JP2004058260A - 分子ワイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の分子ワイヤは、末端部に、導体に対して結合可能な官能基を有するポルフィリン系金属錯体を有している導電性分子である。分子ワイヤのうち、導体との接合部分であるポルフィリン系金属錯体は、分子ジャック部として導体表面を専有するように結合する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、分子電子素子を電気的に接続するための配線として用いられる分子ワイヤに関し、より詳細には、金属電極との接合を制御可能である分子ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
分子電子素子は、半導体電子素子の限界を超える一つの手法として提案され、個々の分子に、トランジスタやメモリ素子等のデバイス機能を備えたものである。分子電子素子では、個々の有機分子を単位としているため、その大きさはナノサイズとなる。従って、分子電子素子を用いれば、さらなる小型化や高性能化を実現したデバイスを得ることができると考えられている。
【0003】
このような分子電子素子では、上記半導体電子素子と同様に配線が必要となるが、分子電子素子の電極間を電気的に接続するためには、ナノサイズの配線が用いられる。このナノサイズの配線は、一般に分子ワイヤと称されるものであり、これまでに数多くの分子ワイヤが設計されている。これらの分子ワイヤを電極に接続する際には、通常、分子ワイヤのチオール(S)と、電極に用いられる金(Au)との化学吸着を利用することが多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の分子ワイヤのように、S−Au間の化学吸着を利用すると、分子ワイヤと電極との間の接触面積が小さく、電子的な相互作用が弱い。そのため、分子ワイヤと電極との間での効率のよい電子輸送を行うことができないという問題を有している。また、チオールと金との1ヶ所の点接触によって、分子ワイヤが電極に接続されているので、1本の分子ワイヤが電極表面に直交するように配置されず、上記の接触点以外にて分子ワイヤと電極とが接触することもある。このような不必要な接触により、分子ワイヤと電極との間での電子輸送が阻害される可能性がある。
【0005】
これに対し、図5に示すように、電極11表面に直交するように分子ワイヤを接続しようとすれば、複数の分子ワイヤ10を配置して分子ワイヤどうしの相互作用を利用しなければならず、分子ワイヤ10間にも相互作用が生じることになる。分子ワイヤ10どうしの間の相互作用は、分子ワイヤ10と電極11との間での電子輸送を阻害する原因となり、その結果、効率のよい電子輸送を行うことができなくなる。
【0006】
また、無数の分子ワイヤによって電極間が接続されている分子電子素子の特性は、分子ワイヤの個々の特性を反映することなく、電極間の接続に用いられているすべての分子ワイヤの平均的な特性を反映している。そのため、分子ワイヤにて接続された分子電子素子が有する量子レベルでの特性を引き出すことができないという問題もある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、電極との電子的な相互作用が強くすることによって効率のよい電子輸送を実現するとともに、電極上の分子ワイヤの数を制御し得る分子ワイヤを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の分子ワイヤは、上記課題を解決するために、導電性分子からなる分子ワイヤであって、末端部に、導体に対して結合可能な官能基を有するポルフィリン系金属錯体を有していることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、本発明の分子ワイヤの末端部に位置するポルフィリン系金属錯体が金属微粒子や電極等の導体に結合し、ポルフィリン系金属錯体の中心金属には、従来公知の分子ワイヤとしての導電性分子が結合している。上記導電性分子は、ポルフィリン系金属錯体のポルフィリン環と中心金属とが形成する分子平面に直交するように結合しているので、導電性分子が導体表面に対して直交するように、本発明の分子ワイヤを配置することができる。
【0010】
