JP2004081214A - 核酸若しくは遺伝子の新規取得方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】自然界の一系内に存在する全核酸の中から複数の同一機能を有する有用核酸群を同時に、迅速且つ簡便に、且つ高感度で検出・測定し、次いでそれらから新規な有用核酸のみを選択的に迅速且つ容易に取得できる方法の提供。
【解決手段】既知の同一機能を有する核酸種にコンサンセス(consensus)な塩基配列を用いて、系内の核酸を増幅し、増幅された核酸の中から新規又は同一機能核酸種を検索し、又はそれらの中から新規有用核酸(遺伝子を含む。)を取得する方法。
【選択図】図1
【解決手段】既知の同一機能を有する核酸種にコンサンセス(consensus)な塩基配列を用いて、系内の核酸を増幅し、増幅された核酸の中から新規又は同一機能核酸種を検索し、又はそれらの中から新規有用核酸(遺伝子を含む。)を取得する方法。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自然界の一系内に存在する新規有用核酸若しくは遺伝子の検索方法及び取得方法に関する。詳しくは、既知の同一機能を有する核酸種にコンサンセス(consensus)な塩基配列を用いて、系内の核酸を増幅し、増幅された核酸の中から新規又は同一機能核酸種を検索し、又はそれらの中から新規有用核酸(遺伝子を含む。)を取得する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然界の一系内に存在する全核酸の中から複数の有用核酸を検出・測定し、複数の有用な核酸を取得するシステマチックな方法としては、現在、ダイバーサ社が使用している技術があるが(特許文献1〜7参照)、有用遺伝子を優先種として含む試料を特定できないので、有用遺伝子を検出し分離する技術には課題が多い。
【0003】
【特許文献1】
米国特許第6,054,267号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,763,239号明細書
【特許文献3】
米国特許第6,001,574号明細書
【特許文献4】
米国特許第6,171,820号明細書
【特許文献5】
米国特許第5,965,408号明細書
【特許文献6】
米国特許第6,168,919号明細書
【特許文献7】
米国特許第6,174,673号明細書
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記の状況に鑑み、自然界の一系内に存在する全核酸の中から複数の同一機能を有する有用核酸群を同時に、迅速且つ簡便に、且つ高感度で検出・測定し、次いでそれらから新規な有用核酸のみを選択的に迅速且つ容易に取得できる方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、蛍光物質、クエンチャー物質等の物質で標識され、且つ既知核酸にコンセンサスな塩基配列を有する核酸プローブを用いて、核酸増幅を行い、増幅前の核酸濃度又はコピー数の測定、増幅産物の温度解離曲線の解析、多型分析、塩基配列解析、アンカーPCR方法等を組合せることにより上記課題が解決できることを知見した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
即ち、本発明は、
1.少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、核酸増幅方法により少なくとも1種の核酸について核酸増幅反応を行い、核酸増幅を確認する。
2)少なくとも次の(1)〜(3)の何れか1項の手順の操作を行い、増幅核酸中の濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
(1)増幅核酸について、電気泳動、HPLC、及び/又はシークエンサー分析を行う。
(2)増幅核酸について温度解離曲線(Tm値)を測定する。
(3)増幅核酸について多型解析を行う。
【0007】
3)前記2)で、濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種について、塩基配列を解読・決定し、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
4)前記3)から得られる塩基配列情報に基づいて、増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を確認する。
5)前記4)から得られる塩基配列情報に基づいて、新規若しくは同一機能核酸種に特異的なプライマープローブを設計する。
6)前記5)で設計されたプライマープローブを用いる核酸増幅方法により、前記1)に記載の核酸を含む試料について、新規若しくは同一機能核酸種の増幅を行う。
7)前記6)の増幅核酸について、新規若しくは同一機能核酸種の一部の塩基配列又は全長の塩基配列を少なくとも含む核酸種を取得する。又、
【0008】
2.少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、制限酵素処理を行う。
2)少なくとも1種のリンカー対(以下、リンカー1、リンカー2という。)を前記1)の制限酵素処理物に添加し、ライゲーション(ligation)反応を行う。3)前記2)に記載の反応物を二つに分け(一方をAとし、他方をBとする。)、次の反応を行う。
(1)Aについて、次の(a)及び(b)の反応を同時又は逐次的に行う:
(a)少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブを、Aに添加し、核酸伸長反応を行う。
(b)少なくとも1種のアンチセンスアダプタープライマープローブを、A又は前記(a)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
【0009】
(2)Bについて、次の(c)及び(d)の反応を同時又は逐次的に行う:
(c)少なくとも1種のセンスプライマープローブを、Bに添加し、核酸伸長反応を行う。
(d)少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブを、B又は前記(c)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
4)A及びBの最終反応物を混合して、新たなプライマープローブを添加せずにPCR反応を行う。又、
【0010】
3.少なくとも1種の核酸を含む試料が、前記1のものと同じである前記2に記載の核酸の取得方法、又、
4.制限酵素で処理された核酸が、前記1に記載の多型解析のために制限酵素で処理された核酸である前記2に記載の核酸の取得方法、又、
5.少なくとも1種の核酸を含む試料が、前記1記載の最終物即ち最終反応液(物)、又はその分離・精製物である ものである前記2に記載の核酸の取得方法、又、
6.前記1又は2に記載の核酸の取得方法で取得された核酸種について遺伝子発現の検定を行い、当該核酸種の中から新規有用核酸を取得することを特徴とする核酸の取得方法、を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明を更に詳細に説明する前に本発明で使用する用語を説明又は定義する。
本発明において用いる用語は、特別な定義がない場合は、現在、分子生物学、遺伝学若しくは遺伝子工学、微生物学若しくは微生物工学等で一般的に使用されている用語と同じ意味である。
【0012】
「少なくとも1種」とは、1種若しくは複数種の意味である。
「核酸若しくは遺伝子」のことを単に「核酸」と総称する。
「同一機能核酸種」とは、同一機能を有する核酸及び/又は遺伝子のグループのことを意味する。本発明において、当該「機能」とは、生物学的に意味のあることをいう。そして核酸(DNA、RNA)自体の機能とその発現物(mRNA、蛋白質)の機能がある。核酸自体の機能としては、例えば、DNAの場合、プロモター(promoter)、レギュレター(regulator)、タミネター(terminator)等の構造遺伝子以外の塩基配列を挙げることができる。RNAの場合、リボザイム等の酵素活性部位の塩基配列を挙げることができる。発現物の場合は、例えば、蛋白質の構造を支配する塩基配列、又、酵素活性等を支配する塩基配列を挙げることができる。これらは「機能」を説明するために、その一部を例示したに過ぎない。それで、これらの例示を以て本発明は限定されない。
【0013】
「濃度的優先核酸種」とは、複数の核酸種が存在した場合、電気泳動の泳動パターンから、又、定量した結果とし濃度的に最も多い(高い)か、又は比較的に多い(順位からして、約1位乃至5位くらい)核酸種のことである。それは、核酸増幅前又は増幅後を区別しないものとする。
本発明においては、「試料中に含まれる核酸」のことを単に標的核酸又は目的核酸という場合がある。
【0014】
本発明において「核酸を測定する」、或いは「核酸濃度を測定する」なる用語は、標的核酸の濃度を定量することは勿論のこと、定量的検出をすること、定性的検出をすること、核酸増幅系の蛍光強度を単に測定するか若しくは単にモニタリングすること等を意味するものとする。又、このようにして得られたデーターを公知の蔵田らの方法(EP特許公開公報、EP1 046 717 A9号)で解析して、1つの系内に存在している濃度(コピー数等)を求める操作等も含めるものとする。
【0015】
上記の理由で、本発明の「試料に含まれる核酸」とは、検出・測定を目的とした特定の核酸とは限らず、意図せずとも本発明の方法により検出され得る不特定の核酸をも含むものとする。勿論遺伝子等を含む。それらの核酸が混在していてもよい。濃度の大小も問わない。即ち、一つの系内に存在する現在及び未来において有用と考えられる特定及び不特定の検出され得る核酸である。核酸はDNA、RNA及びそれらの修飾物を含むものである。本発明においては、これらの核酸を標的核酸という場合がある。
【0016】
本発明において、コンセンサスプライマープローブとは、相補的塩基配列にハイブリダイズする当該プライマープローブの塩基配列が、既知の同一機能を有する核酸種群から認識されるコンセンサスな塩基配列部位の一部又は全部にハイブリダイズするプライマープローブのことをいう。「コンセンサスな配列」とは、分子生物学で定義されている既知核酸とのコンセンサス配列の他に、既知核酸との共通配列をも含むものとする。
Qプローブ及びサンライズプローブについては後記した。又、リンカー対(リンカー1、リンカー2)、アンチセンスプライマープローブ、センスプライマープローブ及びセンス若しくはアンチセンスアダプタープライマープローブについても、具体的に後記した。
【0017】
「光学的キャラクター」なる用語は、プライマープローブを標識する蛍光物質、クエンチャー物質等の各種の吸収スペクトル、若しくは蛍光発光スペクトル、及びそれらの吸収強度、偏光、蛍光発光、蛍光強度、蛍光寿命、蛍光偏光、蛍光異方性等の光学的特性等のこという(「蛍光強度」で総称する場合がある。)。又、プライマープローブ等に標識されている少なくとも1つの蛍光物質等について少なくとも1種以上の測定波長で測定された測定値を総合的に評価して得た性質のこともいう。例えば、核酸の変性反応の蛍光強度曲線等もその1つである。
【0018】
本発明において、「蛍光強度の変化若しくは変化量から」なる用語は、本発明の増幅核酸に基づく蛍光強度の変化だけでなく、当該増幅核酸に、蛍光物質及び/又はクエンチャーで標識された均一溶液系核酸プローブをハイブリダイズさせたときの、そのハイブリダイゼーション前後の蛍光強度の変化若しくは変化量をも含めるものとする。
【0019】
本発明においては、プライマープローブと対応核酸とのハイブリダイゼーションによるプライマープローブと核酸の複合体のことをハイブリッド、又はハイブリッド複合体、又は単に、核酸・プライマー複合体又はプライマー・核酸複合体という。
【0020】
核酸ポリメラーゼとは、核酸を合成する能力を有するものである。代表的な例として、DNAポリメラーゼ類、RNAポリメラーゼ類、逆転写酵素類(reverse transcriptase)、リガーゼ類を挙げることができる。
【0021】
DNAポリメラーゼの場合は、エキソヌクレアーゼ活性を有していても、有さなくてもよい。精製されたもの若しくはされない粗酵素の状態のどちらでもよい。又、酵素の起源(微生物、動物、植物)については特に限定されない。好適には耐熱性を有するものがよい。本発明においてはこれら以外にも、遺伝子工学的に前記酵素のアミノ酸配列が改変されたものも含めるものとする。
【0022】
好適な具体例として、Vent(exo−)DNA Polymerase(サーモコッカス・リトラリス由来、Tgo(exo−)DNA Polymerase、ThermoSequenase DNA Polymerase(Armersham社製、AmpliTagGold polymerase、T7 Sequenase DNA Polymerase、Taq、LaTaq(TAKARA BIO INC.)、Pfu(STRATAGENE社)、KOD(TOYOBO社)等を挙げることができる。
【0023】
本発明でいう蛍光物質(蛍光色素という場合もある。)とは、一般に核酸プローブに標識して、核酸の測定・検出に用いられている蛍光物質の類である。例えば、フルオレセイン(fluorescein)又はその誘導体類(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)(FITC)若しくはその誘導体等)、Alexa 488、Alexa 532、Cy3、Cy5、6−joe、EDANS、ローダミン(rhodamine)6G(R6G)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine)(TMR)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetramethylrhodamine isothiocyanate)(TMRITC)、x−ローダミン(x−rhodamine)、テキサスレッド(Texas red)、ボデピー(BODIPY)(商標名)FL(商品名;モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社製、米国;BODIPYについては以下同様である。)、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)5−FAM、ボデピー(BODIPY)TMR又はその誘導体(例えば、ボデピー(BODIPY)TR、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、、ボデピー(BODIPY)493/503、タムラー(TAMRA)等を挙げることができる。
【0024】
上記の中でも、TAMRA、FITC、EDANS、テキサスレッド、6−joe、TMR、Alexa 488、Alexa 532、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)FL、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)TMR、ボデピー(BODIPY)5−FAM、ボデピー(BODIPY)493/503、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、Cy3、Cy5、x−Rhodamine等を好適なものとして挙げることができる。
クエンチャー物質とは、前記蛍光物質に作用して、その発光を抑制若しくは消光する物質である。例えば、Dabcyl、NFQ、QSY7(モルキュラー・プローブ)、QSY33(モルキュラー・プローブ)、Ferrocene又はその誘導体、methyl viologen、N,N’−dimethyl−2,9−diazopyrenium等、好適にはDabcyl、NFQ等を挙げることができる。
前記のような、蛍光物質及びクエンチャー物質を、オリゴヌクレオチドの特定の位置に標識することにより、蛍光物質の発光は、クエンチャー物質によりクエンチング効果を受ける。
【0025】
以下、本発明の特徴を説明する。
本発明の目的を達成するため、1つの試料中に多く含まれる核酸又は1つの試料中で本発明の核酸増幅方法により多く増幅される核酸を検索することと同時に、自然界より得られる多くの試料の中から、同一機能を有する核酸を多く含む試料を選択(スクリーニング)するのが更なる本発明の目的である。それで、当該目的に適うように手順が構成されている。
【0026】
本発明は4つの発明からなっているが、核酸増幅方法、Tm値解析方法、多型解析方法、アンカーPCR方法の組合せに特徴を有するものである。
A.第1発明:
次の手順からなっている。
1.少なくとも1種の核酸を含む試料を少なくとも1種を用意する。
本発明でいう少なくとも1種の核酸を含む試料とは、自然界の任意の場所、例えば、汚水、水田地、畑地、山地、沼地、動物体内、動物の各種臓器内等の生物が生存できる箇所又はかって生存したところで採取されるものであり、特別に限定できるものではない。又、各種生物の各種細胞をも含めるものとする。系内の全核酸を含むものでも、一部を含むものでもよい。又、核酸抽出を施されたものでも、されないものでもよい。核酸とは前記の定義のとおりである。
【0027】
2.この試料の各々について、少なくとも1種の核酸について核酸増幅反応を行い、核酸増幅を確認する。この場合、増幅反応と同時に増幅核酸の増幅前及び/又は増幅後の濃度若しくはコピー数を測定しておくのが好適である。
本発明でいう核酸増幅方法とは、インビトロ(in vitro)で核酸を増幅する方法のことをいう。公知、未公知を問わない。例えば、PCR方法、LCR方法(ligase chain reaction)、TAS方法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)方法、LAMP方法、NASRA方法、RCA方法、TAMA方法、UCAN方法等を全て含めるものとする。好適には少なくとも1種のフォワード(forward)型及びリバース(reverse)型からなるプライマープローブを用いる、少なくとも1種のPCR方法である。
【0028】
前記PCR方法はどのような形式のものでも採用できる。例えば、定量的PCR方法、リアルタイム定量的PCR方法、RT−PCR、RNA−primed PCR、Stretch PCR、逆PCR、Alu配列を利用したPCR、多重PCR、混合プライマープローブPCR、PNAを用いたPCRを挙げることができる。そして、当該PCR方法は、PCRにより増幅した核酸について、融解曲線の解析若しくは分析の方法等をも含むものとする。好適には定量的PCR方法若しくはリアルタイム定量的PCR方法を採用する。
【0029】
PCR方法に用いる少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるプライマープローブとしては、本発明を達成できるものであれば、どのようなものでもよいが、少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるコンセンサスプライマープローブを用いるのが好適である。本発明においては、試料中にコンセンサス塩基配列を有する核酸(同一機能を有する核酸)が存在すると仮想して核酸増幅反応を行う。更に、当該コンセンサスプライマープローブが、フォワード型及び/又はリバース型において、少なくとも1種の蛍光物質で標識された蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブであるものが好適である。少なくとも1種の蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブとしては、少なくとも1種のQプローブ若しくはサンライズプローブを用いるのが好ましい。当該プライマープローブの具体的には後記した。
【0030】
核酸増幅反応において、核酸増幅反応が起こったことを確認する。これは、蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブ、特に、Qプローブ若しくはサンライズプローブを用いることにより容易にできる。即ち、核酸増幅反応系の蛍光キャラクターの変化量をリアルタイムで測定し、その測定値から確認できる。又、場合によっては、同時にこの蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いるPCR方法では、増幅核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を測定できる。これらの具体的方法については後記した。
【0031】
本発明は、又、少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなる蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブが、複数のものであり、各々、異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを使用する核酸の取得方法でもある。
即ち、本発明においては、1つの核酸増幅反応系において、増幅対象の核酸は、複数種の同一機能核酸種であってもよい。例えば、当該反応系において、A機能を有する核酸種、B機能を有する核酸種を同時に増幅してよい(但し、AとBは等しくない。)。各々異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された、複数の蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いて、複数種の同一機能核酸種を一つの反応系で増幅してもよい。そして核酸増幅反応系の蛍光強度の測定に際しては、複数種の測定波長で測定するのが好適である。それで、測定装置は複数の測定波長で同時に測定できるものを使用するのがよい。例えば、スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)等を挙げることができる。その他の具体例は後記のPCR方法の箇所に記載した。この核酸増幅方法においては、試料中の核酸種の多少にとらわれずに増幅核酸の増幅前及び/又は増幅後の濃度若しくはコピーを測定しておくことができ、又、好適である。
【0032】
3.少なくとも次の1)〜3)の何れか1項の手順を行い、濃度的優先核酸種又は新規核酸種若しくは同一機能核酸種(以下、新規若しくは同一機能核酸種という。)を特定する。
1)増幅核酸種の中で、増幅前若しくは増幅後の濃度的優先核酸種を特定する。
即ち、1種のコンセンサスプライマープローブを用いて増幅された増幅核酸種は必ずしも1種ではない。それで、濃度の高い核酸種を特定するのが好適である。この場合、増幅産物を公知の0.5%(w/v)〜1.5%(w/v)のアガロースゲル又は6〜8%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いる電気泳動方法(生物工学実験書、97〜163ページ、1993年、日本生物工学会編、培風館出版)、若しくは一般的(各種充填剤をもつ)HPLC方法、、シークエンサー方法で分析又は解析することにより容易に特定できる。尚、電気泳動方法、HPLC方法、シークエンサー方法は従来公知の条件で行うことが好ましい。シークエンサーとしては、例えば、ABI 373A(ABI社のシークエンサー)、ABI377(ABI社のシークエンサー)、Biofocus 3000(バイオラット社)等を挙げることができる。
【0033】
2)(a)増幅核酸について温度解離曲線(Tm値)を測定する。
この手順は増幅核酸について、低い温度から核酸が完全に変性するまで、温度を徐々に上げる過程(例えば、50℃から95℃まで)、この過程において、短い時間間隔(例えば、0.2℃〜0.5℃の温度上昇に相当する間隔)で蛍光強度を測定する過程からなっている。この場合も蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いると、好適なデータが得られる。具体的には後記及び実施例で示した。
(b)温度解離曲線の中に、特異的な温度解離曲線(Tm値)が検出された場合は、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す核酸種を特定する。特定する方法は前記同様に増幅産物を公知の電気泳動方法若しくはHPLC方法、シークエンサー方法等で分析又は解析することにより容易にできる。
