JP2003240672A - ラケットの振動特性評価方法、及びラケットの振動特性評価装置 - Google Patents

ラケットの振動特性評価方法、及びラケットの振動特性評価装置

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JP2003240672A
JP2003240672A JP2002039019A JP2002039019A JP2003240672A JP 2003240672 A JP2003240672 A JP 2003240672A JP 2002039019 A JP2002039019 A JP 2002039019A JP 2002039019 A JP2002039019 A JP 2002039019A JP 2003240672 A JP2003240672 A JP 2003240672A
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vibration
ball
hitting
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Yumi Kanemitsu
由実 金光
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Sumitomo Rubber Industries Ltd
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Sumitomo Rubber Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 実際のラケット使用時の振動特性、即ち、各
種振動モードが混在するラケットの複雑な振動特性を正
確に評価する。 【解決手段】 ラケットへのボールの衝突により実打時
と同等の衝撃をラケットに与え、衝突時にラケットに生
じる加速度を、0Hz以上1000Hz以下の周波数領
域の加速度と、300Hz以上1000Hz以下の周波
数領域の加速度とに分けて計測し、計測により得られた
各加速度の時刻歴データより各加速度の減衰比を算出
し、周波数領域の異なる各加速度の減衰比を用いて、実
打時にラケットに生じる振動特性を評価する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ラケットの振動特
性評価方法、及びラケットの振動特性評価装置に関し、
詳しくは、ラケットによるボールの実打時に、ラケット
に生じる振動特性を精度良く評価するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ラケットの振動特性を評価する方
法として、これまでラケットに加速度ピックアップを貼
り付けて、インパクトハンマーで加振する方法が用いら
れている。具体的には、インパクトハンマーに取り付け
たフォースピックアップで計測した入力振動(F)と加
速度ピックアップで計測した応答振動(α)をアンプを
介して周波数解析装置により解析し、周波数領域での伝
達関数を求めて減衰比を下記の数式によって求めてい
る。 ζ=(1/2)×(△ω/ωn) T=Tn/√2
【0003】上記したインパクトハンマーを用いた測定
方法の利点は、ラケットの各振動モード(面外1次、面
外2次、ねじれ、面内1次、面内2次、面内3次)につ
いて、それぞれ単独に減衰比を計算できることである。
例えば、ダイナミックダンパーのようにラケットのある
振動モードの周波数にダンパーの振動数を合わせて設計
する場合、合わせた振動モードの減衰比をラケットの振
動特性の評価値とすることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記イ
ンパクトハンマーを用いた測定方法の場合、インパクト
ハンマーで軽くラケットをたたく程度であるために、ラ
ケットに加わる変形や衝撃は小さく、人間が使用した時
のラケットの変形や衝撃とかけ離れている。このため
に、上記方法では、実際のラケット使用時の振動特性を
正しく評価できない場合があった。
【0005】一方、ラケットにボールを衝突させて、ラ
ケットに貼り付けた加速度ピックアップによりラケット
に加わる加速度を測定し、その減衰の速さを評価値とす
る方法も行われている。具体的には、実際に人間がボー
ルを打ったり、スイングロボットに打たせたり、ひもで
つるしたラケットに発射機から打ち出したボールをぶつ
けたりすることにより、人間が使用している時と同程度
の変形や衝撃を加えている。
【0006】しかし、このような実際の人間の使用時と
同程度の変形や衝撃を加える方法では、各振動モードを
部分的に緩和したり、ストリングの振動を緩和している
