JP2004050966A - 脚型走行方式とその装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】股関節の軸を回転駆動するだけで走行中の全ての脚を互いに平行に保ちながら前後と上下に操り、不整地面のみならず、斜面や階段の昇降をも可能にする。
【解決手段】回転駆動する軸を股関節とし、股関節から半径方向に複数の腕を伸ばし、腕先に膝関節を股関節と平行に置き、また、膝関節の軸周りに着地脚を軸支して自由に回転可能にし、歯車、もしくはスプロケットを股関節軸上に置いて走行装置本体に固定し、この歯車、もしくはスプロケットと、膝関節に軸支されて着地脚の一端に固定される歯車、もしくはスプロケットとを歯数比1対1の動力伝達手段で結合し、少なくとも3つ以上の股関節を備え、股関節の軸を回転駆動するだけで走行中の全ての脚を互いに平行に保ちながら前後と上下に操り、不整地面のみならず、斜面や階段の昇降をも可能にし、また、左右股関節の回転速度比を違えることにより、走行と操舵を連続的に実現可能にした。
【選択図】 図21
【解決手段】回転駆動する軸を股関節とし、股関節から半径方向に複数の腕を伸ばし、腕先に膝関節を股関節と平行に置き、また、膝関節の軸周りに着地脚を軸支して自由に回転可能にし、歯車、もしくはスプロケットを股関節軸上に置いて走行装置本体に固定し、この歯車、もしくはスプロケットと、膝関節に軸支されて着地脚の一端に固定される歯車、もしくはスプロケットとを歯数比1対1の動力伝達手段で結合し、少なくとも3つ以上の股関節を備え、股関節の軸を回転駆動するだけで走行中の全ての脚を互いに平行に保ちながら前後と上下に操り、不整地面のみならず、斜面や階段の昇降をも可能にし、また、左右股関節の回転速度比を違えることにより、走行と操舵を連続的に実現可能にした。
【選択図】 図21
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、車輪で困難な不整地用移動手段として、人や物資を運ぶことに有用である。また、凸凹の多い砂利道や山道、河川敷、浅瀬、沼地、滑り易い雪道、さらさらした砂地、等の特殊な環境での移動手段としても応用できる。
【0002】
斜面を含む不整地面の任意点に安定に静止させる機能は、森林の伐採、土堤斜面の草刈り、山斜面での農薬散布や害虫駆除、果実の収穫、果樹の枝切り、等の農林分野、自然環境を活かして造成された建物の周辺清掃や補修、海浜公園造成、架線ケーブルの山岳部保守、等の土木建築分野、また、海岸の清掃、野山や海辺での試料採集や各種の計測等の環境保全分野、においてそれぞれ必要な物資の運搬、あるいは作業のための移動や足場設定に利用できる。これらは、農林、土木建築、環境保全に関する産業の発展に貢献する。
【0003】
また、本発明は次の分野にも利用できる。例えば、地震や台風、火災、等の天災や人災が発生する現場では、人命救助や災害の拡大防止を最優先して対処しなければなならい。しかし、そのための走行車は一般に、散在する瓦礫などの障害物に阻止され目的地に踏み入れないことが多い。本発明はこのような場合に、各種の障害物を乗り越えて目的地に踏み入ることを容易にする。人間にとって危険な災害現場には本発明による走行車は無線操縦によって近づき、救出活動を機敏に行える。このように、本発明は防災救援ロボットの移動技術としても有効である。
【0004】
さらに、本発明は、車椅子でしか移動出来ない人に対し、車椅子に載せたまま階段を昇降させる装置の商品化、事業化を可能にする。このような展開は、高齢化社会に向けた福祉機器産業の発展に寄与するところが大である。
【0005】
【従来の技術】
段差乗り越えに適する走行方式として脚型がある。また、これを実現する様々な機構や装置がこれまでに開発されてきた。例えば、4足歩行機械(日本ロボット学会誌3巻4号、1985年)、メルクラブ{機械研ニュース、1984年(多足歩行機械、公開特許公報60−47773)}、歩行ロボット(特公平6ー13304)等である。これらは、脚歩行パターン生成能力の有無によって2つに分かれる。リンク機構の一部を回転させて動物の歩行パターンに似た動きを意図的に作り出す方式はパターンを固定する。制御の簡単化には所望のパターンを事前に設計し、これをリンク仕掛けで単純に動かすのがよい。
【0006】
一方、互いに独立する関節を能動的に制御して任意の動きを作り出すも方式はパターンを変更できる。ロボットの腕のような関節型構造は各種パターンの生成に適し、脚を多様に動かせる。ただし、この構造の場合、脚運動の戦略的生成という新たな問題も生じ、制御信号の生成は厄介になる。
【0007】
従来の脚型走行方式は、脚の着地軌跡を直線状に設計することを重視し、そのために使われる脚の運動機構は図1のいずれかに分類される。ただし、a)は、最も簡単な構造で、腕自身を脚としその回転力を推進力として直接利用する。回転軸の周りに腕を4方8方に伸ばす構造もある。b)は、腕内に置く偏心円板を回転させ、腕先の前後への往復と、蹴上げの両運動を連続的に実現する。ただし、戻し時の脚先を、着地時より高める必要性から、歩行パターンは往復で異なる閉ループになる。図中の実線と点線は着地時と戻し時を区別する。c)〜f)はスライド部を含むリンク構造を成し、c)は往復運動アクチュエータを使ってリンクの結節点を往復させる。また、d)、 e)、 f)は回転運動アクチュエータを用い、リンクを特定軸周りに回転させて所望の脚先歩行パターンを作る。f)は歩行パターンの詳細な設計を可能にする。
【0008】
図1中の脚先は、全て特定な歩行パターンを同一平面内で実現する。これに対し、歩行パターンを固定せず、あるいは3次元空間内で自由に生成する機構もある。図2は、その代表例を示す。a)は平行な回転軸をもつ2関節、b)は必ずしも平行でない回転軸をもつ3関節、c)は根元で回転揺動し、半径方向と上下方向にそれぞれ伸縮する合計3つの関節を備える。図1、2中の脚は、モータの駆動力を得て作動し、回転の方向や速度を変えて走行の方向を切り替え、また、速度を制御する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
脚型走行車を構成する従来方式のほとんどが脚の一端を軸として固定し、他端を回転、もしくは揺動させることを基本としてきた。このため、少々の段差を乗り越えることはできても、着地脚方向が段差面に垂直になる時期は、走行サイクル中の一瞬であり、走行サイクルの全期間において車体を安定に支持できない。また、脚を高く蹴上げる能力に乏しく大きな障害物に直面すると蹴つまずき、階段の昇降を極めて困難にする。車体床面は、車体自身に一体化されており路面の凹凸や起伏の影響を直接受けて傾き、荷崩れや荷移動の防止柵が不可欠である。
【0010】
また、脚が段差を踏み外す場合の対策がほとんどなかったため、車体の急激な揺れが荷崩れを作り出す原因となってきた。この現象は脚数が少ないほど起き易く、従来の4脚装置の走行安定性は6脚装置のそれに比べて極度に劣る。
【0011】
さらに、車体荷重を全ての脚に均一化して分配する機構を持たないため、不整地面における脚の座りを悪くし、不特定な部位に荷重を集中させる。このため、脚や車体を必要以上に堅牢に設計しなければならない。関節型の脚には、所定の歩行パターンを生成するための演算や、事前に記憶しておくテーブル上の演算結果の参照を随時行わねばならない厄介さがある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
