JP2004035664A - 墨とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】短期間に高度に乾燥でき、濃淡を簡単に出せる墨とその製造方法を提供する。
【解決手段】煤と膠質物との混合体を所定の形状とするともに、その表面に開口した小孔を設けた状態で高度に乾燥させた墨。
【選択図】 図1
【解決手段】煤と膠質物との混合体を所定の形状とするともに、その表面に開口した小孔を設けた状態で高度に乾燥させた墨。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は筆で書や絵を書くために使用する墨の製造方法に関し、特に生墨を短期間に所定の水分率まで乾燥させて書道家が使用する墨を製造する方法を提供する。
【0002】
【従来の技術】
筆記用の墨は古代から存在しているが、現在行なわれている製造方法は、採煤工程、膠の溶解工程、煤と膠の混入工程、混練工程、型入れ工程、削り・灰乾燥工程、自然乾燥工程、彩色・包装工程などで構成されている。
【0003】
煤を採取する工程は、素焼の皿に菜種油等の植物湯を入れて灯芯を燃やし、素焼きの蓋に付いた煤を集める。そしてこの煤を固形物として集合させる手段として膠が使用されているが、動物の皮から採取したコラーゲンを含む蛋白質の一種のゼラチン質からなる膠を二重釜に入れて長時間煮沸して液化させる。この液状の膠に煤を混入して煤と膠の混合体を調整し、これを混和機に入れて練り合わせて煤と膠とが均質に混練された高粘度の塊りとする。
【0004】
なお、採取した煤はゴミを含んでいたり、空気を多量に含んでいるので、圧縮工程が必要であり、煤のゴミを除去した後に圧縮機にかけて体積を1/8程度にする。その後、袋詰めして積み上げて6ケ月位保管し、自然に圧縮する操作を行って脱気するなどの作業を行なっている。
【0005】
前記のようにして練り上がった墨のアスフアルト状の玉に香料を入れ、手で良く揉み、これを木型に入れて成型して墨の原型を製造し、そして木型より取出した墨の木型からはみ出したバリをカンナで削って外形を整える。
【0006】
次に、このバリを取った水分を含んだ墨(生墨)は紀州備長炭の灰の中に約2ケ月ほど埋められて自然乾燥する。灰は墨の水分を吸って次第に湿ってくるので毎日交換し、だんだん水分の少ない灰の中に入れていく。このような灰乾燥が終わると墨の水分含有率は20%程度まで低下しているが、この半乾き(一次乾燥)の墨を藁で編んだ紐でくくり、約4ケ月ほど割れを防止しながら自然乾燥(二次乾燥)する。
【0007】
この自然乾燥が終わるとハマグリの貝殻等で表面に磨きをかけて艶をだし、その後、墨の表面に薄い膠の液で上塗りし、朱などの絵の具で彩色した後に1個づつ紙で包装し、箱に入れて包装する。
【0008】
小型の墨では型入れ(生墨の成形)から乾燥を経て包装までの期間は約3〜4ケ月、大きな墨になると1年から数年までかかることが多い。墨はその製造中は勿論、製品となった後でも気候の影響を受け、例えば雨が降って湿気が多い日には外気の湿気を吸って重量を増し、反対に晴れて乾燥した日には墨に含まれている水分を外に放出して自然環境に順応している。
【0009】
このように墨は単なる固形物ではなく、水分を吸収したり放出する生き物であり、その保存状態によって膠質が分解劣化して結合力が低下して墨が分解したり、脆くなってくる。従って水分を高度に除去し、これを乾燥した一定の温度の雰囲気において保管する必要がある。
【0010】
【発明が解決すべき課題】
前記のように、墨を製造するためには、煤の採取から煤と膠との練り合わせ、成型、そして一次乾燥と二次乾燥などの長い工程を経て完成するものであり、その間の処理によって品質が大きく左右される。また、良質な原料である煤を採取することは勿論であるが、前記のように長い製造工程のうち、特に大切な工程は乾燥工程である。
【0011】
通常の墨の乾燥工程は、前記のように水分の大半を脱出させる灰を利用した乾燥から、紐で吊下げて自然乾燥による緩慢な乾燥が主体である。
【0012】
小学校や中学校で使用する安価な書道用の墨であるとこの乾燥工程は約1年程度であるが、書家などの専門家が使用する高級品になると乾燥した低温の雰囲気において30年から50年も乾燥するものもある。このように墨の乾燥工程には長い期間が必要であり、この際、慎重な乾燥を必要とする主な理由は、製品の表面にヒビ割れが発生したり変形を防ぐためである。
【0013】
前記のように乾燥中の墨は勿論、完成した保管中の墨であっても外気の湿度の影響を受け、恰も呼吸をしているように水分を排出したり、吸収しており、これの水分の吸排出のバランスが崩れることによって微細なヒビ割れが発生すると思われる。勿論、このヒビ割れが発生した墨は不良品となり、廃棄などの処分されることになる。
【0014】
一方、墨の原料となる煤を製造する時期は、良質な菜種油などの煤を採取できる時期であり、特に高級な煤を採取する場合は古松を薪状に割ったものを燃やす場合があるが、いずれにしても墨を製造する時期は気温が低下して寒く、しかも空気が乾燥している11月から4月頃までの時期が多い。
【0015】
更に、従来の墨の製造方法においては、前記のように墨の乾燥にはヒビ割れを防止するために長期にわたる緩慢な乾燥が必須であった。
【0016】
また、別の問題として墨の原料は煤と膠の混合体であることに起因してカビが発生する。つまり、湿度の高い時期が長びくと膠が吸収する水分量が多くなり、それに伴ってカビが繁殖し易い条件となり、その結果、保存中の墨の表面に「カビ」が発生することがある。
【0017】
特に未乾燥の生墨(水分が35〜40%)の状態であると、常温で数日間放置しておくとカビが発生するので、特に乾燥工程には十分な注意が必要である。
【0018】
周知のように墨は短期間に販売できる商品ではないので、従って、カビが発生せず、表面に光沢があり、更に微細なヒビ割れもない状態に保存することは良質の墨を販売する上で重要である。
【0019】
未乾燥の墨(灰乾燥を終わったの生墨)を早期に乾燥させる方法として乾燥機を使用する方法が考えられる。一般的な乾燥機は、燃焼ガスや電熱ヒーター等の熱源で加熱した熱風を使用して墨を加熱したり、ヒーターで直接加熱する方法が採用されている。しかし、この加熱方法は乾燥速度が自然乾燥に比較して著しく早く、これが原因となって大きな内部応力を発生して割れが発生する欠点があり、実際にこの乾燥方法を採用することは困難である。
【0020】
前記のように墨を自然乾燥した期間の長短(1年〜50年)と保管状態と期間とにより墨の品質と価格が大きく変化するが、その理由は次の点にあると考えられる。
【0021】
つまり微粒子状の煤と、これの接着成分である膠の混合体(練り物)は寒天状で、これに含有されている水分は約40%もある。そしてこれを使用して成型した後の生墨も同様である。この高水分率の中間体(生墨)を灰の中に入れて移行脱水させて乾燥させた後でも約20%もある。そして更に1〜数ケ月の自然乾燥を行なった後でも18%程度の水分を保有している。
【0022】
このように生墨を長時間自然乾燥させて乾燥させて商品とした墨でも8%程度の水分を保有しており、これをそれ以下にすることは極めて困難である。
【0023】
その理由は、墨は煤の微粒子の間を膠で接合した混合体であり、従って、膠などが含む水分が墨の表面まで移動して蒸発させるためには、混合体の中の水の分子の移動が速やかに行なわれなければならない。しかし、実際にはこの挙動を得ることは極めて困難である。
【0024】
一方、書家の説明によると、墨を善し悪しの見分け方は、筆の幅で描かれた墨の色が濃い黒色でなく、墨絵に採用されている中間色の「灰色」を出すことが可能であり、しかもその色は書いた筆の幅の範囲で、ほぼ均一な濃さで、筆が通過した部分と隣接する滲んだ部分とが明確に区別されることであるという。
