JP2004044006A - 漂白効率の改善方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の第1の課題は、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白において、漂白効率を高める技術の提供にある。第2の課題は、該過酸化水素漂白でより高い白色度を得る方法を提供することにある。
【解決手段】ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、漂白コストの低減、あるいは、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
【解決手段】ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、漂白コストの低減、あるいは、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
パルプの漂白方法であって、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素を添加するに先立ち、水酸化ナトリウムとpH緩衝剤を予め添加することを特徴とするパルプの漂白方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紙パルプ工場から排出される排水中の有機塩素化合物が環境に与える影響に関心が集まる中、塩素の使用に対する反対が増大しつつある。この理由からパルプの漂白においてECF漂白やTCF漂白が急速に拡大している。塩素に代わる薬品としては、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化塩素などがあるが、これらの漂白薬品は塩素と比較して薬品単価が高いため、従来の塩素を使用した漂白方法に比べ、漂白コストが高くなることが問題となっている。過酸化水素漂白の場合、比較的高い白色度のパルプを製造できること、また漂白排水を回収使用できることなどの理由で使用量が増大している。そういった背景の中、同一過酸化水素添加量で、より効率的に漂白を行う技術の開発が求められている。
【0003】
過酸化水素は酸性においては比較的安定であるが、中性付近から不安定となり、pH=11.5付近から徐々に分解が始まり、更にpHが高まるにつれて激しく分解する。pHが上昇すると漂白反応速度も高まり、この分解反応と漂白反応は競合関係にある。ケミカルパルプの漂白の場合、pH=4付近でパルプ白色度が最も低く、pHの上昇に伴いパルプ白色度が高くなっていく。パルプ粘度のような品質も同様な傾向にある。以上の分解反応、漂白反応速度、並びにパルプ品質を考慮して、漂白pHは10〜11の範囲が好ましいと一般的に言われている(紙パルプ技術協会編 パルプ処理および漂白P.202)。パルプ懸濁液を、このpHに調整するためにアルカリ薬剤が使用されており、価格が安い点から通常水酸化ナトリウムが使用されている。
【0004】
過酸化水素漂白においては、アルカリ性条件下で、下記の解離で生じたHOO−により漂白反応が進行するが、この解離で生じた水素イオンによりアルカリが消費され、パルプ懸濁液のpHは次第に低下し、反応終了時のpH(以下、終了pHと記述する)は、過酸化水素添加直後よりも低下してしまう。
解離反応:H2O2→H++HOO−
したがって、過酸化水素添加直後から漂白終了時の間を通じて最適なpH範囲を維持することは、非常に困難である。特に、過酸化水素添加量が多い場合は、最適な終了pHを得るためには、過酸化水素添加時のpHを高く設定する必要があり、反応初期のpHが最適な範囲外になってしまい、漂白効率が低下することが懸念される。一方、過酸化水素添加時のpHを高く調整しない場合には、終了pHが適切な範囲外になり、この場合もまた漂白効率が低下してしまう。
【0005】
ケミカルパルプの過酸化水素漂白において、反応時のpHあるいは終了pHを調整する従来の技術としては、例えば、特許第1453574号、特開2002−4188号公報などが挙げられる。特許第1453574号では、未漂白製紙用ケミカルパルプの過酸化水素漂白において、パルプ懸濁液にアルカリ性薬剤、アルカリ金属珪酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、金属イオン封鎖剤を添加して漂白を行う技術が登録されている。