JP2004068862A - クランクシャフト及びエンジン - Google Patents
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Abstract
【課題】エンジンの1サイクル全体を監視した場合において、油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避すると共に、クランクピンとコンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受との相対回転運動により生じるパワーロスを低減させることができるクランクシャフト及びエンジンを提供する。
【解決手段】クランクシャフトは、クランクジャーナル3と、クランクピン1と、クランクアーム2とを有する。そして、クランクピン1は、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置14における曲率半径が、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置15における曲率半径より大きく形成された断面形状を有する略円柱形状としている。
【選択図】図1
【解決手段】クランクシャフトは、クランクジャーナル3と、クランクピン1と、クランクアーム2とを有する。そして、クランクピン1は、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置14における曲率半径が、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置15における曲率半径より大きく形成された断面形状を有する略円柱形状としている。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クランクシャフト及びこれを備えたエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関用エンジンには、ピストンの往復運動をコンロッドを介して回転運動に変えるためにクランクシャフトが用いられている。その動作は、まずピストンの往復運動がコンロッドに伝達される。そして、コンロッドの大端部に連結されたクランクシャフトのクランクピンが、クランクジャーナルを中心に回転することによりクランクシャフト全体が回転する。ここで、クランクピンの断面形状は、ほぼ真円形状とされていた。
【0003】
ところで、近年の内燃機関用エンジンの高速化や高出力化に伴い、クランクシャフトのクランクピンとコンロッドは高速及び大荷重のもとで摺動するため、潤滑的に非常に厳しい条件となる。そこで、クランクピンとコンロッドの摺動部分の潤滑性を高めることができるクランクシャフトが、特開平7−217638号公報に提案されている。すなわち、クランクピンのクランクジャーナルから遠い側に位置する反主軸側軸受面の曲率半径が、クランクジャーナルに近接する側に位置する主軸側軸受面の曲率半径より大きくなるようにクランクピンを形成している。
【0004】
つまり、クランクピンのうちクランクジャーナルから遠い側の面の断面形状の曲率半径が、クランクピンのうちクランクジャーナルに近い側の面の断面形状の曲率半径より大きくなっている。これは、排気工程または無負荷時の上死点付近において、クランクピンのうちクランクジャーナルに近い側の面に最大慣性力荷重がかかる。この場合に、クランクピンのクランクジャーナルに近い側の面と滑り軸受との軸受のクリアランスが小さくなり過ぎることを回避できるものである。また、燃焼工程の上死点付近において、クランクピンのクランクジャーナルから遠い側の面と滑り軸受との軸受のクリアランスを均一に分布させて、面圧が過大になることを回避できるものである。ここで、クランクピンと滑り軸受との軸受隙間には潤滑油が供給されているので、以下、クランクピンと滑り軸受との軸受のクリアランスを油膜厚さという。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平7−217638号公報に開示されたクランクシャフトは、排気工程または無負荷時の上死点付近のみについて、油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避している。つまり、エンジンの1サイクル全体において、油膜厚さが小さくなる状態を考慮していない。
【0006】
また、コンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受に対しクランクピンが相対回転運動により、この滑り軸受とクランクピンとの間に流体損失、すなわちパワーロスが発生する。近年、更なる燃費向上の要請に伴い、上述のパワーロスの低減が求められている。しかし、特開平7−217638号公報に開示されたクランクシャフトは、パワーロスについて何ら考慮されていない。なお、パワーロスは、回転による流体抵抗であるせん断ロスと、軸心が振れることにより生じる流体の圧縮によるロスであるスクイズロスとの和である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、エンジンの1サイクル全体を監視した場合において油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避すると共に、クランクピンとコンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受との相対回転運動により生じるパワーロスを低減させることができるクランクシャフトを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のクランクシャフトは、クランクジャーナルと、クランクピンと、クランクアームとを有する。ここで、クランクジャーナルは、主軸受により回転自在に軸支されるものである。クランクピンは、コンロッドの大端部内に設けられる滑り軸受を介して回転自在にコンロッドを支承するものである。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結するものである。そして、クランクピンは、クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より、大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とする。
【0009】
