JP2004039030A - 磁気記録媒体、その製造方法、および磁気記録再生装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基板1上に、軟磁性層2、垂直磁性層5、保護層6を有し、垂直磁性層5は、Cr濃度勾配領域5bを備え、Cr濃度勾配領域5bが、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内である。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法、および磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録再生装置の1種であるハードディスク装置(HDD)は、現在その記録密度が年率60%以上で増加しており、今後もその傾向は続くと言われている。そのため、高記録密度に適した磁気記録用ヘッドの開発、磁気記録媒体の開発が進められている。
現在、市販されている磁気記録再生装置に搭載されている磁気記録媒体は、主に、磁性層内の磁化容易軸が基板に対して主に平行に配向した面内磁気記録媒体である。磁化容易軸とは、自発磁化が安定に向く方向のことであり、Co合金の場合には、hcp構造のc軸方向のことである。
面内磁気記録媒体では、高記録密度化すると記録ビットの1ビットあたりの磁性層の体積が小さくなりすぎ、熱揺らぎ効果により記録再生特性が悪化する可能性がある。また、高記録密度化した際に、記録ビット間の境界領域で発生する反磁界の影響により媒体ノイズが増加する傾向がある。
これに対し、磁性層内の磁化容易軸が基板に対して主に垂直に配向した、いわゆる垂直磁気記録媒体は、高記録密度化した際にも、記録ビット間の境界領域における反磁界の影響が小さく、鮮明なビット境界が形成されるため、ノイズの増加が抑えられる。しかも、高記録密度化に伴う記録ビット体積の減少が少なくてすむため、熱揺らぎ効果にも強い。このため、垂直磁気記録媒体は近年大きな注目を集めており、垂直磁気記録に適した媒体の構造が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体の更なる高記録密度化の要望に対して、垂直磁性層に対する書きこみ能力に優れている単磁極ヘッドを用いることが検討されている。単磁極ヘッドに対応するために、記録層である垂直磁性層と基板との間に、裏打ち層と称される軟磁性層を設けることにより、単磁極ヘッドと磁気記録媒体との間の、磁束の出入りの効率を向上させた磁気記録媒体が提案されている。
しかしながら、単に裏打ち層を設けた磁気記録媒体は、記録再生時の記録再生特性や、熱揺らぎ耐性、記録分解能において満足できるものではなく、これらの特性に優れる磁気記録媒体が要望されている。
とりわけ記録再生特性(特にS/N比(再生時の信号とノイズの比))と熱揺らぎ耐性との両立は、高記録密度化を達成するには必須である。
しかし、これら2つの特性(記録再生特性と熱揺らぎ耐性)は相反する関係を有し、一方を向上させれば他方が不充分になる傾向がある。このため、これら2つの特性を高レベルで両立させることは重要な課題となっている。
特許2615847号公報では、Co含有量の少ない磁性材料からなる下層側磁性層の上に、Co含有量の多い磁性材料からなる上層側磁性層を積層した構造の垂直磁性層を有する磁気記録媒体が提案されている。
同様な手法として、特許3011918号公報では、下層側磁性層の上に上層側磁性層を積層し、この上層側磁性層に、下層側磁性層の材料よりも相対的にCo含有量が多く、かつ飽和磁化(Ms)および磁気異方性定数(Ku)が大きい磁性材料を用いた磁気記録媒体が提案されている。
これらの磁気記録媒体では、低Co含有量の下層側磁性層と、高Co含有量の上層側磁性層とを有する構成によって、記録再生特性と熱揺らぎ特性との改善が図られている。
【0004】
しかし、これらの磁気記録媒体では、Co含有量が多い上層側磁性層において、必然的に磁性粒子の分離を促進する元素(Crなど)含有量が少なく、磁気異方性定数(Ku)を大きくする元素(Ptなど)の含有量が多くなる。
このため、上層側磁性層のCr含有量が少なくなり、この層での磁性粒子の微細化および磁気的分離が不充分となり、ノイズが増加し、S/N比が低下することがある。また上層側磁性層に対する下層側磁性層の厚さ比を増大させて無理にS/N比を向上させようとすると、熱揺らぎ特性が悪化してしまう。
【0005】
前述の特許3011918号公報では、垂直磁性層上に、Pt、Pd、Ir、希土類などからなる金属薄層を設け、これらの元素を磁性層表層部に拡散させ、磁性層表層部のKuを高め、それにより媒体の熱揺らぎ耐性を向上させることが提案されている。
この手法によれば、垂直磁性層の構造および組成を変更することなく、熱揺らぎ耐性を向上させることが可能である。
しかし、この磁気記録媒体では、垂直磁性層表層部にPt、Pd、Ir、希土類などの元素を高濃度に拡散させるため、表層部の磁性粒子の磁気的な分離が不充分となり、結果としてノイズが増加しS/N比が悪化してしまう。
また、磁性粒子内に上記元素が高濃度で入り込むため、その部分での磁化が小さくなり、出力の低下を生じ、S/N比が低下するといった弊害が生じてしまう。
また、2002 IEEE International Magnetics ConferenceにおいてAnup G. Royらは、磁性層の表面にCrMnからなる拡散層を設けることにより保磁力(Hc)が高められ、逆磁区核形成磁界(−Hn)特性が向上したことを報告している。
しかしながら、これによっても高記録密度化に対応した磁気記録媒体特性を得ることは容易でなく、さらに記録再生特性および熱揺らぎ耐性に優れた磁気記録媒体が求められていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、記録再生特性および熱揺らぎ耐性に優れた磁気記録媒体、その製造方法、および磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意努力検討した結果、本発明に到達した。本発明の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層が、Cr濃度勾配領域を備え、このCr濃度勾配領域が、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内であることを特徴とする。
Cr濃度勾配領域は、Al、B、C、Co、Cu、Hf、Nb、Si、Ta、Zr、Mo、Mn、Re、Ru、Sn、Ti、V、W、Sm、Nd、Ho、Ce、Pt、Pdからなる群から選ばれる1種類以上の元素を含む構成とすることができる。
垂直磁性層は、磁性材料からなる単磁性層を備えている構成とすることができる。
本発明では、単磁性層と、Cr濃度勾配領域とが、それぞれ複数形成されている構成を採用することができる。
単磁性層は、Crを10〜24at%の範囲内で含み、Ptを14〜24at%の範囲内で含むことが好ましい。
Cr濃度勾配領域は、酸化層を含む構成とすることができる。
Cr濃度勾配領域は、酸化物を含む構成とすることができる。
本発明の磁気記録媒体は、垂直方向の保磁力分散を0.3以下の範囲内とするのが好ましい。
垂直磁性層の表層部には、酸化層を形成することができる。
本発明の磁気記録媒体は、基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層の表層部に、酸化層が形成されている構成とすることができる。
【0007】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層がCr濃度勾配領域を備えた磁気記録媒体を製造する方法であって、垂直磁性層を形成するにあたって、Cr含有材料を供給し、このCr含有材料を用いてCr濃度勾配領域を形成し、このCr濃度勾配領域を、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内となるようにする方法をとることができる。
本発明の製造方法では、Cr含有材料を150℃以上の温度条件下で供給することによって、Cr濃度勾配領域を形成することができる。
本発明の製造方法では、Cr含有材料を用いてCr含有層を形成し、このCr含有層を150℃以上で熱処理することによってCr濃度勾配領域を形成することができる。
本発明の製造方法は、基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層の表層部に酸化層が形成された磁気記録媒体を製造する方法であって、垂直磁性層を形成するにあたって、磁性材料層を形成し、この磁性材料層の表層部を酸化することによって酸化層を形成する方法をとることができる。
本発明の磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドを備えていることを特徴とする。
