JP2004045853A - 光学多層膜及び光学素子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】各層の基本膜厚及び層構成を定めた基本構成に基づき実際の膜厚を定める光学多層膜。基本構成は、設計波長をλ0として、光学的膜厚λ0/4の単層又は交互層からなる第1薄膜群と、2λ0/4の単層又はλ0/4と2λ0/4との交互層からなる第2薄膜群と、4λ0/4の単層又はλ0/4と4λ0/4との交互層からなる第3薄膜群との3つの薄膜群のうち、2種類の薄膜群を7群以上備え、かつ、単層からなる薄膜群同士が隣接しない。但し、前記基本構成の区切りは第3、第2、第1薄膜群の優先順位で決定される。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学多層膜及び光学素子に関するものである。特には、液晶プロジェクター等の色分解(合成)光学系に用いられる光学多層膜に関し、緑波長帯域の光を透過し、青、赤波長帯域の光を反射するトリミングフィルターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液晶プロジェクター等の色分解(合成)光学系において、偏光ビームスプリッタと特定波長域の偏光方向を変換させる光学素子(色選択性位相差板)とを組み合わせて形成する光学系が特開2001−154152号公報において知られている。
【0003】
色選択性位相差板は、特定波長域の偏光方向を変換させることにより、偏光ビームスプリッタと組み合わせることによりその波長域の光を分離することができるが、波長域の境界付近の偏光変換特性がよくなく、光を純度よく分離することが困難である。例えば、波長帯域の連続する緑色光と赤色光からなるP偏光を色選択性位相差板によって赤色光のみをS偏光に変換し、偏光ビームスプリッタによって緑色光と赤色光を分離しようとしても、緑色光と赤色光の中間の波長帯域の光を純度よく分離することが困難である。
【0004】
そこで、光学多層膜を用いたトリミングフィルターにより緑色光を分離し、その後、青、赤色光を色選択性位相差板により分離(合成)すると、青色光と赤色光の波長帯域が離れているため青、赤色光を分離(合成)し易いという利点がある。ここでいうトリミングフィルターとは特定波長域の光を透過し、他の波長域の光を反射する光学多層膜を有する光学素子のことである。
【0005】
緑光分離特性を有する膜特性を得るための手法としては、青反射特性を有する薄膜群と赤反射特性を有する薄膜群を基板上に重ねて形成し、緑透過、青赤反射特性を得る方法が知られている。
【0006】
又、緑反射、青赤透過特性ではないが青、緑、赤の波長帯の光が主成分となるように分割するトリミングフィルターの例が特公昭60−038683号公報に提案されている。この例では、設計波長をλ0とした時、光学的膜厚λ0/4の交互層からなる第1薄膜群と、2λ0/4と4λ0/4の交互層からなる第2薄膜群の2つの薄膜群を4群以上含む構成が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、青反射特性を有する薄膜群と赤反射特性を有する薄膜群を重ねた2群構成では、所望の特性を得るためには層数が多くなる傾向にあり、又、角度特性(入射角に依存する半値波長のシフト、透過率劣化)が好ましくなかった。
【0008】
又、先行例の特公昭60−038683号公報のトリミングフィルターは、青、緑、赤の各波長帯の光が主成分となるように分割するものの、430〜480nmの範囲の低透過率、600〜650nmの範囲の低透過率が得られず、又、緑透過帯の高透過率の波長範囲が狭かった。
【0009】
本発明は、上記従来例を鑑み、緑波長帯域等の特定波長域で透過率が高くなる新規な光学多層膜を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の光学多層膜は、各層の基本膜厚及び層構成を定めた基本構成に基づき実際の膜厚を定めた光学多層膜であって、前記基本構成は設計波長をλ0とした時、光学的膜厚λ0/4の単層もしくは交互層からなる第1薄膜群と、2λ0/4の単層もしくはλ0/4と2λ0/4との交互層からなる第2薄膜群と、4λ0/4の単層もしくはλ0/4と4λ0/4との交互層からなる第3薄膜群との3つの薄膜群のうち、少なくとも2種類の薄膜群を7群以上備え、かつ、単層からなる薄膜群同士が隣接しないことを特徴としている。
【0011】
なお、基本構成において、第3薄膜群、第2薄膜群、第1薄膜群の優先順位で各薄膜群の区切りは決定される。
【0012】
【発明の実施の形態】
