JP2004099913A - 内燃エンジン用シリンダ及びその内周面処理方法 - Google Patents

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中野 秀行
Masaharu Kocha
古茶 正治
Takayuki Matsumoto
松本 隆行
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Abstract

【課題】ピストン摺動面となる内周面に、環境への負荷が小さく、かつ、実用に耐えられる硬さを持つとともに、ホーニング加工等の仕上げ加工を不要にできるめっき処理が施された内燃エンジン用シリンダ、及び、かかるシリンダを得ることのできる内周面処理方法を提供する。
【解決手段】ピストン摺動面となる内周面(9)に、ニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっき皮膜(20)を形成する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピストン摺動面となる内周面にめっき処理を施したアルミニウム合金製の内燃エンジン用シリンダ及びその内周面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の携帯型動力作業機等に使用されている小型空冷2サイクルガソリンエンジン用シリンダの代表例として、図3に示される如くのものが挙げられる。図示例のシリンダ1は、アルミニウム合金製で、左右一対の柱状膨出部2a、2aが設けられている胴部2と、スキッシュドーム形と呼ばれる燃焼室4が設けられた頭部3と、が一体に形成されており、その外周部には多数の冷却フィン19が形成され、また、前記頭部3には点火プラグ装着用の雌ネジ部18が形成されている。
【0003】
前記胴部2の内周面(シリンダボア面)9には、ピストン15により開閉される排気ポート5及び吸気ポート6が、上下に段違いで向かい合うように開口せしめられるとともに、該両ポート5、6と、周方向に沿って約90°位置をずらして、前記柱状膨出部2a、2aの内部に、所定厚みを有する内壁7a、7a付きの中空掃気通路7、7が設けられ、この掃気通路7、7の下流側端部(上端部)に、前記ピストン15により開閉される左右一対の掃気ポート8、8が、前記シリンダボア9の前記排気ポート6とは反対方向に向けてやや上向きに形成されている。
【0004】
なお、前記シリンダ1は、前記排気ポート5を二分割する縦断面Fを挟んで左右対称的に一対の掃気ポート8、8が設けられた所謂シュニューレ二流掃気式のシリンダであるが、掃気ポートをさらに追加して二対設けた、所謂四流掃気式のものも知られている。また、掃気通路の形態としては、図示されている如くの、内壁7a、7a付き中空のもの及び前記内壁7a、7aが無いもの(前記内周面9側が開口している)ものの他、クランク室から掃気通路を通じて掃気ポートに導かれる混合気をピストンのスカート部に接触させるべく、前記掃気通路の上部に所定厚みを有する半壁を残して、その下部に高さ方向に沿って切欠開ポート部を形成した、半壁付きのものもある(特開2000−34926号公報参照)。
【0005】
前記した如くのアルミニウム合金製の2サイクル内燃エンジン用シリンダ1は、通常、ハイプレシャーダイカスト法等で鋳造した後、ピストンが摺動せしめられる前記内周面9については、耐摩耗性等を高めるため、めっき処理(めっき皮膜10)を施すようにされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来、前記シリンダ1の内周面9のめっき処理としては、所要の硬度が得られるクロム(Cr)めっきが多く採用されている。ところが、このクロムめっきを採用した場合には、図2(A)〜(D)に、前記排気ポート5、前記吸気ポート6、前記掃気ポート8等の、前記内周面9に開口するポート部分が示されている(ここでは、前記排気ポート5の開口端縁部分を代表として例示)ように、前記内周面9にクロムめっきを施すと、図2(B)に示される如くに、クロムめっき皮膜10(の開口端縁角部)に、盛り上がり部10aが形成されてしまう。めっき皮膜10に前記盛り上がり部10a等が存在してその膜厚が不均一のままであると、前記ピストン15の摺動性等が低下し、実用に耐えない。そのため、前記盛り上がり部10aを除去して膜厚の均一化を図るべく、図2(C)に示される如くに、ホーニング加工を施すようにされる。かかるホーニング加工により、前記クロムめっき皮膜10の膜厚が薄くされて均一化されるが、そのクロムめっき皮膜10の開口端縁部10bが尖ってしまう。このように、前記開口端縁部が尖っていると、前記めっき皮膜10に割れや亀裂を生じやすいだけでなく、そこを摺動するピストン(ピストンリング)15を傷つけてしまうため、前記開口端縁部10bに、図2(D)に示される如くに、面取り加工(ここではR面取り10c)を施すことが追加工として必要とされる。