この方法によると、パルプ懸濁液、アルカリ金属珪酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、金属イオン封鎖剤から成る混合液のpHの調整用に、アルカリ薬剤を最後に添加し、pH=11〜11.5に保持すること、またアルカリ薬剤として水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムが好ましいことが記載されている。この方法では、pHを11〜11.5に保持するための薬剤はアルカリ薬剤とアルカリ金属珪酸塩と考えられるが、珪酸塩を使用するため、漂白排水の回収系におけるスケール沈着などの問題が懸念される。特開2002−4188号公報では、クラフトパルプの多段漂白工程において、塩素漂白段に続くアルカリを併用した過酸化水素漂白段(E/P段)の終了pHを11以上で漂白する技術が開示され、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用することが記載されている。しかし、この技術は、終了pHを11以上にするために水酸化ナトリウムを予め多く添加し、反応初期のpHを高めるものであり、反応初期のpHが最適なpH値以上になってしまうという問題がある。以上にように、過酸化水素漂白段において、反応初期から反応終了までの間、最適なpH範囲に入れることができる簡単なpH調整技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明者らは、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段における漂白効率の改善に関して、過酸化水素の反応時pHおよび終了pHの調整について検討した結果、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を過酸化水素に先立って添加することにより、過酸化水素漂白におけるパルプ懸濁液のpHを適切な範囲に調整・保持でき、その結果、過酸化水素の漂白効率が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の課題は、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白において、漂白効率を高める技術の提供にある。第2の課題は、該過酸化水素漂白でより高い白色度を得る方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
【0009】
【発明の実施の形態】
この発明に用いられるケミカルパルプとしては、ソーダ法、サルファイト法、クラフト法により製造されたものが挙げられる。また、材料としては針葉樹、広葉樹の他に、ケナフやワラといったいわゆる非木材原料も考えられる。さらにクラフト法については修正法として、MCC、EMCC、ITC、Lo−solid法等が知られているが、それらの方法に限定されず、また、酸素脱リグニン処理を行ったものあるいは行っていないもののどちらでも構わず適用できる。また、本発明の過酸化水素漂白段に先立つ漂白シーケンスも特に限定はない。
【0010】
本発明のpH緩衝剤を添加した過酸化水素漂白は、多段漂白工程後期のカッパー価1〜4のパルプを処理対象とした、過酸化水素漂白段(P段)や酸素を併用した過酸化水素漂白段(Op段)に適用できる。P段やOp段では、アルカリ性条件下で反応を行うこと、および、そのアルカリ薬剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどが使用されることは公知の技術であるが、本発明で使用するアルカリ薬剤は水酸化ナトリウムに限定される。水酸化ナトリウムの添加量は、前漂白段の反応終了時pHや前段漂白後のパルプの洗浄程度などに影響されるが、パルプ懸濁液のpHが11.0〜12.0、好ましくはpH=11.5〜12.0となる量を添加する。
【0011】
本発明で使用するpH緩衝剤を表1に示す。
【表1】
【0012】
表1の(1)〜(3)の化合物は、これ自体はpH緩衝作用を示さないが、P段やOp段で添加されるアルカリ薬剤である水酸化ナトリウムの水溶液と混合された時にpH緩衝作用を示す。すなわち、(四ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系、(リン酸水素二ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系、(炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系でpH緩衝作用を示すことになる。
【0013】
