JP2004076065A - 自動車用アルミニウム合金パネル - Google Patents
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Abstract
【課題】必要な強度などの特性が部位によって異なるパネルに対し、その特性を満足する自動車用アルミニウム合金パネルを提供することを目的とする。
【解決手段】プレス成形によって単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から製作されるとともに、プレス成形後に人工時効硬化処理される自動車用パネルであって、プレス成形前またはプレス成形後に、パネル部位によって強度差が設けられており、かつ、高強度が必要とされるパネル部位の人工時効硬化処理後の強度が高いことである。
【選択図】 なし
【解決手段】プレス成形によって単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から製作されるとともに、プレス成形後に人工時効硬化処理される自動車用パネルであって、プレス成形前またはプレス成形後に、パネル部位によって強度差が設けられており、かつ、高強度が必要とされるパネル部位の人工時効硬化処理後の強度が高いことである。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用アルミニウム合金パネル(以下、アルミニウムを単にAlとも言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車用パネルとして、自動車などの輸送機の車体の軽量化成形性や焼付硬化性に優れたAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金圧延板材が使用されている。
【0003】
このAl−Mg−Si系アルミニウム合金の中でも、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、特にアウタパネル (外板) には、薄肉でかつ高強度なアルミニウム合金板として、過剰Si型の6000系のアルミニウム合金板が使用されている。
【0004】
この過剰Si型の6000系アルミニウム合金は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、かつSi/Mg が1 以上であるAl−Mg−Si系アルミニウム合金である。そして、この過剰Si型6000系Al合金は優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効硬化処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる時効硬化能がある。
【0005】
また、これら過剰Si型6000系アルミニウム合金板素材は、Mg量などの合金量が多い、他の5000系のアルミニウム合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系アルミニウム合金材のスクラップを、アルミニウム合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系アルミニウム合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
【0006】
一方、自動車のアウタパネルは、周知の通り、単一かつ同一板厚のアルミニウム合金板に対し、張出などのプレス成形や、曲げ成形などの成形加工が複合して行われる、複合プレス成形によって製作される。例えば、フードアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、フードアウタとしての形状が出され、次いで、アウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。そして、この複合成形加工の際には、各成形加工や各成形条件によって、同一アルミニウム合金板素材に対し、各々異なる成形性が要求される。
【0007】
これらの成形性に影響を与えるアルミニウム合金板の素材側の因子として大きなものは、アルミニウム合金板の強度である。例えば、前記張出などのプレス成形では、0.2%耐力で110MPa以上の比較的高い強度の方がプレス成形性に優れる。一方、前記ヘミングなどの曲げ成形では、0.2%耐力で140MPa以下の比較的低い強度の方が曲げ成形性に優れる。したがって、張出などのプレス成形性と曲げ成形性とでは、素材アルミニウム合金板の最適特性範囲が大きく異なる。
【0008】
しかも、前記張出成形されるアウタパネル形状は、張出高さや張出面積などが大型化し、しかも形状が、伸びフランジ変形を伴うような湾曲部位を有するなど近年益々複雑化する傾向にある。これに伴い、前記張出成形条件も、益々難しくなる傾向にある。
【0009】
これは、前記ヘミングなどの曲げ成形でも同様であって、加工されるアウタパネルの周縁部形状 (輪郭線) も、直線的な単純形状ではなく、円弧形状やあるいは角部を有するような複雑形状化する傾向にある。また、アウタパネルのフラットヘム部 (縁曲部) に挿入されるインナパネルも、軽量化のために、1.0mm 以下の、例えば0.5mm 程度の板厚に益々薄肉化され傾向にある。これらの条件は全て、曲げ成形条件を厳しくしている。
【0010】
この結果、張出などのプレス成形性と曲げ成形性との、素材アルミニウム合金板の最適特性範囲は更に大きく乖離することなる。そして、このことは、同一アルミニウム合金板素材にとって、張出などのプレス成形やフラットヘムなどの曲げ成形などの成形性を兼備させることを益々困難とする。
【0011】
このように異なる成形性が要求されるアルミニウム合金板素材において、従来からも、化学成分や、結晶粒、晶出物、析出物などの組織的な制御によって、これらの特性を同時に兼備する技術が種々、また多数提案されている。しかし、前記したプレス成形性と曲げ成形性との素材アルミニウム合金板の最適特性範囲の大きな乖離に対しては、前記アルミニウム合金板素材側からの特性改善乃至特性兼備のための冶金的な制御だけでは、大きな限界がある。
【0012】
