JP2004045779A - 光学素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】フォトニック結晶を利用した新たな光学素子の提供。
【解決手段】基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターン5の多層膜とし、この多層膜に波型パターンの繰り返し方向に対して斜め方向から光ビーム6を入射することにより、波型パターン5の周期と光ビーム6の入射角度θとで定められる特定の波長の光のみを回折(反射)させることができ、フォトニック結晶を分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路として用いることができる。また、波型パターンの周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させたり、場所によって周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、波長毎に伝搬距離を変化させることにより分散補償器として用いることもできる。
【選択図】
図3
【解決手段】基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターン5の多層膜とし、この多層膜に波型パターンの繰り返し方向に対して斜め方向から光ビーム6を入射することにより、波型パターン5の周期と光ビーム6の入射角度θとで定められる特定の波長の光のみを回折(反射)させることができ、フォトニック結晶を分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路として用いることができる。また、波型パターンの周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させたり、場所によって周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、波長毎に伝搬距離を変化させることにより分散補償器として用いることもできる。
【選択図】
図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、東北大学 川上彰二郎 教授らが考案した自己クローニング技術(S. Kawakami et al., Appl. Phys. Lett., 74, 463 (1999).)によって形成される3次元フォトニック結晶を用いる光学素子に関し、特に、光通信に用いる各種光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の光学部品は、ガラスや結晶など天然に存在する材料で形成されているため、それら光学部品の性能も、天然に存在する材料自体の特性によって支配されるものであった。例えば、レンズや分光器、偏光子、分波器、フィルタ、プリズム、導波路等の光学部品を製作する場合、その性能は材料自体の屈折率や誘電率等の物性値によって決まっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば屈折率がより大きな材料が有れば、焦点距離を短くすることができたり、レンズの大きさを小さくすることができるといった要求はこれまでにも数限りなくあり、この材料の物性値の制約が、従来の光学素子や光学部品の性能を制限していた。また、天然に存在する材料を用いて光学部品を製作する場合、材料自体の組成や構造の均一性、切断、研磨等の加工の困難性等から性能の高い部品を安定して得ることが難しかった。
【0004】
このような問題に対して、近年、屈折率や誘電率が大きく異なる2種類の媒質を光波長程度の周期で積層するフォトニック結晶及びフォトニック結晶を用いた光学素子が提案されている(特開2000−131522号公報、特開2001−091701号公報等)。
【0005】
例えば、特開2000−131522号公報には、フォトニック結晶を製作する方法として、バイアス・スパッタリングに代表される堆積粒子の拡散入射とスパッタエッチングを併用した成膜法において、その堆積作用とエッチング作用を相互に制御することにより、表面の凹凸形状を繰り返しつつ層状に堆積させる方法が記載されている。このメカニズムは、堆積粒子の拡散入射により影となる凹部の堆積速度が遅くなる効果、スパッタエッチングによる所定の傾斜角の面においてエッチング速度が最大になる効果、スパッタエッチングにより削られた粒子が再付着する効果の3つの効果の適切な組み合わせで説明される(以下、このような積層技術を自己クローニング技術と称する。)。
【0006】
そして、上記公報には、屈折率の異なる少なくとも2種類の透明体からなる複数の層がz軸方向に沿って積層された多層構造体を高分子材料上に設け、多層構造体を各透明体毎に積層の単位となる層の形状がx軸方向に沿って周期的に凹凸を繰り返した凹凸構造と、y軸方向に沿って一様な構造、又はx軸方向に沿った凹凸構造よりも周期が大きい凹凸構造としたフォトニック結晶を用いて、入射方向がz軸方向に零でない成分を持つ光に対して作用する偏光子を製作できることが記載されている。
【0007】
また、特開2001−091701号公報には、2種以上の誘電体よりなる2次元又は3次元周期構造体に関し、基本的な周期の方向の一つ以上が空間的に徐々にないし緩やかな階段状に変化している部分を少なくともその一部分に含む光機能素子が記載されている。この構造では、フォトニック結晶の区間的に緩やかな格子変調を利用して、巨視的・平均的な媒質定数に傾斜を持たせることができ、光回路の設計自由度を大幅に増すことができるとしている。
【0008】
このように、フォトニック結晶は、天然に存在する材料に光の波長オーダーの細工を施すことにより、どんな物性を有する材料でも人工的に作り出すことができる技術であり、従来の光学素子の性能を大幅に向上させる可能性を秘めた新しい光学材料として期待されているが、フォトニック結晶を光学素子として実際に利用するためには、その具体的な構成や適用方法等を新たに提案する必要がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、フォトニック結晶を利用した新たな光学素子を提案することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光を選択的に反射又は回折させるものである。
【0011】