pH緩衝剤は、四ホウ酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウムの中から1種類を選び、水酸化ナトリウムを添加した後のパルプ懸濁液に添加する。これらのpH緩衝剤は、固体状でも水溶液状でも添加できる。P段における薬品の順序は、水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、過酸化水素の順が好ましい。Op段における薬品の順序は、水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、酸素、過酸化水素の順が好ましい。pH緩衝剤の添加量は、0.05〜5.0固形分重量%(対パルプ固形分重量)である。0.05%未満ではpH緩衝作用に乏しく、コストの面から5.0%を超える場合は実用的ではない。
【0014】
P段の漂白条件は特に限定は無く、公知のパルプ濃度、反応温度、反応時間で行うことができる。過酸化水素漂白処理後の終了pHは10.0〜12.0、好ましくはpH=11.0〜12.0、更に好ましくはpH=11.5〜12.0の範囲である。pHが10.0未満である場合は、過酸化水素の反応性が低くなってしまうため好ましくない。また、pHが12.0を超える場合は、過酸化水素の分解反応が進行しやすく、漂白反応が充分に進まないため、いずれも好ましくない。同様にOp段の漂白条件は特に限定は無く、公知のパルプ濃度、酸素圧、反応温度、反応時間で行うことができる。Op漂白処理後の終了pHは10.0〜12.0、好ましくはpH=11.0〜12.0、更に好ましくはpH=11.5〜12.0の範囲である。
【0015】
過酸化水素の分解を抑制する目的で、P段あるいはOp段の前処理としてEDTAやDTPAなどの金属イオン封鎖剤を添加することもできるし、また漂白反応時のパルプセルロースの崩壊を防止する目的で、マグネシウム塩、カルシウムなどを添加しても良い。
【0016】
pH緩衝剤添加により過酸化水素の漂白効率が高まるメカニズムの詳細は明らかではないが、本発明者らは次のように推測している。緩衝剤を添加することで、過酸化水素漂白時の反応開始から反応終了までの間のpH低下幅を縮小でき、その結果、反応系のpHが高く維持されることから、漂白反応での過酸化水素の消費が促進され、漂白効率が改善されるというメカニズムが考えられる。
【0017】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に示すが、本発明は勿論かかる実施例に限定されるものではない。
供試パルプ:広葉樹チップをクラフト法で蒸解したパルプを酸素脱リグニン処理(O)し、続いてオゾン漂白(Z)、アルカリ抽出(E)、二酸化塩素漂白(D)、を行い、カッパー価2.7、ハンター白色度76.0%のパルプを得た。このパルプを以下の実施例1〜4、比較例1、2で使用した。
薬品添加量は固形分重量%(対絶乾パルプ)で表示した。
【0018】
【実施例1】
供試パルプに水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、過酸化水素を順次添加しP漂白処理を行った。pH緩衝剤には四ホウ酸ナトリウムを使用した。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の実施例1に示した。
水酸化ナトリウム添加量:パルプ懸濁液のpHが12.0になるように水酸化ナトリウムを添加した。
四ホウ酸ナトリウム添加量:2.0%
漂白条件:パルプ濃度10固形分重量%、過酸化水素添加量0.8%、反応温度80℃、反応時間2時間
【0019】
【実施例2】
pH緩衝剤にリン酸水素二ナトリウムを使用し1.5%添加とした以外は、実施例1と同様にP漂白処理を行った。結果を表2の実施例2に示した。
【0020】
【実施例3】
pH緩衝剤に炭酸水素ナトリウムを使用し1.0%添加した以外は、実施例1と同様にP漂白処理を行った。結果を表2の実施例3に示した。
【0021】
【比較例1】
pH緩衝剤を添加しない以外は、実施例1と同様なP漂白処理を行った。結果を表2の比較例1に示した。
【0022】
【実施例4】
供試パルプに水酸化ナトリウム、酸素、pH緩衝剤、過酸化水素を順次添加しOp漂白処理を行った。pH緩衝剤には四ホウ酸ナトリウムを使用した。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の実施例4に示した。
水酸化ナトリウム添加量:パルプ懸濁液のpHが12.0になるように水酸化ナトリウムを添加した。
四ホウ酸ナトリウム:2.0%
酸素添加量:0.2%
酸素圧:3.0kg/cm2
漂白条件:パルプ濃度10固形分重量%、過酸化水素添加量0.8%、反応温度90℃、反応時間2時間
【0023】
【実施例5】