このため、このような必要な強度などが部位によって異なるパネル用途に対しては、従来から鋼板においては既に採用されていた、差厚テーラードブランク材の採用が、アルミニウム合金板でも検討されている。例えば、特開2001−269779 号や特開2001−321968 号公報には、アルミニウム合金の差厚テーラードブランク材についての接合方法などが開示されている。この差厚テーラードブランク材は、板厚や強度などが部位によらずに同じである単一のアルミニウム合金板と違って、板厚や強度などが異なるアルミニウム合金板同士を、突き合わせあるいは重ね合わせて、溶接乃至接着して接合し、継手化乃至一体化したものである。
【0013】
この差厚テーラードブランク材は、パネル、フレームなどの他の部材の製造過程で発生した種々の端材を再使用できる点や、要求強度や成形性などが部位により異なる部材を、継手素材の厚みにより調整により製作できる点、あるいはアルミニウム合金板の必要枚数を減らせ、成形や接合のための工数が減る、端材の派生が減るなどの点でも利点が大きい。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようなアルミニウム合金の差厚テーラードブランク材では、鋼板と相違して、前記した複合成形や各成形時における、溶接接合部や接着接合部の接着強度が確保できず、成形時に破断等が生じる。このため、適用部位が限定され、実用化されているとは言い難い状況である。
【0015】
したがって、現状では、自動車用アルミニウム合金アウタパネルにおいては、単一かつ同一板厚のアルミニウム合金板から製作せざるを得ない。そして、実際のパネル製作のためには、パネルの成形側での工程条件の煩雑な変更や、成形条件緩和のためのパネル形状の緩和などの設計変更などが行われているのが実情である。
【0016】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、単一かつ同一板厚の板から複合プレス成形されて製作されるパネルであって、必要な強度などの特性が部位によって異なるパネルに対し、その特性を満足する自動車用アルミニウム合金パネルを提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明自動車用アルミニウム合金アウタパネルの要旨は、プレス成形によって単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から製作されるとともに、プレス成形後に人工時効硬化処理される自動車用パネルであって、プレス成形前またはプレス成形後に、パネル部位によって0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられており、かつ、高強度が必要とされるパネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa以上であることとする。
【0018】
なお。本発明において、単一のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とは、アウタパネルやインナパネルとして複合プレス成形される板が、前記差厚テーラードブランク材のような複数の板が接合されてなる板(パネル素材)ではなく、単一の板であることを意味する。したがって、複合プレス成形品がアウタパネルやインナパネルのパネルの構造体として、他のパネル材やフレイム材と接合されて、自動車車体として構成乃至組み立てられることは、当然許容される。また、同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とは、板製造工程において、必然的に生じる、板の幅方向あるいは長手方向の板厚のばらつきを当然許容している。
【0019】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明では、前記差厚テーラードブランク材のような複数の接合板素材を用いず、単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板からアウタパネルを製作されるに際し、アウタパネルの0.2%耐力を、アルミニウム合金素材板の段階、アウタパネルとしのプレス成形前の段階、あるいはアウタパネルとしのプレス成形後の段階などの、必要な段階で、各アウタパネル部位によって必要な強度に変化させる。これらの各アウタパネル部位の具体的な強度レベルは、各アウタパネル部位が受ける成形加工における成形性と、パネル構造体としての各アウタパネル部位の必要強度とから定まる。
【0020】
フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルでは、張出などのプレス成形とヘミングなどの曲げ成形との複合プレス成形に対する成形性の点からして、これらの成形前に、パネルのプレス成形部位と曲げ成形部位とのパネル部位によって、0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられていることが必要となる。即ち、張出などのプレス成形を受けるアウタパネル中央部位は、プレス成形前の0.2%耐力を110 〜155MPaの比較的高い強度とする。そして、これらアウタパネル中央部位は耐デント性など、高い強度が必要であるので、これらのパネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上とする。この人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa未満であれば、これらアウタパネル中央部位の耐デント性などの必要剛性が不足する。
【0021】
なお、本発明で言う人工時効硬化処理とは、主として、プレス成形後のパネル(自動車車体) に通常施される塗装焼き付け処理工程を言う。この人工時効硬化処理は150 〜170 ℃×20〜30分と条件に幅があるが、本発明では、この条件幅の範囲で言い換えると、前記範囲の内の低温×短時間の条件であっても、人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上と規定する。なお、プレス成形せずにプレス成形後のアウタパネルの人工時効硬化処理後の0.2%耐力を測定評価する際には、成形時に付与される歪み量を2%ストレッチにより模擬的に付加して人工時効硬化処理を行う。
【0022】
