JP2004000130A - ゼアラレノン解毒酵素遺伝子及び該遺伝子を導入した形質転換体 - Google Patents
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Abstract
【課題】赤かび病菌の感染により植物体内に蓄積されるゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質。
【選択図】 なし
【解決手段】以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイコトキシン汚染植物の浄化を行い得るタンパク質及びそれをコードする遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
食糧の安定供給と環境保全は、今後の植物科学研究に課せられた重要な研究課題となっている。これに対し、近年では、組換え技術を用いて除草剤耐性や害虫耐性等の有用な形質を付与した様々な種類の組換え作物が作出されている。
【0003】
植物の病気として、植物病原糸状菌(カビ)が感染することにより植物体が損傷され、収穫の大きな損失をも引き起こす、ムギ類赤かび病が知られている。赤かび病は、近年の温暖で湿潤な気候の変動によってその感染が広がっている。特に1990年代に入り、世界各地で大流行したムギ類赤かび病は、先進的集約農業の行われている北米においてさえ壊滅的打撃を免れることのできなかった難防除病害となった。このため、欧米では昨今、赤かび病が大きな問題として取り上げられ、国家規模での対策が講じられつつある。地球規模で安定した安全な食料供給を確保するためには、今後、赤かび病の脅威から重要穀物であるコムギを守ることは重要な問題である。
【0004】
赤かび病は、フザリウム属(Fusarium)菌というカビによって引き起こされる植物の病気であり、ムギ類、トウモロコシ、イネなどのイネ科植物に感染する。赤かび病菌としては、これまでにフザリウム グラミネアルム(Fusarium graminearum)をはじめ17種以上のフザリウム属(Fusarium)菌が単離、報告されている(非特許文献1)。植物が赤かび病に侵されると、子実の収量、品質が大きく低下することにより経済的打撃を被ることに加え、穀粒中にマイコトキシン毒素が蓄積することから食品衛生上の問題も引き起こされる。このように赤かび病は食糧供給にとって二重の脅威をもたらすものである。
【0005】
赤かび病菌の防除には、テブコナゾール等の農薬が使われるが、耐性菌の出現の可能性、手間とコストがかさむこと、散布時期のタイミングの難しさ、農薬の残留性特性などからあまり実用的ではない。そこで、赤かび病の抵抗性品種の育成に力が注がれてきた(非特許文献2)。商業品種に赤かび病抵抗性の形質を入れるためには、まず抵抗性を示す適当な野生種を見つけ出し、抵抗性の好ましい形質だけを商業品種に導入するために戻し交雑をくり返し、抵抗性でかつ収量と品質も保たれた子孫を選抜していくという育種が行われる。しかしこの古典的な方法には多くの時間がかかり、また抵抗性を打破する菌が出現するなどの問題も生じていた(非特許文献2)。
【0006】
また、赤かび病菌の感染によって、マイコトキシンのトリコテセン系毒素が穀粒中に蓄積されることが知られている。トリコテセン系毒素は、タンパク合成阻害剤でもあり、菌が感染する際に病原性因子として感染力を増強する。トリコテセン系毒素の毒性を妨げる方法として、トリコテセン系毒素のタンパク質合成阻害活性をブロックする遺伝子(特許文献1)及びトリコテセン系毒素を細胞外に排出するポンプ作用性遺伝子(非特許文献3)が報告されている。しかしながらこのトリコテセン系毒素自体を不活化し得る遺伝子は未だ見つかっていない。
【0007】
同様に、赤かび病菌の感染により、ゼアラレノンが、トウモロコシ、コムギ等の穀物作物の穀粒中に蓄積されることが知られている(非特許文献4)。ゼアラレノン[6−(10−ヒドロキシ−6−オキソ−トランス−1−ウンデセニル)−β−レゾルシル酸ラクトン]は、赤かび病菌であるフザリウム属菌によって生産されるエストロゲン様活性を有するマイコトキシンである。フザリウム属菌が植物に感染すると、収穫前又は収穫後の穀物作物の穀粒中にゼアラレノンが生産され蓄積される(非特許文献4)。ゼアラレノンは、エストロゲン様活性を有し、それを摂取した人間や家畜に中毒症状や生殖障害を引き起こし得る環境ホルモン物質である(非特許文献5)。ゼアラレノン及びその代謝産物については、ヒトのエストロゲン受容体に結合すること(非特許文献6)及びin vitroでヒト乳がん細胞系MCF−7の増殖を促進すること(非特許文献7)が報告されている。
【0008】
赤かび病からの植物の保護においては、このような穀物のゼアラレノン汚染の問題を解決することは非常に重要である。しかしながら、ゼアラレノンの有効な解毒処理については、化学的手法、酵素的手法等のいずれにおいても有効な方法が未だ報告されていない。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−32985号公報
【非特許文献1】
J. ChelRowsky編,「フザリウム属菌のマイコトキシン、分類及び病原性(Fusarium Mycotoxins, Taxonomy and Pathogenicity)」,Elsevier Science Ltd.,1989年発行,p.1−39
【非特許文献2】
監修:山田哲治 島本功 渡辺雄一郎,「分子レベルからみた植物の耐病性」,秀潤社,1997年発行,p.90−97
【非特許文献3】
Alexander, NJ著,”Molecular & general genetics”,(1999),261,p.977−984
【非特許文献4】
Pittet, A.著,”Revue Medicine Veterinaire”,フランス,Ecole
Nationale Veterinaire de Toulouse,(1998),149, p.479−492
【非特許文献5】
Etienne, M and Jammali, M.著,(1982),”Journal of animal science”,55,p.1−10
【非特許文献6】
Miksicek, R.J.著,”The Journal of steroid biochemistry and molecular biology”,(1994),49,p.13−160
【非特許文献7】
Makela, S., et al.著,”Environmental Health Perspectives”,(1994),102,p.572−578
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、赤かび病菌の感染により植物体内に蓄積されるゼアラレノンを解毒するタンパク質をコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ゼアラレノンを分解する活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードする遺伝子を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質
ここで[1]におけるタンパク質は、ゼアラレノン類がエストロゲン様活性を有する化合物であることを特徴とするものであり得る。ゼアラレノン類は、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。また[1]のタンパク質は、毒性を抑制する作用が分解作用であることを特徴とするものであり得る。毒性を抑制する作用は、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであってもよい。さらに[1]のタンパク質は、pH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するものであり得る。
【0013】
[2] 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質
【0014】
[3] 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA
【0015】
[4] 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA
ここで、[2]〜[4]における遺伝子は、ゼアラレノン類がエストロゲン様活性を有する化合物であることを特徴とするものであり得る。ゼアラレノン類は、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。また[2]〜[4]における遺伝子は、毒性を抑制する作用が分解作用であることを特徴とするものであり得る。毒性を抑制する作用は、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであってよい。
【0016】
[5] [2]〜[4]の遺伝子を含む組換えベクター。
【0017】
[6] [5]の組換えベクターを含む形質転換体。
ここで、上記形質転換体は、大腸菌、酵母細胞及びイネ科植物細胞からなる群より選択される細胞に組換えベクターが導入されたものであり得る。
【0018】
[7] [6]の形質転換体を培養し、得られる培養物からゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
【0019】
[8] [6]の形質転換体を含有する解毒剤。
【0020】
[9] [1]のタンパク質を含有する解毒剤。
【0021】
[10] ゼアラレノン類に[8]又は[9]の解毒剤を適用することを特徴とする、ゼアラレノン類の解毒方法。
【0022】
[11] [2]〜[4]の遺伝子を含むトランスジェニック植物。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
コムギ(Triticum aestivum L.)の赤かび病に対する抵抗性は、大きく分けて以下のタイプI〜IVの4種類に分類されている:
〔1〕タイプI:菌の侵入に対する抵抗性(開花特性、穂の形状等による)
〔2〕タイプII:侵入後の菌の進展(菌糸の伸長)に対する抵抗性
〔3〕タイプIII:穀粒の部分で発揮される抵抗性(種子に対するカビによる損傷の低減)
〔4〕タイプIV:マイコトキシン蓄積量の低減に基づく抵抗性。
【0024】
これらの抵抗性は、それぞれが異なった多くの遺伝子に支配されていると考えられている。そこで、赤かび病抵抗性に関わる遺伝子の機能を人為的に調節することができれば、植物に赤かび病に対する抵抗性を付与することができると考えられた。
【0025】
特に、タイプIVの抵抗性、すなわち感染植物のマイコトキシン蓄積量の低減に基づく抵抗性に関わる遺伝子は、植物個体を赤かび病から保護する上で有用であるだけでなく、該植物から生産される穀粒についての食品としての安全性を確保する上でも非常に有用であると考えられる。すなわち、フザリウム属(Fusarium)菌の感染により穀粒中に蓄積されるマイコトキシン、例えばゼアラレノンを解毒することができる酵素をコードする遺伝子を単離・同定することができれば、赤かび病からの植物の保護において、非常に有用であろうと考えられた。本発明は、このような着想に基づいて完成されたものである。
【0026】
本発明におけるゼアラレノンは、基本的に図7に示す化学式のものを指す。しかし、本発明におけるゼアラレノン解毒酵素は、図7に示す化学式のゼアラレノンそのもの以外の、その他のゼアラレノン類を基質とすることもできる。すなわち、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、ゼアラレノン類を基質とした酵素反応により、該ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を示すタンパク質である。ゼアラレノン解毒酵素が基質とし得るゼアラレノン類としては、ゼアラレノンの他に、ゼアラレノン類縁体が含まれる。ゼアラレノン類縁体とは、14個の炭素からなるラクトン環を有するゼララレノン骨格をもつ化合物を意味し、例えばα−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノール等が挙げられる。ゼアラレノン解毒酵素が基質とし得るゼアラレノン類は、エストロゲン様活性を有する化合物であることが好ましい。以下、上記ゼアラレノン類を便宜上「ゼアラレノン」と称して説明する。
【0027】
本発明において、「ゼアラレノン類の毒性」又は「ゼアラレノンの毒性」とは、ゼアラレノンが蓄積されることにより植物個体にもたらされる毒性、例えば細胞毒性、さらに、ゼアラレノンを摂取することによりヒト及び家畜を含む哺乳動物にもたらされる毒性、例えば環境ホルモン活性に基づく毒性、特にエストロゲン様活性に基づく毒性、より具体的には、例えば雌性生殖器の肥大化、乳腺の増大、死流産、胚発生阻害、胎子数の減少、繁殖障害、腔脱、直腸脱、催奇性、発ガン性等を意味する。本発明において「ゼアラレノン(類)の毒性を抑制する」とは、ゼアラレノンの作用により示される上記毒性の程度が軽減されること、好ましくは、上記毒性が検出不能になるか又は失われることを意味する。なお本発明における「解毒」とは「ゼアラレノンの毒性を抑制する」ことと同じ意味である。「ゼアラレノン(類)の毒性を抑制する作用」は、ゼアラレノン自体の化学構造を変化させることによりその毒性を上記のように抑制する作用を意味する。ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、具体的には、ゼアラレノンを分解又は切断することによるものであってよいし、ゼアラレノンに化学的な修飾を施すことによるものであってもよい。特に、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、ゼアラレノンを基質としてエストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであり得る。本発明において、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、好ましくはエストロゲン様活性を低下させる作用として測定されるものである。本発明における「エストロゲン様活性」とは、エストロゲン受容体に結合し、かつin vitroでヒト乳がん細胞系MCF−7の増殖を促進することを意味する。このエストロゲン様活性は、例えば本明細書の実施例9に記載したような試験によって容易に測定することが可能である。
【0028】
1.ゼアラレノン解毒酵素の単離
本発明では、分譲機関から入手できる多種多様な菌株に対し、ゼアラレノンを解毒する能力についてスクリーニングを行って、ゼアラレノン解毒酵素を保持する菌株を単離した。このスクリーニング対象とする細胞は、動物細胞、植物細胞、真菌細胞及び細菌細胞のいずれでもよいが、好ましくは真菌細胞である。分譲機関からの細胞株(例えば真菌株)の入手は、各分譲機関のカタログ番号に基づいて、当業者であれば容易に行うことができる。分譲機関としては、AKU(Faculty of Agriculture,Kyoto University,Kyoto,Japan)、ATCC(American Type Culture Collection Rockville,U.S.A)、HUT(Faculty of Engineering,Hiroshima University,Hiroshima,Japan)、IAM(Institute of Applied Microbiology,University of Tokyo,Japan)、IFO(Institute for Fermentation,Osaka,Japan)、JCM(Japan Collection of Microorganisms,RIKEN)等がある。また、分譲機関から入手できる各細胞株には培養条件等の情報が提供されており、それを参照することにより、当業者であれば該細胞株を容易に培養することができる。
【0029】
ゼアラレノンを解毒する能力についてスクリーニングを行うために、限定するものではないが、例えば以下のような方法を用いることができる。入手した細胞を、各株毎に、ゼアラレノンを添加した培地(真菌では例えばYG培地)中で当業者に公知の培養方法に従って培養する。次いで培養物を、例えばクロロホルムで抽出する。例えば、ゼアラレノン解毒作用として、ゼアラレノン分解能に関するスクリーニングを行う場合には、抽出物を以下のような薄層クロマトグラフィー(TLC)分析に供すればよい。そのTLC分析において、ゼアラレノン標準物と同程度の移動度のスポットが現れず、かつゼアラレノンと明らかに移動度の異なるスポットが現れるような菌株を、ゼアラレノンを解毒する能力を有する細胞(例えば菌株)の候補として選択することができる。
【0030】
続いて、上記の通り選択された細胞から、ゼアラレノン解毒酵素の抽出及び精製を行う。細胞からの該酵素の抽出及び精製は、当業者には公知の任意の技術を用いて行うことができるが、例えば以下のようにカラム溶出分離とTLCによる分析とによって行ってもよい。
【0031】
まず、当該細胞株を、ゼアラレノンを添加した培地(真菌では例えばYG培地)中で当業者に公知の培養方法に従って培養する。次いで培養細胞を回収し、該細胞を液体窒素等で破砕し、細胞破片を遠心分離によってスピンダウンさせて、上清を取得する。この上清を硫安分画し、得たタンパク質溶液を透析にかけて粗酵素液を得ることができる。この粗酵素液を、例えばHiTrapQカラム(Pharmacia)に適用して溶出させて分離し、さらなる精製を行うことができる。
【0032】
得られた溶出分画は、それぞれin vitroでのゼアラレノンに対する酵素反応試験に供し、その後TLCにてゼアラレノンに対する酵素反応活性を有するかどうかについて調べることができる。
【0033】
例えばin vitroでのゼアラレノン分解反応試験においては、それぞれの溶出分画にゼアラレノンを添加し、37℃でインキュベートする。次いで、その各サンプルからゼアラレノン及び/又はその分解産物を抽出し、TLCにかける。ゼアラレノン分解酵素を含む画分では、TLC上に、ゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットが検出される。なお、ゼアラレノン解毒酵素が、分解とは異なる様式でゼアラレノンの分子構造を変化させる酵素である場合にも、同様に、そのような酵素を含む溶出分画を用いて得たサンプルについて、ゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットが検出される。
【0034】
この移動度の指標としては、一般にRf値が用いられる。Rf値とは、試料を最初に塗布した展開原点から試料の発色スポットの中心までの距離(化合物の平均移動距離)を、展開原点から展開液の展開先端までの距離(展開液の最大移動距離)で割った値として定義される。このRf値は、化合物と薄層クロマトグラフィーに塗布した吸着剤との親和性や、化合物の展開液への溶解性によって変化するが、一定の条件下では化合物の種類に固有の値を示すため、化合物の同定に有用である。
【0035】
このようにして同定された、ゼアラレノン添加の際にゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットを検出し得る溶出分画を、さらなる精製工程にかける。さらなる精製工程としては、ゲル濾過カラムを用いるFPLC分離、イオン交換カラムを用いるもの等が挙げられ、これらの様々なタンパク質精製工程を繰り返し行うことにより、所望のタンパク質を高純度で得ることができる。
【0036】
2.ゼアラレノン解毒酵素遺伝子の単離
上記1で得たゼアラレノン解毒酵素をコードする遺伝子を単離するために、本発明ではまず、例えばゼアラレノン解毒酵素の部分アミノ酸配列を決定する。
【0037】
アミノ酸配列決定のために、例えばリジルエンドペプチダーゼ(例えば、TAKARA, Kyoto, JAPAN)等のタンパク質分解酵素によって、精製したゼアラレノン解毒酵素をペプチド断片化する。その反応混合物を、HPLCによってペプチド断片毎に分離する。このようなHPLC操作は、通常は製造業者の説明書に従って行えばよい。次にHPLCにより分離されたペプチド断片、及び上記で精製したゼアラレノン解毒酵素そのものを、それぞれタンパク質シーケンサーにかけ、エドマン分解によるアミノ酸配列決定を行う。
【0038】
次いで、ゼアラレノン解毒酵素をコードするDNAをPCR増幅するためのプライマーを設計する。N末端のアミノ酸配列に基づく縮重した5’プライマーと、ペプチド断片より得られたアミノ酸配列に基づく縮重した3’プライマーとを、上記で決定した部分アミノ酸配列に基づいて設計する。プライマー設計の際に用いるペプチド断片は、上記のHPLCで分離されたいずれのものでもよいが、縮重パターンができるだけ少なくなるようなプライマー配列とすることが好ましい。
【0039】
PCR増幅をするために用いる鋳型としては、ゼアラレノンを解毒する能力を有する細胞由来のcDNAを用いる。このcDNAは、ゼアラレノン解毒能を有する細胞を培養し、その培養物から全RNA又はmRNAを常法により抽出し、さらにRT−PCRにより合成したものを用いることができる。そのようにして得たcDNAに対し上記のプライマーセットを用いてPCR増幅を行うことによって、ゼアラレノン解毒酵素をコードする遺伝子の部分DNA断片を得ることができる。PCR反応条件としては、例えば94℃(30秒)、55℃(30秒)及び72℃(1分)を30サイクル行えばよい。得られた増幅産物は、アガロースゲル電気泳動により、その増幅断片のサイズを確認する。
【0040】
さらに、以上のようにして得たPCR増幅産物のうち適当なものを、例えば最もサイズの大きいものを選択し、適当なベクター中にクローニングし、DNA配列決定に供する。DNA配列決定は、常法により行うことができるが、例えばABI PRISM(R) 377 DNAシーケンサー、及びABIキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い、製造業者の提供するプロトコールに従って行ってもよい。
【0041】
さらに、このゼアラレノン解毒酵素遺伝子の部分DNA断片の5’端及び3’端のDNA領域の塩基配列を決定するために、RACE(cDNA末端高速増幅法;rapid amplification of cDNA ends)を実施することができる。RACEにより増幅したDNA断片は、上記と同様にクローニングし、DNA配列決定に供する。
こうして、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子のコード領域全体の塩基配列を決定することができる。
【0042】
3.本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子
本発明の1つの実施形態として、上記1及び2の方法に従って単離され、配列決定されたゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列を有していた。また、配列番号1の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を、配列番号2に示す。この実施形態においては、配列番号1の塩基配列から推定されるアミノ酸配列とエドマン法により決定されたアミノ酸配列は一致していた。さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列を、公共データベース(Swiss−Prot及びGenBank)において検索したところ、相当する配列は見出されなかったことから、このゼアラレノン解毒酵素は新規なものであると判断された。
【0043】
さらに、このゼアラレノン解毒酵素遺伝子(配列番号1)は、その遺伝子産物(配列番号2)がゼアラレノンを分解してエストロゲン様活性を有しない分解産物を生成するゼアラレノン解毒酵素であることが確認された。その確認は、後述の7に示されるように、ヒト乳がん細胞MCF−7を用いた系で行った。
【0044】
したがって、本発明の1つの実施形態では、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAである。このDNAは、例えば、配列番号1に基づいて設計されるプライマーを用いて、上記で得たcDNAを鋳型としてPCR増幅し、そのDNA増幅断片を常法により抽出・精製することにより取得することができる。
【0045】
本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、より一般的には、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものである。
【0046】
本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、上記の配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに限定されるものではない。本発明の遺伝子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。さらに本発明の遺伝子は、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有する限り、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは数個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。
【0047】
また、配列番号1に示される塩基配列又はその一部に相補的な配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、上記ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものも本発明の遺伝子に含まれる。同様に、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA又はその一部に相補的な配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、上記ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものも本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。例えば、相同性が高い核酸同士、すなわち90%以上、好ましくは95%以上の相同性を有するDNAであって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50℃〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらにハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、ナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃での条件である場合も、本発明における「ストリンジェントな条件」に含めることができる。
【0048】
一旦本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたcDNA、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてcDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーに対してハイブリダイズさせることによって、本発明の遺伝子を得ることができる。cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等が由来する生物は、特に限定されるものではないが、真菌類に属する生物であることが好ましい。
【0049】
さらに、部位特異的突然変異誘発法等によって、本発明の遺伝子の変異型であってゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。また部位特異的突然変異誘発法等により、本発明の遺伝子の変異型であって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有し、かつエストロゲン様活性を有しない分解産物を生成するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。さらに部位特異的突然変異誘発法等により、本発明の遺伝子の変異型であって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有し、かつpH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。
【0050】
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0051】
4.組換えベクターの作製
上記3に記載した本発明の遺伝子は、続く操作のために、ベクター中にクローニングして組換えベクターを作製することが好ましい。
【0052】
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、ファージ DNA等が挙げられる。
【0053】
プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0054】
ベクターにゼアラレノン解毒酵素遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0055】
ゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるように、ベクターに組み込まれることが必要である。特に、本発明の組換えベクターは、宿主内で良好な活性を有するタンパク質として発現されるようにゼアラレノン解毒酵素遺伝子をベクターに組み込んだ、組換え発現ベクターとして作製することが好ましい。このために、本発明のベクターとしては、数多くの宿主生物に対応した市販の各種発現ベクターを用いることができる。それらの発現ベクターには、通常、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、分泌因子配列等の有用な配列が必要に応じて連結されている。組換え発現ベクターを用いて形質転換体を作製し、それを培養することによって組換えタンパク質を産生させる場合には、宿主生物に適合した分泌因子配列を含む発現ベクターを用いることにより、組換えタンパク質を培地中に分泌させることができる。この手法は、培養上清から直接組換えタンパク質を精製することができるため、有用である。さらに、この分泌因子配列は、培養上清への分泌後に、ベクターに組み込んだ遺伝子にコードされるタンパク質から、特定のプロテアーゼ等で特異的に切断して除去することができるものであってもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0056】
以上のようなベクターに、ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を、適切に発現されるような位置及び向きで連結する。
さらに、本発明の遺伝子は、相同組換え法により宿主生物ゲノムに直接導入することもできる。その場合には、本発明の遺伝子を組み込んだ適当なターゲティングベクターを作製する。このために使用可能なベクターとしては、例えばCre−loxP等の公知のジーンターゲティング用ベクターを用いることができる。本明細書においては、このような本発明の遺伝子を組み込んだターゲティングベクターも、本発明の組換えベクターに包含されるものとする。
【0057】
5.ゼアラレノン解毒酵素遺伝子の植物への導入
上記4に記載の通り作製した組換えベクターを植物に導入することにより、トランスジェニック植物を得ることができる。
【0058】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)又は植物培養細胞(例えばカルス)のいずれをも意味するものである。形質転換に用いられる植物としては、赤かび病菌であるフザリウム属菌の感染により植物体内にゼアラレノンの蓄積が見られる植物であることが好ましい。限定するものではないが、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入する植物としては、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライ麦、イネ等のイネ科植物が好ましい。形質転換に用いられる植物として、例えば以下のようなものが考えられる。
【0059】
ナス科:ナス(Solanum melongena L.)、トマト(Lycopersicon esculentum Mill)、ピーマン(Capsicum annuum L. var. angulosum Mill.)、トウガラシ(Capsicum annuum L.)、タバコ(Nicotiana tabacum L.)
