JP2003261591A - 凍結乾燥安定剤 - Google Patents

凍結乾燥安定剤

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JP2003261591A
JP2003261591A JP2002064466A JP2002064466A JP2003261591A JP 2003261591 A JP2003261591 A JP 2003261591A JP 2002064466 A JP2002064466 A JP 2002064466A JP 2002064466 A JP2002064466 A JP 2002064466A JP 2003261591 A JP2003261591 A JP 2003261591A
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Koji Hayade
広司 早出
Wakako Tsugawa
若子 津川
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 新規な凍結乾燥安定剤、ならびにこれを用
いて凍結乾燥試料を製造する方法を提供すること。 【解決手段】 グルコシルウレイド化合物を含む凍結
乾燥安定剤の存在下で蛋白質等の試料を凍結乾燥させる
と、試料の保存安定性を高めることができる。好ましく
は、グルコシルウレイド化合物は、N−カルバモイル−
β−D−グルコピラノシルアミンまたはジグルコースウ
レイドである。また、酵素をこの凍結乾燥安定剤の存在
下で乾燥することにより製造される凍結乾燥酵素も提供
される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食品、医薬品、お
よび生化学の分野において用いられる凍結乾燥安定剤、
ならびに本発明の凍結乾燥安定剤を用いる凍結乾燥試料
の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】酵素やホルモンなどのタンパク質は診断
・検査薬、医薬品として広く利用されており、これらの
製品においては製造工程および保存期間中に生理活性が
損なわれないことが重要である。タンパク質の安定化の
ための一つの方法として凍結乾燥が一般的に行われてお
り、この場合にタンパク質水溶液に糖類などを凍結乾燥
安定剤として添加すると、凍結乾燥中ならびに乾燥後の
タンパク質を安定化できることが知られている。
【0003】この凍結乾燥安定剤によるタンパク質の安
定化機構については、糖アモルファスにタンパク質が包
埋されることによる安定化作用であると考えられてい
る。Suzuki Tら(Journal of Chemical Engineering Ja
pan. 1997; 30(4),609-613)は、凍結乾燥後の酵素活性
の経時変化について記載する。グルコース以外の糖を酵
素水溶液に添加した場合、糖無添加試料と比較して活性
が保持されており、糖の熱安定化効果が確認できた。し
かし、還元糖添加試料、特にグルコースにおいてはメイ
ラード反応によると見られる急激な活性低下が保存後初
期に見られた。Anchordoquyら(Archives of Biochemis
try and Biophysics. 2001; 390(1),35-41)は、糖は凍
結または凍結乾燥時に酵素の4次構造を維持し、安定化
していることを示した。
【0004】アモルファス構造は分子の規則的な配列を
持たないため、高い構造柔軟性を有しており、他分子を
容易に包埋することができる。このアモルファス中に蛋
白質などが閉じ込められると、アモルファス中では物質
の移動が極端に遅いため生理活性が長期間保存されると
考えられている(ガラス状態仮説)。しかしこのアモルフ
ァス構造は安定な相平衡状態ではなく、ガラス転移点(T
g)以上になると崩壊する。従って、糖アモルファスを安
定な状態で保存するためには試料温度をTg以下に保つ必
要がある。また、糖アモルファスのTgは吸湿により顕著
に低下するために保存時には乾燥状態を維持する必要が
ある。
【0005】また、水置換による安定化メカニズムの仮
説も提案されている。蛋白質は表面に多数の極性基を有
しており、水溶液中では蛋白表面に水和構造が形成さ
れ、立体構造と機能の維持に寄与していると考えられて
いる(Ohno K, et al., Journal of American Chemical
Society.. 2001; 123(33), 8161-8162)。糖類による
