JP2003168442A - 固体高分子型燃料電池用燃料極及び固体高分子型燃料電池並びに固体高分子型燃料電池の制御方法 - Google Patents

固体高分子型燃料電池用燃料極及び固体高分子型燃料電池並びに固体高分子型燃料電池の制御方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】急激な出力変動に伴う燃料不足により逆電圧が
発生する際に、触媒性能を保持し得る触媒層を有する燃
料極と、逆電圧の発生の際に電解質性能を保持し得る電
解質膜とを有する固体高分子型燃料電池を提供する。 【解決手段】固体高分子電解質膜2を介して対向する燃
料極7と酸化剤極8とを備える固体高分子型燃料電池の
燃料極7に金属錯体を添加する。この金属錯体は、燃料
電池の作動温度範囲において、燃料極7の酸素分圧の上
昇に応じて酸素を吸着し、酸素分圧の減少に応じて酸素
を脱離するので、逆電圧発生時に発生する酸素を効率的
に除去することができ、燃料電池の触媒物質や電解質膜
の劣化や破損を防止できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体高分子型燃料
電池用燃料極、及び、固体高分子型燃料電池、並びに、
固体高分子型燃料電池の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電
池、固体電解質型燃料電池、固体高分子型燃料電池など
多種類の燃料電池のうち、固体高分子型燃料電池は、コ
ンパクトに構成でき、低温で高出力の作動が可能なた
め、燃料電池車等の電力源として有望視されている。
【0003】固体高分子型燃料電池では、負極たる燃料
極側で、下記反応式(1)で表されるイオン化反応によ
り、燃料の水素が消費され、水素イオンと電子とが生成
される。 2H2→4H++4e- ・・・(1) また、正極たる酸化剤極で、下記反応式(2)で表され
るイオン化反応により、酸素と水素イオンと電子とが消
費され、水が生成される。 O2+4H++4e-→2H2O ・・・(2) そして、反応式(1)の反応の生成物のうち、水素イオ
ンは、燃料極と酸化剤極との間に介在させた高分子イオ
ン交換膜から成る電解質を経由し、また、電子は燃料極
と酸化剤極とを接続する外部回路を経由して、燃料極か
ら酸化剤極にそれぞれ移動して、反応式(2)の反応で
消費される。
【0004】このとき、この燃料電池の電解質は酸性環
境で作製されるので、燃料極の平衡電位EH2は、ネルン
ストの式から下記[式1]で表される。
【0005】
【式1】
【0006】([式1]中、Rは気体定数、Tはケルビ
ン温度、Fはファラデー定数、aは活量を示す。) また、この燃料電池の酸化剤極の平衡電位EO2は下記
[式2]で表される。
【0007】
【式2】
【0008】([式2]中、E0 O2は標準酸素電極電位
を示す。) そして、[式1]と[式2]とから与えられる平衡起電
力EO2−EH2を電池の起電力とするのが燃料電池の原理
である。
【0009】このような固体高分子型燃料電池を自動車
等に搭載する際は、実際には、燃料電池の基本単位であ
る電極構造体を数十個から数百個組み合せて成るスタッ
ク(集合電池)として用いる。
【0010】ところで、固体高分子型燃料電池から成る
スタックを搭載した自動車等で急加速などを行って、こ
の燃料電池に急激な出力変動を生じさせる場合、この出
力変動に対応して、燃料極側において燃料の水素供給量
を増大させて電池から大電流を供給する必要がある。し
かし、燃料として供給される水素は気体状態であり、こ
の供給量を制御する際の即応性に乏しいため、電流量の
増大に見合う水素の供給量は、出力変動時にリアルタイ
ムに追従して増大するのではなく、そのタイミングより
遅れて増大して供給されることになる。
【0011】この水素の供給遅延は数秒間程度である
が、出力変動直後の燃料極では、出力変動に伴い増大す
る電流に見合うように反応式(1)のイオン反応が促進
され、出力変動以前より水素が多く消費されるため、燃
料の水素が不足する。即ち、燃料電池としては燃料不足
に陥ることになる。
【0012】それにもかかわらず、この出力変動に要す
る大電流を維持するため、水素不足に伴って反応式
(1)の反応による電子の供給量が低下するのを補償す
る形で、燃料電極側から電子が供給される。このときの