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica campestris L.)、ハクサイ(Brassica pekinensis Rupr.)、キャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata L.)、ダイコン(Raphanus sativus L.)、ナタネ(Brassica campestris L., B. napus L.)
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum L.)、オオムギ(Hordeum vulgare L.)
マメ科:ダイズ(Glycine max)、アズキ(Vigna angularis Willd.)、インゲン(Phaseolus vulgaris L.)、ソラマメ(Vicia faba L.)
ウリ科:キュウリ(Cucumis sativus L.)、メロン(Cucumis melo L.)、スイカ(Citrullus vulgaris Schrad.)、カボチャ(C. moschata Duch., C. maxima Duch.)
ヒルガオ科:サツマイモ(Ipomoea batatas)
ユリ科:ネギ(Allium fistulosum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、ニラ(Allium tuberosum Rottl.)、ニンニク(Allium sativum L.)、アスパラガス(Asparagus officinalis L.)
シソ科:シソ(Perilla frutescens Britt. var. crispa)
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、シュンギク(Chrysanthemum coronarium L.)、レタス(Lactuca sativa L. var. capitata L.)
バラ科:バラ(Rose hybrida Hort.)、イチゴ(Fragaria x ananassa Duch.)
ミカン科:ミカン(Citras unshiu)、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC.)
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus globulus Labill)
ヤナギ科:ポプラ(Populas nigra L. var. italica Koehne)
アカザ科:ホウレンソウ(Spinacia oleracea L.)、テンサイ(Beta vulgaris L.)
リンドウ科:リンドウ(Gentiana scabra Bunge var. buergeri Maxim.)
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus L.)
【0060】
上記組換えベクターは、通常の形質転換方法、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法等によって植物中に導入することができる。例えばアグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入し、この菌株をイネのカルスに接種して感染させ、トランスジェニック植物を得ることができる。
【0061】
また、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)等)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料により異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
【0062】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターをパーティクルガン法、エレクトロポレーション法等で培養細胞に導入する。この際ターゲティングベクターを用いて、植物ゲノムに対し相同組換えを引き起こすことも可能であり得る。
【0063】
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。
【0064】
遺伝子が植物に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、トランスジェニック植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、組換えベクターに挿入したcDNA断片を増幅するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0065】
以上記載の通りにして作製した本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入したトランスジェニック植物は、植物体内でゼアラレノン解毒酵素を生産することによって、赤かび病菌の感染により生産されるゼアラレノンの毒性を抑制することができる。
【0066】
6.形質転換体の作製及び該形質転換体を用いたゼアラレノン解毒酵素の製造本発明では、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入した形質転換体(形質転換細胞)を作製し、それを培養することによりゼアラレノン解毒酵素を製造することができる。本発明は、このような形質転換体及び該形質転換体を用いたゼアラレノン解毒酵素の製造方法にも関する。
【0067】
形質転換には、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等、いずれを使用してもよい。本発明においては、特に大腸菌、酵母細胞又はイネ科植物細胞を使用することが好ましい。より詳細には、例えば、イネ科植物に対する赤かび病対策のためにはイネ科植物細胞を用いることが好ましい。ゼアラレノン解毒酵素の製造においては、大腸菌又は酵母細胞を使用することが好ましい。酵母細胞の発酵を利用した食品製造においては、酵母細胞を用いることが好ましい。
【0068】
形質転換には、一般的に行われている手法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を適用することができる。形質転換体の選択は、定法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカーを利用して行う。
【0069】
本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
【0070】
プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0071】
培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。
【0072】
培養後、ゼアラレノン解毒酵素が菌体内又は細胞内に生産される場合には菌体又は細胞を破砕する。一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、上清を得る。得られた液中に、ゼアラレノン解毒酵素が含まれる。
【0073】
本発明では、形質転換を行う代わりに、無細胞翻訳系を使用してゼアラレノン解毒酵素を生産することもできる。
【0074】
「無細胞翻訳系」とは、宿主生物の細胞の構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞翻訳系としては、有利に使用可能なキットが市販されている。
【0075】
生産されたゼアラレノン解毒酵素は、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、上記培養物中(細胞破砕液、培養液、又はそれらの上清中)あるいは無細胞翻訳系の溶液中から単離精製することができる。しかしながら、場合により、例えば培養上清を限外濾過型フィルター等で濃縮したり、硫安分画後に透析にかけたりして得られた粗酵素液を、そのままゼアラレノン解毒処理に用いることもあり得る。
【0076】
また本発明のゼアラレノン解毒酵素の1つの実施形態である、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質(ZHD101;実施例参照)は、pH9.5の高アルカリ環境で十分な活性を有していることが示された。また、ZHD101はpH7.0でもある程度の活性を有し、一方pH4.5を下回るような低pHにおいては不可逆的に失活することが分かった。このように、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、1つの特徴として、至適pHのアルカリ側への偏りを示す。すなわち、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、pH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するものである。
【0077】
7.ゼアラレノン解毒酵素によるゼアラレノンの解毒
本発明のゼアラレノン解毒酵素、及び該ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含む細胞又はトランスジェニック植物を用いて、ゼアラレノンの毒性を抑制することができる。ゼアラレノンの毒性を抑制するためには、本発明のゼアラレノン解毒酵素を含む反応溶液又は該ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含む細胞の培養物を、ゼアラレノン又はゼアラレノンを含む溶液に対して直接適用してもよいし、ゼアラレノンが付着した材料(植物体、穀粒、果実、土壌又は天然若しくは人工基材等)に適用してもよい。ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含むトランスジェニック植物を使用する場合には、赤かび病感染の恐れがある地域で栽培することによりゼアラレノン汚染を低減させてもよいし、ゼアラレノンで汚染された土壌又は環境水(地下水、下水、雨水、河川水又は栽培用水等)にて栽培することにより、周囲環境に含有されるゼアラレノンの毒性を抑制してもよい。
【0078】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の活性の確認を行うためには、まずゼアラレノン解毒酵素遺伝子を有する形質転換体を培養し、その培養物から得た酵素液をゼアラレノンが含まれる溶液に添加する。これを例えば37℃で一晩インキュベートすることによって酵素反応を進行させ、この反応物を例えばTLCで分析したとき、ゼアラレノンが消費され、かつ移動度の異なる生成物が生じている結果を確認できた場合には、ゼアラレノン解毒酵素の活性が示されたと考えることができる。
【0079】
また本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を有する形質転換体のゼアラレノン解毒活性の確認を行うためには、まずその形質転換体をゼアラレノン存在下で培養し、その培養物から抽出物を得る。そしてその抽出物について、例えばTLCで分析したとき、ゼアラレノンが消費され、かつ移動度の異なる生成物が生じている結果を確認できた場合には、ゼアラレノン解毒酵素の活性が示されたと考えることができる。
【0080】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の触媒反応により、ゼアラレノンから生成される化合物は、NMR分析及び質量分析(FAB−MS、EI−MS等)にかけることができる。これらの分析を行うことによって、該化合物の化学構造を決定することが可能である。これらの分析法は公知であり、NMR測定機及び質量分析計の製造業者の説明書に従って実施することができる。NMR分析及び質量分析の一般的な教科書としては、例えば「有機化学のためのスペクトル解析法 UV, IR, NMR, MSの解説と演習」(M.Hesse著 東京化学同人)等が挙げられる。
【0081】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の触媒反応により、ゼアラレノンから生成される化合物(ゼアラレノン由来解毒生成物と称する)について、エストロゲン様活性の測定を行うことができる。ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことが確認された場合、ゼアラレノン由来解毒生成物を生成させたゼアラレノン解毒酵素は、「ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有する」と判断してよい。エストロゲン様活性の測定は、当業者が使用可能な様々な手法を用いることができるが、例えば、ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用を指標として測定することができる。
【0082】
ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用の測定は、次のようにして行うことができる。まず、ヒト乳がん細胞MCF−7を、例えばフェノールレッド、L−グルタミン(2 mM)、ペニシリン(50ユニット/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したRPMI−1640培地にて、5%CO2を含む加湿空気中で37℃で培養する。培養した上記細胞は、フェノールレッド不含RPMI培地中に1ウェル当たり例えば5×103細胞を接種する。これを37℃で20時間培養した後、培地を同種の培地に交換し、この培養物に、試験化合物とするゼアラレノン、ゼアラレノン由来解毒生成物、又は17β−エストラジオールを様々な濃度で添加して、さらに120時間培養する。次いで、発色反応により細胞数を評価する。発色反応には、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウムの一ナトリウム塩である、WST−8TM(Nakalai Tesque, Kyoto)を使用することができる。そして最後に、各ウェルの吸光度(A450)を、例えばWallac 1420マルチラベルカウンター(Amersham Biosciences)によって測定する。本発明では、限定するものではないが、既知のエストロゲンである17β−エストラジオール (0.1 nM)を対照として使用することができる。
【0083】
17β−エストラジオールを試験化合物として添加すると、何も添加しない対照と比較して、細胞数が平均約250%増大することがわかっている。ゼアラレノンを添加した場合には、17β−エストラジオールと同程度の細胞数を示す。本発明においては、試験化合物を添加しない場合の細胞数(A)に対する、試験化合物を添加する場合の細胞数(B)の比率([(B)/(A)]×100(%);本発明ではこの値を細胞増殖促進比率と称する)が0%〜150%、好ましくは80%〜120%であれば、その試験化合物に関して細胞増殖促進作用がみられないものとする。そして本発明においては、該試験化合物について、細胞増殖促進作用がみられないことはエストロゲン様活性を有しないものと判断することができる。したがって、上記のゼアラレノン由来解毒生成物を試験化合物として添加する場合に、細胞増殖促進作用がみられなければ、該ゼアラレノン由来解毒生成物はエストロゲン様活性を有しない化合物である。このようにしてゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことが確認されれば、該ゼアラレノン由来解毒生成物を生成したゼアラレノン解毒酵素は、ゼアラレノンを基質としてエストロゲン様活性を有しない化合物を生成できることが示される。すなわち、ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことを確認することによって、本発明のゼアラレノン解毒酵素について、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質であることを確認することができる。但し、本発明のゼアラレノン解毒酵素がゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有することの判定は、ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことの確認によるものだけに限定されるものではない。
【0084】
【実施例】
[実施例1]ゼアラレノン分解能を有する微生物の単離
(1) スクリーニング対象菌株
抗生物質単離株209種及び31種の微生物菌株を、IFO(Institute for Fermentation, Osaka, Japan)又はJCM(Japan Collection of Microorganisms, RIKEN)の各分譲機関から入手した。これらの各菌株に対し、ゼアラレノン分解能についてランダムスクリーニングを行った。
【0085】
(2) ゼアラレノン分解能に関する微生物菌株のスクリーニング
100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有する100mlのYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)に各菌株を接種し、室温で1週間にわたり培養した。この培養物を6,000rpmで5分間遠心分離して培養上清を分離し、この培養上清をクロロホルムで抽出した。この抽出液を濃縮してTLCプレートにのせ、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。その結果、IFO7063株について、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットを検出することができた。本スクリーニングにおけるIFO7063株についてのTLCのデータを図1に示す。図1のレーン3には、対照として、ゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を標準サンプルとして適用して得た、ゼアラレノンのスポットが示されている。またレーン2には、陰性対照として、バッファーにゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を添加してインキュベートしたものを適用して得た、ゼアラレノンのスポットが示されている。そしてレーン1では、IFO7063株の培養上清から抽出したサンプルを適用したところ、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットが検出された。該レーン1には、レーン2及び3に示されたゼアラレノンのスポットと同程度の移動度のスポットは示されておらず、代わりに該スポットよりも移動度が小さいスポットが示されている。レーン2及び3に示されたゼアラレノンのRf値はおよそ0.8であるのに対し、レーン1に示された物質のRf値はおよそ0.2であった。レーン1に、移動度がより小さいスポットのみが示されたことは、レーン1に対応するIFO7063株の培養上清が有する加水分解活性によって、ゼアラレノンの分子構造が変化したことを意味する。従って、レーン1に対応するIFO7063株の培養上清にはゼアラレノン分解酵素が含まれる可能性がある。
【0086】
このようなTLCの結果に基づき、IFO7063株をゼアラレノン分解能を有する菌株の候補として同定した。このIFO7063株は、IFO(Institute for Fermentation, Osaka, Japan)から分譲されたものであり、クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)に分類される。IFO生物資源データベースにはこの菌についてより詳細な情報が示されており、その情報に基づけば、この菌株は例えば、24℃にてポテトスクロース寒天培地(PSA培地;ポテト 200g、スクロース 20g、蒸留水1L、寒天 20g, pH 5.6)の培養条件にて培養することができる。
【0087】
[実施例2]IFO7063株からのゼアラレノン分解酵素の抽出及び精製
(1) ゼアラレノン分解酵素の抽出及び精製
クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)IFO7063株を、100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有するYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)100ml中で、室温で1週間にわたり培養した。その後、該培養物を25 ppmのゼアラレノンを含有する上記YG培地1Lに植え継ぎ、室温で1週間にわたり培養した。細胞を濾過により回収し、それを液体窒素で破砕し、さらに超音波破砕処理した。次に細胞破片を5,000×gによってスピンダウンし、硫酸アンモニウムを40〜60%の飽和度で上清に添加した。10,000×gで1時間にわたる遠心分離によって得られた沈殿物を、4℃で10mM Tris−HCl(pH 7.5)に対して透析した。次いで透析したサンプルをHiTrapQカラムに適用し、NaClの線形濃度勾配(0〜1M、5ml/分、20分)を示すような10mM Tris−HCl(pH 7.5)によって溶出した。
【0088】