凍結や凍結乾燥における蛋白質の安定化効果は、糖分子
が複数の水酸基を持つことから蛋白質表面の極性基と水
素結合を形成し、その結果、結合水の代理をして構造や
機能を保つと考えられている。
【0006】いずれの場合も、糖のガラス転移点や水和
特性、糖-蛋白質間の水素結合度、試料中の糖の結晶化度
などが糖による蛋白質試料の安定性に関与していると考
えられている。
【0007】このような糖類の例として、トレハロース
が凍結乾燥安定剤として優れた特性を有することが知ら
れている。例えば、トレハロースを凍結乾燥剤として用
いたときにGDHの安定性が高まることが報告されてい
る(Koji Sode and Nozomu Yasutake, Biotechnology T
echniques , 11(8), 5770580 (1997))。トレハロース
はまた、蛋白質を凍結乾燥する際、蛋白質を保護する能
力を持つことが知られており、酵素、膜、ワクチン、動
物や植物の細胞や器官など生体分子の低温保護剤として
用いられている(Biotechnol.Annu.R
ev.,2:293−314,1996)。さらに、ト
レハロースは2分子のグルコースがα1,1結合している
ため還元末端を有しない。そのためメイラード反応など
の反応が起こらず、蛋白質と安定に共存できる。例え
ば、トレハロースを凍結乾燥保護剤として用いたとき、
グルコース脱水素酵素の凍結乾燥時の安定性が大幅に高
まることが見いだされている。
【0008】しかし、トレハロースは血液中に存在する
トレハラーゼにより加水分解されてグルコースを生じる
こと、およびG3DHの基質となるため、グルコースア
ッセイ用酵素および1,5−アンヒドロ−D−グルシト
ール分析用酵素の凍結乾燥安定剤として用いることはで
きなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明
は、新規な凍結乾燥安定剤、ならびにこれを用いて凍結
乾燥試料を製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、グルコシル
ウレイド化合物が新規な蛋白質凍結乾燥安定剤として有
用であることを見いだした。
【0011】すなわち、本発明は、グルコシルウレイド
化合物を含む凍結乾燥安定剤を提供する。
【0012】好ましくは、本発明のグルコシルウレイド
化合物は、次式:
【化3】 で表されるN−カルバモイル−β−D−グルコピラノシ
ルアミン(以下NCGと称する)である。
【0013】また好ましくは、本発明のグルコシルウレ
イド化合物は、次式:
【化4】 で表されるジグルコースウレイドである。
【0014】本発明はまた、本発明の凍結乾燥安定剤の
存在下で試料を乾燥することを特徴とする、凍結乾燥試
料の製造方法を提供する。本発明にしたがう凍結乾燥試
料の製造方法において、試料として用いられるものは、
例えば、蛋白質、好ましくは酵素、核酸関連化合物、多
糖類および細胞である。
【0015】本発明はまた、酵素を本発明の凍結乾燥安
定剤の存在下で乾燥することにより製造される凍結乾燥
酵素を提供する。好ましくは、酵素はピロロキノリンキ
ノン(PQQ)を補酵素とする酸化還元酵素、またはフ
ラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とす
る酸化還元酵素である。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明は、グルコシルウレイド化
合物を含む凍結乾燥安定剤を提供する。本明細書におい
て用いる場合、「グルコシルウレイド化合物」とは、ア
ルドペントースあるいはアルドヘキソースの1位が置換
を受けていない単糖類、またはケトヘキソースあるいは
ケトペントースの2位が置換をうけていない単糖類にお
いて、それぞれの単糖類の水酸基が尿素のアミノ基と脱
水縮合した構造を有する化合物を意味する。ここで、ア
ルドペントースの例には、D−リボース、キシロース、
アラビノースなどが含まれ、アルドヘキソースの例に
は、D−グルコース、ガラクトース、マンノースなどが
含まれる。ケトペントースの例には、リブロース、キシ
ルロースなどが含まれ、ケトヘキソースの例には、プシ
コース、フルクトース、ソルボース、タガトースが含ま
れる。
【0017】グリコシルウレイド化合物は多種存在し、
それらの化学合成法が報告されているが、それらの化合
物の応用範囲は限られたものである。例えば、グルコシ
ルウレイド化合物は古くに反芻動物の非タンパク質性窒
素源としての検討がなされ(R. J. Merry, et al., Br.