また、本発明においては、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して45度の方向から透過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを前記光ビームの伝搬方向に直交する方向に反射又は回折させる分波器として用いることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記光ビームの伝搬方向に沿って、前記波の周期が相異なる複数の領域を設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光を順次、反射又は回折させる構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明においては、各々の前記領域に対して、分波出力光を取り出すためのポートと、光を導入するためのポートとを設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをアド・ドロップする機能を備える構成、又は、各々の前記領域に対して、分波出力光のパワーを読み出すための受光素子を配置し、各々の前記領域における前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをモニターする機能を備える構成とすることもできる。
【0014】
また、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期が光ビームの伝搬方向に連続的に変化するように形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に伝搬させ、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを選択的に反射させるものである。
【0015】
本発明においては、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記多層膜中で反射されて折り返されて伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する反射型分散補償素子として用いることもできる。
【0016】
また、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期及び向きが光ビームの伝搬方向に連続的に変化する一対のパターンとして形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、一方の波型パターンを前記光ビームが伝搬する際に、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみが選択的に前記波型パターンの向きに応じて定められる角度で反射又は回折され、該反射又は回折された光が他方の波型パターンで集められて、再び1本の光ビームに集束されるものである。
【0017】
本発明においては、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記一方の波型パターンで反射されて前記他方の波型パターンを伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する透過型分散補償素子として用いることもできる。
【0018】
また、本発明においては、前記多層膜を前記波型パターンに代えて鏃型パターンで構成することもできる。
【0019】
このように、本発明は上記構成により、波型パターンの波の周期に対応して定められる特定の波長成分の光のみを回折又は反射させることにより、フォトニック結晶を分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路、分散補償器として利用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に係るフォトニック結晶素子を用いた光学素子は、その好ましい一実施の形態において、基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターンの多層膜とし、この多層膜に波の繰り返し方向に対して斜め方向から光ビームを入射して、波の周期と光ビームの入射角度θとで定められる特定の波長成分の光のみを回折又は反射させる分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路として用いたり、波の周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させ、伝搬経路の各々場所で波の周期に対応する特定の波長成分の光のみを反射して波長毎に伝搬距離を変化させる反射型の分散補償器として用いたり、場所によって波の周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、一方の波型パターンの各々の場所で波の周期に対応した波長成分の光のみを回折させて他方の波型パターンに集め、波長毎に伝搬距離を変化させる透過型の分散補償器として用いることができる。
【0021】
【実施例】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0022】
初めに、本発明の第1の実施例としての分波器を示す。その構成は、Si等の半導体基板上に図1に示す様なライン・アンド・スペース パターン2を形成し、その上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体としてSiO2等を、屈折率の高い誘電体としてはSiやTa2O5等を交互に積層することにより、所謂3次元フォトニック結晶を形成するもので、前記ライン・アンド・スペース パターン2上には、図に示す様に波型パターン5の多層膜が形成される。
【0023】
この波型パターン5の部分に対して、垂直方向には、図2に示すように或る波長(エネルギー)の光に対してバンドギャップが存在し、光が反射されることも知られている。このバンドギャップ波長は、波型パターン5の周期(Lx)に対応し、波型パターン5の周期を変えればバンドギャップ波長も変えることができる。
【0024】
さらに、図3に示す構成の様に、波型パターン5の部分に、波型パターン5に対して斜め45度方向から光ビーム6を入射させることにより、波型パターン5の波の周期と光ビーム6の入射角度θ(この図の場合は45度)とで決まる波長成分の光のみが光ビーム6の進行方向に対して直角方向に回折(反射)され、それ以外の波長成分の光は回折(反射)されずに真っ直ぐに進行する。従って、フォトニック結晶素子を分波器として動作させることができる。
