JP2004024026A - キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター及び該ベクターを導入した形質転換体 - Google Patents

キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター及び該ベクターを導入した形質転換体 Download PDF

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徳安 健
Masaru Mitsutomi
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Abstract

【課題】キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の情報を解明し、形質転換細胞等による外来遺伝子の発現を経て大量の組換え酵素を供給すること、並びにタンパク質工学的手法を用いた酵素の高機能化により、糖質素材の酵素変換技術を確立すること。
【解決手段】キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドのアミノ酸配列または1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ特定の塩基配列からなるDNAまたは当該配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド並びにこれらのポリペプチドをコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えDNA、該組換えDNAを含有するベクター、該ベクターで形質転換された細胞。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター及び該ベクターを導入した形質転換体に関する。詳しくは、キトサン系素材をはじめとする糖質素材の変換に関わる酵素とその応用に関するものである。
キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の情報を解明したことにより、形質転換細胞等による外来遺伝子の発現を経て大量の組換え酵素を供給することが可能となる。また、タンパク質工学的手法を用いた酵素の高機能化により、糖質素材の効率的な酵素変換技術が確立され、糖質素材産業が活性化する。さらに、本明細書に記載するキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドが糖転移活性を有することを利用して、該ポリペプチドの触媒作用を活用した機能性新素材の効率的合成が可能となり、糖質工学分野をはじめとする様々な領域において活用可能な新技術を提供することができる。
【0002】
【従来の技術】
キトサン系素材は、凝集剤、動物用人工皮膚、抗菌剤、抗真菌剤、機能性食品素材、生分解性プラスチック等、多方面において活用されている。一方、キトサンの低分子化によって素材に水溶性が賦与され、免疫賦活剤、腎機能改善剤、植物エリシター等の新用途が見出されている。
さらに、構成単糖であるD−グルコサミンの塩については、変形関節炎治癒効果を有することが知られている。この様に、キトサンを低分子化することにより、キトサン系素材の用途が一層広がることから、現在までに、酸を用いた化学法あるいはキトサン加水分解酵素を活用した酵素法による低分子化に関して多くの研究がなされてきた。
その中でも、キトサンオリゴ糖の生産については、2〜4糖のオリゴ糖を効率的に生成するキトサン加水分解酵素による生産技術が確立されており、実用化段階に達している。
【0003】
キトサンの酵素的低分子化効率を制限する要因としては、キトサン加水分解酵素の質と量が考えられる。力価の高いキトサン加水分解酵素を大量に供給し、必要に応じてキトサン加水分解酵素自体を高機能化する技術は、キトサン低分子化工程を改良する上でのブレイクスルーとなることが期待される。
また、糖転移作用は、糖質素材関連産業あるいは糖鎖合成に関わる研究開発分野等において、新規糖質合成のための有効な手段として用いられており、リゾチーム、プルラナーゼ、キチナーゼ等、多くの酵素が用いられてきた。糖転移産物は転移前の物質と比較して、水溶性等の物性が向上する例が知られており、物性の改変による糖質素材の高機能化を行うための有効な方法である。
【0004】
さらに、糖転移活性を活用し、容易に入手できる糖質素材から機能性糖鎖誘導体を合成する様な研究も広く行われている。しかしながら、遊離アミノ糖残基を含む糖残基を直接転移する方法は存在しておらず、キトサン加水分解酵素を用いて転移反応を行う方法についても知られていない。
また、有機合成法では、アクセプタへの結合に際し、遊離アミノ糖残基のアミノ基部分を誘導体化する必要があるが、その一般的な脱保護はアルカリやヒドラジン等を用いた極めて過激な条件下で行うため、種々の副反応が起こる可能性が高い。そのため、遊離アミノ糖を結合させた糖の有機合成は、複雑な工程を経て、極めて限られた化合物についてのみ成功している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の背景より、D−グルコサミン残基を単数、あるいは複数含む糖残基をアクセプタへ酵素的に転移する活性をもつポリペプチドが発見されれば、糖質関連研究の大幅な発展に貢献することが期待される。
オリゴ糖あるいは多糖の加水分解酵素は、基質の分子構造を強く認識し、触媒反応に適する様に酵素分子近傍の空間内に基質分子を配置するという機能性を有することが知られている。糖転移反応は、ドナー分子とアクセプタ分子の双方が収まる空間が存在することにより初めて速やかに進行する。
基質分子またはそのアナログを正しく配置させる機能性は、触媒機能に匹敵する酵素の重要性な特性であり、応用面においても、例えば、加水分解酵素活性を大幅に低下させたリテイニング型酵素の変異体を用いたグライコシンテース(Glycosynthases)という概念及び活用法を支えるものである。
しかしながら、これまでに、キトサンの構造を強く認識する空間を提供するグライコシンテースを構築するための、リテイニング型キトサン加水分解酵素由来のポリペプチド配列は全く知られていない。糖転移活性を示す加水分解酵素は、リテイニング型の分解様式により基質を分解することが知られている。糖転移活性を有するキトサン加水分解酵素が発見され、遺伝子情報が解明されれば、その情報内には、キトサン系基質を認識する酵素近傍の空間に関する情報が含まれており、リテイニング型酵素遺伝子の配列を改変することによってグライコシンテース等を設計する上で活用される有用情報となる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上の背景を考慮し、キトサン加水分解酵素の産業における活用を踏まえた酵素特性解明を鋭意行った結果、糖転移活性を有するポリペプチドを発見し、その設計図としての遺伝子の単離に成功した。
本発明は、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド及び該ポリペプチドをコードする遺伝子に関するものである。すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)配列表の配列番号1に記載したアミノ酸配列または当該配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド。
(2)配列表の配列番号2に記載した塩基配列からなるDNAまたは当該配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド。
(3)配列表の配列番号1に記載したアミノ酸配列または当該配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列表の配列番号2に記載した塩基配列からなるDNAまたは当該配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
(5)上記(3)または(4)に記載の遺伝子を含む組換えDNA。
(6)上記(5)記載の組換えDNAを含有するベクター。
(7)上記(6)記載のベクターで形質転換された細胞。
(8)上記(7)記載の細胞を培養し、培養物から採取することを特徴とする前記(1)または(2)記載のキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドの製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の情報の獲得により、組換え酵素の大量生産技術の開発が可能となる上に、酵素の至適pH、至適温度、安定性、基質特異性等の諸特性を改変し、高機能化を行うことができる。