【0007】
前記のように、従来一般的に採用されていたクロムめっきでは、めっき処理後に、ホーニング加工や面取り加工等の仕上げ加工(機械加工)が必要となり、内燃エンジン用シリンダの製造コストが高くなる嫌いがあった。
【0008】
また、前記クロムめっきでは、有害な六価クロムを使用するので、環境負荷が大きいという問題等もあり、クロムめっきの代替えとなる、シリンダ内周面用めっきの開発が強く望まれている。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ピストン摺動面となる内周面に、環境への負荷が小さく、かつ、実用に耐えられる硬さを持つとともに、ホーニング加工、面取り加工等の仕上げ加工を不要にできるめっき処理が施された内燃エンジン用シリンダ、及び、かかるシリンダを得ることのできる内周面処理方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成すべく、本発明に係る内燃エンジン用シリンダは、ピストン摺動面となる内周面に、ピストンにより開閉せしめられる吸気ポート、排気ポート、掃気ポート等のボートが少なくとも一つ開口せしめられており、前記内周面に、ニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっき皮膜が形成されていることを特徴としている。
【0011】
好ましい態様では、前記内周面に形成された前記めっき皮膜の表面が、ホーニング加工等の仕上げ加工を施されることなくそのままピストン摺動面とされる。
【0012】
前記めっき皮膜の膜厚は、好ましくは、10〜20μmとされる。
【0013】
一方、本発明に係る内周面処理方法は、アルミニウム合金製の内燃エンジン用シリンダに適用されるもので、ピストン摺動面となる内周面に、ニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっきを施すようにされる。
【0014】
この場合、好ましい態様では、前記無電解めっきにより形成されたニッケル−リン−ホウ素系のめっき皮膜に、該めっき皮膜の硬度を向上させるべく、熱処理を施すようにされる。
【0015】
本発明の内燃エンジン用シリンダの内周面処理に採用されたニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっきは、クロムめっきにおける盛り上がり部10a(図2参照)は発生せず、ピストン摺動面だけでなく、吸気ポート、排気ポート、及び、掃気ポートの各ポート部を含めて均一で薄い皮膜が得られる。そのため、前記内周面に形成されたニッケル−リン−ホウ素系のめっき皮膜が、そのままピストン摺動面(仕上げ面)となり得、従来、めっき処理後に必要であったホーニング加工、面取り加工等の仕上げ加工(機械加工)を省略でき、その結果、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0016】
また、めっき処理後に、皮膜に熱処理を施すこときにより、クロムめっき並の硬度が得られるとともに、前記膜厚が均一化されることと相まって、優れた摺動性が得られる。
【0017】
さらに、ホーニング加工等が不要となることから、より複雑なシリンダ形状、例えば、従来方法では製作困難であったシリンダのピストン摺動面(シリンダボア面)を、テーパー形状(末広がり形状)等にすることも可能となり、これにより、エンジン性能を一層向上させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
本発明に係る内燃エンジン用シリンダの一実施形態は、前述した図3に示されるものと同様に、刈払機やチェーンソー等の携帯型動力作業機に用いられる、アルミニウム合金製の小型空冷2サイクルガソリンエンジン用シリンダであり、めっき皮膜10部分以外は同じ構成であるので、以下においては、図3に示されるシリンダ1を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態のシリンダ1は、排気量30mL程度の小型空冷2サイクルガソリンエンジン用のものであり、母材としてアルミニウム合金が用いられて、ハイプレシャーダイカスト法等で鋳造した後、図1(A)、(B)に、前記排気ポート5、前記吸気ポート6、前記掃気ポート8等の、前記内周面9に開口するポート部分が示されている(ここでは、前記排気ポート5の開口端縁部分を代表として例示)ように、ピストン15が摺動せしめられる内周面9に、無電解めっきにより、ニッケル−リン−ホウ素系の皮膜20を形成したものである。
【0021】
