JP2004052049A - 真空アーク蒸着装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】基材に対する成膜時間の長期化や積層膜形成の自由度を高めることを可能にする。
【解決手段】この真空アーク蒸着装置を構成するアーク式蒸発源10aは、複数個の陰極14と、トリガ電極20を任意の1個の陰極14の前方に切り換えて位置させる動作および当該切り換えた位置でトリガ電極20を陰極14に接離させる動作を行うトリガ駆動装置22aと、前記任意の1個の陰極14を除外して残り全部の陰極14の前方を覆うシャッター32と、シャッター32を動かしてそれで覆わない陰極14を切り換える動作を行うシャッター駆動装置34とを有している。更にこの真空アーク蒸着装置は、シャッター駆動装置34およびトリガ駆動装置22aを制御して、シャッター32で覆わない陰極14を切り換えると共に、シャッター32で覆わない陰極14の前方にトリガ電極20を位置させる制御を行う切り換え制御装置40を備えている。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、真空アーク放電によって陰極(カソード)物質を蒸発させるアーク式蒸発源を有していて、当該陰極物質を基材に堆積させて薄膜を形成する真空アーク蒸着装置に関し、より具体的には、成膜時間の長期化や積層膜形成の自由度を高めることを可能にする手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の真空アーク蒸着装置の従来例を図4に示し、そのP視図を図5に示す。
【0003】
この真空アーク蒸着装置は、図示しない真空排気装置によって真空排気される真空容器2を備えており、この真空容器2内に、成膜しようとする基材4を保持するホルダ6が設けられている。このホルダ6上の基材4に向くように、この例では真空容器2の側壁部に、アーク式蒸発源10が取り付けられている。
【0004】
アーク式蒸発源10は、真空アーク放電によって陰極14から陰極物質16を蒸発させるものである。詳述すると、このアーク式蒸発源10は、陰極14を保持する導体製(例えば非磁性金属製)の陰極保持体12を有しており、この陰極保持体12に従来は1個の陰極14が取り付けられている。陰極保持体12は絶縁物18を介して真空容器2に取り付けられている。
【0005】
アーク式蒸発源10は、更に、陰極14におけるアーク点弧用のトリガ電極20と、このトリガ電極20を、軸24およびフィードスルー26を介して、矢印Bに示すように陰極14の前後方向に移動させて陰極14に接離(接触することと離すこと)させるトリガ駆動装置22を有している。フィードスルー26は、この例では、真空シール機能および電気絶縁機能を有している。
【0006】
アーク式蒸発源10の陽極は、この例では真空容器2が兼ねている。アーク式蒸発源10の陰極14と陽極兼用の真空容器2との間には、陰極保持体12を介して、かつ陰極14を負極側(換言すれば真空容器2を正極側)にして、アーク放電用の直流のアーク電源28が接続されている。トリガ電極20とアーク電源28の正極側(換言すれば陽極または陽極兼用の真空容器2)との間には、導電性の軸24を介して、アーク点弧時の電流制限用の抵抗器30が接続されている。
【0007】
動作例を説明すると、トリガ電極20をトリガ駆動装置22によって移動させて、アーク電源28から直流電圧(例えば数十V程度)を印加している陰極14に接触させた後に離すと、トリガ電極20と陰極14との間に火花が生じ、これが引金となって陰極14と陽極兼用の真空容器2との間でアーク放電が持続し、それによって陰極14の表面が溶解されて陰極物質16が蒸発する。そしてこの陰極物質16が基材4に入射堆積して、基材4の表面に薄膜が形成される。
【0008】
その際、ホルダ6上の基材4に、バイアス電源8から負のバイアス電圧(例えば−数十V〜−1000V程度)を印加しておいても良い。そのようにすれば、基材4に対する薄膜の密着性が良くなる。
【0009】
また、基材4を保持したホルダ6を矢印E方向またはその逆方向に回転させても良い。そのようにすれば、基材4に対する薄膜の均一性が向上する。
【0010】
また、真空容器2内に、陰極物質16と反応する反応性ガス(例えば窒素ガス)や反応しない不活性ガス(例えばアルゴンガス)を導入しても良い。反応性ガスを導入すると、基材4の表面に化合物薄膜を形成することができる。
