JP2004107713A - 優れた溶接性を有する高靭性高降伏点鋼材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%を含有し、かつ溶接割れ感受性指数が0.25%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、1000℃以上1300℃以下の温度範囲まで加熱し、Ar3点以上の温度域で累積圧下率が50%以上の圧延を行い、直ちにAr3点以上の温度域から冷却速度3℃/秒以上で300℃以上600℃以下の温度範囲まで加速冷却を行い、その後直ちに昇温速度0.5℃/秒以上で500℃以上Ac1点未満の温度範囲に再加熱する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接構造物の主要部材を対象とする高い降伏点を有する高靭性高張力鋼材の製造方法に関する。より具体的には、橋梁に代表される溶接構造物を対象とする降伏強度が480MPa以上であって優れた溶接性を有する高靭性鋼材の効率的な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、橋梁に代表される溶接構造物の主要鋼材に高張力鋼が適用される事例が多くなってきている。これは高張力鋼材の使用による設計の合理化、例えば鋼材重量の低減、薄肉化、さらにはこれに伴う溶接における省力化が狙いである。このような高張力鋼材には、例えば、JIS G 3106および道路橋示法書に記載されているSM570鋼(8mm≦板厚≦100mm)があり、降伏強度が450MPa以上(降伏点一定鋼)、引張強度が570〜720MPa、マイナス5℃のシャルピー吸収エネルギーが47J以上、PCM(溶接割れ感受性指数)≦0.28%(板厚≦50mm),PCM≦0.30%(50mm<板厚≦100mm)と規定されている。また、この他にも耐候性を有するSMA570W鋼もあり、これについても強度、靭性についてSM570鋼と同様の規定がなされている。
【0003】
一方、米国では近年、従来の橋梁用鋼材より優れた性能を有するHigh Performance Steel(HPS)の開発がなされ、HPSの実橋への適用成果が報告されつつある。HPSは従来鋼よりも高強度、高靭性、高溶接性であり、かつ耐候性を有する鋼であり、溶接時の予熱省略、或いは予熱低減が可能とされている。例えばHPSは、強度に関してASTM A709 Gr.70W(板厚≦100mm)において降伏強度が485MPa以上、引張強度が620〜760MPaと規定され、低温靭性に関してASTM A709 Zone3でマイナス23℃の吸収エネルギーが48J以上と規定されている。このようなHPSを使用することにより、大幅な鋼材重量の低減や建設コストの削減が可能となったことが報告されている。
【0004】
このように、従来のSM570鋼或いはSMA570W鋼よりもさらに低コストで製造され、かつ改善された降伏強度、靭性、溶接施工性を有する鋼材が求められ、研究が進められている。
【0005】
これまで、SM570鋼或いはSMA570W鋼は焼入れ/焼戻しにより製造されてきた。このような技術は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3などに開示されている。
【0006】
上記の熱処理における焼戻しはオフラインで行われてきたが、製造コスト削減や納期短縮の観点からオンラインでの熱処理を用いることが望ましい。このような技術として、例えば、特許文献4には、圧延後さらに[Ar3点−30℃]〜[Ar3点−150℃]の温度域でレベラー掛けまたは軽圧下処理を施すことでNb,Vの析出を促進しつつ、その後、加速冷却することにより高降伏点鋼を得る手法が開示されている。また、特許文献5には、圧延後[Ar3点−70℃]〜[Ar3点−150℃]の温度範囲で2分間以上保持し、この間にNb,Vを析出させ、その後に加速冷却することにより高降伏点鋼板を得るプロセスが開示されている。また、特許文献6にはCu,Ni,Ti,REMを含有する鋼を圧延後、引き続き350〜500℃の温度域まで加速冷却することにより降伏強度46kgf/mm2以上を有する鋼材を得る技術が開示されている。