【0025】
この波型パターン5の波の周期と反射波長の関係は、厳密には波型パターン形状のフォトニック結晶構造に対して斜め方向のフォトニックバンドを計算し、そのフォトニックバンドギャップのエネルギーから求める必要があるが、大雑把には波型パターン5の周期をLx、積層する2種類の誘電体膜(誘電体A、誘電体B)の平均屈折率をnaとすると、反射波長は垂直入射の場合2×na×Lxで与えられる。また、斜め入射の場合の反射波長は、入射光ビーム6と波型パターン5の為す角度がθの場合、2×na×Lx×cosθで与えられる(従って、直角入射の場合θ=0度となり、2×na×Lxに一致する。)。
【0026】
波型パターン5の波の周期は、最初に基板上に形成するライン・アンド・スペースパターン2の周期によって決まる。従って、基板1に形成するパターンを変えることにより、分波器としての動作波長を自由に設定することができる。さらに、光ビーム6の伝搬方向に沿って、異なる周期の波型パターン5を複数形成すれば、その周期に対応した波長成分の光のみが各々の波型パターン5で次々と分波されていく多チャンネルの分波器として利用することができる。
【0027】
図4は、本分波器を波長多重通信のアド・ドロップMUX回路として用いる場合の構成を示す。素子の基本構成は、図3の分波器と同じであるが、伝搬する光ビームと45度の角度を為す波型パターン5(波長選択ミラー7)の部分に、分波出力を取り出す(Drop Out)ポート9と、その反対側にも光を入力させる(Add In)ポート10を有する。この場合、波長選択ミラー7は、波型パターン5の周期に応じて或る波長を分波(ドロップ)させる機能を有すると同時に、もう一方のポートからその波長の光を加える(アド)機能も担っている。従って、フォトニック結晶素子を波長多重(WDM)通信用のアド・ドロップMUX回路として機能させることができる。
【0028】
図5は、本分波器をWDM通信の光パワーモニタ回路として用いる場合の構成を示す。素子の基本構成は図3の分波器と同じであるが、図に示す様に分岐出力側に複数の受光素子(PD)を配置した構成となっている。勿論、受光素子は図に示す様な面入射型のものでも良いし、通信用途で用いられるような導波路型のものでも良い。また、図に示す様にアレイにして張り合わせると、光軸調整も一括してできるので容易になる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施例としての反射型の分散補償器を図6に示す。その構成は光ビームの伝搬経路に沿って波型パターン5の波長選択ミラー7が形成されているが、波型パターン5の波の周期が光ビームの伝搬経路に沿ってチャープ(緩やかに変化)している。このような構造に対して、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターン5に沿って伝搬して行くと、その場所での波型パターン5の波の周期に対応する波長成分の光のみが反射(回折)されて戻って行く。
【0030】
従って、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターン5に沿って伝搬して行く間に、例えば、波長の長い光は入り口付近で反射され、波長の短い光は出口に近い所で反射され(或いはその逆)て戻って行く。従って、反射光は波長によって異なる距離を伝搬することになり、分散補償が可能となる。
【0031】
次に、本発明の第3の実施例としての透過型の分散補償器を図7に示す。その構成は図に示す様に、場所によって波の周期と向きが変化して行く2組の波型パターン5が設けられており、その内、一方の波型パターン5に沿って光ビームが伝搬する時、その場所の波型パターン5の波の周期に対応した波長成分の光のみが波型パターン5の向きによって決まる方向に回折(反射)され、その光ビームの一部が反射された先にはもう一組の波型パターン5が設けられており、先の波型パターン5の各々の部分で回折(反射)された光ビームを集めて、再び1本の光ビームに戻す働きをする。この時、光ビームは波長によって異なる場所で反射され、異なる場所で集められて、再び1本の光ビームになる。従って、波長によって異なる経路を伝搬することになり、波長により異なる遅延時間が生じ、分散補償が可能となる。
【0032】
ところで、波型パターン5のフォトニック結晶による波長選択ミラー7は、図2に示すように、そのフォトニックバンドにおける第2バンドの高エネルギー(短波長)端に形成されるバンドギャップを利用する。この場合、バンドギャップの高エネルギー(短波長)側の通過波長帯は第3バンドを利用することになるが、この第3バンドによる通過波長帯域の広さと透過率とが重要となる。通過帯域は第3バンドのエネルギー幅で決まり、これが広ければ通過帯域も広くなる。透過率は単純には求まらないが、一つの目安として、光の群速度に対応するバンドの傾きが大きい程高い透過率が得られると考えてよい。図2に示すように、第2バンドに比べて第3バンドの傾きが小さい場合、透過率は反射波長帯の短波長側で低くなる。またこの場合、反射波長帯の短波長側の通過帯域も狭くなり、従って、このようなケースは波長選択ミラーとしては好ましくない。
【0033】
図2のバンド図に対応する構造は、波型パターン5の単位格子が、高屈折率媒質として屈折率が約2.1のTa2O5と、低屈折率媒質として屈折率が約1.5のSiO2とからなり、単位格子の形状が図に示す様にLx=0.8μm、Lz=0.72μmの場合であるが、屈折率はそのままにして格子の形状を変え、Lz=0.6μmにすると、第3バンドの傾きが大きく(第2バンドと同程度と)なり、バンドのエネルギー幅も広くなる。しかしこの場合は、反射帯の反射率が低下するという問題点が出てきてしまう。
【0034】
この問題の一つの解決策としては、波型パターン5の単位格子を構成する媒質の屈折率差を大きくすればよい。例えば、高屈折率媒質としてTa2O5の代わりに、屈折率が約3.5のSiを用いることにより、反射帯の反射率を損なうことなく高エネルギー(短波長)側の通過波長帯を広くかつ透過率を高くすることができる。
【0035】
もう一つの解決策としては、波型パターン5の単位格子ではなく、図8に示すような鏃型の単位格子を用いるという方法が有る。鏃型の単位格子の場合、そのバンド構造は図8に示す様に、第1バンドと第2バンドの間にバンドギャップが生じ、ここを反射波長帯に用いれば、その高エネルギー(短波長)側および低エネルギー(長波長)側の通過波長帯の帯域は広くとれ、透過率も高い。この場合は、単位格子を構成する媒質がSiでもTa2O5でも共に良好な波長選択ミラーが得られる。
