JP2003206995A - 無端金属ベルトの製造方法 - Google Patents

無端金属ベルトの製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ショットピーニング処理が施された無端金属
ベルトの周長の変化を抑制できる無端金属ベルトの製造
方法の提供。 【解決手段】 (1)無端金属ベルト1の表面にショッ
トピーニング処理を施す無端金属ベルトの製造方法であ
って、ショットピーニング処理後に無端金属ベルト1の
加熱処理を実施するようにした無端金属ベルトの製造方
法。 (2)無端金属ベルト1の材料がマルエージング鋼の場
合、加熱処理に際して加熱処理温度を70〜300℃と
した無端金属ベルトの製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無端金属ベルトの
製造方法に関する。本発明は、たとえばCVT(Contin
uously Variable Transmission) ベルト等の製造に利用
できる。
【0002】
【従来の技術】無端金属ベルトは、ローラに巻き掛けら
れて輪転されるので、ローラを通過するときの曲げ応力
と直線部位での曲げ応力の消滅との間で繰り返し応力が
かかり、疲労強度を向上させることが望まれる。疲労強
度の向上は、通常、無端金属ベルトの表面部にショット
ピーニングを施すことで行われる。さらに疲労強度を向
上させるには、特開2000−225567に提案され
ているように、無端金属ベルトの表面に表面硬化処理を
施した後にショットピーニングを施すようにする。ショ
ットピーニングによる疲労強度向上では、ショットピー
ニング処理により無端金属ベルトの周長が増加する。従
来は、多数の無端金属ベルトを生産し、ショットピーニ
ング後に周長測定して、周長が互いに近似しているもの
を選択し、多層化して層間クリアランスが許容値以下に
なるようにしていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】無端金属ベルトにショ
ットピーニング処理を施すと、その疲労強度は大幅に向
上するが、一方で、無端金属ベルトの内周長(以下、周
長という)は、ショットピーニング処理でいったん増加
し、ショットピーニング処理後放置しておくと、放置時
間が長くなるほど縮小していくことが判明した。これは
図1の非加熱の場合に示すとおりで、その変化率は放置
時間の経過とともに減少するが、変化量は放置時間の経
過とともに増大する。多層化して組み合わせる用途から
考えると、この現象は極めて不都合である。すなわち、
多層化するにあたり、各層間のクリアランスを高精度に
管理して組み合わせるのに対し、各層の周長がそれぞれ
に経時変化を起こすことはクリアランスの値が不安定に
なることを意味する。本発明の目的は、ショットピーニ
ング処理を施した無端金属ベルトの周長の変化を抑制で
きる無端金属ベルトの製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発
明は、無端金属ベルトの表面にショットピーニング処理
を施す無端金属ベルトの製造方法であって、ショットピ
ーニング処理後に無端金属ベルトの加熱処理を実施する
ようにした方法からなる。無端金属ベルトの材料がマル
エージング鋼の場合、加熱処理に際して加熱処理温度を
70〜300℃とする。
【0005】ショットピーニング処理後に無端金属ベル
トに加熱処理を実施すれば、その後の無端金属ベルトの
周長の変化を抑制できることを見出した。ショットピー
ニング処理後の放置時間が長くなるほど無端金属ベルト
の周長が減少する現象は、ショットピーニング処理時に
著しい塑性変形に伴って発生した転位(金属結晶格子に
おける金属原子の並びが変化すること)が移動するか若
しくはその転位周りの材料組織的な変化が起因している
ものと推測され、この変化が加熱により著しく促進され
飽和してしまうため、無端金属ベルトに加熱処理を実施
すればその後の周長の変化を抑制できたものと推測され
る。その結果、ショットピーニング処理後の無端金属ベ
ルトの加熱処理を実施する本発明方法によれば、無端金
属ベルトを多層化して組み合わせるにあたり、各層間の
クリアランスが不安定になることを防止でき、クリアラ
ンスを高精度に管理することができるようになる。ま
た、無端金属ベルトの材料がマルエージング鋼の場合、
加熱処理に際して加熱処理温度70℃未満では、無端金