pH緩衝剤にリン酸水素二ナトリウムを使用し1.5%添加した以外は、実施例4と同様にOp漂白処理を行った。結果を表2の実施例5に示した。
【0024】
【実施例6】
pH緩衝剤に炭酸水素ナトリウムを使用し1.0%添加した以外は、実施例4と同様にOp漂白処理を行った。結果を表2の実施例6に示した。
【0025】
【比較例2】
pH緩衝剤を添加しない以外は、実施例4と同様なOp漂白処理を行った。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の比較例2に示した。
【0026】
【表2】
【0027】
P段でpH緩衝剤を添加した場合の終了pHは、四ホウ酸ナトリウムで11.4、リン酸水素二ナトリウムで11.3、炭酸水素ナトリウムで11.3であり、いずれも適切なpH範囲を維持しているが、pH緩衝剤を添加しない場合の終了pHは9.8であり、適切なpH範囲から外れている。その影響で、パルプ白色度がpH緩衝剤を添加したほうが高く、四ホウ酸ナトリウムで1.1%、リン酸水素二ナトリウムで1.1%、炭酸水素ナトリウムで1.0%高くなっている。Op段でpH緩衝剤を添加した場合の終了pHは、四ホウ酸ナトリウムで11.2、リン酸水素二ナトリウムで11.1、炭酸水素ナトリウムで11.1であり、いずれも適切なpH範囲を維持しているが、pH緩衝剤を添加しない場合の終了pHは9.6であり、適切なpH範囲から外れている。その影響で、パルプ白色度がpH緩衝剤を添加したほうが高く、四ホウ酸ナトリウムで0.8%、リン酸水素二ナトリウムで0.7%、炭酸水素ナトリウムで0.7%高くなっている。
【0028】
【発明の効果】
ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、漂白コストの低減、あるいは、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
【発明の属する技術分野】
パルプの漂白方法であって、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素を添加するに先立ち、水酸化ナトリウムとpH緩衝剤を予め添加することを特徴とするパルプの漂白方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紙パルプ工場から排出される排水中の有機塩素化合物が環境に与える影響に関心が集まる中、塩素の使用に対する反対が増大しつつある。この理由からパルプの漂白においてECF漂白やTCF漂白が急速に拡大している。塩素に代わる薬品としては、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化塩素などがあるが、これらの漂白薬品は塩素と比較して薬品単価が高いため、従来の塩素を使用した漂白方法に比べ、漂白コストが高くなることが問題となっている。過酸化水素漂白の場合、比較的高い白色度のパルプを製造できること、また漂白排水を回収使用できることなどの理由で使用量が増大している。そういった背景の中、同一過酸化水素添加量で、より効率的に漂白を行う技術の開発が求められている。
【0003】
過酸化水素は酸性においては比較的安定であるが、中性付近から不安定となり、pH=11.5付近から徐々に分解が始まり、更にpHが高まるにつれて激しく分解する。pHが上昇すると漂白反応速度も高まり、この分解反応と漂白反応は競合関係にある。ケミカルパルプの漂白の場合、pH=4付近でパルプ白色度が最も低く、pHの上昇に伴いパルプ白色度が高くなっていく。パルプ粘度のような品質も同様な傾向にある。以上の分解反応、漂白反応速度、並びにパルプ品質を考慮して、漂白pHは10〜11の範囲が好ましいと一般的に言われている(紙パルプ技術協会編 パルプ処理および漂白P.202)。パルプ懸濁液を、このpHに調整するためにアルカリ薬剤が使用されており、価格が安い点から通常水酸化ナトリウムが使用されている。
【0004】
過酸化水素漂白においては、アルカリ性条件下で、下記の解離で生じたHOO−により漂白反応が進行するが、この解離で生じた水素イオンによりアルカリが消費され、パルプ懸濁液のpHは次第に低下し、反応終了時のpH(以下、終了pHと記述する)は、過酸化水素添加直後よりも低下してしまう。
解離反応:H2O2→H++HOO−
したがって、過酸化水素添加直後から漂白終了時の間を通じて最適なpH範囲を維持することは、非常に困難である。特に、過酸化水素添加量が多い場合は、最適な終了pHを得るためには、過酸化水素添加時のpHを高く設定する必要があり、反応初期のpHが最適な範囲外になってしまい、漂白効率が低下することが懸念される。一方、過酸化水素添加時のpHを高く調整しない場合には、終了pHが適切な範囲外になり、この場合もまた漂白効率が低下してしまう。
