JP2004092732A - 転がり軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】射出成形性、組み込み性、クリープ変形及びグリース漏れの各性能を損なうことなく、生分解性を確保するとともに、高温環境下で使用可能なシールを備えた転がり軸受を提供する。
【解決手段】本発明の転がり軸受である深溝玉軸受10のシール20は、ポリビニルアルコール(PVA)改質樹脂を含む樹脂組成物から構成されており、該樹脂組成物には、補強材としてのガラス繊維が、10質量%以上50質量%未満混入されている。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、幅方向片側又は両側の端面にシールを設けられた転がり軸受に関し、詳しくはシールの生分解性、射出成形性、組み込み性、クリープ変形特性及びグリース漏れ特性を確保するための転がり軸受の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、転がり軸受は、外部からの異物の侵入防止、潤滑用グリースの流出防止を目的として、幅方向片側又は両側の端面にシールを装着されることが多い。シールとしては、全体が金属製の金属製シールや、補強材としての金属製のリングに、軌道輪への取付嵌合部及びリップ部がゴム等で形成されてなる複合型シールが広く知られている。また、プラスチックや熱可塑性エラストマーのみからなるプラスチックシールもある。
【0003】
これらシールは、使用を終えると、単独で又は転がり軸受とともに廃棄処分されることになる。廃棄処分の具体的方法としては、埋め立て、海洋や山中への放出、焼却等が大半を占めている。
【0004】
このように廃棄されたシールは、鉄系材料の場合、自然環境に悪影響を及ぼす有害物質をほとんど出さず、やがて酸化(錆を発生)して徐々に形状が崩壊していく。しかし、ゴム又はプラスチック材料の場合、非常に安定な物質であるため、長期に渡って原形を留めたまま、ほとんど分解しない。このため、景観を汚損したり、野生生物の生活環境を害するおそれがあり、自然環境に及ぼす悪影響が懸念されている。
また、廃棄処分の方法が焼却であると、燃焼に伴う排出ガスが有害な場合もある上、ダイオキシン等の有害物質を発生する虞もある。プラスチック焼却時の高熱のため、従来型の焼却炉が損傷を受けたという報告例もある。
【0005】
金属製シールの場合には、上述した廃棄処分時の問題を回避することは可能である。しかし、金属製シールには、外周縁部に設けられた取付嵌合部と、外輪に設けられたシール嵌合溝との密着性に劣るという欠点がある。
【0006】
そこで近年、プラスチック等の廃棄に関する問題を解決するための有効な一手段として、生分解性樹脂が注目されている。
生分解性樹脂とは、環境下で微生物等によって二酸化炭素及び水等に徐々に分解される樹脂である。したがって、生分解性樹脂で構成された製品は、自然環境に放出されても、原形を留めなくなるまで分解されるので、自然環境に対して悪影響を及ぼし難い。
【0007】
従来、生分解性樹脂の主な用途としては、ゴミ袋、ボトル容器、食品用トレイ、農業用マルチフィルム等の材料が挙げられるが、最近では機械部品や構造部品用材料としての研究開発が活発になり、転がり軸受用プラスチックシールへの適用も検討されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、生分解性樹脂を転がり軸受用プラスチックシールに適用するには、未だ改良すべき多くの問題点が残されている。例えば、高温環境下での使用が大きく制限されてしまうことも、それらの問題点の一つである。
【0009】
すなわち、生分解性樹脂の多くは、融点が100〜120℃程度で、高融点のものでも160〜170℃程度である。また、例え融点が高い樹脂であっても、温度が80〜100℃程度に上昇すると、機械的強度が格段に低下してしまうことが多い。
生分解性樹脂の中には、融点が高く、耐熱性にも比較的優れる樹脂も存在するが、それ以外の性能(柔軟性、成形性、加工性、耐薬品性、耐油性等)に問題を抱えるものが多い。
【0010】
上述のように、耐熱性以外の必要性能(生分解性、成形性等)を確保しつつ、高温環境下で使用可能な生分解性樹脂製の転がり軸受用プラスチックシールを実現することは容易ではない。このため、現在、試作例やその評価結果が報告されている生分解性樹脂製の転がり軸受用プラスチックシールは、連続使用温度の上限を60〜70℃程度に制限したものがほとんどである。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、射出成形性、組み込み性、クリープ変形及びグリース漏れの各性能を損なうことなく、生分解性を確保することができるとともに、高温環境下で使用可能なシールを備えた転がり軸受を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内外輪間に配された保持器と、前記保持器によって保持された複数の転動体とを有する転がり軸受において、
幅方向片側又は両側の端面に設けられたシールが、少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物から構成されていることを特徴とする。
