JP2004099541A - エポキシ化合物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造するに際し、エポキシ化合物の収率を向上し、しかもエポキシ化合物を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する方法であって、該エポキシ化合物の製造方法は、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うエポキシ化合物の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する方法であって、該エポキシ化合物の製造方法は、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うエポキシ化合物の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関する。より詳しくは、アルキル置換アントラハイドロキノンを用いて酸化剤となる過酸化水素を発生させ、オレフィンと反応させることによりエポキシ化合物を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ化合物は、各種の工業製品において広く用いられている有用な化合物であり、オレフィンを酸化剤及びエポキシ化用触媒を用いてエポキシ化することにより製造することができる。このようなエポキシ化反応における酸化剤としては、過酸化水素が挙げられるが、過酸化水素がエポキシ化合物の製造における原料としては比較的高価であり、また、貯蔵しやすい原料ではないことから、過酸化水素を生成する反応をともなってオレフィンのエポキシ化を行う複合化プロセスによりエポキシ化合物を製造することが検討されている。
【0003】
このような技術として、アルキルアントラキノンをアルキルハイドロアントラキノンに還元した後に、チタニウムシリケートを触媒とし、オレフィンと酸素又は空気とを反応させることにより、アルキルハイドロアントラキノンをアルキルアントラキノンに酸化して過酸化水素を発生させてオレフィンの酸化物を製造する方法に関し、エチルアントラキノンとエチルハイドロアントラキノンとの酸化還元系を用い、チタニウムシリケートとしてゼオライト系触媒であるTS−1を用いてプロピレンからプロピレンオキシドを得たことが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このような製造方法においては、(a)ベンゼン、トルエン、キシレン、α−メチルナフタレン若しくはそれらのハロゲン化されたものから選択される芳香族若しくはアルキル化芳香族化合物又は多核炭化水素化合物、(b)沸点150〜350℃の有機化合物であって、ジイソブチルカルビノール、ジイソブチルケトン、メチル−シクロヘキシルアセテート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルヘキシル及びフタル酸t−ブチルから選択されるもの、(c)好ましくはメタノールである低分子量アルコールの(a)〜(c)の混合溶媒が使用されている。アントラキノン類を有機溶媒に溶かした溶液は作動溶液と呼ばれる。
【0004】
また、プロピレンをプロピレンオキサイドにエポキシ化するために用いられるタングステン含有触媒に関し、2−エチルアントラキノン(EAQ)と2−エチルアントラハイドロキノン(EAHQ)との酸化還元系を用い、リンタングステン酸触媒を用いてプロピレンからプロピレンオキシドを得たことが開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。この場合には、キシレンとトリブチルリン酸との混合溶媒が使用されている。
【0005】
これらの複合化プロセスによりエポキシ化合物を得る場合においては、使用化合物の溶解性や、過酸化水素の発生効率、エポキシ化反応での溶媒の適合性が重要であり、このため混合溶媒が用いられていた。例えば、アントラキノン類の溶解性の点から芳香族化合物や炭化水素化合物が使用され、アントラハイドロキノン類の溶解性の点からジイソブチルカルビノール、ジイソブチルケトンやトリブチルリン酸が使用され、エポキシ化用触媒として用いられるチタンを含むゼオライトであるTS−1(チタニウムシリケート)等の活性発現の点からメタノールが使用されていた。しかしながら、エポキシ化合物の収率を向上するために、溶媒の種類について工夫の余地があった。また、混合溶媒を用いる場合には、例えば、複合化プロセスによるエポキシ化合物の製造においては水が副生することになり、蒸留等の操作により水と分離することが必要となるが、メタノールを含むときには水と分離しにくく、トルエンやキシレン等を含むときには生成物であるエポキシ化合物と分離しにくいことから、エポキシ化合物を容易に製造するという点においても工夫の余地があった。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5221795号明細書(1992)(第3−6欄)
【0007】
【非特許文献1】
Science、(米)、2001年、292、p.1139−1141
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造するに際し、エポキシ化合物の収率を向上し、しかもエポキシ化合物を容易に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、エポキシ化合物の製造方法について種々検討するうち、過酸化水素を酸化剤とし、エポキシ化用触媒を用いてオレフィンのエポキシ化反応を行うことによりエポキシ化合物を製造する方法が有用であり、アルキル置換アントラハイドロキノンにより過酸化水素を発生させると、過酸化水素そのものを原料とする場合の不具合を解消することができることに着目した。この場合の好ましい形態としては、アルキル置換アントラキノンとアルキル置換アントラハイドロキノンとの酸化還元反応系により過酸化水素を発生させてエポキシ化合物を製造する複合化プロセスによる形態である。そして、このような製造方法においてニトリルを含む溶媒中で反応を行うと、エポキシ化合物の収率が向上することとなり、特にエポキシ化用触媒が特定されるとこのような効果が充分に発揮されることを見いだした。また、ニトリルを含む溶媒の単一溶媒を用いることが可能であり、これにより生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物を容易に製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する方法であって、上記エポキシ化合物の製造方法は、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うエポキシ化合物の製造方法である。
以下に、本発明を詳述する。
【0011】
本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造することになる。
このような製造方法においては、エポキシ化合物の製造が、アルキル置換アントラキノンを還元してアルキル置換アントラハイドロキノンとする反応プロセス(「前段プロセス」ともいう)と、該アルキル置換アントラハイドロキノンを酸化してアルキル置換アントラキノンとすることにより過酸化水素を発生させ、該過酸化水素に由来する酸素原子とオレフィンとをエポキシ化用触媒を用いてエポキシ化することによりエポキシ化合物を製造する反応プロセス(「後段プロセス」ともいう)とを含んでなる複合化プロセスにより行われることが好ましく、この場合、前段プロセスと後段プロセスとは、この順に順次行われてもよく、実質的に同時に行われてもよく、アルキル置換アントラハイドロキノンの酸化により生成する過酸化水素に由来する酸素原子がオレフィンのエポキシ化に用いられることになればよい。前段プロセスの還元工程は、還元触媒の存在下、水素とアルキル置換アントラキノン類を反応させることにより行われる。還元触媒としてはPdを活性炭やアルミナ等の担体に担持させたものが通常用いられるが、反応溶液と還元触媒との分離性の点から、還元後に生成するアルキル置換アントラハイドロキノンは使用溶媒に均一に溶解していることが望ましい。なお、このような複合化プロセスにおいては、アルキル置換アントラキノンとアルキル置換アントラハイドロキノンとによる酸化還元反応が繰り返されることにより酸化剤である過酸化水素が発生されるようにすることが好ましい。
【0012】
上記アルキル置換アントラキノンとしては、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−sec−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、2−エチルアントラキノンが好適である。2−エチルアントラキノン/2−エチルアントラキノンの酸化還元反応系により過酸化水素を発生させて上述した複合化プロセスによりエポキシ化合物を製造することは、本発明の好ましい実施形態である。
【0013】
上記アルキル置換アントラキノンの使用量としては、反応基質であるオレフィン中のエチレン性二重結合に対するモル比(オレフィン中のエチレン性二重結合のモル数/アルキル置換アントラキノンのモル数)が1/10以上となるようにすることが好ましく、また、50/1以下となるようにすることが好ましい。より好ましくは、1/5以上であり、また、10/1以下である。
【0014】
本発明においては、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うことになる。ニトリルを含む溶媒としては、ベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオンニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘキセンニトリル、ドデカニトリル、トルニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明においてはベンゾニトリルが好適である。また、他の溶媒の併用も可能であるが、その際、好ましいベンゾニトリルの含有量は全溶媒量の50質量部以上であり、より好ましくは70質量部以上である。本発明では、ニトリルを含む溶媒を単一溶媒(一種類の化合物のみによる溶媒)として使用することが可能であり、このような単一溶媒中で反応を行うことが好ましい。これにより生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物の製造において副生する水との分離を行えば溶媒を再度利用することが可能となる。また、複合化プロセスにおいて、前段プロセスと後段プロセスとの反応がニトリルを含む溶媒中で行われることが好ましい。更に、このような複合化プロセスにおいて、前段プロセスと後段プロセスとの反応をニトリルを含む溶媒の単一溶媒中で行うことも可能であり、このように前段プロセスと後段プロセスとの反応を単一溶媒中で行うことが好ましい。