J.Nutr. 1982; 48, 275-286)、近年では腸内通過時間
を測定するためのトレーサーとして研究がなされている
(Douglas J. Morrison, et al., Rapid Communication
s in Mass Spectrometry. 2001; 15, 1279-1282)。し
かし、これら以外のグルコシルウレイド化合物の応用は
これまでに報告されておらず、グルコシルウレイド化合
物の生理的役割については知られていない。
【0018】NCG、ジグルコースウレイドにおいても
分子中のグルコースは還元末端を有しないため蛋白質と
安定に共存できる。また、NCG、ジグルコースウレイ
ド分子中のグルコースの水酸基はトレハロースと同様全
てエカトリアル結合をしているため水和特性が高いと考
えられる。従って凍結乾燥安定剤として用いた場合、蛋
白質表面において水分子の代理をし、蛋白質の構造、活
性を効果的に維持すると考えられる。
【0019】トレハロースはトレハラーゼにより加水分
解され、2分子のグルコースを生成する。これに対しグ
ルコシルウレイド化合物のN−グリコシド結合は生分解
を受けにくい。この点から、グルコースウレイド化合物
は、グルコースセンサーの素子として用いられるグルコ
ースデヒドロゲナーゼの凍結乾燥安定剤として好まし
い。
【0020】本発明の凍結乾燥安定剤において用いられ
るグルコシルウレイド化合物は、好ましくは次式:
【化5】 [式中、G1はアルドペントース、アルドヘキソース、
ケトヘキソースまたはケトペントースであり、G2は水
素またはアルドペントース、アルドヘキソース、ケトヘ
キソースまたはケトペントースであり、G2が水素では
ないとき、G1とG 2は同じであっても異なっていてもよ
い]で表される。
【0021】好ましくは、本発明のグルコシルウレイド
化合物は、次式:
【化6】 で表されるN−カルバモイル−β−D−グルコピラノシ
ルアミン(以下NCGと称する)である。
【0022】また好ましくは、本発明のグルコシルウレ
イド化合物は、次式:
【化7】 で表されるジグルコースウレイドである。
【0023】本発明において用いられるグルコシルウレ
イド化合物は、グルコースと尿素を酸性条件下で混合す
ることにより得ることができる。一例として、N−カル
バモイル−β−D−グルコピラノシルアミンは、既報
(R. J. Merry, et al., Br. J. Nutr. 1982; 48, 275-
286)にしたがい、グルコースと約3当量の尿素とを酸
性条件下、50℃で脱水縮合反応を進行させることによ
り得ることができる。また、ジグルコースウレイドは、
既報(M. H. Benn and A. S. Jones, Journal ofthe Ch
emical Society 3837-3841)にしたがい、グルコースと
約1/2当量の尿素とを酸性条件下、70℃で脱水縮合
反応を進行させることにより得ることができる。
【0024】本発明はまた、本発明の凍結乾燥安定剤の
存在下で試料を乾燥することを特徴とする、凍結乾燥試
料の製造方法を提供する。本発明の方法は、例えば、以
下の工程を有する。試料を水または適当な緩衝液に溶解
し、本発明の凍結乾燥安定剤を加える。適当な場合には
塩類、糖類、水溶性ポリマー等の添加物をさらに加えて
もよい。この水溶液を凍結させ、次に減圧下で乾燥させ
る。乾燥は低温下で、好ましくは−20℃より低い温度
で行う。さらに水分を除去するため、より高い温度、例
えば室温で二次乾燥を行うことが好ましい。
【0025】本発明にしたがう凍結乾燥試料の製造方法
において、試料として用いられるものは、例えば、蛋白
質、好ましくは酵素、核酸関連化合物、多糖類および細
胞である。本発明の凍結乾燥安定剤の存在下で酵素を凍
結乾燥することにより、解凍後に高い残存酵素活性を得
ることができる。
【0026】本発明はまた、酵素を本発明の凍結乾燥安
定剤の存在下で乾燥することにより製造される凍結乾燥
酵素を提供する。好ましくは、酵素はピロロキノリンキ
ノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド
(FAD)を補酵素とする酸化還元酵素であり、より好