なお、本発明において、主成分とは、当該成分を50at%を越えて含む成分であることを意味する。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示すものである。
本実施形態の磁気記録媒体は、非磁性の基板1上に、軟磁性層2と、配向性制御層3と、中間層4と、垂直磁性層5と、保護層6と、潤滑層7とが順次形成されている。
なお、以下、基板1と垂直磁性層5との間の構造(図示例の場合には軟磁性層2と配向性制御層3と中間層4)を下地層8と呼ぶことがある。
【0009】
基板1としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。
ガラス基板としては、アモルファスガラス、結晶化ガラスからなるものがある。
アモルファスガラスとしては汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスを使用できる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスを用いることができる。
セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などからなるものが使用可能である。
また基板1としては、上記金属基板または非金属基板の表面に、メッキ法やスパッタ法を用いてNiP層またはNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0010】
基板1は、平均表面粗さRaを2nm(20オングストローム)以下、好ましくは1nm以下とすると、磁気ヘッド浮上高さを低くすることができるため、高記録密度化の点で好ましい。
また、表面の微小うねり(Wa)を0.3nm以下、好ましくは0.25nm以下とすると、磁気ヘッドを浮上高さを低くすることができるため、高記録密度化の点で好ましい。
微小うねり(Wa)は、例えば、表面粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
さらに、端面のチャンファー部の面取り部と側面部のうち少なくとも一方の表面平均粗さRaを10nm以下、好ましくは9.5nm以下とすることが磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。
【0011】
軟磁性層2は、磁気ヘッドから発生する磁束の垂直方向成分(基板1に対して垂直な方向の成分)を大きくするためと、情報が記録される垂直磁性層5の磁化の方向をより強固に垂直方向に固定するために設けられているものである。この作用は特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0012】
軟磁性層2は、軟磁性材料からなるもので、この材料としては、Fe、Ni、Coを含む材料を用いることができる。この材料としては、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど)、FeMg系合金(FeMgOなど)、FeZr系合金(FeZrNなど)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNB系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
またFeを60at%以上含有し、かつFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNのうち1種以上からなる微結晶を有する構造、あるいはこの微結晶がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いてもよい。
軟磁性層2の材料としては、上記のほか、Coを80at%以上含有し、Zr、NB、Ta、Cr、Mo等のうち少なくとも1種を含有し、かつアモルファス構造を有するCo合金を用いることができる。この材料としては、CoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを好適なものとして挙げることができる。
【0013】
軟磁性層2の保磁力Hcは200(Oe)以下、好ましくは50(Oe)以下とするのが好適である。なお、1(Oe)は79A/mであり、200(Oe)は、15,800A/mである。
この保磁力Hcが上記範囲を超えると、軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波でなく歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0014】
また、軟磁性層2の飽和磁束密度Bsと層厚tとの積Bs・tは、20T・nm以上(好ましくは40T・nm以上)であること好ましい。
このBs・tが上記範囲未満であると、再生波形が歪みをもつようになったり、オーバーライト特性が悪化するおそれがある。
軟磁性層2の厚さは、50〜400nmとするのが好ましい。
【0015】
軟磁性層2の表層部(上面側)には、軟磁性層2を構成する材料が酸化された酸化層を形成するのが好ましい。
これにより、軟磁性層2の表面の磁気的な揺らぎを抑えることができるため、この磁気的な揺らぎに起因するノイズを低減して、磁気記録媒体の記録再生特性を改善することができる。
【0016】
配向性制御層3は、直上に設けられた中間層4および垂直磁性層5の配向性や結晶粒径を制御するものである。
配向性制御層3の材料としては、特に限定されないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特にRu系合金、Ni系合金、Co系合金が好ましい。
なかでも特に、Niを33〜80at%含むNi系合金(例えばNiTa合金、NiNb合金、NiTi合金、NiZr合金から選ばれた少なくとも1種類)が好ましい。
また、Niを33〜80at%含み、かつSc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cのうち1種または2種以上を含む非磁性材料を用いることもできる。
Niの含有量を33〜80at%の範囲とすることによって、配向性制御層3の機能(中間層4および垂直磁性層5の配向性や結晶粒径の制御)を高め、かつ配向性制御層3を非磁性とすることができる。
【0017】
配向性制御層3の厚さは、0.5〜40nm、好ましくは1〜20nmとするのが好適である。
配向性制御層3の厚さをこの範囲とすることによって、垂直磁性層5の垂直配向性を高くし、かつ記録時における磁気ヘッドと軟磁性層2との距離を小さくすることができるため、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
この厚さが上記範囲未満であると、垂直磁性層5における垂直配向性が低下し、記録再生特性および熱揺らぎ耐性が劣化する。
この厚さが上記範囲を超えると、垂直磁性層5の磁性粒子径が大きくなり、ノイズ特性が劣化するおそれがある。また記録時において磁気ヘッドと軟磁性層2との距離が大きくなり、再生信号の分解能や再生出力が低下する。
【0018】
配向性制御層3の表面形状は、垂直磁性層5、保護層6の表面形状に影響を与えるため、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくするには、配向性制御層3の表面平均粗さRaを2nm以下とするのが好ましい。
この表面平均粗さRaを2nm以下とすることによって、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくし、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くし、記録密度を高めることができる。
【0019】
配向性制御層3の表層部(上面側)には、配向性制御層3を構成する材料が酸化(または窒化)された酸化層(または窒化物層)を形成することができる。
【0020】
中間層4は、垂直磁性層5の垂直配向性および保磁力を高め、記録再生特性および熱揺らぎ耐性を向上させるためのものである。
中間層4には、hcp構造を有する材料を用いるのが好ましい。中間層4には、CoCr合金やCoCrX1合金やCoX1合金(X1:Pt、Ta、Zr、Ru,Nb、Cu、Re、Ni、Mn、Ge、Si、O、NおよびBのうち1種または2種以上)を用いるのが好適である。
中間層4のCoの含有量は30〜70at%とすることが好ましい。
中間層4の厚さは、垂直磁性層5における磁性粒子の粗大化による記録再生特性の悪化や、磁気ヘッドと軟磁性層2との距離が大きくなることによる記録分解能の低下を防ぐため、20nm以下、好ましくは10nm以下とするのが好適である。
【0021】
垂直磁性層5は、その磁化容易軸が基板1に対して主に垂直方向に向いた構成とされており、Cr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを備えた構成とされている。
図1に示すように、垂直磁性層5は、単磁性層5a上にCr濃度勾配領域5bを有する構造とするのが好ましい。
【0022】