【0011】
なお、アーク式蒸発源10の陽極を真空容器2とは別に設ける場合もあり、その場合は、アーク電源28の正極および抵抗器30は当該陽極に接続され、真空容器2は通常は接地される。後述するこの発明に係る真空アーク蒸着装置を構成するアーク式蒸発源10aの場合も同様である。
【0012】
アーク式蒸発源10は、ここでは1台のみ図示しているが、必要に応じて複数台設けても良い。例えば、ホルダ6上の基材4を左右から挟むように左右に1台ずつ合計2台設けても良いし、左側の上下に2台、右側の上下に2台の合計4台設けても良い。それ以上設けても良い。後述するアーク式蒸発源10aの場合も同様である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上記真空アーク蒸着装置においては、成膜に伴ってアーク式蒸発源10の陰極14が消耗し、一定限度以上消耗すると成膜ができなくなるため、成膜時間が限られている。陰極14が消耗すると、真空容器2内の真空を破って真空容器2内を大気開放して陰極14を交換した後、真空容器2内を再び真空排気しなければならないため、交換作業に長時間を要する。
【0014】
また、互いに異なる種類の陰極14ひいては陰極物質16を用いて、基材4の表面に積層膜(例えば多層膜)を形成する場合、当該積層膜を構成する膜の種類は、導入ガスの種類を別にすれば、アーク式蒸発源10の台数によって制限されるので、積層膜形成の自由度が低い。
【0015】
そこでこの発明は、基材に対する成膜時間の長期化や積層膜形成の自由度を高めることを可能にした真空アーク蒸着装置を提供することを主たる目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る真空アーク蒸着装置においては、アーク式蒸発源は、陰極を保持するものであって前記アーク電源の負極に接続された導体製の陰極保持体と、この陰極保持体に取り付けられた複数個の陰極と、アーク点弧用のトリガ電極と、このトリガ電極を前記複数個の陰極の内の任意の1個の前方に切り換えて位置させる動作および当該切り換えた位置でトリガ電極を陰極に接離させる動作を行うトリガ駆動装置と、前記複数個の陰極の内の任意の1個を除外して残り全部の前方を覆うことのできるシャッターと、このシャッターを動かして当該シャッターで覆わない陰極を切り換える動作を行うシャッター駆動装置とを有しており、更にこの真空アーク蒸着装置は、前記シャッター駆動装置および前記トリガ駆動装置を制御して、前記シャッターで覆わない陰極を切り換えると共に、当該シャッターで覆わない陰極の前方に前記トリガ電極を位置させる切り換え制御を行う切り換え制御装置を備えていることを特徴としている(請求項1)。
【0017】
この真空アーク蒸着装置によれば、1台のアーク式蒸発源が複数個の陰極を有しており、しかも切り換え制御装置によって、前記シャッターで覆わない陰極を切り換えると共に、当該シャッターで覆わない陰極の前方に前記トリガ電極を位置させる切り換えを行うことができるので、真空容器を大気開放することなく、前記複数個の陰極を切り換えて使用することができる。従って、成膜動作を、複数の陰極を用いて継続して行うことができる。
【0018】
その場合、この発明では、単にトリガ電極の位置を切り換えて、使用する陰極を切り換えるのではなく、使用していない陰極の全てをシャッターで覆うので、(a)使用している陰極から蒸発した陰極物質が、使用していない陰極の表面に付着することをシャッターによって抑制することができる。更に、(b)使用している陰極におけるアーク放電が、使用していない陰極に移行して不所望なアーク放電が起こることをシャッターによって抑制することができる。
【0019】
1台のアーク式蒸発源に設ける複数個の陰極の種類は、互いに同種にしても良いし、異種にしても良いし、同種と異種とを混在させても良い。
【0020】
互いに同種にしておくと、陰極が1個の場合に比べて、基材に対する成膜時間を、陰極の個数に応じて長くすることができる。例えば、陰極の個数倍に長くすることができる。
【0021】