高い段差の乗り上げには、脚の根元を固定して直接上下に伸縮させる方式が有効である。しかし、ただ伸縮させるだけでは推進力は得られない。これに対し、本発明は、脚の根元を固定せず振り回して蹴上げ高さを大きくする方式を採用する。その理由は脚の根元を上下に動かせると同時に前後への推進力を作り出せるからである。さらに、本発明は、車体の荷重を確実に支持するため脚を常に路面に垂直に向ける。これら2点の相乗効果を最大限に活かすことが従来の技術に全く見られない本発明の特色で、その効果によって従来の問題点を解決する。
【0013】
また、傾斜角センサを搭載して車体が水平に対して傾く角を自動的に検出し、車体床面を検出角度と同じだけ逆方向に傾けるための角度に関するサーボ機構を導入する。これにより、車体床面を常時水平に保持する動作の即応性を高める。
【0014】
人は階段を昇降するさい常に進行方向に顔を向ける。しかし、車椅子に載る人は常に高所恐怖を感じないよう階段の山側に常に背を向けるのが一般的である。これを満足させるには昇降方向に関係なく車椅子を後ろ向きに載せる走行装置の前側(車椅子の前側に同じ)を谷側に向けねばならない。このことを利用して脚の踏み外し検出機構を脚の後部側にのみ配設し、脚の耐荷重を下げることなく脚の落下量を低減する。
【0015】
膝関節は一定長の腕を介して常に股関節から等距離を保って繰り返し回る。この運動は、股関節を太陽、膝関節を惑星と見なすと天体の運動に例えて説明できる。ただし、惑星は一般に、1回の公転当り複数回自転する。地球においては365回自転する。しかし、本発明の脚運動は1回の公転当り1回の自転を正確に守る。脚を常に路面方向に向けさせるためである。この運動を実現するため、股関節軸上にあって車体自身に固定される歯車、もしくはスプロケットと、膝関節に軸支されて脚の一端に固定される歯車、もしくはスプロケットを歯数比1にしてベルトあるいは歯車で結合する。そのさい、能動的なアクチュエータや制御装置を全く必要としない。したがって、走行制御は極めて簡単になる。このことは、股関節、膝関節、脚の3者を一体化できることを意味し、走行装置全体のモジュール化を可能にする。
【0016】
本発明は、走行車全体の機構を簡単にする目的で前部と後部の左右にそれぞれ1つの股関節を装備する4脚走行を基本とする。また、1つの股関節J1は、図3のように複数の腕Rを伸ばし、腕と同数の脚を備える(図中の数は8)。以下の説明では基本的に2つの腕を逆方向に伸ばす例を取り上げる。
【0017】
一般に、股関節につながる脚の全てが着地するとは限らず、このためのサスペンションに相当する機構が必要になる。しかし、本発明は、車体前後間に限られた範囲で捻れ(角度γ)を許す機構Wを備える。図4はこの機構の1例である。これによりいかなる起伏の路面に対しても4つの股関節につながる脚は着地し、全ての股関節に車体荷重を分配して走行車の座りを安定にする。このときバネなどの弾性要素は全く不要である。
【0018】
さらに、本発明は、各種の球場、劇場、ホール、教会、塔に見られる曲がり階段や螺旋階段など、変則的な路面、あるいは踊り場において走行車の進路変更を可能にするため、左右にある股関節軸の回転速度に差をつける。この時起きる脚の一部の路面上の滑りは雪道や砂地において全く問題ない。脚先の強引な滑りを許さない場合には脚先のローラで滑りを転がりに替える。この時生じる走行車の左右への傾きは左右脚幅を大きくすることで解消する。上記ローラは走行車の操舵を容易にする効果もある。
【0019】
要するに、本発明は、次の手段をとる。(1)屋内の床面に限らず屋外の不整地面の走行に適する。とくに、段差の乗り越え、階段の昇降を容易にする。(2)階段昇降中の脚の踏み外しを機械的に検出し、落下量を少なくして脚の安定した着地を瞬時に確保する。(3)車体床面を車体自身の傾きに影響されずに常時水平に制御する。(4)膝関節を介して股関節と脚を連動させ、股関節の軸を回転させるだけで複数脚の制御を簡単にする。(5)脚の機構と制御を簡単化し脚運動装置のモジュール化を容易にする。(6)左右股関節の回転速度比を変えることで操舵を可能にする。(7)車体前後の捻れを可能にして脚への荷重を均一化し、走行車の立地安定性を高める。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、滑り易い路面、例えば、雪面上の移動に安定した走行手段を提供する。また、車輪型の走行装置では極めて困難な不連続な路面、例えば段差の跨ぎ越えや階段の昇降を容易にする走行方式と装置を提供する。
【0021】
とくに、車椅子の後部は介助者の歩行を妨げないよう空けて設計されるのが一般的で、この部分を利用して本発明の車体床面への車椅子の結合を容易にする。ただし、心理的な不安を与えないためには搭乗者を昇降方向に関係なく常に谷側に向けることがよいとされ、走行車も前部を谷側に、後部を山側に向ける結合方法や装置の実現が重要である。本発明は、この考えに基づき車椅子全体を車体床面に載せるだけで前後方向への揺れを無くして転倒の不安感や恐怖感を与えずに人を運ぶ。同じ階段をそのまま後戻りする場合には股関節軸の回転方向を逆にする。ただし、上昇後に別の階段を下降する場合には、走行車の前後の向きを変えることは明白である。
【0022】
走行中の脚方向が平地走行において常時路面に垂直になるように股関節部の歯車、もしくはスプロケットの角度を調節して走行車本体に固定すると、車体は斜面や階段の昇降時に傾く。同時に車体床面は水平でなくなり、脚は階段の踏み面に垂直でなくなる。そして、着地面積は小さくなり車体の滑りや転倒が起き易くなる。これを避けるため、車体の前後方向を傾斜センサで入力し、その出力を入力とし、床面の傾き、及び脚の傾きを制御対象とするサーボ機構を用いて床面や脚の方向を制御する。これにより、走行車が斜面や階段の影響を受けて傾いても常時床面を水平に、そして脚を重力方向に保持できる。また、荷ずれ防止用の柵や滑り止めを設けずに容器に入った液体を密閉することなくこぼさずに運べる。
【0023】
前後着地脚水平距離の変化や脚の踏み面外しが起きる事態になっても脚先ローラや脚側鉤や鉤棒の作用によって走行車を安定に自立させることが可能である。ローラは、左右股関節の回転速度比を変えて操舵する場合の前後着地脚水平距離の変化を起き易くするため、とくにゴム状の滑りにくい路面における操舵に大きな効果を発揮する。
【0024】
【実施例】
図5は、人を載せる車椅子を運搬物の例として、左右前後に股関節J1をそれぞれ1個装備し、また、2つの腕Rを逆方向に伸ばす本発明の基本的実施例による平地走行状況の側面を示す。車体床面Fは車体本体Vとともに上下するが常時水平で、脚Lは常時垂直である。
【0025】
図6は、図5中の走行車実施例が階段を昇降する場合の側面を示す。車体が傾くにも関わらず、車体内に固定した傾斜角センサQの出力を使って車体床面Fが図5の場合と同様、常時水平に制御されるのが明らかである。ただし、図はこの制御に必要な伸縮アクチュエータUの伸縮量を矢印で示す。図から、脚長を階段の蹴上げ高さ以上に設計することで床面が段差を走行の障害にしないのが分かる。もし、着地脚と車体床面の傾きを図5のように床面走行に適合させる調整をして固定すると、図6の様な階段昇降は極めて倒れ易くなる。参考までに、走行の様子を示すと図7となる。同図から着地脚と車体床面の向きを車体本体の傾きに応じて制御する本発明の重大さが明白である。
【0026】
脚先が踏み面端部に僅かしか接触しない場合、突然落下することが起きる。具体的に踏み面に着地する脚状況は図8となる。踏み外す原因となるのが(a)の滑りである。この踏み外しによる落下量を自動的に最低限に留めるには脚の階段に面する側に踏み面の角に引っかける鉤を固定しておけばよい。このための脚の実施例を図9に示す。図中、曲矢印は踏み面への脚の上げ下ろし方向、直矢印は車体の移動方向を示す。(c)は踏み外し発生時点、(a)は2段目の鉤で落下を止める状況、(d)は問題ない着地、(b)は形の異なる鉤、をそれぞれ示す。脚外周に施す鉤の範囲は脚断面形状に応じて様々に設計できる。