一方、フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルにおいて、ヘミングなどの曲げ成形を受けるアウタパネル周辺部位乃至周縁部位は、0.2%耐力を90〜140MPaの比較的低い強度として、上記アウタパネル中央部位に対し、0.2%耐力で20MPa 以上の強度差を設ける。上記アウタパネル中央部位の高強度に対し、この強度差が0.2%耐力で20MPa 未満となった場合、アウタパネル周辺部の強度が高くなりすぎ、曲げ成形性が低下し、曲げ成形における割れなどの不良が生じやすくなる。なお、この0.2%耐力で20MPa 以上の強度差は、板素材の圧延や熱処理などの製造工程で必然的に (自然に) 発生する、板幅方向や板長さ方向の強度のばらつき以上のレベルである。
【0023】
これに対し、インナパネルなどでは、複合プレス成形時には、部位ごとに強度差を設ける必要性は無いものの、パネルの特定部位における高強度なり高剛性がパネル構造体として、部分的に、複合プレス成形後に要求される場合がある。例えば、ドアインナパネルではドアパネルを軸支するパネルのヒンジ乃至枠部分などである。これらドアインナパネルを薄肉、軽量化した場合には、前記特定部位における強度はより高強度化が必要となる。したがって、ドアインナパネルではパネル構造体としての必要高強度なり高剛性の点から、インナパネルの成形後に、このパネルのヒンジ部分など、必要パネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上と、他の高強度化が不要の部位に対して、0.2%耐力で20MPa 以上高強度化する。
【0024】
前記フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルにおいて、複合プレス成形前に、アウタパネル周辺部とアウタパネル中央部位との強度差を設けるためには、板素材の製造工程における熱処理工程を利用する。Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、プレス成形性や人工時効硬化能などの向上のために、通常、板の圧延後に、溶体化処理される。したがって、この溶体化処理を利用し、溶体化処理時の加熱条件を、アウタパネル周辺部に対応する板幅方向端部と、アウタパネル中央部位に対応する板幅方向中央部位とで変えることで、アウタパネル周辺部とアウタパネル中央部位との強度差を設けることができる。
【0025】
例えば、板やコイルを連続的に溶体化処理および焼入れ処理する連続熱処理炉において、溶体化処理時の加熱手段や加熱量を板幅方向で調節することにより可能である。この際、強度を高める板幅方向中央部位は加熱温度を高くし、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は加熱温度を比較的低くする。
【0026】
また、続く焼入れ処理時の冷却手段や冷却速度を板幅方向で調節する、焼入れ処理後の巻き取り温度や保持温度、その後の人工時効硬化処理時(再加熱時)の加熱温度や冷却条件を板幅方向で調節する、などの方法を組み合わせて行っても良い。例えば、焼入れ処理時には、空気、ミスト、スプレー等の冷却手段や冷却速度を板幅方向で調節し、強度を高める板幅方向中央部位は冷却速度を高くし、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は冷却速度を遅くする。人工時効硬化処理時には、同様に加熱温度や時間を調節し、強度を高める板幅方向中央部位は人工時効硬化側の条件で、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は、人工時効硬化の無い条件側か過時効条件側の条件で行う。
【0027】
更に、溶体化および焼き入れ処理などで、常法の範囲で、板を作り込んでおき、アウタパネル周辺部に対応する板幅方向端部のみをエッジヒータなどの加熱手段を用いて焼鈍することも可能である。この場合、溶体化および焼き入れ処理後の板は、アウタパネル中央部位に対応する中央部位が、プレス成形後の人工時効硬化処理で0.2%耐力が190MPa以上となる時効硬化能を有するように、作り込んでおく必要がある。
【0028】
一方、前記ドアインナパネルでは、プレス成形後に、パネル部位による強度差を設ける。このためには、成形パネルの塗装焼き付け処理を利用するか、別途、人工時効硬化処理を行って、前記したパネル内の高強度化が必要な部位のみを高強度化させる。例えば、パネル内の高強度化が必要な部位のみを人工時効硬化処理を行うか、あるいはパネル内の高強度化が必要な部位のみが人工時効硬化されるような条件で人工時効硬化処理を行う。
【0029】
本発明におけるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板素材自体は、前記パネル内の部位で強度差を設ける以外は、鋳造、均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延(これら圧延において必要において施す中間焼鈍含む)、溶体化および焼き入れ処理などの調質など、常法により製造できる。
【0030】
次に、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板素材の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。本発明で用いるアルミニウム合金板の基本組成は、プレス成形性や人工時効硬化能などのパネルに要求される基本特性を満足するためには、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上とした過剰Si型のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とすることが好ましい。そして、上記組織の規定や諸特性を確保するために、より厳密には、前記規定各成分以外の残部を、Alおよび不可避的不純物とすることが好ましい。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
【0031】
上記合金元素以外の、Cr、Zr、Ti、B 、Fe、Zn、Ni、V など、その他の合金元素は、基本的には不純物元素である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度アルミニウム地金だけではなく、6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明アルミニウム合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら他の合金元素が含有されることを許容する。