液晶プロジェクターの緑透過用トリミングフィルターには、光源ランプのスペクトル特性を考慮した特性が必要となる。即ち430〜480nmの範囲の低透過率、510〜570nmの範囲の高透過率、600〜650nmの範囲の低透過率が要求される。ただし、この特定波長域、つまり高透過域の波長範囲は必ずしも上記の固定値というわけではなく、仕様によっては例えば、特定波長域を500〜600nmになる、といった具合に所望の特性によって変動する。
【0013】
上記特性を実現する本実施形態のトリミングフィルターは、光学的膜厚の異なる複数の薄膜を積層した多層膜を基板上に成膜した構成となっている。成膜方法は真空蒸着法でも良いし、スパッタ法やその他薄膜作成方法であれば何でも良い。また、基板としては、ガラス基板をはじめプラスチックや結晶基板等何でも良い。
【0014】
上記多層膜は、図1に示したように、まず、所望特性の特定波長域の中心波長を設計波長λ0として各層の光学的膜厚を定めた基本構成が決定される。次に、基本構成の各層の光学的膜厚を透過率改善のため調整する。この調整とは、所望の特性を得るために基本構成の各層の光学的膜厚である基本膜厚を変化させることである。調整後の各層の膜厚を基本膜厚に対し、実施膜厚と呼ぶ。例えば、基本構成は等しくても仕様によって所望の特定波長域の波長範囲が異なったり、使用入射角(想定している光の入射角度)が異なれば実施膜厚も異なる。この基本膜厚から実施膜厚への変換は公知の計算手法によって行われる。
【0015】
基本構成は、複数の薄膜群により構成されている。薄膜群とは、光学的膜厚により分類された1層あるいは複数層からなる薄膜の集団のことである。(1層の場合は厳密には集団ではないが、ここでは1層のみでも集団に含まれるとする)薄膜群は第1薄膜群、第2薄膜群、第3薄膜群の全部で3種類ある。設計波長λ0とし、第1薄膜群は光学的膜厚1λ0/4(=ndcosθ,nは屈折率、dは幾何学的膜厚、θは屈折角)の層が1層もしくは複数層積層された薄膜群である。
【0016】
第2薄膜群は、2λ0/4層の単層もしくは2λ0/4層と1λ0/4層とが交互に積層された積層膜である。
【0017】
第3薄膜群は、4λ0/4層の単層もしくは4λ0/4層と1λ0/4層とが交互に積層された積層膜である。
【0018】
また、群の切りわけは、第3、第2、第1の薄膜群の順で優先して行い、優先順位の高い薄膜群からその群の定義を逸脱しない範囲で最も層数が多くなるようにする。更に、単層からなる薄膜群同士は連続して接しない。即ち、図2(a)に示すように基板1上に基本構成2aがあるとする。第1、第2薄膜群の定義のみに基づいて薄膜群の切り分けを行うと、基本構成2aは1λ0/4層の単層からなる第1薄膜群2つと、2λ0/4層の単層からなる第2薄膜群1つの合わせて3つの薄膜群ともとれるし、2λ0/4層と1λ0/4層とが交互に積層された1つの第2薄膜群ともとれる。しかし、薄膜群の切り分けは上述のとおり第3、第2、第1の順で優先して行うので、基本構成2aは後者の、1つの第2薄膜群となる。また、図2(b)に示すような基板1上に基本構成2bがあるとすると、群の切り分けは第3群より行い、3層からなる第3薄膜群2つと、1λ0/4層の単層からなる第1薄膜群1つとなる。
【0019】
本発明は、上記3種類の薄膜群の中から、少なくとも2種類の薄膜群を全部で7群以上有する基本構成とすることにより所望の特性を実現している。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
第1薄膜群及び第2薄膜群をSiO2膜とTa2O5膜で構成し、11群からなる緑透過トリミングフィルターをBK7基板上に真空蒸着法により形成した。表1に、基板側を第1層とした各薄膜群を含む基本構成の基本膜厚、及び透過率改善のための調整後の実施膜厚を示す。但し、表1において、設計波長λ0は537nm、膜厚はλ0/4の倍数を示し、TaはTa2O5膜(588nmでの屈折率2.15)、SはSiO2膜(588nmでの屈折率1.46)を示す。使用入射角は45度である。
【0022】
【表1】
【0023】
更に、図3に、この時の透過率特性を示す。横軸は波長、縦軸は透過率を示す。図3において、点線33TS33は空気側から入射角33度、層数33層のS成分透過率特性を示し、実線45TS33は空気側から入射角45度、層数33層のS成分透過率特性を示し、破線57TS33は空気側から入射角57度、層数33層のS成分透過率特性を示す。
【0024】
本実施例においては、45度入射の時、430〜480nmの範囲で平均0.2%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均0.4%の低透過率が得られた。又、角度特性を半値波長巾(33度の時の短波長側の半値波長と57度の時の長波長側の半値波長の差を示し、緑成分の明るさに対応)で示すと、約48nmであつた。共に実用上問題無い特性が得られた。
【0025】
