる。
【0007】
このような点に着目し、これを改善する手法としては、例えばコンピュータシミュレーションを行なって補正する手法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
【特許文献1】
特開平4−2956号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した補正の手法では、コンピュータシミュレーションの実行においてフィードバックを複数回行なうこととなり、当該コンピュータシミュレーションにおける演算処理に時間がかかり、効率良く分析を行なうことができなくなるおそれがある。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、簡便な手法にて補正することにより、短い処理時間で効率良く分析を行なうことができる分析方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に基く試料の分析方法は、被分析面に被膜が形成された試料の分析方法であって、前記試料の被分析面に荷電粒子ビームを照射する工程と、前記荷電粒子ビームの照射に応じて試料から発生したX線を検出する工程と、検出されたX線から前記試料の成分元素の特性X線の強度を求める工程と、前記試料の被膜に応じた前記成分元素の特性X線の強度変化率を求める工程と、求めた強度変化率に基いて、前記成分元素の特性X線の強度を補正する工程と、前記成分元素に対応する標準強度データを求める工程と、補正した前記成分元素の特性X線の強度と読み出した標準強度データとから定量値を求める工程とを有することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明に基く試料の分析方法を示す工程フロー図である。
【0014】
先ず、電子プローブマイクロアナライザからなる分析装置の試料室内に試料を配置する。ここで、当該試料の被分析面を含むその表面には、導電性材料からなる被膜が蒸着などにより形成されている。具体的には、この試料は鉄酸化物(FeO, Fe, Fe等)から構成され、その主な成分元素は鉄(Fe)及び酸素(O)となる。また当該試料の表面に形成された被膜は金(Au)からなり、その膜厚は約10nmである。
【0015】
その後、当該試料室内を所定の真空度に真空引きした後、当該試料の被分析面に電子ビームからなる荷電粒子ビームを照射する。ここでの電子ビームの照射条件としては、例えば加速電圧を15kV、プローブ電流を40nA、プローブ径を20μmに設定する(ステップS1)。
【0016】
次に、荷電粒子ビームの照射に応じて当該試料から発生したX線を当該分析装置の試料室に備えられた検出手段によって検出する(ステップS2)。
【0017】
そして、検出されたX線に基いて、当該試料の第1の成分元素の特性X線のピーク強度を求める。本実施の形態で用いられる試料は、上述のごとく鉄酸化物であって、その主な成分元素は鉄(Fe)及び酸素(O)であるので、第1の成分元素として例えば鉄を取り上げる。そして、鉄についての特性X線のピーク強度を、ここではI(Fe)と表わしておく。(ステップS3)。
【0018】
その後、当該第1の成分元素に対応する特性X線の強度変化率を求める。すなわち、試料の表面に形成された被膜の材料及び膜厚に応じて、分析の際に検出される特性X線のピーク強度が低下することとなるが、特定の被膜材料について、その膜厚をパラメータとして、その強度変化率データを分析装置の記憶部に予め格納しておく。そして、分析の対象とされている試料の被膜の膜厚に応じた強度変化率データを当該記憶部から読み出す。
【0019】
より具体的には、当該記憶部には、図2に示すグラフのような特定の被膜材料についての、その膜厚に対する各成分元素の特性X線の強度変化率データ曲線に対応して、各成分元素ごとに、各膜厚に対する当該強度変化率データが格納されている。この例においては、試料の表面を被膜する被膜の材料は上述のごとく金であるので、金についての各膜厚に対する当該強度変化率データとされている。
【0020】
ここで、図2に示すグラフについてさらに説明すると、横軸は金からなる被膜の膜厚を示し、縦軸は被膜が無いときの特性X線のピーク強度に対する被膜を表面に施して分析したときに検出される特性X線のピーク強度の変化率を示す。そして、曲線Aは、試料の成分元素のうちの鉄に関する当該ピーク強度の変化率を示し、曲線Bは、試料の成分元素のうちの酸素に関する当該ピーク強度の変化率を示すものである。
【0021】
すなわち、各曲線は、被膜の膜厚が零のときの各成分元素の当該ピーク強度を100%とし、それに対する当該被膜の膜厚の増加に応じた当該ピーク強度の変化率を示したものである。なお、鉄のデータに関しては、基準試料として純鉄(鉄の純物質)が適用されて測定されたものであり、また酸素のデータに関しては、基準試料としてアルミニウムの酸化物(Al)が適用されて測定されたものである。
【0022】