【0034】
3)増幅核酸について多型解析を実施し、新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
多型解析方法は、本発明の目的を達成できる方法であれば、如何なる方法でもよいが、公知の方法で行うのが好適である。例えば、T−RFLP方法、SSCP方法、CFLP方法、ARMS方法、direct−sequence方法、MPH方法のいずれを使用しても本発明の目的が達成できる。
【0035】
前記の各種方法の中でもT−RFLP方法が本発明において好適に利用できる。そこで、本発明の一つの例として、以下に当該方法を説明する。
Qプローブをプライマープローブとして用いる定量的PCR方法、特にリアルタイム定量的PCR方法で、遺伝子を増幅し、且つ増幅前の初期遺伝子量を測定する。そして、その増幅核酸について、T−RFLP方法で多型を解析する。尚、Qプローブをプライマープローブとして用いて増幅された核酸は5’末端が本発明の蛍光物質で標識されている。
【0036】
即ち、次の(a)〜(c)の手順からなる。
(a)先ず、増幅核酸を制限酵素で処理(消化)する。
制限酵素の種類は特に限定されない。好適には、例えば、BbvCI、PflFI、RsrII、Sap、SexAI、AscI、FseI、NotI、PacI、Pme、SbfI、SfiI、SgrAI、SwaI、HhaI、AluI、MspI等を挙げることができる。
使用濃度も目的・制限酵素の種類により種々変化するので特に限定されない。一例として、0.01〜10units/μl、好適には0.1〜1.0units/μlである。
反応条件は、制限酵素の種類により異なるため、一概にはいえないが、公知のものでよい。制限酵素の試薬キットに添付されているプロトコールに準じればよい。一例の制限酵素について実施例に示した。
【0037】
(b)前記のようにして消化された遺伝子断片について、加熱変性して、一本鎖化することが好適である。この変性処理も公知の通常の条件で行うことができる。例えば、97℃、5分処理後、氷中にて冷却する。
(c)遺伝子断片の分析・解析
前記の処理物について、遺伝子断片の分析・解析をする。本発明の多型解析方法では、蛍光物質で標識された遺伝子断片だけを、電気泳動方法、HPLC方法、シークエンサー方法等で分析し、解析することになる。即ち、蛍光強度値で各バンド、各ピークを検出する。検出は現在市販されている通常の分析機器を使って行うことができる。例えば、ABI 373A(ABI社のシークエンサー)、ABI377(ABI社のシークエンサー)、Biofocus 3000(バイオラット社)等を挙げることができる。
【0038】
本発明において、前記分析で、複数のバンド、又は複数のピークが出現することは多型が存在することになる。シングルバンド又はシングルピークの場合は多型が存在しないことになる。各バンド又は各ピークの蛍光強度値の比は、とりもなおさず多型の存在比になる。前記の本発明の定量的PCR方法ではPCRを行う前の標的遺伝子の量が測定され得る場合があるので、この測定値に前記の多型の比を乗ずれば、多型の初期存在量が求められることになる。この多型分析・解析により、電気泳動方法を使用せずとも増幅核酸中の新規若しくは同一機能核酸種の濃度的優先核酸種を特定できる場合がある。
【0039】
多型に関して、このようにしてデータを出す方法は、本発明のQプローブを用いる定量的PCR方法を使用することにより初めて可能になるものである。
上記の一連の手順操作で、検出された核酸がどのような多型のものか判明する。又、その濃度も計算できるようになる。
本発明において、この方法だけで、新規若しくは同一機能核酸種を特定することができる場合が出てくる。例えば、試料中に存在する新規若しくは同一機能核酸が1種若しくは2種の場合である。
【0040】
上記の手順、即ち、1)〜3)のいずれか1項だけで次の手順へ進んでもよいが、好ましくは複数項にまたがった方がよい。例えば、1)→2)→3)、2)→1)→3)、3)→2)→1)、1)→2)、1)→3)、2)→3)、2)→1)、3)→1)、3)→2)の如くである。好適には1)→2)→3)、2)→1)→3)である。これは、単に例示であって、この例示により本発明は限定されるものではない。
本発明において、これらの手順で、増幅核酸の中に新規若しくは同一機能核酸種を特定することが可能となる。
【0041】
4.前記3)の情報に基づいて、増幅核酸種について塩基配列を解読・決定する。
好適には前記多型解析で得られる核酸断片について部分的塩基配列の解読・決定する。この場合、サイクルシークエンス反応試薬キット(thermoSequenase(Amersham)、AmpliTaqKS(Perkin Elmer))を用いて、サイクルシークエンス方法(蛍光物質標識プライマープローブ方法、蛍光物質標識ターミネーター方法)によりシークエンス決定反応を行うのが好適である。当該反応は市販されている自動蛍光シークエンサー(例えば、ABI3739/377(PerkinElmer))を用いて行うのが便利である。そして、シークエンサー等(例えば、PJ9600、Vistra(Amersham)、CATALYST(PerkinElmer))を利用して塩基配列を解析し、塩基配列を決定する(実験医学(Experimental Medicine),p.29〜35,Vol.15,No.7,1997年,羊土社)。具体的手順は市販のシークエンサー又は試薬キットに添付されている手順書に従うのがよい。
【0042】
5.前記4の塩基配列の解読・決定から得られる塩基配列情報に基づいて、増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
得られた塩基配列情報を既知のものと比較検討することにより、容易にできる。例えば、EntrezのNucleotides database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide)、EBI/EMBL(http://www.ebi.ac.uk/embl)、NCBI/GenBank(http://www.ncbi.)lm.nih.gov/Genbank/index.html)、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)にアクセスし、既知の塩基配列とコンピュータで比較検討すればよい。
尚、本手順の決定された同一機能核酸種の塩基配列の情報だけで、同一機能核酸種は既知のものと同じものであると決めることはできない。増幅核酸は同一機能核酸種の全塩基配列を増幅しているとは限らないからである。
【0043】
6.前記5から得られる塩基配列情報に基づいて、新規若しくは同一機能核酸種に特異的なプライマープローブを設計する。
プライマープローブは前記1と同様の形態・形式でよい。具体的には後記に示した。
7.前記6で設計されたプライマープローブを用いる核酸増幅方法により、前記1に記載の核酸を含む試料について、新規若しくは同一機能核酸種の増幅を行う。
増幅方法は、前記1と同様に行うことができる。
【0044】
8.前記2の増幅核酸の中から新規若しくは同一機能核酸種の全長を取得する。
公知の一般的方法で取得できる。例えば、0.5〜1.5%(w/v)アガロースを用いる電気泳動方法で分離してもよく、又、新規若しくは同一機能核酸種の全長をプラスミドに組み込むクローニング方法を採用してもよい(実験医学、15巻、12〜19ページ、1997年、羊土社)。このようにして、上記の一連の手順操作で、新規若しくは同一機能核酸種の全長の塩基配列のサイズが判明し、且つ取得されることになる。
【0045】
このようにして取得された新規若しくは同一機能核酸種は、ベクターに連結され、新規若しくは同一機能核酸のクローンライブラリー作成ができる。尚、クローニング及びシークエンスを念頭に置いたPCRを行う場合は、蛍光物質で標識されていないプライマープローブを用いるのが好適である。これは蛍光物質で標識された産物は、クローニング&シークエンスの工程で不可欠なベクターとのライゲーションの基質にならないためである。
【0046】
ベクターに連結された新規若しくは同一機能核酸(遺伝子)を用いて、微生物(例えば、大腸菌、酵母等)、動物又は植物の培養細胞を形質転換して、遺伝子発現を検討するのがよい。そして、発現量及び/又は発現産物の機能(例えば、酵素活性等の生理的活性等)を測定する。この操作により新規有用核酸を特定することが可能となる。
新規若しくは同一機能核酸の発現量及び/又は発現産物の機能を検討するには、当該核酸を前記細胞に直接挿入してもよい。
【0047】
これらは、従来公知の方法で容易に達成できる(実験医学,p.12〜19,Vol.15,No.7,1997年,羊土社)。例えば、好適なベクターとしては、YAC、BAC等を挙げることができる。
【0048】
ベクターに連結する方法は、平滑末端クローニング、TAクローニング、制限酵素を利用したクローニング等で行ってよい。又、第2発明の箇所に示したライゲーション方法と同様に行ってよい。
クローンライブラリー作成は、従来通常の方法で行ってよく、例えば大腸菌等のホスト菌が利用できる。
【0049】
本第1発明の手順については、以下の特徴を有する。
試料中に含まれる核酸種については下記の順で発明が実施されるのが好適である。
(1)前記3の1)においては、増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
(2)前記3の2)においては、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
(3)前記3の3)においては、新規或いは標的の核酸と特定された増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
【0050】
又、核酸を含む試料については下記の順で発明が実施されるのが好適である。
(1)前記3の1)においては、増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、手順4を実施する。
(2)前記3の2)においては、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸種を多く含む試料の多い順に、手順4を実施する。
(3)前記3の3)においては、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種を多く含む試料の順に、手順4を実施する。
(4)前記4においては、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種を多く含む試料の順に、手順4を実施する。
【0051】
本発明のPCR方法に好適に用いることができるプライマープローブは例示するならば、下記のようなものである。
フォワードプライマープローブとリバースプライマープローブを使用する(これは以下の記載においても同様である。)。
標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズしたとき、蛍光強度が変化する蛍光物質標識核酸プローブで、且つPCRのプライマーとして利用できるものであればどのような形式のプローブでもよい。そして、コンセンサスプライマープローブが好適である。
【0052】
それで、本発明においては、コンセンサスプライマープローブ、コンセンサスプローブともいう。それで、このプローブは、コンセンサスな塩基配列がプロモター領域であるならば、数多くの遺伝子を増幅させることができる。又、当該プローブの塩基配列がタンパク質をコードする塩基配列にコンセンサスなもの、若しくは共通するものであるならば、同一機能遺伝子群を全て増幅することができる。
【0053】
好適に用いることができるプライマープローブとしては、具体的には、オリゴヌクレオチドからなり、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーであり、且つ、標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズする塩基配列を含むオリゴヌクレオチドから形成され、相補的塩基配列にハイブリダイズすることで光学的キャラクターが変化する特質を有する蛍光物質標識プライマープローブである。
【0054】
前記プライマープローブの形式としては、蛍光物質及び/又はクエンチャー物質で標識されているもの、好適には、蛍光物質間の相互作用、好適には、蛍光物質間、又は蛍光物質とG(グアニン)間で相互作用をおこす蛍光物質及び/又はクエンチャー物質で標識されているものである。
具体的には、光学的キャラクター変化が蛍光消光現象であるQプローブ(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34)、又、光学的キャラクター変化が蛍光発光増加であるサンライズプローブ(Mackay et al.,Nucleic acid Research,1292−1305page,vol.30,No.6,2002,Nazarenko et al.,Nucleic acids Res.,25、2516−2521,1997)の類を最も好適な例として挙げることができる。しかしながら、本発明においてはこの例に限定されるものではない。
Qプローブを使用するPCR方法はQP−PCRと称される。Quenching primer或いはprobeという意味である。
【0055】
前記Qプローブの好適な形態は、以下の少なくともいずれか1の特質を有するものである。
(a)1本鎖のオリゴヌクレオチドからなり、少なくとも3’末端部位の塩基配列は、標的核酸にハイブリダイズするように設計されており、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーである。勿論プライマープローブ全体が標的核酸とハイブリダイズするものでも構わない。そのハイブリダイゼーションにより、PCRのプライマーとして利用される。
(b)5’末端部位(鎖中でもよい、又、5’末端でもよい。以下同様。)の塩基配列がC(シトシン)を含むものである。
【0056】
(c)前記(b)において、5’末端部位の塩基配列に含まれるCに蛍光物質が標識されている。
(d)前記(c)において、5’末端部位の塩基配列が相補的塩基配列とハイブリダイズするか若しくはしない塩基配列を含むものである。
(e)前記(d)において、相補的塩基配列とハイブリダイズしない塩基配列を塩基数にして1〜20塩基を含むものである。
(f)当該プローブが標的核酸にハイブリダイズしたとき、又、核酸増幅反応中、プローブに標識されている蛍光物質の蛍光発光が減少する。
【0057】
前記を例示すると、以下のようなものである。
その蛍光物質の標識位置は5’側の糖部位及び/又はそのリン酸部位、塩基部位のどちらでもよい。そしてその部位は5’側であればよく、必ずしもその末端若しくはその部位でなくともよい。好適には5’末端である。
そしてQプローブの場合、標識部位の塩基が、C(シトシン)であるものが望ましい。しかし、必ずしも、Cである必要はなく、Qプローブと標的核酸がハイブリダイズしたとき、標識塩基に相補する標的核酸の塩基から1〜3塩基離れて(標識塩基に相補する標的核酸の塩基を1と数える。)標的核酸にG(グアニン)が存在すればよい。又、当該プローブの標識部位から1〜3塩基離れて(標識塩基を1と数える。)G塩基が存在してもよい。
【0058】
又、5’末端がCである場合、当該Cが試料中の標的核酸とハイブリダイズしなくともよい。これは、核酸増幅反応中に当該Cに相補的なGが合成されるからである。そして、Cとハイブリダイズする塩基配列の間に任意な塩基配列が介在してもよい。介在塩基配列が塩基数1〜30、好ましくは、1〜20である。塩基配列は、任意のものでよいが、好適にはCを含むものである。このようなプライマープローブである場合、PCRの増幅産物とハイブリダイズしたとき、前記の現象により蛍光強度を減少させることができる。減少量が対応核酸の濃度に比例する。
【0059】
サンライズプローブの形態は、1本鎖のオリゴヌクレオチドからなり、その末端若しくは末端部位(好ましくは5’末端側)が1つの蛍光物質で、他の領域(鎖中)に一つの自らは蛍光を発しないクエンチャー物質(又、アクセプター蛍光物質(この場合、末端若しくは末端部の蛍光物質はドナー蛍光物質という。))が一般的に標識されている。そして、対応核酸にハイブリダイズしていないときは、プローブ分子内の塩基配列の相同性から、標識された塩基間でステム(stem)・ループ(loop)構造を形成する。当該構造の形成により、蛍光物質とクエンチャー物質が互いに近い位置に配置される。当該配置によりFRET現象がおこり、蛍光物質の蛍光発光が抑制される。しかしながら、プローブが対応核酸とハイブリダイズすると、ステム・ループ構造が壊れる。そうするとFRET現象が解消し、蛍光物質の蛍光発光が増大する。対応核酸の濃度は、測定系の蛍光物質の蛍光強度の増加量に比例する。当該プローブを用いるPCR方法をサンライズPCR方法という。
【0060】
そして当該プローブは少なくとも3’末端部位の塩基配列は、標的核酸にハイブリダイズするように設計されており、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーである。勿論プライマープローブ全体が標的核酸とハイブリダイズするものでも構わない。そのハイブリダイゼーションにより、PCRのプライマーとして利用される。
【0061】
前記どちらのプライマープローブにおいても、塩基配列の一部若しくは全部は、標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズするものである。具体的には、既知の同一機能を有する核酸種群から認識されるコンセンサスな塩基配列の一部又は全部にハイブリダイズする塩基配列を含むものであればよい。
プライマープローブの使用濃度は、目的により、即ち、試料に含まれる核酸の濃度等により種々の濃度を変化させるので特に限定されない。一例を挙げるならば、0.01〜1.0μM/L、好ましくは0.1〜0.5μM/Lである。
そして、増幅される標的核酸は蛍光物質で標識される。
尚、前記のプライマープローブは従来公知の方法で、作成できる。本発明で用いる各種のプライマープローブのオリゴヌクレオチドは、市販されている核酸合成機を使用するのが好適である(例えば、ABI394(Perkin Elmer社製、USA))。
【0062】
オリゴヌクレオチドに蛍光物質及び/又はクエンチャー物質を標識するには、従来公知の標識法のうちの所望のものを利用することができる(Applied and Environmental Microbiology、63巻、1143〜1147頁、1997年)。例えば、5’末端に前記標識物質分子を結合させる場合は、先ず、常法に従って5’末端のリン酸基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−SHを導入する。これらの導入体は市販されているので市販品を購入してもよい(Midland Certified Reagent Company)。この場合、nは3〜8、好ましくは6である。このスペーサーにSH基反応性を有する前記標識物質又はそれらの誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された前記標識物質で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の標的核酸プライマー及び核酸プローブとすることができる。
【0063】
又、オリゴヌクレオチドの3’末端塩基も標識できる。
この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−NH2を導入する。これらの導入体も前記と同様にして市販されているので市販品を購入してもよい(メドランド・サーティファイド・レージント・カンパニー(Midland Certified Reagent Company))。又、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にスペサーとして、例えば、−(CH2)n−SHを導入する。これらの場合、nは3〜8、好ましくは4〜7である。このスペーサーにアミノ基、SH基に反応性を有する前記標識物質又はそれらの誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。
【0064】
又、オリゴヌクレオチドの鎖中塩基も標識できる。
塩基のアミノ基又はOH基を5’又は3’末端の方法と同様にして本発明の前記標識物質で標識すればよい(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 225、32−38頁(1998年))。
アミノ基に導入する場合、キット試薬(例えば、Uni−link aminomodifier(CLONTECH社製、米国)、フルオ・リポーターキット(FluoReporter Kit)F−6082、F−6083、F−6084、F−10220(いずれもMolecular Probes社製、米国))を用いるのが便利である。そして、常法に従って当該オリゴリボヌクレオチドに前記標識物質分子を結合させることができる。
このようにして合成されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の標的核酸プライマープローブとすることができる。
現在は委託合成で任意のものが入手できる((株)日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp))。又、商品化されているものを入手してもよい。
【0065】
前記したプライマープローブを用いて、核酸増幅方法、特にPCR方法、又はリアルタイム定量的PCR方法について、又、核酸増幅と同時に増幅核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を求めるデータ解析方法について、以下に記述する。
リアルタイム定量的PCR方法は、プライマープローブ(forward型、riverse型)と標的核酸のアニーリング反応、核酸伸長反応、核酸変性反応を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことにより、核酸増幅を行いながら、増幅核酸が変性された状態とプライマー・核酸複合体状態のPCR反応系の光学的キャラクターの変化を少なくとも1種の測定波長でリアルタイムでモニタリング(測定)する方法である。そして、少なくとも1種の測定波長で測定して得られる蛍光強度の変化率のカーブから増幅前の標的核酸の濃度を決める方法である。PCRの反応は、核酸が指数関数的に増幅しているサイクルまで反応を行うことにより目的が達成される。反応条件は公知のものでよい。具体的には実施例に示した。
【0066】
上記のPCR方法において、実際の測定は、測定・データ解析装置(それらの方法の手順を記録した電子記録媒体を装備したものも当然含むものとする。)を用いて測定をする。
即ち、本発明に利用するリアルタイム定量的PCR方法の実際の測定、それによって得られるデータを解析する方法は公知の方法で行えばよい。好適には、KURATAらの方法(KURATA et al.,Nucleic Acids Research,2001,vol.29,No.6,e34)を挙げることができる。
【0067】
具体的には以下の通りである。
リアルタイム定量的PCR方法は、現在、PCRを行わせる反応装置、少なくとも1種の測定波長で蛍光物質の光学的キャラクター変化を検出する装置、ユーザーインターフェース、即ち、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(別称:Sequence DetectionSoftware System)、及びそれらを制御し、データ解析するコンピュータから構成される装置で、少なくとも1種の測定波長を用いて、リアルタイムで測定されている。それで、本発明の測定もこのような装置で行われる。
【0068】
以下に、先ず、本発明の方法に用いるリアルタイム定量的PCRの解析装置から説明する。本発明において用いる装置は、PCRを少なくとも1種の測定波長を用いてリアルタイムでモニタリングできる装置であればどのような装置でもよいが、例えば、ABI PRISMTM7700塩基配列検出システム(Sequence Detection System SDS 7700)(パーキン・エルマー・アプライド・バイオシステム社(Perkin Elmer Applied Biosytems社、USA))、ライトサイクラーTMシステム(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、ドイツ)等を特に好適なものとして挙げることができる。