【0015】
上記ニトリルを含む溶媒の使用量としては、反応基質であるオレフィン100質量部に対して10質量部以上となるようにすることが好ましく、また、100000質量部以下となるようにすることが好ましい。より好ましくは、50質量部以上であり、また、10000質量部以下である。
【0016】
以下では、本発明のエポキシ化合物の製造方法におけるエポキシ化用触媒、反応基質、製造条件等について説明する。
本発明におけるエポキシ化用触媒としては、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造することができるものであればよく、ポリオキソメタレートアニオンを含むもの;BeO等の2族化合物;Y2O3、La2O3等の3族化合物;TiO2、ZrO2等の4族化合物;NaVO3、VO(acac)2等の5族化合物;CrO3、(NH4)6Mo7O24・4H2O、Na2WO4、Na2MoO4等の6族化合物;NaReO7、サレンMn錯体、CH3ReO3等の7族化合物;Fe2O3、RuCl2(PPh2)3、FeCl3、n−Pr4N(RuO4)、K2OsO2(OH)4、Fe(NH4)2(SO4)2・FeO等の8族化合物;Co(acac)2、RhCl3等の9族化合物;Pd(OAc)2等の10族化合物;CuO、CuO2等の11族化合物;Hg(OAc)2等の12族化合物;B2O3、LiBO2、NaBO2等の13族化合物;GeO2等の14族化合物;As2O3、NaAsO2、BiCl2等の15族化合物;SeO2、C6H5SeO2H、Na2SeO4、Na2TeO3等の16族化合物;I2O5等の17族化合物;TS−1等の各種ゼオライト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリオキソメタレートアニオンを含むものが好適である。
【0017】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒としては、(1)二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)と、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズ及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、かつ、ポリ原子と異なる元素(E1)とを含む形態、(2)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)と、周期律表IIIa族の4〜6周期の元素、VIa〜VIII族の4〜6周期の元素、Ib〜IIb族の4〜6周期の元素、IIIb族の3〜6周期の元素及びIVb〜Vb族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、かつ、ポリ原子と異なる元素(E2)とを含む形態、(3)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)と、Va族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素(E3)とを含む形態のものが好適である。
【0018】
上記(1)、(2)及び(3)の形態の触媒は、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン、及び/又は、ポリ原子が三つ欠けている三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、ポリ原子と異なる元素とを含むものである。
【0019】
上記(1)の形態の触媒において、二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ヘテロ原子である珪素原子に酸素を介してポリ原子が10個又は9個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ等の原子が好適である。すなわち上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、下記一般式(1);
[Si(M1)10O36]q− (1)
及び/又は下記一般式(2);
[Si(M1)9O34]q− (2)
(式(1)及び(2)中、Siは、珪素原子を表す。M1は、同一若しくは異なって、モリブデン、タングステン、バナジウム及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、qは、元素M1の価数によって決まることになる。
【0020】
上記触媒の必須成分である元素(E1)は、ポリ原子と異なる元素であり、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズ及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素である。これらの中でも、好ましくは、V、Sb、Mo、Cr、Re、Co、Ni、Ru、Pd、Au、Zn、Y、Sn、ランタノイド元素であり、より好ましくは、V、Mo、Pd、Ru、Au、Zn、Y、ランタノイド元素である。
【0021】
本発明の触媒における元素(E1)の含有量としては、触媒中のSi原子1個に対して、零個を超えることが好ましい。より好ましくは、0.0001個以上であり、更に好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0022】
上記(2)及び(3)の形態の触媒において、ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)並びにヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)は、ヘテロ原子であるリン原子に酸素を介してポリ原子が10個又は9個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
上記(2)及び(3)の形態において、上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。すなわち上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)は、下記一般式(3);
[P1(M2)10O36]r− (3)
及び/又は下記一般式(4);
[P1(M2)9O34]r− (4)
【0024】
(式(3)及び(4)中、Pは、リン原子を表す。M2は、同一若しくは異なって、モリブデン又はタングステンを表す。rは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、rは、元素M2の価数によって決まることになる。また、上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)は、下記一般式(5);
[P1W10O36]7− (5)
及び/又は下記一般式(6);
[P1W9O34]9− (6)
(式(5)及び(6)中、Pは、リン原子を表す。Wは、タングステン原子を表す。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
【0025】
上記(2)の形態の触媒の必須成分である元素(E2)は、ポリ原子と異なる元素であり、周期律表IIIa族の4〜6周期の元素、VIa〜VIII族の4〜6周期の元素、Ib〜IIb族の4〜6周期の元素、IIIb族の3〜6周期の元素及びIVb〜Vb族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素である。これらの中でも、好ましくは、Cr、Mo、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Au、Zn、Al、In、Ge、Sn、Sb、Bi、Sc、Y、ランタノイド元素である。より好ましくは、Mo、Re、Rh、Ir、Zn、ランタノイド元素であり、更に好ましくは、Zn、Re、Mo、Rhである。なお、ポリ原子と異なる元素であるとは、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンの場合には、上記元素の中のモリブデン及び/又はタングステン以外の元素である。
【0026】
上記(3)の形態の触媒の必須成分である元素(E3)は、Va族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、V、Nb、Ta元素である。これらの中でも、好ましくは、Vである。
【0027】
上記(2)、(3)の触媒における元素(E2)や元素(E3)の含有量としては、触媒中のリン原子1個に対して、零個を超えることが好ましい。より好ましくは、0.0001個以上であり、更に好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0028】
上記触媒における元素(E1)、(E2)及び(E3)の形態としては、カチオンとして、ヘテロポリオキソメタレートアニオンと電荷とのバランスをとってもよく、酸化物等の形態をとってもよい。
【0029】
本発明の触媒における元素(E1)、(E2)又は(E3)(以下、これらをまとめて元素(E)ともいう)とヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)又は(A3)(以下、これらをまとめてヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)ともいう)の存在形態としては、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)と元素(E)とが触媒中に共に存在することになればよいが、例えば、以下の(1)〜(3)に記載する結合形態が好適である。
【0030】
(1)元素(E)がヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の二欠損及び/又は三欠損部位を置換して存在する形態。この場合、各元素(E)は互いに隣接していることが好ましい。各元素(E)が互いに隣接する異性体としては、α、β、γ、δ、ε体等が存在するが、α、βは角を共有した異性体である。より好ましくは、二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの骨格中に二個の元素(E)が陵を共有してくみ込まれる形態であり、それはγ、δ、ε体である。この中でも最も好ましくはγ体である。γ体は、例えば、Inorganic syntheses,vol.27,p.85−96、J.Am.Chem.Soc.,120,p.9267に記載の方法で調製できる。