【0007】
特許文献7には加速冷却装置と同一の製造ライン上に設置された加熱装置を用い、圧延、冷却、焼戻しを連続的に行う方法が開示されている。この技術によれば、冷却により鋼組織をベイナイトまたはマルテンサイト組織とした後に、急速加熱焼戻しを行うことにより過飽和に固溶した炭素を微細なセメンタイトとして析出させることができる。このため、従来の焼入れ/焼戻しプロセスよりも効率的に鋼材を製造することが可能であり、かつ得られる鋼材を強度・靭性に優れたものとすることが可能となる。
【0008】
【特許文献1】
特開昭61−139627号公報
【0009】
【特許文献2】
特開2000−45044号公報
【0010】
【特許文献3】
特開2002−47532号公報
【0011】
【特許文献4】
特開昭62−89814号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平4−221015号公報
【0013】
【特許文献6】
特開昭63−161119号公報
【0014】
【特許文献7】
特許3015923号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した技術には以下のような問題点がある。
【0016】
例えば、オンラインでの製造法に関して、特許文献4〜6に開示されている技術はいずれも加速冷却ままで高降伏強度を有する鋼を得る手法であるが、このようにして得られた鋼は、焼入れ/焼戻しプロセスを用いて製造した鋼に比べて降伏強度が低い。これは、焼戻し時の析出強化による高降伏強度化を活用できないからである。例えば、特許文献6の実施例で示されている鋼の降伏比は平均で約81%である。また、特許文献4,5に開示されている技術は、Nb,Vの析出強化を活用することにより高降伏強度化することを狙いとして、Ar3点以下の温度域でレベラー掛け/軽圧下ならびに保持を行うものであるが、これらの公報の実施例で示されている鋼の降伏比は平均でそれぞれ83%、84%程度である。
【0017】
特許文献7に開示されている技術に基づけば、従来の焼入れ/焼戻しプロセスと同様に高降伏強度(降伏比≧約85%)の鋼を高効率に製造することができる可能性がある。ただし、この技術で得られる鋼の基本的な組織は焼き戻されたベイナイトまたはマルテンサイト組織である。したがって、その実施例が示すように大半の鋼は冷却停止温度が室温と低く、焼戻し時の温度差(焼戻し終了温度−焼戻し開始温度)が大きいために、消費電力などのコスト増に繋がる。
【0018】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、480MPa以上の高降伏強度を有し、かつ靭性および溶接性に優れた鋼材を高効率かつ低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく実験と検討を重ねた結果、高降伏強度化(高降伏比化)に対して最適な組織はフェライトを含むベイナイト組織であることを見出した。このような組織をライン上に配置された加速冷却、加熱設備を駆使して一連の工程で造りこむことにより、フェライト中に微細な析出物を分散させることが可能となり、この結果、高降伏強度化を図ることができ、さらに高靭性かつ溶接性に優れた鋼材が得られるのである。本発明は以上のような知見に基づいてなされたものである。
【0020】
本発明の優れた溶接性を有する高靭性高降伏点鋼材の製造方法は、質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%を含有し、かつPCM=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5Bで定義される溶接割れ感受性指数が0.25%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、1000℃以上1300℃以下の温度範囲まで加熱し、Ar3点以上の温度域で累積圧下率が50%以上の圧延を行い、直ちにAr3点以上の温度域から冷却速度3℃/秒以上で300℃以上600℃以下の温度範囲まで加速冷却を行い、その後直ちに昇温速度0.5℃/秒以上で500℃以上Ac1点未満の温度範囲に再加熱することを特徴とする。