【0032】
また、本発明パネルが対象とする複合プレス成形方法は、通常の自動車用パネルと同様に、プレス機を用いた張出、絞り、曲げ、ヘミングなどの自動車パネル製作のためのプレス成形を適用対象とする。なお、本発明パネルは、電磁成形やブロー成形など、上記通常以外の成形方法が適用されても良い。
【0033】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。上記好ましい組成範囲であって、AA 6022 規格内組成のアルミニウム合金板 (厚さ1.0mm)に対し、自動車アウタパネルとして張出成形やヘム加工などの複合プレス成形されることを模擬して、アルミニウム合金板の張出成形される中央部位とヘム加工される周辺部位とに (後述する角筒状の張出部相当部位と、この張出部の四周囲の平坦なフランジ部相当部位とに) 強度差を与えて、各成形試験を行い、成形性を評価した。また、プレス成形品パネル中央部位の人工時効処理能を評価した。
【0034】
比較のために、張出成形される中央部位とヘム加工される周辺部位とに強度差が無い従来のアルミニウム合金板や、この強度差が少ないアルミニウム合金板も準備して、同じく成形性を評価した。これらの結果を表1 に示す。なお、アルミニウム合金板部位による強度差は、板部位による人工時効硬化処理条件を変えて設けた。
【0035】
アルミニウム合金板の部位毎の強度は、元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を測定した。なお、引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
【0036】
張出成形試験の条件は、前記アルミニウム合金板から一辺が500mm の正方形の供試板 (ブランク) を複数枚切り出し、中央部に一辺が300mm で、高さが30mmと高い角筒状の張出部と、この張出部の四周囲に平坦なフランジ部 (幅30mm) を有するハット型のパネルに、メカプレスにより、ビード付き金型を用いて張出成形した。しわ押さえ力は49kN、潤滑油は一般防錆油、成形速度は20mm/ 分の同じ条件で張出成形試験を3 回行い、3 回とも成形ハット型パネルの張出部角部などに割れがなく正常に成形できた例を〇、3 回の内1回から2回割れがなく正常に成形できた例(1回から2回割れが生じた例)を△、3 回とも全て割れが生じて成形できなかったものを×として評価した。
【0037】
次に、フラットヘム加工試験は以下の通りとした。前記プレス成形されたAl合金パネルを、アウターパネルとしてヘム加工されることを模擬して、パネルの前記平坦なフランジ部の内、圧延方向と平行なフランジ部の端部全面を以下の条件でフラットヘム加工した。
【0038】
まず、Al合金パネルのフラットヘム加工代 (ヘム加工後のパネルの内側に折り曲げられた端部から折り曲げ部の端部までの距離) を12mmとして、ダウンフランジ工程を模擬し、Al合金パネルの縁を90度の角度となるまで折り曲げた。この際、Al合金パネルの90°曲げ半径は0.8 とした。次に、プリヘム工程模擬して、Al合金パネルの縁を更に135 °の角度まで内側に折り曲げた。その後、厳しいフラットヘム加工条件を模擬して、敢えてインナパネルを前記Al合金パネルの折り曲げ部に挿入せずに、折り曲げ部を内側に180 °折り曲げ、パネル面に密着させるフラットヘム加工を行った。
【0039】
そして、このフラットヘムの縁曲部の、肌荒れ、微小な割れ、大きな割れの発生などの表面状態を目視観察した。評価は、1;肌荒れや微小な割れも無く良好、2;肌荒れが発生しているものの、微小なものを含めた割れはない、3;微小な割れが発生、4;大きな割れが発生、5;大きな割れが複数乃至多数発生、の5 段階の評価をした。この評価として、ヘム加工性が良好 (使用可) と判断されるのは1 〜2 段階までで、3 段階以上はヘム加工性が劣る (使用不可) と判断される。
【0040】
更に、人工時効処理能を調査するため、前記プレス成形されたパネル中央部位から試験片を採取して、170 ℃×20分の人工時効硬化処理し、処理後の各試験片の (元のAl合金板の) 圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (ABσ0.2)を測定した。これらの結果も表1 に示す。
【0041】
表1 から明らかな通り、複合プレス成形前に、パネル中央部位がパネル周辺部位よりも0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられ、パネル中央部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa以上である発明例1 〜5 は、中央部位の張出成形性が優れるとともに、パネル周辺部位のヘム加工性にも優れている。
【0042】
一方、複合プレス成形前に、パネル中央部位とパネル周辺部位との強度差が0.2%耐力で20MPa 未満であり、パネル中央部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa未満である比較例6 〜9 は、中央部位の張出成形性か、パネル周辺部位のヘム加工性かのいずれかが劣っている。なお、パネル中央部位とパネル周辺部位との強度差がほとんど無い比較例9 は、従来のパネルである。
【0043】
【表1】
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、単一かつ同一板厚の板からプレス成形されて製作されるパネルであって、必要な強度などの特性が部位によって異なり、各プレス成形性や必要強度を満たす自動車用アルミニウム合金パネルを提供することができる。したがって、アルミニウム合金パネル用途への拡大を図ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用アルミニウム合金パネル(以下、アルミニウムを単にAlとも言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車用パネルとして、自動車などの輸送機の車体の軽量化成形性や焼付硬化性に優れたAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金圧延板材が使用されている。
【0003】