【0031】
(2)元素(E)が錯体化合物、例えば、{Si(M1)10O34}q−−E−O−E−{Si(M1)10O34}q−若しくは{Si(M1)10O34}q−−E−{Si(M1)10O34}q−のように、又は、{P(M2)10O36}r−−E−O−E−{P(M2)10O36}r−のように又は{P(M2)10O36}r−−E−{P(M2)10O36}r−のように二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンによって配位されて存在する形態。
上記(1)、(2)の形態において、元素(E)とヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)とが結合した構造は、X線解析、元素分析やFT−IR分光測定から決定又は推定することができる。
【0032】
(3)元素(E)が二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に担持されたり、吸着されたりして存在する形態。この場合、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)における、元素(E)が担持される部位や吸着される部位は特に限定されるものではない。このような形態は、元素分析、FT−IR分析等から推定される。
【0033】
上記二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、塩を形成していてもよく、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を形成する対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属カチオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属カチオン(ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)や、第四級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩)、第四級フォスフォニウム塩(テトラメチルフォスフォニウム塩、テトラエチルフォスフォニウム塩、テトラプロピルフォスフォニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、テトラフェニルフォスフォニウム塩、エチルトリフェニルフォスフォニウム塩、ベンジルトリフェニルフォスフォニウム塩)、第四級アルセン、セチルピリジニウム塩等の有機カチオンを含むカチオンが好適である。カチオンは、1種類又は2種類以上用いることができる。
【0034】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒としてはまた、(4)二欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素原子であるヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を均一系触媒として使用する形態、(5)欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩を固体触媒として使用する形態も好適である。
【0035】
上記(4)の均一系触媒は、ヘテロ原子が珪素原子であり、該ヘテロ原子にポリ原子としての金属元素が酸素原子を介して配位したヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を含有するものであるが、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有することを特徴とする。
【0036】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ヘテロ原子である珪素原子に酸素を介してポリ原子が10個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、上記(1)の触媒におけるのと同様の原子が挙げられ、これらの中でも、モリブデン及び/又はタングステン原子が好適である。すなわち(4)の触媒としては、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンが、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンにおいて、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステン原子であることが好ましい。
上記(4)の触媒におけるヘテロポリオキソメタレートアニオンの形態としては二欠損ケギン型が好ましく、更に好ましくはγ型である。また、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を形成する対カチオンとしては、上述したのと同様であり、1種類又は2種類以上用いることができる。
【0037】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の調製方法としては、例えば、Inorganic syntheses,27,p.88に記載された調製方法が好適であり、これにより生成するヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩をイオン交換水に溶解して水溶液とし、更に、pHを調整することにより上記(4)の形態の触媒として好適に使用しうるものを得ることができる。このような触媒は、pH依存性を有し、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の水溶液のpHとしては、−2.0〜10.0とすることが好ましい。より好ましくは、−1.0〜7.0である。更に好ましくは、0〜5.0である。
【0038】
上記(5)の形態の触媒における欠損型ポリオキソメタレートアニオンの好ましい形態としては、一欠損、二欠損及び三欠損のいずれかの欠損構造部位を有し、また、ヘテロ原子として珪素又はリンを有し、そのヘテロ原子である珪素原子又はリン原子に酸素を介してポリ原子が9〜11個配位した結晶構造を有している形態である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、上記(1)の触媒におけるのと同様の原子が好適である。
【0039】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンとしては、ヘテロ原子が珪素原子又はリン原子である場合は、下記一般式(7);
[X(M3)nOm]s− (7)
(式中、Xは、珪素原子又はリン原子を表す。M3は、同一若しくは異なって、モリブデン、タングステン、バナジウム及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を表す。(n,m)は、一欠損構造部位を有する場合は(11,39)、二欠損構造部位を有する場合は(10,36)、三欠損構造部位を有する場合は(9,34)である。sは、正の整数である。)で表される一欠損、二欠損及び三欠損のいずれかの欠損構造部位を有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、sは、元素M3の価数によって決まることになる。
【0040】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンの対カチオンである4級アンモニウム塩としては、上述したのと同様のもの等が好適である。また、4級アンモニウム基をイオン交換基としてもつ、例えば、スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製:DIAIONシリーズ)やその他の各種アニオン交換樹脂を利用することができる。
【0041】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩の調製方法としては、欠損型ポリオキソメタレートのアルカリ金属塩又は酸型を水系媒体中に 溶解又は懸濁させ、ここに4級アンモニウム塩を加え攪拌し、カチオン交換を行うことで目的とする化合物を得ることができる。
【0042】
なお上記触媒は、上述した(1)二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)並びに元素(E1)、(2)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)並びに元素(E2)、又は、(3)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)並びに元素(E3)、(4)ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、5)欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩、のいずれか又はこれらの混合物を必須成分とし、これを主成分とすることが好ましいが、本発明の作用効果を奏する限り触媒調製過程で生じる不純分や、他の成分を含有していてもよい。
【0043】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒の使用量としては、例えば、反応基質であるオレフィン中のエチレン性二重結合に対するモル比(オレフィン中のエチレン性二重結合のモル数/欠損型ヘテロポリオキソメタレートアニオン及び/又はその塩のモル数)が、100000/1以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、10000/1以上である。また、1/10以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/1以下である。
【0044】
