JP6390896B2 - 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法 - Google Patents

淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法 Download PDF

Info

Publication number
JP6390896B2
JP6390896B2 JP2014157369A JP2014157369A JP6390896B2 JP 6390896 B2 JP6390896 B2 JP 6390896B2 JP 2014157369 A JP2014157369 A JP 2014157369A JP 2014157369 A JP2014157369 A JP 2014157369A JP 6390896 B2 JP6390896 B2 JP 6390896B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
corrosion
ions
pentaborate
iron
equivalents
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2014157369A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2016035081A (ja
Inventor
深谷 祐一
祐一 深谷
敏史 平崎
敏史 平崎
克彦 熊谷
克彦 熊谷
照久 龍岡
照久 龍岡
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Tokyo Electric Power Co Inc
Original Assignee
Tokyo Electric Power Co Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Tokyo Electric Power Co Inc filed Critical Tokyo Electric Power Co Inc
Priority to JP2014157369A priority Critical patent/JP6390896B2/ja
Publication of JP2016035081A publication Critical patent/JP2016035081A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6390896B2 publication Critical patent/JP6390896B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02EREDUCTION OF GREENHOUSE GAS [GHG] EMISSIONS, RELATED TO ENERGY GENERATION, TRANSMISSION OR DISTRIBUTION
    • Y02E30/00Energy generation of nuclear origin

Landscapes

  • Preventing Corrosion Or Incrustation Of Metals (AREA)