ここで得られた溶出分画を、それぞれin vitroでのゼアラレノン加水分解試験に供し、その後TLCにてゼアラレノンに対する加水分解活性について調べた。ゼアラレノン加水分解試験は、各溶出分画にゼアラレノン25μgを加えて37℃にて一晩インキュベートして行った(100mM Tris−HCl(pH 9.5),総容量100μl)。次いでその反応液からクロロホルムによる抽出を行い、その抽出物の一部を採取し、TLCプレート(Merck,シリカゲル 60 F254)にチャージし、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20(体積比)を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。その結果、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットを検出することができた溶出分画を選択することができた。ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットの検出結果は、図1と同様であった。対照としてゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を標準サンプルとして適用した結果、ゼアラレノンのスポットが観察された。陰性対照としては、バッファーにゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)25μgを添加して37℃で一晩インキュベートしたサンプルを適用した結果、ゼアラレノンのスポットが観察された。しかし、溶出分画サンプルを用いた場合には、対照及び陰性対照における前記のゼアラレノンのスポットと同程度の移動度のスポットは認められず、代わりに、ゼアラレノンよりも移動度が小さいスポットが観察された。従って、溶出分画に含まれるタンパク質は、ゼアラレノン分解酵素であり得る。なお触媒性分画とは異なる溶出分画を用いたサンプルを適用した場合には、ゼアラレノンと同じ移動度のスポットのみが示された。このようにして同定されたゼアラレノン分解酵素を含み得る溶出分画(触媒性分画)を、酵素のさらなる精製のために、次のFPLC分離に供した。
【0089】
該触媒性分画をFPLC(AKTAエクスプローラ, Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)によってさらに分離した。FPLC分離においては、ゲル濾過カラム(Superdex75 HR 10/30, Amersham Pharmacia Biotech)に該溶出分画を適用し、0.1M NaClを含む10mM Tris−HCl(pH 7.5)によって溶出した。このFPLCによって得られるこれらの溶出分画についても、上述のTLCに供して、さらに触媒性分画を選択した。このFPLCから得られる溶出分画を用いたTLCにおいても、上記と同様の結果が得られた。
【0090】
さらに、選択した触媒性分画を、イオン交換カラム(MonoQ, Amersham Pharmacia Biotech)に適用し、続いてNaClの線形濃度勾配(0〜0.5M)を有する10mM Tris−HCl(pH 7.5)により、流速0.4ml/分にて50分間にわたり溶出した。このイオン交換カラムMonoQを使用した精製工程は、2回繰り返した。触媒性分画の上記TLCによる選択は1回目のMonoQ精製工程の後にも行い、選択された溶出分画を次の2回目のMonoQ精製工程に供してさらなる精製タンパク質を得た。そしてこの2回目のMonoQ精製工程により得られた精製タンパク質を、ゼアラレノン分解酵素として以後の実験に用いた。またこのタンパク質を、ZHD101と命名した。
【0091】
[実施例3]ゼアラレノン分解酵素の部分アミノ酸配列決定
実施例2に従って精製したZHD101を、リジルエンドペプチダーゼ(TAKARA, Kyoto, JAPAN)によって2M尿素を添加して37℃で1時間かけて消化した。その反応混合物を、逆相カラムであるVP304−1251(Senshu Kagaku, Tokyo, JAPAN)を用いるHPLCによってペプチド断片毎に分離した。該HPLCは以下の条件で実施した:流速は1ml/分、60分間にわたる濃度勾配としてBを0%〜60%(A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B:0.08%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液)。なおペプチドの検出は225nmで行った。
【0092】
HPLCの結果、7つの主ピーク(p−12、p−18、p−24.5、p−32.5、p−34.5、p−36.5、p−39)が現れた(図2)。そこで、これらの7つの主ピークの各々を、12分、18分、24.5分、32.5分、34.5分、36.5分、39分に溶出させ、手作業で回収した。これらのペプチド及び全体タンパク質について、製造業者の説明書に従って自動タンパク質シーケンサーProcise HT 492(Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA)を使用して、エドマン分解によるアミノ酸配列決定を行った。
【0093】
[実施例4]ゼアラレノン分解酵素遺伝子の単離
クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)IFO7063株を、100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有するYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)100ml中で、室温で1週間にわたり培養した。この培養物から、RNeasy Miniキット(Qiagen GmbH, Hilden Germany)を用いて全RNAを抽出し、精製した。この全RNAを鋳型として、RT−PCR用Superscript First−Strand Synthesisシステム(Invitrogen, Groningen, The Nethrlands)を用いて、逆転写PCR(RT−PCR)を行ってcDNAを合成した。
【0094】
次に、実施例3で決定したZHD101の部分アミノ酸配列に基づき、本発明のZHD101をPCR増幅するためのプライマーを設計した。5’プライマーとしては、N末端のアミノ酸配列に基づく4種の5’プライマー、3’プライマーとしては、実施例3のHPLCで得たピークp−32.5及びP−34.5に相当するペプチドのそれぞれのアミノ酸配列に基づく8種の3’プライマー(図3)を設計し、化学合成した。これらの4種の5’プライマー及び8種の3’プライマーを組み合わせた32通りのプライマー対を別個に用い、上記で作製したcDNAを鋳型として、以下の条件に従ってPCR増幅を実施した:94℃(30秒)、55℃(30秒)及び72℃(1分)を30サイクル。得られた増幅産物は、アガロースゲル電気泳動により、その増幅断片のサイズを確認した。
【0095】
その結果、N2(5’プライマー)と34.5−2(3’プライマー)の組み合わせによって得られた増幅断片が最も大きく、約800bpであった。一方N1〜4(5’プライマー)と32.5−1〜32.5−3(3’プライマー)の組み合わせによって得られた増幅断片は約550bpであった。本実施例ではN2(5’プライマー)と34.5−2(3’プライマー)の組み合わせによって得られた約800bpの断片についてDNA塩基配列決定を行った。まず、この約800bpのPCR増幅産物を、pGEM−TEasyベクター(Promega, Madison, WI)中にライゲーションした。この組換えベクターを用いてヒートショック法により、大腸菌DH5α(TOYOBO, Osaka, JAPAN)を形質転換した。この形質転換体を適宜培養して得た培養物から、組換えベクターをプラスミド精製キット(MOBIO, Solana Beach, CA)により精製した。
【0096】
DNA配列決定には、解析用ソフトウェアSequencing analysis v.3.4. (AppliedBiosystems)を組み込んだABI PRISM(R) 377 DNAシーケンサー、及びABIキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い、製造業者の提供するプロトコールに従って上記組換えベクターをサンプルとして用いて常法により行った。
【0097】
zhd101の5’端及び3’端のDNA領域の塩基配列を決定するために、SMART RACE cDNA増幅キット(Clontech, Palo Alto, CA)を用いてRACE(cDNA末端高速増幅;rapid amplification of cDNA ends)を実施した。手順は全て、製造業者の提供するプロトコールに従って実施した。本実施例では、5’−RACE PCR反応及び3’−RACE PCR反応において、以下のプライマーを設計し、化学合成して用いた。
プライマー1:5’−GGG CTT CCC ACG CAG AGC CTC CAG ATC CTT AAC−3’(5’−RACEの第1PCR用)(配列番号15)
プライマー2:5’−CTC CGA GCC TCC AGA CAC GTC GTT CAA CAT TAC−3’(5’−RACEのネスティッドPCR用)(配列番号16)
プライマー3:5’−ACC GCT GTG CTC GAA GAC GAG GAA ATC TCA AAG−3’(3’−RACEの第1PCR用)(配列番号17)
プライマー4:5’−GTA ATG TTG AAC GAC GTG TCT GGA GGC TCG GAG−3’(3’−RACEのネスティッドPCR用)(配列番号18)
【0098】
増幅DNA断片については、上記と同様にしてDNA塩基配列決定を行った。このようにして得られたzhd101全体の塩基配列を配列番号1に示す。また配列番号1によってコードされる推定上のアミノ酸配列を配列番号2に示す。この配列番号2に示されるアミノ酸配列は、実施例3で決定された断片化されたZHD101ペプチドの部分アミノ酸配列と完全に一致した。配列番号2に示されるアミノ酸配列は264個のアミノ酸からなり、その分子量は28,751 Daと算出された。
【0099】
さらに、NCBIのインターネットサイトのBLASTPプログラムを利用して、タンパク質データベース(Swiss−Prot及びGenBank)に対する相同性検索を行った。この検索により、本発明のZHD101は新規なタンパク質であることが判明した。本発明者らはまた、保存ドメインデータベース(RPS−BLAST)に対して、可能性上の触媒部位の検索を行った。この結果、ZHD101は、4×e−11のE値(Ollis,ら (1992)Protein Eng. 5, 197−221)でα/β加水分解酵素フォールドとの間で高い相同性を有していた。
【0100】
[実施例5]組換えベクターの作製及び形質転換体の作製
zhd101のコード領域全体を含むDNA断片を得るために、5’プライマー(5’−GCC CAT ATG CGC ACT CGC AGC ACA ATC−3’(配列番号19);NdeI部位に下線を付した)及び3’プライマー(5’−TCG GAT CCG AGC TAT CGT GAG CAG TG−3’(配列番号20);BamHI部位に下線を付した)を使用し、実施例4の(1)で調製した全RNAを鋳型として、RT−PCR増幅を行った。RT−PCRには、Superscript First−Strand Synthesisシステム(Invitrogen, Groningen, The Nethrlands)を製造業者の説明書に従って用いて、cDNAを合成した。この増幅産物をpGEM−TEasyベクター中にライゲーションした。
【0101】
続いてそれらのプラスミドをNdeI及びBamHIによって消化し、アガロースゲル電気泳動による分離によってzhd101断片を得た。次にzhd101断片を、予めNdeI及びBamHIで消化し精製したpET12aベクター中に挿入した。このライゲーション産物をDH5α中へと形質転換し、そのコロニーをアンピシリン耐性により選択して形質転換体を得た。この形質転換体を適宜培養して得た培養物から、プラスミド精製キット(MO BIO, Solana Beach, CA)により精製した組換えベクターを、DNA塩基配列決定に供して、zhd101の塩基配列を確認した。これにより正しい塩基配列が確認されたzhd101を組み込んだプラスミド(pET12−zhd101)を用いて、DE3(TOYOBO)を形質転換し、アンピシリン耐性により形質転換体を選択した。該形質転換体から上記と同様にして組換え発現ベクターを得た。
【0102】
[実施例6]形質転換体を用いたゼアラレノン分解酵素の製造
実施例5で作製した組換え発現ベクターを含むDE3(TOYOBO)の形質転換体の単一コロニーをサイクルグロー培地(フナコシ社製)に接種し、OD600が0.6に達するまで37℃で数時間培養した。組換えタンパク質を誘導するために、1mM IPTGを添加し、細胞培養物を室温で一晩培養した。翌日、細胞をスピンダウンさせ、それらを超音波破砕処理した。そして、組換えZHD101がDE3で発現されることを、SDS−PAGEで確認した。その結果を図4に示す。
【0103】
図4には、12.5% SDS−PAGEゲルに次のサンプルを適用して得たSDS−PAGEの結果を示した。レーン1は野生型DE3のホモジェネートサンプルであり、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートサンプル(すなわち、粗組換えZHD101)であり、レーン3は形質転換体のホモジェネートの沈殿サンプルであり、レーン4は形質転換体のホモジェネートの可溶性分画であり、レーン5は実施例2で得たIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101である。図4に示される通り、形質転換体では野生型で発現の見られないタンパク質が発現しており(レーン1及び2)、形質転換体で発現している該タンパク質は培養上清にも分泌されており(レーン4)、さらに形質転換体で発現している該タンパク質はIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101と同等の分子量を有していること(レーン5)から、形質転換体ではZHD101と同じ該タンパク質を発現し分泌していることが示された。なおこのZHD101の分子量は、およそ30kDであった。
【0104】
また、形質転換体に由来する粗組換えZHD101について、加水分解活性をTLCで検出した。野生型DE3のホモジェネート、そしてpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネート10μlに、ゼアラレノンをそれぞれ添加してH20でフィルアップして各100μlとし(100mM Tris−HCl(pH 9.5))、37℃で4時間インキュベートした。この反応混合物を上記と同様にクロロホルムで抽出し、TLCプレート(シリカゲル 60 F254)に適用した。その結果を図5に示した。
【0105】
図5は、レーン1には野生型DE3のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン2にはpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン3にはゼアラレノン標準物を適用したTLCの結果を示す。TLCは、反応処理液からクロロホルムによる抽出を行い、抽出物の一部を採取し、TLCプレート(Merck,シリカゲル 60 F254)にチャージし、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20(体積比)を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。この図5の結果は、図1の結果と同様であった。従って組換えZHD101は、IFO7063株から直接単離したZHD101と同じ、ゼアラレノン分解活性を有することを確認することができた。
【0106】
なお、このZHD101の至適pHは、アルカリ側に偏っていることが分かった。すなわち、上記のZHD101の加水分解活性の分析においてゼアラレノンを添加した後の酵素反応条件は高アルカリ性のpH 9.5であるが、ZHD101は酵素活性を十分発揮していた。このようにZHD101の至適活性はpH 9〜10.5であるが、pH 7.0でもある程度の活性が示された。ZHD101はまた、pH 4.5を下回るような低pHにおいては不可逆的に失活することが分かった。この不可逆的な失活は、次のような実験により確認された。まず、1Mのリン酸バッファーを1/10量添加したZHD101含有硫安画分をpH 4.5及びpH 5.5に調整し、それらを30分間氷上に置いた。これらのサンプルを、それぞれクロマトチャンバー内ですみやかに10mM Tris−HCl(pH 7.5)に対して透析し、続いてゼアラレノンに対するin vitro加水分解試験(pH 9.5)に供してTLCにて分析したところ、pH 5.5に調整したサンプルはゼアラレノン分解活性を示すが、pH 4.5に調整したサンプルはゼアラレノン分解活性を示さないことが分かった。つまり、pH 4.5の条件下に置かれたZHD101は、その後に至適pH下にて反応させてもその酵素活性を示さないことから、pH 4.5の条件下で不可逆的に失活されることが判明した。
【0107】
[実施例7]ゼアラレノン分解酵素によるゼアラレノン誘導体の分解
ゼアラレノン誘導体であるα,β−ゼアラレノール(α,β−zeararenol;α−ゼアラレノール又はβ−ゼアラレノールを表す)を、ZHD101(上記IFO7063株に由来する硫安分画40〜60%のタンパク質を10mM Tris−HCl (pH 7.5)で透析したもの)にそれぞれ添加して37℃で一晩インキュベートした(100mM Tris−HCl(pH 9.5),総容量100μl)。その反応液をクロロホルムで抽出し、上記と同様にTLCをおこなった(図6)。対照としてα,β−ゼアラレノールの標準物(図6のレーン3及び6)、及び陰性対照としてバッファーにα,β−ゼアラレノールを添加してインキュベートしたもの(図6のレーン2及び5)を用いた。その結果、ZHD101処理により、対照及び陰性対照に見られるα,β−ゼアラレノールのスポットは、UV(254nm)下では完全に喪失し、分解産物を検出することができなかった(図6のレーン1及び4)。この結果より、分解物は、UV下でTLCプレート上に検出されなかったか、水溶性が高くてクロロホルムで抽出不可能であったことが推察できる。基質が完全になくなっていることから、ゼアラレノン誘導体であるα,β−ゼアラレノールについても、ZHD101はおそらく分解を引き起こしたと考えられた。
【0108】
[実施例8]ゼアラレノン分解酵素によりゼアラレノンから生成される分解産物の単離及び特性解析
ZHD101を用いた上記の加水分解試験によって得られたゼアラレノン分解産物の粗抽出物をTLCに供し、プレコートシリカゲル60 F254プレート(0.25 mm厚、20×20 cm、Merck)を用いて、展開液としてクロロホルム:アセトン 80:20 (体積比)を用いて展開した。該TLCプレートのスポットは、UV(254 nm)下で検出した。
【0109】
これによって精製された分解産物を、NMR分析にかけた。NMRスペクトルは、JEOL ECP−500分光器により、アセトン−d6において13C NMRを125 MHzで、1H NMRを500 MHzで測定した。
【0110】
29.8 ppmでのアセトン−d6及び2.04 ppmでのアセトン−d5を、それぞれ13C及び1H NMRの内部標準として用いた。化学シフトはδ値で記録した。13C NMRシグナルの多重度はDEPTで決定した。2D NMRスペクトル(PFG−DQFCOSY、PFG−HMQC及びPFG−HMBC)はJEOL ECP−500にて、JEOL標準パルスシークエンスにより測定し、収集したデータはJEOL標準ソフトウェアで処理した。FAB−MSスペクトルはJEOL JMSHX−110質量分析計でグリセロールマトリックスを用いて、またEI−MSスペクトルはJMS−SX102質量分析計で、それぞれ測定した。
【0111】
以下はFAB−MSスペクトル、EI−MSスペクトル及びNMRスペクトルの測定結果である。
FAB−MS (m/z: positive): 293 (M+H)+
EI−MS: 292 (M+, 8%), 274 (M+−H2O, 24%), 162 (100%), 161 (86%), 112 (30%).
1H−NMR (500 MHz,アセトン−d6,δ ppm); 8.12 (2H, br s, 2−OH及び 4−OH), 6.38 (2H, d, 2.0 Hz, H−1及び H−5), 6.25 (1H, d, 16.5 Hz, H−1’), 6.13 (1H, ddd, 6.8, 7.1, 16.5 Hz, H−2’), 6.03 (1H, d, 2.0 Hz, H−3), 3.69 (1H, m, H−10’), 3.41 (1H, br d, 3.8 Hz, 10’−OH), 2.48 (2H, t, 7.2 Hz, H−5’), 2.43 (2H, t, 7.1 Hz, H−7’), 2.17 (2H, m, H−3’), 1.70 (2H, m, H−4’), 1.58 (2H, m, H−8’), 1.37 (2H, m, H−9’), 1.10 (3H, d, 6.2 Hz, H−11’).