【0025】
十分に乾燥されていない墨を使用した書や絵は、筆が通過した範囲の内側と外側とで色の濃さが大きく変化し、例えば外側が黒く、内側が薄くなっている。
【0026】
書や墨絵の濃さは墨をすった量と筆の穂先に付着した量、更に運筆速度に関係し、また、墨の原料である煤の粒子の大きさにも関係している。製造工程におけるか加熱乾燥が浅く、含水率が7〜9%程度の墨の場合は、すられた墨より発生した煤の微細な粒子は元の煤の粒子の大きさに類似しており、それに伴なって書等に比較的コントロールが困難な濃淡を発生させている。
【0027】
これに対して、20年以上も十分に乾燥熟成された墨は水分率が5%程度に減少して硬度が高くなっており、これを摩った場合は、墨を構成している煤の粒子が硯の表面との接触で削られ、少しづつ磨滅されて微細化されている。そのため書等の濃淡が筆の穂先への付着量や運筆速度などに関係なく、大きな差を生じないようである
特に墨絵の場合には、黒一色を使用して濃淡だけで、空や山や樹木や水や動物や花等の色彩を感じさせるものであり、それには広範囲な濃度差を表現できるものでなければならない。
【0028】
本発明は前記従来技術の欠点である長期の乾燥が必要である点を改善し、10年、20年あるいはぞれ以上に所定の乾燥雰囲気において乾燥した高級墨のような優れた特性を持つ高級墨を1ヶ月程度の極めて短期間に効率的に製造できる方法を提供することにある。
【0029】
後述するように本発明は、低温の安静な状態の一次乾燥工程で乾燥させた後、温風加熱と遠赤外線加熱を休止した休養工程で構成される二次乾燥(熟成乾燥)を採用すること乾燥するものである。
【0030】
この休止工程においては温風を形成する加熱板の背後に設けたヒータへの通電を停止させるが乾燥機の内部の循環空気は循環させたままであり、また減圧状態も維持したままである。
【0031】
本発明によって得られた墨を使用して書かれた書や絵は濃淡を微妙に調節することができ、特に墨絵の背景の部分のように、広範囲に微妙に濃度の異なる灰色の部分を形成することができるのである。
【0032】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明に係る墨とその製造方法は次のように構成されている。
【0033】
1)本発明に係る墨は、煤と膠質物との混合体を所定の形状とするともにその表面に開口した孔を設けた状態で乾燥させたことを特徴としている。
【0034】
2)本発明に係る墨の製造方法は、煤と膠質物との混合体を型取りして所定の形状に成形すると共に、この成形体の表面に開口を持つ孔、あるいは両面まで貫通した貫通孔を設けた墨の中間体を形成し、
この中間体を吸湿材に接触させた状態で低温の乾燥雰囲気に保持して脱湿させる第一乾燥工程と、乾燥空気に接触させると共に遠赤外線を放射して加熱する工程と、この加熱工程を停止させ、前記乾燥工程で発生した水分の分布を平均化させる休養工程とからなる第二乾燥工程を行うことを特徴としている。
【0035】
休止工程は、全ての乾燥に関する操作を休止すると言う意味ではなく、乾燥室内を循環する空気を加熱するヒータへの通電を停止するもので、室内に空気の循環用のフアンと、室内を減圧状態に保持するための排気フアンは継続して駆動させている。また、遠赤外線を放射する面からはヒータを停止しても内部を循環する空気や壁面や天井面からの放射熱をうけて加熱され、それによって放射熱を放射している。
【0036】
3)本発明に係る墨の製造方法は、前記混合体を型取りして所定の形状とした成形体に、ドリルを使用して孔開けして乾燥通路を開口した墨の中間体を製造することを特徴としている。
【0037】
4)本発明に係る墨の製造方法は、前記墨の中間体に接触させる吸湿材は、吸湿量が多く、しかも蒸発乾燥する速度が大きい吸湿紙からなることを特徴としている。
【0038】
5)本発明に係る墨の製造方法における第一乾燥工程は、シート状吸湿材で包んで低温の乾燥室内に収容して乾燥させるものであるが、この第一乾燥工程は温度が3〜7℃に保持されている冷蔵庫内に5日間程度、安静に保持することを特徴としている。
【0039】
6)本発明に係る墨の製造方法は、冷蔵乾燥である第一乾燥工程と第二乾燥工程とからなり、この第二乾燥工程は大気圧より低い圧力下で、前記中間体が変形もヒビ割れもしない温度の循環する温風と遠赤外線の照射によって行うことを特徴としている。
【0040】
7)前記第二乾燥工程は、50〜100mm水柱の減圧下において35〜45℃の循環する温風と遠赤外線の照射を行う温風乾燥工程と、温風の循環と遠赤外線の照射を停止させる休養工程との一連の工程で構成され、この一連の工程を少なくとも1週間継続することを特徴としている。
【0041】
8)本発明に係る墨の製造方法における第二乾燥工程を構成する前記温風乾燥工程は昼間に、休養工程は夜間に行うことを特徴としている。
【0042】
本発明に係る墨とその製造方法、より具体的には特殊な構造の墨とその乾燥方法は、従来の墨の自然乾燥方法にかえて、一次乾燥として冷蔵乾燥を採用し、二次乾燥即ち「熟成乾燥」を併用することによって、驚異的な短時間に生墨の内部から積極的に水分を表面側に誘導して乾燥させることに特徴がある。
【0043】
従来の墨は例えば断面が四角形の棒状でその断面に孔が存在しないものであったのに対して、本発明においては墨を貫通する孔や貫通しない孔を開口させたものであり、この孔によって水分や蒸気が移動する通路を短縮して水分の蒸発を助けるようにした点に大きな特徴がある。
【0044】
本発明の一次乾燥は冷蔵乾燥乾燥ないし低温乾燥であり、所定の成形を行った上で、更に小孔の孔あけ作業が完了した生墨(中間体)に対して冷風などが当たらないように保護された状態で、3〜7℃程度の低温の静かな雰囲気中で40%程度もの高水分含有率を持つ生墨を、20%程度まで短期間に減少させる工程である。
【0045】
高水分含有率の生墨から大量の水分を除去する工程として、従来は、生墨を乾燥した灰の中に埋めて水分を灰の側に移行させて乾燥する方法を第1段階の乾燥に使用し、更に第2段階として自然な雰囲気中で乾燥させるものであり、その乾燥に使用する期間が長く、数年から数十年(50年程度)の長期間の乾燥を必要とした。
【0046】
これに対して本発明は吸湿性の高いシートまたはペーパーで生墨と包んでおいて、これを低温の保存室あるいは冷蔵室にいれて、低温で低水分の空気に接触させて一次乾燥させるものある。
【0047】
そしてこの工程においては生墨に変形やヒビ割れなどの欠点を発生させないように慎重に処理しなければならない。そこで生墨に直接風が当たるようなことが無いように吸湿性シートで包んだり、覆いや仕切りをしたりしておく。
【0048】
前記吸湿性シートは生墨と接触している間に次第に生墨の水分を吸収して湿るので、所定の時間毎にこのシートを交換して水分の移行を助けるように交換を必要とする。好ましくはこのシートが吸湿性が高く、更に含んだ水分を墨に接触している面とは異なる側より速やかに蒸発させる性質を持つものが良い。
【0049】
本発明の墨の中間体である生墨は、その厚みの中間部に貫通した孔、あるいは途中まで削られた孔を開けたものを使用することにも特徴がある。
【0050】
例えば厚みが12mm、幅が30mm、長さが120mmの生墨の場合は、厚みの中間部分を貫通するように直径が3〜4mmの孔を10〜13mm程度の間隔で貫通させてドリルで開口する。また、一方な側から他方の面に向けて途中まで開口された孔を互いに位置をずらせて設けることもできる。
【0051】