Description

本発明は、特定の濃度以下の塩化物イオンと硫酸イオンを含有する淡水中での鉄系材料の腐食抑制方法に関する。
水は熱容量が大きく、安全で取り扱いやすいので、冷却や加熱のための熱媒体として広く用いられている。熱媒体として淡水(工業用水、水道水など)を使用した場合に生じる主な障害は腐食とファウリング(汚れ)である。したがって、淡水を冷却水として用いる系統で使用されている鉄系材料製の設備においては、腐食による損傷・劣化が代表的な経年劣化の一つであり、その対策として1960年代から様々な腐食抑制剤が開発されてきた。
腐食抑制剤は、その機能や化学構造などにより分類され、例えば、材料表面に形成される皮膜に注目して分類すると、不動態皮膜型、沈殿皮膜型および吸着皮膜型に分類される(非特許文献1参照)。これらの腐食抑制剤は、それぞれメリットおよびデメリットを有するため、使用する現場の状況や条件に適した腐食抑制剤が適宜採用される。
発電所の軸受冷却水系やエンジン冷却水系といった、淡水を使用する密閉冷却水系で用いられる炭素鋼製機器向けの腐食抑制剤としては、不動態皮膜型の亜硝酸塩やモリブデン酸塩、沈殿皮膜型の重合りん酸塩やホスホン酸塩などが用いられている。
原子力発電所の原子炉の一次冷却水には、純度が高く腐食性の小さい純水が用いられているため、通常、腐食抑制剤は使用されない。しかし、過酷事故や震災等により、純水による通常の燃料冷却機能が失われた場合などでは、腐食性の強い海水や淡水を冷却水として使用せざるを得ない場合がある。例えば、震災による津波で電源を失った福島第一原子力発電所では、原子炉や使用済燃料プールの緊急冷却のために海水が使用された。その後、淡水による冷却に切り替わり、浄化設備も設置され、徐々に冷却水の浄化が進んでいるが、一旦注入した海水成分を完全に取り去ることは難しく、通常の純水冷却よりも、塩化物イオンや硫酸イオンなどの腐食性イオンの濃度が高い淡水による冷却状態となっている。さらに、損傷した燃料(デブリ)から強い放射線が照射される特殊な環境となっている。このような状況の中、原子炉から燃料デブリを取り出すまでの数十年に渡って、原子炉内を安定的に冷却し続けなければならないため、淡水冷却水に接する原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管などの鉄系材料機器の腐食劣化を抑制することが重要な課題となっている。
ところが、従来より使用されてきた腐食抑制剤のうち、モリブデン酸塩は、塩化物イオン濃度が高い場合には腐食抑制効果が認められないことが判った。例えば、本発明者らが実施した試験では、塩化物イオン濃度が100mg/Lの水(水道水基準の塩化物イオン濃度上限値の半分に相当する)に、モリブデン酸ナトリウムを3,000mg/L添加しても、炭素鋼に対する腐食抑制効果が認められなかった。
また、強い放射線環境では水が分解して過酸化水素などの強酸化性物質が多量に生成するため、腐食抑制剤の亜硝酸塩は硝酸塩に酸化され易い。酸化で生成した硝酸塩は腐食抑制効果を示さないので、亜硝酸塩の濃度が低下することで充分な腐食抑制効果が得られなくなる場合があり、長期に渡って充分な腐食抑制効果を期待できない。また、重合りん酸塩やホスホン酸塩などの有機化合物系の腐食抑制剤も放射線に曝される状況では分解により濃度が低下して充分な腐食抑制効果を発揮できなくなったり、有害な有機酸が生成して返って悪影響になる恐れがあり、やはり長期に渡って充分な腐食抑制効果を期待することができない。
過酷事故後の原子力プラントの各種構造材の海水や淡水による腐食を抑制する方法として、特許文献1には、腐食抑制剤として、五ホウ酸ナトリウム、モリブデン酸塩、タングステン酸塩から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物を用い、冷却水に、五ホウ酸ナトリウムは0.001〜0.01mol/L、モリブデン酸塩あるいはタングステン酸塩は0.01mol/L以下添加する方法が提案されている。しかしながら、鉄系材料にこれらの不動態皮膜型の腐食抑制剤を使用する場合は、腐食形態の変化に注意を払う必要がある。例えば、代表的な不動態皮膜型腐食抑制剤である亜硝酸塩の場合、その添加濃度が不足すると、全体の腐食減量は低下する一方で、局所的な腐食の進行速度が著しく増大する「局部腐食」形態に変化し、貫通損傷が起こりやすくなるため、これを防ぐための下限濃度が示される場合が多い。特許文献1では、腐食抑制効果を試験片全体の腐食減量のみで判定し、局部腐食形態にならないことを保証していないため、局部腐食による貫通漏洩を防ぐことができない恐れがある。
特許文献2には、特許文献1と同様の腐食抑制剤である、五ホウ酸ナトリウム、モリブデン酸塩、タングステン酸塩から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物を用いるとともに、冷却水を脱気するとともに窒素ガスなどの不活性ガスを導入して溶存酸素を除去する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2の方法も、腐食抑制効果を試験片全体の腐食減量のみで判定し、局部腐食形態にならないことを保証していないため、やはり局部腐食による貫通漏洩を防止できない恐れがある。
特開2013−092392号公報 特開2013−194274号公報