【0027】
他の方法として、図10のように脚Lの階段(山)側面に鉤棒5を自重力で垂らすことでもよい。ただし、図中の(b)と(a)は落下発生前後の鉤棒状態をそれぞれ示す。ローラ6は鉤棒の開きを容易にする。開き角は脚に固定したストッパによって90度以下に制限される。長い鉤棒は大幅な踏み外し時に対処できる。落下時の衝撃力低減にはストッパに弾性を持たせる。また、落下後のローラが脚着地の静止を妨げる場合には鉤棒の形を下に凸な弓にする。
【0028】
図11は、鉤棒5を取り付ける脚構造の実施例を示す。ただし、図中の上下は脚の側面と横断面を示す。(a)〜(d)は、両側で連動するローラ付き鉤棒、両側で独立、或いは連動するローラ無し鉤棒、中央溝内で作動する1本の鉤棒、踏み外し検出範囲を拡大する放射状鉤棒、をそれぞれ示す。開いた鉤棒は脚上げ過程中に自重で閉じる。強く閉じさせる場合にはバネを利用する。いずれの構造も脚の滑りを検出し落下衝撃力を低減するセンサやアクチュエータを不要にする。このような構造は公知の技術で他にも種々考えられる。
【0029】
図12は、走行中の着地脚が次の着地に移るまでの間に各部位が変遷する様子を横から見て重ね描きした結果である。図中、(a)、(b)、(c)は、走行車重心C、車椅子車軸、搭乗者頭部の軌跡をそれぞれ示す。皆同じパターンであるのが明らかである。しかし、階段踏み面の長さや高さが不規則な場合、これらのパターンは途中で乱れる。その原因は、踏み外しと脚着地点の移動にある。例えば、側面からみる昇降動作を示す図13において、前後の股関節を共にδ回転させる場合、回転前の前後股関節間距離J1−J1は回転後の股関節間距離J1’−J1’に同じとは限らない。
【0030】
一方、股関節間距離は回転軸間距離として物理的に一定である。このため、前後の着地脚はお互いに離れ、あるいは近づくことを強いられ、それまでのパターンは乱れる。図は互いに近づける矢印の力が作用する例を示す。もし、路面がゴムのように滑りにくい場合、無理な力が脚や膝の機構に作用する。この力を吸収するには、前後脚先のいずれか一方に前後方向に転がるローラ6(図14参照)を装着する。図15は、後脚にこのローラを付け、また、全ての脚に落下防止用鉤棒を付けた実施例を示す。このローラは、走行車を操舵する場合に生じる前後着地脚間の反発力や接近力を吸収する役目も果たす。
【0031】
鉤棒は上記脚間隔の調節が必要になることが原因で踏み外しを間接的に引き起こす場合にも安全性を確保する役目を果たす。この効果によって、図6や図12中の昇降において脚が踏み外す事態に陥っても走行車の転倒を未然に防ぎ、安全性を十分確保しながら昇降し続けられる。なお、斜面においては鉤棒が、また、雪面や砂面においては鉤棒はもちろん、脚先ローラも不要である。この場合も同様に安定した着地を確保しながら走行できる。いずれの場合においても、車体に取り付けた傾斜角センサの出力値に閾値を設け、傾斜角センサがこの閾値を超す場合に転倒を未然に防止するための非常ベルを鳴らし、また、走行動作を停止させる対策は公知の技術を用いて容易に実現する。非常時の具体的な対応として走行車の後退や操舵など、必要に応じた操縦が可能である。
【0032】
図16は、脚駆動力伝達方式に関する第1実施例である。図中、(a)と(b)は正面と側面を示す。ただし、車体本体Vを股関節J1周辺の一部に限って示し、Vに固定される回転アクチュエータMの動力を歯車、ベルト、チェイン、等の手段Bを使って股関節軸に伝達する。この結果、逆方向に伸びる2つの腕Rが膝関節J2を回転させる。
【0033】
一方、膝関節は脚Lと歯車、もしくはスプロケットG2を固定する軸Aを自由に支持する。さらに、G2は、股関節軸と同心状にあってVに固定される歯数の等しい歯車、もしくはスプロケットG1にタイミングベルト、もしくはチェインBを使って平掛け結合される。したがって、アクチュエータを回転させるだけで2つの脚は、蹴上げと前後進を実現する。なお、この実施例では、脚長を腕Rの2倍以下に制限しないと脚同士の衝突が避けられない。
【0034】
高い踏み面の階段に対し、脚長を腕Rの2倍以上にしなければならない場合もある。この要求に対し、図17の第2実施例が有効である。すなわち、股関節軸J1の中央部に回転力を伝え、同軸の両端に腕を分散させて脚同士の衝突を避ける。これによって2つの脚を同一運動面に重ねることなく、任意長に設計できる。脚動作は図16の場合と全く同様である。
【0035】
図18は、1つの股関節から伸びる腕数を3にする場合の脚駆動力伝達方式に関する第3実施例を示す。前記第1、2の実施例と異なり、股関節側に固定する歯車を1つに減らし、タイミングベルト、あるいはチェインを平歯車群に替え、これらを腕線上に配置する。この方式は腕数2の場合にも適用でき、そうした実施例も容易に考えられる。この実施例では股関節側の歯車を腕数に応じて増やす必要が無い。ただし、股関節と膝関節の間に置く平歯車の個数を1、3、5、・・・の奇数にし、腕と脚の回転数を互いに逆方向で同数にする必要がある。そのさい、歯車を同サイズにする必要はなく、また、長脚の場合、股関節上にある歯車G1に歯車を噛み合わせさえすれば、それ以降の動力伝達手段をベルトやチェイン、カサ歯車とシャフト、等に替え、途中に置く歯車を省ける。図18の実施例において同一平面内を運動する脚同士の衝突を避ける脚長の最大値は、腕Rの長さを半径とする円に内接する正三角形の一辺長になる。これは一般に、脚数をnとして内接する正n角形の一辺長に等しい。
【0036】
図19は、走行車の前後方向が水平方向から傾く角度θを傾斜角センサQで検出し、その出力信号をサーボ回路(図中省略)に入力し、その出力を用いて車体に固定する歯車、あるいはスプロケットG1の取り付け角を制御し、脚の着地を常時重力方向に向けるための実施例を示す。ただし、同図は、車椅子を運搬物として描写する。事実、図中のモータMはウォーム減速機構等を介して歯車G1の車体に対する取り付け偏倚角φを制御する。
【0037】
その結果、脚の着地方向をφだけ傾ける。この時、サーボ回路は、角φを負帰還し、θ+φ=0を満たすようにモータを駆動する。これにより車体基部は、斜面や階段等の走行面の影響を受けて傾くが、着地脚の姿勢を常時重力方向に制御する。サーボ回路は、センサ情報をもとに脚姿勢を自動的に制御し、人手による制御を不要にする。モータの出力をフレキシブルシャフト等を使って分配する場合、1台のサーボモータで走行車の前後、あるいは左右いずれか一方の股関節、あるいは前後左右の全ての股関節にある歯車G1の偏倚角を制御することも可能である。
【0038】
図20は物を搭載する車体床面Fを走行路面の傾きに関係なく常時水平な(一般には任意角の)床面Fa、 Fb、 Fcのいずれかに制御する3つの実施例a)、 b)、 c)をまとめて示す。ただし、床面を上部に描いて姿勢の理解を容易にする。車体本体Vは、下の基部V1と上の立位部V2に分割され、立位部は、基部で軸支される。V2a、 V2b、 V2cは3つの実施例の立位部をそれぞれ示す。具体的に伸縮アクチュエータUは車体基部上の特定軸周りに車体床面Fを回転させて水平にする。a)は、立位部と基部の軸支を固定し立位部上の1軸Aを駆動して車体床面Faを立位部V2に対して傾けるのに対し、b)とc)は、立位部と基部の固定を解除し、立位部下の軸Aを含める2軸を駆動して立位部V2を車体基部V1に対して傾け、さらに車体床面FbとFcを立位部V2に対して傾ける。
【0039】
事実、a)において、傾斜角センサQの出力信号θ(−90度<θ<90度)を利用し、脚姿勢制御と同様なサーボ回路を用いて床面の回転角を一意に定める。b)とc)の場合、立位部V2を山側に倒すほど、走行車床面Fも山側に移動し、車体全体の重心位置Cは脚着地点で囲まれる領域内に引き寄せられる。その結果、走行車は転倒を回避できる。