また、ポルフィリン系金属錯体が導体に接触する際には、ポルフィリン環及び中心金属が形成する分子平面と導体表面とが対向するように、ポルフィリン系金属錯体の官能基が導体表面に結合する。そのため、本発明の分子ワイヤは、導体表面の広い面積を専有するように、導体に結合することになり、導体表面に配置する分子ワイヤの数を低減することができる。その結果、分子ワイヤどうしの間に相互作用が生じることを防止することができる。
【0011】
このように、本発明の分子ワイヤを用いれば、分子ワイヤと導体との間や、分子ワイヤ間にて、所望しない電子的相互作用が生じることを防止し、分子ワイヤと導体との間での電子的な相互作用を高めることができる。その結果、効率のよい電子輸送を行うことが可能になると考えられる。
【0012】
また、ポルフィリン系金属錯体の中心金属には、種々の導電性分子を結合させることができる。従って、ポルフィリン系金属錯体と導電性分子との組み合わせを適宜変えて、本発明の分子ワイヤの導体に対する電気特性を観測すれば、ポルフィリン系金属錯体からの導体への寄与と、導電性分子からの導体への寄与とを分離して解析することが可能になる。その結果、所望する電気特性を有する分子ワイヤを自由に設計することができると期待される。
【0013】
さらに、ポルフィリン系金属錯体が導体に結合する際の専有面積と、導体の表面積とを制御することによって、導体間を接続する分子ワイヤの数を制御することが可能になると考えられる。また、導体間を接続する分子ワイヤの数を制御することができれば、導体間を少数の分子ワイヤにて接続することも可能になる。特に、少数の分子ワイヤにて導体間を接続した場合、分子ワイヤの量子レベルでの特性を引き出すことができる。これにより、例えば、導体間を単一の分子ワイヤにて結合した新しい素子の作製等への応用が期待される。
【0014】
上記の分子ワイヤを構成する上記ポルフィリン系金属錯体は、式(1)
【0015】
【化2】
【0016】
(Mは金属元素、R1〜R4は導体に結合可能な官能基を示す)にて表される構造を有することが好ましい。
【0017】
また、上記官能基R1〜R4は、アルキル基、炭化水素基に硫化アルキル,メルカプト基,ジスルフィド基のうちの少なくとも一つが導入されてなる置換基、炭化水素基にエーテル結合を導入されてなる置換基からなる群のうちのいずれかであることが好ましい。これにより、式(1)にて表されるポルフィリン系金属錯体が、導体表面に、好適に物理吸着して結合することができる。
【0018】
さらに、上記金属元素Mは、ロジウムであることが好ましい。これにより、式(1)にて表されるポルフィリン系金属錯体の中心金属、すなわちロジウムに、上記導電性分子を安定に導入することができる。つまり、ポルフィリン環と中心金属とが形成する分子平面に直交する分子軸に沿って、導電性分子が導入されるので、分子ワイヤと導体との効率のよい電子輸送を実現することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について図1ないし図4に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
本発明の分子ワイヤは、導体に対して結合可能な官能基を有するポルフィリン系金属錯体を末端部に有し、該ポルフィリン金属錯体の中心金属に、導電性分子の末端が結合してなっている。すなわち、本発明の分子ワイヤは、ポルフィリン環を骨格として有するポルフィリン系金属錯体に、従来公知の導電性分子からなる分子ワイヤが結合したものである。
【0021】
本発明の分子ワイヤは、図1に示すように、上記ポルフィリン系金属錯体が導体である電極4に結合し、配線として機能する。そこで、以下では、図1に示すように、分子ワイヤ1のうち、電極4との接合部分である上記ポルフィリン系金属錯体を分子ジャック部1aと記載し、上記ポルフィリン系金属錯体の中心金属に結合する直線構造部分をワイヤ部1bと記載する。
【0022】
上記分子ジャック部1aであるポルフィリン系金属錯体を構成するポルフィリン環は、メソ位またはβ位に官能基を有していてもよい。上記のポルフィリン環のメソ位またはβ位に、導体に対して結合可能な官能基を有していることが好ましい。導体に対して結合可能な官能基は、導体表面によって、物理吸着することが可能な官能基であることが好ましく、例えば、硫黄原子や酸素原子を含んでなる官能基を挙げることができる。
【0023】