単磁性層5aに使用される磁性材料としては、少なくともCrとPtを含有するCo合金を挙げることができる。
Cr含有量は10〜24at%の範囲内であることが好ましく、Pt含有量は14〜24at%の範囲内であることが好ましい。
高密度記録に適した媒体特性、すなわち高い静磁気特性、記録再生特性、熱揺らぎ耐性を得るためには、Cr含有量を12〜22at%の範囲内とするのが好ましく、Pt含有量を15〜20at%の範囲内とするのが好ましい。
【0023】
Cr含有量が10at%未満であると、磁性粒子間の交換結合が大きくなり、磁性粒子径も大きくなりやすくなる。その結果、磁気クラスター径が大きくなり、記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した記録再生特性(S/N比)が得られにくくなる。
また、Cr含有量が24at%を超えると、磁性粒子内の残留Cr濃度が増加することになり、残留磁化(Mr)と飽和磁化(Ms)の比(Mr/Ms)、保磁力(Hc)、逆磁区核形成磁界(−Hn)の低下により、熱揺らぎ耐性が悪化しやすくなる。
【0024】
Pt含有量が14at%未満であると、Mr/Ms、保磁力(Hc)、および逆磁区核形成磁界(−Hn)の低下により、結果として熱揺らぎ耐性が悪化しやすくなる。
また、Ptの含有量が24at%を超えると、磁性粒子から粒界層へのCr偏析が阻害され、単磁性層5a中にfcc構造の層が形成され、記録再生時におけるノイズが増大するおそれがある。
【0025】
単磁性層5aに用いられる磁性材料としては、CoCrPtB系合金、CoCrPtTa系合金、CoCrPtTaCu系合金、CoCrPtBCu系合金、CoCrPtTaNd系合金、CoCrPtBNd系合金、CoCrPtBW系合金、CoCrPtBMo系合金、CoCrPtBRu系合金、CoCrPtTaW系合金、CoCrPtTaMo系合金、CoCrPtTaRu系合金、CoCrPtNd系合金、CoCrPtW系合金、CoCrPtMo系合金、CoCrPtRu系合金、CoCrPtCu系合金からなる群から選ばれた1種類以上が特に好ましい。
【0026】
単磁性層5aには、B、Ta、Cuから選ばれる1種類以上の元素を含む磁性材料を使用することができる。これら元素は、粒界層へのCr偏析を促進し、磁性粒子の磁気的な孤立化を促す作用を有している。
単磁性層5aには、Nd、W、Mo、Ruから選ばれる1種類以上の元素を含む磁性材料を使用することができる。これら元素は、磁気異方性定数(Ku)を高め、保磁力および逆磁区核形成磁界を大きくする作用を有している。
また、この他にも、Zr、Nb、Re、V、Ni、Mn、Ge、Si、O、Nから選ばれる1種類以上の元素を添加した合金を用いることもできる。
【0027】
また、単磁性層5aには、Ag、Ti、Ru、C、Zr等の非磁性元素、この非磁性元素の化合物、酸化物(SiO2、SiO、Al2O3、TiO2、ZrO2等)、窒化物(Si3N4、AlN、TiN、BN等)、フッ化物(CaF等)、炭化物(TiC等)などからなる非磁性母材中に磁性粒子が分散したグラニュラー構造を採用することもできる。
【0028】
単磁性層5aの厚さは、5〜60nmの範囲内、好ましくは10〜40nmの範囲内とするのが好ましい。
単磁性層5aの厚さが上記範囲未満であると、十分な磁束が得られず、再生時における出力が低くなりすぎ、出力波がノイズ成分により確認しにくくなり、磁気記録再生装置の動作が不完全になりやすくなる。
また、単磁性層5aの厚さが上記範囲を超えると、垂直磁性層5内の磁性粒子が大きくなり、記録再生特性の劣化(ノイズ増大など)が生じやすくなる。
【0029】
Cr濃度勾配領域5bは、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nm(好ましくは5〜30at%/nm)の範囲内とされている。
【0030】
Cr濃度勾配領域5bでは、Cr濃度勾配をこの範囲にすることによって、磁気特性向上効果が得られる。
Cr濃度勾配が0.2at%/nm未満であると、単磁性層5aへのCr移動量が多くなり、単磁性層5aにおいて磁性粒子へのCr取り込み量が多くなる。
このため、Cr取り込みにより磁性を失う磁性粒子数が多くなり、単磁性層5aの表層部において平均的な磁気異方性定数(Ku)の減少、逆磁区核形成磁界(−Hn)の低下、Mr/Ms(Rs比)の低下を招き、結果として熱揺らぎ耐性が悪化してしまう。
Cr濃度勾配が50at%/nmを超える場合には、単磁性層5aへのCr移動量が少なく、単磁性層5aにおいて磁性粒子の磁気的分離が進行せず、ノイズを低下させる効果が不充分となる。また磁性粒子へのCr取り込み量が少なくなり、磁性粒子径の分散を抑える効果が不充分となり、熱揺らぎ耐性の向上効果が得られない。
【0031】
Cr濃度勾配は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、媒体断面をEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析法)により分析し、Cr濃度勾配領域5bの厚さ方向の成分濃度分布を測定することにより算出することができる。
Cr濃度勾配の測定は、例えば日立製作所製HF2000(加速電圧:200kV)、VG microscopes社製HB501(加速電圧:100kV)を用いて行うことができる。
Cr濃度勾配は、Cr濃度勾配領域5bの厚さ方向の成分濃度分布をAES(オージェ電子分光法)またはSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて測定することにより算出することもできる。
Cr濃度勾配がCr濃度勾配領域5bの厚さ方向に一定でない場合には、Cr濃度勾配の厚さ方向の平均値を採用することができる。
【0032】
Cr濃度勾配領域5bは、中間層4上に形成した磁性材料層上に、Crを含む材料(Cr含有材料)をスパッタ法などにより供給し、このCr含有材料に含まれるCrの一部または全部を、拡散により磁性材料層の上層部に移動させることによって形成することができる。
Cr含有材料としては、Crを用いてもよいし、Cr合金を用いてもよい。この材料としては、非磁性材料を用いるのが好ましい。
Cr合金としては、Al、B、C、Co、Cu、Hf、Nb、Si、Ta、Zr、Mo、Mn、Re、Ru、Sn、Ti、V、W、Sm、Nd、Ho、Ce、Pt、Pdから選ばれる1種類以上の元素を含むものを使用するのが好ましい。なかでも特に、Mo、V、Ndを含むCr合金を用いるのが好ましい。
これらの元素(Al、B、C、Co、Cu、Hf、Nb、Si、Ta、Zr、Mo、Mn、Re、Ru、Sn、Ti、V、W、Sm、Nd、Ho、Ce、Pt、Pdから選ばれる1種類以上)を含むCr合金を用いることにより、これらの元素も単磁性層5aに拡散し、磁気特性が改善される。例えば保磁力の増大、熱揺らぎ特性の向上、記録再生特性(SNR)の向上等の効果が得られる。
例えば、上記Cr合金としてCrBを用いれば、Bが単磁性層5aに拡散し、Bの効果である磁性粒子の微細化や、粒界層へのCr偏析の促進により、特に記録再生特性(S/N比など)の向上効果が得られる。
【0033】
Cr濃度勾配領域5bは、Crを10〜100at%の範囲で含有する必要がある。
Cr含有量が10at%未満であると、単磁性層5aへのCr拡散による磁気特性改善効果が不充分となる。
【0034】
Cr濃度勾配領域5bの厚さは、0.3〜60nm(好ましくは0.3〜40nm)の範囲であることが好ましい。
Cr濃度勾配領域5bの厚さが上記範囲未満の場合には、単磁性層5aへのCr拡散による磁気特性改善効果が不充分となる。
【0035】
図1(b)に示すように、Cr濃度勾配領域5bは、酸化層5cを含む構成とすることができる。
酸化層5cは、Cr濃度勾配領域5bを構成する材料が酸化された酸化物からなるものである。
酸化層5cの厚さは、0.1〜10nmとすることができる。
酸化層5cは、Cr含有層を形成するに先だって、上記磁性材料層の表層部を酸化することにより形成することが可能である。
【0036】
垂直磁性層5の保磁力は、3000(Oe)以上が好ましい。保磁力が3000(Oe)未満であると、高記録密度において必要な分解能が得られにくくなる。また熱揺らぎ耐性が劣化しやすくなる。
垂直磁性層5の逆磁区核形成磁界(−Hn)は、0(Oe)以上が好ましい。逆磁区核形成磁界(−Hn)が0(Oe)未満である場合には、熱揺らぎ耐性が劣化しやすくなる。
また、逆磁区核形成磁界(−Hn)は、2500(Oe)以下とするのが好ましい。逆磁区核形成磁界(−Hn)をこの範囲を超える値に設定しようとすると、磁性粒子の磁気的な分離が不充分となり、結果として記録再生時におけるノイズの増加が起こりやすくなる。
【0037】
垂直磁性層5は、磁性粒子の平均粒径が5〜15nmであることが好ましい。この平均粒径は、例えば垂直磁性層5をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、観察像を画像処理することにより求めることができる。