また、本発明の成果として、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子情報が入手されたことにより、PCR、ハイブリダイゼーション等、既知の遺伝子工学技術を用いて、独特の生物学的進化を遂げた他の生物から、一部の特性が改変された類似機能酵素をスクリーニングすることが可能となる。
さらに、基質を認識し、配置させるための空間を保持しつつ、酵素活性を大幅に低下させたポリペプチドを遺伝子工学技術等により生産させ、グライコシンテース等としてその空間を活用することが可能となる。
上記効果により、キトサンの酵素的低分子化を中心としたキトサンの活用技術が飛躍的に発展し、キトサン系素材に関する新需要の喚起及び新産業の創出へと繋がるものと期待される。
【0008】
以下に、本発明を詳しく説明する。
キトサンは、N−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)がβ−1,4結合によって結合した直鎖状多糖であるキチンを、主に濃アルカリによって脱アセチル化処理して製造した高分子で、希酸に可溶性の高分子である。
一般には、70%以上のD−グルコサミン(GlcN)残基が脱アセチル化されているものをキトサンと呼ぶ。キトサン製品は、世界各国において多社により製造・販売されており、市販品以外にも、微生物菌体等から同様の構造のものが精製できることが知られている。キトサン製品としては、例えば株式会社共和テクノス(千葉県)製の「フローナックC」を用いることができる。キトサンは、凝集剤、動物用人工皮膚、抗菌剤、抗真菌剤、機能性食品素材、生分解性プラスチック等、多方面において活用されている。
【0009】
キトサン誘導体分子は、親水性等の機能性をキトサンに付与する目的で、種々の置換度でキトサンあるいはそのオリゴ糖のアミノ基、水酸基、アルデヒド基の一つあるいは複数を誘導体化したものであり、グリコールキトサン等が知られている。また、キトサンオリゴ糖は、キトサンの加水分解等の方法により製造されたGlcNがβ−1,4結合によって結合オリゴ糖であり、免疫賦活剤、腎機能改善剤、植物エリシター等の用途が見出されている。
【0010】
キトサンの主鎖グリコシド結合を加水分解する酵素は、一般にキトサナーゼと呼ばれている。Enzyme Nomenclature 1992によれば、キトサナーゼはEC 3.2.1.132と定義されているが、本定義においては、部分脱アセチル化キチンのGlcNAc− β−1,4−GlcN 間の結合をエンドタイプに切断がするものだけがキトサナーゼとされており、現在までに、本定義に該当しないキトサン加水分解酵素が数多く報告されている。
さらに、キトサン加水分解酵素のあるものは、部分脱アセチル化キチン、カルボキシメチルセルロース等、他の糖鎖結合を加水分解する活性を有しており、キトサナーゼという定義自体が曖昧なものとなっている。この点を考慮すると、本発明におけるキトサン加水分解酵素は、厳密に定義されたキトサナーゼとは必ずしも同義でなく、キトサンの主鎖グリコシド結合の加水分解活性を有する酵素一般を意味する。
また、一般的に、酵素機能は、触媒中心残基の機能のみから成立するものでなく、酵素構造自体を安定化する機能、基質を認識する空間の機能、基質を導入する空間の機能等の多様な機能性により支えられている。
【0011】
キトサン加水分解酵素についても、触媒活性のみならず、酵素が有する様々な機能性及びその発現機構がその遺伝子情報に入っているものと見なすことができる。本発明において、“キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド”と表現した様に、キトサン加水分解酵素は機能性分子として総合的に認識されるべきである。
発明者らは、キトサン加水分解酵素の機能を産業において活用する目的で、キトサン加水分解酵素の特性解明を行った結果、高い糖転移活性を有するキトサン加水分解酵素を発見し、その設計図とも言うべき遺伝子配列の解読に成功した。
【0012】
本酵素遺伝子の配列から酵素アミノ酸配列を推定した結果、本酵素は糖質加水分解酵素ファミリー5に属する一次配列を有する酵素であることが明らかとなった(糖質加水分解酵素のファミリー分類は、ホームページ:http://afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/ 参照)。ファミリー5に属し、キトサン加水分解活性に関与する機能性及び糖転移活性を有する酵素はこれまで知られていない。
【0013】
糖転移活性を有する糖質加水分解酵素は、アノマー保持型の加水分解機構によって基質を分解する。アノマー保持型酵素は、第1段階において基質のグリコシド結合を分解し、基質から糖残基を切り離した後、第2段階として酵素により活性化された水分子が切り離された糖残基のアノメリック位を求核攻撃することにより加水分解が完了する。その際に、水分子の代わりに他の分子がアノメリック位近傍に来た際には、第1段階に切り出された糖残基とその分子が結合する現象が観察される(糖転移)。
糖転移反応を、糖質あるいはその誘導体の合成に用いることを目的とした研究は、これまで多数報告されている。酵素反応により糖を合成する方法は、加水分解酵素の糖転移活性を利用する方法以外に、糖転移酵素を用いて、糖ヌクレオチドを基質とした反応を行う方法が知られている。
【0014】
加水分解酵素による糖転移法の一般的特性としては、(1)基質が安価で入手しやすい、(2)加水分解反応との競争になるため反応収率が低い、(3)糖転移する場所が一カ所にならず、異性体の生成が問題となる場合があるという点が指摘されている。
しかしながら、大量に糖質素材を合成する際などは、転移するべきドナー分子の入手が容易であることから、加水分解酵素の糖転移活性を活用するケースが見られている。例えば、プルラナーゼを用いてマルトース残基をサイクロデキストリンに糖転移する方法は工業的に実用化されており、マルトース側鎖の導入により、通常のサイクロデキストリンと比較して、水溶性が飛躍的に向上した分枝サイクロデキストリンとして製品化されている。
【0015】
一方、上記(2)の特徴である反応収率の低さを克服するために、酵素の触媒中心に位置する求核基を不活性化した上で、フッ化糖誘導体を糖転移基質として反応を行うという斬新な方法(グライコシンテースによる合成法:Mackenzie, L.F., et al., J. Am. Chem. Soc.120, 5583−5584 (1998) )が提案された。
この方法は、求核基を不活性化した酵素タンパク質は加水分解活性を殆ど有さず、生成物が再度加水分解基質にならないことを利点としている。この方法の原理は、フッ素により活性化されたドナーのアノメリック位に対して、活性化されたアクセプタが求核攻撃することにより、合成方向にのみ反応が進行するというものであり、加水分解酵素の糖転移活性を実用化しやすい形に発展させたものである。
【0016】
本発明に係る酵素は、キトサン加水分解酵素のうち、唯一報告されているアノマー保持型酵素であることから、本発明に記載した配列情報を利用することにより、キトサンをはじめとする糖あるいはその誘導体を糖転移する目的でグライコシンテース等を設計することが可能となる。
キトサン加水分解酵素が糖転移活性をもつことは、発明者らによる酵素特性の詳細な解明により初めて明らかとなった。糖転移のドナーとしては、通常の条件下で加水分解基質となりうる化合物が挙げられる。
【0017】
前述したとおり、キトサン加水分解酵素は、キトサン以外にも、キトサンオリゴ糖、部分脱アセチル化キチン、部分脱アセチル化キチンオリゴ糖、カルボキシメチルセルロース、グリコールキトサン等、様々な化合物を基質とする例が知られており、D−グルコサミンのホモポリマーであるキトサンをドナーとして限定するものではない。
また、アクセプタとしては、反応中間体のアノメリック位を求核攻撃する部分を有する様々な化合物が想定される。その中で、D−グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミン、D−グルコース、キチンオリゴ糖、セロオリゴ糖及びそれらの誘導体は、酵素内の基質認識部位に容易に収まると推定され、それ故に効率的な糖転移を行うことが期待できる。
【0018】
糖転移活性は、反応生成物をTLC、HPLC等の分析法を用いて検出することが可能となる。例えば、キトサンオリゴ糖をドナー及びアクセプタとして用いた際にはTLCプレート(TLC aluminum sheets silica gel 60, MERCK社)に0.05M リン酸二水素ナトリウムを噴霧したのち風乾し、105℃で1時間乾熱したものを用い、n−プロパノール/水/30%アンモニア水=70:15:15の割合(v/v)で混合した展開溶媒を用いて、上昇法により3回展開する方法等が考えられる。
酵素が微量の場合あるいは複数の糖転移パターンを有する生成物の混合物になる場合の様な、NMRによる完全な構造決定が困難な場合は、転移反応の有無はマススペクトロメトリー等により推定される。さらに、単離した化合物についてFT−MS 等を用いて精度の高い質量分析を行うことにより、同位体の存在比率を考慮した推定分子式の妥当性について信頼性の高い議論が可能となる。
【0019】
