JP2003253378A - 常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板 - Google Patents
常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板Info
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Abstract
を提供する。 【解決手段】質量%で、C:0.001〜0.2%、
N:0.0001〜0.2%、C+N:0.002〜
0.3%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.0
1〜1%、P:0.001〜0.1%、S:0.05%
以下、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.001
〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%を含有し、残
部が鉄および不可避的不純物からなり、かつ、鋼中に直
径1〜10nmの超微細析出物を1×1017個/cm3以
上の密度で含むことを特徴とする常温遅時効性と焼付硬
化性に優れた薄鋼板。さらに、該薄鋼板が質量%で、M
o:0.005〜0.25%、Cr:0.005〜1.
0%、W:0.005〜1.0%の1種または2種以上
を含有することが好ましい。
Description
付硬化性に優れた薄鋼板に関する。
板板厚の減少が要望され、自動車用鋼板の高強度化が検
討されてきた。しかし、鋼板の高強度化は鋼板のプレス
成形性を劣化させる傾向があり、プレス成形性に優れた
高張力鋼板が要望されていた。このようなプレス成形性
と高強度化を両立させた鋼板として、塗装焼付硬化型自
動車用鋼板が開発されている。この鋼板はプレス成形後
に、通常150℃〜200℃の高温保持を含む塗装焼付
処理を施すことにより、降伏応力が上昇する鋼板であ
る。鋼中に固溶Cまたは固溶Nを存在させることによっ
て、塗装焼付け処理時の高温加熱でCまたはNがプレス
成形時に導入された転位に固着して転位の移動を妨げ、
降伏応力が上昇する。この上昇分が焼付硬化量(BH
量)である。
増やすことによって増加する。このような硬化機構の問
題点は次の点にある。BH量を上げるために、固溶C量
または固溶N量を増加すると成形前に既に一部の転位が
固溶Cまたは固溶Nにより固着され(常温時効)、プレ
ス成形時に降伏点伸びによるストレッチャーストレイン
と呼ばれる波状の表面欠陥を生じる。これは製品特性を
著しく劣化させることになる。この常温時効の問題を解
決し、耐時効性に優れた高い塗装焼付硬化性を有する薄
鋼板を実現することは長年の課題であった。
−300623号公報はNbおよびAl添加量を制御
し、焼付硬化性および耐時効性を実現する方法が開示さ
れている。この方法では固溶N量、固溶C量を適量にし
て耐時効性を得ようとする方法であり、BH量を上げる
ために固溶C量を増やすと時効劣化が生じることにな
り、高い焼付硬化特性を有する鋼を製造することはでき
ない。特開2000−17386号公報にはMoを適量
添加することで、鋼中に室温で安定なMo−Cダイポー
ルを形成し、常温時効性と焼付硬化性を同時に得る方法
が開示されている。しかし、これらの特性発現に寄与す
るCおよびNの挙動についてはモデルが提案されている
に留まっており、十分な材料設計指針がなく、更なる高
いBH特性の実現や、焼付温度の低下などの課題に十分
に対応できていないのが現状である。
はNb/C比を最適にすることで、耐時効性に優れた冷
延鋼板を製造する方法が開示されている。NbCを微細
分散することで結晶粒を微細化し、粒界C量を増やすこ
とを述べているが、この方法では焼付硬化量を上げた場
合(BH量>60MPa)、降伏点伸びが現われ常温時
効性が保たれなくなる。
現状に鑑み、常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板
を提供するものである。
を超微細析出物として鋼中に固定しておくことにより、
常温遅時効性と焼付硬化性のいずれにおいても優れた薄
鋼板とすることができることを見出し、この超微細析出
物の満たすべき要件を特定することによって、本発明を
完成させたもので、その要旨とするところは以下の通り
である。 (1)質量%で、C:0.001〜0.2%、N:0.