本発明において使用する反応基質であるオレフィンとしては、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物であればよく、非環式であっても環式有機化合物であってもよく、例えば、炭化水素、エステル、アルコール、エーテル、ハロゲン置換炭化水素等の1種又は2種以上用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン類、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−アイコセンプロピレンのトリマー及びテトラマー類、1,3−ブタジエン等の末端にエチレン性二重結合を有する直鎖アルケン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチル−2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン等の分子内部にエチレン性二重結合を有するアルケンや分岐アルケン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、シクロオクテン、ノルボルネン等の脂環式オレフィン性炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜15の不飽和炭化水素が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜12の不飽和炭化水素である。
【0045】
上記オレフィンはまた、例えば、−COOH、−CN、COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアリルアルキル置換基を表す)等の基や、アリール、アリルアルキル、ハロゲン、ニトロ、スルホン酸、カルボニル(例えばケトン、アルデヒド)、ヒドロキシル、エーテル基を有していてもよい。このような化合物として、例えば、アリルアルコール、塩化アリル、アリルメチルエーテル、アリルビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルフェニルエーテル、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0046】
また上記オレフィンとしては、炭素−炭素の二重結合を含む炭素数6以上のアリール化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の置換スチレン類、ジビニルベンゼン類、スチルベン、アラルケン類;炭素−炭素の二重結合を有するアミン類、チオール類、サルファイド類、ジサルファイド類、Se、Te、SbやAsを有する化合物、ホスフィン類、ホスファイト類等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法における反応方法としては、オレフィン及び酸素原子に触媒を接触させることによりエポキシ化反応を行うことが好ましい。また、上記(1)、(2)、(3)、(4)の形態の触媒を用いる場合には、オレフィン及びアルキル置換アントラハイドロキノンをニトリルを含む溶媒に溶解させて液相均一系で行うことが反応活性の面で好ましい。また、触媒をニトリルを含む溶媒に溶解させずに液相に懸濁させてエポキシ化反応を行うことも可能である。
【0048】
また、上記(5)の触媒を用いる場合等には、触媒を固相とし、オレフィンやアルキル置換アントラハイドロキノン等の反応物をガス相や液相とするいわゆる不均一系反応で行うことになる。この場合、例えば、触媒を担体に担持するか、触媒自体を固体として使用し、そこに反応物を加えて反応させる方法により行うことが好ましい。触媒用担体としては、シリカ、アルミナや、他の酸化物等の一般的に不均一系接触反応に使用される担体を用いることができる。
【0049】
上記エポキシ化反応における反応系は、中性〜酸性であることが好ましい。本発明においては、上記触媒を用いることにより反応系を酸性とすることができるが、更に反応系中に酸性物質を加えてもよい。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;酢酸、安息香酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スルホン酸等の有機酸類;ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類等が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化アンチモン化合物、塩化第二スズ、フッ化アンチモン、亜鉛やチタンの化合物、ゼオライト類、混合酸化物等が好適である。更に無機、有機酸性塩を用いることもできる。
【0050】
上記エポキシ化反応における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、より好ましくは、室温以上である。また、250℃以下が好ましく、より好ましくは、180℃以下である。反応時間は、数分以上が好ましく、また、150時間以内が好ましい。より好ましくは、48時間以内である。反応圧力は、常圧以上が好ましく、また、2×107Pa以下が好ましい。より好ましくは、5×106Pa以下である。また、減圧下で反応を行うこともできる。
【0051】
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する際にニトリルを含む溶媒中で反応を行うことにより、エポキシ化合物の収率を向上し、しかも生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物を容易に製造することができる方法である。本発明の製造方法により得られるエポキシ化合物としては、エチレングリコールやポリエチレングリコールの原料となるエチレンオキシドや、ポリエーテルポリオール類を得るための原料となるプロピレンオキシド等が工業的に重要であるが、これらのエポキシ化合物は、溶剤や界面活性剤の原料として重要な工業製品の一つであるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール類やアルカノールアミン類の製造における重要な中間体でもある。
更に、分子内にエポキシ基以外の官能基を有する化合物は、それら官能基の反応性を活かして種々の誘導体を合成できる中間体として利用でき、例えばアリルアルコールの二重結合がエポキシ化されたグリシドールは、グリシジルエーテル、グリシジルエステル、グリセリンエーテル、グリセリンエステル、ジヒドロキシプロピルアミン等、医薬品及びその中間体、塗料、接着剤、半導体用UV硬化剤等の原料として有用な物質である。
【0052】
【実施例】
以下に実施例を揚げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は、「質量部」を意味するものとする。
【0053】
実施例及び比較例における過酸化水素濃度は0.1mol/L Ce(IV)を用いた滴定法で求めた。滴定には平沼産業社製、自動滴定装置COMTITE−500(商品名)を用いた。またエポキシ化合物の分析はガスクロマトグラフを用いて行った。
【0054】
実施例1
前段プロセス
2−エチルアントラキノン3.8gをベンゾニトリル100mLに溶解させ、0.16mol/Lとなるように作動溶液を調整した。この作動溶液を500mL攪拌器つきステンレス製オートクレーブに入れ、更に触媒として5%Pd/C 0.4gを加えた。水素ガスを吹き込み、系内を水素で置換し、水素圧が5×105Paになるまで昇圧した後、攪拌を開始した。水素ガスの消費量が0.27Nlに到達したときに攪拌を停止した。この間、反応器内の温度は50℃に保ち、水素圧は0.5MPaになるように適時水素ガスを補充した。
反応終了後、反応器内を直ちに窒素ガスで置換し、室温まで冷却した。このとき、作動溶液中に2−エチルアントラハイドロキノン等の析出物は確認されなかった。その後窒素ガスで置換したグローブボックス中にて、0.5μmのメンブランフィルターでPd/Cをろ過し、2−エチルアントラハイドロキノンを含む作動溶液を得た。2−エチルアントラハイドロキノンの濃度は0.12mol/Lであった。
【0055】
後段プロセス(過酸化水素発生工程)
得られた2−エチルアントラハイドロキノン溶液を500mL攪拌器付きステンレス製オートクレーブに入れ、空気を反応器内圧が5×105Paになるまで導入した。作動溶液の温度が50℃になるまで昇温し、攪拌を開始した。空気の消費量が1.31Nlになるまで反応を継続した。この間、反応器内の温度は50℃、空気圧は0.5MPaになるように適時空気を補充した。生成した過酸化水素を10%NaCl溶液で抽出しその濃度を測定したところ、0.298質量%であった。
【0056】
後段プロセス(プロピレンのエポキシ化反応)
内容積17.5mLのステンレス製オートクレーブに過酸化水素を含む作動溶液6mL、2欠損構造部位を有するポリオキソメタレートアニオンのテトラブチルアンモニウム塩30mgを加えた。そこに気相部を6×105Paの加圧下に純プロピレンガスで充たし、液相部を攪拌させながら反応温度60℃で反応を開始した。生成物の収率は反応開始時に作動溶液中に存在した過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応1時間後の反応成績はプロピレンオキシド収率93.5%、選択率98.7%であった。
【0057】
実施例2 後段プロセス(1−ブテンの工ポキシ化反応)
前段プロセス及び後段プロセスの過酸化水素発生工程までは実施例1と同様に行った。内容積17.5mLのステンレス製オートクレーブに過酸化水素を含む作動溶液6mL、2欠損構造部位を有するポリオキソメタレートアニオンのテトラブチルアンモニウム塩30mgを加えた。そこに気相部を3×105Paの加圧下に純1−ブテンガスで充たし、液相部を攪拌させながら反応温度60℃で反応を開始した。生成物の収率は反応開始時に作動溶液中に存在した過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応1時間後の反応成績は1−ブテンオキシド収率91.8%、選択率100%であった。
【0058】
比較例1
ベンゾニトリルの代わりに溶媒をトルエンにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出が確認された。
【0059】
比較例2
ベンゾニトリルの代わりに溶媒をキシレンにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出が確認された。
【0060】
比較例3
ベンゾニトリルの代わりに溶媒を2−メチルナフタレン30mL、ジイソブチルケトン60mL、メタノール10mLにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出は確認されなかった。後段プロセスにてプロピレンのエポキシ化反応を行ったところプロピレンオキシドの生成は確認されなかった。
【0061】
【発明の効果】