属ベルトの加熱処理後の周長の変化が大きく、すなわ
ち、ショットピーニング処理が施された無端金属ベルト
の周長の変化を抑える効果が小さく、300℃より上で
はショットピーニング処理で無端金属ベルト表面部に付
与された圧縮残留応力が減少することが判明した。そこ
で、加熱処理温度を70〜300℃に規定したので、圧
縮残留応力が減少するのを抑制しながら、好適にショッ
トピーニング処理が施された無端金属ベルトの周長の変
化を抑制できる。
【0006】
【発明の実施の形態】以下に、本発明実施例の無端金属
ベルトの製造方法を、図1〜図7を参照して、説明す
る。本発明の無端金属ベルトの製造方法では、図6に示
すように、始端と終端を溶接した薄板からなる無端金属
ベルト1に対して、その疲労強度を向上させるために、
無端金属ベルト1に表面硬化処理(たとえば、窒化処理
または軟窒化処理)を施し、その後ショットピーニング
を施す。ショットピーニングは無端金属ベルト1の内
面、外面に施す。ショットピーニングにより、無端金属
ベルト1の表面部に圧縮残留応力を生じさせる。ショッ
トピーニング処理後に無端金属ベルト1の加熱処理を実
施する。
【0007】無端金属ベルトの材料は、通常、マルエー
ジング鋼である。ただし、マルエージング鋼以外であっ
てもよく、たとえばステンレス鋼であってもよい。無端
金属ベルトの材料がマルエージング鋼の場合、加熱処理
に際して加熱処理温度は70〜300℃とする。下限値
を70℃、上限値を300℃とするのは、70℃未満で
はショットピーニング処理が施された無端金属ベルトの
周長の変化を抑える効果が小さく、300℃より上では
ショットピーニング処理で無端金属ベルト表面部に付与
された圧縮残留応力が減少するからである。
【0008】また、70〜100℃までは、水を加熱し
その中に無端金属ベルトを浸漬することにより、容易
に、均一に加熱できる。保持時間は無端金属ベルト全体
を均一に加熱できる時間以上であればよいが、温水によ
る加熱の場合は温水−無端金属ベルト間の熱伝達が良好
なため、約5秒以上あればよい。100℃以上では熱風
や放射による加熱となるが、その場合は熱伝達が良好で
ないため、保持時間は温水加熱の場合より長くなるが、
その場合でも約30秒もあればよい。
【0009】以下に、本発明の具体的実施例を以下に示
す。供試材は1800MPa級マルエージング鋼で、板
厚190μm、周長約720mmのリング状に加工した
後、窒化処理を施し、さらにショットピーニング処理を
行った。ショットピーニングは、表面に予引張応力を付
与しておいて行う、いわゆるストレスピーニングとし
た。ただし、ストレスピーニングに限らなくてもよい。
【0010】ショットピーニング処理においては、図7
に示すように、無端金属ベルト1を、無端金属ベルト1
の内周面に予引張応力(予負荷)を付与する第1のロー
ラ2と、無端金属ベルト1の外周面に予引張応力(予負
荷)を付与する第2のローラ3とを含む、3つ以上のロ
ーラ2、3、4に巻掛け、無端金属ベルト1の内周側か
ら投射ノズル5より無端金属ベルト1の第1のローラ2
への巻掛け部分に向けてショット粒6を投射し、無端金
属ベルト1の外周側から投射ノズル7より無端金属ベル
ト1の第2のローラ3への巻掛け部分に向けてショット
粒8を投射した。内周側の投射位置で、外周側の投射位
置とは逆方向の予負荷曲率を与えた。予負荷曲率半径R
は20mmとした。9、10はシャッタで、シャッタを
開閉させて投射時間をコントロールした。
【0011】ショットピーニング条件は、ショット粒平
均硬度675HV、投射速度90m/sにて行った。残
留応力分布形態の違いについては、使用するショット粒
の平均粒度を70μmおよび110μmとすることで変
化させた。ショットピーニング処理後、無端金属ベルト
1に所定温度となるよう加熱処理を施し、各温度に所定
時間(300sec)保持した後、室温まで冷却した。
その直後から720時間までの無端金属ベルト1の周長
の経時変化を調査した。結果を図1、図2に示す。図1
はショット粒の平均粒度が70μmの場合、図2はショ
ット粒の平均粒度が110μmの場合である。この結果
から、いずれのショット条件のものも70℃以上で周長
の経時変化が抑制されることが明らかになった。
【0012】一方保持時間の影響を見るために、各温度
での保持時間を30sec、300secに変化させて