0001〜0.2%、C+N:0.002〜0.3%、
Si:0.001〜0.1%、Mn:0.01〜1%、
P:0.001〜0.1%、S:0.05%以下、A
l:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.1
%、Nb:0.001〜0.1%を含有し、残部が鉄お
よび不可避的不純物からなり、かつ、鋼中に直径1〜1
0nmの超微細析出物を1×1017個/cm3以上の密度
で含むことを特徴とする常温遅時効性と焼付硬化性に優
れた薄鋼板。
25%、Cr:0.005〜1.0%、W:0.005
〜1.0%の一種または2種以上を、さらに含有するこ
とを特徴とする前記(1)に記載の常温遅時効性と焼付
硬化性に優れた薄鋼板。 (3)前記超微細析出物が炭化物、窒化物、炭窒化物の
いずれか1種または2種以上からなることを特徴とする
前記(1)または(2)に記載の常温遅時効性と焼付硬
化性に優れた薄鋼板。 (4)前記炭化物、窒化物、炭窒化物がTiの炭化物、
窒化物、炭窒化物であることを特徴とする前記(3)に
記載の常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板。
1〜10nmと非常に小さいため、通常の析出物と区別
して超微細析出物と記載する。なお、超微細析出物は、
炭化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの集合体である
と考えられ、炭化物、窒化物、炭窒化物として、結晶質
であるか非晶質であるか、また、定比であるか不定比で
あるかは問わない。そのため、例えばTiの炭化物、窒
化物、炭窒化物またはこれらの集合体としてTi(N,
C)のように記載し、これはTiおよびCとNの組成比
を示しているものではない。
うな超微細析出物に格子間原子であるCまたはNを固定
(トラップ)させることで、室温での常温時効を防い
で、焼付硬化型鋼板における常温遅時効性を向上させる
一方、150〜200℃の塗装焼付温度においてトラッ
プから脱離し拡散によって転位位置に移動し転位を固着
させることで、高い焼付硬化性をも同時に実現させたこ
とである。フェライト鉄中のCおよびNは室温での固溶
度が小さく、エネルギー的に安定な位置に偏析濃化する
傾向がある。この偏析サイトとして、粒界部、転位部な
どの結晶欠陥部が挙げられる。本発明者は、アトムプロ
ーブ電界イオン顕微鏡(Atom Probe Fie
ld Ion Microscope、以下AP−FI
Mと表記する)を使用し、この偏析サイトの詳細な研究
を行った。その結果、超微細析出物にC、Nが偏析濃化
することを突き止めた。超微細析出物のどの部分に偏析
濃化するかは明らかではないが、一つにはマトリックス
鉄との界面近傍と考えられる。
量は、析出物サイズに依存する。この偏析CまたはNを
転位固着に利用するためには、室温ではCまたはNが析
出物にトラップされ、焼付硬化温度でトラップサイトか
らCまたはNを脱離させなければならない。そのために
析出物サイズは最適なトラップエネルギーを有する超微
細析出物が有効となる。さらに焼付中にプレス成形によ
って導入された多量の転位にトラップサイトからCまた
はNを拡散供給するためには、これらのトラップサイト
が鋼中に高密度に存在し、かつ、分散していることが必
要となる。従ってトラップサイトとなる鋼中の超微細析
出物の数密度としては、少なくとも1×1017個/cm3
が必要であり、5×1017個/cm3以上の数密度が好ま
しく、さらに、1×1018個/cm3以上の数密度がより
好ましい。1×1017個/cm3未満であると、焼付温度
において偏析したCまたはNがプレス成形により導入さ
れた多量の転位にむらなく固着することができなくなる
ため、耐時効性または焼付硬化性は低下する。ここでは
数密度の上限を定めていないが、一般に1×1020個/
cm3を超える高密度の析出物の分散化は鋼強度を高め