これにより、エンジンを1サイクルさせた場合において、油膜厚さの最小値(以下、「最小油膜厚さ」という)を大きくすることができる。4ストロークレシプロエンジンにおいて、吸気工程の上死点位置を0度とすると、油膜厚さが最小となる位置は排気工程途中の530〜620度付近となる場合がある。そして、油膜厚さが最小となる位置では、最もクランクピンの焼き付き等が生じるおそれがある。つまり、本発明のクランクシャフトを用いることにより、最も焼き付き等が生じるおそれがある位置における油膜厚さを大きくすることができる。さらに、クランクピンの断面形状が真円の場合や特開平7−217638号公報に記載の断面形状の場合に比べてパワーロスを低減できる。
【0010】
なお、これらの効果は、くさび効果を効果的に発揮させることができるためであると考えられる。
【0011】
また、クランクピンのクランクジャーナルに近い側の面の断面形状および/またはクランクピンのクランクジャーナルから遠い側の面の断面形状は、だ円の弧または円弧としてもよい。これにより、くさび効果をより効果的に発揮させることができると考えられる。その結果、最小油膜厚さをより大きくすることができると共に、パワーロスをより低減することができる。
【0012】
また、本発明のエンジンは、シリンダと、ピストンと、コンロッドと、クランクシャフトとを有する。ここで、シリンダはシリンダブロック内に形成されている。ピストンは、シリンダ内を摺動自在に配設されている。コンロッドは、ピストンの摺動方向に略直角な軸線まわりに回転自在にピストンに連結されいる。クランクシャフトは、クランクピンとクランクジャーナルとクランクアームとからなる。クランクピンは、コンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受を介して回転自在にコンロッドを支承したものである。クランクジャーナルは、主軸受により回転自在に軸支されたものである。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結するものである。そして、クランクピンは、クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より、大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とする。
【0013】
これにより、エンジンを1サイクルさせた場合において、最小油膜厚さを大きくすることができる。さらに、クランクピンの断面形状が真円の場合や特開平7−217638号公報に記載の断面形状の場合に比べてパワーロスを低減できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0015】
本発明の4ストロークレシプロエンジンを図1に示す。すなわち、シリンダブロック7内にシリンダ8が形成されている。そして、このシリンダ8の内側を摺動自在にピストン6が設けられている。このピストン6には、コンロッド4の小端部内に設けられたブシュにより回転自在にコンロッド4が連結されている。このコンロッド4の小端部は、ピストン6の摺動方向に略直角な軸線まわりに回転する。そして、コンロッド4の大端部には、クランクシャフトのクランクピン1がコンロッド4の大端部内に設けられた滑り軸受5を介して回転自在にコンロッドを支承している。このクランクピン1は、クランクアーム2を介してクランクジャーナル3に連結されている。そして、クランクジャーナル3は、主軸受(図示せず)により回転自在に軸支されている。
【0016】
このように構成されたエンジンの動作について説明する。まず、爆発工程でピストン6が得た力(往復運動)をコンロッド4およびクランクシャフトを介して回転力(回転運動)に変換して動力を発生させる。この動力の慣性力により、他の工程(吸気工程、圧縮工程、排気工程)ではピストン6を動かして吸気、圧縮、排気を行っている。なお、4ストロークレシプロエンジンとは、吸気工程、圧縮工程、爆発工程および排気工程の4工程で1サイクルの作用を完了するエンジンである。
【0017】
次に、上述のように構成されたエンジンのうち、本発明の特徴的部分であるクランクシャフトのクランクピン1について図2を参照して説明する。
【0018】
本発明のクランクピン1は、図2に示すように断面形状が真円形状ではない。すなわち、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると下側がつぶれ量ε(=R1−R2)だけつぶれている断面形状となっている。ここで、図2に示すクランクピン1は、上死点位置にある状態のものである。まず、クランクピン1の断面形状を、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状と、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状とに分けて説明する。なお、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は水平軸線12の下側部分であって、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は水平軸線12の上側部分である。そして、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9上の円弧である。つまり、水平軸線12と垂直軸線13との交点Oを中心とする半径R1(=r)の円弧である。
【0019】
すなわち、クランクピン1のクランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状と垂直軸線13との交点14における曲率半径は、クランクピン1のクランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状と垂直軸線13との交点15における曲率半径より大きくなる。ここで、垂直軸線13は、図2の下方へ延長すると、クランクジャーナル3の回転中心を通る。つまり、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置14における曲率半径は、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置15における曲率半径より大きくなる。なお、基準円9と滑り軸受5と間には軸受隙間d2を有する。
【0020】
(第1解析)