【0005】
ケミカルパルプの過酸化水素漂白において、反応時のpHあるいは終了pHを調整する従来の技術としては、例えば、特許第1453574号、特開2002−4188号公報などが挙げられる。特許第1453574号では、未漂白製紙用ケミカルパルプの過酸化水素漂白において、パルプ懸濁液にアルカリ性薬剤、アルカリ金属珪酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、金属イオン封鎖剤を添加して漂白を行う技術が登録されている。この方法によると、パルプ懸濁液、アルカリ金属珪酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、金属イオン封鎖剤から成る混合液のpHの調整用に、アルカリ薬剤を最後に添加し、pH=11〜11.5に保持すること、またアルカリ薬剤として水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムが好ましいことが記載されている。この方法では、pHを11〜11.5に保持するための薬剤はアルカリ薬剤とアルカリ金属珪酸塩と考えられるが、珪酸塩を使用するため、漂白排水の回収系におけるスケール沈着などの問題が懸念される。特開2002−4188号公報では、クラフトパルプの多段漂白工程において、塩素漂白段に続くアルカリを併用した過酸化水素漂白段(E/P段)の終了pHを11以上で漂白する技術が開示され、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用することが記載されている。しかし、この技術は、終了pHを11以上にするために水酸化ナトリウムを予め多く添加し、反応初期のpHを高めるものであり、反応初期のpHが最適なpH値以上になってしまうという問題がある。以上にように、過酸化水素漂白段において、反応初期から反応終了までの間、最適なpH範囲に入れることができる簡単なpH調整技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明者らは、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段における漂白効率の改善に関して、過酸化水素の反応時pHおよび終了pHの調整について検討した結果、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を過酸化水素に先立って添加することにより、過酸化水素漂白におけるパルプ懸濁液のpHを適切な範囲に調整・保持でき、その結果、過酸化水素の漂白効率が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の課題は、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白において、漂白効率を高める技術の提供にある。第2の課題は、該過酸化水素漂白でより高い白色度を得る方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
【0009】
【発明の実施の形態】
この発明に用いられるケミカルパルプとしては、ソーダ法、サルファイト法、クラフト法により製造されたものが挙げられる。また、材料としては針葉樹、広葉樹の他に、ケナフやワラといったいわゆる非木材原料も考えられる。さらにクラフト法については修正法として、MCC、EMCC、ITC、Lo−solid法等が知られているが、それらの方法に限定されず、また、酸素脱リグニン処理を行ったものあるいは行っていないもののどちらでも構わず適用できる。また、本発明の過酸化水素漂白段に先立つ漂白シーケンスも特に限定はない。
【0010】
本発明のpH緩衝剤を添加した過酸化水素漂白は、多段漂白工程後期のカッパー価1〜4のパルプを処理対象とした、過酸化水素漂白段(P段)や酸素を併用した過酸化水素漂白段(Op段)に適用できる。P段やOp段では、アルカリ性条件下で反応を行うこと、および、そのアルカリ薬剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどが使用されることは公知の技術であるが、本発明で使用するアルカリ薬剤は水酸化ナトリウムに限定される。水酸化ナトリウムの添加量は、前漂白段の反応終了時pHや前段漂白後のパルプの洗浄程度などに影響されるが、パルプ懸濁液のpHが11.0〜12.0、好ましくはpH=11.5〜12.0となる量を添加する。
【0011】