周長変化量を測定した。結果を図3、図4に示す。図3
はショット粒の平均粒度が70μmの場合、図4はショ
ット粒の平均粒度が110μmの場合である。図3、図
4から、70℃以上では、保持時間の影響はほとんど無
いことがわかる。
【0013】加熱後の無端金属ベルトの周長の変化が抑
制される理由は、ショットピーニング処理時に著しい塑
性変形に伴って発生した転位が時間の経過とともに移動
するか、もしくはその転位周りの材料組織的な変化が起
因しているものと推察される。この変化が無端金属ベル
トの加熱により著しく促進され飽和してしまうため、そ
の後の経時変化はほとんど起こらないものと考えられ
る。
【0014】ショットピーニング後の加熱による無端金
属ベルト表面部の圧縮残留応力の変化を見るために、シ
ョットピーニング後に各温度で300sec保持した
後、空冷し、無端金属ベルト表面部の圧縮残留応力を測
定した。結果を図5に示す。図5から、300℃以下で
はショットピーニング後の加熱による無端金属ベルト表
面部の圧縮残留応力の低下が生じないことがわかる。ま
た、300℃を越える加熱は、ショットピーニングによ
り付与された圧縮残留応力が減少する弊害が発生するた
め、処理条件としては不適当であることがわかる。
【0015】
【発明の効果】請求項1の無端金属ベルトの製造方法に
よれば、ショットピーニング処理後に無端金属ベルトの
加熱処理を実施するので、ショットピーニング処理が施
された無端金属ベルトの周長の変化を抑制できる。その
結果、無端金属ベルトを多層化して組み合わせるにあた
り、各層間のクリアランスが不安定になることを防止で
き、クリアランスを高精度に管理することができるよう
になる。請求項2の無端金属ベルトの製造方法によれ
ば、無端金属ベルトの材料がマルエージング鋼の場合に
加熱処理温度を70〜300℃に規定したので、圧縮残
留応力が減少するのを抑制しながら、好適にショットピ
ーニング処理が施された無端金属ベルトの周長の変化を
抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の無端金属ベルトの製造方法における、
ショット粒径70μmの場合の、加熱処理後の放置時間
に対する周長変化量の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の無端金属ベルトの製造方法における、
ショット粒径110μmの場合の、加熱処理後の放置時
間に対する周長変化量の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の無端金属ベルトの製造方法における、
ショット粒径70μmの場合で、加熱処理時間(保持時
間)を変化させた場合の、加熱処理後の放置時間に対す
る周長変化量の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の無端金属ベルトの製造方法における、
ショット粒径110μmの場合で、加熱処理時間(保持
時間)を変化させた場合の、加熱処理後の放置時間に対
する周長変化量の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の無端金属ベルトの製造方法における、
ショット粒径70μmの場合の、ショットピーニング後
加熱処理温度に対する残留応力の変化を示すグラフであ
る。
【図6】本発明の無端金属ベルトの製造方法によって製
造された無端金属ベルトの斜視図とその一部断面図であ
る。
【図7】ショットピーニング実行中のショットピーニン
グ機の側面図である。
【符号の説明】
1 無端金属ベルト 2、3、4 ローラ 5、7 投射ノズル 6、8 ショット粒 9、10 シャッタ

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 無端金属ベルトの表面にショットピーニ
    ング処理を施す無端金属ベルトの製造方法であって、前
    記ショットピーニング処理後に前記無端金属ベルトの加
    熱処理を実施するようにした無端金属ベルトの製造方
    法。
  2. 【請求項2】 前記無端金属ベルトの材料がマルエージ
    ング鋼の場合、前記加熱処理に際して加熱処理温度を7
    0〜300℃とした請求項1記載の無端金属ベルトの製
    造方法。
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