ることになるため、成形性が問題となる場合がある。
直径1〜10nmが好ましい。ここで1nmより小さい
と、CまたはNの有効なトラップサイトとはならない。
一方で10nmより大きいと、CまたはNのトラップサ
イトとはなるが、1×1017個/cm3以上の数密度を実
現するためにはそれだけ多くの成分を鋼に添加しなけれ
ばならず、固溶強化、分散強化によって鋼の成形性を著
しく低下させる要因となってしまう。本発明では超微細
析出物の種類を限定するものではないが、CまたはNの
トラップサイトとして利用する超微細析出物としては炭
化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの混合物が好まし
い。これはCとNは拡散係数が大きいためその炭化物、
窒化物、炭窒化物は微細分散させやすく、CまたはNの
トラップサイトとして有効に利用しやすいためである。
の炭化物、窒化物、炭窒化物が最も好ましい。その理由
は、Tiは適当なトラップエネルギーを有する1〜10
nmの超微細析出物を形成しやすくするためである。本
発明における成分限定理由は以下の通りである。なお、
%は質量%を表す。CおよびNは焼付硬化性を発現させ
る上で重要な元素であり、C+N量0.002%以上含
有することが必須である。しかしC+N量が多すぎると
固溶量が増し、常温時効性を確保することが困難になる
ため上限を0.3%とした。
%以上としたのは、これ未満への低減は製鋼での多大な
コストアップになるばかりでなく、高い焼付硬化性を得
られないからである。さらに炭素物、窒化物からなる超
微細析出物を高密度で作ることができなくなるためであ
る。一方、C:0.2%以下、N:0.2%以下とした
のは、これらの値を超えると強度が高くなり過ぎ加工性
を損なうためである。Mn、Si、Pは薄鋼板として必
要とされる強度を得るためにかかせない基本成分であ
る。Mn:0.01%、Si:0.001%、P:0.
001%を下回ると強度が不足する。Mn:1%、S
i:0.1%、P:0.1%を超えると強度が高くなり
すぎ加工性を損なうため、これらを上限値とする。
赤熱脆化を起こし表面で割れる、いわゆる熱間脆化をお
こすことがあるため、0.05%以下とする必要があ
る。Alは脱酸剤として必要な元素であり0.001%
以上必要であり、0.1%以下としたのはそれを超えて
添加すると強度が高くなり加工性を損なうためである。
Tiは本発明の超微細析出物の形成に用いることのでき
る元素の一つであり、過剰なC、NやSを固定して時効
性を確保するために0.001%以上必要である。上限
を0.1%としたのは、それを超えて添加すると再結晶
温度が上昇しまた加工性の劣化を招くためである。
形成に用いることのできる元素の一つである。その下限
を0.001%としたのはそれ未満では時効性を確保す
ることが困難になるためであり、上限を0.1%とした
のはそれを超えて添加すると再結晶温度が上昇しまた加
工性の劣化を招くためである。Mo、Cr、Wは、その
メカニズムの詳細は明らかでないが、鋼中の析出物を微
細分散させる効果がある。すなわち、これらの1種また
は2種以上を添加することによって本発明の超微細析出
物を形成するための条件を緩和できる。各元素の添加量
の下限を0.005%としたのはそれ未満ではこの効果
が得られないからであり、上限をMoについては0.2
5%、CrとWについては1.0%としたのはそれを超
えると強度が高くなって加工性を損なうばかりでなく、
高価なため合金コストが上がるためである。
1×1017個/cm3以上の数密度に分散させるために
は、例えば焼鈍を特定の条件で行うことにより実現でき
る。一般に焼鈍の冷却速度を遅くすると析出する炭化物
または窒化物のサイズが大きくなり数密度は小さくな
る。反対に冷却速度を大きくすると析出する炭化物また
は窒化物のサイズが小さくなり数密度は大きくなる。し
かしこの場合CまたはNの固溶量が増加するため、適当
な過時効処理(OA)が有効となる。超微細析出物を高
