JP2004093437A - 時計用カバーガラス - Google Patents
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Abstract
【課題】硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することにある。
【解決手段】ガラス基材にスパッタリング法によって作製したSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5のうちのいずれかからなる酸化物膜またはSi3N4からなる窒化物膜を積層した反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、少なくとも表面の反射防止膜の上にプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法のいずれかの方法で作製したダイヤモンドライクカーボン膜を厚さが0.1μm以下の範囲で被覆し、このダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素が含有されていることを特徴とする。
【選択図】 図1
【解決手段】ガラス基材にスパッタリング法によって作製したSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5のうちのいずれかからなる酸化物膜またはSi3N4からなる窒化物膜を積層した反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、少なくとも表面の反射防止膜の上にプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法のいずれかの方法で作製したダイヤモンドライクカーボン膜を厚さが0.1μm以下の範囲で被覆し、このダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素が含有されていることを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計用カバーガラスに係わり、特に、長期間に亘る反射防止機能と耐傷性に優れた時計用カバーガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
時計のカバーガラスには、青板ガラス(ソーダガラス)、白板ガラス、サファイアガラスなどが使用されている。これらのカバーガラスはいずれも可視光領域における反射率が大きく、指針や文字板の視認性が充分ではなかった。そのため、屋内、屋外、昼夜など様々な環境下で時刻を確認する時計では外光や照明が変化するため、これらの外光がカバーガラスの表面で反射し、時刻表示が見えにくい問題があった。
そのための解決方法としてカバーガラスの両面あるいは少なくとも片面に反射防止膜をコーティングすることが既に開示されている(たとえば、特許文献1参照。)。一般に反射防止膜は適当な屈折率を有する金属あるいは無機物の酸化物膜、窒化物膜、フッ化物膜、硫化物膜を限定した波長領域において所望の反射率となるように設計し、組み合わせることにより構成される。
【0003】
【特許文献1】
実開昭48−77456号公報(第2図、第3図、第4図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの反射防止膜はいずれも硬度や耐傷性等に劣り、例えばフッ化マグネシウムを最表層とする反射防止膜をコーティングしたカバーガラスを具備した腕時計を長期間携帯していると反射防止膜が表面に細かい傷が入ったり、剥離したりして、表面がくもってしまい、指針や文字板が見えにくくなってしまう問題があった。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決して、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の時計用カバーガラスは、下記記載の構成を採用する。
【0007】
本発明の時計用カバーガラスは、ガラス基材に反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、少なくとも表面の反射防止膜上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆したことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素が含有されていることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さが0.1μm以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、反射防止膜が酸化物膜または窒化物膜を積層した構造であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、酸化物膜が、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5のうちのいずれかからなることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、窒化物膜が、Si3N4であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜がプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法のいずれかの方法で作製されていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、酸化物膜または窒化物膜がスパッタリング法で作製されていることが好ましい。
【0015】
(作用)
本発明者は、時計用カバーガラスにおける反射防止膜について鋭意、検討を進めた結果、ガラス基材に酸化物膜または窒化物膜を積層した反射防止膜において少なくとも表面の反射防止膜の上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆することによって、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することを可能にした。ここでダイヤモンドライクカーボン膜とは水素を含むアモルファス状の硬質炭素膜であり、高硬度、低摩擦係数、屈折率、電気絶縁性等、ダイヤモンドと類似した特徴を有する平滑性に優れた膜として知られている。
【0016】