この孔の太さは前記の程度で良く、あまり太過ぎて墨として違和感があるようなものは好ましくない。この孔の役目は、膠と煤と水分とからなる生墨の内部の水分を速やかに蒸発させる通路としての役目をするもので、従って生墨の太さや大きさ、孔の太さと開ける密度、孔の深さ、貫通かどうか等によって異なるものである。
【0052】
二次乾燥は一次乾燥(吸湿性シートに接触させ、低温の乾燥した空気と接触して乾燥する工程)されて水分が20%程度まで低下している墨の中間体(生墨)を、更に目標の水分含有率、最高で5%程度まで乾燥させるものである。
【0053】
そしてこの二次乾燥における乾燥手段は、加熱空気による対流伝熱加熱と遠赤外線照射による輻射伝熱を併用した50℃以下、35℃〜45℃、好ましくは36〜38℃程度の比較的低温で加熱する工程と、この加熱を停止させてその間に乾燥途中の墨の内部の水分の表面側に移行させて平準化を行う「休養工程」とからなるものであり、この二次乾燥工程を複数回繰り返すことになる。
【0054】
乾燥工程は、長時間連続的に行うと墨の内部と表面との間に水分含有率に差が発生する。この状態になると墨が変形したりヒビ割れが発生することになるのでこれを避けるために「休養工程」が必要であるのである。
【0055】
この休養工程は、通常であると加熱乾燥を実質的に休止して内部の水分を平準化することになるが、実際にはかなり穏やかな乾燥を行うこともできる。この穏やかな乾燥とは、加熱乾燥より遥かに低温の20℃前後の空気から5℃程度に冷却された空気を循環させる。その場合、好ましくはそよ風程度の空気の流れを作り、この穏やかな雰囲気の中で乾燥させることもできる。
【0056】
なお、温風の循環を停止しても、遠赤外線を放射するセラミックス面からの遠赤外線の放射が継続されていることは言うまでもなく、この遠赤外線による加熱は墨の温度と内部の空気の温度とが平衡状態になってもはや熱移動がない状態でも墨に対して熱エネルギーの打込み作用は継続される。
【0057】
加熱空気と遠赤外線とによって墨を加熱して表面に近い部分の水分を蒸発させると中間体(生墨)の内部と表面との間に水分含有率の差を必然的に形成する。この水分含有率の差を持たせた状態をながく継続させるとその外形が変形したり、反りが発生したり、ヒビ割れが発生したりする。
【0058】
この欠点を避ける意味で、水分を蒸発させる温風乾燥と、乾燥を休止させて墨の内部の水分を平準化させる構成からなる二次乾燥を行なう必要がある。
【0059】
この二次乾燥を行うことで墨が保有している水分を逐次的にあるいは波状的もしくは段階的に短時間内に蒸発除去することができるのである。
【0060】
前記のように本発明は、低温の安静な状態で一次乾燥した墨の中間体が含有している水分を一挙に蒸発させるものではない。二次乾燥の第1段階では、所定の加熱手段で所定の時間加熱して中間体の表面およびその近傍の水分を蒸発させ、第2段階では積極的な加熱を休止した「休養工程」で水分の平準化を図り、更に乾燥と水分の平準化を繰り返すことで墨の内部応力が必要以上に発生するのを防止している。
【0061】
墨のヒビ割れは、墨の表面と内部との温度差及び水分の分布差が一定以上になると外部から内部へ移動させる熱エネルギーの量が多くなり、これがヒビ割れや変形の原因となるものと考えられる。従って、墨の表面と内部との温度差をある範囲内に調整することが必要であると考えられる。
【0062】
休養工程は、乾燥を一時停止して表面からの蒸発を停止あるいは緩慢な状態としておき、その間に加熱乾燥工程で墨の中間体の内部と表面との間で不均一になった水分率の分布を均一化させる「水分緩和工程」ないし「水分と温度との緩和工程」を設けたもので、この水分と温度を緩和する工程により墨の内部応力の発生を極力抑制してヒビ割れや反り等の変形を防止するものである。
【0063】
墨の乾燥工程は、前記のように長いもので30年から50年を必要としているが、その原因は膠分と煤と水分の混合体である生墨の内部から水が移動して表面より蒸発する際は、40%から20%まで水分の含有量を低下させることは比較的容易であるが、7%から5%程度まで低下させることは極めて困難であり、その理由は、生墨の中間部にある水分が表面まで移動する際は水分の通路の確保が困難で、そこに大きな抵抗があるからであると考えられる。
【0064】
そこで本発明においては、生墨の本体に貫通孔あるいは貫通しない孔もしくは窪みを設けることで水分や蒸気が移動する経路を可能な限り短縮して水分の蒸発を早める方法を提供するものである。
【0065】
水分の蒸発を早めるための孔は、墨としての機能を失うような大きな孔ではなく、墨としての機能を十分発揮することができることが重要であり、その意味においてできるだけ小径でよい。具体的には3〜5mmで、その断面形状は丸形、楕円形、三角形、四角形、星型あるいは多数の小径の孔の集合体などを使用することができる。また、墨の長手方向に孔を開口することもできる。更に孔を幅方向に貫通したり、両側より互い違いに貫通させない孔を開口することもできる。
【0066】
【発明の実施の形態】
次に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
1)生墨(中間体)の製造工程
a)菜種油を素焼の皿の上で燃焼して煤を採取した。
【0067】
b)そして原料の膠を二重鍋を使用して長時間煮て液状にした。
【0068】
c)この膠の液に前記煤を添加して混合物とし、これを混和機により十分に練り上げて餅状の混練和物からなる墨の原料である墨玉を製造した。
【0069】
d)そしてこの墨玉に香料を添加して手で良く揉み上げ、これを所定の凹部を形成した木型に入れ、押圧して墨の原型、即ち生墨の成形体を製造した。
2)孔あけ工程
次に、この生墨の成形体に本発明の孔開け加工を行った。
【0070】
図1(A、B)は生墨1の外形を示す正面図と側面図であって、幅mが30mm、厚さnが12mm、長さpが120mmのものを多数本準備した。そして厚さnの中間位置に直径が4mmのドリルを使用してピッチ10mmで幅方向に貫通させて開口した。
【0071】
前記のように、この孔2は生墨の内部に含まれている水分を早く蒸発させるための水蒸気あるいは水分が通過する通路として設けたものであり、その直径は2〜5mm程度のもので良いと考えれれる。
【0072】
図2は各種の孔の断面形状を示しており、aは丸形、bは三角形、cは菱形、d は四角形、eは楕円形、fは偏平な楕円形、gは星形である。また、図3は小径の丸孔をジグザグ状に配置した集合体を示している。このように孔の断面形状は各種のものを採用することができる。
【0073】
図4は生墨1aの長手方向に孔2aを開口したものを示している。この孔2aは偏平な孔をを4ヶ平行して開口したもので、生墨は周囲の箱状の部分と内部の複数枚の厚い壁で構成されたようになり、通気性は良好であるが強度的には全く問題がない構造である。
3)脱水工程
次に、高吸湿性紙を多数枚使用して前記孔をあけた生墨を包んだ。多量に水分を含んだ生墨は、羊羹状で変形し易いので高吸湿性紙を重ねて生墨を変形させないように注意して包装作業を行った。
【0074】
なお、この高吸湿性紙は和紙を加工して吸湿性と放湿性を改善したものを使用するのが良く、乾燥工程においてなるべく
4)冷蔵乾燥(一次乾燥工程)
冷蔵乾燥装置として大型冷蔵庫を準備し、この中に前記のように生墨を高吸湿性紙で包んだもの複数本を支持板上に並べた。この冷蔵庫の内部は厚手の合成樹脂フイルムで仕切られており、個々の生墨に風が当たらないようにした。
【0075】
発明者の経験によると、生墨に風を当てると表面から大量の水分が蒸発してヒビ割れとなる傾向が強く、その上、生墨が反ったり、曲がったりしたので、これを避けるために風か空気の流れを当てないようにすることが必要である。
【0076】