D−グルコサミンの様な遊離アミノ糖残基をもつ糖鎖の有機合成法は存在するが、化学反応性が高いアミノ基を予め保護しておく必要が生じる。この際の保護基としては、モノクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基等が選択される。
しかしながら、目的の糖残基を導入した後のアルカリによる脱保護には相当な熟練を要し、糖鎖骨格の分解等の副反応が起こりうる点が問題となる。
それに対して、保護・脱保護工程を経ることがない酵素法を用いることにより、多くの研究者が、容易に新規機能性を有する遊離アミノ糖を含む素材のスクリーニングを実施できると期待できる。特に、大量消費素材の効率的合成を行う目的においては、実践的な新技術を提供することが可能となる。
これまでに遊離アミノ糖残基を酵素的に糖転移する方法については報告されていないことから、世界に先駆けて糖転移活性を有する酵素の設計図である遺伝子配列を解読した本発明は、直ちに新産業の創出に道を拓く技術に繋がるものと考えられる。
【0020】
機能性分子としての酵素ポリペプチドをコードするDNA配列は、該ポリペプチドを合成する上での設計図となる。本明細書において配列表の配列番号2の塩基配列は、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列である。コドンの縮重を考慮することにより、配列番号1のアミノ酸配列と同等のアミノ酸配列をコードし、配列番号2の塩基配列と異なった多数の塩基配列を想定することが可能となるが、それら全ては配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列という点で配列番号2の情報と同等であり、本質的に本発明に含まれる。
この様なコドンの改変は、自然界において種々の要因により日常的に起こりうる突然変異であるのみならず、人為的にも、アンバーストップコドンの導入、発現量改変のためのレアコドン配列の改変、制限酵素認識部位の導入あるいは欠失等の目的で行われている。
【0021】
本明細書において配列表の配列番号1のポリペプチドをコードするアミノ酸配列や配列番号2の塩基配列からなるDNAの情報をもとにしたPCR法、ハイブリダイズ法等の方法により、様々な生物のDNAあるいはcDNAライブラリー等からクローニングされうる、機能的に該ポリペプチドの特性と殆ど変わらないポリペプチドをコードする遺伝子配列については、本発明に記載された情報を知り得て初めて実現可能なものである点及び分子生物学的手法により容易に達成が可能である点において、本発明に包含されると考えられる。
【0022】
機能性分子としての酵素ポリペプチド中のアミノ酸残基を1個または数個について、欠損、付加、置換もしくは挿入等の少なくとも一つが行われたものが、もとの酵素と同等の機能性を有することは広く知られている。これまでに多数のポリペプチドについて、本来の機能性の少なくとも一部を保持した状態でのアミノ酸配列改変を目的として、ランダム突然変異導入実験、部位特異的突然変異導入、遺伝子シャッフリング、セクシャルPCR等が行われてきた。
その結果、アミノ酸配列が完全には一致しないポリペプチドでも本質的な機能に大きな違いが見られないという例が多数報告されている。また、遺伝子工学的手法、化学的手法、代謝工学的手法等を用いて、ポリペプチド鎖の分子構造の一部を改変するという工程は、極めて一般的なものであり、例えば簡易精製用タグペプチド配列を付加した組換えポリペプチドの合成、糖鎖付加等の翻訳後修飾の制御による構造改変、ポリエチレングリコール、ビオチン誘導体等で修飾したハイブリッドポリペプチドの合成、4塩基認識t−RNAの利用あるいはアミノ酸要求性宿主生物培養液への人工アミノ酸投与による人工アミノ酸残基の導入等が知られている。
【0023】
本発明の目的は、キトサン加水分解に関わる本ポリペプチドの機能性の活用にあることから、上記の方法により同等な機能を有するポリペプチドの構造を一部改変し、本発明に記載したポリペプチドの機能と大きな違いが見られない機能性が発現されている分子については、本発明に実質的に含まれるものである。
また、遺伝子工学分野の基盤技術をもつ研究者であれば、本発明にて解明された遺伝子情報を利用して、公知の遺伝子工学的手法、例えばコードするDNA配列を制限酵素等により切り出す、あるいはPCRにより増幅する等の方法により単離し、該ポリペプチドを適当なベクター、例えばpET系ベクター(Novagen 社)と構造遺伝子配列を連結するのが一般的である。
相同組換え法による構造遺伝子のDNA配列のベクターへの導入法も知られている。続いて、このベクターを適当な宿主細胞へ導入する。例えば大腸菌 BL21(DE3)(Stratagene社)細胞を用いてベクターにより形質転換等を行うことにより組換え大腸菌を作製する。
【0024】
こうして得た組換え生物を用いて実質的に同等の機能を有する組換えタンパク質を生産することが可能であることは容易に想到される。また、無細胞系を用いて構造遺伝子の発現を行う方法等も知られている。
この様な遺伝子工学技術を用いて、請求項に記載したポリペプチドと実質的に同等の機能を有するポリペプチドを生産し、その機能性を活用することは、実質的に本発明に含まれると考えられる。
【0025】
また、タンパク質工学的技術等を用いて、本遺伝子がコードするアミノ酸配列を改変することについては、これまでに極めて多くの報告例があり、報告された基盤的技術を本ポリペプチドに対して同様に適用することにより、容易に想到、達成することが可能である。
蛋白質工学的技術等により作製され、配列表の配列番号1または2記載の配列の機能性と大きく変わらない物性を有するポリペプチドについては、たとえアミノ酸配列が多少異なっていても、実質的に本発明の内容に包含されることは明白である。例えば蛋白質工学的手法によりポリペプチドの比活性を低下させて、同一の反応を行うのに必要なポリペプチド分子数を増加させ、系内の蛋白質濃度の増加により見かけの熱安定性が向上したとしても、その様な類似ポリペプチドの機能が配列番号1記載のポリペプチドの機能と本質的に変わらない限り、この様なポリペプチドについても本発明に包含される。
【0026】
また、セクシャルPCR等の方法により、アミノ酸配列を改変し、蛋白質の耐熱性あるいは至適pH等の物性を僅かに改変することは、いまや教科書的な手法になっており、キトサン加水分解活性に関与する機能性が配列番号1記載のポリペプチドと大きく変わらない限りは、この様な改変ポリペプチド配列も本発明に含まれると考えられる。
【0027】
キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドは、主にキトサナーゼと呼ばれるキトサン加水分解酵素として、細菌、カビ、酵母等により生産されることが知られているが、該ポリペプチドを生産する生物については、これに限定しない。例としては、ストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus) HUT6037 由来のキトサン分解酵素Iが挙げられる。
先述した様に、キトサン加水分解活性を有するポリペプチドの多くが、キトサン以外の基質を加水分解することが知られており、発見された状況によっては、基質特異性を調べる際にキトサンが用いられておらず、キトサン加水分解活性を有するにも拘わらず、このことが発見されていない可能性が十分に考えられる。
従って、現段階でいわゆるキトサナーゼとして報告されていない加水分解酵素の中に、キトサン加水分解活性を有するポリペプチドが存在していると考えるのは自然である。
【0028】
次に、本発明の本質的部分である、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドの設計図としてのアミノ酸配列情報及びDNA配列情報を解読する方法を示す。
大きく分けて遺伝子工学的スクリーニング法を主体とした技術と、ポリペプチドの一次構造解析情報を活用した方法が考えられる。DNA配列情報を解読する上で必要な工程については、一般的な遺伝子工学的手法、例えばMolecular Cloning, a laboratory manual, second edition (eds. J. Sambrook, E. F. Fritsch, T. Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載された方法等によって行うことが可能である。
【0029】
前者の方法では、まずキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドの存在が予想された生物のDNAを適当な制限酵素で切断するか、あるいは真核生物ならばmRNAを回収した後に逆転写を行ってcDNAとした後に、適切なベクターに連結し、これを用いて宿主細胞を形質転換し、キトサン加水分解活性によるスクリーニングを行うのが一般的である。
スクリーニングは、キトサン、キトサンオリゴ糖、キトサン誘導体等を用いて活性を測定する方法、コロイド状のキトサンあるいはカルボキシメチルセルロース等の類似基質を含む培地中でのハロー形成を観察する方法等が考えられる。
ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ファージ等が考えられる。
【0030】
その後、導入したベクターを組み換え生物細胞から回収し、その配列を決定する。配列の決定は、マキサム・ギルバート法あるいはジデオキシ法による解析法が知られているが、後者の方法による解析装置が普及している。しかしながら、DNAのGC含量が高い場合、マニュアル通りのシーケンス工程ではDNA配列の決定が極めて困難になるケースが見受けられる。
その様な場合、様々な試行錯誤と条件検討が必要となるが、発明者らはジメチルスルフォキシドを添加する方法、シーケンス反応時の変性温度を97℃以上にする方法、適切なシーケンスプライマーの設計が問題となる場合は両端からデリーションを行い、ベクター配列部分から読む方法などが有効であると考える。
【0031】
インサートとしてのDNA配列が長過ぎる場合は、それを切断したものをベクターに繋ぎ直してサブクローニングし、同様のスクリーニングを行う方法、配列を両端から少しずつ解読し、その情報を用いてさらに内側の配列を解読するという方法等が考えられる。その他にも、一次スクリーニングにおいて発現されたポリペプチドの一次構造情報をペプチドシーケンサあるいは質量分析計等を用いて決定した後に、その情報を活用してコロニーハイブリダイゼーション等により配列を絞り込む方法等が考えられる。
ペプチドシーケンサとしては、エドマン分解によるN末端からの逐次分解及び自動解析を行う機械が市販されている。また、質量分析計を用いたフラグメント解析によるシーケンス解読、あるいはC末端からのアミノ酸配列決定法も確立されており、受託解析サービスを行う企業も存在する。
【0032】
N末端アミノ酸残基がアセチル化、ホルミル化、ピログルタミル化等の誘導体化によりブロックされているケースが見られるが、化学的あるいは酵素的デブロック法が開発されており、殆どの場合、N末端側から1段目あるいは2段目のアミノ酸残基から読むことが可能である。内部配列情報の取得については、切断部位特異性の高いプロテアーゼあるいは臭化シアン等を用いた化学的方法によりポリペプチドを切断し、これを液体クロマトグラフィーあるいは電気泳動等の方法で分離し、直接溶離液を回収するか、あるいはゲルからPVDF等の膜に転写した後に回収して、先述のペプチド配列解析を行う方法が一般的である。
【0033】
後者の方法では、一般的には、ペプチドシーケンサあるいは質量分析計等を用いてキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドの一次配列情報を決定することが最初の工程となる。続いて、その情報を用いてDNAプローブを設計し、DNAライブラリーとのハイブリダイゼーションを行うか、あるいはPCRプライマーを設計し、適切なPCR関連技術を用いて、目的遺伝子を釣り上げるか、または増幅することにより回収する。
この方法によれば、最初に、キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドを精製する必要がある。キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドは、細胞内、細胞表層近辺あるいは細胞外画分に分泌された形で、主にキトサン加水分解酵素活性を有するポリペプチドとして見出される可能性が高い。
【0034】
例示したストレプトミセス・グリセウス HUT6037由来キトサン加水分解酵素については、キトサン系基質を加えた液体培地に胞子を接種して培養することにより、培養液に誘導生産される。該ポリペプチドが見出された画分から粗ポリペプチド液を回収する場合に、必要に応じて細胞破砕処理を行うことがある。細胞破砕法としては、溶菌処理、浸透圧ショック法、超音波破砕法、乳鉢・乳棒等による物理的破砕処理法、フレンチプレス法等の方法が考えられる。
【0035】
キトサン加水分解酵素活性の検出法としては、一般的には、キトサン、キトサンオリゴ糖、キトサン誘導体、あるいはそれらの類似化合物を基質として用い、酵素活性を有する温度及びpH条件下において、酵素を反応させ、反応により生成する還元糖あるいはキトサン誘導体等の人工基質に結合していた呈色化合物を検出する方法、直接反応生成物をクロマトグラフィーにより検出する方法、高分子化合物の加水分解による粘度低下を指標にして検出する方法、コロイド状キトサン等の基質を分解した際のハロー形成あるいは濁度減少を検出する方法等が考えられる。
【0036】
分子量に関する情報、あるいはポリペプチドの一次配列情報を得るためには、粗ポリペプチド液からキトサン加水分解に関する活性を有するポリペプチドを単離、精製する必要がある。一般的には、粗ポリペプチド画分を硫安沈殿法、膜分画等による濃縮、透析による脱塩、ゲル濾過カラムによる脱塩・緩衝液置換等の処理により精製度を上げて、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、水素結合クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ヒドロキシアパタイト法、アフィニティークロマトグラフィー、等電点電気泳動法等の、一般的なポリペプチドの精製法を用いて高度精製が可能となる。
高度精製されたポリペプチドは、ペプチドシーケンサ解析により、N末端アミノ酸配列が解読される。また、ポリアクリルアミド等を用いたゲル電気泳動を行い、各ポリペプチドをバンドとして分離した後に、泳動蛋白の再活性化処理を経てゲル上での各分離バンドのキトサン加水分解酵素活性による染色を行うことにより、泳動ゲル上の目的ポリペプチドに由来するバンドを同定することが可能となる。
【0037】
ゲル上のバンドをPVDF膜等にプロットした後に活性を示したバンド部分を切り出し、それを試料としてペプチド配列を解読することが可能である。さらに、先述した様に、酵素法あるいは化学法によりポリペプチドを限定加水分解することにより、その内部アミノ酸配列を解読することが可能となる。
一段目のPCRを行う際のプライマーは、アミノ酸配列情報をもとに設計することになることから、コドンの縮重を考慮した複数の配列の混合物とする方法が一般的である。C末端アミノ酸配列を決定するのは他と比較して困難であることから、通常のPCRでは、ポリペプチドのN末端配列及び内部配列の情報により合成されたプライマーを用いて行うことが多く、一段階では遺伝子全体の配列を解読できない。
そこで、次のステップとして、ライブラリーからのスクリーニングを行い、拾い上げたベクター内のDNA配列を解読する方法等が考えられる。ところで、最近になり、インバースPCR、テールPCR等の手法が確立され、ライブラリーの構築を行わずに構造遺伝子全体のDNA配列を解読することが可能となっている。よって、これらの手法を本発明に適用することは有効である。
【0038】
得られたDNA配列のコドンを解読することにより、ポリペプチドを構成するアミノ酸配列を決定することが可能となる。アミノ酸配列情報を殆ど変えることなく、得られたDNA配列を部分的に変換することは容易な作業である。PCR法を主体とした部位特異的突然変異導入法、ランダム変異導入法、遺伝子シャッフリング法、セクシャルPCR法などの方法により、必要に応じて配列を変えることが可能となる。
【0039】
先述した様に、ポリペプチドの機能を僅かに向上させる目的、あるいは遺伝子を導入する細胞のコドン使用頻度を考慮した縮重の制御、制限酵素認識部位の導入、除去等の目的で、DNA配列の人為的改変を行うのが一般的である。該DNA配列を種々のベクターへ導入しやすくするために、配列の両端に制限酵素認識配列を導入することは一般的に行われている。
多くのベクターにはマルチクローニングサイトと呼ばれるユニークな制限酵素の認識部位が存在しており、ベクター及び挿入すべきDNAを制限酵素処理して精製した後、それらをリガーゼ処理により連結し、目的DNA配列を含んだベクターを構築するのが一般的である。
【0040】
相同組換えが可能な特異的配列を両端に付けたDNA配列を設計し、リガーゼを用いないで相同組み換え法により、それをベクターに移動・連結させる方法も開発されている。DNA配列をベクターに挿入することにより、そのDNA配列の安定的保持、変異の少ない増幅及び配列がコードするポリペプチドの組換えポリペプチドとしての大量生産が可能となる。
【0041】
外来遺伝子は、適切なベクターに連結した後、宿主細胞に導入することが可能である。宿主細胞としては、大腸菌、放線菌、枯草菌等の細菌の他、酵母、菌類、植物、昆虫、高等動物等、多く存在する。例えば、大腸菌の発現ベクターであるpET系プラスミド(Novagen 社)のマルチクローニングサイトを制限酵素処理した後に、目的DNA配列を先述した方法で挿入することにより、目的DNA情報を含んだ発現ベクターの構築が可能となる。例示したpET系ベクターは、大腸菌 DH5α株(東洋紡績株式会社)等の株を形質転換した際に安定的に保持され、挿入遺伝子の発現は起こらないように設計されている。
