JP2004244509A - ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩及びエポキシ化合物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】下記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とするケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩であって、エポキシ化合物の製造に触媒として好適に適用することができるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
[XM10(H2O)mO36−m]q− (1)
(式中、Xは、ケイ素原子又はリン原子を表す。Mは、同一若しくは異なって、モリブデン原子又はタングステン原子を表す。mは、1〜4の整数を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とするケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩。。
【選択図】 なし
【解決手段】下記一般式(1);
[XM10(H2O)mO36−m]q− (1)
(式中、Xは、ケイ素原子又はリン原子を表す。Mは、同一若しくは異なって、モリブデン原子又はタングステン原子を表す。mは、1〜4の整数を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とするケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩。。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩及びエポキシ化合物の製造方法に関する。より詳しくは、種々の反応触媒として好適に用いることができるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、及び、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、ヘテロ原子を中心とし、ポリ原子がヘテロ原子に酸素を介して配位したケギン構造を有するものである。このような塩を構成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、結晶構造中であるべき原子が欠けている欠損構造を有し、金属元素を含有するもの、すなわちポリ原子が他の金属元素に置換されたものが知られている。このような欠損構造を有するものについて、反応用触媒として利用することが検討されている。
【0003】
従来のタングステン原子(W)のみによるイソポリ酸系のものでは、Wに水分子が配位した化合物が合成されており、その触媒性能も検討されている(非特許文献1参照。)。このイソポリ酸系化合物は、[NBu4]2[W4O6(O2)6(OH)2(H2O2)2]で表されるものである。しかしながら、ヘテロ原子を中心原子とするようなヘテロポリオキソメタレート系については検討されておらず、例えば、ポリ原子と分子末端に位置するターミナル酸素との結合(W=O)において、ターミナル酸素部分が水分子になっているものは知られていない。また、このイソポリ酸系化合物は、触媒としての性能が低いものであることから、触媒性能を向上することにより、種々の反応触媒等として好適に適用することができるようにする点で工夫の余地があった。
【0004】
【非特許文献1】
W.P.グリフィス(W.P.Griffith)、他3名、ジャーナル オブケミカル ソサエティ ダルトン トランス(Journal of Chemical Society Dalton Trans)、(米国)、1995年、p.3131−3138
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有し、種々の反応触媒等として好適に適用することができるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩について種々検討したところ、 該アニオンを構成するW=O構造を部分的にW−(H2O)構造とすることが可能であり、このような構造的特徴を有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が有用なものであることを見いだした。例えば、種々の反応触媒等として用いることができる高活性ヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、[γ−SiW10O36]8−で表されるもの等が挙げられ、これらはイノーガニック・シンセシス(Inorganic syntheses)、第27巻、p.88に記載された方法により、カリウム塩(K8[γ−SiW10O36]8−・12H2O)として単離され、欠損部分の構造に着目した場合、図2に模式的に示したように、分子末端に位置する4つのW部位はすべてW=O結合で表され、酸素原子がすべての末端に位置することになる。このような酸素原子は、末端に位置することから、ターミナル酸素と呼ばれるものである。一方、対応する4つのW部位において、図1に模式的に示されるように、部分的にW=OをW−(H2O)にすること、特に4つのW=Oのうち対角に位置する2つのW=OをW−(H2O)にすることができることを見いだし、更にこのような新規化合物が種々の反応触媒等として好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、特定のpHで調製することが可能であり、その構造は4級アンモニウム塩のX線結晶構造解析の結果より確認することができる。このような構造を有する塩は、種々の反応において活性が高く、特にエポキシ化合物の製造方法において有用である。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
[XM10(H2O)mO36−m]q− (1)
(式中、Xは、ケイ素原子又はリン原子を表す。Mは、同一若しくは異なって、タングステン原子又はモリブデン原子を表す。mは、1〜4の整数を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩である。
【0008】
本発明はまた、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物を酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造する方法であって、上記エポキシ化合物の製造方法は、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを有するものである。
このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩においては、単結晶の形態とするのが好ましいが、実施形態としては、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とする塩とすることが好ましく、この場合には、それを構成するアニオンの一部又は全部が、一般式(1)で表されるようにポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有するものとなり、ポリ原子のすべてに酸素原子が結合したアニオン等のその他のアニオンを有していてもよい。また、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とする塩においては、該アニオンは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0010】
上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの構造としては、ヘテロ原子がケイ素原子(Si)又はリン原子(P)であり、該ヘテロ原子にポリ原子としてタングステン原子(W)又はモリブデン原子(Mo)が酸素原子を介して10個配位した結晶構造となり、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有することになる。このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの好ましい形態としては、一般式(1)中、Xがケイ素原子を表す場合、Mがタングステン原子を表す場合、m=2である場合のいずれか又はこれらを組み合わせた形態が挙げられる。より好ましくは、すべて組み合わせた形態であり、下記式で表されることになる。
[SiW10(H2O)2O34]4 −
【0011】
また本発明における好ましい形態としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオン中の欠損部分の構造に着目した場合、W=O結合やMo=O結合のうち末端に位置する酸素原子(ターミナル酸素)を有する4つのW部位及び/又はSi部位において、4つのW=O結合及び/又はMo=O結合が部分的にW−H2O結合及び/又はMo−H2O結合になっている形態である。より好ましくは、上記4つのW=O結合及び/又はMo=O結合のうち対角に位置する2つのW=O結合及び/又はMo=O結合がW−H2O結合及び/又はMo−H2O結合になっている形態である。