このAl−Mg−Si系アルミニウム合金の中でも、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、特にアウタパネル (外板) には、薄肉でかつ高強度なアルミニウム合金板として、過剰Si型の6000系のアルミニウム合金板が使用されている。
【0004】
この過剰Si型の6000系アルミニウム合金は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、かつSi/Mg が1 以上であるAl−Mg−Si系アルミニウム合金である。そして、この過剰Si型6000系Al合金は優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効硬化処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる時効硬化能がある。
【0005】
また、これら過剰Si型6000系アルミニウム合金板素材は、Mg量などの合金量が多い、他の5000系のアルミニウム合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系アルミニウム合金材のスクラップを、アルミニウム合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系アルミニウム合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
【0006】
一方、自動車のアウタパネルは、周知の通り、単一かつ同一板厚のアルミニウム合金板に対し、張出などのプレス成形や、曲げ成形などの成形加工が複合して行われる、複合プレス成形によって製作される。例えば、フードアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、フードアウタとしての形状が出され、次いで、アウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。そして、この複合成形加工の際には、各成形加工や各成形条件によって、同一アルミニウム合金板素材に対し、各々異なる成形性が要求される。
【0007】
これらの成形性に影響を与えるアルミニウム合金板の素材側の因子として大きなものは、アルミニウム合金板の強度である。例えば、前記張出などのプレス成形では、0.2%耐力で110MPa以上の比較的高い強度の方がプレス成形性に優れる。一方、前記ヘミングなどの曲げ成形では、0.2%耐力で140MPa以下の比較的低い強度の方が曲げ成形性に優れる。したがって、張出などのプレス成形性と曲げ成形性とでは、素材アルミニウム合金板の最適特性範囲が大きく異なる。
【0008】
しかも、前記張出成形されるアウタパネル形状は、張出高さや張出面積などが大型化し、しかも形状が、伸びフランジ変形を伴うような湾曲部位を有するなど近年益々複雑化する傾向にある。これに伴い、前記張出成形条件も、益々難しくなる傾向にある。
【0009】
これは、前記ヘミングなどの曲げ成形でも同様であって、加工されるアウタパネルの周縁部形状 (輪郭線) も、直線的な単純形状ではなく、円弧形状やあるいは角部を有するような複雑形状化する傾向にある。また、アウタパネルのフラットヘム部 (縁曲部) に挿入されるインナパネルも、軽量化のために、1.0mm 以下の、例えば0.5mm 程度の板厚に益々薄肉化され傾向にある。これらの条件は全て、曲げ成形条件を厳しくしている。
【0010】
この結果、張出などのプレス成形性と曲げ成形性との、素材アルミニウム合金板の最適特性範囲は更に大きく乖離することなる。そして、このことは、同一アルミニウム合金板素材にとって、張出などのプレス成形やフラットヘムなどの曲げ成形などの成形性を兼備させることを益々困難とする。
【0011】
このように異なる成形性が要求されるアルミニウム合金板素材において、従来からも、化学成分や、結晶粒、晶出物、析出物などの組織的な制御によって、これらの特性を同時に兼備する技術が種々、また多数提案されている。しかし、前記したプレス成形性と曲げ成形性との素材アルミニウム合金板の最適特性範囲の大きな乖離に対しては、前記アルミニウム合金板素材側からの特性改善乃至特性兼備のための冶金的な制御だけでは、大きな限界がある。
【0012】
このため、このような必要な強度などが部位によって異なるパネル用途に対しては、従来から鋼板においては既に採用されていた、差厚テーラードブランク材の採用が、アルミニウム合金板でも検討されている。例えば、特開2001−269779 号や特開2001−321968 号公報には、アルミニウム合金の差厚テーラードブランク材についての接合方法などが開示されている。この差厚テーラードブランク材は、板厚や強度などが部位によらずに同じである単一のアルミニウム合金板と違って、板厚や強度などが異なるアルミニウム合金板同士を、突き合わせあるいは重ね合わせて、溶接乃至接着して接合し、継手化乃至一体化したものである。
【0013】
この差厚テーラードブランク材は、パネル、フレームなどの他の部材の製造過程で発生した種々の端材を再使用できる点や、要求強度や成形性などが部位により異なる部材を、継手素材の厚みにより調整により製作できる点、あるいはアルミニウム合金板の必要枚数を減らせ、成形や接合のための工数が減る、端材の派生が減るなどの点でも利点が大きい。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようなアルミニウム合金の差厚テーラードブランク材では、鋼板と相違して、前記した複合成形や各成形時における、溶接接合部や接着接合部の接着強度が確保できず、成形時に破断等が生じる。このため、適用部位が限定され、実用化されているとは言い難い状況である。
【0015】
したがって、現状では、自動車用アルミニウム合金アウタパネルにおいては、単一かつ同一板厚のアルミニウム合金板から製作せざるを得ない。そして、実際のパネル製作のためには、パネルの成形側での工程条件の煩雑な変更や、成形条件緩和のためのパネル形状の緩和などの設計変更などが行われているのが実情である。