互いに異種にしておくと、そのぶん多種多様な膜を形成することができるので、陰極が1個の場合に比べて、積層膜形成の自由度を高めることができる。この場合、使用していない陰極の全てをシャッターで覆うことによる前記(a)に示した作用は特に有効である。即ち、仮に使用していない陰極の内でシャッターで覆われていない陰極があると、使用している陰極(これを第1の陰極とする)から蒸発した陰極物質が当該シャッターで覆われていない陰極(これを第2の陰極とする)の表面に付着し、次に当該第2の陰極を使用して成膜するときに当該第2の陰極に付着していた陰極物質が蒸発して、目的とする組成とは異なった組成の膜がしばらく基材に形成されることになるけれども、それをこの発明では防止することができる。
【0022】
同種と異種とを混在させておくと、成膜時間を長期化することと、積層膜形成の自由度を高めることの両方を可能にすることができる。
【0023】
前記切り換え制御装置は、例えば、外部(例えばオペレータ等)から与えられる切り換え指令に応答して、前記切り換え制御を行う。あるいは次のようにして、自動で切り換え制御を行うようにしても良い。
【0024】
即ち、前記陰極保持体を経由して前記アーク電源に流れるアーク電流を通電時間で積算してアーク電流量を求めるアーク電流積算器を更に設けておき、前記切り換え制御装置を、このアーク電流積算器で求めたアーク電流量が所定の基準値を超える度毎に前記切り換え制御を行うものにしておいても良い(請求項2)。
【0025】
上記アーク電流積算器で求めるアーク電流量は、そのときに使用している陰極の消耗度合いに比例しているので、上記構成を採用することによって、使用している陰極が所定の消耗量に達する度毎に、使用する陰極を自動的に切り換えることができる。
【0026】
前記シャッターは金属製であり、当該シャッターと前記陽極または陽極を兼ねる真空容器との間に接続された抵抗器と、この抵抗器を経由して前記シャッターに流れる電流を計測する電流計測器と、この電流計測器で計測した電流が所定の基準値を超えたときに、前記アーク電源の出力を停止させる停止制御を行う停止制御装置とを更に設けておいても良い(請求項3)。
【0027】
このような構成を採用すると、上記抵抗器によって、シャッターが電気的に浮いた状態になることを防止することができると共に、シャッターと陰極との間で異常な放電が起こるのを抑制することができる。これは、アーク電源の正極(換言すれば陽極または陽極兼用の真空容器)とシャッターとの間には上記抵抗器が介在することになるので、陰極からシャッターへ放電が起ころうとすると、上記抵抗器に流れる電流が大きくなって当該抵抗器における電圧降下が大きくなって当該異常放電が阻止されるからである。しかも、何らかの原因でシャッターに流れる電流が所定の基準値を超えると、停止制御装置によってアーク電源の出力を自動的に停止させることができるので、シャッターにおける異常放電をより確実に防止することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係る真空アーク蒸着装置の一例を示す断面図である。図2は、この発明に係る真空アーク蒸着装置におけるアーク式蒸発源の陰極周りの一例を示す正面図であり、図1中の矢印P方向に見たものである。図4および図5に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0029】
この真空アーク蒸着装置は、従来のアーク式蒸発源10に代わるものとして、次のようなアーク式蒸発源10aを備えている。アーク式蒸発源10aの台数は、前述したように、1台でも良いし、複数台でも良い。
【0030】
アーク式蒸発源10aは、この例では、前記陰極保持体12と、この陰極保持体12に取り付けられた複数個の陰極14と、前記トリガ電極20と、このトリガ電極20を機械的に駆動するものであって従来のトリガ駆動装置22に代わるトリガ駆動装置22aとを備えている。
【0031】
陰極14は、この例では、図2を参照すれば良く分かるように、2個を横に並べて陰極保持体12に取り付けている。各陰極14は、陰極保持体12を介して、アーク電源28の負極に電気的に接続されている。
【0032】
複数個の陰極14は、互いに同一形状および同一寸法にするのが好ましい。そのようにすれば、陰極14の製造コストの低減を図ることができる。陰極保持体12への陰極14の取付けも容易になる。更に、後述するシャッター32の構造等も簡単になる。複数個の陰極14は、この例では一例として、互いに同じ寸法の円柱状をしている。