複雑な振動特性を十分に評価できないという問題があ
る。
【0007】本発明は上記した問題に鑑みてなされたも
のであり、実際のラケット使用時の振動特性、即ち、各
種振動モードが混在するラケットの複雑な振動特性を正
確に評価することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明は、ラケットへのボールの衝突により実打時
と同等の衝撃をラケットに与え、上記衝突時にラケット
に生じる加速度を、0Hz以上1000Hz以下の周波
数領域の加速度と、300Hz以上1000Hz以下の
周波数領域の加速度とに分けて計測し、上記計測により
得られた各加速度の時刻歴データより各加速度の減衰比
を算出し、該各加速度の減衰比を用いて、実打時にラケ
ットに生じる振動特性を評価することを特徴とするラケ
ットの振動特性評価方法を提供している。
【0009】本発明者は、鋭意研究の結果、ラケットに
ボールを衝突させ実打時と同等の衝撃を与えた時にラケ
ットに生じる加速度を、ハイパスフィルター等を使用
し、0Hz以上1000Hz以下の周波数領域と、30
0Hz以上1000Hz以下の周波数領域とに分けて、
各周波数領域の加速度の減衰の速さ(減衰比)を解析す
ることにより、各種振動モードが混在するラケットの複
雑な振動特性を正確に評価できることを見出した。
【0010】具体的には、プレーヤーがラケットでボー
ルを打撃した際のパワースペクトルの解析を行うことに
より、以下の事実が判明した。図1に、プレーヤーがボ
ールをラケットの打球面の中心位置で打撃した時に得ら
れるパワースペクトルを示す。図1に示すスペクトルの
ピークより、プレーヤーがラケットでボールを打撃した
際、周波数が300Hz未満の範囲にはラケットの1次
振動モードが存在し、周波数が300Hz以上の範囲に
はラケットの2次、3次、ねじれの各振動モード、及び
ストリングの振動モードが存在することが判明した。
【0011】さらに、実験を積み重ねた結果、1次振動
モードはラケットの打球面のトップ側やヨーク側でボー
ルを打撃した場合に励起されやすく、2次振動モードや
ストリングの振動は打球面の中心付近で打撃した場合に
励起されやすいことが判明した。
【0012】また、プレーヤーは、その技術レベルによ
ってばらつきはあるものの、通常はボールを打球面の中
心付近で打撃する頻度が高い。よって、プレーヤーは通
常の打撃時において、2次振動モードやストリングの振
動モードが存在する300Hz以上1000Hz以下の
振動を高い頻度で感じていることとなる。このため、3
00Hz以上1000Hz以下の周波数領域での振動特
性評価が重要であることが判明した。
【0013】さらには、ラケットの打点速度が約18m
/sec、ボールの初速度が約6m/secでラケット
の打球面の中心位置でボールを打撃した場合、図2に示
すように、0〜1000Hzの周波数領域で計測した加
速度の振幅は約300Gであるのに対して、300Hz
〜1000Hzの周波数領域で計測した加速度の振幅は
約150Gであり、両者の加速度の振幅は異なった値と
なり、300Hz〜1000Hzの加速度の振幅の方が
小さな値となっている。なお、図2において、加速度
[V]は、下記の式により加速度[G]に換算してい
る。 Y(G)=89−748×X(V)−21.098
【0014】よって、0〜1000Hzの範囲のみで振
動評価を行った場合には、300Hz〜1000Hzの
2次振動モード等の加速度の波形は、0〜300Hzに
含まれる加速度の大きな波形の変化に埋もれてしまうこ
ととなる。このため、0〜1000Hzの範囲のみの評
価では、300Hz〜1000Hzの2次モードの振動
数に合わせたダイナミックダンパーやストリンスの振動
を抑制するための振動吸収部材をラケットに取り付けた
場合において、その振動吸収効果について正確な評価が
できないことが判明した。
【0015】従って、本発明では、実打時と同等の衝撃
をラケットに与え、ラケットへのボールの衝突時にラケ
ットに生じる加速度を、0Hz以上1000Hz以下の
周波数領域の加速度と、300Hz以上1000Hz以
下の周波数領域の加速度とに分けて計測しており、ダイ
ナミックダンパー等の振動吸収部材を取り付けた場合に
おいても、その振動吸収効果を正確に評価することがで
きる。
【0016】ラケットへのボールの衝突によりラケット
に与えられる衝撃としては100G以上の衝撃力である
ことが好ましい。これにより、実打時のラケットの振動
特性を評価することができる。
【0017】また、計測された加速度の時刻歴データか
ら算出した減衰比を用いて実打時にラケットに生じる振
動特性を評価する際には、減衰比と共振周波数の値を評