垂直磁性層5の垂直方向の保磁力分散は、0.3以下であることが好ましい。この値が0.3を超える場合には、記録再生時の分解能が悪くなり、高密度記録が難しくなる。
【0038】
保護層6は垂直磁性層5の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのもので、従来公知の材料を使用でき、例えばC、SiO2、ZrO2を含むものが使用可能である。
保護層6の厚さは、1〜10nmとすると、磁気ヘッドと媒体との距離を小さくできるため高記録密度化の点から望ましい。
潤滑層7には、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いるのが好ましい。
【0039】
次に、上記構成の磁気記録媒体を製造する方法の一例を説明する。
非磁性基板1上に、スパッタ法などにより軟磁性層2を形成する。この際、基板1は、ヒータ等より100〜400℃に加熱するのが好ましい。
軟磁性層2を形成した後に、その表層部を酸化することによって、軟磁性層2の表面に酸化層を形成することができる。
軟磁性層2の表層部を酸化させるには、例えば軟磁性層2を形成した後、軟磁性層2の表面を、酸素含有ガスに曝す方法をとることができる。また軟磁性層2の表層部を形成する際に、プロセスガスに酸素を含有させる方法をとることもできる。
軟磁性層2の表面を酸素含有ガスに曝す場合には、軟磁性層2を形成した基板1を、酸素含有ガス雰囲気中に0.3〜20秒程度放置しておけばよい。
酸素含有ガスとしては、酸素ガスを用いてもよいし、酸素と他のガス(アルゴンや窒素など)との混合ガスを用いてもよい。また、空気を用いることもできる。
酸素と他のガスとの混合ガスを用いる場合には、それらの混合比を調節することによって、軟磁性層2の表層部の酸化度合いの調節が容易になる。
また、プロセスガスに酸素を含有させる場合には、層形成過程の一部のみに、酸素を含有するプロセスガスを用いる方法をとることができる。このプロセスガスとしては、例えばアルゴンに酸素を0.05〜50vol%(好ましくは0.1〜20vol%)混合したガスが好適に用いられる。
【0040】
次いで、軟磁性層2上に、スパッタ法などにより配向性制御層3を形成する。
配向性制御層3を形成した後に、その表層部を酸化(または窒化)することによって、配向性制御層3の表層部に酸化層(または窒化物層)を形成することができる。
配向性制御層3の表層部を酸化(または窒化)するには、配向性制御層3の表層部を形成する際に、プロセスガスに酸素(または窒素)を含有させる方法をとることができる。
プロセスガスとしては、アルゴンに酸素を0.05〜50vol%(好ましくは0.1〜20vol%)混合したガス、アルゴンに窒素を0.01〜20vol%(好ましくは0.02〜10vol%)混合したガスが好適に用いられる。
【0041】
次いで、配向性制御層3上に、スパッタ法などにより中間層4を形成する。
次いで、中間層4上に、次のようにして垂直磁性層5を形成する。
例えばCr含有量が10〜24at%、Pt含有量が14〜24at%であるCo合金からなるターゲットを用いたスパッタ法により、磁性材料層を形成する。
この際、チャンバ内の真空度は10−4〜10−7Paとし、Arガスなどのプロセスガスの存在下で放電を行うのが好ましい。
ターゲットに供給するパワーは0.2〜20kWとするのが好ましい。放電時間とパワーを調節することによって、所望の厚さの磁性材料層を形成することができる。この際、プロセスガスの圧力は、3〜20Pa、好ましくは5〜10Paとするのが好適である。
【0042】
磁性材料層を形成した後に、その表層部を酸化することによって、磁性材料層の表面に酸化層を形成することができる。
この酸化層を形成するには、上述の軟磁性層2の表面に酸化層を形成する方法と同様の方法をとることができる。
すなわち、磁性材料層の表面を、酸素含有ガスに曝す方法をとることができる。また磁性材料層の表層部を形成する際に、プロセスガスに酸素を含有させる方法をとることもできる。
【0043】
次いで、磁性材料層上に、次のようにしてCr濃度勾配領域5bを形成する。
例えば10at%以上のCrを含有する非磁性ターゲットを使用し、チャンバ内の真空度を10−4〜10−7Paとした状態で、Arガスなどのプロセスガスの存在下で放電を行うことによりCr含有材料を供給する。
ターゲットに供給するパワーは0.2〜20kWとするのが好ましい。放電時間とパワーを調節することによって、所望の厚さのCr濃度勾配領域5bを形成することができる。この際、プロセスガスの圧力は、3〜20Pa、好ましくは5〜10Paとするのが好適である。
【0044】
この際、上記Cr含有材料を用いて、Cr濃度が10〜100at%であり、Cr濃度勾配が0.2〜50at%/nmとなる領域であるCr濃度勾配領域5bを形成する。
Cr濃度勾配領域5bを形成するには、Cr含有材料を150℃以上(好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上)の温度条件下で供給する方法をとることができる。この温度条件は、400℃以下(好ましくは350℃以下)とするのが好ましい。
この温度条件が上記範囲未満であると、Cr濃度勾配領域5bのCr濃度勾配を上記範囲とするのが難しくなる。
また、温度条件が上記範囲を超えると、単磁性層5aにおいて、保磁力などの磁気特性が不充分となりやすい。
この条件でCr含有材料を供給することによって、磁性材料層上にCr含有層が形成されるとともに、Cr含有材料中のCrが拡散により磁性材料層の上部に移動する。これによって、Cr含有層および磁性材料層上層部は、基板方向にCr濃度を減じるCr濃度勾配領域5bとなる。
【0045】
Cr濃度勾配領域5bを形成するには、上記Cr含有材料を用いて磁性材料層上にCr含有層を形成した後、このCr含有層を熱処理する方法をとることもできる。
熱処理温度は、150℃以上(好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上)とすることができる。この温度は、400℃以下(好ましくは350℃以下)とするのが好ましい。熱処理時間は、3〜20秒(好ましくは5〜10秒)とすることができる。
この温度が上記範囲未満であると、Cr濃度勾配領域5bのCr濃度勾配を上記範囲とするのが難しくなる。
また、この温度が上記範囲を超えると、単磁性層5aにおいて、保磁力などの磁気特性が不充分となりやすい。
この条件で熱処理を行うことによって、Cr含有層中のCrの一部が拡散により磁性材料層の上部に移動し、Cr含有層と磁性材料層上層部がCr濃度勾配領域5bとなる。
Cr濃度勾配領域5bを形成するに際しては、Cr濃度勾配領域5bのCr濃度およびCr濃度勾配が上記範囲となる温度条件を、予備試験によって予め求めておくのが好ましい。
【0046】
Cr濃度勾配領域5bを形成する際には、酸素を含むプロセスガスを用いてCr含有材料の供給を行うこともできる。これによって、酸化物を含むCr濃度勾配領域5bを形成することができる。
プロセスガスとしては、例えばアルゴンに酸素を0.05〜50vol%(好ましくは0.1〜20vol%)混合したガスが好適に用いられる。
【0047】
Cr濃度勾配領域5bを形成するには、イオンプレーティング法を採用することもできる。
以下、イオンプレーティング法によりCr濃度勾配領域5bを形成する方法について説明する。
イオンプレーティング法によりCr濃度勾配領域5bを形成するには、Cr含有材料(Cr合金等)からなるイオンプレーティング源と、プラズマを発生させるプラズマ発生電極とをチャンバ内に備えたイオンプレーティング装置を使用することができる。
まず、下地層8(軟磁性層2、配向性制御層3、および中間層4)および磁性材料層を形成した基板1(以下、磁性材料層形成基板という)を、チャンバ内に収容し、チャンバ内を減圧した後(例えば2×10−5Pa以下とする)、プロセスガス(ヘリウムガス等)をチャンバ内に導入する。チャンバ内の圧力は、例えば5×10−2Paとすることができる。
次いで、磁性材料層形成基板に負電荷(例えば−400V)を印加し、イオンプレーティング源を加熱し(好ましくは600〜800℃)、Cr含有粒子を徐々に放出させる。
このCr含有粒子を、プラズマ発生電極で発生したプラズマによってイオン化し、磁性材料層形成基板の表面に供給する。
これによって、Cr含有粒子中のCrが拡散により磁性材料層の上部に移動し、基板方向にCr濃度を減じるCr濃度勾配領域5bが形成される。
【0048】
図1(b)に示すように、磁性材料層の表層部を酸化層とする場合には、Crの一部が酸化層を通過して酸化層の下方にまで移動し、これによって、Cr濃度勾配領域5bが酸化層5cを含むものとなる。
【0049】
Cr濃度勾配領域5bを形成した後に、その表層部を酸化することによって、Cr濃度勾配領域5bの表面に酸化層を形成することができる。
この酸化層を形成するには、上述の軟磁性層2の表面に酸化層を形成する方法と同様の方法をとることができる。