【0033】
トリガ駆動装置22aは、この例では、トリガ電極20を軸24を介して矢印Cに示すように往復回転させることによって左右に動かして、複数個(この例では2個)の陰極14の内の任意の1個の前方(即ち、陰極物質16を蒸発させる方向の前)に位置させる動作と、当該切り換えた位置でトリガ電極20を矢印Bのように前後動させて、トリガ電極20を陰極14に接離させる動作とを行うものである。トリガ電極20を位置させた所の陰極14が使用可能となる。
【0034】
アーク式蒸発源10aは、更に、複数個(この例では2個)の陰極14の内の任意の1個を除外して残り全部の陰極14を覆うことのできるシャッター32と、軸36を矢印Dに示すように往復回転させることによってシャッター32を軸36、アーム37およびフィードスルー38を介して左右に動かして、当該シャッター32で覆わない(これは換言すれば、開放する、あるいは使用する、ということである。以下同じ)陰極14を択一的に切り換える動作を行うシャッター駆動装置34とを備えている。フィードスルー38は、この例では、真空シール機能および電気絶縁機能を有している。
【0035】
このシャッター32と上記トリガ電極20とは、同時に回転動作をさせても互いに干渉しない位置に配置している。例えばこの例では、トリガ電極20の軸24とシャッター32の軸36とを陰極保持体12を挟んで相対向する位置に設け、かつシャッター32よりも外側にトリガ電極20を位置させている。
【0036】
シャッター32は、この例では、各陰極14より若干大きめの円板状をしており、これを矢印Dに示すように切り換えて位置させることによって、2個の陰極14の内の任意の一方の前方を覆うことができる。
【0037】
この真空アーク蒸着装置は、更に、シャッター駆動装置34およびトリガ駆動装置22aを制御して、シャッター32で覆わない陰極14を択一的に切り換えると共に、例えばそれに同期させて、当該シャッター32で覆わない陰極14の前方にトリガ電極20を位置させる切り換え制御を行う切り換え制御装置40を備えている。例えばこの例では、図2中に実線で示すように、シャッター32で一方(右側)の陰極14を覆っているときはトリガ電極20を他方(左側)の陰極14側に位置させ、二点鎖線で示すように、シャッター32で他方(左側)の陰極14を覆っているときはトリガ電極20を一方(右側)の陰極14側に位置させる、という切り換え制御を切り換え制御装置40は行う。
【0038】
トリガ駆動装置22aおよびシャッター駆動装置34において、それぞれ単独で前述したような切り換え動作を行わせると、シャッター32で覆っている陰極14にトリガ電極20を接触させようとする異常な動作が起こる可能性があるけれども、それをこの切り換え制御装置40によって防止することができる。
【0039】
上記切り換え制御の際、シャッター32およびトリガ電極20を何度回転させるかは、2個の陰極14間の距離、およびそれらと軸36、24間の距離等の構造によって定まるので、それを例えば切り換え制御装置40に予め設定しておけば良い。
【0040】
陰極保持体12に取り付ける陰極14の数は、2個より多くても良い。図3は4個の場合の例を示す。4個の陰極14は、この例では同一の円周上に配置されている。
【0041】
そしてこの例では、シャッター32を、4個の陰極14の全体を覆う円板状のものであって、その一部に、各陰極14より若干大きくて1個の陰極14だけを露出せさる開口部33を有するものとしている。このような構造によって、シャッター32は、複数個の陰極14の内の任意の1個を除外して残り全部の陰極14の前方を覆うことができる。
【0042】
このシャッター32とトリガ電極20との干渉を避けるために、この例では、トリガ電極20を駆動する前記軸24とシャッター32を駆動する前記軸36とを前者を内側にして互いに同軸状に配置し、それらを前記4個の陰極14が配置された円の中心に位置させている。両軸24、36は、互いに電気的に絶縁している。
【0043】
軸24には前記トリガ駆動装置22aが連結されており、軸36には前記シャッター駆動装置34が連結されている。両トリガ駆動装置22aおよびシャッター駆動装置34が互いに機械的に干渉しないように配置することは、公知の技術によって可能である。
【0044】