そして、本実施の形態における試料の表面に形成された金からなる被膜の膜厚は約10nmであるので、この10nmの膜厚に対する特性X線のピーク強度の変化率が選択されて、上記記憶部から読み出される。この場合の鉄に関する当該ピーク強度の変化率をα(Fe)と表わすと、図2に示すグラフからわかるように当該変化率は0.91(91%)であるので、α(Fe)=0.91という値が当該ピーク強度の変化率として読み出されて取得される(ステップS4)。
【0023】
次に、読み出された鉄についての特性X線のピーク強度の変化率α(Fe)を基に、ステップS3で求めた鉄についての特性X線のピーク強度I(Fe)を補正する。
【0024】
具体的には、補正後の当該特性X線のピーク強度をI’(Fe)と表現すると、I’(Fe)=I(Fe)/α(Fe)の演算式により補正される。従って、この例においては、I’(Fe)=I(Fe)/0.91となり、この演算式により補正が行なわれる(ステップS5)。
【0025】
そして、上記記憶部には、予め当該試料の成分元素に関する特性X線のピーク強度の標準強度データが格納されており、鉄に関する当該標準強度データを読み出す。ここでは、この鉄に関する標準強度データをIstd(Fe)と表わしておく(ステップS6)。
【0026】
その後、ステップS5において補正した当該特性X線のピーク強度の補正値I’(Fe)と、ステップS6において読み出した当該標準強度データIstd(Fe)とに基いて、ZAF法変換により当該成分元素の定量値(濃度)を算出する。
【0027】
具体的には、当該定量値をC(Fe)と表現すると、C(Fe)=ZAF[I’(Fe)/Istd(Fe)]の演算式により算出される。ここで、ZAF[X]は、XをZAF法変換することを意味する。これにより、分析の対象とされた当該試料の第1の成分元素である鉄に関する定量値が求められる(ステップS7)。
【0028】
特性の成分元素の定量値を求めるプロセスは、上述のステップS1〜S7の各工程を順次実施することにより実行されるが、分析対象の試料の主要な成分元素が複数ある場合において、例えば2種の成分元素の原子比率(atomic ratio)を求めることが通常行なわれている。
【0029】
このような原子比率を求めるには、少なくとも2種の成分元素の定量値の算出が必要である。そこで、次に、2種の成分元素の定量値の算出が実行されたか否かが判断される(ステップS8)。
【0030】
この時点では、第1の成分元素(ここでは鉄)についての定量値のみが算出されているので、ステップS8においてNOと判断され、ステップS3に戻る。
【0031】
ここで、本実施の形態における試料は、上述のごとく鉄酸化物であるので、以降のプロセスにおいて第2の成分元素として例えば酸素(O)を取り上げることとする。
【0032】
ステップS3においては、今度は第2の成分元素である酸素についての特性X線のピーク強度を求める。当該ピーク強度を、ここではI(O)と表わしておく。
【0033】
次にステップS4に進み、当該第2の成分元素である酸素に対応する特性X線のピーク強度の変化率を求める。このときも、上述と同様に、当該試料の被膜の膜厚が10nmの場合に対する酸素の特性X線のピーク強度の変化率が選択されて、上記記憶部から読み出される。この場合の酸素に関する当該ピーク強度の変化率をα(O)と表わすと、図2に示すグラフからわかるように、当該変化率は0.70(70%)であるので、α(O)=0.70という値が当該ピーク強度の変化率として取得される。
【0034】
そして、ステップS5に進み、読み出された酸素についての特性X線強度の変化率α(O)を基に、ステップS3で求めた酸素についての特性X線のピーク強度I(O)を補正する。
【0035】
具体的には、上述と同様に、補正後の当該特性X線のピーク強度をI’(O)と表現すると、I’(O)=I(O)/α(O)の演算式により補正される。従って、この例においては、I’(O)=I(O)/0.70となり、この演算式により補正が行なわれる。
【0036】
その後、ステップS6に進み、上記記憶部から酸素に関する特性X線のピーク強度の標準強度データを読み出す。ここでは、この酸素に関する標準強度データをIstd(O)と表わしておく。
【0037】
次にステップS7に進み、ステップS5において補正した当該特性X線のピーク強度の補正値I’(O)と、ステップS6において読み出した当該標準強度データIstd(O)とに基いて、上述と同様に、ZAF法変換により当該成分元素の定量値(濃度)を算出する。
【0038】
具体的には、当該定量値をC(O)と表現すると、C(O)=ZAF[I’(O)/Istd(O)]の演算式により算出される。これにより、分析の対象とされた当該試料の第2の成分元素である酸素に関する定量値が求められる
その後、ステップ8に進み、2種の成分元素の定量値の算出が実行されたか否かが判断される。
【0039】
このときには、上述の各ステップの実施により、第1の成分元素(ここでは鉄)の定量値C(Fe)と第2の成分元素(ここでは酸素)の定量値C(O)とが算出されているので、ステップ8においてYESと判断され、ステップS9へ進む。