本発明で使用するpH緩衝剤を表1に示す。
【表1】
【0012】
表1の(1)〜(3)の化合物は、これ自体はpH緩衝作用を示さないが、P段やOp段で添加されるアルカリ薬剤である水酸化ナトリウムの水溶液と混合された時にpH緩衝作用を示す。すなわち、(四ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系、(リン酸水素二ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系、(炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム)混合系でpH緩衝作用を示すことになる。
【0013】
pH緩衝剤は、四ホウ酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウムの中から1種類を選び、水酸化ナトリウムを添加した後のパルプ懸濁液に添加する。これらのpH緩衝剤は、固体状でも水溶液状でも添加できる。P段における薬品の順序は、水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、過酸化水素の順が好ましい。Op段における薬品の順序は、水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、酸素、過酸化水素の順が好ましい。pH緩衝剤の添加量は、0.05〜5.0固形分重量%(対パルプ固形分重量)である。0.05%未満ではpH緩衝作用に乏しく、コストの面から5.0%を超える場合は実用的ではない。
【0014】
P段の漂白条件は特に限定は無く、公知のパルプ濃度、反応温度、反応時間で行うことができる。過酸化水素漂白処理後の終了pHは10.0〜12.0、好ましくはpH=11.0〜12.0、更に好ましくはpH=11.5〜12.0の範囲である。pHが10.0未満である場合は、過酸化水素の反応性が低くなってしまうため好ましくない。また、pHが12.0を超える場合は、過酸化水素の分解反応が進行しやすく、漂白反応が充分に進まないため、いずれも好ましくない。同様にOp段の漂白条件は特に限定は無く、公知のパルプ濃度、酸素圧、反応温度、反応時間で行うことができる。Op漂白処理後の終了pHは10.0〜12.0、好ましくはpH=11.0〜12.0、更に好ましくはpH=11.5〜12.0の範囲である。
【0015】
過酸化水素の分解を抑制する目的で、P段あるいはOp段の前処理としてEDTAやDTPAなどの金属イオン封鎖剤を添加することもできるし、また漂白反応時のパルプセルロースの崩壊を防止する目的で、マグネシウム塩、カルシウムなどを添加しても良い。
【0016】
pH緩衝剤添加により過酸化水素の漂白効率が高まるメカニズムの詳細は明らかではないが、本発明者らは次のように推測している。緩衝剤を添加することで、過酸化水素漂白時の反応開始から反応終了までの間のpH低下幅を縮小でき、その結果、反応系のpHが高く維持されることから、漂白反応での過酸化水素の消費が促進され、漂白効率が改善されるというメカニズムが考えられる。
【0017】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に示すが、本発明は勿論かかる実施例に限定されるものではない。
供試パルプ:広葉樹チップをクラフト法で蒸解したパルプを酸素脱リグニン処理(O)し、続いてオゾン漂白(Z)、アルカリ抽出(E)、二酸化塩素漂白(D)、を行い、カッパー価2.7、ハンター白色度76.0%のパルプを得た。このパルプを以下の実施例1〜4、比較例1、2で使用した。
薬品添加量は固形分重量%(対絶乾パルプ)で表示した。
【0018】
【実施例1】
供試パルプに水酸化ナトリウム、pH緩衝剤、過酸化水素を順次添加しP漂白処理を行った。pH緩衝剤には四ホウ酸ナトリウムを使用した。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の実施例1に示した。
水酸化ナトリウム添加量:パルプ懸濁液のpHが12.0になるように水酸化ナトリウムを添加した。
四ホウ酸ナトリウム添加量:2.0%
漂白条件:パルプ濃度10固形分重量%、過酸化水素添加量0.8%、反応温度80℃、反応時間2時間
【0019】
【実施例2】
pH緩衝剤にリン酸水素二ナトリウムを使用し1.5%添加とした以外は、実施例1と同様にP漂白処理を行った。結果を表2の実施例2に示した。
【0020】
【実施例3】
pH緩衝剤に炭酸水素ナトリウムを使用し1.0%添加した以外は、実施例1と同様にP漂白処理を行った。結果を表2の実施例3に示した。