「腐食防食ハンドブック、第6章 腐食環境の処理と腐食抑制剤」、腐食防食協会編、丸善株式会社
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、過酷事故や震災等により破損した原子力発電所の原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管の他、核燃料再処理施設、放射性物質を取り扱う研究機関や医療機関における設備・装置などを構成する炭素鋼などの鉄系材料の腐食を抑制する方法であって、冷却水として、通常の純水よりも塩化物イオンや硫酸イオンなどの腐食性イオンが多く含まれ、しかも放射線に曝される状況下にある淡水を用いても、鉄系材料の表面全体の腐食防止はもちろん、局所的な腐食による貫通漏洩の危険性をも防止し、長期間に亘って効果的に腐食を抑制できる、鉄系材料の腐食抑制方法を提供することを課題とする。
具体的には、冷却水として、水道水基準上限の200mg/Lの塩化物イオン(5.6meq/Lに相当する)を含有する淡水を用いる場合を想定し、海水を100倍に希釈した場合の塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和となる6.2meq/Lの淡水中で腐食を抑制できる、鉄系材料の腐食抑制方法を提供することを課題とした。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、冷却水として用いる淡水中に五ホウ酸イオンを共存させることで腐食抑制効果が発現し、淡水中の塩化物イオンと硫酸イオンの当量和が6.2meq/Lの場合に、五ホウ酸イオンと炭酸水素イオンの当量和を74meq/L以上とすることで、炭素鋼などの鉄系材料に対して、局部腐食の発生もなく、効果的に腐食を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法であって、
淡水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の場合に、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が74meq/L以上となるように、五ホウ酸イオンを共存させることを特徴とする鉄系材料の腐食抑制方法。
(2)前記鉄系材料が鉄、炭素鋼あるいは低合金鋼であることを特徴とする前記(1)に記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
(3)前記鉄系材料が、原子力発電所の原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管の構成材料であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
(4)前記五ホウ酸イオンが、淡水中に溶解させた五ホウ酸ナトリウムに由来することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
本発明によれば、冷却水に用いる淡水中に五ホウ酸イオンを共存させ、淡水中の塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の場合に、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を74meq/L以上とすることで、鉄系材料の表面全体が侵される均一腐食のみならず、局部腐食による貫通漏洩も防止できる。また、ホウ酸塩化合物は原子炉の緊急停止時の中性子吸収材として、あるいは核燃料の臨界防止材として古くから用いられており、五ホウ酸イオンは放射線に曝される状況下でも分解されないと考えられるため、過酷事故や震災などにより損傷を受けた原子力発電所の原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管などに用いられる炭素鋼などの鉄系材料の腐食を、長期間に渡って効果的に防止することができる。
炭素鋼の腐食形態の分類と記号ならびに腐食の状態を説明する図である。 塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和および炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和と炭素鋼の腐食形態の関係(浸漬温度25℃)を示すグラフである。 塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和および炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和と炭素鋼の腐食形態の関係(浸漬温度50℃)を示すグラフである。
本発明は、過酷事故や震災などにより損傷を受けた原子力発電所の原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管などを構成する炭素鋼などの鉄系材料の腐食を抑制するために、冷却水に用いる淡水中に五ホウ酸イオンを共存させることを特徴とする。
腐食抑制効果を、試験した材料の腐食減量のみで判定した場合には、全体の腐食減量は小さくても局所的に大速度で進行する局部腐食による貫通漏洩などを防止できない恐れがある。本発明では、腐食の状態を、図1に示すように、均一腐食、不均一腐食、局部腐食および不動態の4つの腐食形態に分類し、腐食抑制効果を判定した。