シャッター32は前記シャッター駆動装置34によって矢印Dに示すように、かつトリガ電極20は前記トリガ駆動装置22aによって矢印Cに示すように、所定角度ずつ(この例では90度ずつ)回転させられる。そしてこの回転の制御を、図2の例の場合と同様、前記切り換え制御装置40によって行う。即ち、切り換え制御装置40は、シャッター32で覆わない(即ち開口部33に露出させる)陰極14を択一的に切り換えると共に、当該開口部33に露出している陰極14の前方にトリガ電極20を位置させる切り換え制御を行う。
【0045】
図3の構造は、陰極14の数が4個以外の複数個の場合にも適用することができる。例えば、2個、3個、5個等の場合にも適用することができる。陰極14の数をn個(nは2以上の整数)とすると、複数個の陰極14を同一の円周上に360/n度ずつ等配に配置し、シャッター32およびトリガ電極20を切り換え制御装置40による制御によって当該360/n度ずつ回転させれば良い。
【0046】
上記真空アーク蒸着装置によれば、1台のアーク式蒸発源10aが複数個の陰極14を有しており、しかも切り換え制御装置40によって、シャッター32で覆わない陰極14を択一的に切り換えると共に、当該シャッター32で覆わない陰極14の前方にトリガ電極20を位置させる切り換えを行うことができるので、真空容器2を大気開放することなく、複数個の陰極14を択一的に切り換えて使用することができる。従って、基材4に対する成膜動作を、複数の陰極14を用いて継続して行うことができる。
【0047】
その場合、この真空アーク蒸着装置では、単にトリガ電極20の位置を切り換えて、使用する陰極14を切り換えるのではなく、使用していない陰極14の全てをシャッター32で覆うので、(a)使用している陰極14から蒸発した陰極物質16が、使用していない陰極14の表面に付着することをシャッター32によって抑制することができる。更に、(b)使用している陰極14におけるアーク放電が、使用していない陰極14に移行して不所望なアーク放電が起こることをシャッター32によって抑制することができる。
【0048】
1台のアーク式蒸発源10aに設ける複数個の陰極14の種類(材質)は、互いに同種にしても良いし、異種にしても良いし、同種と異種とを混在させても良い。例えば、陰極14が2個の場合、2個共にAという同一の種類にしても良いし、1個をA、他の1個をBというように別の種類にしても良い。また、陰極14が3個の場合、3個全てをAという同一の種類にしても良いし、3個をA、B、Cという全て別の種類にしても良いし、例えばA、A、Bというように同種と異種とを混在させても良い。
【0049】
複数個の陰極14を互いに同種にしておくと、陰極14が1個の場合に比べて、基材4に対する成膜時間を、陰極14の個数に応じて長くすることができる。例えば、陰極14が同一寸法の場合、陰極14の個数倍に長くすることができる。
【0050】
複数個の陰極14を互いに異種にしておくと、そのぶん陰極14の個数に応じて多種多様な膜を基材4に形成することができるので、陰極14が1個の場合に比べて、積層膜形成の自由度を高めることができる。この場合、使用していない陰極14の全てをシャッター32で覆うことによる前記(a)に示した作用は特に有効である。即ち、仮に使用していない陰極14の内でシャッター32で覆われていない陰極14があると、使用している陰極14(これを第1の陰極とする)から蒸発した陰極物質16が当該シャッター32で覆われていない陰極14(これを第2の陰極とする)の表面に付着し、次に当該第2の陰極14を使用して成膜するときに当該第2の陰極14の表面に付着していた陰極物質16が蒸発して、目的とする組成とは異なった組成の膜がしばらく基材4に形成されることになるけれども、そのような不都合をこの真空アーク蒸着装置では防止することができる。
【0051】
複数個の陰極14に同種と異種とを混在させておくと、上述した成膜時間を長期化することと、積層膜形成の自由度を高めることの両方を可能にすることができる。
【0052】
前記切り換え制御装置40は、例えば、外部(例えばオペレータ等)から与えられる切り換え指令に応答して、前記切り換え制御を行う。より具体的には、切り換えの時期をオペレータが判断して切り換え指令を切り換え制御装置40に与え、それによって切り換え制御装置40に前記切り換え制御を行わせても良い。あるいは次のようにして、自動で切り換え制御を行うようにしても良い。
【0053】
