JP2003129263A5 - - Google Patents
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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、腐食抑制方法、特に、水分の影響によりボイラの伝熱管等の非不動態化金属体に生じる腐食を抑制するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
日本工業規格(JIS)に規定された特殊循環ボイラの範疇に属する貫流ボイラは、給水を加熱して蒸気を発生させるための伝熱管を備えている。このような伝熱管は、炭素鋼等の非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ水と接触する部位がボイラ水の影響による腐食のために破損し、貫流ボイラの寿命に致命的な影響を及ぼす場合がある。このため、貫流ボイラを長期間安定に運転するためには、伝熱管の腐食を効果的に抑制する必要がある。
【0003】
そこで、JIS B 8223:1999は、伝熱管に生じる上述のような腐食を抑制する観点から、特殊循環ボイラのボイラ水の水質に関する各種の管理項目を設定し、その推奨基準を規定している。
【0004】
ところで、伝熱管の腐食は、通常、次の三種類の指標に基づいて評価されている。
(1)mdd(mg/dm2/day):水との接触面の単位表面積(1dm2)における1日当りの質量減少量(mg)を表現したものである。
(2)ipy(inch/year):1年間における、伝熱管の厚さ(肉厚)の減少量(インチ)を表現したものである。
(3)食孔数/cm2:水との接触面の単位表面積(1cm2)当りに発生した食孔の数を表現したものである。なお、食孔とは、伝熱管の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう局部的腐食、すなわち孔食により生じた窪みを意味する(例えば、日刊工業新聞社発行、腐食防食協会編「防食技術便覧」31〜33頁参照)。
【0005】
ところが、JIS B 8223:1999において推奨されているボイラ水の管理基準に適合するよう貫流ボイラを運転し、また、上述のような指標に基づきながら伝熱管の腐食の進行状況を評価して、ボイラ水との接触部位における伝熱管の腐食の状況が破損に至る程度のものではないと判定できる場合であっても、予想外に伝熱管の当該部位が腐食により破損してしまう場合がある。これによると、JISにおいて推奨されているボイラ水の管理基準は、必ずしも伝熱管の腐食を抑制するために有効とは言えない。
【0006】
本発明の目的は、水分の影響によりボイラの伝熱管等の非不動態化金属体に生じる腐食を抑制することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る非不動態化金属体の腐食抑制方法は、水分の影響により非不動態化金属体に生じる腐食を抑制するための方法であり、非不動態化金属体に影響する水分中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定する工程を含んでいる。この方法により抑制可能な腐食は、例えば局部的腐食である。
【0008】
また、本発明の他の観点に係る腐食抑制方法は、ボイラの伝熱管に生じる腐食を抑制するための方法であり、ボイラ内のボイラ水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定する工程を含んでいる。この方法により抑制可能な腐食は、例えば、伝熱管の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう局部的腐食である。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明の腐食抑制方法を適用可能な貫流ボイラを備えた蒸気ボイラ装置の概略を説明する。図において、蒸気ボイラ装置1は、貫流ボイラ2と給水装置3とを主に備えている。
【0010】
貫流ボイラ2は、図2に示すように、給水装置3から供給される給水を貯留するための貯留部4と、貯留部4に対して起立するように設けられた複数本の伝熱管5(非不動態化金属体の一例)と、伝熱管5の上端部に設けられかつ図示しない負荷装置に向けて蒸気を供給するための供給路6aを有するヘッダ6と、給水を加熱して蒸気を発生するための加熱装置7とを主に備えている。なお、貯留部4とヘッダ6とは、平面形状が環状に設定されている。また、貯留部4は、その内部に貯留された給水(後述するボイラ水W)を排出するための、図示しない開閉弁を備えた排出口4aを有している。
【0011】
伝熱管5は、非不動態化金属を用いて形成された部材、すなわち、非不動態化金属体である。ここで、非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。
【0012】