【0021】
【比較例1】
pH緩衝剤を添加しない以外は、実施例1と同様なP漂白処理を行った。結果を表2の比較例1に示した。
【0022】
【実施例4】
供試パルプに水酸化ナトリウム、酸素、pH緩衝剤、過酸化水素を順次添加しOp漂白処理を行った。pH緩衝剤には四ホウ酸ナトリウムを使用した。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の実施例4に示した。
水酸化ナトリウム添加量:パルプ懸濁液のpHが12.0になるように水酸化ナトリウムを添加した。
四ホウ酸ナトリウム:2.0%
酸素添加量:0.2%
酸素圧:3.0kg/cm2
漂白条件:パルプ濃度10固形分重量%、過酸化水素添加量0.8%、反応温度90℃、反応時間2時間
【0023】
【実施例5】
pH緩衝剤にリン酸水素二ナトリウムを使用し1.5%添加した以外は、実施例4と同様にOp漂白処理を行った。結果を表2の実施例5に示した。
【0024】
【実施例6】
pH緩衝剤に炭酸水素ナトリウムを使用し1.0%添加した以外は、実施例4と同様にOp漂白処理を行った。結果を表2の実施例6に示した。
【0025】
【比較例2】
pH緩衝剤を添加しない以外は、実施例4と同様なOp漂白処理を行った。終了pHとパルプ白色度の結果を表2の比較例2に示した。
【0026】
【表2】
【0027】
P段でpH緩衝剤を添加した場合の終了pHは、四ホウ酸ナトリウムで11.4、リン酸水素二ナトリウムで11.3、炭酸水素ナトリウムで11.3であり、いずれも適切なpH範囲を維持しているが、pH緩衝剤を添加しない場合の終了pHは9.8であり、適切なpH範囲から外れている。その影響で、パルプ白色度がpH緩衝剤を添加したほうが高く、四ホウ酸ナトリウムで1.1%、リン酸水素二ナトリウムで1.1%、炭酸水素ナトリウムで1.0%高くなっている。Op段でpH緩衝剤を添加した場合の終了pHは、四ホウ酸ナトリウムで11.2、リン酸水素二ナトリウムで11.1、炭酸水素ナトリウムで11.1であり、いずれも適切なpH範囲を維持しているが、pH緩衝剤を添加しない場合の終了pHは9.6であり、適切なpH範囲から外れている。その影響で、パルプ白色度がpH緩衝剤を添加したほうが高く、四ホウ酸ナトリウムで0.8%、リン酸水素二ナトリウムで0.7%、炭酸水素ナトリウムで0.7%高くなっている。
【0028】
【発明の効果】
ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、過酸化水素添加に先立ち、水酸化ナトリウムおよび特定のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することで、過酸化水素の漂白効率を高めることができる。また、漂白コストの低減、あるいは、より高い白色度の漂白パルプを製造できる。
Claims (1)
- パルプの漂白方法であって、ケミカルパルプの多段漂白工程後期の過酸化水素漂白段において、カッパー価1〜4のパルプに過酸化水素を添加するに先立ち、水酸化ナトリウムと、四ホウ酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウムの中から選ばれた一種類のpH緩衝剤を予め添加することにより、反応終了時のpHを10.0〜12.0の範囲に調整することを特徴とするパルプの漂白方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002202035A JP2004044006A (ja) | 2002-07-11 | 2002-07-11 | 漂白効率の改善方法 |
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JP2002202035A JP2004044006A (ja) | 2002-07-11 | 2002-07-11 | 漂白効率の改善方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN106049148A (zh) * | 2016-05-27 | 2016-10-26 | 刘长如 | 禾本科类冷渍制浆与漂白工艺 |
CN107245896A (zh) * | 2017-06-21 | 2017-10-13 | 昆明理工大学 | 一种提高纸浆漂白效率的方法 |
-
2002
- 2002-07-11 JP JP2002202035A patent/JP2004044006A/ja active Pending
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