【0036】
図9に、鏃型格子フォトニック結晶による反射鏡と、先の波型格子フォトニック結晶による反射鏡とで、透過スペクトルを比較したもの(計算)を示す。反射特性は、透過率を1から引けば求まる。各々条件を振って計算しているが、鏃型フォトニック結晶の方が、反射波長帯の上下の波長帯が広くとれ、その透過率も高く、良好な反射特性が得られることが分かる。従って、上記のフォトニック結晶素子を、波型フォトニック結晶の代わりに鏃型フォトニック結晶で作製すれば、より良好な特性が得られる。
【0037】
以上に示した例では、素子内での光ビーム6の伝搬に対して光導波路構造の有無については触れていないが、光ビーム6が比較的太く(φ10μm以上)、素子の長さが短い(数100μm程度)場合には、導波路構造無しでも光ビームは広がること無く伝搬し、素子は良好に動作するが、格子変調構造による光導波路(川上他 フォトニック結晶シンポジウム予稿集、2002年1/24〜25、京都)と組み合わせれば、そのような制約は無くなり、なお好ましい。
【0038】
なお、上記説明では、フォトニック結晶を分波器、アド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路、分散補償器に適用する場合について記載したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、波型又は鏃型パターンの周期に対応して定められる特定の波長成分の光のみを回折(反射)する機能を利用することができる任意の光学素子に適用することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば下記記載の効果を奏する。
【0040】
本発明の第1の効果は、フォトニック結晶素子を分波器として動作させることができるということである。
【0041】
その理由は、基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターンの多層膜としたフォトニック結晶を用い、波型パターンに対して斜め方向から光ビームを入射させることにより、波型パターンの波の周期と光ビームの入射角度θとで定められる特定の波長の光のみを回折又は反射させることができるからである。
【0042】
本発明の第2の効果は、フォトニック結晶素子を反射型の分散補償器として動作させることができるということである。
【0043】
その理由は、波型パターンの波の周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させることにより、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターンに沿って伝搬する際に、その場所での波の周期に対応する波長成分の光のみが反射又は回折されるため、波長によって異なる距離を伝搬させることができるからである。
【0044】
本発明の第3の効果は、フォトニック結晶素子を透過型の分散補償器として動作させることができるということである。
【0045】
その理由は、場所によって波の周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、一方の波型パターンに沿って光ビームが伝搬する際に、その場所の波の周期に対応した波長成分の光のみが波型パターンの向きによって決まる方向に回折又は反射され、他方の波型パターンで再び1本の光ビームになるため、波長によって異なる経路を伝搬させることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の波型パターン・フォトニック結晶の構造を示す図である。
【図2】波型フォトニック結晶のフォトニックバンドを示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いた分波器の動作原理を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いたアド・ドロップMUX回路の動作原理を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いたWDM光パワーモニタの動作原理を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るフォトニック結晶を用いた反射型分散補償器の動作原理を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第3の実施例に係るフォトニック結晶を用いた透過型分散補償器の動作原理を模式的に示す図である。
【図8】鏃型格子フォトニック結晶の構造とフォトニックバンドを示す図である。
【図9】鏃型格子フォトニック結晶と波型格子フォトニック結晶との反射特性比較を示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2 ライン・アンド・スペースパターン
3 誘電体A
4 誘電体B
5 波型パターン
6 光ビーム
7 波長選択ミラー
8 光ファイバアレイ
9 Drop Out
10 Add In
11 面入射PDアレイ
12 チャープ構造
【発明の属する技術分野】
本発明は、東北大学 川上彰二郎 教授らが考案した自己クローニング技術(S. Kawakami et al., Appl. Phys. Lett., 74, 463 (1999).)によって形成される3次元フォトニック結晶を用いる光学素子に関し、特に、光通信に用いる各種光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の光学部品は、ガラスや結晶など天然に存在する材料で形成されているため、それら光学部品の性能も、天然に存在する材料自体の特性によって支配されるものであった。例えば、レンズや分光器、偏光子、分波器、フィルタ、プリズム、導波路等の光学部品を製作する場合、その性能は材料自体の屈折率や誘電率等の物性値によって決まっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば屈折率がより大きな材料が有れば、焦点距離を短くすることができたり、レンズの大きさを小さくすることができるといった要求はこれまでにも数限りなくあり、この材料の物性値の制約が、従来の光学素子や光学部品の性能を制限していた。また、天然に存在する材料を用いて光学部品を製作する場合、材料自体の組成や構造の均一性、切断、研磨等の加工の困難性等から性能の高い部品を安定して得ることが難しかった。