給水装置3は、貫流ボイラ2に給水を供給するためのものであり、補給水の注水路8、注水路8からの補給水を貯留するための給水タンク9および貫流ボイラ2の貯留部4に給水を供給するための給水路10を主に備えている(図1)。ここで、注水路8は、軟水化装置11と脱酸素装置12とをこの順に備えている。軟水化装置11は、補給水中に含まれる各種の硬度分等をナトリウムイオンに置換して軟水に変換するためのものである。一方、脱酸素装置12は、補給水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。
【0013】
上述の蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、注水路8から給水タンク9に補給水を供給し、この補給水を給水タンク9に貯留する。ここで貯留される給水は、軟水化装置11および脱酸素装置12で処理されたもの、すなわち、脱酸素処理された軟水である。そして、図示しないポンプを作動させ、給水タンク9に貯留された給水を、給水路10を通じて貫流ボイラ2に供給する。
【0014】
貫流ボイラ2において、給水路10を通じて供給される給水は、貯留部4内においてボイラ水Wとして貯留される。そして、貯留部4に貯留されたボイラ水Wは、加熱装置7により加熱されながら各伝熱管5内を上昇し、徐々に蒸気になる。各伝熱管5において生成した蒸気はヘッダ6において集められ、供給路6aを通じて負荷装置に供給される。
【0015】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、貫流ボイラ2で用いられる各伝熱管5は、図2に一点鎖線IIIで示すような下端部分、すなわち、貯留部4との連結部分が、ボイラ水Wと継続的に接触することになる。このため、伝熱管5は、そのような部分において、ボイラ水Wの影響を受け、腐食しやすい。特に、伝熱管5は、上述の下端部分において、内周面の減肉的な腐食に加えて局部的腐食が生じやすく、それが原因で微小な穴開きを起こして破損する場合がある。
【0016】
ここで、局部的腐食とは、図3(図2のIII部分の拡大図)に示すように、伝熱管5の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう孔状の腐食、すなわち、伝熱管5の厚さ(肉厚)方向に発生する孔状の腐食をいう。以下、このような局部的腐食の発生現象を「孔食」といい、この孔食により生じた孔状の腐食を「食孔」(図3においては符号5aで示している)という。
【0017】
そこで、蒸気ボイラ装置1の運転中は、腐食による伝熱管5の破損を抑制するために、ボイラ水W中の塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度とを継続的に測定し、ボイラ水中に含まれる両イオンの合計量が800mg/l以下、好ましくは650mg/l以下、より好ましくは500mg/l以下、さらに好ましくは400mg/l以下になるよう設定する。ここで、ボイラ水W中の塩化物イオンは、JIS B 8223:1999で推奨されている通り400mg/l以下に設定するのが好ましく、300mg/l以下に設定するのがより好ましい。一方、ボイラ水中の硫酸イオンは、600mg/l以下に設定するのが好ましく、500mg/l以下に設定するのがより好ましい。なお、ボイラ水中の硫酸イオン濃度は、JIS B 8223:1999において言及されておらず、本発明において初めて提案するボイラ水の水質管理基準である。
【0018】
このようにボイラ水W中のイオン濃度を調整すると、伝熱管5は、ボイラ水Wとの接触部分における減肉的な腐食が抑制されると共に、食孔5aの発生および成長も抑制され、腐食(特に食孔5a)による破損を起こしにくくなる。なお、ボイラ水W中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量が800mg/lを超える場合は、JIS B 8223:1999で推奨されている他の管理基準(例えばボイラ水のpH等)を所要の状態に設定しても、伝熱管5に腐食、特に孔食による食孔5aが発生しやすくなる。
【0019】
蒸気ボイラ装置1において、ボイラ水W中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量は、例えば、加熱により濃縮されたボイラ水Wを給水により希釈すると、上記のように設定することができる。因みに、ボイラ水Wは、貫流ボイラ2の貯留部4内に給水路10から給水を供給しつつ、排出口4aから濃縮されたボイラ水Wを適宜排出すると(いわゆるブローすると)希釈することができる。
【0020】
なお、この実施の形態では、本発明の腐食抑制方法を貫流ボイラで用いられる伝熱管の腐食を抑制する場合を例に説明したが、本発明の腐食抑制方法はこれに限定されるものではない。例えば、貫流ボイラ以外のボイラの伝熱管、貫流ボイラ等の各種ボイラを採用した蒸気ボイラ装置において用いられる貯水槽、復水配管および給水配管、並びにボイラ以外のその他の各種熱機器(例えば、湯沸かし器、吸収式冷凍器、クーリングタワー等)において用いられる伝熱管、貯水槽および各種の配管等、上述のような非不動態化金属からなる部材(非不動態化金属体)であって、水や蒸気などの水分の影響を受けて腐食する可能性があるもの、特に、上述のような局部的腐食(孔食)が生じる可能性があるものに対し、本発明の腐食抑制方法は同様に適用することができる。