表1の結果から分かるように、本実施例の膜の特徴は、(1)全薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.96倍であり、(2)第1薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約1.02倍であり、(3)第2、第3薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.91倍であり、(4)2つの1λ0/4層とそれに挟まれた1つの2λ0/4層との計3層(第2群3層基本構成)からなる第2薄膜群において、実施膜厚が約3.0λ0/4〜4.5λ0/4の範囲であり、(5)連続する3つの1λ0/4層(第1群3層基本構成)からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第2薄膜群とそれに隣接する2つの第1薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.3λ0/4〜10.5λ0/4の範囲であり、(6)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第1薄膜群とそれに隣接する2つの第2薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.7λ0/4〜10.7λ0/4の範囲を満たしていることである。
【0026】
<実施例2>
実施例1と同様にして、第1薄膜群及び第2薄膜群をSiO2膜とTa2O5膜で構成し、11群からなる緑透過トリミングフィルターをBK7基板上に真空蒸着法により形成した。表2に、各薄膜群を含む基本構成の基本膜厚、及び透過率改善のための調整後の実施膜厚を示す。但し、使用入射角は0度である。
【0027】
更に、図4(a)に、この時の透過率特性を示す。図4(a)において、点線12TS33は空気側から入射角12度、層数33層のS成分透過率特性を示し、実線0TS33は空気側から入射角0度、層数33層の透過率特性を示す。
本実施例においては、0度入射の時、430〜480nmの範囲で平均1.2%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均0.2%の低透過率が得られ、実用上問題無い特性であった。
【0028】
更に、本実施例2の0度入射フィルターと実施例1の45度入射フィルターを組み合わせる事により、コントラストを向上させる事が出来た。即ち、45度入射フィルターの後に0度入射フィルターを設置する事により、入射角度に依存する不要な光(図1において、入射角33度の時の約580〜600nmの透過光、及び入射角57度の時の約485〜500nmの透過光)をカットする事が出来た。この時の特性を図2(b)に示す。図2(b)において、33*12Tsは入射角33度と12度で透過したS成分を示し、57*12Tsは入射角57度と12度で透過したS成分を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2の結果から分かるように、本実施例の膜の特徴は、(1)全薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.94倍であり、(2)第1薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.95倍であり、(3)第2、第3薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.94倍であり、(4)第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、実施膜厚が約3.4λ0/4〜4.6λ0/4の範囲であり、(5)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第2薄膜群とそれに隣接する2つの第1薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約8.7λ0/4〜9.8λ0/4の範囲であり、(6)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第1薄膜群とそれに隣接する2つの第2薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.9λ0/4〜10.7λ0/4の範囲を満たしていることである。
【0031】
<実施例3>
実施例1と同様にして、第1薄膜群及び第2薄膜群をAl2O3膜とTiO2膜で構成し、11群からなる緑透過トリミングフィルターをBK7基板上に真空蒸着法により形成した。表3に、各薄膜群を含む基本構成の基本膜厚、及び透過率改善のための調整後の実施膜厚を示す。但し、表3において、TiはTiO2膜(588nmでの屈折率2.30)、AはAl2O3膜(588nmでの屈折率1.63)を示す。