燃料極における反応は、下記反応式(3)及び(4)で
表されるものであると考えられる。 2H2O→O2+4H++4e- ・・・(3) C+2H2O→CO2+4H++4e- ・・・(4) そして、上記の反応に伴い、燃料極の平衡電位は、反応
式(1)に対応して[式1]で表されるEH2、及び、反
応式(3)に対応して[式2]で表されるEO2、及び、
反応式(4)に対応する、
【0013】
【式3】
【0014】([式3]中、E0 CO2は標準二酸化炭素電
極電位を示す。) [式3]で表されるECO2を、それぞれの反応生成物の
モル比に応じて定数を乗じたものの総和、即ち、kEH2
+mEO2+nEC02(k、m、nは定数を示す。)に相
当する。そして、この場合、燃料電池の平衡起電力は、
O2−(kEH2+mEO2+nECO2)で表され、出力変
動が大きいと、EO2<kEH2+mEO2+nECO2とな
り、燃料電池に逆電圧が生じることになる。そして、逆
電圧の状態は、上記のように燃料の水素の供給遅延が解
消するまでの数秒間程度続くことになる。
【0015】このとき、燃料極側では、反応式(4)の
反応により、燃料極を構成する触媒層中の触媒担体に用
いられるカーボンが腐食されて燃料極の性能が劣化する
という問題が生じる。そして、このような燃料極の性能
が劣化することにより、燃料電池の発電性能が低下する
こととなる。
【0016】この問題の発生を防止するため、従来、W
O01/15274号公報により、燃料極の触媒層に水
の電気分解を促進させる触媒を混入させるものが開示さ
れている。このものは、反応式(3)の反応を増大さ
せ、これと並行して進行する反応式(4)の反応を抑制
することにより、触媒担体のカーボンの腐食を防止す
る。
【0017】ところが、上記従来のものでは、反応式
(3)の水の電気分解に伴って水分が不足し、燃料極の
保湿性を維持することが難しくなることがあり、これを
防ぐため、WO01/15249号公報で開示されるも
のは、燃料極の下地層や触媒層にPTFE樹脂やグラフ
ァイトを添加し、燃料極の含水量を増加させている。こ
れにより、燃料極の保湿性を維持しながら反応式(3)
の反応を増大させ、これと並行して進行する反応式
(4)の反応を抑制して、触媒担体のカーボンの腐食を
防止する。
【0018】また、WO01/15255号公報で開示
するものは、燃料極の触媒層に水の電気分解を促進させ
る触媒を混入し、さらに、燃料極の下地層や触媒層にP
TFE樹脂やグラファイト形状のカーボンを添加する。
このようにして燃料極の含水量を制御してその保湿性を
維持できるようにしながら、反応式(3)の反応を増大
させ、これと並行して進行する反応式(4)の反応を抑
制する。そして、これにより、触媒担体のカーボンの腐
食を防止する。
【0019】さらに、WO01/15254号公報に
は、触媒層の触媒担持率を増加させたり、触媒担体の耐
腐食性を向上させたりして、反応式(4)の反応等に伴
う燃料極構成材料の劣化を抑制するものが開示されてい
る。
【0020】しかしながら、これらはカーボンの腐食を
抑制するものであり、逆電圧に対する耐性を充分に満足
するものではない。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】ところで、反応式
(3)の反応で生成される酸素の発生量が大きくなる
と、この生成酸素により、電極構造体を構成する燃料極
や電解質膜に種々の不具合が生じるおそれがある。
【0022】その一つは、生成した酸素が触媒担体のカ
ーボンと化合し、カーボンを腐食させ、燃料電池全体の
抵抗が増大するというものである。このときの反応は下
記反応式(5)で表される。 O2+C→CO2 ・・・(5) また、燃料電池の触媒物質は、白金(Pt)のCO被毒
の防止のため、白金-ルテニウム合金など白金合金触媒
を用いることが多いが、反応式(3)の反応で生成した
酸素がこの合金触媒を分解して触媒性能を劣化させるこ
ともある。このときの触媒の分解は下記反応式(6)で
表される。 O2+Pt-Ru→Pt+RuO2 ・・・(6) 反応式(6)の分解反応により分離された白金(Pt)
は、結局COにより被毒されてしまう。
【0023】そして、反応式(3)の反応で生成される
酸素が、燃料極周囲の水素と燃焼化合し、これにより触
媒層や電解質膜を劣化させたり破損させたりするおそれ
もある。特に、燃料電池に用いる電解質膜は、従来のフ