【0021】
ボイラの伝熱管以外の非不動態化金属体に対して本発明の腐食抑制方法を適用する場合は、当該非不動態化金属体に対して影響を与える水分中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を上述のように(すなわち、800mg/l以下、好ましくは650mg/l以下、より好ましくは500mg/l以下、さらに好ましくは400mg/l以下)に設定する。例えば、蒸気ボイラ装置の貯水槽において孔食を抑制する場合、貯水槽に貯留する水(給水)中の両イオンの合計量を上述のように設定する。
【0022】
検証例
JIS B 8223:1999において推奨されているボイラ水の管理基準に適合するよう運転されていた本出願人会社製のボイラにおいて、1989年10月から2001年9月の12年間の間に伝熱管の腐食破損が29件報告された。ところが、これらの報告事例の全てにおいて、伝熱管の減肉的な腐食の状況を示す指標(mdd)は伝熱管の腐食破損が生じないことを示していた。そこで、各報告事例について伝熱管の破損形態を調べたところ、全ての事例における破損形態は、孔食の進行で生じた食孔による微小な穴開きであることが判明した。
【0023】
本発明者等は、以上の原因としてボイラ水中に含まれる硫酸イオンに着目し、ボイラ水中の硫酸イオン濃度と伝熱管に生じる食孔の深さの最大値(相対値)との関係を調べた。結果を図4に示す。図4によると、ボイラ水中の硫酸イオン濃度が高まるに従って食孔の深さの最大値が大きくなる。これより、ボイラ水中の硫酸イオン濃度は、伝熱管の腐食、特に孔食の進行に重要な影響を与えていることがわかる。
【0024】
そこで、本発明者等は、上述の29件の破損事例について、それらの運転時に供給していた給水の水質データからボイラ水中の塩化物イオンおよび硫酸イオンの量を求めた。また、各破損事例について、破損に至るまでの期間から食孔の成長速度を求めた。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1によると、ボイラ水中の塩化物イオン量がJIS B 8223:1999で推奨されている400mg/l以下に設定されている場合であっても、孔食の進行による伝熱管の破損が生じていることがわかる。これによると、ボイラ水中の塩化物イオン量をJISの推奨値以下に設定しても、孔食の進行による伝熱管の破損は防止しにくいことになる。
【0027】
また、表1の結果に基づいて、食孔の成長速度と、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量との関係をグラフ化した結果を図5に示す。図5によると、ボイラ水中の塩化物イオン量がJIS B 8223:1999で推奨されている400mg/l以下に設定されている場合であっても、ボイラ水中の塩化物イオン量と硫酸イオン量との合計濃度が800mg/lを超える場合において、孔食の進行による伝熱管の破損が集中的に発生していることがわかる。
【0028】
また、表1の結果に基づいて、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量と、破損事例数の累積度数(%)との関係をまとめた結果を表2および図6に示す。なお、破損事例数の累積度数は、上記破損事例数(29件)に対する、図に示した塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量以下の当該合計量で伝熱管が破損した事例数の合計(累積事例数)の百分率(すなわち、(累積事例数/29件)×100)を示している。例えば、両イオンの合計量が800mg/lの場合、それ以下の当該合計量で伝熱管が破損した事例数の合計は4件であり、累積度数は約14%になる。図6に一点鎖線で示すように、累積度数は、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量が800mg/lを超えると急激に増加していることがわかる。
【0029】
【表2】
【0030】
これらによると、ボイラ水中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定すれば、ボイラの伝熱管の腐食、特に、孔食で生じる食孔による破損を効果的に抑制できることがわかる。
【0031】
【発明の効果】
本発明に係る非不動態化金属体の腐食抑制方法は、非不動態化金属体に影響する水分中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定しているので、非不動態化金属体に生じる腐食、特に局部的腐食を抑制することができる。
【0032】
また、本発明に係るボイラの腐食抑制方法は、ボイラ内のボイラ水中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定しているので、伝熱管に生じる腐食、特に局部的腐食を抑制することができる。
