JP2004083704A - Ptfe樹脂積層板の製造方法及びptfe樹脂積層板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数枚のPTFE樹脂プリプレグを積層して加熱・加圧して得られる積層板をアニーリングした後、放射線を照射することによって、外観面で異常を発生させることなく曲げ弾性率を増大させるとともに、熱膨張率を低減させることが可能となり、これにより従来高周波機器用に用いられているPTFE樹脂積層板の問題点である加工工程中の取扱い性やドリル加工性、さらにスルーホール信頼性を改善した。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、弾性率が高く、熱膨張率の低い、高周波機器等に使用して好適なPTFE樹脂積層板を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フッ素樹脂は高分子化合物の中でも非常に特異的な性質をもった工業用高分子材料であり、様々な応用製品が市場に提供されている。
【0003】
具体的には、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐湿性、低誘電特性、絶縁性、耐摩耗性、滑性、非粘着性、撥水性、耐候性、純度などに優れており、フッ素樹脂需要の7割を占める代表的なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂は融点327℃、誘電率2.1(1MHz)など、他のエンジニアプラスチックにはない特質を備えている。
【0004】
従って、これらの特質を生かした各種PTFE樹脂製品は、多岐に及び、フィルム、シート、積層板、金属箔付き積層板、パイプ等のフッ素樹脂部品が多くの産業分野で使用されており、これに替わるような材料は他に見当たらない。
【0005】
特に、高周波機器に使用される積層板の分野においては、誘電特性の点で優れた銅張りPTFE樹脂積層板が主として用いられており、今後高度情報通信社会においてその需要は拡大するものと期待されている。
【0006】
しかしながら、フッ素樹脂は本質的に可撓性高分子鎖から成り、弾性率が低いという欠点を有している。このため、例えば薄い積層板はコシがなく、たわみ、反りが発生するなど、加工工程での取扱いを困難にしている。
【0007】
また、カシメが効かず特殊な工具・部品を使用してカシメを行う必要があるなど、製造工程が複雑になって、加工上の問題点が多い。
【0008】
他方、熱可塑性であるためにフッ素樹脂自身の熱膨張率が大きいという問題もあり、スルーホール信頼性が低く、熱履歴がかかる用途には使用できない。
【0009】
これらの問題に対してはいくつかの対策が公開されており、例えば無機フィラーなどの充填材の添加によってコンパウンド化し、補強する手法もとられているが、ドリル加工性や誘電特性の低下、不純物増加等の影響のほか、コストも上昇して十分な実用性能が得られない。
【0010】
また、フッ素樹脂そのものの弾性率を向上させるために、PTFE樹脂を無酸素下327℃直上の高温で電子線を照射することによりPTFE分子間を共有結合で架橋し、強度や弾性率を高める方法も報告されているが、無酸素高温条件は通常の積層板製造工程においては不利になる。
【0011】
従って、高周波機器等に使用されるPTFE樹脂積層板は、一般に弾性率が低く、熱膨張率が高いという欠点を有している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、低誘電率、低誘電正接等の優れた電気特性を維持しつつ、加工性やスルーホール信頼性を向上させた、弾性率が高く、熱膨張率の低い、高周波機器等の用途に好適に使用することができるPTFE樹脂積層板を製造する方法を提供しようとするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために様々な検討を行った結果、この発明は、複数枚のPTFE樹脂プリプレグを積層して加熱・加圧して得られる積層板をアニーリング処理した後、空気中・常温・常圧下で放射線を照射することによって、PTFE樹脂積層板の弾性率を増大させるとともに熱膨張率を低減させ、加工工程での取扱い性やドリル加工性及びスルーホール信頼性を改善することができることを見出したのである。
【0014】