【0032】
更に、図5に、この時の透過率特性を示す。図5において、点線33TS33は空気側から入射角33度、層数33層のS成分透過率特性を示し、実線45TS33は空気側から入射角45度、層数33層のS成分透過率特性を示し、破線57TS33は空気側から入射角57度、層数33層のS成分透過率特性を示す。
本実施例においては、45度入射の時、430〜480nmの範囲で平均0.3%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均0.5%の低透過率が得られた。又、角度特性を半値波長巾で示すと、約51nmであつた。共に実用上問題無い特性が得られた。
【0033】
【表3】
【0034】
表3において、第2薄膜群を構成する1層目のAl2O3膜の実施膜厚が0となっている。しかし、これは基板に接する層として全体特性の上から0が好ましいという事であり、基本構成(第2群の基本膜厚合計は約4/4λ0)を逸脱するものではない。
【0035】
表3の結果からわかるように、本実施例の膜の特徴は、(1)全薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.94倍であり、(2)第1薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.97倍であり、(3)第2、第3薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.91倍であり、(4)第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、実施膜厚が約3.1λ0/4〜4.0λ0/4の範囲であり、(5)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第2薄膜群とそれに隣接する2つの第1薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.2λ0/4〜10.3λ0/4の範囲であり、(6)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第1薄膜群とそれに隣接する2つの第2薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.8λ0/4〜11.0λ0/4の範囲を満たしていることである。
【0036】
<実施例4>
第1薄膜群及び第2薄膜群をSiO2膜とTa2O5膜で構成し、7群からなる緑透過トリミングフィルターをBK7基板上に真空蒸着法により形成した。表4に、基板側からの各薄膜群を含む基本構成の基本膜厚、及び透過率改善のための調整後の実施膜厚を示す。使用入射角は45度である。
【0037】
更に、図6にこの時の透過率特性を示す。図6において、点線33TS21は空気側から入射角33度、層数21層のS成分透過率特性を示し、実線45TS21は空気側から入射角45度、層数21層のS成分透過率特性を示し、破線57TS21は空気側から入射角57度、層数21層のS成分透過率特性を示す。
【0038】
本実施例においては、45度入射の時、430〜480nmの範囲で平均2.0%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均2.2%の低透過率が得られた。青、赤領域のモレ透過光がやや多いが、実用上は問題無かった。又、角度特性を半値波長巾で示すと、実施例1と同様約48nmであつた。
【0039】
【表4】
【0040】
表4において、第2薄膜群を構成する21層目のSiO2膜の実施膜厚が略0となっている。しかし、これは空気に接する層として全体特性の上から略0が好ましいという事であり、基本構成(第2群の基本膜厚合計は約4/4λ0)を逸脱するものではない。
【0041】
表4の結果からわかるように、本実施例の膜の特徴は、(1)全薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.94倍であり、(2)第1薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約1.02倍であり、(3)第2、第3薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.9倍であり、(4)第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、実施膜厚が約2.7λ0/4〜4.3λ0/4の範囲であり、(5)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第2薄膜群とそれに隣接する2つの第1薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.3λ0/4〜10.3λ0/4の範囲であり、(6)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第1薄膜群とそれに隣接する2つの第2薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.9λ0/4〜10.6λ0/4の範囲を満たしていることである。