【0069】
尚、前記のPCR反応装置は、標的核酸の熱変性反応、アニーリング反応、核酸の伸長反応を繰り返し行う装置(例えば、温度を95℃、60℃、72℃に繰り返し行うことができる。)である。又、検出システムは、蛍光励起用アルゴンレーザー、スペクトログラフ並びにCCDカメラ、少なくとも1種の蛍光測定用チャンネルを装備している。更に、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータにインストールされて使用され、コンピュータを介して上記のシステムを制御し、検出システムから出力されたデータを解析処理するプログラムを記録したものとなっている。
【0070】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されているデータ解析用プログラムは、サイクルごとの蛍光強度を測定する過程、測定された蛍光強度を、サイクルの関数として、即ちPCRのamplification plotとしてコンピュータのディスプレー上に表示する過程、蛍光強度が検出され始めるPCRサイクル数(threshold cycle number:Ct)を算出する過程、Ct値から試料核酸のコピー数を求める検量線を作成する過程、前記各過程のデータ、プロット値を印字する過程、からなっている。PCRが指数的に進行している場合、PCR開始時の測定対象のPCR反応開始前の標的核酸のコピー数のLog値と、Ctとの間には直線関係が成り立つ。従って標準核酸の既知量のコピー数を用いて検量線を作成し、未知コピー数の標的核酸を含むサンプルのCtを検出することにより、標的核酸のPCR開始時の初期コピー数を計算できる。
【0071】
以下に各特徴について記す。
第1の特徴は、リアルタイム定量的PCR方法で得られ、且つ、各測定波長について得られたデータを解析する方法において、各サイクルにおける増幅した分析対象の核酸が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)プライマープローブにハイブリダイズしたときの当該プライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値を、各サイクルにおける当該プライマープローブと当該核酸がハイブリダイズしたもの(即ち、プライマー・核酸複合体)が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値により補正する演算処理過程、即ち、補正演算処理過程である。
【0072】
「増幅した核酸が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)プライマープローブにハイブリダイズしたときの当該プライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値」とは、具体的に例示すると、PCRの各サイクルにおける40〜85℃、好ましくは50〜80℃の反応温度を有する核酸伸長反応或いはアニーリングのときの反応系におけるプライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値(より具体的には当該蛍光物質に関わる測定波長で測定した、当該反応系の蛍光強度値)を挙げることができる(以下、同様である。)。そして、反応が完了した反応系を意味する。実際の温度は増幅した核酸の長さに依存する。
【0073】
又、「前記のプライマー・核酸複合体が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値」とは、PCRの各サイクルにおける核酸の熱変性の反応系、具体的には、反応温度90〜100℃、好ましくは94〜96℃のときのもので、反応が完了した反応系におけるプライマープローブの蛍光物質に関わる測定波長で測定した場合の反応系の蛍光強度値を例示できる(以下、同様である。)。
【0074】
補正演算処理過程の補正演算処理としては本発明の目的に合致するものであればどのようなものでもよいが、具体的には、次の〔数式1〕或いは〔数式2〕による処理過程を含むものを例示することができる。
fn=fhyb,n/fden,n 〔数式1〕
fn=fden,n/fhyb,n 〔数式2〕
〔式中、
fn:〔数式1〕或いは〔数式2〕により算出されたn次サイクルにおける補正演算処理値、
fhyb,n:n次サイクルにおける、増幅した核酸が当該核酸に対応するプライマープローブとハイブリダイズしたときの反応系の蛍光強度値、
fden,n:n次サイクルにおける、前記のプライマー・核酸複合体が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値〕
【0075】
第2の特徴は、各サイクルにおける〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値を次の〔数式3〕或いは〔数式4〕に代入し、各サンプル間の蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)を算出し、それらを比較するデータ解析方法である。
【0076】
Fn=fn/fa 〔数式3〕
Fn=fa/fn 〔数式4〕
〔式中、
Fn:n次サイクルにおける、〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)、
fn:n次サイクルにおける〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値fa:〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値で、fnの変化が観察される以前の任意のサイクル数のものであるが、通常は、例えば、10〜40サイクルのもの、好適には15〜30サイクルのもの、より好適には20〜30サイクルのものが採用される。〕
【0077】
第3の特徴は、
(3.1)〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)のデータを用いて、〔数式5〕、〔数式6〕或いは〔数式7〕による演算処理する過程、
logb(Fn)、ln(Fn) 〔数式5〕
logb{(1−Fn)×A}、ln{(1−Fn)×A} 〔数式6〕
logb{(Fn−1)×A}、ln{(Fn−1)×A} 〔数式7〕
〔式中、
A、b:任意の数値、好ましくは整数値、より好ましくは自然数である。そして、A=100、b=10のときは、{(Fn−1)×A}は百分率(%)で表わされる。
Fn:〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出されたnサイクルにおける蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)〕。
【0078】
(3.2)前記(3.1)の演算処理値が一定値に達したサイクル数(Ct値)を求める演算処理過程、
(3.3)既知濃度の標準核酸を含む試料におけるサイクル数(Ct値)と反応開始時の標準核酸の初期コピー数の関係式を計算する演算処理過程、
(3.4)標的核酸を含む試料におけるPCR開始時の標的核酸のコピー数を求める演算処理過程、
を有するデータ解析方法である。そして、(3.1)→(3.2)→(3.3)→(3.4)の順からなる過程が好適である。
【0079】
尚、前記方法において、標準核酸を測定する反応系と標的核酸を測定する反応系を一緒にしてもよく、又、別々にしてもよい。
又、前記データ解析方法は、リアルタイム定量的PCR方法が蛍光物質の発光の減少量を測定するものである場合に特に有効である。
【0080】
第4の特徴は、前記の本発明の増幅核酸の温度解離曲線(融解曲線)の分析方法、又、本発明のPCR方法を行って核酸のTm値を求める方法によって得られるデータを解析する方法である。
即ち、本発明のPCR方法により増幅された核酸について、低い温度から核酸が完全に変性するまで、温度を徐々に上げる過程(例えば、50℃から95℃まで)、この過程において、短い時間間隔(例えば、0.2℃〜0.5℃の温度上昇に相当する間隔)で、少なくとも1種の測定波長の蛍光強度を測定する過程、少なくとも1種の測定波長についての測定結果を時間の関数としてディスプレー上に表示する過程、即ち、核酸の融解曲線を表示する過程、この融解曲線を微分して微分値(−dF/dT、F:蛍光強度、T:時間)を得る過程、その値を微分値としてディスプレー上に表示する過程、その微分値から変曲点を求める過程からなる、解析方法である。本発明においては、蛍光強度は温度が上がるごとに増加する。本発明においては、各サイクルにおける核酸伸長反応時、好ましくはPCR反応終了時の蛍光強度値を熱変性反応時の蛍光強度値を用いて割る演算処理する過程を上記の過程に追加することにより、より好ましい結果が得られる。
【0081】
前記のようにして第1発明の増幅核酸の温度解離曲線の測定ができる。
第1発明において、標的核酸に特異的プライマープローブの設計と調製を行う必要があるが、前記部分的塩基配列の解読の結果のデータに基づいて塩基配列を設計して、現在公知の方法により調製することができる。
【0082】
B.第2発明:
具体的に説明する前に本発明において使用する用語を定義する。
「アンカード(anchored)PCR方法」とは、図1に示されるように、アンチセンスプライマープローブ及び/又はセンスプライマープローブとセンスアダプタープライマープローブ及び/又はアンチセンスアダプタープライマープローブを用いて核酸増幅を行うPCR方法である(実験医学、15巻、No.7、52〜59ページ、1997年)。
【0083】
「リンカー対(リンカー1、リンカー2)」とは、二本のオリゴヌクレオチドからなり、互いのオリゴヌクレオチド鎖がハイブリダイズする領域と、ハイブリダイズしない領域を有するオリゴヌクレオチドペアのことをいう。本発明では、一方をリンカー1と他方をリンカー2という。アンカーPCR方法において使用されるもので、アンカーともいう(図1参照)。塩基配列は任意でもよい。
【0084】
「アンチセンスプライマープローブ」とは、1本鎖のオリゴヌクレオチドからなる1種のプライマープローブである。2本鎖の標的核酸が存在した場合、遺伝情報をもった核酸(例えば、DNAの場合)塩基配列のことをセンス鎖という。そして、それに相補する1方の鎖をアンチセンス鎖という。それで、この場合、少なくともアンチセンス鎖にハイブリダイズする塩基配列を含む(即ち、センス鎖の塩基配列の一部又は全部を含む)プライマープローブのことをいう(図1参照)。「少なくとも」の意味は、アンチセンス鎖の他にリンカー領域の一部にまたがってハイブリダイズしてもよいという意味である。「センスプライマープローブ」とは、アンチセンスプライマープローブとは逆でセンス鎖にハイブリダイズするプライマープローブのことをいう(図1参照)。
【0085】
「センスアダプタープライマープローブ」、「アンチセンスアダプタープライマープローブ」とは、当該プローブの塩基配列が少なくともリンカーの塩基配列、特に非相補的領域部分(リンカー1とリンカー2が互いにハイブリダイズしない塩基配列(図1参照))を含むものである。一方、試料に含まれる核酸の塩基配列の部分にハイブリダイズする塩基配列を含んでもよい。アンチセンスプライマープローブ又はセンスプライマープローブから伸長合成されてきた伸長核酸にハイブリダイズし、PCR反応のプライマーとなる。「少なくとも」の意味は、当該非相補的領域からはみ出た塩基配列領域を有していてもよいということである。
【0086】
センスアダプタープライマープローブは、標的核酸のセンス鎖の方のリンカーの非相補的塩基配列を含むものである。アンチセンスアダプタープライマープローブは、アンチセンス鎖の方のリンカーの非相補的塩基配列を含むものである。アンチセンス若しくはセンスプライマープローブとセンス若しくはアンチセンスアダプタープライマープローブの関係は一方をforward primerとすると他方はreverse primerである。
尚、センスアダプタープライマープローブとアンチセンスアダプタープライマープローブは共通(同一)のものであってもよい。図1に示されているのは共通(同一)のものである。
【0087】
少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法(図1参照):1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、少なくとも1種の制限酵素処理を行う。
この場合の制限酵素処理は第1発明の多型解析の項に記した方法と同様に行えばよい。反応後、例えばAcclの場合、65℃、30分間加熱処理して制限酵素を失活させることが好ましい。失活温度及び時間は、制限酵素によって異なるため注意が必要である。又、当該処理物を、例えば、スピンカラム(MicroconPCR)(Millipore Corporation Bedford、MA、USA;以下同様である。)を用いて精製してもよいし、しなくともよい。反応バッファーは、制限酵素試薬に付属のものを用るのが便利である。
第2発明における、「少なくとも1種の核酸を含む試料」は、第1発明と同様である。
【0088】
2)少なくとも1種のリンカー対(以下、リンカー1、リンカー2という。)を前記(1)の制限酵素処理物に添加し、ライゲーション(ligation)反応を行う。
本発明のライゲーション反応は、平滑末端連結結合反応(blunt−end ligation)、TA結合反応等の通常の公知方法(実験医学、p.12〜19、Vol.15、No.7、1997年、羊土社)で行えばよく、特に限定されない。
【0089】
ライゲーション反応形式は、例えば、前記制限酵素処理により生成した核酸断片の末端の構造に依存する。核酸断片の5’末端がリン酸化されているならば、リンカーは無処理でよい。リンカーの5’末端をキット試薬でリン酸化し、核酸断片をフォスファターゼ処理しておいてもよい。そして、例えば、平滑末端連結結合反応の場合は、市販の各種キット試薬を利用すると便利である(実験医学、p.12〜19、Vol.15、No.7、1997年、羊土社)。一例として、平端平滑化−Blunting kit(TAKARA BIO INC.)、連結反応−DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA BIO INC.)、5’リン酸化−MEGALABELTM(TAKARA BIO INC.)等を挙げることができる。TA結合の場合は、T−Vector Kits(Novagen社)、TA Cloning Kits(Invitrogen社)、PGEM−T Vector System(Promega社)等を挙げることができる。具体的手順、反応条件等はキット試薬に添付されているプロトコールに従えばよい。
【0090】
反応物は精製してもよく、しなくともよい。精製する場合は、前記スピンカラムを使用して行うのが便利である。
次のアンカーPCR反応のために、精製物を乾燥して、少量の滅菌水に溶かしてライゲーションされた核酸の濃度を高めるのが好適である。このDNA物を次のアンカーPCR反応の鋳型DNAとする。
リンカー等の塩基配列の具体的例は実施例に示した。
【0091】
3)前記(2)に記載の反応物を二つに分け(一方をAとし、他方をBとする。)、次の反応を行う。
(1)Aについて次の(a)及び(b)の反応を同時又は逐次的に行う:
(a)少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブを、Aに添加し、核酸伸長反応を行う。
(b)少なくとも1種のアンチアダプタープライマープローブを、A又は前記(a)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
反応条件は前記のPCR反応条件と同様でよい。例えば、当該アンチセンスプライマープローブの添加濃度は0.01〜2μmol/L、好適には0.1〜0.5μmol/Lで、アダプタープローブの添加濃度は0.01〜2μmol/L、好適には0.1〜0.5μmol/Lである。核酸伸長反応時間は1〜1800sec、好適には10〜400sec、DNA、RNA等のポリメラーゼ類は、前記PCRに記載したものと同様のものが使用できる。使用濃度は0.01〜10u/反応液(20μl)、好ましくは0.1〜3u/反応液(20μl)である。反応温度は前記のPCR反応と同様でよい。例えば、40〜85℃、好ましくは50〜80℃である。
【0092】
(2)Bについて、前記Aと同様にして、次の(c)及び(d)の反応を同時又は逐次的に行う:
(c)少なくとも1種のセンスプライマープローブを、Bに添加し、核酸伸長反応を行う。
(d)少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブを、B又は前記(c)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
4)A及びBの最終反応物を混合して、新たなプライマーを添加せずに前記のPCRの記載と同様の条件にてPCR反応を行う。
反応条件は前記と同様でよい。
【0093】
アンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブは、前記の蛍光物質の少なくとも1種で標識されたプローブを使用するのが好適である。それは、反応生成物の解離曲線解析を行って、反応生成物を確認できるからである。そして、蛍光物質の標識位置は、オリゴヌクレオチドの5’側の塩基であることが好ましい。その場合、Cのアミノ基又はOH基であることが好適である。これらの中でも、特に前記Qプローブタイプを使用するのが好適である。
【0094】
本発明において、複数種の蛍光物質標識アンチセンスプライマープローブと複数種のアンチアダプタープライマープローブを用いて前記の核酸伸長反応を行ってよい。又、同様に、複数種の蛍光物質標識センスプライマープローブと複数種のセンスアダプタープライマープローブを用いて前記の核酸伸長反応を行ってよい。この場合、複数種のセンスプライマープローブ、アンチセンスプライマープローブは、各々異なった塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された少なくとも1種のものである。
【0095】
即ち、少なくとも1種の蛍光物質で標識された少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブが複数のものであり、当該複数の蛍光物質標識プローブが、各々異なった塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された少なくとも1種の蛍光物質標識アンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブを用いる核酸の取得方法である。この場合、複数種の有用核酸(目的遺伝子)が取得できる。
【0096】
第2発明において、手順4)に移行する手順3)の最終反応生成物は、各種の電気泳動方法、各種のHPLC方法で精製してもよい。又、最終反応液そのものでも、十分に本発明の目的が達成できる。
第2発明の手順4)のPCR産物は、その後、前記同様の電気泳動で分離されてもよい。そして、制限酵素で有用核酸(目的遺伝子)とリンカーを切り離すことにより、有用核酸を分離することができる。又、電気泳動で分離する前に、制限酵素で、リンカーを切り離してから電気泳動にかけるのが好適である。
【0097】
このようにして、上記の第2発明の一連の手順操作で、標的核酸中の目的塩基配列部分、即ち、標的核酸(目的遺伝子)のサイズが判明し、且つ取得されることになる。
前記のようにして分離された核酸(遺伝子)は、第1発明の場合と同様にして、その発現量及び/又は発現産物が検討される。
かくして新規有用遺伝子が取得される。
【0098】
C.第3の発明
第1発明と第2発明を結合する発明である。即ち、少なくとも次のいずれか1項に該当する発明である。
1)第2発明の少なくとも1種の核酸を含む試料は、少なくとも次の何れか1項である:
(1)第1発明のものと同一である、
(2)第1発明に記載の最終物即ち最終反応液(物)、又はその分離・精製物であるもの(例えば、各種の電気泳動方法、各種のHPLC方法の処理にて分離・精製されたもの)、即ち、第1発明において新規若しくは同一機能核酸種と特定された核酸若しくはそれを含むもの。
【0099】
2)第2発明の制限酵素処理されたものが、第1発明において、多型解析・分析のために制限酵素処理されたものを用いる発明である。
3)第1発明で得られた情報を利用する発明である。
4)第1発明で開発された新規若しくは同一機能核酸種と特定された核酸種の塩基配列を利用する発明である。即ち、当該塩基配列の一部又は全部にハイブリダイズできる塩基配列を、アンチセンスプライマープローブ又はセンスプライマープローブの塩基配列が含んでいるものである。
5)第1発明において使用したコンセンサスプライマープローブの塩基配列の一部又は全部を、アンチセンスプライマープローブ及び/又はセンスプライマープローブの塩基配列が含んでいるものである。
【0100】
このようにして取得された新規有用核酸は、平滑末端クローニング、TAクローニング、制限酵素を利用したクローニング等でベクターに連結し、クローンライブラリーを作成するのが好適である。又、ベクターに連結した新規有用核酸を用いて、適当な発現用細胞(例えば、大腸菌、酵母等)を形質転換して実際の発現を検定してみることが好適である。電気泳動方法で単一な核酸と認識された核酸でも必ずしも実質的に単一であるとは限らないからである。このようにして、分離・取得された核酸は最終的に新規有用核酸となる。
【0101】
このようにして、第1発明と第2発明を連結することにより、自然界の一つの系に存在する有用核酸(目的遺伝子)を簡便・迅速に検出・測定して、その濃度を知り、且つ簡便迅速に新規有用核酸(目的遺伝子)が分離される。この検討結果のデータから、新規有用核酸(遺伝子)の全塩基配列が決定され、且つ、新規有用核酸(遺伝子)であることが判明する。そして、新規有用遺伝子が取得される。尚、このようにして得られたデータは如何なる多型の核酸であると認識されるので、次の遺伝子の遺伝子工学的塩基配列の改変に大いに役立つ。
【0102】
D.第4発明
第4発明は蛍光物質標識プライマープローブである。即ち、自然界の一つの系に存在する有用核酸(目的遺伝子)を簡便・迅速に検出・測定して、その濃度を知り、且つ有用核酸(目的遺伝子)が分離できるプライマープローブである。
3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーであり、且つ相補的塩基配列にハイブリダイズする塩基配列を含むオリゴヌクレオチドから形成され、相補的塩基配列にハイブリダイズすることで光学的キャラクターが変化する特質を有する蛍光物質標識プライマーである。そして、以下の少なくとも一つを具備する蛍光物質標識プライマーである。
【0103】
1)5’末端がC(シトシン)である。
2)前記1)において、Cが標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしてもしなくともよい。
3)前記2)において、標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないか又はハイブリダイズするCとハイブリダイズする相補的塩基配列の間に標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないか又はハイブリダイズする任意な塩基配列が介在する。
【0104】
4)前記3)において、その介在塩基配列が塩基数1〜20である。
より好適には、以下の少なくとも一つを具備する蛍光物質標識プライマーである。
(1)5’末端がC(シトシン)である。
(2)前記(1)において、Cが標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしない。
(3)前記(2)において、標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないCとハイブリダイズする相補的塩基配列の間に任意の塩基配列が介在する。