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、上述の構成からなり、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造するに際し、エポキシ化合物の収率を向上し、しかもエポキシ化合物を容易に製造することができる方法である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関する。より詳しくは、アルキル置換アントラハイドロキノンを用いて酸化剤となる過酸化水素を発生させ、オレフィンと反応させることによりエポキシ化合物を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ化合物は、各種の工業製品において広く用いられている有用な化合物であり、オレフィンを酸化剤及びエポキシ化用触媒を用いてエポキシ化することにより製造することができる。このようなエポキシ化反応における酸化剤としては、過酸化水素が挙げられるが、過酸化水素がエポキシ化合物の製造における原料としては比較的高価であり、また、貯蔵しやすい原料ではないことから、過酸化水素を生成する反応をともなってオレフィンのエポキシ化を行う複合化プロセスによりエポキシ化合物を製造することが検討されている。
【0003】
このような技術として、アルキルアントラキノンをアルキルハイドロアントラキノンに還元した後に、チタニウムシリケートを触媒とし、オレフィンと酸素又は空気とを反応させることにより、アルキルハイドロアントラキノンをアルキルアントラキノンに酸化して過酸化水素を発生させてオレフィンの酸化物を製造する方法に関し、エチルアントラキノンとエチルハイドロアントラキノンとの酸化還元系を用い、チタニウムシリケートとしてゼオライト系触媒であるTS−1を用いてプロピレンからプロピレンオキシドを得たことが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このような製造方法においては、(a)ベンゼン、トルエン、キシレン、α−メチルナフタレン若しくはそれらのハロゲン化されたものから選択される芳香族若しくはアルキル化芳香族化合物又は多核炭化水素化合物、(b)沸点150〜350℃の有機化合物であって、ジイソブチルカルビノール、ジイソブチルケトン、メチル−シクロヘキシルアセテート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルヘキシル及びフタル酸t−ブチルから選択されるもの、(c)好ましくはメタノールである低分子量アルコールの(a)〜(c)の混合溶媒が使用されている。アントラキノン類を有機溶媒に溶かした溶液は作動溶液と呼ばれる。
【0004】
また、プロピレンをプロピレンオキサイドにエポキシ化するために用いられるタングステン含有触媒に関し、2−エチルアントラキノン(EAQ)と2−エチルアントラハイドロキノン(EAHQ)との酸化還元系を用い、リンタングステン酸触媒を用いてプロピレンからプロピレンオキシドを得たことが開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。この場合には、キシレンとトリブチルリン酸との混合溶媒が使用されている。
【0005】
これらの複合化プロセスによりエポキシ化合物を得る場合においては、使用化合物の溶解性や、過酸化水素の発生効率、エポキシ化反応での溶媒の適合性が重要であり、このため混合溶媒が用いられていた。例えば、アントラキノン類の溶解性の点から芳香族化合物や炭化水素化合物が使用され、アントラハイドロキノン類の溶解性の点からジイソブチルカルビノール、ジイソブチルケトンやトリブチルリン酸が使用され、エポキシ化用触媒として用いられるチタンを含むゼオライトであるTS−1(チタニウムシリケート)等の活性発現の点からメタノールが使用されていた。しかしながら、エポキシ化合物の収率を向上するために、溶媒の種類について工夫の余地があった。また、混合溶媒を用いる場合には、例えば、複合化プロセスによるエポキシ化合物の製造においては水が副生することになり、蒸留等の操作により水と分離することが必要となるが、メタノールを含むときには水と分離しにくく、トルエンやキシレン等を含むときには生成物であるエポキシ化合物と分離しにくいことから、エポキシ化合物を容易に製造するという点においても工夫の余地があった。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5221795号明細書(1992)(第3−6欄)
【0007】
【非特許文献1】
Science、(米)、2001年、292、p.1139−1141
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造するに際し、エポキシ化合物の収率を向上し、しかもエポキシ化合物を容易に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、エポキシ化合物の製造方法について種々検討するうち、過酸化水素を酸化剤とし、エポキシ化用触媒を用いてオレフィンのエポキシ化反応を行うことによりエポキシ化合物を製造する方法が有用であり、アルキル置換アントラハイドロキノンにより過酸化水素を発生させると、過酸化水素そのものを原料とする場合の不具合を解消することができることに着目した。この場合の好ましい形態としては、アルキル置換アントラキノンとアルキル置換アントラハイドロキノンとの酸化還元反応系により過酸化水素を発生させてエポキシ化合物を製造する複合化プロセスによる形態である。そして、このような製造方法においてニトリルを含む溶媒中で反応を行うと、エポキシ化合物の収率が向上することとなり、特にエポキシ化用触媒が特定されるとこのような効果が充分に発揮されることを見いだした。また、ニトリルを含む溶媒の単一溶媒を用いることが可能であり、これにより生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物を容易に製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する方法であって、上記エポキシ化合物の製造方法は、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うエポキシ化合物の製造方法である。
以下に、本発明を詳述する。
【0011】
本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造することになる。
このような製造方法においては、エポキシ化合物の製造が、アルキル置換アントラキノンを還元してアルキル置換アントラハイドロキノンとする反応プロセス(「前段プロセス」ともいう)と、該アルキル置換アントラハイドロキノンを酸化してアルキル置換アントラキノンとすることにより過酸化水素を発生させ、該過酸化水素に由来する酸素原子とオレフィンとをエポキシ化用触媒を用いてエポキシ化することによりエポキシ化合物を製造する反応プロセス(「後段プロセス」ともいう)とを含んでなる複合化プロセスにより行われることが好ましく、この場合、前段プロセスと後段プロセスとは、この順に順次行われてもよく、実質的に同時に行われてもよく、アルキル置換アントラハイドロキノンの酸化により生成する過酸化水素に由来する酸素原子がオレフィンのエポキシ化に用いられることになればよい。前段プロセスの還元工程は、還元触媒の存在下、水素とアルキル置換アントラキノン類を反応させることにより行われる。還元触媒としてはPdを活性炭やアルミナ等の担体に担持させたものが通常用いられるが、反応溶液と還元触媒との分離性の点から、還元後に生成するアルキル置換アントラハイドロキノンは使用溶媒に均一に溶解していることが望ましい。なお、このような複合化プロセスにおいては、アルキル置換アントラキノンとアルキル置換アントラハイドロキノンとによる酸化還元反応が繰り返されることにより酸化剤である過酸化水素が発生されるようにすることが好ましい。
【0012】
上記アルキル置換アントラキノンとしては、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−sec−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、2−エチルアントラキノンが好適である。2−エチルアントラキノン/2−エチルアントラキノンの酸化還元反応系により過酸化水素を発生させて上述した複合化プロセスによりエポキシ化合物を製造することは、本発明の好ましい実施形態である。
【0013】
上記アルキル置換アントラキノンの使用量としては、反応基質であるオレフィン中のエチレン性二重結合に対するモル比(オレフィン中のエチレン性二重結合のモル数/アルキル置換アントラキノンのモル数)が1/10以上となるようにすることが好ましく、また、50/1以下となるようにすることが好ましい。より好ましくは、1/5以上であり、また、10/1以下である。
【0014】
本発明においては、ニトリルを含む溶媒中で反応を行うことになる。ニトリルを含む溶媒としては、ベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオンニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘキセンニトリル、ドデカニトリル、トルニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明においてはベンゾニトリルが好適である。また、他の溶媒の併用も可能であるが、その際、好ましいベンゾニトリルの含有量は全溶媒量の50質量部以上であり、より好ましくは70質量部以上である。本発明では、ニトリルを含む溶媒を単一溶媒(一種類の化合物のみによる溶媒)として使用することが可能であり、このような単一溶媒中で反応を行うことが好ましい。これにより生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物の製造において副生する水との分離を行えば溶媒を再度利用することが可能となる。また、複合化プロセスにおいて、前段プロセスと後段プロセスとの反応がニトリルを含む溶媒中で行われることが好ましい。更に、このような複合化プロセスにおいて、前段プロセスと後段プロセスとの反応をニトリルを含む溶媒の単一溶媒中で行うことも可能であり、このように前段プロセスと後段プロセスとの反応を単一溶媒中で行うことが好ましい。
【0015】
上記ニトリルを含む溶媒の使用量としては、反応基質であるオレフィン100質量部に対して10質量部以上となるようにすることが好ましく、また、100000質量部以下となるようにすることが好ましい。より好ましくは、50質量部以上であり、また、10000質量部以下である。
【0016】
以下では、本発明のエポキシ化合物の製造方法におけるエポキシ化用触媒、反応基質、製造条件等について説明する。