さらに本発明者は、このダイヤモンドライクカーボン膜を被覆する際に、B、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素を含有させることにによって、膜厚が0.1μm以下の範囲でダイヤモンドライクカーボン膜を被覆しても透明性を維持できることを見いだした。すなわち、ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆すると、ダイヤモンドライクカーボンは可視広域で光を吸収するため膜厚の増加と共に茶色から黒色を呈し、文字板が見えにくくなる問題があったが、上記のような元素を含有させることによって、透明性を損なうことなく膜厚を大きくできることが分かった。これは上記の元素を添加することによって、光学的バンドギャップが変化することに起因してるものと考えられる。このようにして、表面の反射防止膜の最表層にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆することによって、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、透明性を保持し、反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の時計用カバーガラスの構造を示す断面模式図である。サファイヤガラス10の表面と裏面に酸化物膜あるいは窒化物膜の積層からなる反射防止膜110と反射防止膜210が被覆されており、さらには表面の反射防止膜110の最表層の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が被覆されている。図2は反射防止膜を積層するためのスパッタリング装置の断面模式図である。本発明ではDC反応性スパッタリング装置を用いた。ターゲットはSiであり、ガス導入口32よりAr、HeあるいはNe等の不活性ガス、O2、N2ガスを導入してSiターゲットに電圧を印加することによりスパッタリングを行い、サファイヤガラス10に積層する。スパッタリング法によって作製される膜は酸化物膜あるい窒化物膜あり、これは反応性ガスであるO2とN2を切り換えることにより形成が可能である。
【0019】
図3はダイヤモンドライクカーボン膜を被覆するための装置である。ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆する手段としてはプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法などがあるが、本実施形態ではプラズマCVD法が好ましい。原料ガスはメタンなどの炭化水素ガスであり、ガス導入口42より導入する。マッチングボックス46を介して接続した高周波電源45より高周波電力を高周波電極40に印加してプラズマを発生させ、ダイヤモンドライクカーボン膜1を時計カバーガラス上に積層した反射防止膜110の上に被覆する。B、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素を含有させるには、これらの元素の単体ガスあるいはこれらの元素を含む化合物ガスをメタンと混合してガス導入口42より導入することによって可能となる。
【0020】
反射防止膜は積層するダイヤモンドライクカーボン膜や酸化物膜、窒化物膜の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、仕様を満足する反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる。また、ダイヤモンドライクカーボン膜、酸化物膜および窒化物膜の屈折率は成膜条件によって変えることも可能である。
【0021】
また、時計用の反射防止膜としては可視光領域で反射率が5%以下であることが望ましく、そのためには図1に示すようにサファイヤガラス10の表面と裏面に反射防止膜を形成することが好ましい。
【0022】
【実施例】
以下に本発明の具体的な実施例について、図1〜図4を参照しながら説明する。
(実施例1)
本実施例における時計用カバーガラスは、図1に示すようにサファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されている。反射防止膜110と反射防止膜210の膜構成は同じであり、いずれも4層からなっている。最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである。また、SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。
【0023】
ここで反射率特性は積層する酸化物膜と窒化物膜の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、種々の反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる。また、SiO2およびSi3N4の屈折率はスパッタリング条件によっても変えることも可能である。
【0024】
本実施例での反射防止膜の製造方法であるDC反応性スパッタリング装置の概念図を図3に示す。
【0025】
真空槽31の中にSiターゲット30を配置し、Siターゲット30に直流電圧を印加する。サファイヤガラス10は、Siターゲット30に対向するように設置する。Siターゲット30にはDC電源34が接続されている。
【0026】
図示していない真空ポンプにより、真空槽30内を1×10−5torrまで排気し、図示していないヒーターにより、サファイヤガラス10を約300℃に加熱する。そしてガス導入口32より、混合ガスを導入し、以下の条件でDC反応性スパッタリングを行ない、反射防止膜110を積層させた。SiO2とSi3N4の膜形成はガス種およびガス流量比を切り換えることにより可能である。以下に各層の成膜条件を下記に示す。
【0027】
以上のようにしてサファイヤガラス10の表面に反射防止膜110を積層させた。その後、サファイヤガラス10を裏返し、サファイヤガラス10の裏面に表面と同様の操作を行い、反射防止膜210を積層させた。裏面の反射防止膜210も表面の反射防止膜110と同じ成膜条件であり、その膜構成も同じである。すなわち、最表層(第4層)からSiO2膜24、Si3N4膜23、SiO2膜22、Si3N4膜21の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmとなっている。
【0028】
その後、表面と裏面に反射防止膜を積層させたサファイヤガラスを図3に示すようなプラズマCVD装置内の高周波電極40上に設置して、表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜方法は図示していない真空ポンプにより、真空槽41内を1×10−5torrまで排気し、原料ガスにメタンを用いて、ガス導入口42より導入し、マッチングボックス46を介して接続した高周波電源45より高周波電力を高周波電極40に印加してプラズマを発生させるものである。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。本実施例では特に基板の加熱は行わなかった。