冷蔵庫内の温度は3℃〜7℃、好ましくは5℃ないし6℃の範囲で制御するようにした。また、時間の経過とともに高吸湿性紙が湿ってくるので、必要に応じて紙ないしシートを交換して水分を排出し易いようにした。この高吸湿性紙ないしシートが高放湿度性のものであると、生墨から水分を吸い出して表面から水蒸気として放出するのでこの紙ないしシートを交換する必要がない。
【0077】
この冷蔵乾燥は、水分が約40%程度ある生墨を約20%程度まで急速に低下させるものであり、その間に生墨の構造内にストレスや微細なヒビを発生させないように留意する必要がある。
【0078】
5)二次乾燥工程(加熱空気と遠赤外線による乾燥と休養工程)
前記冷蔵乾燥した生墨を乾燥機内に搬送して二次乾燥する。
【0079】
この二次乾燥に使用する乾燥機は、乾燥室内に温度が38℃〜40℃の温風を循環させるようにしたものである。
【0080】
そして天井面に加熱板を配置し、この加熱板の上面に加熱室を形成し、前記加熱板の上面にシーズヒータを配置し、この加熱室の一方の吸入口よりフアンで乾燥室内を循環している温風を吸引し、前記加熱板の上面に配置されているシーズヒータで加熱して加熱室の他方に開口されている吐出口から乾燥室内に供給するようになっている。
【0081】
また、前記加熱板の表面にセラミックス(酸化チタンと酸化アルミが二重にプラズマ溶射されている。)層が形成されており、前記シーズヒータの加熱によりその下面のセラミックス層より多量の遠赤外線を乾燥室内に放射するようになっている。
【0082】
二次乾燥工程を形成している「休養工程」は、温風送風を停止する工程であって、生墨に含まれている水分の蒸発速度を低め、その間に生墨の内部の水分の分散をさせる工程であって、この休養工程で墨の曲がりやヒビ割れが発生しないようにしながら乾燥するものである。しかしながら、この工程においても遠赤外線による加熱は静かに進行していることは言うまでもない。
【0083】
この二次乾燥は、乾燥工程と温風の循環を停止させた休養工程を1対として繰り返すものであるが、乾燥室内が30℃〜50℃に温度調節しておき、更にその乾燥室の中を50mm水柱に排気ブロワーによって減圧しておく。
【0084】
温風を循環させる時間は次の通り12日間運転して本発明にかかる乾燥を実施した。
6.実験結果
一次乾燥を5日間行なった墨の中間体(水分含有率20%程度)を前記設定条件で2週間、二次乾燥すると、水分率が7%以下となっており、かなり乾燥が進み、30年程度乾燥させた高級墨と同様な硬度があった。
【0085】
孔をあけた墨の中間体とあけないものの乾燥状態を比較すると、孔をあけたものは乾燥がかなり進んでおり、本発明の効果が顕著であることが分かった。
【0086】
本発明によって乾燥した墨を使用して書や水墨画を描いたところ、特に水墨画の空や滝の流れ落ちる様子の中間色を簡単にだすことができ、30年以上も乾燥させた高級墨のような書き具合であった。
7.墨の使用例
図5(A)はK墨製造会社製の1年ものの従来の墨で書いたものであり、
(B)は同墨(ブランク)に本発明を適用して更に乾燥したもので書いたものである。後者の書の方が中間色が良くでていることが分かる。
【0087】
図6(A)はN墨製造会社製の1年ものの従来の墨で書いたものであり、
(B)は同墨(ブランク)に本発明を適用して更に乾燥した墨で書いたののである。
【0088】
1年ものの墨(ブランク)で書いたものは、濃淡がはっきりしないが、本発明で乾燥したもの(乾燥墨)は30年もので書いたように筆使いが明確になっていた。
8.電子顕微鏡による判定
図7(A)は、K墨製造会社製の1年ものの墨を使用して、「磨墨条件:水量:20ml時間:15分、硯:雄勝硯」で書いた書を電子顕微鏡で見た場合の100、400倍の写真である。
【0089】
同(B)は、本発明によって前記墨(ブランク)を更に乾燥した場合の墨(乾燥墨)を使用して書いた書の電子顕微鏡写真である。
【0090】
図8(A)は、N墨製造会社製の1年ものの墨を使用して書いた書を電子顕微鏡で見た場合の100、400倍の写真である。
【0091】
また(B)は、本発明によって前記墨(ブランク)を更に乾燥した場合の墨(乾燥墨)を使用して書いた書の電子顕微鏡写真である。
【0092】
(A)と(B)を比較すると、ブランク(A)は煤が集合が小さく分散しているのに対して(B)の写真においては煤の集合が大きくなっていることが分かる。このように煤の集合状態が乾燥によって変化することで、30年あるいはそれ以上に乾燥した古墨と同様な書き具合と色合いを簡単に出すことができるのである。
【0093】
【発明の効果】
本発明に係る墨は、墨の原料の混合体を成形した成形体(生墨)に孔をあけた中間体を乾燥しているので、2週間ないし1ヶ月程度の乾燥で30年あるいはそれ以上に乾燥させた墨のように、水分率が低下して高度に乾燥させることができた。
【0094】
そしてこの墨を使用して書いた書や水墨画は、濃淡を明確にすることができるとともに、水の流れや雲の様子など、中間色を簡単に出すことができ、30年ないし50年も乾燥させた古墨(高級墨)と同じ性質の墨を、極めて短期間に、安価に製造できる。
【0095】
そのため、従来のように30年から50年も大切に保管して乾燥させる場所と保管操作が全く不要となり、製造コストを著しく低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は、本発明に係る墨の成形体の正面図、(B)は同側面図である。
【図2】(a)〜(g)は、墨の成形体(生墨)にあける各種の孔の形状を示す正面図である。
【図3】多数の小孔で構成される孔群の正面図である。
【図4】(A)は長手方向に扁平な孔を複数本開口した生墨の正面図、(B)は同側面図である。
【図5】(A)は1年ものの墨の書、(B)は本発明によって1年ものの墨を乾燥した墨の書である。
【図6】(A)は1年ものの墨の書、(B)は本発明によって1年ものの墨を乾燥した墨の書である。
【図7】(A)はK墨製造会社製の1年ものの墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
(B)は同じ会社製の1年ものの墨を本発明によって乾燥した墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
【図8】
(A)はN墨製造会社製の1年ものの墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
(B)は同じ製造会社製の1年ものの墨を本発明によって乾燥した墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は筆で書や絵を書くために使用する墨の製造方法に関し、特に生墨を短期間に所定の水分率まで乾燥させて書道家が使用する墨を製造する方法を提供する。
【0002】
【従来の技術】
筆記用の墨は古代から存在しているが、現在行なわれている製造方法は、採煤工程、膠の溶解工程、煤と膠の混入工程、混練工程、型入れ工程、削り・灰乾燥工程、自然乾燥工程、彩色・包装工程などで構成されている。
【0003】
煤を採取する工程は、素焼の皿に菜種油等の植物湯を入れて灯芯を燃やし、素焼きの蓋に付いた煤を集める。そしてこの煤を固形物として集合させる手段として膠が使用されているが、動物の皮から採取したコラーゲンを含む蛋白質の一種のゼラチン質からなる膠を二重釜に入れて長時間煮沸して液化させる。この液状の膠に煤を混入して煤と膠の混合体を調整し、これを混和機に入れて練り合わせて煤と膠とが均質に混練された高粘度の塊りとする。
【0004】
なお、採取した煤はゴミを含んでいたり、空気を多量に含んでいるので、圧縮工程が必要であり、煤のゴミを除去した後に圧縮機にかけて体積を1/8程度にする。その後、袋詰めして積み上げて6ケ月位保管し、自然に圧縮する操作を行って脱気するなどの作業を行なっている。