ッ素樹脂系のイオン交換樹脂(DuPont製Nafi
on、旭硝子社製フレミオン等)が高コストのフッ素含
有物であることから、フッ素を用いない炭化水素系ポリ
マー(ポリエーテルケトンなど)を用いることがある。こ
のような炭化水素系ポリマーを用いる場合、そのポリマ
ー骨格が、反応式(3)の反応で生成される酸素により
破断されることがあり、これにより電解質膜が破損して
燃料電池の性能が発揮できなくなる。
【0024】本発明は、上記問題点に鑑み、急激な出力
変動に伴う燃料不足により逆電圧が発生する際に、触媒
性能を保持し得る触媒層を有する燃料極を提供し、ま
た、このような燃料極と、逆電圧の発生の際に電解質性
能を保持し得る電解質膜とを有する固体高分子型燃料電
池を提供することを課題としている。
【0025】さらに、本発明は、逆電圧時に触媒性能や
電解質性能を保ち得る固体高分子型燃料電池を制御する
方法を提供することを課題とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明は、イオン伝導性物質と電子伝導性物質と触
媒物質とを有する燃料電池用燃料極に金属錯体を添加し
たものを固体高分子型燃料電池用燃料極として構成し
た。この燃料極を用いた固体高分子型燃料電池におい
て、急激な出力変動により逆電圧が発生するときに発生
する酸素が、燃料極中に添加された金属錯体により吸着
され、この酸素による燃料極中の触媒物質の劣化を防止
することができる。
【0027】この場合、金属錯体に求められるのは、燃
料電池の作動温度範囲において、燃料極の酸素分圧の上
昇に応じて酸素を吸着し、酸素分圧の減少に応じて酸素
を脱離する機能である。このような金属錯体は、逆電圧
発生時の燃料極の燃料不足に伴う酸素の発生に起因して
酸素分圧が上昇する際に、発生酸素を吸着して、燃料極
中の触媒物質の劣化を防止することができる。また、こ
のような金属錯体は、水素の供給増大の遅延が解消され
て燃料極の酸素分圧が減少する際に、吸着した酸素を脱
離して、酸素を吸着脱離する機能の活性を維持すること
ができるので再使用に耐え得る。なお、金属錯体から酸
素が脱離する際は、上記のように燃料の水素が増大した
供給量で供給されているので、逆電圧発生時のように酸
素分圧が急激に上昇することはなく、このため、燃料極
中の触媒物質の劣化は抑制される。
【0028】そして、固体高分子電解質膜を介して対向
する燃料極と酸化剤極とを備える固体高分子型燃料電池
を、その燃料極に金属錯体を添加して構成すると、この
燃料電池は、急激な出力変動により逆電圧が発生すると
きに発生する酸素が、燃料極中に添加された金属錯体に
より吸着され、この酸素による燃料極中の触媒物質の劣
化を防止することができ、また、この酸素による固体高
分子電解質膜の劣化を防止することができる。
【0029】この場合、金属錯体に求められるのは、燃
料電池の作動温度範囲において、燃料極の酸素分圧の上
昇に応じて酸素を吸着し、酸素分圧の減少に応じて酸素
を脱離する機能である。このような金属錯体は、逆電圧
発生時の燃料極の燃料不足に伴う酸素の発生に起因して
酸素分圧が上昇する際に、発生酸素を吸着して、燃料極
中の触媒物質の劣化を防止することができ、また、この
酸素による固体高分子電解質膜の劣化を防止することが
できる。また、このような金属錯体は、水素の供給増大
の遅延が解消されて燃料極の酸素分圧が減少する際に、
吸着した酸素を脱離して、酸素を吸着脱離する機能の活
性を維持することができるので再使用に耐え得る。な
お、金属錯体から酸素が脱離する際は、上記のように燃
料の水素が増大した供給量で供給されているので、逆電
圧発生時のように酸素分圧が急激に上昇することはな
く、このため、燃料極中の触媒物質の劣化を抑制するこ
とができ、また、この酸素による固体高分子電解質膜の
劣化を抑制することができる。
【0030】なお、上記のように構成するものが、燃料
極と燃料電池とのいずれの場合も、このような金属錯体
として金属フタロシアニンまたは金属テトラフェニルポ
ルフィリンを用いることが望ましい。この金属フタロシ
アニンの好適例は、鉄フタロシアニン、銅フタロシアニ
ン、亜鉛フタロシアニン、コバルトフタロシアニンなど
である。そして、この金属テトラフェニルポルフィリン
の好適例は、鉄テトラフェニルポルフィリン、銅テトラ
フェニルポルフィリン、亜鉛テトラフェニルポルフィリ