ましくはグルコース脱水素酵素である。特に、本発明の
凍結乾燥安定剤は分解によりグルコースを生成しないた
め、グルコースアッセイ用のGOD、GDH等の酵素の
凍結乾燥安定化剤として非常に有用である。
【0027】
【実施例】以下の実施例により本発明をさらに具体的に
説明するが、本発明は実施例によって限定されるもので
ははない。以下の実施例においては、2種類のグルコー
スウレイド化合物、すなわちN−カルバモイル−β−D
−グルコピラノシルアミン(NCG)およびジグルコー
スウレイド(diGU)の合成および蛋白質凍結乾燥安
定剤としての効果が記載される。
【0028】実施例1 NCGの合成 合成は既報(R. J. Merry, et al., Br. J. Nutr. 198
2; 48, 275-286)に基づいて1/10スケールで行った。50
0mlナスフラスコ中でグルコース0.6mol(108g)と尿素1.8
mol(108g)を5%硫酸500mlに溶解し、酸性条件下、50℃の
オイルバス中で6日間撹拌することにより脱水縮合反応
を進行させた。この間1日に2回ナスフラスコを振り撹拌
した。その後ロータリーエバポレーターで溶液を約100m
lに濃縮しメタノールを300ml加え撹拌した後、12時間4
℃で冷却することにより溶液中のNCGを結晶化させ
た。溶液中の不溶物をろ過により可溶物と分離すること
により尿素を除去した。結晶をメタノール500ml中に溶
解し、不溶物をろ過により可溶物と分離した。この操作
を2回行うことにより未反応グルコースを除去した。得
られた不溶物を乾燥させた後、沸騰エタノール150ml中
に4時間溶解し、ろ過により不溶物を可溶物と分離し
た。この操作を5回行うことにより残存グルコースを除
去した。得られた不溶物を乾燥させ、生成物を得た。13 C-NMR (500 MHz), 60.6 (C6), 69.3 (C4), 71.9 (C
2), 76.5 (C3), 77.0 (C5), 80.9 (C1), 160.6 (C=O);
m/z 223.3
【0029】実施例2 ジグルコースウレイドの合成 合成は既報(M. H. Benn and A. S. Jones, Journal of
the Chemical Society. 3837-3841)に基づいて行っ
た。グルコース177mmol(31.8g)、尿素82mmol(5.0g)を5
%硫酸20mlに溶解し、70℃のオイルバス中で18時間撹拌
して脱水縮合反応を進行した。その後冷却し、蒸留水20
mlを加え、炭酸バリウムを加えることにより溶液を中和
した。沈殿した硫酸バリウムをろ過により除去した。
【0030】このろ液を凍結乾燥し、シリカゲルカラム
を通して精製した。カラムにシリカゲルを約400gつめ、
Bed volume 500mlとし、30フラクションを得た(溶離液;
CHCl3:MeOH:H2O=6:4:0.7 →6:4:0.8 → 6:4:0.9→MeO
H)。得られたフラクションについてTLCをおこない(展開
溶媒; CHCl3:MeOH:H2O=6:4:1)、ジグルコースウレイド
を含むフラクションをさらに逆相カラムで精製した。こ
こではODSをカラムに約200gつめ、Bed volume 250mlと
し、5フラクションを得た(溶離液; H2O)。得られたフラ
クションについてTLCをおこなった(展開溶媒; CHCl3:Me
OH:H2O=5:5:1)。ジグルコースウレイドを含むフラクシ
ョンを凍結乾燥し、白色の試料8007mg (20.9mmol)を得
た。1 H-NMR (500 MHz), 3.20 (t, 2,2'), 3.22 (t, 4.4'),
3.34 (ddd, 5,5'), 3.36(t, 3,3'), 3,53 (dd, 6a,6'
a), 3.71 (dd, 6b,6'b), 4.70 (d, 1,1'); 13C-NMR (50
0 MHz), 60.9 (6,6'), 69.7 (4,4'), 72.2 (2,2'), 76.
8 (3,3'), 77.5 (5,5'), 81.2 (1,1'), 159.4 (C=O); m
/z 385.3; C13H24O11N2・1/2H2O; 実験値(C,39.5; H,6.