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、腐食抑制方法、特に、水分の影響によりボイラの伝熱管等の非不動態化金属体に生じる腐食を抑制するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
日本工業規格(JIS)に規定された特殊循環ボイラの範疇に属する貫流ボイラは、給水を加熱して蒸気を発生させるための伝熱管を備えている。このような伝熱管は、炭素鋼等の非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ水と接触する部位がボイラ水の影響による腐食のために破損し、貫流ボイラの寿命に致命的な影響を及ぼす場合がある。このため、貫流ボイラを長期間安定に運転するためには、伝熱管の腐食を効果的に抑制する必要がある。
【0003】
そこで、JIS B 8223:1999は、伝熱管に生じる上述のような腐食を抑制する観点から、特殊循環ボイラのボイラ水の水質に関する各種の管理項目を設定し、その推奨基準を規定している。
【0004】
ところで、伝熱管の腐食は、通常、次の三種類の指標に基づいて評価されている。
(1)mdd(mg/dm2/day):水との接触面の単位表面積(1dm2)における1日当りの質量減少量(mg)を表現したものである。
(2)ipy(inch/year):1年間における、伝熱管の厚さ(肉厚)の減少量(インチ)を表現したものである。
(3)食孔数/cm2:水との接触面の単位表面積(1cm2)当りに発生した食孔の数を表現したものである。なお、食孔とは、伝熱管の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう局部的腐食、すなわち孔食により生じた窪みを意味する(例えば、日刊工業新聞社発行、腐食防食協会編「防食技術便覧」31〜33頁参照)。
【0005】
ところが、JIS B 8223:1999において推奨されているボイラ水の管理基準に適合するよう貫流ボイラを運転し、また、上述のような指標に基づきながら伝熱管の腐食の進行状況を評価して、ボイラ水との接触部位における伝熱管の腐食の状況が破損に至る程度のものではないと判定できる場合であっても、予想外に伝熱管の当該部位が腐食により破損してしまう場合がある。これによると、JISにおいて推奨されているボイラ水の管理基準は、必ずしも伝熱管の腐食を抑制するために有効とは言えない。
【0006】
本発明の目的は、水分の影響によりボイラの伝熱管等の非不動態化金属体に生じる腐食を抑制することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る非不動態化金属体の腐食抑制方法は、水分の影響により非不動態化金属体に生じる腐食を抑制するための方法であり、非不動態化金属体に影響する水分中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定する工程を含んでいる。この方法により抑制可能な腐食は、例えば局部的腐食である。
【0008】
また、本発明の他の観点に係る腐食抑制方法は、ボイラの伝熱管に生じる腐食を抑制するための方法であり、ボイラ内のボイラ水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定する工程を含んでいる。この方法により抑制可能な腐食は、例えば、伝熱管の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう局部的腐食である。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明の腐食抑制方法を適用可能な貫流ボイラを備えた蒸気ボイラ装置の概略を説明する。図において、蒸気ボイラ装置1は、貫流ボイラ2と給水装置3とを主に備えている。
【0010】
貫流ボイラ2は、図2に示すように、給水装置3から供給される給水を貯留するための貯留部4と、貯留部4に対して起立するように設けられた複数本の伝熱管5(非不動態化金属体の一例)と、伝熱管5の上端部に設けられかつ図示しない負荷装置に向けて蒸気を供給するための供給路6aを有するヘッダ6と、給水を加熱して蒸気を発生するための加熱装置7とを主に備えている。なお、貯留部4とヘッダ6とは、平面形状が環状に設定されている。また、貯留部4は、その内部に貯留された給水(後述するボイラ水W)を排出するための、図示しない開閉弁を備えた排出口4aを有している。
【0011】
伝熱管5は、非不動態化金属を用いて形成された部材、すなわち、非不動態化金属体である。ここで、非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。
【0012】