【0012】
上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の調製方法としては、例えば、イノーガニック・シンセシス(Inorganic syntheses)、第27巻、p.88に記載された方法により得られる二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の水溶液を調製し、該水溶液のpHを調整することにより、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が生成するようにすることが好ましい。例えば、生成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩をイオン交換水に溶解して水溶液とし、pHを酸性側に調整することにより、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を製造することができる。このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の製造方法においては、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有することになるか否かについてpH依存性を示し、本発明において上記水溶液のpHとしては、−1.0以上、7.0以下とすることが好ましい。より好ましくは、0以上、5.0以下であり、更に好ましくは、1.5以上、3.0以下であり、最も好ましくは、2.0以上、2.5以下である。このような製造方法や、これにより製造されてなるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、本発明の好ましい実施形態である。
【0013】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、対カチオンを有するものであり、対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属カチオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属カチオン(ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)や、第四級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩)、第四級フォスフォニウム塩(テトラメチルフォスフォニウム塩、テトラエチルフォスフォニウム塩、テトラプロピルフォスフォニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、テトラフェニルフォスフォニウム塩、エチルトリフェニルフォスフォニウム塩、ベンジルトリフェニルフォスフォニウム塩)、また、第四級アルセン等の有機カチオンを含むカチオンが好適である。好ましくは、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、セチルピリジニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩であり、より好ましくは、プロトン、カリウムイオン、セシウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩である。ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を構成するカチオンは、1種又は2種以上であってもよい。
【0014】
上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、他の元素を含んでいても良い。他の元素としては、周期律表3〜16族の元素の群から選ばれる1種以上であり、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が有するポリ原子であるモリブデン原子又はタングステン原子とは異なるものである。他の元素の種類としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンのヘテロ原子の種類等に応じて適宜選択すればよいが、周期律表3〜11族の元素の群から選ばれる1種以上の原子が好適である。他の元素としては、例えば、鉄、コバルト、マンガン、バナジウム、クロム、ルテニウムが好適である。
【0015】
上記他の元素の含有量としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩中のヘテロ原子1個に対して、0.0001個以上であることが好ましく、よりに好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0016】
上記他の元素の形態としては、カチオンとして、ヘテロポリオキソメタレートアニオンと電荷とのバランスをとってもよく、酸化物等の形態をとってもよい。
この場合における、他の元素とケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩との存在形態としては、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩と他の元素とが共に存在することになればよいが、例えば、以下の(1)〜(3)に記載する結合形態が好適である。
【0017】
(1)他の元素がケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の二欠損部位を置換して存在する形態。二欠損部位を置換して存在する場合、各他の元素は互いに隣接していることが好ましい。各他の元素が互いに隣接する異性体としては、角を共有した異性体であるα、β体でもよく、陵を共有したγ、δ、ε体でもよい。より好ましくは、二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの骨格中に二個の他の元素が陵を共有してくみ込まれる形態であり、それはγ、δ、ε体である。
【0018】
(2)他の元素が錯体化合物、例えば、[XM10(H2O)2O34]q− −B−[XM10(H2O)2O34]q− のように、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンによって配位されて存在する形態。
上記(1)、(2)の形態において、他の元素とケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンとが結合した構造は、X線解析、元素分析やFT−IR分光測定から決定又は推定することができる。
【0019】
(3)他の元素がケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンに担持されたり、吸着されたりして存在する形態。この場合、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンにおける、他の元素が担持される部位や吸着される部位は特に限定されるものではない。このような形態は、元素分析、FT−IR分析等から推定される。
また上記(1)〜(3)のいずれの場合においても、ケギン型ヘテロポリオキソメタレート中のケイ素原子及び/又はリン原子であるヘテロ原子と、他の元素との相違は、X線解析により決定・確認をすることができる。
【0020】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、反応触媒として有用なものであり、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を必須成分とする触媒は、本発明の好ましい実施形態の1つである。この場合の作用効果としては、主に以下の(1)〜(8)等が挙げられる。
すなわち(1)アルデヒド類、ケトン類等を生成する異性化反応がおこりにくく、エポキシ化合物への選択率が高くなること、(2)目的生成物のエポキシ化合物が水により開環して生成するグリコール類と、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物とが反応して生成するグリコールモノアルキルエーテル類等の生成量が少なく、これによってもエポキシ化合物への選択性が極めて高くなること、(3)反応系に水やアルコール類が多量に存在しても、異性化反応や開環反応等の副反応が起こりにくく、エポキシ化合物の選択率が高くなるので、低い濃度の過酸化水素等の酸化剤が使用可能であること、(4)酸化剤が過酸化水素の場合、酸素への分解等が少なく、酸化剤のエポキシ化合物への有効利用率が高くなること、(5)反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物に対して使用する過酸化水素の比率が低くても、反応活性が高く、選択性がよくなること、(6)触媒の活性が高いこと、(7)副生成物として生成するアセトン等のケトン類が少なく、アセトンから生成する有機過酸化物ができにくいので、爆発等の危険性が低くなること、(8)反応中に有機過酸化物の蓄積による過酸化水素等の酸化剤の消費が起こりにくくなること、等が挙げられる。