メタン流量 20sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0029】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.01μmであった。これより大きい膜厚になると、膜厚の増加と共に茶色から黒色を呈し、透明性が失われる。この結果、図4に示すような反射率特性を得ることができる。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0030】
(実施例2)
次に実施例2としてダイヤモンドライクカーボン膜1にNを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にNを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。
メタン流量 15sccm
N2流量 5sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0031】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりNが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.05μmとしたが、0.1μmの膜厚までは外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0032】
(実施例3)
次に実施例3としてダイヤモンドライクカーボン膜1にFを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にFを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。Fを含有させるためにメタンとC2F4 ガスを導入した。
メタン流量 15sccm
C2F4流量 5sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0033】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりFが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.08μmとしたが、0.1μmの膜厚までは外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0034】
(実施例4)
次に実施例4としてダイヤモンドライクカーボン膜1にBを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にBを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。Bを含有させるためにメタンとB2H6ガスを導入した。
メタン流量 10sccm
Ar流量 10sccm
B2H6流量 1sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0035】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりBが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.1μmとしたが、この程度の膜厚でも外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0036】
(比較例)
次に比較例1としてダイヤモンドライクカーボン膜1を積層しない例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。このような反射防止膜をサファイヤガラスの表裏面に成膜することによって図4に示すような反射率特性を得ることができる。その後、表裏面のどちらにもダイヤモンドライクカーボン膜は積層しない。本比較例によって、サファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆されただけの時計用カバーガラスが完成した。
【0037】
以上のようにして得られた実施例1〜4と比較例について、ダイヤモンドライクカーボン膜によって発現する効果を評価するため、粒径10μmのアルミナ粒を分散させたラッピングフィルムと反射防止膜をコートしたこれらの各実施例および比較例の時計用カバーガラスを接触荷重500gにて接触させ、カバーガラスを複数回往復運動させて、カバーガラスに傷が入り始める往復回数を評価する摺動摩耗試験をおこなった。この評価では100回以上摺動して傷が発生しなければ、その硬度、耐摩耗性は実用上充分であり、実際に携帯し、長期間使用しても傷や剥離はほとんど発生しない。その結果、表面がくもることもなく、指針や文字板が見えにくくならないことが既に本発明者において確認されている。さらにはビッカース硬度計により表面の硬度を測定した。その結果を表1に示す。また、透明性の優劣を評価するため摺動摩耗試験前の反射率特性の測定から得られた波長550nmにおける透過率も同時に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表から分かるように、実施例1〜4においては耐摩耗性を評価するための摺動摩耗試験結果では、100回以上摺動しても傷の発生は全くなく、良好な耐摩耗性が得られ、ビッカース硬度も高い値を示した。反射率特性は摺動摩耗試験後も図4に示すままであった。550nmにおける透過率は96%以上であった。特にNやF、Bを含有させたサンプルはビッカース硬度で1500以上、透過率98%以上という良好な値を示した。
【0040】
一方、比較例では摺動摩耗試験10往復で傷が入り、表面にくもりが発生した。その結果、反射率も図4に示す曲線よりも大きく変化し、反射率が5%を越える波長領域が発生し、文字板が見えにくくなる問題が生じた。ビッカース硬度計による表面硬度測定でも実施例1〜4よりも遙かに低い値を示した。
【0041】
このように本発明によって、表面の硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となった。
【0042】