本発明の分子ワイヤ1の分子ジャック部1aは、上記ポルフィリン環の中心に、中心金属として金属が導入されたポルフィリン系金属錯体である。中心金属としては、スズ,アルミニウム,亜鉛,ロジウム等、特に限定されないが、このうち、特に、ロジウムが好ましい。中心金属としてロジウムが好ましい理由は、ポルフィリン環と中心金属とが形成する分子平面に直交する分子軸に沿って、上記中心金属とワイヤ部1bとが安定に結合することができ、また、種々の導電分子からなるワイヤ部1bを導入することが可能であるためである。
【0024】
具体的には、前記した式(1)にて示すポルフィリン系金属錯体を有していることが好ましい。式(1)中のR1〜R4は、導体に結合可能な官能基であれば、特に限定されるものではなく、アルキル基や、炭化水素基にチオエーテル結合(硫化アルキル基)やエーテル結合,メルカプト基,ジスルフィド基等のうちの少なくとも一つを導入してなる置換基、カルボキシル基、亜リン酸基が好ましい。より具体的には、SCH3基,SC6H5基,S(CH2)3CH3基,C(CH3)3基,OCH3基,O(CH2)pSCOCH3基(p=2〜20),O(CH2)mOCO(CH2)nCH(C2H4S2)基(m=2〜20,n=2〜20),COOH基,PO3H基等を挙げることができる。
【0025】
また、フェニル基に結合する式(1)中のR1〜R4の結合位置や結合数は、特に限定されないが、フェニル基の2つのメタ位(3位,5位)に結合していることが好ましい。また、R1〜R4は、すべて同じであってもよく、異なっていてもよいが、平面電極等の導体に安定に物理吸着させるためには、同じであることが好ましい。
【0026】
さらに、式(1)に示すポルフィリン系金属錯体では、ポルフィリン環のメソ位にフェニル基が結合しているが、β位に上記R1〜R4の置換基が結合していてもよい。
【0027】
なお、後述するように、R1〜R4にて表される官能基のアルキル基のアルキル鎖長を制御すれば、電極4(図1)表面にて、分子ジャック部1aが電極4を専有する面積を制御することが可能になる。これにより、電極4表面に結合する分子ワイヤ1の数を制御し、分子電子素子の構造を高度に制御することが可能になると考えられる。
【0028】
上記分子ジャック部1aであるポルフィリン系金属錯体に結合するワイヤ部1bの導電分子は、従来公知の分子ワイヤであれば特に限定されるものではない。すなわち、例えば、図2(a)〜図2(c)に示すように、フェニルアセチレン,ブロモベンゼン,チオフェンを有する化合物を用いてもよく、オリゴチオフェン,ベンゼン環とアセチレンとが交互に結合した化合物,チオフェンとアセチレンが交互に結合した化合物、文献(Rainer E. Martin & Fransois Diederich,Angew.Chem.Int.Ed.,38,p.1350−1377(1999))に記載の化合物等を用いてもよく、一般的にπ共役結合を有する化合物であれば特に限定されない。
【0029】
なお、本発明の分子ワイヤは、ワイヤ部1bの両端部に、分子ジャック部1aであるポルフィリン系金属錯体が結合していてもよく、あるいは、ワイヤ部1aの一方の端部にのみ、分子ジャック部1bを有していてもよい。
【0030】
上記構成の分子ワイヤ1では、図1に示すように、分子ジャック部1aが電極4に結合し、ワイヤ部1bは、分子ジャック部1aを介して、上記電極4に結合することになる。つまり、分子ジャック部1aの導体に対して結合可能な官能基であるR1〜R4が導体に結合し、ポルフィリン環及び中心金属が形成する分子平面が、電極4表面に対向するように配置される。従って、ワイヤ部1bが直接、電極4に結合していた従来の分子ワイヤに比べると、分子ジャック部1aが、上記分子平面を含む広い面積にて電極4表面を専有することになるので、分子ワイヤ1と導体との電子的相互作用が強まり、効率のよい電子輸送を期待することができる。
【0031】
また、ポルフィリン系金属錯体が有する導体に結合可能な官能基の大きさを制御すれば、分子ジャック部1aが専有する電極4表面の面積を制御することが可能になる。具体的には、上記式(1)にて表されるポルフィリン系金属錯体の官能基R1〜R4のアルキル基の鎖長を制御することにより、電極4表面にて、分子ジャック部1aが電極4を専有する面積を制御することができる。これにより、電極4表面に結合する分子ワイヤ1の数を制御することが可能になると考えられる。
【0032】
