JP2004074479A - 液体噴射装置及び同装置の駆動方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】階調に応じて最適の印刷を実施できるようにする。
【解決手段】圧力発生素子に印加される吐出パルスは、圧力室の容積を膨張させて圧力室内に液体を充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、を含む。中間階調印刷時に使用される吐出パルスに関しては、圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室の方向に最も引き込まれた時点に吐出波形要素Pndの始点を合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間が圧力室の固有振動周期Tcよりも長く設定されている。
【選択図】 図7
【解決手段】圧力発生素子に印加される吐出パルスは、圧力室の容積を膨張させて圧力室内に液体を充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、を含む。中間階調印刷時に使用される吐出パルスに関しては、圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室の方向に最も引き込まれた時点に吐出波形要素Pndの始点を合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間が圧力室の固有振動周期Tcよりも長く設定されている。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置、及び同装置の駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の液体噴射装置の代表例としては、画像記録用のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置がある。その他の液体噴射装置としては、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等が挙げられる。
【0003】
インクジェット式記録装置は、多数のノズル開口を列状に並べて形成されたノズル列を複数備える記録ヘッド(液体噴射ヘッド)と、この記録ヘッドを主走査方向(記録紙幅方向)に移動させるキャリッジ機構と、記録紙を主走査方向に直交する副走査方向(紙送り方向)に移動させる紙送り機構とを備えている。
【0004】
上記の記録ヘッドは、複数のノズル開口に連通した複数の圧力室と、各圧力室内のインク圧力を変化させる各圧力発生素子とを備えている。この記録ヘッドでは、吐出パルスを圧力発生素子に供給することで圧力室内のインク圧力を変化させ、ノズル開口からインク滴を吐出させる。
【0005】
主走査方向に移動しながら記録ヘッドは、ドットパターンデータにより規定されるタイミングでインク滴を吐出させる。そして、記録ヘッドが移動範囲の終端に達したならば、紙送り機構は記録紙を副走査方向に移動させる。記録紙の移動を行ったならば、キャリッジ機構は記録ヘッドを再度主走査方向に移動させ、記録ヘッドは移動中にインク滴を吐出する。
【0006】
以上の動作を繰り返し行うことにより、ドットパターンデータに基づく画像が記録紙上に記録される。
【0007】
この種のインクジェット式記録装置は、インク滴を吐出するか否か、つまりドットの有無により画像を構成するものである。このため、1つの画素を4×4、8×8等の複数のドットで表現することによって中間階調を表現する方法が採用されている。そして、この方法で高い画質の画像を記録するためには、体積の極く小さいインク滴を記録ヘッドから吐出させる必要がある。
【0008】
このような事情に鑑み、画質の向上と記録速度の向上という相反する要求を満たすため、同一のノズルから異なる大きさのインク滴を吐出させる技術が開発されている。例えば、微小なインク滴を生成可能なパルス信号を複数供給することにより、同一のノズルから微小なインク滴を複数吐出させ、記録紙上に着弾する前に各インク滴を合体させて大きなインク滴を生成する。
【0009】
しかしながら、この技術では、合体可能なインク滴の数が限られてしまうので、インク滴の大きさが限られてしまうし、大きさの可変範囲も狭い。さらに、着弾前に複数のインク滴を合体させなければならないので、制御も困難である。
【0010】
そこで、吐出させるインク滴の体積に応じた複数種類の吐出パルスを一連に接続した駆動信号を発生して、この駆動信号の一部を選択して得られた吐出パルスを圧力発生素子に供給する技術が開発されている。
【0011】
図8は、記録ヘッドのノズル開口からインク滴を吐出する際に圧力発生素子に印加される吐出パルスの代表例を示している。この吐出パルスは、圧力室の容積を膨張させて圧力室内にインクを充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室を収縮させてノズル開口からインク滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、圧力室の収縮状態を保持する収縮保持波形要素Pwh2と、収縮状態にある圧力室を膨張させてメニスカスを制振する制振波形要素Pwc2と、を備えている。
【0012】
また、図9は、充填波形要素Pwc1を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示しており、横軸は経過時間t、縦軸はメニスカスの位置を示している。図9に示した曲線Aは、圧力室の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcに対応する周期を持っている。
【0013】
なお、図9の横軸の経過時間tを、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tとすれば、メニスカスの振動状態を示す曲線Aは、ノズル開口から吐出されるインク滴の重量(Iw)及びインク滴の速度(Vm)を示すことになる。つまり、メニスカスが圧力室方向に最も引き込まれた時点で吐出波形要素Pndが開始する場合、吐出されるインク滴の重量は最も軽く、吐出速度は最も遅い。逆に、メニスカスが圧力室から最も離れた時点で吐出波形要素Pndが開始する場合には、最重量且つ最速のインク滴が吐出される。
【0014】
そして、従来のインクジェット式記録装置においては、図9に示した曲線Aの谷の時点Xにて吐出波形要素Pndが開始されるようにするために、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを圧力室のヘルムホルツ振動周期Tcに設定していた。
【0015】
このように設定する理由は次の通りである。理想的には、記録ヘッドに形成された複数の圧力室のすべてが共通の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcを有していることが望ましいが、実際には、記録ヘッドの製造上の問題から、同一列内に属する圧力室同士の間でもヘルムホルツ振動周期Tcにバラツキが発生してしまう。このため、上述した充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを設定する際に使用されるヘルムホルツ振動周期Tcとしては、複数の圧力室のヘルムホルツ振動周期Tcの平均値が使用されている。つまり、図9に示した曲線Aは、平均のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室におけるメニスカスの振動状態を示したものである。
【0016】
次に図10には、上述した曲線Aに加えて曲線B及び曲線Cが示されており、曲線Bは最大のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室の場合を示し、曲線Cは最小のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室の場合を示している。図10から分かるように、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを曲線Aの谷部Xに合わせることによって、曲線Aの値に対する曲線B、Cの値の偏差量ΔIaを最小限に抑えることができる。すなわち、複数の圧力室間の固有振動周期Tcのバラツキに起因するインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したように充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間T(=Pwc1+Pwh1)をTc(平均値)に合わせると、この合計時間Tの終点(つまり、吐出波形要素Pndの始点)は、実際には、図10に示した曲線Aの谷の時点Xではなく、時点Xよりもやや手前の時点X’に対応してしまうことが本発明者によって見出された。これは、おそらく、吐出パルスの波形が、図8に示したように、いわゆるインパルス波形ではなく、ある程度の勾配を充填波形要素Pwc1に付与したランプ波形であるためと考えられる。