9; N,6.3%), 理論値(C,39.7; H,7.1; N,6.4%)
【0031】ヘキソキナーゼ法によるグルコース測定用
キットにより、合成物中に混入しているグルコースの定
量を行った。検体3μlに酵素液A(グルコース-6-リン酸
脱水素酵素、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチ
ドリン酸酸化型(NADP)2.51mg/ml他を含む溶液320μlを
加えて撹拌し、37℃で5分間予備加温した。その後,酵素
液B(ヘキソキナーゼ11μl他を含む溶液80μlを加えて撹
拌し、37℃で5分間加温後、340nmにおいてβ-ニコチン
アミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)の
増加量を測定することにより検体中のグルコース量を求
めた。また、ウレアーゼ-グルタミン酸脱水素酵素法に
よる尿素測定用キットにより、合成物中に混入している
尿素を測定したが、尿素は検出されなかった。
【0032】実施例3 凍結乾燥標品の調製 水溶性PQQGDHは既報(K.Sode et al., Enz. Micr
obiol. Technol., 26, 491-496(2000))に従いAcinetob
acter calcoaceticus由来水溶性PQQGDHを大腸菌
を用いて組換え生産した試料を10mMMOPS緩衝液
(pH7.0)に溶解したものを用いた。FADを補酵
素とするGDHとしてはBurkhorderia属由来のFADを
補酵素とするGDHの触媒サブユニットを10mMMO
PS緩衝液(pH7.0)に溶解したものを用いた。
【0033】容積2mlのバイアル瓶にPQQGDH 0.091U(0.0
5μg 蛋白質)またはFADGDH 0.121U(0.6μg蛋白質)と種
々の濃度の安定剤を添加し、10mM MOPS 緩衝液(pH7.0)
で全量を120μlに調製した。この試料はフリーザー中、
-80℃で30分間凍結した。その後、凍結サンプルを-40℃
に氷冷したチャンバーに移し、133×10-3 Bar以下、-30
℃で6時間1次乾燥を行った(Ramp 0.5℃/min)。その後、
133×10-3 Bar以下、28℃で6時間2次乾燥を行った(Ramp
0.5℃/min)。バイアル瓶は真空条件下で封栓し、さら
にアルミシールで密閉し、以下の実験に用いた。凍結乾
燥試料の復水は120μlのミリQ水を用いた。
【0034】PQQGDH活性測定は、終濃度1.1μMPQQ、1.1
mM CaCl2存在下で室温で30分間ホロ化し、活性試薬にPM
S、DCIP(それぞれ終濃度40mM、4mM)を、基質にはグルコ
ース(終濃度12.5mM)を用い、DCIPの退色速度を波長600n
mで測定することにより行った。
【0035】FADGDHの活性測定は以下のように行った。
基質としてはグルコース(終濃度40mM)を用いた。復水試
料4μlとPMS、DCIP(それぞれ終濃度6mM、0.6mM)20μlを
混合し、40℃で1分間プレインキュベートした。次に1M
グルコース1μlを添加し(終濃度40mM)、40℃で2分間イ
ンキュベートすることにより反応を進行させ、7.5M尿素
120μlを加えることにより反応を止めた。DCIPの退色を
波長600nmで測定し、FADGDHの活性を算出した。
【0036】実施例4 蛋白質の凍結乾燥安定化 ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするグルコ
ース脱水素酵素(GDH)を用いて、本発明の化合物の
蛋白質凍結乾燥安定化作用を調べた。Acinetob
acter calcoaceticus 由来PQQ
GDHを、Mol.Gen.Genet.(198
9),217:430−436に記載の遺伝子配列に基
づいて、組換え大腸菌で生産した。菌体を破壊して得た
水溶性画分を陽イオンクロマトグラフィーにより精製す
ることにより調製した。この酵素を、終濃度5μM P
QQ、1mMCaCl2の存在下で室温で1時間インキ
ュベートすることによりホロ化した。次に、本発明の化