(4)前記(3)において、その介在塩基配列が塩基数1〜20である。
尚、標的核酸にハイブリダイズしない任意の塩基配列部分は、ヒアピン(hairpin)構造をとっていてもよい。
【0105】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
1)オリゴヌクレオチドの塩基配列
本実施例にて使用したコンセンサスプライマープローブ、リンカー1、リンカー2、標的遺伝子特異的アンチセンスプライマープローブ、標的遺伝子特異的センスプライマープローブ、アダプタープライマープローブの塩基配列は以下のものである。尚、塩基配列は右が5’末端で左が3’末端である。
【0106】
(合成一本鎖DNAの塩基配列)
コンセンサスプライマープローブ1(フォワード型)(アンダーラインの箇所がコンセンサスな配列、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
CAGAGTTTGATCCTGGCTCAG
コンセンサスプライマープローブ2(リバース型)(アンダーラインの箇所がコンセンサスな配列):
GGTTACCTTGTTACGACTT
コンセンサスプライマープローブ1及びコンセンサスプライマープローブ2は真性細菌16S rRNA遺伝子の保存性の高い領域をターゲットとしたプライマーであり、真性細菌の16S rRNA遺伝子を全てPCR増幅可能である。
【0107】
リンカー1(アンダーラインの箇所が一方のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズしない配列):
CGGAATTCATTAACCCTCACTAAAGGGTGATC
リンカー2(アンダーラインの箇所が一方のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズしない配列):
GATCGATCACCCTTTAGTGCC
【0108】
標的遺伝子に特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマープローブ(アンダーラインの箇所が試料に含まれる核酸のアンチセンス鎖の塩基配列にハイブリダイズする、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
ctcgtcagcaaagcagcaag
標的遺伝子に特異的にハイブリダイズするセンスプライマープローブ(アンダーラインの箇所が試料に含まれる核酸のセンス鎖の塩基配列にハイブリダイズする、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
cttgctgctttgctgacgag
センスプライマープローブとアンチセンスプライマープローブはモデル標的遺伝子として採用した大腸菌の16S rRNA遺伝子に特異的なプライマーである。
【0109】
アダプタープライマープローブ(アンダーラインの箇所が遺伝子増幅過程で合成される核酸にハイブリダイズする。5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
CGGAATTCATTAACCCT
アダプタープライマープローブは、リンカーの非相補的領域(リンカー1とリンカー2がハイブリダイズしていない領域)と同じ配列を有しているため、センスプライマープローブ或いはアンチセンスプライマープローブから伸長した増幅核酸の塩基配列にハイブリダイズし、その後のPCR反応のプライマーとなる。標的遺伝子(大腸菌の16S rRNA遺伝子)を含む制限酵素断片部位にリンカーがライゲーションされた際の状態を図1として示した。
【0110】
2)オリゴヌクレオチド及びプライマープローブの調製:本実施例で使用した各種のオリゴヌクレオチド及び各種のプライマープローブは全て委託合成により入手した((株)日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp))。
【0111】
実施例1
本実施例では、鋳型サンプル中のモデル標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)の定量を実施し、標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を多量に含むサンプルの特定が可能であるか検証した。
具体的には、活性汚泥から抽出したDNAサンプルに大腸菌ゲノムDNAを濃度を変化させて添加した複数種の試料を用意し、当該サンプルについて核酸の増幅と定量をリアルタイム定量的PCR方法を行い、多型解析方法で増幅産物を解析することにより、標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を多量に含む試料の特定が可能であるか検証した。
【0112】
1)サンプル
食品排水水処理装置より採取された大腸菌をほとんど含まないことが既知である活性汚泥をサンプルとして用いた。モデル標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を含む鋳型DNAは、大腸菌ゲノムDNA(宝酒造社製)とした。
2)活性汚泥からの核酸の抽出と鋳型サンプルの調製
活性汚泥より、Bio101キット(土壌用)を用いて核酸を抽出し、更にWizard DNA Clean−Up systemを用いて精製した。次に260nm/280nmの吸光度から、DNA濃度を測定した。当該抽出DNAは120ng/μl−抽出液であった。当該抽出したDNAに大腸菌ゲノムDNAを既知濃度(大腸菌ゲノムDNA換算で105、106、107コピー)添加し、鋳型サンプルとした。
【0113】
3)リアルタイム定量的PCR方法
リアルタイム定量的PCR方法としてQuenching primer(Qプローブからなるコンセンサスプローブ1及び2)を用いた手法(以下QP−PCR法という。)を適用した。
4)QP−PCR反応条件
変性反応:95℃、15sec;アニーリング:53℃、5sec;伸長(extention)及び検出:72℃、80sec;測定装置:ライトサイクラーシステム(ロッシュ社製)(以下、便宜上、ライトサイクラーという。);使用した蛍光検出用チャンネル:チャンネル1(Ex、470nm;Em、530nm)。
【0114】
5)反応液
反応液全量:20μl;rTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)、0.5U/反応(20μl);rTaq polymeraseに付属の×10buffer、2.0μl/反応(20μl);dNTPs 最終濃度、各2mM;Mg++イオン濃度、最終濃度2mM;牛血清アルブミン(BSA)、最終濃度0.25mg/ml;活性汚泥抽出DNA、1.0μ1/反応(20μl);大腸菌ゲノムDNA、1.0μl/反応(20μl);各プライマープローブ(コンセンサスプライマー1及び2)の最終濃度、100nM;Taq start溶液(クローンテック社製、0.4μl/反応(20μl)。
【0115】
6)QP−PCRによる全16S rRNA遺伝子の定量
QP−PCRによって、サンプル中に含まれる全16S rRNA遺伝子の定量を実施した。検量線は、大腸菌ゲノムを標準核酸として用いて作成した。log Rn(蛍光消光率)=0.2に設定し、Ct値を求めた。QP−PCRによる試料中の全16S rRNA遺伝子の定量結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
活性汚泥抽出DNAのみを60ng添加した系(サンプルNo.3)の定量値は1.2×107コピーであった。活性汚泥抽出DNA60ngと大腸菌ゲノムDNAを24ng(107コピー分)添加した系(サンプルNo.6)では、ほぼ添加した量の定量値の上昇が見られた。活性汚泥抽出DNAを添加せずに大腸菌ゲノムDNAのみを107コピー分添加した系(サンプルNo.7)では、ほぼ理論どおりの定量値が得られた。活性汚泥抽出DNA添加量を0.6ng添加した系(サンプルNo.2)では、DNA添加量がサンプルNo.3の1/100であるため1.2×105コピー付近の定量値が想定されたが、ほぼ理論通りの結果(1.5×105コピー)が得られた。これらの結果より、本法(QP−PCR方法)にて全同一機能核酸(遺伝子)を定量できることが示唆された。
【0118】
しかし、DNA添加量がサンプルNo.3の1/10,000である系(サンプルNo.1)では、1.2×102コピー付近の定量値が想定されたが、理論値より約50倍高い定量値(5.2×103コピー)が得られた。これは、添加した鋳型DNAが低コピーであったため、非特異的産物の増幅が優先的に起こったためと考えられた。
【0119】
7)温度解離曲線
前記で実施したQP−PCR反応後、得られた増幅産物の解離曲線を作成した。装置はライトサイクラーシステムを使用し、60〜90℃を0.1℃/秒で温度変化させ、その間蛍光を連続的に測定した。QP−PCR方法で得られた産物は、末端のC塩基がBODIPY FL修飾されているため、産物が解離し1本鎖になることにより蛍光量が増大する。このため簡便に増幅産物の解離曲線を得ることが可能であった。
【0120】
その結果を図2、図3に示した。図3は、図2の解離曲線を微分した解離ピークである。解離ピークは、解離曲線を微分したものである。このため、このピーク頂点の位置から、おおよそのTm値を知ることができる。サンプルNo.2〜7については、85℃付近に解離ピークが検出された。目的の増幅産物と同様の断片長を示す増幅産物が、電気泳動により確認されたことから(Data not shown)、85℃付近に解離ピークをもつ増幅産物は特異的産物であることが確認された。
【0121】
サンプルNo.1で得られた産物の解離ピークは75℃付近であった。このことから、サンプルNo.1で得られた産物は非特異的増幅産物であることが確認された。この非特異的増幅産物は、そのTm値からプライマーダイマーと推察された。
【0122】
このように、QP−PCR方法では、得られた産物の解離曲線を簡便に作成することが可能であるため、迅速に増幅産物が特異的であるか否かの判定を行うことが可能である。
【0123】
8)T−RFLP方法による多型の分析・解析
大腸菌ゲノムDNAと活性汚泥抽出DNAの両方を鋳型としたサンプルNo.4、サンプルNo.5の増幅産物をスピンカラム(MicroconPCR)を用いて精製した。精製物を制限酵素Hha1(認識部位:GCG/C、/記号は切断個所)でO/N(一晩)処理した。
【0124】
制限酵素処理を行ったDNA溶液について加熱変性処理を行った後、シークエンサー(ABI PRISMTM310、PE Applied Biosystems)にてT−RFLP解析を行った。そのピークパターンを図4、図5に示す。ピーク高の比より各遺伝子(多型)の構成比を求め、この構成比にQP−PCR方法の工程で定量した全16S rRNA遺伝子量を掛けることで、各遺伝子(多型)のコピー数を算出した。
【0125】
その結果を表2として示す。添加した大腸菌ゲノムDNAから算出されるサンプルNo.4及びサンプルNo.5中における大腸菌16S rRNA遺伝子は、それぞれ105コピー、106コピーであるが、全16S rRNA遺伝子量と構成比から算出された大腸菌16S rRNA遺伝子は、それぞれ1.3×105コピー、1.1×106コピーであり、ほぼ理論値通りの定量値を得ることができた。以上の結果より、コンセンサスプライマーを用いたQP−PCR方法により全同一機能遺伝子数を求め、更にQP−PCR産物をT−RFLP解析し遺伝子(多型)の構成比を求めることで、同一機能遺伝子を構成する各遺伝子(多型)を正確に定量できることが示唆された。
【0126】
【0127】
コンセンサスプライマーを用いたQP−PCRでは、同一機能を有する遺伝子の共通配列をターゲットとしてPCR増幅を実施するため、既知な遺伝子(多型)だけではなく、同一機能を有する未知な遺伝子(多型)も同時に増幅させることができる。既知な遺伝子(多型)のT−RFLP断片長は予め知ることができるので、それ以外のT−RFLP断片が存在すれば、対象サンプル中に新規な遺伝子(多型)が存在することを確認することができる。よって本法は、同一機能遺伝子を構成する遺伝子(多型)群において、既知な遺伝子(多型)のみならず、新規な遺伝子(多型)も定量することが可能である。従って、本法により新規な有用遺伝子を多量に含むサンプルを迅速に特定化することが可能となる。
【0128】
実施例2
1)核酸を含む試料
実施例1にて標的遺伝子を濃度的に優先種となるように増幅できるサンプルNo.5と、活性汚泥抽出DNA(60ng/μl)と0.24pg/μlの大腸菌ゲノムDNA(16S rRNA遺伝子として約100コピー)を等量混合した試料(サンプルNo.8)より、標的核酸(大腸菌16S rRNA遺伝子)のスクリーニングを試みた。自然環境サンプル等の未知サンプルが対象サンプルであれば、QP−PCR方法で得られた全同一機能性遺伝子の増幅産物についてクローニング&シークエンスを実施し、新規な遺伝子(多型)配列を決定した上で、アンカーPCR方法を行うために、新規な遺伝子に特異的なアンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブを作成する必要性がある。
【0129】
しかしながら今回は、実験の便宜上、大腸菌16S rRNA遺伝子を未知な遺伝子(標的遺伝子)と仮定し検討を実施したため、クローニング&シークエンスの工程は省いた。大腸菌に特異的なアンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブは、予め既知であった大腸菌16S rRNA遺伝子配列情報を基に設計した。
【0130】
2)制限酵素処理
・制限酵素:BamHI
サンプルNo.5及びサンプルNo.8のDNA溶液を、120ng/100μl−反応液となるように添加し、BamHI(ニューイングランドバイオラボ社製)を用いて、一昼夜37℃にて制限酵素処理した。制限酵素は、5unit/100μl−反応液の最終濃度となるよう添加した。反応後、80℃で20分間加温することで、制限酵素を失活させた後、スピンカラム(MicroconPCR)を用いて精製した。反応バッファーは、制限酵素試薬に添付されているものを用いた。
【0131】
3)制限酵素断片とリンカーとの結合反応(ライゲーション反応)
T4 DNAリガーゼを用いて制限酵素断片とリンカーとの結合を以下の方法で実施した。最初にリンカー1とリンカー2を、それぞれ1.5μM、1.0μM添加し、事前に結合させた後に、サンプルNo.5、サンプルNo.8の制限酵素処理済みサンプルを全量添加した。この溶液に、T4 DNAリガーゼを1.5units添加し、16℃にて24時間ライゲーション反応を実施した。ライゲーションされたサンプルは、スピンカラム(MicroconPCR)にて精製した。精製されたDNA溶液を乾燥し、滅菌水10μlで溶解させた。このDNA溶液を以下の工程で実施するアンカーQP−PCRの鋳型DNAとした。
【0132】
4)前記反応物の分割
前記反応物は二つに分割して一方をAとし、他方をBとした。
【0133】
5)標的遺伝子に特異的なプライマープローブを用いての、前記ライゲーション反応物を鋳型とする標的核酸の伸長反応(以下、アンカーQP−PCRと呼ぶ)
標的遺伝子特異的アンチセンスプライマープローブとアダプタープライマープローブによる増幅反応(A)と標的遺伝子特異的センスプライマープローブとアダプタープライマープローブによる増幅反応(B)における反応組成液と反応条件は伸長時間を除いて実施例1のQP−PCRの条件と同様である。アンカーQP−PCRの伸長時間は180secとした。前の行程で得られたリンカーが付加された核酸溶液(全量:10μl)は、増幅反応(A)と増幅反応(B)の鋳型として、それぞれ5μlずつ使用した。
【0134】
6)結果
サンプルNo.5を鋳型とした系では増幅反応A及び増幅反応Bともに蛍光消光が確認されたことより、何らかの遺伝子の増幅が確認された。反応終了後、増幅産物の解離曲線を描いた。その結果、約90℃付近にTm値を有する増幅産物であることが明らかとなった。プライマーダイマーは鎖長が短いため、Tm値はこれより低い(70℃付近)。よって、得られた産物はプライマーダイマーではないことが推察された。サンプルNo.8を鋳型とした系では増幅反応A及び増幅反応Bともに蛍光消光が確認されたが、反応終了後の解離曲線解析の結果、約75℃付近にTm値を有する増幅産物であることが明らかとなった。よって、サンプルNo.8を鋳型とした系では特異的増幅が起こらず、プライマーダイマーが合成されたものと判断された。サンプルNo.8では、標的遺伝子量が100コピーと少ないため、標的遺伝子の増幅よりプライマーダイマーの合成が優先的に起こったためと考えられる。
【0135】
7)アンカーQP−PCR産物を鋳型としたプライマー非添加のPCR反応
サンプルNo.5を鋳型としたアンカーQP−PCR反応A及びアンカーQP−PCR反応Bの反応物を混合して、プライマーを添加しないでPCRを行った。反応組成液及び反応条件は、アンカーQP−PCRと同様である。本PCR反応は蛍光消光が確認された時点で反応を停止させた。得られた産物は、スピンカラム(MicroconPCR)にて精製した。
【0136】
8)シークエンス
7)で得られた産物について、ダイターミネーター法(実験医学、15巻、29〜35ページ、1997年、羊土社)によるダイレクトシークエンスにてその塩基配列を解読した。シークエンスプライマーはコンセンサスプライマープローブ2、
Eu1100R(5’−TTGCGCTCGTTGCGGGACT−3’)、
Eu800R(5’−CATCGTTTACGGCGTGGAC−3’)、
Eu500R(5’−GTATTACCGCGGCTGCTGG−3’)
を使用した。シークエンサーはABI PRISMTM310を使用した。
【0137】
9)結果
反応Aで得られた産物と反応Bで得られた産物同士によるPCR反応で得られた産物の塩基配列を決定した結果(16S rRNA遺伝子の全長)、標的遺伝子とした大腸菌16S rRNA遺伝子と100%塩基配列が一致した。以上の結果より、2つのアンカーQP−PCRとアンカーQP−PCRで得られた産物同士のPCR反応により、標的とした遺伝子を簡便且つ迅速に取得可能であることが示唆された。
【0138】
しかしながら、標的遺伝子量の少ないサンプルNo.8を鋳型とした系では、アンカーQP−PCRの工程でプライマーダイマーが合成され標的遺伝子を取得することが不可能であった。このようにアンカーQP−PCR工程で用いる鋳型中には、標的遺伝子が一定量以上存在しないと特異的な遺伝子増幅が得られないことが示唆された。
以上の結果より、標的遺伝子の存在量を事前に知ることにより、スクリーニングに要する労力を大幅に低減できることが示唆された。
【0139】
10)結論
実施例により、本発明の手法は、(1)全同一機能核酸(遺伝子)種の増幅・定量が可能であること。(2)同一機能核酸(遺伝子)を構成する各核酸(遺伝子)の多型の同時定量が可能であることが示唆された。又、本手法では、多型解析(T−RFLP)より、各核酸(遺伝子)の多型が新規であるか、既知であるかの判定とその構成比を知ることが可能である。よって、同一機能核酸(遺伝子)を構成する各核酸(遺伝子)の多型のうち、新規又は標的とする核酸(遺伝子)の多型の存在量を知ることが可能となる。よって、標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化することが可能であることが示された。
【0140】
又、リアルタイム定量的PCRの過程で得られた新規な核酸(遺伝子)の多型を多く含むPCR産物を用いて、新規な核酸(遺伝子)の多型の部分配列を解読し、この情報を基に新規核酸(遺伝子)の多型に特異的プライマーを作成することが可能である。
【0141】
本発明の実施例では、特定化された試料より標的核酸(遺伝子)を、特異的プライマーを使用するアンカーQP−PCRにより直接的且つ選択的に分離可能であることが示された。又、標的核酸(遺伝子)の存在量の少ない試料からは標的核酸(遺伝子)の分離が不可能であったことから、標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化することの重要性が示唆された。
【0142】
このように本発明は、
(1)標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化すること、
(2)特定化する工程で得られた産物の部分配列を解読し、新規核酸(遺伝子)に特異的プライマーを作成すること(既知な核酸(遺伝子)が標的であればこの工程は不要)、
(3)特異的プライマーを用いて選択的に狙った核酸(遺伝子)の多型のみを分離することにより、新規核酸(遺伝子)或いは標的核酸(遺伝子)(多型)を迅速且つ簡便に分離可能な手法であることが示された。
【0143】
【発明の効果】
上記のように本発明方法により、自然界の一系内に存在する新規有用核酸(遺伝子等)の検出・測定及び取得・分離が簡便且つ迅速にできるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】核酸の制限酵素断片とリンカーの結合した状態を示す図。
【図2】QP−PCR産物の温度解離曲線を示す図。
【図3】図2の温度解離曲線を微分した曲線を示す図。
【図4】試料(サンプル)No.4のT−RFLPパターンを示す図。
【図5】試料(サンプル)No.5のT−RFLPパターンを示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自然界の一系内に存在する新規有用核酸若しくは遺伝子の検索方法及び取得方法に関する。詳しくは、既知の同一機能を有する核酸種にコンサンセス(consensus)な塩基配列を用いて、系内の核酸を増幅し、増幅された核酸の中から新規又は同一機能核酸種を検索し、又はそれらの中から新規有用核酸(遺伝子を含む。)を取得する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然界の一系内に存在する全核酸の中から複数の有用核酸を検出・測定し、複数の有用な核酸を取得するシステマチックな方法としては、現在、ダイバーサ社が使用している技術があるが(特許文献1〜7参照)、有用遺伝子を優先種として含む試料を特定できないので、有用遺伝子を検出し分離する技術には課題が多い。
【0003】
【特許文献1】
米国特許第6,054,267号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,763,239号明細書
【特許文献3】
米国特許第6,001,574号明細書
【特許文献4】
米国特許第6,171,820号明細書
【特許文献5】
米国特許第5,965,408号明細書
【特許文献6】
米国特許第6,168,919号明細書
【特許文献7】
米国特許第6,174,673号明細書
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記の状況に鑑み、自然界の一系内に存在する全核酸の中から複数の同一機能を有する有用核酸群を同時に、迅速且つ簡便に、且つ高感度で検出・測定し、次いでそれらから新規な有用核酸のみを選択的に迅速且つ容易に取得できる方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、蛍光物質、クエンチャー物質等の物質で標識され、且つ既知核酸にコンセンサスな塩基配列を有する核酸プローブを用いて、核酸増幅を行い、増幅前の核酸濃度又はコピー数の測定、増幅産物の温度解離曲線の解析、多型分析、塩基配列解析、アンカーPCR方法等を組合せることにより上記課題が解決できることを知見した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
即ち、本発明は、
1.少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、核酸増幅方法により少なくとも1種の核酸について核酸増幅反応を行い、核酸増幅を確認する。
2)少なくとも次の(1)〜(3)の何れか1項の手順の操作を行い、増幅核酸中の濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
(1)増幅核酸について、電気泳動、HPLC、及び/又はシークエンサー分析を行う。
(2)増幅核酸について温度解離曲線(Tm値)を測定する。
(3)増幅核酸について多型解析を行う。