ン、コバルトテトラフェニルポルフィリンなどである。
【0031】ところで、固体高分子電解質膜を介して対
向する燃料極と酸化剤極とを備えた高出力固体高分子型
燃料電池を用いる場合、その出力変動により燃料電池内
に逆電圧が生じたときに、燃料極で発生した酸素を、燃
料極に設けた酸素量制御手段を用いて除去するように制
御すれば、発生酸素による燃料極中の触媒物質の劣化を
防止することができ、また、発生酸素による固体高分子
電解質膜の劣化を防止することができる。このような制
御の際に用いることができる酸素量制御手段としては、
上記のような燃料極に添加剤を含有させ化学的に解決す
るものの他、機械的な制御手段をも含む。例えば、水素
ガスより比重の大きいガスを吸引して除去する機構を用
いることができる。
【0032】この場合、酸素量制御手段による酸素の除
去は、逆電圧の発生直後の所定時間だけ行うもので良
い。逆電圧の状態は数秒程度続くだけであり、また、逆
電圧の解消時には、水素の供給量が増大しており、酸素
分圧が減少している。このため、逆電圧発生時のように
酸素分圧が急激に上昇することはない。したがって、酸
素量制御手段を、逆電圧の発生直後の数秒程度作動させ
るだけで、燃料極中の触媒物質の劣化を効率的に抑制す
ることができ、また、この酸素による固体高分子電解質
膜の劣化を効率的に抑制することができる。
【0033】また、酸素量制御手段として、燃料極の酸
素分圧の上昇に応じて酸素を吸着し、前記酸素分圧の減
少に応じて前記吸着された酸素を放出する酸素吸着剤を
用いることが可能である。このような酸素吸着剤は、逆
電圧発生時の燃料極の燃料不足に伴う酸素の発生に起因
して酸素分圧が上昇する際に、発生酸素を吸着して、燃
料極中の触媒物質の劣化を防止することができ、また、
この酸素による固体高分子電解質膜の劣化を防止するこ
とができる。また、このような酸素吸着剤は、水素の供
給増大の遅延が解消されて燃料極の酸素分圧が減少する
際に、吸着した酸素を脱離して、酸素を吸着脱離する機
能の活性を維持することができるので繰り返し使用でき
る。なお、酸素吸着剤から酸素が脱離する際は、上記の
ように燃料の水素が増大した供給量で供給されているの
で、逆電圧発生時のように酸素分圧が急激に上昇するこ
とはなく、このため、燃料極中の触媒物質の劣化を抑制
することができ、また、この酸素による固体高分子電解
質膜の劣化を抑制することができる。
【0034】そして、このような酸素吸着剤として、金
属フタロシアニンまたは金属テトラフェニルポルフィリ
ンを用いるのが望ましい。この金属フタロシアニンの好
適例は、鉄フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フ
タロシアニン、コバルトフタロシアニンなどである。そ
して、この金属テトラフェニルポルフィリンの好適例
は、鉄テトラフェニルポルフィリン、銅テトラフェニル
ポルフィリン、亜鉛テトラフェニルポルフィリン、コバ
ルトテトラフェニルポルフィリンなどである。
【0035】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の固体高分子型燃
料電池を構成する単セル1の断面図である。図1を参照
して、単セル1は、電解質膜2を介して一対の触媒層3
a、3bが対向して積層され、さらに両触媒層3a、3
bの外側には一対の拡散層4a、4bが積層され、そし
て、拡散層4aにそれぞれ接合した水素通流溝5aを包
囲してセパレータ6aが積層し、また、拡散層4bにそ
れぞれ接合した空気通流溝5bを包囲してセパレータ6
bが積層して形成される。
【0036】水素通流溝5aは、図1の紙面の表裏方向
に複数設けられ、各水素通流溝5aの両端で、それぞれ
単セル1の水素供給口(図示せず)及び水素排出口(図
示せず)に接続される。そして、水素供給口から供給さ
れ水素排出口から排出される水素ガスが、単セル1内の
水素通流溝5aにおいて、拡散層4aに接触して燃料極
7に供給される。
【0037】また、空気通流溝5bは、図1の紙面の左
右方向に複数設けられ、各空気通流溝5bの両端で、そ
れぞれ単セル1の空気供給口(図示せず)及び空気排出
口(図示せず)に接続される。そして、空気供給口から
供給され空気排出口から排出される空気が、単セル1内
の空気通流溝5bにおいて、拡散層4bに接触して酸化