【0013】
前記構成の転がり軸受によれば、少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物から構成されるシールが用いられる。
ポリビニルアルコール系樹脂は、融点が200℃以上と高く、柔軟性、成形性、耐油性等を充分に兼ね備えた生分解性樹脂である。また、ポリビニルアルコール系樹脂を他の生分解性樹脂と組み合わせて使用すると、他の生分解性樹脂の耐熱性、柔軟性、成形性、耐油性等を改質、改善できる。
したがって、充分な生分解性や成形性等を備え、従来のものよりも高温環境下で使用可能なシールを備えた転がり軸受を提供することができる。
【0014】
本発明の請求項2記載の転がり軸受は、前記シールの樹脂組成物中のポリビニルアルコール改質樹脂の比率が、20質量%以上で、かつ90質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受である。
【0015】
前記構成の転がり軸受によれば、ポリビニルアルコール改質樹脂の比率の下限が20質量%以上である理由は、熱安定性、耐薬品性、柔軟性、生分解性の各性能を充分に確保するためである。
また、ポリビニルアルコール改質樹脂の比率の上限が90質量%以下である理由は、補強材の混入等により、シールとして必要な強度及び耐クリープ性を確保するためである。
【0016】
本発明の請求項3記載の転がり軸受は、前記シールの樹脂組成物中の補強材の混入率が、10質量%以上で、かつ50質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の転がり軸受である。
【0017】
前記構成の転がり軸受によれば、樹脂組成物中への補強材の混入は、主に機械的強度の向上を目的としている。補強材の混入率の下限が10質量%以上である理由は、シールとして必要な強度及び耐クリープ性を確保するためである。また、補強材の混入率の上限が50質量%未満である理由は、生分解性及び成形時の樹脂組成物の流動性を確保するためである。
更に好ましくは、補強材の混入率が、10質量%以上で、かつ40質量%以下であると、シールとしての性能、成形性、生産性、生分解性のバランスが良好である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の転がり軸受の一実施形態を図1に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態を示す深溝玉軸受の縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態の転がり軸受である深溝玉軸受10は、一対の内外輪11,12と、保持器13に保持された状態で内外輪11,12間に転動自在に組み込まれる複数の転動体14とを備えている。深溝玉軸受10の幅方向両端面には、シール20が設けられており、シール内部はグリース潤滑されている。
【0019】
シール20は、環状に形成されており、ポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物から構成されている。このシール20は、外周縁部に形成された取付嵌合部20a(図1中上端部)が外輪12の内周面に形成されたシール嵌合溝12aに嵌合されるとともに、リップ部20b(図1中下端部)が内輪11の外周面に形成されたシール溝11aに非接触状態に配置されている。このリップ部20bと内輪11のシール溝11aとの間には、僅かな隙間によってラビリンスが形成されている。
【0020】
シール20は、その弾性を利用して深溝玉軸受10に装着される。すなわち、シール20は、取付嵌合部20aを外輪12外側からシール嵌合溝12a内に、弾性変形に伴ってシール嵌合溝12aの最小径部を乗り越えるようにして嵌入される。そして、取付嵌合部20aの内側面と外輪12のシール嵌合溝12aの側面(傾斜部)との間で、弾性変形に伴う所定量の歪みを生じさせることにより、外輪12との緊密な嵌合状態を保持することができる。
【0021】
シール20の材質であるポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール及びその改質樹脂(以下、ポリビニルアルコール改質樹脂という)を総称したものである。本実施形態のシール20では、これらの樹脂は単独で使用してもよく、又は2種類以上を混合使用してもよい。
【0022】
一般的に、ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルの重合で得られたポリ酢酸ビニルを酸化する(酢酸基を水酸基に置換する)ことによって製造される。ポリビニルアルコールの熱安定性等の性質には、製造時の鹸化の度合(鹸化度)によって、若干の違いが見られる。
本発明で使用されるポリビニルアルコールは、その製造方法について特に限定はされない。また、鹸化度についても、特に限定されないが、完全鹸化物(鹸化度:98〜99 mol%)に近づくほど熱安定性、耐薬品性、耐水性に優れるため、柔軟性を低下させない範囲でより高い方が好ましい。具体的には、鹸化度90mol%以上、 特には97mol%以上であることが好ましい。
【0023】