【0016】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、単一かつ同一板厚の板から複合プレス成形されて製作されるパネルであって、必要な強度などの特性が部位によって異なるパネルに対し、その特性を満足する自動車用アルミニウム合金パネルを提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明自動車用アルミニウム合金アウタパネルの要旨は、プレス成形によって単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から製作されるとともに、プレス成形後に人工時効硬化処理される自動車用パネルであって、プレス成形前またはプレス成形後に、パネル部位によって0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられており、かつ、高強度が必要とされるパネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa以上であることとする。
【0018】
なお。本発明において、単一のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とは、アウタパネルやインナパネルとして複合プレス成形される板が、前記差厚テーラードブランク材のような複数の板が接合されてなる板(パネル素材)ではなく、単一の板であることを意味する。したがって、複合プレス成形品がアウタパネルやインナパネルのパネルの構造体として、他のパネル材やフレイム材と接合されて、自動車車体として構成乃至組み立てられることは、当然許容される。また、同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とは、板製造工程において、必然的に生じる、板の幅方向あるいは長手方向の板厚のばらつきを当然許容している。
【0019】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明では、前記差厚テーラードブランク材のような複数の接合板素材を用いず、単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板からアウタパネルを製作されるに際し、アウタパネルの0.2%耐力を、アルミニウム合金素材板の段階、アウタパネルとしのプレス成形前の段階、あるいはアウタパネルとしのプレス成形後の段階などの、必要な段階で、各アウタパネル部位によって必要な強度に変化させる。これらの各アウタパネル部位の具体的な強度レベルは、各アウタパネル部位が受ける成形加工における成形性と、パネル構造体としての各アウタパネル部位の必要強度とから定まる。
【0020】
フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルでは、張出などのプレス成形とヘミングなどの曲げ成形との複合プレス成形に対する成形性の点からして、これらの成形前に、パネルのプレス成形部位と曲げ成形部位とのパネル部位によって、0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられていることが必要となる。即ち、張出などのプレス成形を受けるアウタパネル中央部位は、プレス成形前の0.2%耐力を110 〜155MPaの比較的高い強度とする。そして、これらアウタパネル中央部位は耐デント性など、高い強度が必要であるので、これらのパネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上とする。この人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa未満であれば、これらアウタパネル中央部位の耐デント性などの必要剛性が不足する。
【0021】
なお、本発明で言う人工時効硬化処理とは、主として、プレス成形後のパネル(自動車車体) に通常施される塗装焼き付け処理工程を言う。この人工時効硬化処理は150 〜170 ℃×20〜30分と条件に幅があるが、本発明では、この条件幅の範囲で言い換えると、前記範囲の内の低温×短時間の条件であっても、人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上と規定する。なお、プレス成形せずにプレス成形後のアウタパネルの人工時効硬化処理後の0.2%耐力を測定評価する際には、成形時に付与される歪み量を2%ストレッチにより模擬的に付加して人工時効硬化処理を行う。
【0022】
一方、フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルにおいて、ヘミングなどの曲げ成形を受けるアウタパネル周辺部位乃至周縁部位は、0.2%耐力を90〜140MPaの比較的低い強度として、上記アウタパネル中央部位に対し、0.2%耐力で20MPa 以上の強度差を設ける。上記アウタパネル中央部位の高強度に対し、この強度差が0.2%耐力で20MPa 未満となった場合、アウタパネル周辺部の強度が高くなりすぎ、曲げ成形性が低下し、曲げ成形における割れなどの不良が生じやすくなる。なお、この0.2%耐力で20MPa 以上の強度差は、板素材の圧延や熱処理などの製造工程で必然的に (自然に) 発生する、板幅方向や板長さ方向の強度のばらつき以上のレベルである。
【0023】
これに対し、インナパネルなどでは、複合プレス成形時には、部位ごとに強度差を設ける必要性は無いものの、パネルの特定部位における高強度なり高剛性がパネル構造体として、部分的に、複合プレス成形後に要求される場合がある。例えば、ドアインナパネルではドアパネルを軸支するパネルのヒンジ乃至枠部分などである。これらドアインナパネルを薄肉、軽量化した場合には、前記特定部位における強度はより高強度化が必要となる。したがって、ドアインナパネルではパネル構造体としての必要高強度なり高剛性の点から、インナパネルの成形後に、このパネルのヒンジ部分など、必要パネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力を190MPa以上と、他の高強度化が不要の部位に対して、0.2%耐力で20MPa 以上高強度化する。
【0024】
前記フード、ドア、トランクリッドなどのアウタパネルやルーフパネルにおいて、複合プレス成形前に、アウタパネル周辺部とアウタパネル中央部位との強度差を設けるためには、板素材の製造工程における熱処理工程を利用する。Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、プレス成形性や人工時効硬化能などの向上のために、通常、板の圧延後に、溶体化処理される。したがって、この溶体化処理を利用し、溶体化処理時の加熱条件を、アウタパネル周辺部に対応する板幅方向端部と、アウタパネル中央部位に対応する板幅方向中央部位とで変えることで、アウタパネル周辺部とアウタパネル中央部位との強度差を設けることができる。