本発明におけるエポキシ化用触媒としては、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造することができるものであればよく、ポリオキソメタレートアニオンを含むもの;BeO等の2族化合物;Y2O3、La2O3等の3族化合物;TiO2、ZrO2等の4族化合物;NaVO3、VO(acac)2等の5族化合物;CrO3、(NH4)6Mo7O24・4H2O、Na2WO4、Na2MoO4等の6族化合物;NaReO7、サレンMn錯体、CH3ReO3等の7族化合物;Fe2O3、RuCl2(PPh2)3、FeCl3、n−Pr4N(RuO4)、K2OsO2(OH)4、Fe(NH4)2(SO4)2・FeO等の8族化合物;Co(acac)2、RhCl3等の9族化合物;Pd(OAc)2等の10族化合物;CuO、CuO2等の11族化合物;Hg(OAc)2等の12族化合物;B2O3、LiBO2、NaBO2等の13族化合物;GeO2等の14族化合物;As2O3、NaAsO2、BiCl2等の15族化合物;SeO2、C6H5SeO2H、Na2SeO4、Na2TeO3等の16族化合物;I2O5等の17族化合物;TS−1等の各種ゼオライト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリオキソメタレートアニオンを含むものが好適である。
【0017】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒としては、(1)二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)と、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズ及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、かつ、ポリ原子と異なる元素(E1)とを含む形態、(2)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)と、周期律表IIIa族の4〜6周期の元素、VIa〜VIII族の4〜6周期の元素、Ib〜IIb族の4〜6周期の元素、IIIb族の3〜6周期の元素及びIVb〜Vb族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、かつ、ポリ原子と異なる元素(E2)とを含む形態、(3)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)と、Va族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素(E3)とを含む形態のものが好適である。
【0018】
上記(1)、(2)及び(3)の形態の触媒は、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン、及び/又は、ポリ原子が三つ欠けている三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、ポリ原子と異なる元素とを含むものである。
【0019】
上記(1)の形態の触媒において、二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ヘテロ原子である珪素原子に酸素を介してポリ原子が10個又は9個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ等の原子が好適である。すなわち上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、下記一般式(1);
[Si(M1)10O36]q− (1)
及び/又は下記一般式(2);
[Si(M1)9O34]q− (2)
(式(1)及び(2)中、Siは、珪素原子を表す。M1は、同一若しくは異なって、モリブデン、タングステン、バナジウム及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、qは、元素M1の価数によって決まることになる。
【0020】
上記触媒の必須成分である元素(E1)は、ポリ原子と異なる元素であり、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズ及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素である。これらの中でも、好ましくは、V、Sb、Mo、Cr、Re、Co、Ni、Ru、Pd、Au、Zn、Y、Sn、ランタノイド元素であり、より好ましくは、V、Mo、Pd、Ru、Au、Zn、Y、ランタノイド元素である。
【0021】
本発明の触媒における元素(E1)の含有量としては、触媒中のSi原子1個に対して、零個を超えることが好ましい。より好ましくは、0.0001個以上であり、更に好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0022】
上記(2)及び(3)の形態の触媒において、ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)並びにヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)は、ヘテロ原子であるリン原子に酸素を介してポリ原子が10個又は9個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
上記(2)及び(3)の形態において、上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。すなわち上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)は、下記一般式(3);
[P1(M2)10O36]r− (3)
及び/又は下記一般式(4);
[P1(M2)9O34]r− (4)
【0024】
(式(3)及び(4)中、Pは、リン原子を表す。M2は、同一若しくは異なって、モリブデン又はタングステンを表す。rは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、rは、元素M2の価数によって決まることになる。また、上記二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)は、下記一般式(5);
[P1W10O36]7− (5)
及び/又は下記一般式(6);
[P1W9O34]9− (6)
(式(5)及び(6)中、Pは、リン原子を表す。Wは、タングステン原子を表す。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
【0025】
上記(2)の形態の触媒の必須成分である元素(E2)は、ポリ原子と異なる元素であり、周期律表IIIa族の4〜6周期の元素、VIa〜VIII族の4〜6周期の元素、Ib〜IIb族の4〜6周期の元素、IIIb族の3〜6周期の元素及びIVb〜Vb族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素である。これらの中でも、好ましくは、Cr、Mo、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Au、Zn、Al、In、Ge、Sn、Sb、Bi、Sc、Y、ランタノイド元素である。より好ましくは、Mo、Re、Rh、Ir、Zn、ランタノイド元素であり、更に好ましくは、Zn、Re、Mo、Rhである。なお、ポリ原子と異なる元素であるとは、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンの場合には、上記元素の中のモリブデン及び/又はタングステン以外の元素である。
【0026】
上記(3)の形態の触媒の必須成分である元素(E3)は、Va族の4〜6周期の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、V、Nb、Ta元素である。これらの中でも、好ましくは、Vである。
【0027】
上記(2)、(3)の触媒における元素(E2)や元素(E3)の含有量としては、触媒中のリン原子1個に対して、零個を超えることが好ましい。より好ましくは、0.0001個以上であり、更に好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0028】
上記触媒における元素(E1)、(E2)及び(E3)の形態としては、カチオンとして、ヘテロポリオキソメタレートアニオンと電荷とのバランスをとってもよく、酸化物等の形態をとってもよい。
【0029】
本発明の触媒における元素(E1)、(E2)又は(E3)(以下、これらをまとめて元素(E)ともいう)とヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)又は(A3)(以下、これらをまとめてヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)ともいう)の存在形態としては、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)と元素(E)とが触媒中に共に存在することになればよいが、例えば、以下の(1)〜(3)に記載する結合形態が好適である。
【0030】
(1)元素(E)がヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の二欠損及び/又は三欠損部位を置換して存在する形態。この場合、各元素(E)は互いに隣接していることが好ましい。各元素(E)が互いに隣接する異性体としては、α、β、γ、δ、ε体等が存在するが、α、βは角を共有した異性体である。より好ましくは、二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの骨格中に二個の元素(E)が陵を共有してくみ込まれる形態であり、それはγ、δ、ε体である。この中でも最も好ましくはγ体である。γ体は、例えば、Inorganic syntheses,vol.27,p.85−96、J.Am.Chem.Soc.,120,p.9267に記載の方法で調製できる。
【0031】
(2)元素(E)が錯体化合物、例えば、{Si(M1)10O34}q−−E−O−E−{Si(M1)10O34}q−若しくは{Si(M1)10O34}q−−E−{Si(M1)10O34}q−のように、又は、{P(M2)10O36}r−−E−O−E−{P(M2)10O36}r−のように又は{P(M2)10O36}r−−E−{P(M2)10O36}r−のように二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンによって配位されて存在する形態。
上記(1)、(2)の形態において、元素(E)とヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)とが結合した構造は、X線解析、元素分析やFT−IR分光測定から決定又は推定することができる。