価値として用いることが好ましい。
【0018】上記ラケットの打球面の中心位置でボール
を打撃した時にラケットに生じる加速度あるいは/及び
ラケットの打球面の中心位置よりヨーク側の位置でボー
ルを打撃した時にラケットに生じる加速度を計測してい
ることが好ましい。これにより、ラケットの中心位置で
の打撃時、あるいは、ラケットの中心位置からヨーク側
に外れた位置での打撃時の各々のラケットの振動特性を
評価することができる。また、両者の加速度データを組
み合わせて評価することにより、打球面の中心位置、中
心から外れた位置での打撃を総合した、ラケット全体の
振動特性を評価することができる。なお、ラケットの打
球面の中心位置よりトップ側あるいはサイド側の位置で
の打撃時に生じる加速度を計測しても良い。このよう
に、ボールの打撃位置は、必要に応じてラケットの打球
面上の任意の位置とすることができ、任意の複数の打撃
位置での打撃時の加速度データを組み合わせて評価する
ことができる。
【0019】また、ラケット全体としての振動特性を効
率良く評価するには、ラケットの打球面の中心位置でボ
ールを打撃した時にラケットに生じる300Hz以上1
000Hz以下の周波数領域の加速度と、ラケットの打
球面の中心位置よりヨーク側の位置でボールを打撃した
時にラケットに生じる0Hz以上1000Hz以下の周
波数領域の加速度とを用いて評価することが好ましい。
打球面の中心位置で打撃した際には一般に面外2次の振
動が励起され、打球面の中心位置からヨーク側で打撃し
た際には一般に面外1次の振動が励起される。また、面
外2次のピークは300Hz以上1000Hz以下の周
波数領域に存在する。このため、上記のような異なる打
点の異なる周波数領域の加速度データを組み合わせるこ
とで、目的に応じ、より最適な評価を行うことができ
る。このように、必要に応じて、異なる打撃位置の各周
波数領域の加速度データを組み合わせることで、特定の
振動モード、特定の打点についての評価、あるいは、ラ
ケット全体としての評価等の種々の要求性能に応じた評
価を行うことができる。
【0020】また、0Hz以上1000Hz以下の周波
数領域を、0Hz以上300Hz未満に、300Hz以
上1000Hz以下の周波数領域を、さらに300Hz
以上700Hz未満の周波数領域と、700Hz以上1
000Hz以下の周波数領域とに分けて加速度計測を行
うこともできる。これにより、1次、2次あるいは3次
振動モード、ストリング振動モード等について、さらに
詳しく評価を行うことができる。なお、さらに細分化し
ても良いし、700Hz以外の周波数で区切っても良
い。
【0021】上記減衰比を算出する方法は特に限定され
ないが、以下に具体的な方法を説明する。 図3(A)に示すように、ボールインパクト後の時間
軸上の加速度のエンベロープ(包絡線)を描き、ΔY/
ΔXを評価値とする方法。加速度の時刻歴データにおい
て、減衰比(減衰の速さ)を以下の数式1により算出す
る。(数式1) 図3(B)に示すように、ボールインパクト後の時間
軸上の加速度のピーク値から指数近似曲線Y=aebx
を描き、bを評価値とする方法。加速度の時刻歴データ
において、減衰比(減衰の速さ)を指数近似曲線より算
出する。 FFTアナライザを用い、ヒルベルト変換という手法
によりエンベロープを求め、対数減衰比を求める。
【0022】上記のようなのヒルベルト変換の方法で
得られた対数減衰比や対数減衰率に共振周波数を掛けた
値を評価値としているのが好ましい。これは、対数減衰
率の計算式では、エンベロープの減衰の割合を共振周波
数で割っているためである。即ち、ボールの衝突位置
(トップ側、ヨーク側、センター等)によって強く励起
される振動モードが異なるため、共振周波数は1次モー
ド、2次モードやストリング、3次モードのどの振動数
にもなる可能性があり、その共振周波数の値により減衰
率の値が大きく変わってしまう。よって、減衰率や減衰
比に共振周波数を掛けた値の方が、上述したやの方
法と相関が高く、人間の振動特性についての評価結果に
も合うためである。
【0023】減衰比(減衰の速さ)は、インパクト後
(ラケットとボールの衝突後)40msec以下、さら
には20msec以下の時間範囲で求めるのが好まし
い。40msec以降では、加速度の減衰が進行してい
るために、ラケットによる振動特性の差が現れにくいた
めである。20msec以下の範囲では減衰の速さの差
が顕著に現れる。
【0024】また、ボールを打たずにラケットを振った
だけでもラケットには微小な加速度が加わる。図4に示
すように、このような微小な加速度は非常に小さい加速
度であるが加速度波形全体のベースラインを変化させ、
減衰の速さを解析するにあたり、測定誤差の原因となる