ポリビニルアルコール改質樹脂とは、柔軟性向上等を目的として、ポリビニルアルコールの主鎖や側鎖に、任意の分子構造を有する構造体を結合したものである。構造体の結合方法は、特に限定されるものではないが、例えばポリ酢酸ビニルを重合する段階で他のモノマーを共重合させる等の方法が挙げられる。
導入される構造体の種類や量にも制約はないが、耐熱性や生分解性を著しく損ねる可能性があるものは避けるべきである。具体的には、ポリエーテル成分やポリエステル成分は、柔軟性(可塑性)の向上及び優れた生分解性の付与等の効果が認められるため特に好適である。また、異なる複数種の構造体が共存していても構わない。
【0024】
ポリビニルアルコール改質樹脂の鹸化度についても、ポリビニルアルコールの鹸化度と同様に特に限定されないが、ポリビニルアルコールの場合と同様の理由で、鹸化度の高い方が好適である。更に言えば、ポリエーテル成分やポリエステル成分を導入し、かつ完全鹸化したもの(鹸化度:98〜99mol%)は、熱安定性、 耐薬品性、柔軟性、生分解性等の各性能を充分に満たすので、非常に好適である。
【0025】
シール材料としての樹脂組成物には、ポリビニルアルコール系樹脂以外の他の生分解性樹脂をポリビニルアルコール系樹脂と組み合わせて使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂と組み合わされることにより、耐熱性、柔軟性等が不足している生分解性樹脂であっても、その改質や改善がなされる。
【0026】
使用される生分解性樹脂は、1種類でも2種類以上でも構わず、種類は特に限定されないが、耐熱性や熱安定性に優れた樹脂(高融点の樹脂や高温剛性の高い樹脂等)を選択する方が好適である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート共重合体、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリ乳酸等が好適である。特に、ポリエチレンテレフタレート共重合体及びポリブチレンテレフタレート共重合体は、耐熱性に優れるため非常に好適である。
【0027】
生分解性樹脂とは、環境下で微生物等によって二酸化炭素及び水等に徐々に分解される樹脂であり、一般的には、JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953化審法生分解性試験(MITI−法)のいずれかの試験で、生分解度が60% 以上となる樹脂である。
具体的には、澱粉系樹脂(澱粉改質品等)、セルロース化合物(酢酸セルロース等)、ポリエステル(ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ポリエチレンテレフタレート・ブチレンアジペート共重合体等)、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0028】
前記樹脂組成物には、主に機械的強度の向上を目的として、補強材が、10質量%以上で、かつ50質量%未満(好ましくは40質量%)混入される。
補強材の混入率の下限が10質量%以上であるのは、シールとして必要な強度及び耐クリープ性を確保するためである。また、補強材の混入率の上限が50質量%未満であるのは、生分解性及び成形時の樹脂組成物の流動性を確保するためである。
【0029】
補強材の種類、形状等は特に限定されないが、生分解性プラスチック研究会(BPS)の運用によるグリーンプラ識別表示制度のポジティブリスト(PL)に登録されている材料であることが、生分解性及び環境安全性の面から好ましい。特に、ガラス繊維は、補強効果が高く、上記ポジティブリスト(PL)にも登録されているので、補強材として好適である。補強材は、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0030】
上記樹脂組成物には、各種の添加剤を加えることができる。添加剤の種類としては、潤滑油、固体潤滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、熱伝導性改良剤、結晶化促進剤、増核剤、顔料、染料等が挙げられる。
添加剤は、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して使用することができ、補強材との併用が可能である。この添加剤は、生分解性プラスチック研究会(BPS)の運用によるグリーンプラ識別表示制度に則って添加されることが生分解性及び環境安全性の面から好ましい。
【0031】
次に、本実施形態の深溝玉軸受10のシール20の効果を確認するために実施した試験について説明する。
【0032】
最初に、実施例1〜11及び比較例1〜3のシールを各々製作して、これらについて各種評価試験を実施した。各シールの製作方法及び評価の概要を以下に示す。
【0033】
[シールの製作方法]
実施例1〜11及び比較例2では、ポリビニルアルコール系樹脂として、日本合成化学工業社製エコマティAX−300(ポリビニルアルコール改質樹脂:PVA改質樹脂)を使用した。
その他の生分解性樹脂として、デュポン社製Biomax WUH(ガラス繊維配合ポリエチレンテレフタレート・ブチレンアジペート共重合体:PETBA、ガラス繊維配合量:約40質量%)と、三菱ガス化学社製ビオグリーン(ポリ−3−ヒドロキシ酪酸:PHB)と、昭和高分子社製ビオノーレ♯1020(ポリブチレンサクシネート:PBS)と、島津製作所社製ラクティ9030(ポリ乳酸:PLA)を使用した。