次に、上述のような断面形状を有するクランクピン1を4ストロークレシプロエンジンに使用した場合の最小油膜厚さ及びパワーロスの解析について説明する。すなわち、本解析は、4ストロークレシプロエンジンを1サイクル、すなわち、クランクシャフトを2回転(0〜720度)させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスの解析である。なお、吸気工程の上死点位置を0度とする。
【0021】
(解析条件)
本解析は、比較のため、クランクピン1の断面形状が、図3(a)に示すような本発明のクランクピン1の形状の場合と、図3(b)に示すような真円形状の場合と、図3(c)に示すような特開平7−217638号公報に記載のクランクピンの断面形状を模式化した形状の場合について解析を行った。これらは、上死点位置におけるクランクピン1の断面形状である。
【0022】
すなわち、図3(a)に示す本発明のクランクピン1の断面形状は、図2に示した形状である。具体的には、基準円9の直径Dが26mm、つぶれ量εが5μmである。図3(b)に示す真円形状は、直径Dが26mmの円である。図3(c)に示す形状は、まず、水平軸線12の上側部分は、図3(a)と同様に基準円9上の円弧である。そして、水平軸線12の下側部分は、基準円9よりふくれ量ε’だけふくれただ円の弧である。つまり、水平軸線12の下側部分は、基準円9の直径D(=r×2)を短軸とし、基準円9の直径よりふくれ量ε’×2だけ長い長さd3(=R2×2)を長軸とするだ円のうち、短軸で分断した部分の弧に相当する。なお、つぶれ量ε及びふくれ量ε’は5μm、基準円9の直径Dは26mmである。
【0023】
また、軸受隙間d2(図2に示す)は30μmである。ただし、図3(a)(c)における軸受隙間d2は、基準円9と滑り軸受5との間の隙間である。
【0024】
なお、クランクピン1は、ヤング率2.058×102GPaとする。滑り軸受5は、ヤング率2.058×102GPa、軸受幅(滑り軸受5の軸方向幅)18.8mmとする。また、コンロッド4の質量は500gとする。そして、クランクピン1と軸受5との間に供給する潤滑油は、粘度3.65mPa・sとする。また、エンジンの回転数は5000min−1とする。ピストン6のストロークは、85mmとする。コンロッド4の大端部と小端部との間の距離は、132mmとする。なお、軸受5の周方向断面形状は真円としている。
【0025】
(解析結果)
次に、上述の解析により得られる解析結果について説明する。図4は、最小油膜厚さを示す図である。図5は、パワーロスを示す図である。図4より、図3(a)に示す本発明の断面形状のクランクピン1の場合は、最小油膜厚さが約0.96μmとなった。油膜厚さが最小となる位置は、排気工程中の約530〜620度付近である。また、図3(b)に示す断面形状が真円形状のクランクピン1の場合には、最小油膜厚さが約0.95μmとなった。油膜厚さが最小となる位置は、図3(a)の場合と同様に、排気工程中の約530〜620度付近である。また、図3(c)に示す断面形状のクランクピン1の場合は、最小油膜厚さが約0.95μmとなった。この場合も他と同様に油膜厚さが最小となる位置は、排気工程中の約530〜620度付近である。
【0026】
また、図5より、図3(a)に示す本発明の断面形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが161.19Wとなった。また、図3(b)に示す断面形状が真円形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが162.50Wとなった。また、図3(c)に示す断面形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが163.68Wとなった。
【0027】
つまり、図3(a)に示す断面形状のクランクピン1とした場合には、他の場合に比べて、最小油膜厚さが大きくなり、さらにパワーロスが低減している。最小油膜厚さが大きくなるということは、高速・高荷重の場合であってもクランクピンの焼き付き等を防止することができることになる。さらに、パワーロスを低減することができることにより、燃費向上を図ることができる。
【0028】
(第2解析)
次に、図2に示す断面形状のクランクピン1において、つぶれ量εを変化させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスの解析について説明する。本解析においても、第1解析と同様に、4ストロークレシプロエンジンを1サイクルさせた場合における解析である。
【0029】
(解析条件)
本解析は、図2に示すつぶれ量εを2〜30μmに変化させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスについて行った。つまり、なお、他の解析条件は、第1解析と同様である。すなわち、基準円9の直径Dは26mm、軸受隙間d2は30μmとする。クランクピン1は、ヤング率2.058×102GPaとする。滑り軸受5は、ヤング率2.058×102GPa、軸受幅(滑り軸受5の軸方向幅)18.8mmとする。また、コンロッド4の質量は500gとする。そして、クランクピン1と軸受5との間に供給する潤滑油は、粘度3.65mPa・sとする。また、エンジンの回転数は5000min−1とする。ピストン6のストロークは、85mmとする。コンロッド4の大端部と小端部との間の距離は、132mmとする。なお、軸受5の周方向断面形状は真円としている。
【0030】
(解析結果)
次に、上述の解析により得られる解析結果について説明する。図6は、つぶれ量εに対する最小油膜厚さを示す図である。図7は、つぶれ量εに対するパワーロスを示す図である。また、図7は、せん断ロス及びスクイズロスも併せて示している。なお、せん断ロスは、回転による流体抵抗であるロスであり、スクイズロスは、軸心が振れることにより生じる流体の圧縮によるロスである。そして、せん断ロスとスクイズロスの和がパワーロスとなる。
【0031】
図6より、つぶれ量εが2μmの場合は、最小油膜厚さは約0.95μmである。また、つぶれ量εが15μmの場合は、約0.98μmである。そして、つぶれ量εが30μmの場合は、約1.06μmである。すなわち、つぶれ量εが増加するに従って、最小油膜厚さも大きくなっている。特に、つぶれ量εが15μm以上においては、非常に最小油膜厚さが大きくなっていることが分かる。つまり、最小油膜厚さの観点からは、つぶれ量εを大きくする程良いということが言える。
【0032】