【0042】
<実施例5>
第1薄膜群、第2薄膜群及び第3薄膜群をSiO2膜とTa2O5膜で構成し、11群からなる緑透過トリミングフィルターをBK7基板上に真空蒸着法により形成した。表5に、基板側からの各薄膜群を含む基本構成の基本膜厚、及び透過率改善のための調整後の実施膜厚を示す。使用入射角は45度である。
【0043】
更に、図7に、この時の透過率特性を示す。図7において、点線33TS28は空気側から入射角33度、層数28層のS成分透過率特性を示し、実線45TS28は空気側から入射角45度、層数28層のS成分透過率特性を示し、破線57TS28は空気側から入射角57度、層数28層のS成分透過率特性を示す。
本実施例においては、45度入射の時、430〜480nmの範囲で平均0.2%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均0.4%の低透過率が得られた。又、角度特性を半値波長巾で示すと、約49nmであつた。共に実用上問題無い特性が得られた。
【0044】
【表5】
【0045】
表5の結果からわかるように、本実施例の膜の特徴は、(1)全薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約1.0倍であり、(2)第1薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約1.10倍であり、(3)第2、第3薄膜群の総光学膜厚の実施膜厚が基本膜厚の約0.94倍であり、(4)第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、実施膜厚が約3.7λ0/4〜3.8λ0/4の範囲であり、(5)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第2薄膜群とそれに隣接する2つの第1薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約9.7λ0/4〜10.7λ0/4の範囲であり、(6)第1群3層基本構成からなる第1薄膜群と第2群3層基本構成からなる第2薄膜群において、1つの第1薄膜群とそれに隣接する2つの第2薄膜群の3群の合計の実施膜厚が約10.4λ0/4〜10.6λ0/4の範囲を満たしていることである。
【0046】
次に、本発明の比較対象として、本発明とは異なる基本構成の比較例を示した。
【0047】
<比較例1>
Ta2O5膜とSiO2膜の交互層からなる青反射特性を有する薄膜群とTa2O5膜とSiO2膜の交互層からなる赤反射特性を有する薄膜群を真空蒸着法により基板上に重ねて形成し、緑透過トリミングフィルターを得た。表6に、透過率改善のための調整後の実施膜厚を基板側から第1層目としてを示す。使用入射角は45度である。
【0048】
【表6】
【0049】
更に、図8に、この時の透過率特性を示す。図8において、点線33TS40は空気側から入射角33度、層数40層のS成分透過率特性を示し、実線45TS40は空気側から入射角45度、層数40層のS成分透過率特性を示し、破線57TS40は空気側から入射角57度、層数40層のS成分透過率特性を示す。
【0050】
本比較例においては、45度入射の時、430〜480nmの範囲で平均0.5%の低透過率、510〜570nmの範囲で平均98%の高透過率、600〜650nmの範囲で平均0.1%の低透過率が得られた。又、角度特性を半値波長巾で示すと、約34nmであつた。透過率特性は本実施例と同等であるが、角度特性では劣り、明るさが不足する結果となり実用上問題であった。更に、層数が本実施例に比較して多くなるのが難点である。
【0051】
<比較例2>
特公昭60−038683号公報の図2に示される11層特性のものを実施例1と同様にして形成した。但し、第1薄膜群をSiO2膜とZrO2膜、第2薄膜群をSiO2膜とZrO2膜とし、設計波長λ0は540nm、使用入射角は0度とした。第1薄膜群はλ0/4の交互層であり、第2薄膜群は 4λ0/4−2λ0/4−4λ0/4の基本構成である。この基本構成膜厚の時の特性を図9に示す。図9において、実線0T11は空気側から入射角0度、層数11層の透過率特性を示す。