【0040】
そこで、床面の回転角をα(−90度<α<90度)、立位部V2を山側に回転/傾ける角をβ(β<90度)とし、a)の場合、α=−θ、β=0、b)の場合、α=0、β=θ、c)の場合、α=β−θ、β=kθと定める。ただし、c)の場合、αはβに従属なため、kを1<k<90度/θの範囲で指定する。なお、走行車の転倒回避を重視する場合、全体の重心位置を階段の山側に移すc)の実施例が優れる。図21は、b)を採用する場合の図6の昇降動作を示す。この場合、図6と異なり、立位部V2が常時鉛直になることを示す。ただし、Uの出力を矢印で示す。
【0041】
図21において、脚方向と車体床面は路面の傾斜角に影響されずに一定の交角をなすのが一般的である。このことから、脚方向を制御する駆動力の一部を車体床面の傾き制御に使うことも可能である。すなわち、脚方向と主体床面の運動メカニズムを一体化し、2方向を1つのサーボモータで制御する。このような実施例は、モータ数を減らすので装置の低コスト化に有効である。
【0042】
図22は汎用運搬走行車への本発明の実施例を示す。図中、(a)は側面、(b)は上面を説明する。左右の股関節は、走行中あるいは、停止中に個別に駆動されて進路を変える。伸縮アクチュエータUは、傾斜角θに応じて車体床面を傾ける。なお、センサは、股関節駆動用モータや車体の捻れ許容機構Wと同様、車体下部にあり、平面図では隠れて見えない。
【0043】
図23は、車椅子の走行車への乗降を容易にする車輪誘導板を説明する。すなわち、車椅子用の左右車輪誘導板を車体床面上に固定する。同時にその内側に1周り小さな車輪誘導板を格納し、乗降のさいに一端を引き出して路面と車体床面間に橋渡す。橋渡し用車輪誘導板の出し入れは公知の技術を使って自動化できる。乗り上げは同図のように後ろ向きで行い、終了後、万一に備えて誘導板上に車止めを置く。
【0044】
長脚の場合、車体基部V1は路面から高くなる。このため、股関節から伸びる腕が路面と平行になる状態(最低姿勢)で橋を渡し、車椅子の乗降を容易にするのがよい。車輪誘導板を数段つなげて橋渡しの勾配を下げるのもよい。脚着地面を下げて車輪床面を路面と同レベルにする走行車待機場や乗降専用の傾斜板を特別に用意する場合、車輪誘導板の装備は不要である。
【0045】
図24は車椅子搭載用走行車の実施例を示す。(a)と(b)は図22と同様、側面と上面を示す。車体床面は、下部にあるほど走行車全体の重心を下げるため、床面の傾きを制御する伸縮アクチュエータも車体基部下に取り付けることになる。走行中の搭乗者を安定させる肘掛けは、車体床面Fと平行に連動させる。(b)の上面図中、車椅子をどこまで載せ上げるかは重量物のモータをどこに置くかに依存する。とくに、車体床面を1軸のみの回転で制御するには出来る限り奥に入れ、走行車全体の重心を後部(階段昇降時の山)側に置くのがよい。
【0046】
以上、図を用いていくつかの実施例を説明した。言及してない脚形状は、鉤棒の取り付けと一体にして自由に設計できる。使用するモータ、バッテリ、ベルト、歯車、スプロケット、軸支手段、傾斜角センサとその信号を利用するサーボ回路、他は、一般に調達出来る製品を活用できる。
【0047】
要するに、本発明は滑り易いために車輪型では推進力を得難い雪面や砂面の上でも脚を確実に着地させ、荷崩れ無しに物資を安定に移動させる走行車の実現に有効な技術を提供する。また、脚でないと走行困難であった人工物の階段昇降を簡単な機構と制御で可能にする技術を提供する。とくに、走行途中において介助者の手を一切借りずにモータを単純に回転させるだけのスイッチ操作で人を載せたまま階段に沿って昇降させることに有効である。階段の踏み面長さや高さが不規則であっても、また、途中に平坦な踊り場があっても操舵機能によって回りながら昇降し続けることを可能にする。
【0048】
【発明の効果】
本発明は、車輪では実現困難な滑り易い雪面や砂面、或いは凹凸の多い不整地面上の移動、及び段差の乗り越えや階段の昇降を可能にする脚型の走行方式と装置を提供する。これにより、屋外の不整地に限らず雪道や砂道用走行車として、また、屋内では階段昇降車として応用を可能とする。
【0049】
とくに、本発明は、脚を常時鉛直に向け、しかも蹴上げ高さを大きく出来るので、屋内外を問わず、段差を乗り越えることはもちろん、物資を階段に沿って運ぶことを可能とする。さらに、前後方向への揺れを無くして転倒に対する心配や恐怖感をなくし、車椅子全体を車体床面に載せるだけで人を車椅子に載せたまま運べる。連続した回転動作による安定した脚運動は、車椅子を階段に沿って昇降させるための走行方式、装置として有効で、これまで困難であった階段昇降支援装置の開発に新たな技術を提供し、福祉関連機器産業の発展に大きく貢献する。また、車体床面を常時水平に保持して昇降することは、車体の走行中の傾きに影響されず、容器に入った液体を密閉せずこぼさず運ぶことを可能とする。
【0050】
脚型走行方式に特有な脚の踏み外しという不測な事態においても脚落下を即刻検知し、最小限に抑える対策が施されているので本発明は、安全性の高い装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】リンク機構による脚と歩行パターンの代表例
【図2】関節機構による脚と歩行パターンの代表例
【図3】股関節から伸びる腕の数
【図4】車体前後の捻れを許す機構の説明
【図5】本発明実施例による平地走行側面図
【図6】本発明実施例による階段昇降の側面図
【図7】着地脚と車体床面の傾きを制御しない階段昇降の側面図
【図8】脚滑りの説明
【図9】落下防止用脚の実施例
【図10】脚落下防止用鉤棒の作用
【図11】種々の脚落下防止実施例
【図12】本発明実施例による各点移動の側面軌跡
【図13】前後脚間水平距離の変化
【図14】脚先へのローラの取り付け状況
【図15】落下防止と前後脚間距離調節を容易にする本発明実施例
【図16】脚駆動力伝達方式に関する第1実施例
【図17】脚駆動力伝達方式に関する第2実施例
【図18】脚数3の場合の脚駆動力伝達方式に関する第3実施例
【図19】脚姿勢制御の実施例
【図20】車体床面を水平に制御する実施例
【図21】別実施例による図6の側面図
【図22】汎用運搬走行車への応用実施例の側面図(a)と上面図(b)
【図23】走行車への車椅子の乗降手段
【図24】椅子搭載用走行車への応用実施例の側面図(a)と上面図(b)
【符号の説明】
1 脚型走行車
2 車椅子
3 路面(床面)
4 階段
5 落下防止用鉤棒
6 ローラ
A 軸
B タイミングベルト、もしくはチェイン
C 走行車重心位置
F 車体床面
G1、G2 股関節側と膝関節側の歯車、もしくはスプロケット
J1 股関節
J2 膝関節
L 脚
M 回転アクチュエータ
Q 傾斜角センサ
R 腕
U 伸縮アクチュエータ
V 車体、V1は車体基部、V2は車体床面
W 捻れ許容機構
α 車体床面の回転角(反時計方向を正)
β 車体立位部の回転角(時計方向を正)
γ 車体の捻れ角
δ 股関節回転角
θ 車体基部の水平面からの傾斜角
φ G1を車体に固定する偏倚角
【発明が属する技術分野】
本発明は、車輪で困難な不整地用移動手段として、人や物資を運ぶことに有用である。また、凸凹の多い砂利道や山道、河川敷、浅瀬、沼地、滑り易い雪道、さらさらした砂地、等の特殊な環境での移動手段としても応用できる。
【0002】