一方、同じプラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3)株(Stratagene社)等の発現用宿主を形質転換することにより、pET系ベクターによる遺伝子発現のための組換え株を取得することが可能となる。
【0042】
外来遺伝子及びそのプロモータ領域等を含む長いDNA配列をベクターに挿入した場合、外来遺伝子の発現が独特の制御を受けることがあるが、発現ベクターへは外来構造遺伝子のみを挿入する場合が多く、その発現はベクターのもつ制御系により支配される。
一般的には構成的に、あるいは誘導的に外来遺伝子を発現する様に設計されている。発現誘導因子としては、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド、メタノール等が挙げられる。遺伝子導入法については、ヒートショック法、エレクトロポレーション法、感染導入法等の方法が考えられる。
【0043】
外来遺伝子を含むベクターの導入により、DNA配列の安定な保持及び必要に応じた増幅、及び組換えポリペプチドの発現が可能となる。また、ベクターは時として染色体に組み込まれて安定に保持される場合がある。
外来遺伝子をベクターに挿入する際には、遺伝子産物であるポリペプチドの分泌生産を促すシグナル配列の連結、生産されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドタグの付加等を行う様に設計されたベクターが多くの会社から市販されており、例えば、適切なベクターの選択により、キレートカラムによる精製を可能とするヒスチジンタグ配列の付加を容易に行うことができる。必要に応じて、目的遺伝子の端にその様な機能性を有するペプチドをコードするDNA配列を連結した後、ベクターに挿入することも簡単に行うことができる。
【0044】
外来遺伝子の発現は、必要に応じて適切な誘導因子を加えることにより行われるが、遺伝子発現量、ポリペプチドの蓄積部位、比活性及び修飾の有無は、培地組成、温度等の培養条件、誘導因子の添加時期と濃度等の条件によって大幅に変わってくることが経験的に知られている。pET系ベクターによる発現を例にとると、組換え大腸菌を37℃で培養した場合に封入体として大量生産された酵素が、25℃で培養すると、活性酵素として培地に生産される例が知られている。
封入体として生産された組換えポリペプチドあるいは不活性型の形で生産されたものについては、細胞を破砕して封入体を回収した後、変性剤処理を伴う適切なリフォールド手法を用いて再活性化することが可能である場合が多い。例えば、8M尿素を用いて封入体を変性させ、透析法などにより徐々にその尿素濃度を下げることにより、ポリペプチドの巻き戻りを促す方法などが知られている。
【0045】
外来遺伝子の大量発現により生産された組換えポリペプチドは、必要に応じて、予め導入しておいた精製用タグ配列を利用するか、あるいは先述した一般的なポリペプチド精製法を用いて精製することが可能である。
本発明に係るキトサン加水分解に関する活性を有するポリペプチドを工業用生体触媒として用いる場合は、組換えポリペプチドとして生産されたものをそのまま用いるか、あるいは必要に応じて夾雑物の濃度を下げるために精製を行うべきである。
一方、医薬品、食品等の分野において該組換えポリペプチド用いる場合は、共存する微量成分が目的製品の安全性あるいは機能性に影響を及ぼすことを考慮して、ポリペプチドの高度精製を行うことが望ましいケースも存在する。
【0046】
組換えポリペプチドの生産方法を確立した後には、その大量生産により、酵素機能と構造の相関に関する研究が飛躍的に発展するものと期待される。遺伝子工学的に触媒作用に関与する残基を推定することが可能となる他、ポリペプチドの結晶化条件の検討を容易に行うことができる様になる。
X線結晶解析データが得られた際には、触媒中心アミノ酸残基を置換して酵素活性を大幅に低下させたポリペプチドを用いて、基質またはそのアナログを加えた状態で結晶化を行うことにより、基質サブサイト構造及び基質結合に関与するアミノ酸残基等を決定することが可能となる。
この様な一連の構造生物学的データの取得により、人為的に基質認識性あるいは触媒特性を大幅に改変することによる高機能化ポリペプチドの創製が可能となる。
【0047】
本発明の主な利用法としては、遺伝子配列情報を活用した高機能組換え酵素の開発、大量生産した組換え酵素を利用したキトサンオリゴ糖の効率的製造及び本ポリペプチドの有する糖転移活性を活用した糖質及びその誘導体の効率的合成が挙げられる。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。
実施例1 微生物によるキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドとしてのキトサナーゼの生産
キトサナーゼ生産菌としては、広島大学工学部の保存菌株であるストレプトミセス グリセウス HUT6037(第三者への分譲可能、IFO3237)を用いた。キトサンは、脱アセチル化度96%(DAC96,片倉チッカリン社製)を用いた。コロイダルキトサンは、上記キトサンを用いて、Yabukiらの方法(Yabuki, M., et al., Tech. Bull. Fac. Hort. Chiba Univ., 39, 23 (1987))に従って調製した。
【0049】
菌株の培養には、保存用斜面培地 (1.0% Mannitol, 0.2% Peptone, 0.1% Meatextract, 0.1% Yeast extract, 2.0% Agar, 0.05% MgSO/7HO, pH 7.0)、種培養用液体培地(1.0% Mannitol, 0.2% Peptone, 0.1% Meat extract, 0.1% Yeast extract, pH 7.0)、酵素生産用液体培地 (0.2% Colloidal chitosan (DAC96), 0.05% KCl, 0.1% KHPO, 0.05% MgSO/7HO, 0.001% FeSO, pH 7.0)を用いた。
【0050】
保存用斜面培地に保存されていたストレプトミセス グリセウス HUT6037の胞子1白金耳を種培養用培地に接種し、30℃で2日間振盪培養したものを種培養液とした。酵素生産用培地1Lに対し種培養液40mLを接種し、30℃で4日間振盪培養した。
得られた培養液は遠心分離(6,000rpm×10min) を行い、上清を東洋濾紙NO.2で濾過し、濾液を精製実験に供した。
【0051】
実施例2 キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドとしてのキトサナーゼの精製
前記実施例1の方法に従って培養濾液を3722mL回収した。キトサナーゼ活性の測定は、0.55%キトサン溶液(pH5.7)を基質として用い、生成する還元糖量を ImotoとYagishita の方法(Imoto, T. and Yagishita, K., Agric. Biol. Chem., 35, 1154 (1971))によるSchales 法(Schales, O. and Schales, S. S., Arch. Biochem., 8, 285 (1945)) の改良法を用いて測定した。
反応測定基質溶液は、0.55gのDAC96 を0.1M酢酸溶液約40mLに溶解させた後、1N NaOHをpH5.5程度になるまで加え、0.1M酢酸ナトリウム溶液によりpH5.7に調整し、0.1M酢酸緩衝液(pH5.7)を加えて全量を100mLとした。
基質溶液0.9mLに酵素溶液0.1mLを加えて37℃で10分間反応させた後、Schales 試薬2.0mLを混合して反応を停止させ、蒸留水0.5mLを加えて15分間煮沸した。冷却後、波長420nmにおける吸光度を測定した。
【0052】
キトサナーゼ活性の1unitの定義は、1分間に1μmol のグルコサミンに相当する還元糖を遊離する酵素量とした。タンパク質は牛血清アルブミンを標準タンパク質として、Lowry 法のHartree による改良法(Hartree, E. F., Anal. Biochem., 48, 422 (1972))により測定した。
酵素液中のタンパク質量は、牛血清アルブミンを標準タンパク質として得られた標準曲線を用いて、標準タンパク質に換算した量を求めた。また、カラムクロマトグラフィーにおける各画分のタンパク質量は、波長280nmにおける吸光度を測定した。
本定義に基づくと、培養濾液の総キトサナーゼ活性は6670units 、比活性は12.4 units/mg であった。これに200mM PMSFアセトン溶液を終濃度1mMになるように添加し、4℃で一晩放置した。
【0053】
続いて、以下の様に培養濾液を逆透析法によって濃縮した。氷冷下で、粉末硫安を詰めた透析膜を培養濾液に浸し、膜内に水が溜まったら中の水を出し、再び硫安を詰め、培養濾液に浸した。この操作によって培養濾液の水分が透析膜内に吸収され、粉末硫安が溶解して膜外へ浸出し、培養濾液の濃縮と硫安塩析が同時に行われた。