【0052】
図7から、430〜480nmの範囲の低透過率、600〜650nmの範囲の低透過率が得られず、本比較例の構成では、緑透過トリミングフィルターとして実用に適しない。
【0053】
<液晶プロジェクターの実施例>
次に、本実施形態の光学多層膜を用いたトリミングフィルターを有する液晶プロジェクターの実施例を示す。
【0054】
図10は本実施形態の光学多層膜を用いたトリミングフィルターを有する液晶プロジェクターの図である。図10において、101は光源、102は偏光板、103は本実施形態の光学多層膜を用いた、緑波長帯域の光(G)を透過し、青波長帯域の光(B)と赤波長帯域の光(R)を反射するトリミングフィルターである。104aは赤色光の偏光方向を90度変換し、青色光の偏光方向は変換しない第1の色選択性位相差板、104bは赤色光の偏光方向は変換せずに、青色光の偏光方向を90度変換する第2の色選択性位相差板、105a、105b、105cは夫々P偏光を透過し、S偏光を反射する第1、第2及び第3の偏光ビームスプリッタである。106R、106G、106Bは夫々入射した光を反射するとともに画像変調する赤用の反射型液晶表示素子、緑用の反射型液晶表示素子、青用の反射型液晶表示素子である。107は投射レンズである。
【0055】
光源101から出射した無偏光の光は、偏光板102によって直線偏光(P偏光)とされ、トリミングフィルター103に入射する。トリミングフィルター103によって、緑色光は透過されるが、青色光と赤色光は反射する。これにより、緑色光と青、赤色光とが色分解される。
【0056】
緑色光は第1の偏光ビームスプリッタ105aを透過して緑用の反射型液晶表示素子106Gに入射する。一方、トリミングフィルター103を透過した青色光と赤色光は第1の色選択性位相差板104aに入射して、ここで赤色光の偏光方向のみが90度回転させられS偏光となる。
【0057】
第2の偏光ビームスプリッタ105bは、P偏光である青色光を透過し、S偏光である赤色光を反射することでこれらを色分解し、青色光および赤色光はそれぞれ青用の反射型液晶表示素子106B及び赤用の反射型液晶表示素子106R入射する。
【0058】
緑用の反射型液晶表示素子106Gで変調された光のうちS偏光成分は第1の偏光ビームスプリッタ105aで反射し、第3の偏光ビームスプリッタ105cでも反射して投影光となる。
【0059】
青用の反射型液晶表示素子106Bで変調された光のうちS偏光成分は第2の偏光ビームスプリッタ105bで反射し、第2の色選択性位相差板104bによって偏光方向が90度回転し、P偏光となり、第3の偏光ビームスプリッタ105cを透過して、投影光となる。
【0060】
赤用の反射型液晶表示素子106Rで変調された光のうちP偏光成分は第2の偏光ビームスプリッタ105bを透過し、第2の色選択性位相差板104bを透過し、第3の偏光ビームスプリッタ105cを透過して、投影光となる。第3の偏光ビームスプリッタ105cで1つに合成された緑色光と青色光と赤色光は、投射レンズ107より投射されることによってカラー画像を表示する。
【0061】
本実施例の液晶プロジェクターは、本実施形態の光学多層膜を用いることによって、少ない層数で緑色光を透過し、青、赤色光を反射するトリミングフィルターを実現している。
【0062】
【発明の効果】
本発明により、比較的少ない層数で、特定波長域で透過率が高くなる光学多層膜を実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の概略を示す図である。
【図2】(a)薄膜群の切り分け方を示す図である。(b)薄膜群の切り分け方を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図4】(a)本発明の実施例2の光学多層膜の透過率特性を示す図である。(b)本発明の実施例1と実施例2の光学多層膜を組み合わせたときの透過率特性を示す図である。
【図5】本発明の実施例3の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図6】本発明の実施例4の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図7】本発明の実施例5の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図8】本発明の比較例1の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図9】本発明の比較例2の光学多層膜の透過率特性を示す図である。