【0021】
前記鋼は、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Ti:0.1%以下、B:0.005%以下のうちのいずれか一種または二種以上をさらに含有することが好ましい。
【0022】
まず、本発明で用いる鋼材の化学成分の限定理由について説明する。以下の説明において「%」で示す単位は全て質量%である。
【0023】
(1)C:0.02〜0.15%
Cは強度確保のために0.02%以上添加する必要がある。一方、0.15%を超えて添加すると溶接性を阻害する。したがって、C含有量は0.02%以上0.15%以下に限定する。
【0024】
(2)Si:0.01〜0.50%
Siは脱酸剤として有効であるとともに高強度化にも寄与する。このような効果を得るためには0.01%以上の添加が必要である。一方、0.50%を超えて添加すると溶接性、靭性を劣化させる。したがってSi含有量は0.01%以上0.50%以下に限定する。
【0025】
(3)Mn:0.5〜2.0%
Mnは安価に焼入れ性の増加を通じて強度を高めるだけでなく、靭性向上にも寄与する。このような観点からMnは0.5%以上必要である。一方、Mnが2.0%を超えると溶接性の劣化に繋がる。したがってMn含有量は0.5%以上2.0%以下に限定する。
【0026】
(4)P:0.05%以下
Pは鋼の靭性を劣化させるため、その含有量はできるだけ低いことが望ましい。このためP含有量はその上限を0.05%、好ましくは0.03%とする。
【0027】
(5)S:0.02%以下
Sは多量に添加すると鋼の靭性を低下させるため極力低減することが望ましい。このためS含有量はその上限を0.02%、好ましくは0.01%とする。
【0028】
(6)Nb:0.005〜0.10%
Nbは本発明において非常に重要な働きをなす元素であり、再加熱時の析出強化を通じて高降伏強度化をもたらす。この効果を発揮させるためにはNbを0.005%以上添加する必要がある。一方、0.10%を超えて添加すると靭性が劣化する。したがってNb含有量は0.005%以上0.10%以下に限定する。
【0029】
(7)V:0.005〜0.10%
VもNbと同様、本発明において重要な働きをなす元素であり、再加熱時の析出強化を通じて高降伏強度化をもたらす。この効果を発揮させるためにはVを0.005%以上添加する必要がある。一方、0.10%を超えて添加すると溶接性および靭性の低下を招く。したがってV含有量は0.005%以上0.10%以下に限定する。
【0030】
(8)PCM:0.25%以下
溶接割れ感受性指数は、PCM=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B(但し、元素記号は鋼材中の各元素の含有量(質量%)を表す)で定義される関係式を用いて鋼材の各成分の含有値を代入して導くことが出来る。
【0031】
溶接割れ感受性指数PCMを0.25%以下として、低合金化により溶接性を向上し、低温割れの抑制を図る。厚肉物ではさらにPCM≦0.22%とすることが好ましい。
【0032】
以上を本発明の基本成分とするが、強度、靭性や溶接性等の調整、耐候性の付与などを目的として、以下に示すCu,Ni,Cr,Mo,Ti,Bの元素のうち1種または2種以上を添加しても良い。
【0033】
(9)Cu:1.0%以下
Cuは固溶による強度上昇および耐候性確保のため必要に応じて添加する。しかし、その含有量が1.0%を超えると鋼材の溶接性を損なうとともに鋼材製造時に疵が生じやすくなる。したがって添加する場合は、Cu含有量の上限を1.0%とする。
【0034】
(10)Ni:2.0%以下
Niは低温靭性を向上させるとともに耐候性やCuを添加した場合に生ずる熱間脆性の改善に有効であるため必要に応じて添加する。しかし、その添加量が2.0%を超えると溶接性を阻害する上、コスト上昇に繋がる。したがって添加する場合は、Ni含有量の上限を2.0%とすることが好ましく、さらに1.0%とすることがより好ましい。
【0035】
(11)Cr:1.0%以下