即ち、非晶領域のPTFE分子鎖は、アニーリングによって熱運動が活発化し、近傍に結晶化領域があると一部は二次結晶化する。また、適量の電子線または、γ線等の照射により一部切断された非晶領域のPTFE分子鎖は運動しやすくなるため、近傍に結晶化領域があれば室温でも二次結晶化することができる。
【0015】
このように、アニーリングと放射線照射の併用により結晶と非晶の界面領域におけるPTFE分子の熱再結晶化を促進することができる。
【0016】
二次結晶化が進行することによりPTFE樹脂の結晶化度が高まり、全体として分子間力は増大する。その結果、外部応力や熱に対する分子運動が抑制され、弾性率の増大と熱膨張率の低減につながるものと考えられる。
【0017】
この場合、放射線を照射した後、アニーリングするという処理方法を採用した場合、先に放射線による分子切断が生じ、次のアニーリングにより、切断された非晶化領域の結晶化が分子長が短くなった分だけ、より促進される。しかしながら、結晶と結晶とを結ぶタイ分子鎖の放射線による切断も起こるために、高いアニーリング温度に耐えられない場合がある。また、放射線照射後にアニーリングすると、残留した長寿命ラジカルによる後照射効果としての熱酸化劣化を促進するために、もろい構造となりやすい。これに対し、アニーリングを先に行うと、結晶と結晶とを結ぶ非晶領域の結合分子の長さを均一化することができ、結晶化が促進される。また、後照射効果はないため熱酸化劣化を生じず、もろさが改善される。放射線による分子切断の前に高温によるアニーリングを行うため、外観面にも異常をきたすことがない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を説明する。
この発明で使用するPTFE樹脂プリプレグには、通常の方法で製造されたガラス繊維からなるガラス基材が用いられている。ガラス繊維としては、限定するものではないが、電気特性、加工性、コストを考慮すればEガラスの使用が好ましい。価格の点は別にして、その他にも絶縁用途で使用されるものとしてはQ、D、T、NEなどのガラス繊維を用いれば、より一層の誘電特性の向上が可能である。
【0019】
このようなガラス繊維を織布、または不織布の形態として用いる。織布には平織り、綾織、繻子織り、などがある。
【0020】
PTFE樹脂は、通常ディスパージョンと呼ばれる分散液として供給され、これにロール状に巻かれた前記ガラス布基材を連続的に繰り出して含浸させ、続く乾燥、焼成工程でガラス布基材にPTFE樹脂が固定される。この含浸工程は必要に応じて複数回繰り返すことにより均一でムラのないPTFE樹脂プリプレグを得ることができる。
【0021】
次に得られたPTFE樹脂プリプレグを所定のサイズにカットし必要に応じて1枚もしくは複数枚重ねあわせた後、これらの積層体を一般的には真空で300℃程度の温度で所定圧力下に、所定時間プレスしPTFE樹脂積層板を得る。プリント配線板用の場合は銅箔をPTFE樹脂プリプレグの外層に重ね合わせた後、同様に加熱加圧して銅張り積層板を得る。
【0022】
これらの工程において積層板の厚さは特に限定されるものではなく、また銅箔は片面のみ使用しても、あるいは使用しなくてもよい。
【0023】
また、プレスは前述のバッチ方式が一般的であるが、連続的にロールを用いた銅箔をラミネートする方法であったとしても何ら支障はない。
【0024】
さらに得られた銅張積層板の表面を所定の回路パターンにエッチングし、穴開け加工等を施した後、再びPTFE樹脂プリプレグと共に所定回数プレスして得られる多層板であっても一向に問題はない。
【0025】
この発明では、以上の方法で製造されたPTFE樹脂積層板を空気中・常温・常圧の条件下で一般に使用される加熱炉に入れてアニーリングする。温度及び時間の組合せは特に限定されるものではないが、効率を考慮すれば250〜320℃で1〜5時間が好ましい。
【0026】
次に、常温・常圧・空気中での所定線量の放射線を照射する。放射線はα線、β線、γ線、電子線、X線などを用いることができるが、α線、β線は透視力が弱く効率が劣るため、望ましくはγ線、電子線を用いる。この発明ではγ線を用いたが、放射線源を必要とせず線量のコントロールが比較的容易な電子線を使用する方が商業的にさらに好ましい。
【0027】
γ線照射量として吸収線量1〜500kGyの範囲を利用できるが、効率の点では10kGy以上が適当であり、また100kGyを越えるとPTFE樹脂の物性が低下することから10〜100kGyが好ましい。