均一腐食は、淡水中における炭素鋼の通常の腐食形態であり、材料の表面全体においてほぼ均一な速度で腐食が進行する。進行速度は比較的遅いが、材料は確実に侵食されてゆく状態にある。
不均一腐食は、材料の表面で腐食する部位と腐食しない部位が明確に分かれる形態である。腐食する部位の面積が小さくなる分、深さ方向への腐食速度が均一腐食の場合より大きくなるのが一般的である。局部腐食は、不均一腐食の極端な例であって、材料表面の大半が腐食していないにもかかわらず、局所的に腐食が進行する形態である。腐食部位の面積が非常に小さいため、深さ方向への腐食速度が桁違いに大きくなる。淡水環境における炭素鋼配管の腐食損傷事例の大半は、この不均一腐食または局部腐食による貫通漏洩損傷である。
不動態は、材料表面に下地保護性のよい耐食皮膜が形成される結果として、ほとんど腐食が進行しない状態であり、ステンレス鋼やコンクリート中の鉄筋と同様に、腐食が完全に抑制された状態にある。
炭素鋼に不動態皮膜型の腐食抑制剤を適用すると、その濃度が上昇するにつれて腐食形態が均一腐食、不均一腐食、局部腐食、不動態へと変化する場合が多いが、不均一腐食と局部腐食は貫通漏洩しやすくなるなど返って悪影響であるため、確実に不動態となる場合のみ腐食抑制効果があるものとして判定した。
自然の淡水に含まれるイオンのうち、炭酸水素イオンは炭素鋼の不動態化を促進する作用があり、塩化物イオンと硫酸イオンは不動態化を阻害する作用がある。したがって、炭素鋼の腐食形態(不動態化のしやすさ)を判断する指標として、これらの当量濃度比であるラーソン比{([Cl]+[SO 2−])/[HCO ]}が古くから用いられており、ラーソン比が小さいほど炭素鋼が不動態化しやすくなる。
かりに、五ホウ酸イオンが、炭酸水素イオンと同様の不動態化促進作用を有する場合、ラーソン比の分母を、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和([HCO ]+[B1016 2−])に拡張して腐食形態を整理することが合理的と考えられる。
図2は、25℃における、淡水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和と、同じく淡水中に含まれる炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が、炭素鋼の腐食形態に与える影響を示したものである。塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和および炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和の値によって、炭素鋼の腐食状態は上記4つの種々の腐食形態を示すことがわかる。
そして、本発明の腐食抑制方法では、淡水中の塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の場合に、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を74meq/L以上とするものであり、淡水に五ホウ酸イオンを共存させ、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオンおよび五ホウ酸イオンが、当該状況となる水質の淡水を冷却水として用いることで、図2に示すように、炭素鋼の表面が不動態になり、腐食抑制効果が発現する。
なお、塩化物イオンと硫酸イオンの当量和が6.2meq/Lの淡水というのは、海水を100倍に希釈した状態に相当し、塩化物イオンが200mg/L(水道水基準の上限)、硫酸イオンが28mg/Lである。
炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が74meq/L未満の場合には、淡水中の塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の場合であっても、図2に示すように、炭素鋼表面は不動態にならず、均一腐食や不均一腐食が生じる状態であり、腐食抑制効果が認められない。
また、淡水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/Lを超える場合には、図2に示すように、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を74meq/L以上としても、炭素鋼の表面は不動態にならず、局部腐食が生じる状態となり、腐食抑制効果が認められないことがわかる。
淡水中の炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量和の上限は特に限定されず、五ホウ酸塩を飽和溶解度まで添加した時に淡水中に含まれる五ホウ酸イオンの濃度とすることができる。
淡水中に五ホウ酸イオンを共存させるために用いられる五ホウ酸塩としては、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム、五ホウ酸アンモニウムなどが挙げられるが、入手しやすく、原子炉の中性子吸収材としても実績のある五ホウ酸ナトリウムが好ましい。