実施例では時計用カバーガラスの表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜を積層させたが、裏面の反射防止膜210の上にもダイヤモンドライクカーボン膜を積層させても差し支えない。また、実施例ではダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、Fを含有させる例を示したが、その他にもSi、Ge、P、Asから選択される元素を含有させても同様の効果が得られることが本発明者によって確認されている。この時含有させる元素は1種類だけなく、2種類以上でも良い。また、実施例では酸化物膜としてSiO2の例について示したが、他の酸化物膜であるAl2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5でも実施例と同様の効果が得られることが本発明者によって確認されている。また、実施例では片面に反射防止膜が4層積層されている例を示したが、反射防止膜の積層数、組合せは数多くあり、これに限定するものではない。また、ガラス基材も実施例ではサファイヤガラスの例を示したが、これに限定されるものではなく、ソーダガラスや青板ガラス、白板ガラスあるいはプラスチック製ガラスでも良い。
【0043】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の時計用カバーガラスではガラス基材に酸化物膜または窒化物膜を積層した反射防止膜を備えており、少なくとも表面の反射防止膜の上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆させたことによって反射防止膜表面の硬度が上昇し、耐摩耗性が著しく上昇する。その結果、長期間携帯しても反射防止膜が表面に細かい傷が入ったり、剥離したりして、表面がくもってしまい、指針や文字板が見えにくくなってしまう問題のない反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる。また、本発明によれば反射防止機能の劣化がないために文字板の装飾性が経時変化によって損なわれることがなくなる効果もある。また、文字板に太陽電池が装着されており、カバーガラスを通過した光を受光して時計を駆動させるための起電力を発生させる時計の場合、本発明では反射防止機能が劣化することがないため太陽電池の発電効率の劣化も抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】反射防止膜を被覆した本発明の時計用カバーガラスの構造を示す断面模式図である。
【図2】反射防止膜を積層するためのスパッタリング装置の断面模式図である。
【図3】ダイヤモンドライクカーボン膜を積層するためのプラズマCVD装置の断面模式図である。
【図4】反射防止膜を被覆した本発明の時計用カバーガラスの反射率の特性を示す反射率特性スペクトル図である。
【符号の説明】
1 ダイヤモンドライクカーボン膜
10 サファイヤガラス
11、13、21,23 Si3N4膜
12、14、22、24 SiO2膜
110、210 反射防止膜
30 Siターゲット
31、41 真空チャンバー
32、42 ガス導入口
34 DC電源
40 高周波電極
45 高周波電源
46 マッチングボックス
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計用カバーガラスに係わり、特に、長期間に亘る反射防止機能と耐傷性に優れた時計用カバーガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
時計のカバーガラスには、青板ガラス(ソーダガラス)、白板ガラス、サファイアガラスなどが使用されている。これらのカバーガラスはいずれも可視光領域における反射率が大きく、指針や文字板の視認性が充分ではなかった。そのため、屋内、屋外、昼夜など様々な環境下で時刻を確認する時計では外光や照明が変化するため、これらの外光がカバーガラスの表面で反射し、時刻表示が見えにくい問題があった。
そのための解決方法としてカバーガラスの両面あるいは少なくとも片面に反射防止膜をコーティングすることが既に開示されている(たとえば、特許文献1参照。)。一般に反射防止膜は適当な屈折率を有する金属あるいは無機物の酸化物膜、窒化物膜、フッ化物膜、硫化物膜を限定した波長領域において所望の反射率となるように設計し、組み合わせることにより構成される。
【0003】
【特許文献1】
実開昭48−77456号公報(第2図、第3図、第4図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの反射防止膜はいずれも硬度や耐傷性等に劣り、例えばフッ化マグネシウムを最表層とする反射防止膜をコーティングしたカバーガラスを具備した腕時計を長期間携帯していると反射防止膜が表面に細かい傷が入ったり、剥離したりして、表面がくもってしまい、指針や文字板が見えにくくなってしまう問題があった。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決して、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の時計用カバーガラスは、下記記載の構成を採用する。
【0007】
本発明の時計用カバーガラスは、ガラス基材に反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、少なくとも表面の反射防止膜上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆したことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素が含有されていることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さが0.1μm以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、反射防止膜が酸化物膜または窒化物膜を積層した構造であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、酸化物膜が、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5のうちのいずれかからなることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、窒化物膜が、Si3N4であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、ダイヤモンドライクカーボン膜がプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法のいずれかの方法で作製されていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の時計用カバーガラスでは、酸化物膜または窒化物膜がスパッタリング法で作製されていることが好ましい。