場合がある。よって、スイングにより生じる加速度の影
響が大きい場合には、50Hzより小さな周波数成分を
除き、この微小な加速度のベースラインの影響を少なく
させることが好ましい。具体的にはハイパスフィルター
等を使用し、50Hz以上1000Hz以下の周波数領
域とするのが良い。
【0025】また、本発明は、振動特性の評価を行うラ
ケットと、上記ラケットに実打時と同等の衝撃力を与え
るためにボールを供給するボール供給手段と、上記ラケ
ットに生じる加速度を計測する加速度ピックアップと、
計測される加速度の周波数領域を選定可能なフィルター
とを有する加速度計測手段と、上記加速度データよりラ
ケットに生じる加速度の減衰比を算出する振動解析手段
とを備え、上記加速度計測手段のフィルターを用いて、
上記ラケットとボールの衝突時にラケットに生じる加速
度を複数の周波数領域に分けて計測可能な構成としてい
ることを特徴とするラケットの振動特性評価装置を提供
している。
【0026】上記のような構成とし、上記フィルターの
設定を任意に変えることにより、2つ、3つ、あるいは
それ以上の種々の周波数領域毎の加速度データを得るこ
とが可能となる。よって、ラケットの各種振動モードや
ストリングの振動モード等に応じて、加速度を計測する
周波数領域を適宜選定することができる。このため、実
際のラケット使用時の振動特性、即ち、各種振動モード
が混在するラケットの複雑な振動特性を正確に評価する
ことができる。
【0027】加速度ピックアップを取り付ける位置は特
に限定されないが、プレーヤーがグリップを握る位置に
近いグリップエンドから4cm〜30cmの範囲が好ま
しい。なお、中空部を有するラケットの場合には、プレ
ーヤーが握るグリップ位置において、ラケットの中空部
の内周面(中空部内)に貼り付けるのが好ましい。ま
た、加速度ピックアップから加速度アンプへの加速度デ
ータの送信は、ケーブル等を用いた有線でも良いし、ケ
ーブル等を用いない無線でも良く、必要に応じてこれら
を組み合わせても良い。
【0028】上記ラケットとボールを衝突させるには、
実際の人間がラケットをスイングしてボールを打撃して
も良いし、スイングロボットによりラケットをスイング
させてボールを打撃させても良い。
【0029】また、本発明のラケットの振動特性評価装
置は、ラケットとボールの衝突時において、ラケットの
打球面上におけるボールの打点位置を撮影可能な撮影手
段を有していることが好ましい。これにより、打点位置
と打撃時に生じる振動との関係を把握することができ
る。
【0030】本発明のラケットの振動特性評価装置は、
プレーヤーがラケットをスイングするだけで容易にラケ
ットの振動特性を評価できる。このため、数種のラケッ
トを試打するだけで、打撃時に振動が生じにくい自分に
適したラケットを選定することができる。さらに、ラケ
ットに取り付ける振動吸収部材のラケットへの取り付け
位置や、その種類等を適宜変更して試打することによ
り、自分の好みに合った振動吸収部材の選定も可能とな
る。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を
参照して説明する。図5は、本発明のラケットの振動特
性評価装置10を示す。ラケットの振動特性評価装置1
0は、振動特性の評価を行うためにスイングされるテニ
スラケット11と、テニスラケット11に実打時と同等
の衝撃力を与えるためにボールBを供給するボール供給
手段12と、テニスラケット11に生じる加速度を計測
する加速度ピックアップ13と、計測される加速度の周
波数領域を選定可能なフィルター14とを有する加速度
計測手段15と、加速度計測手段15により計測された
加速度データよりテニスラケット11に生じる加速度の
減衰比を算出する振動解析手段であるFFTアナライザ
16と、テニスラケット11とボールBとの衝突位置
(打点位置)を撮影する撮影手段であるカメラ17を備
えている。
【0032】加速度計測手段15は、テニスラケット1
1に取り付けられ加速度を計測する加速度ピックアップ
13、加速度ピックアップ13からの加速度データを受
信する加速度アンプ18、加速度の周波数領域を選定可
能な(ハイパス)フィルター14を有しており、ハイパ
スフィルター14を用いて、テニスラケット11とボー
ルBの衝突時にテニスラケット11に生じる加速度を複
数の周波数領域に分けて計測可能な構成としている。
【0033】具体的には、加速度ピックアップ13で計
測された加速度データは、加速度アンプ18から第1ケ
ーブル19Aを通して直接FFTアナライザ16に送信
されると共に、加速度アンプ18からハイパスフィルタ
ー14を介した後に第2ケーブル19Bを通してFFT
アナライザ16に送信され、加速度を2種類の周波数領