図7より、つぶれ量εが2〜30μmの場合、パワーロスは約160Wである。より詳細に検討すると、つぶれ量εが2μmから10μmまでの間におけるパワーロスが減少していることが分かる。この間のパワーロスの減少は、特にせん断ロスの減少によるものである。そして、つぶれ量εが10μm以上においては、パワーロスは極小ではあるが減少している。ただし、つぶれ量εが25μm以上において、非常に僅かではあるがスクイズロスが増加している。つまり、パワーロスの観点からは、つぶれ量εを大きくする程減少させることができるが、つぶれ量εを大きくしすぎるとスクイズロスが増加する。
【0033】
以上より、最小油膜厚さの観点、スクイズロスの増加を含めたパワーロスの観点から、最適なつぶれ量εを選択することができる。
【0034】
(他の実施形態)
上述の実施形態においては、クランクピン1の断面形状は、図2に示す断面形状としている。しかし、これに限られるものではない。例えば、図8(a)(b)や図9(a)〜(c)に示す断面形状であってもよい。すなわち、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置における曲率半径より大きくなる形状であればよい。なお、図8(a)(b)や図9(a)〜(c)は、上死点位置におけるクランクピン1の断面形状である。
【0035】
図8(a)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がふくれ量ε1’だけふくれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を短軸とし、基準円9の直径Dより僅かに長い長さd1(=R1×2)を長軸とするだ円のうち、短軸で分断した部分の弧に相当する。
【0036】
図8(b)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がつぶれ量ε1だけつぶれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。ここで、上側のつぶれ量ε1より下側のつぶれ量ε2の方が大きい。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R1×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。
【0037】
図9(a)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9と比べると下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径rより大きな半径r2とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9上の円弧である。そして、両側面16は平面である。これは、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状が基準円9から突出しないようにするためである。
【0038】
図9(b)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がふくれ量ε1’だけふくれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O1を中心として、半径r1とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径r1より大きな半径r2とする円弧である。そして、両側面16は平面である。
【0039】
図9(c)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がつぶれ量ε1だけつぶれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。ここで、上側のつぶれ量ε1より下側のつぶれ量ε2の方が大きい。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより下側にある点O1を中心として、半径r1とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径r1より大きな半径r2とする円弧である。そして、両側面16は平面である。
【0040】
なお、上述の解析では、エンジン回転数を5000min−1としているが、他の回転数であっても同様の効果を得ることができる。例えば、1000min−1程度の場合でも同様の効果を得ることができる。ただし、回転数が4000〜5000min−1の場合には、特に大きな効果を得ることができる。
【0041】
【発明の効果】
本発明のクランクシャフトまたはエンジンによれば、エンジンの1サイクル全体を監視した場合において、油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避すると共に、クランクピンとコンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受との相対回転運動により生じるパワーロスを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエンジンの一部を示す図である。
【図2】クランクピンの断面形状を示す図である。
【図3】解析条件を示す図である。
【図4】最小油膜厚さの解析結果を示す図である。
【図5】パワーロスの解析結果を示す図である。
【図6】つぶれ量に対する最小油膜厚さを示す図である。
【図7】つぶれ量に対するパワーロスを示す図である。
【図8】他の実施形態のクランクピンの断面形状を示す図である。
【図9】他の実施形態のクランクピンの断面形状を示す図である。
【符号の説明】
1 ・・・ クランクピン
2 ・・・ クランクアーム
3 ・・・ クランクジャーナル
4 ・・・ コンロッド
5 ・・・ 滑り軸受
6 ・・・ ピストン
7 ・・・ シリンダブロック
8 ・・・ シリンダ
9 ・・・ 基準円
10 ・・・ クランクジャーナルに近い側の面
11 ・・・ クランクジャーナルから遠い側の面
12 ・・・ 水平軸線
13 ・・・ 垂直軸線
14 ・・・ クランクジャーナルの回転中心に最も近い位置
15 ・・・ クランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置
16 ・・・ クランクピンの側面
【発明の属する技術分野】