淡水中に五ホウ酸ナトリウムを溶解する場合、必ずしも五ホウ酸ナトリウムとして添加する必要はなく、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウムを混合して五ホウ酸ナトリウムとして添加してもよい。
本発明において、腐食抑制効果を発揮するためには、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を74meq/L以上とすることが必要であるが、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの比率については特に限定されない。炭酸水素イオンは、冷却水として用いる淡水中に元々含まれているものであり、淡水の種類により変動する。例えば、日本の河川水では、含まれる炭酸水素イオンは平均31mg/L程度であり、当量に換算すると0.5meq/L程度となる。また、海水中の炭酸水素イオン濃度は約140mg/L程度であり、当量に換算すると2.3meq/Lとなるので、100倍に希釈した海水では0.023meq/L程度となる。
図3は、50℃における、淡水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和と、同じく淡水中に含まれる炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が、炭素鋼の腐食形態に与える影響を示したものである。25℃の場合と同様に、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下で、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が74meq/L以上であれば、炭素鋼の表面は不動態になり、良好な腐食抑制効果が認められる。
冷却に用いた淡水は、熱交換により加熱され温度が上昇する場合があるが、本発明の腐食抑制方法は、冷却水として用いる淡水の温度が50℃まで上昇しても良好な腐食抑制効果を発揮することができる。
また、過酷事故や震災などにより原子力発電所が被災し、原子炉圧力容器などの冷却機能が低下した場合には、核燃料の再臨界を防止するためにホウ素注入が実施される場合がある。通常、ホウ素は五ホウ酸ナトリウム水溶液として注入される。再臨界防止に必要なホウ素の量は、例えば福島第一原子力発電所の場合では510mg/L程度と試算されており、五ホウ酸イオンの当量に換算すると約9.4meq/Lとなるが、本発明では、この値よりも多い量の五ホウ酸イオンを共存させるので、本発明の鉄系材料の腐食抑制方法は、核燃料の再臨界防止機能も兼ね備えた方法となる。
本発明の腐食抑制方法において、冷却水に用いる淡水中に五ホウ酸イオンを共存させる方法は特に限定されず、五ホウ酸ナトリウムの濃厚水溶液を調製しておいて冷却水に添加してもよいし、冷却水を循環させる装置の途中で粉末状の五ホウ酸ナトリウムを直接投入して溶解させることもできる。
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
海水として人工海水(八洲薬品社製のアクアマリン金属腐食試験用)を用い、淡水として当該人工海水を10倍、100倍、1,000倍および10,000倍に希釈した希釈人工海水を用いた。人工海水中に含まれる塩化物イオンは19,839mg/L(559.6meq/L)、硫酸イオンは2,769mg/L(57.6meq/L)で、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和は617.2meq/Lであった。また、人工海水中の炭酸水素イオンは146mg/L(2.4meq/L)であった。
人工海水および希釈人工海水に、五ホウ酸ナトリウムを添加して溶解し、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が所定の値となるように調整し、試験溶液を調製した。調製した試験溶液の、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和([Cl]+[SO 2−])および炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和([HCO ]+[B1016 2−])を有効数字2桁にて表1にまとめて示す(表1中の○が調製した試験溶液を示す。)。
炭素鋼としてASME SA−516 Grade70に相当する炭素鋼を試験材料とし、縦30mm、横20mm、厚さ2mmで、上部に貫通孔(3mmφ)を有する平板を作成し、SiC耐水研磨紙で#600まで順次研磨した後、洗浄・脱脂し試験片を作成した。当該試験片の接液面積は13.9cmである。試験片の貫通孔にPTFE製のロッドを嵌めこみ、当該ロッド部をナイロン糸で縛って、試験片を吊るせるようにした。
ガラスセルに5Lの試験溶液を入れ、25℃の恒温器中で室内大気を試験溶液中に1昼夜通気した後、試験片7枚を浸漬した。試験片の単位面積あたりの試験溶液量は51.4ml/cmとなる。
微量の大気を通気しながら、25℃で500時間浸漬した後、試験片を取り出し、腐食状態を観察して、図1に示す腐食形態にしたがって分類した。各試験溶液の塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和を縦軸に、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を横軸とするグラフ上に、該当する試験溶液での試験片の腐食形態を表わした結果を図2に示す。
図2において、各記号は、図1に示す腐食形態を表わす記号であり、“U”は試験片の表面が均一に腐食された状態で、これが通常の炭素鋼の腐食形態である。“NU”は腐食部位と非腐食部位が明確に分離した不均一腐食を表わし、“LC”は腐食部位が局所に限定された局部腐食を表わす。そして、試験片の表面が不動態になり、腐食抑制効果が認められる状態が“P”である。なお、腐食により貫通孔があいてしまう危険性の観点では、深さ方向への腐食の進行速度が最も大きい局部腐食(LC)が最も危険であり、次いで不均一腐食(NU)、均一腐食(U)の順に危険性は低くなる。すなわち、腐食抑制剤の添加によって均一腐食が局部腐食や不均一腐食に変化することは、むしろ逆効果であるため、確実に不動態になるようにする必要がある。
図2に示すように、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和と炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和の当量濃度比率が1:1の線(図2の破線)より左上の領域、すなわち塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和より大きい領域では、均一腐食の形態が多く認められた。そして、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和に対して、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が過剰になり、当量濃度比率が1:1の線より右下に移行するにつれ、不均一腐食や局部腐食の領域が出現した。
しかしながら、さらに炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が過剰になると、腐食形態は不動態となり、炭素鋼の表面が下地保護性のよい耐食皮膜に覆われほとんど腐食しない状態となる領域が出現することがわかった。すなわち、人工海水を100倍に希釈した淡水に相当する塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の淡水に、五ホウ酸イオンを共存させ、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和を74meq/L以上とすることで、良好な腐食抑制効果を発現させることができる。
(実施例2)
ガラスセルに入れた試験溶液を、マントルヒーターにより50℃に加熱し、室内大気を試験溶液中に1昼夜通気した後、試験片7枚を浸漬し、微量の大気を通気しながら、50℃で500時間浸漬すること以外は実施例1と同様にして試験を行った。
ただし、試験溶液としては、人工海水を100倍希釈、1,000倍希釈および10,000倍希釈した3種類の希釈人工海水を使用し、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンを74meq/L共存させた場合についてのみ試験を実施した。
結果を図3に示す。
図3より、試験溶液の温度が50℃の場合でも、塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下で、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンが74meq/L以上共存すれば、炭素鋼表面は不動態になり、良好な腐食抑制効果が発現することがわかる。
実施例1および実施例2の実験結果より、常温〜50℃の水質領域における腐食抑制効果を確認できた。
以上、本発明に係る鉄系材料の腐蝕抑制方法の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形が可能である。
本発明の淡水中での鉄系材料の腐食抑制方法は、核燃料の再臨界防止作用を有する五ホウ酸イオンを、冷却水として用いる淡水中に共存させる方法であることより、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物、冷却水配管、使用済核燃料再処理設備、放射性物質を取扱う研究施設や医療施設などで用いられている鉄系材料に適用することができる。