斜面を含む不整地面の任意点に安定に静止させる機能は、森林の伐採、土堤斜面の草刈り、山斜面での農薬散布や害虫駆除、果実の収穫、果樹の枝切り、等の農林分野、自然環境を活かして造成された建物の周辺清掃や補修、海浜公園造成、架線ケーブルの山岳部保守、等の土木建築分野、また、海岸の清掃、野山や海辺での試料採集や各種の計測等の環境保全分野、においてそれぞれ必要な物資の運搬、あるいは作業のための移動や足場設定に利用できる。これらは、農林、土木建築、環境保全に関する産業の発展に貢献する。
【0003】
また、本発明は次の分野にも利用できる。例えば、地震や台風、火災、等の天災や人災が発生する現場では、人命救助や災害の拡大防止を最優先して対処しなければなならい。しかし、そのための走行車は一般に、散在する瓦礫などの障害物に阻止され目的地に踏み入れないことが多い。本発明はこのような場合に、各種の障害物を乗り越えて目的地に踏み入ることを容易にする。人間にとって危険な災害現場には本発明による走行車は無線操縦によって近づき、救出活動を機敏に行える。このように、本発明は防災救援ロボットの移動技術としても有効である。
【0004】
さらに、本発明は、車椅子でしか移動出来ない人に対し、車椅子に載せたまま階段を昇降させる装置の商品化、事業化を可能にする。このような展開は、高齢化社会に向けた福祉機器産業の発展に寄与するところが大である。
【0005】
【従来の技術】
段差乗り越えに適する走行方式として脚型がある。また、これを実現する様々な機構や装置がこれまでに開発されてきた。例えば、4足歩行機械(日本ロボット学会誌3巻4号、1985年)、メルクラブ{機械研ニュース、1984年(多足歩行機械、公開特許公報60−47773)}、歩行ロボット(特公平6ー13304)等である。これらは、脚歩行パターン生成能力の有無によって2つに分かれる。リンク機構の一部を回転させて動物の歩行パターンに似た動きを意図的に作り出す方式はパターンを固定する。制御の簡単化には所望のパターンを事前に設計し、これをリンク仕掛けで単純に動かすのがよい。
【0006】
一方、互いに独立する関節を能動的に制御して任意の動きを作り出すも方式はパターンを変更できる。ロボットの腕のような関節型構造は各種パターンの生成に適し、脚を多様に動かせる。ただし、この構造の場合、脚運動の戦略的生成という新たな問題も生じ、制御信号の生成は厄介になる。
【0007】
従来の脚型走行方式は、脚の着地軌跡を直線状に設計することを重視し、そのために使われる脚の運動機構は図1のいずれかに分類される。ただし、a)は、最も簡単な構造で、腕自身を脚としその回転力を推進力として直接利用する。回転軸の周りに腕を4方8方に伸ばす構造もある。b)は、腕内に置く偏心円板を回転させ、腕先の前後への往復と、蹴上げの両運動を連続的に実現する。ただし、戻し時の脚先を、着地時より高める必要性から、歩行パターンは往復で異なる閉ループになる。図中の実線と点線は着地時と戻し時を区別する。c)〜f)はスライド部を含むリンク構造を成し、c)は往復運動アクチュエータを使ってリンクの結節点を往復させる。また、d)、 e)、 f)は回転運動アクチュエータを用い、リンクを特定軸周りに回転させて所望の脚先歩行パターンを作る。f)は歩行パターンの詳細な設計を可能にする。
【0008】
図1中の脚先は、全て特定な歩行パターンを同一平面内で実現する。これに対し、歩行パターンを固定せず、あるいは3次元空間内で自由に生成する機構もある。図2は、その代表例を示す。a)は平行な回転軸をもつ2関節、b)は必ずしも平行でない回転軸をもつ3関節、c)は根元で回転揺動し、半径方向と上下方向にそれぞれ伸縮する合計3つの関節を備える。図1、2中の脚は、モータの駆動力を得て作動し、回転の方向や速度を変えて走行の方向を切り替え、また、速度を制御する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
脚型走行車を構成する従来方式のほとんどが脚の一端を軸として固定し、他端を回転、もしくは揺動させることを基本としてきた。このため、少々の段差を乗り越えることはできても、着地脚方向が段差面に垂直になる時期は、走行サイクル中の一瞬であり、走行サイクルの全期間において車体を安定に支持できない。また、脚を高く蹴上げる能力に乏しく大きな障害物に直面すると蹴つまずき、階段の昇降を極めて困難にする。車体床面は、車体自身に一体化されており路面の凹凸や起伏の影響を直接受けて傾き、荷崩れや荷移動の防止柵が不可欠である。
【0010】
また、脚が段差を踏み外す場合の対策がほとんどなかったため、車体の急激な揺れが荷崩れを作り出す原因となってきた。この現象は脚数が少ないほど起き易く、従来の4脚装置の走行安定性は6脚装置のそれに比べて極度に劣る。
【0011】
さらに、車体荷重を全ての脚に均一化して分配する機構を持たないため、不整地面における脚の座りを悪くし、不特定な部位に荷重を集中させる。このため、脚や車体を必要以上に堅牢に設計しなければならない。関節型の脚には、所定の歩行パターンを生成するための演算や、事前に記憶しておくテーブル上の演算結果の参照を随時行わねばならない厄介さがある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
高い段差の乗り上げには、脚の根元を固定して直接上下に伸縮させる方式が有効である。しかし、ただ伸縮させるだけでは推進力は得られない。これに対し、本発明は、脚の根元を固定せず振り回して蹴上げ高さを大きくする方式を採用する。その理由は脚の根元を上下に動かせると同時に前後への推進力を作り出せるからである。さらに、本発明は、車体の荷重を確実に支持するため脚を常に路面に垂直に向ける。これら2点の相乗効果を最大限に活かすことが従来の技術に全く見られない本発明の特色で、その効果によって従来の問題点を解決する。
【0013】
また、傾斜角センサを搭載して車体が水平に対して傾く角を自動的に検出し、車体床面を検出角度と同じだけ逆方向に傾けるための角度に関するサーボ機構を導入する。これにより、車体床面を常時水平に保持する動作の即応性を高める。
【0014】
人は階段を昇降するさい常に進行方向に顔を向ける。しかし、車椅子に載る人は常に高所恐怖を感じないよう階段の山側に常に背を向けるのが一般的である。これを満足させるには昇降方向に関係なく車椅子を後ろ向きに載せる走行装置の前側(車椅子の前側に同じ)を谷側に向けねばならない。このことを利用して脚の踏み外し検出機構を脚の後部側にのみ配設し、脚の耐荷重を下げることなく脚の落下量を低減する。
【0015】
膝関節は一定長の腕を介して常に股関節から等距離を保って繰り返し回る。この運動は、股関節を太陽、膝関節を惑星と見なすと天体の運動に例えて説明できる。ただし、惑星は一般に、1回の公転当り複数回自転する。地球においては365回自転する。しかし、本発明の脚運動は1回の公転当り1回の自転を正確に守る。脚を常に路面方向に向けさせるためである。この運動を実現するため、股関節軸上にあって車体自身に固定される歯車、もしくはスプロケットと、膝関節に軸支されて脚の一端に固定される歯車、もしくはスプロケットを歯数比1にしてベルトあるいは歯車で結合する。そのさい、能動的なアクチュエータや制御装置を全く必要としない。したがって、走行制御は極めて簡単になる。このことは、股関節、膝関節、脚の3者を一体化できることを意味し、走行装置全体のモジュール化を可能にする。
【0016】
本発明は、走行車全体の機構を簡単にする目的で前部と後部の左右にそれぞれ1つの股関節を装備する4脚走行を基本とする。また、1つの股関節J1は、図3のように複数の腕Rを伸ばし、腕と同数の脚を備える(図中の数は8)。以下の説明では基本的に2つの腕を逆方向に伸ばす例を取り上げる。
【0017】