例えば、式(1)中のフェニル基の2つのメタ位に、SCH3基,SC6H5基,S(CH2)3CH3基,C(CH3)3基,OCH3基のうちのいずれかが結合している場合(後述する実施例2にて示す化合物[a]〜[e]を分子ジャック部1aとする場合)、分子ジャック部1aが専有する面積は約1nm2となる。また、式(1)中のフェニル基の2つのメタ位に、O(CH2)11OCO(CH2)4CH(C2H4S2)基が結合している場合(後述する実施例1にて示す化合物▲5▼を分子ジャック部1aとする場合)、分子ジャック部1aが専有する面積は約25nm2となる。
【0033】
ナノギャップ電極の電極表面積は、約900nm2であるため、化合物[a]〜[e]を分子ジャック部1aとして用いれば、電極表面には、最大で900個の分子ワイヤが吸着することになる。一方、化合物▲5▼を用いれば、電極表面には、最大で約40個の分子ワイヤが吸着することになる。この化合物▲5▼を用いた場合、個々の分子ワイヤの物性を量子化して読取ることが可能になる。
【0034】
また、分子ジャック部1aに対して、種々の構造を有するワイヤ部1bを導入することができるので、分子ジャック部1aとワイヤ部1bとの種々の組み合わせを有する分子ワイヤ1を設計することができる。それゆえ、分子ワイヤ1と導体との間の電気特性に関して、分子ジャック部1aからの寄与と、ワイヤ部1bからの寄与とを分離して解析することが可能になる。その結果、1つの分子ジャック部1aに対して、種々の電気特性を有するワイヤ部1bを設計することが可能になる。
【0035】
従って、本発明の分子ワイヤを用いれば、電極上の分子ワイヤの数を制御することが可能になり、さらに小さな表面積を有するナノギャップ電極を用いれば、単一分子にて構成されている単一分子デバイスの形成を実現することができる可能性がある。
【0036】
さらに、図3(a)(b)に示すように、ナノギャップ電極に代えて、直径が2〜3nmの金属ナノ粒子5を用いて、素子を形成する際にも、上記の分子ジャック部を有する分子ワイヤは有用になる。
【0037】
つまり、図3(a)に示すように、金属ナノ粒子5に、2つの分子ワイヤ2を分子ジャック部2aにて吸着させることができる。あるいは、図3(b)に示すように、金属ナノ粒子5に、3つの分子ワイヤ3を分子ジャック部3aにて吸着させることもできる。
【0038】
特に、金を用いた金属ナノ粒子5は、高精度に大きさを変化させて形成することができる。そのため、図3(a)(b)に示すように、上記分子ワイヤ2・3のワイヤ部2b・3bのもう一方の端部にも分子ジャック部2a・3aを設けて、該分子ジャック部2a・3aにて、さらに大きさを制御した金属ナノ粒子5を吸着させれば、図4(a)(b)に示すような高次の超構造体としての素子を形成することが期待される。
【0039】
すなわち、図4(a)に示すように、図3(a)に示す2つの分子ワイヤ2が結合した金属ナノ粒子5を複数結合し、10〜50nmの間隔を有する2つの電極4間に配置すれば、1次元の素子を形成することができる可能性がある。また、図4(b)に示すように、図3(b)に示す3つの分子ワイヤ3が結合した金属ナノ粒子5を複数結合すれば、2次元の素子を形成することができると考えられる。
【0040】
【実施例】
〔実施例1・分子ジャック部の作製〕
テトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリンの亜鉛錯体(式(2)の化合物▲1▼)1.915g(2.37mmol)、炭酸カリウム9.826g(71.7mmol)、18−クラウン−6−エーテル0.502g(1.9mmol)を、50mLの3つ口フラスコに入れ、該3つ口フラスコにアリーン冷却管をつけてアルゴン置換を行った。次いで、乾燥THF(dry−THF)20mLを加えて溶解し、バスの温度を上げて還流を行いながら、トランスファーチューブにて、Br−(CH2)11−OTBDMS8.661g(23.7mmol)を1時間おきに4回に分けて加え、さらに一晩還流を行った。その後、綿栓濾過を行い、さらに濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶媒:5%酢酸エチル/ヘキサン)にて分離精製し、収量3.82g(1.24mmol,収率52.7%)にて化合物▲2▼(C180H316N4O16Si8Zn)を得た(式(2))。
【0041】
【化3】
【0042】