Crは耐候性や強度の観点から必要に応じて添加されるが、その含有量が1.0%を超えると溶接性および靭性を損なう。したがって添加する場合は、Cr含有量の上限を1.0%とする。
【0036】
(12)Mo:1.0%以下
Moは強度上昇のために必要に応じて添加されるが、その含有量が1.0%を超えると溶接性および靭性の劣化が生じる。したがって添加する場合は、Mo含有量の上限を1.0%とすることが好ましく、さらに0.5%とすることがより好ましい。
【0037】
(13)Ti:0.1%以下
Tiは強度上昇と溶接部靭性の改善のために必要に応じて添加される。しかし、その含有量が0.1%を超えるとコスト上昇を招く傾向にある。したがって添加する場合は、Ti含有量の上限を0.1%とすることが好ましく、さらに0.05%とすることがより好ましい。
【0038】
(14)B:0.005%以下
Bは焼入れ性を高め強度上昇に寄与するため、必要に応じて添加する。しかし、その含有量が0.005%を超えると溶接性を害する。したがって添加する場合は、B含有量の上限を0.005%とすることが好ましく、さらに0.003%とすることがより好ましい。
【0039】
次に製造条件についての限定理由を述べる。
【0040】
本発明の製造方法は上記組成を有する鋼を(a)1000℃以上1300℃以下の温度範囲まで加熱する工程と、(b)Ar3点以上の温度域で累積圧下率50%以上の圧延を行う工程と、(c)直ちにAr3点以上の温度域から冷却速度3℃/秒以上で300℃以上600℃以下の温度範囲まで加速冷却を行う工程と、(d)その後直ちに昇温速度0.5℃/秒以上で500℃以上Ac1点未満の温度範囲に再加熱する工程とを具備する。
【0041】
なお、上記温度、冷却速度および昇温速度は鋼材表面から中央部にかけての平均温度とする。
【0042】
(a)加熱温度:1000℃以上1300℃以下の温度範囲
加熱温度が1000℃未満であるとNbおよびVの固溶が不十分となる。一方、加熱温度が1300℃を超えると鋼の結晶粒が粗大化するので靭性の確保が困難となる。したがって、加熱温度は1000℃以上1300℃以下に限定する。
【0043】
(b)圧延:Ar3点以上の温度域で累積圧下率50%以上
圧延によりオーステナイト粒を微細化させて靭性向上を図るとともに、下記の加速冷却におけるベイナイト変態の促進を図る。このために、Ar3点以上の累積圧下率が50%以上の圧延を行う。Ar3点以上の温度であればオーステナイト再結晶域あるいはオーステナイト未再結晶域のいずれで圧延を行っても構わない。但し、オーステナイト未再結晶域での過度の圧下は機械的特性に対して異方性が生じることから、オーステナイト未再結晶域での累積圧下率は50%以下とすることが望ましい。
【0044】
なお、Ar3点は例えば、Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo(但し、元素記号は鋼材中の各元素の含有量(質量%)を表す)で定義される関係式を用いて鋼材の各成分の含有値を代入して導くことが出来る。
【0045】
(c)加速冷却:Ar3点以上の温度域から冷却速度3℃/秒以上で300℃以上600℃以下の温度範囲
加速冷却により鋼組織を未変態オーステナイトとベイナイトの混合組織とする。したがって、フェライトの生成しない条件として、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却速度:3℃/秒以上、冷却停止温度:600℃以下に規定する。さらに、冷却停止温度を300℃未満とした場合、ベイナイト変態がほぼ完了してしまうため、また靭性に有害な島状マルテンサイトが生成するために、冷却停止温度の下限を300℃とする。
【0046】
(d)再加熱:直ちに昇温速度0.5℃/秒以上で500℃以上Ac1点未満の温度範囲
加速冷却後直ちに再加熱を行い、未変態オーステナイトからフェライト変態させ、変態と同時にフェライト中にNb,Vの炭窒化物を微細析出させる。これにより析出強化およびこれに伴う高降伏強度化(高降伏比化)を達成する。さらに、この工程によりベイナイトの焼戻しがなされ、靭性の向上を図る。昇温速度が0.5℃/秒未満では、再加熱に時間がかかり製造効率の悪化を招くとともに、ベイナイトの過度の軟化や析出物の過剰な成長が生じ、強度低下や靭性劣化が生じる。再加熱温度が500℃未満ではフェライト変態およびNb,V炭窒化物の析出が十分でない。また、再加熱温度がAc1点以上であるとオーステナイト変態が生じ、組織が不均一となり強度低下や靭性劣化が生じる。したがって、昇温速度は0.5℃/秒以上とし、再加熱温度範囲は500℃以上Ac1点未満とする。