すなわち、Cr濃度勾配領域5bの表面を、酸素含有ガスに曝す方法をとることができる。またCr濃度勾配領域5bの表層部を形成する際に、プロセスガスに酸素を含有させる方法をとることもできる。
【0050】
次いで、保護層6を、プラズマCVD法、イオンビーム法、スパッタ法などにより形成する。
次いで、保護層6上に、必要に応じ、例えばパーフルオロポリエーテルのフッ素系潤滑剤をディップ法、スピンコート法などを用いて塗布し潤滑層7を形成する。
【0051】
本実施形態の磁気記録媒体では、垂直磁性層5がCr濃度勾配領域5bを備え、このCr濃度勾配領域5bが、Cr濃度が10〜100at%であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmとされている。
この構成により、優れた磁気特性を得ることができる。特に記録再生特性および熱揺らぎ耐性を向上させることができる。
【0052】
垂直磁性層5を上記構成とすることにより、磁気特性が向上する理由は完全には明らかではないが、次に示す推察が可能である。
基板方向に向かってCr濃度を減じるCr濃度勾配領域5bを形成することによって、単磁性層5aにおいて、磁性粒子を隔てる粒界層にCrが優先的に拡散する。これは、Crが粒界層に偏析しやすい性質を有するためである。
このため、粒界層の厚みが増大し、単磁性層5aの表層部の磁性粒子の磁気的分離が進むことにより、記録再生時のノイズが低下し、結果として媒体の記録再生特性(S/N比など)が向上すると考えられる。
また、Crが粒界層に移動し、粒界層のCr濃度が高くなることによって、Crの一部は磁性粒子内にも取り込まれると考えられる。その際、熱揺らぎ耐性に悪影響を及ぼすとされる微小な磁性粒子は、Crを取りこんだ結果、磁性を失い、結果として磁性粒子径の分散が抑えられる。
このため、見かけ上、単磁性層5aの表層部の平均的な磁気異方性定数(Ku)が増大したのと同じ効果が得られ、熱揺らぎ耐性が向上したと推察される。
【0053】
また、Cr濃度勾配領域5bが酸化層5cを含む構成とする場合には、熱揺らぎ耐性をさらに向上させることができる。
また、垂直磁性層5の表層部に酸化層を形成することによって、熱揺らぎ耐性をさらに向上させることができる。
また、Cr濃度勾配領域5bに、酸化物を含有させることによって、熱揺らぎ耐性をさらに向上させることができる。
【0054】
図2は、本発明の磁気記録媒体の第2の実施形態を示すものである。
ここに示す磁気記録媒体では、垂直磁性層9が、単磁性層5aと、Cr濃度勾配領域5bと、非濃度勾配領域5dを有する。
非濃度勾配領域5dには、上述のCr含有層の材料として例示した材料、すなわちCrまたはCr合金が使用できる。
Cr合金としては、Al、B、C、Co、Cu、Hf、Nb、Si、Ta、Zr、Mo、Mn、Re、Ru、Sn、Ti、V、W、Sm、Nd、Ho、Ce、Pt、Pdから選ばれる1種類以上の元素を含むものが好適である。
非濃度勾配領域5dのCr濃度は、10〜100at%とすることができる。非濃度勾配領域5dのCr濃度勾配は、0.2at%/nm未満とすることができる。
【0055】
図3は、本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示すものである。
この磁気記録媒体は、垂直磁性層10が、第1および第2単磁性層5a1、5a2と、その上に形成されたCr濃度勾配領域5bとを有する点で、図1に示す磁気記録媒体と異なる。
第1および第2単磁性層5a1、5a2は、第1の実施形態における単磁性層5aと同様の構成とすることができる。
なお、本発明では、単磁性層を3層以上積層した構造を採用することもできる。
【0056】
図4は、本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示すものである。
この磁気記録媒体は、単磁性層およびCr濃度勾配領域がそれぞれ4層ずつ形成されている点で、図1に示す磁気記録媒体と異なる。
すなわち、この磁気記録媒体では、垂直磁性層11が、第1〜第4ユニット11a〜11dを備えている。
第1ユニット11aは、第1単磁性層5a1と、その上に設けられた第1Cr濃度勾配領域5b1とを備えている。
第2ユニット11bは、第2単磁性層5a2と、その上に設けられた第2Cr濃度勾配領域5b2とを備えている。
第3ユニット11cは、第3単磁性層5a3と、その上に設けられた第3Cr濃度勾配領域5b3とを備えている。
第4ユニット11dは、第4単磁性層5a4と、その上に設けられた第4Cr濃度勾配領域5b4とを備えている。
【0057】
第1〜第4単磁性層5a1、5a2、5a3、5a4は、第1の実施形態における単磁性層5aと同様の構成とすることができる。第1〜第4単磁性層5a1、5a2、5a3、5a4は、互いに同じ構成としてもよいし、互いに異なる構成としてもよい。
第1〜第4Cr濃度勾配領域5b1、5b2、5b3、5b4は、第1実施形態におけるCr濃度勾配領域5bと同様の構成とすることができる。第1〜第4Cr濃度勾配領域5b1、5b2、5b3、5b4は、互いに同じ構成としてもよいし、互いに異なる構成としてもよい。
【0058】
図5は、本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示すものである。
この磁気記録媒体は、基板1上に、軟磁性層2と、配向性制御層3と、中間層4と、垂直磁性層12と、保護層6と、潤滑層7とが順次形成されている。
垂直磁性層12の材料としては、上述の第1の実施形態において単磁性層5aの材料として例示したものを挙げることができる。
この材料としては、CrとPtを含有するCo合金を挙げることができ、Cr含有量は10〜24at%であることが好ましく、Pt含有量は14〜24at%であることが好ましい。
具体的には、CoCrPtB系合金、CoCrPtTa系合金、CoCrPtTaCu系合金、CoCrPtBCu系合金、CoCrPtTaNd系合金、CoCrPtBNd系合金、CoCrPtBW系合金、CoCrPtBMo系合金、CoCrPtBRu系合金、CoCrPtTaW系合金、CoCrPtTaMo系合金、CoCrPtTaRu系合金、CoCrPtNd系合金、CoCrPtW系合金、CoCrPtMo系合金、CoCrPtRu系合金、CoCrPtCu系合金からなる群から選ばれた1種以上が特に好ましい。
【0059】
垂直磁性層12は、その表層部が酸化層12bとなっている。すなわち、垂直磁性層12は、非酸化層12a上に酸化層12bが形成された構成とされている。
酸化層12bを形成するには、上述の軟磁性層2の表面に酸化層を形成する方法と同様の方法をとることができる。
すなわち、上記材料(例えばCrとPtを含有するCo合金)からなる磁性材料層を形成し、この磁性材料層の表面を、酸素含有ガスに曝す方法をとることができる。また磁性材料層の表層部を形成する際に、プロセスガスに酸素を含有させる方法をとることもできる。
酸化層12bの厚さは、0.1〜10nmとすることができる。
【0060】
この磁気記録媒体では、酸化層12bが形成されているので、熱揺らぎ耐性を向上させることができる。
なお、本発明では、垂直磁性層12を複数形成することもできる。
【0061】
なお、本発明の磁気記録媒体では、中間層4を設けない構成も可能である。
【0062】
図6は、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置の例を示すものである。ここに示す磁気記録再生装置は、上記構成の磁気記録媒体20と、磁気記録媒体20を回転駆動させる媒体駆動部21と、磁気記録媒体20に情報を記録再生する磁気ヘッド22と、この磁気ヘッド22を磁気記録媒体20に対して相対運動させるヘッド駆動部23と、記録再生信号処理系24とを備えている。
記録再生信号処理系24は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド22に送ったり、磁気ヘッド22からの再生信号を処理してデータを外部に送ることができるようになっている。
磁気ヘッド22には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子を備えたものを用いることができる。
磁気ヘッド22としては、垂直記録用の単磁極ヘッドを用いることもできる。図7に示すように、この単磁極ヘッドとしては、主磁極22aと、補助磁極22bと、これらを連結する連結部22cに設けられたコイル22dとを有するものを好適に用いることができる。
【0063】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明の作用効果を明確にする。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(逆磁区核形成磁界の測定方法)