【0004】
このような問題に対して、近年、屈折率や誘電率が大きく異なる2種類の媒質を光波長程度の周期で積層するフォトニック結晶及びフォトニック結晶を用いた光学素子が提案されている(特開2000−131522号公報、特開2001−091701号公報等)。
【0005】
例えば、特開2000−131522号公報には、フォトニック結晶を製作する方法として、バイアス・スパッタリングに代表される堆積粒子の拡散入射とスパッタエッチングを併用した成膜法において、その堆積作用とエッチング作用を相互に制御することにより、表面の凹凸形状を繰り返しつつ層状に堆積させる方法が記載されている。このメカニズムは、堆積粒子の拡散入射により影となる凹部の堆積速度が遅くなる効果、スパッタエッチングによる所定の傾斜角の面においてエッチング速度が最大になる効果、スパッタエッチングにより削られた粒子が再付着する効果の3つの効果の適切な組み合わせで説明される(以下、このような積層技術を自己クローニング技術と称する。)。
【0006】
そして、上記公報には、屈折率の異なる少なくとも2種類の透明体からなる複数の層がz軸方向に沿って積層された多層構造体を高分子材料上に設け、多層構造体を各透明体毎に積層の単位となる層の形状がx軸方向に沿って周期的に凹凸を繰り返した凹凸構造と、y軸方向に沿って一様な構造、又はx軸方向に沿った凹凸構造よりも周期が大きい凹凸構造としたフォトニック結晶を用いて、入射方向がz軸方向に零でない成分を持つ光に対して作用する偏光子を製作できることが記載されている。
【0007】
また、特開2001−091701号公報には、2種以上の誘電体よりなる2次元又は3次元周期構造体に関し、基本的な周期の方向の一つ以上が空間的に徐々にないし緩やかな階段状に変化している部分を少なくともその一部分に含む光機能素子が記載されている。この構造では、フォトニック結晶の区間的に緩やかな格子変調を利用して、巨視的・平均的な媒質定数に傾斜を持たせることができ、光回路の設計自由度を大幅に増すことができるとしている。
【0008】
このように、フォトニック結晶は、天然に存在する材料に光の波長オーダーの細工を施すことにより、どんな物性を有する材料でも人工的に作り出すことができる技術であり、従来の光学素子の性能を大幅に向上させる可能性を秘めた新しい光学材料として期待されているが、フォトニック結晶を光学素子として実際に利用するためには、その具体的な構成や適用方法等を新たに提案する必要がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、フォトニック結晶を利用した新たな光学素子を提案することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光を選択的に反射又は回折させるものである。
【0011】
また、本発明においては、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して45度の方向から透過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを前記光ビームの伝搬方向に直交する方向に反射又は回折させる分波器として用いることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記光ビームの伝搬方向に沿って、前記波の周期が相異なる複数の領域を設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光を順次、反射又は回折させる構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明においては、各々の前記領域に対して、分波出力光を取り出すためのポートと、光を導入するためのポートとを設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをアド・ドロップする機能を備える構成、又は、各々の前記領域に対して、分波出力光のパワーを読み出すための受光素子を配置し、各々の前記領域における前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをモニターする機能を備える構成とすることもできる。
【0014】
また、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期が光ビームの伝搬方向に連続的に変化するように形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に伝搬させ、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを選択的に反射させるものである。
【0015】
本発明においては、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記多層膜中で反射されて折り返されて伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する反射型分散補償素子として用いることもできる。
【0016】
また、本発明の光学素子は、表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期及び向きが光ビームの伝搬方向に連続的に変化する一対のパターンとして形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、一方の波型パターンを前記光ビームが伝搬する際に、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみが選択的に前記波型パターンの向きに応じて定められる角度で反射又は回折され、該反射又は回折された光が他方の波型パターンで集められて、再び1本の光ビームに集束されるものである。
【0017】
本発明においては、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記一方の波型パターンで反射されて前記他方の波型パターンを伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する透過型分散補償素子として用いることもできる。
【0018】
また、本発明においては、前記多層膜を前記波型パターンに代えて鏃型パターンで構成することもできる。
【0019】