【0047】
Ac1点は例えば、Ac1(℃)=723−14Mn+22Si−14.4Ni+23.3Cr(但し、元素記号は鋼材中の各元素の含有量(質量%)を表す)で定義される関係式を用いて鋼材の各成分の含有値を代入して導くことが出来る。
【0048】
なお、所望の強度・靭性が得られる範囲内であれば、再加熱において目標温度範囲で等温保持を行っても良いし、行わなくても良い。さらに、再加熱後の冷却には、炉冷/放冷/急冷のいずれを選択しても構わない。
【0049】
本発明の根幹は加速冷却後に直ちに再加熱を行うことである。したがって、加速冷却装置と加熱装置は同一ライン上にレイアウトされていること、すなわちオンラインであることが好ましい。加熱方式は所定の昇温速度が達成されるものであればいかなるものを用いても良いが、例えば誘導加熱、雰囲気加熱等を用いることができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0051】
供試鋼として表1に示す組成を有する鋼を用意した。これらの供試鋼を溶製し、得られた鋼片に所定の圧延、冷却、熱処理を施し、板厚12〜100mmの鋼板とした。このときの鋼板の製造条件として、加熱温度、Ar3点以上の累積圧下率、冷却開始温度、冷却速度、冷却停止温度、昇温速度、再加熱温度を表2、表3に示す。
【0052】
これらの鋼板について以下のように強度、靭性、溶接性、耐候性についての評価を行った。
【0053】
強度は、JIS Z 2241に規定されている引張強度試験方法に準拠して、板厚の1/4の位置(板厚25mm未満は板厚の1/2の位置)で圧延方向に対して直角方向に採取した丸棒試験片(14mmφ×GL50mmおよび10mmφ×GL35mm)を用いて評価した。ここでは、上降伏点(YS)もしくは0.2%耐力が480MPa以上となるものを合格とした。また、得られた降伏比(YR)が85%以上となるものを合格とした。
【0054】
靭性は、JIS Z 2202に規定されているVノッチ試験片を板厚の1/4の位置(板厚25mm未満は板厚の1/2の位置)で圧延方向と平行方向に採取して、シャルピー衝撃試験により評価した。ここでは、延性/脆性破面遷移温度(vTs)がマイナス30℃以下となるものを合格とした。
【0055】
溶接性は、JIS Z 3158の規定に準拠して、温度20℃、湿度60%の雰囲気下で予熱温度25℃としたy形溶接割れ試験を行い評価した。ここでは、割れの生じなかったものを合格とした。
【0056】
耐候性は、表1に示すD,F,Jの鋼種を用いて製造した鋼板に関して、板厚の1/4の位置より採取した幅100mm、長さ150mm、厚さ5mmの板状試験片を用い、国内臨界工業地域にて3年間の大気暴露試験を行い評価した。ここでは、片面腐食減量が0.3mm以下となるものを合格とした。
【0057】
以上の評価結果を表2、表3に併記する。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
本発明に規定した範囲内の成分を有する鋼種を用い、本発明に従う熱処理を施した実施例1〜7および実施例20〜22の鋼板は、いずれも降伏点または0.2%耐力が480MPa以上、降伏比が85%以上、延性/脆性破面遷移温度がマイナス30℃以下であり、y形溶接割れ試験においても割れが認められなかった。加えて、実施例20〜22の鋼板は優れた耐候性も兼ね備えていた。なお、これらの実施例鋼板の組織は、いずれもフェライトとベイナイトとの混合組織であり、応力−歪曲線は降伏点型であった。
【0062】
このように本発明の製造方法に従えば、高降伏強度化(高降伏比)が達成され、かつ靭性および溶接性に優れた鋼材を製造することが可能である。また、必要に応じて耐候性も兼ね備えた鋼材を製造することも可能となる。
【0063】