【0021】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用する場合、反応溶液のpHが0以上、5.0以下であることが好ましい。例えば、W部位の一部がW−(H2O)の構造となっていることにより、特に、分子末端に位置するW部位の一部がW−(H2O)の構造となっていることにより、このH2Oが脱離し易くなっており、この部分のH2Oが次々と入れ代わることにより、種々の反応が進行するものと考えられる。pH0以上、5.0以下の領域、特に最も反応活性の高いpH2.0付近では、この構造が安定に存在することができることから、反応活性が高いものと考えられる。
【0022】
上記触媒としては、上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を主成分とすることが好ましいが、本発明の作用効果を奏する限り触媒調製過程で生じる不純分や、他の成分を含有していてもよい。触媒の使用量としては、例えば、反応基質100重量部に対して0.0001重量部以上とすることが好ましく、また、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、また、1500重量部以下である。
【0023】
上記触媒の使用形態としては、触媒を溶媒に溶解させて均一系で反応させる形態、触媒を溶媒に溶解させずに液相に懸濁させて反応を行う形態が挙げられる。触媒を固相として反応を行うことも可能である。上記触媒は、対カチオンを変更することで、触媒自体を固体として使用することができ、生成物と触媒の分離が容易となる。また、この場合、触媒を担体に担持することによっても、触媒を固相として使用することができる。触媒用担体としては、各種イオン交換樹脂、シリカ、アルミナや、他の酸化物等の一般的に不均一系接触反応に使用される担体を用いることができる。好ましくは、イオン交換樹脂、シリカ、アルミナである。また、触媒自体を固体として使用する場合、好ましい対カチオンは、プロトン、カリウムイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩である。
【0024】
上記触媒は、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物を酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造する方法に使用してなることが好ましく、このようなエポキシ化合物の製造方法もまた、本発明の1つである。
以下では、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として用いるエポキシ化合物の製造方法における反応基質、酸化剤、製造条件等について説明する。
上記エポキシ化合物の製造方法において使用する反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物としては、非環式であっても環式有機化合物であってもよく、例えば、炭化水素、エステル、アルコール、エーテル、ハロゲン置換炭化水素等の1種又は2種以上用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン類、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−エトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−アイコセンプロピレンのトリマー及びテトラマー類、1,3−ブタジエン等の末端にエチレン性二重結合を有する直鎖アルケン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチル−2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン等の分子内部にエチレン性二重結合を有するアルケンや分岐アルケン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、シクロオクテン、ノルボルネン等の脂環式オレフィン性炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜15の不飽和炭化水素が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜12の不飽和炭化水素である。
【0025】
上記エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物はまた、例えば、−COOH、−CN、COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアリルアルキル置換基を表す)等の基や、アリール、アリルアルキル、ハロゲン、ニトロ、スルホン酸、カルボニル(例えばケトン、アルデヒド)、ヒドロキシル、エーテル基を有していてもよい。このような化合物として、例えば、アリルアルコール、塩化アリル、アリルメチルエーテル、アリルビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルフェニルエーテル、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0026】
上記エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物としてはまた、炭素−炭素の二重結合を含む炭素数6以上のアリール化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の置換スチレン類、ジビニルベンゼン類、スチルベン、アラルケン類;炭素−炭素の二重結合を有するアミン類、チオール類、サルファイド類、ジサルファイド類、Se、Te、SbやAsを有する化合物、ホスフィン類、ホスファイト類等が挙げられる。
【0027】
上記酸化剤としては、例えば、酸素イオンや酸素ラジカル、ペルオキシドやスーパーペルオキシドを生成しうるものを用いることができ、例えば、分子状酸素や過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、過酢酸等の有機過酸化物、酸素と水素の混合ガス、一酸化二窒素、ヨードシルベンゼン等が好適である。これらの中でも、分子状酸素又は過酸化水素を用いることが好ましい。
【0028】
上記過酸化水素は、反応が選択的であれば理想的な酸化剤であるが、従来では反応系に生成する水により、生成したエポキシ化合物の開環がおこり収率が低くなる場合や、生成するエポキシ化合物の価格が低いと過酸化水素が相対的に高価となり、製造コストが割高になる場合があったが、本発明においては、エポキシ化合物への選択率が高く、過酸化水素の有効利用率が高く、また、触媒によるエポキシ化合物の生産性が高いことから、これらの問題が解消されることになる。
【0029】
上記エポキシ化合物の製造方法において、酸化剤として過酸化水素を使用する場合、過酸化水素の使用形態としては、実用的には、0.01〜70質量%の水溶液、アルコール類の溶液が好適であるが、100%の過酸化水素も使用可能である。しかし非常に低い濃度の過酸化水素をつかっても副生物が生成しにくいのが本発明に使用される液相反応用触媒の特徴である。
【0030】
上記酸化剤の使用量としては、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物中のエチレン性二重結合に対するモル比(反応基質中のエチレン性二重結合のモル数/酸化剤のモル数)が100/1以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、10/1以上である。また、1/100以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/50以下である。
【0031】
上記エポキシ化合物の製造方法における触媒の使用量としては、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物100重量部に対して0.0001重量部以上とすることが好ましく、また、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、また、1500重量部以下である。
【0032】
上記エポキシ化合物の製造方法における反応方法としては、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物及び酸化剤に、触媒であるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を接触させることによりエポキシ化反応を行うことが好ましい。また、触媒であるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物及び酸化剤を溶媒に溶解させて液相均一系で行うことが反応活性の面で好ましい。