密度に分散させるためには、鋼中の成分とその濃度によ
って焼鈍条件を選び出す必要がある。
圧延後、焼鈍条件を限定することによって可能である。
焼鈍は800℃以上Ac3温度以下で保持した後、10
〜100℃/sの冷却速度で冷却する。800℃以上の
温度に保持するのは、一旦C、Nを固溶させるためであ
り、この温度未満では、通常の析出物の形で残存してし
まう。また、変態を避けるためAc3温度以下とする。
保持時間は、十分な効果を得るため1分以上が好まし
い。冷却速度は10℃/sを下回ると析出物の大きさが
10nmを上回り易くなり、一方100℃/sを超える
と固溶したままとなり、析出物を生じにくくなる。
明したが、上記の通りMoにはこの条件を緩和する効果
があるなど、鋼成分によって、本発明の鋼板を製造する
条件は異なるため、AP−FIMで解析した結果に基づ
いて、製造方法を確定することが望ましい。AP−FI
Mを用いた原子存在状態の解析は以下のように行う。こ
の装置は透過電子顕微鏡(TEM)では観察不可能な原
子存在形態を結晶格子レベルの分解能で調べることがで
きる。針状研磨加工した試料に高電圧を印加し電界蒸発
したイオンの飛行時間を測定することにより質量電荷比
を求め、構成原子を決定する。これにより鋼中の析出物
の組成、偏析原子などを正確に調べることができる。さ
らに測定データの取り込み順から鋼中の存在位置も同時
に決定することができる。
おける粒内マトリックス測定の結果の一例をラダーチャ
ートによって示した。ラダーチャートでは、横軸は検出
原子総数、縦軸は目的の原子の積算数を表わしている。
従ってグラフの傾きは目的の原子の濃度に相当し、偏析
濃化した部分では傾きが大きくなる(図中矢印)。横軸
は検出イオン取り込み順に相当するため、試料の深さ位
置(空間座標)を表わすことになる。C原子はTiNお
よびTiと共に超微細析出物を形成していることがわか
る。優れた耐時効性が発現した鋼板において、粒内に1
×1017個/cm3以上の分散した超微細析出物が観察さ
れた。
マトリックス測定を多数回行いその中に観察された超微
細析出物数から求めた。AP−FIMでは一度の測定に
おける測定領域が小さく、超微細析出物が観察されない
場合はその数密度が小さいことを意味する。1回の測定
で測定できる原子数は1×105個とすると、超微細析
出物密度が1×1017個/cm3未満の場合、AP−FI
M数回の測定では自然確率的に超微細析出物を観察する
ことは困難になる。従って、AP−FIMによる任意方
向のマトリックス測定によって超微細析出物が観察され
ない場合は、平均密度は1×1017個/cm3未満と判断
する。またTEMでは観察領域が大きいため、もっと低
密度の析出物を調べることはできるが、10nm以下の
超微細析出物は分解能の点から観察困難になる場合が多
い。
数から見積もることができる。電界蒸発によって原子は
原子層ごとに蒸発し、測定される1原子層はプローブホ
ールサイズ、結晶面方位、針試料先端曲率半径等に依存
するが、一般に50〜200原子に相当する(軽金属(1
992)P236-247)。析出物が何原子層に及んでいるかを調
べることによって、析出物サイズを見積もることができ
る。例えば図1においては、約10原子層に及んでお
り、2nm程度の析出物とみなせる。
う。常温時効性は40℃の雰囲気に70日保持し引張試
験を行い、この時の降伏点伸び(YP−El)を測定す
ることによって調べることができるが、ここでは代わり
に100℃×1時間の人工加速試験によって耐時効性を
評価した。このYP−El値が0.4%以下を良好とし
た。また、焼付硬化性の測定は、薄鋼板を2%引張り1
70℃にて20分保持した後の降伏応力(YP)を測定
し、先に2%引張試験を行った時の強度の差すなわちB
H量として評価した。本発明の薄鋼板は熱延鋼板、冷延
鋼板のどちらでもかまわない。さらに熱間圧延工程、冷
間圧延工程は特に限定されるものではない。次に実施例