【0018】
このように合計時間T(=Pwc1+Pwh1)が、谷の時点Xではなく、その手前の時点X’に対応する場合、図10に示したように曲線Aに対する曲線B、Cの偏差量ΔIbが増大してしまう。つまり、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキが大きくなってしまう。
【0019】
上記の知見に基づいて本発明者は、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間T(=Pwc1+Pwh1)を、図10に示した曲線Aの谷の時点Xに合わせる技術を開発した。これにより、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを抑えることができる。
【0020】
ところが、図10に示した曲線Aの谷の時点Xに合計時間T(=Pwc1+Pwh1)を合わせることにより、従来のように時点X’に合わせていた場合に比べて、ノズル開口から吐出されるインク滴の重量が小さくなってしまう。これは、画素全体を満遍なく塗りつぶす、いわゆるベタ印刷を実施する場合には、印刷ムラの原因となる可能性がある。
【0021】
インク滴重量の減少分を補うためには、圧力発生素子に印加する電圧を全体的に引き上げればよいが、電圧上昇により吐出安定性が低下したり、消費電力が増大してしまうという問題があり、また、そもそも設計上の制約があるために引き上げ可能な電圧幅にはおのずから限界がある。
【0022】
この点に関して本発明者は、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキは、中間階調の印刷時には画質低下に大きく影響するものの、1画素に大ドットを形成するようなベタ印刷時においては大きな影響はなく、むしろベタ印刷時においてはインク滴重量を十分に確保することが重要であることを見出した。
【0023】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、階調に応じて最適の印刷を実施することができる液体噴射装置及び同装置の駆動方法を提供することを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置において、前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成手段と、を備え、前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決するために、第2の本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置の駆動方法において、前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生工程と、前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成工程と、を備え、前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする。
【0026】
上記第1及び第2の本発明において、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に2マイクロ秒以下の時間を加えた値である。
【0027】
また、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の130%以下である。
【0028】
また、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の1/8倍以下の時間を加えた値である。
【0029】
また、好ましくは、前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致する。
【0030】
また、好ましくは、前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致する。
【0031】
また、好ましくは、前記圧力発生素子は、縦振動モード又はたわみ振動モードの圧電振動子によって構成されている。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置及び同装置の駆動方法について、図面を参照して説明する。
【0033】
図1は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図である。図1中符号1はキャリッジであり、このキャリッジ1はキャリッジモータ2により駆動されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往復移動されるように構成されている。キャリッジ1、キャリッジモータ2、タイミングベルト3、及びガイド部材4は、インクジェット式記録ヘッド12をキャリッジ1と共に主走査方向に走査させるキャリッジ機構を構成している。
【0034】
インクジェット式記録ヘッド12はキャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されており、またその上部には記録ヘッド12にインクを供給するインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。
【0035】
インクジェット式記録装置の非印刷領域であるホームポジション(図1中、右側)にはキャップ部材13が配置されており、このキャップ部材13はキャリッジ1に搭載された記録ヘッド12がホームポジションに移動した時に、記録ヘッド12のノズル形成面に押し当てられてノズル形成面との間に密閉空間を形成するように構成されている。そして、キャップ部材13の下方には、キャップ部材13により形成された密閉空間に負圧を与えるためのポンプユニット10が配置されている。
【0036】
キャップ部材13における印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング手段11が記録ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置されていて、キャリッジ1がキャップ部材13側に往復移動するに際して、必要に応じて記録ヘッド12のノズル形成面を払拭することができるように構成されている。
【0037】
このインクジェット式記録装置は、さらに、記録ヘッド12により記録が行われる記録紙6を主走査方向に対して直交する副走査方向に間欠的に搬送する送り機構を備えている。
【0038】
図2は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の機能ブロック図である。図2に示したようにこの記録装置はプリンタコントローラ61と、プリントエンジン62とを備えている。プリンタコントローラ61は、ホストコンピュータ(図示せず)等から印刷データ等を受信するインターフェース63と、各種データの記憶等を行うRAM64と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM65と、CPU等から成る制御部82と、発振回路66と、駆動信号を発生する駆動信号発生回路(駆動信号発生手段)83と、ドットパターンデータ(ビットマップデータ)に展開された印刷データや駆動信号等をプリントエンジン62に送信するためのインターフェース67とを備えている。
【0039】
この他に、プリンタコントローラ61は、記録媒体の一種であるメモリカード76を着脱可能に保持し、記録媒体保持部として機能するカードスロット77と、メモリカード76に記録された情報を制御部82に送信するカードインターフェース78とを備えている。上記のメモリカード76には、駆動信号の波形に関するデータが記録されている。なお、メモリカード76以外の記録媒体としては、例えば、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気ディスク等も使用することができる。
【0040】
そして、制御部82はコンピュータの一種であり、メモリカード76に記録された駆動信号の波形データやROM65に記録された制御ルーチン等を参照してインク滴の吐出制御を行う。