【0015】
(作用)
本発明者は、時計用カバーガラスにおける反射防止膜について鋭意、検討を進めた結果、ガラス基材に酸化物膜または窒化物膜を積層した反射防止膜において少なくとも表面の反射防止膜の上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆することによって、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することを可能にした。ここでダイヤモンドライクカーボン膜とは水素を含むアモルファス状の硬質炭素膜であり、高硬度、低摩擦係数、屈折率、電気絶縁性等、ダイヤモンドと類似した特徴を有する平滑性に優れた膜として知られている。
【0016】
さらに本発明者は、このダイヤモンドライクカーボン膜を被覆する際に、B、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素を含有させることにによって、膜厚が0.1μm以下の範囲でダイヤモンドライクカーボン膜を被覆しても透明性を維持できることを見いだした。すなわち、ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆すると、ダイヤモンドライクカーボンは可視広域で光を吸収するため膜厚の増加と共に茶色から黒色を呈し、文字板が見えにくくなる問題があったが、上記のような元素を含有させることによって、透明性を損なうことなく膜厚を大きくできることが分かった。これは上記の元素を添加することによって、光学的バンドギャップが変化することに起因してるものと考えられる。このようにして、表面の反射防止膜の最表層にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆することによって、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、透明性を保持し、反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の時計用カバーガラスの構造を示す断面模式図である。サファイヤガラス10の表面と裏面に酸化物膜あるいは窒化物膜の積層からなる反射防止膜110と反射防止膜210が被覆されており、さらには表面の反射防止膜110の最表層の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が被覆されている。図2は反射防止膜を積層するためのスパッタリング装置の断面模式図である。本発明ではDC反応性スパッタリング装置を用いた。ターゲットはSiであり、ガス導入口32よりAr、HeあるいはNe等の不活性ガス、O2、N2ガスを導入してSiターゲットに電圧を印加することによりスパッタリングを行い、サファイヤガラス10に積層する。スパッタリング法によって作製される膜は酸化物膜あるい窒化物膜あり、これは反応性ガスであるO2とN2を切り換えることにより形成が可能である。
【0019】
図3はダイヤモンドライクカーボン膜を被覆するための装置である。ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆する手段としてはプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法などがあるが、本実施形態ではプラズマCVD法が好ましい。原料ガスはメタンなどの炭化水素ガスであり、ガス導入口42より導入する。マッチングボックス46を介して接続した高周波電源45より高周波電力を高周波電極40に印加してプラズマを発生させ、ダイヤモンドライクカーボン膜1を時計カバーガラス上に積層した反射防止膜110の上に被覆する。B、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素を含有させるには、これらの元素の単体ガスあるいはこれらの元素を含む化合物ガスをメタンと混合してガス導入口42より導入することによって可能となる。
【0020】
反射防止膜は積層するダイヤモンドライクカーボン膜や酸化物膜、窒化物膜の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、仕様を満足する反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる。また、ダイヤモンドライクカーボン膜、酸化物膜および窒化物膜の屈折率は成膜条件によって変えることも可能である。
【0021】
また、時計用の反射防止膜としては可視光領域で反射率が5%以下であることが望ましく、そのためには図1に示すようにサファイヤガラス10の表面と裏面に反射防止膜を形成することが好ましい。
【0022】
【実施例】
以下に本発明の具体的な実施例について、図1〜図4を参照しながら説明する。
(実施例1)
本実施例における時計用カバーガラスは、図1に示すようにサファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されている。反射防止膜110と反射防止膜210の膜構成は同じであり、いずれも4層からなっている。最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである。また、SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。
【0023】
ここで反射率特性は積層する酸化物膜と窒化物膜の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、種々の反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる。また、SiO2およびSi3N4の屈折率はスパッタリング条件によっても変えることも可能である。
【0024】
本実施例での反射防止膜の製造方法であるDC反応性スパッタリング装置の概念図を図3に示す。
【0025】
真空槽31の中にSiターゲット30を配置し、Siターゲット30に直流電圧を印加する。サファイヤガラス10は、Siターゲット30に対向するように設置する。Siターゲット30にはDC電源34が接続されている。
【0026】
図示していない真空ポンプにより、真空槽30内を1×10−5torrまで排気し、図示していないヒーターにより、サファイヤガラス10を約300℃に加熱する。そしてガス導入口32より、混合ガスを導入し、以下の条件でDC反応性スパッタリングを行ない、反射防止膜110を積層させた。SiO2とSi3N4の膜形成はガス種およびガス流量比を切り換えることにより可能である。以下に各層の成膜条件を下記に示す。