【0007】
3)前記2)で、濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種について、塩基配列を解読・決定し、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
4)前記3)から得られる塩基配列情報に基づいて、増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を確認する。
5)前記4)から得られる塩基配列情報に基づいて、新規若しくは同一機能核酸種に特異的なプライマープローブを設計する。
6)前記5)で設計されたプライマープローブを用いる核酸増幅方法により、前記1)に記載の核酸を含む試料について、新規若しくは同一機能核酸種の増幅を行う。
7)前記6)の増幅核酸について、新規若しくは同一機能核酸種の一部の塩基配列又は全長の塩基配列を少なくとも含む核酸種を取得する。又、
【0008】
2.少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、制限酵素処理を行う。
2)少なくとも1種のリンカー対(以下、リンカー1、リンカー2という。)を前記1)の制限酵素処理物に添加し、ライゲーション(ligation)反応を行う。3)前記2)に記載の反応物を二つに分け(一方をAとし、他方をBとする。)、次の反応を行う。
(1)Aについて、次の(a)及び(b)の反応を同時又は逐次的に行う:
(a)少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブを、Aに添加し、核酸伸長反応を行う。
(b)少なくとも1種のアンチセンスアダプタープライマープローブを、A又は前記(a)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
【0009】
(2)Bについて、次の(c)及び(d)の反応を同時又は逐次的に行う:
(c)少なくとも1種のセンスプライマープローブを、Bに添加し、核酸伸長反応を行う。
(d)少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブを、B又は前記(c)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
4)A及びBの最終反応物を混合して、新たなプライマープローブを添加せずにPCR反応を行う。又、
【0010】
3.少なくとも1種の核酸を含む試料が、前記1のものと同じである前記2に記載の核酸の取得方法、又、
4.制限酵素で処理された核酸が、前記1に記載の多型解析のために制限酵素で処理された核酸である前記2に記載の核酸の取得方法、又、
5.少なくとも1種の核酸を含む試料が、前記1記載の最終物即ち最終反応液(物)、又はその分離・精製物である ものである前記2に記載の核酸の取得方法、又、
6.前記1又は2に記載の核酸の取得方法で取得された核酸種について遺伝子発現の検定を行い、当該核酸種の中から新規有用核酸を取得することを特徴とする核酸の取得方法、を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明を更に詳細に説明する前に本発明で使用する用語を説明又は定義する。
本発明において用いる用語は、特別な定義がない場合は、現在、分子生物学、遺伝学若しくは遺伝子工学、微生物学若しくは微生物工学等で一般的に使用されている用語と同じ意味である。
【0012】
「少なくとも1種」とは、1種若しくは複数種の意味である。
「核酸若しくは遺伝子」のことを単に「核酸」と総称する。
「同一機能核酸種」とは、同一機能を有する核酸及び/又は遺伝子のグループのことを意味する。本発明において、当該「機能」とは、生物学的に意味のあることをいう。そして核酸(DNA、RNA)自体の機能とその発現物(mRNA、蛋白質)の機能がある。核酸自体の機能としては、例えば、DNAの場合、プロモター(promoter)、レギュレター(regulator)、タミネター(terminator)等の構造遺伝子以外の塩基配列を挙げることができる。RNAの場合、リボザイム等の酵素活性部位の塩基配列を挙げることができる。発現物の場合は、例えば、蛋白質の構造を支配する塩基配列、又、酵素活性等を支配する塩基配列を挙げることができる。これらは「機能」を説明するために、その一部を例示したに過ぎない。それで、これらの例示を以て本発明は限定されない。
【0013】
「濃度的優先核酸種」とは、複数の核酸種が存在した場合、電気泳動の泳動パターンから、又、定量した結果とし濃度的に最も多い(高い)か、又は比較的に多い(順位からして、約1位乃至5位くらい)核酸種のことである。それは、核酸増幅前又は増幅後を区別しないものとする。
本発明においては、「試料中に含まれる核酸」のことを単に標的核酸又は目的核酸という場合がある。
【0014】
本発明において「核酸を測定する」、或いは「核酸濃度を測定する」なる用語は、標的核酸の濃度を定量することは勿論のこと、定量的検出をすること、定性的検出をすること、核酸増幅系の蛍光強度を単に測定するか若しくは単にモニタリングすること等を意味するものとする。又、このようにして得られたデーターを公知の蔵田らの方法(EP特許公開公報、EP1 046 717 A9号)で解析して、1つの系内に存在している濃度(コピー数等)を求める操作等も含めるものとする。
【0015】
上記の理由で、本発明の「試料に含まれる核酸」とは、検出・測定を目的とした特定の核酸とは限らず、意図せずとも本発明の方法により検出され得る不特定の核酸をも含むものとする。勿論遺伝子等を含む。それらの核酸が混在していてもよい。濃度の大小も問わない。即ち、一つの系内に存在する現在及び未来において有用と考えられる特定及び不特定の検出され得る核酸である。核酸はDNA、RNA及びそれらの修飾物を含むものである。本発明においては、これらの核酸を標的核酸という場合がある。
【0016】
本発明において、コンセンサスプライマープローブとは、相補的塩基配列にハイブリダイズする当該プライマープローブの塩基配列が、既知の同一機能を有する核酸種群から認識されるコンセンサスな塩基配列部位の一部又は全部にハイブリダイズするプライマープローブのことをいう。「コンセンサスな配列」とは、分子生物学で定義されている既知核酸とのコンセンサス配列の他に、既知核酸との共通配列をも含むものとする。
Qプローブ及びサンライズプローブについては後記した。又、リンカー対(リンカー1、リンカー2)、アンチセンスプライマープローブ、センスプライマープローブ及びセンス若しくはアンチセンスアダプタープライマープローブについても、具体的に後記した。
【0017】
「光学的キャラクター」なる用語は、プライマープローブを標識する蛍光物質、クエンチャー物質等の各種の吸収スペクトル、若しくは蛍光発光スペクトル、及びそれらの吸収強度、偏光、蛍光発光、蛍光強度、蛍光寿命、蛍光偏光、蛍光異方性等の光学的特性等のこという(「蛍光強度」で総称する場合がある。)。又、プライマープローブ等に標識されている少なくとも1つの蛍光物質等について少なくとも1種以上の測定波長で測定された測定値を総合的に評価して得た性質のこともいう。例えば、核酸の変性反応の蛍光強度曲線等もその1つである。
【0018】
本発明において、「蛍光強度の変化若しくは変化量から」なる用語は、本発明の増幅核酸に基づく蛍光強度の変化だけでなく、当該増幅核酸に、蛍光物質及び/又はクエンチャーで標識された均一溶液系核酸プローブをハイブリダイズさせたときの、そのハイブリダイゼーション前後の蛍光強度の変化若しくは変化量をも含めるものとする。
【0019】
本発明においては、プライマープローブと対応核酸とのハイブリダイゼーションによるプライマープローブと核酸の複合体のことをハイブリッド、又はハイブリッド複合体、又は単に、核酸・プライマー複合体又はプライマー・核酸複合体という。
【0020】
核酸ポリメラーゼとは、核酸を合成する能力を有するものである。代表的な例として、DNAポリメラーゼ類、RNAポリメラーゼ類、逆転写酵素類(reverse transcriptase)、リガーゼ類を挙げることができる。
【0021】
DNAポリメラーゼの場合は、エキソヌクレアーゼ活性を有していても、有さなくてもよい。精製されたもの若しくはされない粗酵素の状態のどちらでもよい。又、酵素の起源(微生物、動物、植物)については特に限定されない。好適には耐熱性を有するものがよい。本発明においてはこれら以外にも、遺伝子工学的に前記酵素のアミノ酸配列が改変されたものも含めるものとする。
【0022】
好適な具体例として、Vent(exo−)DNA Polymerase(サーモコッカス・リトラリス由来、Tgo(exo−)DNA Polymerase、ThermoSequenase DNA Polymerase(Armersham社製、AmpliTagGold polymerase、T7 Sequenase DNA Polymerase、Taq、LaTaq(TAKARA BIO INC.)、Pfu(STRATAGENE社)、KOD(TOYOBO社)等を挙げることができる。
【0023】
本発明でいう蛍光物質(蛍光色素という場合もある。)とは、一般に核酸プローブに標識して、核酸の測定・検出に用いられている蛍光物質の類である。例えば、フルオレセイン(fluorescein)又はその誘導体類(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)(FITC)若しくはその誘導体等)、Alexa 488、Alexa 532、Cy3、Cy5、6−joe、EDANS、ローダミン(rhodamine)6G(R6G)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine)(TMR)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetramethylrhodamine isothiocyanate)(TMRITC)、x−ローダミン(x−rhodamine)、テキサスレッド(Texas red)、ボデピー(BODIPY)(商標名)FL(商品名;モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社製、米国;BODIPYについては以下同様である。)、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)5−FAM、ボデピー(BODIPY)TMR又はその誘導体(例えば、ボデピー(BODIPY)TR、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、、ボデピー(BODIPY)493/503、タムラー(TAMRA)等を挙げることができる。
【0024】
上記の中でも、TAMRA、FITC、EDANS、テキサスレッド、6−joe、TMR、Alexa 488、Alexa 532、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)FL、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)TMR、ボデピー(BODIPY)5−FAM、ボデピー(BODIPY)493/503、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、Cy3、Cy5、x−Rhodamine等を好適なものとして挙げることができる。
クエンチャー物質とは、前記蛍光物質に作用して、その発光を抑制若しくは消光する物質である。例えば、Dabcyl、NFQ、QSY7(モルキュラー・プローブ)、QSY33(モルキュラー・プローブ)、Ferrocene又はその誘導体、methyl viologen、N,N’−dimethyl−2,9−diazopyrenium等、好適にはDabcyl、NFQ等を挙げることができる。
前記のような、蛍光物質及びクエンチャー物質を、オリゴヌクレオチドの特定の位置に標識することにより、蛍光物質の発光は、クエンチャー物質によりクエンチング効果を受ける。
【0025】
以下、本発明の特徴を説明する。
本発明の目的を達成するため、1つの試料中に多く含まれる核酸又は1つの試料中で本発明の核酸増幅方法により多く増幅される核酸を検索することと同時に、自然界より得られる多くの試料の中から、同一機能を有する核酸を多く含む試料を選択(スクリーニング)するのが更なる本発明の目的である。それで、当該目的に適うように手順が構成されている。
【0026】
本発明は4つの発明からなっているが、核酸増幅方法、Tm値解析方法、多型解析方法、アンカーPCR方法の組合せに特徴を有するものである。
A.第1発明:
次の手順からなっている。
1.少なくとも1種の核酸を含む試料を少なくとも1種を用意する。
本発明でいう少なくとも1種の核酸を含む試料とは、自然界の任意の場所、例えば、汚水、水田地、畑地、山地、沼地、動物体内、動物の各種臓器内等の生物が生存できる箇所又はかって生存したところで採取されるものであり、特別に限定できるものではない。又、各種生物の各種細胞をも含めるものとする。系内の全核酸を含むものでも、一部を含むものでもよい。又、核酸抽出を施されたものでも、されないものでもよい。核酸とは前記の定義のとおりである。
【0027】
2.この試料の各々について、少なくとも1種の核酸について核酸増幅反応を行い、核酸増幅を確認する。この場合、増幅反応と同時に増幅核酸の増幅前及び/又は増幅後の濃度若しくはコピー数を測定しておくのが好適である。
本発明でいう核酸増幅方法とは、インビトロ(in vitro)で核酸を増幅する方法のことをいう。公知、未公知を問わない。例えば、PCR方法、LCR方法(ligase chain reaction)、TAS方法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)方法、LAMP方法、NASRA方法、RCA方法、TAMA方法、UCAN方法等を全て含めるものとする。好適には少なくとも1種のフォワード(forward)型及びリバース(reverse)型からなるプライマープローブを用いる、少なくとも1種のPCR方法である。
【0028】
前記PCR方法はどのような形式のものでも採用できる。例えば、定量的PCR方法、リアルタイム定量的PCR方法、RT−PCR、RNA−primed PCR、Stretch PCR、逆PCR、Alu配列を利用したPCR、多重PCR、混合プライマープローブPCR、PNAを用いたPCRを挙げることができる。そして、当該PCR方法は、PCRにより増幅した核酸について、融解曲線の解析若しくは分析の方法等をも含むものとする。好適には定量的PCR方法若しくはリアルタイム定量的PCR方法を採用する。
【0029】
PCR方法に用いる少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるプライマープローブとしては、本発明を達成できるものであれば、どのようなものでもよいが、少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるコンセンサスプライマープローブを用いるのが好適である。本発明においては、試料中にコンセンサス塩基配列を有する核酸(同一機能を有する核酸)が存在すると仮想して核酸増幅反応を行う。更に、当該コンセンサスプライマープローブが、フォワード型及び/又はリバース型において、少なくとも1種の蛍光物質で標識された蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブであるものが好適である。少なくとも1種の蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブとしては、少なくとも1種のQプローブ若しくはサンライズプローブを用いるのが好ましい。当該プライマープローブの具体的には後記した。
【0030】
核酸増幅反応において、核酸増幅反応が起こったことを確認する。これは、蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブ、特に、Qプローブ若しくはサンライズプローブを用いることにより容易にできる。即ち、核酸増幅反応系の蛍光キャラクターの変化量をリアルタイムで測定し、その測定値から確認できる。又、場合によっては、同時にこの蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いるPCR方法では、増幅核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を測定できる。これらの具体的方法については後記した。
【0031】
本発明は、又、少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなる蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブが、複数のものであり、各々、異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを使用する核酸の取得方法でもある。
即ち、本発明においては、1つの核酸増幅反応系において、増幅対象の核酸は、複数種の同一機能核酸種であってもよい。例えば、当該反応系において、A機能を有する核酸種、B機能を有する核酸種を同時に増幅してよい(但し、AとBは等しくない。)。各々異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された、複数の蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いて、複数種の同一機能核酸種を一つの反応系で増幅してもよい。そして核酸増幅反応系の蛍光強度の測定に際しては、複数種の測定波長で測定するのが好適である。それで、測定装置は複数の測定波長で同時に測定できるものを使用するのがよい。例えば、スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)等を挙げることができる。その他の具体例は後記のPCR方法の箇所に記載した。この核酸増幅方法においては、試料中の核酸種の多少にとらわれずに増幅核酸の増幅前及び/又は増幅後の濃度若しくはコピーを測定しておくことができ、又、好適である。
【0032】
3.少なくとも次の1)〜3)の何れか1項の手順を行い、濃度的優先核酸種又は新規核酸種若しくは同一機能核酸種(以下、新規若しくは同一機能核酸種という。)を特定する。
1)増幅核酸種の中で、増幅前若しくは増幅後の濃度的優先核酸種を特定する。
即ち、1種のコンセンサスプライマープローブを用いて増幅された増幅核酸種は必ずしも1種ではない。それで、濃度の高い核酸種を特定するのが好適である。この場合、増幅産物を公知の0.5%(w/v)〜1.5%(w/v)のアガロースゲル又は6〜8%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いる電気泳動方法(生物工学実験書、97〜163ページ、1993年、日本生物工学会編、培風館出版)、若しくは一般的(各種充填剤をもつ)HPLC方法、、シークエンサー方法で分析又は解析することにより容易に特定できる。尚、電気泳動方法、HPLC方法、シークエンサー方法は従来公知の条件で行うことが好ましい。シークエンサーとしては、例えば、ABI 373A(ABI社のシークエンサー)、ABI377(ABI社のシークエンサー)、Biofocus 3000(バイオラット社)等を挙げることができる。
【0033】
2)(a)増幅核酸について温度解離曲線(Tm値)を測定する。
この手順は増幅核酸について、低い温度から核酸が完全に変性するまで、温度を徐々に上げる過程(例えば、50℃から95℃まで)、この過程において、短い時間間隔(例えば、0.2℃〜0.5℃の温度上昇に相当する間隔)で蛍光強度を測定する過程からなっている。この場合も蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブを用いると、好適なデータが得られる。具体的には後記及び実施例で示した。
(b)温度解離曲線の中に、特異的な温度解離曲線(Tm値)が検出された場合は、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す核酸種を特定する。特定する方法は前記同様に増幅産物を公知の電気泳動方法若しくはHPLC方法、シークエンサー方法等で分析又は解析することにより容易にできる。
【0034】
3)増幅核酸について多型解析を実施し、新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
多型解析方法は、本発明の目的を達成できる方法であれば、如何なる方法でもよいが、公知の方法で行うのが好適である。例えば、T−RFLP方法、SSCP方法、CFLP方法、ARMS方法、direct−sequence方法、MPH方法のいずれを使用しても本発明の目的が達成できる。
【0035】
前記の各種方法の中でもT−RFLP方法が本発明において好適に利用できる。そこで、本発明の一つの例として、以下に当該方法を説明する。
Qプローブをプライマープローブとして用いる定量的PCR方法、特にリアルタイム定量的PCR方法で、遺伝子を増幅し、且つ増幅前の初期遺伝子量を測定する。そして、その増幅核酸について、T−RFLP方法で多型を解析する。尚、Qプローブをプライマープローブとして用いて増幅された核酸は5’末端が本発明の蛍光物質で標識されている。
【0036】
即ち、次の(a)〜(c)の手順からなる。
(a)先ず、増幅核酸を制限酵素で処理(消化)する。
制限酵素の種類は特に限定されない。好適には、例えば、BbvCI、PflFI、RsrII、Sap、SexAI、AscI、FseI、NotI、PacI、Pme、SbfI、SfiI、SgrAI、SwaI、HhaI、AluI、MspI等を挙げることができる。
使用濃度も目的・制限酵素の種類により種々変化するので特に限定されない。一例として、0.01〜10units/μl、好適には0.1〜1.0units/μlである。
反応条件は、制限酵素の種類により異なるため、一概にはいえないが、公知のものでよい。制限酵素の試薬キットに添付されているプロトコールに準じればよい。一例の制限酵素について実施例に示した。
【0037】
(b)前記のようにして消化された遺伝子断片について、加熱変性して、一本鎖化することが好適である。この変性処理も公知の通常の条件で行うことができる。例えば、97℃、5分処理後、氷中にて冷却する。
(c)遺伝子断片の分析・解析
前記の処理物について、遺伝子断片の分析・解析をする。本発明の多型解析方法では、蛍光物質で標識された遺伝子断片だけを、電気泳動方法、HPLC方法、シークエンサー方法等で分析し、解析することになる。即ち、蛍光強度値で各バンド、各ピークを検出する。検出は現在市販されている通常の分析機器を使って行うことができる。例えば、ABI 373A(ABI社のシークエンサー)、ABI377(ABI社のシークエンサー)、Biofocus 3000(バイオラット社)等を挙げることができる。
【0038】
本発明において、前記分析で、複数のバンド、又は複数のピークが出現することは多型が存在することになる。シングルバンド又はシングルピークの場合は多型が存在しないことになる。各バンド又は各ピークの蛍光強度値の比は、とりもなおさず多型の存在比になる。前記の本発明の定量的PCR方法ではPCRを行う前の標的遺伝子の量が測定され得る場合があるので、この測定値に前記の多型の比を乗ずれば、多型の初期存在量が求められることになる。この多型分析・解析により、電気泳動方法を使用せずとも増幅核酸中の新規若しくは同一機能核酸種の濃度的優先核酸種を特定できる場合がある。
【0039】
多型に関して、このようにしてデータを出す方法は、本発明のQプローブを用いる定量的PCR方法を使用することにより初めて可能になるものである。
上記の一連の手順操作で、検出された核酸がどのような多型のものか判明する。又、その濃度も計算できるようになる。
本発明において、この方法だけで、新規若しくは同一機能核酸種を特定することができる場合が出てくる。例えば、試料中に存在する新規若しくは同一機能核酸が1種若しくは2種の場合である。
【0040】