【0033】
上記溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることになる。有機溶媒としては、1種又は2種以上を用いることができ、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物や、過酸化水素等の酸化剤、生成したエポキシ化合物とは反応しないものが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマル又はイソプロパノール、第3級ブタノール等の炭素数1〜6の第1、2、3級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、多価アルコールの蟻酸エステル又は酢酸エステル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、ニトリル類等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0034】
上記溶媒の中でも、水、炭素数1〜4のアルコール類、1,2−ジクロロエタン、ヘプタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等や、これらの混合物を用いることが好ましい。水が存在する場合は、場合によって相間移動触媒や界面活性剤を共存させることも可能である。
【0035】
上記エポキシ化反応における反応系は、中性〜酸性であることが好ましい。上記製造方法においては、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を用いることにより反応系を酸性とすることができるが、更に反応系中に酸性物質を加えてもよい。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;酢酸、安息香酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スルホン酸等の有機酸類;ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類等が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化アンチモン化合物、塩化第二スズ、フッ化アンチモン、亜鉛やチタンの化合物、ゼオライト類、混合酸化物等が好適である。更に無機、有機酸性塩を用いることもできる。
【0036】
上記エポキシ化反応における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、より好ましくは、室温以上である。また、250℃以下が好ましく、より好ましくは、180℃以下である。反応時間は、数分以上が好ましく、また、150時間以内が好ましい。より好ましくは、48時間以内である。反応圧力は、常圧以上が好ましく、また、2×107Pa以下が好ましい。より好ましくは、5×106Pa以下である。また、減圧下で反応を行うこともできる。
【0037】
上記エポキシ化合物の製造方法においては、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用することにより、エポキシ化合物を高収率で、しかも酸化剤の有効利用率を向上させて製造することができ、各種の工業製品の製造において用いる中間体や原料として有用な化合物であるエポキシ化合物を供給するための製造方法として好適に適用することができる。上記製造方法により得られるエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールやポリエチレングリコールの原料となるエチレンオキシドや、ポリエーテルポリオール類を得るための原料となるプロピレンオキシド等が工業的に重要であるが、これらのエポキシ化合物は、溶剤や界面活性剤の原料として重要な工業製品の一つであるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール類やアルカノールアミン類の製造における重要な中間体でもある。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0039】
(触媒調製方法)
A 二欠損型ヘテロポリオキソメタレートテトラブチルアンモニウム塩(以下、POMTBAと略す)(触媒調製時のpH:1.0)
Inorganic syntheses vol.27,p88に記載された方法で調製した二欠損ケギン型K8[γ−SiW10O36]12H2Oの4.5gを60mlのイオン交換水に室温で溶解させ、硝酸水溶液でpHを0.5に調整した。そこにテトラブチルアンモニウムブロミド(以下、TBABrと略す)の3.3gを固体のまま加えて15分間攪拌を続けた。生成した沈殿物をろ過して、ろ過物を3時間室温で乾燥した。ろ過物の2.5gをアセトニトリル15mlに溶解させ、そこにイオン交換水300mlを加えて氷水中で30分攪拌した。析出した沈殿物をろ過して、ろ過物を3時間室温で乾燥して精製固形物(A−1)を得た。
【0040】
B〜E 二欠損POMTBA
Aの調製方法において、pHを表1に記載した値に設定した以外は、Aの調製方法に従って調製し、精製固形物B〜Eを得た。なお、表1において、触媒調製時のpHとは、TBABrを添加する直前のpHである。
【0041】
【表1】
【0042】
製造例1 1−ブテンのエポキシ化反応
蓋付き試験管にアセトニトリル6ml、A(二欠損POMTBA)触媒7μmolを入れて触媒を溶解させ、35重量%過酸化水素を1100μmol仕込み、0℃の水で5分間冷却した。この溶液に1−ブテンガスを83.5ml/minの流量で3分間バブリングして1−ブテンを溶解させた。これを40℃の湯浴で2時間反応した。生成物はガスクロマトグラフで分析、定量した。生成物の収率は仕込みの過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応成績は、1,2−ブテンオキシド(以下、BOと略す)収率42.99%、BOへの選択率97.83%であった。
【0043】
製造例2〜5
製造例1においてA触媒に変えてB、C、D、E触媒を用いて1−ブテンのエポキシ化反応を行なった。反応時間2時間後の結果を表2にまとめた。なお、表2において、触媒調製時のpHとは、触媒調製においてTBABrを添加する直前のpHである。
【0044】
【表2】
【0045】
以上のことより、触媒調製時のpHが反応活性に大きな影響を与えることが分かるが、反応活性が最大となるpH領域(pH=2)で調製された触媒の単結晶構造解析を図3及び図4に示した。これにより、その構造的特徴が図1で示されるように分子末端に位置するW部位のうち、対角に位置する2つがW−(H2O)の構造となっていることが明らかである。なお、図3及び図4は、同じ単結晶構造を別の角度からみた解析図である。
【0046】
なお、図3及び図4において、W=O結合とW−(H2O)結合とを比べると、W−(H2O)結合の方がW=O結合よりも距離が長いことから、末端に位置する4つのW=Oのうち対角に位置する2つのW=OがW−(H2O)になっていることが分かる。
この触媒を構成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子式は次のように表される。
[(CH3)4N]4[SiW10(H2O)2O34]・8H2O
単結晶構造解析における元素分析結果を表3に示した。
【0047】
【表3】
【0048】
【発明の効果】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、上述の構成よりなり、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有し、種々の反応触媒等として好適に適用することができるものである。また、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法は、エポキシ化合物を高収率で、しかも酸化剤の有効利用率を向上させて製造する方法であり、各種の工業製品の製造において用いる中間体や原料となるエポキシ化合物を供給するための製造方法として有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子末端における結晶構造を示し、分子末端に対角に位置する2つのW=Oと2つのW−(H2O)とがあることを示す模式図である。
【図2】比較のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子末端における結晶構造を示し、分子末端に4つのW=Oがあることを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例において調製されたケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の単結晶構造解析図である。