液量が約1/3になったところで4℃下において一晩放置した。透析膜を引き上げ、100%飽和になるように粉末硫安を培養濾液に添加し、4℃で3日間放置した。生じた沈殿物を遠心分離(7,000rpm×15min)により回収して0.02Mリン酸緩衝液(pH6.0)で溶解させた。
【0054】
この溶液を遠心分離(10,000rpm×20min)し、上清を粗酵素液として回収した。このとき生じた沈殿を0.02Mリン酸緩衝液(pH6.0)で再溶解させ、遠心分離(12,000rpm×20min)し、上清を先の粗酵素液に加えた。このとき生じた沈殿をさらに0.02Mリン酸緩衝液(pH6.0)で再溶解させ、遠心分離(12,000rpm×20min)し、上清を先の粗酵素液に加えた。
この粗酵素液を0.02Mリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したBio Gel P−2 (バイオラッド社)に供し脱塩した。この段階での総活性は5090units 、比活性は52.8 units/mg 、精製度は4.17倍、収率は76.3%であった。
【0055】
次に、Bio Gel P−2 により脱塩された活性画分を、0.02Mリン酸緩衝液(pH6.0)により平衡化されたCM Sephadex C−25(Amersham Pharmacia Biotech AB Pharmacia 製、column size : 2.6 ×26.6 cm, flow rate : 33.0 ml/h)カラムに供した。カラムによる精製操作は全て4℃で行った。平衡化に用いた緩衝液で未吸着画分を溶出後、0 〜0.4M NaCl直線濃度勾配により吸着画分を溶出した。NaCl濃度0.15M付近にキトサナーゼ活性画分が溶出されたので、これを回収した。この段階での総活性は4390units 、比活性は65.4 units/mg 、精製度は5.26倍、収率は65.8%であった。
【0056】
次いで、CM Sephadex C−25により得られた活性画分を、0.02Mリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したSephadex G−75 (Amersham Pharmacia Biotech AB Pharmacia製、column size : 2.6 ×97 cm, flow rate : 22.6 ml/h)カラムに供し、同緩衝液で溶出した。波長280nmにおける吸光度と一致した活性のピークが2つ見られ、それぞれをpeak1, peak2として回収した(図1)。図中、−●−は波長280nmにおける吸光度を、−○−はキトサナーゼ活性を示す。
この段階でのpeak1の総活性は430units 、比活性は51.2 units/mg 、精製度は4.12倍、収率は6.5%であった。peak2の総活性は3450units 、比活性は96.9 units/mg 、精製度は7.79倍、収率は51.7%であった。
【0057】
前工程において得られたpeak1、 peak 2をそれぞれ0.02Mリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したSephadex G−75 (column size : 2.6 ×97 cm, flow rate : 22.6 ml/h)カラムに供した。peak1をカラムに供した結果、2つの活性のピークが見られ、先に溶出された活性画分を精製酵素キトサナーゼIとして回収した(図2)。図中、−●−は波長280nmにおける吸光度を、−○−はキトサナーゼ活性を示す。また、peak2をカラムに供した結果、活性画分が得られたのでこれをキトサナーゼIIとして回収した(図3)。図中、−●−は波長280nmにおける吸光度を示す。
最終的に、キトサナーゼIの総活性は167units 、比活性は58.2 units/mg、精製度は4.67倍、収率は2.5%であった。キトサナーゼIIの総活性は2420 units、比活性は92.0 units/mg 、精製度は7.40倍、収率は36.3%であった。
【0058】
実施例3 キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドとしてのキトサナーゼの特性解明
精製キトサナーゼの酵素化学的性質について下記の検討を行った。
分子量測定:精製したキトサナーゼIおよびキトサナーゼIIの分子量をSDS−PAGE及びゲル濾過法により測定した。SDS−PAGEはLaemmli の方法に従って行った(Laemmli 、U. K., Nature, 227, 680 (1970))。分離用ゲルには0.1%SDS を含む12.5%ポリアクリルアミドゲルを、濃縮ゲルには0.1%SDS を含む5%ポリアクリルアミドゲルを用いた。
マーカー色素として0.001%ブロモフェノールブルーを用いた。ゲルの1レーン当たり試料1μgを添加した後、室温で30mAの定電流を流して電気泳動を行った。染色にはクーマシーブリリアントブルー R−250を用いた。標準タンパク質として、Phosphorylase b (分子量94,000)、Bovine Serum Albumin(同67,000)、Ovalbumin (同43,000)、Carbonic Anhydrase(同30,000)、Soybean Trypsin Inhibitor (同20,100)、α− Lactalbumin (同14,400)を用いた。
【0059】
ゲル濾過法は、0.02Mリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したSephadex G−75 カラム(2.6 ×97 cm )を用いて、流速22.6mL/hで、Andrews の方法に従って行った(Andrews, P., Biochem. J., 91, 222 (1964))。標準タンパク質として、Bovine Serum Albumin(分子量67,000)、Ovalbumin (同43,000)、Chymotrypsinogen A(同25,000)、Ribonuclease(同13,700)を用いた。
その結果、SDS−PAGEではキトサナーゼI、IIともに1本のバンドが得られ、電気泳動的に均一であり、分子量はともに約34,000と推定された。一方、Sephadex G−75 ゲル濾過法によってキトサナーゼI、IIの分子量はそれぞれ約17,300、約10,400と算出された。
【0060】
等電点電気泳動:キトサナーゼIおよびキトサナーゼIIの等電点を等電点電気泳動により調べた。等電点電気泳動は、Ampholine (pH 3.5−10.0)を含む5%ポリアクリルアミドゲルを用いてディスク型で行った。ゲルの1レーン当たり試料5μgを添加して、室温で200vの定電圧で泳動を行った。染色には0.04%クーマシーブリリアントブルー G−250を含む3.5%過塩素酸溶液を用いた。pIマーカーには、Amersham Pharmacia Biotech AB 社のHigh pI Kit (pH 5.0−10.5)を用いた。
この結果、キトサナーゼI、IIの等電点はそれぞれpI 10.3 、pI 10.1 であった。
【0061】
至適pH:キトサナーゼIの至適pHについて検討した。各pHの緩衝液に溶解した脱アセチル化度96%(DAC96)の可溶性キトサン(0.55%)を基質として37℃、10分間の酵素反応を行い、活性を測定した。基質を溶解するために用いた緩衝液は、pH3.0では0.1M塩酸−酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.0〜6.4では0.1M酢酸緩衝液であった。pH6.5〜8.0ではDAC96 キトサンを0.1M酢酸で溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液でpHを調整した基質を用いた。最も高い活性値を100%として相対活性を算出した。この結果、相対活性は図3の様になり、至適pHは6.3であった。キトサナーゼIIのpH特性についてはこれと同様の結果が得られた。
【0062】
pH安定性:本酵素のpH安定性について以下の様に検討した。各pHの緩衝液に酵素液を混合した後、30℃で2時間放置し、その後上清の残存活性を通常の活性測定法により測定した。緩衝液には、pH3.0〜8.0はMcIlvaine 緩衝液、pH9.0〜11.0はAtkins and Pantins緩衝液を用いた。最も高い活性値を100%として相対活性を算出した。この結果、pH5.0〜9.0の範囲で安定であり、80%以上の残存活性を示した。キトサナーゼIIのpH安定性についても同様の結果が得られた。
【0063】
至適温度:キトサナーゼIを用いて各温度(30〜70℃)で10分間の酵素反応を行い、活性を測定した。最も高い活性値を100%として相対活性を算出した。この結果、至適温度は60℃であった。キトサナーゼIIの温度特性についても同様の結果が得られた。