上記の手順、即ち、1)〜3)のいずれか1項だけで次の手順へ進んでもよいが、好ましくは複数項にまたがった方がよい。例えば、1)→2)→3)、2)→1)→3)、3)→2)→1)、1)→2)、1)→3)、2)→3)、2)→1)、3)→1)、3)→2)の如くである。好適には1)→2)→3)、2)→1)→3)である。これは、単に例示であって、この例示により本発明は限定されるものではない。
本発明において、これらの手順で、増幅核酸の中に新規若しくは同一機能核酸種を特定することが可能となる。
【0041】
4.前記3)の情報に基づいて、増幅核酸種について塩基配列を解読・決定する。
好適には前記多型解析で得られる核酸断片について部分的塩基配列の解読・決定する。この場合、サイクルシークエンス反応試薬キット(thermoSequenase(Amersham)、AmpliTaqKS(Perkin Elmer))を用いて、サイクルシークエンス方法(蛍光物質標識プライマープローブ方法、蛍光物質標識ターミネーター方法)によりシークエンス決定反応を行うのが好適である。当該反応は市販されている自動蛍光シークエンサー(例えば、ABI3739/377(PerkinElmer))を用いて行うのが便利である。そして、シークエンサー等(例えば、PJ9600、Vistra(Amersham)、CATALYST(PerkinElmer))を利用して塩基配列を解析し、塩基配列を決定する(実験医学(Experimental Medicine),p.29〜35,Vol.15,No.7,1997年,羊土社)。具体的手順は市販のシークエンサー又は試薬キットに添付されている手順書に従うのがよい。
【0042】
5.前記4の塩基配列の解読・決定から得られる塩基配列情報に基づいて、増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
得られた塩基配列情報を既知のものと比較検討することにより、容易にできる。例えば、EntrezのNucleotides database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide)、EBI/EMBL(http://www.ebi.ac.uk/embl)、NCBI/GenBank(http://www.ncbi.)lm.nih.gov/Genbank/index.html)、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)にアクセスし、既知の塩基配列とコンピュータで比較検討すればよい。
尚、本手順の決定された同一機能核酸種の塩基配列の情報だけで、同一機能核酸種は既知のものと同じものであると決めることはできない。増幅核酸は同一機能核酸種の全塩基配列を増幅しているとは限らないからである。
【0043】
6.前記5から得られる塩基配列情報に基づいて、新規若しくは同一機能核酸種に特異的なプライマープローブを設計する。
プライマープローブは前記1と同様の形態・形式でよい。具体的には後記に示した。
7.前記6で設計されたプライマープローブを用いる核酸増幅方法により、前記1に記載の核酸を含む試料について、新規若しくは同一機能核酸種の増幅を行う。
増幅方法は、前記1と同様に行うことができる。
【0044】
8.前記2の増幅核酸の中から新規若しくは同一機能核酸種の全長を取得する。
公知の一般的方法で取得できる。例えば、0.5〜1.5%(w/v)アガロースを用いる電気泳動方法で分離してもよく、又、新規若しくは同一機能核酸種の全長をプラスミドに組み込むクローニング方法を採用してもよい(実験医学、15巻、12〜19ページ、1997年、羊土社)。このようにして、上記の一連の手順操作で、新規若しくは同一機能核酸種の全長の塩基配列のサイズが判明し、且つ取得されることになる。
【0045】
このようにして取得された新規若しくは同一機能核酸種は、ベクターに連結され、新規若しくは同一機能核酸のクローンライブラリー作成ができる。尚、クローニング及びシークエンスを念頭に置いたPCRを行う場合は、蛍光物質で標識されていないプライマープローブを用いるのが好適である。これは蛍光物質で標識された産物は、クローニング&シークエンスの工程で不可欠なベクターとのライゲーションの基質にならないためである。
【0046】
ベクターに連結された新規若しくは同一機能核酸(遺伝子)を用いて、微生物(例えば、大腸菌、酵母等)、動物又は植物の培養細胞を形質転換して、遺伝子発現を検討するのがよい。そして、発現量及び/又は発現産物の機能(例えば、酵素活性等の生理的活性等)を測定する。この操作により新規有用核酸を特定することが可能となる。
新規若しくは同一機能核酸の発現量及び/又は発現産物の機能を検討するには、当該核酸を前記細胞に直接挿入してもよい。
【0047】
これらは、従来公知の方法で容易に達成できる(実験医学,p.12〜19,Vol.15,No.7,1997年,羊土社)。例えば、好適なベクターとしては、YAC、BAC等を挙げることができる。
【0048】
ベクターに連結する方法は、平滑末端クローニング、TAクローニング、制限酵素を利用したクローニング等で行ってよい。又、第2発明の箇所に示したライゲーション方法と同様に行ってよい。
クローンライブラリー作成は、従来通常の方法で行ってよく、例えば大腸菌等のホスト菌が利用できる。
【0049】
本第1発明の手順については、以下の特徴を有する。
試料中に含まれる核酸種については下記の順で発明が実施されるのが好適である。
(1)前記3の1)においては、増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
(2)前記3の2)においては、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
(3)前記3の3)においては、新規或いは標的の核酸と特定された増幅核酸の増幅前若しくは増幅後の濃度が高い核酸種の順に、手順4を実施する。
【0050】
又、核酸を含む試料については下記の順で発明が実施されるのが好適である。
(1)前記3の1)においては、増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、手順4を実施する。
(2)前記3の2)においては、特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は特異的な温度解離曲線(Tm値)を示す増幅核酸種を多く含む試料の多い順に、手順4を実施する。
(3)前記3の3)においては、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種を多く含む試料の順に、手順4を実施する。
(4)前記4においては、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸の増幅前の濃度が高い核酸種を含む試料の順に、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種を多く含む試料の順に、手順4を実施する。
【0051】
本発明のPCR方法に好適に用いることができるプライマープローブは例示するならば、下記のようなものである。
フォワードプライマープローブとリバースプライマープローブを使用する(これは以下の記載においても同様である。)。
標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズしたとき、蛍光強度が変化する蛍光物質標識核酸プローブで、且つPCRのプライマーとして利用できるものであればどのような形式のプローブでもよい。そして、コンセンサスプライマープローブが好適である。
【0052】
それで、本発明においては、コンセンサスプライマープローブ、コンセンサスプローブともいう。それで、このプローブは、コンセンサスな塩基配列がプロモター領域であるならば、数多くの遺伝子を増幅させることができる。又、当該プローブの塩基配列がタンパク質をコードする塩基配列にコンセンサスなもの、若しくは共通するものであるならば、同一機能遺伝子群を全て増幅することができる。
【0053】
好適に用いることができるプライマープローブとしては、具体的には、オリゴヌクレオチドからなり、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーであり、且つ、標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズする塩基配列を含むオリゴヌクレオチドから形成され、相補的塩基配列にハイブリダイズすることで光学的キャラクターが変化する特質を有する蛍光物質標識プライマープローブである。
【0054】
前記プライマープローブの形式としては、蛍光物質及び/又はクエンチャー物質で標識されているもの、好適には、蛍光物質間の相互作用、好適には、蛍光物質間、又は蛍光物質とG(グアニン)間で相互作用をおこす蛍光物質及び/又はクエンチャー物質で標識されているものである。
具体的には、光学的キャラクター変化が蛍光消光現象であるQプローブ(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34)、又、光学的キャラクター変化が蛍光発光増加であるサンライズプローブ(Mackay et al.,Nucleic acid Research,1292−1305page,vol.30,No.6,2002,Nazarenko et al.,Nucleic acids Res.,25、2516−2521,1997)の類を最も好適な例として挙げることができる。しかしながら、本発明においてはこの例に限定されるものではない。
Qプローブを使用するPCR方法はQP−PCRと称される。Quenching primer或いはprobeという意味である。
【0055】
前記Qプローブの好適な形態は、以下の少なくともいずれか1の特質を有するものである。
(a)1本鎖のオリゴヌクレオチドからなり、少なくとも3’末端部位の塩基配列は、標的核酸にハイブリダイズするように設計されており、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーである。勿論プライマープローブ全体が標的核酸とハイブリダイズするものでも構わない。そのハイブリダイゼーションにより、PCRのプライマーとして利用される。
(b)5’末端部位(鎖中でもよい、又、5’末端でもよい。以下同様。)の塩基配列がC(シトシン)を含むものである。
【0056】
(c)前記(b)において、5’末端部位の塩基配列に含まれるCに蛍光物質が標識されている。
(d)前記(c)において、5’末端部位の塩基配列が相補的塩基配列とハイブリダイズするか若しくはしない塩基配列を含むものである。
(e)前記(d)において、相補的塩基配列とハイブリダイズしない塩基配列を塩基数にして1〜20塩基を含むものである。
(f)当該プローブが標的核酸にハイブリダイズしたとき、又、核酸増幅反応中、プローブに標識されている蛍光物質の蛍光発光が減少する。
【0057】
前記を例示すると、以下のようなものである。
その蛍光物質の標識位置は5’側の糖部位及び/又はそのリン酸部位、塩基部位のどちらでもよい。そしてその部位は5’側であればよく、必ずしもその末端若しくはその部位でなくともよい。好適には5’末端である。
そしてQプローブの場合、標識部位の塩基が、C(シトシン)であるものが望ましい。しかし、必ずしも、Cである必要はなく、Qプローブと標的核酸がハイブリダイズしたとき、標識塩基に相補する標的核酸の塩基から1〜3塩基離れて(標識塩基に相補する標的核酸の塩基を1と数える。)標的核酸にG(グアニン)が存在すればよい。又、当該プローブの標識部位から1〜3塩基離れて(標識塩基を1と数える。)G塩基が存在してもよい。
【0058】
又、5’末端がCである場合、当該Cが試料中の標的核酸とハイブリダイズしなくともよい。これは、核酸増幅反応中に当該Cに相補的なGが合成されるからである。そして、Cとハイブリダイズする塩基配列の間に任意な塩基配列が介在してもよい。介在塩基配列が塩基数1〜30、好ましくは、1〜20である。塩基配列は、任意のものでよいが、好適にはCを含むものである。このようなプライマープローブである場合、PCRの増幅産物とハイブリダイズしたとき、前記の現象により蛍光強度を減少させることができる。減少量が対応核酸の濃度に比例する。
【0059】
サンライズプローブの形態は、1本鎖のオリゴヌクレオチドからなり、その末端若しくは末端部位(好ましくは5’末端側)が1つの蛍光物質で、他の領域(鎖中)に一つの自らは蛍光を発しないクエンチャー物質(又、アクセプター蛍光物質(この場合、末端若しくは末端部の蛍光物質はドナー蛍光物質という。))が一般的に標識されている。そして、対応核酸にハイブリダイズしていないときは、プローブ分子内の塩基配列の相同性から、標識された塩基間でステム(stem)・ループ(loop)構造を形成する。当該構造の形成により、蛍光物質とクエンチャー物質が互いに近い位置に配置される。当該配置によりFRET現象がおこり、蛍光物質の蛍光発光が抑制される。しかしながら、プローブが対応核酸とハイブリダイズすると、ステム・ループ構造が壊れる。そうするとFRET現象が解消し、蛍光物質の蛍光発光が増大する。対応核酸の濃度は、測定系の蛍光物質の蛍光強度の増加量に比例する。当該プローブを用いるPCR方法をサンライズPCR方法という。
【0060】
そして当該プローブは少なくとも3’末端部位の塩基配列は、標的核酸にハイブリダイズするように設計されており、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーである。勿論プライマープローブ全体が標的核酸とハイブリダイズするものでも構わない。そのハイブリダイゼーションにより、PCRのプライマーとして利用される。
【0061】
前記どちらのプライマープローブにおいても、塩基配列の一部若しくは全部は、標的核酸の相補的塩基配列にハイブリダイズするものである。具体的には、既知の同一機能を有する核酸種群から認識されるコンセンサスな塩基配列の一部又は全部にハイブリダイズする塩基配列を含むものであればよい。
プライマープローブの使用濃度は、目的により、即ち、試料に含まれる核酸の濃度等により種々の濃度を変化させるので特に限定されない。一例を挙げるならば、0.01〜1.0μM/L、好ましくは0.1〜0.5μM/Lである。
そして、増幅される標的核酸は蛍光物質で標識される。
尚、前記のプライマープローブは従来公知の方法で、作成できる。本発明で用いる各種のプライマープローブのオリゴヌクレオチドは、市販されている核酸合成機を使用するのが好適である(例えば、ABI394(Perkin Elmer社製、USA))。
【0062】
オリゴヌクレオチドに蛍光物質及び/又はクエンチャー物質を標識するには、従来公知の標識法のうちの所望のものを利用することができる(Applied and Environmental Microbiology、63巻、1143〜1147頁、1997年)。例えば、5’末端に前記標識物質分子を結合させる場合は、先ず、常法に従って5’末端のリン酸基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−SHを導入する。これらの導入体は市販されているので市販品を購入してもよい(Midland Certified Reagent Company)。この場合、nは3〜8、好ましくは6である。このスペーサーにSH基反応性を有する前記標識物質又はそれらの誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された前記標識物質で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の標的核酸プライマー及び核酸プローブとすることができる。
【0063】
又、オリゴヌクレオチドの3’末端塩基も標識できる。
この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−NH2を導入する。これらの導入体も前記と同様にして市販されているので市販品を購入してもよい(メドランド・サーティファイド・レージント・カンパニー(Midland Certified Reagent Company))。又、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にスペサーとして、例えば、−(CH2)n−SHを導入する。これらの場合、nは3〜8、好ましくは4〜7である。このスペーサーにアミノ基、SH基に反応性を有する前記標識物質又はそれらの誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。
【0064】
又、オリゴヌクレオチドの鎖中塩基も標識できる。
塩基のアミノ基又はOH基を5’又は3’末端の方法と同様にして本発明の前記標識物質で標識すればよい(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 225、32−38頁(1998年))。
アミノ基に導入する場合、キット試薬(例えば、Uni−link aminomodifier(CLONTECH社製、米国)、フルオ・リポーターキット(FluoReporter Kit)F−6082、F−6083、F−6084、F−10220(いずれもMolecular Probes社製、米国))を用いるのが便利である。そして、常法に従って当該オリゴリボヌクレオチドに前記標識物質分子を結合させることができる。
このようにして合成されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の標的核酸プライマープローブとすることができる。
現在は委託合成で任意のものが入手できる((株)日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp))。又、商品化されているものを入手してもよい。
【0065】
前記したプライマープローブを用いて、核酸増幅方法、特にPCR方法、又はリアルタイム定量的PCR方法について、又、核酸増幅と同時に増幅核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を求めるデータ解析方法について、以下に記述する。
リアルタイム定量的PCR方法は、プライマープローブ(forward型、riverse型)と標的核酸のアニーリング反応、核酸伸長反応、核酸変性反応を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことにより、核酸増幅を行いながら、増幅核酸が変性された状態とプライマー・核酸複合体状態のPCR反応系の光学的キャラクターの変化を少なくとも1種の測定波長でリアルタイムでモニタリング(測定)する方法である。そして、少なくとも1種の測定波長で測定して得られる蛍光強度の変化率のカーブから増幅前の標的核酸の濃度を決める方法である。PCRの反応は、核酸が指数関数的に増幅しているサイクルまで反応を行うことにより目的が達成される。反応条件は公知のものでよい。具体的には実施例に示した。
【0066】
上記のPCR方法において、実際の測定は、測定・データ解析装置(それらの方法の手順を記録した電子記録媒体を装備したものも当然含むものとする。)を用いて測定をする。
即ち、本発明に利用するリアルタイム定量的PCR方法の実際の測定、それによって得られるデータを解析する方法は公知の方法で行えばよい。好適には、KURATAらの方法(KURATA et al.,Nucleic Acids Research,2001,vol.29,No.6,e34)を挙げることができる。
【0067】
具体的には以下の通りである。
リアルタイム定量的PCR方法は、現在、PCRを行わせる反応装置、少なくとも1種の測定波長で蛍光物質の光学的キャラクター変化を検出する装置、ユーザーインターフェース、即ち、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(別称:Sequence DetectionSoftware System)、及びそれらを制御し、データ解析するコンピュータから構成される装置で、少なくとも1種の測定波長を用いて、リアルタイムで測定されている。それで、本発明の測定もこのような装置で行われる。
【0068】
以下に、先ず、本発明の方法に用いるリアルタイム定量的PCRの解析装置から説明する。本発明において用いる装置は、PCRを少なくとも1種の測定波長を用いてリアルタイムでモニタリングできる装置であればどのような装置でもよいが、例えば、ABI PRISMTM7700塩基配列検出システム(Sequence Detection System SDS 7700)(パーキン・エルマー・アプライド・バイオシステム社(Perkin Elmer Applied Biosytems社、USA))、ライトサイクラーTMシステム(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、ドイツ)等を特に好適なものとして挙げることができる。
【0069】
尚、前記のPCR反応装置は、標的核酸の熱変性反応、アニーリング反応、核酸の伸長反応を繰り返し行う装置(例えば、温度を95℃、60℃、72℃に繰り返し行うことができる。)である。又、検出システムは、蛍光励起用アルゴンレーザー、スペクトログラフ並びにCCDカメラ、少なくとも1種の蛍光測定用チャンネルを装備している。更に、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータにインストールされて使用され、コンピュータを介して上記のシステムを制御し、検出システムから出力されたデータを解析処理するプログラムを記録したものとなっている。
【0070】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されているデータ解析用プログラムは、サイクルごとの蛍光強度を測定する過程、測定された蛍光強度を、サイクルの関数として、即ちPCRのamplification plotとしてコンピュータのディスプレー上に表示する過程、蛍光強度が検出され始めるPCRサイクル数(threshold cycle number:Ct)を算出する過程、Ct値から試料核酸のコピー数を求める検量線を作成する過程、前記各過程のデータ、プロット値を印字する過程、からなっている。PCRが指数的に進行している場合、PCR開始時の測定対象のPCR反応開始前の標的核酸のコピー数のLog値と、Ctとの間には直線関係が成り立つ。従って標準核酸の既知量のコピー数を用いて検量線を作成し、未知コピー数の標的核酸を含むサンプルのCtを検出することにより、標的核酸のPCR開始時の初期コピー数を計算できる。
【0071】
以下に各特徴について記す。
第1の特徴は、リアルタイム定量的PCR方法で得られ、且つ、各測定波長について得られたデータを解析する方法において、各サイクルにおける増幅した分析対象の核酸が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)プライマープローブにハイブリダイズしたときの当該プライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値を、各サイクルにおける当該プライマープローブと当該核酸がハイブリダイズしたもの(即ち、プライマー・核酸複合体)が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値により補正する演算処理過程、即ち、補正演算処理過程である。
【0072】
「増幅した核酸が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)プライマープローブにハイブリダイズしたときの当該プライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値」とは、具体的に例示すると、PCRの各サイクルにおける40〜85℃、好ましくは50〜80℃の反応温度を有する核酸伸長反応或いはアニーリングのときの反応系におけるプライマープローブを標識していた蛍光物質の蛍光強度値(より具体的には当該蛍光物質に関わる測定波長で測定した、当該反応系の蛍光強度値)を挙げることができる(以下、同様である。)。そして、反応が完了した反応系を意味する。実際の温度は増幅した核酸の長さに依存する。
【0073】