【0041】
インターフェース63は、例えばキャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータのいずれか1つのデータ又は複数のデータからなる印刷データをホストコンピュータから受信する。また、インターフェース63は、ホストコンピュータに対してビジー(BUSY)信号やアクノレッジ(ACK)信号等を出力することができる。
【0042】
RAM64は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ及びワークメモリ(図示せず)等として利用されるものである。受信バッファにはホストコンピュータからの印刷データが一時的に記憶され、中間バッファには中間コードデータが記憶され、出力バッファにはドットパターンデータが展開される。
【0043】
ROM65は、制御部82によって実行される各種制御ルーチン、フォントデータ、及びグラフィック関数等を記憶している。
【0044】
なお、このROM65には、変更されずに継続的に使用される制御ルーチン(制御プログラム)が記憶されている。そして、駆動信号の波形に関するデータ等、バージョンアップや変更が予定されるものは、上記のメモリカード76に記録される。
【0045】
また、制御部82は、メモリカード76から読み取った駆動信号の波形に関するデータに基づいて駆動信号発生回路83を制御して、印刷モードに応じて所定の駆動信号を生成させる。
【0046】
プリントエンジン62は、記録ヘッド12を主走査方向に駆動するステッピングモータ80、記録紙を移送する紙送りモータ81、及び記録ヘッド12の電気駆動系71とから構成されている。記録ヘッド12の電気駆動系71は、シフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、スイッチ75、及び圧電振動子161等を備えている。なお、シフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、及びスイッチ75はパルス生成手段として機能する。
【0047】
なお、制御部82としては、例えば単体で直接的に記録装置に接続されたホストコンピュータや、また、ネットワークを介して接続された多数のコンピュータのうちの1つのコンピュータを使用することもできる。
【0048】
図3は、図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造を示した断面図である。
【0049】
この記録ヘッド12は、合成樹脂製の基台163と、この基台163の前面(図の左側に相当する)に貼着された流路ユニット164とを備えている。そして、この流路ユニット164は、ノズル開口165が穿設されたノズルプレート166と、振動板167と、流路形成板168と、シート176とから構成されている。
【0050】
基台163は、前面と背面に開放された収容空間169が設けられたブロック状部材である。この収容空間169には、固定基板170に固定された圧電振動子161が収容されている。
【0051】
ノズルプレート166は、副走査方向に沿って多数のノズル開口165が穿設された薄い板状部材である。各ノズル開口165は、ドット形成密度に対応した所定ピッチで開設されている。振動板167及びシート176によって、圧電振動子161が当接する厚肉部としてのアイランド部171と、このアイランド部171の周囲を囲うように設けられ、弾性を有する薄肉部172とが形成されている。
【0052】
アイランド部171は、一つのノズル開口165に一つのアイランド部171が対応するように、所定ピッチで多数設けられている。
【0053】
流路形成板168は、圧力室173、共通インク室174、及び、これらの圧力室173と共通インク室174とを連通するインク供給口175を形成するための開口部が設けられている。
【0054】
そして、ノズルプレート166を流路形成板168の前面に配設するとともに、振動板167及びシート176を背面側に配設し、ノズルプレート166と振動板167及びシート176とにより流路形成板168を挟んだ状態で、接着等により一体化されて流路ユニット164が形成されている。
【0055】
この流路ユニット164では、ノズル開口165の背面側に圧力室173が形成され、この圧力室173の背面側に振動板167のアイランド部171が位置している。また、圧力室173と共通インク室174とがインク供給口175によって連通している。
【0056】
圧電振動子161の先端は、アイランド部171に背面側から当接され、この当接状態で圧電振動子161が基台163に固定されている。また、この圧電振動子161には、フレキシブルケーブルを介して駆動信号(COM)や印刷データ(SI)等が供給される。
【0057】
縦振動モードの圧電振動子161は、充電されると電界と直交する方向に収縮し、放電すると電界と直交する方向に伸長する特性を有する。したがって、この記録ヘッド12では、充電されることにより圧電振動子161は後方に収縮し、この収縮に伴ってアイランド部171が後方に引き戻され、収縮していた圧力室173が膨張する。この膨張に伴って共通インク室174のインクがインク供給口175を通って圧力室173内に流入する。一方、放電することにより圧電振動子161は前方に向けて伸長し、弾性板のアイランド部171が前方に押されて圧力室173が収縮する。この収縮に伴って圧力室173内のインク圧力が高くなる。
【0058】
図4は、駆動信号発生回路83にて生成される駆動信号を示しており、この駆動信号は、第1乃至第3の吐出パルスP1、P2、P3及び微振動パルスP4を含んでいる。微振動パルスP4は、第1吐出パルスP1と第2吐出パルスP2との間に配置されている。
【0059】
そして、1画素に大ドットを形成する際には、第1乃至第3の吐出パルスP1、P2、P3のすべてを圧電振動子161に印加して、1画素に対して3つのインク滴を吐出する。一方、中間階調にて印刷する際には、中央の吐出パルスP2のみを圧電振動子161に印加して、1画素に対して1つのインク滴を吐出する。このように本実施形態においては、1画素に吐出するインク滴数を変えることによって印刷の階調を制御することができる。
【0060】
なお、図5に示したように、図4に示した駆動信号に小ドット用の吐出パルスP5を加えた駆動信号を使用することもできる。この駆動信号においても、中間階調印刷時には第2吐出パルスP2が単独で使用される。
【0061】
さらに、図6に示したように、図5に示した駆動信号中の第1吐出パルスP1を省略した形の駆動信号を使用することもできる。この駆動信号においても、第2吐出パルスP2が中間階調印刷時に単独で使用される。
【0062】
そして、本実施形態における駆動信号においては、中間階調時に単独で使用される吐出パルスP2以外の吐出パルスには、図8に示した従来の吐出パルスと同様の吐出パルスが使用される。つまり、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを、圧力室173の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcに設定している。
【0063】
これに対して、中間階調時に単独で使用される第2吐出パルスP2は、図8に示した従来の吐出パルスとは異なる波形を有している。
【0064】
図7に示したように第2吐出パルスP2は、その他の吐出パルスと同様に、圧力室173の容積を膨張させて圧力室173内にインクを充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室173の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室173を収縮させてノズル開口165からインク滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、圧力室173の収縮状態を保持する収縮保持波形要素Pwh2と、収縮状態にある圧力室173を膨張させてメニスカスを制振する制振波形要素Pwc2と、を備えている。
【0065】
そして、この第2吐出パルスP2においては、その他の吐出パルスとは異なり、膨張保持波形要素Pwh1の終点、即ち吐出波形要素Pndの始点を、圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点X(図9参照)に合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間Tが、圧力室173の固有振動周期Tcよりも長いTc+αに設定されている。