域に分けて計測する構成としている。
【0034】以下、本発明のラケットの振動特性評価方
法について詳述する。まず、テニスラケット11に生じ
る加速度を測定するための準備を行う。図6に示すよう
に、テニスラケット11のシャフト部11Aにおいて、
グリップエンドから所要位置に加速度ピックアップを貼
り付ける。加速度ピックアップ13のケーブル13A
は、プレーヤーPの手、腕、胴体部に沿わせてプレーヤ
ーPに貼り付けられ、プレーヤーPの腰の位置で装着さ
せた送信器20と繋げられ、送信器20のアンテナから
加速度アンプ18にデータが送信される。
【0035】プレーヤーPは、上記のように加速度ピッ
クアップ13を取り付けたテニスラケット11をスイン
グし、ボール供給手段12から供給されるボールBを打
撃する。打撃時のテニスラケット11とボールBの状態
をカメラ17で撮影し、モニター21によりテニスラケ
ット11とボールBの衝突位置を確認する。
【0036】なお、本実施形態では、図7に示すよう
に、テニスラケット11は、テニスラケット11の打球
面Fを時計面とし、トップ位置を12時とすると、ヘッ
ド部11Bの3時と9時の位置にダイナミックダンパー
30を取り付けた硬式用のテニスラケット11を用いて
おり、テニスラケット11に100G以上の衝撃力が得
られるように硬式テニス用のボールBが供給されてい
る。
【0037】上記のようにテニスラケット11とボール
Bの衝突時にラケットに生じる加速度を、加速度ピック
アップ13で計測し、計測された加速度データは、送信
器20から加速度アンプ18へ送信される。その後、0
Hz以上1000Hz以下の周波数領域の加速度は、第
1ケーブル19Aを通してFFTアナライザ16に送信
される。また、ハイパスフィルター14は300Hzに
設定し、300Hzより小さい周波数はハイパスフィル
ター14により除外され、300Hz以上1000Hz
以下の周波数領域の加速度は、第2ケーブル19Bを通
してFFTアナライザ16に送信される。
【0038】0Hz以上1000Hz以下の周波数領域
の加速度の時刻歴データと、300Hz以上1000H
z以下の周波数領域の加速度の時刻歴データとを用い、
FFTアナライザ16で各加速度の減衰比を算出する。
【0039】具体的には、各周波数範囲の加速度の時刻
歴データの波形をヒルベルト変換してエンベロープ波形
を得て対数減衰比を求めている。図8のエンベロープ波
形(対数軸)のグラフから直線部分をΔX、ΔYとする
と対数減衰率は下記の数式2で求められる。ここで、f
n:共振周波数。(数式2)
【0040】また、減衰比(ダンピングファクタ)ξ
は、下記の数式3により求められる。(数式3)
【0041】また、加速度測定時に時間波形を同時に得
られるパワースペクトルより最も高いピークの周波数と
して共振周波数が選ばれる。この共振周波数と減衰比と
により、実打時にラケットに生じる振動特性を評価す
る。
【0042】このように、ボール供給機12から供給さ
れたボールBをプレーヤーPが打撃し、実打時と同等の
衝撃をテニスラケット11に与え、テニスラケット11
へのボールBの衝突時にテニスラケット11に生じる加
速度を、加速度計測手段15のフィルター14を用いる
ことにより、0Hz以上1000Hz以下の周波数領域
の加速度と、300Hz以上1000Hz以下の周波数
領域の加速度とに分けて計測している。この加速度デー
タを用いて加速度の減衰比を求め、これによりテニスラ
ケット11の振動特性の評価を行っている。このため、
実際のテニスラケット11の使用時の振動特性、即ち、
各種振動モードが混在するテニスラケット11の複雑な
振動特性を正確に評価することができる
【0043】以下、本発明のラケットの振動特性評価方
法の実施例、比較例について詳述する。実施例、比較例
共に、下記示すような振動吸収性能が各々異なるA〜E
の5種類の硬式テニス用のラケットについて振動特性評
価を行った。全てにおいて、DUNLOP製、RIMB
REED BARRIERD OSのラケットフレーム
を使用した。
【0044】(ラケットA)質量付加材31と粘弾性材
32とを積層したシートからなるダイナミックダンパー
30を、図9に示すように、テニスラケット11のヘッ
ド部11Bの5時と7時の位置に取り付けた。ダイナミ
ックダンパーは図10(A)〜(D)に示すような日字
形の格子状とした。厚みt1が5.8mm、幅が5m
m、コ字形状の横枠部33の間隔は5.5mm、短冊形
状の縦枠部34の長さは26mm、横枠部33の長さは
52mmとした。粘弾性材32のゴム配合を表1に示
す。また、質量付加材31は住友電気工業(株)製のタ
ングステン粉末入りEPDMゴムである比重9のヘビイ