給水装置3は、貫流ボイラ2に給水を供給するためのものであり、補給水の注水路8、注水路8からの補給水を貯留するための給水タンク9および貫流ボイラ2の貯留部4に給水を供給するための給水路10を主に備えている(図1)。ここで、注水路8は、軟水化装置11と脱酸素装置12とをこの順に備えている。軟水化装置11は、補給水中に含まれる各種の硬度分等をナトリウムイオンに置換して軟水に変換するためのものである。一方、脱酸素装置12は、補給水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。
【0013】
上述の蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、注水路8から給水タンク9に補給水を供給し、この補給水を給水タンク9に貯留する。ここで貯留される給水は、軟水化装置11および脱酸素装置12で処理されたもの、すなわち、脱酸素処理された軟水である。そして、図示しないポンプを作動させ、給水タンク9に貯留された給水を、給水路10を通じて貫流ボイラ2に供給する。
【0014】
貫流ボイラ2において、給水路10を通じて供給される給水は、貯留部4内においてボイラ水Wとして貯留される。そして、貯留部4に貯留されたボイラ水Wは、加熱装置7により加熱されながら各伝熱管5内を上昇し、徐々に蒸気になる。各伝熱管5において生成した蒸気はヘッダ6において集められ、供給路6aを通じて負荷装置に供給される。
【0015】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、貫流ボイラ2で用いられる各伝熱管5は、図2に一点鎖線IIIで示すような下端部分、すなわち、貯留部4との連結部分が、ボイラ水Wと継続的に接触することになる。このため、伝熱管5は、そのような部分において、ボイラ水Wの影響を受け、腐食しやすい。特に、伝熱管5は、上述の下端部分において、内周面の減肉的な腐食に加えて局部的腐食が生じやすく、それが原因で微小な穴開きを起こして破損する場合がある。
【0016】
ここで、局部的腐食とは、図3(図2のIII部分の拡大図)に示すように、伝熱管5の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう孔状の腐食、すなわち、伝熱管5の厚さ(肉厚)方向に発生する孔状の腐食をいう。以下、このような局部的腐食の発生現象を「孔食」といい、この孔食により生じた孔状の腐食を「食孔」(図3においては符号5aで示している)という。
【0017】
そこで、蒸気ボイラ装置1の運転中は、腐食による伝熱管5の破損を抑制するために、ボイラ水W中の塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度とを継続的に測定し、ボイラ水中に含まれる両イオンの合計量が800mg/l以下、好ましくは650mg/l以下、より好ましくは500mg/l以下、さらに好ましくは400mg/l以下になるよう設定する。ここで、ボイラ水W中の塩化物イオンは、JIS B 8223:1999で推奨されている通り400mg/l以下に設定するのが好ましく、300mg/l以下に設定するのがより好ましい。一方、ボイラ水中の硫酸イオンは、600mg/l以下に設定するのが好ましく、500mg/l以下に設定するのがより好ましい。なお、ボイラ水中の硫酸イオン濃度は、JIS B 8223:1999において言及されておらず、本発明において初めて提案するボイラ水の水質管理基準である。
【0018】
このようにボイラ水W中のイオン濃度を調整すると、伝熱管5は、ボイラ水Wとの接触部分における減肉的な腐食が抑制されると共に、食孔5aの発生および成長も抑制され、腐食(特に食孔5a)による破損を起こしにくくなる。なお、ボイラ水W中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量が800mg/lを超える場合は、JIS B 8223:1999で推奨されている他の管理基準(例えばボイラ水のpH等)を所要の状態に設定しても、伝熱管5に腐食、特に孔食による食孔5aが発生しやすくなる。
【0019】
蒸気ボイラ装置1において、ボイラ水W中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量は、例えば、加熱により濃縮されたボイラ水Wを給水により希釈すると、上記のように設定することができる。因みに、ボイラ水Wは、貫流ボイラ2の貯留部4内に給水路10から給水を供給しつつ、排出口4aから濃縮されたボイラ水Wを適宜排出すると(いわゆるブローすると)希釈することができる。
【0020】
なお、この実施の形態では、本発明の腐食抑制方法を貫流ボイラで用いられる伝熱管の腐食を抑制する場合を例に説明したが、本発明の腐食抑制方法はこれに限定されるものではない。例えば、貫流ボイラ以外のボイラの伝熱管、貫流ボイラ等の各種ボイラを採用した蒸気ボイラ装置において用いられる貯水槽、復水配管および給水配管、並びにボイラ以外のその他の各種熱機器(例えば、湯沸かし器、吸収式冷凍器、クーリングタワー等)において用いられる伝熱管、貯水槽および各種の配管等、上述のような非不動態化金属からなる部材(非不動態化金属体)であって、水や蒸気などの水分の影響を受けて腐食する可能性があるもの、特に、上述のような局部的腐食(孔食)が生じる可能性があるものに対し、本発明の腐食抑制方法は同様に適用することができる。