13C−NMR (125 MHz,アセトン−d6,δ ppm); 210.47 (s, C−6’), 159.49 (s, C−2and C−4), 140.73 (s, C−6), 131.53 (d, C−1’), 130.56 (d, C−2’), 105.49 (d, C−1及び C−5), 102.42 (d, C−3), 67.34 (d, C−10’), 43.11 (t, C−7’), 42.15 (t, C−5’), 39.65 (t, C−9’), 33.00 (t, C−3’), 24.09 (t, C−4’), 24.03 (q, C−11’), 20.93 (t, C−8’)。
【0112】
上記の質量分析法(FAB−MS及びEI−MS)並びにNMRスペクトルにより、上記のゼアラレノン分解産物の分子式をC17H24O4と決定した。1H NMRスペクトルにおいてゼアラレノンと比較した場合に特徴的なピークであるδ 6.38 (d)、3.69 (m)及び 3.41 (br d)は、C−10’、C−1及び 10’−OHに割り当てられる。このことは、ゼアラレノンにおけるエステル結合が加水分解され、続いて脱炭酸されたことを意味する。C’−1における幾何構造は、高い結合定数(J=16.5 Hz)に基づいてEコンホメーションと決定した。13C NMRスペクトルによって、1個のケトン、3個のsp24価炭素原子、1個のsp2メチン炭素原子及び1個のメチル炭素を含む17個の炭素原子が、上記のゼアラレノン分解産物に存在することが確認された。PFG−DQFCOSY及び PFG−HMQCのデータから、それぞれプロトンスピンネットワーク及び全ての一重結合性1H−13Cの結合を確認した。PFG−HMBCスペクトルにおいて観察される長距離結合は、上記のゼアラレノン分解産物において、ケトン基(δ 210.47)がC−6’に位置すること、及びゼアラレノンの開環及びC−12’でのカルボキシル基の欠失が生ずることを示している。このことは、C−1 (d,δ 105.49)及び C−10’ (d,δ 67.34)における化学シフト及び多重性によっても支持された。以上の解析に基づき、上記のゼアラレノン分解産物の全体構造は、1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ヒドロキシ−1−ウンデセン−6’−オンと決定された。この化学構造は図7に示した。この分析結果より、本発明のゼアラレノン分解酵素ZHD101によってゼアラレノンが分解されてゼアラレノン分解産物が生成することが分かり、その反応を化学式によって記載した(図7)。
【0113】
[実施例9]ゼアラレノン分解産物のエストロゲン様活性
上記実施例に従って得られたゼアラレノン分解産物について、エストロゲン様活性の測定を行った。エストロゲン様活性は、ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用として測定した。
【0114】
まず、ヒト乳がん細胞MCF−7を、フェノールレッド、L−グルタミン(2 mM)、ペニシリン(50ユニット/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したRPMI−1640培地(SIGMA, St. Louis, MO)にて、5%CO2を含む加湿空気中で37℃で培養した。本実験に用いたFCSは、デキストラン処理チャコールで処理した。培養した上記細胞は、10%チャコール分解FCSを含有するフェノールレッド不含RPMI培地中、96ウェルプレートにて1ウェル当たり5×103細胞を接種した。これを37℃で20時間培養した後、培地を同種の培地に交換した。この培養物に、試験化合物とするゼアラレノン、ゼアラレノン分解産物、又は17β−エストラジオールを様々な濃度で添加し、さらに120時間培養した。次いで、次の発色反応により細胞数を評価した。発色反応としては、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウムの一ナトリウム塩である、WST−8TM(Nakalai Tesque, Kyoto)を培養物に添加し、培養細胞を37℃でさらに4時間培養した。各ウェルの吸光度(A450)を、Wallac 1420マルチラベルカウンター(Amersham Biosciences)によって測定した。本実施例では、既知のエストロゲンである17β−エストラジオール (0.1 nM)を対照として使用した。17β−エストラジオールを試験化合物として添加した場合、何も添加しない対照と比較して、細胞数が平均約250%増大する。本発明に係るゼアラレノン(化学式:図7)は、17β−エストラジオールと同程度の細胞数を示すことから、17β−エストラジオールと同程度の細胞増殖促進作用すなわちエストロゲン様活性を有する。一方、本発明のゼアラレノン分解産物(化学式:図7)は、ゼアラレノンの1000倍高い濃度であっても、細胞数をほとんど増加させず、細胞増殖促進作用はみられなかった(図8)。すなわち、本発明のゼアラレノン分解産物は、エストロゲン様活性を示さない。従って、本発明のゼアラレノン分解酵素ZHD101は、ゼアラレノンを分解して、エストロゲン様活性を示さない分解産物とすることにより、ゼアラレノンのエストロゲン様活性を喪失させ、すなわちゼアラレノンの毒性を抑制することができることが示された。
【0115】
[実施例10]zhd101遺伝子導入用ベクターの構築
zhd101のDNA配列(配列番号1)に基づき、GFP−zhd−5’プライマー(5’−ATG CGC ACT CGC AGC ACA ATC TCG−3’(配列番号21))及びGFP−zhd−3’プライマー(5’−TGT ACC GTT CAA AGA TGC TTC TGC−3’(配列番号22))を設計して、化学合成した。これらのプライマーとVentポリメラーゼ(New England Biolabs)とを使用し、実施例5で作製した、pGEM−TEasyベクター(Promega, Madison, WI)中にzhd101を組み込んだ組換えプラスミドを鋳型として用いるPCR増幅を行って、zhd101遺伝子全体を含むDNA断片を作製した。ここで用いたPCR条件は以下の通りである:94℃で30秒、57℃で1分、72℃で1分を1サイクルとして30サイクル。またこれとは別に、pEGFP(Clontech)のBsrG I−Not I間に合成リンカー(5’−GTA CAG GCC CGG GCC GC−3’(配列番号23)、5’−GGC CGC GGC CCG GGC GT−3’(配列番号24))を挿入し、pEGFP−Srf Iを作成しておいた。得られたPCR産物は、egfp遺伝子の下流に組み込むためにpEGFP−SrfIベクターのSrf Iサイトへライゲーションして、pEGFP−zhd101クローンを作製した。さらに、pEGFP−zhd101クローンから切り出したNco I−Not I断片(本明細書では「egfp::zhd101」と呼ぶ)を、Act Iプロモーターを含むpWheatベクター(pDM302(Genes. Genet. Syst., 72, 63−69, 1997)のPst I−Sma I間をTri101(J. Biol. Chem., 273, 1654−1661, 1998)で置き換え、Hind III−BstXI間を削除しNco Iサイトを作出したベクター)のNco I−Not I部位中にライゲーションして、遺伝子導入用組換えベクターであるpWheat−egfp::zhd101を構築した。図9にベクター構築工程の概略図を示した。
【0116】
[実施例11]パーティクルガンを用いた穀類へのegfp::zhd101遺伝子の導入
実施例10で得た組換えベクターpWheat−egfp::zhd101を、選抜マーカーのビアラフォス耐性遺伝子barと共に、以下のような手順によってモデル単子葉植物イネの完熟胚由来カルスに導入した。
【0117】
イネ完熟種子胚(完熟胚とも称する)は40 %次亜塩素酸で滅菌・洗浄後、70 ppmカナマイシン、70 ppmセフォタキシム及び2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS培地(カルス誘導培地)(LS培地: LINSMAIER SKOOG Medium 1, Invitrogen)に移植し、6〜7日間培養してカルスを誘導した。カルスを2 ppm 2,4−D及び0.4 Mマンニトールを含むLS培地におき、パーティクルガンを用いて、それぞれ金粒子へコーティングしたpWheat−egfp::zhd101及びbar遺伝子を導入した。遺伝子導入を行ったカルスは翌日、2 ppm 2,4−D及び5 ppmビアラフォス含有LS培地(選抜培地)に移植し、その後2週間ごとに新鮮な選抜培地に継代した。そして、蛍光顕微鏡下で、GFP(緑色蛍光タンパク質)により蛍光を呈し、選択的に増殖してきたカルスを、egfp::zhd101遺伝子が導入された形質転換体として判断した(図10)。約2.5〜3ヶ月増殖させた後、増殖した選抜カルスを1 mg/ml NAA(α−ナフタリン酢酸ナトリウム)、2 mg/ml BA(ベンジルアデニン)及び30 g/lソルビトールを含むLS培地(再分化培地)に移植した。再分化植物を5 ppmビアラフォス含有LS培地(選抜発根培地)に移植した2〜3週間後馴化し、再生体を得た(図11)。
【0118】
[実施例12]形質転換イネにおけるEGFP::ZHD101の発現
egfp::zhd101遺伝子を導入して得られたイネ再生体においてEGFP::ZHD101タンパク質が発現しているかを、ウェスタンブロット分析で試験した。
【0119】
再生体の葉0.1 gを液体窒素中で粉砕し、抽出バッファー100μlを加えよく混和した。これを遠心分離(15,000 rpm、5 min)して上清を回収し、粗タンパク質とした。得られた粗タンパク質を1レーン当たり20μg、10 %SDS−ポリアクリルアミドゲルに適用し電気泳動した。泳動後、PVDF膜に転写し抗gfp抗体によりGFP::ZHD101融合タンパク質を検出した。その結果を図12に示した。レーン1は野生型イネ葉より抽出したサンプル、レーン2は再生体No 14、レーン3は再生体No 54、レーン4は再生体No 68、レーン5は再生体No 71、レーン6は再生体No 76、レーン7は再生体No 79、レーン8は再生体No 79、レーン9は組み換えEGFP::ZHD101である。再生体No 14、No 54、No 68,No 76及びNo 79において、野生型では見られないタンパク質が検出された。またこのタンパク質は、組み換えEGFP::ZHD101と同じ分子量であった。これらの結果から、再生体5個体(No 14、No 54、No 68,No 76及びNo 79)でEGFP::ZHD101タンパク質が発現していることが示された。
【0120】
[実施例13]egfp::zhd101を導入した懸濁培養細胞によるゼアラレノン分解
イネのegfp::zhd101導入懸濁培養細胞を用いて、以下の手順でゼアラレノン分解試験をおこなった。
【0121】
egfp::zhd101導入懸濁培養細胞は、実施例11で作製したegfp::zhd101が導入されたカルスを、2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS液体培地に移植することにより調製した。また、イネの野生型懸濁培養細胞も同様に、2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS液体培地に野生型カルスを移植することにより、調製した。次いで、このようにして調製したegfp::zhd101導入懸濁培養細胞と野生型懸濁培養細胞のそれぞれについて、約50 mgの懸濁培養細胞を、ゼアラレノンを750μg添加した50 ppmゼアラレノン含有LS培地15 ml中に加え、26℃で振とう培養した。
【0122】
培養開始から3日後、上記のそれぞれの培地からゼアラレノンを含む抽出物をクロロホルムで抽出し、その培地抽出物をTLCプレートにのせてクロロホルム:アセトン(80:20)で展開し、UV下で検出を行った。また、ゼアラレノン含有LS培地及びゼアラレノン非含有LS培地のそれぞれから同様に抽出した抽出物を対照として用いた。このTLC分析の結果を、図13に示す。レーン1はゼアラレノン標準物、レーン2はegfp::zhd101導入細胞を培養したゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン3は野生型細胞を培養したゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン4はゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン5はゼアラレノン非含有LS培地からの抽出物を示している。野生型細胞を培養した培地及びゼアラレノン含有LS培地からの抽出物においては、ゼアラレノン標準物の移動度と同じスポットが検出されたことから、培地中にゼアラレノンが残存することが示された。一方、egfp::zhd101導入細胞を培養した培地からの抽出物では、ゼアラレノンを示すスポットが消失しており、培地中のゼアラレノンが分解されたことが示唆された。
【0123】
そこで次に、残存するゼアラレノンの量を調べるため、培養開始から6日後のゼアラレノンの定量を行った。残存するゼアラレノン量は、培地中に存在する量と、細胞表面に付着している量及び細胞内に取り込まれた量との合計量と考えられるため、培地中のゼアラレノン量と細胞が含有するゼアラレノン量との両方について定量を行った。また、培地中のゼアラレノンが分解されていることを確認する目的で、培養開始から3日後の培地からの抽出物についてもゼアラレノンを定量した。さらに、対照として、培養開始から6日後の、細胞を含まないゼアラレノン含有LS培地からの抽出物についてもゼアラレノンを定量した。以上のゼアラレノンの定量には、RIDASCREEN FAST Zearalenon(R−Biophar)を使用説明書に従って使用した。
【0124】
このようにして定量された、培養開始から6日後のゼアラレノン量を表1に示す。
【表1】
【0125】
表1における残存ゼアラレノン量は、培地中のゼアラレノン量と細胞が含有するゼアラレノン量との合計値として算出した。egfp::zhd101導入細胞及び野生型細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量は、それぞれ6.41μg及び260.85μgであった。また、egfp::zhd101導入細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量は、培養開始時のゼアラレノン量750μgの約1/117であり、野生型細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量の約1/40であった。なお、ゼアラレノン含有LS培地中の残存ゼアラレノン量も52.5μgまで減少したが、これは6日間の培養でゼアラレノンが析出した結果であり、egfp::zhd101導入細胞及び野生型細胞の培養培地についてはこの析出現象は観察されなかった。
【0126】
さらに、上記結果に基づく培地中のゼアラレノン量の変化を、図14に示す。図14に示される通り、egfp::zhd101導入細胞の培養培地における培地中のゼアラレノン量は、培養開始時の750μg、培養開始から3日後の29.5μg、6日後の0.76μgというように経時的に減少した。従って、培地中のゼアラレノンが培養期間中に分解されたことが確認された。
【0127】
これらのデータから、egfp::zhd101遺伝子を導入した形質転換細胞が、培地中のゼアラレノンを強力に分解できることが示された。この結果は、egfp::zhd101を導入したトランスジェニックイネ植物体が、ゼアラレノンの分解能を持つことを示す。
【0128】
【発明の効果】
本発明のタンパク質を用いれば、ゼアラレノンの毒性を有利に抑制することができる。また本発明の遺伝子は、該タンパク質を発現させるために用いることができる。さらに、本発明の遺伝子を導入した形質転換体及びトランスジェニック植物は、周囲環境中に含まれるゼアラレノンを効率的に分解し解毒する目的で、有利に使用することができる。
【0129】
【配列表】
【0130】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3〜24は合成DNAである。
配列番号3〜14のnは、a、t、c又はgである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、IFO7063株由来の培養上清のゼアラレノンに対する加水分解活性を検出したTLCのデータを示す。レーン1、培養上清サンプル;レーン2、陰性対照;レーン3、ゼアラレノン標準サンプル。
【図2】図2は、リジルエンドペプチダーゼによりペプチド断片化したZHD101ののHPLCプロファイルを示す図である。
【図3】図3は、アミノ酸配列に基づきZHD101の部分DNA断片を増幅するためのPCRプライマーセットを示す。
【図4】図4は、大腸菌DE3中でT7転写/発現系により発現させた組換えZHD101のSDS−PAGEの結果である。レーン1は野生型DE3のホモジェネートサンプル、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートサンプル、レーン3は形質転換体のホモジェネートの沈殿サンプル、レーン4は形質転換体のホモジェネートの可溶性分画、レーン5はIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101、レーン6は分子量マーカーである。
【図5】図5は、組換え発現されたZHD101のTLCの結果を示す。レーン1は野生型DE3のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン3はゼアラレノン標準物である。
【図6】図6は、ZHD101のα−ゼアラレール、β−ゼアラレールに対する加水分解活性を検出したTLCのデータを示す。レーン1、ZHD101処理α−ゼアラレールサンプル;レーン2、α−ゼアラレールに対する陰性対照;レーン3、α−ゼアラレール標準物、レーン4、ZHD101処理β−ゼアラレールサンプル;レーン5、β−ゼアラレールに対する陰性対照;レーン6、β−ゼアラレール標準物。
【図7】図7は、ゼアラレノンがゼアラレノン分解酵素ZHD101によって分解されてゼアラレノン分解産物が生成することを化学式を用いて示している。
【図8】図8は、ゼアラレノン及びゼアラレノン分解産物のヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用を示す。添加したゼアラレノン(●)又はゼアラレノン分解産物(■)の濃度に対する、37℃で120時間のインキュベート後の細胞数を示している。結果は平均値±S.D.で示す。
【図9】図9は、zhd101遺伝子導入用ベクターpWheat−egfp::zhd101の構築工程を示す概略図である。
【図10】図10は、egfp::zhd101遺伝子が導入された形質転換体(トランスジェニックカルス)の蛍光顕微鏡下での観察写真である。
【図11】図11は、egfp::zhd101遺伝子を導入したイネ再生体の写真である。
【図12】図12は、egfp::zhd101遺伝子を導入したトランスジェニック個体のウェスタンブロット分析の結果を示す写真である。最も左側は分子量マーカー、レーン1は野生型イネ葉より抽出したサンプル、レーン2は再生体No 14、レーン3は再生体No 54、レーン4は再生体No 68、レーン5は再生体No 71、レーン6は再生体No 76、レーン7は再生体No 79、レーン8は再生体No 79、レーン9は組み換えEGFP::ZHD101タンパク質の結果を示す。
【図13】図13は、egfp::zhd101遺伝子導入懸濁培養細胞を培養した培地からの抽出物のTLC分析の結果を示す写真である。レーン1はゼアラレノン標準物、レーン2は遺伝子導入細胞を培養したゼアラレノン含有培養培地からの抽出物、レーン3は野生型細胞を培養したゼアラレノン含有培養培地からの抽出物、レーン4はゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン5はLS培地のみからの抽出物の結果を示す。
【図14】図14は、培養期間における培地中のゼアラレノン量の変化を示すグラフである。グラフ中、「◆」「◇」「×」は、egfp::zhd101導入懸濁培養細胞の培養培地についてのゼアラレノン量、「●」「□」「■」は、野生型懸濁培養細胞の培養培地についてのゼアラレノン量、▲は、細胞不含のゼアラレノン含有培地のゼアラレノン量を示す。◆及び●は培地中のゼアラレノン量、◇及び□は細胞が含有するゼアラレノン量、×及び■は残存ゼアラレノン量を表す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイコトキシン汚染植物の浄化を行い得るタンパク質及びそれをコードする遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
食糧の安定供給と環境保全は、今後の植物科学研究に課せられた重要な研究課題となっている。これに対し、近年では、組換え技術を用いて除草剤耐性や害虫耐性等の有用な形質を付与した様々な種類の組換え作物が作出されている。
【0003】
植物の病気として、植物病原糸状菌(カビ)が感染することにより植物体が損傷され、収穫の大きな損失をも引き起こす、ムギ類赤かび病が知られている。赤かび病は、近年の温暖で湿潤な気候の変動によってその感染が広がっている。特に1990年代に入り、世界各地で大流行したムギ類赤かび病は、先進的集約農業の行われている北米においてさえ壊滅的打撃を免れることのできなかった難防除病害となった。このため、欧米では昨今、赤かび病が大きな問題として取り上げられ、国家規模での対策が講じられつつある。地球規模で安定した安全な食料供給を確保するためには、今後、赤かび病の脅威から重要穀物であるコムギを守ることは重要な問題である。
【0004】
赤かび病は、フザリウム属(Fusarium)菌というカビによって引き起こされる植物の病気であり、ムギ類、トウモロコシ、イネなどのイネ科植物に感染する。赤かび病菌としては、これまでにフザリウム グラミネアルム(Fusarium graminearum)をはじめ17種以上のフザリウム属(Fusarium)菌が単離、報告されている(非特許文献1)。植物が赤かび病に侵されると、子実の収量、品質が大きく低下することにより経済的打撃を被ることに加え、穀粒中にマイコトキシン毒素が蓄積することから食品衛生上の問題も引き起こされる。このように赤かび病は食糧供給にとって二重の脅威をもたらすものである。
【0005】
赤かび病菌の防除には、テブコナゾール等の農薬が使われるが、耐性菌の出現の可能性、手間とコストがかさむこと、散布時期のタイミングの難しさ、農薬の残留性特性などからあまり実用的ではない。そこで、赤かび病の抵抗性品種の育成に力が注がれてきた(非特許文献2)。商業品種に赤かび病抵抗性の形質を入れるためには、まず抵抗性を示す適当な野生種を見つけ出し、抵抗性の好ましい形質だけを商業品種に導入するために戻し交雑をくり返し、抵抗性でかつ収量と品質も保たれた子孫を選抜していくという育種が行われる。しかしこの古典的な方法には多くの時間がかかり、また抵抗性を打破する菌が出現するなどの問題も生じていた(非特許文献2)。
【0006】
また、赤かび病菌の感染によって、マイコトキシンのトリコテセン系毒素が穀粒中に蓄積されることが知られている。トリコテセン系毒素は、タンパク合成阻害剤でもあり、菌が感染する際に病原性因子として感染力を増強する。トリコテセン系毒素の毒性を妨げる方法として、トリコテセン系毒素のタンパク質合成阻害活性をブロックする遺伝子(特許文献1)及びトリコテセン系毒素を細胞外に排出するポンプ作用性遺伝子(非特許文献3)が報告されている。しかしながらこのトリコテセン系毒素自体を不活化し得る遺伝子は未だ見つかっていない。
【0007】
同様に、赤かび病菌の感染により、ゼアラレノンが、トウモロコシ、コムギ等の穀物作物の穀粒中に蓄積されることが知られている(非特許文献4)。ゼアラレノン[6−(10−ヒドロキシ−6−オキソ−トランス−1−ウンデセニル)−β−レゾルシル酸ラクトン]は、赤かび病菌であるフザリウム属菌によって生産されるエストロゲン様活性を有するマイコトキシンである。フザリウム属菌が植物に感染すると、収穫前又は収穫後の穀物作物の穀粒中にゼアラレノンが生産され蓄積される(非特許文献4)。ゼアラレノンは、エストロゲン様活性を有し、それを摂取した人間や家畜に中毒症状や生殖障害を引き起こし得る環境ホルモン物質である(非特許文献5)。ゼアラレノン及びその代謝産物については、ヒトのエストロゲン受容体に結合すること(非特許文献6)及びin vitroでヒト乳がん細胞系MCF−7の増殖を促進すること(非特許文献7)が報告されている。
【0008】
赤かび病からの植物の保護においては、このような穀物のゼアラレノン汚染の問題を解決することは非常に重要である。しかしながら、ゼアラレノンの有効な解毒処理については、化学的手法、酵素的手法等のいずれにおいても有効な方法が未だ報告されていない。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−32985号公報
【非特許文献1】
J. ChelRowsky編,「フザリウム属菌のマイコトキシン、分類及び病原性(Fusarium Mycotoxins, Taxonomy and Pathogenicity)」,Elsevier Science Ltd.,1989年発行,p.1−39
【非特許文献2】
監修:山田哲治 島本功 渡辺雄一郎,「分子レベルからみた植物の耐病性」,秀潤社,1997年発行,p.90−97
【非特許文献3】
Alexander, NJ著,”Molecular & general genetics”,(1999),261,p.977−984
【非特許文献4】
Pittet, A.著,”Revue Medicine Veterinaire”,フランス,Ecole
Nationale Veterinaire de Toulouse,(1998),149, p.479−492
【非特許文献5】
Etienne, M and Jammali, M.著,(1982),”Journal of animal science”,55,p.1−10
【非特許文献6】
Miksicek, R.J.著,”The Journal of steroid biochemistry and molecular biology”,(1994),49,p.13−160
【非特許文献7】