【0066】
図8に示した従来の吐出パルスとの比較で言えば、図7に示した本実施形態における吐出パルスは、図8に示した従来の吐出パルスにおける膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔を従来よりも長くしたものである。
【0067】
この合計時間T(=Tc+α)は、好ましくは、圧力室173の固有振動周期Tcに2マイクロ秒以下の時間を加えた値である。
【0068】
或いはまた、この合計時間T(=Tc+α)は、圧力室173の固有振動周期Tcの130%以下に設定される。
【0069】
さらに、この合計時間T(=Tc+α)は、圧力室173の固有振動周期Tcに、圧力室173の固有振動周期Tcの1/8倍以下の時間を加えた値でも良い。
【0070】
また、複数の圧力室173においてそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがある場合には、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)又は平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室173において、充填波形要素Pwc1による圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点が吐出波形要素Pndの始点に一致するように駆動信号を設計する。
【0071】
以上述べたように本実施形態においては、中間階調時に単独で使用される第2吐出パルスP2に関して、吐出波形要素Pndの始点を、圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点Xに合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間Tが、圧力室173の固有振動周期Tcよりも長いTc+αに設定されているので、図10を参照して既に説明したように、複数の圧力室173間の固有振動周期Tcのバラツキに起因するインク滴の重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることが可能であり、安定したムラのない印刷品質を提供することができる。特に、中間階調印刷時においてはノズル開口165毎のインク滴重量のバラツキが画質に大きく影響するので、本実施形態のように中間階調印刷時においてノズル開口165毎のインク滴重量のバラツキを抑制することが極めて有効である。
【0072】
一方、1画素に大ドットを形成するベタ印刷においては、第2吐出パルスP2以外の吐出パルスによって吐出されるインク滴の重量Iwが従来と同様に十分に確保されているので、ベタ印刷を支障なく実施することができる。
【0073】
このように本実施形態によれば、中間階調印刷時において複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができると共に、中間階調印刷以外の印刷時においてはインク滴重量の確保を優先させることができるので、階調に応じて最適の印刷を実施することができる。
【0074】
なお、上記実施形態では縦振動モードの圧電振動子を圧力発生素子として使用した記録ヘッドを例示したが、本発明は、たわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドにも適用することができる。このたわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドでは、圧電振動子の充放電による電圧レベルと圧力室の膨張収縮との関係が、上述した縦振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッド12の場合とは逆になる。従って、たわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドを用いる場合には、図7に示した記録ヘッド12用の駆動信号を、中間電位を境に電圧の正負を反対にした駆動信号および駆動波形が用いられる。すなわち、圧力室へのインクの充填は電圧を下降させることでおこなう。同様に、インク滴の吐出は、電圧を上昇させることにより行う。
【0075】
このようなたわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、中間階調印刷時において複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができると共に、中間階調印刷以外の印刷時においてはインク滴重量の確保を優先させることができるので、階調に応じて最適の印刷を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による液体噴射装置の一実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図。
【図2】図1に示したインクジェット式記録装置の機能ブロック図。
【図3】図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造を示す断面図。
【図4】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号を示した図。
【図5】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号の他の例を示した図。
【図6】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号の他の例を示した図。
【図7】図1に示したインクジェット式記録装置において使用される吐出パルスの波形を示した図。
【図8】従来のインクジェット式記録装置において使用される吐出パルスの波形を示した図。
【図9】複数の圧力室における平均の固有振動周期を持つ圧力室において、吐出パルスの充填波形要素を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示した図。
【図10】平均の固有振動周期、最大の固有振動周期、及び最小の固有振動周期を持つそれぞれの圧力室において、吐出パルスの充填波形要素を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示した図。
【符号の説明】
72 シフトレジスタ
73 ラッチ回路
74 レベルシフタ
75 スイッチ
82 制御部
83 駆動信号発生回路(駆動信号発生手段)
12 記録ヘッド
161 圧電振動子
165 ノズル開口
166 ノズルプレート
173 圧力室
T 充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間
Tc 圧力室の固有振動周期(ヘルムホルツ振動の周期)
P1、P2、P3 第1、第2、第3吐出パルス
Pwc1 充填波形要素
Pwh1 膨張保持波形要素
Pnd 吐出波形要素
Pwh2 収縮保持波形要素
Pwc2 制振波形要素
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置、及び同装置の駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の液体噴射装置の代表例としては、画像記録用のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置がある。その他の液体噴射装置としては、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等が挙げられる。
【0003】
インクジェット式記録装置は、多数のノズル開口を列状に並べて形成されたノズル列を複数備える記録ヘッド(液体噴射ヘッド)と、この記録ヘッドを主走査方向(記録紙幅方向)に移動させるキャリッジ機構と、記録紙を主走査方向に直交する副走査方向(紙送り方向)に移動させる紙送り機構とを備えている。
【0004】
上記の記録ヘッドは、複数のノズル開口に連通した複数の圧力室と、各圧力室内のインク圧力を変化させる各圧力発生素子とを備えている。この記録ヘッドでは、吐出パルスを圧力発生素子に供給することで圧力室内のインク圧力を変化させ、ノズル開口からインク滴を吐出させる。
【0005】
主走査方向に移動しながら記録ヘッドは、ドットパターンデータにより規定されるタイミングでインク滴を吐出させる。そして、記録ヘッドが移動範囲の終端に達したならば、紙送り機構は記録紙を副走査方向に移動させる。記録紙の移動を行ったならば、キャリッジ機構は記録ヘッドを再度主走査方向に移動させ、記録ヘッドは移動中にインク滴を吐出する。