【0032】
(3)元素(E)が二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に担持されたり、吸着されたりして存在する形態。この場合、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)における、元素(E)が担持される部位や吸着される部位は特に限定されるものではない。このような形態は、元素分析、FT−IR分析等から推定される。
【0033】
上記二欠損又は三欠損部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンは、塩を形成していてもよく、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を形成する対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属カチオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属カチオン(ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)や、第四級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩)、第四級フォスフォニウム塩(テトラメチルフォスフォニウム塩、テトラエチルフォスフォニウム塩、テトラプロピルフォスフォニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、テトラフェニルフォスフォニウム塩、エチルトリフェニルフォスフォニウム塩、ベンジルトリフェニルフォスフォニウム塩)、第四級アルセン、セチルピリジニウム塩等の有機カチオンを含むカチオンが好適である。カチオンは、1種類又は2種類以上用いることができる。
【0034】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒としてはまた、(4)二欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素原子であるヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を均一系触媒として使用する形態、(5)欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩を固体触媒として使用する形態も好適である。
【0035】
上記(4)の均一系触媒は、ヘテロ原子が珪素原子であり、該ヘテロ原子にポリ原子としての金属元素が酸素原子を介して配位したヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を含有するものであるが、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有することを特徴とする。
【0036】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、ヘテロ原子である珪素原子に酸素を介してポリ原子が10個配位した結晶構造を有し、1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、上記(1)の触媒におけるのと同様の原子が挙げられ、これらの中でも、モリブデン及び/又はタングステン原子が好適である。すなわち(4)の触媒としては、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンが、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンにおいて、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステン原子であることが好ましい。
上記(4)の触媒におけるヘテロポリオキソメタレートアニオンの形態としては二欠損ケギン型が好ましく、更に好ましくはγ型である。また、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を形成する対カチオンとしては、上述したのと同様であり、1種類又は2種類以上用いることができる。
【0037】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の調製方法としては、例えば、Inorganic syntheses,27,p.88に記載された調製方法が好適であり、これにより生成するヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩をイオン交換水に溶解して水溶液とし、更に、pHを調整することにより上記(4)の形態の触媒として好適に使用しうるものを得ることができる。このような触媒は、pH依存性を有し、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の水溶液のpHとしては、−2.0〜10.0とすることが好ましい。より好ましくは、−1.0〜7.0である。更に好ましくは、0〜5.0である。
【0038】
上記(5)の形態の触媒における欠損型ポリオキソメタレートアニオンの好ましい形態としては、一欠損、二欠損及び三欠損のいずれかの欠損構造部位を有し、また、ヘテロ原子として珪素又はリンを有し、そのヘテロ原子である珪素原子又はリン原子に酸素を介してポリ原子が9〜11個配位した結晶構造を有している形態である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。ポリ原子としては、上記(1)の触媒におけるのと同様の原子が好適である。
【0039】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンとしては、ヘテロ原子が珪素原子又はリン原子である場合は、下記一般式(7);
[X(M3)nOm]s− (7)
(式中、Xは、珪素原子又はリン原子を表す。M3は、同一若しくは異なって、モリブデン、タングステン、バナジウム及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を表す。(n,m)は、一欠損構造部位を有する場合は(11,39)、二欠損構造部位を有する場合は(10,36)、三欠損構造部位を有する場合は(9,34)である。sは、正の整数である。)で表される一欠損、二欠損及び三欠損のいずれかの欠損構造部位を有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。なお、sは、元素M3の価数によって決まることになる。
【0040】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンの対カチオンである4級アンモニウム塩としては、上述したのと同様のもの等が好適である。また、4級アンモニウム基をイオン交換基としてもつ、例えば、スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製:DIAIONシリーズ)やその他の各種アニオン交換樹脂を利用することができる。
【0041】
上記欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩の調製方法としては、欠損型ポリオキソメタレートのアルカリ金属塩又は酸型を水系媒体中に 溶解又は懸濁させ、ここに4級アンモニウム塩を加え攪拌し、カチオン交換を行うことで目的とする化合物を得ることができる。
【0042】
なお上記触媒は、上述した(1)二欠損及び/又は三欠損構造部位を有し、ヘテロ原子が珪素であり、かつ、ポリ原子を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A1)並びに元素(E1)、(2)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がモリブデン及び/又はタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A2)並びに元素(E2)、又は、(3)ヘテロ原子がリンであり、かつ、ポリ原子がタングステンである二欠損及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオン(A3)並びに元素(E3)、(4)ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、5)欠損型ポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩、のいずれか又はこれらの混合物を必須成分とし、これを主成分とすることが好ましいが、本発明の作用効果を奏する限り触媒調製過程で生じる不純分や、他の成分を含有していてもよい。
【0043】
上記ポリオキソメタレートアニオンを含む触媒の使用量としては、例えば、反応基質であるオレフィン中のエチレン性二重結合に対するモル比(オレフィン中のエチレン性二重結合のモル数/欠損型ヘテロポリオキソメタレートアニオン及び/又はその塩のモル数)が、100000/1以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、10000/1以上である。また、1/10以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/1以下である。
【0044】
本発明において使用する反応基質であるオレフィンとしては、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物であればよく、非環式であっても環式有機化合物であってもよく、例えば、炭化水素、エステル、アルコール、エーテル、ハロゲン置換炭化水素等の1種又は2種以上用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン類、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−アイコセンプロピレンのトリマー及びテトラマー類、1,3−ブタジエン等の末端にエチレン性二重結合を有する直鎖アルケン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチル−2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン等の分子内部にエチレン性二重結合を有するアルケンや分岐アルケン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、シクロオクテン、ノルボルネン等の脂環式オレフィン性炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜15の不飽和炭化水素が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜12の不飽和炭化水素である。