剤極8に供給される。
【0038】触媒層3aと拡散層4aとは単セル1の負
極たる燃料極7を構成し、また、触媒層3bと拡散層4
bとは単セル1の正極たる酸化剤極8を構成する。燃料
電池の基本構造は、このような燃料極7及び酸化剤極8
の両電極と、これに挟持される電解質膜2とから構成さ
れるので、電極7、8と電解質膜2とを電極構造体とも
言う。電極構造体のうち、電解質膜2は、燃料極7にお
いて上記反応式(1)の反応により生成される水素イオ
ンを酸化剤極8へ伝導させるためフッ素樹脂系のイオン
交換樹脂などのイオン伝導性物質を用いる。
【0039】また、電極構造体の電極を構成する拡散層
4a、4bは、これに接触して供給される燃料の水素ガ
スや酸化剤の酸素を含有する空気がそれぞれ触媒層3
a、3bに均等に到達できるように、多孔質形状のカー
ボンなどで形成される。
【0040】電極構造体の燃料極7の触媒層3aは、フ
ッ素樹脂系のイオン交換樹脂などのイオン伝導性物質、
白金-ルテニウム合金などの触媒物質、カーボン粒子な
どの電子伝導性物質及び金属錯体から構成される。この
触媒層3aは、触媒物質を担持したカーボン粒子と金属
錯体とイオン交換樹脂溶液とを混合して触媒ペーストと
し、拡散層4aを構成するカーボンペーパーに塗布する
方法、又は膜に塗布する方法等公知の方法を用いて作製
することができる。
【0041】電極構造体の酸化剤極8の触媒層3bは、
フッ素樹脂系のイオン交換樹脂などのイオン伝導性物
質、白金などの触媒物質、カーボン粒子などの電子伝導
性物質から構成される。この触媒層3bも触媒層3aと
同様に公知の手法を用いて作製することができる。
【0042】上記の燃料極7と酸化剤極8と電解質膜2
とを有する固体高分子型燃料電池の作製も公知の方法に
より行うことができる。
【0043】燃料極7に金属錯体を添加するのは、固体
高分子型燃料電池を作動させたときの逆電圧発生時に、
上記したように燃料極7において反応式(3)の反応が
進行して燃料極7周辺の酸素濃度が急激に上昇すること
を防止するためである。金属錯体は触媒ペーストの作製
時に20〜40重量%程度混入すれば良い。
【0044】このとき、金属錯体中の金属イオン(Me
2+、Me3+)と反応式(3)の反応により発生する酸素
とが反応して、下記反応式(7)及び(8)のような平
衡状態を形成すると考えられる。 Me2++O2=Me3+−O−O・ ・・・(7) Me3+−O−O・+Me2+=Me3+−O−O−Me3+ ・・・(8) 反応式(3)の反応により酸素濃度が上昇したときに、
この酸素は、反応式(7)及び(8)の反応により、金
属錯体と反応してスーパーオキソ錯体を生成する。これ
により、燃料極7周囲の酸素濃度の急激な上昇を防ぐこ
とができる。
【0045】ところで、反応式(7)及び(8)の反応
は平衡反応であるので、発生する酸素量が低下すると、
反応式(7)及び(8)の平衡は平衡反応式の逆方向
(平衡反応式の右側から左側方向)にシフトする。上記
したように、燃料電池の逆電圧は、燃料の水素の供給量
の増大が遅延して発生するもので、水素供給量が増大す
れば解消する。そのとき、反応式(3)の反応はほぼ終
息しており、それまでに反応式(7)及び(8)の正方
向(平衡反応式の左側から右側方向)のシフトが進行し
ていたことと相俟って、酸素濃度が相対的に低下する。
そこで、反応式(7)及び(8)の反応の逆方向へのシ
フトが進行し、再び酸素が発生する。しかし、このとき
には、既に逆電圧の解消に伴って水素ガスの供給量が増
大されているので、逆電圧の発生時と比較して、酸素濃
度が急激に上昇することはなく、これによる燃料電池の
構成材料の劣化は軽減される。
【0046】また、金属錯体が酸素を吸着する必要があ
るのは、逆電圧が解消されるまで、即ち、水素の供給量
が遅れて増大するまでの数秒間で足り、また、上記した
ように酸素濃度に応じて酸素を吸着または脱離する機能
を有することで、金属錯体の酸素吸着機能は繰り返し有
効である。したがって、このような金属錯体を用いた酸
素吸着剤を、燃料極における発生酸素の酸素量制御手段
として用いると効率良く燃料極の酸素を除去することが
できる。
【0047】このような酸素吸着機能を有する金属錯体
には、金属フタロシアニンや金属テトラフェニルポルフ
ィリンがあり、特に、金属テトラフェニルポルフィリン
は、反応式(8)に示すような安定したスーパーオキソ