によって本発明の作用効果をさらに具体的に説明する
が、それらは単に例示のためであって、それによって本
発明は不当に制限されることはない。
製した。なお、化学成分の%は質量%を表す。
延を行い、その後焼鈍を行い冷延鋼板とした。
x.Cとは添加C量からTiとNbによって析出させた
量を差し引いた値で、表に示した式によって見積もっ
た。
表2に記載した各製造条件で冷延鋼板を製造した。熱間
圧延の仕上温度は900℃、巻き取り温度は600〜7
00℃とした。また冷間圧延率は70〜80%とし、
0.8mm厚に冷間圧延した。冷間圧延後、800〜8
20℃で3分の焼鈍処理を行い、種々の冷却速度で冷却
させた。さらにいくつかのものについては過時効処理
(OA)を施した。焼鈍済みの鋼板に1%の調質圧延を
行い冷延鋼板とした。表3に製造した鋼板(鋼板1〜
9)の機械的特性の結果と、AP−FIMによって調べ
た超微細析出物の平均数密度を示す。鋼種cにおいては
Eの製造条件(鋼板5)において、5×1017個/cm
3の超微細析出物が観察され、良好なBH特性、耐時効
性を同時に示した。また鋼種eにおいても、Eの製造条
件において、超微細析出物が観察され良好な耐時効性を
示した。それ以外の条件では、析出物密度が小さくまた
はサイズが10nm超と大きくなっており、BH量は良
好であったが耐時効性は良くなかった。BH特性および
耐時効特性は、高い密度の超微細析出物が観察されたE
の製造条件において最も優れていた。
分散させた鋼を製造することによって、高いBH特性と
優れた耐時効性を同時に実現できている。 (実施例2)表1のように成分調整された鋼(鋼種a〜
h)を表2の製造条件Bによって冷延鋼板とする(鋼板
10〜17)。熱間圧延の仕上温度は900℃、巻き取
り温度は650℃とした。また冷間圧延率は70%と
し、0.8mm厚に冷間圧延した。冷間圧延後、800
℃で1分の焼鈍処理を行った。焼鈍済みの鋼板に1%の
調質圧延を行い冷延鋼板とした。
El値は100℃×1時間の促進時効によって調べた。
ex.C量が多い鋼ほど、BH値が高く現われており、
ex.Cが0.003%以上の鋼では60MPa以上の
高いBH値が得られている。これらの鋼の耐時効性を降
伏点伸びにより評価すると、Moを十分な量添加した鋼
板10、15については優れた耐時効性を示している。
また、Moを微量添加した鋼板11、13、さらにCr
とWを添加した鋼板17においても、耐時効性を示して
いる。一方、Moを無添加とした鋼板12、14、16
では大きな降伏点伸びが現われており耐時効性が得られ
ていない。遅時効性を示した鋼板には鋼中に超微細析出
物がAP−FIMによって観察できたことから、これが
遅時効性に影響したものと考えられる。
0.0037%添加し、製造条件Bで製造した鋼板10
と、同じC量を有しMo無添加の鋼板12について、詳
細な比較を行った。鋼板10の場合、超微細析出物数密
度は1×1018個/cm3で、BH量は60MPaを超
えているが、降伏点伸びは0.1%以下と極めて良好な
常温遅時効性を示した。一方、鋼板12では、超微細析
出物数密度は観察されず(1×1017個/cm3未満と
判断される)、BH量は60MPaを超えているが、Y
P−El値は1.0%以上で、常温遅時効性はみられな
かった。またこの鋼ではプレス加工時にストレッチャー
ストレインが現われた。
時効性を示した鋼板10においてAP−FIMにより観
察された超微細析出物の原子組成の例を示す。
よびTi、Nの複合体からなりそのサイズは数nm以下
であった。その組成を調べると、C原子数が{(Ti原
子数)−(N原子数)}より多くなり、余剰Cの存在を
示した。すなわちこの超微細析出物はTiNまたはTi
Cの超微細析出物にCが偏析濃化したものである。偏析
したC量はTi(N,C)のサイズに依存し、十数原子
以上からなる超微細析出物においては余剰Cが数十原子
以上余分に存在していることがわかった。AP−FIM