即ち、図1に示す例のように、陰極保持体12を経由してアーク電源28に流れるアーク電流IA を通電時間tで積算してアーク電流量Q(=IA ・t)を求めるアーク電流積算器42を更に設けておき、切り換え制御装置40を、このアーク電流積算器42で求めたアーク電流量Qが所定の基準値R1 を超える度毎に前記切り換え制御を行うものにしておいても良い。切り換え制御装置40には、アーク電流積算器42で求めたアーク電流量Qが与えられる。また、上記基準値R1 が設定される。
【0054】
アーク電流積算器42で求めるアーク電流量Qは、そのときに使用している陰極14の消耗度合いに比例しているので、上記構成を採用することによって、使用している陰極14が所定の消耗量に達する度毎に、使用する陰極14を自動的に切り換えることができる。
【0055】
上記アーク電流積算器42で求めたアーク電流量Qは、例えば、使用する陰極14を切り換える度毎に、0にリセットするようにするのが好ましい。そのようにすれば、基準値R1 の設定が簡単になるので、制御が簡単になる。例えば、複数個の陰極14が互いに同種の場合は、基準値R1 は一つで済むので、制御は非常に簡単になる。
【0056】
同じアーク電流量Qでも、陰極14の種類が異なれば、その消耗量が異なる場合がある。そこで、複数個の陰極14の内に異種の陰極14が混在している場合は、使用する位置にある陰極14の種類に応じて、前記基準値R1 を切り換えるようにしても良い。そのようにすれば、異種の陰極14が混在していても、使用している陰極14がどれもほぼ一定の消耗量に達する毎に、使用する陰極14を自動的に切り換えることができる。
【0057】
前記シャッター32は、例えば金属製である。その場合は、この例の真空アーク蒸着装置のように、当該シャッター32を、陽極または陽極兼用の真空容器2に、換言すればアーク電源28の正極側に、抵抗器44を介して接続しておくのが好ましい。抵抗器44は、この例では、導電性の軸36を経由して、シャッター32に電気的に接続されている。
【0058】
このような構成を採用すると、上記抵抗器44によって、シャッター32が電気的に浮いた状態になることを防止することができると共に、シャッター32と陰極14との間で異常な放電が起こるのを抑制することができる。これは、アーク電源28の正極(換言すれば陽極または陽極兼用の真空容器2)とシャッター32との間には上記抵抗器44が介在することになるので、陰極14からシャッター32へ放電が起ころうとすると、上記抵抗器44に流れる電流が大きくなって当該抵抗器44における電圧降下が大きくなって当該異常放電が阻止されるからである。
【0059】
更に、この例のように、上記抵抗器44を経由してシャッター32に流れる電流IS を計測する電流計測器46と、この電流計測器46で計測した電流IS が所定の基準値R2 を超えたときに、アーク電源28の出力を停止させる停止制御を行う停止制御装置48とを設けておいても良い。
【0060】
停止制御装置48には上記基準値R2 が設定される。電流IS がこの基準値R2 を超えると停止制御装置48から停止信号Sがアーク電源28に与えられ、それに応答してアーク電源28はその出力を停止する。
【0061】
一つの陰極14でアーク放電を起こさせているときに、そのアーク放電の影響で、上記シャッター32には、正常時でも若干の(例えば1〜2A程度の)電流IS が流れる場合があるので、上記基準値R2 は、この電流よりもある程度大きい値(例えば10A程度)に設定しておけば良い。
【0062】
このような構成によれば、何らかの原因でシャッター32に流れる電流IS が所定の基準値R2 を超えると、停止制御装置48によってアーク電源28の出力を自動的に停止させることができるので、シャッター32における異常放電をより確実に防止することができる。
【0063】
【発明の効果】
この発明は、上記のとおり構成されているので、次のような効果を奏する。
【0064】
請求項1記載の発明によれば、真空容器を大気開放することなく、アーク式蒸発源の複数個の陰極を切り換えて使用することができるので、基材に対する成膜時間の長期化や積層膜形成の自由度を高めることができる。
【0065】