Makela, S., et al.著,”Environmental Health Perspectives”,(1994),102,p.572−578
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、赤かび病菌の感染により植物体内に蓄積されるゼアラレノンを解毒するタンパク質をコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ゼアラレノンを分解する活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードする遺伝子を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質
ここで[1]におけるタンパク質は、ゼアラレノン類がエストロゲン様活性を有する化合物であることを特徴とするものであり得る。ゼアラレノン類は、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。また[1]のタンパク質は、毒性を抑制する作用が分解作用であることを特徴とするものであり得る。毒性を抑制する作用は、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであってもよい。さらに[1]のタンパク質は、pH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するものであり得る。
【0013】
[2] 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質
【0014】
[3] 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA
【0015】
[4] 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA
ここで、[2]〜[4]における遺伝子は、ゼアラレノン類がエストロゲン様活性を有する化合物であることを特徴とするものであり得る。ゼアラレノン類は、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。また[2]〜[4]における遺伝子は、毒性を抑制する作用が分解作用であることを特徴とするものであり得る。毒性を抑制する作用は、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであってよい。
【0016】
[5] [2]〜[4]の遺伝子を含む組換えベクター。
【0017】
[6] [5]の組換えベクターを含む形質転換体。
ここで、上記形質転換体は、大腸菌、酵母細胞及びイネ科植物細胞からなる群より選択される細胞に組換えベクターが導入されたものであり得る。
【0018】
[7] [6]の形質転換体を培養し、得られる培養物からゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
【0019】
[8] [6]の形質転換体を含有する解毒剤。
【0020】
[9] [1]のタンパク質を含有する解毒剤。
【0021】
[10] ゼアラレノン類に[8]又は[9]の解毒剤を適用することを特徴とする、ゼアラレノン類の解毒方法。
【0022】
[11] [2]〜[4]の遺伝子を含むトランスジェニック植物。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
コムギ(Triticum aestivum L.)の赤かび病に対する抵抗性は、大きく分けて以下のタイプI〜IVの4種類に分類されている:
〔1〕タイプI:菌の侵入に対する抵抗性(開花特性、穂の形状等による)
〔2〕タイプII:侵入後の菌の進展(菌糸の伸長)に対する抵抗性
〔3〕タイプIII:穀粒の部分で発揮される抵抗性(種子に対するカビによる損傷の低減)
〔4〕タイプIV:マイコトキシン蓄積量の低減に基づく抵抗性。
【0024】
これらの抵抗性は、それぞれが異なった多くの遺伝子に支配されていると考えられている。そこで、赤かび病抵抗性に関わる遺伝子の機能を人為的に調節することができれば、植物に赤かび病に対する抵抗性を付与することができると考えられた。
【0025】
特に、タイプIVの抵抗性、すなわち感染植物のマイコトキシン蓄積量の低減に基づく抵抗性に関わる遺伝子は、植物個体を赤かび病から保護する上で有用であるだけでなく、該植物から生産される穀粒についての食品としての安全性を確保する上でも非常に有用であると考えられる。すなわち、フザリウム属(Fusarium)菌の感染により穀粒中に蓄積されるマイコトキシン、例えばゼアラレノンを解毒することができる酵素をコードする遺伝子を単離・同定することができれば、赤かび病からの植物の保護において、非常に有用であろうと考えられた。本発明は、このような着想に基づいて完成されたものである。
【0026】
本発明におけるゼアラレノンは、基本的に図7に示す化学式のものを指す。しかし、本発明におけるゼアラレノン解毒酵素は、図7に示す化学式のゼアラレノンそのもの以外の、その他のゼアラレノン類を基質とすることもできる。すなわち、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、ゼアラレノン類を基質とした酵素反応により、該ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を示すタンパク質である。ゼアラレノン解毒酵素が基質とし得るゼアラレノン類としては、ゼアラレノンの他に、ゼアラレノン類縁体が含まれる。ゼアラレノン類縁体とは、14個の炭素からなるラクトン環を有するゼララレノン骨格をもつ化合物を意味し、例えばα−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノール等が挙げられる。ゼアラレノン解毒酵素が基質とし得るゼアラレノン類は、エストロゲン様活性を有する化合物であることが好ましい。以下、上記ゼアラレノン類を便宜上「ゼアラレノン」と称して説明する。
【0027】
本発明において、「ゼアラレノン類の毒性」又は「ゼアラレノンの毒性」とは、ゼアラレノンが蓄積されることにより植物個体にもたらされる毒性、例えば細胞毒性、さらに、ゼアラレノンを摂取することによりヒト及び家畜を含む哺乳動物にもたらされる毒性、例えば環境ホルモン活性に基づく毒性、特にエストロゲン様活性に基づく毒性、より具体的には、例えば雌性生殖器の肥大化、乳腺の増大、死流産、胚発生阻害、胎子数の減少、繁殖障害、腔脱、直腸脱、催奇性、発ガン性等を意味する。本発明において「ゼアラレノン(類)の毒性を抑制する」とは、ゼアラレノンの作用により示される上記毒性の程度が軽減されること、好ましくは、上記毒性が検出不能になるか又は失われることを意味する。なお本発明における「解毒」とは「ゼアラレノンの毒性を抑制する」ことと同じ意味である。「ゼアラレノン(類)の毒性を抑制する作用」は、ゼアラレノン自体の化学構造を変化させることによりその毒性を上記のように抑制する作用を意味する。ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、具体的には、ゼアラレノンを分解又は切断することによるものであってよいし、ゼアラレノンに化学的な修飾を施すことによるものであってもよい。特に、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、ゼアラレノンを基質としてエストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものであり得る。本発明において、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用は、好ましくはエストロゲン様活性を低下させる作用として測定されるものである。本発明における「エストロゲン様活性」とは、エストロゲン受容体に結合し、かつin vitroでヒト乳がん細胞系MCF−7の増殖を促進することを意味する。このエストロゲン様活性は、例えば本明細書の実施例9に記載したような試験によって容易に測定することが可能である。
【0028】
1.ゼアラレノン解毒酵素の単離
本発明では、分譲機関から入手できる多種多様な菌株に対し、ゼアラレノンを解毒する能力についてスクリーニングを行って、ゼアラレノン解毒酵素を保持する菌株を単離した。このスクリーニング対象とする細胞は、動物細胞、植物細胞、真菌細胞及び細菌細胞のいずれでもよいが、好ましくは真菌細胞である。分譲機関からの細胞株(例えば真菌株)の入手は、各分譲機関のカタログ番号に基づいて、当業者であれば容易に行うことができる。分譲機関としては、AKU(Faculty of Agriculture,Kyoto University,Kyoto,Japan)、ATCC(American Type Culture Collection Rockville,U.S.A)、HUT(Faculty of Engineering,Hiroshima University,Hiroshima,Japan)、IAM(Institute of Applied Microbiology,University of Tokyo,Japan)、IFO(Institute for Fermentation,Osaka,Japan)、JCM(Japan Collection of Microorganisms,RIKEN)等がある。また、分譲機関から入手できる各細胞株には培養条件等の情報が提供されており、それを参照することにより、当業者であれば該細胞株を容易に培養することができる。
【0029】
ゼアラレノンを解毒する能力についてスクリーニングを行うために、限定するものではないが、例えば以下のような方法を用いることができる。入手した細胞を、各株毎に、ゼアラレノンを添加した培地(真菌では例えばYG培地)中で当業者に公知の培養方法に従って培養する。次いで培養物を、例えばクロロホルムで抽出する。例えば、ゼアラレノン解毒作用として、ゼアラレノン分解能に関するスクリーニングを行う場合には、抽出物を以下のような薄層クロマトグラフィー(TLC)分析に供すればよい。そのTLC分析において、ゼアラレノン標準物と同程度の移動度のスポットが現れず、かつゼアラレノンと明らかに移動度の異なるスポットが現れるような菌株を、ゼアラレノンを解毒する能力を有する細胞(例えば菌株)の候補として選択することができる。
【0030】
続いて、上記の通り選択された細胞から、ゼアラレノン解毒酵素の抽出及び精製を行う。細胞からの該酵素の抽出及び精製は、当業者には公知の任意の技術を用いて行うことができるが、例えば以下のようにカラム溶出分離とTLCによる分析とによって行ってもよい。
【0031】
まず、当該細胞株を、ゼアラレノンを添加した培地(真菌では例えばYG培地)中で当業者に公知の培養方法に従って培養する。次いで培養細胞を回収し、該細胞を液体窒素等で破砕し、細胞破片を遠心分離によってスピンダウンさせて、上清を取得する。この上清を硫安分画し、得たタンパク質溶液を透析にかけて粗酵素液を得ることができる。この粗酵素液を、例えばHiTrapQカラム(Pharmacia)に適用して溶出させて分離し、さらなる精製を行うことができる。
【0032】
得られた溶出分画は、それぞれin vitroでのゼアラレノンに対する酵素反応試験に供し、その後TLCにてゼアラレノンに対する酵素反応活性を有するかどうかについて調べることができる。
【0033】
例えばin vitroでのゼアラレノン分解反応試験においては、それぞれの溶出分画にゼアラレノンを添加し、37℃でインキュベートする。次いで、その各サンプルからゼアラレノン及び/又はその分解産物を抽出し、TLCにかける。ゼアラレノン分解酵素を含む画分では、TLC上に、ゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットが検出される。なお、ゼアラレノン解毒酵素が、分解とは異なる様式でゼアラレノンの分子構造を変化させる酵素である場合にも、同様に、そのような酵素を含む溶出分画を用いて得たサンプルについて、ゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットが検出される。
【0034】
この移動度の指標としては、一般にRf値が用いられる。Rf値とは、試料を最初に塗布した展開原点から試料の発色スポットの中心までの距離(化合物の平均移動距離)を、展開原点から展開液の展開先端までの距離(展開液の最大移動距離)で割った値として定義される。このRf値は、化合物と薄層クロマトグラフィーに塗布した吸着剤との親和性や、化合物の展開液への溶解性によって変化するが、一定の条件下では化合物の種類に固有の値を示すため、化合物の同定に有用である。
【0035】
このようにして同定された、ゼアラレノン添加の際にゼアラレノンとは明らかに異なる移動度のスポットを検出し得る溶出分画を、さらなる精製工程にかける。さらなる精製工程としては、ゲル濾過カラムを用いるFPLC分離、イオン交換カラムを用いるもの等が挙げられ、これらの様々なタンパク質精製工程を繰り返し行うことにより、所望のタンパク質を高純度で得ることができる。
【0036】
2.ゼアラレノン解毒酵素遺伝子の単離
上記1で得たゼアラレノン解毒酵素をコードする遺伝子を単離するために、本発明ではまず、例えばゼアラレノン解毒酵素の部分アミノ酸配列を決定する。
【0037】
アミノ酸配列決定のために、例えばリジルエンドペプチダーゼ(例えば、TAKARA, Kyoto, JAPAN)等のタンパク質分解酵素によって、精製したゼアラレノン解毒酵素をペプチド断片化する。その反応混合物を、HPLCによってペプチド断片毎に分離する。このようなHPLC操作は、通常は製造業者の説明書に従って行えばよい。次にHPLCにより分離されたペプチド断片、及び上記で精製したゼアラレノン解毒酵素そのものを、それぞれタンパク質シーケンサーにかけ、エドマン分解によるアミノ酸配列決定を行う。
【0038】
次いで、ゼアラレノン解毒酵素をコードするDNAをPCR増幅するためのプライマーを設計する。N末端のアミノ酸配列に基づく縮重した5’プライマーと、ペプチド断片より得られたアミノ酸配列に基づく縮重した3’プライマーとを、上記で決定した部分アミノ酸配列に基づいて設計する。プライマー設計の際に用いるペプチド断片は、上記のHPLCで分離されたいずれのものでもよいが、縮重パターンができるだけ少なくなるようなプライマー配列とすることが好ましい。
【0039】
PCR増幅をするために用いる鋳型としては、ゼアラレノンを解毒する能力を有する細胞由来のcDNAを用いる。このcDNAは、ゼアラレノン解毒能を有する細胞を培養し、その培養物から全RNA又はmRNAを常法により抽出し、さらにRT−PCRにより合成したものを用いることができる。そのようにして得たcDNAに対し上記のプライマーセットを用いてPCR増幅を行うことによって、ゼアラレノン解毒酵素をコードする遺伝子の部分DNA断片を得ることができる。PCR反応条件としては、例えば94℃(30秒)、55℃(30秒)及び72℃(1分)を30サイクル行えばよい。得られた増幅産物は、アガロースゲル電気泳動により、その増幅断片のサイズを確認する。
【0040】
さらに、以上のようにして得たPCR増幅産物のうち適当なものを、例えば最もサイズの大きいものを選択し、適当なベクター中にクローニングし、DNA配列決定に供する。DNA配列決定は、常法により行うことができるが、例えばABI PRISM(R) 377 DNAシーケンサー、及びABIキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い、製造業者の提供するプロトコールに従って行ってもよい。
【0041】
さらに、このゼアラレノン解毒酵素遺伝子の部分DNA断片の5’端及び3’端のDNA領域の塩基配列を決定するために、RACE(cDNA末端高速増幅法;rapid amplification of cDNA ends)を実施することができる。RACEにより増幅したDNA断片は、上記と同様にクローニングし、DNA配列決定に供する。
こうして、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子のコード領域全体の塩基配列を決定することができる。
【0042】
3.本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子
本発明の1つの実施形態として、上記1及び2の方法に従って単離され、配列決定されたゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列を有していた。また、配列番号1の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を、配列番号2に示す。この実施形態においては、配列番号1の塩基配列から推定されるアミノ酸配列とエドマン法により決定されたアミノ酸配列は一致していた。さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列を、公共データベース(Swiss−Prot及びGenBank)において検索したところ、相当する配列は見出されなかったことから、このゼアラレノン解毒酵素は新規なものであると判断された。
【0043】
さらに、このゼアラレノン解毒酵素遺伝子(配列番号1)は、その遺伝子産物(配列番号2)がゼアラレノンを分解してエストロゲン様活性を有しない分解産物を生成するゼアラレノン解毒酵素であることが確認された。その確認は、後述の7に示されるように、ヒト乳がん細胞MCF−7を用いた系で行った。
【0044】
したがって、本発明の1つの実施形態では、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAである。このDNAは、例えば、配列番号1に基づいて設計されるプライマーを用いて、上記で得たcDNAを鋳型としてPCR増幅し、そのDNA増幅断片を常法により抽出・精製することにより取得することができる。
【0045】
本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、より一般的には、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものである。
【0046】
本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、上記の配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに限定されるものではない。本発明の遺伝子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。さらに本発明の遺伝子は、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有する限り、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは数個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。
【0047】
また、配列番号1に示される塩基配列又はその一部に相補的な配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、上記ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものも本発明の遺伝子に含まれる。同様に、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA又はその一部に相補的な配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、上記ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするものも本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。例えば、相同性が高い核酸同士、すなわち90%以上、好ましくは95%以上の相同性を有するDNAであって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50℃〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらにハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、ナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃での条件である場合も、本発明における「ストリンジェントな条件」に含めることができる。
【0048】
一旦本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたcDNA、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてcDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーに対してハイブリダイズさせることによって、本発明の遺伝子を得ることができる。cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等が由来する生物は、特に限定されるものではないが、真菌類に属する生物であることが好ましい。
【0049】
さらに、部位特異的突然変異誘発法等によって、本発明の遺伝子の変異型であってゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。また部位特異的突然変異誘発法等により、本発明の遺伝子の変異型であって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有し、かつエストロゲン様活性を有しない分解産物を生成するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。さらに部位特異的突然変異誘発法等により、本発明の遺伝子の変異型であって、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有し、かつpH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を合成することもできる。
【0050】
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0051】
4.組換えベクターの作製
上記3に記載した本発明の遺伝子は、続く操作のために、ベクター中にクローニングして組換えベクターを作製することが好ましい。
【0052】
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、ファージ DNA等が挙げられる。
【0053】
プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0054】
ベクターにゼアラレノン解毒酵素遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0055】
ゼアラレノン解毒酵素遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるように、ベクターに組み込まれることが必要である。特に、本発明の組換えベクターは、宿主内で良好な活性を有するタンパク質として発現されるようにゼアラレノン解毒酵素遺伝子をベクターに組み込んだ、組換え発現ベクターとして作製することが好ましい。このために、本発明のベクターとしては、数多くの宿主生物に対応した市販の各種発現ベクターを用いることができる。それらの発現ベクターには、通常、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、分泌因子配列等の有用な配列が必要に応じて連結されている。組換え発現ベクターを用いて形質転換体を作製し、それを培養することによって組換えタンパク質を産生させる場合には、宿主生物に適合した分泌因子配列を含む発現ベクターを用いることにより、組換えタンパク質を培地中に分泌させることができる。この手法は、培養上清から直接組換えタンパク質を精製することができるため、有用である。さらに、この分泌因子配列は、培養上清への分泌後に、ベクターに組み込んだ遺伝子にコードされるタンパク質から、特定のプロテアーゼ等で特異的に切断して除去することができるものであってもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0056】
以上のようなベクターに、ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を、適切に発現されるような位置及び向きで連結する。
さらに、本発明の遺伝子は、相同組換え法により宿主生物ゲノムに直接導入することもできる。その場合には、本発明の遺伝子を組み込んだ適当なターゲティングベクターを作製する。このために使用可能なベクターとしては、例えばCre−loxP等の公知のジーンターゲティング用ベクターを用いることができる。本明細書においては、このような本発明の遺伝子を組み込んだターゲティングベクターも、本発明の組換えベクターに包含されるものとする。
【0057】
5.ゼアラレノン解毒酵素遺伝子の植物への導入
上記4に記載の通り作製した組換えベクターを植物に導入することにより、トランスジェニック植物を得ることができる。
【0058】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)又は植物培養細胞(例えばカルス)のいずれをも意味するものである。形質転換に用いられる植物としては、赤かび病菌であるフザリウム属菌の感染により植物体内にゼアラレノンの蓄積が見られる植物であることが好ましい。限定するものではないが、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入する植物としては、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライ麦、イネ等のイネ科植物が好ましい。形質転換に用いられる植物として、例えば以下のようなものが考えられる。
【0059】
ナス科:ナス(Solanum melongena L.)、トマト(Lycopersicon esculentum Mill)、ピーマン(Capsicum annuum L. var. angulosum Mill.)、トウガラシ(Capsicum annuum L.)、タバコ(Nicotiana tabacum L.)