合物を終濃度50mMとなるように加え、試料を60μ
Lずつ分注し、−80℃で凍結した。対照としては本発
明の化合物を添加せずに酵素を凍結した。次に、凍結酵
素をデシケータ中で、10Pa、0℃で12時間乾燥し
た。この凍結乾燥酵素を4,28,45または70℃で
1時間熱処理した後、酵素の残存活性を測定した。酵素
活性の測定は、10mMリン酸緩衝液pH7.0中にお
いてPMS(フェナジンメトサルフェート)−DCIP
(2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)を用
い、DCIPの600nmの吸光度変化を分光光度計を
用いて追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度
とした。このとき、1分間に1μmolのDCIPが還
元される酵素活性を1ユニットとした。また、DCIP
のpH7.0におけるモル吸光係数は16.3mM-1とし
た。
【0037】測定したいずれの温度においても、本発明
の化合物を添加したものは、対照と比較して酵素の残存
活性が高かった。すなわち、本発明の化合物は、酵素の
凍結乾燥安定化作用を有することがわかった。
【0038】実施例5 NCG、ジグルコースウレイド添加凍結乾燥酵素の安定
性 蛋白質試料としてPQQGDHを、安定剤としてNCG、ジグ
ルコースウレイド、トレハロース、ソルビトール、マン
ニトール、硫酸アンモニウム、ベタインを用いた。これ
らの安定剤は終濃度0-100mMに調製した。実施例3に示
した方法で凍結乾燥試料を調製した。
【0039】試料を凍結乾燥後すぐに復水し、PQQGDH残
存活性を測定した結果を図1に示す。5mM(0.23mg/120μ
l)、7.5mM(0.45mg/120μl)ジグルコースウレイド添加試
料において残存活性は100%であった。NCGとトレハロ
ースは共に15mM(それぞれ0.34mg/ml、0.45mg/ml)添加試
料において残存活性が最も高く、61%であった。他の安
定剤を用いた場合では、15mM(0.33mg/120μl)ソルビト
ール添加時に35%、60mM(1.31mg/120μl)マンニトール
添加時に44%、60mM(0.95mg/120μl)硫酸アンモニウム
添加時に13%、20mM(0.28mg/120μl)ベタイン添加時に2
5%の残存活性を示した。用いた化合物により安定剤と
しての効果が最適となる添加濃度は異なっていた。用い
た化合物中でジグルコースウレイドによる安定化効果が
最も高く、また最適な添加濃度が最も低かった。
【0040】実施例6 NCG、ジグルコースウレイド添加凍結乾燥酵素の熱安
定性 蛋白質試料としてPQQGDHを用いた。終濃度15mM NCG、
7.5mM ジグルコースウレイド、15mMトレハロースを含む
試料をバイアル瓶中に調製し、実施例3に示した方法で
凍結乾燥試料を調製した。これらの試料を30、40、50、
60、70、80℃の各温度で1時間熱処理をした後、試料中
のPQQGDH残存活性を測定した。結果を図2に示す。全て
の試料においてPQQGDH残存活性は熱処理温度によらず、
凍結乾燥直後の残存活性をほぼ保っていた。80℃と高温
でも、1時間の熱処理では試料中のPQQGDHはほとんど失
活せず安定であることが示された。
【0041】実施例7 NCG、ジグルコースウレイド添加凍結乾燥酵素の保存
安定性 蛋白質試料としてPQQGDHを用い、終濃度15mM NCG、
7.5mM ジグルコースウレイド、15mMトレハロースを含む
試料をバイアル瓶中に調製し、実施例3に示した方法で
凍結乾燥試料を調製した。これらの試料を-20℃、4℃、
28℃、70℃で一定期間保存後、試料中のPQQGDHの残存活
性を測定した。また、比較として安定剤を含まない標品
も同様に調製し、それぞれの温度で一定期間保存後、試
料中のPQQGDH残存活性を測定した。
【0042】安定剤無添加の試料では凍結乾燥後に残存
活性が25.2%まで低下した。それに対し、ジグルコース
ウレイド、NCG、トレハロース添加試料では凍結乾燥