【0028】
積層板単独でも複数枚を重ねあわせても照射可能であり、適宜最適条件を選択することができる。
【0029】
以上のように、PTFE樹脂積層板の製造に通常用いられる装置に、この発明の目的である弾性率増加及び熱膨張率低減の改質工程を併用することによって、改質PTFE樹脂積層板を容易に製造することができる。
【0030】
【実施例】
以下にこの発明の実施例を具体的に説明するが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
PTFE樹脂ディスパージョン(ポリフロン:ダイキン製)を0.05mm厚さの平織りガラス布(WE−05:日東紡製)に含浸、乾燥、焼成することを数回繰り返して、プリプレグを作成した。このプリプレグシートを所定寸法にカットしたものを19枚重ね、その両面に18μmの銅箔を置いた積層体を真空下で300℃程度の温度で加熱・加圧して1.6mm厚のPTFE樹脂銅貼り積層板を得た。この積層板に300℃×2時間のアニーリング処理を行った後、空気中・常温・常圧下で20kGyに相当するγ線量を照射した。
【0032】
比較例1
PTFE樹脂ディスパージョン(ポリフロン:ダイキン製)を0.05mm厚さの平織りガラス布(WE−05:日東紡製)に含浸、乾燥、焼成することを数回繰り返して、プリプレグを作成した。このプリプレグシートを所定寸法にカットしたものを19枚重ね、その両面に18μmの銅箔を置いた積層体を真空下で300℃程度の温度で加熱・加圧して1.6mm厚のPTFE樹脂銅貼り積層板を得た。
【0033】
比較例2
20kGyに相当するγ線量を照射した以外は比較例1と同様に行った。
【0034】
比較例3
300℃×2時間のアニーリング処理を行うこと以外は比較例1と同様に行った。
【0035】
比較例4
PTFE樹脂ディスパージョン(ポリフロン:ダイキン製)を0.05mm厚さの平織りガラス布(WE−05:日東紡製)に含浸、乾燥、焼成することを数回繰り返して、プリプレグを作成した。このプリプレグシートを所定寸法にカットしたものを19枚重ね、その両面に18μmの銅箔を置いた積層体を真空下で300℃程度の温度で加熱・加圧して1.6mm厚のPTFE樹脂銅貼り積層板を得た。この積層板に室温・常温・常圧下で20kGyに相当するγ線量を照射した後、300℃×2時間のアニーリング処理を行った。
【0036】
実施例と比較例で得た試料について、曲げ弾性率及び熱膨張率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0037】
試験方法
曲げ弾性率:JIS規格K69115.17(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して測定した(板の横方向の結果を示した)。
熱膨張率:リガク製TMA試験記を用いて、30℃〜260℃間厚さ方向の膨張を測定し、原厚に対する変化率で示した。
外観:処理後の外観を肉眼で観察した。
曲げ強さ:JIS規格K69115.17(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った(板の横方向の結果を示した)。
【0038】
【発明の効果】
以上のように、この発明によると、PTFE樹脂積層板をアニーリングした後、放射線を照射することによって、外観面で異常を発生させることなく曲げ弾性率を増大させるとともに、熱膨張率を低減させることが可能となり、これにより従来高周波機器用に用いられているPTFE樹脂積層板の問題点である加工工程中の取扱い性やドリル加工性、さらにスルーホール信頼性を改善することが可能となる。
Claims (4)
- 複数枚のPTFE樹脂プリプレグを積層して加熱・加圧して得られる積層板にアニーリング処理を行った後、空気中・常温・常圧下で放射線を照射することを特徴とするPTFE樹脂積層板の製造方法。
- 複数枚のPTFE樹脂プリプレグの外層に銅箔を積層する請求項1記載のPTFE樹脂積層板の製造方法。
- 前記放射線として、γ線を使用する請求項1又は2に記載のPTFE樹脂積層板の製造方法。
- 請求項1〜3の製造方法によって得られるPTFE樹脂積層板。
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