【0006】
以上の動作を繰り返し行うことにより、ドットパターンデータに基づく画像が記録紙上に記録される。
【0007】
この種のインクジェット式記録装置は、インク滴を吐出するか否か、つまりドットの有無により画像を構成するものである。このため、1つの画素を4×4、8×8等の複数のドットで表現することによって中間階調を表現する方法が採用されている。そして、この方法で高い画質の画像を記録するためには、体積の極く小さいインク滴を記録ヘッドから吐出させる必要がある。
【0008】
このような事情に鑑み、画質の向上と記録速度の向上という相反する要求を満たすため、同一のノズルから異なる大きさのインク滴を吐出させる技術が開発されている。例えば、微小なインク滴を生成可能なパルス信号を複数供給することにより、同一のノズルから微小なインク滴を複数吐出させ、記録紙上に着弾する前に各インク滴を合体させて大きなインク滴を生成する。
【0009】
しかしながら、この技術では、合体可能なインク滴の数が限られてしまうので、インク滴の大きさが限られてしまうし、大きさの可変範囲も狭い。さらに、着弾前に複数のインク滴を合体させなければならないので、制御も困難である。
【0010】
そこで、吐出させるインク滴の体積に応じた複数種類の吐出パルスを一連に接続した駆動信号を発生して、この駆動信号の一部を選択して得られた吐出パルスを圧力発生素子に供給する技術が開発されている。
【0011】
図8は、記録ヘッドのノズル開口からインク滴を吐出する際に圧力発生素子に印加される吐出パルスの代表例を示している。この吐出パルスは、圧力室の容積を膨張させて圧力室内にインクを充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室を収縮させてノズル開口からインク滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、圧力室の収縮状態を保持する収縮保持波形要素Pwh2と、収縮状態にある圧力室を膨張させてメニスカスを制振する制振波形要素Pwc2と、を備えている。
【0012】
また、図9は、充填波形要素Pwc1を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示しており、横軸は経過時間t、縦軸はメニスカスの位置を示している。図9に示した曲線Aは、圧力室の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcに対応する周期を持っている。
【0013】
なお、図9の横軸の経過時間tを、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tとすれば、メニスカスの振動状態を示す曲線Aは、ノズル開口から吐出されるインク滴の重量(Iw)及びインク滴の速度(Vm)を示すことになる。つまり、メニスカスが圧力室方向に最も引き込まれた時点で吐出波形要素Pndが開始する場合、吐出されるインク滴の重量は最も軽く、吐出速度は最も遅い。逆に、メニスカスが圧力室から最も離れた時点で吐出波形要素Pndが開始する場合には、最重量且つ最速のインク滴が吐出される。
【0014】
そして、従来のインクジェット式記録装置においては、図9に示した曲線Aの谷の時点Xにて吐出波形要素Pndが開始されるようにするために、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを圧力室のヘルムホルツ振動周期Tcに設定していた。
【0015】
このように設定する理由は次の通りである。理想的には、記録ヘッドに形成された複数の圧力室のすべてが共通の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcを有していることが望ましいが、実際には、記録ヘッドの製造上の問題から、同一列内に属する圧力室同士の間でもヘルムホルツ振動周期Tcにバラツキが発生してしまう。このため、上述した充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを設定する際に使用されるヘルムホルツ振動周期Tcとしては、複数の圧力室のヘルムホルツ振動周期Tcの平均値が使用されている。つまり、図9に示した曲線Aは、平均のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室におけるメニスカスの振動状態を示したものである。
【0016】
次に図10には、上述した曲線Aに加えて曲線B及び曲線Cが示されており、曲線Bは最大のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室の場合を示し、曲線Cは最小のヘルムホルツ振動周期Tcを持つ圧力室の場合を示している。図10から分かるように、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを曲線Aの谷部Xに合わせることによって、曲線Aの値に対する曲線B、Cの値の偏差量ΔIaを最小限に抑えることができる。すなわち、複数の圧力室間の固有振動周期Tcのバラツキに起因するインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したように充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間T(=Pwc1+Pwh1)をTc(平均値)に合わせると、この合計時間Tの終点(つまり、吐出波形要素Pndの始点)は、実際には、図10に示した曲線Aの谷の時点Xではなく、時点Xよりもやや手前の時点X’に対応してしまうことが本発明者によって見出された。これは、おそらく、吐出パルスの波形が、図8に示したように、いわゆるインパルス波形ではなく、ある程度の勾配を充填波形要素Pwc1に付与したランプ波形であるためと考えられる。
【0018】
このように合計時間T(=Pwc1+Pwh1)が、谷の時点Xではなく、その手前の時点X’に対応する場合、図10に示したように曲線Aに対する曲線B、Cの偏差量ΔIbが増大してしまう。つまり、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキが大きくなってしまう。
【0019】
上記の知見に基づいて本発明者は、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間T(=Pwc1+Pwh1)を、図10に示した曲線Aの谷の時点Xに合わせる技術を開発した。これにより、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを抑えることができる。
【0020】
ところが、図10に示した曲線Aの谷の時点Xに合計時間T(=Pwc1+Pwh1)を合わせることにより、従来のように時点X’に合わせていた場合に比べて、ノズル開口から吐出されるインク滴の重量が小さくなってしまう。これは、画素全体を満遍なく塗りつぶす、いわゆるベタ印刷を実施する場合には、印刷ムラの原因となる可能性がある。
【0021】
インク滴重量の減少分を補うためには、圧力発生素子に印加する電圧を全体的に引き上げればよいが、電圧上昇により吐出安定性が低下したり、消費電力が増大してしまうという問題があり、また、そもそも設計上の制約があるために引き上げ可能な電圧幅にはおのずから限界がある。
【0022】
この点に関して本発明者は、複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキは、中間階調の印刷時には画質低下に大きく影響するものの、1画素に大ドットを形成するようなベタ印刷時においては大きな影響はなく、むしろベタ印刷時においてはインク滴重量を十分に確保することが重要であることを見出した。
【0023】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、階調に応じて最適の印刷を実施することができる液体噴射装置及び同装置の駆動方法を提供することを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置において、前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成手段と、を備え、前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決するために、第2の本発明は、複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置の駆動方法において、前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生工程と、前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成工程と、を備え、前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする。