補強材として、富士ファイバーガラス社製FESS−015−0413(ガラス繊維:GF)を使用した。
【0034】
また、比較例1では、ポリビニルアルコール系樹脂を使用せず、宇部興産社製宇部ナイロン20202U(ポリアミド66:PA66)を使用した。なお、PA66は、一般的によく使用されるエンジニアリングプラスチックであり、例えば保持器材料としても使用されている。
【0035】
上述した樹脂及び補強材を、所定の混合比率でヘンシェルミキサーを用いて混合させ、2軸押出機に投入して材料ペレットを得た。このペレットから射出成型機を用いて、呼び番号6203の転がり軸受(内径16mm、外径40mm、幅12mm)用のプラスチックシールを成形した。
なお、樹脂及び材料は、別々にペレット化して所定の混合比率で混合(ペレットブレンド)させ、その後の射出成形によりプラスチックシールを製作してもよい。
【0036】
[評価の概要]
上述のように製作されたシールについて、射出成形性評価、組み込み性評価、クリープ変形・グリース漏れ評価、及び生分解性評価の各評価を行った。評価の条件は、シールが一般的な用途に幅広く対応可能であるか否かを判断することを目的として設定した。
【0037】
[射出成形性評価]
射出成形過程における離型のし易さ、離型時の変形や割れ、成形後のソリや収縮について評価した。
【0038】
[組み込み性評価]
グリース(リチウム石けん−エステル油系の生分解可能なグリース、混和ちょう度:250)を封入したシール組み込み前の深溝玉軸受(呼び番号:6203)に、評価対象のシールをエアシリンダを使用して組み込み、組み込み前後でのシールの破損や変形について評価した。
【0039】
[クリープ変形・グリース漏れ評価]
各一定温度(80℃、100℃、120℃)に保たれた恒温槽内に設置されたガラス板上に、組み込み性評価を終了した軸受を載置し、1000時間放置後のクリープ変形(シール周り)及びグリース漏れを評価した。
プラスチックシールの取付嵌合部は、弾性変形した状態で外輪のシール嵌合溝に押し込まれているため、雰囲気温度や軸受の回転に伴う発熱により、クリープ変形を起こしてしまい、シール嵌合溝への保持力が低下することが多い。保持力低下により、シールの密封性能が低下すると共に、小さな力でシールが外輪から脱落する心配がある。
【0040】
[生分解性評価]
上述した一連の評価を終了したプラスチックシールと、成形後未使用のプラスチックシールとを、恒温恒湿槽内で温度60℃−含水率30wt%に調整した腐葉土中に埋設し、6ヶ月後の外観変化及び重量変化を評価した。
【0041】
また、評価結果は、射出成形性、組み込み性、クリープ変形、グリース漏れの各評価については、実用上問題のないレベルであれば、“○”(良好)と表現し、僅かでも問題が生じた場合には、“×”(不良)と表現した。生分解性評価については、生分解の進行が認められたものを“○”と表現し、認められなかったものを“×”と表現した。
【0042】
各シールの評価結果を、表1及び表2にまとめて示す。
【表1】
Figure 2004092732
【0043】
【表2】
Figure 2004092732
【0044】
表1を参照すると、実施例1〜4のシールは、PVA改質樹脂に補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、各実施例毎に補強材混入率が異なっている。実施例1〜4のシールは、いずれも実用上充分な射出成形性及び組み込み性を示した。
【0045】
補強材混入率が比較的低い実施例1のシールでは、実施例2〜4のシールと比較して、クリープ変形(初期と比較したときのシール固定力減少)がやや大きいが、グリース漏れは同等であり、実用上問題のないレベルであった。これらのことから、より高い耐熱性がシールに要求される場合には、補強材混入率を20質量%以上とした方が好ましいことが理解される。
また、生分解性評価では、実施例1〜4のいずれのシールも原形を留めておらず、充分に生分解が進行していた。
【0046】
実施例1〜4に対して、比較例1のシールは、PA66に補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、射出成形性、組み込み性、クリープ変形・グリース漏れに関する評価結果は良好であった。
しかし、生分解性評価では、原形を留めたままで、重量減少も確認されなかった。生分解性評価は更に継続したが、計1年経過後も変化がなく、生分解の進行は認められなかった。
また、比較例2のシールは、実施例1のシールに対して、補強材であるガラス繊維の混入率を増加させ、55質量%としたものである。この場合、補強材混入率が高過ぎることに起因して、溶融樹脂の流動性悪化を招き、全体に樹脂が回らずに所望の形状に成形できなかった。
【0047】
次に、表2を参照すると、実施例5及び6のシールは、PVA改質樹脂及びPETBAに補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、各実施例毎に樹脂の混合比率が異なっている。