熱安定性:キトサナーゼI酵素液を各温度(20〜70℃)で15分間放置し、その後上清の残存活性を通常の活性測定法により測定した。最も高い活性値を100%として相対活性を算出した。この結果、本酵素は40℃まで安定であり、それ以上では急激に活性が失われ、55℃、15分の加熱で失活した。キトサナーゼIIの熱安定性についても同様の結果が得られた。
【0064】
基質特異性:基質として、コロイダルキチン(Jeuniaux(Jeuniaux, C., Arch. Int. Physiol. Biochem., 66, 408−427 (1958))の方法により調製)、グライコールキチン(YamadaとImoto (Yamada, H. and Imoto, Y., Carbohydr. Res., 92, 160−162 (1981))の方法により調製)、リケナン(β−1,3−1,4− グルカン、新潟大学より供与)、カルボキシメチルセルロース(CMC 、片山化学工業株式会社製)、脱アセチル化度30% (DAC30)の水溶性キチン(焼津水産化学工業株式会社製)、脱アセチル化度60%(DAC60)の部分Ν−アセチルキトサン(味の素株式会社製)、脱アセチル化度70%,80%,90%,100%(DAC70, 80, 90, 100)のキトサン(フナコシ株式会社製)を用いた。キトサナーゼIを用いてpH5.7、37℃で10分間の酵素反応を行った後、生成した還元糖量を測定した。
【0065】
コロイダルキトサンは不溶性の基質であるため、均等に反応液中に分散するように撹拌しながら活性測定を行った。その結果、本酵素は脱アセチル化度60%の部分N−アセチルキトサンを最もよく分解し、脱アセチル化度70%、80%の部分N−アセチルキトサンにおいても比較的よく分解した。また、カルボキシメチルセルロース(CMC)に対して脱アセチル化度60%の部分N−アセチルキトサンの約23%の活性を示し、高いCMCase活性を有していた。キトサナーゼIIの基質特異性についても同様の結果が得られた。
【0066】
薄層クロマトグラフィー(TLC):本酵素のキトペンタオース[(GlcN)] に対する作用を調べるために分解生成物を薄層クロマトグラフィー(TLC)により分析した。0.4% (GlcN)溶液25μlに0.04Mリン酸緩衝液(pH5.7)12.5μlを加え、キトサナーゼI(1 units/ml)12.5μlを添加し、37℃で各時間(10 min, 30 min, 1 hr, 2 hr, 8hr, 24 hr)反応を行った。その後、100℃、5分間の煮沸で反応を停止した。
【0067】
この分解生成物をTLC により分析した。TLC プレートは、MERCK 製TLC aluminium sheets silica gel 60を用いて、0.05Mリン酸二水素ナトリウムを噴霧後風乾し、105℃で1時間乾熱した。n−プロパノール、水、30%アンモニア水を容積比で70 :15: 15の割合で混合した展開溶媒で上昇法により3回展開した。乾燥後、ジフェニルアミン−アニリン試薬を噴霧して105℃で30分間加熱し発色させた。標準物質には(GlcN)  を用いた。この結果、(GlcN) ,(GlcN) , (GlcN) の発色は見られたが、(GlcN) の発色は見られなかったことから(図4)、本酵素が(GlcN) と反応する際に、糖転移反応が起こったと推定された。キトサナーゼIIを用いた場合(0.0825units/50μl)についても同様の結果が得られた(図5)。これらの図中、●nはキトサンオリゴ糖[(GlcN)]を示し、数字は重合度を表す。
【0068】
実施例4 キトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドのアミノ酸配列の決定
実施例2記載の方法により精製したキトサナーゼII酵素標品をCavinsら(Cavins, J. F. and Friedman, M., Anal. Biochem., 35, 489−493 (1970))の方法で還元ピリジルエチル化し、100mM炭酸水素アンモニウム(pH7.8)で一晩透析した。透析膜内液を回収し、減圧濃縮後、V8プロテアーゼ(Sigma 製)で分解した。分解産物を15%ポリアクリルアミドゲルによるSDS−PAGEにより分離し、PVDF膜イモビロンPSQ(Millipore 社製) にブロッティングした。0.25%CBB R−250 で染色後、60%メタノールで脱色した。視認できるバンドを切り出した。切り出したペプチドバンドは、分子量の大きい順に、 V8−1 、−2、−3、−4、−5、−6および−7とし、これらのN末端アミノ酸配列をProcise 491cプロテインシークエンサー(Applied Biosystems社)で分析した。V8−2、V8−3およびV8−6はキトサナーゼIIのN末端アミノ酸配列と一致した。
【0069】
キトサナーゼIIおよび各ペプチドバンドのN末端アミノ酸配列は、次の様に決定することができた。
N−terminus :配列表の配列番号3
V8−1    :配列表の配列番号4
V8−4       :配列表の配列番号5
V8−7       :配列表の配列番号6
V8−5       :配列表の配列番号7
また、キトサナーゼIについても、同様の処理を行った結果、電気泳動パターン、N末端アミノ酸配列、内部配列共に同様のデータが得られた。この結果及び触媒特性に全く差異が見られないことから、キトサナーゼIとキトサナーゼIIは同じ遺伝子産物によるものであると推定し、クローニングを行った。
【0070】
実施例5 キトサン加水分解に関わる活性を有するポリペプチドのクローニングとシーケンシング
実施例1に記載したストレプトミセス グリセウス HUT 6037 の染色体DNAは、Genetic Manupulation of Streptomyces: a Laboratory Manual. Eds., Hopwood, D. A., Bibb, M. J., Chater, K. F., Kieser, T., Bruton, C. J., Kieser, H. M., Lydiate D. L., Smith C. P., Ward J. M., Schrempf H. S., Norwich, U.K., John Innes Foundation (1985)のpp.72−74に記載されたIsolation ofSTREPTOMYCES “Total” DNA: Procedure 1に従って操作を行い、抽出した。
【0071】
実施例4記載のアミノ酸配列から推定される塩基配列をもとに縮重プライマーを以下のように設計した。まず、キトサナーゼIIのN末端アミノ酸配列からセンス鎖プライマーとして配列表の配列番号8の合成DNAを設計した。なお、5’側にPstIサイトを付加した。また、他のFamily 5に属する酵素とのホモロジーから活性触媒部位と思われるV8−4断片のN末端アミノ酸配列から、アンチセンス鎖プライマーとして配列表の配列番号9の合成DNAを設計した。なお、5’側にHindIII サイトを付加した。
これらのプライマーとLA Taq with GC buffer(TaKaRa) を用いて、次のような組成の反応液でPCRを行った。12.5μlの2×PCR buffer(GC buffer I)、7.5μlの2.5mM dNTPs、1μlの100μMセンス鎖primer(終濃度4μM)、1μlの100μMアンチセンス鎖primer(終濃度4μM)、2.5μlのtemplate(10μg/mlゲノムDNA)、0.5μlのDNAポリメラーゼ(LA Taq)、合計25μl。
PCRの反応プログラムは次の通りである。Step1(4℃、10min ;98℃、5min) を1cycle (コールドスタート) 、Step2(98℃、30sec; 40℃、30sec; 72℃、1min) を35cycles、Step3(4℃、99’99)を1cycle 。
【0072】
PCR産物の全量をアガロースゲル電気泳動に供し、目的遺伝子が増幅されたかどうか確認した。低分子量の増幅断片の正確なサイズを知るために、TAE bufferに溶解後凝固させた2.5%アガロースゲルを用いた。TAE bufferを満たしたMupid−3 (超小型電気泳動システム、コスモバイオ製)にゲルを装填し、サンプルをアプライしてから100Vで1時間20分通電した。
低分子量マーカーには、東洋紡績株式会社の100 bp DNA Ladder を用いた。また、泳動マーカー、泳動用ローディングダイには、100 bp DNA Ladder に添付の6 ×Loading Dye (30%グリセロール、0.06%ブロモフェノールブルー、0.03%キシレンシアノールFF、0.12%オレンジ G、10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM EDTA)を用いた。
【0073】
泳動後、エチジウムブロマイド溶液にゲルを20分浸して染色した。染色したゲルに紫外線を当てエチジウムブロマイドによる発光バンドを撮影した。