又、「前記のプライマー・核酸複合体が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値」とは、PCRの各サイクルにおける核酸の熱変性の反応系、具体的には、反応温度90〜100℃、好ましくは94〜96℃のときのもので、反応が完了した反応系におけるプライマープローブの蛍光物質に関わる測定波長で測定した場合の反応系の蛍光強度値を例示できる(以下、同様である。)。
【0074】
補正演算処理過程の補正演算処理としては本発明の目的に合致するものであればどのようなものでもよいが、具体的には、次の〔数式1〕或いは〔数式2〕による処理過程を含むものを例示することができる。
fn=fhyb,n/fden,n 〔数式1〕
fn=fden,n/fhyb,n 〔数式2〕
〔式中、
fn:〔数式1〕或いは〔数式2〕により算出されたn次サイクルにおける補正演算処理値、
fhyb,n:n次サイクルにおける、増幅した核酸が当該核酸に対応するプライマープローブとハイブリダイズしたときの反応系の蛍光強度値、
fden,n:n次サイクルにおける、前記のプライマー・核酸複合体が解離したときの前記蛍光物質の蛍光強度値〕
【0075】
第2の特徴は、各サイクルにおける〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値を次の〔数式3〕或いは〔数式4〕に代入し、各サンプル間の蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)を算出し、それらを比較するデータ解析方法である。
【0076】
Fn=fn/fa 〔数式3〕
Fn=fa/fn 〔数式4〕
〔式中、
Fn:n次サイクルにおける、〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)、
fn:n次サイクルにおける〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値fa:〔数式1〕或いは〔数式2〕による補正演算処理値で、fnの変化が観察される以前の任意のサイクル数のものであるが、通常は、例えば、10〜40サイクルのもの、好適には15〜30サイクルのもの、より好適には20〜30サイクルのものが採用される。〕
【0077】
第3の特徴は、
(3.1)〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)のデータを用いて、〔数式5〕、〔数式6〕或いは〔数式7〕による演算処理する過程、
logb(Fn)、ln(Fn) 〔数式5〕
logb{(1−Fn)×A}、ln{(1−Fn)×A} 〔数式6〕
logb{(Fn−1)×A}、ln{(Fn−1)×A} 〔数式7〕
〔式中、
A、b:任意の数値、好ましくは整数値、より好ましくは自然数である。そして、A=100、b=10のときは、{(Fn−1)×A}は百分率(%)で表わされる。
Fn:〔数式3〕或いは〔数式4〕により算出されたnサイクルにおける蛍光変化量(蛍光変化割合或いは蛍光変化率)〕。
【0078】
(3.2)前記(3.1)の演算処理値が一定値に達したサイクル数(Ct値)を求める演算処理過程、
(3.3)既知濃度の標準核酸を含む試料におけるサイクル数(Ct値)と反応開始時の標準核酸の初期コピー数の関係式を計算する演算処理過程、
(3.4)標的核酸を含む試料におけるPCR開始時の標的核酸のコピー数を求める演算処理過程、
を有するデータ解析方法である。そして、(3.1)→(3.2)→(3.3)→(3.4)の順からなる過程が好適である。
【0079】
尚、前記方法において、標準核酸を測定する反応系と標的核酸を測定する反応系を一緒にしてもよく、又、別々にしてもよい。
又、前記データ解析方法は、リアルタイム定量的PCR方法が蛍光物質の発光の減少量を測定するものである場合に特に有効である。
【0080】
第4の特徴は、前記の本発明の増幅核酸の温度解離曲線(融解曲線)の分析方法、又、本発明のPCR方法を行って核酸のTm値を求める方法によって得られるデータを解析する方法である。
即ち、本発明のPCR方法により増幅された核酸について、低い温度から核酸が完全に変性するまで、温度を徐々に上げる過程(例えば、50℃から95℃まで)、この過程において、短い時間間隔(例えば、0.2℃〜0.5℃の温度上昇に相当する間隔)で、少なくとも1種の測定波長の蛍光強度を測定する過程、少なくとも1種の測定波長についての測定結果を時間の関数としてディスプレー上に表示する過程、即ち、核酸の融解曲線を表示する過程、この融解曲線を微分して微分値(−dF/dT、F:蛍光強度、T:時間)を得る過程、その値を微分値としてディスプレー上に表示する過程、その微分値から変曲点を求める過程からなる、解析方法である。本発明においては、蛍光強度は温度が上がるごとに増加する。本発明においては、各サイクルにおける核酸伸長反応時、好ましくはPCR反応終了時の蛍光強度値を熱変性反応時の蛍光強度値を用いて割る演算処理する過程を上記の過程に追加することにより、より好ましい結果が得られる。
【0081】
前記のようにして第1発明の増幅核酸の温度解離曲線の測定ができる。
第1発明において、標的核酸に特異的プライマープローブの設計と調製を行う必要があるが、前記部分的塩基配列の解読の結果のデータに基づいて塩基配列を設計して、現在公知の方法により調製することができる。
【0082】
B.第2発明:
具体的に説明する前に本発明において使用する用語を定義する。
「アンカード(anchored)PCR方法」とは、図1に示されるように、アンチセンスプライマープローブ及び/又はセンスプライマープローブとセンスアダプタープライマープローブ及び/又はアンチセンスアダプタープライマープローブを用いて核酸増幅を行うPCR方法である(実験医学、15巻、No.7、52〜59ページ、1997年)。
【0083】
「リンカー対(リンカー1、リンカー2)」とは、二本のオリゴヌクレオチドからなり、互いのオリゴヌクレオチド鎖がハイブリダイズする領域と、ハイブリダイズしない領域を有するオリゴヌクレオチドペアのことをいう。本発明では、一方をリンカー1と他方をリンカー2という。アンカーPCR方法において使用されるもので、アンカーともいう(図1参照)。塩基配列は任意でもよい。
【0084】
「アンチセンスプライマープローブ」とは、1本鎖のオリゴヌクレオチドからなる1種のプライマープローブである。2本鎖の標的核酸が存在した場合、遺伝情報をもった核酸(例えば、DNAの場合)塩基配列のことをセンス鎖という。そして、それに相補する1方の鎖をアンチセンス鎖という。それで、この場合、少なくともアンチセンス鎖にハイブリダイズする塩基配列を含む(即ち、センス鎖の塩基配列の一部又は全部を含む)プライマープローブのことをいう(図1参照)。「少なくとも」の意味は、アンチセンス鎖の他にリンカー領域の一部にまたがってハイブリダイズしてもよいという意味である。「センスプライマープローブ」とは、アンチセンスプライマープローブとは逆でセンス鎖にハイブリダイズするプライマープローブのことをいう(図1参照)。
【0085】
「センスアダプタープライマープローブ」、「アンチセンスアダプタープライマープローブ」とは、当該プローブの塩基配列が少なくともリンカーの塩基配列、特に非相補的領域部分(リンカー1とリンカー2が互いにハイブリダイズしない塩基配列(図1参照))を含むものである。一方、試料に含まれる核酸の塩基配列の部分にハイブリダイズする塩基配列を含んでもよい。アンチセンスプライマープローブ又はセンスプライマープローブから伸長合成されてきた伸長核酸にハイブリダイズし、PCR反応のプライマーとなる。「少なくとも」の意味は、当該非相補的領域からはみ出た塩基配列領域を有していてもよいということである。
【0086】
センスアダプタープライマープローブは、標的核酸のセンス鎖の方のリンカーの非相補的塩基配列を含むものである。アンチセンスアダプタープライマープローブは、アンチセンス鎖の方のリンカーの非相補的塩基配列を含むものである。アンチセンス若しくはセンスプライマープローブとセンス若しくはアンチセンスアダプタープライマープローブの関係は一方をforward primerとすると他方はreverse primerである。
尚、センスアダプタープライマープローブとアンチセンスアダプタープライマープローブは共通(同一)のものであってもよい。図1に示されているのは共通(同一)のものである。
【0087】
少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法(図1参照):1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、少なくとも1種の制限酵素処理を行う。
この場合の制限酵素処理は第1発明の多型解析の項に記した方法と同様に行えばよい。反応後、例えばAcclの場合、65℃、30分間加熱処理して制限酵素を失活させることが好ましい。失活温度及び時間は、制限酵素によって異なるため注意が必要である。又、当該処理物を、例えば、スピンカラム(MicroconPCR)(Millipore Corporation Bedford、MA、USA;以下同様である。)を用いて精製してもよいし、しなくともよい。反応バッファーは、制限酵素試薬に付属のものを用るのが便利である。
第2発明における、「少なくとも1種の核酸を含む試料」は、第1発明と同様である。
【0088】
2)少なくとも1種のリンカー対(以下、リンカー1、リンカー2という。)を前記(1)の制限酵素処理物に添加し、ライゲーション(ligation)反応を行う。
本発明のライゲーション反応は、平滑末端連結結合反応(blunt−end ligation)、TA結合反応等の通常の公知方法(実験医学、p.12〜19、Vol.15、No.7、1997年、羊土社)で行えばよく、特に限定されない。
【0089】
ライゲーション反応形式は、例えば、前記制限酵素処理により生成した核酸断片の末端の構造に依存する。核酸断片の5’末端がリン酸化されているならば、リンカーは無処理でよい。リンカーの5’末端をキット試薬でリン酸化し、核酸断片をフォスファターゼ処理しておいてもよい。そして、例えば、平滑末端連結結合反応の場合は、市販の各種キット試薬を利用すると便利である(実験医学、p.12〜19、Vol.15、No.7、1997年、羊土社)。一例として、平端平滑化−Blunting kit(TAKARA BIO INC.)、連結反応−DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA BIO INC.)、5’リン酸化−MEGALABELTM(TAKARA BIO INC.)等を挙げることができる。TA結合の場合は、T−Vector Kits(Novagen社)、TA Cloning Kits(Invitrogen社)、PGEM−T Vector System(Promega社)等を挙げることができる。具体的手順、反応条件等はキット試薬に添付されているプロトコールに従えばよい。
【0090】
反応物は精製してもよく、しなくともよい。精製する場合は、前記スピンカラムを使用して行うのが便利である。
次のアンカーPCR反応のために、精製物を乾燥して、少量の滅菌水に溶かしてライゲーションされた核酸の濃度を高めるのが好適である。このDNA物を次のアンカーPCR反応の鋳型DNAとする。
リンカー等の塩基配列の具体的例は実施例に示した。
【0091】
3)前記(2)に記載の反応物を二つに分け(一方をAとし、他方をBとする。)、次の反応を行う。
(1)Aについて次の(a)及び(b)の反応を同時又は逐次的に行う:
(a)少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブを、Aに添加し、核酸伸長反応を行う。
(b)少なくとも1種のアンチアダプタープライマープローブを、A又は前記(a)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
反応条件は前記のPCR反応条件と同様でよい。例えば、当該アンチセンスプライマープローブの添加濃度は0.01〜2μmol/L、好適には0.1〜0.5μmol/Lで、アダプタープローブの添加濃度は0.01〜2μmol/L、好適には0.1〜0.5μmol/Lである。核酸伸長反応時間は1〜1800sec、好適には10〜400sec、DNA、RNA等のポリメラーゼ類は、前記PCRに記載したものと同様のものが使用できる。使用濃度は0.01〜10u/反応液(20μl)、好ましくは0.1〜3u/反応液(20μl)である。反応温度は前記のPCR反応と同様でよい。例えば、40〜85℃、好ましくは50〜80℃である。
【0092】
(2)Bについて、前記Aと同様にして、次の(c)及び(d)の反応を同時又は逐次的に行う:
(c)少なくとも1種のセンスプライマープローブを、Bに添加し、核酸伸長反応を行う。
(d)少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブを、B又は前記(c)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
4)A及びBの最終反応物を混合して、新たなプライマーを添加せずに前記のPCRの記載と同様の条件にてPCR反応を行う。
反応条件は前記と同様でよい。
【0093】
アンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブは、前記の蛍光物質の少なくとも1種で標識されたプローブを使用するのが好適である。それは、反応生成物の解離曲線解析を行って、反応生成物を確認できるからである。そして、蛍光物質の標識位置は、オリゴヌクレオチドの5’側の塩基であることが好ましい。その場合、Cのアミノ基又はOH基であることが好適である。これらの中でも、特に前記Qプローブタイプを使用するのが好適である。
【0094】
本発明において、複数種の蛍光物質標識アンチセンスプライマープローブと複数種のアンチアダプタープライマープローブを用いて前記の核酸伸長反応を行ってよい。又、同様に、複数種の蛍光物質標識センスプライマープローブと複数種のセンスアダプタープライマープローブを用いて前記の核酸伸長反応を行ってよい。この場合、複数種のセンスプライマープローブ、アンチセンスプライマープローブは、各々異なった塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された少なくとも1種のものである。
【0095】
即ち、少なくとも1種の蛍光物質で標識された少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブが複数のものであり、当該複数の蛍光物質標識プローブが、各々異なった塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された少なくとも1種の蛍光物質標識アンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブを用いる核酸の取得方法である。この場合、複数種の有用核酸(目的遺伝子)が取得できる。
【0096】
第2発明において、手順4)に移行する手順3)の最終反応生成物は、各種の電気泳動方法、各種のHPLC方法で精製してもよい。又、最終反応液そのものでも、十分に本発明の目的が達成できる。
第2発明の手順4)のPCR産物は、その後、前記同様の電気泳動で分離されてもよい。そして、制限酵素で有用核酸(目的遺伝子)とリンカーを切り離すことにより、有用核酸を分離することができる。又、電気泳動で分離する前に、制限酵素で、リンカーを切り離してから電気泳動にかけるのが好適である。
【0097】
このようにして、上記の第2発明の一連の手順操作で、標的核酸中の目的塩基配列部分、即ち、標的核酸(目的遺伝子)のサイズが判明し、且つ取得されることになる。
前記のようにして分離された核酸(遺伝子)は、第1発明の場合と同様にして、その発現量及び/又は発現産物が検討される。
かくして新規有用遺伝子が取得される。
【0098】
C.第3の発明
第1発明と第2発明を結合する発明である。即ち、少なくとも次のいずれか1項に該当する発明である。
1)第2発明の少なくとも1種の核酸を含む試料は、少なくとも次の何れか1項である:
(1)第1発明のものと同一である、
(2)第1発明に記載の最終物即ち最終反応液(物)、又はその分離・精製物であるもの(例えば、各種の電気泳動方法、各種のHPLC方法の処理にて分離・精製されたもの)、即ち、第1発明において新規若しくは同一機能核酸種と特定された核酸若しくはそれを含むもの。
【0099】
2)第2発明の制限酵素処理されたものが、第1発明において、多型解析・分析のために制限酵素処理されたものを用いる発明である。
3)第1発明で得られた情報を利用する発明である。
4)第1発明で開発された新規若しくは同一機能核酸種と特定された核酸種の塩基配列を利用する発明である。即ち、当該塩基配列の一部又は全部にハイブリダイズできる塩基配列を、アンチセンスプライマープローブ又はセンスプライマープローブの塩基配列が含んでいるものである。
5)第1発明において使用したコンセンサスプライマープローブの塩基配列の一部又は全部を、アンチセンスプライマープローブ及び/又はセンスプライマープローブの塩基配列が含んでいるものである。
【0100】
このようにして取得された新規有用核酸は、平滑末端クローニング、TAクローニング、制限酵素を利用したクローニング等でベクターに連結し、クローンライブラリーを作成するのが好適である。又、ベクターに連結した新規有用核酸を用いて、適当な発現用細胞(例えば、大腸菌、酵母等)を形質転換して実際の発現を検定してみることが好適である。電気泳動方法で単一な核酸と認識された核酸でも必ずしも実質的に単一であるとは限らないからである。このようにして、分離・取得された核酸は最終的に新規有用核酸となる。
【0101】
このようにして、第1発明と第2発明を連結することにより、自然界の一つの系に存在する有用核酸(目的遺伝子)を簡便・迅速に検出・測定して、その濃度を知り、且つ簡便迅速に新規有用核酸(目的遺伝子)が分離される。この検討結果のデータから、新規有用核酸(遺伝子)の全塩基配列が決定され、且つ、新規有用核酸(遺伝子)であることが判明する。そして、新規有用遺伝子が取得される。尚、このようにして得られたデータは如何なる多型の核酸であると認識されるので、次の遺伝子の遺伝子工学的塩基配列の改変に大いに役立つ。
【0102】
D.第4発明
第4発明は蛍光物質標識プライマープローブである。即ち、自然界の一つの系に存在する有用核酸(目的遺伝子)を簡便・迅速に検出・測定して、その濃度を知り、且つ有用核酸(目的遺伝子)が分離できるプライマープローブである。
3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位のOH基がフリーであり、且つ相補的塩基配列にハイブリダイズする塩基配列を含むオリゴヌクレオチドから形成され、相補的塩基配列にハイブリダイズすることで光学的キャラクターが変化する特質を有する蛍光物質標識プライマーである。そして、以下の少なくとも一つを具備する蛍光物質標識プライマーである。
【0103】
1)5’末端がC(シトシン)である。
2)前記1)において、Cが標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしてもしなくともよい。
3)前記2)において、標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないか又はハイブリダイズするCとハイブリダイズする相補的塩基配列の間に標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないか又はハイブリダイズする任意な塩基配列が介在する。
【0104】
4)前記3)において、その介在塩基配列が塩基数1〜20である。
より好適には、以下の少なくとも一つを具備する蛍光物質標識プライマーである。
(1)5’末端がC(シトシン)である。
(2)前記(1)において、Cが標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしない。
(3)前記(2)において、標的核酸の相補的塩基配列とハイブリダイズしないCとハイブリダイズする相補的塩基配列の間に任意の塩基配列が介在する。
(4)前記(3)において、その介在塩基配列が塩基数1〜20である。
尚、標的核酸にハイブリダイズしない任意の塩基配列部分は、ヒアピン(hairpin)構造をとっていてもよい。
【0105】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
1)オリゴヌクレオチドの塩基配列
本実施例にて使用したコンセンサスプライマープローブ、リンカー1、リンカー2、標的遺伝子特異的アンチセンスプライマープローブ、標的遺伝子特異的センスプライマープローブ、アダプタープライマープローブの塩基配列は以下のものである。尚、塩基配列は右が5’末端で左が3’末端である。
【0106】
(合成一本鎖DNAの塩基配列)
コンセンサスプライマープローブ1(フォワード型)(アンダーラインの箇所がコンセンサスな配列、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
CAGAGTTTGATCCTGGCTCAG
コンセンサスプライマープローブ2(リバース型)(アンダーラインの箇所がコンセンサスな配列):
GGTTACCTTGTTACGACTT
コンセンサスプライマープローブ1及びコンセンサスプライマープローブ2は真性細菌16S rRNA遺伝子の保存性の高い領域をターゲットとしたプライマーであり、真性細菌の16S rRNA遺伝子を全てPCR増幅可能である。
【0107】
リンカー1(アンダーラインの箇所が一方のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズしない配列):
CGGAATTCATTAACCCTCACTAAAGGGTGATC
リンカー2(アンダーラインの箇所が一方のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズしない配列):
GATCGATCACCCTTTAGTGCC
【0108】
標的遺伝子に特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマープローブ(アンダーラインの箇所が試料に含まれる核酸のアンチセンス鎖の塩基配列にハイブリダイズする、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
ctcgtcagcaaagcagcaag
標的遺伝子に特異的にハイブリダイズするセンスプライマープローブ(アンダーラインの箇所が試料に含まれる核酸のセンス鎖の塩基配列にハイブリダイズする、5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
cttgctgctttgctgacgag
センスプライマープローブとアンチセンスプライマープローブはモデル標的遺伝子として採用した大腸菌の16S rRNA遺伝子に特異的なプライマーである。
【0109】
アダプタープライマープローブ(アンダーラインの箇所が遺伝子増幅過程で合成される核酸にハイブリダイズする。5’末端のリン酸基がBODIPY FLC6で標識されている。):
CGGAATTCATTAACCCT
アダプタープライマープローブは、リンカーの非相補的領域(リンカー1とリンカー2がハイブリダイズしていない領域)と同じ配列を有しているため、センスプライマープローブ或いはアンチセンスプライマープローブから伸長した増幅核酸の塩基配列にハイブリダイズし、その後のPCR反応のプライマーとなる。標的遺伝子(大腸菌の16S rRNA遺伝子)を含む制限酵素断片部位にリンカーがライゲーションされた際の状態を図1として示した。
【0110】
2)オリゴヌクレオチド及びプライマープローブの調製:本実施例で使用した各種のオリゴヌクレオチド及び各種のプライマープローブは全て委託合成により入手した((株)日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp))。
【0111】
実施例1
本実施例では、鋳型サンプル中のモデル標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)の定量を実施し、標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を多量に含むサンプルの特定が可能であるか検証した。