本発明は、クランクシャフト及びこれを備えたエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関用エンジンには、ピストンの往復運動をコンロッドを介して回転運動に変えるためにクランクシャフトが用いられている。その動作は、まずピストンの往復運動がコンロッドに伝達される。そして、コンロッドの大端部に連結されたクランクシャフトのクランクピンが、クランクジャーナルを中心に回転することによりクランクシャフト全体が回転する。ここで、クランクピンの断面形状は、ほぼ真円形状とされていた。
【0003】
ところで、近年の内燃機関用エンジンの高速化や高出力化に伴い、クランクシャフトのクランクピンとコンロッドは高速及び大荷重のもとで摺動するため、潤滑的に非常に厳しい条件となる。そこで、クランクピンとコンロッドの摺動部分の潤滑性を高めることができるクランクシャフトが、特開平7−217638号公報に提案されている。すなわち、クランクピンのクランクジャーナルから遠い側に位置する反主軸側軸受面の曲率半径が、クランクジャーナルに近接する側に位置する主軸側軸受面の曲率半径より大きくなるようにクランクピンを形成している。
【0004】
つまり、クランクピンのうちクランクジャーナルから遠い側の面の断面形状の曲率半径が、クランクピンのうちクランクジャーナルに近い側の面の断面形状の曲率半径より大きくなっている。これは、排気工程または無負荷時の上死点付近において、クランクピンのうちクランクジャーナルに近い側の面に最大慣性力荷重がかかる。この場合に、クランクピンのクランクジャーナルに近い側の面と滑り軸受との軸受のクリアランスが小さくなり過ぎることを回避できるものである。また、燃焼工程の上死点付近において、クランクピンのクランクジャーナルから遠い側の面と滑り軸受との軸受のクリアランスを均一に分布させて、面圧が過大になることを回避できるものである。ここで、クランクピンと滑り軸受との軸受隙間には潤滑油が供給されているので、以下、クランクピンと滑り軸受との軸受のクリアランスを油膜厚さという。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平7−217638号公報に開示されたクランクシャフトは、排気工程または無負荷時の上死点付近のみについて、油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避している。つまり、エンジンの1サイクル全体において、油膜厚さが小さくなる状態を考慮していない。
【0006】
また、コンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受に対しクランクピンが相対回転運動により、この滑り軸受とクランクピンとの間に流体損失、すなわちパワーロスが発生する。近年、更なる燃費向上の要請に伴い、上述のパワーロスの低減が求められている。しかし、特開平7−217638号公報に開示されたクランクシャフトは、パワーロスについて何ら考慮されていない。なお、パワーロスは、回転による流体抵抗であるせん断ロスと、軸心が振れることにより生じる流体の圧縮によるロスであるスクイズロスとの和である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、エンジンの1サイクル全体を監視した場合において油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避すると共に、クランクピンとコンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受との相対回転運動により生じるパワーロスを低減させることができるクランクシャフトを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のクランクシャフトは、クランクジャーナルと、クランクピンと、クランクアームとを有する。ここで、クランクジャーナルは、主軸受により回転自在に軸支されるものである。クランクピンは、コンロッドの大端部内に設けられる滑り軸受を介して回転自在にコンロッドを支承するものである。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結するものである。そして、クランクピンは、クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より、大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とする。
【0009】
これにより、エンジンを1サイクルさせた場合において、油膜厚さの最小値(以下、「最小油膜厚さ」という)を大きくすることができる。4ストロークレシプロエンジンにおいて、吸気工程の上死点位置を0度とすると、油膜厚さが最小となる位置は排気工程途中の530〜620度付近となる場合がある。そして、油膜厚さが最小となる位置では、最もクランクピンの焼き付き等が生じるおそれがある。つまり、本発明のクランクシャフトを用いることにより、最も焼き付き等が生じるおそれがある位置における油膜厚さを大きくすることができる。さらに、クランクピンの断面形状が真円の場合や特開平7−217638号公報に記載の断面形状の場合に比べてパワーロスを低減できる。
【0010】
なお、これらの効果は、くさび効果を効果的に発揮させることができるためであると考えられる。
【0011】
また、クランクピンのクランクジャーナルに近い側の面の断面形状および/またはクランクピンのクランクジャーナルから遠い側の面の断面形状は、だ円の弧または円弧としてもよい。これにより、くさび効果をより効果的に発揮させることができると考えられる。その結果、最小油膜厚さをより大きくすることができると共に、パワーロスをより低減することができる。
【0012】
また、本発明のエンジンは、シリンダと、ピストンと、コンロッドと、クランクシャフトとを有する。ここで、シリンダはシリンダブロック内に形成されている。ピストンは、シリンダ内を摺動自在に配設されている。コンロッドは、ピストンの摺動方向に略直角な軸線まわりに回転自在にピストンに連結されいる。クランクシャフトは、クランクピンとクランクジャーナルとクランクアームとからなる。クランクピンは、コンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受を介して回転自在にコンロッドを支承したものである。クランクジャーナルは、主軸受により回転自在に軸支されたものである。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結するものである。そして、クランクピンは、クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうちクランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より、大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とする。