このように、本発明は上記構成により、波型パターンの波の周期に対応して定められる特定の波長成分の光のみを回折又は反射させることにより、フォトニック結晶を分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路、分散補償器として利用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に係るフォトニック結晶素子を用いた光学素子は、その好ましい一実施の形態において、基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターンの多層膜とし、この多層膜に波の繰り返し方向に対して斜め方向から光ビームを入射して、波の周期と光ビームの入射角度θとで定められる特定の波長成分の光のみを回折又は反射させる分波器やアド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路として用いたり、波の周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させ、伝搬経路の各々場所で波の周期に対応する特定の波長成分の光のみを反射して波長毎に伝搬距離を変化させる反射型の分散補償器として用いたり、場所によって波の周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、一方の波型パターンの各々の場所で波の周期に対応した波長成分の光のみを回折させて他方の波型パターンに集め、波長毎に伝搬距離を変化させる透過型の分散補償器として用いることができる。
【0021】
【実施例】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0022】
初めに、本発明の第1の実施例としての分波器を示す。その構成は、Si等の半導体基板上に図1に示す様なライン・アンド・スペース パターン2を形成し、その上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体としてSiO2等を、屈折率の高い誘電体としてはSiやTa2O5等を交互に積層することにより、所謂3次元フォトニック結晶を形成するもので、前記ライン・アンド・スペース パターン2上には、図に示す様に波型パターン5の多層膜が形成される。
【0023】
この波型パターン5の部分に対して、垂直方向には、図2に示すように或る波長(エネルギー)の光に対してバンドギャップが存在し、光が反射されることも知られている。このバンドギャップ波長は、波型パターン5の周期(Lx)に対応し、波型パターン5の周期を変えればバンドギャップ波長も変えることができる。
【0024】
さらに、図3に示す構成の様に、波型パターン5の部分に、波型パターン5に対して斜め45度方向から光ビーム6を入射させることにより、波型パターン5の波の周期と光ビーム6の入射角度θ(この図の場合は45度)とで決まる波長成分の光のみが光ビーム6の進行方向に対して直角方向に回折(反射)され、それ以外の波長成分の光は回折(反射)されずに真っ直ぐに進行する。従って、フォトニック結晶素子を分波器として動作させることができる。
【0025】
この波型パターン5の波の周期と反射波長の関係は、厳密には波型パターン形状のフォトニック結晶構造に対して斜め方向のフォトニックバンドを計算し、そのフォトニックバンドギャップのエネルギーから求める必要があるが、大雑把には波型パターン5の周期をLx、積層する2種類の誘電体膜(誘電体A、誘電体B)の平均屈折率をnaとすると、反射波長は垂直入射の場合2×na×Lxで与えられる。また、斜め入射の場合の反射波長は、入射光ビーム6と波型パターン5の為す角度がθの場合、2×na×Lx×cosθで与えられる(従って、直角入射の場合θ=0度となり、2×na×Lxに一致する。)。
【0026】
波型パターン5の波の周期は、最初に基板上に形成するライン・アンド・スペースパターン2の周期によって決まる。従って、基板1に形成するパターンを変えることにより、分波器としての動作波長を自由に設定することができる。さらに、光ビーム6の伝搬方向に沿って、異なる周期の波型パターン5を複数形成すれば、その周期に対応した波長成分の光のみが各々の波型パターン5で次々と分波されていく多チャンネルの分波器として利用することができる。
【0027】
図4は、本分波器を波長多重通信のアド・ドロップMUX回路として用いる場合の構成を示す。素子の基本構成は、図3の分波器と同じであるが、伝搬する光ビームと45度の角度を為す波型パターン5(波長選択ミラー7)の部分に、分波出力を取り出す(Drop Out)ポート9と、その反対側にも光を入力させる(Add In)ポート10を有する。この場合、波長選択ミラー7は、波型パターン5の周期に応じて或る波長を分波(ドロップ)させる機能を有すると同時に、もう一方のポートからその波長の光を加える(アド)機能も担っている。従って、フォトニック結晶素子を波長多重(WDM)通信用のアド・ドロップMUX回路として機能させることができる。
【0028】
図5は、本分波器をWDM通信の光パワーモニタ回路として用いる場合の構成を示す。素子の基本構成は図3の分波器と同じであるが、図に示す様に分岐出力側に複数の受光素子(PD)を配置した構成となっている。勿論、受光素子は図に示す様な面入射型のものでも良いし、通信用途で用いられるような導波路型のものでも良い。また、図に示す様にアレイにして張り合わせると、光軸調整も一括してできるので容易になる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施例としての反射型の分散補償器を図6に示す。その構成は光ビームの伝搬経路に沿って波型パターン5の波長選択ミラー7が形成されているが、波型パターン5の波の周期が光ビームの伝搬経路に沿ってチャープ(緩やかに変化)している。このような構造に対して、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターン5に沿って伝搬して行くと、その場所での波型パターン5の波の周期に対応する波長成分の光のみが反射(回折)されて戻って行く。
【0030】
従って、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターン5に沿って伝搬して行く間に、例えば、波長の長い光は入り口付近で反射され、波長の短い光は出口に近い所で反射され(或いはその逆)て戻って行く。従って、反射光は波長によって異なる距離を伝搬することになり、分散補償が可能となる。
【0031】