【0040】
ステップS9においては、上述により求められた第1の成分元素の定量値C(Fe)と第2の成分元素の定量値C(O)とにより両者の原子比率が算出される。
【0041】
具体的には、第1の成分元素(鉄)に対する第2の成分元素(酸素)の原子比率を[O/Fe]と表現すると、[O/Fe]=C(O)/C(Fe)の演算式により算出される(ステップS9)。
【0042】
図3は、上述のような鉄酸化物の試料おける鉄に対する酸素の原子比率([O/Fe])の算出値を、当該試料の表面に形成された金からなる被膜の膜厚に応じて示したグラフである。
【0043】
同図における曲線C,D,及びEは、それぞれ分析対象の試料がFeO,Fe,及びFeの場合において、上述の手法により特性X線のピーク強度を補正して算出された原子比率を示す。このときの算出された原子比率データは、それぞれの場合において、金からなる被膜の膜厚の影響をほとんど受けることなく、各々その対応する一定の値を保持している。
【0044】
これに対して、同図における曲線F,G,及びHは、それぞれ分析対象の試料が同様にFeO,Fe,及びFeの場合において、上述のような特性X線のピーク強度の補正を行なわずに算出された原子比率を示したものである。これらの算出された原子比率データは、それぞれの場合において本来一定の値が保持される結果となるべきなのであるが、上記被膜の膜厚の影響を大きく受けて、膜厚の増加に伴って当該原子比率の算出値が減少した結果となっている。
【0045】
従って、上述の手法を用いて特性X線のピーク強度が補正されて算出された原子比率は、補正が無い場合のものと比べて、被膜の膜厚の影響を受けることなく一定の値が保持されることとなる。
【0046】
なお、上述したステップS4では、記憶部に予め格納されている膜厚に応じたピーク強度の変化率のデータが読み出されて当該変化率を取得するようにしているが、分析装置に設けられている演算部に図2の曲線A,Bを表わす近似式を格納しておき、この近似式に膜厚を代入する所定の演算によって当該変化率を算出して取得するようにしてもよい。
【0047】
また、上述の例においては、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いた場合について説明したが、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームを試料に照射した際に発生する特性X線に基いて分析する方法にも適用できる。
【0048】
このように、本発明における試料の分析方法においては、試料の表面に形成された被膜の膜厚に影響を受けることなく、比較的短い処理時間にて効率良く精度のよい分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における分析方法を示す工程フロー図である。
【図2】被膜の膜厚に対する試料の成分元素の特性X線の強度変化率を示すグラフである。
【図3】被膜の膜厚に対する試料の原子比率を示すグラフである。
【符号の説明】
A…鉄の特性X線の強度変化率曲線,
B…酸素の特性X線の強度変化率曲線,
C…FeOに関する補正有りの原子比率曲線,
D…Feに関する補正有りの原子比率曲線,
E…Feに関する補正有りの原子比率曲線,
F…FeOに関する補正無しの原子比率曲線,
G…Feに関する補正無しの原子比率曲線,
H…Feに関する補正無しの原子比率曲線

Claims (5)

  1. 被分析面に被膜が形成された試料の分析方法であって、前記試料の被分析面に荷電粒子ビームを照射する工程と、前記荷電粒子ビームの照射に応じて試料から発生したX線を検出する工程と、検出されたX線から前記試料の成分元素の特性X線の強度を求める工程と、前記被膜に応じた前記成分元素の特性X線の強度変化率を求める工程と、求めた強度変化率に基いて、前記成分元素の特性X線の強度を補正する工程と、前記成分元素に対応する標準強度データを求める工程と、補正した前記成分元素の特性X線の強度と読み出した標準強度データとから定量値を求める工程とを有する分析方法。
  2. 前記特性X線の強度変化率を求める工程は、格納された前記被膜の膜厚と強度変化率の関係を表わすデータを読み出すことによってなされることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
  3. 前記特性X線の強度変化率を求める工程は、演算により算出してなされることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
  4. 前記試料の複数の成分元素についての定量値を求め、それらの比により原子比率を求めることを特徴とする請求項1乃至3に記載の分析方法。
  5. 前記荷電粒子ビームは電子ビームであることを特徴とする請求項1乃至4に記載の分析方法。
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