【図4】本発明の実施例において調製されたケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の単結晶構造解析図(図3とは別の角度からみた図)である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩及びエポキシ化合物の製造方法に関する。より詳しくは、種々の反応触媒として好適に用いることができるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、及び、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、ヘテロ原子を中心とし、ポリ原子がヘテロ原子に酸素を介して配位したケギン構造を有するものである。このような塩を構成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、結晶構造中であるべき原子が欠けている欠損構造を有し、金属元素を含有するもの、すなわちポリ原子が他の金属元素に置換されたものが知られている。このような欠損構造を有するものについて、反応用触媒として利用することが検討されている。
【0003】
従来のタングステン原子(W)のみによるイソポリ酸系のものでは、Wに水分子が配位した化合物が合成されており、その触媒性能も検討されている(非特許文献1参照。)。このイソポリ酸系化合物は、[NBu4]2[W4O6(O2)6(OH)2(H2O2)2]で表されるものである。しかしながら、ヘテロ原子を中心原子とするようなヘテロポリオキソメタレート系については検討されておらず、例えば、ポリ原子と分子末端に位置するターミナル酸素との結合(W=O)において、ターミナル酸素部分が水分子になっているものは知られていない。また、このイソポリ酸系化合物は、触媒としての性能が低いものであることから、触媒性能を向上することにより、種々の反応触媒等として好適に適用することができるようにする点で工夫の余地があった。
【0004】
【非特許文献1】
W.P.グリフィス(W.P.Griffith)、他3名、ジャーナル オブケミカル ソサエティ ダルトン トランス(Journal of Chemical Society Dalton Trans)、(米国)、1995年、p.3131−3138
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有し、種々の反応触媒等として好適に適用することができるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩について種々検討したところ、 該アニオンを構成するW=O構造を部分的にW−(H2O)構造とすることが可能であり、このような構造的特徴を有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が有用なものであることを見いだした。例えば、種々の反応触媒等として用いることができる高活性ヘテロポリオキソメタレートアニオンとしては、[γ−SiW10O36]8−で表されるもの等が挙げられ、これらはイノーガニック・シンセシス(Inorganic syntheses)、第27巻、p.88に記載された方法により、カリウム塩(K8[γ−SiW10O36]8−・12H2O)として単離され、欠損部分の構造に着目した場合、図2に模式的に示したように、分子末端に位置する4つのW部位はすべてW=O結合で表され、酸素原子がすべての末端に位置することになる。このような酸素原子は、末端に位置することから、ターミナル酸素と呼ばれるものである。一方、対応する4つのW部位において、図1に模式的に示されるように、部分的にW=OをW−(H2O)にすること、特に4つのW=Oのうち対角に位置する2つのW=OをW−(H2O)にすることができることを見いだし、更にこのような新規化合物が種々の反応触媒等として好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、特定のpHで調製することが可能であり、その構造は4級アンモニウム塩のX線結晶構造解析の結果より確認することができる。このような構造を有する塩は、種々の反応において活性が高く、特にエポキシ化合物の製造方法において有用である。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
[XM10(H2O)mO36−m]q− (1)
(式中、Xは、ケイ素原子又はリン原子を表す。Mは、同一若しくは異なって、タングステン原子又はモリブデン原子を表す。mは、1〜4の整数を表す。qは、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを有するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩である。
【0008】
本発明はまた、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物を酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造する方法であって、上記エポキシ化合物の製造方法は、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを有するものである。
このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩においては、単結晶の形態とするのが好ましいが、実施形態としては、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とする塩とすることが好ましく、この場合には、それを構成するアニオンの一部又は全部が、一般式(1)で表されるようにポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有するものとなり、ポリ原子のすべてに酸素原子が結合したアニオン等のその他のアニオンを有していてもよい。また、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを必須とする塩においては、該アニオンは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0010】
上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの構造としては、ヘテロ原子がケイ素原子(Si)又はリン原子(P)であり、該ヘテロ原子にポリ原子としてタングステン原子(W)又はモリブデン原子(Mo)が酸素原子を介して10個配位した結晶構造となり、結晶構造中であるべきポリ原子が二つ欠けている二欠損構造部位を有することになる。このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの好ましい形態としては、一般式(1)中、Xがケイ素原子を表す場合、Mがタングステン原子を表す場合、m=2である場合のいずれか又はこれらを組み合わせた形態が挙げられる。より好ましくは、すべて組み合わせた形態であり、下記式で表されることになる。
[SiW10(H2O)2O34]4 −
【0011】
また本発明における好ましい形態としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオン中の欠損部分の構造に着目した場合、W=O結合やMo=O結合のうち末端に位置する酸素原子(ターミナル酸素)を有する4つのW部位及び/又はSi部位において、4つのW=O結合及び/又はMo=O結合が部分的にW−H2O結合及び/又はMo−H2O結合になっている形態である。より好ましくは、上記4つのW=O結合及び/又はMo=O結合のうち対角に位置する2つのW=O結合及び/又はMo=O結合がW−H2O結合及び/又はMo−H2O結合になっている形態である。
【0012】
上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の調製方法としては、例えば、イノーガニック・シンセシス(Inorganic syntheses)、第27巻、p.88に記載された方法により得られる二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の水溶液を調製し、該水溶液のpHを調整することにより、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が生成するようにすることが好ましい。例えば、生成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩をイオン交換水に溶解して水溶液とし、pHを酸性側に調整することにより、上記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を製造することができる。このようなケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の製造方法においては、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有することになるか否かについてpH依存性を示し、本発明において上記水溶液のpHとしては、−1.0以上、7.0以下とすることが好ましい。より好ましくは、0以上、5.0以下であり、更に好ましくは、1.5以上、3.0以下であり、最も好ましくは、2.0以上、2.5以下である。このような製造方法や、これにより製造されてなるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、本発明の好ましい実施形態である。