【0026】
上記第1及び第2の本発明において、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に2マイクロ秒以下の時間を加えた値である。
【0027】
また、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の130%以下である。
【0028】
また、好ましくは、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の1/8倍以下の時間を加えた値である。
【0029】
また、好ましくは、前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致する。
【0030】
また、好ましくは、前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致する。
【0031】
また、好ましくは、前記圧力発生素子は、縦振動モード又はたわみ振動モードの圧電振動子によって構成されている。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置及び同装置の駆動方法について、図面を参照して説明する。
【0033】
図1は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図である。図1中符号1はキャリッジであり、このキャリッジ1はキャリッジモータ2により駆動されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往復移動されるように構成されている。キャリッジ1、キャリッジモータ2、タイミングベルト3、及びガイド部材4は、インクジェット式記録ヘッド12をキャリッジ1と共に主走査方向に走査させるキャリッジ機構を構成している。
【0034】
インクジェット式記録ヘッド12はキャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されており、またその上部には記録ヘッド12にインクを供給するインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。
【0035】
インクジェット式記録装置の非印刷領域であるホームポジション(図1中、右側)にはキャップ部材13が配置されており、このキャップ部材13はキャリッジ1に搭載された記録ヘッド12がホームポジションに移動した時に、記録ヘッド12のノズル形成面に押し当てられてノズル形成面との間に密閉空間を形成するように構成されている。そして、キャップ部材13の下方には、キャップ部材13により形成された密閉空間に負圧を与えるためのポンプユニット10が配置されている。
【0036】
キャップ部材13における印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング手段11が記録ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置されていて、キャリッジ1がキャップ部材13側に往復移動するに際して、必要に応じて記録ヘッド12のノズル形成面を払拭することができるように構成されている。
【0037】
このインクジェット式記録装置は、さらに、記録ヘッド12により記録が行われる記録紙6を主走査方向に対して直交する副走査方向に間欠的に搬送する送り機構を備えている。
【0038】
図2は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の機能ブロック図である。図2に示したようにこの記録装置はプリンタコントローラ61と、プリントエンジン62とを備えている。プリンタコントローラ61は、ホストコンピュータ(図示せず)等から印刷データ等を受信するインターフェース63と、各種データの記憶等を行うRAM64と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM65と、CPU等から成る制御部82と、発振回路66と、駆動信号を発生する駆動信号発生回路(駆動信号発生手段)83と、ドットパターンデータ(ビットマップデータ)に展開された印刷データや駆動信号等をプリントエンジン62に送信するためのインターフェース67とを備えている。
【0039】
この他に、プリンタコントローラ61は、記録媒体の一種であるメモリカード76を着脱可能に保持し、記録媒体保持部として機能するカードスロット77と、メモリカード76に記録された情報を制御部82に送信するカードインターフェース78とを備えている。上記のメモリカード76には、駆動信号の波形に関するデータが記録されている。なお、メモリカード76以外の記録媒体としては、例えば、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気ディスク等も使用することができる。
【0040】
そして、制御部82はコンピュータの一種であり、メモリカード76に記録された駆動信号の波形データやROM65に記録された制御ルーチン等を参照してインク滴の吐出制御を行う。
【0041】
インターフェース63は、例えばキャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータのいずれか1つのデータ又は複数のデータからなる印刷データをホストコンピュータから受信する。また、インターフェース63は、ホストコンピュータに対してビジー(BUSY)信号やアクノレッジ(ACK)信号等を出力することができる。
【0042】
RAM64は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ及びワークメモリ(図示せず)等として利用されるものである。受信バッファにはホストコンピュータからの印刷データが一時的に記憶され、中間バッファには中間コードデータが記憶され、出力バッファにはドットパターンデータが展開される。
【0043】
ROM65は、制御部82によって実行される各種制御ルーチン、フォントデータ、及びグラフィック関数等を記憶している。
【0044】
なお、このROM65には、変更されずに継続的に使用される制御ルーチン(制御プログラム)が記憶されている。そして、駆動信号の波形に関するデータ等、バージョンアップや変更が予定されるものは、上記のメモリカード76に記録される。
【0045】
また、制御部82は、メモリカード76から読み取った駆動信号の波形に関するデータに基づいて駆動信号発生回路83を制御して、印刷モードに応じて所定の駆動信号を生成させる。
【0046】
プリントエンジン62は、記録ヘッド12を主走査方向に駆動するステッピングモータ80、記録紙を移送する紙送りモータ81、及び記録ヘッド12の電気駆動系71とから構成されている。記録ヘッド12の電気駆動系71は、シフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、スイッチ75、及び圧電振動子161等を備えている。なお、シフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、及びスイッチ75はパルス生成手段として機能する。
【0047】
なお、制御部82としては、例えば単体で直接的に記録装置に接続されたホストコンピュータや、また、ネットワークを介して接続された多数のコンピュータのうちの1つのコンピュータを使用することもできる。
【0048】
図3は、図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造を示した断面図である。
【0049】
この記録ヘッド12は、合成樹脂製の基台163と、この基台163の前面(図の左側に相当する)に貼着された流路ユニット164とを備えている。そして、この流路ユニット164は、ノズル開口165が穿設されたノズルプレート166と、振動板167と、流路形成板168と、シート176とから構成されている。
【0050】
基台163は、前面と背面に開放された収容空間169が設けられたブロック状部材である。この収容空間169には、固定基板170に固定された圧電振動子161が収容されている。
【0051】