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica campestris L.)、ハクサイ(Brassica pekinensis Rupr.)、キャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata L.)、ダイコン(Raphanus sativus L.)、ナタネ(Brassica campestris L., B. napus L.)
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum L.)、オオムギ(Hordeum vulgare L.)
マメ科:ダイズ(Glycine max)、アズキ(Vigna angularis Willd.)、インゲン(Phaseolus vulgaris L.)、ソラマメ(Vicia faba L.)
ウリ科:キュウリ(Cucumis sativus L.)、メロン(Cucumis melo L.)、スイカ(Citrullus vulgaris Schrad.)、カボチャ(C. moschata Duch., C. maxima Duch.)
ヒルガオ科:サツマイモ(Ipomoea batatas)
ユリ科:ネギ(Allium fistulosum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、ニラ(Allium tuberosum Rottl.)、ニンニク(Allium sativum L.)、アスパラガス(Asparagus officinalis L.)
シソ科:シソ(Perilla frutescens Britt. var. crispa)
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、シュンギク(Chrysanthemum coronarium L.)、レタス(Lactuca sativa L. var. capitata L.)
バラ科:バラ(Rose hybrida Hort.)、イチゴ(Fragaria x ananassa Duch.)
ミカン科:ミカン(Citras unshiu)、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC.)
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus globulus Labill)
ヤナギ科:ポプラ(Populas nigra L. var. italica Koehne)
アカザ科:ホウレンソウ(Spinacia oleracea L.)、テンサイ(Beta vulgaris L.)
リンドウ科:リンドウ(Gentiana scabra Bunge var. buergeri Maxim.)
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus L.)
【0060】
上記組換えベクターは、通常の形質転換方法、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法等によって植物中に導入することができる。例えばアグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入し、この菌株をイネのカルスに接種して感染させ、トランスジェニック植物を得ることができる。
【0061】
また、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)等)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料により異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
【0062】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターをパーティクルガン法、エレクトロポレーション法等で培養細胞に導入する。この際ターゲティングベクターを用いて、植物ゲノムに対し相同組換えを引き起こすことも可能であり得る。
【0063】
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。
【0064】
遺伝子が植物に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、トランスジェニック植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、組換えベクターに挿入したcDNA断片を増幅するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0065】
以上記載の通りにして作製した本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入したトランスジェニック植物は、植物体内でゼアラレノン解毒酵素を生産することによって、赤かび病菌の感染により生産されるゼアラレノンの毒性を抑制することができる。
【0066】
6.形質転換体の作製及び該形質転換体を用いたゼアラレノン解毒酵素の製造本発明では、本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を導入した形質転換体(形質転換細胞)を作製し、それを培養することによりゼアラレノン解毒酵素を製造することができる。本発明は、このような形質転換体及び該形質転換体を用いたゼアラレノン解毒酵素の製造方法にも関する。
【0067】
形質転換には、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等、いずれを使用してもよい。本発明においては、特に大腸菌、酵母細胞又はイネ科植物細胞を使用することが好ましい。より詳細には、例えば、イネ科植物に対する赤かび病対策のためにはイネ科植物細胞を用いることが好ましい。ゼアラレノン解毒酵素の製造においては、大腸菌又は酵母細胞を使用することが好ましい。酵母細胞の発酵を利用した食品製造においては、酵母細胞を用いることが好ましい。
【0068】
形質転換には、一般的に行われている手法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を適用することができる。形質転換体の選択は、定法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカーを利用して行う。
【0069】
本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
【0070】
プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0071】
培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。
【0072】
培養後、ゼアラレノン解毒酵素が菌体内又は細胞内に生産される場合には菌体又は細胞を破砕する。一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、上清を得る。得られた液中に、ゼアラレノン解毒酵素が含まれる。
【0073】
本発明では、形質転換を行う代わりに、無細胞翻訳系を使用してゼアラレノン解毒酵素を生産することもできる。
【0074】
「無細胞翻訳系」とは、宿主生物の細胞の構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞翻訳系としては、有利に使用可能なキットが市販されている。
【0075】
生産されたゼアラレノン解毒酵素は、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、上記培養物中(細胞破砕液、培養液、又はそれらの上清中)あるいは無細胞翻訳系の溶液中から単離精製することができる。しかしながら、場合により、例えば培養上清を限外濾過型フィルター等で濃縮したり、硫安分画後に透析にかけたりして得られた粗酵素液を、そのままゼアラレノン解毒処理に用いることもあり得る。
【0076】
また本発明のゼアラレノン解毒酵素の1つの実施形態である、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質(ZHD101;実施例参照)は、pH9.5の高アルカリ環境で十分な活性を有していることが示された。また、ZHD101はpH7.0でもある程度の活性を有し、一方pH4.5を下回るような低pHにおいては不可逆的に失活することが分かった。このように、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、1つの特徴として、至適pHのアルカリ側への偏りを示す。すなわち、本発明のゼアラレノン解毒酵素は、pH6〜11、好ましくはpH9〜10.5で活性を有するものである。
【0077】
7.ゼアラレノン解毒酵素によるゼアラレノンの解毒
本発明のゼアラレノン解毒酵素、及び該ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含む細胞又はトランスジェニック植物を用いて、ゼアラレノンの毒性を抑制することができる。ゼアラレノンの毒性を抑制するためには、本発明のゼアラレノン解毒酵素を含む反応溶液又は該ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含む細胞の培養物を、ゼアラレノン又はゼアラレノンを含む溶液に対して直接適用してもよいし、ゼアラレノンが付着した材料(植物体、穀粒、果実、土壌又は天然若しくは人工基材等)に適用してもよい。ゼアラレノン解毒酵素遺伝子を含むトランスジェニック植物を使用する場合には、赤かび病感染の恐れがある地域で栽培することによりゼアラレノン汚染を低減させてもよいし、ゼアラレノンで汚染された土壌又は環境水(地下水、下水、雨水、河川水又は栽培用水等)にて栽培することにより、周囲環境に含有されるゼアラレノンの毒性を抑制してもよい。
【0078】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の活性の確認を行うためには、まずゼアラレノン解毒酵素遺伝子を有する形質転換体を培養し、その培養物から得た酵素液をゼアラレノンが含まれる溶液に添加する。これを例えば37℃で一晩インキュベートすることによって酵素反応を進行させ、この反応物を例えばTLCで分析したとき、ゼアラレノンが消費され、かつ移動度の異なる生成物が生じている結果を確認できた場合には、ゼアラレノン解毒酵素の活性が示されたと考えることができる。
【0079】
また本発明のゼアラレノン解毒酵素遺伝子を有する形質転換体のゼアラレノン解毒活性の確認を行うためには、まずその形質転換体をゼアラレノン存在下で培養し、その培養物から抽出物を得る。そしてその抽出物について、例えばTLCで分析したとき、ゼアラレノンが消費され、かつ移動度の異なる生成物が生じている結果を確認できた場合には、ゼアラレノン解毒酵素の活性が示されたと考えることができる。
【0080】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の触媒反応により、ゼアラレノンから生成される化合物は、NMR分析及び質量分析(FAB−MS、EI−MS等)にかけることができる。これらの分析を行うことによって、該化合物の化学構造を決定することが可能である。これらの分析法は公知であり、NMR測定機及び質量分析計の製造業者の説明書に従って実施することができる。NMR分析及び質量分析の一般的な教科書としては、例えば「有機化学のためのスペクトル解析法 UV, IR, NMR, MSの解説と演習」(M.Hesse著 東京化学同人)等が挙げられる。
【0081】
本発明のゼアラレノン解毒酵素の触媒反応により、ゼアラレノンから生成される化合物(ゼアラレノン由来解毒生成物と称する)について、エストロゲン様活性の測定を行うことができる。ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことが確認された場合、ゼアラレノン由来解毒生成物を生成させたゼアラレノン解毒酵素は、「ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有する」と判断してよい。エストロゲン様活性の測定は、当業者が使用可能な様々な手法を用いることができるが、例えば、ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用を指標として測定することができる。
【0082】
ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用の測定は、次のようにして行うことができる。まず、ヒト乳がん細胞MCF−7を、例えばフェノールレッド、L−グルタミン(2 mM)、ペニシリン(50ユニット/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したRPMI−1640培地にて、5%CO2を含む加湿空気中で37℃で培養する。培養した上記細胞は、フェノールレッド不含RPMI培地中に1ウェル当たり例えば5×103細胞を接種する。これを37℃で20時間培養した後、培地を同種の培地に交換し、この培養物に、試験化合物とするゼアラレノン、ゼアラレノン由来解毒生成物、又は17β−エストラジオールを様々な濃度で添加して、さらに120時間培養する。次いで、発色反応により細胞数を評価する。発色反応には、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウムの一ナトリウム塩である、WST−8TM(Nakalai Tesque, Kyoto)を使用することができる。そして最後に、各ウェルの吸光度(A450)を、例えばWallac 1420マルチラベルカウンター(Amersham Biosciences)によって測定する。本発明では、限定するものではないが、既知のエストロゲンである17β−エストラジオール (0.1 nM)を対照として使用することができる。
【0083】
17β−エストラジオールを試験化合物として添加すると、何も添加しない対照と比較して、細胞数が平均約250%増大することがわかっている。ゼアラレノンを添加した場合には、17β−エストラジオールと同程度の細胞数を示す。本発明においては、試験化合物を添加しない場合の細胞数(A)に対する、試験化合物を添加する場合の細胞数(B)の比率([(B)/(A)]×100(%);本発明ではこの値を細胞増殖促進比率と称する)が0%〜150%、好ましくは80%〜120%であれば、その試験化合物に関して細胞増殖促進作用がみられないものとする。そして本発明においては、該試験化合物について、細胞増殖促進作用がみられないことはエストロゲン様活性を有しないものと判断することができる。したがって、上記のゼアラレノン由来解毒生成物を試験化合物として添加する場合に、細胞増殖促進作用がみられなければ、該ゼアラレノン由来解毒生成物はエストロゲン様活性を有しない化合物である。このようにしてゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことが確認されれば、該ゼアラレノン由来解毒生成物を生成したゼアラレノン解毒酵素は、ゼアラレノンを基質としてエストロゲン様活性を有しない化合物を生成できることが示される。すなわち、ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことを確認することによって、本発明のゼアラレノン解毒酵素について、ゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有するタンパク質であることを確認することができる。但し、本発明のゼアラレノン解毒酵素がゼアラレノンの毒性を抑制する作用を有することの判定は、ゼアラレノン由来解毒生成物がエストロゲン様活性を有しないことの確認によるものだけに限定されるものではない。
【0084】
【実施例】
[実施例1]ゼアラレノン分解能を有する微生物の単離
(1) スクリーニング対象菌株
抗生物質単離株209種及び31種の微生物菌株を、IFO(Institute for Fermentation, Osaka, Japan)又はJCM(Japan Collection of Microorganisms, RIKEN)の各分譲機関から入手した。これらの各菌株に対し、ゼアラレノン分解能についてランダムスクリーニングを行った。
【0085】
(2) ゼアラレノン分解能に関する微生物菌株のスクリーニング
100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有する100mlのYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)に各菌株を接種し、室温で1週間にわたり培養した。この培養物を6,000rpmで5分間遠心分離して培養上清を分離し、この培養上清をクロロホルムで抽出した。この抽出液を濃縮してTLCプレートにのせ、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。その結果、IFO7063株について、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットを検出することができた。本スクリーニングにおけるIFO7063株についてのTLCのデータを図1に示す。図1のレーン3には、対照として、ゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を標準サンプルとして適用して得た、ゼアラレノンのスポットが示されている。またレーン2には、陰性対照として、バッファーにゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を添加してインキュベートしたものを適用して得た、ゼアラレノンのスポットが示されている。そしてレーン1では、IFO7063株の培養上清から抽出したサンプルを適用したところ、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットが検出された。該レーン1には、レーン2及び3に示されたゼアラレノンのスポットと同程度の移動度のスポットは示されておらず、代わりに該スポットよりも移動度が小さいスポットが示されている。レーン2及び3に示されたゼアラレノンのRf値はおよそ0.8であるのに対し、レーン1に示された物質のRf値はおよそ0.2であった。レーン1に、移動度がより小さいスポットのみが示されたことは、レーン1に対応するIFO7063株の培養上清が有する加水分解活性によって、ゼアラレノンの分子構造が変化したことを意味する。従って、レーン1に対応するIFO7063株の培養上清にはゼアラレノン分解酵素が含まれる可能性がある。
【0086】
このようなTLCの結果に基づき、IFO7063株をゼアラレノン分解能を有する菌株の候補として同定した。このIFO7063株は、IFO(Institute for Fermentation, Osaka, Japan)から分譲されたものであり、クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)に分類される。IFO生物資源データベースにはこの菌についてより詳細な情報が示されており、その情報に基づけば、この菌株は例えば、24℃にてポテトスクロース寒天培地(PSA培地;ポテト 200g、スクロース 20g、蒸留水1L、寒天 20g, pH 5.6)の培養条件にて培養することができる。
【0087】
[実施例2]IFO7063株からのゼアラレノン分解酵素の抽出及び精製
(1) ゼアラレノン分解酵素の抽出及び精製
クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)IFO7063株を、100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有するYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)100ml中で、室温で1週間にわたり培養した。その後、該培養物を25 ppmのゼアラレノンを含有する上記YG培地1Lに植え継ぎ、室温で1週間にわたり培養した。細胞を濾過により回収し、それを液体窒素で破砕し、さらに超音波破砕処理した。次に細胞破片を5,000×gによってスピンダウンし、硫酸アンモニウムを40〜60%の飽和度で上清に添加した。10,000×gで1時間にわたる遠心分離によって得られた沈殿物を、4℃で10mM Tris−HCl(pH 7.5)に対して透析した。次いで透析したサンプルをHiTrapQカラムに適用し、NaClの線形濃度勾配(0〜1M、5ml/分、20分)を示すような10mM Tris−HCl(pH 7.5)によって溶出した。
【0088】