【0027】
以上のようにしてサファイヤガラス10の表面に反射防止膜110を積層させた。その後、サファイヤガラス10を裏返し、サファイヤガラス10の裏面に表面と同様の操作を行い、反射防止膜210を積層させた。裏面の反射防止膜210も表面の反射防止膜110と同じ成膜条件であり、その膜構成も同じである。すなわち、最表層(第4層)からSiO2膜24、Si3N4膜23、SiO2膜22、Si3N4膜21の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmとなっている。
【0028】
その後、表面と裏面に反射防止膜を積層させたサファイヤガラスを図3に示すようなプラズマCVD装置内の高周波電極40上に設置して、表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜方法は図示していない真空ポンプにより、真空槽41内を1×10−5torrまで排気し、原料ガスにメタンを用いて、ガス導入口42より導入し、マッチングボックス46を介して接続した高周波電源45より高周波電力を高周波電極40に印加してプラズマを発生させるものである。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。本実施例では特に基板の加熱は行わなかった。
メタン流量 20sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0029】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.01μmであった。これより大きい膜厚になると、膜厚の増加と共に茶色から黒色を呈し、透明性が失われる。この結果、図4に示すような反射率特性を得ることができる。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0030】
(実施例2)
次に実施例2としてダイヤモンドライクカーボン膜1にNを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にNを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。
メタン流量 15sccm
N2流量 5sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0031】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりNが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.05μmとしたが、0.1μmの膜厚までは外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0032】
(実施例3)
次に実施例3としてダイヤモンドライクカーボン膜1にFを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にFを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。Fを含有させるためにメタンとC2F4 ガスを導入した。
メタン流量 15sccm
C2F4流量 5sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0033】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりFが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.08μmとしたが、0.1μmの膜厚までは外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0034】
(実施例4)
次に実施例4としてダイヤモンドライクカーボン膜1にBを含有させた場合の例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。その後、表面の反射防止膜110の上にBを含有したダイヤモンドライクカーボン膜1を積層させた。ダイヤモンドライクカーボン膜1の成膜条件を以下に示す。Bを含有させるためにメタンとB2H6ガスを導入した。
メタン流量 10sccm
Ar流量 10sccm
B2H6流量 1sccm
RF出力 300W
ガス圧力 0.1Torr
【0035】
この時のダイヤモンドライクカーボン膜1中にはSIMS(2次イオン質量分析法)によりBが含有されていることが確認された。また、ダイヤモンドライクカーボン膜1の厚さは0.1μmとしたが、この程度の膜厚でも外観上、反射防止膜を積層したサファイヤガラスの透明性を損なうことはなかった。その結果、図4に示すような反射率特性を得ることができた。以上のようにして、本実施例によって、図1に示すようなサファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆され、さらには表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜1が積層された時計用カバーガラスが完成した。
【0036】
(比較例)
次に比較例1としてダイヤモンドライクカーボン膜1を積層しない例を示す。実施例1と同様に、サファイヤガラス10の表面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されており、最表層(第4層)からSiO2、Si3N4、SiO2、Si3N4の順番であり、膜厚は最表層(第4層)から100nm、90nm、20nm、40nmである時計用カバーガラスを作製した。SiO2の屈折率は1.45、Si3N4の屈折率は1.93である。このような反射防止膜をサファイヤガラスの表裏面に成膜することによって図4に示すような反射率特性を得ることができる。その後、表裏面のどちらにもダイヤモンドライクカーボン膜は積層しない。本比較例によって、サファイヤガラス10の表裏面に反射防止膜が被覆されただけの時計用カバーガラスが完成した。
【0037】