【0021】
ボイラの伝熱管以外の非不動態化金属体に対して本発明の腐食抑制方法を適用する場合は、当該非不動態化金属体に対して影響を与える水分中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を上述のように(すなわち、800mg/l以下、好ましくは650mg/l以下、より好ましくは500mg/l以下、さらに好ましくは400mg/l以下)に設定する。例えば、蒸気ボイラ装置の貯水槽において孔食を抑制する場合、貯水槽に貯留する水(給水)中の両イオンの合計量を上述のように設定する。
【0022】
検証例
JIS B 8223:1999において推奨されているボイラ水の管理基準に適合するよう運転されていた本出願人会社製のボイラにおいて、1989年10月から2001年9月の12年間の間に伝熱管の腐食破損が29件報告された。ところが、これらの報告事例の全てにおいて、伝熱管の減肉的な腐食の状況を示す指標(mdd)は伝熱管の腐食破損が生じないことを示していた。そこで、各報告事例について伝熱管の破損形態を調べたところ、全ての事例における破損形態は、孔食の進行で生じた食孔による微小な穴開きであることが判明した。
【0023】
本発明者等は、以上の原因としてボイラ水中に含まれる硫酸イオンに着目し、ボイラ水中の硫酸イオン濃度と伝熱管に生じる食孔の深さの最大値(相対値)との関係を調べた。結果を図4に示す。図4によると、ボイラ水中の硫酸イオン濃度が高まるに従って食孔の深さの最大値が大きくなる。これより、ボイラ水中の硫酸イオン濃度は、伝熱管の腐食、特に孔食の進行に重要な影響を与えていることがわかる。
【0024】
そこで、本発明者等は、上述の29件の破損事例について、それらの運転時に供給していた給水の水質データからボイラ水中の塩化物イオンおよび硫酸イオンの量を求めた。また、各破損事例について、破損に至るまでの期間から食孔の成長速度を求めた。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1によると、ボイラ水中の塩化物イオン量がJIS B 8223:1999で推奨されている400mg/l以下に設定されている場合であっても、孔食の進行による伝熱管の破損が生じていることがわかる。これによると、ボイラ水中の塩化物イオン量をJISの推奨値以下に設定しても、孔食の進行による伝熱管の破損は防止しにくいことになる。
【0027】
また、表1の結果に基づいて、食孔の成長速度と、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量との関係をグラフ化した結果を図5に示す。図5によると、ボイラ水中の塩化物イオン量がJIS B 8223:1999で推奨されている400mg/l以下に設定されている場合であっても、ボイラ水中の塩化物イオン量と硫酸イオン量との合計濃度が800mg/lを超える場合において、孔食の進行による伝熱管の破損が集中的に発生していることがわかる。
【0028】
また、表1の結果に基づいて、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量と、破損事例数の累積度数(%)との関係をまとめた結果を表2および図6に示す。なお、破損事例数の累積度数は、上記破損事例数(29件)に対する、図に示した塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量以下の当該合計量で伝熱管が破損した事例数の合計(累積事例数)の百分率(すなわち、(累積事例数/29件)×100)を示している。例えば、両イオンの合計量が800mg/lの場合、それ以下の当該合計量で伝熱管が破損した事例数の合計は4件であり、累積度数は約14%になる。図6に一点鎖線で示すように、累積度数は、塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量が800mg/lを超えると急激に増加していることがわかる。
【0029】
【表2】
【0030】
これらによると、ボイラ水中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定すれば、ボイラの伝熱管の腐食、特に、孔食で生じる食孔による破損を効果的に抑制できることがわかる。
【0031】
【発明の効果】
本発明に係る非不動態化金属体の腐食抑制方法は、非不動態化金属体に影響する水分中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定しているので、非不動態化金属体に生じる腐食、特に局部的腐食を抑制することができる。
【0032】
また、本発明に係るボイラの腐食抑制方法は、ボイラ内のボイラ水中の塩化物イオンと硫酸イオンとの合計量を800mg/l以下に設定しているので、伝熱管に生じる腐食、特に局部的腐食を抑制することができる。
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