【0005】
前記のようにして練り上がった墨のアスフアルト状の玉に香料を入れ、手で良く揉み、これを木型に入れて成型して墨の原型を製造し、そして木型より取出した墨の木型からはみ出したバリをカンナで削って外形を整える。
【0006】
次に、このバリを取った水分を含んだ墨(生墨)は紀州備長炭の灰の中に約2ケ月ほど埋められて自然乾燥する。灰は墨の水分を吸って次第に湿ってくるので毎日交換し、だんだん水分の少ない灰の中に入れていく。このような灰乾燥が終わると墨の水分含有率は20%程度まで低下しているが、この半乾き(一次乾燥)の墨を藁で編んだ紐でくくり、約4ケ月ほど割れを防止しながら自然乾燥(二次乾燥)する。
【0007】
この自然乾燥が終わるとハマグリの貝殻等で表面に磨きをかけて艶をだし、その後、墨の表面に薄い膠の液で上塗りし、朱などの絵の具で彩色した後に1個づつ紙で包装し、箱に入れて包装する。
【0008】
小型の墨では型入れ(生墨の成形)から乾燥を経て包装までの期間は約3〜4ケ月、大きな墨になると1年から数年までかかることが多い。墨はその製造中は勿論、製品となった後でも気候の影響を受け、例えば雨が降って湿気が多い日には外気の湿気を吸って重量を増し、反対に晴れて乾燥した日には墨に含まれている水分を外に放出して自然環境に順応している。
【0009】
このように墨は単なる固形物ではなく、水分を吸収したり放出する生き物であり、その保存状態によって膠質が分解劣化して結合力が低下して墨が分解したり、脆くなってくる。従って水分を高度に除去し、これを乾燥した一定の温度の雰囲気において保管する必要がある。
【0010】
【発明が解決すべき課題】
前記のように、墨を製造するためには、煤の採取から煤と膠との練り合わせ、成型、そして一次乾燥と二次乾燥などの長い工程を経て完成するものであり、その間の処理によって品質が大きく左右される。また、良質な原料である煤を採取することは勿論であるが、前記のように長い製造工程のうち、特に大切な工程は乾燥工程である。
【0011】
通常の墨の乾燥工程は、前記のように水分の大半を脱出させる灰を利用した乾燥から、紐で吊下げて自然乾燥による緩慢な乾燥が主体である。
【0012】
小学校や中学校で使用する安価な書道用の墨であるとこの乾燥工程は約1年程度であるが、書家などの専門家が使用する高級品になると乾燥した低温の雰囲気において30年から50年も乾燥するものもある。このように墨の乾燥工程には長い期間が必要であり、この際、慎重な乾燥を必要とする主な理由は、製品の表面にヒビ割れが発生したり変形を防ぐためである。
【0013】
前記のように乾燥中の墨は勿論、完成した保管中の墨であっても外気の湿度の影響を受け、恰も呼吸をしているように水分を排出したり、吸収しており、これの水分の吸排出のバランスが崩れることによって微細なヒビ割れが発生すると思われる。勿論、このヒビ割れが発生した墨は不良品となり、廃棄などの処分されることになる。
【0014】
一方、墨の原料となる煤を製造する時期は、良質な菜種油などの煤を採取できる時期であり、特に高級な煤を採取する場合は古松を薪状に割ったものを燃やす場合があるが、いずれにしても墨を製造する時期は気温が低下して寒く、しかも空気が乾燥している11月から4月頃までの時期が多い。
【0015】
更に、従来の墨の製造方法においては、前記のように墨の乾燥にはヒビ割れを防止するために長期にわたる緩慢な乾燥が必須であった。
【0016】
また、別の問題として墨の原料は煤と膠の混合体であることに起因してカビが発生する。つまり、湿度の高い時期が長びくと膠が吸収する水分量が多くなり、それに伴ってカビが繁殖し易い条件となり、その結果、保存中の墨の表面に「カビ」が発生することがある。
【0017】
特に未乾燥の生墨(水分が35〜40%)の状態であると、常温で数日間放置しておくとカビが発生するので、特に乾燥工程には十分な注意が必要である。
【0018】
周知のように墨は短期間に販売できる商品ではないので、従って、カビが発生せず、表面に光沢があり、更に微細なヒビ割れもない状態に保存することは良質の墨を販売する上で重要である。
【0019】
未乾燥の墨(灰乾燥を終わったの生墨)を早期に乾燥させる方法として乾燥機を使用する方法が考えられる。一般的な乾燥機は、燃焼ガスや電熱ヒーター等の熱源で加熱した熱風を使用して墨を加熱したり、ヒーターで直接加熱する方法が採用されている。しかし、この加熱方法は乾燥速度が自然乾燥に比較して著しく早く、これが原因となって大きな内部応力を発生して割れが発生する欠点があり、実際にこの乾燥方法を採用することは困難である。
【0020】
前記のように墨を自然乾燥した期間の長短(1年〜50年)と保管状態と期間とにより墨の品質と価格が大きく変化するが、その理由は次の点にあると考えられる。
【0021】
つまり微粒子状の煤と、これの接着成分である膠の混合体(練り物)は寒天状で、これに含有されている水分は約40%もある。そしてこれを使用して成型した後の生墨も同様である。この高水分率の中間体(生墨)を灰の中に入れて移行脱水させて乾燥させた後でも約20%もある。そして更に1〜数ケ月の自然乾燥を行なった後でも18%程度の水分を保有している。
【0022】
このように生墨を長時間自然乾燥させて乾燥させて商品とした墨でも8%程度の水分を保有しており、これをそれ以下にすることは極めて困難である。
【0023】
その理由は、墨は煤の微粒子の間を膠で接合した混合体であり、従って、膠などが含む水分が墨の表面まで移動して蒸発させるためには、混合体の中の水の分子の移動が速やかに行なわれなければならない。しかし、実際にはこの挙動を得ることは極めて困難である。
【0024】
一方、書家の説明によると、墨を善し悪しの見分け方は、筆の幅で描かれた墨の色が濃い黒色でなく、墨絵に採用されている中間色の「灰色」を出すことが可能であり、しかもその色は書いた筆の幅の範囲で、ほぼ均一な濃さで、筆が通過した部分と隣接する滲んだ部分とが明確に区別されることであるという。
【0025】
十分に乾燥されていない墨を使用した書や絵は、筆が通過した範囲の内側と外側とで色の濃さが大きく変化し、例えば外側が黒く、内側が薄くなっている。
【0026】
書や墨絵の濃さは墨をすった量と筆の穂先に付着した量、更に運筆速度に関係し、また、墨の原料である煤の粒子の大きさにも関係している。製造工程におけるか加熱乾燥が浅く、含水率が7〜9%程度の墨の場合は、すられた墨より発生した煤の微細な粒子は元の煤の粒子の大きさに類似しており、それに伴なって書等に比較的コントロールが困難な濃淡を発生させている。
【0027】
これに対して、20年以上も十分に乾燥熟成された墨は水分率が5%程度に減少して硬度が高くなっており、これを摩った場合は、墨を構成している煤の粒子が硯の表面との接触で削られ、少しづつ磨滅されて微細化されている。そのため書等の濃淡が筆の穂先への付着量や運筆速度などに関係なく、大きな差を生じないようである
特に墨絵の場合には、黒一色を使用して濃淡だけで、空や山や樹木や水や動物や花等の色彩を感じさせるものであり、それには広範囲な濃度差を表現できるものでなければならない。
【0028】
本発明は前記従来技術の欠点である長期の乾燥が必要である点を改善し、10年、20年あるいはぞれ以上に所定の乾燥雰囲気において乾燥した高級墨のような優れた特性を持つ高級墨を1ヶ月程度の極めて短期間に効率的に製造できる方法を提供することにある。
【0029】
後述するように本発明は、低温の安静な状態の一次乾燥工程で乾燥させた後、温風加熱と遠赤外線加熱を休止した休養工程で構成される二次乾燥(熟成乾燥)を採用すること乾燥するものである。
【0030】