ノズルプレート166は、副走査方向に沿って多数のノズル開口165が穿設された薄い板状部材である。各ノズル開口165は、ドット形成密度に対応した所定ピッチで開設されている。振動板167及びシート176によって、圧電振動子161が当接する厚肉部としてのアイランド部171と、このアイランド部171の周囲を囲うように設けられ、弾性を有する薄肉部172とが形成されている。
【0052】
アイランド部171は、一つのノズル開口165に一つのアイランド部171が対応するように、所定ピッチで多数設けられている。
【0053】
流路形成板168は、圧力室173、共通インク室174、及び、これらの圧力室173と共通インク室174とを連通するインク供給口175を形成するための開口部が設けられている。
【0054】
そして、ノズルプレート166を流路形成板168の前面に配設するとともに、振動板167及びシート176を背面側に配設し、ノズルプレート166と振動板167及びシート176とにより流路形成板168を挟んだ状態で、接着等により一体化されて流路ユニット164が形成されている。
【0055】
この流路ユニット164では、ノズル開口165の背面側に圧力室173が形成され、この圧力室173の背面側に振動板167のアイランド部171が位置している。また、圧力室173と共通インク室174とがインク供給口175によって連通している。
【0056】
圧電振動子161の先端は、アイランド部171に背面側から当接され、この当接状態で圧電振動子161が基台163に固定されている。また、この圧電振動子161には、フレキシブルケーブルを介して駆動信号(COM)や印刷データ(SI)等が供給される。
【0057】
縦振動モードの圧電振動子161は、充電されると電界と直交する方向に収縮し、放電すると電界と直交する方向に伸長する特性を有する。したがって、この記録ヘッド12では、充電されることにより圧電振動子161は後方に収縮し、この収縮に伴ってアイランド部171が後方に引き戻され、収縮していた圧力室173が膨張する。この膨張に伴って共通インク室174のインクがインク供給口175を通って圧力室173内に流入する。一方、放電することにより圧電振動子161は前方に向けて伸長し、弾性板のアイランド部171が前方に押されて圧力室173が収縮する。この収縮に伴って圧力室173内のインク圧力が高くなる。
【0058】
図4は、駆動信号発生回路83にて生成される駆動信号を示しており、この駆動信号は、第1乃至第3の吐出パルスP1、P2、P3及び微振動パルスP4を含んでいる。微振動パルスP4は、第1吐出パルスP1と第2吐出パルスP2との間に配置されている。
【0059】
そして、1画素に大ドットを形成する際には、第1乃至第3の吐出パルスP1、P2、P3のすべてを圧電振動子161に印加して、1画素に対して3つのインク滴を吐出する。一方、中間階調にて印刷する際には、中央の吐出パルスP2のみを圧電振動子161に印加して、1画素に対して1つのインク滴を吐出する。このように本実施形態においては、1画素に吐出するインク滴数を変えることによって印刷の階調を制御することができる。
【0060】
なお、図5に示したように、図4に示した駆動信号に小ドット用の吐出パルスP5を加えた駆動信号を使用することもできる。この駆動信号においても、中間階調印刷時には第2吐出パルスP2が単独で使用される。
【0061】
さらに、図6に示したように、図5に示した駆動信号中の第1吐出パルスP1を省略した形の駆動信号を使用することもできる。この駆動信号においても、第2吐出パルスP2が中間階調印刷時に単独で使用される。
【0062】
そして、本実施形態における駆動信号においては、中間階調時に単独で使用される吐出パルスP2以外の吐出パルスには、図8に示した従来の吐出パルスと同様の吐出パルスが使用される。つまり、充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間Tを、圧力室173の固有振動周期(ヘルムホルツ振動周期)Tcに設定している。
【0063】
これに対して、中間階調時に単独で使用される第2吐出パルスP2は、図8に示した従来の吐出パルスとは異なる波形を有している。
【0064】
図7に示したように第2吐出パルスP2は、その他の吐出パルスと同様に、圧力室173の容積を膨張させて圧力室173内にインクを充填する充填波形要素Pwc1と、圧力室173の膨張状態を保持する膨張保持波形要素Pwh1と、圧力室173を収縮させてノズル開口165からインク滴を吐出させる吐出波形要素Pndと、圧力室173の収縮状態を保持する収縮保持波形要素Pwh2と、収縮状態にある圧力室173を膨張させてメニスカスを制振する制振波形要素Pwc2と、を備えている。
【0065】
そして、この第2吐出パルスP2においては、その他の吐出パルスとは異なり、膨張保持波形要素Pwh1の終点、即ち吐出波形要素Pndの始点を、圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点X(図9参照)に合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間Tが、圧力室173の固有振動周期Tcよりも長いTc+αに設定されている。
【0066】
図8に示した従来の吐出パルスとの比較で言えば、図7に示した本実施形態における吐出パルスは、図8に示した従来の吐出パルスにおける膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔を従来よりも長くしたものである。
【0067】
この合計時間T(=Tc+α)は、好ましくは、圧力室173の固有振動周期Tcに2マイクロ秒以下の時間を加えた値である。
【0068】
或いはまた、この合計時間T(=Tc+α)は、圧力室173の固有振動周期Tcの130%以下に設定される。
【0069】
さらに、この合計時間T(=Tc+α)は、圧力室173の固有振動周期Tcに、圧力室173の固有振動周期Tcの1/8倍以下の時間を加えた値でも良い。
【0070】
また、複数の圧力室173においてそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがある場合には、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)又は平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室173において、充填波形要素Pwc1による圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点が吐出波形要素Pndの始点に一致するように駆動信号を設計する。
【0071】
以上述べたように本実施形態においては、中間階調時に単独で使用される第2吐出パルスP2に関して、吐出波形要素Pndの始点を、圧力室173の膨張に起因して振動するメニスカスが圧力室173の方向に最も引き込まれた時点Xに合わせるように、充填波形要素Pwc1の時間間隔と膨張保持波形要素Pwh1の時間間隔との合計時間Tが、圧力室173の固有振動周期Tcよりも長いTc+αに設定されているので、図10を参照して既に説明したように、複数の圧力室173間の固有振動周期Tcのバラツキに起因するインク滴の重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることが可能であり、安定したムラのない印刷品質を提供することができる。特に、中間階調印刷時においてはノズル開口165毎のインク滴重量のバラツキが画質に大きく影響するので、本実施形態のように中間階調印刷時においてノズル開口165毎のインク滴重量のバラツキを抑制することが極めて有効である。
【0072】
一方、1画素に大ドットを形成するベタ印刷においては、第2吐出パルスP2以外の吐出パルスによって吐出されるインク滴の重量Iwが従来と同様に十分に確保されているので、ベタ印刷を支障なく実施することができる。
【0073】
このように本実施形態によれば、中間階調印刷時において複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができると共に、中間階調印刷以外の印刷時においてはインク滴重量の確保を優先させることができるので、階調に応じて最適の印刷を実施することができる。
【0074】