【0013】
これにより、エンジンを1サイクルさせた場合において、最小油膜厚さを大きくすることができる。さらに、クランクピンの断面形状が真円の場合や特開平7−217638号公報に記載の断面形状の場合に比べてパワーロスを低減できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0015】
本発明の4ストロークレシプロエンジンを図1に示す。すなわち、シリンダブロック7内にシリンダ8が形成されている。そして、このシリンダ8の内側を摺動自在にピストン6が設けられている。このピストン6には、コンロッド4の小端部内に設けられたブシュにより回転自在にコンロッド4が連結されている。このコンロッド4の小端部は、ピストン6の摺動方向に略直角な軸線まわりに回転する。そして、コンロッド4の大端部には、クランクシャフトのクランクピン1がコンロッド4の大端部内に設けられた滑り軸受5を介して回転自在にコンロッドを支承している。このクランクピン1は、クランクアーム2を介してクランクジャーナル3に連結されている。そして、クランクジャーナル3は、主軸受(図示せず)により回転自在に軸支されている。
【0016】
このように構成されたエンジンの動作について説明する。まず、爆発工程でピストン6が得た力(往復運動)をコンロッド4およびクランクシャフトを介して回転力(回転運動)に変換して動力を発生させる。この動力の慣性力により、他の工程(吸気工程、圧縮工程、排気工程)ではピストン6を動かして吸気、圧縮、排気を行っている。なお、4ストロークレシプロエンジンとは、吸気工程、圧縮工程、爆発工程および排気工程の4工程で1サイクルの作用を完了するエンジンである。
【0017】
次に、上述のように構成されたエンジンのうち、本発明の特徴的部分であるクランクシャフトのクランクピン1について図2を参照して説明する。
【0018】
本発明のクランクピン1は、図2に示すように断面形状が真円形状ではない。すなわち、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると下側がつぶれ量ε(=R1−R2)だけつぶれている断面形状となっている。ここで、図2に示すクランクピン1は、上死点位置にある状態のものである。まず、クランクピン1の断面形状を、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状と、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状とに分けて説明する。なお、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は水平軸線12の下側部分であって、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は水平軸線12の上側部分である。そして、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9上の円弧である。つまり、水平軸線12と垂直軸線13との交点Oを中心とする半径R1(=r)の円弧である。
【0019】
すなわち、クランクピン1のクランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状と垂直軸線13との交点14における曲率半径は、クランクピン1のクランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状と垂直軸線13との交点15における曲率半径より大きくなる。ここで、垂直軸線13は、図2の下方へ延長すると、クランクジャーナル3の回転中心を通る。つまり、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置14における曲率半径は、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置15における曲率半径より大きくなる。なお、基準円9と滑り軸受5と間には軸受隙間d2を有する。
【0020】
(第1解析)
次に、上述のような断面形状を有するクランクピン1を4ストロークレシプロエンジンに使用した場合の最小油膜厚さ及びパワーロスの解析について説明する。すなわち、本解析は、4ストロークレシプロエンジンを1サイクル、すなわち、クランクシャフトを2回転(0〜720度)させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスの解析である。なお、吸気工程の上死点位置を0度とする。
【0021】
(解析条件)
本解析は、比較のため、クランクピン1の断面形状が、図3(a)に示すような本発明のクランクピン1の形状の場合と、図3(b)に示すような真円形状の場合と、図3(c)に示すような特開平7−217638号公報に記載のクランクピンの断面形状を模式化した形状の場合について解析を行った。これらは、上死点位置におけるクランクピン1の断面形状である。
【0022】
すなわち、図3(a)に示す本発明のクランクピン1の断面形状は、図2に示した形状である。具体的には、基準円9の直径Dが26mm、つぶれ量εが5μmである。図3(b)に示す真円形状は、直径Dが26mmの円である。図3(c)に示す形状は、まず、水平軸線12の上側部分は、図3(a)と同様に基準円9上の円弧である。そして、水平軸線12の下側部分は、基準円9よりふくれ量ε’だけふくれただ円の弧である。つまり、水平軸線12の下側部分は、基準円9の直径D(=r×2)を短軸とし、基準円9の直径よりふくれ量ε’×2だけ長い長さd3(=R2×2)を長軸とするだ円のうち、短軸で分断した部分の弧に相当する。なお、つぶれ量ε及びふくれ量ε’は5μm、基準円9の直径Dは26mmである。
【0023】
また、軸受隙間d2(図2に示す)は30μmである。ただし、図3(a)(c)における軸受隙間d2は、基準円9と滑り軸受5との間の隙間である。
【0024】
なお、クランクピン1は、ヤング率2.058×102GPaとする。滑り軸受5は、ヤング率2.058×102GPa、軸受幅(滑り軸受5の軸方向幅)18.8mmとする。また、コンロッド4の質量は500gとする。そして、クランクピン1と軸受5との間に供給する潤滑油は、粘度3.65mPa・sとする。また、エンジンの回転数は5000min−1とする。ピストン6のストロークは、85mmとする。コンロッド4の大端部と小端部との間の距離は、132mmとする。なお、軸受5の周方向断面形状は真円としている。