【0013】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、対カチオンを有するものであり、対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属カチオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属カチオン(ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)や、第四級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩)、第四級フォスフォニウム塩(テトラメチルフォスフォニウム塩、テトラエチルフォスフォニウム塩、テトラプロピルフォスフォニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、テトラフェニルフォスフォニウム塩、エチルトリフェニルフォスフォニウム塩、ベンジルトリフェニルフォスフォニウム塩)、また、第四級アルセン等の有機カチオンを含むカチオンが好適である。好ましくは、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩、セチルピリジニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩であり、より好ましくは、プロトン、カリウムイオン、セシウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩である。ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を構成するカチオンは、1種又は2種以上であってもよい。
【0014】
上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、他の元素を含んでいても良い。他の元素としては、周期律表3〜16族の元素の群から選ばれる1種以上であり、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩が有するポリ原子であるモリブデン原子又はタングステン原子とは異なるものである。他の元素の種類としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンのヘテロ原子の種類等に応じて適宜選択すればよいが、周期律表3〜11族の元素の群から選ばれる1種以上の原子が好適である。他の元素としては、例えば、鉄、コバルト、マンガン、バナジウム、クロム、ルテニウムが好適である。
【0015】
上記他の元素の含有量としては、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩中のヘテロ原子1個に対して、0.0001個以上であることが好ましく、よりに好ましくは、0.01個以上である。また、6個以下であることが好ましい。より好ましくは、5個以下であり、更に好ましくは、3個以下である。
【0016】
上記他の元素の形態としては、カチオンとして、ヘテロポリオキソメタレートアニオンと電荷とのバランスをとってもよく、酸化物等の形態をとってもよい。
この場合における、他の元素とケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩との存在形態としては、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩と他の元素とが共に存在することになればよいが、例えば、以下の(1)〜(3)に記載する結合形態が好適である。
【0017】
(1)他の元素がケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の二欠損部位を置換して存在する形態。二欠損部位を置換して存在する場合、各他の元素は互いに隣接していることが好ましい。各他の元素が互いに隣接する異性体としては、角を共有した異性体であるα、β体でもよく、陵を共有したγ、δ、ε体でもよい。より好ましくは、二欠損ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの骨格中に二個の他の元素が陵を共有してくみ込まれる形態であり、それはγ、δ、ε体である。
【0018】
(2)他の元素が錯体化合物、例えば、[XM10(H2O)2O34]q− −B−[XM10(H2O)2O34]q− のように、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンによって配位されて存在する形態。
上記(1)、(2)の形態において、他の元素とケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンとが結合した構造は、X線解析、元素分析やFT−IR分光測定から決定又は推定することができる。
【0019】
(3)他の元素がケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンに担持されたり、吸着されたりして存在する形態。この場合、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンにおける、他の元素が担持される部位や吸着される部位は特に限定されるものではない。このような形態は、元素分析、FT−IR分析等から推定される。
また上記(1)〜(3)のいずれの場合においても、ケギン型ヘテロポリオキソメタレート中のケイ素原子及び/又はリン原子であるヘテロ原子と、他の元素との相違は、X線解析により決定・確認をすることができる。
【0020】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、反応触媒として有用なものであり、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を必須成分とする触媒は、本発明の好ましい実施形態の1つである。この場合の作用効果としては、主に以下の(1)〜(8)等が挙げられる。
すなわち(1)アルデヒド類、ケトン類等を生成する異性化反応がおこりにくく、エポキシ化合物への選択率が高くなること、(2)目的生成物のエポキシ化合物が水により開環して生成するグリコール類と、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物とが反応して生成するグリコールモノアルキルエーテル類等の生成量が少なく、これによってもエポキシ化合物への選択性が極めて高くなること、(3)反応系に水やアルコール類が多量に存在しても、異性化反応や開環反応等の副反応が起こりにくく、エポキシ化合物の選択率が高くなるので、低い濃度の過酸化水素等の酸化剤が使用可能であること、(4)酸化剤が過酸化水素の場合、酸素への分解等が少なく、酸化剤のエポキシ化合物への有効利用率が高くなること、(5)反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物に対して使用する過酸化水素の比率が低くても、反応活性が高く、選択性がよくなること、(6)触媒の活性が高いこと、(7)副生成物として生成するアセトン等のケトン類が少なく、アセトンから生成する有機過酸化物ができにくいので、爆発等の危険性が低くなること、(8)反応中に有機過酸化物の蓄積による過酸化水素等の酸化剤の消費が起こりにくくなること、等が挙げられる。
【0021】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用する場合、反応溶液のpHが0以上、5.0以下であることが好ましい。例えば、W部位の一部がW−(H2O)の構造となっていることにより、特に、分子末端に位置するW部位の一部がW−(H2O)の構造となっていることにより、このH2Oが脱離し易くなっており、この部分のH2Oが次々と入れ代わることにより、種々の反応が進行するものと考えられる。pH0以上、5.0以下の領域、特に最も反応活性の高いpH2.0付近では、この構造が安定に存在することができることから、反応活性が高いものと考えられる。
【0022】
上記触媒としては、上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を主成分とすることが好ましいが、本発明の作用効果を奏する限り触媒調製過程で生じる不純分や、他の成分を含有していてもよい。触媒の使用量としては、例えば、反応基質100重量部に対して0.0001重量部以上とすることが好ましく、また、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、また、1500重量部以下である。
【0023】