得られた化合物▲2▼について、溶媒をCDCl3として、1H−NMR測定(400MHz)を行ったところ、化学シフトδ(ppm)=8.98(8H,s,ポルフィリン環のβ−H),7.38(8H,s,ベンゼン環),6.86(4H,s,ベンゼン環),3.88(16H,t,ArOCH 2−,J=7.08Hz),3.29(16H,t,−CH 2O−TBDMS,J=6.83Hz),1.25−1.86(144H,m,ArOCH2−(CH 2)9−CH2OTBDMS),0.88(72H,s,TBDMSのt−Bu基の−CH 3),0.016(48H,s,TBDMSの−Si−(CH 3)2)にピークが見られるスペクトルが得られた。
【0043】
なお、上記括弧内は、順に、各ピークに帰属されるH数,スペクトルのピークの形状,化合物中のHの位置(下線を付したH)を表す。また、Jはスピン結合定数を表す。さらに、sはスペクトルが一重線であること示し、tはスペクトルが三重線であることを示し、mはスペクトルが多重線であることを示す。
【0044】
また、溶媒をCHCl3として、化合物▲2▼の紫外可視吸収スペクトル測定を行った結果、吸収ピーク波長λmax(nm)=424(soret帯),551であった。さらに、質量分析(TOF−MS)の結果、分子量は3082(計算上も3082)と見積もられた。
【0045】
次に、上記化合物▲2▼0.408g(0.132mmol)を乾燥THF(dry−THF)0.8mLに溶かし、テトラブチルアンモニウムフルオライド(Bu4N+F)3.176mL(3.176mmol)を加えて、一晩撹拌した。その後、濃縮を行い、クロロホルムにて分液抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて、まずCHCl3を溶媒として不純物を取り除き、さらに極性の高い溶媒(5%メタノール/CHCl3)にて精製して化合物▲3▼(C132H204N4O16Zn)を得た(式(3))。
【0046】
【化4】
【0047】
得られた化合物▲2▼について、溶媒をCDCl3として、1H−NMR測定(400MHz)を行ったところ、化学シフトδ(ppm)=8.98(8H,s,ポルフィリン環のβ−H),7.38(8H,s,ベンゼン環),6.86(4H,s,ベンゼン環),4.11(16H,t,ArO−CH 2−,J=6Hz),3.01(16H,t,−CH 2−OH,J=6Hz),0.86−1.86(144H,m,ArOCH2−(CH 2)9−CH2OH)にピークが見られるスペクトルが得られた。括弧内の表記は、上記のとおりである。
【0048】
また、溶媒をCHCl3として、化合物▲3▼の紫外可視吸収スペクトル測定を行った結果、吸収ピーク波長λmax(nm)=425(soret帯),556であった。さらに、質量分析(TOF−MS)の結果、分子量は2168(計算上も2168)と見積もられた。
【0049】
続いて、上記化合物▲3▼0.217g(0.1mmol)を乾燥CH2Cl21mLに溶かし、アルゴン雰囲気下にて、カルボン酸(化合物▲4▼)0.206g(1mmol)、脱水剤としてのN,N−ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィニッククロリド0.255g(1mmol)、トリエチルアミン2mLを添加して、24時間撹拌した。その後、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を約5mL加え、クロロホルムにて抽出した。得られた溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥・濾別し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製した。さらに、リサイクル式ゲル濾過型クロマトグラフィにて精製し、収量0.129gにて化合物▲5▼(C196H300N4O24S16Zn)を得た(式(4))。
【0050】
【化5】
【0051】
得られた化合物▲5▼について、溶媒をCDCl3として、1H−NMR測定(400MHz)を行ったところ、化学シフトδ(ppm)=9.00(8H,s,ポルフィリン環のβ−H),7.36(8H,s,ベンゼン環),6.88(4H,s,ベンゼン環),4.11(16H,t,ArO−CH 2−),3.96(16H,m,−CH 2−OC(=O)−),3.1−3.8(24H,m,−SHC−CH2−CH 2S−),2.21(16H,m,OC(=O)−CH 2−),1.2−2.0(208H,m,−(CH 2)9−CH2OC(=O)CH2−(CH 2)3−SHC−CH 2)にピークが見られるスペクトルが得られた。括弧内の表記は、上記のとおりである。