錯体を形成するのでさらに有用である。
【0048】また、上記の金属フタロシアニンとして
は、鉄フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フタロ
シアニン、コバルトフタロシアニンなどを用いることが
でき、金属テトラフェニルポルフィリンとしては、鉄テ
トラフェニルポルフィリン、銅テトラフェニルポルフィ
リン、亜鉛テトラフェニルポルフィリン、コバルトテト
ラフェニルポルフィリンなどを用いることができる。
【0049】なお、本発明の実施の形態は、燃料極に上
記のような金属錯体を添加し、金属錯体の酸素吸着機能
により、これを酸素量制御手段として用いて、燃料極に
発生する酸素を除去するものである。このような化学的
作用に基づくものに替え、機械的作用により燃料極に発
生する酸素を除去するものを用いても良い。機械的な制
御手段の例としては、水素ガスより比重の大きいガス
を、逆電圧発生直後の所定時間(数秒程度)だけ吸引し
て除去する機構を挙げることができる。
【0050】
【実施例】燃料電池の単セルの評価のため、下記[試験
1]で示す逆電圧再現試験を用いる。
【0051】[試験1]空気流通溝を介して単セルの空
気供給口から酸化剤極に1.0気圧の空気(利用率40
%)を供給し、水素流通溝を介して単セルの水素供給口
から燃料極に1.0気圧の水素(利用率80%)を供給
する。セル温度を80℃にし、供給用の空気及び水素に
バブリング法により水蒸気を供給して加湿を行う。単セ
ルのセパレータAとセパレータBとの電流端子により単
セルの発電電流を取り出し、外部の可変抵抗により電流
密度を0.5A/cm2として単セルの電圧を測定す
る。
【0052】この状態で電圧測定を行って5分間経過し
た後、セパレータAとセパレータBとの電流端子に外部
電源を接続し、0.5A/cm2の電流密度を維持しな
がら、水素供給口から供給される水素ガスを窒素ガスに
切り替え、この状態を10秒間維持する。この際、窒素
ガス流通時に水素排出口から排出される窒素ガスをガス
クロマトグラフ装置に接続し、排出されるガス成分の同
定を行う。
【0053】窒素ガスの流通を維持した10秒間が経過
した後、窒素ガスを再び水素ガスに切り替えて電圧の測
定を5分間継続する。
【0054】上記の5分間発電(水素ガス供給)→10
秒間燃料欠乏(窒素ガス供給、外部電源作動)→5分間
発電(水素ガス供給)を1サイクルとしたサイクルを数
回繰り返して、単セルのサイクル試験終了後の発電性能
の測定と、単セルのサイクル試験終了後の耐CO被毒性
能の測定と、単セルの燃料欠乏時の発生ガスの同定と、
単セル内の金属元素の分布状態の解析とを行う。
【0055】[実施例1]白金-ルテニウム合金の担持
濃度が54%の白金-ルテニウム合金担持カーボン触媒
(田中貴金属工業製:TEC61E54)と、鉄フタロ
シアニン錯体(アルドリッチ製)粉末とを重量比7:3
の割合に秤量したもの10gに、イオン交換樹脂溶液
(DuPont製:Nafion SE5112)14
0g、水5g、イソプロピルアルコール溶液45gを充
分に混合して触媒ペーストを作製した。次いで、あらか
じめPTFEにて撥水処理をしたカーボンペーパー上
に、合金濃度が0.3mg/cm2となるように調整し
て触媒ペーストを塗布した後、乾燥してイソプロピルア
ルコール、水を除去して燃料極を作製した。
【0056】カーボンブラックと白金との重量比を5
0:50とした白金担持カーボン触媒(田中貴金属工業
製:TEC10E50E)10gと、イオン交換樹脂溶
液(DuPont製:Nafion SE5112)1
00g、グリセリン(関東化学製)5gとを混合して触
媒ペーストを作製した。次いで、あらかじめPTFEに
て撥水処理をしたカーボンペーパー上に、白金濃度が
0.3mg/cm2となるように調整して触媒ペースト
を塗布した後、乾燥して酸化剤極を作製した。
【0057】燃料極と酸化剤極とで、高分子電解質膜
(DuPont製:Nafion)を挟み込み、ホット
プレス法にて燃料電池の電極構造体を作製した。この電
極構造体を、空気供給口と空気通流溝と空気排出口とを
設けたセパレータAと、水素供給口と水素通流溝と水素
排出口とを設けたセパレータBとで挟み、単セルを作製
した。
【0058】このようにして得られた燃料電池の単セル
に、[試験1]で示す逆電圧再現試験を行った。