メタルシートを使用した。ヘビイメタルシートは0.8
mm厚とし、粘弾性材32と積層して金型に仕込み、1
70℃で20分間プレスし、加硫した。ダイナミックダ
ンパー30は、1個10gになった。
【0045】
【表1】
【0046】なお、表中、Mは2−メルカプト・ベンゾ
チアゾール、TETはテトラチウラムジスルフィド、B
Zはジブチル・ジチオアーバミン、TTTEはジエチル
ジチオアルバミン酸テルルである。
【0047】(ラケットB)ダイナミックダンパーの材
料、成形方法はラケットAと同様とした。図11(A)
(B)(C)に示すように、ヘビイメタルシートの厚み
を0.5mmとし、ダイナミックダンパー30’の厚み
t2が4mm、横枠部の長さは41mmである形状とし
た。1個6gとなった。成形したダイナミックダンパー
30’をラケットの3時と9時の位置に取り付けた。
【0048】(ラケットC)ラケットBのダイナミック
ダンパー30’の格子の1つを切断、剥離し、図12
(A)(B)に示すように、横枠部33を2本とし、口
字形のダイナミックダンパー30”にした。1個4gと
なった。その他はラケットBと同様とした。
【0049】(ラケットD)ダイナミックダンパーの粘
弾性材の配合表1のダイアナプロセスオイルPX−90
を200重量部にした以外は、ラケットBと同様とし
た。
【0050】(ラケットE)ラケットの3時と9時の位
置にそれぞれ6gの鉛シートを貼り付けた。
【0051】(実施例)中級男性プレーヤーに、A〜E
のテニスラケットを使ってボールを打ってもらった。具
体的には、センター打ち、ヨーク打ちを実施した。図9
に示すように、センター打ちとはテニスラケット11の
打球面Fの中心位置C、ヨーク打ちとは打球面Fの中央
からヨーク11Cの方へ9cmの位置Yとした。打点は
ややバラツクものの、中心位置C、ヨーク側9cmの位
置Yから各々±5cm以内であった。ボール速度は約6
m/sec、ラケットの打点位置の速度はセンター打ち
時では約20m/sec、ヨーク打ち時では約19m/
secであった。テニスラケットの種類以外は、上記実
施形態と同様の装置を用いて、同様の方法で評価を行っ
た。
【0052】加速度ピックアップはラケットのシャフト
部分(グリップエンドから20.5cmの位置)に貼り
付けた。加速度アンプから直接FFTアナライザにつな
ぐ場合(第1ケーブルを通して0Hz以上1000Hz
以下の周波数領域の加速度を計測)と、300Hzのハ
イパスフィルターを通してつなぐ場合(第2ケーブルを
通して300Hz以上1000Hz以下の周波数領域の
加速度を計測)の2種類の加速度計測を行った。FFT
アナライザは、株式会社小野測器製、マルチパーパスF
FTアナライザCF−5220を使用した。
【0053】FFTアナライザにて周波数範囲を選択
し、測定した加速度の時間波形を、ヒルベルト変換し
た。そして得られたエンベロープの最大点とそこから約
10msec後の点を選択し、減衰比を求めた。共振周
波数は、加速度測定時に時間波形を同時に得られるパワ
ースペクトルより最も高いピークの周波数を選定した。
【0054】(比較例)テニスラケットTRの固有振動
数及びその減衰比の測定方法を図13(A)(B)に示
す。 精度良く測定するために、 各振動モードの最大振動
幅位置に加速度ピックアップ73を取り付け、 同様に最
大振幅位置にインパクトハンマー71で加振した。ラケ
ットフレームfのガット張架部にはガットを張らず、図
14又は図15で示される様に紐でつるす自由支持法に
より測定した。インパクトハンマー71に取り付けたフ
ォースピックアップで計測した入力振動(F) と加速
度ピックアップ73で計測した応答振動(α)をアンプ
72と70を介して周波数解析装置74( ヒューレッ
トパッカード製 ダイミックシグナルアナライザーHP
3562A)により解析した。これは、ラケットフレー
ムfの剛性が線形性であると仮定した評価方法である。
【0055】上記解析で周波数領域での伝達関数を求め
て、ラケットフレームの面外1次振動及び面外2次振動
数を得た。減衰比 (ζ) は図13(B)から下記の数
式によって求めた。
【0056】ζ= (1/2)× (Δω/ωn) To=Tn/√2
【0057】上記面外1次振動数とは図14で示される
様にテニスラケットTRを紐で吊るす自由支持状態にセ
ットし、ヨークの中心をインパクトした場合に低周波か
ら1つめに現れるピークであり、図16(A)の未振動
(変形前)のテニスラケットTRに、図16(B)に示
すように,面外1次モードの振動(変形)が起こる場合
の振動数である。上記面外2次振動数とは、図15で示
される様にテニスラケットTRを紐で吊るす自由支持状
態にセットし、裏からインパクトした場合に低周波から