しかもこの発明では、単にトリガ電極の位置を切り換えて、使用する陰極を切り換えるのではなく、使用していない陰極の全てをシャッターで覆うので、使用している陰極から蒸発した陰極物質が、使用していない陰極の表面に付着することをシャッターによって抑制することができる。更に、使用している陰極におけるアーク放電が、使用していない陰極に移行して不所望なアーク放電が起こることをシャッターによって抑制することができる。
【0066】
請求項2記載の発明によれば、上記のようなアーク電流積算器および切り換え制御装置を備えているので、使用している陰極が所定の消耗量に達する度毎に、使用する陰極を自動的に切り換えることができる、という更なる効果を奏する。
【0067】
請求項3記載の発明によれば、上記のような抵抗器、電流計測器および停止制御装置を備えているので、次のような更なる効果を奏する。即ち、シャッターが電気的に浮いた状態になることを防止することができると共に、シャッターと陰極との間で異常な放電が起こるのを抑制することができる。しかも、何らかの原因でシャッターに流れる電流が所定の基準値を超えると、停止制御装置によってアーク電源の出力を自動的に停止させることができるので、シャッターにおける異常放電をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る真空アーク蒸着装置の一例を示す断面図である。
【図2】この発明に係る真空アーク蒸着装置におけるアーク式蒸発源の陰極周りの一例を示す正面図であり、図1中の矢印P方向に見たものである。
【図3】この発明に係る真空アーク蒸着装置におけるアーク式蒸発源の陰極周りの他の例を示す正面図であり、図1中の矢印P方向に見たものである。
【図4】従来の真空アーク蒸着装置の一例を示す断面図である。
【図5】従来の真空アーク蒸着装置におけるアーク式蒸発源の陰極周りを示す正面図であり、図4中の矢印P方向に見たものである。
【符号の説明】
2 真空容器
4 基材
10a アーク式蒸発源
12 陰極保持体
14 陰極
16 陰極物質
20 トリガ電極
22a トリガ駆動装置
28 アーク電源
32 シャッター
34 シャッター駆動装置
40 切り換え制御装置
42 アーク電流積算器
46 電流計測器
48 停止制御装置

Claims (3)

  1. 真空容器と、真空アーク放電によって陰極から陰極物質を蒸発させるアーク式蒸発源と、このアーク式蒸発源の陰極とそれに対する陽極または陽極を兼ねる前記真空容器との間に陰極を負極側にして接続されたアーク電源とを備えていて、前記真空容器内において基材に前記陰極物質を堆積させて薄膜を形成する真空アーク蒸着装置において、
    前記アーク式蒸発源は、陰極を保持するものであって前記アーク電源の負極に接続された導体製の陰極保持体と、この陰極保持体に取り付けられた複数個の陰極と、アーク点弧用のトリガ電極と、このトリガ電極を前記複数個の陰極の内の任意の1個の前方に切り換えて位置させる動作および当該切り換えた位置でトリガ電極を陰極に接離させる動作を行うトリガ駆動装置と、前記複数個の陰極の内の任意の1個を除外して残り全部の前方を覆うことのできるシャッターと、このシャッターを動かして当該シャッターで覆わない陰極を切り換える動作を行うシャッター駆動装置とを有しており、
    更にこの真空アーク蒸着装置は、前記シャッター駆動装置および前記トリガ駆動装置を制御して、前記シャッターで覆わない陰極を切り換えると共に、当該シャッターで覆わない陰極の前方に前記トリガ電極を位置させる切り換え制御を行う切り換え制御装置を備えている、ことを特徴とする真空アーク蒸着装置。
  2. 前記陰極保持体を経由して前記アーク電源に流れるアーク電流を通電時間で積算してアーク電流量を求めるアーク電流積算器を更に備えており、前記切り換え制御装置は、このアーク電流積算器で求めたアーク電流量が所定の基準値を超える度毎に前記切り換え制御を行うものである、請求項1記載の真空アーク蒸着装置。
  3. 前記シャッターは金属製であり、当該シャッターと前記陽極または陽極を兼ねる真空容器との間に接続された抵抗器と、この抵抗器を経由して前記シャッターに流れる電流を計測する電流計測器と、この電流計測器で計測した電流が所定の基準値を超えたときに、前記アーク電源の出力を停止させる停止制御を行う停止制御装置とを更に備えている、請求項1または2記載の真空アーク蒸着装置。
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