【0025】
例えば、板やコイルを連続的に溶体化処理および焼入れ処理する連続熱処理炉において、溶体化処理時の加熱手段や加熱量を板幅方向で調節することにより可能である。この際、強度を高める板幅方向中央部位は加熱温度を高くし、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は加熱温度を比較的低くする。
【0026】
また、続く焼入れ処理時の冷却手段や冷却速度を板幅方向で調節する、焼入れ処理後の巻き取り温度や保持温度、その後の人工時効硬化処理時(再加熱時)の加熱温度や冷却条件を板幅方向で調節する、などの方法を組み合わせて行っても良い。例えば、焼入れ処理時には、空気、ミスト、スプレー等の冷却手段や冷却速度を板幅方向で調節し、強度を高める板幅方向中央部位は冷却速度を高くし、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は冷却速度を遅くする。人工時効硬化処理時には、同様に加熱温度や時間を調節し、強度を高める板幅方向中央部位は人工時効硬化側の条件で、強度を比較的低くする板幅方向端部部位は、人工時効硬化の無い条件側か過時効条件側の条件で行う。
【0027】
更に、溶体化および焼き入れ処理などで、常法の範囲で、板を作り込んでおき、アウタパネル周辺部に対応する板幅方向端部のみをエッジヒータなどの加熱手段を用いて焼鈍することも可能である。この場合、溶体化および焼き入れ処理後の板は、アウタパネル中央部位に対応する中央部位が、プレス成形後の人工時効硬化処理で0.2%耐力が190MPa以上となる時効硬化能を有するように、作り込んでおく必要がある。
【0028】
一方、前記ドアインナパネルでは、プレス成形後に、パネル部位による強度差を設ける。このためには、成形パネルの塗装焼き付け処理を利用するか、別途、人工時効硬化処理を行って、前記したパネル内の高強度化が必要な部位のみを高強度化させる。例えば、パネル内の高強度化が必要な部位のみを人工時効硬化処理を行うか、あるいはパネル内の高強度化が必要な部位のみが人工時効硬化されるような条件で人工時効硬化処理を行う。
【0029】
本発明におけるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板素材自体は、前記パネル内の部位で強度差を設ける以外は、鋳造、均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延(これら圧延において必要において施す中間焼鈍含む)、溶体化および焼き入れ処理などの調質など、常法により製造できる。
【0030】
次に、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板素材の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。本発明で用いるアルミニウム合金板の基本組成は、プレス成形性や人工時効硬化能などのパネルに要求される基本特性を満足するためには、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上とした過剰Si型のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板とすることが好ましい。そして、上記組織の規定や諸特性を確保するために、より厳密には、前記規定各成分以外の残部を、Alおよび不可避的不純物とすることが好ましい。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
【0031】
上記合金元素以外の、Cr、Zr、Ti、B 、Fe、Zn、Ni、V など、その他の合金元素は、基本的には不純物元素である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度アルミニウム地金だけではなく、6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明アルミニウム合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら他の合金元素が含有されることを許容する。
【0032】
また、本発明パネルが対象とする複合プレス成形方法は、通常の自動車用パネルと同様に、プレス機を用いた張出、絞り、曲げ、ヘミングなどの自動車パネル製作のためのプレス成形を適用対象とする。なお、本発明パネルは、電磁成形やブロー成形など、上記通常以外の成形方法が適用されても良い。
【0033】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。上記好ましい組成範囲であって、AA 6022 規格内組成のアルミニウム合金板 (厚さ1.0mm)に対し、自動車アウタパネルとして張出成形やヘム加工などの複合プレス成形されることを模擬して、アルミニウム合金板の張出成形される中央部位とヘム加工される周辺部位とに (後述する角筒状の張出部相当部位と、この張出部の四周囲の平坦なフランジ部相当部位とに) 強度差を与えて、各成形試験を行い、成形性を評価した。また、プレス成形品パネル中央部位の人工時効処理能を評価した。
【0034】
比較のために、張出成形される中央部位とヘム加工される周辺部位とに強度差が無い従来のアルミニウム合金板や、この強度差が少ないアルミニウム合金板も準備して、同じく成形性を評価した。これらの結果を表1 に示す。なお、アルミニウム合金板部位による強度差は、板部位による人工時効硬化処理条件を変えて設けた。
【0035】
アルミニウム合金板の部位毎の強度は、元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を測定した。なお、引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
【0036】
張出成形試験の条件は、前記アルミニウム合金板から一辺が500mm の正方形の供試板 (ブランク) を複数枚切り出し、中央部に一辺が300mm で、高さが30mmと高い角筒状の張出部と、この張出部の四周囲に平坦なフランジ部 (幅30mm) を有するハット型のパネルに、メカプレスにより、ビード付き金型を用いて張出成形した。しわ押さえ力は49kN、潤滑油は一般防錆油、成形速度は20mm/ 分の同じ条件で張出成形試験を3 回行い、3 回とも成形ハット型パネルの張出部角部などに割れがなく正常に成形できた例を〇、3 回の内1回から2回割れがなく正常に成形できた例(1回から2回割れが生じた例)を△、3 回とも全て割れが生じて成形できなかったものを×として評価した。