【0059】[実施例2]燃料極の触媒ペースト作製時
に混合する金属錯体粉末として、鉄フタロシアニン錯体
(アルドリッチ製)粉末の替わりに鉄テトラフェニルポ
ルフィリン錯体(アルドリッチ製)粉末を用いた以外
は、[実施例1]と同様にして燃料電池の単セルを作製
し、[試験1]で示す逆電圧再現試験を行った。
【0060】[比較例1]金属錯体を混合せずに燃料極
の触媒ペーストを作製した以外は、[実施例1]と同様
にして燃料電池の単セルを作製し、[試験1]で示す逆
電圧再現試験を行った。
【0061】図2は、[実施例1]、[実施例2]及び
[比較例1]の単セルの端子電圧の経時変化を示すもの
である。いずれの場合も、図2(a)に示すように、測
定時間として5分経過直後の短時間(T1−T2)に、逆
電圧が短時間発生している。図2(b)は、逆電圧が発
生するT1−T2間近傍の拡大図であり、逆電圧が、その
発生からたかだか10秒程度で解消していることがわか
る。
【0062】図3は、[実施例1]、[実施例2]及び
[比較例1]の各単セルのサイクル試験終了後の発電性
能の測定結果を示すものである。測定時の電流密度はい
ずれも0.5A/cm2とした。[実施例1]及び[実
施例2]の単セルの発電性能が良好に維持されているの
に対し、[比較例1]の単セルは試験サイクル数10回
以降、発電が得られなくなる。
【0063】図4は、[実施例1]、[実施例2]及び
[比較例1]の各単セルにCOを50ppm添加して発
電性能を測定したものを各単セルのサイクル試験終了後
の耐CO被毒性能として、その測定結果を示したもので
ある。[実施例1]及び[実施例2]の単セルの発電性
能が良好に維持されているのに対し、[比較例1]の単
セルは試験サイクル数7回以降、発電が得られなくな
る。これにより、[比較例1]では、反応式(6)の反
応が進行し、触媒喪失を招いたことが認められる。
【0064】次に、[実施例1]、[実施例2]及び
[比較例1]の各単セルの燃料欠乏時の発生ガスの同定
結果(但し、水素ガス及び窒素ガスは除く)を下記[表
1]に示す。
【0065】
【表1】
【0066】[表1]より、[比較例1]において、逆
電圧発生時(経過時間:5分〜5分10秒)に、反応式
(3)及び(4)の反応が進行していることが認められ
る。また、[実施例1]及び[実施例2]においては、
それぞれ鉄フタロシアニンと鉄テトラフェニルポルフィ
リンとが酸素を吸着脱離する機能により、逆電圧発生時
にこれらの鉄錯体に対して酸素の吸着が良好に行われ、
逆電圧解消直後(経過時間:5分10秒〜7分)にこれらの
鉄錯体に吸着されていた酸素が脱離される。そして、逆
電圧解消後(経過時間:7分〜10分)は、鉄錯体に吸着
されていた酸素量が枯渇し、これから脱離される酸素量
が減少したためこのときに同定される酸素としては減衰
傾向を示すことが認められる。
【0067】さらに、[実施例1]、[実施例2]及び
[比較例1]の各単セル内の金属元素の分布状態の解析
結果を下記[表2]に示す。
【0068】
【表2】
【0069】[表2]より、[比較例1]の酸化剤極の
みに、燃料極起源のルテニウム元素の存在が確認され
た。[比較例1]において、反応式(3)の反応で発生
した酸素により電解質膜が破損したため、燃料極のルテ
ニウム元素が電解質膜中を移動して酸化剤極に到達した
ことが認められる。
【0070】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明
の燃料極は、鉄フタロシアニンや鉄テトラフェニルポル
フィリンなどの金属錯体を添加して形成されるため、こ
れらの金属錯体の酸素吸着機能により、逆電圧発生時に
発生する酸素を除去することができ、発生酸素による触
媒物質や触媒担体の劣化を防止できる。
【0071】また、本発明の固体高分子型燃料電池は、
上記金属錯体を添加した燃料極を有して構成されるた
め、逆電圧発生時に発生する酸素を除去することがで
き、触媒物質などの燃料極の構成材料や電解質膜の劣化
や破損を防止できる。
【0072】さらに、上記金属錯体を酸素吸着剤などと
して用いた酸素量制御手段により固体高分子型燃料電池
を制御する際に、酸素量制御手段による酸素の除去は逆
電圧発生の直後の所定時間のみで足り、本発明の固体高
分子型燃料電池の制御方法は効率が良い。そして、この
ような酸素量制御手段として、発生する酸素の分圧の増