【0025】
(解析結果)
次に、上述の解析により得られる解析結果について説明する。図4は、最小油膜厚さを示す図である。図5は、パワーロスを示す図である。図4より、図3(a)に示す本発明の断面形状のクランクピン1の場合は、最小油膜厚さが約0.96μmとなった。油膜厚さが最小となる位置は、排気工程中の約530〜620度付近である。また、図3(b)に示す断面形状が真円形状のクランクピン1の場合には、最小油膜厚さが約0.95μmとなった。油膜厚さが最小となる位置は、図3(a)の場合と同様に、排気工程中の約530〜620度付近である。また、図3(c)に示す断面形状のクランクピン1の場合は、最小油膜厚さが約0.95μmとなった。この場合も他と同様に油膜厚さが最小となる位置は、排気工程中の約530〜620度付近である。
【0026】
また、図5より、図3(a)に示す本発明の断面形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが161.19Wとなった。また、図3(b)に示す断面形状が真円形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが162.50Wとなった。また、図3(c)に示す断面形状のクランクピン1の場合は、パワーロスが163.68Wとなった。
【0027】
つまり、図3(a)に示す断面形状のクランクピン1とした場合には、他の場合に比べて、最小油膜厚さが大きくなり、さらにパワーロスが低減している。最小油膜厚さが大きくなるということは、高速・高荷重の場合であってもクランクピンの焼き付き等を防止することができることになる。さらに、パワーロスを低減することができることにより、燃費向上を図ることができる。
【0028】
(第2解析)
次に、図2に示す断面形状のクランクピン1において、つぶれ量εを変化させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスの解析について説明する。本解析においても、第1解析と同様に、4ストロークレシプロエンジンを1サイクルさせた場合における解析である。
【0029】
(解析条件)
本解析は、図2に示すつぶれ量εを2〜30μmに変化させた場合における最小油膜厚さ及びパワーロスについて行った。つまり、なお、他の解析条件は、第1解析と同様である。すなわち、基準円9の直径Dは26mm、軸受隙間d2は30μmとする。クランクピン1は、ヤング率2.058×102GPaとする。滑り軸受5は、ヤング率2.058×102GPa、軸受幅(滑り軸受5の軸方向幅)18.8mmとする。また、コンロッド4の質量は500gとする。そして、クランクピン1と軸受5との間に供給する潤滑油は、粘度3.65mPa・sとする。また、エンジンの回転数は5000min−1とする。ピストン6のストロークは、85mmとする。コンロッド4の大端部と小端部との間の距離は、132mmとする。なお、軸受5の周方向断面形状は真円としている。
【0030】
(解析結果)
次に、上述の解析により得られる解析結果について説明する。図6は、つぶれ量εに対する最小油膜厚さを示す図である。図7は、つぶれ量εに対するパワーロスを示す図である。また、図7は、せん断ロス及びスクイズロスも併せて示している。なお、せん断ロスは、回転による流体抵抗であるロスであり、スクイズロスは、軸心が振れることにより生じる流体の圧縮によるロスである。そして、せん断ロスとスクイズロスの和がパワーロスとなる。
【0031】
図6より、つぶれ量εが2μmの場合は、最小油膜厚さは約0.95μmである。また、つぶれ量εが15μmの場合は、約0.98μmである。そして、つぶれ量εが30μmの場合は、約1.06μmである。すなわち、つぶれ量εが増加するに従って、最小油膜厚さも大きくなっている。特に、つぶれ量εが15μm以上においては、非常に最小油膜厚さが大きくなっていることが分かる。つまり、最小油膜厚さの観点からは、つぶれ量εを大きくする程良いということが言える。
【0032】
図7より、つぶれ量εが2〜30μmの場合、パワーロスは約160Wである。より詳細に検討すると、つぶれ量εが2μmから10μmまでの間におけるパワーロスが減少していることが分かる。この間のパワーロスの減少は、特にせん断ロスの減少によるものである。そして、つぶれ量εが10μm以上においては、パワーロスは極小ではあるが減少している。ただし、つぶれ量εが25μm以上において、非常に僅かではあるがスクイズロスが増加している。つまり、パワーロスの観点からは、つぶれ量εを大きくする程減少させることができるが、つぶれ量εを大きくしすぎるとスクイズロスが増加する。
【0033】
以上より、最小油膜厚さの観点、スクイズロスの増加を含めたパワーロスの観点から、最適なつぶれ量εを選択することができる。
【0034】
(他の実施形態)
上述の実施形態においては、クランクピン1の断面形状は、図2に示す断面形状としている。しかし、これに限られるものではない。例えば、図8(a)(b)や図9(a)〜(c)に示す断面形状であってもよい。すなわち、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心に最も近い位置における曲率半径が、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状のうちクランクジャーナル3の回転中心から最も遠い位置における曲率半径より大きくなる形状であればよい。なお、図8(a)(b)や図9(a)〜(c)は、上死点位置におけるクランクピン1の断面形状である。
【0035】
図8(a)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がふくれ量ε1’だけふくれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を短軸とし、基準円9の直径Dより僅かに長い長さd1(=R1×2)を長軸とするだ円のうち、短軸で分断した部分の弧に相当する。
【0036】