【0037】
次に、フラットヘム加工試験は以下の通りとした。前記プレス成形されたAl合金パネルを、アウターパネルとしてヘム加工されることを模擬して、パネルの前記平坦なフランジ部の内、圧延方向と平行なフランジ部の端部全面を以下の条件でフラットヘム加工した。
【0038】
まず、Al合金パネルのフラットヘム加工代 (ヘム加工後のパネルの内側に折り曲げられた端部から折り曲げ部の端部までの距離) を12mmとして、ダウンフランジ工程を模擬し、Al合金パネルの縁を90度の角度となるまで折り曲げた。この際、Al合金パネルの90°曲げ半径は0.8 とした。次に、プリヘム工程模擬して、Al合金パネルの縁を更に135 °の角度まで内側に折り曲げた。その後、厳しいフラットヘム加工条件を模擬して、敢えてインナパネルを前記Al合金パネルの折り曲げ部に挿入せずに、折り曲げ部を内側に180 °折り曲げ、パネル面に密着させるフラットヘム加工を行った。
【0039】
そして、このフラットヘムの縁曲部の、肌荒れ、微小な割れ、大きな割れの発生などの表面状態を目視観察した。評価は、1;肌荒れや微小な割れも無く良好、2;肌荒れが発生しているものの、微小なものを含めた割れはない、3;微小な割れが発生、4;大きな割れが発生、5;大きな割れが複数乃至多数発生、の5 段階の評価をした。この評価として、ヘム加工性が良好 (使用可) と判断されるのは1 〜2 段階までで、3 段階以上はヘム加工性が劣る (使用不可) と判断される。
【0040】
更に、人工時効処理能を調査するため、前記プレス成形されたパネル中央部位から試験片を採取して、170 ℃×20分の人工時効硬化処理し、処理後の各試験片の (元のAl合金板の) 圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (ABσ0.2)を測定した。これらの結果も表1 に示す。
【0041】
表1 から明らかな通り、複合プレス成形前に、パネル中央部位がパネル周辺部位よりも0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられ、パネル中央部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa以上である発明例1 〜5 は、中央部位の張出成形性が優れるとともに、パネル周辺部位のヘム加工性にも優れている。
【0042】
一方、複合プレス成形前に、パネル中央部位とパネル周辺部位との強度差が0.2%耐力で20MPa 未満であり、パネル中央部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa未満である比較例6 〜9 は、中央部位の張出成形性か、パネル周辺部位のヘム加工性かのいずれかが劣っている。なお、パネル中央部位とパネル周辺部位との強度差がほとんど無い比較例9 は、従来のパネルである。
【0043】
【表1】
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、単一かつ同一板厚の板からプレス成形されて製作されるパネルであって、必要な強度などの特性が部位によって異なり、各プレス成形性や必要強度を満たす自動車用アルミニウム合金パネルを提供することができる。したがって、アルミニウム合金パネル用途への拡大を図ることができる。
Claims (6)
- プレス成形によって単一かつ同一板厚のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から製作されるとともに、プレス成形後に人工時効硬化処理される自動車用パネルであって、プレス成形前またはプレス成形後に、パネル部位によって0.2%耐力で20MPa 以上の強度差が設けられており、かつ、高強度が必要とされるパネル部位の人工時効硬化処理後の0.2%耐力が190MPa以上であることを特徴とする自動車用アルミニウム合金パネル。
- 前記パネルがアウタパネルであり、パネル中央部の強度がパネル周辺部に比して高い請求項1に記載の自動車用アルミニウム合金パネル。
- 前記パネルがインナパネルであり、パネル周辺部の強度がパネル中央部に比して高い請求項1または2に記載の自動車用アルミニウム合金アウタパネル。
- 前記パネルが、フード、ルーフ、ドア、トランクリッドの中から選択されるパネルである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車用アルミニウム合金パネル。
- 前記Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物である組成からなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動車用アルミニウム合金パネル。
- 前記パネルの板厚が2.5mm 以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動車用アルミニウム合金パネル。
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JP2009024187A (ja) * | 2007-07-17 | 2009-02-05 | Mazda Motor Corp | 塑性加工部材の製造方法 |
US7984943B2 (en) | 2008-02-04 | 2011-07-26 | Toyota Jidosha Kabushiki Kaisha | Vehicular hood structure |
CN117286376A (zh) * | 2023-11-27 | 2023-12-26 | 中国第一汽车股份有限公司 | 一种变屈服强度铝合金及其制备方法和用途 |
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- 2002-08-13 JP JP2002235881A patent/JP2004076065A/ja active Pending
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