中及びその後の保存時にGDH残存活性が向上していた。ジ
グルコースウレイドを添加した試料では-20℃または4℃
で保存した際には30日後でも95%以上の残存活性を示し
ていた。
【0043】また、蛋白質試料としてFADGDHを用い、バ
イアル瓶中に安定剤濃度3mg/mlとなるように実施例3に
示した方法で凍結乾燥試料を調製した。安定剤として検
討した化合物はNCG(3mg/ml; 13.5mM)、ジグルコース
ウレイド(3mg/ml; 7.8mM)、トレハロース(3mg/ml; 8.8m
M)である。これらの凍結乾燥試料を-20℃で一定期間保存
後、試料中のFADGDH残存活性を測定した。また、比較と
して安定剤を含まない標品も同様に調製し、それぞれの
温度で一定期間保存後、試料中のFADGDH残存活性を測定
した。
【0044】凍結乾燥後の標品中のFADGDH残存活性はト
レハロース、NCG、ジグルコースウレイドを安定剤と
して用いた場合に約70%であった。また、これらの安定
剤を加えずに凍結乾燥した場合の標品中の残存活性は21
%であった。
【0045】すなわち、本発明の凍結乾燥安定剤は、ト
レハロースと同様またはそれ以上の長期保存安定化効果
を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の凍結乾燥安定剤を用いた凍
結乾燥酵素の安定性を示す。
【図2】 図2は、本発明の凍結乾燥安定剤を用いた凍
結乾燥酵素の熱安定性を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61K 47/26 A61K 37/48 C12N 9/04 37/50 Fターム(参考) 4B050 CC10 HH03 KK11 4C057 AA03 AA17 BB02 BB03 CC03 DD01 JJ13 4C076 AA29 DD69 GG06 4C084 AA03 DC01 DC23 MA44 NA03

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 グルコシルウレイド化合物を含む凍結乾
    燥安定剤。
  2. 【請求項2】 前記グルコシルウレイド化合物が次式: 【化1】 で表されるN−カルバモイル−β−D−グルコピラノシ
    ルアミンである、請求項1記載の凍結乾燥安定剤。
  3. 【請求項3】 前記グルコシルウレイド化合物が次式: 【化2】 で表されるジグルコースウレイドである、請求項1記載
    の凍結乾燥安定剤。
  4. 【請求項4】 試料を、請求項1−3のいずれかに記載
    の凍結乾燥安定剤の存在下で乾燥することを特徴とす
    る、凍結乾燥試料の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記試料が蛋白質である、請求項4記載
    の方法。
  6. 【請求項6】 前記試料が酵素である、請求項4記載の
    方法。
  7. 【請求項7】 前記試料が、核酸関連化合物、多糖類お
    よび細胞からなる群より選択される、請求項4記載の方
    法。
  8. 【請求項8】 酵素を請求項1−3のいずれかに記載の
    凍結乾燥安定剤の存在下で乾燥することにより製造され
    る凍結乾燥酵素。
  9. 【請求項9】 前記酵素がピロロキノリンキノン(PQ
    Q)を補酵素とする酸化還元酵素である、請求項8記載
    の凍結乾燥酵素。
  10. 【請求項10】 前記PQQを補酵素とする酸化還元酵
    素がグルコース脱水素酵素である、請求項9記載の凍結
    乾燥酵素。
  11. 【請求項11】 前記酵素がフラビンアデニンジヌクレ
    オチド(FAD)を補酵素とする酸化還元酵素である、
    請求項8記載の凍結乾燥酵素。
  12. 【請求項12】 前記FADを補酵素とする酸化還元酵
    素がグルコース脱水素酵素である、請求項11記載の凍
    結乾燥酵素。
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