ここで得られた溶出分画を、それぞれin vitroでのゼアラレノン加水分解試験に供し、その後TLCにてゼアラレノンに対する加水分解活性について調べた。ゼアラレノン加水分解試験は、各溶出分画にゼアラレノン25μgを加えて37℃にて一晩インキュベートして行った(100mM Tris−HCl(pH 9.5),総容量100μl)。次いでその反応液からクロロホルムによる抽出を行い、その抽出物の一部を採取し、TLCプレート(Merck,シリカゲル 60 F254)にチャージし、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20(体積比)を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。その結果、ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットを検出することができた溶出分画を選択することができた。ゼアラレノンの分解産物とみられるスポットの検出結果は、図1と同様であった。対照としてゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を標準サンプルとして適用した結果、ゼアラレノンのスポットが観察された。陰性対照としては、バッファーにゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)25μgを添加して37℃で一晩インキュベートしたサンプルを適用した結果、ゼアラレノンのスポットが観察された。しかし、溶出分画サンプルを用いた場合には、対照及び陰性対照における前記のゼアラレノンのスポットと同程度の移動度のスポットは認められず、代わりに、ゼアラレノンよりも移動度が小さいスポットが観察された。従って、溶出分画に含まれるタンパク質は、ゼアラレノン分解酵素であり得る。なお触媒性分画とは異なる溶出分画を用いたサンプルを適用した場合には、ゼアラレノンと同じ移動度のスポットのみが示された。このようにして同定されたゼアラレノン分解酵素を含み得る溶出分画(触媒性分画)を、酵素のさらなる精製のために、次のFPLC分離に供した。
【0089】
該触媒性分画をFPLC(AKTAエクスプローラ, Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)によってさらに分離した。FPLC分離においては、ゲル濾過カラム(Superdex75 HR 10/30, Amersham Pharmacia Biotech)に該溶出分画を適用し、0.1M NaClを含む10mM Tris−HCl(pH 7.5)によって溶出した。このFPLCによって得られるこれらの溶出分画についても、上述のTLCに供して、さらに触媒性分画を選択した。このFPLCから得られる溶出分画を用いたTLCにおいても、上記と同様の結果が得られた。
【0090】
さらに、選択した触媒性分画を、イオン交換カラム(MonoQ, Amersham Pharmacia Biotech)に適用し、続いてNaClの線形濃度勾配(0〜0.5M)を有する10mM Tris−HCl(pH 7.5)により、流速0.4ml/分にて50分間にわたり溶出した。このイオン交換カラムMonoQを使用した精製工程は、2回繰り返した。触媒性分画の上記TLCによる選択は1回目のMonoQ精製工程の後にも行い、選択された溶出分画を次の2回目のMonoQ精製工程に供してさらなる精製タンパク質を得た。そしてこの2回目のMonoQ精製工程により得られた精製タンパク質を、ゼアラレノン分解酵素として以後の実験に用いた。またこのタンパク質を、ZHD101と命名した。
【0091】
[実施例3]ゼアラレノン分解酵素の部分アミノ酸配列決定
実施例2に従って精製したZHD101を、リジルエンドペプチダーゼ(TAKARA, Kyoto, JAPAN)によって2M尿素を添加して37℃で1時間かけて消化した。その反応混合物を、逆相カラムであるVP304−1251(Senshu Kagaku, Tokyo, JAPAN)を用いるHPLCによってペプチド断片毎に分離した。該HPLCは以下の条件で実施した:流速は1ml/分、60分間にわたる濃度勾配としてBを0%〜60%(A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B:0.08%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液)。なおペプチドの検出は225nmで行った。
【0092】
HPLCの結果、7つの主ピーク(p−12、p−18、p−24.5、p−32.5、p−34.5、p−36.5、p−39)が現れた(図2)。そこで、これらの7つの主ピークの各々を、12分、18分、24.5分、32.5分、34.5分、36.5分、39分に溶出させ、手作業で回収した。これらのペプチド及び全体タンパク質について、製造業者の説明書に従って自動タンパク質シーケンサーProcise HT 492(Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA)を使用して、エドマン分解によるアミノ酸配列決定を行った。
【0093】
[実施例4]ゼアラレノン分解酵素遺伝子の単離
クロノスタキス・ロゼア(Clonostachys rosea)IFO7063株を、100 ppmのゼアラレノン(Sigma, St. Louis, MI)を含有するYG培地(0.5% yeast extract, 2% glucose, pH 7.0)100ml中で、室温で1週間にわたり培養した。この培養物から、RNeasy Miniキット(Qiagen GmbH, Hilden Germany)を用いて全RNAを抽出し、精製した。この全RNAを鋳型として、RT−PCR用Superscript First−Strand Synthesisシステム(Invitrogen, Groningen, The Nethrlands)を用いて、逆転写PCR(RT−PCR)を行ってcDNAを合成した。
【0094】
次に、実施例3で決定したZHD101の部分アミノ酸配列に基づき、本発明のZHD101をPCR増幅するためのプライマーを設計した。5’プライマーとしては、N末端のアミノ酸配列に基づく4種の5’プライマー、3’プライマーとしては、実施例3のHPLCで得たピークp−32.5及びP−34.5に相当するペプチドのそれぞれのアミノ酸配列に基づく8種の3’プライマー(図3)を設計し、化学合成した。これらの4種の5’プライマー及び8種の3’プライマーを組み合わせた32通りのプライマー対を別個に用い、上記で作製したcDNAを鋳型として、以下の条件に従ってPCR増幅を実施した:94℃(30秒)、55℃(30秒)及び72℃(1分)を30サイクル。得られた増幅産物は、アガロースゲル電気泳動により、その増幅断片のサイズを確認した。
【0095】
その結果、N2(5’プライマー)と34.5−2(3’プライマー)の組み合わせによって得られた増幅断片が最も大きく、約800bpであった。一方N1〜4(5’プライマー)と32.5−1〜32.5−3(3’プライマー)の組み合わせによって得られた増幅断片は約550bpであった。本実施例ではN2(5’プライマー)と34.5−2(3’プライマー)の組み合わせによって得られた約800bpの断片についてDNA塩基配列決定を行った。まず、この約800bpのPCR増幅産物を、pGEM−TEasyベクター(Promega, Madison, WI)中にライゲーションした。この組換えベクターを用いてヒートショック法により、大腸菌DH5α(TOYOBO, Osaka, JAPAN)を形質転換した。この形質転換体を適宜培養して得た培養物から、組換えベクターをプラスミド精製キット(MOBIO, Solana Beach, CA)により精製した。
【0096】
DNA配列決定には、解析用ソフトウェアSequencing analysis v.3.4. (AppliedBiosystems)を組み込んだABI PRISM(R) 377 DNAシーケンサー、及びABIキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い、製造業者の提供するプロトコールに従って上記組換えベクターをサンプルとして用いて常法により行った。
【0097】
zhd101の5’端及び3’端のDNA領域の塩基配列を決定するために、SMART RACE cDNA増幅キット(Clontech, Palo Alto, CA)を用いてRACE(cDNA末端高速増幅;rapid amplification of cDNA ends)を実施した。手順は全て、製造業者の提供するプロトコールに従って実施した。本実施例では、5’−RACE PCR反応及び3’−RACE PCR反応において、以下のプライマーを設計し、化学合成して用いた。
プライマー1:5’−GGG CTT CCC ACG CAG AGC CTC CAG ATC CTT AAC−3’(5’−RACEの第1PCR用)(配列番号15)
プライマー2:5’−CTC CGA GCC TCC AGA CAC GTC GTT CAA CAT TAC−3’(5’−RACEのネスティッドPCR用)(配列番号16)
プライマー3:5’−ACC GCT GTG CTC GAA GAC GAG GAA ATC TCA AAG−3’(3’−RACEの第1PCR用)(配列番号17)
プライマー4:5’−GTA ATG TTG AAC GAC GTG TCT GGA GGC TCG GAG−3’(3’−RACEのネスティッドPCR用)(配列番号18)
【0098】
増幅DNA断片については、上記と同様にしてDNA塩基配列決定を行った。このようにして得られたzhd101全体の塩基配列を配列番号1に示す。また配列番号1によってコードされる推定上のアミノ酸配列を配列番号2に示す。この配列番号2に示されるアミノ酸配列は、実施例3で決定された断片化されたZHD101ペプチドの部分アミノ酸配列と完全に一致した。配列番号2に示されるアミノ酸配列は264個のアミノ酸からなり、その分子量は28,751 Daと算出された。
【0099】
さらに、NCBIのインターネットサイトのBLASTPプログラムを利用して、タンパク質データベース(Swiss−Prot及びGenBank)に対する相同性検索を行った。この検索により、本発明のZHD101は新規なタンパク質であることが判明した。本発明者らはまた、保存ドメインデータベース(RPS−BLAST)に対して、可能性上の触媒部位の検索を行った。この結果、ZHD101は、4×e−11のE値(Ollis,ら (1992)Protein Eng. 5, 197−221)でα/β加水分解酵素フォールドとの間で高い相同性を有していた。
【0100】
[実施例5]組換えベクターの作製及び形質転換体の作製
zhd101のコード領域全体を含むDNA断片を得るために、5’プライマー(5’−GCC CAT ATG CGC ACT CGC AGC ACA ATC−3’(配列番号19);NdeI部位に下線を付した)及び3’プライマー(5’−TCG GAT CCG AGC TAT CGT GAG CAG TG−3’(配列番号20);BamHI部位に下線を付した)を使用し、実施例4の(1)で調製した全RNAを鋳型として、RT−PCR増幅を行った。RT−PCRには、Superscript First−Strand Synthesisシステム(Invitrogen, Groningen, The Nethrlands)を製造業者の説明書に従って用いて、cDNAを合成した。この増幅産物をpGEM−TEasyベクター中にライゲーションした。
【0101】
続いてそれらのプラスミドをNdeI及びBamHIによって消化し、アガロースゲル電気泳動による分離によってzhd101断片を得た。次にzhd101断片を、予めNdeI及びBamHIで消化し精製したpET12aベクター中に挿入した。このライゲーション産物をDH5α中へと形質転換し、そのコロニーをアンピシリン耐性により選択して形質転換体を得た。この形質転換体を適宜培養して得た培養物から、プラスミド精製キット(MO BIO, Solana Beach, CA)により精製した組換えベクターを、DNA塩基配列決定に供して、zhd101の塩基配列を確認した。これにより正しい塩基配列が確認されたzhd101を組み込んだプラスミド(pET12−zhd101)を用いて、DE3(TOYOBO)を形質転換し、アンピシリン耐性により形質転換体を選択した。該形質転換体から上記と同様にして組換え発現ベクターを得た。
【0102】
[実施例6]形質転換体を用いたゼアラレノン分解酵素の製造
実施例5で作製した組換え発現ベクターを含むDE3(TOYOBO)の形質転換体の単一コロニーをサイクルグロー培地(フナコシ社製)に接種し、OD600が0.6に達するまで37℃で数時間培養した。組換えタンパク質を誘導するために、1mM IPTGを添加し、細胞培養物を室温で一晩培養した。翌日、細胞をスピンダウンさせ、それらを超音波破砕処理した。そして、組換えZHD101がDE3で発現されることを、SDS−PAGEで確認した。その結果を図4に示す。
【0103】
図4には、12.5% SDS−PAGEゲルに次のサンプルを適用して得たSDS−PAGEの結果を示した。レーン1は野生型DE3のホモジェネートサンプルであり、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートサンプル(すなわち、粗組換えZHD101)であり、レーン3は形質転換体のホモジェネートの沈殿サンプルであり、レーン4は形質転換体のホモジェネートの可溶性分画であり、レーン5は実施例2で得たIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101である。図4に示される通り、形質転換体では野生型で発現の見られないタンパク質が発現しており(レーン1及び2)、形質転換体で発現している該タンパク質は培養上清にも分泌されており(レーン4)、さらに形質転換体で発現している該タンパク質はIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101と同等の分子量を有していること(レーン5)から、形質転換体ではZHD101と同じ該タンパク質を発現し分泌していることが示された。なおこのZHD101の分子量は、およそ30kDであった。
【0104】
また、形質転換体に由来する粗組換えZHD101について、加水分解活性をTLCで検出した。野生型DE3のホモジェネート、そしてpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネート10μlに、ゼアラレノンをそれぞれ添加してH20でフィルアップして各100μlとし(100mM Tris−HCl(pH 9.5))、37℃で4時間インキュベートした。この反応混合物を上記と同様にクロロホルムで抽出し、TLCプレート(シリカゲル 60 F254)に適用した。その結果を図5に示した。
【0105】
図5は、レーン1には野生型DE3のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン2にはpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン3にはゼアラレノン標準物を適用したTLCの結果を示す。TLCは、反応処理液からクロロホルムによる抽出を行い、抽出物の一部を採取し、TLCプレート(Merck,シリカゲル 60 F254)にチャージし、溶媒としてクロロホルム:アセトン 80:20(体積比)を用いて展開槽にて展開した。このTLCプレートについて、UVランプ(UV 254nm)下で検出を行った。この図5の結果は、図1の結果と同様であった。従って組換えZHD101は、IFO7063株から直接単離したZHD101と同じ、ゼアラレノン分解活性を有することを確認することができた。
【0106】
なお、このZHD101の至適pHは、アルカリ側に偏っていることが分かった。すなわち、上記のZHD101の加水分解活性の分析においてゼアラレノンを添加した後の酵素反応条件は高アルカリ性のpH 9.5であるが、ZHD101は酵素活性を十分発揮していた。このようにZHD101の至適活性はpH 9〜10.5であるが、pH 7.0でもある程度の活性が示された。ZHD101はまた、pH 4.5を下回るような低pHにおいては不可逆的に失活することが分かった。この不可逆的な失活は、次のような実験により確認された。まず、1Mのリン酸バッファーを1/10量添加したZHD101含有硫安画分をpH 4.5及びpH 5.5に調整し、それらを30分間氷上に置いた。これらのサンプルを、それぞれクロマトチャンバー内ですみやかに10mM Tris−HCl(pH 7.5)に対して透析し、続いてゼアラレノンに対するin vitro加水分解試験(pH 9.5)に供してTLCにて分析したところ、pH 5.5に調整したサンプルはゼアラレノン分解活性を示すが、pH 4.5に調整したサンプルはゼアラレノン分解活性を示さないことが分かった。つまり、pH 4.5の条件下に置かれたZHD101は、その後に至適pH下にて反応させてもその酵素活性を示さないことから、pH 4.5の条件下で不可逆的に失活されることが判明した。
【0107】
[実施例7]ゼアラレノン分解酵素によるゼアラレノン誘導体の分解
ゼアラレノン誘導体であるα,β−ゼアラレノール(α,β−zeararenol;α−ゼアラレノール又はβ−ゼアラレノールを表す)を、ZHD101(上記IFO7063株に由来する硫安分画40〜60%のタンパク質を10mM Tris−HCl (pH 7.5)で透析したもの)にそれぞれ添加して37℃で一晩インキュベートした(100mM Tris−HCl(pH 9.5),総容量100μl)。その反応液をクロロホルムで抽出し、上記と同様にTLCをおこなった(図6)。対照としてα,β−ゼアラレノールの標準物(図6のレーン3及び6)、及び陰性対照としてバッファーにα,β−ゼアラレノールを添加してインキュベートしたもの(図6のレーン2及び5)を用いた。その結果、ZHD101処理により、対照及び陰性対照に見られるα,β−ゼアラレノールのスポットは、UV(254nm)下では完全に喪失し、分解産物を検出することができなかった(図6のレーン1及び4)。この結果より、分解物は、UV下でTLCプレート上に検出されなかったか、水溶性が高くてクロロホルムで抽出不可能であったことが推察できる。基質が完全になくなっていることから、ゼアラレノン誘導体であるα,β−ゼアラレノールについても、ZHD101はおそらく分解を引き起こしたと考えられた。
【0108】
[実施例8]ゼアラレノン分解酵素によりゼアラレノンから生成される分解産物の単離及び特性解析
ZHD101を用いた上記の加水分解試験によって得られたゼアラレノン分解産物の粗抽出物をTLCに供し、プレコートシリカゲル60 F254プレート(0.25 mm厚、20×20 cm、Merck)を用いて、展開液としてクロロホルム:アセトン 80:20 (体積比)を用いて展開した。該TLCプレートのスポットは、UV(254 nm)下で検出した。
【0109】
これによって精製された分解産物を、NMR分析にかけた。NMRスペクトルは、JEOL ECP−500分光器により、アセトン−d6において13C NMRを125 MHzで、1H NMRを500 MHzで測定した。
【0110】
29.8 ppmでのアセトン−d6及び2.04 ppmでのアセトン−d5を、それぞれ13C及び1H NMRの内部標準として用いた。化学シフトはδ値で記録した。13C NMRシグナルの多重度はDEPTで決定した。2D NMRスペクトル(PFG−DQFCOSY、PFG−HMQC及びPFG−HMBC)はJEOL ECP−500にて、JEOL標準パルスシークエンスにより測定し、収集したデータはJEOL標準ソフトウェアで処理した。FAB−MSスペクトルはJEOL JMSHX−110質量分析計でグリセロールマトリックスを用いて、またEI−MSスペクトルはJMS−SX102質量分析計で、それぞれ測定した。
【0111】
以下はFAB−MSスペクトル、EI−MSスペクトル及びNMRスペクトルの測定結果である。
FAB−MS (m/z: positive): 293 (M+H)+
EI−MS: 292 (M+, 8%), 274 (M+−H2O, 24%), 162 (100%), 161 (86%), 112 (30%).
1H−NMR (500 MHz,アセトン−d6,δ ppm); 8.12 (2H, br s, 2−OH及び 4−OH), 6.38 (2H, d, 2.0 Hz, H−1及び H−5), 6.25 (1H, d, 16.5 Hz, H−1’), 6.13 (1H, ddd, 6.8, 7.1, 16.5 Hz, H−2’), 6.03 (1H, d, 2.0 Hz, H−3), 3.69 (1H, m, H−10’), 3.41 (1H, br d, 3.8 Hz, 10’−OH), 2.48 (2H, t, 7.2 Hz, H−5’), 2.43 (2H, t, 7.1 Hz, H−7’), 2.17 (2H, m, H−3’), 1.70 (2H, m, H−4’), 1.58 (2H, m, H−8’), 1.37 (2H, m, H−9’), 1.10 (3H, d, 6.2 Hz, H−11’).