一般に、股関節につながる脚の全てが着地するとは限らず、このためのサスペンションに相当する機構が必要になる。しかし、本発明は、車体前後間に限られた範囲で捻れ(角度γ)を許す機構Wを備える。図4はこの機構の1例である。これによりいかなる起伏の路面に対しても4つの股関節につながる脚は着地し、全ての股関節に車体荷重を分配して走行車の座りを安定にする。このときバネなどの弾性要素は全く不要である。
【0018】
さらに、本発明は、各種の球場、劇場、ホール、教会、塔に見られる曲がり階段や螺旋階段など、変則的な路面、あるいは踊り場において走行車の進路変更を可能にするため、左右にある股関節軸の回転速度に差をつける。この時起きる脚の一部の路面上の滑りは雪道や砂地において全く問題ない。脚先の強引な滑りを許さない場合には脚先のローラで滑りを転がりに替える。この時生じる走行車の左右への傾きは左右脚幅を大きくすることで解消する。上記ローラは走行車の操舵を容易にする効果もある。
【0019】
要するに、本発明は、次の手段をとる。(1)屋内の床面に限らず屋外の不整地面の走行に適する。とくに、段差の乗り越え、階段の昇降を容易にする。(2)階段昇降中の脚の踏み外しを機械的に検出し、落下量を少なくして脚の安定した着地を瞬時に確保する。(3)車体床面を車体自身の傾きに影響されずに常時水平に制御する。(4)膝関節を介して股関節と脚を連動させ、股関節の軸を回転させるだけで複数脚の制御を簡単にする。(5)脚の機構と制御を簡単化し脚運動装置のモジュール化を容易にする。(6)左右股関節の回転速度比を変えることで操舵を可能にする。(7)車体前後の捻れを可能にして脚への荷重を均一化し、走行車の立地安定性を高める。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、滑り易い路面、例えば、雪面上の移動に安定した走行手段を提供する。また、車輪型の走行装置では極めて困難な不連続な路面、例えば段差の跨ぎ越えや階段の昇降を容易にする走行方式と装置を提供する。
【0021】
とくに、車椅子の後部は介助者の歩行を妨げないよう空けて設計されるのが一般的で、この部分を利用して本発明の車体床面への車椅子の結合を容易にする。ただし、心理的な不安を与えないためには搭乗者を昇降方向に関係なく常に谷側に向けることがよいとされ、走行車も前部を谷側に、後部を山側に向ける結合方法や装置の実現が重要である。本発明は、この考えに基づき車椅子全体を車体床面に載せるだけで前後方向への揺れを無くして転倒の不安感や恐怖感を与えずに人を運ぶ。同じ階段をそのまま後戻りする場合には股関節軸の回転方向を逆にする。ただし、上昇後に別の階段を下降する場合には、走行車の前後の向きを変えることは明白である。
【0022】
走行中の脚方向が平地走行において常時路面に垂直になるように股関節部の歯車、もしくはスプロケットの角度を調節して走行車本体に固定すると、車体は斜面や階段の昇降時に傾く。同時に車体床面は水平でなくなり、脚は階段の踏み面に垂直でなくなる。そして、着地面積は小さくなり車体の滑りや転倒が起き易くなる。これを避けるため、車体の前後方向を傾斜センサで入力し、その出力を入力とし、床面の傾き、及び脚の傾きを制御対象とするサーボ機構を用いて床面や脚の方向を制御する。これにより、走行車が斜面や階段の影響を受けて傾いても常時床面を水平に、そして脚を重力方向に保持できる。また、荷ずれ防止用の柵や滑り止めを設けずに容器に入った液体を密閉することなくこぼさずに運べる。
【0023】
前後着地脚水平距離の変化や脚の踏み面外しが起きる事態になっても脚先ローラや脚側鉤や鉤棒の作用によって走行車を安定に自立させることが可能である。ローラは、左右股関節の回転速度比を変えて操舵する場合の前後着地脚水平距離の変化を起き易くするため、とくにゴム状の滑りにくい路面における操舵に大きな効果を発揮する。
【0024】
【実施例】
図5は、人を載せる車椅子を運搬物の例として、左右前後に股関節J1をそれぞれ1個装備し、また、2つの腕Rを逆方向に伸ばす本発明の基本的実施例による平地走行状況の側面を示す。車体床面Fは車体本体Vとともに上下するが常時水平で、脚Lは常時垂直である。
【0025】
図6は、図5中の走行車実施例が階段を昇降する場合の側面を示す。車体が傾くにも関わらず、車体内に固定した傾斜角センサQの出力を使って車体床面Fが図5の場合と同様、常時水平に制御されるのが明らかである。ただし、図はこの制御に必要な伸縮アクチュエータUの伸縮量を矢印で示す。図から、脚長を階段の蹴上げ高さ以上に設計することで床面が段差を走行の障害にしないのが分かる。もし、着地脚と車体床面の傾きを図5のように床面走行に適合させる調整をして固定すると、図6の様な階段昇降は極めて倒れ易くなる。参考までに、走行の様子を示すと図7となる。同図から着地脚と車体床面の向きを車体本体の傾きに応じて制御する本発明の重大さが明白である。
【0026】
脚先が踏み面端部に僅かしか接触しない場合、突然落下することが起きる。具体的に踏み面に着地する脚状況は図8となる。踏み外す原因となるのが(a)の滑りである。この踏み外しによる落下量を自動的に最低限に留めるには脚の階段に面する側に踏み面の角に引っかける鉤を固定しておけばよい。このための脚の実施例を図9に示す。図中、曲矢印は踏み面への脚の上げ下ろし方向、直矢印は車体の移動方向を示す。(c)は踏み外し発生時点、(a)は2段目の鉤で落下を止める状況、(d)は問題ない着地、(b)は形の異なる鉤、をそれぞれ示す。脚外周に施す鉤の範囲は脚断面形状に応じて様々に設計できる。
【0027】
他の方法として、図10のように脚Lの階段(山)側面に鉤棒5を自重力で垂らすことでもよい。ただし、図中の(b)と(a)は落下発生前後の鉤棒状態をそれぞれ示す。ローラ6は鉤棒の開きを容易にする。開き角は脚に固定したストッパによって90度以下に制限される。長い鉤棒は大幅な踏み外し時に対処できる。落下時の衝撃力低減にはストッパに弾性を持たせる。また、落下後のローラが脚着地の静止を妨げる場合には鉤棒の形を下に凸な弓にする。
【0028】
図11は、鉤棒5を取り付ける脚構造の実施例を示す。ただし、図中の上下は脚の側面と横断面を示す。(a)〜(d)は、両側で連動するローラ付き鉤棒、両側で独立、或いは連動するローラ無し鉤棒、中央溝内で作動する1本の鉤棒、踏み外し検出範囲を拡大する放射状鉤棒、をそれぞれ示す。開いた鉤棒は脚上げ過程中に自重で閉じる。強く閉じさせる場合にはバネを利用する。いずれの構造も脚の滑りを検出し落下衝撃力を低減するセンサやアクチュエータを不要にする。このような構造は公知の技術で他にも種々考えられる。
【0029】
図12は、走行中の着地脚が次の着地に移るまでの間に各部位が変遷する様子を横から見て重ね描きした結果である。図中、(a)、(b)、(c)は、走行車重心C、車椅子車軸、搭乗者頭部の軌跡をそれぞれ示す。皆同じパターンであるのが明らかである。しかし、階段踏み面の長さや高さが不規則な場合、これらのパターンは途中で乱れる。その原因は、踏み外しと脚着地点の移動にある。例えば、側面からみる昇降動作を示す図13において、前後の股関節を共にδ回転させる場合、回転前の前後股関節間距離J1−J1は回転後の股関節間距離J1’−J1’に同じとは限らない。
【0030】
一方、股関節間距離は回転軸間距離として物理的に一定である。このため、前後の着地脚はお互いに離れ、あるいは近づくことを強いられ、それまでのパターンは乱れる。図は互いに近づける矢印の力が作用する例を示す。もし、路面がゴムのように滑りにくい場合、無理な力が脚や膝の機構に作用する。この力を吸収するには、前後脚先のいずれか一方に前後方向に転がるローラ6(図14参照)を装着する。図15は、後脚にこのローラを付け、また、全ての脚に落下防止用鉤棒を付けた実施例を示す。このローラは、走行車を操舵する場合に生じる前後着地脚間の反発力や接近力を吸収する役目も果たす。