図8に示すように、振動式磁気特性測定装置(VSM)などにより求めたMH曲線において、磁化が飽和した状態から外部磁界を減少させる過程で外部磁界が0となる点をaとし、MH曲線の磁化が0となる点をbとし、点bでのMH曲線の接線を延長した線と飽和磁化を示す直線との交点をcとすると、逆磁区核形成磁界(−Hn)は、Y軸(M軸)から点cまでの距離(Oe)で表すことができる。
なお、逆磁区核形成磁界(−Hn)は、外部磁界が負である領域に点cがある場合に正の値をとり(図8を参照)、逆に、外部磁界が正である領域に点cがある場合に負の値をとる(図9を参照)。
【0064】
(保磁力分散の測定方法)
保磁力分散は、VSMもしくはKerr効果測定器により求めることができる。
図10(a)に示すように、通常の手法により媒体のMH曲線またはθk−H曲線を求める。これをAループとする。
図10(b)に示すように、磁化が飽和した状態から外部磁界を減少させ、Mまたはθkが0となる点aで外部磁界の掃引方向を逆転させ、再び磁化が飽和するまで外部磁界を増加させる。これにより得られた曲線をBループとする。磁化が飽和した状態から外部磁界を減少させる過程で外部磁界が0となる点をbとする。
図10(c)に示すように、点bと原点との中間点を点cとし、ここからH軸に平行な線を引き、この平行線とAループとの交点を点dとし、平行線とBループとの交点をeとし、点dと点eの差をΔHcとする。これを媒体のHcで割ることで保磁力分散(ΔHc/Hc)を得る。
この保磁力分散(ΔHc/Hc)は、媒体を記録再生した際の分解能と相関がある。
図11は、媒体の保磁力分散(ΔHc/Hc)と、記録再生時の分解能の指標であるPW50(再生した孤立波の半値幅)との相関を示すものである。
【0065】
(実施例1)
図2に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
洗浄済みのガラス基板1(オハラ社製、外径2.5インチ(65mm))をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3010)の成膜チャンバ内に収容した。
到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、89Co−4Zr−7Nb(Co含有量89at%、Zr含有量4at%、Nb含有量7at%)からなるターゲットを用いて、89Co−4Zr−7Nbからなる軟磁性層2(厚さ100nm)をガラス基板1上にスパッタ法により形成した。この際、基板温度は100℃以下とした。
振動式磁気特性測定装置(VSM)による測定の結果、軟磁性層2の飽和磁束密度Bsと層厚tの積Bs・tは120T・nmであった。
次いで、軟磁性層2を形成した基板1を250℃に加熱して、Ruターゲットを用いて、Ruからなる配向性制御層3(厚さ20nm)を軟磁性層2上に形成した。
次いで、Co−30Cr−5B(Cr含有量30at%、B含有量5at%、残部Co)ターゲットを用いて、Co−30Cr−5Bからなる中間層4(厚さ5nm)を形成した。
これによって、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
【0066】
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
表1に示す材料からなるターゲットを用いて磁性材料層をスパッタ法により形成した後、その上に、表1に示す材料からなるターゲットを用いてCr含有材料をスパッタ法により供給し、Cr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
上記スパッタ法においては、プロセスガスとしてアルゴンを用い、プロセスガス圧力を0.6Paとした。
次いで、CVD法により、保護層6(厚さ5nm)を形成した。
次いで、ディップ法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層7を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0067】
得られた磁気記録媒体の静磁気特性をVSMを用いて測定した。なお、磁気特性の評価の際には、基板面に対して垂直方向に磁場が印加されるようにした。
また、Kerr効果測定器を用い、磁気記録媒体の垂直方向の保磁力分散(ΔHc/Hc)を測定した。
また、記録再生特性を、GUZIK社製リードライトアナライザーRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。電磁変換特性の評価には、再生部に巨大磁気抵抗(GMR)素子を有し、記録部に単磁極を有する複合型薄膜磁気記録ヘッドを用い、記録条件を線記録密度500kFCIとして測定を行った。
【0068】
熱揺らぎ耐性(熱減磁)については、スピンスタンドS1701MPを用い、70℃において線記録密度50kFCIで書きこみを行った後、書きこみ後1秒後の再生出力に対する出力の低下率(%/decade)を、(So−S)×100/(So×3)に基づいて算出した。この式において、Soは磁気記録媒体に信号記録後1秒経過時の再生出力を示し、Sは1000秒後の再生出力を示す。
磁気記録媒体の静磁気特性(Hc、Mr/Ms)、−Hnを測定するにあたっては、軟磁性層2を設けない以外は上記構成と同様の磁気記録媒体を別途作製し、この磁気記録媒体を用いて測定を行った。
試験結果を表1に示す。
表中、濃度勾配欄において、Cr:11.6とは、Cr濃度勾配が11.6at%/nmであることを示す。
磁性材料層の組成は、磁性材料層を形成するのに用いられた磁性材料の組成を示し、厚さは、この磁性材料量の厚さ換算値を示す。
Cr含有層の組成は、Cr含有材料の組成を示し、厚さは、Cr含有材料量の厚さ換算値を示す。
【0069】
(実施例2〜11)
磁性材料層およびCr含有層の組成と厚さを表1に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例1に準じた。
試験結果を表1に示す。
【0070】
(実施例12、13)
図3に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
実施例1と同様にして基板1上に軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4を形成した後、次のようにして垂直磁性層10を形成した。
Co−24Cr−17Pt−3Ta(Cr含有量24at%、Pt含有量17at%、Ta含有量3at%、残部Co)からなるターゲットを用いて第1磁性材料層(第1単磁性層5a1)を形成した。
その上にCo−16Cr−17Pt−3Ta(Cr含有量16at%、Pt含有量17at%、Ta含有量3at%、残部Co)からなるターゲットを用いて第2磁性材料層を形成した。
その上に、表1に示す材料からなるターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
これによって、第1単磁性層5a1上に第2単磁性層5a2が形成され、その上に、Cr濃度勾配領域5bが形成された垂直磁性層10を形成した。
磁性材料層の組成は、第1および第2磁性材料層を形成するのに用いられた磁性材料の組成(第1磁性材料層組成/第2磁性材料層組成)を示し、厚さはこれら磁性材料量の厚さ換算値(第1磁性材料層/第2磁性材料層)を示す。
Cr含有層の組成は、Cr含有材料の組成を示し、厚さは、Cr含有材料量の厚さ換算値を示す。
その他の条件は実施例1に準じた。
試験結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(比較例1〜10)
磁性材料層およびCr含有層の組成と厚さを表2に示すようにして磁気記録媒体を作製した。
比較例8〜10では、Cr含有層に代えて、表2に示す材料を用いて非磁性層を形成した。
その他の条件は実施例1に準じた。
試験結果を表2に示す。
【0073】
(比較例11、12)
磁性材料層および非磁性層の組成と厚さを表2に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例12、13に準じた。
試験結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例14)
図2に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
基板1上に、Co−8Zr−12Nb(Zr含有量8at%、Nb含有量12at%、残部Co)ターゲットを用いて、Co−8Zr−12Nbからなる軟磁性層2(厚さ100nm)を形成した。基板温度は100℃以下とした。
軟磁性層2のBs・tは110T・nmであった。
軟磁性層2を形成した基板1を250℃に加熱して、軟磁性層2上に、Ni55Nb(Nb含有量55at%、残部Ni)ターゲットを用いて、Ni55Nbからなる配向性制御層3(厚さ25nm)を形成した。
次いで、Co−35Cr−4Ta(Cr含有量35at%、Ta含有量4at%、残部Co)ターゲットを用いて、Co−35Cr−4Taからなる中間層4(厚さ5nm)を形成した。