2つめに現れるピークであり、図16(A)の未振動
(変形前)のテニスラケットTRに、図16(C)に示
すように(テニスラケットの側面図),面外2次モード
の振動(変形)が起こる場合の振動数である。
【0058】(振動に関する人間の試打評価)30人の
中級、上級のプレーヤーに、上記A〜Eのテニスラケッ
トで、ボールを打ってもらい、打球時の振動の少なさに
ついて5点満点で評価を行った。振動が最も少ないもの
を「5」、振動が最も多いものを「1」とした。30人
の平均値を算出し、評価値とした。
【0059】上記実施例及び比較例の振動評価結果を下
記の表2、表3に示す。各テニスラケットA〜Eについ
て、実施例では、実打時にラケットに生じる加速度振幅
(G)、各周波数領域における減衰比、共振周波数、減
衰比×共振周波数の値をセンター打ちとヨーク打ちの各
々について求めた。比較例では、面外1次モードと面外
2次モードの減衰比と振動数を求めた。また、各テニス
ラケットA〜Eの試打評価結果も記載した。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】上記表2、3の結果より、図17に、各ラ
ケットA〜Eについて、実施例のセンター打ち時の30
0Hz〜1000Hzで解析した減衰比×共振周波数
と、ヨーク打ち時の0〜1000Hzで解析した減衰比
×共振周波数とをプロットした。また、図18に、各ラ
ケットA〜Eについて、実施例のセンター打ち時の30
0Hz〜1000Hzで解析した減衰比×共振周波数
と、センター打ち時の0〜1000Hzで解析した減衰
比×共振周波数とをプロットした。さらに、図19に、
各ラケットA〜Eについて、比較例の面外2次モードの
減衰比と、面外1次モードの減衰比とをプロットした。
なお、各プロット点の横に、人間の試打評価結果の点数
を記入した。
【0063】上述した図17〜19のグラフにおいて、
スタットソフトジャパン(株)製「STATISTIC
TM」を使用し、等高線プロットグラフを描いた。条
件は“線形平滑化”で、“人間の試打評価の点数”につ
いて等高線を引いた。等高線の点数は、矢印を用い、○
数字で示している。これにより、実施例及び比較例の振
動評価方法により得られた各評価値と、人間の試打評価
の点数とを組み合わせ、各振動評価方法の評価精度を確
認した。
【0064】図19に示すように、比較例では、等高線
と各プロット点の点数が合っておらず評価結果と実打結
果の順番が一致していない。これに対して、図17、1
8に示すように、実施例では、等高線の順番と各プロッ
ト点の点数の順番が合っており(グラフの右上に向かう
に従ってプロット点の点数が大きくなっている)、か
つ、プロット点は等高線の値とほぼ一致していた。よっ
て、本発明の評価方法により、ラケットに生じる振動特
性について、人間の感性を評価できていることが確認で
きた。特に、図17のセンター打ち時の300〜100
0Hzと、ヨーク打ち時の0〜1000Hzを軸にした
場合に、実打時と同等の衝撃において1次モードと2次
モードの考慮がなされているため、評価結果と実打結果
がよく合っており、各振動モードについてバランス良い
評価を行うことができ、実打時の振動特性を正確に評価
できていることが確認できた。
【0065】
【発明の効果】以上の説明より明らかなように、本発明
のラケットの振動特性評価方法によれば、ラケットにボ
ールを衝突させ実打時と同等の衝撃を与えた時にラケッ
トに生じる加速度を、0Hz以上1000Hz以下の周
波数領域と、300Hz以上1000Hz以下の周波数
領域とに分けて、各周波数領域の加速度の減衰比を解析
している。このように、300Hz以上1000Hz以
下の周波数領域の加速度のみを別に解析することによ
り、特に、面外2次モードがラケットの振動に及ぼす影
響を把握することができる。このため、面外1次モード
と、面外2次モード等の各種振動モードが混在するラケ
ットの複雑な振動特性を正確に評価することができる。
【0066】よって、各振動モード等に合わせたダイナ
ミックダンパー等の振動吸収部材を取り付けた場合にお
いても、その振動吸収効果を正確に評価することができ
る。さらには、ラケットの打球面のセンターのみならず
オフセンターで打撃した時も含めたテニスラケット全体
として振動特性の評価を行うこともできる。従って、テ
ニスラケットの開発に非常に有用であり、振動吸収性に
優れたテニスラケットの設計・製造に役立てることがで
きる。
【0067】また、本発明のラケットの振動特性評価装
置は、プレーヤーがラケットをスイングするだけで容易
にラケットの振動特性を評価することができる。このた
め、数種のラケットを試打するだけで、打撃時に振動が
生じにくい自分に適したラケットを選定することができ