【0031】
鉤棒は上記脚間隔の調節が必要になることが原因で踏み外しを間接的に引き起こす場合にも安全性を確保する役目を果たす。この効果によって、図6や図12中の昇降において脚が踏み外す事態に陥っても走行車の転倒を未然に防ぎ、安全性を十分確保しながら昇降し続けられる。なお、斜面においては鉤棒が、また、雪面や砂面においては鉤棒はもちろん、脚先ローラも不要である。この場合も同様に安定した着地を確保しながら走行できる。いずれの場合においても、車体に取り付けた傾斜角センサの出力値に閾値を設け、傾斜角センサがこの閾値を超す場合に転倒を未然に防止するための非常ベルを鳴らし、また、走行動作を停止させる対策は公知の技術を用いて容易に実現する。非常時の具体的な対応として走行車の後退や操舵など、必要に応じた操縦が可能である。
【0032】
図16は、脚駆動力伝達方式に関する第1実施例である。図中、(a)と(b)は正面と側面を示す。ただし、車体本体Vを股関節J1周辺の一部に限って示し、Vに固定される回転アクチュエータMの動力を歯車、ベルト、チェイン、等の手段Bを使って股関節軸に伝達する。この結果、逆方向に伸びる2つの腕Rが膝関節J2を回転させる。
【0033】
一方、膝関節は脚Lと歯車、もしくはスプロケットG2を固定する軸Aを自由に支持する。さらに、G2は、股関節軸と同心状にあってVに固定される歯数の等しい歯車、もしくはスプロケットG1にタイミングベルト、もしくはチェインBを使って平掛け結合される。したがって、アクチュエータを回転させるだけで2つの脚は、蹴上げと前後進を実現する。なお、この実施例では、脚長を腕Rの2倍以下に制限しないと脚同士の衝突が避けられない。
【0034】
高い踏み面の階段に対し、脚長を腕Rの2倍以上にしなければならない場合もある。この要求に対し、図17の第2実施例が有効である。すなわち、股関節軸J1の中央部に回転力を伝え、同軸の両端に腕を分散させて脚同士の衝突を避ける。これによって2つの脚を同一運動面に重ねることなく、任意長に設計できる。脚動作は図16の場合と全く同様である。
【0035】
図18は、1つの股関節から伸びる腕数を3にする場合の脚駆動力伝達方式に関する第3実施例を示す。前記第1、2の実施例と異なり、股関節側に固定する歯車を1つに減らし、タイミングベルト、あるいはチェインを平歯車群に替え、これらを腕線上に配置する。この方式は腕数2の場合にも適用でき、そうした実施例も容易に考えられる。この実施例では股関節側の歯車を腕数に応じて増やす必要が無い。ただし、股関節と膝関節の間に置く平歯車の個数を1、3、5、・・・の奇数にし、腕と脚の回転数を互いに逆方向で同数にする必要がある。そのさい、歯車を同サイズにする必要はなく、また、長脚の場合、股関節上にある歯車G1に歯車を噛み合わせさえすれば、それ以降の動力伝達手段をベルトやチェイン、カサ歯車とシャフト、等に替え、途中に置く歯車を省ける。図18の実施例において同一平面内を運動する脚同士の衝突を避ける脚長の最大値は、腕Rの長さを半径とする円に内接する正三角形の一辺長になる。これは一般に、脚数をnとして内接する正n角形の一辺長に等しい。
【0036】
図19は、走行車の前後方向が水平方向から傾く角度θを傾斜角センサQで検出し、その出力信号をサーボ回路(図中省略)に入力し、その出力を用いて車体に固定する歯車、あるいはスプロケットG1の取り付け角を制御し、脚の着地を常時重力方向に向けるための実施例を示す。ただし、同図は、車椅子を運搬物として描写する。事実、図中のモータMはウォーム減速機構等を介して歯車G1の車体に対する取り付け偏倚角φを制御する。
【0037】
その結果、脚の着地方向をφだけ傾ける。この時、サーボ回路は、角φを負帰還し、θ+φ=0を満たすようにモータを駆動する。これにより車体基部は、斜面や階段等の走行面の影響を受けて傾くが、着地脚の姿勢を常時重力方向に制御する。サーボ回路は、センサ情報をもとに脚姿勢を自動的に制御し、人手による制御を不要にする。モータの出力をフレキシブルシャフト等を使って分配する場合、1台のサーボモータで走行車の前後、あるいは左右いずれか一方の股関節、あるいは前後左右の全ての股関節にある歯車G1の偏倚角を制御することも可能である。
【0038】
図20は物を搭載する車体床面Fを走行路面の傾きに関係なく常時水平な(一般には任意角の)床面Fa、 Fb、 Fcのいずれかに制御する3つの実施例a)、 b)、 c)をまとめて示す。ただし、床面を上部に描いて姿勢の理解を容易にする。車体本体Vは、下の基部V1と上の立位部V2に分割され、立位部は、基部で軸支される。V2a、 V2b、 V2cは3つの実施例の立位部をそれぞれ示す。具体的に伸縮アクチュエータUは車体基部上の特定軸周りに車体床面Fを回転させて水平にする。a)は、立位部と基部の軸支を固定し立位部上の1軸Aを駆動して車体床面Faを立位部V2に対して傾けるのに対し、b)とc)は、立位部と基部の固定を解除し、立位部下の軸Aを含める2軸を駆動して立位部V2を車体基部V1に対して傾け、さらに車体床面FbとFcを立位部V2に対して傾ける。
【0039】
事実、a)において、傾斜角センサQの出力信号θ(−90度<θ<90度)を利用し、脚姿勢制御と同様なサーボ回路を用いて床面の回転角を一意に定める。b)とc)の場合、立位部V2を山側に倒すほど、走行車床面Fも山側に移動し、車体全体の重心位置Cは脚着地点で囲まれる領域内に引き寄せられる。その結果、走行車は転倒を回避できる。
【0040】
そこで、床面の回転角をα(−90度<α<90度)、立位部V2を山側に回転/傾ける角をβ(β<90度)とし、a)の場合、α=−θ、β=0、b)の場合、α=0、β=θ、c)の場合、α=β−θ、β=kθと定める。ただし、c)の場合、αはβに従属なため、kを1<k<90度/θの範囲で指定する。なお、走行車の転倒回避を重視する場合、全体の重心位置を階段の山側に移すc)の実施例が優れる。図21は、b)を採用する場合の図6の昇降動作を示す。この場合、図6と異なり、立位部V2が常時鉛直になることを示す。ただし、Uの出力を矢印で示す。
【0041】
図21において、脚方向と車体床面は路面の傾斜角に影響されずに一定の交角をなすのが一般的である。このことから、脚方向を制御する駆動力の一部を車体床面の傾き制御に使うことも可能である。すなわち、脚方向と主体床面の運動メカニズムを一体化し、2方向を1つのサーボモータで制御する。このような実施例は、モータ数を減らすので装置の低コスト化に有効である。
【0042】
図22は汎用運搬走行車への本発明の実施例を示す。図中、(a)は側面、(b)は上面を説明する。左右の股関節は、走行中あるいは、停止中に個別に駆動されて進路を変える。伸縮アクチュエータUは、傾斜角θに応じて車体床面を傾ける。なお、センサは、股関節駆動用モータや車体の捻れ許容機構Wと同様、車体下部にあり、平面図では隠れて見えない。
【0043】
図23は、車椅子の走行車への乗降を容易にする車輪誘導板を説明する。すなわち、車椅子用の左右車輪誘導板を車体床面上に固定する。同時にその内側に1周り小さな車輪誘導板を格納し、乗降のさいに一端を引き出して路面と車体床面間に橋渡す。橋渡し用車輪誘導板の出し入れは公知の技術を使って自動化できる。乗り上げは同図のように後ろ向きで行い、終了後、万一に備えて誘導板上に車止めを置く。
【0044】
長脚の場合、車体基部V1は路面から高くなる。このため、股関節から伸びる腕が路面と平行になる状態(最低姿勢)で橋を渡し、車椅子の乗降を容易にするのがよい。車輪誘導板を数段つなげて橋渡しの勾配を下げるのもよい。脚着地面を下げて車輪床面を路面と同レベルにする走行車待機場や乗降専用の傾斜板を特別に用意する場合、車輪誘導板の装備は不要である。