【0045】
上記オレフィンはまた、例えば、−COOH、−CN、COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアリルアルキル置換基を表す)等の基や、アリール、アリルアルキル、ハロゲン、ニトロ、スルホン酸、カルボニル(例えばケトン、アルデヒド)、ヒドロキシル、エーテル基を有していてもよい。このような化合物として、例えば、アリルアルコール、塩化アリル、アリルメチルエーテル、アリルビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルフェニルエーテル、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0046】
また上記オレフィンとしては、炭素−炭素の二重結合を含む炭素数6以上のアリール化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の置換スチレン類、ジビニルベンゼン類、スチルベン、アラルケン類;炭素−炭素の二重結合を有するアミン類、チオール類、サルファイド類、ジサルファイド類、Se、Te、SbやAsを有する化合物、ホスフィン類、ホスファイト類等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法における反応方法としては、オレフィン及び酸素原子に触媒を接触させることによりエポキシ化反応を行うことが好ましい。また、上記(1)、(2)、(3)、(4)の形態の触媒を用いる場合には、オレフィン及びアルキル置換アントラハイドロキノンをニトリルを含む溶媒に溶解させて液相均一系で行うことが反応活性の面で好ましい。また、触媒をニトリルを含む溶媒に溶解させずに液相に懸濁させてエポキシ化反応を行うことも可能である。
【0048】
また、上記(5)の触媒を用いる場合等には、触媒を固相とし、オレフィンやアルキル置換アントラハイドロキノン等の反応物をガス相や液相とするいわゆる不均一系反応で行うことになる。この場合、例えば、触媒を担体に担持するか、触媒自体を固体として使用し、そこに反応物を加えて反応させる方法により行うことが好ましい。触媒用担体としては、シリカ、アルミナや、他の酸化物等の一般的に不均一系接触反応に使用される担体を用いることができる。
【0049】
上記エポキシ化反応における反応系は、中性〜酸性であることが好ましい。本発明においては、上記触媒を用いることにより反応系を酸性とすることができるが、更に反応系中に酸性物質を加えてもよい。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;酢酸、安息香酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スルホン酸等の有機酸類;ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類等が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化アンチモン化合物、塩化第二スズ、フッ化アンチモン、亜鉛やチタンの化合物、ゼオライト類、混合酸化物等が好適である。更に無機、有機酸性塩を用いることもできる。
【0050】
上記エポキシ化反応における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、より好ましくは、室温以上である。また、250℃以下が好ましく、より好ましくは、180℃以下である。反応時間は、数分以上が好ましく、また、150時間以内が好ましい。より好ましくは、48時間以内である。反応圧力は、常圧以上が好ましく、また、2×107Pa以下が好ましい。より好ましくは、5×106Pa以下である。また、減圧下で反応を行うこともできる。
【0051】
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する際にニトリルを含む溶媒中で反応を行うことにより、エポキシ化合物の収率を向上し、しかも生成物であるエポキシ化合物と溶媒との分離が容易となり、エポキシ化合物を容易に製造することができる方法である。本発明の製造方法により得られるエポキシ化合物としては、エチレングリコールやポリエチレングリコールの原料となるエチレンオキシドや、ポリエーテルポリオール類を得るための原料となるプロピレンオキシド等が工業的に重要であるが、これらのエポキシ化合物は、溶剤や界面活性剤の原料として重要な工業製品の一つであるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール類やアルカノールアミン類の製造における重要な中間体でもある。
更に、分子内にエポキシ基以外の官能基を有する化合物は、それら官能基の反応性を活かして種々の誘導体を合成できる中間体として利用でき、例えばアリルアルコールの二重結合がエポキシ化されたグリシドールは、グリシジルエーテル、グリシジルエステル、グリセリンエーテル、グリセリンエステル、ジヒドロキシプロピルアミン等、医薬品及びその中間体、塗料、接着剤、半導体用UV硬化剤等の原料として有用な物質である。
【0052】
【実施例】
以下に実施例を揚げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は、「質量部」を意味するものとする。
【0053】
実施例及び比較例における過酸化水素濃度は0.1mol/L Ce(IV)を用いた滴定法で求めた。滴定には平沼産業社製、自動滴定装置COMTITE−500(商品名)を用いた。またエポキシ化合物の分析はガスクロマトグラフを用いて行った。
【0054】
実施例1
前段プロセス
2−エチルアントラキノン3.8gをベンゾニトリル100mLに溶解させ、0.16mol/Lとなるように作動溶液を調整した。この作動溶液を500mL攪拌器つきステンレス製オートクレーブに入れ、更に触媒として5%Pd/C 0.4gを加えた。水素ガスを吹き込み、系内を水素で置換し、水素圧が5×105Paになるまで昇圧した後、攪拌を開始した。水素ガスの消費量が0.27Nlに到達したときに攪拌を停止した。この間、反応器内の温度は50℃に保ち、水素圧は0.5MPaになるように適時水素ガスを補充した。
反応終了後、反応器内を直ちに窒素ガスで置換し、室温まで冷却した。このとき、作動溶液中に2−エチルアントラハイドロキノン等の析出物は確認されなかった。その後窒素ガスで置換したグローブボックス中にて、0.5μmのメンブランフィルターでPd/Cをろ過し、2−エチルアントラハイドロキノンを含む作動溶液を得た。2−エチルアントラハイドロキノンの濃度は0.12mol/Lであった。
【0055】
後段プロセス(過酸化水素発生工程)
得られた2−エチルアントラハイドロキノン溶液を500mL攪拌器付きステンレス製オートクレーブに入れ、空気を反応器内圧が5×105Paになるまで導入した。作動溶液の温度が50℃になるまで昇温し、攪拌を開始した。空気の消費量が1.31Nlになるまで反応を継続した。この間、反応器内の温度は50℃、空気圧は0.5MPaになるように適時空気を補充した。生成した過酸化水素を10%NaCl溶液で抽出しその濃度を測定したところ、0.298質量%であった。
【0056】
後段プロセス(プロピレンのエポキシ化反応)
内容積17.5mLのステンレス製オートクレーブに過酸化水素を含む作動溶液6mL、2欠損構造部位を有するポリオキソメタレートアニオンのテトラブチルアンモニウム塩30mgを加えた。そこに気相部を6×105Paの加圧下に純プロピレンガスで充たし、液相部を攪拌させながら反応温度60℃で反応を開始した。生成物の収率は反応開始時に作動溶液中に存在した過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応1時間後の反応成績はプロピレンオキシド収率93.5%、選択率98.7%であった。
【0057】
実施例2 後段プロセス(1−ブテンの工ポキシ化反応)
前段プロセス及び後段プロセスの過酸化水素発生工程までは実施例1と同様に行った。内容積17.5mLのステンレス製オートクレーブに過酸化水素を含む作動溶液6mL、2欠損構造部位を有するポリオキソメタレートアニオンのテトラブチルアンモニウム塩30mgを加えた。そこに気相部を3×105Paの加圧下に純1−ブテンガスで充たし、液相部を攪拌させながら反応温度60℃で反応を開始した。生成物の収率は反応開始時に作動溶液中に存在した過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応1時間後の反応成績は1−ブテンオキシド収率91.8%、選択率100%であった。
【0058】
比較例1
ベンゾニトリルの代わりに溶媒をトルエンにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出が確認された。
【0059】
比較例2
ベンゾニトリルの代わりに溶媒をキシレンにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出が確認された。
【0060】
比較例3
ベンゾニトリルの代わりに溶媒を2−メチルナフタレン30mL、ジイソブチルケトン60mL、メタノール10mLにした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前段プロセス終了後、2−エチルアントラハイドロキノンの析出は確認されなかった。後段プロセスにてプロピレンのエポキシ化反応を行ったところプロピレンオキシドの生成は確認されなかった。
【0061】
【発明の効果】
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、上述の構成からなり、エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造するに際し、エポキシ化合物の収率を向上し、しかもエポキシ化合物を容易に製造することができる方法である。
Claims (1)
- エポキシ化用触媒及びアルキル置換アントラハイドロキノンの存在下、酸素原子とオレフィンとの反応によりエポキシ化合物を製造する方法であって、
該エポキシ化合物の製造方法は、ニトリルを含む溶媒中で反応を行う
ことを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
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