る。さらに、ラケットに取り付ける振動吸収部材のラケ
ットへの取り付け位置や、その種類等を適宜変更して試
打することにより、自分の好みに合った振動吸収部材の
選定も可能となる。よって、テニスショップやテニスス
クール等に、本装置を設置することで、プレーヤーに適
したテニスラケット、振動吸収材の選定を行うことがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 プレーヤーがラケットでボールを打撃した際
のパワースペクトルを示す図である。
【図2】 (A)は0〜1000Hzの周波数領域で計
測した加速度の振幅、(B)は300Hz〜1000H
zの周波数領域で計測した加速度の振幅を示す図であ
る。
【図3】 (A)は加速度のエンベロープを用いた減衰
比の算出方法、(B)は指数近似曲線を用いた減衰比の
算出方法を示す図である。
【図4】 微小な加速度のベースラインが加速度測定に
及ぼす影響を説明する図である。
【図5】 本発明のラケットの振動特性評価装置の概略
構成図である。
【図6】 本発明のラケットの振動特性評価方法によ
り、プレーヤーがテニスラケットをスイングし加速度デ
ータを計測する状況の説明図である。
【図7】 実施形態で用いたテニスラケットを示す図で
ある。
【図8】 ヒルベルト変換して得られたエンベロープ波
形を示す図である。
【図9】 実施例、比較例で用いたラケットAの概略図
である。
【図10】 ラケットAに取り付けたダイナミックダン
パーを示し、(A)は全体斜視図、(B)は正面図、
(C)は側面図、(D)は平面図である。
【図11】 ラケットBに取り付けたダイナミックダン
パーを示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)
は平面図である。
【図12】 ラケットCに取り付けたダイナミックダン
パーを示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図13】 比較例の振動評価方法を示し、(A)は振
動数、減衰比の測定方法、(B)は周波数と伝達関数の
関係を示す図である。
【図14】 面外1次モードの振動に対する加速度の測
定位置を示す概略図である。
【図15】 面外2次モードの振動に対する加速度の測
定位置を示す概略図である。
【図16】 (A)(B)(C)は、テニスラケットの
各振動モードを説明する図である。
【図17】 実施例の振動評価結果の一例を示す図であ
る。
【図18】 実施例の振動評価結果の他の例を示す図で
ある。
【図19】 比較例の振動評価方法の評価結果を示す図
である。
【符号の説明】
10 ラケットの振動特性評価装置 11 テニスラケット 12 ボール供給手段 13 加速度ピックアップ 14 フィルター 15 加速度計測手段 16 FFTアナライザ 18 加速度アンプ B ボール P プレーヤー

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ラケットへのボールの衝突により実打時
    と同等の衝撃をラケットに与え、 上記衝突時にラケットに生じる加速度を、0Hz以上1
    000Hz以下の周波数領域の加速度と、300Hz以
    上1000Hz以下の周波数領域の加速度とに分けて計
    測し、 上記計測により得られた各加速度の時刻歴データより各
    加速度の減衰比を算出し、該各加速度の減衰比を用い
    て、実打時にラケットに生じる振動特性を評価すること
    を特徴とするラケットの振動特性評価方法。
  2. 【請求項2】 上記ラケットの打球面の中心位置でボー
    ルを打撃した時にラケットに生じる加速度あるいは/及
    びラケットの打球面の中心位置よりヨーク側の位置でボ
    ールを打撃した時にラケットに生じる加速度を計測して
    いる請求項1に記載のラケットの振動特性評価方法。
  3. 【請求項3】 振動特性の評価を行うラケットと、 上記ラケットに実打時と同等の衝撃力を与えるためにボ
    ールを供給するボール供給手段と、 上記ラケットに生じる加速度を計測する加速度ピックア
    ップと、計測される加速度の周波数領域を選定可能なフ
    ィルターとを有する加速度計測手段と、 上記加速度データよりラケットに生じる加速度の減衰比
    を算出する振動解析手段とを備え、 上記加速度計測手段のフィルターを用いて、上記ラケッ
    トとボールの衝突時にラケットに生じる加速度を複数の
    周波数領域に分けて計測可能な構成としていることを特
    徴とするラケットの振動特性評価装置。
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