次に、本発明の第3の実施例としての透過型の分散補償器を図7に示す。その構成は図に示す様に、場所によって波の周期と向きが変化して行く2組の波型パターン5が設けられており、その内、一方の波型パターン5に沿って光ビームが伝搬する時、その場所の波型パターン5の波の周期に対応した波長成分の光のみが波型パターン5の向きによって決まる方向に回折(反射)され、その光ビームの一部が反射された先にはもう一組の波型パターン5が設けられており、先の波型パターン5の各々の部分で回折(反射)された光ビームを集めて、再び1本の光ビームに戻す働きをする。この時、光ビームは波長によって異なる場所で反射され、異なる場所で集められて、再び1本の光ビームになる。従って、波長によって異なる経路を伝搬することになり、波長により異なる遅延時間が生じ、分散補償が可能となる。
【0032】
ところで、波型パターン5のフォトニック結晶による波長選択ミラー7は、図2に示すように、そのフォトニックバンドにおける第2バンドの高エネルギー(短波長)端に形成されるバンドギャップを利用する。この場合、バンドギャップの高エネルギー(短波長)側の通過波長帯は第3バンドを利用することになるが、この第3バンドによる通過波長帯域の広さと透過率とが重要となる。通過帯域は第3バンドのエネルギー幅で決まり、これが広ければ通過帯域も広くなる。透過率は単純には求まらないが、一つの目安として、光の群速度に対応するバンドの傾きが大きい程高い透過率が得られると考えてよい。図2に示すように、第2バンドに比べて第3バンドの傾きが小さい場合、透過率は反射波長帯の短波長側で低くなる。またこの場合、反射波長帯の短波長側の通過帯域も狭くなり、従って、このようなケースは波長選択ミラーとしては好ましくない。
【0033】
図2のバンド図に対応する構造は、波型パターン5の単位格子が、高屈折率媒質として屈折率が約2.1のTa2O5と、低屈折率媒質として屈折率が約1.5のSiO2とからなり、単位格子の形状が図に示す様にLx=0.8μm、Lz=0.72μmの場合であるが、屈折率はそのままにして格子の形状を変え、Lz=0.6μmにすると、第3バンドの傾きが大きく(第2バンドと同程度と)なり、バンドのエネルギー幅も広くなる。しかしこの場合は、反射帯の反射率が低下するという問題点が出てきてしまう。
【0034】
この問題の一つの解決策としては、波型パターン5の単位格子を構成する媒質の屈折率差を大きくすればよい。例えば、高屈折率媒質としてTa2O5の代わりに、屈折率が約3.5のSiを用いることにより、反射帯の反射率を損なうことなく高エネルギー(短波長)側の通過波長帯を広くかつ透過率を高くすることができる。
【0035】
もう一つの解決策としては、波型パターン5の単位格子ではなく、図8に示すような鏃型の単位格子を用いるという方法が有る。鏃型の単位格子の場合、そのバンド構造は図8に示す様に、第1バンドと第2バンドの間にバンドギャップが生じ、ここを反射波長帯に用いれば、その高エネルギー(短波長)側および低エネルギー(長波長)側の通過波長帯の帯域は広くとれ、透過率も高い。この場合は、単位格子を構成する媒質がSiでもTa2O5でも共に良好な波長選択ミラーが得られる。
【0036】
図9に、鏃型格子フォトニック結晶による反射鏡と、先の波型格子フォトニック結晶による反射鏡とで、透過スペクトルを比較したもの(計算)を示す。反射特性は、透過率を1から引けば求まる。各々条件を振って計算しているが、鏃型フォトニック結晶の方が、反射波長帯の上下の波長帯が広くとれ、その透過率も高く、良好な反射特性が得られることが分かる。従って、上記のフォトニック結晶素子を、波型フォトニック結晶の代わりに鏃型フォトニック結晶で作製すれば、より良好な特性が得られる。
【0037】
以上に示した例では、素子内での光ビーム6の伝搬に対して光導波路構造の有無については触れていないが、光ビーム6が比較的太く(φ10μm以上)、素子の長さが短い(数100μm程度)場合には、導波路構造無しでも光ビームは広がること無く伝搬し、素子は良好に動作するが、格子変調構造による光導波路(川上他 フォトニック結晶シンポジウム予稿集、2002年1/24〜25、京都)と組み合わせれば、そのような制約は無くなり、なお好ましい。
【0038】
なお、上記説明では、フォトニック結晶を分波器、アド・ドロップMUX回路、光パワーモニタ回路、分散補償器に適用する場合について記載したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、波型又は鏃型パターンの周期に対応して定められる特定の波長成分の光のみを回折(反射)する機能を利用することができる任意の光学素子に適用することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば下記記載の効果を奏する。
【0040】
本発明の第1の効果は、フォトニック結晶素子を分波器として動作させることができるということである。
【0041】
その理由は、基板上に形成したライン・アンド・スペース パターン上に自己クローニング技術を用いて屈折率の低い誘電体と屈折率の高い誘電体とを交互に積層して波型パターンの多層膜としたフォトニック結晶を用い、波型パターンに対して斜め方向から光ビームを入射させることにより、波型パターンの波の周期と光ビームの入射角度θとで定められる特定の波長の光のみを回折又は反射させることができるからである。
【0042】
本発明の第2の効果は、フォトニック結晶素子を反射型の分散補償器として動作させることができるということである。
【0043】
その理由は、波型パターンの波の周期を光ビームの伝搬経路に沿って緩やかに変化させることにより、様々な波長成分を有する光ビームが波型パターンに沿って伝搬する際に、その場所での波の周期に対応する波長成分の光のみが反射又は回折されるため、波長によって異なる距離を伝搬させることができるからである。
【0044】
本発明の第3の効果は、フォトニック結晶素子を透過型の分散補償器として動作させることができるということである。
【0045】
その理由は、場所によって波の周期と向きが変化する2組の波型パターンを設け、一方の波型パターンに沿って光ビームが伝搬する際に、その場所の波の周期に対応した波長成分の光のみが波型パターンの向きによって決まる方向に回折又は反射され、他方の波型パターンで再び1本の光ビームになるため、波長によって異なる経路を伝搬させることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の波型パターン・フォトニック結晶の構造を示す図である。