この休止工程においては温風を形成する加熱板の背後に設けたヒータへの通電を停止させるが乾燥機の内部の循環空気は循環させたままであり、また減圧状態も維持したままである。
【0031】
本発明によって得られた墨を使用して書かれた書や絵は濃淡を微妙に調節することができ、特に墨絵の背景の部分のように、広範囲に微妙に濃度の異なる灰色の部分を形成することができるのである。
【0032】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明に係る墨とその製造方法は次のように構成されている。
【0033】
1)本発明に係る墨は、煤と膠質物との混合体を所定の形状とするともにその表面に開口した孔を設けた状態で乾燥させたことを特徴としている。
【0034】
2)本発明に係る墨の製造方法は、煤と膠質物との混合体を型取りして所定の形状に成形すると共に、この成形体の表面に開口を持つ孔、あるいは両面まで貫通した貫通孔を設けた墨の中間体を形成し、
この中間体を吸湿材に接触させた状態で低温の乾燥雰囲気に保持して脱湿させる第一乾燥工程と、乾燥空気に接触させると共に遠赤外線を放射して加熱する工程と、この加熱工程を停止させ、前記乾燥工程で発生した水分の分布を平均化させる休養工程とからなる第二乾燥工程を行うことを特徴としている。
【0035】
休止工程は、全ての乾燥に関する操作を休止すると言う意味ではなく、乾燥室内を循環する空気を加熱するヒータへの通電を停止するもので、室内に空気の循環用のフアンと、室内を減圧状態に保持するための排気フアンは継続して駆動させている。また、遠赤外線を放射する面からはヒータを停止しても内部を循環する空気や壁面や天井面からの放射熱をうけて加熱され、それによって放射熱を放射している。
【0036】
3)本発明に係る墨の製造方法は、前記混合体を型取りして所定の形状とした成形体に、ドリルを使用して孔開けして乾燥通路を開口した墨の中間体を製造することを特徴としている。
【0037】
4)本発明に係る墨の製造方法は、前記墨の中間体に接触させる吸湿材は、吸湿量が多く、しかも蒸発乾燥する速度が大きい吸湿紙からなることを特徴としている。
【0038】
5)本発明に係る墨の製造方法における第一乾燥工程は、シート状吸湿材で包んで低温の乾燥室内に収容して乾燥させるものであるが、この第一乾燥工程は温度が3〜7℃に保持されている冷蔵庫内に5日間程度、安静に保持することを特徴としている。
【0039】
6)本発明に係る墨の製造方法は、冷蔵乾燥である第一乾燥工程と第二乾燥工程とからなり、この第二乾燥工程は大気圧より低い圧力下で、前記中間体が変形もヒビ割れもしない温度の循環する温風と遠赤外線の照射によって行うことを特徴としている。
【0040】
7)前記第二乾燥工程は、50〜100mm水柱の減圧下において35〜45℃の循環する温風と遠赤外線の照射を行う温風乾燥工程と、温風の循環と遠赤外線の照射を停止させる休養工程との一連の工程で構成され、この一連の工程を少なくとも1週間継続することを特徴としている。
【0041】
8)本発明に係る墨の製造方法における第二乾燥工程を構成する前記温風乾燥工程は昼間に、休養工程は夜間に行うことを特徴としている。
【0042】
本発明に係る墨とその製造方法、より具体的には特殊な構造の墨とその乾燥方法は、従来の墨の自然乾燥方法にかえて、一次乾燥として冷蔵乾燥を採用し、二次乾燥即ち「熟成乾燥」を併用することによって、驚異的な短時間に生墨の内部から積極的に水分を表面側に誘導して乾燥させることに特徴がある。
【0043】
従来の墨は例えば断面が四角形の棒状でその断面に孔が存在しないものであったのに対して、本発明においては墨を貫通する孔や貫通しない孔を開口させたものであり、この孔によって水分や蒸気が移動する通路を短縮して水分の蒸発を助けるようにした点に大きな特徴がある。
【0044】
本発明の一次乾燥は冷蔵乾燥乾燥ないし低温乾燥であり、所定の成形を行った上で、更に小孔の孔あけ作業が完了した生墨(中間体)に対して冷風などが当たらないように保護された状態で、3〜7℃程度の低温の静かな雰囲気中で40%程度もの高水分含有率を持つ生墨を、20%程度まで短期間に減少させる工程である。
【0045】
高水分含有率の生墨から大量の水分を除去する工程として、従来は、生墨を乾燥した灰の中に埋めて水分を灰の側に移行させて乾燥する方法を第1段階の乾燥に使用し、更に第2段階として自然な雰囲気中で乾燥させるものであり、その乾燥に使用する期間が長く、数年から数十年(50年程度)の長期間の乾燥を必要とした。
【0046】
これに対して本発明は吸湿性の高いシートまたはペーパーで生墨と包んでおいて、これを低温の保存室あるいは冷蔵室にいれて、低温で低水分の空気に接触させて一次乾燥させるものある。
【0047】
そしてこの工程においては生墨に変形やヒビ割れなどの欠点を発生させないように慎重に処理しなければならない。そこで生墨に直接風が当たるようなことが無いように吸湿性シートで包んだり、覆いや仕切りをしたりしておく。
【0048】
前記吸湿性シートは生墨と接触している間に次第に生墨の水分を吸収して湿るので、所定の時間毎にこのシートを交換して水分の移行を助けるように交換を必要とする。好ましくはこのシートが吸湿性が高く、更に含んだ水分を墨に接触している面とは異なる側より速やかに蒸発させる性質を持つものが良い。
【0049】
本発明の墨の中間体である生墨は、その厚みの中間部に貫通した孔、あるいは途中まで削られた孔を開けたものを使用することにも特徴がある。
【0050】
例えば厚みが12mm、幅が30mm、長さが120mmの生墨の場合は、厚みの中間部分を貫通するように直径が3〜4mmの孔を10〜13mm程度の間隔で貫通させてドリルで開口する。また、一方な側から他方の面に向けて途中まで開口された孔を互いに位置をずらせて設けることもできる。
【0051】
この孔の太さは前記の程度で良く、あまり太過ぎて墨として違和感があるようなものは好ましくない。この孔の役目は、膠と煤と水分とからなる生墨の内部の水分を速やかに蒸発させる通路としての役目をするもので、従って生墨の太さや大きさ、孔の太さと開ける密度、孔の深さ、貫通かどうか等によって異なるものである。
【0052】
二次乾燥は一次乾燥(吸湿性シートに接触させ、低温の乾燥した空気と接触して乾燥する工程)されて水分が20%程度まで低下している墨の中間体(生墨)を、更に目標の水分含有率、最高で5%程度まで乾燥させるものである。
【0053】
そしてこの二次乾燥における乾燥手段は、加熱空気による対流伝熱加熱と遠赤外線照射による輻射伝熱を併用した50℃以下、35℃〜45℃、好ましくは36〜38℃程度の比較的低温で加熱する工程と、この加熱を停止させてその間に乾燥途中の墨の内部の水分の表面側に移行させて平準化を行う「休養工程」とからなるものであり、この二次乾燥工程を複数回繰り返すことになる。
【0054】
乾燥工程は、長時間連続的に行うと墨の内部と表面との間に水分含有率に差が発生する。この状態になると墨が変形したりヒビ割れが発生することになるのでこれを避けるために「休養工程」が必要であるのである。
【0055】
この休養工程は、通常であると加熱乾燥を実質的に休止して内部の水分を平準化することになるが、実際にはかなり穏やかな乾燥を行うこともできる。この穏やかな乾燥とは、加熱乾燥より遥かに低温の20℃前後の空気から5℃程度に冷却された空気を循環させる。その場合、好ましくはそよ風程度の空気の流れを作り、この穏やかな雰囲気の中で乾燥させることもできる。
【0056】
なお、温風の循環を停止しても、遠赤外線を放射するセラミックス面からの遠赤外線の放射が継続されていることは言うまでもなく、この遠赤外線による加熱は墨の温度と内部の空気の温度とが平衡状態になってもはや熱移動がない状態でも墨に対して熱エネルギーの打込み作用は継続される。