上記触媒の使用形態としては、触媒を溶媒に溶解させて均一系で反応させる形態、触媒を溶媒に溶解させずに液相に懸濁させて反応を行う形態が挙げられる。触媒を固相として反応を行うことも可能である。上記触媒は、対カチオンを変更することで、触媒自体を固体として使用することができ、生成物と触媒の分離が容易となる。また、この場合、触媒を担体に担持することによっても、触媒を固相として使用することができる。触媒用担体としては、各種イオン交換樹脂、シリカ、アルミナや、他の酸化物等の一般的に不均一系接触反応に使用される担体を用いることができる。好ましくは、イオン交換樹脂、シリカ、アルミナである。また、触媒自体を固体として使用する場合、好ましい対カチオンは、プロトン、カリウムイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩である。
【0024】
上記触媒は、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物を酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造する方法に使用してなることが好ましく、このようなエポキシ化合物の製造方法もまた、本発明の1つである。
以下では、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として用いるエポキシ化合物の製造方法における反応基質、酸化剤、製造条件等について説明する。
上記エポキシ化合物の製造方法において使用する反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物としては、非環式であっても環式有機化合物であってもよく、例えば、炭化水素、エステル、アルコール、エーテル、ハロゲン置換炭化水素等の1種又は2種以上用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン類、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−エトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−アイコセンプロピレンのトリマー及びテトラマー類、1,3−ブタジエン等の末端にエチレン性二重結合を有する直鎖アルケン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチル−2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン等の分子内部にエチレン性二重結合を有するアルケンや分岐アルケン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、シクロオクテン、ノルボルネン等の脂環式オレフィン性炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜15の不飽和炭化水素が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜12の不飽和炭化水素である。
【0025】
上記エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物はまた、例えば、−COOH、−CN、COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアリルアルキル置換基を表す)等の基や、アリール、アリルアルキル、ハロゲン、ニトロ、スルホン酸、カルボニル(例えばケトン、アルデヒド)、ヒドロキシル、エーテル基を有していてもよい。このような化合物として、例えば、アリルアルコール、塩化アリル、アリルメチルエーテル、アリルビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルフェニルエーテル、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0026】
上記エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物としてはまた、炭素−炭素の二重結合を含む炭素数6以上のアリール化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の置換スチレン類、ジビニルベンゼン類、スチルベン、アラルケン類;炭素−炭素の二重結合を有するアミン類、チオール類、サルファイド類、ジサルファイド類、Se、Te、SbやAsを有する化合物、ホスフィン類、ホスファイト類等が挙げられる。
【0027】
上記酸化剤としては、例えば、酸素イオンや酸素ラジカル、ペルオキシドやスーパーペルオキシドを生成しうるものを用いることができ、例えば、分子状酸素や過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、過酢酸等の有機過酸化物、酸素と水素の混合ガス、一酸化二窒素、ヨードシルベンゼン等が好適である。これらの中でも、分子状酸素又は過酸化水素を用いることが好ましい。
【0028】
上記過酸化水素は、反応が選択的であれば理想的な酸化剤であるが、従来では反応系に生成する水により、生成したエポキシ化合物の開環がおこり収率が低くなる場合や、生成するエポキシ化合物の価格が低いと過酸化水素が相対的に高価となり、製造コストが割高になる場合があったが、本発明においては、エポキシ化合物への選択率が高く、過酸化水素の有効利用率が高く、また、触媒によるエポキシ化合物の生産性が高いことから、これらの問題が解消されることになる。
【0029】
上記エポキシ化合物の製造方法において、酸化剤として過酸化水素を使用する場合、過酸化水素の使用形態としては、実用的には、0.01〜70質量%の水溶液、アルコール類の溶液が好適であるが、100%の過酸化水素も使用可能である。しかし非常に低い濃度の過酸化水素をつかっても副生物が生成しにくいのが本発明に使用される液相反応用触媒の特徴である。
【0030】
上記酸化剤の使用量としては、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物中のエチレン性二重結合に対するモル比(反応基質中のエチレン性二重結合のモル数/酸化剤のモル数)が100/1以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、10/1以上である。また、1/100以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/50以下である。
【0031】
上記エポキシ化合物の製造方法における触媒の使用量としては、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物100重量部に対して0.0001重量部以上とすることが好ましく、また、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、また、1500重量部以下である。
【0032】
上記エポキシ化合物の製造方法における反応方法としては、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物及び酸化剤に、触媒であるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を接触させることによりエポキシ化反応を行うことが好ましい。また、触媒であるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩、エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物及び酸化剤を溶媒に溶解させて液相均一系で行うことが反応活性の面で好ましい。
【0033】
上記溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることになる。有機溶媒としては、1種又は2種以上を用いることができ、反応基質であるエチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物や、過酸化水素等の酸化剤、生成したエポキシ化合物とは反応しないものが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマル又はイソプロパノール、第3級ブタノール等の炭素数1〜6の第1、2、3級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、多価アルコールの蟻酸エステル又は酢酸エステル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、ニトリル類等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0034】
上記溶媒の中でも、水、炭素数1〜4のアルコール類、1,2−ジクロロエタン、ヘプタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等や、これらの混合物を用いることが好ましい。水が存在する場合は、場合によって相間移動触媒や界面活性剤を共存させることも可能である。
【0035】