13C−NMR (125 MHz,アセトン−d6,δ ppm); 210.47 (s, C−6’), 159.49 (s, C−2and C−4), 140.73 (s, C−6), 131.53 (d, C−1’), 130.56 (d, C−2’), 105.49 (d, C−1及び C−5), 102.42 (d, C−3), 67.34 (d, C−10’), 43.11 (t, C−7’), 42.15 (t, C−5’), 39.65 (t, C−9’), 33.00 (t, C−3’), 24.09 (t, C−4’), 24.03 (q, C−11’), 20.93 (t, C−8’)。
【0112】
上記の質量分析法(FAB−MS及びEI−MS)並びにNMRスペクトルにより、上記のゼアラレノン分解産物の分子式をC17H24O4と決定した。1H NMRスペクトルにおいてゼアラレノンと比較した場合に特徴的なピークであるδ 6.38 (d)、3.69 (m)及び 3.41 (br d)は、C−10’、C−1及び 10’−OHに割り当てられる。このことは、ゼアラレノンにおけるエステル結合が加水分解され、続いて脱炭酸されたことを意味する。C’−1における幾何構造は、高い結合定数(J=16.5 Hz)に基づいてEコンホメーションと決定した。13C NMRスペクトルによって、1個のケトン、3個のsp24価炭素原子、1個のsp2メチン炭素原子及び1個のメチル炭素を含む17個の炭素原子が、上記のゼアラレノン分解産物に存在することが確認された。PFG−DQFCOSY及び PFG−HMQCのデータから、それぞれプロトンスピンネットワーク及び全ての一重結合性1H−13Cの結合を確認した。PFG−HMBCスペクトルにおいて観察される長距離結合は、上記のゼアラレノン分解産物において、ケトン基(δ 210.47)がC−6’に位置すること、及びゼアラレノンの開環及びC−12’でのカルボキシル基の欠失が生ずることを示している。このことは、C−1 (d,δ 105.49)及び C−10’ (d,δ 67.34)における化学シフト及び多重性によっても支持された。以上の解析に基づき、上記のゼアラレノン分解産物の全体構造は、1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ヒドロキシ−1−ウンデセン−6’−オンと決定された。この化学構造は図7に示した。この分析結果より、本発明のゼアラレノン分解酵素ZHD101によってゼアラレノンが分解されてゼアラレノン分解産物が生成することが分かり、その反応を化学式によって記載した(図7)。
【0113】
[実施例9]ゼアラレノン分解産物のエストロゲン様活性
上記実施例に従って得られたゼアラレノン分解産物について、エストロゲン様活性の測定を行った。エストロゲン様活性は、ヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用として測定した。
【0114】
まず、ヒト乳がん細胞MCF−7を、フェノールレッド、L−グルタミン(2 mM)、ペニシリン(50ユニット/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したRPMI−1640培地(SIGMA, St. Louis, MO)にて、5%CO2を含む加湿空気中で37℃で培養した。本実験に用いたFCSは、デキストラン処理チャコールで処理した。培養した上記細胞は、10%チャコール分解FCSを含有するフェノールレッド不含RPMI培地中、96ウェルプレートにて1ウェル当たり5×103細胞を接種した。これを37℃で20時間培養した後、培地を同種の培地に交換した。この培養物に、試験化合物とするゼアラレノン、ゼアラレノン分解産物、又は17β−エストラジオールを様々な濃度で添加し、さらに120時間培養した。次いで、次の発色反応により細胞数を評価した。発色反応としては、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウムの一ナトリウム塩である、WST−8TM(Nakalai Tesque, Kyoto)を培養物に添加し、培養細胞を37℃でさらに4時間培養した。各ウェルの吸光度(A450)を、Wallac 1420マルチラベルカウンター(Amersham Biosciences)によって測定した。本実施例では、既知のエストロゲンである17β−エストラジオール (0.1 nM)を対照として使用した。17β−エストラジオールを試験化合物として添加した場合、何も添加しない対照と比較して、細胞数が平均約250%増大する。本発明に係るゼアラレノン(化学式:図7)は、17β−エストラジオールと同程度の細胞数を示すことから、17β−エストラジオールと同程度の細胞増殖促進作用すなわちエストロゲン様活性を有する。一方、本発明のゼアラレノン分解産物(化学式:図7)は、ゼアラレノンの1000倍高い濃度であっても、細胞数をほとんど増加させず、細胞増殖促進作用はみられなかった(図8)。すなわち、本発明のゼアラレノン分解産物は、エストロゲン様活性を示さない。従って、本発明のゼアラレノン分解酵素ZHD101は、ゼアラレノンを分解して、エストロゲン様活性を示さない分解産物とすることにより、ゼアラレノンのエストロゲン様活性を喪失させ、すなわちゼアラレノンの毒性を抑制することができることが示された。
【0115】
[実施例10]zhd101遺伝子導入用ベクターの構築
zhd101のDNA配列(配列番号1)に基づき、GFP−zhd−5’プライマー(5’−ATG CGC ACT CGC AGC ACA ATC TCG−3’(配列番号21))及びGFP−zhd−3’プライマー(5’−TGT ACC GTT CAA AGA TGC TTC TGC−3’(配列番号22))を設計して、化学合成した。これらのプライマーとVentポリメラーゼ(New England Biolabs)とを使用し、実施例5で作製した、pGEM−TEasyベクター(Promega, Madison, WI)中にzhd101を組み込んだ組換えプラスミドを鋳型として用いるPCR増幅を行って、zhd101遺伝子全体を含むDNA断片を作製した。ここで用いたPCR条件は以下の通りである:94℃で30秒、57℃で1分、72℃で1分を1サイクルとして30サイクル。またこれとは別に、pEGFP(Clontech)のBsrG I−Not I間に合成リンカー(5’−GTA CAG GCC CGG GCC GC−3’(配列番号23)、5’−GGC CGC GGC CCG GGC GT−3’(配列番号24))を挿入し、pEGFP−Srf Iを作成しておいた。得られたPCR産物は、egfp遺伝子の下流に組み込むためにpEGFP−SrfIベクターのSrf Iサイトへライゲーションして、pEGFP−zhd101クローンを作製した。さらに、pEGFP−zhd101クローンから切り出したNco I−Not I断片(本明細書では「egfp::zhd101」と呼ぶ)を、Act Iプロモーターを含むpWheatベクター(pDM302(Genes. Genet. Syst., 72, 63−69, 1997)のPst I−Sma I間をTri101(J. Biol. Chem., 273, 1654−1661, 1998)で置き換え、Hind III−BstXI間を削除しNco Iサイトを作出したベクター)のNco I−Not I部位中にライゲーションして、遺伝子導入用組換えベクターであるpWheat−egfp::zhd101を構築した。図9にベクター構築工程の概略図を示した。
【0116】
[実施例11]パーティクルガンを用いた穀類へのegfp::zhd101遺伝子の導入
実施例10で得た組換えベクターpWheat−egfp::zhd101を、選抜マーカーのビアラフォス耐性遺伝子barと共に、以下のような手順によってモデル単子葉植物イネの完熟胚由来カルスに導入した。
【0117】
イネ完熟種子胚(完熟胚とも称する)は40 %次亜塩素酸で滅菌・洗浄後、70 ppmカナマイシン、70 ppmセフォタキシム及び2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS培地(カルス誘導培地)(LS培地: LINSMAIER SKOOG Medium 1, Invitrogen)に移植し、6〜7日間培養してカルスを誘導した。カルスを2 ppm 2,4−D及び0.4 Mマンニトールを含むLS培地におき、パーティクルガンを用いて、それぞれ金粒子へコーティングしたpWheat−egfp::zhd101及びbar遺伝子を導入した。遺伝子導入を行ったカルスは翌日、2 ppm 2,4−D及び5 ppmビアラフォス含有LS培地(選抜培地)に移植し、その後2週間ごとに新鮮な選抜培地に継代した。そして、蛍光顕微鏡下で、GFP(緑色蛍光タンパク質)により蛍光を呈し、選択的に増殖してきたカルスを、egfp::zhd101遺伝子が導入された形質転換体として判断した(図10)。約2.5〜3ヶ月増殖させた後、増殖した選抜カルスを1 mg/ml NAA(α−ナフタリン酢酸ナトリウム)、2 mg/ml BA(ベンジルアデニン)及び30 g/lソルビトールを含むLS培地(再分化培地)に移植した。再分化植物を5 ppmビアラフォス含有LS培地(選抜発根培地)に移植した2〜3週間後馴化し、再生体を得た(図11)。
【0118】
[実施例12]形質転換イネにおけるEGFP::ZHD101の発現
egfp::zhd101遺伝子を導入して得られたイネ再生体においてEGFP::ZHD101タンパク質が発現しているかを、ウェスタンブロット分析で試験した。
【0119】
再生体の葉0.1 gを液体窒素中で粉砕し、抽出バッファー100μlを加えよく混和した。これを遠心分離(15,000 rpm、5 min)して上清を回収し、粗タンパク質とした。得られた粗タンパク質を1レーン当たり20μg、10 %SDS−ポリアクリルアミドゲルに適用し電気泳動した。泳動後、PVDF膜に転写し抗gfp抗体によりGFP::ZHD101融合タンパク質を検出した。その結果を図12に示した。レーン1は野生型イネ葉より抽出したサンプル、レーン2は再生体No 14、レーン3は再生体No 54、レーン4は再生体No 68、レーン5は再生体No 71、レーン6は再生体No 76、レーン7は再生体No 79、レーン8は再生体No 79、レーン9は組み換えEGFP::ZHD101である。再生体No 14、No 54、No 68,No 76及びNo 79において、野生型では見られないタンパク質が検出された。またこのタンパク質は、組み換えEGFP::ZHD101と同じ分子量であった。これらの結果から、再生体5個体(No 14、No 54、No 68,No 76及びNo 79)でEGFP::ZHD101タンパク質が発現していることが示された。
【0120】
[実施例13]egfp::zhd101を導入した懸濁培養細胞によるゼアラレノン分解
イネのegfp::zhd101導入懸濁培養細胞を用いて、以下の手順でゼアラレノン分解試験をおこなった。
【0121】
egfp::zhd101導入懸濁培養細胞は、実施例11で作製したegfp::zhd101が導入されたカルスを、2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS液体培地に移植することにより調製した。また、イネの野生型懸濁培養細胞も同様に、2 ppm 2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を含むLS液体培地に野生型カルスを移植することにより、調製した。次いで、このようにして調製したegfp::zhd101導入懸濁培養細胞と野生型懸濁培養細胞のそれぞれについて、約50 mgの懸濁培養細胞を、ゼアラレノンを750μg添加した50 ppmゼアラレノン含有LS培地15 ml中に加え、26℃で振とう培養した。
【0122】
培養開始から3日後、上記のそれぞれの培地からゼアラレノンを含む抽出物をクロロホルムで抽出し、その培地抽出物をTLCプレートにのせてクロロホルム:アセトン(80:20)で展開し、UV下で検出を行った。また、ゼアラレノン含有LS培地及びゼアラレノン非含有LS培地のそれぞれから同様に抽出した抽出物を対照として用いた。このTLC分析の結果を、図13に示す。レーン1はゼアラレノン標準物、レーン2はegfp::zhd101導入細胞を培養したゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン3は野生型細胞を培養したゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン4はゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン5はゼアラレノン非含有LS培地からの抽出物を示している。野生型細胞を培養した培地及びゼアラレノン含有LS培地からの抽出物においては、ゼアラレノン標準物の移動度と同じスポットが検出されたことから、培地中にゼアラレノンが残存することが示された。一方、egfp::zhd101導入細胞を培養した培地からの抽出物では、ゼアラレノンを示すスポットが消失しており、培地中のゼアラレノンが分解されたことが示唆された。
【0123】
そこで次に、残存するゼアラレノンの量を調べるため、培養開始から6日後のゼアラレノンの定量を行った。残存するゼアラレノン量は、培地中に存在する量と、細胞表面に付着している量及び細胞内に取り込まれた量との合計量と考えられるため、培地中のゼアラレノン量と細胞が含有するゼアラレノン量との両方について定量を行った。また、培地中のゼアラレノンが分解されていることを確認する目的で、培養開始から3日後の培地からの抽出物についてもゼアラレノンを定量した。さらに、対照として、培養開始から6日後の、細胞を含まないゼアラレノン含有LS培地からの抽出物についてもゼアラレノンを定量した。以上のゼアラレノンの定量には、RIDASCREEN FAST Zearalenon(R−Biophar)を使用説明書に従って使用した。
【0124】
このようにして定量された、培養開始から6日後のゼアラレノン量を表1に示す。
【表1】
【0125】
表1における残存ゼアラレノン量は、培地中のゼアラレノン量と細胞が含有するゼアラレノン量との合計値として算出した。egfp::zhd101導入細胞及び野生型細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量は、それぞれ6.41μg及び260.85μgであった。また、egfp::zhd101導入細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量は、培養開始時のゼアラレノン量750μgの約1/117であり、野生型細胞の培養培地における残存ゼアラレノン量の約1/40であった。なお、ゼアラレノン含有LS培地中の残存ゼアラレノン量も52.5μgまで減少したが、これは6日間の培養でゼアラレノンが析出した結果であり、egfp::zhd101導入細胞及び野生型細胞の培養培地についてはこの析出現象は観察されなかった。
【0126】
さらに、上記結果に基づく培地中のゼアラレノン量の変化を、図14に示す。図14に示される通り、egfp::zhd101導入細胞の培養培地における培地中のゼアラレノン量は、培養開始時の750μg、培養開始から3日後の29.5μg、6日後の0.76μgというように経時的に減少した。従って、培地中のゼアラレノンが培養期間中に分解されたことが確認された。
【0127】
これらのデータから、egfp::zhd101遺伝子を導入した形質転換細胞が、培地中のゼアラレノンを強力に分解できることが示された。この結果は、egfp::zhd101を導入したトランスジェニックイネ植物体が、ゼアラレノンの分解能を持つことを示す。
【0128】
【発明の効果】
本発明のタンパク質を用いれば、ゼアラレノンの毒性を有利に抑制することができる。また本発明の遺伝子は、該タンパク質を発現させるために用いることができる。さらに、本発明の遺伝子を導入した形質転換体及びトランスジェニック植物は、周囲環境中に含まれるゼアラレノンを効率的に分解し解毒する目的で、有利に使用することができる。
【0129】
【配列表】
【0130】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3〜24は合成DNAである。
配列番号3〜14のnは、a、t、c又はgである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、IFO7063株由来の培養上清のゼアラレノンに対する加水分解活性を検出したTLCのデータを示す。レーン1、培養上清サンプル;レーン2、陰性対照;レーン3、ゼアラレノン標準サンプル。
【図2】図2は、リジルエンドペプチダーゼによりペプチド断片化したZHD101ののHPLCプロファイルを示す図である。
【図3】図3は、アミノ酸配列に基づきZHD101の部分DNA断片を増幅するためのPCRプライマーセットを示す。
【図4】図4は、大腸菌DE3中でT7転写/発現系により発現させた組換えZHD101のSDS−PAGEの結果である。レーン1は野生型DE3のホモジェネートサンプル、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートサンプル、レーン3は形質転換体のホモジェネートの沈殿サンプル、レーン4は形質転換体のホモジェネートの可溶性分画、レーン5はIFO7063株から直接に抽出精製したZHD101、レーン6は分子量マーカーである。
【図5】図5は、組換え発現されたZHD101のTLCの結果を示す。レーン1は野生型DE3のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン2はpET12−zhd101を有するDE3(形質転換体)のホモジェネートをゼアラレノンと処理したもの、レーン3はゼアラレノン標準物である。
【図6】図6は、ZHD101のα−ゼアラレール、β−ゼアラレールに対する加水分解活性を検出したTLCのデータを示す。レーン1、ZHD101処理α−ゼアラレールサンプル;レーン2、α−ゼアラレールに対する陰性対照;レーン3、α−ゼアラレール標準物、レーン4、ZHD101処理β−ゼアラレールサンプル;レーン5、β−ゼアラレールに対する陰性対照;レーン6、β−ゼアラレール標準物。
【図7】図7は、ゼアラレノンがゼアラレノン分解酵素ZHD101によって分解されてゼアラレノン分解産物が生成することを化学式を用いて示している。
【図8】図8は、ゼアラレノン及びゼアラレノン分解産物のヒト乳がん細胞MCF−7に対する細胞増殖促進作用を示す。添加したゼアラレノン(●)又はゼアラレノン分解産物(■)の濃度に対する、37℃で120時間のインキュベート後の細胞数を示している。結果は平均値±S.D.で示す。
【図9】図9は、zhd101遺伝子導入用ベクターpWheat−egfp::zhd101の構築工程を示す概略図である。
【図10】図10は、egfp::zhd101遺伝子が導入された形質転換体(トランスジェニックカルス)の蛍光顕微鏡下での観察写真である。
【図11】図11は、egfp::zhd101遺伝子を導入したイネ再生体の写真である。
【図12】図12は、egfp::zhd101遺伝子を導入したトランスジェニック個体のウェスタンブロット分析の結果を示す写真である。最も左側は分子量マーカー、レーン1は野生型イネ葉より抽出したサンプル、レーン2は再生体No 14、レーン3は再生体No 54、レーン4は再生体No 68、レーン5は再生体No 71、レーン6は再生体No 76、レーン7は再生体No 79、レーン8は再生体No 79、レーン9は組み換えEGFP::ZHD101タンパク質の結果を示す。
【図13】図13は、egfp::zhd101遺伝子導入懸濁培養細胞を培養した培地からの抽出物のTLC分析の結果を示す写真である。レーン1はゼアラレノン標準物、レーン2は遺伝子導入細胞を培養したゼアラレノン含有培養培地からの抽出物、レーン3は野生型細胞を培養したゼアラレノン含有培養培地からの抽出物、レーン4はゼアラレノン含有LS培地からの抽出物、レーン5はLS培地のみからの抽出物の結果を示す。
【図14】図14は、培養期間における培地中のゼアラレノン量の変化を示すグラフである。グラフ中、「◆」「◇」「×」は、egfp::zhd101導入懸濁培養細胞の培養培地についてのゼアラレノン量、「●」「□」「■」は、野生型懸濁培養細胞の培養培地についてのゼアラレノン量、▲は、細胞不含のゼアラレノン含有培地のゼアラレノン量を示す。◆及び●は培地中のゼアラレノン量、◇及び□は細胞が含有するゼアラレノン量、×及び■は残存ゼアラレノン量を表す。
Claims (22)
- 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質 - ゼアラレノン類が、エストロゲン様活性を有する化合物である、請求項1記載のタンパク質。
- ゼアラレノン類が、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2記載のタンパク質。
- 毒性を抑制する作用が分解作用である、請求項1〜3のいずれか1項記載のタンパク質。
- 毒性を抑制する作用が、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものである、請求項1〜4のいずれか1項記載のタンパク質。
- pH6〜11で活性を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載のタンパク質。
- pH9〜10.5で活性を有する、請求項6記載のタンパク質。
- 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質 - 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA - 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質をコードするDNA - ゼアラレノン類が、エストロゲン様活性を有する化合物である、請求項8〜10のいずれか1項記載の遺伝子。
- ゼアラレノン類が、ゼアラレノン、α−ゼアラレノール、β−ゼアラレノール、α−ゼアララノール、β−ゼアララノール、2,4−O−ジメチル−δ−ヒドロキシゼアラレノン、6−アミノ−ゼアラレノン、ゼアララノン及び6−アセチル−β−ゼアラレノールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8〜11のいずれか1項記載の遺伝子。
- 毒性を抑制する作用が分解作用である、請求項8〜12のいずれか1項記載の遺伝子。
- 毒性を抑制する作用が、エストロゲン様活性を有しない化合物を生成するものである、請求項8〜13のいずれか1項記載の遺伝子。
- 請求項8〜14のいずれか1項記載の遺伝子を含む組換えベクター。
- 請求項15記載の組換えベクターを含む形質転換体。
- 大腸菌、酵母細胞及びイネ科植物細胞からなる群より選択される細胞に組換えベクターが導入された、請求項16記載の形質転換体。
- 請求項16又は17記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からゼアラレノン類の毒性を抑制する作用を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
- 請求項16又は17記載の形質転換体を含有する解毒剤。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載のタンパク質を含有する解毒剤。
- ゼアラレノン類に請求項19又は20記載の解毒剤を適用することを特徴とする、ゼアラレノン類の解毒方法。
- 請求項8〜14のいずれか1項記載の遺伝子を含むトランスジェニック植物。
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