なお、上記実施形態では縦振動モードの圧電振動子を圧力発生素子として使用した記録ヘッドを例示したが、本発明は、たわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドにも適用することができる。このたわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドでは、圧電振動子の充放電による電圧レベルと圧力室の膨張収縮との関係が、上述した縦振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッド12の場合とは逆になる。従って、たわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドを用いる場合には、図7に示した記録ヘッド12用の駆動信号を、中間電位を境に電圧の正負を反対にした駆動信号および駆動波形が用いられる。すなわち、圧力室へのインクの充填は電圧を下降させることでおこなう。同様に、インク滴の吐出は、電圧を上昇させることにより行う。
【0075】
このようなたわみ振動モードの圧電振動子を用いた記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、中間階調印刷時において複数のノズル開口間におけるインク滴重量(Iw)のバラツキやインク滴速度(Vm)のバラツキを最小限に抑えることができると共に、中間階調印刷以外の印刷時においてはインク滴重量の確保を優先させることができるので、階調に応じて最適の印刷を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による液体噴射装置の一実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図。
【図2】図1に示したインクジェット式記録装置の機能ブロック図。
【図3】図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造を示す断面図。
【図4】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号を示した図。
【図5】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号の他の例を示した図。
【図6】図1に示したインクジェット式記録装置における駆動信号の他の例を示した図。
【図7】図1に示したインクジェット式記録装置において使用される吐出パルスの波形を示した図。
【図8】従来のインクジェット式記録装置において使用される吐出パルスの波形を示した図。
【図9】複数の圧力室における平均の固有振動周期を持つ圧力室において、吐出パルスの充填波形要素を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示した図。
【図10】平均の固有振動周期、最大の固有振動周期、及び最小の固有振動周期を持つそれぞれの圧力室において、吐出パルスの充填波形要素を圧力発生素子に印加して圧力室を膨張させることによって引き起こされたメニスカスの振動状態を示した図。
【符号の説明】
72 シフトレジスタ
73 ラッチ回路
74 レベルシフタ
75 スイッチ
82 制御部
83 駆動信号発生回路(駆動信号発生手段)
12 記録ヘッド
161 圧電振動子
165 ノズル開口
166 ノズルプレート
173 圧力室
T 充填波形要素Pwc1と膨張保持波形要素Pwh1との合計時間
Tc 圧力室の固有振動周期(ヘルムホルツ振動の周期)
P1、P2、P3 第1、第2、第3吐出パルス
Pwc1 充填波形要素
Pwh1 膨張保持波形要素
Pnd 吐出波形要素
Pwh2 収縮保持波形要素
Pwc2 制振波形要素
Claims (13)
- 複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置において、
前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成手段と、を備え、
前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、
前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする液体噴射装置。 - 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に2マイクロ秒以下の時間を加えた値であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
- 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の130%以下であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
- 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の1/8倍以下の時間を加えた値であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
- 前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
- 前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
- 前記圧力発生素子は、縦振動モード又はたわみ振動モードの圧電振動子によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
- 複数のノズル開口に連通する複数の圧力室に対応して設けられた複数の圧力発生素子に吐出パルスを印加することにより、前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射装置の駆動方法において、
前記複数の圧力発生素子に印加される前記吐出パルスを生成するための駆動信号であって複数の前記吐出パルスを含む駆動信号を発生する駆動信号発生工程と、
前記駆動信号から少なくともその一部を選択することによって1又は2以上の前記吐出パルスを生成するパルス生成工程と、を備え、
前記吐出パルスは、前記圧力室の容積を膨張させて前記圧力室内に液体を充填する充填波形要素と、前記圧力室の膨張状態を保持する膨張保持波形要素と、前記圧力室を収縮させてノズル開口から液滴を吐出させる吐出波形要素と、を含み、
前記駆動信号中に含まれる複数の前記吐出パルスのうち、中間階調の印刷時に使用される前記吐出パルスは、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点に前記吐出波形要素の始点を合わせるように、前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間が前記圧力室の固有振動周期(Tc)よりも長く設定されていることを特徴とする液体噴射装置の駆動方法。 - 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に2マイクロ秒以下の時間を加えた値であることを特徴とする請求項8記載の液体噴射装置の駆動方法。
- 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の130%以下であることを特徴とする請求項8記載の液体噴射装置の駆動方法。
- 前記充填波形要素の時間間隔と前記膨張保持波形要素の時間間隔との合計時間は、前記圧力室の固有振動周期(Tc)に、前記圧力室の固有振動周期(Tc)の1/8倍以下の時間を加えた値であることを特徴とする請求項8記載の液体噴射装置の駆動方法。
- 前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、最長周期と最短周期との中間にあたる固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載の液体噴射装置の駆動方法。
- 前記複数の圧力室はそれらの固有振動周期(Tc)にバラツキがあり、平均的な固有振動周期(Tc)を有する圧力室において、前記圧力室の膨張に起因して振動するメニスカスが前記圧力室の方向に最も引き込まれた時点が前記吐出波形要素の始点に一致することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載の液体噴射装置の駆動方法。
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JP2007216576A (ja) * | 2006-02-17 | 2007-08-30 | Fuji Xerox Co Ltd | ヘッド補正方法、液滴吐出方法、及び液滴吐出装置 |
-
2002
- 2002-08-12 JP JP2002235009A patent/JP2004074479A/ja not_active Withdrawn
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