上記エポキシ化反応における反応系は、中性〜酸性であることが好ましい。上記製造方法においては、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を用いることにより反応系を酸性とすることができるが、更に反応系中に酸性物質を加えてもよい。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;酢酸、安息香酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スルホン酸等の有機酸類;ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類等が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化アンチモン化合物、塩化第二スズ、フッ化アンチモン、亜鉛やチタンの化合物、ゼオライト類、混合酸化物等が好適である。更に無機、有機酸性塩を用いることもできる。
【0036】
上記エポキシ化反応における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、より好ましくは、室温以上である。また、250℃以下が好ましく、より好ましくは、180℃以下である。反応時間は、数分以上が好ましく、また、150時間以内が好ましい。より好ましくは、48時間以内である。反応圧力は、常圧以上が好ましく、また、2×107Pa以下が好ましい。より好ましくは、5×106Pa以下である。また、減圧下で反応を行うこともできる。
【0037】
上記エポキシ化合物の製造方法においては、本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用することにより、エポキシ化合物を高収率で、しかも酸化剤の有効利用率を向上させて製造することができ、各種の工業製品の製造において用いる中間体や原料として有用な化合物であるエポキシ化合物を供給するための製造方法として好適に適用することができる。上記製造方法により得られるエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールやポリエチレングリコールの原料となるエチレンオキシドや、ポリエーテルポリオール類を得るための原料となるプロピレンオキシド等が工業的に重要であるが、これらのエポキシ化合物は、溶剤や界面活性剤の原料として重要な工業製品の一つであるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール類やアルカノールアミン類の製造における重要な中間体でもある。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0039】
(触媒調製方法)
A 二欠損型ヘテロポリオキソメタレートテトラブチルアンモニウム塩(以下、POMTBAと略す)(触媒調製時のpH:1.0)
Inorganic syntheses vol.27,p88に記載された方法で調製した二欠損ケギン型K8[γ−SiW10O36]12H2Oの4.5gを60mlのイオン交換水に室温で溶解させ、硝酸水溶液でpHを0.5に調整した。そこにテトラブチルアンモニウムブロミド(以下、TBABrと略す)の3.3gを固体のまま加えて15分間攪拌を続けた。生成した沈殿物をろ過して、ろ過物を3時間室温で乾燥した。ろ過物の2.5gをアセトニトリル15mlに溶解させ、そこにイオン交換水300mlを加えて氷水中で30分攪拌した。析出した沈殿物をろ過して、ろ過物を3時間室温で乾燥して精製固形物(A−1)を得た。
【0040】
B〜E 二欠損POMTBA
Aの調製方法において、pHを表1に記載した値に設定した以外は、Aの調製方法に従って調製し、精製固形物B〜Eを得た。なお、表1において、触媒調製時のpHとは、TBABrを添加する直前のpHである。
【0041】
【表1】
【0042】
製造例1 1−ブテンのエポキシ化反応
蓋付き試験管にアセトニトリル6ml、A(二欠損POMTBA)触媒7μmolを入れて触媒を溶解させ、35重量%過酸化水素を1100μmol仕込み、0℃の水で5分間冷却した。この溶液に1−ブテンガスを83.5ml/minの流量で3分間バブリングして1−ブテンを溶解させた。これを40℃の湯浴で2時間反応した。生成物はガスクロマトグラフで分析、定量した。生成物の収率は仕込みの過酸化水素のモル数と生成物のモル数の比率から計算した。生成物の選択率は生成物の全モル数と各生成物のモル数の比率から算出した。反応成績は、1,2−ブテンオキシド(以下、BOと略す)収率42.99%、BOへの選択率97.83%であった。
【0043】
製造例2〜5
製造例1においてA触媒に変えてB、C、D、E触媒を用いて1−ブテンのエポキシ化反応を行なった。反応時間2時間後の結果を表2にまとめた。なお、表2において、触媒調製時のpHとは、触媒調製においてTBABrを添加する直前のpHである。
【0044】
【表2】
【0045】
以上のことより、触媒調製時のpHが反応活性に大きな影響を与えることが分かるが、反応活性が最大となるpH領域(pH=2)で調製された触媒の単結晶構造解析を図3及び図4に示した。これにより、その構造的特徴が図1で示されるように分子末端に位置するW部位のうち、対角に位置する2つがW−(H2O)の構造となっていることが明らかである。なお、図3及び図4は、同じ単結晶構造を別の角度からみた解析図である。
【0046】
なお、図3及び図4において、W=O結合とW−(H2O)結合とを比べると、W−(H2O)結合の方がW=O結合よりも距離が長いことから、末端に位置する4つのW=Oのうち対角に位置する2つのW=OがW−(H2O)になっていることが分かる。
この触媒を構成するケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子式は次のように表される。
[(CH3)4N]4[SiW10(H2O)2O34]・8H2O
単結晶構造解析における元素分析結果を表3に示した。
【0047】
【表3】
【0048】
【発明の効果】
本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩は、上述の構成よりなり、ポリ原子に結合する酸素原子の一部が水分子に置き換わった構造を有し、種々の反応触媒等として好適に適用することができるものである。また、該ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを触媒として使用してなるエポキシ化合物の製造方法は、エポキシ化合物を高収率で、しかも酸化剤の有効利用率を向上させて製造する方法であり、各種の工業製品の製造において用いる中間体や原料となるエポキシ化合物を供給するための製造方法として有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子末端における結晶構造を示し、分子末端に対角に位置する2つのW=Oと2つのW−(H2O)とがあることを示す模式図である。
【図2】比較のケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の分子末端における結晶構造を示し、分子末端に4つのW=Oがあることを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例において調製されたケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の単結晶構造解析図である。
【図4】本発明の実施例において調製されたケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩の単結晶構造解析図(図3とは別の角度からみた図)である。
Claims (3)
- 下記一般式(1);
[XM10(H2O)mO36−m]q− (1)
(式中、Xは、ケイ素原子又はリン原子を表す。Mは、同一若しくは異なって、タングステン原子又はモリブデン原子を表す。mは、1〜4の整数を表す。qは価数を表し、正の整数である。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを有する
ことを特徴とするケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩。 - 前記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、
[SiW10(H2O)2O34]4−
で表される
ことを特徴とする請求項1記載のヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩。 - エチレン性二重結合を少なくとも1個有する化合物を酸化剤により酸化させてエポキシ化合物を製造する方法であって、
該エポキシ化合物の製造方法は、請求項1又は2記載のヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を触媒として使用してなる
ことを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
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