Claims (4)

  1. 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法であって、
    淡水中に含まれる塩化物イオンと硫酸イオンの当量の和が6.2meq/L以下の場合に、炭酸水素イオンと五ホウ酸イオンの当量の和が74meq/L以上となるように、五ホウ酸イオンを共存させることを特徴とする鉄系材料の腐食抑制方法。
  2. 前記鉄系材料が鉄、炭素鋼あるいは低合金鋼であることを特徴とする請求項1に記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
  3. 前記鉄系材料が、原子力発電所の原子炉圧力容器、原子炉格納容器、各種支持構造物および冷却水配管の構成材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
  4. 前記五ホウ酸イオンが、淡水中に溶解させた五ホウ酸ナトリウムに由来することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄系材料の腐食抑制方法。
JP2014157369A 2014-08-01 2014-08-01 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法 Active JP6390896B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014157369A JP6390896B2 (ja) 2014-08-01 2014-08-01 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014157369A JP6390896B2 (ja) 2014-08-01 2014-08-01 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2016035081A JP2016035081A (ja) 2016-03-17
JP6390896B2 true JP6390896B2 (ja) 2018-09-19

Family

ID=55523126

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014157369A Active JP6390896B2 (ja) 2014-08-01 2014-08-01 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6390896B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP6898390B6 (ja) * 2019-07-25 2021-08-18 新菱冷熱工業株式会社 金属材料の腐食性評価システム及びその方法

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3358216B2 (ja) * 1992-11-27 2002-12-16 栗田工業株式会社 水系の金属の腐食抑制方法
JP2003129263A (ja) * 2001-10-22 2003-05-08 Miura Co Ltd 非不動態化金属体の腐食抑制方法およびボイラの腐食抑制方法
JP2013092392A (ja) * 2011-10-24 2013-05-16 Toshiba Corp 原子力プラントの防食システム

Also Published As

Publication number Publication date
JP2016035081A (ja) 2016-03-17

Similar Documents

Publication Publication Date Title
CA2413888A1 (en) Corrosion control utilizing a hydrogen peroxide donor
US9390822B2 (en) Oxidation decontamination reagent for removal of the dense radioactive oxide layer on the metal surface and oxidation decontamination method using the same
JP6390896B2 (ja) 淡水環境における鉄系材料の腐食抑制方法
Yau Stress-corrosion cracking of zirconium alloys
US5724668A (en) Method for decontamination of nuclear plant components
JP6794669B2 (ja) ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法
Rebak Mechanisms of inhibition of crevice corrosion in alloy 22
CA1339292C (en) Corrosion inhibition of closed cooling water auxiliary system for nuclear power plants and other applications
Howell Durability of aluminum-clad spent nuclear fuels in wet basin storage
Fujita et al. Stress corrosion cracking of sensitized type 304 stainless steel in high temperature water under gamma ray irradiation
JP2017218658A (ja) ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法
RU2543573C1 (ru) Способ внутриконтурной пассивации стальных поверхностей ядерного реактора на быстрых нейтронах
Shoesmith et al. A model for predicting the lifetimes of Grade-2 titanium nuclear waste containers
Rebak et al. Corrosion of Containment Materials for Radioactive-Waste Isolation
JP6848277B2 (ja) ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法
US4968478A (en) Corrosion inhibition of closed cooling water auxiliary system for nuclear power plants
Islami et al. Anticorrosive behavior of propolis as a green corrosion inhibitor for aluminum
Kain et al. Corrosion of stainless steels in nitric acid service: corrosion degradation issues and control measures
Jung et al. Dissolution of Chemical Decontaminating Agent for a Foam Decontamination
Mickalonis et al. Corrosion Issues Associated with Austenitic Stainless Steel Components Used in Nuclear Materials Extraction and Separation Processes.
Howell Criteria for Corrosion Protection of Aluminum-Clad Spent Nuclear Fuel in Interim Wet Storage
Mahidhara et al. Corrosion and failure processes in high-level waste tanks
Louthan The potential for microbiologically influenced corrosion in the Savannah River spent fuel storage pools
Mon et al. Materials degradation issues in the US high-level nuclear waste repository
JP2517723B2 (ja) 金属部材の水素割れ防止方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20170707

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20180222

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180228

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180427

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180522

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20180726

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20180808

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6390896

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150