これに対し、VとNbの添加を行わなかった鋼種Kを用いた比較例8の鋼板、Vのみを添加してNbを添加しなかった鋼種Lを用いた比較例9の鋼板は、いずれも本発明に従う熱処理を施しても析出強化が発揮されず、高降伏強度化および高降伏比化が達成されていなかった。
【0064】
C,Si含有量およびPCM値が本発明の上限を超える鋼種Mを用いた比較例10の鋼板は、適正な製造条件としても焼入れ性が高くベイナイト主体の組織となったため、降伏比が低く、応力−歪曲線がラウンドハウス型となり、靭性と溶接性がともに低かった。
【0065】
P,S含有量が本発明の上限を超える鋼種Nを用いた比較例11の鋼板は靭性が低かった。
【0066】
加熱温度が1300℃を超える比較例12の鋼板、Ar3点以上の累積圧下率が50%に満たない比較例23の鋼板は高降伏強度化が達成されているものの、靭性が低かった。
【0067】
冷却開始温度がAr3点未満の比較例13の鋼板、冷却速度が3℃/秒未満の比較例14の鋼板、冷却停止温度が600℃を超える比較例24の鋼板はフェライト主体の組織となり、降伏強度が低かった。
【0068】
冷却停止温度が300℃を下回る比較例15の鋼板、再加熱温度が0.5℃/秒を下回る比較例16の鋼板、冷却停止後に再加熱を行わなかった比較例17の鋼板、再加熱温度が500℃下回る比較例18の鋼板はいずれもベイナイト主体の組織であり、このため応力−歪曲線がラウンドハウス型となり、降伏強度および降伏比が低かった。また、比較例17、比較例18の鋼板に関してはベイナイトの焼戻しが不十分であったため靭性も低かった。
【0069】
再加熱温度がAc1点以上である比較例19の鋼板は一部オーステナイト化するため組織が不均一となり、降伏強度および降伏比が低く、靭性も劣化していた。
【0070】
【発明の効果】
以上示したように本発明の製造方法に従えば、特殊な工程や多量の合金元素の添加を必要とせずに、480MPa以上の降伏点を有する高張力鋼材を製造することが可能である。また、本発明により得られる鋼材は優れた靭性と溶接性をも兼ね備え得る。
【0071】
さらに、本発明の製造方法はオンラインでの加速冷却−再加熱プロセスであるため、効率的に上記鋼材を生産することが可能である。したがって、橋梁に代表されるような溶接構造物の主要部材に適用するために十分な機械的特性を有する鋼材を短納期で、安価に提供することが出来る。
【0072】
以上詳述したように本発明によれば、480MPa以上の高降伏強度を有し、かつ靭性および溶接性に優れた鋼材を高効率かつ低コストで製造する方法を提供することができる。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%を含有し、かつPCM=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5Bで定義される溶接割れ感受性指数が0.25%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、1000℃以上1300℃以下の温度範囲まで加熱し、Ar3点以上の温度域で累積圧下率が50%以上の圧延を行い、直ちにAr3点以上の温度域から冷却速度3℃/秒以上で300℃以上600℃以下の温度範囲まで加速冷却を行い、その後直ちに昇温速度0.5℃/秒以上で500℃以上Ac1点未満の温度範囲に再加熱することを特徴とする優れた溶接性を有する高靭性高降伏点鋼材の製造方法。
- 前記鋼は、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Ti:0.1%以下、B:0.005%以下のうちのいずれか一種または二種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1記載の方法。
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JP2019056145A (ja) * | 2017-09-21 | 2019-04-11 | 新日鐵住金株式会社 | 高張力厚鋼板およびその製造方法 |
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