ではイオンの検出率が60%程度であるため、実際の原
子数はこれよりも多くなる。さらにTiC析出物は一般
にTiCx(x≦1)の組成をもつため、ここでは余剰
C量を過小評価していることになる。
調べたところ、平均濃度で0.0005質量%以下とな
り、鋼中に含まれるCの多くは超微細析出物に偏析濃化
していることがわかった。次に、この鋼板10に2%引
張予歪を印加して170℃×20分焼付硬化させた試料
について同じ観察を行った。しかし、超微細析出物に化
学量論的に余分なCは測定されなかった。すなわち超微
細析出物に偏析濃化したCは焼付硬化過程で、転位に拡
散し、転位固着(コットレル雰囲気形成)の供給元とな
ったと考えられる。
2)についても同様の観察を試みたが、AP−FIMに
よるマトリックス測定によって鋼中に超微細析出物が観
察されなかった。これは析出物の数密度が1×1017個
/cm3未満であることを意味する。TEM観察を行った
ところ50nm以上の比較的大型のTi(N,C)析出
物が観察されたが、平均数密度では1×1012個/cm3
以下であった。次に、Moを十分添加した鋼種aについ
て、製造条件Dで製造した鋼板18と、製造条件Gで製
造した鋼板19について、詳細な比較を行った。条件D
により製造した鋼板18においては、優れたBH特性を
示したものの耐時効性は劣っており、超微細析出物は観
察されなかった。一方で同じ鋼種の条件Gにより製造し
た鋼板19においてはBH特性、耐時効性共に良好であ
り、超微細析出物数密度は2×1017個/cm3であっ
た。これらの結果は、Mo添加は優れたBH特性、優れ
た耐時効性を有する鋼板の製造条件の範囲を広げること
を示すものである。
密度に分散させ、それらにCまたはNを偏析濃化させる
ことで、常温時効を防ぎ、焼付硬化温度でトラップから
離脱したCまたはNにより転位を固着し鋼を強化したこ
とが示された。これにより、高い数密度の超微細析出物
を分散させた鋼を製造することによって、高いBH特性
と優れた耐時効性を同時に実現できている。
優れた薄鋼板が提供され、その産業上の価値は極めて高
いといえる。
内マトリックスのAP−FIM測定のラダーチャートを
示す図である。
Claims (4)
- 【請求項1】 質量%で、 C: 0.001〜0.2%、 N: 0.0001〜0.2%、 C+N:0.002〜0.3%、 Si:0.001〜0.1%、 Mn:0.01〜1%、 P :0.001〜0.1%、 S :0.05%以下、 Al:0.001〜0.1%、 Ti:0.001〜0.1%、 Nb:0.001〜0.1%を含有し、残部が鉄および
不可避的不純物からなり、かつ、鋼中に直径1〜10n
mの超微細析出物を1×1017個/cm3以上の密度で含
むことを特徴とする常温遅時効性と焼付硬化性に優れた
薄鋼板。 - 【請求項2】 質量%で、 Mo:0.005〜0.25%、Cr:0.005〜
1.0%、W:0.005〜1.0%の1種または2種
以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記
載の常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板。 - 【請求項3】 前記超微細析出物が炭化物、窒化物、炭
窒化物のいずれか1種または2種以上からなることを特
徴とする請求項1または2に記載の常温遅時効性と焼付
硬化性に優れた薄鋼板。 - 【請求項4】 前記炭化物、窒化物、炭窒化物がTiの
炭化物、窒化物、炭窒化物であることを特徴とする請求
項3に記載の常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼
板。
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Cited By (4)
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