実施例5及び6のシールについて、射出成形性、組み込み性、クリープ変形・グリース漏れに関する評価結果はいずれも良好であった。また、生分解性評価では、実施例5及び6のいずれのシールも原形を留めておらず、充分に生分解が進行していた。
【0048】
実施例7及び8のシールは、PVA改質樹脂及びPHBに補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、各実施例毎に樹脂の混合比率が異なっている。
実施例7及び8のシールについて、射出成形性、組み込み性、クリープ変形・グリース漏れに関する評価結果はいずれも良好であった。また、生分解性評価では、実施例7及び8のいずれのシールも原形を留めておらず、充分に生分解が進行していた。
【0049】
実施例9,10及び11のシールは、PVA改質樹脂、及びPBS(実施例9)、PBAT(実施例10)又はPLA(実施例11)に、補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、各実施例毎にPVA改質樹脂に混合する樹脂の種類が異なっている。
実施例9,10及び11のシールについて、射出成形性、組み込み性、クリープ変形・グリース漏れに関する評価結果はいずれも良好であった。また、生分解性評価では、実施例9,10及び11のいずれのシールも原形を留めておらず、充分に生分解が進行していた。
【0050】
実施例5〜11に対して、比較例3のシールは、PA66に補強材としてガラス繊維を混入してなる樹脂組成物で構成されており、射出成形性、組み込み性、クリープ変形・グリース漏れに関する評価結果は良好であった。
しかし、生分解性評価では、原形を留めたままで、重量減少も確認されず、生分解の進行は認められなかった。
【0051】
なお上記実施形態では、多くの用途で一般的に使用される深溝玉軸受を例示したが、これに限定されるものでなく、他の形式の転がり軸受に適用することができる。
また、内輪11のシール溝11a、外輪12のシール嵌合溝12a、シール20の取付嵌合部20a及びリップ部20bの形状等についても、上記構成に限定されるものでなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。例えば、図示しないが、シールのリップ部が内輪のシール溝に接触する接触型のシールとして構成してもよく、シールのリップ部形状についても、種々の形態を採ることが可能である。
【0052】
更に、上記実施形態のシール20に、生分解性を有する保持器や潤滑剤等を併用すると、より高い効果が期待できる。すなわち、保持器の材料としては、例えば生分解性樹脂及び補強材からなる樹脂組成物が挙げられる。
また、潤滑剤としては、植物油や生分解性合成エステル油が挙げられ、これらの油を各種金属石けん、ウレア化合物等の増ちょう剤によって増ちょうさせた生分解性グリースが挙げられる。
【0053】
以上のように上記実施形態によれば、深溝玉軸受10のシール20は、ポリビニルアルコール(PVA)改質樹脂を含む樹脂組成物から構成されており、該樹脂組成物には、補強材としてのガラス繊維が10質量%以上50質量%未満混入されている。
したがって、射出成形性、組み込み性、クリープ変形及びグリース漏れの各性能を損なうことなく、生分解性を確保することができるとともに、高温環境下で使用可能なシール20を備えた深溝玉軸受10を提供することができる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の転がり軸受によれば、シールは少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物から構成されるので、射出成形性、組み込み性、クリープ変形及びグリース漏れの各性能を損なうことなく、生分解性を確保することができるとともに、高温環境下で使用可能なシールを備えた転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転がり軸受の一実施形態を示す深溝玉軸受の縦断面図である。
【符号の説明】
10  深溝玉軸受
11    内輪
11a シール溝
12    外輪
12a シール嵌合溝
13    保持器
14    転動体
20  シール
20a 取付嵌合部
20b リップ部

Claims (3)

  1. 内輪と、外輪と、前記内外輪間に配された保持器と、前記保持器によって保持された複数の転動体とを有する転がり軸受において、
    幅方向片側又は両側の端面に設けられたシールが、少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物から構成されていることを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記シールの樹脂組成物中のポリビニルアルコール改質樹脂の比率が、20質量%以上で、かつ90質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
  3. 前記シールの樹脂組成物中の補強材の混入率が、10質量%以上で、かつ50質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の転がり軸受。
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