【0052】
また、質量分析(TOF−MS)の結果、分子量は3677(計算上は3675)と見積もられた。
【0053】
〔実施例2・分子ワイヤの作製〕
上記実施例1と同様の手順にて、化合物▲1▼の中心金属を亜鉛からロジウムに代えたロジウム錯体を用いて、ポルフィリン系金属錯体として以下に示す化合物[a]〜[f]を合成した。
【0054】
【化6】
【0055】
上記化合物[a]〜[f]の中心金属Rhに、フェニルアセチレンをワイヤ部として導入し、本発明の分子ワイヤを得た。さらに、化合物[d]については、ターチオフェンをワイヤ部として導入し、本発明の分子ワイヤを得た。
【0056】
〔参考例〕
上記実施例1と同様の手順にて、化合物▲1▼の中心金属を亜鉛からロジウムに代えたロジウム錯体を用いて、以下に示す化合物[g]を得た。
【0057】
【化7】
【0058】
上記化合物[g]の中心金属Rhに、図2(a)〜図2(c)に示す構造をワイヤ部として導入した。
【0059】
【発明の効果】
本発明の分子ワイヤは、以上のように、末端部に、導体に対して結合可能な官能基を有するポルフィリン系金属錯体を有しているものである。
【0060】
それゆえ、末端部に位置するポルフィリン系金属錯体が分子ジャック部となって、広い専有面積にて、金属微粒子や電極等の導体表面に結合することができる。また、導体表面に対して直交するように分子ワイヤを配置するとともに、導体表面に配置する分子ワイヤの数を低減することができるという効果を奏する。これにより、分子ワイヤと導体との間での電子的な相互作用を高め、効率のよい電子輸送を行うことが可能になるという効果を奏する。
【0061】
また、ポルフィリン系金属錯体が導体に結合する際の専有面積と、導体の表面積とを制御することによって、導体間を接続する分子ワイヤの数を制御することが可能になり、導体間を少数の分子ワイヤにて接続することができる可能性も得られる。従って、個々の分子ワイヤの物性が反映された量子レベルでの特性を引き出すことにより、導体間を単一の分子ワイヤにて結合した新しい素子の作製等への応用することができる可能性があるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分子ワイヤが電極に接続された状態を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の分子ワイヤのワイヤ部の構造式である。
【図3】(a)(b)は、本発明の分子ワイヤが金属ナノ粒子に接続された状態を示す断面図である。
【図4】(a)(b)は、上記金属ナノ粒子に接続された分子ワイヤを用いて形成した素子を示す断面図である。
【図5】従来の分子ワイヤが電極に接続された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 分子ワイヤ
1a 分子ジャック部(ポルフィリン系金属錯体)
1b ワイヤ部(導電分子)
2 分子ワイヤ
2a 分子ジャック部(ポルフィリン系金属錯体)
2b ワイヤ部(導電分子)
3 分子ワイヤ
3a 分子ジャック部(ポルフィリン系金属錯体)
3b ワイヤ部(導電分子)
4 電極(導体)
4 金属ナノ粒子(導体)
Claims (4)
- 導電性分子からなる分子ワイヤであって、
末端部に、導体に対して結合可能な官能基を有するポルフィリン系金属錯体を有していることを特徴とする分子ワイヤ。 - 上記官能基R1〜R4は、アルキル基、炭化水素基に硫化アルキル,メルカプト基,ジスルフィド基のうちの少なくとも一つが導入されてなる置換基、炭化水素基にエーテル結合を導入されてなる置換基からなる群のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の分子ワイヤ。
- 上記金属元素Mは、ロジウムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の分子ワイヤ。
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