減に応じて酸素を吸着または脱離できる上記金属錯体か
ら成る酸素吸着剤を用いれば、この酸素吸着剤は繰り返
しの使用が可能であり、さらに良好な効率の制御を行う
ことができる。そして、このような制御方法を用いるこ
とにより長寿命の固体高分子型燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】固体高分子型燃料電池の単セルの断面図
【図2】(a)(b)単セルの端子電圧の経時変化を示
すグラフ図とその拡大図
【図3】単セルのサイクル試験終了後の発電性能を示す
グラフ図
【図4】単セルのサイクル試験終了後の耐CO被毒性能
を示すグラフ図
【符号の説明】
2 電解質膜 7 燃料極 8 酸化剤極
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 谷 雅樹 埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会 社本田技術研究所内 (72)発明者 岩澤 力 埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会 社本田技術研究所内 Fターム(参考) 5H018 AA06 AS02 EE05 EE10 EE16 5H026 AA06 EE17 5H027 AA06 KK54 MM01

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】イオン伝導性物質と電子伝導性物質と触媒
    物質とを有し、金属錯体が添加されたことを特徴とする
    固体高分子型燃料電池用燃料極。
  2. 【請求項2】前記金属錯体は、前記燃料電池の作動温度
    範囲において、前記燃料極の酸素分圧の上昇に応じて酸
    素を吸着し、前記酸素分圧の減少に応じて酸素を脱離す
    ることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料
    電池用燃料極。
  3. 【請求項3】前記金属錯体は、金属フタロシアニンまた
    は金属テトラフェニルポルフィリンから成ることを特徴
    とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池
    用燃料極。
  4. 【請求項4】固体高分子電解質膜を介して対向する燃料
    極と酸化剤極とを備え、前記燃料極に金属錯体を添加し
    たことを特徴とする固体高分子型燃料電池。
  5. 【請求項5】前記金属錯体は、前記燃料電池の作動温度
    範囲において、前記燃料極の酸素分圧の上昇に応じて酸
    素を吸着し、前記酸素分圧の減少に応じて酸素を脱離す
    ることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子型燃料
    電池。
  6. 【請求項6】前記金属錯体は、金属フタロシアニンまた
    は金属テトラフェニルポルフィリンから成ることを特徴
    とする請求項4または5に記載の固体高分子型燃料電
    池。
  7. 【請求項7】固体高分子電解質膜を介して対向する燃料
    極と酸化剤極とを備えた高出力固体高分子型燃料電池の
    出力変動により、該燃料電池内に逆電圧が生じたときに
    前記燃料極で発生した酸素を、前記燃料極に設けた酸素
    量制御手段を用いて除去することを特徴とする固体高分
    子型燃料電池の制御方法。
  8. 【請求項8】前記酸素量制御手段による酸素の除去を、
    前記逆電圧の発生直後の所定時間行うことを特徴とする
    請求項7に記載の固体高分子型燃料電池の制御方法。
  9. 【請求項9】前記酸素量制御手段として、前記燃料極の
    酸素分圧の上昇に応じて酸素を吸着し、前記酸素分圧の
    減少に応じて前記吸着された酸素を放出する酸素吸着剤
    を用いることを特徴とする請求項7または8に記載の固
    体高分子型燃料電池の制御方法。
  10. 【請求項10】前記酸素吸着剤として、金属フタロシア
    ニンまたは金属テトラフェニルポルフィリンを用いるこ
    とを特徴とする請求項9に記載の固体高分子型燃料電池
    の制御方法。
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