【0057】
加熱空気と遠赤外線とによって墨を加熱して表面に近い部分の水分を蒸発させると中間体(生墨)の内部と表面との間に水分含有率の差を必然的に形成する。この水分含有率の差を持たせた状態をながく継続させるとその外形が変形したり、反りが発生したり、ヒビ割れが発生したりする。
【0058】
この欠点を避ける意味で、水分を蒸発させる温風乾燥と、乾燥を休止させて墨の内部の水分を平準化させる構成からなる二次乾燥を行なう必要がある。
【0059】
この二次乾燥を行うことで墨が保有している水分を逐次的にあるいは波状的もしくは段階的に短時間内に蒸発除去することができるのである。
【0060】
前記のように本発明は、低温の安静な状態で一次乾燥した墨の中間体が含有している水分を一挙に蒸発させるものではない。二次乾燥の第1段階では、所定の加熱手段で所定の時間加熱して中間体の表面およびその近傍の水分を蒸発させ、第2段階では積極的な加熱を休止した「休養工程」で水分の平準化を図り、更に乾燥と水分の平準化を繰り返すことで墨の内部応力が必要以上に発生するのを防止している。
【0061】
墨のヒビ割れは、墨の表面と内部との温度差及び水分の分布差が一定以上になると外部から内部へ移動させる熱エネルギーの量が多くなり、これがヒビ割れや変形の原因となるものと考えられる。従って、墨の表面と内部との温度差をある範囲内に調整することが必要であると考えられる。
【0062】
休養工程は、乾燥を一時停止して表面からの蒸発を停止あるいは緩慢な状態としておき、その間に加熱乾燥工程で墨の中間体の内部と表面との間で不均一になった水分率の分布を均一化させる「水分緩和工程」ないし「水分と温度との緩和工程」を設けたもので、この水分と温度を緩和する工程により墨の内部応力の発生を極力抑制してヒビ割れや反り等の変形を防止するものである。
【0063】
墨の乾燥工程は、前記のように長いもので30年から50年を必要としているが、その原因は膠分と煤と水分の混合体である生墨の内部から水が移動して表面より蒸発する際は、40%から20%まで水分の含有量を低下させることは比較的容易であるが、7%から5%程度まで低下させることは極めて困難であり、その理由は、生墨の中間部にある水分が表面まで移動する際は水分の通路の確保が困難で、そこに大きな抵抗があるからであると考えられる。
【0064】
そこで本発明においては、生墨の本体に貫通孔あるいは貫通しない孔もしくは窪みを設けることで水分や蒸気が移動する経路を可能な限り短縮して水分の蒸発を早める方法を提供するものである。
【0065】
水分の蒸発を早めるための孔は、墨としての機能を失うような大きな孔ではなく、墨としての機能を十分発揮することができることが重要であり、その意味においてできるだけ小径でよい。具体的には3〜5mmで、その断面形状は丸形、楕円形、三角形、四角形、星型あるいは多数の小径の孔の集合体などを使用することができる。また、墨の長手方向に孔を開口することもできる。更に孔を幅方向に貫通したり、両側より互い違いに貫通させない孔を開口することもできる。
【0066】
【発明の実施の形態】
次に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
1)生墨(中間体)の製造工程
a)菜種油を素焼の皿の上で燃焼して煤を採取した。
【0067】
b)そして原料の膠を二重鍋を使用して長時間煮て液状にした。
【0068】
c)この膠の液に前記煤を添加して混合物とし、これを混和機により十分に練り上げて餅状の混練和物からなる墨の原料である墨玉を製造した。
【0069】
d)そしてこの墨玉に香料を添加して手で良く揉み上げ、これを所定の凹部を形成した木型に入れ、押圧して墨の原型、即ち生墨の成形体を製造した。
2)孔あけ工程
次に、この生墨の成形体に本発明の孔開け加工を行った。
【0070】
図1(A、B)は生墨1の外形を示す正面図と側面図であって、幅mが30mm、厚さnが12mm、長さpが120mmのものを多数本準備した。そして厚さnの中間位置に直径が4mmのドリルを使用してピッチ10mmで幅方向に貫通させて開口した。
【0071】
前記のように、この孔2は生墨の内部に含まれている水分を早く蒸発させるための水蒸気あるいは水分が通過する通路として設けたものであり、その直径は2〜5mm程度のもので良いと考えれれる。
【0072】
図2は各種の孔の断面形状を示しており、aは丸形、bは三角形、cは菱形、d は四角形、eは楕円形、fは偏平な楕円形、gは星形である。また、図3は小径の丸孔をジグザグ状に配置した集合体を示している。このように孔の断面形状は各種のものを採用することができる。
【0073】
図4は生墨1aの長手方向に孔2aを開口したものを示している。この孔2aは偏平な孔をを4ヶ平行して開口したもので、生墨は周囲の箱状の部分と内部の複数枚の厚い壁で構成されたようになり、通気性は良好であるが強度的には全く問題がない構造である。
3)脱水工程
次に、高吸湿性紙を多数枚使用して前記孔をあけた生墨を包んだ。多量に水分を含んだ生墨は、羊羹状で変形し易いので高吸湿性紙を重ねて生墨を変形させないように注意して包装作業を行った。
【0074】
なお、この高吸湿性紙は和紙を加工して吸湿性と放湿性を改善したものを使用するのが良く、乾燥工程においてなるべく
4)冷蔵乾燥(一次乾燥工程)
冷蔵乾燥装置として大型冷蔵庫を準備し、この中に前記のように生墨を高吸湿性紙で包んだもの複数本を支持板上に並べた。この冷蔵庫の内部は厚手の合成樹脂フイルムで仕切られており、個々の生墨に風が当たらないようにした。
【0075】
発明者の経験によると、生墨に風を当てると表面から大量の水分が蒸発してヒビ割れとなる傾向が強く、その上、生墨が反ったり、曲がったりしたので、これを避けるために風か空気の流れを当てないようにすることが必要である。
【0076】
冷蔵庫内の温度は3℃〜7℃、好ましくは5℃ないし6℃の範囲で制御するようにした。また、時間の経過とともに高吸湿性紙が湿ってくるので、必要に応じて紙ないしシートを交換して水分を排出し易いようにした。この高吸湿性紙ないしシートが高放湿度性のものであると、生墨から水分を吸い出して表面から水蒸気として放出するのでこの紙ないしシートを交換する必要がない。
【0077】
この冷蔵乾燥は、水分が約40%程度ある生墨を約20%程度まで急速に低下させるものであり、その間に生墨の構造内にストレスや微細なヒビを発生させないように留意する必要がある。
【0078】
5)二次乾燥工程(加熱空気と遠赤外線による乾燥と休養工程)
前記冷蔵乾燥した生墨を乾燥機内に搬送して二次乾燥する。
【0079】
この二次乾燥に使用する乾燥機は、乾燥室内に温度が38℃〜40℃の温風を循環させるようにしたものである。
【0080】
そして天井面に加熱板を配置し、この加熱板の上面に加熱室を形成し、前記加熱板の上面にシーズヒータを配置し、この加熱室の一方の吸入口よりフアンで乾燥室内を循環している温風を吸引し、前記加熱板の上面に配置されているシーズヒータで加熱して加熱室の他方に開口されている吐出口から乾燥室内に供給するようになっている。
【0081】
また、前記加熱板の表面にセラミックス(酸化チタンと酸化アルミが二重にプラズマ溶射されている。)層が形成されており、前記シーズヒータの加熱によりその下面のセラミックス層より多量の遠赤外線を乾燥室内に放射するようになっている。
【0082】
二次乾燥工程を形成している「休養工程」は、温風送風を停止する工程であって、生墨に含まれている水分の蒸発速度を低め、その間に生墨の内部の水分の分散をさせる工程であって、この休養工程で墨の曲がりやヒビ割れが発生しないようにしながら乾燥するものである。しかしながら、この工程においても遠赤外線による加熱は静かに進行していることは言うまでもない。