具体的には、活性汚泥から抽出したDNAサンプルに大腸菌ゲノムDNAを濃度を変化させて添加した複数種の試料を用意し、当該サンプルについて核酸の増幅と定量をリアルタイム定量的PCR方法を行い、多型解析方法で増幅産物を解析することにより、標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を多量に含む試料の特定が可能であるか検証した。
【0112】
1)サンプル
食品排水水処理装置より採取された大腸菌をほとんど含まないことが既知である活性汚泥をサンプルとして用いた。モデル標的遺伝子(大腸菌16S rRNA遺伝子)を含む鋳型DNAは、大腸菌ゲノムDNA(宝酒造社製)とした。
2)活性汚泥からの核酸の抽出と鋳型サンプルの調製
活性汚泥より、Bio101キット(土壌用)を用いて核酸を抽出し、更にWizard DNA Clean−Up systemを用いて精製した。次に260nm/280nmの吸光度から、DNA濃度を測定した。当該抽出DNAは120ng/μl−抽出液であった。当該抽出したDNAに大腸菌ゲノムDNAを既知濃度(大腸菌ゲノムDNA換算で105、106、107コピー)添加し、鋳型サンプルとした。
【0113】
3)リアルタイム定量的PCR方法
リアルタイム定量的PCR方法としてQuenching primer(Qプローブからなるコンセンサスプローブ1及び2)を用いた手法(以下QP−PCR法という。)を適用した。
4)QP−PCR反応条件
変性反応:95℃、15sec;アニーリング:53℃、5sec;伸長(extention)及び検出:72℃、80sec;測定装置:ライトサイクラーシステム(ロッシュ社製)(以下、便宜上、ライトサイクラーという。);使用した蛍光検出用チャンネル:チャンネル1(Ex、470nm;Em、530nm)。
【0114】
5)反応液
反応液全量:20μl;rTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)、0.5U/反応(20μl);rTaq polymeraseに付属の×10buffer、2.0μl/反応(20μl);dNTPs 最終濃度、各2mM;Mg++イオン濃度、最終濃度2mM;牛血清アルブミン(BSA)、最終濃度0.25mg/ml;活性汚泥抽出DNA、1.0μ1/反応(20μl);大腸菌ゲノムDNA、1.0μl/反応(20μl);各プライマープローブ(コンセンサスプライマー1及び2)の最終濃度、100nM;Taq start溶液(クローンテック社製、0.4μl/反応(20μl)。
【0115】
6)QP−PCRによる全16S rRNA遺伝子の定量
QP−PCRによって、サンプル中に含まれる全16S rRNA遺伝子の定量を実施した。検量線は、大腸菌ゲノムを標準核酸として用いて作成した。log Rn(蛍光消光率)=0.2に設定し、Ct値を求めた。QP−PCRによる試料中の全16S rRNA遺伝子の定量結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
活性汚泥抽出DNAのみを60ng添加した系(サンプルNo.3)の定量値は1.2×107コピーであった。活性汚泥抽出DNA60ngと大腸菌ゲノムDNAを24ng(107コピー分)添加した系(サンプルNo.6)では、ほぼ添加した量の定量値の上昇が見られた。活性汚泥抽出DNAを添加せずに大腸菌ゲノムDNAのみを107コピー分添加した系(サンプルNo.7)では、ほぼ理論どおりの定量値が得られた。活性汚泥抽出DNA添加量を0.6ng添加した系(サンプルNo.2)では、DNA添加量がサンプルNo.3の1/100であるため1.2×105コピー付近の定量値が想定されたが、ほぼ理論通りの結果(1.5×105コピー)が得られた。これらの結果より、本法(QP−PCR方法)にて全同一機能核酸(遺伝子)を定量できることが示唆された。
【0118】
しかし、DNA添加量がサンプルNo.3の1/10,000である系(サンプルNo.1)では、1.2×102コピー付近の定量値が想定されたが、理論値より約50倍高い定量値(5.2×103コピー)が得られた。これは、添加した鋳型DNAが低コピーであったため、非特異的産物の増幅が優先的に起こったためと考えられた。
【0119】
7)温度解離曲線
前記で実施したQP−PCR反応後、得られた増幅産物の解離曲線を作成した。装置はライトサイクラーシステムを使用し、60〜90℃を0.1℃/秒で温度変化させ、その間蛍光を連続的に測定した。QP−PCR方法で得られた産物は、末端のC塩基がBODIPY FL修飾されているため、産物が解離し1本鎖になることにより蛍光量が増大する。このため簡便に増幅産物の解離曲線を得ることが可能であった。
【0120】
その結果を図2、図3に示した。図3は、図2の解離曲線を微分した解離ピークである。解離ピークは、解離曲線を微分したものである。このため、このピーク頂点の位置から、おおよそのTm値を知ることができる。サンプルNo.2〜7については、85℃付近に解離ピークが検出された。目的の増幅産物と同様の断片長を示す増幅産物が、電気泳動により確認されたことから(Data not shown)、85℃付近に解離ピークをもつ増幅産物は特異的産物であることが確認された。
【0121】
サンプルNo.1で得られた産物の解離ピークは75℃付近であった。このことから、サンプルNo.1で得られた産物は非特異的増幅産物であることが確認された。この非特異的増幅産物は、そのTm値からプライマーダイマーと推察された。
【0122】
このように、QP−PCR方法では、得られた産物の解離曲線を簡便に作成することが可能であるため、迅速に増幅産物が特異的であるか否かの判定を行うことが可能である。
【0123】
8)T−RFLP方法による多型の分析・解析
大腸菌ゲノムDNAと活性汚泥抽出DNAの両方を鋳型としたサンプルNo.4、サンプルNo.5の増幅産物をスピンカラム(MicroconPCR)を用いて精製した。精製物を制限酵素Hha1(認識部位:GCG/C、/記号は切断個所)でO/N(一晩)処理した。
【0124】
制限酵素処理を行ったDNA溶液について加熱変性処理を行った後、シークエンサー(ABI PRISMTM310、PE Applied Biosystems)にてT−RFLP解析を行った。そのピークパターンを図4、図5に示す。ピーク高の比より各遺伝子(多型)の構成比を求め、この構成比にQP−PCR方法の工程で定量した全16S rRNA遺伝子量を掛けることで、各遺伝子(多型)のコピー数を算出した。
【0125】
その結果を表2として示す。添加した大腸菌ゲノムDNAから算出されるサンプルNo.4及びサンプルNo.5中における大腸菌16S rRNA遺伝子は、それぞれ105コピー、106コピーであるが、全16S rRNA遺伝子量と構成比から算出された大腸菌16S rRNA遺伝子は、それぞれ1.3×105コピー、1.1×106コピーであり、ほぼ理論値通りの定量値を得ることができた。以上の結果より、コンセンサスプライマーを用いたQP−PCR方法により全同一機能遺伝子数を求め、更にQP−PCR産物をT−RFLP解析し遺伝子(多型)の構成比を求めることで、同一機能遺伝子を構成する各遺伝子(多型)を正確に定量できることが示唆された。
【0126】
【0127】
コンセンサスプライマーを用いたQP−PCRでは、同一機能を有する遺伝子の共通配列をターゲットとしてPCR増幅を実施するため、既知な遺伝子(多型)だけではなく、同一機能を有する未知な遺伝子(多型)も同時に増幅させることができる。既知な遺伝子(多型)のT−RFLP断片長は予め知ることができるので、それ以外のT−RFLP断片が存在すれば、対象サンプル中に新規な遺伝子(多型)が存在することを確認することができる。よって本法は、同一機能遺伝子を構成する遺伝子(多型)群において、既知な遺伝子(多型)のみならず、新規な遺伝子(多型)も定量することが可能である。従って、本法により新規な有用遺伝子を多量に含むサンプルを迅速に特定化することが可能となる。
【0128】
実施例2
1)核酸を含む試料
実施例1にて標的遺伝子を濃度的に優先種となるように増幅できるサンプルNo.5と、活性汚泥抽出DNA(60ng/μl)と0.24pg/μlの大腸菌ゲノムDNA(16S rRNA遺伝子として約100コピー)を等量混合した試料(サンプルNo.8)より、標的核酸(大腸菌16S rRNA遺伝子)のスクリーニングを試みた。自然環境サンプル等の未知サンプルが対象サンプルであれば、QP−PCR方法で得られた全同一機能性遺伝子の増幅産物についてクローニング&シークエンスを実施し、新規な遺伝子(多型)配列を決定した上で、アンカーPCR方法を行うために、新規な遺伝子に特異的なアンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブを作成する必要性がある。
【0129】
しかしながら今回は、実験の便宜上、大腸菌16S rRNA遺伝子を未知な遺伝子(標的遺伝子)と仮定し検討を実施したため、クローニング&シークエンスの工程は省いた。大腸菌に特異的なアンチセンスプライマープローブ及びセンスプライマープローブは、予め既知であった大腸菌16S rRNA遺伝子配列情報を基に設計した。
【0130】
2)制限酵素処理
・制限酵素:BamHI
サンプルNo.5及びサンプルNo.8のDNA溶液を、120ng/100μl−反応液となるように添加し、BamHI(ニューイングランドバイオラボ社製)を用いて、一昼夜37℃にて制限酵素処理した。制限酵素は、5unit/100μl−反応液の最終濃度となるよう添加した。反応後、80℃で20分間加温することで、制限酵素を失活させた後、スピンカラム(MicroconPCR)を用いて精製した。反応バッファーは、制限酵素試薬に添付されているものを用いた。
【0131】
3)制限酵素断片とリンカーとの結合反応(ライゲーション反応)
T4 DNAリガーゼを用いて制限酵素断片とリンカーとの結合を以下の方法で実施した。最初にリンカー1とリンカー2を、それぞれ1.5μM、1.0μM添加し、事前に結合させた後に、サンプルNo.5、サンプルNo.8の制限酵素処理済みサンプルを全量添加した。この溶液に、T4 DNAリガーゼを1.5units添加し、16℃にて24時間ライゲーション反応を実施した。ライゲーションされたサンプルは、スピンカラム(MicroconPCR)にて精製した。精製されたDNA溶液を乾燥し、滅菌水10μlで溶解させた。このDNA溶液を以下の工程で実施するアンカーQP−PCRの鋳型DNAとした。
【0132】
4)前記反応物の分割
前記反応物は二つに分割して一方をAとし、他方をBとした。
【0133】
5)標的遺伝子に特異的なプライマープローブを用いての、前記ライゲーション反応物を鋳型とする標的核酸の伸長反応(以下、アンカーQP−PCRと呼ぶ)
標的遺伝子特異的アンチセンスプライマープローブとアダプタープライマープローブによる増幅反応(A)と標的遺伝子特異的センスプライマープローブとアダプタープライマープローブによる増幅反応(B)における反応組成液と反応条件は伸長時間を除いて実施例1のQP−PCRの条件と同様である。アンカーQP−PCRの伸長時間は180secとした。前の行程で得られたリンカーが付加された核酸溶液(全量:10μl)は、増幅反応(A)と増幅反応(B)の鋳型として、それぞれ5μlずつ使用した。
【0134】
6)結果
サンプルNo.5を鋳型とした系では増幅反応A及び増幅反応Bともに蛍光消光が確認されたことより、何らかの遺伝子の増幅が確認された。反応終了後、増幅産物の解離曲線を描いた。その結果、約90℃付近にTm値を有する増幅産物であることが明らかとなった。プライマーダイマーは鎖長が短いため、Tm値はこれより低い(70℃付近)。よって、得られた産物はプライマーダイマーではないことが推察された。サンプルNo.8を鋳型とした系では増幅反応A及び増幅反応Bともに蛍光消光が確認されたが、反応終了後の解離曲線解析の結果、約75℃付近にTm値を有する増幅産物であることが明らかとなった。よって、サンプルNo.8を鋳型とした系では特異的増幅が起こらず、プライマーダイマーが合成されたものと判断された。サンプルNo.8では、標的遺伝子量が100コピーと少ないため、標的遺伝子の増幅よりプライマーダイマーの合成が優先的に起こったためと考えられる。
【0135】
7)アンカーQP−PCR産物を鋳型としたプライマー非添加のPCR反応
サンプルNo.5を鋳型としたアンカーQP−PCR反応A及びアンカーQP−PCR反応Bの反応物を混合して、プライマーを添加しないでPCRを行った。反応組成液及び反応条件は、アンカーQP−PCRと同様である。本PCR反応は蛍光消光が確認された時点で反応を停止させた。得られた産物は、スピンカラム(MicroconPCR)にて精製した。
【0136】
8)シークエンス
7)で得られた産物について、ダイターミネーター法(実験医学、15巻、29〜35ページ、1997年、羊土社)によるダイレクトシークエンスにてその塩基配列を解読した。シークエンスプライマーはコンセンサスプライマープローブ2、
Eu1100R(5’−TTGCGCTCGTTGCGGGACT−3’)、
Eu800R(5’−CATCGTTTACGGCGTGGAC−3’)、
Eu500R(5’−GTATTACCGCGGCTGCTGG−3’)
を使用した。シークエンサーはABI PRISMTM310を使用した。
【0137】
9)結果
反応Aで得られた産物と反応Bで得られた産物同士によるPCR反応で得られた産物の塩基配列を決定した結果(16S rRNA遺伝子の全長)、標的遺伝子とした大腸菌16S rRNA遺伝子と100%塩基配列が一致した。以上の結果より、2つのアンカーQP−PCRとアンカーQP−PCRで得られた産物同士のPCR反応により、標的とした遺伝子を簡便且つ迅速に取得可能であることが示唆された。
【0138】
しかしながら、標的遺伝子量の少ないサンプルNo.8を鋳型とした系では、アンカーQP−PCRの工程でプライマーダイマーが合成され標的遺伝子を取得することが不可能であった。このようにアンカーQP−PCR工程で用いる鋳型中には、標的遺伝子が一定量以上存在しないと特異的な遺伝子増幅が得られないことが示唆された。
以上の結果より、標的遺伝子の存在量を事前に知ることにより、スクリーニングに要する労力を大幅に低減できることが示唆された。
【0139】
10)結論
実施例により、本発明の手法は、(1)全同一機能核酸(遺伝子)種の増幅・定量が可能であること。(2)同一機能核酸(遺伝子)を構成する各核酸(遺伝子)の多型の同時定量が可能であることが示唆された。又、本手法では、多型解析(T−RFLP)より、各核酸(遺伝子)の多型が新規であるか、既知であるかの判定とその構成比を知ることが可能である。よって、同一機能核酸(遺伝子)を構成する各核酸(遺伝子)の多型のうち、新規又は標的とする核酸(遺伝子)の多型の存在量を知ることが可能となる。よって、標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化することが可能であることが示された。
【0140】
又、リアルタイム定量的PCRの過程で得られた新規な核酸(遺伝子)の多型を多く含むPCR産物を用いて、新規な核酸(遺伝子)の多型の部分配列を解読し、この情報を基に新規核酸(遺伝子)の多型に特異的プライマーを作成することが可能である。
【0141】
本発明の実施例では、特定化された試料より標的核酸(遺伝子)を、特異的プライマーを使用するアンカーQP−PCRにより直接的且つ選択的に分離可能であることが示された。又、標的核酸(遺伝子)の存在量の少ない試料からは標的核酸(遺伝子)の分離が不可能であったことから、標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化することの重要性が示唆された。
【0142】
このように本発明は、
(1)標的核酸(遺伝子)が多い試料を特定化すること、
(2)特定化する工程で得られた産物の部分配列を解読し、新規核酸(遺伝子)に特異的プライマーを作成すること(既知な核酸(遺伝子)が標的であればこの工程は不要)、
(3)特異的プライマーを用いて選択的に狙った核酸(遺伝子)の多型のみを分離することにより、新規核酸(遺伝子)或いは標的核酸(遺伝子)(多型)を迅速且つ簡便に分離可能な手法であることが示された。
【0143】
【発明の効果】
上記のように本発明方法により、自然界の一系内に存在する新規有用核酸(遺伝子等)の検出・測定及び取得・分離が簡便且つ迅速にできるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】核酸の制限酵素断片とリンカーの結合した状態を示す図。
【図2】QP−PCR産物の温度解離曲線を示す図。
【図3】図2の温度解離曲線を微分した曲線を示す図。
【図4】試料(サンプル)No.4のT−RFLPパターンを示す図。
【図5】試料(サンプル)No.5のT−RFLPパターンを示す図。
Claims (22)
- 少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、核酸増幅方法により少なくとも1種の核酸について核酸増幅反応を行い、核酸増幅を確認する。
2)少なくとも次の(1)〜(3)の何れか1項の手順の操作を行い、増幅核酸中の濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
(1)増幅核酸について、電気泳動、HPLC、及び/又はシークエンサー分析を行う。
(2)増幅核酸について温度解離曲線(Tm値)を測定する。
(3)増幅核酸について多型解析を行う。
3)前記2)で、濃度的優先核酸種、又は新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種について、塩基配列を解読・決定し、新規若しくは同一機能核酸種と特定された増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を特定する。
4)前記3)から得られる塩基配列情報に基づいて、増幅核酸種の中から新規若しくは同一機能核酸種を確認する。
5)前記4)から得られる塩基配列情報に基づいて、新規若しくは同一機能核酸種に特異的なプライマープローブを設計する。
6)前記5)で設計されたプライマープローブを用いる核酸増幅方法により、前記1)に記載の核酸を含む試料について、新規若しくは同一機能核酸種の増幅を行う。
7)前記6)の増幅核酸について、新規若しくは同一機能核酸種の一部の塩基配列又は全長の塩基配列を少なくとも含む核酸種を取得する。 - 核酸増幅方法が、少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるコンセンサスプライマープローブを用いた定量的PCR方法若しくはリアルタイム定量的PCR方法である請求項1に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種のフォワード型及びリバース型からなるコンセンサスプライマープローブが、フォワード型及び/又はリバース型において、少なくとも1種の蛍光物質で標識された蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブである請求項2に記載の核酸の取得方法。
- 前記の蛍光物質標識コンセンサスプライマープローブが複数のものであり、各々、異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識されたものである請求項3に記載の核酸の取得方法。
- 前記の蛍光物質標識プライマープローブが少なくとも1種のQプローブ若しくはサンライズプローブである請求項3又は4に記載の核酸の取得方法。
- 増幅核酸が、複数種の同一機能核酸種である請求項1に記載の核酸の取得方法。
- 多型解析を、増幅核酸を制限酵素処理した後、当該処理物について行うものである請求項1に記載の核酸の取得方法。
- 濃度的優先核酸種と新規若しくは同一機能核酸種が同一である請求項1に記載の核酸の取得方法。
- 濃度的優先核酸種の順に、又はそれを含む試料の順に請求項1に記載の3)の塩基配列の解読・決定を実施する請求項1に記載する核酸の取得方法。
- 核酸増幅と同時に増幅核酸の増幅前及び/又は増幅後の濃度若しくはコピー数を測定する請求項1に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも次の手順からなることを特徴とする核酸の取得方法:
1)少なくとも1種の核酸を含む試料について、制限酵素処理を行う。
2)少なくとも1種のリンカー対(以下、リンカー1、リンカー2という。)を前記1)の制限酵素処理物に添加し、ライゲーション(ligation)反応を行う。
3)前記2)に記載の反応物を二つに分け(一方をAとし、他方をBとする。)、次の反応を行う。
(1)Aについて、次の(a)及び(b)の反応を同時又は逐次的に行う:
(a)少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブを、Aに添加し、核酸伸長反応を行う。
(b)少なくとも1種のアンチセンスアダプタープライマープローブを、A又は前記(a)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
(2)Bについて、次の(c)及び(d)の反応を同時又は逐次的に行う:
(c)少なくとも1種のセンスプライマープローブを、Bに添加し、核酸伸長反応を行う。
(d)少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブを、B又は前記(c)の反応物に添加して、核酸伸長反応を行う。
4)A及びBの最終反応物を混合して、新たなプライマープローブを添加せずにPCR反応を行う。 - 少なくとも1種の核酸を含む試料が請求項1に記載のものと同じものである請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 制限酵素で処理された核酸が、請求項1に記載の多型解析のために制限酵素で処理された核酸である請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブが少なくとも1種の蛍光物質で標識されたものである請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種の蛍光物質で標識された少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブが複数のものであり、当該複数の蛍光物質標識プローブが、各々異なったコンセンサス塩基配列を有し、且つ異なった蛍光発光色を与える蛍光物質で標識された少なくとも1種の蛍光物質標識アンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブである請求項14に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又は少なくとも1種のセンスプライマープローブが、請求項1に記載の新規若しくは同一機能核酸の塩基配列を一部又は全部を含むものである請求項11又は14に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種のアンチセンスプライマープローブ及び/又はセンスプライマープローブが、Qプローブの1種である請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種のセンスアダプタープライマープローブ及び/又は少なくとも1種のアンチセンスアダプタープライマープローブが同一のものである請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種の核酸を含む試料が、請求項1に記載のものと同じものである請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 少なくとも1種の核酸を含む試料が、請求項1に記載の最終物即ち最終反応液(物)、又はその分離・精製物である請求項11に記載の核酸の取得方法。
- 請求項1又は11に記載の核酸の取得方法で取得された核酸種について遺伝子発現の検定を行い、当該核酸種の中から新規有用核酸を取得することを特徴とする核酸の取得方法。
- 遺伝子発現方法が、ベクター方法である請求項21に記載の核酸の取得方法。
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