図8(b)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がつぶれ量ε1だけつぶれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。ここで、上側のつぶれ量ε1より下側のつぶれ量ε2の方が大きい。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R2×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の直径D(=r×2)を長軸とし、基準円9の直径Dより僅かに短い長さd1(=R1×2)を短軸とするだ円のうち、長軸で分断した部分の弧に相当する。
【0037】
図9(a)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9と比べると下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径rより大きな半径r2とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9上の円弧である。そして、両側面16は平面である。これは、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状が基準円9から突出しないようにするためである。
【0038】
図9(b)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がふくれ量ε1’だけふくれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O1を中心として、半径r1とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径r1より大きな半径r2とする円弧である。そして、両側面16は平面である。
【0039】
図9(c)に示すクランクピン1は、二点鎖線で示した半径rの基準円9に比べると上側がつぶれ量ε1だけつぶれており、下側がつぶれ量ε2だけつぶれている断面形状である。ここで、上側のつぶれ量ε1より下側のつぶれ量ε2の方が大きい。具体的には、クランクジャーナル3に近い側の面10の断面形状は、基準円9の中心Oより下側にある点O1を中心として、半径r1とする円弧である。また、クランクジャーナル3から遠い側の面11の断面形状は、基準円9の中心Oより上側にある点O2を中心として、半径r1より大きな半径r2とする円弧である。そして、両側面16は平面である。
【0040】
なお、上述の解析では、エンジン回転数を5000min−1としているが、他の回転数であっても同様の効果を得ることができる。例えば、1000min−1程度の場合でも同様の効果を得ることができる。ただし、回転数が4000〜5000min−1の場合には、特に大きな効果を得ることができる。
【0041】
【発明の効果】
本発明のクランクシャフトまたはエンジンによれば、エンジンの1サイクル全体を監視した場合において、油膜厚さが小さくなり過ぎることを回避すると共に、クランクピンとコンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受との相対回転運動により生じるパワーロスを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエンジンの一部を示す図である。
【図2】クランクピンの断面形状を示す図である。
【図3】解析条件を示す図である。
【図4】最小油膜厚さの解析結果を示す図である。
【図5】パワーロスの解析結果を示す図である。
【図6】つぶれ量に対する最小油膜厚さを示す図である。
【図7】つぶれ量に対するパワーロスを示す図である。
【図8】他の実施形態のクランクピンの断面形状を示す図である。
【図9】他の実施形態のクランクピンの断面形状を示す図である。
【符号の説明】
1 ・・・ クランクピン
2 ・・・ クランクアーム
3 ・・・ クランクジャーナル
4 ・・・ コンロッド
5 ・・・ 滑り軸受
6 ・・・ ピストン
7 ・・・ シリンダブロック
8 ・・・ シリンダ
9 ・・・ 基準円
10 ・・・ クランクジャーナルに近い側の面
11 ・・・ クランクジャーナルから遠い側の面
12 ・・・ 水平軸線
13 ・・・ 垂直軸線
14 ・・・ クランクジャーナルの回転中心に最も近い位置
15 ・・・ クランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置
16 ・・・ クランクピンの側面
Claims (3)
- 主軸受により回転自在に軸支されるクランクジャーナルと、コンロッドの大端部内に設けられる滑り軸受を介して回転自在にコンロッドを支承するクランクピンと、該クランクジャーナルと該クランクピンとを連結するクランクアームとを有するクランクシャフトにおいて、
前記クランクピンは、
前記クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうち前記クランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、前記クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうち前記クランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とするクランクシャフト。 - 前記クランクジャーナルに近い側の面の断面形状および/または前記クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状は、だ円の弧または円弧であることを特徴とする請求項1記載のクランクシャフト。
- シリンダブロック内に形成されたシリンダと、該シリンダ内を摺動自在に配設されたピストンと、該ピストンの摺動方向に略直角な軸線まわりに回転自在に該ピストンに連結されたコンロッドと、該コンロッドの大端部内に設けられた滑り軸受を介して回転自在に該コンロッドを支承したクランクピンと主軸受により回転自在に軸支されたクランクジャーナルと該クランクジャーナルと該クランクピンとを連結するクランクアームとからなるクランクシャフトと、を有するエンジンにおいて、
前記クランクピンは、
前記クランクジャーナルに近い側の面の断面形状のうち前記クランクジャーナルの回転中心に最も近い位置における曲率半径が、前記クランクジャーナルから遠い側の面の断面形状のうち前記クランクジャーナルの回転中心から最も遠い位置における曲率半径より大きく形成された断面形状を有する略円柱形状であることを特徴とするエンジン。
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