【図2】波型フォトニック結晶のフォトニックバンドを示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いた分波器の動作原理を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いたアド・ドロップMUX回路の動作原理を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るフォトニック結晶を用いたWDM光パワーモニタの動作原理を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るフォトニック結晶を用いた反射型分散補償器の動作原理を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第3の実施例に係るフォトニック結晶を用いた透過型分散補償器の動作原理を模式的に示す図である。
【図8】鏃型格子フォトニック結晶の構造とフォトニックバンドを示す図である。
【図9】鏃型格子フォトニック結晶と波型格子フォトニック結晶との反射特性比較を示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2 ライン・アンド・スペースパターン
3 誘電体A
4 誘電体B
5 波型パターン
6 光ビーム
7 波長選択ミラー
8 光ファイバアレイ
9 Drop Out
10 Add In
11 面入射PDアレイ
12 チャープ構造
Claims (10)
- 表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光を選択的に反射又は回折させることを特徴とする光学素子。 - 請求項1記載の光学素子において、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して45度の方向から透過させ、前記波型パターンの波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを前記光ビームの伝搬方向に直交する方向に反射又は回折させる分波器として用いることを特徴とする光学素子。
- 請求項1又は2に記載の光学素子において、前記光ビームの伝搬方向に沿って、前記波の周期が相異なる複数の領域を設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光を順次、反射又は回折させることを特徴とする光学素子。
- 請求項3記載の光学素子において、各々の前記領域に対して、分波出力光を取り出すためのポートと、光を導入するためのポートとを設け、各々の前記領域で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをアド・ドロップする機能を備えることを特徴とする光学素子。
- 請求項3記載の光学素子において、各々の前記領域に対して、分波出力光のパワーを読み出すための受光素子を配置し、各々の前記領域における前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみをモニターする機能を備えることを特徴とする光学素子。
- 表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期が光ビームの伝搬方向に連続的に変化するように形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に伝搬させ、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみを選択的に反射させることを特徴とする光学素子。 - 請求項6記載の光学素子において、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記多層膜中で反射されて折り返されて伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する反射型分散補償素子として用いることを特徴とする光学素子。
- 表面に周期的な凹凸パターンが形成された基板上に、自己クローニング技術によって、屈折率の低い第1の誘電体と屈折率の高い第2の誘電体とが交互に積層されてなるフォトニック結晶素子を用いた光学素子において、
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とで断面形状が波型パターンの多層膜が形成され、前記波型パターンは波の周期及び向きが光ビームの伝搬方向に連続的に変化する一対のパターンとして形成され、前記光ビームを、前記多層膜の積層方向に直交する面内、かつ、前記波の繰り返し方向に対して斜め方向から通過させ、一方の波型パターンを前記光ビームが伝搬する際に、伝搬経路の各々の場所で、前記波の周期に対応して定められる波長成分の光のみが選択的に前記波型パターンの向きに応じて定められる角度で反射又は回折され、該反射又は回折された光が他方の波型パターンで集められて、再び1本の光ビームに集束されることを特徴とする光学素子。 - 請求項8の光学素子において、複数の波長成分を有する光の各々の波長の光に対して異なる反射点を与えることにより、前記一方の波型パターンで反射されて前記他方の波型パターンを伝搬する距離を波長ごとに変化させ、分散補償或いは光パルスの時間幅を圧縮する透過型分散補償素子として用いることを特徴とする光学素子。
- 請求項1乃至9のいずれか一に記載の光学素子において、前記多層膜を前記波型パターンに代えて鏃型パターンで構成することを特徴とする光学素子。
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Cited By (3)
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WO2012159238A1 (zh) * | 2011-05-20 | 2012-11-29 | 北京航空航天大学 | 一种光学相位器件及其应用方法和系统 |
WO2015166852A1 (ja) * | 2014-05-02 | 2015-11-05 | 日本碍子株式会社 | 光学素子およびその製造方法 |
JP2017161765A (ja) * | 2016-03-10 | 2017-09-14 | 富士通株式会社 | 光素子及び光生成装置 |
-
2002
- 2002-07-12 JP JP2002203382A patent/JP2004045779A/ja active Pending
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