以上のようにして得られた実施例1〜4と比較例について、ダイヤモンドライクカーボン膜によって発現する効果を評価するため、粒径10μmのアルミナ粒を分散させたラッピングフィルムと反射防止膜をコートしたこれらの各実施例および比較例の時計用カバーガラスを接触荷重500gにて接触させ、カバーガラスを複数回往復運動させて、カバーガラスに傷が入り始める往復回数を評価する摺動摩耗試験をおこなった。この評価では100回以上摺動して傷が発生しなければ、その硬度、耐摩耗性は実用上充分であり、実際に携帯し、長期間使用しても傷や剥離はほとんど発生しない。その結果、表面がくもることもなく、指針や文字板が見えにくくならないことが既に本発明者において確認されている。さらにはビッカース硬度計により表面の硬度を測定した。その結果を表1に示す。また、透明性の優劣を評価するため摺動摩耗試験前の反射率特性の測定から得られた波長550nmにおける透過率も同時に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表から分かるように、実施例1〜4においては耐摩耗性を評価するための摺動摩耗試験結果では、100回以上摺動しても傷の発生は全くなく、良好な耐摩耗性が得られ、ビッカース硬度も高い値を示した。反射率特性は摺動摩耗試験後も図4に示すままであった。550nmにおける透過率は96%以上であった。特にNやF、Bを含有させたサンプルはビッカース硬度で1500以上、透過率98%以上という良好な値を示した。
【0040】
一方、比較例では摺動摩耗試験10往復で傷が入り、表面にくもりが発生した。その結果、反射率も図4に示す曲線よりも大きく変化し、反射率が5%を越える波長領域が発生し、文字板が見えにくくなる問題が生じた。ビッカース硬度計による表面硬度測定でも実施例1〜4よりも遙かに低い値を示した。
【0041】
このように本発明によって、表面の硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となった。
【0042】
実施例では時計用カバーガラスの表面の反射防止膜110の上にダイヤモンドライクカーボン膜を積層させたが、裏面の反射防止膜210の上にもダイヤモンドライクカーボン膜を積層させても差し支えない。また、実施例ではダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、Fを含有させる例を示したが、その他にもSi、Ge、P、Asから選択される元素を含有させても同様の効果が得られることが本発明者によって確認されている。この時含有させる元素は1種類だけなく、2種類以上でも良い。また、実施例では酸化物膜としてSiO2の例について示したが、他の酸化物膜であるAl2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5でも実施例と同様の効果が得られることが本発明者によって確認されている。また、実施例では片面に反射防止膜が4層積層されている例を示したが、反射防止膜の積層数、組合せは数多くあり、これに限定するものではない。また、ガラス基材も実施例ではサファイヤガラスの例を示したが、これに限定されるものではなく、ソーダガラスや青板ガラス、白板ガラスあるいはプラスチック製ガラスでも良い。
【0043】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の時計用カバーガラスではガラス基材に酸化物膜または窒化物膜を積層した反射防止膜を備えており、少なくとも表面の反射防止膜の上にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆させたことによって反射防止膜表面の硬度が上昇し、耐摩耗性が著しく上昇する。その結果、長期間携帯しても反射防止膜が表面に細かい傷が入ったり、剥離したりして、表面がくもってしまい、指針や文字板が見えにくくなってしまう問題のない反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる。また、本発明によれば反射防止機能の劣化がないために文字板の装飾性が経時変化によって損なわれることがなくなる効果もある。また、文字板に太陽電池が装着されており、カバーガラスを通過した光を受光して時計を駆動させるための起電力を発生させる時計の場合、本発明では反射防止機能が劣化することがないため太陽電池の発電効率の劣化も抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】反射防止膜を被覆した本発明の時計用カバーガラスの構造を示す断面模式図である。
【図2】反射防止膜を積層するためのスパッタリング装置の断面模式図である。
【図3】ダイヤモンドライクカーボン膜を積層するためのプラズマCVD装置の断面模式図である。
【図4】反射防止膜を被覆した本発明の時計用カバーガラスの反射率の特性を示す反射率特性スペクトル図である。
【符号の説明】
1 ダイヤモンドライクカーボン膜
10 サファイヤガラス
11、13、21,23 Si3N4膜
12、14、22、24 SiO2膜
110、210 反射防止膜
30 Siターゲット
31、41 真空チャンバー
32、42 ガス導入口
34 DC電源
40 高周波電極
45 高周波電源
46 マッチングボックス
Claims (8)
- ガラス基材に反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、少なくとも表面の前記反射防止膜上にダイヤモンドライクカーボン膜が被覆されている時計用カバーガラス。
- 前記ダイヤモンドライクカーボン膜中にB、N、F、Si、Ge、P、Asから選択される1種類以上の元素が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の時計用カバーガラス。
- 前記ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時計用カバーガラス。
- 前記反射防止膜が酸化物膜または窒化物膜を積層した構造であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の時計用カバーガラス。
- 前記酸化物膜が、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2またはTa2O5のうちのいずれかからなることを特徴とする請求項4に記載の時計用カバーガラス。
- 前記窒化物膜が、Si3N4であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の時計用カバーガラス。
- 前記ダイヤモンドライクカーボン膜がプラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法のいずれかの方法で作製されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の時計用カバーガラス。
- 前記酸化物膜または窒化物膜がスパッタリング法で作製されていることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の時計用カバーガラス。
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