これによって、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
【0076】
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
表3に示す材料からなるターゲットを用いて磁性材料層を形成した後、その上に、表3に示す材料からなるターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
Cr含有層を形成する際には、プロセスガスとしてアルゴンを用い、プロセスガス圧力を0.6Paとした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
その他の条件は実施例1に準じた。
試験結果を表3に示す。
【0077】
(実施例15〜19)
磁性材料層およびCr含有層の組成と厚さを表3に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表3に示す。
【0078】
(比較例13〜16)
磁性材料層およびCr含有層(または非磁性層)の組成と厚さを表3に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表3に示す。
図12は、実施例14〜19と比較例14〜16のデータを使い、Cr含有層(非磁性層)を形成するのに用いられた材料の組成と、磁気記録媒体の記録再生特性(S/N比)と、熱揺らぎ耐性との関係を示すグラフである。
【0079】
【表3】
【0080】
(実施例20〜48)
磁性材料層およびCr含有層の組成と厚さを表4および表5に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表4および表5に示す。
【0081】
(比較例17〜21)
磁性材料層の組成と厚さを表5に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表5に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
(実施例49)
図2に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
基板1上に、Fe15Co(Co含有量15at%、残部Fe)からなるターゲットを用いて、Fe15Coからなる軟磁性層2(厚さ120nm)を形成した。基板温度は100℃以下とした。
軟磁性層2のBs・tは170T・nmであった。
軟磁性層2を形成した基板1を250℃に加熱して、軟磁性層2上に、Ni50Hf(Hf含有量50at%、残部Ni)ターゲットを用いて、Ni50Hfからなる配向性制御層3(厚さ15nm)を形成した。
次いで、Co−40Cr−3Pt−3Cu(Cr含有量40at%、Pt含有量3at%、Cu含有量3at%、残部Co)ターゲットを用いて、Co−40Cr−3Pt−3Cuからなる中間層4(厚さ9nm)を形成した。
これによって、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
【0085】
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
表6に示す材料からなるターゲットを用いて磁性材料層を形成した後、その上に、表6に示す材料からなるターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
磁性材料層およびCr含有層を形成する際のプロセスガスの圧力条件は表6に示すとおりとした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表6に示す。
【0086】
(実施例50〜59)
磁性材料層およびCr含有層を形成する際のプロセスガスの圧力条件を表6に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例49に準じた。試験結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
(実施例60〜67、比較例22〜24)
磁性材料層、Cr含有層の組成と厚さを表7に示すようにして磁気記録媒体を作製した。Cr含有層を形成する際のプロセスガスの圧力条件は表7に示すとおりとした。その他の条件は実施例49に準じた。
試験結果を表7に示す。
【0089】
【表7】
【0090】
(実施例68〜72、比較例25〜32)
磁性材料層、Cr含有層(または非磁性層)の組成と厚さを表8に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例49に準じた。
試験結果を表8に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
(実施例73)
実施例14と同様にして、基板1上に、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
Co−19Cr−17Pt−4Bからなるターゲットを用いて磁性材料層を形成した。
次いで、磁性材料層表面を、10vol%酸素を含む酸素アルゴン混合ガスに3秒間曝した(以下、酸化処理という)。混合ガスの圧力は0.8Paとした。
次いで、Crターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
Cr含有層を形成する際には、プロセスガスとしてアルゴンを用い、プロセスガス圧力を0.6Paとした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
その他の条件は実施例14に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0093】
(実施例74)
Cr含有層の組成と厚さを表9に示すようにして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0094】
(実施例75)
Cr含有層の組成と厚さを表9に示すようにし、磁性材料層の酸化処理を行わずに磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0095】
(実施例76)
磁性材料層の酸化処理を行うこと以外は実施例75と同様にして磁気記録媒体を作製した。その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0096】
(実施例77)
実施例14と同様にして、基板1上に、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
Co−19Cr−17Pt−4Bからなるターゲットを用いて磁性材料層を形成した。
次いで、Crターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、5vol%酸素を含む酸素アルゴン混合ガスをプロセスガスとして用い、プロセスガス圧力を0.6Paとした。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0097】
(実施例78)
実施例14と同様にして、基板1上に、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層9を形成した。
Co−19Cr−17Pt−4Bからなるターゲットを用いて磁性材料層を形成した。
次いで、Crターゲットを用いてCr含有層を形成した。
Cr含有層を形成する際には、温度条件を250℃とした。
Cr含有層を形成する際には、プロセスガスとしてアルゴンを用い、プロセスガス圧力を0.6Paとした。
次いで、Cr含有層表面を、10vol%酸素を含む酸素アルゴン混合ガスに3秒間曝した。混合ガスの圧力は0.8Paとした。
これによって、Cr濃度が10〜100at%であり、かつCr濃度勾配を有するCr濃度勾配領域5bを単磁性層5a上に備えた垂直磁性層9を形成した。
その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0098】
(実施例79)
図5に示す磁気記録媒体を、次のようにして作製した。
実施例14と同様にして、基板1上に、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層12を形成した。
Co−19Cr−17Pt−4Bからなるターゲットを用いて磁性材料層(厚さ22nm)を形成した。
次いで、磁性材料層表面を、10vol%酸素を含む酸素アルゴン混合ガスに3秒間曝した。混合ガスの圧力は0.8Paとした。
これによって、非酸化層12a上に酸化層12bが形成された垂直磁性層12を形成した。
その他の条件は実施例73に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0099】
(実施例80)
図5に示す磁気記録媒体を、次のようにして作製した。