【0083】
この二次乾燥は、乾燥工程と温風の循環を停止させた休養工程を1対として繰り返すものであるが、乾燥室内が30℃〜50℃に温度調節しておき、更にその乾燥室の中を50mm水柱に排気ブロワーによって減圧しておく。
【0084】
温風を循環させる時間は次の通り12日間運転して本発明にかかる乾燥を実施した。
6.実験結果
一次乾燥を5日間行なった墨の中間体(水分含有率20%程度)を前記設定条件で2週間、二次乾燥すると、水分率が7%以下となっており、かなり乾燥が進み、30年程度乾燥させた高級墨と同様な硬度があった。
【0085】
孔をあけた墨の中間体とあけないものの乾燥状態を比較すると、孔をあけたものは乾燥がかなり進んでおり、本発明の効果が顕著であることが分かった。
【0086】
本発明によって乾燥した墨を使用して書や水墨画を描いたところ、特に水墨画の空や滝の流れ落ちる様子の中間色を簡単にだすことができ、30年以上も乾燥させた高級墨のような書き具合であった。
7.墨の使用例
図5(A)はK墨製造会社製の1年ものの従来の墨で書いたものであり、
(B)は同墨(ブランク)に本発明を適用して更に乾燥したもので書いたものである。後者の書の方が中間色が良くでていることが分かる。
【0087】
図6(A)はN墨製造会社製の1年ものの従来の墨で書いたものであり、
(B)は同墨(ブランク)に本発明を適用して更に乾燥した墨で書いたののである。
【0088】
1年ものの墨(ブランク)で書いたものは、濃淡がはっきりしないが、本発明で乾燥したもの(乾燥墨)は30年もので書いたように筆使いが明確になっていた。
8.電子顕微鏡による判定
図7(A)は、K墨製造会社製の1年ものの墨を使用して、「磨墨条件:水量:20ml時間:15分、硯:雄勝硯」で書いた書を電子顕微鏡で見た場合の100、400倍の写真である。
【0089】
同(B)は、本発明によって前記墨(ブランク)を更に乾燥した場合の墨(乾燥墨)を使用して書いた書の電子顕微鏡写真である。
【0090】
図8(A)は、N墨製造会社製の1年ものの墨を使用して書いた書を電子顕微鏡で見た場合の100、400倍の写真である。
【0091】
また(B)は、本発明によって前記墨(ブランク)を更に乾燥した場合の墨(乾燥墨)を使用して書いた書の電子顕微鏡写真である。
【0092】
(A)と(B)を比較すると、ブランク(A)は煤が集合が小さく分散しているのに対して(B)の写真においては煤の集合が大きくなっていることが分かる。このように煤の集合状態が乾燥によって変化することで、30年あるいはそれ以上に乾燥した古墨と同様な書き具合と色合いを簡単に出すことができるのである。
【0093】
【発明の効果】
本発明に係る墨は、墨の原料の混合体を成形した成形体(生墨)に孔をあけた中間体を乾燥しているので、2週間ないし1ヶ月程度の乾燥で30年あるいはそれ以上に乾燥させた墨のように、水分率が低下して高度に乾燥させることができた。
【0094】
そしてこの墨を使用して書いた書や水墨画は、濃淡を明確にすることができるとともに、水の流れや雲の様子など、中間色を簡単に出すことができ、30年ないし50年も乾燥させた古墨(高級墨)と同じ性質の墨を、極めて短期間に、安価に製造できる。
【0095】
そのため、従来のように30年から50年も大切に保管して乾燥させる場所と保管操作が全く不要となり、製造コストを著しく低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は、本発明に係る墨の成形体の正面図、(B)は同側面図である。
【図2】(a)〜(g)は、墨の成形体(生墨)にあける各種の孔の形状を示す正面図である。
【図3】多数の小孔で構成される孔群の正面図である。
【図4】(A)は長手方向に扁平な孔を複数本開口した生墨の正面図、(B)は同側面図である。
【図5】(A)は1年ものの墨の書、(B)は本発明によって1年ものの墨を乾燥した墨の書である。
【図6】(A)は1年ものの墨の書、(B)は本発明によって1年ものの墨を乾燥した墨の書である。
【図7】(A)はK墨製造会社製の1年ものの墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
(B)は同じ会社製の1年ものの墨を本発明によって乾燥した墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
【図8】
(A)はN墨製造会社製の1年ものの墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
(B)は同じ製造会社製の1年ものの墨を本発明によって乾燥した墨で描いた書を電子顕微鏡で100倍と400倍にした写真である。
Claims (8)
- 煤と膠質物との混合体を所定の形状とするとともに、その表面に開口した孔を設けた状態で乾燥させた墨。
- 煤と膠質物との混合体を型取りして所定の形状に成形すると共に、この成形体の表面に開口を持つ孔あるいは両面を貫通する貫通孔を設けた墨の中間体を形成する工程と、この中間体を吸湿材に接触させた状態で低温の乾燥雰囲気に保持して脱湿させる第一乾燥工程と、乾燥空気に接触させると共に遠赤外線を放射して加熱する工程と、この加熱工程を停止させ、前記加熱工程で発生した水分の分布を平均化を図る休養工程とからなる第二乾燥工程を行うことを特徴とする墨の製造方法。
- 前記混合体を型取りして所定の形状とした成形体に、ドリルを使用して孔開けして墨の中間体を製造することを特徴とする請求項2記載の墨の製造方法。
- 前記墨の中間体に接触させる吸湿材は、吸湿量が多く、且つ放湿速度の早い紙からなることを特徴とする請求項2記載の墨の製造方法。
- 前記第一乾燥工程は、シート状吸湿材で包んで低温の乾燥室内に収容して低温乾燥させる第一乾燥工程は温度が3〜7℃に保持されている冷蔵庫内に5日間程度保持することを特徴とする請求項2記載の墨の製造方法。
- 前記第二乾燥工程は大気圧より低い圧力下において前記中間体が変形もヒビ割れもしない温度の循環する温風と遠赤外線の照射によって行うことを特徴とする請求項2記載の墨の製造方法。
- 前記第二乾燥工程は、50〜100mm水柱の減圧下において35〜45℃の循環する温風と遠赤外線の照射を行う温風乾燥工程と、この温風の循環と遠赤外線の照射を停止させる休養工程との一連の工程で構成され、この一連の工程を少なくとも1週間継続することを特徴とする請求項2記載の墨の乾燥方法。
- 前記乾燥工程における温風乾燥工程を昼間に、休養工程は夜間にそれぞれ行うことを特徴とする請求項7記載の墨の製造方法。
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KR100743992B1 (ko) | 2006-03-13 | 2007-07-30 | 유병조 | 송연먹의 제조방법 |
JP2013081918A (ja) * | 2011-10-12 | 2013-05-09 | Mei Clean:Kk | 銅製物体の修復表面構造、およびその形成方法 |
CN103183982A (zh) * | 2013-02-28 | 2013-07-03 | 扬州古籍线装产业有限公司 | 一种松烟墨及其制备方法 |
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2002
- 2002-07-01 JP JP2002192520A patent/JP2004035664A/ja active Pending
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