【0045】
図24は車椅子搭載用走行車の実施例を示す。(a)と(b)は図22と同様、側面と上面を示す。車体床面は、下部にあるほど走行車全体の重心を下げるため、床面の傾きを制御する伸縮アクチュエータも車体基部下に取り付けることになる。走行中の搭乗者を安定させる肘掛けは、車体床面Fと平行に連動させる。(b)の上面図中、車椅子をどこまで載せ上げるかは重量物のモータをどこに置くかに依存する。とくに、車体床面を1軸のみの回転で制御するには出来る限り奥に入れ、走行車全体の重心を後部(階段昇降時の山)側に置くのがよい。
【0046】
以上、図を用いていくつかの実施例を説明した。言及してない脚形状は、鉤棒の取り付けと一体にして自由に設計できる。使用するモータ、バッテリ、ベルト、歯車、スプロケット、軸支手段、傾斜角センサとその信号を利用するサーボ回路、他は、一般に調達出来る製品を活用できる。
【0047】
要するに、本発明は滑り易いために車輪型では推進力を得難い雪面や砂面の上でも脚を確実に着地させ、荷崩れ無しに物資を安定に移動させる走行車の実現に有効な技術を提供する。また、脚でないと走行困難であった人工物の階段昇降を簡単な機構と制御で可能にする技術を提供する。とくに、走行途中において介助者の手を一切借りずにモータを単純に回転させるだけのスイッチ操作で人を載せたまま階段に沿って昇降させることに有効である。階段の踏み面長さや高さが不規則であっても、また、途中に平坦な踊り場があっても操舵機能によって回りながら昇降し続けることを可能にする。
【0048】
【発明の効果】
本発明は、車輪では実現困難な滑り易い雪面や砂面、或いは凹凸の多い不整地面上の移動、及び段差の乗り越えや階段の昇降を可能にする脚型の走行方式と装置を提供する。これにより、屋外の不整地に限らず雪道や砂道用走行車として、また、屋内では階段昇降車として応用を可能とする。
【0049】
とくに、本発明は、脚を常時鉛直に向け、しかも蹴上げ高さを大きく出来るので、屋内外を問わず、段差を乗り越えることはもちろん、物資を階段に沿って運ぶことを可能とする。さらに、前後方向への揺れを無くして転倒に対する心配や恐怖感をなくし、車椅子全体を車体床面に載せるだけで人を車椅子に載せたまま運べる。連続した回転動作による安定した脚運動は、車椅子を階段に沿って昇降させるための走行方式、装置として有効で、これまで困難であった階段昇降支援装置の開発に新たな技術を提供し、福祉関連機器産業の発展に大きく貢献する。また、車体床面を常時水平に保持して昇降することは、車体の走行中の傾きに影響されず、容器に入った液体を密閉せずこぼさず運ぶことを可能とする。
【0050】
脚型走行方式に特有な脚の踏み外しという不測な事態においても脚落下を即刻検知し、最小限に抑える対策が施されているので本発明は、安全性の高い装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】リンク機構による脚と歩行パターンの代表例
【図2】関節機構による脚と歩行パターンの代表例
【図3】股関節から伸びる腕の数
【図4】車体前後の捻れを許す機構の説明
【図5】本発明実施例による平地走行側面図
【図6】本発明実施例による階段昇降の側面図
【図7】着地脚と車体床面の傾きを制御しない階段昇降の側面図
【図8】脚滑りの説明
【図9】落下防止用脚の実施例
【図10】脚落下防止用鉤棒の作用
【図11】種々の脚落下防止実施例
【図12】本発明実施例による各点移動の側面軌跡
【図13】前後脚間水平距離の変化
【図14】脚先へのローラの取り付け状況
【図15】落下防止と前後脚間距離調節を容易にする本発明実施例
【図16】脚駆動力伝達方式に関する第1実施例
【図17】脚駆動力伝達方式に関する第2実施例
【図18】脚数3の場合の脚駆動力伝達方式に関する第3実施例
【図19】脚姿勢制御の実施例
【図20】車体床面を水平に制御する実施例
【図21】別実施例による図6の側面図
【図22】汎用運搬走行車への応用実施例の側面図(a)と上面図(b)
【図23】走行車への車椅子の乗降手段
【図24】椅子搭載用走行車への応用実施例の側面図(a)と上面図(b)
【符号の説明】
1 脚型走行車
2 車椅子
3 路面(床面)
4 階段
5 落下防止用鉤棒
6 ローラ
A 軸
B タイミングベルト、もしくはチェイン
C 走行車重心位置
F 車体床面
G1、G2 股関節側と膝関節側の歯車、もしくはスプロケット
J1 股関節
J2 膝関節
L 脚
M 回転アクチュエータ
Q 傾斜角センサ
R 腕
U 伸縮アクチュエータ
V 車体、V1は車体基部、V2は車体床面
W 捻れ許容機構
α 車体床面の回転角(反時計方向を正)
β 車体立位部の回転角(時計方向を正)
γ 車体の捻れ角
δ 股関節回転角
θ 車体基部の水平面からの傾斜角
φ G1を車体に固定する偏倚角
Claims (7)
- 回転駆動する軸を股関節とし、股関節から半径方向に複数の腕を伸ばし、腕先に膝関節を股関節と平行に置き、また、膝関節の軸周りに着地脚を軸支して自由に回転可能にし、歯車、もしくはスプロケットを股関節軸上に置いて走行装置本体に固定し、この歯車、もしくはスプロケットと、膝関節に軸支されて着地脚の一端に固定される歯車、もしくはスプロケットとを歯数比1対1の動力伝達手段で結合し、少なくとも3つ以上の股関節を備え、股関節の軸を回転駆動するだけで走行中の全ての脚を互いに平行に保ちながら前後と上下に操り、また、左右股関節の回転速度比を違えることにより、走行と操舵を連続的に実現可能にしたことを特徴とする脚型走行方式。
- 前記請求項1に記載の脚型走行方式において、走行中の車体床面を自動的に水平に、或いは特定な角度に保つことにより、積載物の荷崩れや液こぼしをなくしたことを特徴とする脚型走行方式。
- 前記請求項1に記載の脚型走行方式において、固定鉤、あるいは脚の落下を機械的に検出して開く鉤棒を脚の後部側、すなわち、階段山側、に向けて装備することにより、段差を踏み外す脚の落下量を瞬時に最小限に抑え、かつ、安定した着地を確保することを可能にしたことを特徴とする脚型走行方式。
- 前記請求項1に記載の脚型走行方式において、左右両側の前後脚のいずれか一方の着地面にローラを装備し、前後着地脚間隔の調節に必要な脚の路面上の滑りをスムースな転がりに変えることにより、多様な階段の昇降と任意時点での操舵を可能にしたことを特徴とする脚型走行方式。
- 前記請求項1から4に記載の走行方式を具体化する装置として、股関節軸とその回転駆動装置、股関節回転軸から同一の半径で伸びる複数本の腕、腕先に軸支されて膝関節周りに自由に回転する脚、股関節軸上に置いて車体自身に固定される歯車、もしくはスプロケット、膝関節に軸支されて脚端に固定される歯車、もしくはスプロケット、そしてこれらを結合するタイミングベルトや歯車、を備え、股関節軸を連続回転させるだけで走行し、不整地面のみならず、斜面や階段の昇降をも可能にしたことを特徴とする脚型走行装置。
- 車体基部に取り付けた水平面に対する傾斜角センサの出力を入力信号とし、股関節軸に同心上に置く歯車、もしくはスプロケットの取り付け角を制御対象とするサーボ機構を備えることにより、路面や階段の傾きに関係なく走行中の全ての脚を常に重力方向に向けさせ、車体の転倒を防止することを可能にする前記請求項1から5に記載の脚型走行方式とその装置。
- 車体床面を車体本体から切り離し、これを車体本体の後方で軸支し、車体本体に取り付けた水平面からの傾斜角センサ出力を入力信号とし、車体床面の前記軸周りの回転角を制御対象とするサーボ機構を走行装置に付加し、前記請求項2に記載の脚型走行方式を具体化した装置。
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