実施例14と同様にして、基板1上に、軟磁性層2、配向性制御層3、中間層4からなる下地層8を形成した。
次いで、下地層8の上に、次のようにして垂直磁性層12を形成した。
Co−19Cr−17Pt−4Bからなるターゲットを用いて磁性材料層(厚さ22nm)を形成した。
磁性材料層を形成する際には、プロセスガスとしてアルゴンガスを用い、磁性材料層の厚さが20nmとなった時点でプロセスガスを酸素アルゴン混合ガス(酸素濃度5vol%)に切り替えた。
これによって、非酸化層12a(厚さ20nm)上に、酸化層12b(厚さ2nm)が形成された垂直磁性層12を形成した。
その他の条件は実施例79に準じた。
試験結果を表9に示す。
【0100】
【表9】
【0101】
上記実施例および比較例中、Cr含有層を形成したものについて、Cr濃度勾配領域5bのCr濃度を測定したところ、すべて10at%以上であることが確認された。
【0102】
表1および表2に示すように、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内であるCr濃度勾配領域5bを設けることによって、優れた記録再生特性および熱揺らぎ耐性を得ることができたことがわかる。
比較例6、7、11、12より、Co含有量の異なる2層の単磁性層を設けることによって、記録再生特性と熱揺らぎ耐性のうちいずれか一方を向上させることが可能であるが、これら2つの特性の双方を向上させるのは難しいことがわかる。
これに対し、実施例8〜13より、記録再生特性と熱揺らぎ耐性の双方を向上させることができたことがわかる。また単磁性層を2層設けた場合でも優れた記録再生特性および熱揺らぎ耐性を得ることができたことがわかる。
【0103】
表8に示すように、実施例68と比較例25より、Cr濃度勾配領域5bを設けることによって、保磁力Hc、Mr/Ms、逆磁区核形成磁界(−Hn)が向上したことがわかる。また、記録再生特性と熱揺らぎ耐性についても優れた値が得られたことがわかる。
図12、実施例65、69、70、71、比較例26、27、28より、Cr濃度が記録再生特性または熱揺らぎ耐性に大きな影響を及ぼすことがわかる。
またCr濃度勾配を0.2at%/nm以上とするには、Cr濃度が10at%以上であることが好ましいことがわかる。
比較例29より、Cr含有層に代えてPtからなる非磁性層を形成した場合には、静磁気特性は優れているが、記録再生特性は劣っていることがわかる。
比較例25、比較例26、比較例30より、Cr濃度勾配領域5bを形成しない場合には、単磁性層を複数設けた場合でも、記録再生特性、熱揺らぎ耐性とも不充分となることがわかる。
【0104】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の磁気記録媒体では、垂直磁性層がCr濃度勾配領域を備え、このCr濃度勾配領域が、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内とされている。
この構成により、優れた磁気特性を得ることができる。特に記録再生特性および熱揺らぎ耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体の第1の実施形態を示すもので、(a)は一部断面図であり、(b)は要部拡大図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の第2の実施形態を示す一部断面図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示す一部断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示す一部断面図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示す一部断面図である。
【図6】本発明の磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図である。
【図7】図6に示す磁気記録再生装置に使用可能な磁気ヘッドを示す構成図である。
【図8】MH曲線の一例を示すグラフである。
【図9】MH曲線の他の例を示すグラフである。
【図10】保磁力分散の求め方を説明する説明図である。
【図11】試験結果を示すグラフである。
【図12】試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 軟磁性層
5、9、11、12 垂直磁性層
5a 単磁性層
5a1 第1単磁性層
5a2 第2単磁性層
5a3 第3単磁性層
5a4 第4単磁性層
5b Cr濃度勾配領域
5b1 第1Cr濃度勾配領域
5b2 第2Cr濃度勾配領域
5b3 第3Cr濃度勾配領域
5b4 第4Cr濃度勾配領域
5c 酸化層
6 保護層
12b 酸化層
20 磁気記録媒体
22 磁気ヘッド
Claims (15)
- 基板上に、少なくとも軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有する磁気記録媒体であって、
垂直磁性層は、Cr濃度勾配領域を備え、このCr濃度勾配領域が、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内であることを特徴とする磁気記録媒体。 - Cr濃度勾配領域が、Al、B、C、Co、Cu、Hf、Nb、Si、Ta、Zr、Mo、Mn、Re、Ru、Sn、Ti、V、W、Sm、Nd、Ho、Ce、Pt、Pdからなる群から選ばれる1種類以上の元素を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 垂直磁性層が、磁性材料からなる単磁性層を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体。
- 単磁性層と、Cr濃度勾配領域とが、それぞれ複数形成されていることを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体。
- 単磁性層が、Crを10〜24at%の範囲内で含み、Ptを14〜24at%の範囲内で含むことを特徴とする請求項3または4記載の磁気記録媒体。
- Cr濃度勾配領域が、酸化層を含むことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- Cr濃度勾配領域が、酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 垂直方向の保磁力分散が、0.3以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 垂直磁性層の表層部に、酸化層が形成されていることを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
- 基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有する磁気記録媒体であって、垂直磁性層の表層部に、酸化層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
- 基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層がCr濃度勾配領域を備えた磁気記録媒体を製造する方法であって、
垂直磁性層を形成するにあたって、Cr含有材料を供給し、このCr含有材料を用いてCr濃度勾配領域を形成し、
このCr濃度勾配領域を、Cr濃度が10〜100at%の範囲内であり、かつ基板方向に向かってCr濃度を減じ、そのCr濃度勾配が0.2〜50at%/nmの範囲内となるようにすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - Cr含有材料を150℃以上の温度条件下で供給することによって、Cr濃度勾配領域を形成することを特徴とする請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法。
- Cr含有材料を用いてCr含有層を形成し、このCr含有層を150℃以上で熱処理することによってCr濃度勾配領域を形成することを特徴とする請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 基板上に、軟磁性層、垂直磁性層、保護層を有し、垂直磁性層の表層部に酸化層が形成された磁気記録媒体を製造する方法であって、
垂直磁性層を形成するにあたって、磁性材料層を形成し、この磁性材料層の表層部を酸化することによって酸化層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 請求項1〜10のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドを備えていることを特徴とする磁気記録再生装置。
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