プライマー設計時に予想した通り450−460 bp付近に明確な増幅バンドが確認できたので、この増幅断片を切り出した。アガロースゲルからのDNA回収には、BIO 101 のGENECLEAN III Kit を用い、添付のプロトコールに従って操作した。
回収した目的増幅断片を、HindIII およびPstIで37℃、一晩のダブルダイジェストを行った。ベクターpUC119も同様に消化した。制限酵素処理した目的増幅断片は再び電気泳動し、ゲルから抽出した。
制限酵素処理したベクターは、65℃、30minのアルカリフォスファターゼ(BAP)処理後、同様に電気泳動してゲル抽出した。目的増幅断片には2.5%、ベクターには1%アガロースゲルを用いた。東洋紡績株式会社のDNA Ligation KitであるLigation high を用いて、目的増幅断片とベクターのライゲーションを行った。
消化済増幅断片5μl、消化済pUC119を5μl、Ligation high を10μl混合して16℃で一晩放置した。
【0074】
このライゲーション液を大腸菌JM109 株に形質転換した。目的の増幅断片を保持するクローンからプラスミドを抽出し、インサート部分のDNAシーケンスを行った。ABI のBigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kitsを使用し、キャピラリー型ABI PRISM 310 DNA シークエンサー用のサンプル調製を行った。
反応液組成は、Ready Reaction mix  1.3μl、5×Sequencing buffer 3.4μl、Primer1pmol相当量1μl、plasmid DNA 150ng相当量xμl、水を(14.3−x)μl、total 20μlとした。
シーケンス反応用のプログラムは、Step1(96℃、1min 、1cycle)、Step2(96℃、30sec;45℃、30sec;60℃、4 min、30cycles)、Step3(25℃、99’99 、1cycle)である。その結果、412baseの配列(配列表の配列番号10)を決定することができた。
【0075】
これらはストレプトミセス リビダンス(Streptomyces lividans)66のβ−1,4−endoglucanase遺伝子やサーモモノスポラ フスカ(Thermomonospora fusca)のcellulase 遺伝子と高い相同性を持っていた。内部アミノ酸配列をコードする配列を確認することができたことから、目的遺伝子の増幅が行えたと考え、この増幅断片からスクリーニングに用いるジゴキシゲニンラベルしたプローブを合成した。合成には、ベーリンガー・マンハイム製DIG DNA 標識及び検出キットを用い、キット付属のマニュアル通りに操作した。また、合成したプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションも製品添付のマニュアルに従った。
ストレプトミセス グリセウス HUT6037のゲノムをSalI処理したものをアガロース電気泳動し、アルカリトランスファー法により Nylon membrane Hybond−N Pharmacia Biotech 社)に転写した。合成プローブとのサザンハイブリダイゼーションにより約2kbのフラグメントが検出された。この電気泳動位置からDNAフラグメントを回収し、ベクターpUC19 に組み込んだ。同じプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、目的遺伝子を含むプラスミドを保持すると考えられるクローンを得た。
【0076】
このクローンを用いてDNAシークエンスを行うことにした。まず、インサートの方向を確認するため、先のPCR増幅断片から明らかになった内部配列からセンス鎖プライマーとアンチセンス鎖プライマーを設計し、ベクター側のM13−M4プライマー(配列番号11)およびM13−RVプライマー(配列番号12)との組み合わせで、コロニーダイレクトPCRを行った。ここで、RVプライマーからセンス鎖が、M4プライマーからアンチセンス鎖がシーケンスできるようにインサートされていることがわかった。そこで、インサート方向が逆になったクローンを作製した。
順方向クローンと逆方向クローンの両方でデリーションミュータントを作製し、センス鎖とアンチセンス鎖ともにM4プライマーでシーケンスできるように計画した。デリーションミュータントの作製には、ニッポンジーン社のDeletion kitを使用し、メーカーカタログ・マニュアル記載の方法に従って操作した。得られたミュータントを単離し、プラスミドを抽出して、分子量順に並ぶように分類した。
【0077】
これらを用いてDNAシーケンスを行い、配列がベクター側からインサート全域にかけてつながるようにセンス鎖、アンチセンス鎖ともに配列を決定した(配列表の配列番号2)。その後、Deletionを行う前のプラスミドを用いて、配列番号14から配列番号22までのプライマーを設計し、シーケンス反応を行った。シーケンス反応用のプログラムは、Step1(98℃、10sec;50℃、5sec;60℃、4min、25cycles) 、Step2(4℃、99分99秒、1cycle)である。これらの試料を用いてシーケンス解析を行った結果、1208baseの配列(配列番号23)を決定することができた。
【0078】
キトサナーゼIIをコードするDNA配列が解読されたことから、その配列を解析した結果、開始コドンとなりうるメチオニンをコードするATG の6塩基上流にSD配列(AAGGAGA)が存在し、本酵素のシグナル配列を含んだ全アミノ酸配列を配列番号24の様に推定することができた。
また、ペプチドシーケンサによるN末端アミノ酸配列情報から、本キトサナーゼの成熟酵素配列は、配列表の配列番号1に示すものであると推定された。配列番号1のアミノ酸配列には、配列番号3〜7の全てのアミノ酸配列を含むことが確認された。
配列番号1の情報から、成熟酵素の分子量は33,700程度であると推定された。この値は、実施例3記載のSDS−PAGEによる解析結果に極めて近いものである。さらに、配列表の配列番号1のアミノ酸配列の設計図ともなるべき、本成熟酵素のアミノ酸配列をコードするDNA配列を、配列番号23の配列内部より見出し、配列番号2のとおり決定した。配列番号2のDNA配列を含むプラスミドpUC19系プラスミド(pMMChitoII)により形質転換した大腸菌JM109 株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM P−18892である。
【0079】
【発明の効果】
本発明により、糖質加水分解酵素ファミリー5に属し、糖転移活性を有することを特徴とするキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドについて、アミノ酸配列情報及び該ポリペプチドをコードするDNA配列情報を提供することが可能となった。このことにより、該ポリペプチドを遺伝子工学的技術により大量製造する方法、あるいは該ポリペプチドを必要に応じて高機能化するための改変技術が提供される。
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2記載のゲル濾過クロマトグラフィーによる酵素活性画分の分離パターンを示す。
【図2】実施例2記載のゲル濾過リクロマトグラフィーによるpeak1の分離パターンを示す。
【図3】実施例2記載のゲル濾過リクロマトグラフィーによるpeak2の分離パターンを示す。
【図4】実施例3記載のキトサナーゼIIによる糖転移活性のTLC によるモニターの結果を示す。
【図5】実施例3記載のキトサナーゼIによる糖転移活性のTLC によるモニターの結果を示す。

Claims (8)

  1. 配列表の配列番号1に記載したアミノ酸配列または当該配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド。
  2. 配列表の配列番号2に記載した塩基配列からなるDNAまたは当該配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチド。
  3. 配列表の配列番号1に記載したアミノ酸配列または当該配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
  4. 配列表の配列番号2に記載した塩基配列からなるDNAまたは当該配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
  5. 請求項3または4に記載の遺伝子を含む組換えDNA。
  6. 請求項5記載の組換えDNAを含有するベクター。
  7. 請求項6記載のベクターで形質転換された細胞。
  8. 請求項7記載の細胞を培養し、培養物から採取することを特徴とする請求項1または2記載のキトサン加水分解活性に関与する機能性を有するポリペプチドの製造方法。
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