【図10】本実施形態のトリミングフィルターを有する液晶プロジェクターの図である。
Claims (15)
- 各層の基本膜厚及び層構成を定めた基本構成に基づき実際の膜厚を定めた光学多層膜であって、前記基本構成は設計波長をλ0とした時、光学的膜厚λ0/4の単層もしくは交互層からなる第1薄膜群と、2λ0/4の単層もしくはλ0/4と2λ0/4との交互層からなる第2薄膜群と、4λ0/4の単層もしくはλ0/4と4λ0/4との交互層からなる第3薄膜群との3つの薄膜群のうち、少なくとも2種類の薄膜群を7群以上備え、かつ、単層からなる薄膜群同士が隣接しないことを特徴とする光学多層膜。
但し、前記基本構成において、第3薄膜群、第2薄膜群、第1薄膜群の優先順位で各薄膜群の区切りは決定される。 - 前記基本構成が、第1薄膜群と第2薄膜群、又は第1薄膜群と第3薄膜群、又は第1薄膜群と連続する第2薄膜群と第3薄膜群とが交互に設けられることを特徴とする請求項1記載の光学多層膜。
- 全薄膜群の実際の総光学膜厚が前記基本膜厚の総光学膜厚の0.9〜1.05倍の範囲であることを特徴とする請求項1記載の光学多層膜。
- 前記第1薄膜群の実際の総光学膜厚が、前記基本構成の第1薄膜群の総光学膜厚の0.9〜1.15倍の範囲であることを特徴とする請求項3記載の光学多層膜。
- 前記第2薄膜群と前記第3薄膜群との実際の総光学膜厚の和が、前記基本膜厚の第2薄膜群と第3薄膜群との総光学膜厚の和の0.85〜1.0倍の範囲であることを特徴とする請求項2記載の光学多層膜。
- 前記基本構成が、3つのλ0/4層からなる第1薄膜群を有することを特徴とする請求項1記載の光学多層膜。
- 前記基本構成が、2つのλ0/4層と1つの2λ0/4層との3層からなる第2薄膜群を有することを特徴とする請求項1記載の光学多層膜。
- 前記2λ0/4層が屈折率2.0以上の高屈折率膜であることを特徴とする請求項7記載の光学多層膜。
- 前記基本構成が、2つのλ0/4層と1つの4λ0/4層との3層からなる第3薄膜群を有することを特徴とする請求項1記載の光学多層膜。
- 前記4λ0/4層が屈折率2.0以上の高屈折率膜であることを特徴とする請求項7記載の光学多層膜。
- 前記3層からなる第2薄膜群の3層の実際の光学膜厚の和が、2.5λ0/4〜5λ0/4の範囲であることを特徴とする請求項7記載の光学多層膜。
- 前記基本構成が前記3層からなる第1薄膜群と前記3層からなる第2薄膜群とを有し、前記3層からなる第2薄膜群とそれに隣接する2つの前記3層からなる第1薄膜群との3つの薄膜群の実際の光学膜厚の和が8.5λ0/4〜11λ0/4の範囲であることを特徴とする請求項6又は7記載の光学多層膜。
- 前記基本構成が前記3層からなる第1薄膜群と前記3層からなる第2薄膜群とを有し、前記3層からなる第1薄膜群とそれに隣接する2つの前記3層からなる第2薄膜群との3つの薄膜群の実際の光学膜厚の和が9.5λ0/4〜11.5λ0/4の範囲であることを特徴とする請求項6又は7記載の光学多層膜。
- 基板上に請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学多層膜を成膜することを特徴とする光学素子。
- 光学多層膜の設計方法において、各層の基本膜厚及び層構成を定めた基本構成を設定する工程と、前記基本構成を元に実際の膜厚を定める工程とを有し、前記基本構成は設計波長をλ0とした時、光学的膜厚λ0/4の単層もしくは交互層からなる第1薄膜群と、2λ0/4の単層もしくはλ0/4と2λ0/4との交互層からなる第2薄膜群と、4λ0/4の単層もしくはλ0/4と4λ0/4との交互層からなる第3薄膜群との3つの薄膜群のうち、少なくとも2種類の薄膜群を7群以上備え、かつ、単層からなる薄膜群同士が隣接しないことを特徴とする光学多層膜の設計方法。
但し、前記基本構成において、第3薄膜群、第2薄膜群、第1薄膜群の優先順位で各薄膜群の区切りは決定される。
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JP2008085232A (ja) * | 2006-09-28 | 2008-04-10 | Casio Comput Co Ltd | 液晶表示装置 |
JP2011164549A (ja) * | 2010-02-15 | 2011-08-25 | Kowa Co | 色再現性の良好な色分解光学系 |
JP2012038690A (ja) * | 2010-08-11 | 2012-02-23 | Toshiba Corp | バックライト、および液晶表示装置 |
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2002
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