前記無電解めっき皮膜20は、リンを、例えば、0.5〜3.0重量%、ホウ素を0.5〜3.0重量%含有する、無電解ニッケルめっき被膜であり、その膜厚は、、約15μmで均一になっている。なお、前記皮膜20の膜厚は、例えば、めっき浴に浸漬する時間を調整することにより決定され、ここでは、ピストン摺動面として要求される硬度、摺動性、靱性等を勘案すると、10〜20μmとするのが適当である。
【0022】
また、前記無電解めっき皮膜20には、その表面硬度をHv900程度まで上げるべく、皮膜形成後に熱処理が施されている。熱処理温度、熱処理時間は、要求される硬度や母材(シリンダ1)の耐熱性等を勘案して、それぞれ、例えば、200〜400°C、30〜120分が適当とされる。
【0023】
本実施形態の内燃エンジン用シリンダ1の内周面処理に採用されたニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっきは、クロムめっきにおける盛り上がり部10a(図2参照)は発生せず、ピストン摺動面だけでなく、吸気ポート6、排気ポート5、及び、掃気ポート8等の各ポート部を含めて、均一で薄い皮膜20が得られる。そのため、前記内周面9に形成されたニッケル−リン−ホウ素系のめっき皮膜20の表面20aが、そのままピストン摺動面となり得、従来、めっき処理後に必要であった、ホーニング加工、面取り加工等の仕上げ加工(機械加工)を省略でき、その結果、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0024】
また、めっき処理後に、前記皮膜20に熱処理を施すこときにより、クロムめっき並の硬度が得られるとともに、前記膜厚が均一化されることと相まって、優れた摺動性が得られる。
【0025】
さらに、ホーニング加工等が不要となることから、より複雑なシリンダ形状、例えば、従来方法では製作困難であった、シリンダのピストン摺動面(シリンダボア面)を、テーパー形状(末広がり形状)等にすることも可能となり、これにより、エンジン性能を一層向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。
【0027】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明によれば、ピストン摺動面となる内周面に、環境への負荷が小さく、かつ、実用に耐えられる硬さを持つとともに、ホーニング加工等の仕上げ加工を不要にできるめっき処理が施された内燃エンジン用シリンダ、及び、かかるシリンダを得ることのできる内周面処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る内燃エンジン用シリンダの一実施形態における吸気ポート等のポート部分におけるめっき皮膜形成状態の説明に供される部分断面図。
【図2】従来の内燃エンジン用シリンダの一例における吸気ポート等のポート部分でのめっき皮膜形成状態の説明に供される部分断面図。
【図3】内燃エンジン用シリンダの一例を示す縦断面図。
【符号の説明】
1…小型空冷2サイクルガソリンエンジン用シリンダ
(内燃エンジン用シリンダ)
5…排気ポート
6…吸気ポート
8…掃気ポート
9…内周面(ピストン摺動面)
15…ピストン
20…ニッケル−リン−ホウ素系めっき皮膜

Claims (5)

  1. ピストン摺動面となる内周面(9)に、ピストン(15)により開閉せしめられる吸気ポート(6)、排気ポート(5)、掃気ポート(8)等のポートが少なくとも一つ開口せしめられている内燃エンジン用シリンダ(1)であって、前記内周面(9)に、ニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっき皮膜(20)が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金製の内燃エンジン用シリンダ。
  2. 前記内周面(9)に形成されためっき前記皮膜(20)の表面(20a)が、ホーニング加工等の仕上げ加工を施されることなくそのままピストン摺動面とされていることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン用シリンダ。
  3. 前記めっき皮膜(20)の膜厚は、10〜20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃エンジン用シリンダ。
  4. ピストン摺動面となる内周面(9)に、ニッケル−リン−ホウ素系の無電解めっきを施すようにした、アルミニウム合金製の内燃エンジン用シリンダの内周面処理方法。
  5. 前記無電解めっきにより形成されたニッケル−リン−ホウ素系のめっき皮膜(20)に、該めっき皮膜(20)の硬度を上げるべく、熱処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の内周面処理方法。
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